「LIFE」 大沢誉志幸
「LIFE」(1986 エピックソニー)
大沢誉志幸:vocal・chorus

1.「I’m not living (But) I’m not dying」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
2.「Planet love」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
3.「Blue-Break-Blue」 詞・曲:大沢誉志幸 編:矢口博康
4.「ジェランディア <願望国>」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山・矢口博康
5.「雨のecho」 詞・曲:大沢誉志幸 編:矢口博康
6.「ガラスの部屋」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
7.「クロール」 詞:銀色夏生 曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
8.「Time passes slowly」 詞・曲:Bob Dylan 編:ホッピー神山
<support musician>
板倉文:guitar
柴山和彦:guitar
MECKEN:bass・chorus
矢壁カメオ:drums・drum machine
川島バナナ:三角シンセ(triangle synthesizer)
福原まり:piano・足踏みオルガン・strings arrangement
ホッピー神山:keyboards・piano・chorus
Whacho:percussions・chorus
MA*TO:tabla
清水一登:marimba
兼崎順一:trumpet
原田靖:trombone
宇都宮明美:trombone・euphonium
沢村満:sax
矢口博康:sax・chorus
中西俊博グループ:strings
斎藤ネコ:violin
アーカー・キンダー・コール:chorus
岡村靖幸:chorus
produced by 大沢誉志幸
co-produced by 木崎賢治・小林和之
sound produced by ホッピー神山・矢口博康
mixing engineered by Michael Zimmering
recording engineered by Michael Zimmering・小池光夫
● ライブ録音とスタジオレコーディングのハイブリッドで臨場感を演出した新しい切り口の意欲作
中森明菜「1/2の神話」、吉川晃司「ラ・ヴィアンローズ」の作曲者としてその名を轟かせ、1984年のシングル「そして僕は途方に暮れる」で一躍トップアーティストに上り詰めた大沢誉志幸の一筋縄ではいかないところは、この大ヒット曲を最後にアレンジャー大村雅朗とのタッグを解消し、翌年のアルバム「in・Fin・ity」から当時新進気鋭の超絶技巧バンド、PINKのキーボーディストとして売り出し中であったホッピー神山をアレンジャーに迎え、時代を先取りしたポストニューウェーブサウンドへと大胆に舵を切ったその先鋭的なセンスにあります。岡野ハジメや矢壁アツノブといったPINKのリズム隊を迎えた猥雑なデジタルファンク(褒め言葉です)といった風情のサウンドメイクと数々のヒットソングを書き上げた大沢のソングライティングに、大沢自身のハスキーなヴォーカルとの相性も抜群の「in・Fin・ity」はまさに名盤の誉れ高い作品でしたが、その手応えのままホッピー神山プロデュースは翌年も継続され、86年にシングル「クロール」がしっかり三ツ矢サイダーのCMにタイアップされリリース、その勢いのままにリリースに至ったというのが、今回取り上げる本作というわけです。
さて、本作の最大の特徴といえばスタジオライブ録音、いわゆる一発録りによる素晴らしい臨場感に尽きるわけですが、そこは完全一発録りではなく、マルチレコーディングのパートを追加したハイブリッド録音となっています(なお、CD盤のみ収録の「クロール」「Time passes slowly」はボーナストラック扱いのマルチレコーディング)。それでも一発録りによる緊張感や心地よい残響音などは、もちろん本作で起用されたMichael Zimmeringのエッジの効いたミキシングの効果もありますが、その臨場感の演出に一役買っていると思われます。そして何と言ってもその臨場感を実現するには演奏者の優れたセンスが不可欠ということで、本作のアレンジャーであるホッピー神山と矢口博康を中心にクセのあるミュージシャンを各種取り揃えています。特にベーシストは前作の岡野ハジメから、Killing TimeのメンバーであるMECKEN(メッケン)が起用されていますが、彼が派手な岡野ハジメのベースプレイに負けずとも劣らない非常に複雑なフレーズで楽曲の底辺を支えており、彼の貢献度は非常に高いと思われます。そして彼の人脈なのか板倉文、清水一登、MA*TO、whacho等のKilling Time勢が多数参加しているということは、やはりその即興性に対応できる演奏力が配慮されたということかもしれません。なお、本作で最も生き生きと演奏しているのはアレンジも3曲任されている矢口博康で、もともとこうしたインプロビゼーションなサックスプレイに定評のある彼なので、本作でもいわゆる「吹きまくり」なプレイが十二分に堪能できます。結果として非常に冒険心に溢れたアレンジと即興性から生まれるテンションの高さが感じられる演奏力が詰まったアルバムに仕上がったと言えるでしょう。
