「女たちよ」 沢田研二
「女たちよ」(1983 ポリドール)
沢田研二:vocals

1.「藤いろの恋」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
2.「夕顔 はかないひと」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
3.「おぼろ月夜だった」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
4.「さすらって」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
5.「愛の旅人」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
6.「エピソード」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
7.「水をへだてて」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
8.「二つの夜」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
9.「ただよう小舟」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
10.「物語の終わりの朝は」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
<support musician>
柴山和彦:electric guitar
白井良明:electric guitar
安田尚哉:electric guitar
吉田建:bass
上原豊:drums
西平彰:keyboards
ペッカー:percussion
松武秀樹:computer programming
produced by 加瀬邦彦・木崎賢治
engineered by 飯泉俊之・水谷照也
● 大村雅朗&松武秀樹コンビによるエレクトリック源氏物語!これまでのイメージを払拭する妖艶ジュリーのコンセプトアルバム
少々前衛的に突出し過ぎた前作「MIS CAST.」により歌手としての人気に陰りが見え始めた沢田研二ですが、キャラクターとしての魅力はまだ衰えることなく、1981年の映画「魔界転生」での天草四郎役に代表されるような存在感のある俳優としても一歩踏み出していった時期で、ちょうど歌手と俳優との分水嶺的な時期にあったのが80年代前半の彼であったと言えます。そんな彼のハマリ役の1つとして80年のドラマ「源氏物語」での光源氏役があったのですが、それを見てか見てないかは不明ですが、詩人・高橋睦郎が沢田に白羽の矢を立て「源氏物語」を「歌わせる」というコンセプトを実行したのが、83年リリースの本作です。
我が国の長きにわたる歴史において随一の古典である「源氏物語」がテーマということで、その意気込みは楽曲制作陣の人選にも表れています。まず作曲には当時の歌謡界において並び立つ者のいないヒットメイカー筒美京平を沢田の楽曲では初起用、そして編曲には同年のシングル「晴れのちBLUE BOY」の斬新なジャングルビートアレンジで信頼を得ていた売り出し中のアレンジャー大村雅朗を抜擢し、作詞の高橋睦郎との3人4脚で10曲が仕上がっています。さて、本作ではこの難解なテーマをどのように表現するかについて注目が集まりましたが、そんな平安時代という豪華絢爛さと、歴史の迷宮ともいうべき妖艶さを表現したのは、大村雅朗と彼が相棒として連れてきたシンセサイザーオペレーターの松武秀樹による幻想的なエレクトリックサウンドでした。日本古来の文学をテーマにしながら和のテイストに偏ることなく、仕上がったサウンドはどちらかといえば西洋的なニューウェーブ&ニューロマンティックなニュアンスが強く(「エピソード」などは吉川晃司の先取り感全開)、しかもミディアムテンポの地味な楽曲が多いながらも、当時の大沢誉志幸楽曲さながらに強力にリズムが顔を出すストレンジな質感は、(聴き手の捉え方の違いによって)リスナーの期待を良い意味でも悪い意味でも裏切ったものとも言えますが、その1つ1つの音のクオリティは抜きん出ており、沢田本人のキャラクターも必要以上に前面に押し出されることなく、当然シングルカットされる楽曲もなく、まさに「源氏物語」という一大コンセプトのもとに作詞・メロディ・サウンド・歌が一体となった芸術作品として、高みに登った(異色の)名アルバムと言えるではないでしょうか。それにしても本作における松武秀樹のシンセ仕事の凄みは素晴らしいです。細部に作り込まれた珠玉のシンセ音色とシーケンスプログラミング、PCMドラムマシンを駆使した刺激的なリズムサウンド、そしてこうした幻惑的なサウンドを楽曲として成立させる(前衛的な振れまくった83年〜85年の)大村雅朗の類まれな才気煥発の極みに圧倒されること間違いなしです。正直に言えばもはや源氏物語などどこかへ飛んでいってしまうほどの強烈なエレクトリックファンタジアに仕上がっていると思います。
