「編む女」 濱田マリ
「編む女」 (1997 ポリスター)
濱田マリ:vocal・chorus

1.「Baby Blue」 詞・曲:山口美和子 編:杉山勇司・山口美和子
2.「氣愛(Ki-Ai)」 詞:濱田マリ 曲・編:土屋昌巳
3.「アイレ可愛や」 詞:藤浦洸 曲:服部良一 編:Autechre・藤井麻輝
4.「馬とおじさん」 詞・曲:遠藤京子 編:吉野裕司
5.「Lucky Charm」 詞:濱田マリ 曲:James Towning 編:James Towning・藤井麻輝
6.「214」 詞:濱田マリ 曲:濱田マリ・藤井麻輝 編:藤井麻輝
7.「It’s My Love(r)」 詞・曲:遠藤京子 編:藤井麻輝
8.「涼しい私」 詞・曲:山口美和子 編:杉山勇司・山口美和子
<support musician>
Autechre:all instruments
杉山勇司:all instruments
山口美和子:all instruments
JAKE:electric guitar
土屋昌巳:guitars・keyboards・computer programming・sound effects
諸田コウ:bass
John Giblin:wood bass
寺谷誠一:drums
Roger Beaujolais:vibraphone
高良久美子:marimba・percussion
藤田乙比古:horn
松永敦:tuba
高桑英世:flute
柴山洋:oboe
杉山伸:clarinet
山根公男:clarinet
大畠條亮:fagotto
上野洋子:chorus
James Towning:computer programming
藤井麻輝:computer programming・synthesizer・electric piano
小野圭三:technical assistance
横山和俊:technical assistance
produced by 濱田マリ
sound produced by 藤井麻輝・Autechre・土屋昌巳・杉山勇司・山口美和子・吉野裕司
mixing engineered by 杉山勇司・Autechre・藤井麻輝・河合十里
recording engineered by 杉山勇司・Dominique Brethes・土屋昌巳・Autechre・西須廣志・上原キコウ
● 国内外のテクノクリエイターを迎えどっぷりとダークエレクトロな世界に浸った急成長の2ndアルバム
1990年代初頭に異色な活動スタイルでインパクトを残した関西のなんでも屋音楽興業集団モダンチョキチョキズのメインキャラクターとしてアイコン的役割を果たしていた濱田マリは、活動も落ち着いてきた90年代半ばにはマルチタレントとしてメディアに露出、ナレーターや女優としての活動も始めながら、歌手としてのソロ活動も模索していくことになります。そして95年にはソロアルバム第1弾「フツーの人」をリリース、森岡賢、藤井麻輝のSOFT BALLETの面々や、かの香織、ヒックスヴィルといったハイセンスな作家陣に支えられ、名刺代わりの一発としてふさわしい作品を送り出すことに成功します。このアルバムは濱田本人の個性的なキャラクターも相まって、普通の仕上がりでは満足させない期待感が煽られる中、「フツーの人」というタイトルはいささか挑戦的ではあったものの、バラエティに富んだ楽曲をソツなくこなす歌手としての実力を確かに感じさせる優れたデビュー作でしたが、どちらかといえば一般リスナーにも対応可能なポップソング集としても機能していたという印象でした。そして2年後、待望の2枚目のアルバムである本作がリリースされるわけですが、その作品の印象は全く異質のものに変貌していたのです。
本作のリリースは1997年。前年に藤井麻輝とまさかの結婚となった彼女のアルバムは、濱田本人のセルフプロデュースながらサウンドトリートメントとして藤井が全面的に面倒を見る夫婦共同作業体制となっています。1stにも参加していた藤井はまだまだ遠慮が感じられていましたが、本作では完全な藤井ワールドを構築。作家陣も国内外のテクノなクリエイターを惜しみなく連れてくる自由奔放ぶりで、国内では当時完全にテクノ化したナーヴ・カッツェの山口美和子とエレクトリック系のミックスに定評のあったエンジニア杉山勇司のコンビや、久しぶりのソロアルバム「森の人」のリリースを控えた土屋昌巳、濱田が客演したエレクトリック全開アルバム「suzuro」を同年リリースしたVita Novaの吉野裕司を迎え、さらに国外からは英国のアンビエントテクノユニットAutechreや米国テクノユニットFact 22'sのJames Towningを迎え、藤井がサポートしながらもそれぞれの持ち味を生かしたジャパニーズPOPSとしては異色のサウンド全開の仕上がりとなっています。そこには1stの人懐っこいキャッチーなメロディは影を潜め、比較的地味な印象を与えながらも緻密かつ偏執的な電子音の散りばめ方は歯止めが効くことなく、本格的に藤井サウンドでプロデュースされたアーティスティックな楽曲集と言ってもよいでしょう。そこには公私のパートナーとしての気合いの入り方の違いが感じられて微笑ましくもありますが、90年代後半にあってここまで本格的に(懐古的なテクノポップではなく)いわゆるTECHNOに寄っていった作品も珍しいかもしれません。それは当然のことながら藤井麻輝という稀代の偏執的エレクトロマスターの仕掛けた罠でもあり、そのパートナーとしての濱田マリの対応力の高さと懐の深さということなのでしょう。
<Favorite Songs>
・「アイレ可愛や」
笠置シヅ子の名曲をUKテクノの雄Autechreにアレンジさせるという暴挙に手を出した異色エレクトロチューン。不穏なコード進行に細かく散らばるようなシーケンス、全編を包む太いロングトーンのベースがさらに不気味さを演出しています。静謐に淡々と進行しながらも音の深さは流石の一言です。
・「Lucky Charm」
Fact 22'sのJames Towningを迎えたサンプリングテクノポップ。ドラムンベース調のせわしないリズムは寺谷誠一のドラムを加工したもので、DOOMの諸田コウの唸るベースとのコントラストがこの楽曲の魅力の1つと言えます。
・「It’s My Love(r)」
音の粒立ちの良さが光る比較的ポップ性を感じることができるシングル曲のリメイク。しかしそこは藤井麻輝アレンジということで、中盤からは電子ノイズでシーケンスを組んだカオスな音像で唐辛子をぶっ込んだ形となっています。遠藤京子の陽だまりのような暖かい曲調に強引に電子音をねじ込んでくる様は、もはや意地以外の何物でもありません。
<評点>
・サウンド ★★★ (淡々としながらも緻密な音の配置にこだわりが)
・メロディ ★ (この手の音重視にありがちな地味なフレーズが散見)
・リズム ★★★ (楽曲ごとに差はあるが丁寧なプログラミング)
・曲構成 ★★ (楽曲ごとに作家陣の色を生かしつつ統一感も失わず)
・個性 ★★ (藤井ワールドなので本人はキャラ封印で歌に専念)
総合評点: 7点
濱田マリ:vocal・chorus

1.「Baby Blue」 詞・曲:山口美和子 編:杉山勇司・山口美和子
2.「氣愛(Ki-Ai)」 詞:濱田マリ 曲・編:土屋昌巳
3.「アイレ可愛や」 詞:藤浦洸 曲:服部良一 編:Autechre・藤井麻輝
4.「馬とおじさん」 詞・曲:遠藤京子 編:吉野裕司
5.「Lucky Charm」 詞:濱田マリ 曲:James Towning 編:James Towning・藤井麻輝
6.「214」 詞:濱田マリ 曲:濱田マリ・藤井麻輝 編:藤井麻輝
7.「It’s My Love(r)」 詞・曲:遠藤京子 編:藤井麻輝
8.「涼しい私」 詞・曲:山口美和子 編:杉山勇司・山口美和子
<support musician>
Autechre:all instruments
杉山勇司:all instruments
山口美和子:all instruments
JAKE:electric guitar
土屋昌巳:guitars・keyboards・computer programming・sound effects
諸田コウ:bass
John Giblin:wood bass
寺谷誠一:drums
Roger Beaujolais:vibraphone
高良久美子:marimba・percussion
藤田乙比古:horn
松永敦:tuba
高桑英世:flute
柴山洋:oboe
杉山伸:clarinet
山根公男:clarinet
大畠條亮:fagotto
上野洋子:chorus
James Towning:computer programming
藤井麻輝:computer programming・synthesizer・electric piano
小野圭三:technical assistance
横山和俊:technical assistance
produced by 濱田マリ
sound produced by 藤井麻輝・Autechre・土屋昌巳・杉山勇司・山口美和子・吉野裕司
mixing engineered by 杉山勇司・Autechre・藤井麻輝・河合十里
recording engineered by 杉山勇司・Dominique Brethes・土屋昌巳・Autechre・西須廣志・上原キコウ
● 国内外のテクノクリエイターを迎えどっぷりとダークエレクトロな世界に浸った急成長の2ndアルバム
