「Abandonware.」 Roman à Clef
「Abandonware.」(2015 Tugboat)
Roman à Clef

<members>
Ryan Newmyer:vocals・guitar・bass・computer programming・synthesizers
Kurt Feldman:computer programming・percussion・guitar・synthesizers・bass
Jen Goma:vocals
1.「Abandonware (Hannah and Zoe)」 Ryan Newmyer
2.「The Prisoner」 Ryan Newmyer
3.「PSBTV」 Ryan Newmyer
4.「Friends Today」 Ryan Newmyer
5.「Bye/Gone」 Ryan Newmyer
6.「Lucky Toasts」 Ryan Newmyer
7.「Roman Clay (27 BC)」 Ryan Newmyer
8.「Abandonware (Josh and Jer)」 Ryan Newmyer
<support musician>
Chris Georges:guitar
Ben Daniels:synthesizers
produced by Kurt Feldman・Ryan Newmyer
engineered by Kurt Feldman
● USインディーポップ界に現れたPrefab Sproutの正統派後継者が作り上げた瑞々しさがたまらないロマンティックPOPSの名盤
その瑞々しいポップセンスとアコースティックとエレクトロニクスをクロスオーバーするかのような絶妙なサウンドメイクによって、80年代〜90年代にその存在感を知らしめた究極のPOPSグループPrefab Spraut。この偉大なバンドについてここで改めて振り返る必要はありませんが、その後も世界各国で数々のフォロワーを生み出しており、その珠玉のメロディラインは次世代に受け継がれています。フィラデルフィアのドリームギターポップバンドA Sunny Day in Glasgowに途中参加しているベーシストのRyan Newmyerもそのフォロワーの1人で、父親の影響により培ってきた80's POPSへの憧憬を形にすべく自身の新プロジェクトを開始したのが2014年。「Roman à Clef」と名付けられたこのプロジェクトはA Sunny Day in Glasgowの同僚である女性ヴォーカリストJen Gomaを迎えるとともに、現在最もきらびやかで瑞々しい80'sエレクトリックサウンドの構築に長けていると言っても過言ではないIce Choirの首謀者にして元Pains of Being Pure at HeartのKurt Feldmanをメンバー兼サウンドプロデューサーに加えた3人組としてレコーディングを開始、翌2015年に1stアルバムである本作を完成させるに至ります。
80年代生まれの彼らが80'sギターポップへの影響を隠すことなく生み出された本作のサウンドは想像以上にPrefab Sprautの匂いを強く感じさせる仕上がりです。麗しいコードワークから涼やかで透明感たっぷりのJen Gomaのコーラスに引き込まれる「Abandonware (Hannah and Zoe)」から一気に古き良き80'sへフィードバックさせ、その後もあの時代より評価され続けてきたメロディアスなギターポップの感覚をいやが応にも思い出させてくれます。そしてその空気感を演出しているのがIce Choirでその洗練された80'sオマージュを全開にした楽曲を緻密に構築するサウンドメイカーKurt Feldman。Ryan NewmyerがPaddy McAloon役、Jen GomaがWendy Smith役とするならば、Kurt Feldmanはまさに全盛期のPrefab SprautのサウンドプロデューサーThomas Dolby役でしょう。Paddyの類まれなポップセンスを淡いエレクトロニクスで引き立てる緻密なサウンドメイクに長けたマッドサイエンティストの異名を欲しいままにしたThomas Dolbyさながらに、RyanのPaddyオマージュ感溢れるハイセンスなメロディラインに、時には柔らかいシンセパッドでバックアップし、時にはエレクトロニクスを表に出したシーケンスで彩りながら、それでいて音の隙間を大事にしたそのアトモスフィアを形成するセンスで、見事にそのアレンジメント能力を発揮しています。特に「Bye/Gone」や「Lucky Toasts」などは彼のサウンドメイクの確固たる指針を感じさせる評価すべき楽曲です。また、それ以上に本作はタイトル曲を最初と最後に分けることで物語性を確保している部分が実に良いです。サブクリプションサービスが主流となり、シャッフルした楽曲の聴き方が主流となりつつある現在の音楽視聴環境にあって、アルバムという作品を演出するには物語性が必要であって、本作にはその矜持が感じられます。タイトル曲「Abandonware.」の2曲は単独では味わえないカタルシスがアルバム全体を聴くことによって味わえますし、こうした感覚を味わえるからこそアルバムというパッケージは(もちろんジャケットも含めて)やはり良いなあと思うわけです。
<Favorite Songs>
・「PSBTV」
爽やかなギターワークにリバーブ感たっぷりのコーラスが清涼感溢れる本作のリードチューン。ギターサウンド中心と思いきや、シンセパッドの広がりが楽曲全体のアクセントになっていると共に、チープなリズムボックスの導入で目先を変えたり仕掛けも十分です。
・「Bye/Gone」
全般的にPrefab的な楽曲が多い本作にあって、最も80'sヒッツに近いテイストを感じるエレポップチューン。力強いゲートリバーブのスネアと懐かしいオケヒット、このあたりはKurt Feldmanの得意とする音使いかもしれません。1曲の中でもめまぐるしく場面が切り替わりながらもトータル感を失わない飽きさせない構成も素晴らしいです。
・「Abandonware (Josh and Jer)」
本作のまごうことなきタイトルチューン。オープニングで80'sへタイムトラベルした彼らが現代に戻ってくる感傷的なエンディングがそこの待ち構えています。魅惑のコードワークと包み込むようなドリーミーなシンセサウンド&コーラスワーク、1つの旅の終わりを想起させる物語性が素晴らしいです。
<評点>
・サウンド ★★★ (シンセで着飾りながらも隙間を考えた洒落た音作り)
・メロディ ★★★★ (郷愁と憧憬に満ちた懐かしのメロディセンス)
