「Melody Palette」 Negicco
「Melody Palette」(2013 T-Pallete)
Negicco

<members>
Nao☆:vocal・hand clap
Megu:vocal・hand clap
Kaede:vocal・hand clap
1.「愛のタワー・オブ・ラヴ」 詞・曲・編:西寺郷太
2.「あなたと Pop With You!」 詞・曲・編:connie
3.「アイドルばかり聴かないで」 詞・曲・編:小西康陽
4.「イミシン☆かもだけど」 詞・曲・編:長谷泰宏
5.「相思相愛」 詞・曲・編:tofubeats
6.「恋のEXPRESS TRAIN」 詞・曲・編:connie
7.「GET IT ON!」 詞・曲・編:connie
8.「ナターシア」 詞:サイプレス上野・connie 曲・編:サイプレス上野とロベルト吉野・connie
9.「ルートセヴンの記憶」 詞・曲・編:connie
10.「ネガティヴ・ガールズ!」 詞:Negicco・connie 曲:connie 編:吉田哲人
11.「Negiccoから君へ」 詞・曲・編:RAM RIDER
12.「スウィート・ソウル・ネギィー (grooveman’s Jack Bounce Mix)」
詞・曲・編:connie remix:grooveman spot
13.「ニュー・トリノ・ラヴ (banvox remix)」 詞・曲・編:connie remix:banvox
<support musician>
Zandhi:electric guitars
アレッシー:electric guitars
奥田健介:electric guitars・electric piano
藤枝暁:electric guitars
connie:keyboards・computer programming・hand clap・background vocals
西寺郷太:keyboards・computer programming・background vocals
長谷泰宏:keyboards・computer programming・background vocals・strings arrangement
吉田哲人:keyboards・computer programming・hand clap・background vocals
織田祐亮:trumpet
須賀裕之:trombone
本宮宏美:flute
CHIKA STRINGS:strings
仁科かおり:background vocals
サイプレス上野:rap
ロベルト吉野:scratch
sakajun:Niigata gag
tofubeats:computer programming
RAM RIDER:computer programming
新井俊也:computer programming
produced by connie・西寺郷太・小西康陽・長谷泰宏・tofubeats・サイプレス上野とロベルト吉野・RAM RIDER
mixing engineered by 兼重哲哉・connie・廣瀬修・吉田哲人・tofubeats・RAM RIDER
recording engineered by 兼重哲哉・井上一郎・廣瀬修・塚田耕司・murataDR・RAM RIDER
● 10年の雌伏の時を越えて遂に羽ばたいた地方発アイドルユニットを当代のポップクリエイター達がバックアップした高品質アイドルPOPS作品
新潟県のご当地アイドルとして2003年から地道に活動を続けてきたNegiccoが、プロデューサーのconnieが手掛ける良質なポップソングと安定したパフォーマンスが認められてタワーレコード傘下の新設レーベルであるT-Paletteレコードに参加したのが2011年。ここから全国展開を始めていくわけですが、2012年リリースの「恋のEXPRESS TRAIN」「あなたと Pop With You!」といったシングル曲は、アイドルマニアからはそのクオリティの高さから評価を受けていたもののブレイクへの扉を開くまでにはもう一歩何かが足りない状態が続いていました。そこでこの状態を打開すべく、翌年connieがプロデュースを打診したのがNONA REEVESの西寺郷太です。彼の80'sフレーバー溢れるメロディ構築力と渾身のベースプログラミングによるシングル「愛のタワー・オブ・ラヴ」は、彼女達が被っていた才能とセンスの殻を破るのに十分なインパクトを与える完成度で、まさにブレイクへの扉が開かれた瞬間となりました。そして次のシングルには大御所・小西康陽を起用した「アイドルばかり聴かないで」をリリース、勢いに乗った彼女達を待っていた初のオリジナルアルバムが本作というわけです。
まずは何はなくとも「愛のタワー・オブ・ラヴ」です。シンセベースプログラミングの楽しさを十分にアピールしたこの勝負曲は、確かなクオリティを獲得しながらもアイドルソングとしての矜持を忘れないポップ性をも兼ね備えている名曲で、この楽曲で完全にNegiccoのアイドル人生は上昇気流を掴み、スターダムへの軌道に乗ったと言えるでしょう。この名曲から始まる本作では、小西康陽、長谷泰宏、tofubeats、サイプレス上野とロベルト吉野、吉田哲人(ex.Fantastic Plastic Machine)、RAM RIDERといった新旧の実力派クリエイターをゲストに迎えつつ、remixの2曲は一十三十一仕事でキレのあるサウンドを手掛けるgrooveman spotや、エレクトロミュージック界の驚異の新鋭banvoxを迎えるなど、その人選にその期待のほどが窺えますが、それもこれもconnieが作り上げた爽やかさを前面に押し出したアイドルソングマナーをしっかり意識した楽曲とサウンドメイクが評価されてこその引力であり、そのあたりが当時の他の地方発アイドル達とは一線を画していた部分であると思われます。特に特筆すべきは透き通るようなベル系シンセフレーズの多用で、これが四つ打ちリズムであっても重々しくならず楽曲に繊細さを持ち込みつつ鮮度を失わない役割を果たしていると思います。ゲスト陣もそれぞれサウンドメイクの特徴を生かしながら質の高いアレンジに仕上げてはいますが、根元にあるのはconnieスピリッツであることには変わりありません。特にNegiccoに関してはその部分を強く感じさせるわけです。