1990年代初頭に異色な活動スタイルでインパクトを残した関西のなんでも屋音楽興業集団モダンチョキチョキズのメインキャラクターとしてアイコン的役割を果たしていた濱田マリは、活動も落ち着いてきた90年代半ばにはマルチタレントとしてメディアに露出、ナレーターや女優としての活動も始めながら、歌手としてのソロ活動も模索していくことになります。そして95年にはソロアルバム第1弾「フツーの人」をリリース、森岡賢、藤井麻輝のSOFT BALLETの面々や、かの香織、ヒックスヴィルといったハイセンスな作家陣に支えられ、名刺代わりの一発としてふさわしい作品を送り出すことに成功します。このアルバムは濱田本人の個性的なキャラクターも相まって、普通の仕上がりでは満足させない期待感が煽られる中、「フツーの人」というタイトルはいささか挑戦的ではあったものの、バラエティに富んだ楽曲をソツなくこなす歌手としての実力を確かに感じさせる優れたデビュー作でしたが、どちらかといえば一般リスナーにも対応可能なポップソング集としても機能していたという印象でした。そして2年後、待望の2枚目のアルバムである本作がリリースされるわけですが、その作品の印象は全く異質のものに変貌していたのです。
本作のリリースは1997年。前年に藤井麻輝とまさかの結婚となった彼女のアルバムは、濱田本人のセルフプロデュースながらサウンドトリートメントとして藤井が全面的に面倒を見る夫婦共同作業体制となっています。1stにも参加していた藤井はまだまだ遠慮が感じられていましたが、本作では完全な藤井ワールドを構築。作家陣も国内外のテクノなクリエイターを惜しみなく連れてくる自由奔放ぶりで、国内では当時完全にテクノ化したナーヴ・カッツェの山口美和子とエレクトリック系のミックスに定評のあったエンジニア杉山勇司のコンビや、久しぶりのソロアルバム「森の人」のリリースを控えた土屋昌巳、濱田が客演したエレクトリック全開アルバム「suzuro」を同年リリースしたVita Novaの吉野裕司を迎え、さらに国外からは英国のアンビエントテクノユニットAutechreや米国テクノユニットFact 22'sのJames Towningを迎え、藤井がサポートしながらもそれぞれの持ち味を生かしたジャパニーズPOPSとしては異色のサウンド全開の仕上がりとなっています。そこには1stの人懐っこいキャッチーなメロディは影を潜め、比較的地味な印象を与えながらも緻密かつ偏執的な電子音の散りばめ方は歯止めが効くことなく、本格的に藤井サウンドでプロデュースされたアーティスティックな楽曲集と言ってもよいでしょう。そこには公私のパートナーとしての気合いの入り方の違いが感じられて微笑ましくもありますが、90年代後半にあってここまで本格的に(懐古的なテクノポップではなく)いわゆるTECHNOに寄っていった作品も珍しいかもしれません。それは当然のことながら藤井麻輝という稀代の偏執的エレクトロマスターの仕掛けた罠でもあり、そのパートナーとしての濱田マリの対応力の高さと懐の深さということなのでしょう。
<Favorite Songs>
・「アイレ可愛や」
笠置シヅ子の名曲をUKテクノの雄Autechreにアレンジさせるという暴挙に手を出した異色エレクトロチューン。不穏なコード進行に細かく散らばるようなシーケンス、全編を包む太いロングトーンのベースがさらに不気味さを演出しています。静謐に淡々と進行しながらも音の深さは流石の一言です。
・「Lucky Charm」
Fact 22'sのJames Towningを迎えたサンプリングテクノポップ。ドラムンベース調のせわしないリズムは寺谷誠一のドラムを加工したもので、DOOMの諸田コウの唸るベースとのコントラストがこの楽曲の魅力の1つと言えます。
・「It’s My Love(r)」
音の粒立ちの良さが光る比較的ポップ性を感じることができるシングル曲のリメイク。しかしそこは藤井麻輝アレンジということで、中盤からは電子ノイズでシーケンスを組んだカオスな音像で唐辛子をぶっ込んだ形となっています。遠藤京子の陽だまりのような暖かい曲調に強引に電子音をねじ込んでくる様は、もはや意地以外の何物でもありません。
<評点>
・サウンド ★★★ (淡々としながらも緻密な音の配置にこだわりが)
・メロディ ★ (この手の音重視にありがちな地味なフレーズが散見)
・リズム ★★★ (楽曲ごとに差はあるが丁寧なプログラミング)
・曲構成 ★★ (楽曲ごとに作家陣の色を生かしつつ統一感も失わず)
・個性 ★★ (藤井ワールドなので本人はキャラ封印で歌に専念)
総合評点: 7点
「Anti Fleur」 門あさ美
「Anti Fleur」(1987 東芝EMI)
門あさ美:vocals

1.「Anti Fleur」 詞:門あさ美 曲・編:高橋幸宏
2.「KO RO KU」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
3.「キリンと私」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
4.「太陽がいっぱい」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
5.「SORADAKI 空薫」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
6.「みつばちのささやき」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
7.「魚になりたい」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
8.「道草」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
9.「ひまわり」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
<support musician>
大村憲司:electric guitar
笛吹利明:acoustic guitar
小原礼:electric bass
加瀬達:wood bass
小林武史:keyboards
高橋幸宏:drums・keyboards・backing vocals
矢口博康:sax
菅原弘明:computer operate
坂本龍一:strings arrangement
produced by 高橋幸宏
mixing engineered by 中山大輔
recording engineered by 中山大輔・中林慶一
● 高橋幸宏プロデュースによってデジタルフレンチポップに生まれ変わったミステリアスシンガーの9thアルバム
1985年リリースの「BELLADONNA」でこれまでのシティポップシンガーとしてのイメージを覆し、エレクトロニクスを大胆に活用したニューウェーブPOPSに方向転換した門あさ美でしたが、さすがにこの強引なイメージチェンジは無理があったのか、ここで彼女は東芝EMIへレコード会社を移籍し心機一転を図ることになります。そしてブレイク期間を置いた87年、彼女はヨーロッパ、特にフレンチ情緒漂うテクノポップサウンドを携えて堂々と帰還、本作をリリースしその健在振りを示すこととなります。
このフレンチテクノ路線をプロデュースするのが、ヨーロピアンテクノポップを独特の美意識で彩ることに長けた不世出のノングルーヴドラマー高橋幸宏です。ポニーキャニオン傘下のTENTレーベルで2枚のアルバムを残した彼は、ほどなく東芝EMIへ移籍し自身のアルバムを準備中でしたが、そのタイミングも合致したのか、門あさ美というミステリアスなアーティストのプロデューサーとして白羽の矢が立ったというわけです。前作のニューウェーブへの大胆な接近からかテクノポップの大御所であったYMOの高橋幸宏を迎えたことに必然性を感じる向きもありましたが、実際に完成した本作からは前作のような尖ったアレンジや音の実験場的な尖鋭的な部分は抑えられており、アンニュイなイメージを損なうことのない柔らかな音像で楽曲を包み込むサウンドを中心に、彼ならではの独特のノリのドラムでリズムを安定させた、品の良い楽曲が多く収録されています。なお、TENTレーベルからの高橋幸宏サウンドを支えているのは盟友大村憲司や、売れっ子サックスプレイヤー矢口博康のほか、当時はまだ新進アレンジャー&キーボーディストであった小林武史と高橋の事務所Office Intenzioお抱えの駆け出しシンセプログラマー菅原弘明で、まだまだ若手の域を出なかった彼ら2人の生き生きとした仕事ぶりを楽しむことができます。この才能豊かな2人は、幸宏サウンド及び門あさ美のイメージを損なわず多彩な音色によるイメージ豊かなシンセサウンドを披露しており、このバランス感覚は後年プロデューサーとして大成していく彼らの天性のセンスと言えるのかもしれません。とはいえ、この高品位なサウンドをしっかり幸宏色に染めているのはやはり幸宏ドラムの存在感。彼のドラムはやはりどの作品においても絶大なインパクトで全体を支配していくから手に負えません。それが主役となるアーティストを食ってしまう場合もあるのが玉にキズですが、門あさ美のアンニュイイメージとマッチした本作においてはひとまず成功しているのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「太陽がいっぱい」
カッチリした独特のリズム感の幸宏ドラム(特に4拍目のロールが秀逸)が堪能できるフレンチPOPS。早瀬優香子あたりを彷佛とさせるアンニュイ感をアコーディオン音色とギターフレーズで演出、矢口博康の乾いたサックスソロも流石の存在感です。
