「神経衰弱」 亜蘭知子
「神経衰弱」(1981 ワーナーパイオニア)
亜蘭知子:vocal・chorus

1.「Secret Desire(下心)」
詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
2.「悲しきボードビリアン」
詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃・笹路正徳・織田哲郎 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
3.「So Get Up(要塞の女たち)」
詞:亜蘭知子 曲:笹路正徳 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
4.「乱れたベッド」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
5.「狂った歯車」 詞:亜蘭知子 曲:織田哲郎 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
6.「完全犯罪」 詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
7.「雨のかわりに毒薬を」
詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
8.「神経衰弱」 詞:亜蘭知子 曲:笹路正徳 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
9.「ノアの箱舟」 詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
10.「Meditation(冥想)」
曲:清水靖晃・笹路正徳 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
<support musician>
北島健二:guitar
土方隆行:guitar
濱瀬元彦:bass・acoustic bass
渡辺モリオ:bass
山木秀夫:drums・percussions
笹路正徳:keyboards・computer programming
清水靖晃:tenor sax・sound effect・chorus
村田有美:chorus
produced by 長戸大幸・清水靖晃
sound produced by 清水靖晃・笹路正徳
engineered by 小野誠彦
● マライア・プロジェクトがキテレツサウンドで尖った感性を見せつけるデビュー作にして先鋭的なコンセプチュアルアルバム
1978年に設立されたビーイングは長門大幸や織田哲郎、月光恵亮らと設立された音楽制作会社でしたが、その創設メンバーに若干20歳にして紅一点で参加したのが亜蘭知子でした。既に10代の頃から作詞家としての才を発揮していた彼女は、当時はまだ小さい音楽プロダクションであったビーイングから、1981年のシングル「悲しきボードビリアン」でソロ歌手としてのデビューを果たします。そしてその1ヶ月後にアルバムデビューに至るわけですが、そのような彼女のサウンドプロデュースを買って出たのが、当時ビーイングに所属していたサックスプレイヤー清水靖晃でした。彼は当時は言わずと知れたMARIAH PROJECTのメンバーとして笹路正徳や土方隆行、山木秀夫らと修行中の身であり、フュージョンやプログレッシブロックといった既存の枠にとらわれない音楽的な実験精神を自身の作品などで繰り返していたわけですが、本作はMARIAH(マライア)の歌姫であった村田有美に次ぐプロデュース作品ではないかと思われます。
実験的ロックバンドと言われたMARIAH PROJECTの全面的バックアップによる作品というわけで、本作ではサウンド的にも楽曲としても先鋭的なコンセプチュアル作品に仕上がっています。90年代以降のビーイングブーム以降の感覚からすると信じ難いかもしれませんが、まだまだ音楽界でも駆け出しであった当時のビーイングはMARIAH PROJECTや北島健二・西村麻聡(当時は昌敏:後のFENCE OF DEFENSE)、岩本正樹といった若きクリエイター&プレイヤー達がこぞって前衛的なアプローチによる音楽実験を繰り広げられる土壌があったため、亜蘭知子や村田有美、秋本奈緒美といったシンガー達の作品が彼らの実験場になっていました。本作もそんな実験場の1枚というわけですが、冒頭の「Secret Desire(下心)」こそ場末の酒場で流れるような軽妙なジャズPOPSですが、2曲目からはバラエティに富んだ前衛的な楽曲が続出します。シングルカットされた「悲しきボードビリアン」はスネアのロングリバーブと洞窟の中を歩くようなS.Eが奇妙この上ないニューウェーブレゲエ、「So Get Up(要塞の女たち)」や「乱れたベッド」では奇妙なフレーズとギミックと大胆なエフェクト処理のエレクトロPOPS、奇妙なサウンドで惑わせるオリエンタルニューウェーブ「神経衰弱」など、テクノポップ〜ニューウェーブシーンに呼応した楽曲も多く収録しながら、70年代の残りが漂うニューミュージック風のバラードソングもしっかり押さえています。しかしラストはスピリチュアルエレクトリックアンビエントなインスト「Meditation(冥想)」で、一体本作がどこに向かおうとしているのか、思考がまとまらなくなってしまうという何ともストレンジなアルバムです(エンジニアの小野誠彦の貢献は非常に大きい)。