メジャー進出によってさらに優秀なブレーンを持つスタッフに恵まれたNegiccoプロジェクトですが、急成長を遂げた本作リリース後の2013年秋には再び西寺郷太プロデュースの必殺キラーチューン「ときめきのヘッドライナー」でその人気はかつてのPerfumeを彷彿とさせる成長曲線を描いてブレイクスルーへと進んでいくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「愛のタワー・オブ・ラヴ」
フワーッとしたシンセパッドからなだれ込んでくる縦横無尽なシンセベースの嵐に度肝を抜かれるその後のNegiccoの歴史を変えた名曲。シンセストリングスやゲートリバーブの効いたパワフルスネアも流石は80'sマスター西寺郷太の大仕事です。そしてこのオシャレな展開の楽曲でもライブを意識した合いの手を入れてくるサービスも忘れない隙のなさも魅力です。
・「あなたと Pop With You!」
苦楽を共にしてきたconnieプロデュースのメジャー2ndシングル。キラキラなシンセが施された90年代的エレガントサウンドを意識したポップチューン。青春ど真ん中な甘酸っぱいサビのメロディラインだけでもその質の高さを体感することができます。
・「イミシン☆かもだけど」
ポスト渋谷系な乙女ティックなガールポップにおけるストリングスマスターとして多方面で活躍する長谷泰宏(ユメトコスメ)が手がけたゴージャスポップソング。彼特有の複雑なメロディと凝り過ぎなほどの緻密なストリングスアレンジメントは笑ってしまうくらいです。これでもかのハープの多用やしつこ過ぎる転調など聴きどころも満載です。
<評点>
・サウンド ★★ (ゲストによるアプローチの違いを楽しめる)
・メロディ ★★ (いわゆる良い旋律は散見されるが引っかかりも少ない)
・リズム ★★★ (西寺曲の圧倒的なリズム構築のセンスが際立つ)
・曲構成 ★★ (ゲストサイドとconnieサイドのバランスは難しい)
・個性 ★★ (良質な楽曲を歌う地方アイドルから抜け出す前夜)
総合評点: 7点
Negicco

<members>
Nao☆:vocal・hand clap
Megu:vocal・hand clap
Kaede:vocal・hand clap
1.「愛のタワー・オブ・ラヴ」 詞・曲・編:西寺郷太
2.「あなたと Pop With You!」 詞・曲・編:connie
3.「アイドルばかり聴かないで」 詞・曲・編:小西康陽
4.「イミシン☆かもだけど」 詞・曲・編:長谷泰宏
5.「相思相愛」 詞・曲・編:tofubeats
6.「恋のEXPRESS TRAIN」 詞・曲・編:connie
7.「GET IT ON!」 詞・曲・編:connie
8.「ナターシア」 詞:サイプレス上野・connie 曲・編:サイプレス上野とロベルト吉野・connie
9.「ルートセヴンの記憶」 詞・曲・編:connie
10.「ネガティヴ・ガールズ!」 詞:Negicco・connie 曲:connie 編:吉田哲人
11.「Negiccoから君へ」 詞・曲・編:RAM RIDER
12.「スウィート・ソウル・ネギィー (grooveman’s Jack Bounce Mix)」
詞・曲・編:connie remix:grooveman spot
13.「ニュー・トリノ・ラヴ (banvox remix)」 詞・曲・編:connie remix:banvox
<support musician>
Zandhi:electric guitars
アレッシー:electric guitars
奥田健介:electric guitars・electric piano
藤枝暁:electric guitars
connie:keyboards・computer programming・hand clap・background vocals
西寺郷太:keyboards・computer programming・background vocals
長谷泰宏:keyboards・computer programming・background vocals・strings arrangement
吉田哲人:keyboards・computer programming・hand clap・background vocals
織田祐亮:trumpet
須賀裕之:trombone
本宮宏美:flute
CHIKA STRINGS:strings
仁科かおり:background vocals
サイプレス上野:rap
ロベルト吉野:scratch
sakajun:Niigata gag
tofubeats:computer programming
RAM RIDER:computer programming
新井俊也:computer programming
produced by connie・西寺郷太・小西康陽・長谷泰宏・tofubeats・サイプレス上野とロベルト吉野・RAM RIDER
mixing engineered by 兼重哲哉・connie・廣瀬修・吉田哲人・tofubeats・RAM RIDER
recording engineered by 兼重哲哉・井上一郎・廣瀬修・塚田耕司・murataDR・RAM RIDER
● 10年の雌伏の時を越えて遂に羽ばたいた地方発アイドルユニットを当代のポップクリエイター達がバックアップした高品質アイドルPOPS作品