・「SORADAKI 空薫」
ニューウェーブっぽい多彩な音色で彩られたシンセサウンドが大活躍のミディアムチューン。イントロの細かく震えながらパンする高速LFO系ビブラートフレーズや、DX系の金属音との相性が良く、ゲートタムの響きも鮮やかなドラムの安定感も見事です。
・「ひまわり」
本作のアンニュイ感をこれでもかと前面に押し出したラストのバラードソング。坂本龍一の流麗なストリングスアレンジによる音の膜で包み込んだかと思えば、テクニカルなB面からの盛り上がるサビへの展開、間奏のフレンチ感覚は、高橋幸宏の1stソロアルバムのルーツとも言えますし、得意とするサウンドメイクといったところでしょうか。
<評点>
・サウンド ★★ (多彩な音色でイメージ豊かに世界観を演出)
・メロディ ★ (どこまでも夢心地なヨーロピアンフレーズを展開)
・リズム ★★★ (幸宏ドラムのパターンはどこでもその存在感で魅了)
・曲構成 ★ (フレンチならではの煮え切らなさをトータルで演出)
・個性 ★ (前作の冒険心が薄れプロデューサーの存在に霞む)
総合評点: 6点
せっかくなので次作も含めたBOXでどうぞ。
門あさ美:vocals

1.「Anti Fleur」 詞:門あさ美 曲・編:高橋幸宏
2.「KO RO KU」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
3.「キリンと私」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
4.「太陽がいっぱい」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
5.「SORADAKI 空薫」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
6.「みつばちのささやき」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
7.「魚になりたい」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
8.「道草」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
9.「ひまわり」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
<support musician>
大村憲司:electric guitar
笛吹利明:acoustic guitar
小原礼:electric bass
加瀬達:wood bass
小林武史:keyboards
高橋幸宏:drums・keyboards・backing vocals
矢口博康:sax
菅原弘明:computer operate
坂本龍一:strings arrangement
produced by 高橋幸宏
mixing engineered by 中山大輔
recording engineered by 中山大輔・中林慶一
● 高橋幸宏プロデュースによってデジタルフレンチポップに生まれ変わったミステリアスシンガーの9thアルバム
1985年リリースの「BELLADONNA」でこれまでのシティポップシンガーとしてのイメージを覆し、エレクトロニクスを大胆に活用したニューウェーブPOPSに方向転換した門あさ美でしたが、さすがにこの強引なイメージチェンジは無理があったのか、ここで彼女は東芝EMIへレコード会社を移籍し心機一転を図ることになります。そしてブレイク期間を置いた87年、彼女はヨーロッパ、特にフレンチ情緒漂うテクノポップサウンドを携えて堂々と帰還、本作をリリースしその健在振りを示すこととなります。
このフレンチテクノ路線をプロデュースするのが、ヨーロピアンテクノポップを独特の美意識で彩ることに長けた不世出のノングルーヴドラマー高橋幸宏です。ポニーキャニオン傘下のTENTレーベルで2枚のアルバムを残した彼は、ほどなく東芝EMIへ移籍し自身のアルバムを準備中でしたが、そのタイミングも合致したのか、門あさ美というミステリアスなアーティストのプロデューサーとして白羽の矢が立ったというわけです。前作のニューウェーブへの大胆な接近からかテクノポップの大御所であったYMOの高橋幸宏を迎えたことに必然性を感じる向きもありましたが、実際に完成した本作からは前作のような尖ったアレンジや音の実験場的な尖鋭的な部分は抑えられており、アンニュイなイメージを損なうことのない柔らかな音像で楽曲を包み込むサウンドを中心に、彼ならではの独特のノリのドラムでリズムを安定させた、品の良い楽曲が多く収録されています。なお、TENTレーベルからの高橋幸宏サウンドを支えているのは盟友大村憲司や、売れっ子サックスプレイヤー矢口博康のほか、当時はまだ新進アレンジャー&キーボーディストであった小林武史と高橋の事務所Office Intenzioお抱えの駆け出しシンセプログラマー菅原弘明で、まだまだ若手の域を出なかった彼ら2人の生き生きとした仕事ぶりを楽しむことができます。この才能豊かな2人は、幸宏サウンド及び門あさ美のイメージを損なわず多彩な音色によるイメージ豊かなシンセサウンドを披露しており、このバランス感覚は後年プロデューサーとして大成していく彼らの天性のセンスと言えるのかもしれません。とはいえ、この高品位なサウンドをしっかり幸宏色に染めているのはやはり幸宏ドラムの存在感。彼のドラムはやはりどの作品においても絶大なインパクトで全体を支配していくから手に負えません。それが主役となるアーティストを食ってしまう場合もあるのが玉にキズですが、門あさ美のアンニュイイメージとマッチした本作においてはひとまず成功しているのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「太陽がいっぱい」
カッチリした独特のリズム感の幸宏ドラム(特に4拍目のロールが秀逸)が堪能できるフレンチPOPS。早瀬優香子あたりを彷佛とさせるアンニュイ感をアコーディオン音色とギターフレーズで演出、矢口博康の乾いたサックスソロも流石の存在感です。
・「SORADAKI 空薫」
ニューウェーブっぽい多彩な音色で彩られたシンセサウンドが大活躍のミディアムチューン。イントロの細かく震えながらパンする高速LFO系ビブラートフレーズや、DX系の金属音との相性が良く、ゲートタムの響きも鮮やかなドラムの安定感も見事です。
・「ひまわり」
本作のアンニュイ感をこれでもかと前面に押し出したラストのバラードソング。坂本龍一の流麗なストリングスアレンジによる音の膜で包み込んだかと思えば、テクニカルなB面からの盛り上がるサビへの展開、間奏のフレンチ感覚は、高橋幸宏の1stソロアルバムのルーツとも言えますし、得意とするサウンドメイクといったところでしょうか。
<評点>
・サウンド ★★ (多彩な音色でイメージ豊かに世界観を演出)
・メロディ ★ (どこまでも夢心地なヨーロピアンフレーズを展開)
・リズム ★★★ (幸宏ドラムのパターンはどこでもその存在感で魅了)
・曲構成 ★ (フレンチならではの煮え切らなさをトータルで演出)
・個性 ★ (前作の冒険心が薄れプロデューサーの存在に霞む)
総合評点: 6点
せっかくなので次作も含めたBOXでどうぞ。
「黄金の椅子」 鈴木トオル
「黄金の椅子」(1990 パイオニアLDC)
鈴木トオル:vocals・electric guitar

1.「特別な一日」 詞:只野菜摘 曲・編:DELPHINIUM
2.「ノイズ・インテリア」 詞:只野菜摘 曲・編:DELPHINIUM
3.「天国のショッピング」 詞:只野菜摘 曲:成田忍 編:DELPHINIUM・菅原弘明
4.「FRENCH HEAVY MAN」 詞:只野菜摘 曲:DAHLIA 編:DELPHINIUM・菅原弘明
5.「リバティ・僕は君を自由へ誘う」 詞:只野菜摘 曲:渡辺信平 編:DELPHINIUM
6.「ベネチア」 曲・編:DELPHINIUM
7.「イノセントの鏡」 詞:只野菜摘 曲:西脇辰弥 編:DELPHINIUM・菅原弘明
8.「黄金の階段」 詞:只野菜摘 曲・編:DELPHINIUM
9.「501号室の隣人」 詞:只野菜摘 曲:渡辺信平 編:DELPHINIUM 弦編:菅原弘明
10.「Jungle 1999」 詞:只野菜摘 曲・編:DAHLIA
11.「バナナの小屋に時計を埋めた」 詞:只野菜摘 曲:渡辺信平 編:DELPHINIUM
<support musician>
成田忍:electric guitar・keyboards・chorus
駒沢裕城:pedal steel guitar
平野健太:electric bass
伊藤真視:drums
小林泉美:keyboards
菅原弘明:keyboards・chorus
清水一登:vibraphone・clarinet・piano
数原晋:trumpet・flugelhorn
林研一郎:trumpet
清岡太郎:trombone
平内保夫:trombone
Jake H.Concepcion:alto sax
加藤譲:violin
大沢浄:violin
渡辺裕:viola
川村洋人:cello
鈴木千夏:strings
美尾洋乃:strings
前田康美:chorus
produced by 杉山修身
sound produced by 鈴木トオル