・リズム ★★★ (ドラムというよりギターの入れ方のタイミングが○)
・曲構成 ★★★★ (物語性は抜群!惜しむらくはもう2曲ほど欲しい)
・個性 ★★ (Prefabフォロワーとして再現率と純度は高い)
総合評点: 8点
Roman à Clef

<members>
Ryan Newmyer:vocals・guitar・bass・computer programming・synthesizers
Kurt Feldman:computer programming・percussion・guitar・synthesizers・bass
Jen Goma:vocals
1.「Abandonware (Hannah and Zoe)」 Ryan Newmyer
2.「The Prisoner」 Ryan Newmyer
3.「PSBTV」 Ryan Newmyer
4.「Friends Today」 Ryan Newmyer
5.「Bye/Gone」 Ryan Newmyer
6.「Lucky Toasts」 Ryan Newmyer
7.「Roman Clay (27 BC)」 Ryan Newmyer
8.「Abandonware (Josh and Jer)」 Ryan Newmyer
<support musician>
Chris Georges:guitar
Ben Daniels:synthesizers
produced by Kurt Feldman・Ryan Newmyer
engineered by Kurt Feldman
● USインディーポップ界に現れたPrefab Sproutの正統派後継者が作り上げた瑞々しさがたまらないロマンティックPOPSの名盤
その瑞々しいポップセンスとアコースティックとエレクトロニクスをクロスオーバーするかのような絶妙なサウンドメイクによって、80年代〜90年代にその存在感を知らしめた究極のPOPSグループPrefab Spraut。この偉大なバンドについてここで改めて振り返る必要はありませんが、その後も世界各国で数々のフォロワーを生み出しており、その珠玉のメロディラインは次世代に受け継がれています。フィラデルフィアのドリームギターポップバンドA Sunny Day in Glasgowに途中参加しているベーシストのRyan Newmyerもそのフォロワーの1人で、父親の影響により培ってきた80's POPSへの憧憬を形にすべく自身の新プロジェクトを開始したのが2014年。「Roman à Clef」と名付けられたこのプロジェクトはA Sunny Day in Glasgowの同僚である女性ヴォーカリストJen Gomaを迎えるとともに、現在最もきらびやかで瑞々しい80'sエレクトリックサウンドの構築に長けていると言っても過言ではないIce Choirの首謀者にして元Pains of Being Pure at HeartのKurt Feldmanをメンバー兼サウンドプロデューサーに加えた3人組としてレコーディングを開始、翌2015年に1stアルバムである本作を完成させるに至ります。
80年代生まれの彼らが80'sギターポップへの影響を隠すことなく生み出された本作のサウンドは想像以上にPrefab Sprautの匂いを強く感じさせる仕上がりです。麗しいコードワークから涼やかで透明感たっぷりのJen Gomaのコーラスに引き込まれる「Abandonware (Hannah and Zoe)」から一気に古き良き80'sへフィードバックさせ、その後もあの時代より評価され続けてきたメロディアスなギターポップの感覚をいやが応にも思い出させてくれます。そしてその空気感を演出しているのがIce Choirでその洗練された80'sオマージュを全開にした楽曲を緻密に構築するサウンドメイカーKurt Feldman。Ryan NewmyerがPaddy McAloon役、Jen GomaがWendy Smith役とするならば、Kurt Feldmanはまさに全盛期のPrefab SprautのサウンドプロデューサーThomas Dolby役でしょう。Paddyの類まれなポップセンスを淡いエレクトロニクスで引き立てる緻密なサウンドメイクに長けたマッドサイエンティストの異名を欲しいままにしたThomas Dolbyさながらに、RyanのPaddyオマージュ感溢れるハイセンスなメロディラインに、時には柔らかいシンセパッドでバックアップし、時にはエレクトロニクスを表に出したシーケンスで彩りながら、それでいて音の隙間を大事にしたそのアトモスフィアを形成するセンスで、見事にそのアレンジメント能力を発揮しています。特に「Bye/Gone」や「Lucky Toasts」などは彼のサウンドメイクの確固たる指針を感じさせる評価すべき楽曲です。また、それ以上に本作はタイトル曲を最初と最後に分けることで物語性を確保している部分が実に良いです。サブクリプションサービスが主流となり、シャッフルした楽曲の聴き方が主流となりつつある現在の音楽視聴環境にあって、アルバムという作品を演出するには物語性が必要であって、本作にはその矜持が感じられます。タイトル曲「Abandonware.」の2曲は単独では味わえないカタルシスがアルバム全体を聴くことによって味わえますし、こうした感覚を味わえるからこそアルバムというパッケージは(もちろんジャケットも含めて)やはり良いなあと思うわけです。
<Favorite Songs>
・「PSBTV」
爽やかなギターワークにリバーブ感たっぷりのコーラスが清涼感溢れる本作のリードチューン。ギターサウンド中心と思いきや、シンセパッドの広がりが楽曲全体のアクセントになっていると共に、チープなリズムボックスの導入で目先を変えたり仕掛けも十分です。
・「Bye/Gone」
全般的にPrefab的な楽曲が多い本作にあって、最も80'sヒッツに近いテイストを感じるエレポップチューン。力強いゲートリバーブのスネアと懐かしいオケヒット、このあたりはKurt Feldmanの得意とする音使いかもしれません。1曲の中でもめまぐるしく場面が切り替わりながらもトータル感を失わない飽きさせない構成も素晴らしいです。
・「Abandonware (Josh and Jer)」
本作のまごうことなきタイトルチューン。オープニングで80'sへタイムトラベルした彼らが現代に戻ってくる感傷的なエンディングがそこの待ち構えています。魅惑のコードワークと包み込むようなドリーミーなシンセサウンド&コーラスワーク、1つの旅の終わりを想起させる物語性が素晴らしいです。
<評点>
・サウンド ★★★ (シンセで着飾りながらも隙間を考えた洒落た音作り)
