「Paintings of Lights」 新川忠
「Paintings of Lights」 (2015 ボタニカルハウス)
新川忠:vocal・all instruments

1.「アイリス」 詞・曲・編:新川忠
2.「渚」 詞・曲・編:新川忠
3.「霧の中の城」 詞・曲・編:新川忠
4.「カミーユ・クローデル」 詞・曲・編:新川忠
5.「彼女たちの舞台」 詞・曲・編:新川忠
6.「ハワースの荒野」 詞・曲・編:新川忠
7.「シルエット」 詞・曲・編:新川忠
8.「メアリー・ローズ」 詞・曲・編:新川忠
9.「眺めのいい部屋」 詞・曲・編:新川忠
10.「ヴィーナスの腕」 詞・曲・編:新川忠
produced by 新川忠
engineered by 新川忠
● 最小限のシンセサイザーとリズムボックスで作り上げた透明感溢れる80年代型家内制手工業式癒しPOPSの名盤
2003年にアルバム「sweet hereafter」でデビューした落ち着きのあるメロディセンスが持ち味のシンガーソングライター新川忠は、完全家内制手工業的な制作環境、それもDTMではなく数少ないハード機材を使用したアナログな手法ですべてのサウンドメイクを手掛ける、真の意味での孤高のアーティストと言えるでしょう。1stアルバムの「sweet hereafter」は場末の酒場のBGMのような雰囲気抜群のジャジーかつモンドなAORミュージックという仕上がりで、その存在感をアピールしましたが、2005年の2ndアルバム「Christy」ではギターを持ち出してフォークやロックのエッセンスを忍ばせたシティポップな空気を醸し出していました。しかし2作に共通していたのは抜群に雰囲気づくりと一音一音を大切にしているようなメロディセンスで、彼の落ち着いた静謐さを感じる声質のボーカルスタイルもあって、目立たなく地味であるが良質な隠れた名盤として、一部で語られていたわけです。その後しばらく音楽活動はネットでの音源発表にとどまっていましたが、2010年に00年代を代表する良質POPSバンドであるLampと出会ったことによって、彼らの強い要望もあり新作の制作を決意、2015年に3枚目のアルバムとなる本作がリリースされることになるのです。
前2作でサウンドの方向性を変えてきた新川が本作で目指したサウンドは、80'sエレクトロシティポップミュージック。シンセサイザーを全面的にフィーチャーしてそのサウンドの豊かさでもって持ち前のメロディセンスをさらに引き立てることに衷心していますが、ただ闇雲に音を重ねていくわけではなく厳選された音色を計算されたタイミングで使用する、その選択と活用のセンスの良さで勝負していることが、この独特の美意識を感じるサウンドデザインとして表現されていると思われます。YAMAHA QS-300というシンセ一体型のハードシーケンサーと、同じくYAMAHAのPCMドラムマシンRX-5をメインに使用し、リバーブもYAMAHA REV-100というYAMAHA信者ぶりも微笑ましい限りですが、このようなシンプルなハード機材のみで制作された楽曲がここまでPOPSとしての完成度を持つということは、これまでの音楽的体験から学んできた「気持ちの良い音」を音色選択の際に常に心がけているからこそです。本人は自身を「モノマネ芸人」と謙遜していますが、自身のルーツを咀嚼して素直に作品を世に送り出すことは音楽家として当然の行為であると思いますので、彼の作品は超個人主義なために音やメロディがストレートに表現されていますが、いずれの作品・楽曲にも彼の優れた音楽への審美眼を堪能できるという点でも、新川忠というアーティストの存在感をしっかり認めていくべきでしょう。また、本作のシンセやピアノフレーズの使い方は、元GRASS VALLEY・現face to aceの本田海月(本田恭之)に通じる部分があるように思います。本田もRoland Jupiter-6、MKS-20といった80'sアナログシンセ&エレピ音源を好んで使用していたので、本作の目指していたサウンドとの共通点が感じられるものと思われます。
<Favorite Songs>
・「アイリス」
全体を包み込む白玉パッドの美しさに圧倒されるオープニングチューン。シンプルなシーケンスとリズムをバックにエレピの豪快な主張が味わい深く、シンセフレーズも必要不可欠なタイミングで挿入されてくるのはセンス以外の何者でもありません。その豊かな味わいも清廉さを身に纏ったメロディラインの賜物と言えます。
・「カミーユ・クローデル」
シンプルな音像であるからこそメロディラインと美しいコード展開が光る本作におけるリードチューンの1つ。エレピ系で奏でられるような旋律が竪琴のような音色に置き換えることで、神話性が増すという音色選択のセンスがこの楽曲でも発揮されています。
・「ヴィーナスの腕」
思えばサウンドは変われども新川忠固有のメロディセンスは不変であることを思い出させてくれる名曲。80'sで国内外でこぞって使用されていたシンセの琴(Koto)音色をメインのソロフレーズで使用するも音像はシンプル、シンセコーラスと多重コーラスで包み込んで優しく料理された究極のラストバラードです。
<評点>
・サウンド ★★★★ (チープなハード機材でも音色選択でここまで高品質になる)
・メロディ ★★★★ (持ち前のロマンチシズムを自身の歌声とのリンクで発揮)
・リズム ★★★ (RX-5によるPCM音源でも本作においては味でしかない)
・曲構成 ★★★ (確固たる美意識で統一されているため単調さも味になる)
・個性 ★★★ (ロマン主義のソロシンガーも少なくなったかもしれない)
