「wishes」 安倍麻美
「wishes」 (2003 ユニバーサル)
安倍麻美:vocal・rap・chorus・clap・shout

1.「理由 (Album Version)」 詞:326 曲:筒美京平 編:久保田光太郎
2.「捨てるのは拾うため 泣くのは笑うために」
詞:326 曲:筒美京平 編:久保田光太郎
3.「水たまりの中の月」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
4.「きみをつれていく」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
5.「Rolling Stone」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:中西亮輔
6.「Our Song」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
7.「夢見」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:山路敦斗詩
8.「Answer Me」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
9.「赤い花」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
10.「守ってあげるよ」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
11.「Wish for Loving ~愛せたらいいのに」
詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:中西亮輔
<support musician>
朝三憲一:guitars
飯塚昌明:guitars
石成正人:guitars・clap
越田太郎丸:guitars
高砂圭司:bass
渡辺等:bass・cello
井上ヨシマサ:keyboards・computer programming
久保田光太郎:keyboards・computer programming
中西亮輔:keyboards・computer programming・chorus・clap
山路敦斗詩:keyboards・computer programming
石垣千香:violin
中井一朗:violin
御法川雄矢:violin
前田善彦:violin
下成佐登子:chorus
キク:rap
コータ:rap
瀧澤大介:shout
タッキー:shout
田村充義:shout
チン☆パラ:shout
Deckstream:scratch・clap
LOWARS:clap
高橋良一:clap
村上葉子:clap・shout
山口雅人:clap・shout
石川鉄男:synthesizer manipulate
produced by 田村充義
mixing engineered by 関口正樹・石川鉄男
recording engineered by 関口正樹・石川鉄男・小長谷正美・山田信正・佐藤宏章
● 筒美京平21世紀最高仕事!程よいエレクトロサウンドがメロディを引き立てるアイドルソングアルバムの傑作
モーニング娘。の安倍なつみの妹という触れ込みでデビュー前から話題を振りまいていた安倍麻美は、大手芸能事務所ナベプロに所属し、シングル「理由」で歌手デビューを果たします。作詞にはイラストレーターの326を、日本歌謡界を代表する作曲家である筒美京平を迎えたこのデビューシングルは、ダンサブルなR&B志向が強かった当時のJ-POP楽曲にしては珍しく、古き良き歌謡曲に忠実な文学臭いメロディが特徴で、ナベプロとしては久しぶりのアイドルとしてそのPRに力が入っていました。その後はアレンジャーに井上ヨシマサを起用し「Our Song」「きみをつれていく」というアイドルらしからぬ奇妙で重苦しい質感のシングルを連発し、それらを引っさげた形でデビューアルバムである本作がリリースされます。
シングルだけの起用と思いきやなんとアルバム全曲に筒美京平が担当するなど、往年の80'sアイドルのようなメロディラインを00年代風にリニューアルしたような楽曲が多数収録された本作ですが、作詞は前述の326と安倍麻美本人が担当し、安倍本人の歌手活動への意気込みが感じられます。本作はシングルの世界観とは異なる「Rolling Stone」や「Answer Me」のような浮いた楽曲があるのが残念ですが、かわいらしさが前面に出がちなアイドルソングとは一線を画した、悩ましい頭でっかちな歌詞と昭和メロディと井上ヨシマサアレンジ曲をはじめとしたうっすらエレクトロなサウンドとの相性が良くクオリティは事務所の期待に沿うように高いものがあります。とはいえやはり本作は筒美京平の全面参加という部分にスポットが与えられるのは仕方のないところで、しかも全く衰えない美しくバタ臭い構成力抜群のメロディラインが健在なところに、昭和の大作曲家としての底力が感じられます。そういった意味でも本作は00年代のアイドルソングの隠れた名盤に挙げられると言ってよいでしょう。
<Favorite Songs>
・「水たまりの中の月」
細かいドラムンベース的リズムに、さらにチープなシンセフレーズが絡みつく説教じみたエレクトリック歌謡。スピード感がありほどよくエレクトロなシンセが混じってくるため、臭いラップもある程度調和されて聴くことができます。これは井上ヨシマサのアレンジ力の成せる業です。
・「きみをつれていく」
イントロやサビにおける切迫感のある歪んだギターがアイドルソングらしくないヘビーな3rdシングル。Aメロの裏で鳴るアルペジオや全編で挿入されるサンプルボイスの効果音的な使用法など、意外と凝った音づくりが楽しめます。
・「Our Song」
デビューシングルから一転して荘厳なトランスシーケンスが飛び交う16ビートエレクトロ歌謡に変身したハードな2ndシングル。しかしこれがダンサブルにならないのは、いかにも昭和な筒美メロディの力が強過ぎるからにほかなりません。サビが2フレーズに分かれたり、サビ前の裏声フレーズなどアイドルらしからぬ冒険的ギミックがキテレツな楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (意外と随所で電子音が散りばめられアクセントになる)
・メロディ ★★★ (楽曲に差はあるがマイナー曲には往年のオーラがある)
・リズム ★ (00年代な細かいリズムが多用されるが軽さは否めない)
・曲構成 ★ (全曲シングルの世界観で押し切るべきであったと思う)
・個性 ★★ (安倍麻美という話題性を利用して筒美メロを復活させた)
総合評点: 7点
安倍麻美:vocal・rap・chorus・clap・shout

1.「理由 (Album Version)」 詞:326 曲:筒美京平 編:久保田光太郎
2.「捨てるのは拾うため 泣くのは笑うために」
詞:326 曲:筒美京平 編:久保田光太郎