<Favorite Songs>
・「さすらって」
ロングトーンのシンセパッドや電子的に模倣された風の音に代表される細部にこだわった音が堪能できる怪しさ全開シンセポップ。特に微妙な音階で淡々とつぶやくようなシンセベースの存在感が素晴らしいです。
・「愛の旅人」
ローファイに蠢くシーケンサーによるフレーズに期待も膨らむ幻想ファンタジアポップ。歌詞中でアルバムタイトルを回収していることからもこれが本作のリードチューンと言えます。変調するコーラス、刺激的なギラつくシンセ、サビでのリズム感覚は、その幻想的な世界観を表現するにふさわしいエレクトリックワールドです。
・「二つの夜」
本作中最も前衛的かつ攻撃的なストレンジポップの王様。ドラムマシンによる連打に次ぐ連打、フレットレス気味にブヨブヨしたベース音の質感、サビ前のギターギミック、エンディングのシリアスさも抜群の隠れた名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★★(じっくり練り込まれたシンセサウンドの博覧会)
・メロディ ★ (稀代のヒットメイカーにしては余りに地味な)
・リズム ★★★★ (ドラムマシンによる強烈な主張が絶妙なスパイス)
・曲構成 ★★★ (全体的にそのストレンジな世界観に圧倒される)
・個性 ★★★ (ここまでの冒険心溢れる楽曲は当時の沢田ならでは)
総合評点: 8点
沢田研二:vocals

1.「藤いろの恋」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
2.「夕顔 はかないひと」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
3.「おぼろ月夜だった」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
4.「さすらって」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
5.「愛の旅人」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
6.「エピソード」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
7.「水をへだてて」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
8.「二つの夜」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
9.「ただよう小舟」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
10.「物語の終わりの朝は」 詞:高橋睦郎 曲:筒美京平 編:大村雅朗
<support musician>
柴山和彦:electric guitar
白井良明:electric guitar
安田尚哉:electric guitar
吉田建:bass
上原豊:drums
西平彰:keyboards
ペッカー:percussion
松武秀樹:computer programming
produced by 加瀬邦彦・木崎賢治
engineered by 飯泉俊之・水谷照也
● 大村雅朗&松武秀樹コンビによるエレクトリック源氏物語!これまでのイメージを払拭する妖艶ジュリーのコンセプトアルバム
少々前衛的に突出し過ぎた前作「MIS CAST.」により歌手としての人気に陰りが見え始めた沢田研二ですが、キャラクターとしての魅力はまだ衰えることなく、1981年の映画「魔界転生」での天草四郎役に代表されるような存在感のある俳優としても一歩踏み出していった時期で、ちょうど歌手と俳優との分水嶺的な時期にあったのが80年代前半の彼であったと言えます。そんな彼のハマリ役の1つとして80年のドラマ「源氏物語」での光源氏役があったのですが、それを見てか見てないかは不明ですが、詩人・高橋睦郎が沢田に白羽の矢を立て「源氏物語」を「歌わせる」というコンセプトを実行したのが、83年リリースの本作です。
