「パノラマ」 Qujila
「パノラマ」(1985 エピックソニー)
Qujila

<members>
杉林恭雄:vocal・guitar
キオト:bass・side vocal
楠均:drums・percussion・side vocal
1.「鋼」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
2.「ランドリー」 詞・曲:杉林恭雄 編:バナナ
3.「青空」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
4.「ヴェロナアル」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
5.「ひまわり」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
6.「パノラマ」 詞・曲:杉林恭雄 編:宮川泰
7.「エア・アタック」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
8.「ハート・ビート」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
9.「サンデー・モーニング」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
10.「KAPPA」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
<support musician>
BANANA:keyboards
斎藤毅:violin
栄田嘉彦:violin
山田雄司:viola
溝口肇:cello
藤井将登:synthesizer manipulate
石井明:computer programming
梅野貴典:computer programming
木村晋平:computer programming
貫田顕勇:computer programming
produced by Qujila
engineered by 飯泉俊之
● ノンPAのライブによるアコースティックなイメージを見事に覆し世界観をそのままに打ち込み満載のエレクトロ路線で突き進んだデビュー作
1980年代初頭にテクノポップ・ニューウェーブのムーブメントに刺激を受けて名古屋から上京を果たした杉林恭雄は、ミニマル要素の強い実験的な電子音楽作品を自身のレーベル「MIMIC RECORDS」を立ち上げ、3枚のレコードをリリースしていますが、これは後年杉林の作品であることが明らかになるまでは秘密性の高い匿名作品として知る人ぞ知る存在でした。3年間シンセサイザーやギターが創り出す音響面に興味を見出していた彼でしたが、ふとしたきっかけにより「歌」に開眼、バナナリアンズやポマードといったグループを経て、82年に結成されたのがくじら(Qujila)です。同郷のキオトとすきすきスイッチの佐藤幸雄のトリオとして活動を開始した彼らでしたが、ほどなくリズム担当の楠均の参加に伴い佐藤が脱退、パーマネントなメンバーが揃うことになりライブ活動を開始、杉林のMIMIC時代の電子音楽狂な側面の反動もあってか、時代におもねることなくノンPAのシンプルなアコースティックスタイルでのライブを敢行し密かな話題となっていきます。そして85年にプロデューサー福岡智彦に見出された彼らはSWITCH45レーベルから12インチシングル「砂の子供」でレコードレビューを果たしますが、福岡のエピックソニーへの移籍に伴いメジャーへ進出、そのままの勢いでデビューアルバムである本作がリリースされることになったわけです。
そんなノンPAアコースティックバンドの印象が強かった彼らの1stアルバムは、イメージとは裏腹にシンセプログラミング中心のエレクトリック仕様のサウンドに仕上がっています。オープニングの先行シングル「鋼」からしてスピード感に任せた16ビートのシンセベースにEmulatorのサンプリングフレーズが炸裂する攻撃的な楽曲で度肝を抜きます。全体的に楠のドラムはスネアがサンプリングされエフェクターで加工されることでマシナリーなリズムに仕立て上げられ、前述のサンプラーやシーケンスフレーズの多用と音の隙間を埋める変幻自在なコーラスワークが、このQujilaというバンドのストレンジ性を増幅させています。彼らの特徴であるミニマルなワンコード構成の楽曲はシンプルの中に癒しを感じさせるものでもありますが、前述のサウンドギミックや随所で和の心を感じさせる土着的な民謡まで意識したフレージング、そして私小説のような個性的な杉林の歌詞世界によって、時空が歪むようなファンタジックワールドすらイメージさせるという、既にデビュー作にして個性が抜きん出ている感覚を本作からは覚えずにはいられません。