3.「水たまりの中の月」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
4.「きみをつれていく」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
5.「Rolling Stone」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:中西亮輔
6.「Our Song」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
7.「夢見」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:山路敦斗詩
8.「Answer Me」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
9.「赤い花」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
10.「守ってあげるよ」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
11.「Wish for Loving ~愛せたらいいのに」
詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:中西亮輔
<support musician>
朝三憲一:guitars
飯塚昌明:guitars
石成正人:guitars・clap
越田太郎丸:guitars
高砂圭司:bass
渡辺等:bass・cello
井上ヨシマサ:keyboards・computer programming
久保田光太郎:keyboards・computer programming
中西亮輔:keyboards・computer programming・chorus・clap
山路敦斗詩:keyboards・computer programming
石垣千香:violin
中井一朗:violin
御法川雄矢:violin
前田善彦:violin
下成佐登子:chorus
キク:rap
コータ:rap
瀧澤大介:shout
タッキー:shout
田村充義:shout
チン☆パラ:shout
Deckstream:scratch・clap
LOWARS:clap
高橋良一:clap
村上葉子:clap・shout
山口雅人:clap・shout
石川鉄男:synthesizer manipulate
produced by 田村充義
mixing engineered by 関口正樹・石川鉄男
recording engineered by 関口正樹・石川鉄男・小長谷正美・山田信正・佐藤宏章
● 筒美京平21世紀最高仕事!程よいエレクトロサウンドがメロディを引き立てるアイドルソングアルバムの傑作
モーニング娘。の安倍なつみの妹という触れ込みでデビュー前から話題を振りまいていた安倍麻美は、大手芸能事務所ナベプロに所属し、シングル「理由」で歌手デビューを果たします。作詞にはイラストレーターの326を、日本歌謡界を代表する作曲家である筒美京平を迎えたこのデビューシングルは、ダンサブルなR&B志向が強かった当時のJ-POP楽曲にしては珍しく、古き良き歌謡曲に忠実な文学臭いメロディが特徴で、ナベプロとしては久しぶりのアイドルとしてそのPRに力が入っていました。その後はアレンジャーに井上ヨシマサを起用し「Our Song」「きみをつれていく」というアイドルらしからぬ奇妙で重苦しい質感のシングルを連発し、それらを引っさげた形でデビューアルバムである本作がリリースされます。
シングルだけの起用と思いきやなんとアルバム全曲に筒美京平が担当するなど、往年の80'sアイドルのようなメロディラインを00年代風にリニューアルしたような楽曲が多数収録された本作ですが、作詞は前述の326と安倍麻美本人が担当し、安倍本人の歌手活動への意気込みが感じられます。本作はシングルの世界観とは異なる「Rolling Stone」や「Answer Me」のような浮いた楽曲があるのが残念ですが、かわいらしさが前面に出がちなアイドルソングとは一線を画した、悩ましい頭でっかちな歌詞と昭和メロディと井上ヨシマサアレンジ曲をはじめとしたうっすらエレクトロなサウンドとの相性が良くクオリティは事務所の期待に沿うように高いものがあります。とはいえやはり本作は筒美京平の全面参加という部分にスポットが与えられるのは仕方のないところで、しかも全く衰えない美しくバタ臭い構成力抜群のメロディラインが健在なところに、昭和の大作曲家としての底力が感じられます。そういった意味でも本作は00年代のアイドルソングの隠れた名盤に挙げられると言ってよいでしょう。
<Favorite Songs>
・「水たまりの中の月」
細かいドラムンベース的リズムに、さらにチープなシンセフレーズが絡みつく説教じみたエレクトリック歌謡。スピード感がありほどよくエレクトロなシンセが混じってくるため、臭いラップもある程度調和されて聴くことができます。これは井上ヨシマサのアレンジ力の成せる業です。
・「きみをつれていく」
イントロやサビにおける切迫感のある歪んだギターがアイドルソングらしくないヘビーな3rdシングル。Aメロの裏で鳴るアルペジオや全編で挿入されるサンプルボイスの効果音的な使用法など、意外と凝った音づくりが楽しめます。
・「Our Song」
デビューシングルから一転して荘厳なトランスシーケンスが飛び交う16ビートエレクトロ歌謡に変身したハードな2ndシングル。しかしこれがダンサブルにならないのは、いかにも昭和な筒美メロディの力が強過ぎるからにほかなりません。サビが2フレーズに分かれたり、サビ前の裏声フレーズなどアイドルらしからぬ冒険的ギミックがキテレツな楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (意外と随所で電子音が散りばめられアクセントになる)
・メロディ ★★★ (楽曲に差はあるがマイナー曲には往年のオーラがある)
・リズム ★ (00年代な細かいリズムが多用されるが軽さは否めない)
・曲構成 ★ (全曲シングルの世界観で押し切るべきであったと思う)
・個性 ★★ (安倍麻美という話題性を利用して筒美メロを復活させた)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「For Beautiful Human Life」 キリンジ
「For Beautiful Human Life」(2003 東芝EMI)
キリンジ

<members>
堀込泰行:vocals・electric guitar・acoustic guitar・percussion
堀込高樹:vocals・electric guitar・gut guitar・12 strings electric guitar・electric sitar・electric bass・synthesizer・computer programming