我が国の長きにわたる歴史において随一の古典である「源氏物語」がテーマということで、その意気込みは楽曲制作陣の人選にも表れています。まず作曲には当時の歌謡界において並び立つ者のいないヒットメイカー筒美京平を沢田の楽曲では初起用、そして編曲には同年のシングル「晴れのちBLUE BOY」の斬新なジャングルビートアレンジで信頼を得ていた売り出し中のアレンジャー大村雅朗を抜擢し、作詞の高橋睦郎との3人4脚で10曲が仕上がっています。さて、本作ではこの難解なテーマをどのように表現するかについて注目が集まりましたが、そんな平安時代という豪華絢爛さと、歴史の迷宮ともいうべき妖艶さを表現したのは、大村雅朗と彼が相棒として連れてきたシンセサイザーオペレーターの松武秀樹による幻想的なエレクトリックサウンドでした。日本古来の文学をテーマにしながら和のテイストに偏ることなく、仕上がったサウンドはどちらかといえば西洋的なニューウェーブ&ニューロマンティックなニュアンスが強く(「エピソード」などは吉川晃司の先取り感全開)、しかもミディアムテンポの地味な楽曲が多いながらも、当時の大沢誉志幸楽曲さながらに強力にリズムが顔を出すストレンジな質感は、(聴き手の捉え方の違いによって)リスナーの期待を良い意味でも悪い意味でも裏切ったものとも言えますが、その1つ1つの音のクオリティは抜きん出ており、沢田本人のキャラクターも必要以上に前面に押し出されることなく、当然シングルカットされる楽曲もなく、まさに「源氏物語」という一大コンセプトのもとに作詞・メロディ・サウンド・歌が一体となった芸術作品として、高みに登った(異色の)名アルバムと言えるではないでしょうか。それにしても本作における松武秀樹のシンセ仕事の凄みは素晴らしいです。細部に作り込まれた珠玉のシンセ音色とシーケンスプログラミング、PCMドラムマシンを駆使した刺激的なリズムサウンド、そしてこうした幻惑的なサウンドを楽曲として成立させる(前衛的な振れまくった83年〜85年の)大村雅朗の類まれな才気煥発の極みに圧倒されること間違いなしです。正直に言えばもはや源氏物語などどこかへ飛んでいってしまうほどの強烈なエレクトリックファンタジアに仕上がっていると思います。
<Favorite Songs>
・「さすらって」
ロングトーンのシンセパッドや電子的に模倣された風の音に代表される細部にこだわった音が堪能できる怪しさ全開シンセポップ。特に微妙な音階で淡々とつぶやくようなシンセベースの存在感が素晴らしいです。
・「愛の旅人」
ローファイに蠢くシーケンサーによるフレーズに期待も膨らむ幻想ファンタジアポップ。歌詞中でアルバムタイトルを回収していることからもこれが本作のリードチューンと言えます。変調するコーラス、刺激的なギラつくシンセ、サビでのリズム感覚は、その幻想的な世界観を表現するにふさわしいエレクトリックワールドです。
・「二つの夜」
本作中最も前衛的かつ攻撃的なストレンジポップの王様。ドラムマシンによる連打に次ぐ連打、フレットレス気味にブヨブヨしたベース音の質感、サビ前のギターギミック、エンディングのシリアスさも抜群の隠れた名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★★(じっくり練り込まれたシンセサウンドの博覧会)
・メロディ ★ (稀代のヒットメイカーにしては余りに地味な)
・リズム ★★★★ (ドラムマシンによる強烈な主張が絶妙なスパイス)
・曲構成 ★★★ (全体的にそのストレンジな世界観に圧倒される)
・個性 ★★★ (ここまでの冒険心溢れる楽曲は当時の沢田ならでは)
総合評点: 8点
「KEEP IN TOUCH」 下成佐登子
「KEEP IN TOUCH」(1987 キング)
下成佐登子:vocal・chorus

1.「Time goes by」 詞:真沙木唯 曲・編:佐藤博
2.「巻きこまれたSECRET」 詞:芹沢類 曲:村上啓介 編:瀬尾一三
3.「クラブ・ノスタルジア」 詞:吉元由美 曲:羽場仁志 編:瀬尾一三
4.「GAME」 詞:佐藤純子 曲:羽場仁志 編:瀬尾一三
5.「NEVER MIND」 詞:佐藤純子 曲:下成佐登子 編:瀬尾一三
6.「BREAK」 詞:佐藤純子 曲:下成佐登子 編:瀬尾一三
7.「真夜中のプリテンダー」 詞:吉元由美 曲・編:瀬尾一三
8.「やさしい雨」 詞:佐藤純子 曲:下成佐登子 編:瀬尾一三
9.「風のスクリーン」 詞:佐藤純子 曲:和泉一弥 編:小林信吾
<support musician>
今 剛:electric guitar
松原正樹:electric guitar
伊藤広規:electric bass
高水健司:electric bass
松原秀樹:electric bass
美久月千晴:electric bass
島村英二:drums
長谷部徹:drums
小林信吾:keyboards
佐藤博:keyboards・synthesizer operate
中西康晴:keyboards
土岐英史:sax
EVE:chorus
梅原篤:synthesizer operate
小泉宏:synthesizer operate
瀬尾一三:synthesizer operate
森達彦:synthesizer operate
produced by 瀬尾一三・日朝幸雄
mixing engineered by 石塚良一・掛潤一
