「Alien Syndrome」 COSMO-SHIKI
「Alien Syndrome」(2015 ビートサーファーズ)
COSMO-SHIKI

<members>
清水良行:vocal・all instruments
1.「Division」 曲・編:清水良行
2.「posi」 詞:清水良行 曲・編:清水良行・三浦俊一
3.「Theta in the sky」 詞・曲・編:清水良行
4.「Night of Aliens」 詞・曲・編:清水良行
5.「Vector」 曲・編:清水良行
6.「ソラリス」 詞:清水良行 曲:小林写楽 編:小林写楽・清水良行
7.「星屑リフレイン」 詞・曲・編:清水良行
<support musician>
小林写楽:all instruments
三浦俊一:all instruments
produced by 三浦俊一・清水良行
mixing engineered by 福原正博
● メロディにもサウンドにもより磨きがかかり急成長を遂げるシンセポップソロユニットのエレクトロまみれな渾身作
戸田宏武主宰の新宿ゲバルトの片割れとして、トリオバンドDivitronのシンセシストとして、その他数々のユニットで活躍する清水良行は、次第に自身のソロユニットCOSMO-SHIKIとしての活動が主たるものになっていきます。2013年に本格的な全国流通アルバム「BLEEP UFO」をリリースし、ありそうでなかったブリープテクノ感漂う歌モノエレクトロポップという立ち位置にたどり着いた彼は、ライブ活動で着実にファンを増やしながら次作の制作に打ち込んだ結果、2015年に遂に2ndアルバムである本作を完成します。全7曲というミニアルバムという形態ながら、COSMO-SHIKとしての世界観を、コンセプト・サウンド両面において深く追求していった結果、前作よりもクオリティが格段に上がり歌モノエレクトロポップの急先鋒としての地位を確立した格好となりました。
「Alien Syndrome」というタイトルからも想像できるとおり、宇宙や近未来SFといった言葉で表現されるようなスペイシー感覚溢れるシーケンス&シンセフレーズを巧みに操りながら、いわゆる「泣き」のフレーズを恥ずかしげもなくストレートに歌い上げる(しかし歌はボコーダーやハーモナイザーで声を大胆に変化させるところに羞恥心を感じさせますが)のがこのユニットの最大の魅力ですが、本作では「Theta in the sky」「星屑リフレイン」など、メロディセンスが花開いたような哀愁エレポップの名曲が生み出され、スペイシーロマンティストとしてのイメージは完全に確立したものと思われます。サウンド面では清水自身に加え、三浦俊一や小林写楽(彼の手がけた「ソラリス」はまんまShiraku Kobayashi楽曲)らが手がけたトラックにしても、全て100%シンセサイザーによる電子音で緻密に組み立てられており、その100%電子音大好きな音空間でありながら、泣きのメロディセンスは携えているし、それでいて白塗りメイクに恥じないマッドサイエンスっぽさも感じさせるところに、COSMO-SHIKIのオリジナリティがあるのではないかと推測します。本作において個性の確立に至ったということでそろそろ次作アルバムへの期待がつのりますが、この作風で壮大なSFコンセプトアルバムも聴いてみたいところです。
<Favorite Songs>
・「posi」
レーベルマスターの三浦俊一との共作楽曲。浮遊感たっぷりの四つ打ちリズムに金切り声のようなシンセが飛び交い、TB-303的アシッドベースラインが絡んでいきます。そのスペーストラベラーを体感できるスムーズなサウンドの流れ方はこうしたほぼインストの楽曲では武器の1つになるでしょう。
・「Theta in the sky」
潔いシンセドラムがその宇宙感覚を絶妙に喚起させるナチュラルシンセポップチューン。ピコピコシーケンスに代表されるどれを取ってもシンセでしか作り得ないような電子音フレーズを重ね合わせ、加工されたボイスに過剰なエフェクトをかけながらSF感を醸し出すサウンド面でのテンションの高さが魅力です。
・「星屑リフレイン」
COSMO-SHIKIが生み出した現時点での最高傑作。シーケンスの譜割りだけで躍らせる見事なプログラミングと、サビの宇宙空間丸出しの素晴らしいメロディは、電子音にかけられたドリーミーなエフェクトも相まって、ここ数年でも5本の指に数えられるくらいのスペイシーエレポップの名曲であると思います。
<評点>
・サウンド ★★★★ (幻惑するシーケンスとエフェクトのミックスの妙)
・メロディ ★★ (歌モノで繰り出される泣きのメロディセンス)
・リズム ★★★ (テクノマナーを忠実に守る心地よい電子ドラム)
・曲構成 ★★ (せっかくのセンスを生かせる歌モノが少ない)
・個性 ★★★ (同系が多い中最もドリーミーな立ち位置に)
総合評点: 8点
COSMO-SHIKI

<members>
清水良行:vocal・all instruments
1.「Division」 曲・編:清水良行
2.「posi」 詞:清水良行 曲・編:清水良行・三浦俊一
3.「Theta in the sky」 詞・曲・編:清水良行
4.「Night of Aliens」 詞・曲・編:清水良行
5.「Vector」 曲・編:清水良行
6.「ソラリス」 詞:清水良行 曲:小林写楽 編:小林写楽・清水良行
7.「星屑リフレイン」 詞・曲・編:清水良行
<support musician>
小林写楽:all instruments
三浦俊一:all instruments
produced by 三浦俊一・清水良行
mixing engineered by 福原正博
● メロディにもサウンドにもより磨きがかかり急成長を遂げるシンセポップソロユニットのエレクトロまみれな渾身作
戸田宏武主宰の新宿ゲバルトの片割れとして、トリオバンドDivitronのシンセシストとして、その他数々のユニットで活躍する清水良行は、次第に自身のソロユニットCOSMO-SHIKIとしての活動が主たるものになっていきます。2013年に本格的な全国流通アルバム「BLEEP UFO」をリリースし、ありそうでなかったブリープテクノ感漂う歌モノエレクトロポップという立ち位置にたどり着いた彼は、ライブ活動で着実にファンを増やしながら次作の制作に打ち込んだ結果、2015年に遂に2ndアルバムである本作を完成します。全7曲というミニアルバムという形態ながら、COSMO-SHIKとしての世界観を、コンセプト・サウンド両面において深く追求していった結果、前作よりもクオリティが格段に上がり歌モノエレクトロポップの急先鋒としての地位を確立した格好となりました。
