「卑弥呼」 村田有美
「卑弥呼」 (1981 日本コロムビア)
村田有美:vocal・chorus

1.「きげんなおして、もう」 詞・曲:矢野顕子 編:マライア・プロジェクト
2.「ピグマリオンの誤算」 詞:村田有美 曲・編:清水靖晃・笹路正徳
3.「心の底辺」 詞:村田有美 曲・編:清水靖晃
4.「メディアの呪文」 詞:村田有美 曲:清水靖晃 編:マライア・プロジェクト
5.「わたしのバス」 詞・曲:矢野顕子 編:マライア・プロジェクト
6.「恋のブランケット」
詞:MILKY WAY 曲:笹路正徳・村川・J・聡 編:笹路正徳・清水靖晃
7.「夢見る卑弥呼」 詞:村川・J・聡 曲・編:笹路正徳
8.「みんな嘘 」 詞:村川・J・聡 曲・編:清水靖晃・渡辺モリオ・笹路正徳
9.「落椿」 詞:村川・J・聡 曲・編:渡辺モリオ・清水靖晃
<support musician>
村川・J・聡:vocal・chorus
土方隆行:guitar
渡辺モリオ:bass・drums
山木秀夫:drums・percussion
笹路正徳:keyboards
清水靖晃:tenor sax・soprano sax・keyboards
produced by 清水靖晃
sound produced by MARIAH
engineered by 小野誠彦
● 圧倒的な歌唱力と表現力で聴き手を迷宮に誘い込む!マライアのアヴァンギャルド性が全開の中自由奔放なヴォーカルが輝く異色作
1979年にシングル「Mr.ロマンス」でデビューした村田有美はニューミュージック的な色合いの濃い1stアルバム「Yumi Murata 1st」リリース後ほどなくしてレコード会社を移籍、そこで清水靖晃を中心とした当時気鋭のテクニカル系若手音楽制作集団マライア・プロジェクトと出会います。1980年に彼女は2ndアルバム「クリシュナ」を清水靖晃プロデュースにてリリースし、洗練されたサウンドと共に強力なボーカルのパワーが認められ、松岡直也や清水信之が参加したスーパーグループMASHのメインボーカリストとしても抜擢されるなど、当時は吉田美奈子と双璧と呼ばれるほどのボーカルクイーンとして君臨することになります。それらの活動とは並行しつつ当然マライア・プロジェクトとの関係は続いており、81年には再び清水靖晃をプロデューサーに迎えた本作を完成させることになります。しかし当時はマライア・プロジェクトも急激に先鋭化し始めた頃であるため、「クリシュナ」制作の時期とはサウンドスタイルも異なり、大胆にニューウェーブのストレンジな部分が表面化したような実験色の強い楽曲も多く収録された異色作に仕上がり、その不思議度かつ変態度は後世に語り継がれています。
まずはのっけから矢野顕子作詞作曲の「きげんなおして、もう」でのサウンドギミックやカラフルな演奏、そして演劇風味の表情豊かなボーカルで度肝を抜かれますが、本作の恐ろしさはこれからです。サビに移り変わる時点で恐怖のどん底に突き落とされる「ピグマリオンの誤算」、おどろおどろしいホラーボイスの嵐が強烈な情念系ファンキーポップ「メディアの呪文」、「恋のブランケット」と同じ歌手とは思えない堂に入ったプログレロックボーカル炸裂の「夢見る卑弥呼」、インダストリアル風味のエレクトロ「みんな嘘 」「落椿 」など、一筋縄ではいかない80年代初頭特有のニューウェーブ精神溢れる変態ソングが目白押しです。当時音楽事務所としては黎明期のビーイングに所属していたマライアの面々でしたが、そこで手掛けた亜蘭知子や秋本奈緒美といった新進シンガーを餌に革新的なサウンドで遊びまくっていた彼らなので、気心の知れた村田有美であればなおさらやりたい放題・・・というわけで、本作はこのストレンジサウンドが通常運転の清水靖晃に加えて、笹路正徳のシンセ&キーボードプレイも光ります。また土方隆行もフュージョン色を後退させたギタープレイを披露、渡辺モリオと山木秀夫のリズム隊は多彩なタイプの楽曲においてそのテクニカルなプレイを見せつけるなど、各プレイヤーがそれぞれ本作の実験精神溢れる楽曲を楽しんで制作し演奏している光景が目に浮かぶようです。そしてそれらの変態サウンドをまとめ上げるのが小野誠彦で、エレクトロとテクニカルプレイ、そしてエフェクトギミックの絶妙なバランスの構築には彼のミキシングが大きく貢献していることには間違いありません。
余りに突飛過ぎる作品のため未だ本作の持つポテンシャルほどには再評価されていないのが実情ですが、本作において実力抜群の村田有美の歌唱力をこのようなサウンドアプローチで料理するマライア・プロジェクトの先進性は、彼らのオリジナルアルバム以上に評価されるべきものでしょう。
<Favorite Songs>
・「ピグマリオンの誤算」
レゲエリズムの変拍子ニューウェーブと思いきや、サビに向かいながらバンジージャンプをかます変態ボーカルで堪能できるストレンジポップ。そしてサビではザップ音も麗しくテクノポップに変化しコミカルボイスで人を食う始末です。
・「メディアの呪文」
電子パーカッションと乾いたギターが完璧なニューウェーブ色のファンキーチューン。で終わればよかったのですが、オペラチックな歌唱からのボイス変調からの、リングモジュレーターで加工したかのような恐ろしい呪文が唱えられる間奏が強烈過ぎます。
・「みんな嘘 」
スタートから只者ではない音色とリズムトラックで始まる実験的インダストリアルポップ。ラップをも取り入れる先進性もさることながら、ボイスエフェクトの遊び心の思い切りの良さが実に恐ろしいです。S.E.のギミックもやりたい放題でそのしつこさには抗えなく脱帽です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (若さと時代が成せる素晴らしき実験精神)
・メロディ ★★ (矢野顕子曲が普通に聴こえるほど前衛寄り)
・リズム ★★★ (自由に動き回るベースに技巧的なドラムプレイ)
・曲構成 ★★★ (多彩な表情を見せる阿修羅面の如しサウンド)
・個性 ★★★ (歌手としての実力以上にパフォーマーとして秀逸)
総合評点: 8点
村田有美:vocal・chorus

1.「きげんなおして、もう」 詞・曲:矢野顕子 編:マライア・プロジェクト
2.「ピグマリオンの誤算」 詞:村田有美 曲・編:清水靖晃・笹路正徳
3.「心の底辺」 詞:村田有美 曲・編:清水靖晃
4.「メディアの呪文」 詞:村田有美 曲:清水靖晃 編:マライア・プロジェクト
5.「わたしのバス」 詞・曲:矢野顕子 編:マライア・プロジェクト
6.「恋のブランケット
詞:MILKY WAY 曲:笹路正徳・村川・J・聡 編:笹路正徳・清水靖晃
7.「夢見る卑弥呼」 詞:村川・J・聡 曲・編:笹路正徳
8.「みんな嘘 」 詞:村川・J・聡 曲・編:清水靖晃・渡辺モリオ・笹路正徳
9.「落椿
<support musician>
村川・J・聡:vocal・chorus