余りの実験精神のぶっ込みように亜蘭知子としてのキャラクターが希薄になっているきらいがありますが、MARIAH PROJECTの才気溢れるセンスの数々が堪能できるという点では、興味深い作品であると言えます。なお、この実験場は83年の3rdアルバム「浮遊空間」までしばらく続いていくこととなります。
<Favorite Songs>
・「So Get Up(要塞の女たち)」
誰も思いつきにくい奇天烈なイントロで幕を開けるストレンジPOPS。サビでダンサブルなシーケンスを導入してくるセンスが秀逸です。間奏も不思議感覚全開。随所でパイプオルガンのワンフレーズで挿入したり、亜蘭のボイスを極端に強調するエフェクトが施されたりとギミックも豊富です。
・「乱れたベッド」
生々しいハイハットとヌメリ感のあるフレットレスベースが異物感を感じさせるメジャー調レゲエ。長戸大幸の書いたメロディは爽やかでキュートですらありますが、サウンドはモジュレーション系のエフェクトを多用したエレクトロ風味溢れる仕上がりです。
・「神経衰弱」
チープなリズム&シンセサウンドが大活躍するオリエンタルニューウェーブチューン。京劇のようなサウンドと蚊が飛ぶようなシンセフレーズで度胆を抜くイントロとAメロが圧巻です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (マライア軍団が嬉々として遊びまくる豊かな実験精神)
・メロディ ★ (その前衛性の故かデビュー作なのにポップになりきれない)
・リズム ★★★ (この時期にしてスネアの音処理に多彩な工夫が見られる)
・曲構成 ★★ (多彩なジャンルを1枚に丸め込む幅広い音楽性が魅力)
・個性 ★ (デビュー作にしてはプロデューサー陣の色が出過ぎた感も)
総合評点: 7点
亜蘭知子:vocal・chorus

1.「Secret Desire(下心)」
詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
2.「悲しきボードビリアン」
詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃・笹路正徳・織田哲郎 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
3.「So Get Up(要塞の女たち)」
詞:亜蘭知子 曲:笹路正徳 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
4.「乱れたベッド」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
5.「狂った歯車」 詞:亜蘭知子 曲:織田哲郎 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
6.「完全犯罪」 詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
7.「雨のかわりに毒薬を」
詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
8.「神経衰弱」 詞:亜蘭知子 曲:笹路正徳 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
9.「ノアの箱舟」 詞:亜蘭知子 曲:清水靖晃 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
10.「Meditation(冥想)」
曲:清水靖晃・笹路正徳 編:MARIAH PROJECT・清水靖晃・笹路正徳
<support musician>
北島健二:guitar
土方隆行:guitar
濱瀬元彦:bass・acoustic bass
渡辺モリオ:bass
山木秀夫:drums・percussions
笹路正徳:keyboards・computer programming
清水靖晃:tenor sax・sound effect・chorus
村田有美:chorus
produced by 長戸大幸・清水靖晃
sound produced by 清水靖晃・笹路正徳
engineered by 小野誠彦