「Alien Syndrome」というタイトルからも想像できるとおり、宇宙や近未来SFといった言葉で表現されるようなスペイシー感覚溢れるシーケンス&シンセフレーズを巧みに操りながら、いわゆる「泣き」のフレーズを恥ずかしげもなくストレートに歌い上げる(しかし歌はボコーダーやハーモナイザーで声を大胆に変化させるところに羞恥心を感じさせますが)のがこのユニットの最大の魅力ですが、本作では「Theta in the sky」「星屑リフレイン」など、メロディセンスが花開いたような哀愁エレポップの名曲が生み出され、スペイシーロマンティストとしてのイメージは完全に確立したものと思われます。サウンド面では清水自身に加え、三浦俊一や小林写楽(彼の手がけた「ソラリス」はまんまShiraku Kobayashi楽曲)らが手がけたトラックにしても、全て100%シンセサイザーによる電子音で緻密に組み立てられており、その100%電子音大好きな音空間でありながら、泣きのメロディセンスは携えているし、それでいて白塗りメイクに恥じないマッドサイエンスっぽさも感じさせるところに、COSMO-SHIKIのオリジナリティがあるのではないかと推測します。本作において個性の確立に至ったということでそろそろ次作アルバムへの期待がつのりますが、この作風で壮大なSFコンセプトアルバムも聴いてみたいところです。
<Favorite Songs>
・「posi」
レーベルマスターの三浦俊一との共作楽曲。浮遊感たっぷりの四つ打ちリズムに金切り声のようなシンセが飛び交い、TB-303的アシッドベースラインが絡んでいきます。そのスペーストラベラーを体感できるスムーズなサウンドの流れ方はこうしたほぼインストの楽曲では武器の1つになるでしょう。
・「Theta in the sky」
潔いシンセドラムがその宇宙感覚を絶妙に喚起させるナチュラルシンセポップチューン。ピコピコシーケンスに代表されるどれを取ってもシンセでしか作り得ないような電子音フレーズを重ね合わせ、加工されたボイスに過剰なエフェクトをかけながらSF感を醸し出すサウンド面でのテンションの高さが魅力です。
・「星屑リフレイン」
COSMO-SHIKIが生み出した現時点での最高傑作。シーケンスの譜割りだけで躍らせる見事なプログラミングと、サビの宇宙空間丸出しの素晴らしいメロディは、電子音にかけられたドリーミーなエフェクトも相まって、ここ数年でも5本の指に数えられるくらいのスペイシーエレポップの名曲であると思います。
<評点>
・サウンド ★★★★ (幻惑するシーケンスとエフェクトのミックスの妙)
・メロディ ★★ (歌モノで繰り出される泣きのメロディセンス)
・リズム ★★★ (テクノマナーを忠実に守る心地よい電子ドラム)
・曲構成 ★★ (せっかくのセンスを生かせる歌モノが少ない)
・個性 ★★★ (同系が多い中最もドリーミーな立ち位置に)
総合評点: 8点
「DON’T DISTURB THIS GROOVE」 THE SYSTEM
「DON’T DISTURB THIS GROOVE」 (1987 Atlantic)
THE SYSTEM

<members>
Mic Murphy:vocals・rap・backing vocals
David Frank:keyboards・drums
1.「DON’T DISTURB THIS GROOVE」 Mic Murphy/David Frank
2.「COME AS YOU ARE (SUPERSTAR)」 Mic Murphy/David Frank/Paul Pesco
3.「SAVE ME」 Mic Murphy/David Frank
4.「HEART BEAT OF THE CITY」 Mic Murphy/David Frank
5.「GROOVE」 Mic Murphy/David Frank
6.「NIGHTTIME LOVER」 Mic Murphy/David Frank
7.「HOUSE OF RHYTHM」 Mic Murphy/David Frank
8.「DIDN’T I BLOW YOUR MIND」 Mic Murphy/David Frank
9.「SOUL BOY」 Mic Murphy/David Frank
10.「MODERN GIRL」 Mic Murphy/David Frank
<support musician>
B.J.Nelson:voice・backing vocals
Howard Jones:voice
Ira Siegle:guitar
Paul Pesco:guitar
Steve Stevens:guitar
Omar Hakim:drums
Jimmy Maelen:percussion
Chris Botti:trumpet・horns arrangement
Kent Smith:trumpet・horns arrangement
Mike Davis:trombone
Andy Snitzer:sax
Doug E.Fresh:human beat box
Andrey Wheeler:backing vocals
Dolette McDonald:backing vocals
Fonzi Thornton:backing vocals
Michelle Cobbs:backing vocals
Phillip Ballou:backing vocals
produced by The System for Science Lab Productions
mixing engineered by Tom Lord-Alge・John Potoker
recording engineered by Jimmy Douglass・Jorge Esteban
● タイトル曲のスマッシュヒットと共に多彩なゲストを迎え豪奢に制作!デジタルAORの傑作となった4thアルバム
1983年にアルバム「Sweat」でデビューを果たしたMic MurphyとDavid Frankのシンセポップデュオ、THE SYSTEM。この1stアルバム収録の2ndシングル「You Are in My System」がRobert Palmerにカバーされ話題になりましたが、その後「X-Periment」「The Pleasure Seekers」と立て続けにアルバムをリリースするもその緻密なシーケンスプログラミングによるエレクトロサウンドが一部で高い評価を得つつも、セールス的には成功とは言えないものでした。しかしながらサウンド全体をプロデュースするDavid Frankは、その間隙を縫ってChaka Khan「I Feel For You」、Scritti Politti「Cupid & Psyche 85」、Steve Winwoodのヒットソング「Higher Love」のシンセブラス等、数々の名盤に関与するなど、80'sサウンドを彩る重要人物の1人としてその存在感を高めていきました。そして86年にその才能が実を結ぶことになります。シングル「Don't Disturb This Groove」がビルボードトップ10入りの大ヒット、遂にスターダムに駆け上った彼らは、翌87年にその勢いのままに同名タイトルの4thアルバムをリリース、当然本作も彼らのアルバムの中で最高のセールスを記録することになりました。