recording engineered by 掛潤一
● 美声の実力派ヴォーカリストが80年代後半に差し掛かって脂の乗ったデジタルAORに挑戦した4thアルバム
当時プロへの登竜門として人気のあった「ヤマハポピュラーソングコンテスト」(ポプコン)の1978年グランプリを高校在学中に獲得した天才的シンガー、下成佐登子。そのグランプリソング「秋の一日」で同年デビューを果たしましたが、ヒットメイカーというよりは実力派シンガーとして、その力量が認められる形で、84年までに10枚のシングルと3枚のアルバムをリリース、85年からはアニメソングの世界へと進出し、「小公女セーラ」や「TRANSFORMER」といった話題作の主題歌を担当するなど、その活躍の場を広げていきました。並行して様々なアーティストのコーラスを担当したりと裏方としての活躍が目立つようになっていくものの、本分はやはりソロシンガーということで、87年には実に4年ぶりのアルバムである本作をリリースすることになります。日進月歩でサウンドが変化していった80年代ということで、本作がリリースされる頃にはエレクトリックな質感が目立つようになっていますが、シンガーとしての実力は不変のものであり、本作でもその歌手としての力量が堪能できる仕上がりとなっています。
のっけから滲むようなシンセパッドに代表される佐藤博節全開の「Time goes by」でその良質な楽曲を前面に押し出してくる感覚ですが、本作のほとんどの楽曲をアレンジしているのは、チャゲ&飛鳥や中島みゆきのアレンジャーとしても有名な大御所編曲家、瀬尾一三です。古くから多くの楽曲を手がけている瀬尾もこの時期は非常に派手なサウンド志向で、ロック化したチャゲアス、ご乱心時代と言われた中島みゆきの同時期の作品を参照すれば、そのニュアンスも理解できると思いますが、本作もクリアな音像によるキレのあるシャープなエレクトリックサウンドを楽しむことができます。そのギラギラしたサウンドを支えるのが当時のPOPS界を席巻していたDX7系エレクトリックピアノ音色で、本作でも随所で大活躍、その独特のカリッとした硬質な音質によるピアノサウンドは、楽曲のボトムを担いながらも時にはそのフレーズ力で主役を奪いそうな勢いを見せています。この典型的80'sエレピと広がりのあるノコギリ波シンセパッドの組み合わせは絶品で、これらはバラードソング以外の瀬尾アレンジ楽曲のシンセオペレーションを手掛けた森達彦のセンスによる部分も大きいと思われます。しかしながらこうした攻めたサウンドが生きる楽曲を安心して聴くことができるのも、主役である下成佐登子の安定感抜群の歌唱力の賜物であり、作品の質を一段上に引き上げているわけです。
本作を最後に下成はオリジナルアルバムをリリースせず、一線を引いていきますが、その後90年代以降を代表するサウンドプロデューサーの亀田誠治と結婚、子育てをしながらマイペースな活動にシフトしていくことになります。
<Favorite Songs>
・「巻きこまれたSECRET」
THE ALPHAの村上啓介作曲、瀬尾一三編曲のチャゲ&飛鳥式アッパーチューン。小気味よいギターワークもさることながら光るのはDX系ピアノの活躍で、特にバッキング以上に度肝を抜かれるのが間奏のテクニカルなソロです。
・「クラブ・ノスタルジア」
国分友里恵楽曲でもおなじみの羽場仁志作曲ののデジタルファンクチューン。レイト80's特有の豪快に跳ねるドラミングとねちっこいシンセリフが印象的です。しかし透き通ったヴォーカルに黒さを感じさせないため、そこには心地よい爽快感を覚えます。
・「BREAK」
本人作曲の野心的なエレクトリックAOR。強力なドラムとゴムを伸ばしたようなベースのアタック音、深みのある低音シンセ、妖しさを演出するギターなど、演奏は冒険しているものの、楽曲はPOPSの範疇をしっかり守っている、いかにもレイト80'sの良き副産物と言える楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (デジタルとアナログのシンセ音の融合加減が絶妙)
・メロディ ★ (比較的サウンド志向のため良いメロながら地味さも)
・リズム ★★★ (エフェクティブなドラムの力強さはまさに森達彦仕事)
・曲構成 ★★ (ラスト2曲で守りに入ってしまったのがやや残念)
・個性 ★★ (実力は申し分ないが派手好みの時代に埋もれた感が)
総合評点: 7点
下成佐登子:vocal・chorus

1.「Time goes by」 詞:真沙木唯 曲・編:佐藤博
2.「巻きこまれたSECRET」 詞:芹沢類 曲:村上啓介 編:瀬尾一三
3.「クラブ・ノスタルジア」 詞:吉元由美 曲:羽場仁志 編:瀬尾一三
4.「GAME」 詞:佐藤純子 曲:羽場仁志 編:瀬尾一三
5.「NEVER MIND」 詞:佐藤純子 曲:下成佐登子 編:瀬尾一三