大沢自身は既に80年代後半のコンセプトアルバムシリーズ「Serious Barbarian」への構想を描いていたと思われ、本作は言うなればその構想の礎となった過渡期的作品と言えるかもしれませんが、まずは本作のフィジカル性に寄せたアルバム「SCRAP STORIES」をリリース、サウンド&コンセプト面での冒険心はひとまず心に温めることになります。
<Favorite Songs>
・「I’m not living (But) I’m not dying」
尖ったフレージングが魅力の直球デジタルファンクナンバー。スタジオライブ特有の臨場感による深みのあるリズム音処理が味わい深いのですが、間奏ではフリーキーに暴れ回る板倉文のギターソロに加えて、矢口博康が気持ちよさそうにサックスを自由奔放に吹き回るカオスな状況は、まさに本作のサウンドコンセプトの意図する部分なのでしょう。
・「雨のecho」
矢壁アツノブによる強烈なビートとMECKENのスラップベースによる個性的なリズム隊が主張する矢口博康アレンジのファンクチューン。疾走感という点では本作随一ですが、奔放すぎるサックスプレイもさることながら、なんとギターレスという点にも驚きです。
・「クロール」
CD盤のみ収録であった先行シングル。ボトムの効いたドラムに独特の乾いたシンセフレーズが絡んでいきます。ギターの音処理やリバーブの効いたデジタルピアノなどの夏を思い起こさせるサウンド処理はなんとも爽やかです。途中の強引な転調部分も意外性があって興味深い仕掛けです。
<評点>
・サウンド ★★★ (冒険心に溢れ緊張感もあるスリリングなサウンドが満載)
・メロディ ★ (コンセプト上ヒットメイカーとしての側面は影を潜める)
・リズム ★★★★ (ライブ感を見事に演出する相性の良いドラムとベース)
・曲構成 ★ (本作のコンセプトから察するにラスト2曲は不必要かも)
・個性 ★★ (よりフィジカルとエレクトロの融合に走るきっかけに)
総合評点: 7点
大沢誉志幸:vocal・chorus

1.「I’m not living (But) I’m not dying」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
2.「Planet love」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
3.「Blue-Break-Blue」 詞・曲:大沢誉志幸 編:矢口博康
4.「ジェランディア <願望国>」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山・矢口博康
5.「雨のecho」 詞・曲:大沢誉志幸 編:矢口博康
6.「ガラスの部屋」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
7.「クロール」 詞:銀色夏生 曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
8.「Time passes slowly」 詞・曲:Bob Dylan 編:ホッピー神山
<support musician>
板倉文:guitar
柴山和彦:guitar
MECKEN:bass・chorus
矢壁カメオ:drums・drum machine
川島バナナ:三角シンセ(triangle synthesizer)
福原まり:piano・足踏みオルガン・strings arrangement
ホッピー神山:keyboards・piano・chorus
Whacho:percussions・chorus
MA*TO:tabla
清水一登:marimba
兼崎順一:trumpet
原田靖:trombone
宇都宮明美:trombone・euphonium
沢村満:sax
矢口博康:sax・chorus
中西俊博グループ:strings
斎藤ネコ:violin
アーカー・キンダー・コール:chorus
岡村靖幸:chorus
produced by 大沢誉志幸
co-produced by 木崎賢治・小林和之
sound produced by ホッピー神山・矢口博康
mixing engineered by Michael Zimmering
recording engineered by Michael Zimmering・小池光夫
● ライブ録音とスタジオレコーディングのハイブリッドで臨場感を演出した新しい切り口の意欲作