新潟県のご当地アイドルとして2003年から地道に活動を続けてきたNegiccoが、プロデューサーのconnieが手掛ける良質なポップソングと安定したパフォーマンスが認められてタワーレコード傘下の新設レーベルであるT-Paletteレコードに参加したのが2011年。ここから全国展開を始めていくわけですが、2012年リリースの「恋のEXPRESS TRAIN」「あなたと Pop With You!」といったシングル曲は、アイドルマニアからはそのクオリティの高さから評価を受けていたもののブレイクへの扉を開くまでにはもう一歩何かが足りない状態が続いていました。そこでこの状態を打開すべく、翌年connieがプロデュースを打診したのがNONA REEVESの西寺郷太です。彼の80'sフレーバー溢れるメロディ構築力と渾身のベースプログラミングによるシングル「愛のタワー・オブ・ラヴ」は、彼女達が被っていた才能とセンスの殻を破るのに十分なインパクトを与える完成度で、まさにブレイクへの扉が開かれた瞬間となりました。そして次のシングルには大御所・小西康陽を起用した「アイドルばかり聴かないで」をリリース、勢いに乗った彼女達を待っていた初のオリジナルアルバムが本作というわけです。
まずは何はなくとも「愛のタワー・オブ・ラヴ」です。シンセベースプログラミングの楽しさを十分にアピールしたこの勝負曲は、確かなクオリティを獲得しながらもアイドルソングとしての矜持を忘れないポップ性をも兼ね備えている名曲で、この楽曲で完全にNegiccoのアイドル人生は上昇気流を掴み、スターダムへの軌道に乗ったと言えるでしょう。この名曲から始まる本作では、小西康陽、長谷泰宏、tofubeats、サイプレス上野とロベルト吉野、吉田哲人(ex.Fantastic Plastic Machine)、RAM RIDERといった新旧の実力派クリエイターをゲストに迎えつつ、remixの2曲は一十三十一仕事でキレのあるサウンドを手掛けるgrooveman spotや、エレクトロミュージック界の驚異の新鋭banvoxを迎えるなど、その人選にその期待のほどが窺えますが、それもこれもconnieが作り上げた爽やかさを前面に押し出したアイドルソングマナーをしっかり意識した楽曲とサウンドメイクが評価されてこその引力であり、そのあたりが当時の他の地方発アイドル達とは一線を画していた部分であると思われます。特に特筆すべきは透き通るようなベル系シンセフレーズの多用で、これが四つ打ちリズムであっても重々しくならず楽曲に繊細さを持ち込みつつ鮮度を失わない役割を果たしていると思います。ゲスト陣もそれぞれサウンドメイクの特徴を生かしながら質の高いアレンジに仕上げてはいますが、根元にあるのはconnieスピリッツであることには変わりありません。特にNegiccoに関してはその部分を強く感じさせるわけです。
メジャー進出によってさらに優秀なブレーンを持つスタッフに恵まれたNegiccoプロジェクトですが、急成長を遂げた本作リリース後の2013年秋には再び西寺郷太プロデュースの必殺キラーチューン「ときめきのヘッドライナー」でその人気はかつてのPerfumeを彷彿とさせる成長曲線を描いてブレイクスルーへと進んでいくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「愛のタワー・オブ・ラヴ」
フワーッとしたシンセパッドからなだれ込んでくる縦横無尽なシンセベースの嵐に度肝を抜かれるその後のNegiccoの歴史を変えた名曲。シンセストリングスやゲートリバーブの効いたパワフルスネアも流石は80'sマスター西寺郷太の大仕事です。そしてこのオシャレな展開の楽曲でもライブを意識した合いの手を入れてくるサービスも忘れない隙のなさも魅力です。
・「あなたと Pop With You!」
苦楽を共にしてきたconnieプロデュースのメジャー2ndシングル。キラキラなシンセが施された90年代的エレガントサウンドを意識したポップチューン。青春ど真ん中な甘酸っぱいサビのメロディラインだけでもその質の高さを体感することができます。
・「イミシン☆かもだけど」
ポスト渋谷系な乙女ティックなガールポップにおけるストリングスマスターとして多方面で活躍する長谷泰宏(ユメトコスメ)が手がけたゴージャスポップソング。彼特有の複雑なメロディと凝り過ぎなほどの緻密なストリングスアレンジメントは笑ってしまうくらいです。これでもかのハープの多用やしつこ過ぎる転調など聴きどころも満載です。
<評点>
・サウンド ★★ (ゲストによるアプローチの違いを楽しめる)
・メロディ ★★ (いわゆる良い旋律は散見されるが引っかかりも少ない)
・リズム ★★★ (西寺曲の圧倒的なリズム構築のセンスが際立つ)
・曲構成 ★★ (ゲストサイドとconnieサイドのバランスは難しい)
・個性 ★★ (良質な楽曲を歌う地方アイドルから抜け出す前夜)
総合評点: 7点
「ダイアモンドダストが消えぬまに」 松任谷由実
「ダイアモンドダストが消えぬまに」 (1987 東芝EMI)
松任谷由実:vocal・background vocals

1.「月曜日のロボット」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
2.「ダイアモンドダストが消えぬまに」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
3.「思い出に間にあいたくて」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
4.「SWEET DREAMS」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
5.「TUXEDO RAIN」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
6.「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
7.「続 ガールフレンズ」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