6.「BREAK」 詞:佐藤純子 曲:下成佐登子 編:瀬尾一三
7.「真夜中のプリテンダー」 詞:吉元由美 曲・編:瀬尾一三
8.「やさしい雨」 詞:佐藤純子 曲:下成佐登子 編:瀬尾一三
9.「風のスクリーン」 詞:佐藤純子 曲:和泉一弥 編:小林信吾
<support musician>
今 剛:electric guitar
松原正樹:electric guitar
伊藤広規:electric bass
高水健司:electric bass
松原秀樹:electric bass
美久月千晴:electric bass
島村英二:drums
長谷部徹:drums
小林信吾:keyboards
佐藤博:keyboards・synthesizer operate
中西康晴:keyboards
土岐英史:sax
EVE:chorus
梅原篤:synthesizer operate
小泉宏:synthesizer operate
瀬尾一三:synthesizer operate
森達彦:synthesizer operate
produced by 瀬尾一三・日朝幸雄
mixing engineered by 石塚良一・掛潤一
recording engineered by 掛潤一
● 美声の実力派ヴォーカリストが80年代後半に差し掛かって脂の乗ったデジタルAORに挑戦した4thアルバム
当時プロへの登竜門として人気のあった「ヤマハポピュラーソングコンテスト」(ポプコン)の1978年グランプリを高校在学中に獲得した天才的シンガー、下成佐登子。そのグランプリソング「秋の一日」で同年デビューを果たしましたが、ヒットメイカーというよりは実力派シンガーとして、その力量が認められる形で、84年までに10枚のシングルと3枚のアルバムをリリース、85年からはアニメソングの世界へと進出し、「小公女セーラ」や「TRANSFORMER」といった話題作の主題歌を担当するなど、その活躍の場を広げていきました。並行して様々なアーティストのコーラスを担当したりと裏方としての活躍が目立つようになっていくものの、本分はやはりソロシンガーということで、87年には実に4年ぶりのアルバムである本作をリリースすることになります。日進月歩でサウンドが変化していった80年代ということで、本作がリリースされる頃にはエレクトリックな質感が目立つようになっていますが、シンガーとしての実力は不変のものであり、本作でもその歌手としての力量が堪能できる仕上がりとなっています。
のっけから滲むようなシンセパッドに代表される佐藤博節全開の「Time goes by」でその良質な楽曲を前面に押し出してくる感覚ですが、本作のほとんどの楽曲をアレンジしているのは、チャゲ&飛鳥や中島みゆきのアレンジャーとしても有名な大御所編曲家、瀬尾一三です。古くから多くの楽曲を手がけている瀬尾もこの時期は非常に派手なサウンド志向で、ロック化したチャゲアス、ご乱心時代と言われた中島みゆきの同時期の作品を参照すれば、そのニュアンスも理解できると思いますが、本作もクリアな音像によるキレのあるシャープなエレクトリックサウンドを楽しむことができます。そのギラギラしたサウンドを支えるのが当時のPOPS界を席巻していたDX7系エレクトリックピアノ音色で、本作でも随所で大活躍、その独特のカリッとした硬質な音質によるピアノサウンドは、楽曲のボトムを担いながらも時にはそのフレーズ力で主役を奪いそうな勢いを見せています。この典型的80'sエレピと広がりのあるノコギリ波シンセパッドの組み合わせは絶品で、これらはバラードソング以外の瀬尾アレンジ楽曲のシンセオペレーションを手掛けた森達彦のセンスによる部分も大きいと思われます。しかしながらこうした攻めたサウンドが生きる楽曲を安心して聴くことができるのも、主役である下成佐登子の安定感抜群の歌唱力の賜物であり、作品の質を一段上に引き上げているわけです。
本作を最後に下成はオリジナルアルバムをリリースせず、一線を引いていきますが、その後90年代以降を代表するサウンドプロデューサーの亀田誠治と結婚、子育てをしながらマイペースな活動にシフトしていくことになります。
<Favorite Songs>
・「巻きこまれたSECRET」
THE ALPHAの村上啓介作曲、瀬尾一三編曲のチャゲ&飛鳥式アッパーチューン。小気味よいギターワークもさることながら光るのはDX系ピアノの活躍で、特にバッキング以上に度肝を抜かれるのが間奏のテクニカルなソロです。
・「クラブ・ノスタルジア」
国分友里恵楽曲でもおなじみの羽場仁志作曲ののデジタルファンクチューン。レイト80's特有の豪快に跳ねるドラミングとねちっこいシンセリフが印象的です。しかし透き通ったヴォーカルに黒さを感じさせないため、そこには心地よい爽快感を覚えます。
・「BREAK」