これまでの作品ではほとんどをDavid Frankのプログラミングで構築するなどストイックさが彼らの魅力でしたが、本作では大ヒットの勢いに乗ったためか豪華なゲスト陣を多数迎えて単純に音の迫力が増した印象です。もちろんエレクトリックリズム&ソウルフルメロディなTHE SYSTEMサウンドは健在で、そのコクとキレをエフェクティブに絶妙に表現したリズムパターンと、ブラックコンテンポラリー感溢れるMic Murphyのヴォーカルスタイル、DX7等のFM系デジタルシンセによるアタック感の強い多彩なフレーズが相まって、それほどアップテンポの楽曲が多くはなく、AOR風味なミディアムチューンが増えた印象ながらも、フレーズとリズムのパワー&センスで聴き手を引き込むマジックを感じさせます。このようにサウンド面での恐ろしい完成度の高さを当然のように全曲楽しめるわけですが、なんだかんだと言っても飛び抜けているのは大ヒット曲の「Don't Disturb This Groove」で、余りの完成度の高さから「Groove」というリミックス的なインストまで収録されているのですが、これがまた含蓄たっぷりの堅牢なデジタルファンクチューンに仕上がっていて、レイト80'Sこの楽曲の素晴らしさを再確認できることからも、この「Groove」の収録は成功していると言わざるを得ません。とにかく本作のエレクトリックAORとしてのサウンドデザインがレイト80'sの音楽シーンに与えた影響は大きく、それも特に日本の80'sダンサブル系シティポップ勢や歌謡曲にも浸透、角松敏生は好きが高じ過ぎて、前作の「I Don’t Run from Danger」を「Pile Driver」でモロパクリ、本作の「Come As You Are (Superstar)」をシングル「This is My Truth」でモロパクリ、「Okinawa」では遂にThe System本人にプロデュースしてもらったりと、その影響を隠そうともせず逆輸入に勤しんでいました。80'sを代表するサウンドメイカーである角松敏生をここまで夢中にさせるサウンドメイクの完成度の高さを備えていたニューヨークが産んだ稀代のシンセポップデュオは、80'sアーバンエレクトロポップの影響が強まってきた現在だからこそ再評価されるべきグループであると思います。
<Favorite Songs>
・「DON’T DISTURB THIS GROOVE」
言わずと知れた大ヒットシングル。時代特有の爆音スネアにFM音源特有のきらびやかなベルサウンドが印象的なサウンドに乗ってソウルフルなヴォーカルがメロディアスにフレーズを奏でるエレクトリックAORの極致です。ゆったりとしたリズムの上に非常にコクのあるシンセベースのシーケンスが実に味わい深いです。
・「HEART BEAT OF THE CITY」
初期ヒット曲「You Are in My System」を彷彿とさせるベースプログラミングのセンスの良さが光るエレクトロファンクチューン。魅惑のベースラインが楽曲を引っ張ると共に、ギミックとして多彩な仕掛けが施されるなど遊び心も加えているため、サウンド面の偏執的なストイックさを隠しきれません。
・「MODERN GIRL」
強烈リズムにキレ抜群のシンセブラスが主張するラストダンサブルチューン。音の隙間を見事に利用することで音と言葉の両面でキレを生み出すマシーンでしかなし得ないリズム構築が素晴らしいの一言です。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (全てが計算しつくされたタイミングのフレーズセンス)
・メロディ ★★★ (サウンドのセンスにフレーズの美しさが追随)
・リズム ★★★★★ (パワフルでありキレもある空間を利用した絶品ドラム)
・曲構成 ★★★ (安易にバラードに逃げることなく強力ビートで締める)
・個性 ★★★★ (レイト80'sを代表する音として歴史に残る名盤)
総合評点: 9点
THE SYSTEM

<members>
Mic Murphy:vocals・rap・backing vocals
David Frank:keyboards・drums
1.「DON’T DISTURB THIS GROOVE」 Mic Murphy/David Frank
2.「COME AS YOU ARE (SUPERSTAR)」 Mic Murphy/David Frank/Paul Pesco
3.「SAVE ME」 Mic Murphy/David Frank
4.「HEART BEAT OF THE CITY」 Mic Murphy/David Frank
5.「GROOVE」 Mic Murphy/David Frank
6.「NIGHTTIME LOVER」 Mic Murphy/David Frank
7.「HOUSE OF RHYTHM」 Mic Murphy/David Frank
8.「DIDN’T I BLOW YOUR MIND」 Mic Murphy/David Frank
9.「SOUL BOY」 Mic Murphy/David Frank
10.「MODERN GIRL」 Mic Murphy/David Frank
<support musician>
B.J.Nelson:voice・backing vocals
Howard Jones:voice
Ira Siegle:guitar
Paul Pesco:guitar
Steve Stevens:guitar
Omar Hakim:drums
Jimmy Maelen:percussion
Chris Botti:trumpet・horns arrangement
Kent Smith:trumpet・horns arrangement
Mike Davis:trombone
Andy Snitzer:sax
Doug E.Fresh:human beat box
Andrey Wheeler:backing vocals
Dolette McDonald:backing vocals
Fonzi Thornton:backing vocals
Michelle Cobbs:backing vocals
Phillip Ballou:backing vocals
produced by The System for Science Lab Productions
mixing engineered by Tom Lord-Alge・John Potoker
recording engineered by Jimmy Douglass・Jorge Esteban
● タイトル曲のスマッシュヒットと共に多彩なゲストを迎え豪奢に制作!デジタルAORの傑作となった4thアルバム
1983年にアルバム「Sweat」でデビューを果たしたMic MurphyとDavid Frankのシンセポップデュオ、THE SYSTEM。この1stアルバム収録の2ndシングル「You Are in My System」がRobert Palmerにカバーされ話題になりましたが、その後「X-Periment」「The Pleasure Seekers」と立て続けにアルバムをリリースするもその緻密なシーケンスプログラミングによるエレクトロサウンドが一部で高い評価を得つつも、セールス的には成功とは言えないものでした。しかしながらサウンド全体をプロデュースするDavid Frankは、その間隙を縫ってChaka Khan「I Feel For You」、Scritti Politti「Cupid & Psyche 85」、Steve Winwoodのヒットソング「Higher Love」のシンセブラス等、数々の名盤に関与するなど、80'sサウンドを彩る重要人物の1人としてその存在感を高めていきました。そして86年にその才能が実を結ぶことになります。シングル「Don't Disturb This Groove」がビルボードトップ10入りの大ヒット、遂にスターダムに駆け上った彼らは、翌87年にその勢いのままに同名タイトルの4thアルバムをリリース、当然本作も彼らのアルバムの中で最高のセールスを記録することになりました。