8.「ダイヤモンドの街角」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
9.「LATE SUMMER LAKE」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
10.「霧雨で見えない」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
<support musician>
今 剛:guitar
松原正樹:guitar
Abraham Laboriel:bass
John Robinson:drums
江口信夫:drums
斉藤ノブ:percussion
Jake H.Concepcion:sax
EVE (Leona・Kurara・Lilika):background vocals
桐ヶ谷仁:background vocals
桐ヶ谷”Bobby”敏博:background vocals
白鳥英美子:background vocals
武新吾:Synclavier programming
田久保誠一:Synclavier assistance
藤井将登 (Ma*TO):Synclavier assistance
川崎ハルヒコ:synthesizer assistance
田辺トシオ:synthesizer assistance
富永邦彦:synthesizer assistance
produced by 松任谷正隆
associate produced by Matt Forger
synthesizer directed by 浦田恵司
mixing engineered by Matt Forger
recording engineered by Matt Forger・井上剛
● ニューミュージックの女王がシンクラヴィア導入で80’sデジタルサウンドに本格的に転換しつつも本流は決して外さない安定の傑作
既にアルバムをリリースすればオリコン第1位が約束されたニューミュージック界の大御所の地位を確立していた皆さんご存知の松任谷由実。ストーリー性を重視した歌詞の世界観と天才的なメロディメイキングで勝負する彼女ですが、80年代中期以降は、シングル「メトロポリスの片隅で」など近未来的な世界を感じさせる方向性を示唆していました。そして1987年、彼女はその近未来性をサウンド面において大胆な方針転換を施すことによって表現することになります。それまでは夫でありアレンジャーでもある公私にわたるパートナーの松任谷正隆による、ティン・パン・アレー時代から連なる70年代ニューミュージック伝統のプロフェッショナルなサウンドを志向していましたが、この年にリリースされた本作、「ダイアモンドダストが消えぬまに」からはFairlight CMIと並ぶDegital Audio Workstation(DAW)の先駆的存在であったSynclavir(シンクラヴィア)を本格的にレコーディングに導入します。これによって彼女の楽曲は急激にデジタル度、時代感覚で言うところの「バブリー度」に拍車がかかり、それがレイト80'sという狂乱の時代に絶妙にマッチしていくことになるわけです。
さて、シンクラヴィアの導入ということは当然のことながら、否応なくサウンド全体に電子的処理がなされていくことは間違いのないことでして、本作でもそれは例外ではありません。1曲目の「月曜日のロボット」から全体を包むバキバキとした空気感が尋常ではありません。もちろん楽曲はこれまでのニューミュージック史観に基づく美メロ満載の計算し尽くされたポップソングですが、パワフルに処理されたドラム、時にはレゾナンスの効いたシンセベースが活躍し、ざらついたシンセストリングスに、加工されたヴォーカルといった、後年のDAW時代を予見するかのような隙のないデジタル処理でサウンドの質感は劇的に向上しています。そのような中でもドラムは生とプログラミングを併用するなど、完全なデジタル化ではなく、あくまで生演奏とシンクラヴィアの融合を第一に考慮していることが窺えます。しかしドラマーとして起用されているのが、レイト80'sにおいてパワフルな音を聴かせる重要ドラマーの1人である江口信夫と、当時日本人アーティストの客演が急激に増加していた世界最高のセッションドラマーJohn Robinsonなので、正直に言えば生とプログラミングの違いを感じさせないほどの、正確なドラミングが堪能できます。また、シンクラヴィアの導入はいわゆる音の壁の構築にも一役買っていて、サウンド全体を包むシンセパッドやコーラスの音処理の独特な質感は情景をカラフルする効果も持っていますし、ストリングスグループで構築する壁とは異なった質感を味わうことができます。それが本作を好みとするか忌避するかの分かれ目となる一部分であると思いますが、前述のようにこの質感がレイト80'sのバブリーな時代の空気にマッチングした結果、彼女のアルバムはシンクラヴィアとの格闘を続けた90年代前半までミリオンセラーを連発、日本音楽界の女王として君臨し続けていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「月曜日のロボット」
タイトル通りマシナリーなリズムで「ロボット感」を演出するオープニングナンバー。計算し尽くされたテンポが魅力ですが、これは生ドラムを叩く江口信夫が隠れた貢献をしています。ヴォーカルにはシンクラヴィアで機械的処理がなされており、レイト80'sの空気感をパッケージしながら、当時のデジタル機材主体のサウンド特有のクールな質感を醸し出しています。
・「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」
小気味好いギターのカッティングが気持ちいいミディアムチューン。微妙に跳ねるシンセベースのレゾナンス具合も絶妙で、細かくエレドラタムも混ぜた江口信夫のドラミングはゆったりテンポながら正確に刻まれた優れたプレイと言えるでしょう。