・メロディ ★★★★ (郷愁と憧憬に満ちた懐かしのメロディセンス)
・リズム ★★★ (ドラムというよりギターの入れ方のタイミングが○)
・曲構成 ★★★★ (物語性は抜群!惜しむらくはもう2曲ほど欲しい)
・個性 ★★ (Prefabフォロワーとして再現率と純度は高い)
総合評点: 8点
「LOOKING FOR WONDER」 Her Ghost Friend
「LOOKING FOR WONDER」(2012 アートユニオン)
Her Ghost Friend

<members>
おのしのぶ:vocal
DJ Obake:all instruments
1.「マジカルミステリーサークル」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
2.「星キラリ、クレパス」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
3.「にじ色のスニーカー」 詞:近田春夫 曲:細野晴臣 編:Her Ghost Friend
4.「雲の多い日」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
5.「フォーエヴァーネヴァーモア」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
6.「夏のひみつ」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
7.「ハニームーンで乾杯する?」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
8.「うたたね」 曲・編:Her Ghost Friend
9.「風の谷のメトロウェイ」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
10.「ふるえるくちびる」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
11.「空想レジデンス」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
12.「日曜午前七時半」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
13.「ミラクルパワフル♡ビート」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
14.「宇宙」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
produced by Her Ghost Friend
engineered by Her Ghost Friend
● 1stの路線を引き継いでメルヘンティックで童話的なエレクトリックPOPSを緻密なサウンドメイクで彩る2ndアルバム
2010年代に突如として現れたサウンドからデザイン、コンセプトまで完全家内制手工業状態でこなしていく武蔵野美術大学出身の男女ユニットHer Ghost Friend。11年にリリースされた1stアルバム「Her Ghost Friend」では、絵本から飛び出したかのようなチャイルディッシュでメルヘンティックな世界観を、キラキラとしか言いようがないエレクトリックサウンドで彩った完成度の高さに驚かされましたが、彼らの創作意欲はとどまることを知らず、間髪入れず翌年には2ndアルバムとして本作のリリースに至ります。コンセプトアルバムとして1つの物語を複数の楽曲で表現しようとする自身の作品への愛情がひしひしと感じられる本作は、アートワークを手がけながら前作同様ふんわりとしてつかみどころのないアンニュイヴォーカルのおのしのぶと、彼女自身をモチーフにしたと思われる物語をイマジネーション豊かな電子音で包み込んだDJ Obakeの、ストーリーテラーとしてのケミストリーが絶妙にハマった作品として、期待感と安心感が得られる良質なアルバムに仕上がっていると思われます。
このユニットを結成する以前はダークエレクトロ系を志向していたらしいDJ Obakeはいわゆる90年代テクノミュージックの影響を色濃く受けながら、様々なジャンルを経験したこその引き出しの多さで勝負しているクリエイターと思われますが、相方のおのしのぶと出会ってからキュートでスピリチュアルな電子音を中心とした音楽性に変化したと言うこともあって、本作でもどこかとぼけたように不安定なヴォーカルを最大限に生かした浮世離れしたサウンドメイクで聴き手を楽しませてくれます。特に秀逸なのは複数のシーケンスの組み合わせ方で、チープなアルペジオからアクセントの効いたパワフルなシーケンスフレーズまで、多彩なシンセサイザー音色を基調に場面場面で重ね合わせながら世界を形成していく様は、まさにフリーペインティングを得意とする個性的な絵師のようなイメージさえ想起させます。そのような緻密に編み込まれたサウンドの上を、鼻歌を歌ったりライムを分だりしながら自由に闊歩してくおのしのぶのフリーダムさがなんとも微笑ましく、引き込まれたが最後、彼ら達の圧倒的な世界観にどっぷり浸かってしまうことになること請け合いです。2ndにして既に方向性の軸が出来上がったと思われる「空想電子ポップ」Her Ghost Friendのサウンドワールド。その後もその姿は全く変わることなくマイペースに活動していくことになります。なんだかものすごく理想的な活動スタイルのように思えてなりません。
<Favorite Songs>
・「にじ色のスニーカー」
心地よい爽やかな電子音シーケンスに乗った四つ打ちアップテンポのエレポップチューン。浮遊感のあるシンセも加わって音世界の広がり方も自然で良いです。エレドラによる4段階に降りてくるフィルインも懐かしさがありますが、脱力感のあるヴォーカルとの相性も悪くないと思います。
・「風の谷のメトロウェイ」
粒の立ったシーケンスをベースに雰囲気たっぷりのイントロが滲むミディアムエレクトロ。チープなリズムボックス調のリズムトラックであるが、リズムを形成するのはシーケンスの音の抜き差し。幾重にも重ねられたシーケンスマジックがこの楽曲でも魅力的です。
・「宇宙」
多彩な電子音とストリングスでイマジネーションを刺激されるポエトリーリーディング。キュイーンと左右に飛び交う電子の粒にローファイなストリングスによる荘厳なサウンドワークは本作のエンディングにふさわしいと思われます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (楽曲ごとに表情を変える多彩な電子音が美しい)