それにしてもこれが時代と言うべきか、本作のエレクトロ度は異常に高いわけですが、これはいわゆるアコギ中心のフォークトリオが流行に乗ってエレクトロに走ったということではなく、そもそも杉林が電子音楽で世に出たことを考えると本人達にとってはごく当然のことであって、Qujilaというグループに電子音楽の素養があったということなので何ら不思議ではありません。そのようなわけで本作によってQujilaはサウンド面でもチャレンジ精神溢れる一筋縄ではいかないアヴァンギャルドなバンドであることを世に知らしめることに成功したわけですが、次作「Tamago」では清水靖晃や小野誠彦らを迎えてさらにストレンジなエレアコサウンド楽曲に磨きをかけていくことになります。
<Favorite Songs>
・「パノラマ」
壮大なオーケストレーションによる昭和歌謡のタイトルチューン。大御所・宮川泰の素晴らしいオーケストレーションアレンジが炸裂します。どこかゲルニカを彷彿としてしまうサウンドと楽曲の雰囲気ですが、何と言ってもコーラスの若さ溢れるパワーが微笑ましいです。最後のデフォルメされた「ヤッホー!」の狂気が怖いです(笑)。
・「ハート・ビート」
単純なコードワークながら開放感あふれるメロディラインで爽快感を得ることができるファインチューン。秀逸なAメロの清々しさからの、サビから入ってくるメロトロン的なシンセストリングスが良い味を出しています。中盤のきらびやかなシンセソロも美しさを助長しています。
・「KAPPA」
平坦なサンプリング(河童)ボイスのシーケンスが不気味さを助長する後に12インチシングルカットされる代表曲。和のAメロと中華なサビのコントラストが面白い構成ですが、サンプラーによる腰砕けなブラスセクションも興味深く、二胡的なストリングスが活躍するサビが繰り返される大団円の乱痴気騒ぎへの流れも秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (全編にわたるシンセ&サンプラーの活躍ぶりが出色)
・メロディ ★★ (ロックともフォークとも行き着かない独特の旋律)
・リズム ★★★ (スネアの加工にこだわりマシナリー性を獲得)
・曲構成 ★★ (異色の楽曲も入れながらデビュー作としては安定的)
・個性 ★★★ (オリジナリティという面では際立つ存在感)
総合評点: 7点
Qujila

<members>
杉林恭雄:vocal・guitar
キオト:bass・side vocal
楠均:drums・percussion・side vocal
1.「鋼」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
2.「ランドリー」 詞・曲:杉林恭雄 編:バナナ
3.「青空」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
4.「ヴェロナアル」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
5.「ひまわり」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
6.「パノラマ」 詞・曲:杉林恭雄 編:宮川泰
7.「エア・アタック」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
8.「ハート・ビート」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
9.「サンデー・モーニング」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
10.「KAPPA」 詞・曲:杉林恭雄 編:くじら
<support musician>
BANANA:keyboards
斎藤毅:violin
栄田嘉彦:violin
山田雄司:viola
溝口肇:cello
藤井将登:synthesizer manipulate
石井明:computer programming
梅野貴典:computer programming
木村晋平:computer programming
貫田顕勇:computer programming
produced by Qujila
engineered by 飯泉俊之
● ノンPAのライブによるアコースティックなイメージを見事に覆し世界観をそのままに打ち込み満載のエレクトロ路線で突き進んだデビュー作