・「霧雨で見えない」
ラストを飾る名バラード。まさに音の壁で勝負するアレンジメントの妙を感じさせます。加工されたコーラス&シンクラヴィアストリングスの壁が霧雨を表現しているようで、見事な演出です。シタールのような音色もシンクラヴィア仕事ですが、このギラギラした音質も80'sの賜物です。そんなデジタル化の中で光るのがJake H. Conceptionのムーディーなサックスソロ。このサックスプレイでデジタルが苦手な方もきっと救われることでしょう。
<評点>
・サウンド ★★ (あくまで豊かな情景描写としてのデジタルの使い方)
・メロディ ★★★ (アルバム全体というより数曲の爆発力で勝負できる)
・リズム ★★★ (2人のドラマーと打ち込みで豊かな音像を構築)
・曲構成 ★ (せっかくのデジタル化なのに緩い曲調がやや多い)
・個性 ★★ (サウンド環境は激変したが芯は不変の安心感)
総合評点: 7点
松任谷由実:vocal・background vocals

1.「月曜日のロボット」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
2.「ダイアモンドダストが消えぬまに」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
3.「思い出に間にあいたくて」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
4.「SWEET DREAMS」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
5.「TUXEDO RAIN」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
6.「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
7.「続 ガールフレンズ」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
8.「ダイヤモンドの街角」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
9.「LATE SUMMER LAKE」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
10.「霧雨で見えない」 詞・曲:松任谷由実 編:松任谷正隆
<support musician>
今 剛:guitar
松原正樹:guitar
Abraham Laboriel:bass
John Robinson:drums
江口信夫:drums
斉藤ノブ:percussion
Jake H.Concepcion:sax
EVE (Leona・Kurara・Lilika):background vocals
桐ヶ谷仁:background vocals
桐ヶ谷”Bobby”敏博:background vocals
白鳥英美子:background vocals
武新吾:Synclavier programming
田久保誠一:Synclavier assistance
藤井将登 (Ma*TO):Synclavier assistance
川崎ハルヒコ:synthesizer assistance
田辺トシオ:synthesizer assistance
富永邦彦:synthesizer assistance
produced by 松任谷正隆
associate produced by Matt Forger
synthesizer directed by 浦田恵司
mixing engineered by Matt Forger
recording engineered by Matt Forger・井上剛
● ニューミュージックの女王がシンクラヴィア導入で80’sデジタルサウンドに本格的に転換しつつも本流は決して外さない安定の傑作
既にアルバムをリリースすればオリコン第1位が約束されたニューミュージック界の大御所の地位を確立していた皆さんご存知の松任谷由実。ストーリー性を重視した歌詞の世界観と天才的なメロディメイキングで勝負する彼女ですが、80年代中期以降は、シングル「メトロポリスの片隅で」など近未来的な世界を感じさせる方向性を示唆していました。そして1987年、彼女はその近未来性をサウンド面において大胆な方針転換を施すことによって表現することになります。それまでは夫でありアレンジャーでもある公私にわたるパートナーの松任谷正隆による、ティン・パン・アレー時代から連なる70年代ニューミュージック伝統のプロフェッショナルなサウンドを志向していましたが、この年にリリースされた本作、「ダイアモンドダストが消えぬまに」からはFairlight CMIと並ぶDegital Audio Workstation(DAW)の先駆的存在であったSynclavir(シンクラヴィア)を本格的にレコーディングに導入します。これによって彼女の楽曲は急激にデジタル度、時代感覚で言うところの「バブリー度」に拍車がかかり、それがレイト80'sという狂乱の時代に絶妙にマッチしていくことになるわけです。