・メロディ ★ (表面のとっつき易さと裏腹にキャッチー性は薄い)
・リズム ★★ (リズム本体よりシーケンス自体のリズム感が秀逸)
・曲構成 ★★ (作品を1つの物語とするためトータル感を重視)
・個性 ★★ (目指す方向性は確立したが楽曲毎の力はこれから)
総合評点: 7点
Her Ghost Friend

<members>
おのしのぶ:vocal
DJ Obake:all instruments
1.「マジカルミステリーサークル」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
2.「星キラリ、クレパス」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
3.「にじ色のスニーカー」 詞:近田春夫 曲:細野晴臣 編:Her Ghost Friend
4.「雲の多い日」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
5.「フォーエヴァーネヴァーモア」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
6.「夏のひみつ」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
7.「ハニームーンで乾杯する?」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
8.「うたたね」 曲・編:Her Ghost Friend
9.「風の谷のメトロウェイ」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
10.「ふるえるくちびる」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
11.「空想レジデンス」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
12.「日曜午前七時半」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
13.「ミラクルパワフル♡ビート」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
14.「宇宙」 詞・曲・編:Her Ghost Friend
produced by Her Ghost Friend
engineered by Her Ghost Friend
● 1stの路線を引き継いでメルヘンティックで童話的なエレクトリックPOPSを緻密なサウンドメイクで彩る2ndアルバム
2010年代に突如として現れたサウンドからデザイン、コンセプトまで完全家内制手工業状態でこなしていく武蔵野美術大学出身の男女ユニットHer Ghost Friend。11年にリリースされた1stアルバム「Her Ghost Friend」では、絵本から飛び出したかのようなチャイルディッシュでメルヘンティックな世界観を、キラキラとしか言いようがないエレクトリックサウンドで彩った完成度の高さに驚かされましたが、彼らの創作意欲はとどまることを知らず、間髪入れず翌年には2ndアルバムとして本作のリリースに至ります。コンセプトアルバムとして1つの物語を複数の楽曲で表現しようとする自身の作品への愛情がひしひしと感じられる本作は、アートワークを手がけながら前作同様ふんわりとしてつかみどころのないアンニュイヴォーカルのおのしのぶと、彼女自身をモチーフにしたと思われる物語をイマジネーション豊かな電子音で包み込んだDJ Obakeの、ストーリーテラーとしてのケミストリーが絶妙にハマった作品として、期待感と安心感が得られる良質なアルバムに仕上がっていると思われます。
このユニットを結成する以前はダークエレクトロ系を志向していたらしいDJ Obakeはいわゆる90年代テクノミュージックの影響を色濃く受けながら、様々なジャンルを経験したこその引き出しの多さで勝負しているクリエイターと思われますが、相方のおのしのぶと出会ってからキュートでスピリチュアルな電子音を中心とした音楽性に変化したと言うこともあって、本作でもどこかとぼけたように不安定なヴォーカルを最大限に生かした浮世離れしたサウンドメイクで聴き手を楽しませてくれます。特に秀逸なのは複数のシーケンスの組み合わせ方で、チープなアルペジオからアクセントの効いたパワフルなシーケンスフレーズまで、多彩なシンセサイザー音色を基調に場面場面で重ね合わせながら世界を形成していく様は、まさにフリーペインティングを得意とする個性的な絵師のようなイメージさえ想起させます。そのような緻密に編み込まれたサウンドの上を、鼻歌を歌ったりライムを分だりしながら自由に闊歩してくおのしのぶのフリーダムさがなんとも微笑ましく、引き込まれたが最後、彼ら達の圧倒的な世界観にどっぷり浸かってしまうことになること請け合いです。2ndにして既に方向性の軸が出来上がったと思われる「空想電子ポップ」Her Ghost Friendのサウンドワールド。その後もその姿は全く変わることなくマイペースに活動していくことになります。なんだかものすごく理想的な活動スタイルのように思えてなりません。
<Favorite Songs>
・「にじ色のスニーカー」
心地よい爽やかな電子音シーケンスに乗った四つ打ちアップテンポのエレポップチューン。浮遊感のあるシンセも加わって音世界の広がり方も自然で良いです。エレドラによる4段階に降りてくるフィルインも懐かしさがありますが、脱力感のあるヴォーカルとの相性も悪くないと思います。
・「風の谷のメトロウェイ」
粒の立ったシーケンスをベースに雰囲気たっぷりのイントロが滲むミディアムエレクトロ。チープなリズムボックス調のリズムトラックであるが、リズムを形成するのはシーケンスの音の抜き差し。幾重にも重ねられたシーケンスマジックがこの楽曲でも魅力的です。
・「宇宙」
多彩な電子音とストリングスでイマジネーションを刺激されるポエトリーリーディング。キュイーンと左右に飛び交う電子の粒にローファイなストリングスによる荘厳なサウンドワークは本作のエンディングにふさわしいと思われます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (楽曲ごとに表情を変える多彩な電子音が美しい)
・メロディ ★ (表面のとっつき易さと裏腹にキャッチー性は薄い)
・リズム ★★ (リズム本体よりシーケンス自体のリズム感が秀逸)