土方隆行:guitar
渡辺モリオ:bass・drums
山木秀夫:drums・percussion
笹路正徳:keyboards
清水靖晃:tenor sax・soprano sax・keyboards
produced by 清水靖晃
sound produced by MARIAH
engineered by 小野誠彦
● 圧倒的な歌唱力と表現力で聴き手を迷宮に誘い込む!マライアのアヴァンギャルド性が全開の中自由奔放なヴォーカルが輝く異色作
1979年にシングル「Mr.ロマンス」でデビューした村田有美はニューミュージック的な色合いの濃い1stアルバム「Yumi Murata 1st」リリース後ほどなくしてレコード会社を移籍、そこで清水靖晃を中心とした当時気鋭のテクニカル系若手音楽制作集団マライア・プロジェクトと出会います。1980年に彼女は2ndアルバム「クリシュナ」を清水靖晃プロデュースにてリリースし、洗練されたサウンドと共に強力なボーカルのパワーが認められ、松岡直也や清水信之が参加したスーパーグループMASHのメインボーカリストとしても抜擢されるなど、当時は吉田美奈子と双璧と呼ばれるほどのボーカルクイーンとして君臨することになります。それらの活動とは並行しつつ当然マライア・プロジェクトとの関係は続いており、81年には再び清水靖晃をプロデューサーに迎えた本作を完成させることになります。しかし当時はマライア・プロジェクトも急激に先鋭化し始めた頃であるため、「クリシュナ」制作の時期とはサウンドスタイルも異なり、大胆にニューウェーブのストレンジな部分が表面化したような実験色の強い楽曲も多く収録された異色作に仕上がり、その不思議度かつ変態度は後世に語り継がれています。
まずはのっけから矢野顕子作詞作曲の「きげんなおして、もう」でのサウンドギミックやカラフルな演奏、そして演劇風味の表情豊かなボーカルで度肝を抜かれますが、本作の恐ろしさはこれからです。サビに移り変わる時点で恐怖のどん底に突き落とされる「ピグマリオンの誤算」、おどろおどろしいホラーボイスの嵐が強烈な情念系ファンキーポップ「メディアの呪文」、「恋のブランケット」と同じ歌手とは思えない堂に入ったプログレロックボーカル炸裂の「夢見る卑弥呼」、インダストリアル風味のエレクトロ「みんな嘘 」「落椿 」など、一筋縄ではいかない80年代初頭特有のニューウェーブ精神溢れる変態ソングが目白押しです。当時音楽事務所としては黎明期のビーイングに所属していたマライアの面々でしたが、そこで手掛けた亜蘭知子や秋本奈緒美といった新進シンガーを餌に革新的なサウンドで遊びまくっていた彼らなので、気心の知れた村田有美であればなおさらやりたい放題・・・というわけで、本作はこのストレンジサウンドが通常運転の清水靖晃に加えて、笹路正徳のシンセ&キーボードプレイも光ります。また土方隆行もフュージョン色を後退させたギタープレイを披露、渡辺モリオと山木秀夫のリズム隊は多彩なタイプの楽曲においてそのテクニカルなプレイを見せつけるなど、各プレイヤーがそれぞれ本作の実験精神溢れる楽曲を楽しんで制作し演奏している光景が目に浮かぶようです。そしてそれらの変態サウンドをまとめ上げるのが小野誠彦で、エレクトロとテクニカルプレイ、そしてエフェクトギミックの絶妙なバランスの構築には彼のミキシングが大きく貢献していることには間違いありません。
余りに突飛過ぎる作品のため未だ本作の持つポテンシャルほどには再評価されていないのが実情ですが、本作において実力抜群の村田有美の歌唱力をこのようなサウンドアプローチで料理するマライア・プロジェクトの先進性は、彼らのオリジナルアルバム以上に評価されるべきものでしょう。
<Favorite Songs>
・「ピグマリオンの誤算」
レゲエリズムの変拍子ニューウェーブと思いきや、サビに向かいながらバンジージャンプをかます変態ボーカルで堪能できるストレンジポップ。そしてサビではザップ音も麗しくテクノポップに変化しコミカルボイスで人を食う始末です。
・「メディアの呪文」
電子パーカッションと乾いたギターが完璧なニューウェーブ色のファンキーチューン。で終わればよかったのですが、オペラチックな歌唱からのボイス変調からの、リングモジュレーターで加工したかのような恐ろしい呪文が唱えられる間奏が強烈過ぎます。
・「みんな嘘 」
スタートから只者ではない音色とリズムトラックで始まる実験的インダストリアルポップ。ラップをも取り入れる先進性もさることながら、ボイスエフェクトの遊び心の思い切りの良さが実に恐ろしいです。S.E.のギミックもやりたい放題でそのしつこさには抗えなく脱帽です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (若さと時代が成せる素晴らしき実験精神)
・メロディ ★★ (矢野顕子曲が普通に聴こえるほど前衛寄り)
・リズム ★★★ (自由に動き回るベースに技巧的なドラムプレイ)
・曲構成 ★★★ (多彩な表情を見せる阿修羅面の如しサウンド)
・個性 ★★★ (歌手としての実力以上にパフォーマーとして秀逸)
総合評点: 8点
「Hello, future day」 Natsu Summer
「Hello, future day」 (2017 Pヴァイン)
Natsu Summer:vocal

1.「Hello, future day」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
2.「恋のタイミング」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
3.「TA・RI・NA・I」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
4.「メッセージ」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
5.「街あかり」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
6.「その眼差しポーカーフェイス」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
7.「風のリビエラ」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
8.「ふたりが隣にいること」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
<support musician>
クニモンド瀧口:all instruments
松木俊郎:electric bass
北山ゆう子:drums
シーナアキコ:acoustic piano
produced by クニモンド瀧口
engineered by 平野栄二