さて、シンクラヴィアの導入ということは当然のことながら、否応なくサウンド全体に電子的処理がなされていくことは間違いのないことでして、本作でもそれは例外ではありません。1曲目の「月曜日のロボット」から全体を包むバキバキとした空気感が尋常ではありません。もちろん楽曲はこれまでのニューミュージック史観に基づく美メロ満載の計算し尽くされたポップソングですが、パワフルに処理されたドラム、時にはレゾナンスの効いたシンセベースが活躍し、ざらついたシンセストリングスに、加工されたヴォーカルといった、後年のDAW時代を予見するかのような隙のないデジタル処理でサウンドの質感は劇的に向上しています。そのような中でもドラムは生とプログラミングを併用するなど、完全なデジタル化ではなく、あくまで生演奏とシンクラヴィアの融合を第一に考慮していることが窺えます。しかしドラマーとして起用されているのが、レイト80'sにおいてパワフルな音を聴かせる重要ドラマーの1人である江口信夫と、当時日本人アーティストの客演が急激に増加していた世界最高のセッションドラマーJohn Robinsonなので、正直に言えば生とプログラミングの違いを感じさせないほどの、正確なドラミングが堪能できます。また、シンクラヴィアの導入はいわゆる音の壁の構築にも一役買っていて、サウンド全体を包むシンセパッドやコーラスの音処理の独特な質感は情景をカラフルする効果も持っていますし、ストリングスグループで構築する壁とは異なった質感を味わうことができます。それが本作を好みとするか忌避するかの分かれ目となる一部分であると思いますが、前述のようにこの質感がレイト80'sのバブリーな時代の空気にマッチングした結果、彼女のアルバムはシンクラヴィアとの格闘を続けた90年代前半までミリオンセラーを連発、日本音楽界の女王として君臨し続けていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「月曜日のロボット」
タイトル通りマシナリーなリズムで「ロボット感」を演出するオープニングナンバー。計算し尽くされたテンポが魅力ですが、これは生ドラムを叩く江口信夫が隠れた貢献をしています。ヴォーカルにはシンクラヴィアで機械的処理がなされており、レイト80'sの空気感をパッケージしながら、当時のデジタル機材主体のサウンド特有のクールな質感を醸し出しています。
・「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」
小気味好いギターのカッティングが気持ちいいミディアムチューン。微妙に跳ねるシンセベースのレゾナンス具合も絶妙で、細かくエレドラタムも混ぜた江口信夫のドラミングはゆったりテンポながら正確に刻まれた優れたプレイと言えるでしょう。
・「霧雨で見えない」
ラストを飾る名バラード。まさに音の壁で勝負するアレンジメントの妙を感じさせます。加工されたコーラス&シンクラヴィアストリングスの壁が霧雨を表現しているようで、見事な演出です。シタールのような音色もシンクラヴィア仕事ですが、このギラギラした音質も80'sの賜物です。そんなデジタル化の中で光るのがJake H. Conceptionのムーディーなサックスソロ。このサックスプレイでデジタルが苦手な方もきっと救われることでしょう。
<評点>
・サウンド ★★ (あくまで豊かな情景描写としてのデジタルの使い方)
・メロディ ★★★ (アルバム全体というより数曲の爆発力で勝負できる)
・リズム ★★★ (2人のドラマーと打ち込みで豊かな音像を構築)
・曲構成 ★ (せっかくのデジタル化なのに緩い曲調がやや多い)
・個性 ★★ (サウンド環境は激変したが芯は不変の安心感)
総合評点: 7点
「She got the Blues」 microstar
「She got the Blues」(2016 ヴィヴィッド)
microstar

<members>
飯泉裕子:vocals・background vocals・electric bass
佐藤清喜:all instruments
1.「Chocolate Baby」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
2.「Tiny Spark」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
3.「月のパレス」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
4.「友達になろう」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
5.「My Baby」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
6.「夕暮れガール (Album Mix)」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
7.「私たちは恋をする」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
8.「She Got The Blues」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
9.「夜間飛行」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
10.「おやすみ」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
<support musician>
Ronnie Barry:chorus
The Lucy:chorus
Beat Himiko:chorus
Beauty:chorus
Jackie:chorus
produced by microstar
engineered by 佐藤清喜
● 8年振りにあのポップマエストロが帰って来た!リズミカルなゴージャズポップナンバーから珠玉のバラードまで丹念に作り上げられた約束された名盤
2008年にリリースされた名盤「microstar album」によって、ポップマエストロとしての評価をほしいままにした夫婦ユニットmicrostar。彼らの活動は非常にマイペースではありますが、2011年に「夕暮れガール」、2012年に「夜間飛行」の2枚のシングルを7インチレコード+CDにてリリース、期待通りの美メロと緻密に作り込まれたサウンドデザインで健在ぶりをアピールすると、楽曲担当の佐藤清喜は2012年にデビューした星野みちるの見事なサウンドプロデュースでさらに当代きってのPOP職人としての立ち位置を確立していきます。そして遂に2016年、microstarとしては待望の2ndフルアルバムが満を辞してリリースされることになります。古き良き時代のゴールデンPOPSを現代に甦らせる作風の彼ららしく、収録曲数は黄金比率の10曲、そして各曲それぞれにシングルジャケットデザインを挟み込むといった趣向からも分かるように、10曲それぞれがシングルカット級のクオリティの高さを備えており、その自信のほどが窺えるわけですが、その心意気に頷かずにはいられないほどの完成度をこの作品は備えていると言っても過言ではないでしょう。