本人作曲の野心的なエレクトリックAOR。強力なドラムとゴムを伸ばしたようなベースのアタック音、深みのある低音シンセ、妖しさを演出するギターなど、演奏は冒険しているものの、楽曲はPOPSの範疇をしっかり守っている、いかにもレイト80'sの良き副産物と言える楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (デジタルとアナログのシンセ音の融合加減が絶妙)
・メロディ ★ (比較的サウンド志向のため良いメロながら地味さも)
・リズム ★★★ (エフェクティブなドラムの力強さはまさに森達彦仕事)
・曲構成 ★★ (ラスト2曲で守りに入ってしまったのがやや残念)
・個性 ★★ (実力は申し分ないが派手好みの時代に埋もれた感が)
総合評点: 7点
「Orfeu」 GENTLEMAN TAKE POLAROID
「Orfeu」(2009 パームツリー)
GENTLEMAN TAKE POLAROID

<members>
出口雅之:vocal
森岡賢:computer programming・keyboards
1.「哀しみのオルフェ」 詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
2.「灼熱の華」 詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
3.「THE GAME」 詞:出口雅之 曲・編:森岡賢
4.「Oh Wonder!」 詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
5.「サヨナラ」 詞:出口雅之 曲・編:森岡賢
6.「FAKE」 詞:出口雅之 曲・編:森岡賢
7.「BREAK」
詞:出口雅之 曲:森岡賢・出口雅之・STEVE ETO 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
8.「愛と情熱のベースボールブギ!」
詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
9.「RADIO CITY」 詞・曲:出口雅之 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
10.「名もなき風」 詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
<support musician>
STEVE ETO:additional vocal
森岡慶:guitar
produced by GENTLEMAN TAKE POLAROID
engineered by 森岡賢・池田聡
● ニューウェーブのカリスマパーソンがまさかのデュオ結成!場末感の漂うエレクトロダンスミュージックが主軸の唯一作品
SOFT BALLETとGRASS VALLEY。現在もなおカリスマ的な人気を誇る80年代と90年代を股にかけたこの2つのエレクトリックバンドは、バレエ(バレー)つながりと評するのもおこがましいほど後年意外な繋がり方をしていくことになります。GRASS VALLEYを脱退したノングルーヴドラマー上領亘は、すぐさまSOFT BALLETのサポートとして活動し、全盛期に差しかかりつつあった彼らを強力に支えていきました。そしてSOFT BALLETの中でも当然交友関係が広かった森岡賢は、数々のサポートを重ねていく上領亘を通じて、上領が元GRASS VALLEYのメンバーの中で唯一ジョイントライブを開催するなど交流を続けていた、GV解散後REVやソロ、Suiside Sports Car、ローマとしきといったユニットまでしぶとく活動を続行していた出口雅之と出会った結果、英国のカリスマニューウェーブバンドJAPANの名盤から拝借したユニット名「GENTLEMAN TAKE POLAROID」を2008年に結成、80年代ニューウェーブ&ニューロマンティックムーブメントに影響を受けた彼ららしい妖しさと派手さとユーモアに溢れたエレクトロポップを志向したスーパーデュオとして、当時としては挑戦的なUSBによる音源配布等を経て、翌年遂に初のフルアルバムをリリースすることになります。