● 00年代以降のシティポップブームの仕掛け人が新たに手掛けるリゾートレゲエシンガーのイメージを払拭させた80’sオマージュ溢れる1stフルアルバム
00年代から古き良きシティポップの伝道師としてそのプロデュース能力を発揮してきたクニモンド瀧口が新たに手掛けたシンガーがNatsu Summer(ナツ・サマー)です。この人を食ったような名前のモデル風の美貌を備えた女性シンガーは、「シティポップ・レゲエの歌姫」と称されるようにメロディはアーバン、サウンドはレゲエに基軸を置いており、その名前の通りのタイトルのシングル「夏・NATSU・夏」を2016年にリリース、同年冬には2ndシングル「トロピカル・ウィンター」リリースと、リゾートミュージックに特化した楽曲で、期待の新人シンガーとして一部で注目を浴びることとなります。そして翌年夏、ついに待望の1stアルバムとして本作が発表されることになるわけです。
さて、これまでレゲエのリズムを基調とした楽曲をアイコンとしてきた彼女ですが、本作ではレゲエ率はかなり低く、どちらかといえばシティポップ寄り、しかも80'sに傾倒したメロディラインとサウンドメイクが光る楽曲が集められています。それは80'sのニューミュージックや歌謡曲からかき集められたようなパロディとも言えるフレージングやネーミングにも表れていますが、そもそもクニモンド瀧口は忠実に70's〜80's由来のシティポップをシミュレートするタイプとも言えますので、良くも悪くも煮え切らないメロディでアンニュイな空間を生み出しています。しかしながらサウンド面ではこだわりのコクの深いシンセベースや素晴らしい処理のアタック感の強いドラムをベースに、にじむようなシンセパッドやシンプルなシンセリードなどを多用するなどエレクトロども高く、そのあたりは80年代を間違いなく意識しているものの、くっきりとした音の輪郭処理は10年代の今を切り取ったかのような仕上がりです。そのため本作は80'sフォーマットを身にまとっていながらも現在において全く違和感のないポップソングとしてのクオリティを備えていることは間違いありません。しかしそれは前述のレゲエ率の低さが好循環をもたらしたためであると個人的には考えています。
<Favorite Songs>
・「TA・RI・NA・I」
真鍋ちえみ@「うんととおく」のパロディ&リスペクトなアレンジであからさまに80'sの世界観に引き込んでいくエレポップチューン。全体的に原曲どおりマイナーに展開するコードを間奏からの中盤をメジャーに転調する部分がこの楽曲のポイントです。
・「その眼差しポーカーフェイス」
これも80'sパロディなフレージング&ネーミングに乗ったエレポップですが、圧の強いシンセサウンドの質が高いです。スネアとクラップの同時鳴らしによるキレのあるリズム、特に程よい歪みを効かせたギターソロの響きが秀逸です。
・「風のリビエラ」
この楽曲も単純なフレーズながら深みを感じるベースラインと分離の良いリズムトラックがボトムを支えた爽快感すら感じるキャッチーなポップチューン。森某の演歌の名曲を彷彿とさせるタイトルですが、サウンドはピアノの響きが基調となりながらも、途中から挿入される2wayのアルペジオも大活躍のエレポップ仕様です。
<評点>
・サウンド ★★★ (エレクトロ度が増したトラックの安定感が抜群)
・メロディ ★★★ (クニモンド流にしてはフレーズに訴求力がある)
・リズム ★★★★ (音色のバリエーションおよび輪郭の作り方が秀逸)
・曲構成 ★★★ (シティポップらしからぬ飽きの来なさは音質の良さ)
・個性 ★★ (80'sパロディなエレポップに舵を切る思い切りが成功)
総合評点: 8点
Natsu Summer:vocal

1.「Hello, future day」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
2.「恋のタイミング」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
3.「TA・RI・NA・I」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
4.「メッセージ」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
5.「街あかり」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
6.「その眼差しポーカーフェイス」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
7.「風のリビエラ」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
8.「ふたりが隣にいること」 詞・曲・編:クニモンド瀧口
<support musician>
クニモンド瀧口:all instruments
松木俊郎:electric bass
北山ゆう子:drums
シーナアキコ:acoustic piano
produced by クニモンド瀧口
engineered by 平野栄二
● 00年代以降のシティポップブームの仕掛け人が新たに手掛けるリゾートレゲエシンガーのイメージを払拭させた80’sオマージュ溢れる1stフルアルバム
00年代から古き良きシティポップの伝道師としてそのプロデュース能力を発揮してきたクニモンド瀧口が新たに手掛けたシンガーがNatsu Summer(ナツ・サマー)です。この人を食ったような名前のモデル風の美貌を備えた女性シンガーは、「シティポップ・レゲエの歌姫」と称されるようにメロディはアーバン、サウンドはレゲエに基軸を置いており、その名前の通りのタイトルのシングル「夏・NATSU・夏」を2016年にリリース、同年冬には2ndシングル「トロピカル・ウィンター」リリースと、リゾートミュージックに特化した楽曲で、期待の新人シンガーとして一部で注目を浴びることとなります。そして翌年夏、ついに待望の1stアルバムとして本作が発表されることになるわけです。
さて、これまでレゲエのリズムを基調とした楽曲をアイコンとしてきた彼女ですが、本作ではレゲエ率はかなり低く、どちらかといえばシティポップ寄り、しかも80'sに傾倒したメロディラインとサウンドメイクが光る楽曲が集められています。それは80'sのニューミュージックや歌謡曲からかき集められたようなパロディとも言えるフレージングやネーミングにも表れていますが、そもそもクニモンド瀧口は忠実に70's〜80's由来のシティポップをシミュレートするタイプとも言えますので、良くも悪くも煮え切らないメロディでアンニュイな空間を生み出しています。しかしながらサウンド面ではこだわりのコクの深いシンセベースや素晴らしい処理のアタック感の強いドラムをベースに、にじむようなシンセパッドやシンプルなシンセリードなどを多用するなどエレクトロども高く、そのあたりは80年代を間違いなく意識しているものの、くっきりとした音の輪郭処理は10年代の今を切り取ったかのような仕上がりです。そのため本作は80'sフォーマットを身にまとっていながらも現在において全く違和感のないポップソングとしてのクオリティを備えていることは間違いありません。しかしそれは前述のレゲエ率の低さが好循環をもたらしたためであると個人的には考えています。
