「薔薇色の明日」 高橋幸宏
「薔薇色の明日」(1983 アルファ)
高橋幸宏:vocal・TAMA drums・keyboards・marimba・vibraphone・glockenspiel

1.「RIPPLE」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan・Pierre Barouh 曲・編:高橋幸宏
2.「MY BRIGHT TOMORROW」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan 曲・編:高橋幸宏
3.「蜉蝣」 詞・曲・編:高橋幸宏
4.「6月の天使」 詞・曲・編:高橋幸宏
5.「前兆」 詞・曲・編:高橋幸宏
6.「COINCIDENCE」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan 曲・編:高橋幸宏
7.「THIS ISLAND EARTH」 詞・曲:Bryan Ferry 編:高橋幸宏
8.「ARE YOU RECEIVING ME?」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan 曲・編:高橋幸宏
9.「GOOD TIME」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan 曲・編:高橋幸宏
10.「THE APRIL FOOLS」 詞:Hal David 曲:Burt Bacharach 編:高橋幸宏
<support musician>
Pierre Barouh:vocal
Bill Nelson:guitar・backing vocal
大村憲司:guitars
白井良明:guitars
細野晴臣:bass
近藤達郎:piano
坂本龍一:piano・strings arrangement
沢村満:alto sax
矢口博康:alto sax
Peter Barakan:backing vocals
当山"MYRAH"恵子:backing vocals
当山"PENNY"ひとみ:backing vocals
藤井丈司:technical assistance
produced by 高橋幸宏
mixing engineered by 高橋幸宏・小池光夫
recording engineered by 小池光夫
● 日本語POPSにも果敢に挑戦しつつカバー曲に無類の冴えを見せた大人の傑作
80年代初頭を飾る「NEUROMANTIC」「What Me Worry?」の2枚の大名盤を生み出した日本が生んだ稀代のドラマー高橋幸宏。YMOで空前のテクノポップブームを生み出し、前述の2枚によって日本のみならず海外のアーティストにも高い評価を得た素晴らしいシンセポップサウンドは、明らかに日本のROCK & POPSがワールドスタンダードに最接近した瞬間でした。しかし83年1年間を休養したYMOが志向したのはそれまでの活動によって培ってきた当時最新テクノロジーを使用したサウンドによる歌謡曲路線で、既に解散(散開)の決まっていた彼らの開き直り、お祭り騒ぎともいえるこの路線により、本当の意味での日本凱旋を果たしたのではないかと言えるでしょう。そしてそれは高橋幸宏ソロとしても同様であり、この年にリリースされた本作は前2作とは趣を異にして、日本語の割合が大幅に増えた歌謡POPS路線と言ってもよい楽曲が印象深い作品となっています。
日本語楽曲が増えたといっても半数はこれまでと同じく英語詞(「RIPPLE」は仏語)で、Bryan FerryとBurt Bacharachのカバーを含むバラエティ豊かな作品なのですが、CMソングに起用された今までにないストレートな日本語楽曲、「蜉蝣」「前兆」のインパクトがアルバム全体を支配しているため、前述な歌謡POPS的な色合いが濃く感じられるのでしょう。しかしながらサウンド面では前2作までのクオリティをしっかり保っており、特にドラム音色に至っては83年という時代もあいまってさらに歯切れが良いタイトなサウンドに進化しており、長らく80年代の彼のリズムトラックの基本となっていきます。このドラムがあるからこそどちらかというと地味めな楽曲が多い本作でも飽きが全くきません。そのあたりをよく理解した上でドラム音色にこだわる高橋幸宏という稀有なアーティストのセンスはやはり際立っていると思われます。本作で日本語楽曲に手応えを感じた彼は、YMO散開後に「Wild & Moody」で欧州進出をうかがわせる姿勢を見せたものの、レコード会社移籍後の85年のアルバム「ONCE A FOOL」からは本格的に日本語POPSへの傾倒を顕著にしていきます。