これまでの作品ではほとんどをDavid Frankのプログラミングで構築するなどストイックさが彼らの魅力でしたが、本作では大ヒットの勢いに乗ったためか豪華なゲスト陣を多数迎えて単純に音の迫力が増した印象です。もちろんエレクトリックリズム&ソウルフルメロディなTHE SYSTEMサウンドは健在で、そのコクとキレをエフェクティブに絶妙に表現したリズムパターンと、ブラックコンテンポラリー感溢れるMic Murphyのヴォーカルスタイル、DX7等のFM系デジタルシンセによるアタック感の強い多彩なフレーズが相まって、それほどアップテンポの楽曲が多くはなく、AOR風味なミディアムチューンが増えた印象ながらも、フレーズとリズムのパワー&センスで聴き手を引き込むマジックを感じさせます。このようにサウンド面での恐ろしい完成度の高さを当然のように全曲楽しめるわけですが、なんだかんだと言っても飛び抜けているのは大ヒット曲の「Don't Disturb This Groove」で、余りの完成度の高さから「Groove」というリミックス的なインストまで収録されているのですが、これがまた含蓄たっぷりの堅牢なデジタルファンクチューンに仕上がっていて、レイト80'Sこの楽曲の素晴らしさを再確認できることからも、この「Groove」の収録は成功していると言わざるを得ません。とにかく本作のエレクトリックAORとしてのサウンドデザインがレイト80'sの音楽シーンに与えた影響は大きく、それも特に日本の80'sダンサブル系シティポップ勢や歌謡曲にも浸透、角松敏生は好きが高じ過ぎて、前作の「I Don’t Run from Danger」を「Pile Driver」でモロパクリ、本作の「Come As You Are (Superstar)」をシングル「This is My Truth」でモロパクリ、「Okinawa」では遂にThe System本人にプロデュースしてもらったりと、その影響を隠そうともせず逆輸入に勤しんでいました。80'sを代表するサウンドメイカーである角松敏生をここまで夢中にさせるサウンドメイクの完成度の高さを備えていたニューヨークが産んだ稀代のシンセポップデュオは、80'sアーバンエレクトロポップの影響が強まってきた現在だからこそ再評価されるべきグループであると思います。
<Favorite Songs>
・「DON’T DISTURB THIS GROOVE」
言わずと知れた大ヒットシングル。時代特有の爆音スネアにFM音源特有のきらびやかなベルサウンドが印象的なサウンドに乗ってソウルフルなヴォーカルがメロディアスにフレーズを奏でるエレクトリックAORの極致です。ゆったりとしたリズムの上に非常にコクのあるシンセベースのシーケンスが実に味わい深いです。
・「HEART BEAT OF THE CITY」
初期ヒット曲「You Are in My System」を彷彿とさせるベースプログラミングのセンスの良さが光るエレクトロファンクチューン。魅惑のベースラインが楽曲を引っ張ると共に、ギミックとして多彩な仕掛けが施されるなど遊び心も加えているため、サウンド面の偏執的なストイックさを隠しきれません。
・「MODERN GIRL」
強烈リズムにキレ抜群のシンセブラスが主張するラストダンサブルチューン。音の隙間を見事に利用することで音と言葉の両面でキレを生み出すマシーンでしかなし得ないリズム構築が素晴らしいの一言です。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (全てが計算しつくされたタイミングのフレーズセンス)
・メロディ ★★★ (サウンドのセンスにフレーズの美しさが追随)
・リズム ★★★★★ (パワフルでありキレもある空間を利用した絶品ドラム)
・曲構成 ★★★ (安易にバラードに逃げることなく強力ビートで締める)
・個性 ★★★★ (レイト80'sを代表する音として歴史に残る名盤)
総合評点: 9点
「NEXT PAGE」 face to ace
「NEXT PAGE」(2016 Free-style)
face to ace

<members>
ACE:vocal・guitar・chorus
本田海月:vocal・synthesizer・guitar・computer programming・chorus
1.「NEXT PAGE」 詞・曲・編:本田海月
2.「無垢の夏」 詞・曲・編:本田海月
3.「蛍の海で」 詞・曲・編:本田海月
4.「GO FOR IT」 詞・曲:ACE 編:本田海月
5.「FIGHT MAN」 詞・曲・編:本田海月
6.「ミライ」 詞・曲:ACE 編:本田海月
7.「潮騒」 詞・曲:ACE 編:本田海月
8.「flower」 詞・曲・編:本田海月
9.「MOTTO」 詞・曲:ACE 編:本田海月
<support musician>
YANZ:bass
西川貴博:drums
produced by face to ace
engineered by 本田海月・河野利昭・北雅史
● 4年半を経てもその瑞々しいサウンドセンスは不変!ライブで鍛え上げられた微に細を穿つ珠玉のエレクトロニクスが他の追随を許さない名アルバム
2011年の10周年記念盤「PROMISED MEMORIES」において、原点に立ち返りながらも集大成としてのバラエティ豊かな楽曲を取り揃えてその健在ぶりを見せつけた、ACE&本田海月の旅情エレクトロユニットface to ace。それから5年の月日が経ち、表舞台からは一歩引きつつも精力的にライブ活動をコンスタントに続けることで培ってきた熱いファンからの支持に支えられながら、最も長いインターバルの末に制作されたのが本作です。ライブ活動によるファンの絆を重視する彼ららしく、本作は配信もせず一般流通もなく、ライブ会場での物販とファンクラブ通販のみという非常に割り切ったリリース形態を選択していますが、その仕上がりはコアなファン専用の内輪受けするような局地的なクオリティを飛び越えた、メジャーフィールドで堂々と勝負できるほどの熟練の技とセンスが見事にブレンドされた素晴らしいものになりました。既に超ベテランに差し掛かっている彼らですが、豊富な経験に裏打ちされたそのメロディ&サウンドセンスは全く衰えることなく、それどころかますます進化しているといった印象さえ受けることでしょう。