彼らほどのPOPSメイカーになるともはや美しいメロディラインは当たり前で、各曲に心を射止めるキラーフレーズを忍ばせることなんてお手のもの。常に注目すべきは60年代〜70年代マナーのグリーンエヴァーPOPSを緻密なプログラミングでシミュレートするサウンドメイクにあるわけですが、完璧なシミュレーションで聴き手を驚愕させた前作と比べると、本作はややエレクトロ度が上回った印象すらあります。とは言っても普通に聴いていれば気にならないほどのマニアックなPOPSマナー溢れるアレンジメントであることには間違いありません。しかしながらエレクトロ度の正体は、随所で現れるシンセベースにあると思われます。隠すことなくしっかりレゾナンスを効かせたシンセベースは生楽器至上主義の方々には邪魔に聴こえるかもしれませんが、シミュレートされたストリングス&ブラスを中心とした完成されたサウンドデザインの中ではそれほど目立つことなく自然に溶け込ませており、逆に耳障りの良さを演出することに成功しています。そして登場回数は少ないながらも楽曲を装飾するシンセSE(「Chocolate Baby」のハンドクラップや「夕暮れガール の流れ星etc)の細かい音作りはさすがはシンセマエストロでもある佐藤清喜仕事と言えるでしょう。日本のシティポップやAORがもてはやされる中でリリースされた本作だけに、それらのムーブメントに呼応したかのようなシティポップフレーバーたっぷりのミディアムチューンも多く収録されていますが、その完成度は流石にキャリアが違うため他の良質と呼ばれる作品群の中でも抜きん出ている感があります。しかしそれらは飯泉の安定的にサウンドに溶け込んでいく「ちょうど良さ」が光るヴォーカルスタイルと、メロディ構築力に長けながらも、シンセサイザーやプログラミングを駆使した音作りとミックスエンジニアとしての実力も兼ね備えた音響面をも支配する佐藤清喜のマルチサウンドクリエイト能力の賜物であります。だからといって他の良作品を貶めるものではなく、本作のレベルが数段上回っているという解釈をしていただければ幸いです。そのような完成度であるがゆえに、名盤と言われた前作「micorstar album」に匹敵するクオリティの本作は、当然のように10年代の名盤として語り継がれていくことでしょう。
<Favorite Songs>
・「Tiny Spark」
Rah Band風という評価ももはや陳腐でしかない名曲度の高いアルバム先行シングル。ストリングス&ブラスセクションの堂の入ったオーケストレーションアレンジやエスカレーターズのコーラスワークの完成度も抜群、全体をリードするギターのカッティングのいぶし銀な感じもたまりません。
・「夜間飛行」
本作の中でも随一のエレクトロ度を誇るハイパーポップチューン。イントロのチープなシーケンスとAlto Soundのシンセドラム音だけでもご飯が進みます。そしてサビの開放感、そこまでの流れが完璧です。特に後半の盛り上げどころのスムーズな約束された転調もバッチリです。
・「おやすみ」
ラストを飾るPOPSの贅を尽くしたバラードソング。nice musicの時代から佐藤清喜はバラードの名曲には事欠きませんが、この楽曲はそれらに肩を並べるほどのクオリティを備えています。子守唄なタイトルながらも箸休めさは感じさせず、流麗なストリングスとホルンやハープに彩られ、大げさなほど装飾された大団円のサビで圧倒してきます。映画のラストシーンで使われることを意識したような名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★★(もはや自動筆記のように美しいサウンドを紡ぎ上げる)
・メロディ ★★★★★(メロディの進行に全くストレスがなく無駄がない)
・リズム ★★★ (シンドラの使用など趣味性も垣間見せる)
・曲構成 ★★★★ (アルバムとしての流れを意識するが前半はやや地味か)
・個性 ★★★★★(期待を裏切らない出来だがそれ以上望むのは酷)
総合評点: 9点
microstar

<members>
飯泉裕子:vocals・background vocals・electric bass
佐藤清喜:all instruments
1.「Chocolate Baby」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
2.「Tiny Spark」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
3.「月のパレス」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
4.「友達になろう」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
5.「My Baby」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
6.「夕暮れガール (Album Mix)」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
7.「私たちは恋をする」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
8.「She Got The Blues」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