2005年のソロアルバム「Jade」でサウンド面での方向性を確立した森岡賢による尖ったシーケンスを基調としたトランシーなエレクトロダンスポップを基調に、哀愁のコードワークを奏でる白玉パッドと叙情的なピアノで味つけしたサウンドは、バタ臭くも往年の80's歌謡を想起させるものであり、彼らのルーツをしっかりなぞったサウンドに仕上がっています。そこに違和感なく乗せていく相変わらずの独特の周波数的存在感を放つ出口のヴォーカルは、前述のサウンドに合わないはずなく、両者のファンの期待に十分に応えられている仕上がりです。プログラミングによる単調なリズムやほぼ様式美のように真っ正面からのシーケンス道を突っ走っていくため一聴して前衛性は感じにくいかもしれませんが、長年エレクトリックな音で勝負してきた森岡と出口の熟練ならではの安定性は言うまでもなく、恐らく出口が上記のユニット活動を経て持ち込んできたラテンやジャズ等のテイストを気軽に取り入れたある種のいかがわしさも感じさせる部分は、まさにこの稀代のユニセックスパフォーマンスを繰り広げてきた森岡と、独特のダンディズムを時にはコミカルに表現してきた出口の、2人のキャラクターが成せる業と言ってよいでしょう。そして何といっても彼ら2人のケミストリーで生み出されたのは良い意味でベタな歌謡テイストで、そのあたりはREVやソロ活動で培ってきた売れ線系のメロディ構築と、遠藤遼一と藤井麻輝という歯止めを失った森岡の本来持ち合わせていた親譲りの歌謡ポップ魂が、あちこちのフレーズに見え隠れしている部分は興味深いところではないでしょうか。特に5曲目の「サヨナラ」はSOFT BALLETの「Last Song」の焼き直しとも言えますが、本作ではSOFT BALLETの荘厳さよりは吹っ切れたような開放感が表出していて、救済感覚は本作の方が勝っている印象を受けました。このように2人のセンス豊かな才能の融合と化学反応が興味深かったこのユニットですが、音源化したのは本作1枚のみに留められ、森岡の急逝により今後のリリースも叶わないことになってしまいました。2枚目にどのようなアプローチをしていくか興味深かっただけに、残念です。
<Favorite Songs>
・「THE GAME」
エグいレゾナンス系シンセリフでインパクトを与えたハードエレクトロ歌謡。腰の入ったミドルテンポのリズムとシンプルな電子音で装飾する引っかかりはないものの安心感のあるエレクトロポップは、森岡賢の真骨頂とも言えるでしょう。
・「FAKE」
本作随一のハイパーエレクトロダンスチューン。攻撃的なリズムとシンセベースの高速シーケンス、それぞれの音も重厚で音の粒も立ち派手さも抜きん出ています。そのテンションの高さから出口のヴォーカルも非常に力強く、サビの訴求力の高さも相まったポップセンスも全開。森岡楽曲全体としても完成度の高い名曲であると思います。
・「RADIO CITY」
数少ない出口作曲の安定的なエレクトロポップナンバー。全体的にノスタルジックなイメージですが、Super Saw全開のBメロ部分は00年代的で現実に引き戻されます。特にサビ前の転調に仕方が絶妙で、この部分がこの楽曲のストロングポイントにほかなりません。
<評点>
・サウンド ★★★ (エレクトロサウンドの安定感は流石の熟練技)
・メロディ ★★ (野暮ったい歌謡的フレージングは手グセかも)
・リズム ★ (忠実にダンス系リズムの基本に則っている)
・曲構成 ★ (似非ラテンやジャズ等変化に挑むが空振り感も)
・個性 ★★ (ルーツを隠しもせず期待に応えた作品)
総合評点: 7点
GENTLEMAN TAKE POLAROID

<members>
出口雅之:vocal
森岡賢:computer programming・keyboards
1.「哀しみのオルフェ」 詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
2.「灼熱の華」 詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
3.「THE GAME」 詞:出口雅之 曲・編:森岡賢
4.「Oh Wonder!」 詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
5.「サヨナラ」 詞:出口雅之 曲・編:森岡賢
6.「FAKE」 詞:出口雅之 曲・編:森岡賢
7.「BREAK」
詞:出口雅之 曲:森岡賢・出口雅之・STEVE ETO 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
8.「愛と情熱のベースボールブギ!」
詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
9.「RADIO CITY」 詞・曲:出口雅之 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
10.「名もなき風」 詞:出口雅之 曲:森岡賢 編:GENTLEMAN TAKE POLAROID
<support musician>
STEVE ETO:additional vocal
森岡慶:guitar
produced by GENTLEMAN TAKE POLAROID
engineered by 森岡賢・池田聡
● ニューウェーブのカリスマパーソンがまさかのデュオ結成!場末感の漂うエレクトロダンスミュージックが主軸の唯一作品