1.「奴のシャツ」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
2.「カメレオンガール」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
3.「僕の心のありったけ」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
4.「愛のCoda」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
5.「繁華街」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
6.「ブルー・ゾンビ」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
7.「ハピネス」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
8.「嫉妬」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
9.「the echo」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
10.「カウガール」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
11.「スウィートソウル」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
<support musician>
冨田恵一:all instruments
沖山優司:electric bass
立川智也:electric bass
渡辺等:electric bass
小松茂:drums
鈴木達也:drums
村石雅行:drums
大山泰輝:acoustic piano
三沢またろう:percussion
西村浩二:trumpet・flugel horn
山本拓夫:sax・bass clarinet・clarinet・flute
金原千恵子Strings:strings
飯田希和:background vocals
真城めぐみ:background vocals
produced by 冨田恵一
mixing engineered by 松田龍太
recording engineered by 松田龍太・池田新治郎・笹本悟
● 円熟したソングライティング!移籍後心機一転ポップな側面を押し出した5thアルバム
現在日本のPOPS界において高品質の楽曲を提供し続けている兄弟バンドであるキリンジは、敏腕アレンジャー冨田恵一のバックアップのもと順調に優れた作品をリリースしていましたが、2002年を最後にレコード会社を移籍し、心機一転した形で5枚目のオリジナルアルバムである本作をリリースすることになります。類稀な作詞作曲の才能を惜しげもなく披露した「Paper Driver's Music」「47'45"」の1st、2ndアルバムに比べて、3rd「3」と4th「Fine」はシングル曲で貫禄を見せるものの才気が先走りし過ぎて、わかりやすい楽曲をわざわざこねくり回してヒネリ過ぎてしまい評価の難しい作品に仕上がっていましたが、本作ではもう1度初心に帰ったかのようなわかりやすいPOPSを志向した楽曲で占められています。
冨田恵一プロデュースの集大成的作品ということもあって、限りなく生演奏に近い打ち込み技術を持つ冨田のアレンジ力、楽曲構成力が遺憾なく発揮されています。キリンジといえば堀込兄弟の共通項はあるもののある種対照的な楽曲(と独特の難解でシニカルなセンスの歌詞)によって支えられていますが、その世界観を無限大に表現できるのが冨田サウンドであり、それは現在でも変わらないと言えるでしょう。それほど本作の手練のサポートミュージシャンによる演奏と冨田式揺らぎのプログラミングが創り出すサウンドにおける充実ぶりは本作において際立っているのです。その後キリンジは冨田プロデュースから独立し、さらに(アルバムにおいては)打ち込み度を増しながらセルフプロデュース時代へと移っていくことになります。
<Favorite Songs>
・「カメレオンガール」
本作の中ではシンセベースの仕様など打ち込み度の高いシングルカット曲。相変わらずシングル曲のレベルは高く、この楽曲でもサビのコード進行(特に2フレーズ目で若干変化する部分)が巧みで見事にツボを押さえています。
・「愛のCoda」
冨田恵一お得意の美しいストリングスで盛り上げる大人のムードたっぷりの名曲。どこまでもすんなり入ってくるメロディに情感たっぷりのピアノ、コーラス&ストリングスと全く隙がなく、その熟練のアレンジと合わせても楽曲の完成度がただものではないことは誰でもわかるのではないかと思います。
・「スウィートソウル」
ラストを飾るミディアムバラードシングル。シンプルな構成でカントリーっぽい雰囲気も醸し出しながらお得意の強力のサビのフレーズを放つところはさすがキリンジ。そこはかとない寂寥感を巧みに演出したメロディは職人芸というほかありません。
<評点>
・サウンド ★★★ (熟練の完璧仕上げだがそれだけに期待通りで驚きも少ない)
・メロディ ★★★ (全体的にしっとりムードですが楽曲においてバラツキも)
・リズム ★★ (打ち込みドラムを含むものの生演奏の差も感じない完成度)
・曲構成 ★ (シングル曲並みの完成度を持つ楽曲は相変わらず少ない)
・個性 ★★ (わかりやすさと難解さを併せ持つ楽曲群は彼ら特有の味)
総合評点: 7点
キリンジ

<members>
堀込泰行:vocals・electric guitar・acoustic guitar・percussion
堀込高樹:vocals・electric guitar・gut guitar・12 strings electric guitar・electric sitar・electric bass・synthesizer・computer programming
1.「奴のシャツ」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
2.「カメレオンガール」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
3.「僕の心のありったけ」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
4.「愛のCoda」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
5.「繁華街」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
6.「ブルー・ゾンビ」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
7.「ハピネス」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