中森明菜「1/2の神話」、吉川晃司「ラ・ヴィアンローズ」の作曲者としてその名を轟かせ、1984年のシングル「そして僕は途方に暮れる」で一躍トップアーティストに上り詰めた大沢誉志幸の一筋縄ではいかないところは、この大ヒット曲を最後にアレンジャー大村雅朗とのタッグを解消し、翌年のアルバム「in・Fin・ity」から当時新進気鋭の超絶技巧バンド、PINKのキーボーディストとして売り出し中であったホッピー神山をアレンジャーに迎え、時代を先取りしたポストニューウェーブサウンドへと大胆に舵を切ったその先鋭的なセンスにあります。岡野ハジメや矢壁アツノブといったPINKのリズム隊を迎えた猥雑なデジタルファンク(褒め言葉です)といった風情のサウンドメイクと数々のヒットソングを書き上げた大沢のソングライティングに、大沢自身のハスキーなヴォーカルとの相性も抜群の「in・Fin・ity」はまさに名盤の誉れ高い作品でしたが、その手応えのままホッピー神山プロデュースは翌年も継続され、86年にシングル「クロール」がしっかり三ツ矢サイダーのCMにタイアップされリリース、その勢いのままにリリースに至ったというのが、今回取り上げる本作というわけです。
さて、本作の最大の特徴といえばスタジオライブ録音、いわゆる一発録りによる素晴らしい臨場感に尽きるわけですが、そこは完全一発録りではなく、マルチレコーディングのパートを追加したハイブリッド録音となっています(なお、CD盤のみ収録の「クロール」「Time passes slowly」はボーナストラック扱いのマルチレコーディング)。それでも一発録りによる緊張感や心地よい残響音などは、もちろん本作で起用されたMichael Zimmeringのエッジの効いたミキシングの効果もありますが、その臨場感の演出に一役買っていると思われます。そして何と言ってもその臨場感を実現するには演奏者の優れたセンスが不可欠ということで、本作のアレンジャーであるホッピー神山と矢口博康を中心にクセのあるミュージシャンを各種取り揃えています。特にベーシストは前作の岡野ハジメから、Killing TimeのメンバーであるMECKEN(メッケン)が起用されていますが、彼が派手な岡野ハジメのベースプレイに負けずとも劣らない非常に複雑なフレーズで楽曲の底辺を支えており、彼の貢献度は非常に高いと思われます。そして彼の人脈なのか板倉文、清水一登、MA*TO、whacho等のKilling Time勢が多数参加しているということは、やはりその即興性に対応できる演奏力が配慮されたということかもしれません。なお、本作で最も生き生きと演奏しているのはアレンジも3曲任されている矢口博康で、もともとこうしたインプロビゼーションなサックスプレイに定評のある彼なので、本作でもいわゆる「吹きまくり」なプレイが十二分に堪能できます。結果として非常に冒険心に溢れたアレンジと即興性から生まれるテンションの高さが感じられる演奏力が詰まったアルバムに仕上がったと言えるでしょう。
大沢自身は既に80年代後半のコンセプトアルバムシリーズ「Serious Barbarian」への構想を描いていたと思われ、本作は言うなればその構想の礎となった過渡期的作品と言えるかもしれませんが、まずは本作のフィジカル性に寄せたアルバム「SCRAP STORIES」をリリース、サウンド&コンセプト面での冒険心はひとまず心に温めることになります。
<Favorite Songs>
・「I’m not living (But) I’m not dying」
尖ったフレージングが魅力の直球デジタルファンクナンバー。スタジオライブ特有の臨場感による深みのあるリズム音処理が味わい深いのですが、間奏ではフリーキーに暴れ回る板倉文のギターソロに加えて、矢口博康が気持ちよさそうにサックスを自由奔放に吹き回るカオスな状況は、まさに本作のサウンドコンセプトの意図する部分なのでしょう。
・「雨のecho」
矢壁アツノブによる強烈なビートとMECKENのスラップベースによる個性的なリズム隊が主張する矢口博康アレンジのファンクチューン。疾走感という点では本作随一ですが、奔放すぎるサックスプレイもさることながら、なんとギターレスという点にも驚きです。
・「クロール」
CD盤のみ収録であった先行シングル。ボトムの効いたドラムに独特の乾いたシンセフレーズが絡んでいきます。ギターの音処理やリバーブの効いたデジタルピアノなどの夏を思い起こさせるサウンド処理はなんとも爽やかです。途中の強引な転調部分も意外性があって興味深い仕掛けです。
<評点>
・サウンド ★★★ (冒険心に溢れ緊張感もあるスリリングなサウンドが満載)
・メロディ ★ (コンセプト上ヒットメイカーとしての側面は影を潜める)
・リズム ★★★★ (ライブ感を見事に演出する相性の良いドラムとベース)
・曲構成 ★ (本作のコンセプトから察するにラスト2曲は不必要かも)
・個性 ★★ (よりフィジカルとエレクトロの融合に走るきっかけに)
総合評点: 7点
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