<Favorite Songs>
・「TA・RI・NA・I」
真鍋ちえみ@「うんととおく」のパロディ&リスペクトなアレンジであからさまに80'sの世界観に引き込んでいくエレポップチューン。全体的に原曲どおりマイナーに展開するコードを間奏からの中盤をメジャーに転調する部分がこの楽曲のポイントです。
・「その眼差しポーカーフェイス」
これも80'sパロディなフレージング&ネーミングに乗ったエレポップですが、圧の強いシンセサウンドの質が高いです。スネアとクラップの同時鳴らしによるキレのあるリズム、特に程よい歪みを効かせたギターソロの響きが秀逸です。
・「風のリビエラ」
この楽曲も単純なフレーズながら深みを感じるベースラインと分離の良いリズムトラックがボトムを支えた爽快感すら感じるキャッチーなポップチューン。森某の演歌の名曲を彷彿とさせるタイトルですが、サウンドはピアノの響きが基調となりながらも、途中から挿入される2wayのアルペジオも大活躍のエレポップ仕様です。
<評点>
・サウンド ★★★ (エレクトロ度が増したトラックの安定感が抜群)
・メロディ ★★★ (クニモンド流にしてはフレーズに訴求力がある)
・リズム ★★★★ (音色のバリエーションおよび輪郭の作り方が秀逸)
・曲構成 ★★★ (シティポップらしからぬ飽きの来なさは音質の良さ)
・個性 ★★ (80'sパロディなエレポップに舵を切る思い切りが成功)
総合評点: 8点
「Kiss Kiss」 松岡英明
「Kiss Kiss」 (1989 エピックソニー)
松岡英明:vocal・harmonies・3-D voice・Synclavier voices・piano

1.「PARADISE LOST」 曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
2.「TOP SECRET」 詞・曲・編:松岡英明
3.「I LOVE ROCK’N ROLL」
詞・曲:Jale Hooker・Alan Merrill 編:奈良部匠平・Christopher Currell
4.「RAINY TUESDAY」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平・Mike Pela
5.「CUTE GIRL」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
6.「CATCH」 詞・曲:松岡英明 編:奈良部匠平
7.「STUDY AFTER SCHOOL (IN THE HOUSE)」
詞:松岡英明 曲:松岡英明・奈良部匠平 編:奈良部匠平
8.「KISS KISS」 詞・曲・編:松岡英明
9.「YOUR LOVE IS MY SIN」 詞:松岡英明 曲・編:松岡英明・奈良部匠平
10.「TAKE ME TO THE VIOLENT STORM」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
11.「OBJECTS OF DESIRE」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・西平彰
12.「WINTER WHITE RAIN」 詞・曲:松岡英明 編:奈良部匠平
13.「STRAWBERRY KISS KISS」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
14.「PARADISE BELIEVER」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
<support musician>
Virginia Astley:vocal on choruses・backing vocals
Huge Burns:electric guitar・acoustic guitar
是永巧一:electric guitar・acoustic guitar
佐橋佳幸:electric guitar
鈴川真樹:electric guitar
土方隆行:electric guitar
Cary Potts:bass
Chris Lawrence:double bass
Ian Maidman:bass
西嶋正己:bass
渡辺モリオ:bass
Charlie Morgan:drums・sampled tambourine
青山純:drums
江口信夫:drums
松永俊弥:drums
矢壁アツノブ:drums
Danny Schogger:keyboards・computer programming・music box
Nick Glennie Smith:keyboards・computer programming
奈良部匠平:keyboards・Synclavier・piano・computer programming
西平彰:keyboards
Christopher Currell:Synclavier・Synclavier operating
Dennis G.:backing vocals
Ebo Ross:backing vocals
Karl Sebela:backing vocals
Michael Eger:backing vocals
Nigel Rush:backing vocals
Tim Walen:backing vocals
Zeitia Massiah:backing vocals
20 High School Students:backing vocals
Michael Krygier:Synclavier operating assistance
石川鉄男:computer programming
松井隆雄:computer programming
produced by 山口三平・奈良部匠平
co-produced by Mike Pela・Christopher Currell
engineered by 坂元達也
● シンクラヴィア導入で音を粒立たせると共にバラエティに富む楽曲で世界観を全開に繰り広げ持てる全精力を注ぎ込んだ力作