8.「嫉妬」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
9.「the echo」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
10.「カウガール」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
11.「スウィートソウル」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
<support musician>
冨田恵一:all instruments
沖山優司:electric bass
立川智也:electric bass
渡辺等:electric bass
小松茂:drums
鈴木達也:drums
村石雅行:drums
大山泰輝:acoustic piano
三沢またろう:percussion
西村浩二:trumpet・flugel horn
山本拓夫:sax・bass clarinet・clarinet・flute
金原千恵子Strings:strings
飯田希和:background vocals
真城めぐみ:background vocals
produced by 冨田恵一
mixing engineered by 松田龍太
recording engineered by 松田龍太・池田新治郎・笹本悟
● 円熟したソングライティング!移籍後心機一転ポップな側面を押し出した5thアルバム
現在日本のPOPS界において高品質の楽曲を提供し続けている兄弟バンドであるキリンジは、敏腕アレンジャー冨田恵一のバックアップのもと順調に優れた作品をリリースしていましたが、2002年を最後にレコード会社を移籍し、心機一転した形で5枚目のオリジナルアルバムである本作をリリースすることになります。類稀な作詞作曲の才能を惜しげもなく披露した「Paper Driver's Music」「47'45"」の1st、2ndアルバムに比べて、3rd「3」と4th「Fine」はシングル曲で貫禄を見せるものの才気が先走りし過ぎて、わかりやすい楽曲をわざわざこねくり回してヒネリ過ぎてしまい評価の難しい作品に仕上がっていましたが、本作ではもう1度初心に帰ったかのようなわかりやすいPOPSを志向した楽曲で占められています。
冨田恵一プロデュースの集大成的作品ということもあって、限りなく生演奏に近い打ち込み技術を持つ冨田のアレンジ力、楽曲構成力が遺憾なく発揮されています。キリンジといえば堀込兄弟の共通項はあるもののある種対照的な楽曲(と独特の難解でシニカルなセンスの歌詞)によって支えられていますが、その世界観を無限大に表現できるのが冨田サウンドであり、それは現在でも変わらないと言えるでしょう。それほど本作の手練のサポートミュージシャンによる演奏と冨田式揺らぎのプログラミングが創り出すサウンドにおける充実ぶりは本作において際立っているのです。その後キリンジは冨田プロデュースから独立し、さらに(アルバムにおいては)打ち込み度を増しながらセルフプロデュース時代へと移っていくことになります。
<Favorite Songs>
・「カメレオンガール」
本作の中ではシンセベースの仕様など打ち込み度の高いシングルカット曲。相変わらずシングル曲のレベルは高く、この楽曲でもサビのコード進行(特に2フレーズ目で若干変化する部分)が巧みで見事にツボを押さえています。
・「愛のCoda」
冨田恵一お得意の美しいストリングスで盛り上げる大人のムードたっぷりの名曲。どこまでもすんなり入ってくるメロディに情感たっぷりのピアノ、コーラス&ストリングスと全く隙がなく、その熟練のアレンジと合わせても楽曲の完成度がただものではないことは誰でもわかるのではないかと思います。
・「スウィートソウル」
ラストを飾るミディアムバラードシングル。シンプルな構成でカントリーっぽい雰囲気も醸し出しながらお得意の強力のサビのフレーズを放つところはさすがキリンジ。そこはかとない寂寥感を巧みに演出したメロディは職人芸というほかありません。
<評点>
・サウンド ★★★ (熟練の完璧仕上げだがそれだけに期待通りで驚きも少ない)
・メロディ ★★★ (全体的にしっとりムードですが楽曲においてバラツキも)
・リズム ★★ (打ち込みドラムを含むものの生演奏の差も感じない完成度)
・曲構成 ★ (シングル曲並みの完成度を持つ楽曲は相変わらず少ない)
・個性 ★★ (わかりやすさと難解さを併せ持つ楽曲群は彼ら特有の味)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「MENOPAUSE」 SOFT BALLET
「MENOPAUSE」(2003 ワーナー)
SOFT BALLET

<members>
遠藤遼一:vocal
森岡賢:computer programming・synthesizer
藤井麻輝:computer programming・synthesizer・guitar
1.「Nirvana」 曲・編:SOFT BALLET
2.「Heleben Sahar」 詞・曲・編:SOFT BALLET
3.「Smashing The Sun」 詞・曲・編:SOFT BALLET
4.「Ascent - die a peaceful death」 詞・曲・編:SOFT BALLET
5.「Realize」 詞・曲・編:SOFT BALLET
6.「H158」 曲・編:SOFT BALLET
7.「Hunting Hi-Times」 詞・曲・編:SOFT BALLET
8.「Your Web」 詞・曲・編:SOFT BALLET
9.「Bright My Way」 詞・曲・編:SOFT BALLET
10.「Incoherent And Confused (full of bombast)」 詞・曲・編:SOFT BALLET
11.「土縋り」 詞・曲・編:SOFT BALLET
<support musician>
磯田収:guitar
下出正樹:guitar
武内剛:guitar
森岡慶:guitar
小西コウイチ:bass
ソトコウジ:bass
梶原コウジ:drums
平井直樹:drums
伊藤リエ:backing vocal
白石元久:synthesizer manipulate assistance
produced by SOFT BALLET
mixing engineered by 石塚真一
recording engineered by 高津輝幸・石塚真一
● ノイズ混じりのエレクトロサウンドは健在!歳月を経て渋味が感じられる復活第2作
2002年に突如復活したインダストリアルなエレクトロユニットSOFT BALLETは、2枚のアルバムをリリースするという契約のもと、前作「Symbiont」と本作「Menopause」を残し、再び活動休止となりました。復活前はシンセ打ち込みとノイズ・インダストリアルをベースにしたシアトリカルなサウンドを基調としていましたが、復活後の彼らのサウンドは開き直った感のある、しかしどこかひねくれたハードなロックとわかりやす過ぎるトランシーなシンセサウンド+チリチリノイズといった傾向が強い印象を受けます。しかし最も成長の跡が見られたのはヴォーカルの遠藤で、自身のユニットENDSを経て得られた以前のキャラクターと異なる力強く色気に満ちたマッチョなヴォーカルスタイルは、復活後の最大の特徴と言ってよいものと思われます。