・曲構成 ★★ (作品を1つの物語とするためトータル感を重視)
・個性 ★★ (目指す方向性は確立したが楽曲毎の力はこれから)
総合評点: 7点
「VIVA! リンダ3世」 リンダ3世
「VIVA! リンダ3世」(2014 b-pop)
リンダ3世

<members>
Mutsumi:vocal
Naomi:vocal
Sakura:vocal
Shiori:vocal
Sayuri:vocal
1.「Overture」 曲・編:TOMISIRO
2.「未来世紀eZ zoo」 詞:只野菜摘 曲・編:TOMISIRO
3.「愛犬アンソニー」 詞:只野菜摘 曲・編:TOMISIRO
4.「日灼けマシーン」 詞:只野菜摘 曲・編:TOMISIRO
5.「トベヨマイラ」 詞:只野菜摘 曲・編:TOMISIRO
6.「Mas Que Nada」 詞・曲:Jorge Ben 編:TOMISIRO
7.「Brazilian Rhyme」 詞・曲:Maurice White 編:TOMISIRO
8.「どんだばな」 詞・曲:安部芳明 編:TOMISIRO
<support musician>
掛川陽介:all instruments
本澤尚之:all instruments
八木真澄:narration
executive produced by John Possman・丸山茂雄
engineered by TOMISIRO
● バイレファンキなエレクトロポップの音の粒立ちがハンパない!群馬出身日系ブラジル人ロコドルグループの話題作
2010年代となってくるとAKB48系グループの圧倒的人気を背景に、全国各地でグループアイドル全盛時代がやってくるわけですが、そんな乱立するグループアイドルの中で個性を際立たせるためには、少しでも奇をてらいながら勝負していくしかありません。日本有数のブラジリアンタウンである群馬県大泉町から生まれた日系3世ブラジル人5人組アイドルグループ・リンダIII世(後にリンダ3世に改名)も、他との差別化を図るために恐るべき瞬発力をもって勝負していった地方アイドル(ロコドル)出会ったと言えるでしょう。2013年に結成されたリンダIII世は、ヤマダ電機をバックアップに学業にかたわら週末アイドルとしてライブ活動を開始するとともに、シングル「未来世紀eZ zoo」でデビュー、この摩訶不思議な楽曲タイトルと妙に完成されたエレクトリックダンストラックが動画サイトを中心に注目を集め一気に知名度がアップします。勢いのまま同年夏には「愛犬アンソニー」、翌年初めには「日灼けマシーン」と立て続けにシングルをリリース、そしてその1年余りの激動の活動の集大成となる待望のアルバムが本作というわけです。
さて、本作は話題となった3枚のシングルと新曲、そして古き良き名曲のリメイク2曲という構成となっていますが、強烈なインパクトを残したシングル曲のみならず、ブラジルボッサの名曲、Sergio Mendes & Brasil'66の「Mas Que Nada」、Earth Wind & Fireの「Brazilian Rhyme」(超爽やかなエレポップサウンド)、そしてオリジナル楽曲でありながら東北民謡とブラジリアンサンバの奇跡の邂逅ともいうべき「どんだばな」(何故津軽に飛んでいったのかはわかりませんが)のサウンドセンスの塊のような見事なエレクトロパフォーマンスは只者ではありません。そのリンダ3世の「B-POP」サウンドの仕掛人がサウンドクリエイターチームTOMISIROです。古くは鈴木さえ子のマネージャーとしての経歴を持ちDJ Synthesizerとしても活動する掛川陽介と、エンジニアとして多方面で活躍する本澤尚之の2人組である彼らは、女性ヴォーカルを迎えた無国籍エレクトロニカユニットLanguageとしての活動と共に、「ケロロ軍曹」や「輪廻のラグランジェ」等のサントラを鈴木さえ子と共作したりと、その突き詰めたエレクトリックサウンドの構築には定評はありましたが、本作では流行のEDMを基調として押さえながらも、そこは日系ブラジル人ユニットならではの現地で大流行のサンバ式EDMであるヴァイレファンキ調に料理、そこにロコドルっぽいとぼけた要素をチープなリズムとむき出しのシンセフレーズで表現しきっており、さすがは世界各国の音楽に精通したTOMISIROならではの無国籍感を楽しむことができます。サウンド面の完成度の高さは保証付きながらもどこか主流を外したようなマニアックさも感じられる、興味がそそられる楽曲が揃えられた本作は、アイドル戦国時代の中でも一際(しかも一瞬)輝く個性的な作品と言えるのではないでしょうか。メンバーチェンジ後の2015年配信シングル「ルビー物語」を最後にTOMISIROが離れた頃から既に終末感が漂い始めたリンダ3世は、ラスト配信「パラレルナミダ」を最後に解散となってしまいましたが、その一瞬の輝きは今後も心に留めておきたいと思います。
<Favorite Songs>
・「未来世紀eZ zoo」
一部の世間の度肝を抜いた記念すべきデビューシングル。ユルユルの曖昧なメロディラインに素朴なリズムボックス、気だるいEDMなウォブルベース、中盤にかけて盛り上がってくるサンバリズム、ブラジルエレクトロ、ヴァイレファンキを意識したTOMISIROのオリジナリティ溢れるサウンドセンスが突き抜けた名曲です。
・「愛犬アンソニー」
デビューシングル路線を引き継いだ2ndシングル。相変わらずナンセンスな楽曲へのネーミングセンスが抜群です。70年代洋物ドラマの雰囲気を持つイントロフレーズもさることながら、楽曲が進行するにつれて多彩な顔を出すシンセギミックの作り込みにサウンドメイクへの偏執性を感じます。
・「どんだばな」
何故か東北民謡とブラジリアンダンスミュージックをマッシュアップした不思議楽曲。群馬出身なのに東北をフィーチャーするのも謎ですが、全く違和感なくサンバリズムに溶け込ませて、さらにエレクトリックサウンドに仕立て上げるセンスはTOMISIRO(というよりLanguage?)ならではでしょう。
<評点>
・サウンド ★★★★ (多彩なエレクトロギミックが実にハイセンス)
・メロディ ★★ (ポップからは微妙に外れるがその曖昧さが長所)
・リズム ★★★★ (本作の無国籍感はこの複雑なリズム構築にあり)
・曲構成 ★ (オリジナルを増やしてフルアルバムが欲しかった)
・個性 ★★★★ (日系ブラジルという魅力を別方向で表現しきる)
総合評点: 8点
リンダ3世

<members>
Mutsumi:vocal
Naomi:vocal
Sakura:vocal
Shiori:vocal
Sayuri:vocal