1986年の衝撃的なデビューアルバム「Visions Of Boys」から3rdアルバム「以心伝心」まで一貫して踊れるポストニューウェーブ路線を突っ走ってきたEPICソニーを代表するポップアイコン松岡英明。80年代後半の過剰なサウンドにまみれてスタイリッシュでキレのある楽曲を連発してきた松岡は、シングル「CATCH」「STUDY AFTER SCHOOL」と同路線を突き進んでいきますが、人気急上昇中であった松岡を売り出すためにEPICも1989年という平成の時代を迎えていよいよ勝負を仕掛けてきます。従来の東京でのレコーディングに加えてもともとUKロック&POPSに影響を受けてきた彼には嬉しいロンドンレコーディングを敢行、松岡も自身のルーツを辿りつつより一層UK寄りとなった楽曲で従来の路線を引き継ぎつつも新機軸を打ち出そうとします。こうして完成した4thアルバムは作りも作ったり14曲もの大作となり、自身の当時持ち合わせた全ての音楽性を注ぎ込んだ作品に仕上がりました。
さて、ロンドン&東京を股にかけて制作された本作のサウンドにおいて重大なポイントが、Fairlight CMIと並んで80年代のデジタルオーディオワークステーション(DAW)の先駆けであるSynclavier(シンクラヴィア)の導入です。同じくEPICのレーベルメイトである小室哲哉も同年リリースの自身の初ソロ作「Digitalian is eating breakfast」で導入したこのSynclavierは、その使用によっていかにもデジタルサウンドを使い倒したかのようなFM音源特有のギラギラしたエレクトリックサウンドに仕上げてしまうわけですが、本作も当然のことながら3rdアルバム以前と比較しても音像がガラリと変わっていることが認識できます。そのあたりは本作において松岡の片腕として機能していた奈良部匠平の功績も大きいわけですが、この豪華クレジット陣を見てもわかるように彼らを支えているのは国内外の手練れのプレイヤー達です。特に青山純・江口信夫・矢壁アツノブ等といった松岡サウンドとの相性が良いドラマーを取り揃えたことで、Synclavierの機械風味に人間味がプラスされていることが、本作のクオリティの向上につながっていると思われます。なお、本作ではいつものダンサブルなキレのあるエレクトロPOPSと対をなす形で、「RAINY TUESDAY」「KISS KISS」「WINTER WHITE RAIN」(なんとVirginia Astleyが参加)、そしてラストを飾る大団円の「PARADISE BELIEVER」等のUK風味たっぷりのミディアムチューン&バラードが重要なポイントで配置されています。これらこそが最大の新機軸であり、その素直な美しいメロディラインは勢いに任せ続けてきた直球な松岡ソングに変化球をもたらすことに成功しています。しかし結果的にその過剰で芳醇なUKバラードの甘さが、彼の音楽性にブレを生み出してしまったことも否めないと個人的には感じています。その新しいチャレンジ精神を評価する重要性からそれらのUKバラードばかりが本作を印象づけてしまっているきらいもありますが、本作の本質はよりパワフルにデジタリックにサウンドをデザインするために導入されたシンクラヴィアサウンドを楽しむためにあるのではないかと、2015年にリマスターされた本作を聴き直して改めて認識した次第です。
<Favorite Songs>
・「TOP SECRET」
粒立ちの良いシンセベースとアタック感の強いスネアで楽曲を引っ張る従来の松岡サウンドなオープニングチューン。「VIRGINS」にも通じる骨太の前サビの圧が強い印象を残すため、続くメロディラインはいつもの松岡節にとどまっていますが、スタートにこの楽曲を置くことによって聴き手に安心感を与える役割を果たしています。
・「I LOVE ROCK’N ROLL」
Joan Jett & The Blackheartsの大ヒット曲のリメイク。Synclavierで切り刻まれたジャストなリズムに乗ったデジタルロック(notデジロック)を展開しています。このような激しさと図太さを表現すること自体が松岡にとっての新機軸でもあったわけです。
・「STUDY AFTER SCHOOL (IN THE HOUSE)」
いかにもな松岡サウンドに寄っていた先行シングルのアルバムバージョン。リズムを完全にハウスバージョンに変更して裏打ちハイハットの軽いパタパタリズムで、ハウスミュージック流行前夜に新しい潮流をいち早く取り入れています。高速シーケンスで隙間を埋め尽くして細かい音を垂れ流していくダンサブルの象徴とも言える楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (Synclavier導入で明らかにキレとパワーが加わった)
・メロディ ★★ (UKを意識したシンプルな旋律が良くも悪くも影響)
・リズム ★★★ (ドラマー陣の安定とキレのあるプレイに支えられる)
・曲構成 ★ (CD時代としても14曲の大作としては物語性に欠ける)
・個性 ★★ (尖ったキャラクターを残しつつ大人の階段も昇る)
総合評点: 7点
SONYオーダーメイドファクトリーで最新リマスター盤を購入することができます。正直に言いますと良い意味で印象が全く異なりますのでそちらをお薦めします。
松岡英明:vocal・harmonies・3-D voice・Synclavier voices・piano

1.「PARADISE LOST」 曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
2.「TOP SECRET」 詞・曲・編:松岡英明
3.「I LOVE ROCK’N ROLL」
詞・曲:Jale Hooker・Alan Merrill 編:奈良部匠平・Christopher Currell
4.「RAINY TUESDAY」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平・Mike Pela
5.「CUTE GIRL」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
6.「CATCH」 詞・曲:松岡英明 編:奈良部匠平
7.「STUDY AFTER SCHOOL (IN THE HOUSE)」
詞:松岡英明 曲:松岡英明・奈良部匠平 編:奈良部匠平
8.「KISS KISS」 詞・曲・編:松岡英明
9.「YOUR LOVE IS MY SIN」 詞:松岡英明 曲・編:松岡英明・奈良部匠平
10.「TAKE ME TO THE VIOLENT STORM」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
11.「OBJECTS OF DESIRE」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・西平彰
12.「WINTER WHITE RAIN」 詞・曲:松岡英明 編:奈良部匠平
13.「STRAWBERRY KISS KISS」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