その復活SOFT BALLETの集大成的作品となったのが本作ですが、藤井の志向するノイジーでギターが前面に押し出された実験的作風と、あくまで軽快なダンサブルエレポップを志向する森岡サウンドの対比が前作「Symbiont」よりも激しくなっています。特に本作では「Heleben Sahar」「土縋り」といった藤井色豊かな佳曲が多く、よりコクのあるノイズサウンドを構築する彼の力量が支えたアルバムと考えてもよいかもしれません。逆に森岡楽曲のポップでわかりやすいメロディは聴き手に親切で、圧迫感のあるサウンドの中での一服の清涼剤的な立ち位置にあるようです。しかし結局SOFT BALLETの世界を表現するのは唯一無二の遠藤ヴォーカルということを再認識できます。一頃の人外なイメージからははるかに人間味に溢れた熱いヴォーカルを聴かせる彼ですが、そこには過去を振り返らず常に前進し続けたいという確固たる意志が感じられるのです。思えば彼らの(今のところ)ラストLIVEの本編では復活前の楽曲は一切演奏しなかったようで、その意味では過去のSOFT BALLETとは全く別物と捉えた方がよいのかもしれません。
<Favorite Songs>
・「Heleben Sahar」
ラップ調のAメロとハードロックなサウンドが妙にマッチした復活後の楽曲の中でも名曲の1つです。イントロのシーケンスに打ち込みユニットの色を残すものの、全体としてはギターが支配するノイジーなロックそのものです。
・「Ascent - die a peaceful death」
本作の中で最も洗練されたシーケンスを聴かせるスピード感あふれる楽曲。特にリズムの譜割りの細かさには脱帽です。しかもその高速シーケンスには電子音とノイズが目まぐるしく現れ、高速ラップと共にこの楽曲の肝となっています。メロディもどこか宇宙を感じさせる爽やかさです。
・「Your Web」
本作の最高傑作。作品中最も全盛期のSOFT BALLETに近いサウンドを有し、さらに復活後の旗印ともいえるラップ調歌唱が絡む、まさに集大成的楽曲です。ヌメッとしたシンセフレーズも低音を生かしたサビも全盛期のカラーといった感じが見え隠れします。
<評点>
・サウンド ★★ (ノイズサウンドは十八番だが、シンセサウンドは平凡な印象)
・メロディ ★ (以前の楽曲と比べるとPOPサイドのメロは弱くなったか)
・リズム ★★ (生演奏も多く打ち込みバンドの影は既にないに等しい)
・曲構成 ★★ (サウンドメイカー2人の対比は相変わらず)
・個性 ★★ (やはり打ち込みあっての彼らのサウンドだと思う)
総合評点: 7点
SOFT BALLET

<members>
遠藤遼一:vocal
森岡賢:computer programming・synthesizer
藤井麻輝:computer programming・synthesizer・guitar
1.「Nirvana」 曲・編:SOFT BALLET
2.「Heleben Sahar」 詞・曲・編:SOFT BALLET
3.「Smashing The Sun」 詞・曲・編:SOFT BALLET
4.「Ascent - die a peaceful death」 詞・曲・編:SOFT BALLET
5.「Realize」 詞・曲・編:SOFT BALLET
6.「H158」 曲・編:SOFT BALLET
7.「Hunting Hi-Times」 詞・曲・編:SOFT BALLET
8.「Your Web」 詞・曲・編:SOFT BALLET
9.「Bright My Way」 詞・曲・編:SOFT BALLET
10.「Incoherent And Confused (full of bombast)」 詞・曲・編:SOFT BALLET
11.「土縋り」 詞・曲・編:SOFT BALLET
<support musician>
磯田収:guitar
下出正樹:guitar
武内剛:guitar
森岡慶:guitar
小西コウイチ:bass
ソトコウジ:bass
梶原コウジ:drums
平井直樹:drums
伊藤リエ:backing vocal
白石元久:synthesizer manipulate assistance
produced by SOFT BALLET
mixing engineered by 石塚真一
recording engineered by 高津輝幸・石塚真一
● ノイズ混じりのエレクトロサウンドは健在!歳月を経て渋味が感じられる復活第2作
2002年に突如復活したインダストリアルなエレクトロユニットSOFT BALLETは、2枚のアルバムをリリースするという契約のもと、前作「Symbiont」と本作「Menopause」を残し、再び活動休止となりました。復活前はシンセ打ち込みとノイズ・インダストリアルをベースにしたシアトリカルなサウンドを基調としていましたが、復活後の彼らのサウンドは開き直った感のある、しかしどこかひねくれたハードなロックとわかりやす過ぎるトランシーなシンセサウンド+チリチリノイズといった傾向が強い印象を受けます。しかし最も成長の跡が見られたのはヴォーカルの遠藤で、自身のユニットENDSを経て得られた以前のキャラクターと異なる力強く色気に満ちたマッチョなヴォーカルスタイルは、復活後の最大の特徴と言ってよいものと思われます。
その復活SOFT BALLETの集大成的作品となったのが本作ですが、藤井の志向するノイジーでギターが前面に押し出された実験的作風と、あくまで軽快なダンサブルエレポップを志向する森岡サウンドの対比が前作「Symbiont」よりも激しくなっています。特に本作では「Heleben Sahar」「土縋り」といった藤井色豊かな佳曲が多く、よりコクのあるノイズサウンドを構築する彼の力量が支えたアルバムと考えてもよいかもしれません。逆に森岡楽曲のポップでわかりやすいメロディは聴き手に親切で、圧迫感のあるサウンドの中での一服の清涼剤的な立ち位置にあるようです。しかし結局SOFT BALLETの世界を表現するのは唯一無二の遠藤ヴォーカルということを再認識できます。一頃の人外なイメージからははるかに人間味に溢れた熱いヴォーカルを聴かせる彼ですが、そこには過去を振り返らず常に前進し続けたいという確固たる意志が感じられるのです。思えば彼らの(今のところ)ラストLIVEの本編では復活前の楽曲は一切演奏しなかったようで、その意味では過去のSOFT BALLETとは全く別物と捉えた方がよいのかもしれません。
<Favorite Songs>
・「Heleben Sahar」
ラップ調のAメロとハードロックなサウンドが妙にマッチした復活後の楽曲の中でも名曲の1つです。イントロのシーケンスに打ち込みユニットの色を残すものの、全体としてはギターが支配するノイジーなロックそのものです。