5thアルバム「PEAKS」から顕著になってきたハードスタイルのギターロックに加えて、4thアルバム「Nostalgia」で確立された旅情エレクトロなキラーフレーズ満載のミディアムポップチューンが絶妙に配置された本作ですが、とにかく本田海月が手掛けた5曲の充実ぶりが半端ではありません。本作のリードチューンである「NEXT PAGE」や2人の剛気な掛け合いとスカッとしたサビで盛り上がる「FIGHT MAN」(Aメロからサビへ移行する際のカタルシス最高!)のような本田式メロディアスロックナンバーもさることながら、かのGRASS VALLEYの名曲「Cosmic Wonder」を彷彿とさせる「無垢の夏」と本田サウンドの代名詞である滲むような絵画的シンセパッドが大活躍する希代の名曲「蛍の海で」の存在感が強過ぎて、前作の「荒野」路線の本田ヴォーカル曲「flower」が地味に感じられるほどです。そんな本田楽曲の充実ぶりがACE楽曲にも影響を与えていて、本田アレンジのコンディションも高いレベルを維持しているため、珠玉のサマーバラード「潮騒」やラストを飾るメッセージ色の強い「MOTTO」なども見せ場満載の仕上がりで、全く聴き手を油断させない質の高さを見せつけてくれます。前作から5年を空けたベテランの作品にしてここまでの品質を維持するどころか進化させることができるのは、毎年多数のライブをこなし続ける豊富な経験と枯れることのない天性の音楽的センスによるものであり、だからこそ本作はファンだけのものではなくてもっと多くの一般リスナーに聴いてもらいたいです。なかなか定額制音楽配信サービスでは出会えない名盤がここにあると思いますので。
<Favorite Songs>
・「無垢の夏」
印象的なシンセフレーズで幕を開ける疾走感と爽快感を併せ持つサマーポップチューン。90年代ハウス調のリズムパターンに軽快なギターリフが絡み、本田海月特有の浮遊感たっぷりの多彩なシンセフレーズが飛び交う眩いばかりのサウンドメイクです。アウトロで唸るポルタメントなんか絶妙です。
・「蛍の海で」
2010年代でもベスト5に入ろうかという超絶名曲。ここまでPOPSという枠組の中で美しいシンセサウンドを落とし込める技術とセンスは本田海月でしか生み出し得ないと言っても過言ではありません。寄せては返すシンセパッドの芳醇さはなかなか言葉では言い表せません。無数の蛍を表現したランダムフレーズの情景描写も尋常ではない渾身の1曲です。
・「潮騒」
「蛍の海で」と共に本作において強烈な存在感を放つミディアムバラード。ここでも夏を意識した爽やかなメロディをベースに、アクが強くならないギリギリのラインを攻めたシンセベースと、もはや十八番である柔らかいシンセパッドと残響音豊かなピアノフレーズ、そして間奏の金管系音色のシンセソロのコクの深さに頭が下がります。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (シンセワークに限ればいまだ他の追随を許さない)
・メロディ ★★★★ (優れたフレーズも引き立てるアレンジ力があってこそ)
・リズム ★★ (出過ぎず出しゃばらず脇役に徹したバッキング)
・曲構成 ★★★★ (久しぶりに緩急が見事に噛み合った絶妙な曲配置に)
・個性 ★★★★ (ライブに培った経験を見事に昇華しさらなる高みへ)
総合評点: 9点
本作はライブ会場並びにファンクラブ通販限定発売です(会員以外の方も購入可能です)。
http://www.facetoace.jp/topix_nextpage.php
face to ace

<members>
ACE:vocal・guitar・chorus
本田海月:vocal・synthesizer・guitar・computer programming・chorus
1.「NEXT PAGE」 詞・曲・編:本田海月
2.「無垢の夏」 詞・曲・編:本田海月
3.「蛍の海で」 詞・曲・編:本田海月
4.「GO FOR IT」 詞・曲:ACE 編:本田海月
5.「FIGHT MAN」 詞・曲・編:本田海月
6.「ミライ」 詞・曲:ACE 編:本田海月
7.「潮騒」 詞・曲:ACE 編:本田海月
8.「flower」 詞・曲・編:本田海月
9.「MOTTO」 詞・曲:ACE 編:本田海月
<support musician>
YANZ:bass
西川貴博:drums
produced by face to ace
engineered by 本田海月・河野利昭・北雅史
● 4年半を経てもその瑞々しいサウンドセンスは不変!ライブで鍛え上げられた微に細を穿つ珠玉のエレクトロニクスが他の追随を許さない名アルバム
2011年の10周年記念盤「PROMISED MEMORIES」において、原点に立ち返りながらも集大成としてのバラエティ豊かな楽曲を取り揃えてその健在ぶりを見せつけた、ACE&本田海月の旅情エレクトロユニットface to ace。それから5年の月日が経ち、表舞台からは一歩引きつつも精力的にライブ活動をコンスタントに続けることで培ってきた熱いファンからの支持に支えられながら、最も長いインターバルの末に制作されたのが本作です。ライブ活動によるファンの絆を重視する彼ららしく、本作は配信もせず一般流通もなく、ライブ会場での物販とファンクラブ通販のみという非常に割り切ったリリース形態を選択していますが、その仕上がりはコアなファン専用の内輪受けするような局地的なクオリティを飛び越えた、メジャーフィールドで堂々と勝負できるほどの熟練の技とセンスが見事にブレンドされた素晴らしいものになりました。既に超ベテランに差し掛かっている彼らですが、豊富な経験に裏打ちされたそのメロディ&サウンドセンスは全く衰えることなく、それどころかますます進化しているといった印象さえ受けることでしょう。
5thアルバム「PEAKS」から顕著になってきたハードスタイルのギターロックに加えて、4thアルバム「Nostalgia」で確立された旅情エレクトロなキラーフレーズ満載のミディアムポップチューンが絶妙に配置された本作ですが、とにかく本田海月が手掛けた5曲の充実ぶりが半端ではありません。本作のリードチューンである「NEXT PAGE」や2人の剛気な掛け合いとスカッとしたサビで盛り上がる「FIGHT MAN」(Aメロからサビへ移行する際のカタルシス最高!)のような本田式メロディアスロックナンバーもさることながら、かのGRASS VALLEYの名曲「Cosmic Wonder」を彷彿とさせる「無垢の夏」と本田サウンドの代名詞である滲むような絵画的シンセパッドが大活躍する希代の名曲「蛍の海で」の存在感が強過ぎて、前作の「荒野」路線の本田ヴォーカル曲「flower」が地味に感じられるほどです。そんな本田楽曲の充実ぶりがACE楽曲にも影響を与えていて、本田アレンジのコンディションも高いレベルを維持しているため、珠玉のサマーバラード「潮騒」やラストを飾るメッセージ色の強い「MOTTO」なども見せ場満載の仕上がりで、全く聴き手を油断させない質の高さを見せつけてくれます。前作から5年を空けたベテランの作品にしてここまでの品質を維持するどころか進化させることができるのは、毎年多数のライブをこなし続ける豊富な経験と枯れることのない天性の音楽的センスによるものであり、だからこそ本作はファンだけのものではなくてもっと多くの一般リスナーに聴いてもらいたいです。なかなか定額制音楽配信サービスでは出会えない名盤がここにあると思いますので。
<Favorite Songs>
・「無垢の夏」
印象的なシンセフレーズで幕を開ける疾走感と爽快感を併せ持つサマーポップチューン。90年代ハウス調のリズムパターンに軽快なギターリフが絡み、本田海月特有の浮遊感たっぷりの多彩なシンセフレーズが飛び交う眩いばかりのサウンドメイクです。アウトロで唸るポルタメントなんか絶妙です。
・「蛍の海で」
2010年代でもベスト5に入ろうかという超絶名曲。ここまでPOPSという枠組の中で美しいシンセサウンドを落とし込める技術とセンスは本田海月でしか生み出し得ないと言っても過言ではありません。寄せては返すシンセパッドの芳醇さはなかなか言葉では言い表せません。無数の蛍を表現したランダムフレーズの情景描写も尋常ではない渾身の1曲です。
