「POP CITY」 ないあがらせっと
「POP CITY」(2009 スタジオスープ)
ないあがらせっと

<members>
中村寛:vocal・all instruments
1.「街のスーパーマン」 詞・曲・編:中村寛
2.「街のマタニティ」 詞・曲・編:中村寛
3.「リゾート」 詞・曲・編:中村寛
4.「words are」 詞・曲・編:中村寛
5.「スモーク」 詞・曲・編:中村寛
6.「summer drifter」 詞・曲・編:中村寛
7.「君と太陽」 詞・曲・編:中村寛
8.「インバーター」 曲・編:中村寛
9.「サマーニンジャ」 詞・曲・編:中村寛
10.「風のような甘い奇跡」 詞・曲・編:中村寛
produced by Studio Soup
engineered by 中村寛
● 喫茶ロックから進化しエレクトリックを取り入れたシティポップに挑戦した九州の良質ポップユニットの変化球作品
そのバンド名から想像するに難くない70年代フォーク&ニューミュージックの佇まいをひしひしと感じさせる、北九州の喫茶ロックユニットないあがらせっと。首謀者の中村寛やサウンドディレクターの冨永真吾を中心に数十名の地元ミュージシャンが入れ替わり立ち替わりサポートしながら作り上げられた何ともノスタルジックなメロディと昭和な音空間は、懐古趣味と言われようがその確固たる音楽的指針は崩れることなく、その枯れた味わいを存分に00年代の音楽シーンにぶつけていたのでした。ないあがらせっとは2002年、70年代に数々の名盤を生み出し、00年代に復活したベルウッドレコードからのリリースというこだわりを見せる形で1stアルバム「NAIAGARA SET」を全国流通、古き良き時代を甦らせる郷愁に満ちた作風で注目を浴びたものの、同年の2ndアルバム「ホリデヰ」リリース後は活動を休止、その後は思い出したように復活させては作品をリリースしたり、ライブを開催したりというインディーズならではの悠々自適な活動を繰り返しています。
本作はそんな彼らの2009年リリースの4thアルバムで、前作「Sound Of Garden」から2年振りの作品となりますが、従来の枯れた音楽性はそのままに今回は大胆にもエレクトロニカに影響されたようなシンセサイザーによるプログラミングをフィーチャーした楽曲にも挑戦、新たな方向性を見出そうとしています。当然のことながら基本はギター弾き語りスタイルでのはっぴぃえんどやシュガーベイブといった伝説のロックバンドのセンスを受け継いだかのような美しいメロディラインを軸にしていますが、特に「街のマタニティ」や「スモーク」、「サマーニンジャ」といった新機軸の楽曲ではそこに大胆なシンセフレーズを織り交ぜることで喫茶ロックを飛び越えたエレクトロシティポップとしての矜持を見せつけた形となっています。しかしこうした飛び道具が生きるのも元々の楽曲の濃いメロディの訴求力あってこそであり、俳人としても活躍する中村寛の言語感覚豊かな歌詞と気怠さを表現した歌唱による独特の癒しといいますかゆったりとした生活テンポといいますか、いやがおうでもスピード感に苛まれる現代人が忘れがちな心のゆとりを感じさせる楽曲であるからこそ、その対照的なエレクトロニクスがより生きた形で表現されています。余りに大胆に(時にはギミカルな)エレクトリックサウンドに挑戦したため、従来の聴き手も含めて賛否両論となった(と思われる)作品でしたが、個人的には従来の音楽性の幅を劇的に広げた素晴らしい決断であったと思います。
<Favorite Songs>
・「街のスーパーマン」
もやがかったミックスによる得意のノスタルジックPOPS。荒れたギターサウンドとオルガンの響きはどこを切り取っても70年代にタイムスリップさせます。またこの楽曲は抑え気味のサビのメロディが素晴らしく、淡々としたチープなリズムマシンの音色とのマッチングにも秀でています。
・「街のマタニティ」