・「Ascent - die a peaceful death」
本作の中で最も洗練されたシーケンスを聴かせるスピード感あふれる楽曲。特にリズムの譜割りの細かさには脱帽です。しかもその高速シーケンスには電子音とノイズが目まぐるしく現れ、高速ラップと共にこの楽曲の肝となっています。メロディもどこか宇宙を感じさせる爽やかさです。
・「Your Web」
本作の最高傑作。作品中最も全盛期のSOFT BALLETに近いサウンドを有し、さらに復活後の旗印ともいえるラップ調歌唱が絡む、まさに集大成的楽曲です。ヌメッとしたシンセフレーズも低音を生かしたサビも全盛期のカラーといった感じが見え隠れします。
<評点>
・サウンド ★★ (ノイズサウンドは十八番だが、シンセサウンドは平凡な印象)
・メロディ ★ (以前の楽曲と比べるとPOPサイドのメロは弱くなったか)
・リズム ★★ (生演奏も多く打ち込みバンドの影は既にないに等しい)
・曲構成 ★★ (サウンドメイカー2人の対比は相変わらず)
・個性 ★★ (やはり打ち込みあっての彼らのサウンドだと思う)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「Post Production」 overrocket
「Post Production」(2003 アトン)
overrocket

<members>
本田みちよ:vocal・vocoder
鈴木光人:vocal・instruments
渡部高士:instruments
1.「MIRAI」 詞:掛川陽介 曲:鈴木光人 編:overrocket
2.「VOICE」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket
3.「WHITE NOISE」 詞:渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
4.「SUNSET BICYCLE」 詞:本田みちよ・渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
5.「MIRROR」 詞:本田みちよ 曲・編:overrocket
6.「SUNSET BICYCLE BEROSHIMA MIX」
詞:本田みちよ・渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
7.「TRICK」 詞:渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
8.「CHINA BLUE」
詞:渡部高士・本田みちよ 曲:渡部高士・鈴木光人 編:overrocket
9.「THE LAST THING WE DO」 曲:渡部高士・鈴木光人 編:overrocket
<support musician>
掛川陽介:guitar
produced by overrocket
co-produced by 掛川陽介
engineered by 渡部高士・松田正博・本澤尚之
● 前作路線を踏襲したポップな作品を集めた現代的シンセサウンドの見本市的傑作
21世紀型エレクトロポップの旗手として00年代前半を牽引したoverrocket。クラブ系テクノを通過しながら中期YMOの音を再現することのできる希有なユニットとしてデビュー作「blue drum」、1stフルアルバム「Mariner's Valley」とその妥協を許さないシンセサウンドと透明感のあるヴォーカルを売りにして順調にリリースしてきましたが、2003年リリースの名作「POP MUSIC」でエレクトロな打ち込みサウンドを耳なじみの良いPOPSとして換骨奪胎する思い切ったサウンド変化により多くの80年代テクノポップ好きの支持を得ることができました。本作はその勢いに乗ってリリースされた既発の12インチシングル「SUNSET BICYCLE」や「MIRAI」など未発表の新曲を含めたベスト盤とも言えるオリジナル作品です。
本作のサウンドはほぼ前作「POP MUSIC」のエレクトロポップ路線を踏襲した形となっており、持ち前の練りに練り尽くされたシンセ音にエフェクトにより加工されたヴォーカルが一段とポップにフィーチャーされています。特に1~4曲目までの充実ぶりは筆舌に尽くしがたく、まさに80年代TECHNOLOGY POPSの典型とも言える電子サウンドとメロディの融合ぶりが頂点を極めています。この寸度構築には鈴木光人のサウンド&メロディメイクのセンスによる部分が多く、この才能を渡部高士の巧みなミキシングによって音像に広がりを持たすことができるところがこのユニットの強みであると思います。そしてそのセンスの塊である楽曲を劇的にPOPSに変化させる透き通った声質の持ち主である本田みちよの存在ももちろん忘れてはなりません。本作は前作と同様全く楽曲に隙のないアルバムとなっているがゆえに、路線の終結を見てしまい、次作ではストイックなテクノミュージックへと再び変貌を遂げるのです。
<Favorite Songs>
・「MIRAI」
分厚いノコギリ波のシンセフレーズと太いリズム音がパワフルなオープニングを飾る楽曲。COOLなイントロとエフェクティブなヴォーカルを始めエレクトロポップの王道を行く素晴らしい完成度です。
・「VOICE」
きらびやかなシーケンスとそよ風のようなコード感が癒しを与えてくれる本作随一のポップチューン。淡々と刻むシンセベースが落ち着きを与えていますが、何よりもメロディの良さが光ります。このメロディがあってエフェクトを駆使したサウンドのギミックが生きているのです。
・「WHITE NOISE」
散りばめられたシーケンスをバックに、COOLなフレーズが展開するマイナー感覚の実験POPS。前2曲のポップさとは裏腹にダークな質感を醸し出す上質のシンセサウンドは前作にはなかった傾向に感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (21世紀現在最もYMO的なサウンドに近いクオリティ)
・メロディ ★★★★ (このユニットの良い部分は電子音とメロディの絶妙な融合)
・リズム ★★★★ (クラブ系のルーツからか細かいリズムの構築を見せる)
・曲構成 ★★★ (リミックスはボーナストラックでよいと常々思っている)
・個性 ★★★★★ (シンセPOPSとしての完成度は本作で円熟の極みに達した)
総合評点: 9点
overrocket

<members>
本田みちよ:vocal・vocoder
鈴木光人:vocal・instruments
渡部高士:instruments
1.「MIRAI」 詞:掛川陽介 曲:鈴木光人 編:overrocket
2.「VOICE」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket
3.「WHITE NOISE」 詞:渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