<Favorite Songs>
・「MY BRIGHT TOMORROW」
まさに「タイト」というべき幸宏ドラムの本領発揮ともいえるタイトルナンバー。このスネア音色がこの楽曲のすべてであり、エフェクティブでありながら残響音を残さない独特の音色はリズム音色にこだわる彼のセンスの塊とも言えるでしょう。リズムボックス主体のイントロからあのドラムが入ってくる瞬間は鳥肌モノです。
・「前兆」
シタールとストリングスによる気怠いイントロが新境地を感じさせるCMソング起用のキラーチューン。これまでにない「熱」を持った楽曲でミディアムバラードながら、サックスの入り方など盛り上げのポイントも絶妙な名曲です。もちろん幸宏ドラムの存在感もこの曲調にあってはインパクト十分です。
・「THE APRIL FOOLS」
言わずと知れたBurt Bacharachの名曲のカバー。Bacharachはもちろん20世紀を代表する偉大なPOPS作曲家ですが、このカバーは珍しく本家を凌駕する質の高さを持っています。Prophetの柔らかい響きもオルゴール的音色のイントロ等地味な仕掛けも奏功してアルバムのラストにふさわしく、彼の数あるリメイクの中でも最高峰であると断言してしまいます。
<評点>
・サウンド ★★★ (サウンド自体は前作までの方法論を崩さず安定感も)
・メロディ ★★★ (特に日本語曲に至っては持ち前のポップセンスを披露)
・リズム ★★★★★ (過激になりすぎず薄くなり過ぎず絶妙の音色バランス)
・曲構成 ★★★★ (バラードで始まりバラードで終わるまとめ方の妙が非凡)
・個性 ★★★ (尖り過ぎた部分は少し削られて丸くなった印象)
総合評点: 8点
高橋幸宏:vocal・TAMA drums・keyboards・marimba・vibraphone・glockenspiel

1.「RIPPLE」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan・Pierre Barouh 曲・編:高橋幸宏
2.「MY BRIGHT TOMORROW」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan 曲・編:高橋幸宏
3.「蜉蝣」 詞・曲・編:高橋幸宏
4.「6月の天使」 詞・曲・編:高橋幸宏
5.「前兆」 詞・曲・編:高橋幸宏
6.「COINCIDENCE」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan 曲・編:高橋幸宏
7.「THIS ISLAND EARTH」 詞・曲:Bryan Ferry 編:高橋幸宏
8.「ARE YOU RECEIVING ME?」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan 曲・編:高橋幸宏
9.「GOOD TIME」 詞:高橋幸宏・Peter Barakan 曲・編:高橋幸宏
10.「THE APRIL FOOLS」 詞:Hal David 曲:Burt Bacharach 編:高橋幸宏
<support musician>
Pierre Barouh:vocal
Bill Nelson:guitar・backing vocal
大村憲司:guitars
白井良明:guitars
細野晴臣:bass
近藤達郎:piano
坂本龍一:piano・strings arrangement
沢村満:alto sax
矢口博康:alto sax
Peter Barakan:backing vocals
当山"MYRAH"恵子:backing vocals
当山"PENNY"ひとみ:backing vocals
藤井丈司:technical assistance
produced by 高橋幸宏
mixing engineered by 高橋幸宏・小池光夫
recording engineered by 小池光夫
● 日本語POPSにも果敢に挑戦しつつカバー曲に無類の冴えを見せた大人の傑作