1980年代初頭にテクノポップ・ニューウェーブのムーブメントに刺激を受けて名古屋から上京を果たした杉林恭雄は、ミニマル要素の強い実験的な電子音楽作品を自身のレーベル「MIMIC RECORDS」を立ち上げ、3枚のレコードをリリースしていますが、これは後年杉林の作品であることが明らかになるまでは秘密性の高い匿名作品として知る人ぞ知る存在でした。3年間シンセサイザーやギターが創り出す音響面に興味を見出していた彼でしたが、ふとしたきっかけにより「歌」に開眼、バナナリアンズやポマードといったグループを経て、82年に結成されたのがくじら(Qujila)です。同郷のキオトとすきすきスイッチの佐藤幸雄のトリオとして活動を開始した彼らでしたが、ほどなくリズム担当の楠均の参加に伴い佐藤が脱退、パーマネントなメンバーが揃うことになりライブ活動を開始、杉林のMIMIC時代の電子音楽狂な側面の反動もあってか、時代におもねることなくノンPAのシンプルなアコースティックスタイルでのライブを敢行し密かな話題となっていきます。そして85年にプロデューサー福岡智彦に見出された彼らはSWITCH45レーベルから12インチシングル「砂の子供」でレコードレビューを果たしますが、福岡のエピックソニーへの移籍に伴いメジャーへ進出、そのままの勢いでデビューアルバムである本作がリリースされることになったわけです。
そんなノンPAアコースティックバンドの印象が強かった彼らの1stアルバムは、イメージとは裏腹にシンセプログラミング中心のエレクトリック仕様のサウンドに仕上がっています。オープニングの先行シングル「鋼」からしてスピード感に任せた16ビートのシンセベースにEmulatorのサンプリングフレーズが炸裂する攻撃的な楽曲で度肝を抜きます。全体的に楠のドラムはスネアがサンプリングされエフェクターで加工されることでマシナリーなリズムに仕立て上げられ、前述のサンプラーやシーケンスフレーズの多用と音の隙間を埋める変幻自在なコーラスワークが、このQujilaというバンドのストレンジ性を増幅させています。彼らの特徴であるミニマルなワンコード構成の楽曲はシンプルの中に癒しを感じさせるものでもありますが、前述のサウンドギミックや随所で和の心を感じさせる土着的な民謡まで意識したフレージング、そして私小説のような個性的な杉林の歌詞世界によって、時空が歪むようなファンタジックワールドすらイメージさせるという、既にデビュー作にして個性が抜きん出ている感覚を本作からは覚えずにはいられません。それにしてもこれが時代と言うべきか、本作のエレクトロ度は異常に高いわけですが、これはいわゆるアコギ中心のフォークトリオが流行に乗ってエレクトロに走ったということではなく、そもそも杉林が電子音楽で世に出たことを考えると本人達にとってはごく当然のことであって、Qujilaというグループに電子音楽の素養があったということなので何ら不思議ではありません。そのようなわけで本作によってQujilaはサウンド面でもチャレンジ精神溢れる一筋縄ではいかないアヴァンギャルドなバンドであることを世に知らしめることに成功したわけですが、次作「Tamago」では清水靖晃や小野誠彦らを迎えてさらにストレンジなエレアコサウンド楽曲に磨きをかけていくことになります。
<Favorite Songs>
・「パノラマ」
壮大なオーケストレーションによる昭和歌謡のタイトルチューン。大御所・宮川泰の素晴らしいオーケストレーションアレンジが炸裂します。どこかゲルニカを彷彿としてしまうサウンドと楽曲の雰囲気ですが、何と言ってもコーラスの若さ溢れるパワーが微笑ましいです。最後のデフォルメされた「ヤッホー!」の狂気が怖いです(笑)。
・「ハート・ビート」
単純なコードワークながら開放感あふれるメロディラインで爽快感を得ることができるファインチューン。秀逸なAメロの清々しさからの、サビから入ってくるメロトロン的なシンセストリングスが良い味を出しています。中盤のきらびやかなシンセソロも美しさを助長しています。
・「KAPPA」
平坦なサンプリング(河童)ボイスのシーケンスが不気味さを助長する後に12インチシングルカットされる代表曲。和のAメロと中華なサビのコントラストが面白い構成ですが、サンプラーによる腰砕けなブラスセクションも興味深く、二胡的なストリングスが活躍するサビが繰り返される大団円の乱痴気騒ぎへの流れも秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (全編にわたるシンセ&サンプラーの活躍ぶりが出色)
・メロディ ★★ (ロックともフォークとも行き着かない独特の旋律)
・リズム ★★★ (スネアの加工にこだわりマシナリー性を獲得)
・曲構成 ★★ (異色の楽曲も入れながらデビュー作としては安定的)
・個性 ★★★ (オリジナリティという面では際立つ存在感)
総合評点: 7点
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