総合評点: 8点
新川忠:vocal・all instruments

1.「アイリス」 詞・曲・編:新川忠
2.「渚」 詞・曲・編:新川忠
3.「霧の中の城」 詞・曲・編:新川忠
4.「カミーユ・クローデル」 詞・曲・編:新川忠
5.「彼女たちの舞台」 詞・曲・編:新川忠
6.「ハワースの荒野」 詞・曲・編:新川忠
7.「シルエット」 詞・曲・編:新川忠
8.「メアリー・ローズ」 詞・曲・編:新川忠
9.「眺めのいい部屋」 詞・曲・編:新川忠
10.「ヴィーナスの腕」 詞・曲・編:新川忠
produced by 新川忠
engineered by 新川忠
● 最小限のシンセサイザーとリズムボックスで作り上げた透明感溢れる80年代型家内制手工業式癒しPOPSの名盤
2003年にアルバム「sweet hereafter」でデビューした落ち着きのあるメロディセンスが持ち味のシンガーソングライター新川忠は、完全家内制手工業的な制作環境、それもDTMではなく数少ないハード機材を使用したアナログな手法ですべてのサウンドメイクを手掛ける、真の意味での孤高のアーティストと言えるでしょう。1stアルバムの「sweet hereafter」は場末の酒場のBGMのような雰囲気抜群のジャジーかつモンドなAORミュージックという仕上がりで、その存在感をアピールしましたが、2005年の2ndアルバム「Christy」ではギターを持ち出してフォークやロックのエッセンスを忍ばせたシティポップな空気を醸し出していました。しかし2作に共通していたのは抜群に雰囲気づくりと一音一音を大切にしているようなメロディセンスで、彼の落ち着いた静謐さを感じる声質のボーカルスタイルもあって、目立たなく地味であるが良質な隠れた名盤として、一部で語られていたわけです。その後しばらく音楽活動はネットでの音源発表にとどまっていましたが、2010年に00年代を代表する良質POPSバンドであるLampと出会ったことによって、彼らの強い要望もあり新作の制作を決意、2015年に3枚目のアルバムとなる本作がリリースされることになるのです。
前2作でサウンドの方向性を変えてきた新川が本作で目指したサウンドは、80'sエレクトロシティポップミュージック。シンセサイザーを全面的にフィーチャーしてそのサウンドの豊かさでもって持ち前のメロディセンスをさらに引き立てることに衷心していますが、ただ闇雲に音を重ねていくわけではなく厳選された音色を計算されたタイミングで使用する、その選択と活用のセンスの良さで勝負していることが、この独特の美意識を感じるサウンドデザインとして表現されていると思われます。YAMAHA QS-300というシンセ一体型のハードシーケンサーと、同じくYAMAHAのPCMドラムマシンRX-5をメインに使用し、リバーブもYAMAHA REV-100というYAMAHA信者ぶりも微笑ましい限りですが、このようなシンプルなハード機材のみで制作された楽曲がここまでPOPSとしての完成度を持つということは、これまでの音楽的体験から学んできた「気持ちの良い音」を音色選択の際に常に心がけているからこそです。本人は自身を「モノマネ芸人」と謙遜していますが、自身のルーツを咀嚼して素直に作品を世に送り出すことは音楽家として当然の行為であると思いますので、彼の作品は超個人主義なために音やメロディがストレートに表現されていますが、いずれの作品・楽曲にも彼の優れた音楽への審美眼を堪能できるという点でも、新川忠というアーティストの存在感をしっかり認めていくべきでしょう。また、本作のシンセやピアノフレーズの使い方は、元GRASS VALLEY・現face to aceの本田海月(本田恭之)に通じる部分があるように思います。本田もRoland Jupiter-6、MKS-20といった80'sアナログシンセ&エレピ音源を好んで使用していたので、本作の目指していたサウンドとの共通点が感じられるものと思われます。
<Favorite Songs>
・「アイリス」
全体を包み込む白玉パッドの美しさに圧倒されるオープニングチューン。シンプルなシーケンスとリズムをバックにエレピの豪快な主張が味わい深く、シンセフレーズも必要不可欠なタイミングで挿入されてくるのはセンス以外の何者でもありません。その豊かな味わいも清廉さを身に纏ったメロディラインの賜物と言えます。
・「カミーユ・クローデル」
シンプルな音像であるからこそメロディラインと美しいコード展開が光る本作におけるリードチューンの1つ。エレピ系で奏でられるような旋律が竪琴のような音色に置き換えることで、神話性が増すという音色選択のセンスがこの楽曲でも発揮されています。
・「ヴィーナスの腕」
思えばサウンドは変われども新川忠固有のメロディセンスは不変であることを思い出させてくれる名曲。80'sで国内外でこぞって使用されていたシンセの琴(Koto)音色をメインのソロフレーズで使用するも音像はシンプル、シンセコーラスと多重コーラスで包み込んで優しく料理された究極のラストバラードです。
<評点>
・サウンド ★★★★ (チープなハード機材でも音色選択でここまで高品質になる)
・メロディ ★★★★ (持ち前のロマンチシズムを自身の歌声とのリンクで発揮)
・リズム ★★★ (RX-5によるPCM音源でも本作においては味でしかない)
・曲構成 ★★★ (確固たる美意識で統一されているため単調さも味になる)
・個性 ★★★ (ロマン主義のソロシンガーも少なくなったかもしれない)
総合評点: 8点
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