co-produced by 石渡ヨシアキ
engineered by 前田信雄
● 圧倒的な歌唱はそのままにセルフサウンドプロデュースによる細部にわたるこだわりが否が応でも伝わってくる渾身の2ndアルバム
1980年代に確かな足跡を残した良質POPSバンドであったLOOKの象徴的なヴォーカリストであった鈴木トオルは、88年に脱退という形でLOOKとしての活動に終止符を打ち、すぐさま89年にシングル「夜を泳いで」とアルバム「砂漠の熱帯魚」でソロデビューを果たします。ヴォーカリストとしての力量を感じさせながらも、インテリアズの日向大介プロデュースによるアーティスティックなサウンドが評価された1stアルバムの勢いに乗って、この後コンスタントにアルバムをリリースしていくことになるわけですが、2枚目からはLOOK時代から続いていたEPICソニーとの契約を解消し、パイオニアLDCに移籍してのリリースということになりました。このパイオニアLDC時代の鈴木トオルは、最もサウンド面で先鋭化していた時期であり、コンセプチュアルかつ実験性にも優れた作品にチャレンジしていたような印象を受けています。そしてその最も趣味性が突出していたと思われるアルバムが、移籍後初のアルバムとなる本作というわけです。
前述のように先鋭化している鈴木なので、本作ではサウンドプロデュースまで手掛けているわけですが、実質的にはほとんどの編曲を手がけたDELPHINIUMのプロデュースと言ってもよいでしょう。DELPHINIUMは鈴木と成田忍のアレンジユニットで、前作では4曲の編曲をDAHLIA(成田忍と菅原弘明のユニット)が手掛けましたが、それらの楽曲に手応えを感じたためか、本作では全面的に成田忍と菅原弘明がバックアップ、一筋縄ではいかない高品質なサウンドに見事に仕上げています。ポストニューウェーブなロックサウンドという側面が強くなったためかキャッチーというよりはややマニアックな方向性に寄ってしまった感も否めませんが、成田忍の不思議なギタープレイも存分に楽しめますし、同年SΛKΛNΛ の1stアルバムで見事なサウンドプロデュースを披露したシンセプログラマー出身の菅原弘明のサウンドメイク、恐らく成田が連れてきたと思われる清水一登のビブラフォンやクラリネットの渋いプレイ等、注目すべきポイントが多々あります。そして鈴木の代名詞とも言える熱唱型バラードソングでは前作でも安定感抜群のメロディメイキングを見せた渡辺信平が本作でもしっかりフォローしています。しかし前作と異なるのはこれらの渡辺楽曲でもアレンジはDELPHINIUMなので、成田色が突出しているためサウンド面でのこだわりは尋常ではなく、そのあたりは楽曲それぞれは地味な印象かもしれませんが聴き手を飽きさせない工夫がしっかり施されているように思われます。無国籍ファンタジーなインストの「ベネチア」は鈴木の声の壁と成田の(サウンドメイクとして)テクニカルなギタープレイが見事にマッチした、本作のコンセプチュアルな世界観(このあたりは作詞を全面的に手掛けた只野菜摘の貢献度が高い)を象徴する楽曲と言ってもよいかもしれません。ヴォーカリストとしての個性が突出しているためどうしても歌やメロディ中心と思われがちな鈴木トオルですが、本作の濃厚なサウンド空間はそれを忘れさせるだけのセンスと力量を兼ね備えた名盤であると思います。
鈴木はその後この「黄金の椅子」シリーズをもう1枚リリースしますが、結局は次第にヴォーカリゼーション重視となっていき、東芝移籍の際には完全に歌手として特化していくことになりますが、彼はもともとの優れた作家性を世に残すことができたという点で、彼にとって本作は重要な位置を占めているのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「特別な一日」
地味ながらもサウンド自体に漲るパワーを感じるオープニングナンバー。ずっしりしたドラムを中心とした生演奏をバックに、細かなギミックを挿入する遊び心もあります。そしてなんといっても間奏の成田忍のギターが素晴らしい。多彩なエフェクトを施した不思議なギターサウンドをこの楽曲では散りばめていますが、この煮え切らないギターソロの音色だけでも本作を聴いた価値があります。
・「天国のショッピング」
成田忍が作曲を手掛けたクールなポップチューン。乾いた感触のサウンドという印象ですが、グイグイ先導するドラムに、Aメロの涼やかなシンセパッド、サビの合間に挿入される爆発的なギターギミック、間奏の不思議フレーズのシンセソロ、楽曲としては地味ですが豊富な要素を詰め込んだ充実した楽曲です。
・「Jungle 1999」
大陸的な開放的サウンドにテンションが上がるDAHLIA楽曲。イントロのギターフレーズ(+音色)だけでもうノックアウトです。存分に重ねられたギターと盛り上がりに加担するストリングス、躍動感のあるパーカッション、濃厚なサウンド空間を演出した好楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (多彩なギタープレイと細かいサウンドギミックが充実)
・メロディ ★★ (サウンド面に力を入れた結果メロディ力はやや停滞)
・リズム ★★★ (ややロック調に寄ったこともありキレもパワーも向上)
・曲構成 ★★★ (楽曲単体では地味だがコンセプトとして芯が通る)
・個性 ★★★ (個性的な声だけではないサウンドセンスの良さを開花)
総合評点: 8点
鈴木トオル:vocals・electric guitar

1.「特別な一日」 詞:只野菜摘 曲・編:DELPHINIUM
2.「ノイズ・インテリア」 詞:只野菜摘 曲・編:DELPHINIUM
3.「天国のショッピング」 詞:只野菜摘 曲:成田忍 編:DELPHINIUM・菅原弘明
4.「FRENCH HEAVY MAN」 詞:只野菜摘 曲:DAHLIA 編:DELPHINIUM・菅原弘明
5.「リバティ・僕は君を自由へ誘う」 詞:只野菜摘 曲:渡辺信平 編:DELPHINIUM
6.「ベネチア」 曲・編:DELPHINIUM
7.「イノセントの鏡」 詞:只野菜摘 曲:西脇辰弥 編:DELPHINIUM・菅原弘明
8.「黄金の階段」 詞:只野菜摘 曲・編:DELPHINIUM
9.「501号室の隣人」 詞:只野菜摘 曲:渡辺信平 編:DELPHINIUM 弦編:菅原弘明
10.「Jungle 1999」 詞:只野菜摘 曲・編:DAHLIA
11.「バナナの小屋に時計を埋めた」 詞:只野菜摘 曲:渡辺信平 編:DELPHINIUM
<support musician>
成田忍:electric guitar・keyboards・chorus
駒沢裕城:pedal steel guitar
平野健太:electric bass
伊藤真視:drums
小林泉美:keyboards
菅原弘明:keyboards・chorus
清水一登:vibraphone・clarinet・piano
数原晋:trumpet・flugelhorn
林研一郎:trumpet
清岡太郎:trombone
平内保夫:trombone
Jake H.Concepcion:alto sax
加藤譲:violin
大沢浄:violin
渡辺裕:viola
川村洋人:cello
鈴木千夏:strings
美尾洋乃:strings
前田康美:chorus
produced by 杉山修身
sound produced by 鈴木トオル
co-produced by 石渡ヨシアキ
engineered by 前田信雄
● 圧倒的な歌唱はそのままにセルフサウンドプロデュースによる細部にわたるこだわりが否が応でも伝わってくる渾身の2ndアルバム
1980年代に確かな足跡を残した良質POPSバンドであったLOOKの象徴的なヴォーカリストであった鈴木トオルは、88年に脱退という形でLOOKとしての活動に終止符を打ち、すぐさま89年にシングル「夜を泳いで」とアルバム「砂漠の熱帯魚」でソロデビューを果たします。ヴォーカリストとしての力量を感じさせながらも、インテリアズの日向大介プロデュースによるアーティスティックなサウンドが評価された1stアルバムの勢いに乗って、この後コンスタントにアルバムをリリースしていくことになるわけですが、2枚目からはLOOK時代から続いていたEPICソニーとの契約を解消し、パイオニアLDCに移籍してのリリースということになりました。このパイオニアLDC時代の鈴木トオルは、最もサウンド面で先鋭化していた時期であり、コンセプチュアルかつ実験性にも優れた作品にチャレンジしていたような印象を受けています。そしてその最も趣味性が突出していたと思われるアルバムが、移籍後初のアルバムとなる本作というわけです。