14.「PARADISE BELIEVER」 詞・曲:松岡英明 編:松岡英明・奈良部匠平
<support musician>
Virginia Astley:vocal on choruses・backing vocals
Huge Burns:electric guitar・acoustic guitar
是永巧一:electric guitar・acoustic guitar
佐橋佳幸:electric guitar
鈴川真樹:electric guitar
土方隆行:electric guitar
Cary Potts:bass
Chris Lawrence:double bass
Ian Maidman:bass
西嶋正己:bass
渡辺モリオ:bass
Charlie Morgan:drums・sampled tambourine
青山純:drums
江口信夫:drums
松永俊弥:drums
矢壁アツノブ:drums
Danny Schogger:keyboards・computer programming・music box
Nick Glennie Smith:keyboards・computer programming
奈良部匠平:keyboards・Synclavier・piano・computer programming
西平彰:keyboards
Christopher Currell:Synclavier・Synclavier operating
Dennis G.:backing vocals
Ebo Ross:backing vocals
Karl Sebela:backing vocals
Michael Eger:backing vocals
Nigel Rush:backing vocals
Tim Walen:backing vocals
Zeitia Massiah:backing vocals
20 High School Students:backing vocals
Michael Krygier:Synclavier operating assistance
石川鉄男:computer programming
松井隆雄:computer programming
produced by 山口三平・奈良部匠平
co-produced by Mike Pela・Christopher Currell
engineered by 坂元達也
● シンクラヴィア導入で音を粒立たせると共にバラエティに富む楽曲で世界観を全開に繰り広げ持てる全精力を注ぎ込んだ力作
1986年の衝撃的なデビューアルバム「Visions Of Boys」から3rdアルバム「以心伝心」まで一貫して踊れるポストニューウェーブ路線を突っ走ってきたEPICソニーを代表するポップアイコン松岡英明。80年代後半の過剰なサウンドにまみれてスタイリッシュでキレのある楽曲を連発してきた松岡は、シングル「CATCH」「STUDY AFTER SCHOOL」と同路線を突き進んでいきますが、人気急上昇中であった松岡を売り出すためにEPICも1989年という平成の時代を迎えていよいよ勝負を仕掛けてきます。従来の東京でのレコーディングに加えてもともとUKロック&POPSに影響を受けてきた彼には嬉しいロンドンレコーディングを敢行、松岡も自身のルーツを辿りつつより一層UK寄りとなった楽曲で従来の路線を引き継ぎつつも新機軸を打ち出そうとします。こうして完成した4thアルバムは作りも作ったり14曲もの大作となり、自身の当時持ち合わせた全ての音楽性を注ぎ込んだ作品に仕上がりました。
さて、ロンドン&東京を股にかけて制作された本作のサウンドにおいて重大なポイントが、Fairlight CMIと並んで80年代のデジタルオーディオワークステーション(DAW)の先駆けであるSynclavier(シンクラヴィア)の導入です。同じくEPICのレーベルメイトである小室哲哉も同年リリースの自身の初ソロ作「Digitalian is eating breakfast」で導入したこのSynclavierは、その使用によっていかにもデジタルサウンドを使い倒したかのようなFM音源特有のギラギラしたエレクトリックサウンドに仕上げてしまうわけですが、本作も当然のことながら3rdアルバム以前と比較しても音像がガラリと変わっていることが認識できます。そのあたりは本作において松岡の片腕として機能していた奈良部匠平の功績も大きいわけですが、この豪華クレジット陣を見てもわかるように彼らを支えているのは国内外の手練れのプレイヤー達です。特に青山純・江口信夫・矢壁アツノブ等といった松岡サウンドとの相性が良いドラマーを取り揃えたことで、Synclavierの機械風味に人間味がプラスされていることが、本作のクオリティの向上につながっていると思われます。なお、本作ではいつものダンサブルなキレのあるエレクトロPOPSと対をなす形で、「RAINY TUESDAY」「KISS KISS」「WINTER WHITE RAIN」(なんとVirginia Astleyが参加)、そしてラストを飾る大団円の「PARADISE BELIEVER」等のUK風味たっぷりのミディアムチューン&バラードが重要なポイントで配置されています。これらこそが最大の新機軸であり、その素直な美しいメロディラインは勢いに任せ続けてきた直球な松岡ソングに変化球をもたらすことに成功しています。しかし結果的にその過剰で芳醇なUKバラードの甘さが、彼の音楽性にブレを生み出してしまったことも否めないと個人的には感じています。その新しいチャレンジ精神を評価する重要性からそれらのUKバラードばかりが本作を印象づけてしまっているきらいもありますが、本作の本質はよりパワフルにデジタリックにサウンドをデザインするために導入されたシンクラヴィアサウンドを楽しむためにあるのではないかと、2015年にリマスターされた本作を聴き直して改めて認識した次第です。
<Favorite Songs>
・「TOP SECRET」
粒立ちの良いシンセベースとアタック感の強いスネアで楽曲を引っ張る従来の松岡サウンドなオープニングチューン。「VIRGINS」にも通じる骨太の前サビの圧が強い印象を残すため、続くメロディラインはいつもの松岡節にとどまっていますが、スタートにこの楽曲を置くことによって聴き手に安心感を与える役割を果たしています。
・「I LOVE ROCK’N ROLL」
Joan Jett & The Blackheartsの大ヒット曲のリメイク。Synclavierで切り刻まれたジャストなリズムに乗ったデジタルロック(notデジロック)を展開しています。このような激しさと図太さを表現すること自体が松岡にとっての新機軸でもあったわけです。
・「STUDY AFTER SCHOOL (IN THE HOUSE)」