1.「Overture」 曲・編:TOMISIRO
2.「未来世紀eZ zoo」 詞:只野菜摘 曲・編:TOMISIRO
3.「愛犬アンソニー」 詞:只野菜摘 曲・編:TOMISIRO
4.「日灼けマシーン」 詞:只野菜摘 曲・編:TOMISIRO
5.「トベヨマイラ」 詞:只野菜摘 曲・編:TOMISIRO
6.「Mas Que Nada」 詞・曲:Jorge Ben 編:TOMISIRO
7.「Brazilian Rhyme」 詞・曲:Maurice White 編:TOMISIRO
8.「どんだばな」 詞・曲:安部芳明 編:TOMISIRO
<support musician>
掛川陽介:all instruments
本澤尚之:all instruments
八木真澄:narration
executive produced by John Possman・丸山茂雄
engineered by TOMISIRO
● バイレファンキなエレクトロポップの音の粒立ちがハンパない!群馬出身日系ブラジル人ロコドルグループの話題作
2010年代となってくるとAKB48系グループの圧倒的人気を背景に、全国各地でグループアイドル全盛時代がやってくるわけですが、そんな乱立するグループアイドルの中で個性を際立たせるためには、少しでも奇をてらいながら勝負していくしかありません。日本有数のブラジリアンタウンである群馬県大泉町から生まれた日系3世ブラジル人5人組アイドルグループ・リンダIII世(後にリンダ3世に改名)も、他との差別化を図るために恐るべき瞬発力をもって勝負していった地方アイドル(ロコドル)出会ったと言えるでしょう。2013年に結成されたリンダIII世は、ヤマダ電機をバックアップに学業にかたわら週末アイドルとしてライブ活動を開始するとともに、シングル「未来世紀eZ zoo」でデビュー、この摩訶不思議な楽曲タイトルと妙に完成されたエレクトリックダンストラックが動画サイトを中心に注目を集め一気に知名度がアップします。勢いのまま同年夏には「愛犬アンソニー」、翌年初めには「日灼けマシーン」と立て続けにシングルをリリース、そしてその1年余りの激動の活動の集大成となる待望のアルバムが本作というわけです。
さて、本作は話題となった3枚のシングルと新曲、そして古き良き名曲のリメイク2曲という構成となっていますが、強烈なインパクトを残したシングル曲のみならず、ブラジルボッサの名曲、Sergio Mendes & Brasil'66の「Mas Que Nada」、Earth Wind & Fireの「Brazilian Rhyme」(超爽やかなエレポップサウンド)、そしてオリジナル楽曲でありながら東北民謡とブラジリアンサンバの奇跡の邂逅ともいうべき「どんだばな」(何故津軽に飛んでいったのかはわかりませんが)のサウンドセンスの塊のような見事なエレクトロパフォーマンスは只者ではありません。そのリンダ3世の「B-POP」サウンドの仕掛人がサウンドクリエイターチームTOMISIROです。古くは鈴木さえ子のマネージャーとしての経歴を持ちDJ Synthesizerとしても活動する掛川陽介と、エンジニアとして多方面で活躍する本澤尚之の2人組である彼らは、女性ヴォーカルを迎えた無国籍エレクトロニカユニットLanguageとしての活動と共に、「ケロロ軍曹」や「輪廻のラグランジェ」等のサントラを鈴木さえ子と共作したりと、その突き詰めたエレクトリックサウンドの構築には定評はありましたが、本作では流行のEDMを基調として押さえながらも、そこは日系ブラジル人ユニットならではの現地で大流行のサンバ式EDMであるヴァイレファンキ調に料理、そこにロコドルっぽいとぼけた要素をチープなリズムとむき出しのシンセフレーズで表現しきっており、さすがは世界各国の音楽に精通したTOMISIROならではの無国籍感を楽しむことができます。サウンド面の完成度の高さは保証付きながらもどこか主流を外したようなマニアックさも感じられる、興味がそそられる楽曲が揃えられた本作は、アイドル戦国時代の中でも一際(しかも一瞬)輝く個性的な作品と言えるのではないでしょうか。メンバーチェンジ後の2015年配信シングル「ルビー物語」を最後にTOMISIROが離れた頃から既に終末感が漂い始めたリンダ3世は、ラスト配信「パラレルナミダ」を最後に解散となってしまいましたが、その一瞬の輝きは今後も心に留めておきたいと思います。
<Favorite Songs>
・「未来世紀eZ zoo」
一部の世間の度肝を抜いた記念すべきデビューシングル。ユルユルの曖昧なメロディラインに素朴なリズムボックス、気だるいEDMなウォブルベース、中盤にかけて盛り上がってくるサンバリズム、ブラジルエレクトロ、ヴァイレファンキを意識したTOMISIROのオリジナリティ溢れるサウンドセンスが突き抜けた名曲です。
・「愛犬アンソニー」
デビューシングル路線を引き継いだ2ndシングル。相変わらずナンセンスな楽曲へのネーミングセンスが抜群です。70年代洋物ドラマの雰囲気を持つイントロフレーズもさることながら、楽曲が進行するにつれて多彩な顔を出すシンセギミックの作り込みにサウンドメイクへの偏執性を感じます。
・「どんだばな」
何故か東北民謡とブラジリアンダンスミュージックをマッシュアップした不思議楽曲。群馬出身なのに東北をフィーチャーするのも謎ですが、全く違和感なくサンバリズムに溶け込ませて、さらにエレクトリックサウンドに仕立て上げるセンスはTOMISIRO(というよりLanguage?)ならではでしょう。
<評点>
・サウンド ★★★★ (多彩なエレクトロギミックが実にハイセンス)
・メロディ ★★ (ポップからは微妙に外れるがその曖昧さが長所)
・リズム ★★★★ (本作の無国籍感はこの複雑なリズム構築にあり)
・曲構成 ★ (オリジナルを増やしてフルアルバムが欲しかった)
・個性 ★★★★ (日系ブラジルという魅力を別方向で表現しきる)
総合評点: 8点
「Saturation Flower」 貴水博之
「Saturation Flower」(1991 バンダイ)
貴水博之:vocal

1.「Mr. Brick」 詞:貴水博之 曲・編:遠山裕
2.「Saturation Flower」 詞:Vivien Allender・保泉ヒロ・貴水博之 曲・編:保泉ヒロ
3.「GRIEVOUS RAIN」 詞:久和カノン 曲:大堀薫 編:遠山裕
4.「光と影のDéjà vu」 詞:久和カノン 曲・編:遠山裕
5.「Good Times, Bad Times」 詞:貴水博之 曲・編:遠山裕
6.「Slipping Off Your Mask」 詞:貴水博之 曲:保泉ヒロ・岡井大二 編:保泉ヒロ