SOFT BALLETとGRASS VALLEY。現在もなおカリスマ的な人気を誇る80年代と90年代を股にかけたこの2つのエレクトリックバンドは、バレエ(バレー)つながりと評するのもおこがましいほど後年意外な繋がり方をしていくことになります。GRASS VALLEYを脱退したノングルーヴドラマー上領亘は、すぐさまSOFT BALLETのサポートとして活動し、全盛期に差しかかりつつあった彼らを強力に支えていきました。そしてSOFT BALLETの中でも当然交友関係が広かった森岡賢は、数々のサポートを重ねていく上領亘を通じて、上領が元GRASS VALLEYのメンバーの中で唯一ジョイントライブを開催するなど交流を続けていた、GV解散後REVやソロ、Suiside Sports Car、ローマとしきといったユニットまでしぶとく活動を続行していた出口雅之と出会った結果、英国のカリスマニューウェーブバンドJAPANの名盤から拝借したユニット名「GENTLEMAN TAKE POLAROID」を2008年に結成、80年代ニューウェーブ&ニューロマンティックムーブメントに影響を受けた彼ららしい妖しさと派手さとユーモアに溢れたエレクトロポップを志向したスーパーデュオとして、当時としては挑戦的なUSBによる音源配布等を経て、翌年遂に初のフルアルバムをリリースすることになります。
2005年のソロアルバム「Jade」でサウンド面での方向性を確立した森岡賢による尖ったシーケンスを基調としたトランシーなエレクトロダンスポップを基調に、哀愁のコードワークを奏でる白玉パッドと叙情的なピアノで味つけしたサウンドは、バタ臭くも往年の80's歌謡を想起させるものであり、彼らのルーツをしっかりなぞったサウンドに仕上がっています。そこに違和感なく乗せていく相変わらずの独特の周波数的存在感を放つ出口のヴォーカルは、前述のサウンドに合わないはずなく、両者のファンの期待に十分に応えられている仕上がりです。プログラミングによる単調なリズムやほぼ様式美のように真っ正面からのシーケンス道を突っ走っていくため一聴して前衛性は感じにくいかもしれませんが、長年エレクトリックな音で勝負してきた森岡と出口の熟練ならではの安定性は言うまでもなく、恐らく出口が上記のユニット活動を経て持ち込んできたラテンやジャズ等のテイストを気軽に取り入れたある種のいかがわしさも感じさせる部分は、まさにこの稀代のユニセックスパフォーマンスを繰り広げてきた森岡と、独特のダンディズムを時にはコミカルに表現してきた出口の、2人のキャラクターが成せる業と言ってよいでしょう。そして何といっても彼ら2人のケミストリーで生み出されたのは良い意味でベタな歌謡テイストで、そのあたりはREVやソロ活動で培ってきた売れ線系のメロディ構築と、遠藤遼一と藤井麻輝という歯止めを失った森岡の本来持ち合わせていた親譲りの歌謡ポップ魂が、あちこちのフレーズに見え隠れしている部分は興味深いところではないでしょうか。特に5曲目の「サヨナラ」はSOFT BALLETの「Last Song」の焼き直しとも言えますが、本作ではSOFT BALLETの荘厳さよりは吹っ切れたような開放感が表出していて、救済感覚は本作の方が勝っている印象を受けました。このように2人のセンス豊かな才能の融合と化学反応が興味深かったこのユニットですが、音源化したのは本作1枚のみに留められ、森岡の急逝により今後のリリースも叶わないことになってしまいました。2枚目にどのようなアプローチをしていくか興味深かっただけに、残念です。
<Favorite Songs>
・「THE GAME」
エグいレゾナンス系シンセリフでインパクトを与えたハードエレクトロ歌謡。腰の入ったミドルテンポのリズムとシンプルな電子音で装飾する引っかかりはないものの安心感のあるエレクトロポップは、森岡賢の真骨頂とも言えるでしょう。
・「FAKE」
本作随一のハイパーエレクトロダンスチューン。攻撃的なリズムとシンセベースの高速シーケンス、それぞれの音も重厚で音の粒も立ち派手さも抜きん出ています。そのテンションの高さから出口のヴォーカルも非常に力強く、サビの訴求力の高さも相まったポップセンスも全開。森岡楽曲全体としても完成度の高い名曲であると思います。
・「RADIO CITY」
数少ない出口作曲の安定的なエレクトロポップナンバー。全体的にノスタルジックなイメージですが、Super Saw全開のBメロ部分は00年代的で現実に引き戻されます。特にサビ前の転調に仕方が絶妙で、この部分がこの楽曲のストロングポイントにほかなりません。
<評点>
・サウンド ★★★ (エレクトロサウンドの安定感は流石の熟練技)
・メロディ ★★ (野暮ったい歌謡的フレージングは手グセかも)
・リズム ★ (忠実にダンス系リズムの基本に則っている)
・曲構成 ★ (似非ラテンやジャズ等変化に挑むが空振り感も)
・個性 ★★ (ルーツを隠しもせず期待に応えた作品)
総合評点: 7点
| HOME |