いかにもな松岡サウンドに寄っていた先行シングルのアルバムバージョン。リズムを完全にハウスバージョンに変更して裏打ちハイハットの軽いパタパタリズムで、ハウスミュージック流行前夜に新しい潮流をいち早く取り入れています。高速シーケンスで隙間を埋め尽くして細かい音を垂れ流していくダンサブルの象徴とも言える楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (Synclavier導入で明らかにキレとパワーが加わった)
・メロディ ★★ (UKを意識したシンプルな旋律が良くも悪くも影響)
・リズム ★★★ (ドラマー陣の安定とキレのあるプレイに支えられる)
・曲構成 ★ (CD時代としても14曲の大作としては物語性に欠ける)
・個性 ★★ (尖ったキャラクターを残しつつ大人の階段も昇る)
総合評点: 7点
SONYオーダーメイドファクトリーで最新リマスター盤を購入することができます。正直に言いますと良い意味で印象が全く異なりますのでそちらをお薦めします。
「不眠症候群」 河合夕子
「不眠症候群」(1983 エピックソニー)
河合夕子:vocals

1.「摩天楼サーカス」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
2.「舞踏会の絵(デカダンスは私と・・・)」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
3.「千年カスバ」 詞 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
4.「ペルシャン・ルージュ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
5.「不眠症候群」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
6.「ペパーミント・デイズ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
7.「スノー・ビーチ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
8.「赤色エアロビクス」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
9.「避暑地の雨」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
10.「去年の夏、エーゲで」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
<support musician>
町支寛二:chorus arrangement
produced by 鈴木幹治・目黒育郎
engineered by 助川健
● ニューミュージックを地で行く個性派シンガーソングライターの異国情緒溢れるニューウェーブ歌謡に転じた意欲的な3rdアルバム
ホリプロスカウトキャラバン出身のシンガーソングライターとして1981年にシングル「東京チークガール」でデビューした河合夕子は、独特のカーリーヘア&丸メガネという出で立ち(実は美人)によるインパクトもあってバラエティ番組にも出演するなど80年代初頭の華やかなニューミュージック系ガールポップの波に乗って、以後数年間音源をリリースし続けることになります。翌年には1st「リトル・トウキョウ」、2nd「フジヤマパラダイス」と2枚のアルバムを立て続けにリリース、共同作詞家には本プロジェクトがデビューとなる売野雅勇、編曲家には水谷公生を迎えた万全な体制による、カラッとした明るさをオリエンタル風味で味付けした楽曲を中心に着実にその名を知らしめていきます。しかし結局スマッシュヒットを飛ばすまでにはいかず迎えた83年、彼女は勝負の3rdアルバムのリリースに至ります。それがシングル「摩天楼サーカス」「赤色エアロビクス」を収録した本作です。
河合夕子本人がジャケに登場しないこの3rdアルバムは、代わりに架空の近未来キーボードが描かれているように基調となっているサウンドは完全にエレクトロポップです。メロディやボーカル&コーラスワークが完全に70年代を引きずった歌謡曲仕様なためバタ臭さも残りますが、2nd以前の彼女の楽曲群と比較してもその変化が明らかで、それはカラフルで中心になって楽曲を彩っていくシンセサウンドのみならず、ギラギラしたギターのカッティングや、いち早くゲートリバーブやSIMMONSエレクトリックドラムが活躍するリズムのサウンド処理にも現れています。特に1曲目「摩天楼サーカスからタイトルチューン「不眠症候群」(長いアウトロでボコーダーも登場!)までのA面5曲は、まさに隠れたテクノ歌謡の満漢全席と言っても過言ではありません。かたやレコードでいうところのB面に裏返した6曲目「ペパーミント・デイズ」からは、一転して美メロをフィーチャーしたリゾート感覚なシティポップへとシフトして本来のシンガーソングライターとしての実力を見せつけていますが、全体的なサウンド面のパワーアップが楽曲を支えているため本来の楽曲の魅力をこれまで以上に伝え切っていると思われます。
前半の大胆なエレクトリックへのチャレンジを最後まで貫くことができずに後半でこれまでの作風に揺り戻してバランスをとった格好となってしまったことから、あと一歩の惜しい作品になったことは否めませんが、1983年はそのような過渡期的な作品が多く生まれた年でもあり、河合夕子の本作もそのような時代的な空気を感じさせる好作品と考えるべきでしょう。その後河合はソロシンガーからは撤退し、コーラスシンガーを中心としたセッションミュージシャンへと転向していきますが、現在でも音楽界でしっかりと地につけた活動を行っていることからも、彼女の音楽的才能は確かなものであったと言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「摩天楼サーカス」
シタールのフレーズが異国情緒を漂わせるオリエンタルエレポップ。典型的な歌謡メロディながらもパワフルなドラムが主張する83年式エレクトロサウンドでチャレンジ精神を窺わせます。メランコリックな冒頭とラストのフレーズが工夫された構成として秀逸です。
・「舞踏会の絵(デカダンスは私と・・・)」
リズムボックスからのギターフレーズのキレの良さが光るスカ調リズムのポップチューン。シンセ音の輪郭やボーカルの力強さもさることながら、ドンダンリズムのサウンド処理が素晴らしいです。麗しいシンセソロを含む間奏へと雪崩れ込んでいくテクニカルな導入もテンションの高さが光ります。
・「千年カスバ」