前述のように先鋭化している鈴木なので、本作ではサウンドプロデュースまで手掛けているわけですが、実質的にはほとんどの編曲を手がけたDELPHINIUMのプロデュースと言ってもよいでしょう。DELPHINIUMは鈴木と成田忍のアレンジユニットで、前作では4曲の編曲をDAHLIA(成田忍と菅原弘明のユニット)が手掛けましたが、それらの楽曲に手応えを感じたためか、本作では全面的に成田忍と菅原弘明がバックアップ、一筋縄ではいかない高品質なサウンドに見事に仕上げています。ポストニューウェーブなロックサウンドという側面が強くなったためかキャッチーというよりはややマニアックな方向性に寄ってしまった感も否めませんが、成田忍の不思議なギタープレイも存分に楽しめますし、同年SΛKΛNΛ の1stアルバムで見事なサウンドプロデュースを披露したシンセプログラマー出身の菅原弘明のサウンドメイク、恐らく成田が連れてきたと思われる清水一登のビブラフォンやクラリネットの渋いプレイ等、注目すべきポイントが多々あります。そして鈴木の代名詞とも言える熱唱型バラードソングでは前作でも安定感抜群のメロディメイキングを見せた渡辺信平が本作でもしっかりフォローしています。しかし前作と異なるのはこれらの渡辺楽曲でもアレンジはDELPHINIUMなので、成田色が突出しているためサウンド面でのこだわりは尋常ではなく、そのあたりは楽曲それぞれは地味な印象かもしれませんが聴き手を飽きさせない工夫がしっかり施されているように思われます。無国籍ファンタジーなインストの「ベネチア」は鈴木の声の壁と成田の(サウンドメイクとして)テクニカルなギタープレイが見事にマッチした、本作のコンセプチュアルな世界観(このあたりは作詞を全面的に手掛けた只野菜摘の貢献度が高い)を象徴する楽曲と言ってもよいかもしれません。ヴォーカリストとしての個性が突出しているためどうしても歌やメロディ中心と思われがちな鈴木トオルですが、本作の濃厚なサウンド空間はそれを忘れさせるだけのセンスと力量を兼ね備えた名盤であると思います。
鈴木はその後この「黄金の椅子」シリーズをもう1枚リリースしますが、結局は次第にヴォーカリゼーション重視となっていき、東芝移籍の際には完全に歌手として特化していくことになりますが、彼はもともとの優れた作家性を世に残すことができたという点で、彼にとって本作は重要な位置を占めているのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「特別な一日」
地味ながらもサウンド自体に漲るパワーを感じるオープニングナンバー。ずっしりしたドラムを中心とした生演奏をバックに、細かなギミックを挿入する遊び心もあります。そしてなんといっても間奏の成田忍のギターが素晴らしい。多彩なエフェクトを施した不思議なギターサウンドをこの楽曲では散りばめていますが、この煮え切らないギターソロの音色だけでも本作を聴いた価値があります。
・「天国のショッピング」
成田忍が作曲を手掛けたクールなポップチューン。乾いた感触のサウンドという印象ですが、グイグイ先導するドラムに、Aメロの涼やかなシンセパッド、サビの合間に挿入される爆発的なギターギミック、間奏の不思議フレーズのシンセソロ、楽曲としては地味ですが豊富な要素を詰め込んだ充実した楽曲です。
・「Jungle 1999」
大陸的な開放的サウンドにテンションが上がるDAHLIA楽曲。イントロのギターフレーズ(+音色)だけでもうノックアウトです。存分に重ねられたギターと盛り上がりに加担するストリングス、躍動感のあるパーカッション、濃厚なサウンド空間を演出した好楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (多彩なギタープレイと細かいサウンドギミックが充実)
・メロディ ★★ (サウンド面に力を入れた結果メロディ力はやや停滞)
・リズム ★★★ (ややロック調に寄ったこともありキレもパワーも向上)
・曲構成 ★★★ (楽曲単体では地味だがコンセプトとして芯が通る)
・個性 ★★★ (個性的な声だけではないサウンドセンスの良さを開花)
総合評点: 8点
「TWO OF US」 横川理彦
「TWO OF US」 (1990 サイクル)
横川理彦:vocal・guitars・prepared guitar・fretless guitar・electric mandlin・bass・violin・viola・recorder・cowbell・hands-feet-voice・computer programming・tapes・chorus

1.「硬い人」with 山口優
詞・曲・編:山口優・横川理彦
2.「トラック・ラグーン」with 平沢進
詞:平沢進 曲・編:横川理彦
3.「誰もいない」with 今堀恒雄
曲・編:今堀恒雄・横川理彦
4.「MIT CHANG」with Haco
曲・編:Haco・横川理彦
5.「雲の影」with 成田忍
詞:横川理彦 曲:成田忍 編:成田忍・横川理彦
6.「ダム64」with 小西健司
詞:横川理彦 曲・編:小西健司・横川理彦
7.「卍」with 北田昌宏
曲・編:北田昌宏・横川理彦
8.「ボーダー・ソング」with 伊藤与太郎
詞・曲:伊藤与太郎・横川理彦 編:横川理彦
9.「再訪」with 外山明
曲・編:外山明・横川理彦
<support musician>
Haco:vocal・electone
伊藤与太郎:vocal
山口優:electric instruments・percussion・vocal
今堀恒雄:guitars・keyboard・drums
成田忍:guitars・computer programming・vocal
外山明:drums・percussion・voice
北田昌宏:hands-feet-voice・synthesizer・percussion
小西健司:computer programming・MS-20・vocal
平沢進:voice
produced by 横川理彦
mixing engineered by 近藤祥昭・山口優・横川理彦・藤近弘行
recording engineered by 太田秀光・深水吉数・近藤祥昭・秋元孝夫・笠谷文人・青島伸幸・山口優・五十嵐健・Haco・成田忍・藤近弘行・北田昌弘・横川理彦
● 9人の曲者ジャンルレスクリエイターとのセッションによる珍しい構成のインプロヴィゼーションポップアルバム
このようなブログで扱っているような類の音楽の世界に、どこからともなく現れて、そこはかとなく消えてゆく、そんなさりげない存在感を放ち、それでいてその才気たるや他の追随を許さない程のデジタル・アナログ双方に精通したマルチアーティスト横川理彦。関西のプログレフュージョンバンド99.99のベーシストとしてデビュー、小西健司と成田忍との4-D、Hacoや宇都宮泰、北田昌弘といった錚々たる面々と渡り合ったAfter Dinner、言わずと知れた平沢進のP-MODEL、今堀恒雄らとの即興ユニットMEATPIA、伊藤与太郎率いるメトロファルス、と数々のクセ者バンドを渡り歩きつつ、ソロ活動の傍ら数々のアーティストとのコラボレーションを繰り広げるなど、その多岐にわたる精力的な活動は現在も継続中という、なんともバイタリティ溢れた「真の」アーティストち言えるでしょう。そんな彼の80年代を通過した時期にリリースされたソロ名義初の作品が本作となります。
自身のソロ作と言いながら、彼が本作で選んだスタイルは、これまで共に活動してきた、または当時活動中であった気心知れたアーティストとのマンツーマンのコラボレーションでした。EXPOの山口優、平沢進、ティポグラフィカ等で活躍していた天才ギタリスト今堀恒雄、After DinnerのHaco、成田忍、小西健司、INU〜After Dinnerの不思議なギタリスト北田昌宏、伊藤与太郎、ティポグラフィカのドラマー外山明。横川はこれら9名の一筋縄ではいかないミュージシャン達と、時にはギター、時にはヴァイオリン、時にはコンピュータープログラミングと手を替え品を替えながら、対等に渡り合い、そのバランス感覚と万能性に優れた音楽センスを遺憾なく本作において発揮しています。山口優とのコンピューターにエラーを故意に演じさせるモンドミュージック(後に次作「TARASCON」へのコラボへと続く)、横川のヴァイオリン多重録音に乗せたSCUBAの歌詞を引用してきたような平沢進の弾き語り風朗読ソング、今堀恒雄とのバリバリの即興インスト(後年のMEATPIA結成への前哨戦)、エレクトーンをバックにしたHacoの即興歌唱宅録、成田忍らしいロマンティック歌唱とエフェクティブギターサウンドが光るギターポップチューン、小西健司のアシッドシンセと横川ヴァイオリンのマッチングが面白いエレクトロチューン、人間パーカッションというこれまでにないアプローチの北田昌宏との実験的パフォーマンス、無国籍感と和の心を垣間見せる伊藤与太郎とのコラボソング(後年のメトロファルスの音楽性の核となる)、外山明とのアーシーなアンビエントワールド・・・どれをとっても似たような楽曲はなく、横川理彦という多彩な顔を持つ稀有なミュージシャンの過去と未来を繋ぐ重要なコラボ作品に仕上がっているのではないかと思います。何といっても本作限りのコラボに終わらせることなく、以降もバンド加入やセッションによってその実験性を追求していく抜け目のなさ、本作タイトルの「TWO OF US」シリーズと銘打ったコラボライブシリーズを100回以上の続けていった驚異の継続性(と人脈形成)には脱帽せざるを得ず、それでいて自身は影となり主役を引き立たせていく究極のバイプレイヤーとして欠かせない存在となっています。当然これからもその多岐にわたる活動スタイルは衰えることはないでしょう。
<Favorite Songs>
・「硬い人」
EXPOの山口優とのコラボ楽曲。当時の山口らしい打ち込みでズレを故意に作り出すヨタヨタしたリズムとシーケンス、横川のギターやヴァイオリン等の弦楽器による即興演奏の相性も良く、その何とも言えないのほほんとした緩慢な空気感を絶妙に演出しています。
・「雲の影」
成田忍とのニューウェーブギターポップチューン。イントロ、そして間奏のニューウェーブ心をくすぐられる見事なギターサウンドとボイスエフェクトでなぞるフレーズが素晴らしい。そして本作において最も歌モノとして成立させつつ、エフェクティブに冒険している完成度の高い楽曲です。