80年代初頭を飾る「NEUROMANTIC」「What Me Worry?」の2枚の大名盤を生み出した日本が生んだ稀代のドラマー高橋幸宏。YMOで空前のテクノポップブームを生み出し、前述の2枚によって日本のみならず海外のアーティストにも高い評価を得た素晴らしいシンセポップサウンドは、明らかに日本のROCK & POPSがワールドスタンダードに最接近した瞬間でした。しかし83年1年間を休養したYMOが志向したのはそれまでの活動によって培ってきた当時最新テクノロジーを使用したサウンドによる歌謡曲路線で、既に解散(散開)の決まっていた彼らの開き直り、お祭り騒ぎともいえるこの路線により、本当の意味での日本凱旋を果たしたのではないかと言えるでしょう。そしてそれは高橋幸宏ソロとしても同様であり、この年にリリースされた本作は前2作とは趣を異にして、日本語の割合が大幅に増えた歌謡POPS路線と言ってもよい楽曲が印象深い作品となっています。
日本語楽曲が増えたといっても半数はこれまでと同じく英語詞(「RIPPLE」は仏語)で、Bryan FerryとBurt Bacharachのカバーを含むバラエティ豊かな作品なのですが、CMソングに起用された今までにないストレートな日本語楽曲、「蜉蝣」「前兆」のインパクトがアルバム全体を支配しているため、前述な歌謡POPS的な色合いが濃く感じられるのでしょう。しかしながらサウンド面では前2作までのクオリティをしっかり保っており、特にドラム音色に至っては83年という時代もあいまってさらに歯切れが良いタイトなサウンドに進化しており、長らく80年代の彼のリズムトラックの基本となっていきます。このドラムがあるからこそどちらかというと地味めな楽曲が多い本作でも飽きが全くきません。そのあたりをよく理解した上でドラム音色にこだわる高橋幸宏という稀有なアーティストのセンスはやはり際立っていると思われます。本作で日本語楽曲に手応えを感じた彼は、YMO散開後に「Wild & Moody」で欧州進出をうかがわせる姿勢を見せたものの、レコード会社移籍後の85年のアルバム「ONCE A FOOL」からは本格的に日本語POPSへの傾倒を顕著にしていきます。
<Favorite Songs>
・「MY BRIGHT TOMORROW」
まさに「タイト」というべき幸宏ドラムの本領発揮ともいえるタイトルナンバー。このスネア音色がこの楽曲のすべてであり、エフェクティブでありながら残響音を残さない独特の音色はリズム音色にこだわる彼のセンスの塊とも言えるでしょう。リズムボックス主体のイントロからあのドラムが入ってくる瞬間は鳥肌モノです。
・「前兆」
シタールとストリングスによる気怠いイントロが新境地を感じさせるCMソング起用のキラーチューン。これまでにない「熱」を持った楽曲でミディアムバラードながら、サックスの入り方など盛り上げのポイントも絶妙な名曲です。もちろん幸宏ドラムの存在感もこの曲調にあってはインパクト十分です。
・「THE APRIL FOOLS」
言わずと知れたBurt Bacharachの名曲のカバー。Bacharachはもちろん20世紀を代表する偉大なPOPS作曲家ですが、このカバーは珍しく本家を凌駕する質の高さを持っています。Prophetの柔らかい響きもオルゴール的音色のイントロ等地味な仕掛けも奏功してアルバムのラストにふさわしく、彼の数あるリメイクの中でも最高峰であると断言してしまいます。
<評点>
・サウンド ★★★ (サウンド自体は前作までの方法論を崩さず安定感も)
・メロディ ★★★ (特に日本語曲に至っては持ち前のポップセンスを披露)
・リズム ★★★★★ (過激になりすぎず薄くなり過ぎず絶妙の音色バランス)
・曲構成 ★★★★ (バラードで始まりバラードで終わるまとめ方の妙が非凡)
・個性 ★★★ (尖り過ぎた部分は少し削られて丸くなった印象)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
コメント
No title
Re: No title
ヒーターさん、こんばんは。
そのとおり、歌謡曲の皮をかぶった実験的な作品ですよね。
本作が発表された83年頃からスネア音色が非常におもしろくなってきたんですよ。
その先駆者的というかその中でも非常に個性的だったのが本作の音なんですよね。
それだけに思い入れも深いわけなんです。
そのとおり、歌謡曲の皮をかぶった実験的な作品ですよね。
本作が発表された83年頃からスネア音色が非常におもしろくなってきたんですよ。
その先駆者的というかその中でも非常に個性的だったのが本作の音なんですよね。
それだけに思い入れも深いわけなんです。
疑似ヨーロッパ?