9.「夜間飛行」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
10.「おやすみ」 詞:飯泉裕子 曲・編: 佐藤清喜
<support musician>
Ronnie Barry:chorus
The Lucy:chorus
Beat Himiko:chorus
Beauty:chorus
Jackie:chorus
produced by microstar
engineered by 佐藤清喜
● 8年振りにあのポップマエストロが帰って来た!リズミカルなゴージャズポップナンバーから珠玉のバラードまで丹念に作り上げられた約束された名盤
2008年にリリースされた名盤「microstar album」によって、ポップマエストロとしての評価をほしいままにした夫婦ユニットmicrostar。彼らの活動は非常にマイペースではありますが、2011年に「夕暮れガール」、2012年に「夜間飛行」の2枚のシングルを7インチレコード+CDにてリリース、期待通りの美メロと緻密に作り込まれたサウンドデザインで健在ぶりをアピールすると、楽曲担当の佐藤清喜は2012年にデビューした星野みちるの見事なサウンドプロデュースでさらに当代きってのPOP職人としての立ち位置を確立していきます。そして遂に2016年、microstarとしては待望の2ndフルアルバムが満を辞してリリースされることになります。古き良き時代のゴールデンPOPSを現代に甦らせる作風の彼ららしく、収録曲数は黄金比率の10曲、そして各曲それぞれにシングルジャケットデザインを挟み込むといった趣向からも分かるように、10曲それぞれがシングルカット級のクオリティの高さを備えており、その自信のほどが窺えるわけですが、その心意気に頷かずにはいられないほどの完成度をこの作品は備えていると言っても過言ではないでしょう。
彼らほどのPOPSメイカーになるともはや美しいメロディラインは当たり前で、各曲に心を射止めるキラーフレーズを忍ばせることなんてお手のもの。常に注目すべきは60年代〜70年代マナーのグリーンエヴァーPOPSを緻密なプログラミングでシミュレートするサウンドメイクにあるわけですが、完璧なシミュレーションで聴き手を驚愕させた前作と比べると、本作はややエレクトロ度が上回った印象すらあります。とは言っても普通に聴いていれば気にならないほどのマニアックなPOPSマナー溢れるアレンジメントであることには間違いありません。しかしながらエレクトロ度の正体は、随所で現れるシンセベースにあると思われます。隠すことなくしっかりレゾナンスを効かせたシンセベースは生楽器至上主義の方々には邪魔に聴こえるかもしれませんが、シミュレートされたストリングス&ブラスを中心とした完成されたサウンドデザインの中ではそれほど目立つことなく自然に溶け込ませており、逆に耳障りの良さを演出することに成功しています。そして登場回数は少ないながらも楽曲を装飾するシンセSE(「Chocolate Baby」のハンドクラップや「夕暮れガール の流れ星etc)の細かい音作りはさすがはシンセマエストロでもある佐藤清喜仕事と言えるでしょう。日本のシティポップやAORがもてはやされる中でリリースされた本作だけに、それらのムーブメントに呼応したかのようなシティポップフレーバーたっぷりのミディアムチューンも多く収録されていますが、その完成度は流石にキャリアが違うため他の良質と呼ばれる作品群の中でも抜きん出ている感があります。しかしそれらは飯泉の安定的にサウンドに溶け込んでいく「ちょうど良さ」が光るヴォーカルスタイルと、メロディ構築力に長けながらも、シンセサイザーやプログラミングを駆使した音作りとミックスエンジニアとしての実力も兼ね備えた音響面をも支配する佐藤清喜のマルチサウンドクリエイト能力の賜物であります。だからといって他の良作品を貶めるものではなく、本作のレベルが数段上回っているという解釈をしていただければ幸いです。そのような完成度であるがゆえに、名盤と言われた前作「micorstar album」に匹敵するクオリティの本作は、当然のように10年代の名盤として語り継がれていくことでしょう。
<Favorite Songs>
・「Tiny Spark」
Rah Band風という評価ももはや陳腐でしかない名曲度の高いアルバム先行シングル。ストリングス&ブラスセクションの堂の入ったオーケストレーションアレンジやエスカレーターズのコーラスワークの完成度も抜群、全体をリードするギターのカッティングのいぶし銀な感じもたまりません。
・「夜間飛行」
本作の中でも随一のエレクトロ度を誇るハイパーポップチューン。イントロのチープなシーケンスとAlto Soundのシンセドラム音だけでもご飯が進みます。そしてサビの開放感、そこまでの流れが完璧です。特に後半の盛り上げどころのスムーズな約束された転調もバッチリです。
・「おやすみ」
ラストを飾るPOPSの贅を尽くしたバラードソング。nice musicの時代から佐藤清喜はバラードの名曲には事欠きませんが、この楽曲はそれらに肩を並べるほどのクオリティを備えています。子守唄なタイトルながらも箸休めさは感じさせず、流麗なストリングスとホルンやハープに彩られ、大げさなほど装飾された大団円のサビで圧倒してきます。映画のラストシーンで使われることを意識したような名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★★(もはや自動筆記のように美しいサウンドを紡ぎ上げる)
・メロディ ★★★★★(メロディの進行に全くストレスがなく無駄がない)
・リズム ★★★ (シンドラの使用など趣味性も垣間見せる)
・曲構成 ★★★★ (アルバムとしての流れを意識するが前半はやや地味か)
・個性 ★★★★★(期待を裏切らない出来だがそれ以上望むのは酷)
総合評点: 9点
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