・「ダム64」
4-Dの盟友、小西健司とのコラボ。やはり彼との共同作業になるとバリバリのエレクトロに。レゾナンスが良く効いたMS-20のシンセベースにサーチュレートされたヴォーカル、不穏なアジテートにカットアップコラージュといったお得意のサウンド手法は4-Dのアウトテイクのようです。
<評点>
・サウンド ★★★ (ジャンルレスの多彩な音楽性に基づくチャレンジ精神)
・メロディ ★ (もともとがメロディを重視する作風ではないことは明らか)
・リズム ★★ (即興性も高く楽曲も多彩なためリズム感も重視せず)
・曲構成 ★★ (コラボ作品集なので散漫ではあるが横川の存在感あり)
・個性 ★★ (これだけの強者に囲まれても全く動じず対等に渡り合う)
総合評点: 7点
横川理彦:vocal・guitars・prepared guitar・fretless guitar・electric mandlin・bass・violin・viola・recorder・cowbell・hands-feet-voice・computer programming・tapes・chorus

1.「硬い人」with 山口優
詞・曲・編:山口優・横川理彦
2.「トラック・ラグーン」with 平沢進
詞:平沢進 曲・編:横川理彦
3.「誰もいない」with 今堀恒雄
曲・編:今堀恒雄・横川理彦
4.「MIT CHANG」with Haco
曲・編:Haco・横川理彦
5.「雲の影」with 成田忍
詞:横川理彦 曲:成田忍 編:成田忍・横川理彦
6.「ダム64」with 小西健司
詞:横川理彦 曲・編:小西健司・横川理彦
7.「卍」with 北田昌宏
曲・編:北田昌宏・横川理彦
8.「ボーダー・ソング」with 伊藤与太郎
詞・曲:伊藤与太郎・横川理彦 編:横川理彦
9.「再訪」with 外山明
曲・編:外山明・横川理彦
<support musician>
Haco:vocal・electone
伊藤与太郎:vocal
山口優:electric instruments・percussion・vocal
今堀恒雄:guitars・keyboard・drums
成田忍:guitars・computer programming・vocal
外山明:drums・percussion・voice
北田昌宏:hands-feet-voice・synthesizer・percussion
小西健司:computer programming・MS-20・vocal
平沢進:voice
produced by 横川理彦
mixing engineered by 近藤祥昭・山口優・横川理彦・藤近弘行
recording engineered by 太田秀光・深水吉数・近藤祥昭・秋元孝夫・笠谷文人・青島伸幸・山口優・五十嵐健・Haco・成田忍・藤近弘行・北田昌弘・横川理彦
● 9人の曲者ジャンルレスクリエイターとのセッションによる珍しい構成のインプロヴィゼーションポップアルバム
このようなブログで扱っているような類の音楽の世界に、どこからともなく現れて、そこはかとなく消えてゆく、そんなさりげない存在感を放ち、それでいてその才気たるや他の追随を許さない程のデジタル・アナログ双方に精通したマルチアーティスト横川理彦。関西のプログレフュージョンバンド99.99のベーシストとしてデビュー、小西健司と成田忍との4-D、Hacoや宇都宮泰、北田昌弘といった錚々たる面々と渡り合ったAfter Dinner、言わずと知れた平沢進のP-MODEL、今堀恒雄らとの即興ユニットMEATPIA、伊藤与太郎率いるメトロファルス、と数々のクセ者バンドを渡り歩きつつ、ソロ活動の傍ら数々のアーティストとのコラボレーションを繰り広げるなど、その多岐にわたる精力的な活動は現在も継続中という、なんともバイタリティ溢れた「真の」アーティストち言えるでしょう。そんな彼の80年代を通過した時期にリリースされたソロ名義初の作品が本作となります。
自身のソロ作と言いながら、彼が本作で選んだスタイルは、これまで共に活動してきた、または当時活動中であった気心知れたアーティストとのマンツーマンのコラボレーションでした。EXPOの山口優、平沢進、ティポグラフィカ等で活躍していた天才ギタリスト今堀恒雄、After DinnerのHaco、成田忍、小西健司、INU〜After Dinnerの不思議なギタリスト北田昌宏、伊藤与太郎、ティポグラフィカのドラマー外山明。横川はこれら9名の一筋縄ではいかないミュージシャン達と、時にはギター、時にはヴァイオリン、時にはコンピュータープログラミングと手を替え品を替えながら、対等に渡り合い、そのバランス感覚と万能性に優れた音楽センスを遺憾なく本作において発揮しています。山口優とのコンピューターにエラーを故意に演じさせるモンドミュージック(後に次作「TARASCON」へのコラボへと続く)、横川のヴァイオリン多重録音に乗せたSCUBAの歌詞を引用してきたような平沢進の弾き語り風朗読ソング、今堀恒雄とのバリバリの即興インスト(後年のMEATPIA結成への前哨戦)、エレクトーンをバックにしたHacoの即興歌唱宅録、成田忍らしいロマンティック歌唱とエフェクティブギターサウンドが光るギターポップチューン、小西健司のアシッドシンセと横川ヴァイオリンのマッチングが面白いエレクトロチューン、人間パーカッションというこれまでにないアプローチの北田昌宏との実験的パフォーマンス、無国籍感と和の心を垣間見せる伊藤与太郎とのコラボソング(後年のメトロファルスの音楽性の核となる)、外山明とのアーシーなアンビエントワールド・・・どれをとっても似たような楽曲はなく、横川理彦という多彩な顔を持つ稀有なミュージシャンの過去と未来を繋ぐ重要なコラボ作品に仕上がっているのではないかと思います。何といっても本作限りのコラボに終わらせることなく、以降もバンド加入やセッションによってその実験性を追求していく抜け目のなさ、本作タイトルの「TWO OF US」シリーズと銘打ったコラボライブシリーズを100回以上の続けていった驚異の継続性(と人脈形成)には脱帽せざるを得ず、それでいて自身は影となり主役を引き立たせていく究極のバイプレイヤーとして欠かせない存在となっています。当然これからもその多岐にわたる活動スタイルは衰えることはないでしょう。
<Favorite Songs>
・「硬い人」
EXPOの山口優とのコラボ楽曲。当時の山口らしい打ち込みでズレを故意に作り出すヨタヨタしたリズムとシーケンス、横川のギターやヴァイオリン等の弦楽器による即興演奏の相性も良く、その何とも言えないのほほんとした緩慢な空気感を絶妙に演出しています。
・「雲の影」
成田忍とのニューウェーブギターポップチューン。イントロ、そして間奏のニューウェーブ心をくすぐられる見事なギターサウンドとボイスエフェクトでなぞるフレーズが素晴らしい。そして本作において最も歌モノとして成立させつつ、エフェクティブに冒険している完成度の高い楽曲です。
・「ダム64」
4-Dの盟友、小西健司とのコラボ。やはり彼との共同作業になるとバリバリのエレクトロに。レゾナンスが良く効いたMS-20のシンセベースにサーチュレートされたヴォーカル、不穏なアジテートにカットアップコラージュといったお得意のサウンド手法は4-Dのアウトテイクのようです。
<評点>
・サウンド ★★★ (ジャンルレスの多彩な音楽性に基づくチャレンジ精神)
・メロディ ★ (もともとがメロディを重視する作風ではないことは明らか)
・リズム ★★ (即興性も高く楽曲も多彩なためリズム感も重視せず)
・曲構成 ★★ (コラボ作品集なので散漫ではあるが横川の存在感あり)
・個性 ★★ (これだけの強者に囲まれても全く動じず対等に渡り合う)
総合評点: 7点
【特別編第4弾】 「TRIBUTO A SUSUMU HIRASAWA」VIDRA
皆様、いつも当ブログをご覧いただきありがとうございます。
TECHNOLOGY POPS π3.14です。
当ブログは常々過去のTECHNOLOGY POPSな名盤を淡々と紹介しているレビューブログですが、昨年は海外のTECHNOLOGY POPSフォロワーのミュージシャンの熱いオファーを受けて「特別編」ということで2枚ほど特別レビューを書かせていただきました。
その最初のきっかけをいただいたのがイタリアのルネッサンス・シンセポップバンド、VIDRAのFrancesco Fecondo氏からのダイレクトメールで、ヴィオラとテクノポップを融合させたこの風変わりなグループの1stアルバム「la fine delle comunicazioni」を恐らく日本で初めてレビューさせていただいたのが昨年7月のことでした。その後、テクノ/ニューウェーブの伝道師的な東京中野のCDショップ「SHOP MECANO」にて取り扱いが始まったことから日本でも比較的容易に(というには首都圏に限定されてしまいますが)入手可能となり、ちらほら彼らの音楽を耳にした方も(恐らく当ブログをご覧の方々は)いらっしゃるのではないかと思います。