4.「SUNSET BICYCLE」 詞:本田みちよ・渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
5.「MIRROR」 詞:本田みちよ 曲・編:overrocket
6.「SUNSET BICYCLE BEROSHIMA MIX」
詞:本田みちよ・渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
7.「TRICK」 詞:渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
8.「CHINA BLUE」
詞:渡部高士・本田みちよ 曲:渡部高士・鈴木光人 編:overrocket
9.「THE LAST THING WE DO」 曲:渡部高士・鈴木光人 編:overrocket
<support musician>
掛川陽介:guitar
produced by overrocket
co-produced by 掛川陽介
engineered by 渡部高士・松田正博・本澤尚之
● 前作路線を踏襲したポップな作品を集めた現代的シンセサウンドの見本市的傑作
21世紀型エレクトロポップの旗手として00年代前半を牽引したoverrocket。クラブ系テクノを通過しながら中期YMOの音を再現することのできる希有なユニットとしてデビュー作「blue drum」、1stフルアルバム「Mariner's Valley」とその妥協を許さないシンセサウンドと透明感のあるヴォーカルを売りにして順調にリリースしてきましたが、2003年リリースの名作「POP MUSIC」でエレクトロな打ち込みサウンドを耳なじみの良いPOPSとして換骨奪胎する思い切ったサウンド変化により多くの80年代テクノポップ好きの支持を得ることができました。本作はその勢いに乗ってリリースされた既発の12インチシングル「SUNSET BICYCLE」や「MIRAI」など未発表の新曲を含めたベスト盤とも言えるオリジナル作品です。
本作のサウンドはほぼ前作「POP MUSIC」のエレクトロポップ路線を踏襲した形となっており、持ち前の練りに練り尽くされたシンセ音にエフェクトにより加工されたヴォーカルが一段とポップにフィーチャーされています。特に1~4曲目までの充実ぶりは筆舌に尽くしがたく、まさに80年代TECHNOLOGY POPSの典型とも言える電子サウンドとメロディの融合ぶりが頂点を極めています。この寸度構築には鈴木光人のサウンド&メロディメイクのセンスによる部分が多く、この才能を渡部高士の巧みなミキシングによって音像に広がりを持たすことができるところがこのユニットの強みであると思います。そしてそのセンスの塊である楽曲を劇的にPOPSに変化させる透き通った声質の持ち主である本田みちよの存在ももちろん忘れてはなりません。本作は前作と同様全く楽曲に隙のないアルバムとなっているがゆえに、路線の終結を見てしまい、次作ではストイックなテクノミュージックへと再び変貌を遂げるのです。
<Favorite Songs>
・「MIRAI」
分厚いノコギリ波のシンセフレーズと太いリズム音がパワフルなオープニングを飾る楽曲。COOLなイントロとエフェクティブなヴォーカルを始めエレクトロポップの王道を行く素晴らしい完成度です。
・「VOICE」
きらびやかなシーケンスとそよ風のようなコード感が癒しを与えてくれる本作随一のポップチューン。淡々と刻むシンセベースが落ち着きを与えていますが、何よりもメロディの良さが光ります。このメロディがあってエフェクトを駆使したサウンドのギミックが生きているのです。
・「WHITE NOISE」
散りばめられたシーケンスをバックに、COOLなフレーズが展開するマイナー感覚の実験POPS。前2曲のポップさとは裏腹にダークな質感を醸し出す上質のシンセサウンドは前作にはなかった傾向に感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (21世紀現在最もYMO的なサウンドに近いクオリティ)
・メロディ ★★★★ (このユニットの良い部分は電子音とメロディの絶妙な融合)
・リズム ★★★★ (クラブ系のルーツからか細かいリズムの構築を見せる)
・曲構成 ★★★ (リミックスはボーナストラックでよいと常々思っている)
・個性 ★★★★★ (シンセPOPSとしての完成度は本作で円熟の極みに達した)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「COMMUNICATION」 Karl Bartos
「COMMUNICATION」(2003 HOME)
Karl Bartos:voice・synthesizer・vocoder

1.「THE CAMERA」 Karl Bartos
2.「I'M THE MESSAGE」 Karl Bartos
3.「15 MINUTES OF FAME」 Karl Bartos/Anthony Rother
4.「REALITY」 Karl Bartos
5.「ELECTRONIC APEMAN」 Karl Bartos
6.「LIFE」 Karl Bartos
7.「CYBERSPACE」 Karl Bartos
8.「INTERVIEW」 Karl Bartos
9.「ULTRAVIOLET」 Karl Bartos
10.「ANOTHER REALITY」 Karl Bartos
produced by Karl Bartos
engineered by Mathias Black
●どこまでも不変のテクノゴッドサウンド!KraftwerkのPOPサイド担当の面目を躍如した名盤
電子音楽をPOPSに採り入れた黎明期の伝説バンド、テクノゴッドKraftwerk。このバンドは4人組であったが、実質Ralf HutterとFlorian Schneiderの2トップであり、残り2人Wolfgang FlurとKarl Bartosはその他扱いされていたように思えます。しかし80年代に入ると徐々にKarl Bartosのソングライティング能力が発露し、いわゆる彼ら特有の練られ尽くした電子音をPOPSにつなげる橋渡し的な役割は、彼が担っていたと言ってもよいでしょう。それは、Kraftwerk脱退後のElectrik Musicやこのソロ作品を聴けば理解できると思います。現在のKraftwerkは時代の音に敏感に反応しつつみずからの立場を崩さない力強いコンセプトが感じられる音になっていますが、Karl Bartosは一聴して古き良き時代の電力たっぷりのKraftwerkサウンドで、分厚いシンセベースにマシンボイスというKraftwerkよりもKraftwerkらしい作風となっています。