● マライア・プロジェクトがキテレツサウンドで尖った感性を見せつけるデビュー作にして先鋭的なコンセプチュアルアルバム
1978年に設立されたビーイングは長門大幸や織田哲郎、月光恵亮らと設立された音楽制作会社でしたが、その創設メンバーに若干20歳にして紅一点で参加したのが亜蘭知子でした。既に10代の頃から作詞家としての才を発揮していた彼女は、当時はまだ小さい音楽プロダクションであったビーイングから、1981年のシングル「悲しきボードビリアン」でソロ歌手としてのデビューを果たします。そしてその1ヶ月後にアルバムデビューに至るわけですが、そのような彼女のサウンドプロデュースを買って出たのが、当時ビーイングに所属していたサックスプレイヤー清水靖晃でした。彼は当時は言わずと知れたMARIAH PROJECTのメンバーとして笹路正徳や土方隆行、山木秀夫らと修行中の身であり、フュージョンやプログレッシブロックといった既存の枠にとらわれない音楽的な実験精神を自身の作品などで繰り返していたわけですが、本作はMARIAH(マライア)の歌姫であった村田有美に次ぐプロデュース作品ではないかと思われます。
実験的ロックバンドと言われたMARIAH PROJECTの全面的バックアップによる作品というわけで、本作ではサウンド的にも楽曲としても先鋭的なコンセプチュアル作品に仕上がっています。90年代以降のビーイングブーム以降の感覚からすると信じ難いかもしれませんが、まだまだ音楽界でも駆け出しであった当時のビーイングはMARIAH PROJECTや北島健二・西村麻聡(当時は昌敏:後のFENCE OF DEFENSE)、岩本正樹といった若きクリエイター&プレイヤー達がこぞって前衛的なアプローチによる音楽実験を繰り広げられる土壌があったため、亜蘭知子や村田有美、秋本奈緒美といったシンガー達の作品が彼らの実験場になっていました。本作もそんな実験場の1枚というわけですが、冒頭の「Secret Desire(下心)」こそ場末の酒場で流れるような軽妙なジャズPOPSですが、2曲目からはバラエティに富んだ前衛的な楽曲が続出します。シングルカットされた「悲しきボードビリアン」はスネアのロングリバーブと洞窟の中を歩くようなS.Eが奇妙この上ないニューウェーブレゲエ、「So Get Up(要塞の女たち)」や「乱れたベッド」では奇妙なフレーズとギミックと大胆なエフェクト処理のエレクトロPOPS、奇妙なサウンドで惑わせるオリエンタルニューウェーブ「神経衰弱」など、テクノポップ〜ニューウェーブシーンに呼応した楽曲も多く収録しながら、70年代の残りが漂うニューミュージック風のバラードソングもしっかり押さえています。しかしラストはスピリチュアルエレクトリックアンビエントなインスト「Meditation(冥想)」で、一体本作がどこに向かおうとしているのか、思考がまとまらなくなってしまうという何ともストレンジなアルバムです(エンジニアの小野誠彦の貢献は非常に大きい)。
余りの実験精神のぶっ込みように亜蘭知子としてのキャラクターが希薄になっているきらいがありますが、MARIAH PROJECTの才気溢れるセンスの数々が堪能できるという点では、興味深い作品であると言えます。なお、この実験場は83年の3rdアルバム「浮遊空間」までしばらく続いていくこととなります。
<Favorite Songs>
・「So Get Up(要塞の女たち)」
誰も思いつきにくい奇天烈なイントロで幕を開けるストレンジPOPS。サビでダンサブルなシーケンスを導入してくるセンスが秀逸です。間奏も不思議感覚全開。随所でパイプオルガンのワンフレーズで挿入したり、亜蘭のボイスを極端に強調するエフェクトが施されたりとギミックも豊富です。
・「乱れたベッド」
生々しいハイハットとヌメリ感のあるフレットレスベースが異物感を感じさせるメジャー調レゲエ。長戸大幸の書いたメロディは爽やかでキュートですらありますが、サウンドはモジュレーション系のエフェクトを多用したエレクトロ風味溢れる仕上がりです。
・「神経衰弱」
チープなリズム&シンセサウンドが大活躍するオリエンタルニューウェーブチューン。京劇のようなサウンドと蚊が飛ぶようなシンセフレーズで度胆を抜くイントロとAメロが圧巻です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (マライア軍団が嬉々として遊びまくる豊かな実験精神)
・メロディ ★ (その前衛性の故かデビュー作なのにポップになりきれない)
・リズム ★★★ (この時期にしてスネアの音処理に多彩な工夫が見られる)
・曲構成 ★★ (多彩なジャンルを1枚に丸め込む幅広い音楽性が魅力)
・個性 ★ (デビュー作にしてはプロデューサー陣の色が出過ぎた感も)
総合評点: 7点
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