さて、日本からすると馴染みの薄いイタリアの、しかもマニアックなシンセポップバンドがなぜこうも局地的に注目されたかというと、それは当ブログのレビューなんかではなく、サウンドの核となっているFecondo氏が大の平沢進ファンであること、そして彼が「SHOP MECANO」に直接コンタクトをとり、アルバムの取り扱いが決まったことで、平沢/P-MODEL周辺音楽のフォロワー達の琴線に触れたことが大きな要因ではないかと思っています。既にそのフォロワーの方々にとってはVIDRAも平沢ファミリーの一員のような扱いをされているように見受けられますが、彼らの「平沢」愛はとどまることを知らず、遂には日本の(まだまだ数少ない)ファンへのプレゼント、ということで日本限定盤として平沢楽曲リメイク盤「TRIBUTO A SUSUMU HIRASAWA」を急遽リリースすることになったわけです。しかも平沢のレーベルTeslakiteや事務所Chaos Unionに許可を得た公式リメイク。海外からの平沢へのラブコールもここまで来ると尊敬すべきものがあります。
この3曲入りシングルがリリースされたのは昨年11月。それから4ヶ月程経ちましたが、このたび遂にプロモーションビデオまで公開されたことを機に、Fecondo氏から「またレビューしてよ!」と嬉しいオファーをいただきましたので、またまたレビューさせていただくと、こういった経緯というわけです。
平沢進のほかにも、YAPOOS、ZABADAK、越美晴といったニューウェーブかつプログレッシブなジャパニーズPOPSが大好きなFecondo氏が、丹精込めて作り上げた謹製の「TRIBUTO A SUSUMU HIRASAWA」。3曲ながら話題性も豊富なこのシングルのレビュー、拙い部分がありますがどうぞご覧下さい。
「TRIBUTO A SUSUMU HIRASAWA」 (2016 Rupa Rupa)
VIDRA

<members>
Antonella “Giga” Gigantino:vocal
Francesco “Frencio” Fecondo:alto voice・Kawai Spectra・Siel Cruise・Fender Mustang MIDI・Synth1・samples
Michela Coppola:viola
1.「AVATAR ALONE」
詞:Antonella Gigantino・Francesco Fecondo 曲:平沢進 (Susumu Hirasawa)
編:VIDRA・Gerardo Coppola・Gabriele Loria
2.「ALFA TAU!」
曲:Francesco Fecondo・Gerardo Coppola・Michela Coppola 編:VIDRA
3.「MORMYRIDAE」
詞:Can・Francesco Fecondo 曲:Francesco Fecondo・SYS 編:SYS
<support musician>
Fuyu (SYS):vocal
Can (SYS)::KORG Radias・sequence programming
Gerardo Coppola:electric bass・drum machine programming
Gabriele Loria:drum machine programming・mastering
mixing engineered by Michela Coppola
recording engineered by Raffaele Cardone・SYS
● 尊敬する平沢進への愛と新進気鋭の若手エレクトロポップユニットとのコラボによる長靴の国から届けられた話題性豊かな企画盤シングル
昨年7月に突然イタリアから届けられた不思議な魅力を持つ新しいエレクトロポップアルバム「la fine delle comunicazioni」。この新機軸の作品はVIDRAという4人組グループによって生み出された、ヴィオラの芳醇な響きと宇宙を感じさせるエレクトロニクスが融合したルネッサンス・シンセポップともいうべき興味深いものでした。そして何といっても面白いのは中心人物であるFrancesco Fecondoが日本のテクノポップ&ニューウェーブの大ファンであるということでした。彼が特に衝撃を受けたP-MODELと平沢進、彼らからの影響を存分に自身の音楽性へと昇華させた結果、風変わりなアプローチによるシンセポップが完成しましたが、それはイタリア本国、そして日本でも好意的に受け入れられたのではないかと思われます。そんな彼らの感謝の心か、もしくはさらなるチャレンジなのかは不明ですが、まさに日本のファン、しかも平沢進等のP-MODEL系音楽周辺のファン向けといういささかマニアックながらも潜在的な数が多そうなファン層をターゲットとして、平沢進トリビュートシングルを企画、日本限定盤としてリリースに至りました。しかし蓋を開けてみるとこの3曲入りシングルのうち、平沢トリビュートは1曲「AVATAR ALONE」のみ、2曲目「ALFA TAU!」は彼らのオリジナルインスト、3曲目の「MORMYRIDAE」に至っては、平沢進の兄、平沢裕一が経営していたつくば市のカフェ「GAZIO」でのライブパフォーマンスが話題となり、昨年4曲入りシングル「DENSHIYOKU」をリリースした沖縄のテクノポップユニット、SYSとのコラボレーションによる楽曲であり、単なる平沢楽曲リメイク集とは言い切れない仕上がりとなっています。
そこで今回は3曲シングルという形態ですので、あくまでTECHNOLOGY POPS的な側面から各楽曲をそれぞれ解説していくことにいたしましょう。
1.「AVATAR ALONE」
知らないうちにDavide Zinnaが抜けて3人組になった彼らが数ある平沢楽曲からトリビュートとして選択したのは、現時点での最新アルバム「ホログラムを登る男」のリードチューンともいえる「アヴァター・アローン」。原曲は切迫感のあるストリングスを背景に、平沢らしい16ビートのリズムと斬りつけるような電子音が特徴的、かつ開放的なサビが強い印象を残すシリアスチューンでしたが、VIDRAは独自の宇宙観漂うイタリア語の歌詞もさることながら、フィーチャーされるのがMichelaのヴィオラなので弦の味が濃く、さらに恐らくKawai Spectraのエレピ音色のおかげで原曲の切迫感は薄れ、ほどよく牧歌的な雰囲気を漂わせています。ある種の危機感が原曲のポイントとなっていることを考えると、ある意味逆転の発想ともいえるこのゆったりとした、温かみのあるサウンドメイクは非常に興味深いと言えるでしょう。間奏ではボイスチェンジされたFecondoのオペラボイスも挿入されますが、ヴィオラの響きとの相乗効果でなんともクラシカルでルネッサンス。また、Gigantinoの相変わらず強烈な個性を持つAnnie Lennoxばりの味のある低音ボイスと共に、牧歌的な印象を決定づけているのがイタリア初のヴィンテージシンセサイザーSiel Cruiseのチープな電子音です。サビをなぞる剥き出しのフレーズは浮遊感のあるS.E.などはもはや彼らのヴィオラに次ぐ個性と言えるでしょう。そして圧巻なのはアウトロで、温かい空気を吹き飛ばすかのようなスペイシー感覚が炸裂。アルバムでも垣間見せた実験的な電子音ワールドを披露しながらも口笛風の音色によって、その牧歌感覚は忘れずにしっかり着地点を確保しています。まさにVIDRAとしての現在進行形サウンドを詰め込んだ愛の感じられるリメイクであると思います。
2.「ALFA TAU!」
2分足らずのオリジナルインスト。しかしながらこのシングルのコンセプトを表現する潤滑油的役割を果たしていると思われます。本作のコンセプトは平沢進のトリビュートとSYSとのコラボ、そしてアルバムデザインとして強烈なインパクトを与えるエレファントノーズフィッシュ。このインストのおかげで性格の違う両楽曲に統一感をもたらすことに成功し、単なるトリビュート曲集ではないコンセプチュアルなシングルに仕上がったのではないでしょうか。サウンド面ではやはりGerardo Coppolaが打ち込んだドラムマシンの音が心地よいです。軽過ぎず重過ぎずの絶妙な響きであると思います。しかしながら本作ではますますヴィオラとSiel Cruiseの相性の良さが前面に押し出されているなあという印象が強くなってきました。チープな電子音と豊かな中低音を感じるヴィオラの音響。これからの彼らの楽曲にとって最大の武器になっていくことに違いありません。
3.「MORMYRIDAE」
そして本作のもう1つの目玉である日本でも知る人ぞ知る沖縄の新鋭テクノポップユニットSYSとのコラボ楽曲。ネット間の音源ファイルやりとりによって制作されたこの楽曲のモチーフであるMORMYRIDAEは、ナイル川周辺に生息するアフリカの淡水魚で、アルバムデザインからもわかるとおり象みたいな顔の突起部分が特徴の魚ですが、この魚のもう1つの特徴が「発電」するということ。夜行性のため微弱な電流を発してレーダーのような役割をするそうで、こうした不思議な性質がいわゆるテクノっぽいということなのでしょう。サウンド面ではこの楽曲に関してはSYS主導で、CanのKORG Radias魂が炸裂する完全なエレクトロポップ仕様です。間奏部分はFecondoっぽいなあという感じはするのですが少し定かではありません。やはりSYSがアレンジを手掛けているのでVIDRAというよりはSYSの楽曲というイメージが強いです。FecondoはソフトシンセSynth1で参戦のようでしたが、それこそSiel CruiseでKORGの異色のアナログモデリングシンセRadiasと対決してほしかったなあというのは、単なる個人的な願望です(笑)
いつもはここで評点というところですが、3曲のみでは評価などおこがましいので今回はなしです。
3曲とも非常に興味深い楽曲であることは言うまでもありませんが、やはり1stアルバム「la fine delle comunicazioni」が良かったので、オリジナル楽曲をもっと聴きたいところです。これからのVIDRAの作品に期待しています!