Reryoさんのお久しぶりです。
高橋幸宏の“薔薇色の明日”、大学生の頃にお気に入りでした、というか今でも大好きです。おっしゃる通りポップで日本語詞の曲が多いんですが、メロディーやジャケットが疑似ヨーロピアンといった雰囲気で(もちろん、いい意味で)、特にブライアン・フェリーの“this island earth”をカバーしているあたりも僕的には◎です。あれからもうすぐ30年か~、月日の流れるのは早いですが、当時出会えなかった同好の人たちと、こうやってネット上で交流できるのはありがたいですね。
話しは変わりますが、いちニューウェーブファンのお願いとしてThe Associatesの“sulk”なんかもレビューして頂きたいところですが、いかがでしょうか?
高橋幸宏の“薔薇色の明日”、大学生の頃にお気に入りでした、というか今でも大好きです。おっしゃる通りポップで日本語詞の曲が多いんですが、メロディーやジャケットが疑似ヨーロピアンといった雰囲気で(もちろん、いい意味で)、特にブライアン・フェリーの“this island earth”をカバーしているあたりも僕的には◎です。あれからもうすぐ30年か~、月日の流れるのは早いですが、当時出会えなかった同好の人たちと、こうやってネット上で交流できるのはありがたいですね。
話しは変わりますが、いちニューウェーブファンのお願いとしてThe Associatesの“sulk”なんかもレビューして頂きたいところですが、いかがでしょうか?
Re: 疑似ヨーロッパ?
80's manさん、こんばんは。いつ見ても素晴らしいお名前です。
大学生の頃の作品だったんですね・・・ワタシはその頃まだまだ子供でしたw
そんな小学生の耳にもわかるくらい、当時の高橋幸宏といえば最先端を走っていたと思うのです。
あ、年齢ばれちゃいますねw
The Associates。このあたりはまだまだ勉強したいところです。
ぜひとも聴かせていただきます。
そろそろネタも底が見えてきたので、こうしてリクエストしていただけると大変助かります。
気に入りましたらぜひレビューに加えたいと思います。
大学生の頃の作品だったんですね・・・ワタシはその頃まだまだ子供でしたw
そんな小学生の耳にもわかるくらい、当時の高橋幸宏といえば最先端を走っていたと思うのです。
あ、年齢ばれちゃいますねw
The Associates。このあたりはまだまだ勉強したいところです。
ぜひとも聴かせていただきます。
そろそろネタも底が見えてきたので、こうしてリクエストしていただけると大変助かります。
気に入りましたらぜひレビューに加えたいと思います。
No title
おぉ~っ、すでに小学生でこの作品を聴いておられたとは...なんとも早熟なお子さんだったんですね!!それとも、reryoさんたちの世代ではそれが普通だったんでしょうか?どちらにせよ、このようなハイセンスな音楽が幅広いリスナーに受け入れられるようになったのも、YMOという偉大なグループが存在したからこそでしょうね。
P.S.
“once a fool,...”のレヴューも楽しく読ませて頂きました。
“今日の空”は僕も大好きな曲です。
P.S.
“once a fool,...”のレヴューも楽しく読ませて頂きました。
“今日の空”は僕も大好きな曲です。
Re: No title
いえいえ早熟というより兄の影響というか・・・。
でも当時はクラスにも何人かはいましたよ、YMOの御三方を下敷きにしている猛者達がw
ただワタシはそれからゲルニカとかそっち方面に興味がいきつつも、J-POP方面を押さえていたのでこのブログがこんなことになってしまっているのです。
でも結局始まりは、(ちょっと悔しいですけどw)YMOなんですよねえ。
でも当時はクラスにも何人かはいましたよ、YMOの御三方を下敷きにしている猛者達がw
ただワタシはそれからゲルニカとかそっち方面に興味がいきつつも、J-POP方面を押さえていたのでこのブログがこんなことになってしまっているのです。
でも結局始まりは、(ちょっと悔しいですけどw)YMOなんですよねえ。
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このアルバムに、一貫して言えることは、歌謡曲路線でもあり常に実験的です。
独特のスネアの音や、チャイナシンバルの多用などドラマーならではのこだわりも、感じられます。
ジャケット写真も木の枝を持っている写真とか、カッコ良過ぎです。