シンセを中心とした一筋縄ではいかないイントロが素晴らしいラテンポップ歌謡ナンバー。ブラスセクションも入ったゴージャスな演奏にコクのある目立ちたがり屋なベースプレイが秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (全体的な音処理にパワフルかつキレが感じられる)
・メロディ ★★ (味付けの濃さが残る歌謡メロディは聴き手を選ぶ)
・リズム ★★★ (加工されたスネアドラムのパワーだけでも○)
・曲構成 ★ (前半のチャレンジを後半も続けて欲しかった)
・個性 ★ (メロディ派の自分を捨て切れない難しさを感じる)
総合評点: 7点
河合夕子:vocals

1.「摩天楼サーカス」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
2.「舞踏会の絵(デカダンスは私と・・・)」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
3.「千年カスバ」 詞 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
4.「ペルシャン・ルージュ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
5.「不眠症候群」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
6.「ペパーミント・デイズ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
7.「スノー・ビーチ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
8.「赤色エアロビクス」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
9.「避暑地の雨」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
10.「去年の夏、エーゲで」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
<support musician>
町支寛二:chorus arrangement
produced by 鈴木幹治・目黒育郎
engineered by 助川健
● ニューミュージックを地で行く個性派シンガーソングライターの異国情緒溢れるニューウェーブ歌謡に転じた意欲的な3rdアルバム
ホリプロスカウトキャラバン出身のシンガーソングライターとして1981年にシングル「東京チークガール」でデビューした河合夕子は、独特のカーリーヘア&丸メガネという出で立ち(実は美人)によるインパクトもあってバラエティ番組にも出演するなど80年代初頭の華やかなニューミュージック系ガールポップの波に乗って、以後数年間音源をリリースし続けることになります。翌年には1st「リトル・トウキョウ」、2nd「フジヤマパラダイス」と2枚のアルバムを立て続けにリリース、共同作詞家には本プロジェクトがデビューとなる売野雅勇、編曲家には水谷公生を迎えた万全な体制による、カラッとした明るさをオリエンタル風味で味付けした楽曲を中心に着実にその名を知らしめていきます。しかし結局スマッシュヒットを飛ばすまでにはいかず迎えた83年、彼女は勝負の3rdアルバムのリリースに至ります。それがシングル「摩天楼サーカス」「赤色エアロビクス」を収録した本作です。
河合夕子本人がジャケに登場しないこの3rdアルバムは、代わりに架空の近未来キーボードが描かれているように基調となっているサウンドは完全にエレクトロポップです。メロディやボーカル&コーラスワークが完全に70年代を引きずった歌謡曲仕様なためバタ臭さも残りますが、2nd以前の彼女の楽曲群と比較してもその変化が明らかで、それはカラフルで中心になって楽曲を彩っていくシンセサウンドのみならず、ギラギラしたギターのカッティングや、いち早くゲートリバーブやSIMMONSエレクトリックドラムが活躍するリズムのサウンド処理にも現れています。特に1曲目「摩天楼サーカスからタイトルチューン「不眠症候群」(長いアウトロでボコーダーも登場!)までのA面5曲は、まさに隠れたテクノ歌謡の満漢全席と言っても過言ではありません。かたやレコードでいうところのB面に裏返した6曲目「ペパーミント・デイズ」からは、一転して美メロをフィーチャーしたリゾート感覚なシティポップへとシフトして本来のシンガーソングライターとしての実力を見せつけていますが、全体的なサウンド面のパワーアップが楽曲を支えているため本来の楽曲の魅力をこれまで以上に伝え切っていると思われます。
前半の大胆なエレクトリックへのチャレンジを最後まで貫くことができずに後半でこれまでの作風に揺り戻してバランスをとった格好となってしまったことから、あと一歩の惜しい作品になったことは否めませんが、1983年はそのような過渡期的な作品が多く生まれた年でもあり、河合夕子の本作もそのような時代的な空気を感じさせる好作品と考えるべきでしょう。その後河合はソロシンガーからは撤退し、コーラスシンガーを中心としたセッションミュージシャンへと転向していきますが、現在でも音楽界でしっかりと地につけた活動を行っていることからも、彼女の音楽的才能は確かなものであったと言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「摩天楼サーカス」
シタールのフレーズが異国情緒を漂わせるオリエンタルエレポップ。典型的な歌謡メロディながらもパワフルなドラムが主張する83年式エレクトロサウンドでチャレンジ精神を窺わせます。メランコリックな冒頭とラストのフレーズが工夫された構成として秀逸です。
・「舞踏会の絵(デカダンスは私と・・・)」
リズムボックスからのギターフレーズのキレの良さが光るスカ調リズムのポップチューン。シンセ音の輪郭やボーカルの力強さもさることながら、ドンダンリズムのサウンド処理が素晴らしいです。麗しいシンセソロを含む間奏へと雪崩れ込んでいくテクニカルな導入もテンションの高さが光ります。
・「千年カスバ」
シンセを中心とした一筋縄ではいかないイントロが素晴らしいラテンポップ歌謡ナンバー。ブラスセクションも入ったゴージャスな演奏にコクのある目立ちたがり屋なベースプレイが秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (全体的な音処理にパワフルかつキレが感じられる)
・メロディ ★★ (味付けの濃さが残る歌謡メロディは聴き手を選ぶ)
・リズム ★★★ (加工されたスネアドラムのパワーだけでも○)
・曲構成 ★ (前半のチャレンジを後半も続けて欲しかった)
・個性 ★ (メロディ派の自分を捨て切れない難しさを感じる)
総合評点: 7点
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