彼のKraftwerkをさらにポップ化したサウンド志向は、90年代のソロユニットElectrik Musicの1st「Esperanto」でも顕著であったが、当時はクラブ系テクノの波に影響されている部分もあり、少々下世話な印象もあったことは否めません。また2枚目に誰も望んでいないギターサウンドに終始してしまったところにも、彼自身の中で方向性に試行錯誤していたことが表れてしまっていました。そんな彼がソロとして21世紀にリリースしたのが本作です。開き直ったかのようなボコーダー&アナログシンセサウンド。ジャケもテクノイメージのアイコンを揃え、高らかにテクノポップ宣言しています。彼のポップなメロディはKraftwerkよりも聞きやすく、わかりやすさを求めるリスナーには(私も含めて)溜飲を下げるものでした。そして彼がKraftwerkの後継者?たるゆえんはそのリズムトラック。まがりなりにもパーカッション担当だった彼が構築するリズムだから、当然と言えば当然でしょう。まさしくテクノポップ好きならば避けて通れない教科書的作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「ELECTRONIC APEMAN」
全編ボコーダー&重厚なシンセベースが曲を支配しています。またこの楽観的な曲調が非常にKraftwerk的でもあります。一旦楽曲終了した後の、マシンボイスとランダムフレーズを絡めたスペーシーなアウトロが秀逸です。
・「ANOTHER REALITY」
全体的に電子音まみれのリズム&サウンドで攻めまくっている作品の中にあって、静謐なムードをスウィープシンセサウンドで表現した癒し楽曲となっています。ここでもマシンボイスは外しませんが。とはいえ、こういうコード感覚は非常に好きです。
・「THE CAMERA」
最初のシンセベースの太さに驚かされるアルバムのスタート曲。覚えやすいポップな作風ですが、Bメロ(サビ?)部分で既にKraftwerk的引用を感じさせます。1つ1つの音が歴史を感じさせる電子音であることに隔世の感を覚えます。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (このシンセ&マシンボイスは熟練過ぎて文句なし)
・メロディ ★★★ (シンセ満載なのに歌心があるのも良い)
・リズム ★★★★ (多少現代風のリズムもあるが、基本アナログで主張)
・曲構成 ★★★ (ラストが静かな曲調なのもいいが、リミックスは台無し)
・個性 ★★★★ (Kraftwerkなんだけど、昔のKraftwerkは存在しないので)
総合評点: 9点
Karl Bartos:voice・synthesizer・vocoder

1.「THE CAMERA」 Karl Bartos
2.「I'M THE MESSAGE」 Karl Bartos
3.「15 MINUTES OF FAME」 Karl Bartos/Anthony Rother
4.「REALITY」 Karl Bartos
5.「ELECTRONIC APEMAN」 Karl Bartos
6.「LIFE」 Karl Bartos
7.「CYBERSPACE」 Karl Bartos
8.「INTERVIEW」 Karl Bartos
9.「ULTRAVIOLET」 Karl Bartos
10.「ANOTHER REALITY」 Karl Bartos
produced by Karl Bartos
engineered by Mathias Black
●どこまでも不変のテクノゴッドサウンド!KraftwerkのPOPサイド担当の面目を躍如した名盤
電子音楽をPOPSに採り入れた黎明期の伝説バンド、テクノゴッドKraftwerk。このバンドは4人組であったが、実質Ralf HutterとFlorian Schneiderの2トップであり、残り2人Wolfgang FlurとKarl Bartosはその他扱いされていたように思えます。しかし80年代に入ると徐々にKarl Bartosのソングライティング能力が発露し、いわゆる彼ら特有の練られ尽くした電子音をPOPSにつなげる橋渡し的な役割は、彼が担っていたと言ってもよいでしょう。それは、Kraftwerk脱退後のElectrik Musicやこのソロ作品を聴けば理解できると思います。現在のKraftwerkは時代の音に敏感に反応しつつみずからの立場を崩さない力強いコンセプトが感じられる音になっていますが、Karl Bartosは一聴して古き良き時代の電力たっぷりのKraftwerkサウンドで、分厚いシンセベースにマシンボイスというKraftwerkよりもKraftwerkらしい作風となっています。
彼のKraftwerkをさらにポップ化したサウンド志向は、90年代のソロユニットElectrik Musicの1st「Esperanto」でも顕著であったが、当時はクラブ系テクノの波に影響されている部分もあり、少々下世話な印象もあったことは否めません。また2枚目に誰も望んでいないギターサウンドに終始してしまったところにも、彼自身の中で方向性に試行錯誤していたことが表れてしまっていました。そんな彼がソロとして21世紀にリリースしたのが本作です。開き直ったかのようなボコーダー&アナログシンセサウンド。ジャケもテクノイメージのアイコンを揃え、高らかにテクノポップ宣言しています。彼のポップなメロディはKraftwerkよりも聞きやすく、わかりやすさを求めるリスナーには(私も含めて)溜飲を下げるものでした。そして彼がKraftwerkの後継者?たるゆえんはそのリズムトラック。まがりなりにもパーカッション担当だった彼が構築するリズムだから、当然と言えば当然でしょう。まさしくテクノポップ好きならば避けて通れない教科書的作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「ELECTRONIC APEMAN」
全編ボコーダー&重厚なシンセベースが曲を支配しています。またこの楽観的な曲調が非常にKraftwerk的でもあります。一旦楽曲終了した後の、マシンボイスとランダムフレーズを絡めたスペーシーなアウトロが秀逸です。
・「ANOTHER REALITY」
全体的に電子音まみれのリズム&サウンドで攻めまくっている作品の中にあって、静謐なムードをスウィープシンセサウンドで表現した癒し楽曲となっています。ここでもマシンボイスは外しませんが。とはいえ、こういうコード感覚は非常に好きです。
・「THE CAMERA」
最初のシンセベースの太さに驚かされるアルバムのスタート曲。覚えやすいポップな作風ですが、Bメロ(サビ?)部分で既にKraftwerk的引用を感じさせます。1つ1つの音が歴史を感じさせる電子音であることに隔世の感を覚えます。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (このシンセ&マシンボイスは熟練過ぎて文句なし)
・メロディ ★★★ (シンセ満載なのに歌心があるのも良い)
・リズム ★★★★ (多少現代風のリズムもあるが、基本アナログで主張)
・曲構成 ★★★ (ラストが静かな曲調なのもいいが、リミックスは台無し)
・個性 ★★★★ (Kraftwerkなんだけど、昔のKraftwerkは存在しないので)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