このアルバムが入手できるのはショップメカノのみです。あとiTunesで配信されていますね。
https://blogs.yahoo.co.jp/adoopt_s
TECHNOLOGY POPS π3.14です。
当ブログは常々過去のTECHNOLOGY POPSな名盤を淡々と紹介しているレビューブログですが、昨年は海外のTECHNOLOGY POPSフォロワーのミュージシャンの熱いオファーを受けて「特別編」ということで2枚ほど特別レビューを書かせていただきました。
その最初のきっかけをいただいたのがイタリアのルネッサンス・シンセポップバンド、VIDRAのFrancesco Fecondo氏からのダイレクトメールで、ヴィオラとテクノポップを融合させたこの風変わりなグループの1stアルバム「la fine delle comunicazioni」を恐らく日本で初めてレビューさせていただいたのが昨年7月のことでした。その後、テクノ/ニューウェーブの伝道師的な東京中野のCDショップ「SHOP MECANO」にて取り扱いが始まったことから日本でも比較的容易に(というには首都圏に限定されてしまいますが)入手可能となり、ちらほら彼らの音楽を耳にした方も(恐らく当ブログをご覧の方々は)いらっしゃるのではないかと思います。
さて、日本からすると馴染みの薄いイタリアの、しかもマニアックなシンセポップバンドがなぜこうも局地的に注目されたかというと、それは当ブログのレビューなんかではなく、サウンドの核となっているFecondo氏が大の平沢進ファンであること、そして彼が「SHOP MECANO」に直接コンタクトをとり、アルバムの取り扱いが決まったことで、平沢/P-MODEL周辺音楽のフォロワー達の琴線に触れたことが大きな要因ではないかと思っています。既にそのフォロワーの方々にとってはVIDRAも平沢ファミリーの一員のような扱いをされているように見受けられますが、彼らの「平沢」愛はとどまることを知らず、遂には日本の(まだまだ数少ない)ファンへのプレゼント、ということで日本限定盤として平沢楽曲リメイク盤「TRIBUTO A SUSUMU HIRASAWA」を急遽リリースすることになったわけです。しかも平沢のレーベルTeslakiteや事務所Chaos Unionに許可を得た公式リメイク。海外からの平沢へのラブコールもここまで来ると尊敬すべきものがあります。
この3曲入りシングルがリリースされたのは昨年11月。それから4ヶ月程経ちましたが、このたび遂にプロモーションビデオまで公開されたことを機に、Fecondo氏から「またレビューしてよ!」と嬉しいオファーをいただきましたので、またまたレビューさせていただくと、こういった経緯というわけです。
平沢進のほかにも、YAPOOS、ZABADAK、越美晴といったニューウェーブかつプログレッシブなジャパニーズPOPSが大好きなFecondo氏が、丹精込めて作り上げた謹製の「TRIBUTO A SUSUMU HIRASAWA」。3曲ながら話題性も豊富なこのシングルのレビュー、拙い部分がありますがどうぞご覧下さい。
「TRIBUTO A SUSUMU HIRASAWA」 (2016 Rupa Rupa)
VIDRA

<members>
Antonella “Giga” Gigantino:vocal
Francesco “Frencio” Fecondo:alto voice・Kawai Spectra・Siel Cruise・Fender Mustang MIDI・Synth1・samples
Michela Coppola:viola
1.「AVATAR ALONE」
詞:Antonella Gigantino・Francesco Fecondo 曲:平沢進 (Susumu Hirasawa)
編:VIDRA・Gerardo Coppola・Gabriele Loria
2.「ALFA TAU!」
曲:Francesco Fecondo・Gerardo Coppola・Michela Coppola 編:VIDRA
3.「MORMYRIDAE」
詞:Can・Francesco Fecondo 曲:Francesco Fecondo・SYS 編:SYS
<support musician>
Fuyu (SYS):vocal
Can (SYS)::KORG Radias・sequence programming
Gerardo Coppola:electric bass・drum machine programming
Gabriele Loria:drum machine programming・mastering
mixing engineered by Michela Coppola
recording engineered by Raffaele Cardone・SYS
● 尊敬する平沢進への愛と新進気鋭の若手エレクトロポップユニットとのコラボによる長靴の国から届けられた話題性豊かな企画盤シングル
昨年7月に突然イタリアから届けられた不思議な魅力を持つ新しいエレクトロポップアルバム「la fine delle comunicazioni」。この新機軸の作品はVIDRAという4人組グループによって生み出された、ヴィオラの芳醇な響きと宇宙を感じさせるエレクトロニクスが融合したルネッサンス・シンセポップともいうべき興味深いものでした。そして何といっても面白いのは中心人物であるFrancesco Fecondoが日本のテクノポップ&ニューウェーブの大ファンであるということでした。彼が特に衝撃を受けたP-MODELと平沢進、彼らからの影響を存分に自身の音楽性へと昇華させた結果、風変わりなアプローチによるシンセポップが完成しましたが、それはイタリア本国、そして日本でも好意的に受け入れられたのではないかと思われます。そんな彼らの感謝の心か、もしくはさらなるチャレンジなのかは不明ですが、まさに日本のファン、しかも平沢進等のP-MODEL系音楽周辺のファン向けといういささかマニアックながらも潜在的な数が多そうなファン層をターゲットとして、平沢進トリビュートシングルを企画、日本限定盤としてリリースに至りました。しかし蓋を開けてみるとこの3曲入りシングルのうち、平沢トリビュートは1曲「AVATAR ALONE」のみ、2曲目「ALFA TAU!」は彼らのオリジナルインスト、3曲目の「MORMYRIDAE」に至っては、平沢進の兄、平沢裕一が経営していたつくば市のカフェ「GAZIO」でのライブパフォーマンスが話題となり、昨年4曲入りシングル「DENSHIYOKU」をリリースした沖縄のテクノポップユニット、SYSとのコラボレーションによる楽曲であり、単なる平沢楽曲リメイク集とは言い切れない仕上がりとなっています。
そこで今回は3曲シングルという形態ですので、あくまでTECHNOLOGY POPS的な側面から各楽曲をそれぞれ解説していくことにいたしましょう。
1.「AVATAR ALONE」
知らないうちにDavide Zinnaが抜けて3人組になった彼らが数ある平沢楽曲からトリビュートとして選択したのは、現時点での最新アルバム「ホログラムを登る男」のリードチューンともいえる「アヴァター・アローン」。原曲は切迫感のあるストリングスを背景に、平沢らしい16ビートのリズムと斬りつけるような電子音が特徴的、かつ開放的なサビが強い印象を残すシリアスチューンでしたが、VIDRAは独自の宇宙観漂うイタリア語の歌詞もさることながら、フィーチャーされるのがMichelaのヴィオラなので弦の味が濃く、さらに恐らくKawai Spectraのエレピ音色のおかげで原曲の切迫感は薄れ、ほどよく牧歌的な雰囲気を漂わせています。ある種の危機感が原曲のポイントとなっていることを考えると、ある意味逆転の発想ともいえるこのゆったりとした、温かみのあるサウンドメイクは非常に興味深いと言えるでしょう。間奏ではボイスチェンジされたFecondoのオペラボイスも挿入されますが、ヴィオラの響きとの相乗効果でなんともクラシカルでルネッサンス。また、Gigantinoの相変わらず強烈な個性を持つAnnie Lennoxばりの味のある低音ボイスと共に、牧歌的な印象を決定づけているのがイタリア初のヴィンテージシンセサイザーSiel Cruiseのチープな電子音です。サビをなぞる剥き出しのフレーズは浮遊感のあるS.E.などはもはや彼らのヴィオラに次ぐ個性と言えるでしょう。そして圧巻なのはアウトロで、温かい空気を吹き飛ばすかのようなスペイシー感覚が炸裂。アルバムでも垣間見せた実験的な電子音ワールドを披露しながらも口笛風の音色によって、その牧歌感覚は忘れずにしっかり着地点を確保しています。まさにVIDRAとしての現在進行形サウンドを詰め込んだ愛の感じられるリメイクであると思います。
2.「ALFA TAU!」
2分足らずのオリジナルインスト。しかしながらこのシングルのコンセプトを表現する潤滑油的役割を果たしていると思われます。本作のコンセプトは平沢進のトリビュートとSYSとのコラボ、そしてアルバムデザインとして強烈なインパクトを与えるエレファントノーズフィッシュ。このインストのおかげで性格の違う両楽曲に統一感をもたらすことに成功し、単なるトリビュート曲集ではないコンセプチュアルなシングルに仕上がったのではないでしょうか。サウンド面ではやはりGerardo Coppolaが打ち込んだドラムマシンの音が心地よいです。軽過ぎず重過ぎずの絶妙な響きであると思います。しかしながら本作ではますますヴィオラとSiel Cruiseの相性の良さが前面に押し出されているなあという印象が強くなってきました。チープな電子音と豊かな中低音を感じるヴィオラの音響。これからの彼らの楽曲にとって最大の武器になっていくことに違いありません。
3.「MORMYRIDAE」
そして本作のもう1つの目玉である日本でも知る人ぞ知る沖縄の新鋭テクノポップユニットSYSとのコラボ楽曲。ネット間の音源ファイルやりとりによって制作されたこの楽曲のモチーフであるMORMYRIDAEは、ナイル川周辺に生息するアフリカの淡水魚で、アルバムデザインからもわかるとおり象みたいな顔の突起部分が特徴の魚ですが、この魚のもう1つの特徴が「発電」するということ。夜行性のため微弱な電流を発してレーダーのような役割をするそうで、こうした不思議な性質がいわゆるテクノっぽいということなのでしょう。サウンド面ではこの楽曲に関してはSYS主導で、CanのKORG Radias魂が炸裂する完全なエレクトロポップ仕様です。間奏部分はFecondoっぽいなあという感じはするのですが少し定かではありません。やはりSYSがアレンジを手掛けているのでVIDRAというよりはSYSの楽曲というイメージが強いです。FecondoはソフトシンセSynth1で参戦のようでしたが、それこそSiel CruiseでKORGの異色のアナログモデリングシンセRadiasと対決してほしかったなあというのは、単なる個人的な願望です(笑)
いつもはここで評点というところですが、3曲のみでは評価などおこがましいので今回はなしです。
3曲とも非常に興味深い楽曲であることは言うまでもありませんが、やはり1stアルバム「la fine delle comunicazioni」が良かったので、オリジナル楽曲をもっと聴きたいところです。これからのVIDRAの作品に期待しています!
このアルバムが入手できるのはショップメカノのみです。あとiTunesで配信されていますね。
https://blogs.yahoo.co.jp/adoopt_s
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