・「潮騒」
「蛍の海で」と共に本作において強烈な存在感を放つミディアムバラード。ここでも夏を意識した爽やかなメロディをベースに、アクが強くならないギリギリのラインを攻めたシンセベースと、もはや十八番である柔らかいシンセパッドと残響音豊かなピアノフレーズ、そして間奏の金管系音色のシンセソロのコクの深さに頭が下がります。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (シンセワークに限ればいまだ他の追随を許さない)
・メロディ ★★★★ (優れたフレーズも引き立てるアレンジ力があってこそ)
・リズム ★★ (出過ぎず出しゃばらず脇役に徹したバッキング)
・曲構成 ★★★★ (久しぶりに緩急が見事に噛み合った絶妙な曲配置に)
・個性 ★★★★ (ライブに培った経験を見事に昇華しさらなる高みへ)
総合評点: 9点
本作はライブ会場並びにファンクラブ通販限定発売です(会員以外の方も購入可能です)。
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「小川美潮」 小川美潮
「小川美潮」(1984 バップ)
小川美潮:vocals・electric piano・vocal arrangement

1.「お〜い」 詞:小川美潮 曲・編:ボーンボーンズ
2.「行っといで」 詞:小川美潮 曲・編:白井良明
3.「時計屋」 詞:小川美潮 曲・編:ボーンボーンズ
4.「ポテトロイド」 詞:小川美潮 曲・編:パッパラパーソンズ
5.「おかしな午後」 詞:小川美潮 曲:板倉文 編:白井良明
6.「光の糸 金の糸」 詞:小川美潮 曲・編:細野晴臣
7.「花の子供」 詞:小川美潮 曲:白井良明 編:オフトンズ
<support musician>
細野晴臣:all instruments
白井良明:electric guitars・acoustic guitars・electric bass・percussion・back vocal
平沢幸雄:electric guitars
板倉文:acoustic guitars
幸田実:electric bass
中原信雄:electric bass
川端民生:acoustic bass
かしぶち哲郎:drums
友田真吾:drums
西尾明博:drums
水村敬一:drums
小滝満:keyboards・computer programming
近藤達郎:keyboards・harmonica
渋谷毅:acoustic piano
清水一登:vibraphone
田村恵:指笛
produced by 白井良明
engineered by 林雅之・阿部保弘・寺田康彦
● チャクラの延長線上にあるファニー&エキセントリック度が抜けきれない個性派シンガーのソロデビューアルバム
1980年から83年にかけてその独特の不思議サウンドと巧みな演奏力でニューウェーブ界を席巻した個性派バンド、チャクラのヴォーカリスト小川美潮は、チャクラ解散前よりその個性的なキャラクターが評価され、仙波清彦率いるはにわオールスターズや坂田明主宰のWha-ha-haなどでゲストヴォーカルを務めるなど、ソロ活動の布石は打たれていました。そしてチャクラ解散翌年の84年には早速ソロシンガーとしてのデビューアルバムをリリースすることになります。小川といえばチャクラ、チャクラといえば板倉文というイメージが強く、小川美潮のプロデュースといえば板倉文以外には当時は想像しづらかったわけですが、記念すべきソロデビューに際し、小川がプロデューサーに選んだのはMOONRIDERSのギタリストにして、当時はサンプラー大魔神の変態アレンジで尖りに尖りまくっていた白井良明で、彼の作風が小川のキャラクターにマッチするかに注目が集まったわけです。
さて、そんな期待と不安が入り混じった本作ですが、蓋を開けてみれば白井良明のサンプラー無双の実験場はここでは控えられ、比較的生の質感も大事にしたサウンドに仕上げられています。その原因としてはアレンジャーを本作のために3つのグループを結成して分業制にしていることが挙げられます。盟友のかしぶち哲郎と元シネマの小滝満と組んだ白井アレンジのほかに、白井本人に加えチャクラの盟友近藤達郎、ポータブルロックの中原信雄、Shi-Shonenの友田真吾がメンバーに名を連ねた「ボーンボーンズ」、はにわちゃんの平沢幸男(上侍)、後にQujilaに参加する幸田実のほか、西尾明博、水村敬一のツインドラムが参加した「パッパラパーソンズ」、白井が渋谷毅や川端民生といったジャズ畑のミュージシャンと異色のコラボに挑戦した「オフトンズ」の3つのグループが担当した楽曲は、それぞれ個性的な演奏力をバックにしたトリッキーなアレンジが施されており、エレクトロニクスな雰囲気を感じさせない作風となっています。そんな中異彩を放つのは細野晴臣が全てのサウンドを手がけた「光の糸 金の糸」で、この楽曲だけは「TU TU」〜「パラレリズム」期の越美晴(コシミハル)の空気を存分に纏ったホソノイド・エレクトロニクスを堪能できます。しかしながら全体としては、生演奏主体のオーガニック感覚が上回っていると思います。とはいえ、後年のEPIC3部作のような熟練のPOPSフレーバーというには、まだまだニューウェーブ色が抜け切らない部分がまだまだ発展途上と思わせる部分もあり、未完成な粗さも同居する作品とも言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「行っといで」
変拍子を交えながら開放感のあるギターサウンドで爽やかさを演出したリードチューン。E-bow的なロングトーンを中心としたギターフレーズ、間奏やアウトロで見られるサスペンスタッチの場面転換など、ギミックも効かせながらも王道といえば王道の名曲です。
・「光の糸 金の糸」
細野晴臣節全開の全盛期の越美晴を彷彿とさせるマジカルなエレクトロポップナンバー。しかしながら小川のファニーボイスと童話的なポエトリーリーディングによって空気感は全く別物となっています。細かいリズムトラックに乗る宗教感覚なファンタジアはこの時期の細野サウンドの真骨頂です。
・「花の子供」
夢見心地のサウンドデザインが光るラストを飾るミディアムチューン。逆回転ギミックを効果的に使ったフレーズやドリーミーなサウンドを構築するために不可欠な深いリバーブによるアンビエント感がこの楽曲の最大の魅力です。
<評点>
・サウンド ★★ (安定した演奏力に裏打ちされたバラエティに富むサウンド)
・メロディ ★ (トリッキーさが前面に出てしまったためとっつきにくさも)
・リズム ★★★ (クセのあるドラミングとリズムワークで緻密に構築)
・曲構成 ★ (7曲で30分以内と可能性を感じるだけに物足りなさが残る)
・個性 ★ (チャクラを引きずってしまいキャラ的に過渡期にある)
総合評点: 6点
小川美潮:vocals・electric piano・vocal arrangement

1.「お〜い」 詞:小川美潮 曲・編:ボーンボーンズ
2.「行っといで」 詞:小川美潮 曲・編:白井良明
3.「時計屋」 詞:小川美潮 曲・編:ボーンボーンズ