7.「We Shed No Tears」 詞:久和カノン 曲:鈴木雄大 編:椎名和夫
8.「21世紀少年(21st century boy)」
詞:尾上文 曲:岡井大二 編:岡井大二・遠山裕
9.「Out Of Time」 詞・曲:Mick Jagger・Keith Richards 編:岡井大二・遠山裕
<support musician>
稲葉政裕:guitar
椎名和夫:guitar・computer programming・drums & percussions programming・instrument manipulate
石黒彰:keyboards・instrument manipulate
浦田千尋:chorus
遠山裕:computer programming・drums & percussions programming・instrument manipulate
保泉ヒロ:computer programming・instrument manipulate
岡井大二:drums & percussions programming
津田ヒロユキ:instrument manipulate
福富幸宏:instrument manipulate
produced by 岡井大二
sound produced by 保泉ヒロ(exept 2、6)
engineered by 伊藤圭一・津田ヒロユキ・中村充時・斉藤浩
● accessでのブレイク前に密かにデビューしたハイトーンヴォーカリストのハウス基調の音遊びも豊かな幻のデビューアルバム
今や押しも押されぬ浅倉大介の相棒、accessの貴水博之。しかし彼はaccessとしてのデビューまでに2度CDデビューを果たしています。最初は1989年、5人組ロカビリーヴォーカルグループHOT SOX(俳優・乃木涼介や渡辺美奈代の夫らが在籍)のメインヴォーカリストHIROとしてシングルとアルバムを1枚ずつ残しましたが、爪痕は残せずグループは解体、HIROは貴水博之としてソロシンガーに転身、2年後の91年にシングル「GRIEVOUS RAIN」で再デビューに至ります。この楽曲がアニメ「ゲッターロボ號」のエンディングテーマに採用され、同番組オープニングテーマの「21世紀少年」と共にお茶の間の子供達にそのハイトーンヴォイスが届けられました。そしてその2度目の再デビューの2ヵ月後に自身初のソロアルバムとして本作がリリースされることになるわけです。
さて、ソロとしての再デビューにあたり、貴水がプロデュースされたのは伝説的なプログレッシブロックバンド、四人囃子の元ドラマーであった岡井大二です。89年の四人囃子再結成の余韻冷めやらぬ時期のプロデュースということで、本作のサウンドは紛れもなくエレクトロポップです。しかし80年代のような過剰で分厚いゴリゴリしたサウンドというよりは、いかにも90年代的な洗練された軽快さをまとったダンサブルエレポップといった風情です(「We Shed No Tears」だけは完全なる80'sシティポップ)。半数以上の編曲に関わっているのは、70年代からキャリアを積みながら並行してL⇔Rのプロデュースも手掛けていた遠山裕で、彼の音数が少ないながらもその縦横無尽のシンセベースとチープなウワモノシンセで独特の味を醸し出すサウンドメイクは、本作全体のサウンド面での柱となっているようです。それに加えて本作において2曲に関わっている保泉ヒロ(後のHiro Hozumi)は異色のハウスビートでその存在感を発揮しており、SODOM等でタッグを組んでいた福富幸宏をマニピュレーターとして引き込んで、実験精神に溢れたトラックを提供しています。しかしながらさすがは後年エレポップシンガーとして花開く貴水博之は、本作のような細かく整理されたリズムトラック&シーケンスに乗ったシリアスなエレクトリックサウンドをバックにしても、個人の色を損なうことなく堂々と渡り合っており、本作の経験があってこそaccessのような圧倒的なシンセサイザーまみれのダンサブルポップに組み込まれても、違和感なくハマったと言えるのではないでしょうか。
本作はaccessのシンガー貴水博之としては忘れたい過去なのか、公式にはリストアップされないアルバムですが、この過渡期であるからこそのルーツの再確認と実験性(ラストのThe Rolling Stonesのリメイク「Out Of Time」ではしっかりルーツに向き合っていますし)、access前夜のエレポップへの適応力の高さが再確認できる貴重な作品ではないかと思われるので、是非再び本作に向き合ってくれることを願っています。
<Favorite Songs>
・「Saturation Flower」
音遊びで聴き手を翻弄するいなたいハウスポップチューン。当時勃興し始めていたハウスな軽いビートに、保泉ヒロ&福富幸宏によるサンプリングを大胆に使用したSEが飛び交うリズムコンストラクションがこれでもかと繰り出されます。ポップなメロディとはお世辞にも言えませんが、そのチャレンジ精神は認めたくなります。
・「Slipping Off Your Mask」
これも保泉ヒロによるシリアスハウストラック。派手なシンセブラスやオケヒットも混ぜながら、メリハリの効いたリズムトラックで躍動感を演出、相変わらずメロディ自体はポップのカケラも感じないものの、いなたいダンスチューンとしてはこれも1つの形と言えると思います。
・「We Shed No Tears」
本作中では異色の80年代シティポップ感覚溢れるポップチューン。作曲がソロシンガーとしても活躍した鈴木雄大、アレンジが椎名和夫となると、モロに80'sの匂いが満載といっても不思議ではありません。そして本作だけが妙に哀愁メロディでドラムも非常に力強さを残し、数年前にタイムリープした感覚に襲われます。結果的に名曲の誉れが高くなったわけですが・・・。
<評点>
・サウンド ★★ (90年代的なチープな音作りだが作り込みも感じる)
・メロディ ★ (ポップシンガーとしては1曲を除き旋律が地味な印象)
・リズム ★★★ (ハウス調の軽いリズム感覚だがギミック音は多彩)
・曲構成 ★ (何故か80'sの残り香漂う過渡期ならではの混在感)
・個性 ★★ (シンガーとしての魅力は既に確立されている)
総合評点: 7点
貴水博之:vocal

1.「Mr. Brick」 詞:貴水博之 曲・編:遠山裕
2.「Saturation Flower」 詞:Vivien Allender・保泉ヒロ・貴水博之 曲・編:保泉ヒロ
3.「GRIEVOUS RAIN」 詞:久和カノン 曲:大堀薫 編:遠山裕