4.「ポテトロイド」 詞:小川美潮 曲・編:パッパラパーソンズ
5.「おかしな午後」 詞:小川美潮 曲:板倉文 編:白井良明
6.「光の糸 金の糸」 詞:小川美潮 曲・編:細野晴臣
7.「花の子供」 詞:小川美潮 曲:白井良明 編:オフトンズ
<support musician>
細野晴臣:all instruments
白井良明:electric guitars・acoustic guitars・electric bass・percussion・back vocal
平沢幸雄:electric guitars
板倉文:acoustic guitars
幸田実:electric bass
中原信雄:electric bass
川端民生:acoustic bass
かしぶち哲郎:drums
友田真吾:drums
西尾明博:drums
水村敬一:drums
小滝満:keyboards・computer programming
近藤達郎:keyboards・harmonica
渋谷毅:acoustic piano
清水一登:vibraphone
田村恵:指笛
produced by 白井良明
engineered by 林雅之・阿部保弘・寺田康彦
● チャクラの延長線上にあるファニー&エキセントリック度が抜けきれない個性派シンガーのソロデビューアルバム
1980年から83年にかけてその独特の不思議サウンドと巧みな演奏力でニューウェーブ界を席巻した個性派バンド、チャクラのヴォーカリスト小川美潮は、チャクラ解散前よりその個性的なキャラクターが評価され、仙波清彦率いるはにわオールスターズや坂田明主宰のWha-ha-haなどでゲストヴォーカルを務めるなど、ソロ活動の布石は打たれていました。そしてチャクラ解散翌年の84年には早速ソロシンガーとしてのデビューアルバムをリリースすることになります。小川といえばチャクラ、チャクラといえば板倉文というイメージが強く、小川美潮のプロデュースといえば板倉文以外には当時は想像しづらかったわけですが、記念すべきソロデビューに際し、小川がプロデューサーに選んだのはMOONRIDERSのギタリストにして、当時はサンプラー大魔神の変態アレンジで尖りに尖りまくっていた白井良明で、彼の作風が小川のキャラクターにマッチするかに注目が集まったわけです。
さて、そんな期待と不安が入り混じった本作ですが、蓋を開けてみれば白井良明のサンプラー無双の実験場はここでは控えられ、比較的生の質感も大事にしたサウンドに仕上げられています。その原因としてはアレンジャーを本作のために3つのグループを結成して分業制にしていることが挙げられます。盟友のかしぶち哲郎と元シネマの小滝満と組んだ白井アレンジのほかに、白井本人に加えチャクラの盟友近藤達郎、ポータブルロックの中原信雄、Shi-Shonenの友田真吾がメンバーに名を連ねた「ボーンボーンズ」、はにわちゃんの平沢幸男(上侍)、後にQujilaに参加する幸田実のほか、西尾明博、水村敬一のツインドラムが参加した「パッパラパーソンズ」、白井が渋谷毅や川端民生といったジャズ畑のミュージシャンと異色のコラボに挑戦した「オフトンズ」の3つのグループが担当した楽曲は、それぞれ個性的な演奏力をバックにしたトリッキーなアレンジが施されており、エレクトロニクスな雰囲気を感じさせない作風となっています。そんな中異彩を放つのは細野晴臣が全てのサウンドを手がけた「光の糸 金の糸」で、この楽曲だけは「TU TU」〜「パラレリズム」期の越美晴(コシミハル)の空気を存分に纏ったホソノイド・エレクトロニクスを堪能できます。しかしながら全体としては、生演奏主体のオーガニック感覚が上回っていると思います。とはいえ、後年のEPIC3部作のような熟練のPOPSフレーバーというには、まだまだニューウェーブ色が抜け切らない部分がまだまだ発展途上と思わせる部分もあり、未完成な粗さも同居する作品とも言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「行っといで」
変拍子を交えながら開放感のあるギターサウンドで爽やかさを演出したリードチューン。E-bow的なロングトーンを中心としたギターフレーズ、間奏やアウトロで見られるサスペンスタッチの場面転換など、ギミックも効かせながらも王道といえば王道の名曲です。
・「光の糸 金の糸」
細野晴臣節全開の全盛期の越美晴を彷彿とさせるマジカルなエレクトロポップナンバー。しかしながら小川のファニーボイスと童話的なポエトリーリーディングによって空気感は全く別物となっています。細かいリズムトラックに乗る宗教感覚なファンタジアはこの時期の細野サウンドの真骨頂です。
・「花の子供」
夢見心地のサウンドデザインが光るラストを飾るミディアムチューン。逆回転ギミックを効果的に使ったフレーズやドリーミーなサウンドを構築するために不可欠な深いリバーブによるアンビエント感がこの楽曲の最大の魅力です。
<評点>
・サウンド ★★ (安定した演奏力に裏打ちされたバラエティに富むサウンド)
・メロディ ★ (トリッキーさが前面に出てしまったためとっつきにくさも)
・リズム ★★★ (クセのあるドラミングとリズムワークで緻密に構築)
・曲構成 ★ (7曲で30分以内と可能性を感じるだけに物足りなさが残る)
・個性 ★ (チャクラを引きずってしまいキャラ的に過渡期にある)
総合評点: 6点
「ファースト・フライト」 井上ほの花
「ファースト・フライト」(2016 CLINCK)
井上ほの花:vocals

1.「月世界フライト」 詞・曲・編:無果汁団
2.「スパークリング・チャイナタウン」 詞・曲・編:無果汁団
3.「虹のファンタジア」 詞・曲・編:無果汁団
4.「幕間」 詞・曲・編:無果汁団
5.「わすれもの」 詞・曲・編:無果汁団
<support musician>
井上喜久子:vocal
ショック太郎:all instruments
とんCHAN:background vocals
produced by ショック太郎
mixing engineered by 森達彦
vocal recording engineered by 徳永祐也
● 古き良き80’s歌謡のファンタジックな世界をカラフルで細部を極めた美メロ&ラグジュアリーサウンドで綴る短編アルバム
ベテラン声優・井上喜久子を母に持つ井上ほの花は、2015年にナムコの人気音楽ゲーム「太鼓の達人」に使用された楽曲「恋幻想(Love Fantasy)」の歌い手として静かに表舞台へ登場します。HONOKA名義で歌われたこの楽曲を手がけたのは、職人芸系POPSユニットとして注目を浴びていたblue marbleの解散により、独立した楽曲制作チーム(ショック太郎・とんCHAN)「無果汁団」で、後期blue marbleの続編といった印象のファンタジックなメロディ&コードワークによるこの名曲は、ゲーム内楽曲という枠にとどまらないクオリティを兼ね備えた楽曲として隠れた評価を得ていました。またそれ以上にHONOKAのピュアな歌唱にも注目が集まり、そのプロジェクトの成就が待たれていましたが、翌2016年末には堂々と井上ほの花名義を冠して、5曲入りミニアルバムである本作を完成、世間にそのハイクオリティな楽曲を世に問うことになりました。