4.「光と影のDéjà vu」 詞:久和カノン 曲・編:遠山裕
5.「Good Times, Bad Times」 詞:貴水博之 曲・編:遠山裕
6.「Slipping Off Your Mask」 詞:貴水博之 曲:保泉ヒロ・岡井大二 編:保泉ヒロ
7.「We Shed No Tears」 詞:久和カノン 曲:鈴木雄大 編:椎名和夫
8.「21世紀少年(21st century boy)」
詞:尾上文 曲:岡井大二 編:岡井大二・遠山裕
9.「Out Of Time」 詞・曲:Mick Jagger・Keith Richards 編:岡井大二・遠山裕
<support musician>
稲葉政裕:guitar
椎名和夫:guitar・computer programming・drums & percussions programming・instrument manipulate
石黒彰:keyboards・instrument manipulate
浦田千尋:chorus
遠山裕:computer programming・drums & percussions programming・instrument manipulate
保泉ヒロ:computer programming・instrument manipulate
岡井大二:drums & percussions programming
津田ヒロユキ:instrument manipulate
福富幸宏:instrument manipulate
produced by 岡井大二
sound produced by 保泉ヒロ(exept 2、6)
engineered by 伊藤圭一・津田ヒロユキ・中村充時・斉藤浩
● accessでのブレイク前に密かにデビューしたハイトーンヴォーカリストのハウス基調の音遊びも豊かな幻のデビューアルバム
今や押しも押されぬ浅倉大介の相棒、accessの貴水博之。しかし彼はaccessとしてのデビューまでに2度CDデビューを果たしています。最初は1989年、5人組ロカビリーヴォーカルグループHOT SOX(俳優・乃木涼介や渡辺美奈代の夫らが在籍)のメインヴォーカリストHIROとしてシングルとアルバムを1枚ずつ残しましたが、爪痕は残せずグループは解体、HIROは貴水博之としてソロシンガーに転身、2年後の91年にシングル「GRIEVOUS RAIN」で再デビューに至ります。この楽曲がアニメ「ゲッターロボ號」のエンディングテーマに採用され、同番組オープニングテーマの「21世紀少年」と共にお茶の間の子供達にそのハイトーンヴォイスが届けられました。そしてその2度目の再デビューの2ヵ月後に自身初のソロアルバムとして本作がリリースされることになるわけです。
さて、ソロとしての再デビューにあたり、貴水がプロデュースされたのは伝説的なプログレッシブロックバンド、四人囃子の元ドラマーであった岡井大二です。89年の四人囃子再結成の余韻冷めやらぬ時期のプロデュースということで、本作のサウンドは紛れもなくエレクトロポップです。しかし80年代のような過剰で分厚いゴリゴリしたサウンドというよりは、いかにも90年代的な洗練された軽快さをまとったダンサブルエレポップといった風情です(「We Shed No Tears」だけは完全なる80'sシティポップ)。半数以上の編曲に関わっているのは、70年代からキャリアを積みながら並行してL⇔Rのプロデュースも手掛けていた遠山裕で、彼の音数が少ないながらもその縦横無尽のシンセベースとチープなウワモノシンセで独特の味を醸し出すサウンドメイクは、本作全体のサウンド面での柱となっているようです。それに加えて本作において2曲に関わっている保泉ヒロ(後のHiro Hozumi)は異色のハウスビートでその存在感を発揮しており、SODOM等でタッグを組んでいた福富幸宏をマニピュレーターとして引き込んで、実験精神に溢れたトラックを提供しています。しかしながらさすがは後年エレポップシンガーとして花開く貴水博之は、本作のような細かく整理されたリズムトラック&シーケンスに乗ったシリアスなエレクトリックサウンドをバックにしても、個人の色を損なうことなく堂々と渡り合っており、本作の経験があってこそaccessのような圧倒的なシンセサイザーまみれのダンサブルポップに組み込まれても、違和感なくハマったと言えるのではないでしょうか。
本作はaccessのシンガー貴水博之としては忘れたい過去なのか、公式にはリストアップされないアルバムですが、この過渡期であるからこそのルーツの再確認と実験性(ラストのThe Rolling Stonesのリメイク「Out Of Time」ではしっかりルーツに向き合っていますし)、access前夜のエレポップへの適応力の高さが再確認できる貴重な作品ではないかと思われるので、是非再び本作に向き合ってくれることを願っています。
<Favorite Songs>
・「Saturation Flower」
音遊びで聴き手を翻弄するいなたいハウスポップチューン。当時勃興し始めていたハウスな軽いビートに、保泉ヒロ&福富幸宏によるサンプリングを大胆に使用したSEが飛び交うリズムコンストラクションがこれでもかと繰り出されます。ポップなメロディとはお世辞にも言えませんが、そのチャレンジ精神は認めたくなります。
・「Slipping Off Your Mask」
これも保泉ヒロによるシリアスハウストラック。派手なシンセブラスやオケヒットも混ぜながら、メリハリの効いたリズムトラックで躍動感を演出、相変わらずメロディ自体はポップのカケラも感じないものの、いなたいダンスチューンとしてはこれも1つの形と言えると思います。
・「We Shed No Tears」
本作中では異色の80年代シティポップ感覚溢れるポップチューン。作曲がソロシンガーとしても活躍した鈴木雄大、アレンジが椎名和夫となると、モロに80'sの匂いが満載といっても不思議ではありません。そして本作だけが妙に哀愁メロディでドラムも非常に力強さを残し、数年前にタイムリープした感覚に襲われます。結果的に名曲の誉れが高くなったわけですが・・・。
<評点>
・サウンド ★★ (90年代的なチープな音作りだが作り込みも感じる)
・メロディ ★ (ポップシンガーとしては1曲を除き旋律が地味な印象)
・リズム ★★★ (ハウス調の軽いリズム感覚だがギミック音は多彩)
・曲構成 ★ (何故か80'sの残り香漂う過渡期ならではの混在感)
・個性 ★★ (シンガーとしての魅力は既に確立されている)
総合評点: 7点
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