当然全ての楽曲は変幻自在のPOPS職人チーム・無果汁団が手がけていますが、5曲とも非常に多幸感に溢れたドリーミーで幻想的なイメージを喚起させるもので、それは種々のフレーズやS.Eに使用されるシンセサイザーとそれらを美しく際立たせ引き立たせるミキシングワークによるものと言えるでしょう。楽曲自体は複雑なコード進行と美しきメロディラインに裏打ちされたミドル80'sの古き良きテクノロジーPOPS歌謡に振り切っており、そのあたりはショック太郎の80'sテクノロジー歌謡への憧憬を存分にアウトプットできる創造性と、80年代をシンセプログラマーとして駆け抜けてきた森達彦の酸いも甘いも知り尽くしたサウンドデザインのケミストリーによって生まれたと言っても過言ではないでしょう。そして魅力的なのは井上のストレートな声質による歌唱で、穢れを知らない涼やかな歌いっぷりはドリーミーで火現実感すら感じさせるこの質の高い楽曲群に絶妙にマッチしています。恐らくblue marbleからの大野方栄や武井麻里子と比較しても、そのジョイント感覚は最もしっくりきているのではないかと思われます。本作は5曲というハーフサイズの作品ですが、このクオリティが維持できれば当然フルアルバムに期待したいところですし、実現できれば時代を代表する究極のPOPS作品として名を残すことになろうかと個人的には思います。決してプレッシャーをかけたいわけではないですが、それほどまでに期待感を煽られる名盤ですので、興味があれば是非ご一聴下さい。
<Favorite Songs>
・「スパークリング・チャイナタウン」
後に7inchレコードでシングルカットされる珠玉の名曲。何と言ってもこの楽曲のポイントは、トリッキーなリズム&シンセベースと不思議コードワークによるAメロがあってこその、80年代中期のMIDIレコードの音満載のオリエンタリズム溢れるキラーメロ炸裂のサビの存在感です。
・「わすれもの」
イントロから既にワクワクが止まらない完成度の高さに頭がさがるラストチューン。本作のどの楽曲にも言えることですが、そのフレーズの複雑さを全く感じさせない楽曲としての無理のない展開力が半端ではありません。本作でもBメロのロマンティックなコード進行が素晴らしいです。ドリーミーなエンディングも大好き。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (シンセの音色やエフェクトだけで会話できる)
・メロディ ★★★★★ (親しみやすさと玄人好みと仕掛けが見事に同居)
・リズム ★★★★ (80'sドラムの音処理再現率はさすがの職人芸)
・曲構成 ★★ (統一感は抜群だがやはり5曲は物足りない)
・個性 ★★★ (この優れた楽曲群に溶け込む清純ヴォーカル)
総合評点: 9点
井上ほの花:vocals

1.「月世界フライト」 詞・曲・編:無果汁団
2.「スパークリング・チャイナタウン」 詞・曲・編:無果汁団
3.「虹のファンタジア」 詞・曲・編:無果汁団
4.「幕間」 詞・曲・編:無果汁団
5.「わすれもの」 詞・曲・編:無果汁団
<support musician>
井上喜久子:vocal
ショック太郎:all instruments
とんCHAN:background vocals
produced by ショック太郎
mixing engineered by 森達彦
vocal recording engineered by 徳永祐也
● 古き良き80’s歌謡のファンタジックな世界をカラフルで細部を極めた美メロ&ラグジュアリーサウンドで綴る短編アルバム
ベテラン声優・井上喜久子を母に持つ井上ほの花は、2015年にナムコの人気音楽ゲーム「太鼓の達人」に使用された楽曲「恋幻想(Love Fantasy)」の歌い手として静かに表舞台へ登場します。HONOKA名義で歌われたこの楽曲を手がけたのは、職人芸系POPSユニットとして注目を浴びていたblue marbleの解散により、独立した楽曲制作チーム(ショック太郎・とんCHAN)「無果汁団」で、後期blue marbleの続編といった印象のファンタジックなメロディ&コードワークによるこの名曲は、ゲーム内楽曲という枠にとどまらないクオリティを兼ね備えた楽曲として隠れた評価を得ていました。またそれ以上にHONOKAのピュアな歌唱にも注目が集まり、そのプロジェクトの成就が待たれていましたが、翌2016年末には堂々と井上ほの花名義を冠して、5曲入りミニアルバムである本作を完成、世間にそのハイクオリティな楽曲を世に問うことになりました。
当然全ての楽曲は変幻自在のPOPS職人チーム・無果汁団が手がけていますが、5曲とも非常に多幸感に溢れたドリーミーで幻想的なイメージを喚起させるもので、それは種々のフレーズやS.Eに使用されるシンセサイザーとそれらを美しく際立たせ引き立たせるミキシングワークによるものと言えるでしょう。楽曲自体は複雑なコード進行と美しきメロディラインに裏打ちされたミドル80'sの古き良きテクノロジーPOPS歌謡に振り切っており、そのあたりはショック太郎の80'sテクノロジー歌謡への憧憬を存分にアウトプットできる創造性と、80年代をシンセプログラマーとして駆け抜けてきた森達彦の酸いも甘いも知り尽くしたサウンドデザインのケミストリーによって生まれたと言っても過言ではないでしょう。そして魅力的なのは井上のストレートな声質による歌唱で、穢れを知らない涼やかな歌いっぷりはドリーミーで火現実感すら感じさせるこの質の高い楽曲群に絶妙にマッチしています。恐らくblue marbleからの大野方栄や武井麻里子と比較しても、そのジョイント感覚は最もしっくりきているのではないかと思われます。本作は5曲というハーフサイズの作品ですが、このクオリティが維持できれば当然フルアルバムに期待したいところですし、実現できれば時代を代表する究極のPOPS作品として名を残すことになろうかと個人的には思います。決してプレッシャーをかけたいわけではないですが、それほどまでに期待感を煽られる名盤ですので、興味があれば是非ご一聴下さい。
<Favorite Songs>
・「スパークリング・チャイナタウン」
後に7inchレコードでシングルカットされる珠玉の名曲。何と言ってもこの楽曲のポイントは、トリッキーなリズム&シンセベースと不思議コードワークによるAメロがあってこその、80年代中期のMIDIレコードの音満載のオリエンタリズム溢れるキラーメロ炸裂のサビの存在感です。
・「わすれもの」
イントロから既にワクワクが止まらない完成度の高さに頭がさがるラストチューン。本作のどの楽曲にも言えることですが、そのフレーズの複雑さを全く感じさせない楽曲としての無理のない展開力が半端ではありません。本作でもBメロのロマンティックなコード進行が素晴らしいです。ドリーミーなエンディングも大好き。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (シンセの音色やエフェクトだけで会話できる)
・メロディ ★★★★★ (親しみやすさと玄人好みと仕掛けが見事に同居)
・リズム ★★★★ (80'sドラムの音処理再現率はさすがの職人芸)
・曲構成 ★★ (統一感は抜群だがやはり5曲は物足りない)
・個性 ★★★ (この優れた楽曲群に溶け込む清純ヴォーカル)
総合評点: 9点
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