これもギター中心の喫茶ロックながらも電子音剥き出しのシンセフレーズを大胆にも導入した新機軸楽曲。どうせシンセを入れるなら思い切ってスペイシーにチャレンジしてみようという意気込みを感じる豪快なフレーズの使い方で、トーキングモジュレーターやノイズ的なフレーズを中心としたギミックで聴き手を驚かせます。
・「サマーニンジャ」
まさかの4つ打ちエレクトロポップ。ダンサブルなリズムに絡みついてくる滲むような白玉シンセ、この大胆な音色が軸となってエレクトロニクスに溶けていったエフェクティブ処理されたギターはシーケンス然としており全く違和感なく成立しています。
<評点>
・サウンド ★★ (空間処理はローファイに電子音は大胆に)
・メロディ ★★★ (名曲度は落ちたものの安定感は感じられる)
・リズム ★★ (打ち込みリズムの特性も良く生かしている)
・曲構成 ★★ (メロディの良さが大胆な挑戦に違和感を与えず)
・個性 ★★ (電子音を自身の音楽性に巧みに溶け込ませている)
総合評点: 7点
ないあがらせっと

<members>
中村寛:vocal・all instruments
1.「街のスーパーマン」 詞・曲・編:中村寛
2.「街のマタニティ」 詞・曲・編:中村寛
3.「リゾート」 詞・曲・編:中村寛
4.「words are」 詞・曲・編:中村寛
5.「スモーク」 詞・曲・編:中村寛
6.「summer drifter」 詞・曲・編:中村寛
7.「君と太陽」 詞・曲・編:中村寛
8.「インバーター」 曲・編:中村寛
9.「サマーニンジャ」 詞・曲・編:中村寛
10.「風のような甘い奇跡」 詞・曲・編:中村寛
produced by Studio Soup
engineered by 中村寛
● 喫茶ロックから進化しエレクトリックを取り入れたシティポップに挑戦した九州の良質ポップユニットの変化球作品
そのバンド名から想像するに難くない70年代フォーク&ニューミュージックの佇まいをひしひしと感じさせる、北九州の喫茶ロックユニットないあがらせっと。首謀者の中村寛やサウンドディレクターの冨永真吾を中心に数十名の地元ミュージシャンが入れ替わり立ち替わりサポートしながら作り上げられた何ともノスタルジックなメロディと昭和な音空間は、懐古趣味と言われようがその確固たる音楽的指針は崩れることなく、その枯れた味わいを存分に00年代の音楽シーンにぶつけていたのでした。ないあがらせっとは2002年、70年代に数々の名盤を生み出し、00年代に復活したベルウッドレコードからのリリースというこだわりを見せる形で1stアルバム「NAIAGARA SET」を全国流通、古き良き時代を甦らせる郷愁に満ちた作風で注目を浴びたものの、同年の2ndアルバム「ホリデヰ」リリース後は活動を休止、その後は思い出したように復活させては作品をリリースしたり、ライブを開催したりというインディーズならではの悠々自適な活動を繰り返しています。
本作はそんな彼らの2009年リリースの4thアルバムで、前作「Sound Of Garden」から2年振りの作品となりますが、従来の枯れた音楽性はそのままに今回は大胆にもエレクトロニカに影響されたようなシンセサイザーによるプログラミングをフィーチャーした楽曲にも挑戦、新たな方向性を見出そうとしています。当然のことながら基本はギター弾き語りスタイルでのはっぴぃえんどやシュガーベイブといった伝説のロックバンドのセンスを受け継いだかのような美しいメロディラインを軸にしていますが、特に「街のマタニティ」や「スモーク」、「サマーニンジャ」といった新機軸の楽曲ではそこに大胆なシンセフレーズを織り交ぜることで喫茶ロックを飛び越えたエレクトロシティポップとしての矜持を見せつけた形となっています。しかしこうした飛び道具が生きるのも元々の楽曲の濃いメロディの訴求力あってこそであり、俳人としても活躍する中村寛の言語感覚豊かな歌詞と気怠さを表現した歌唱による独特の癒しといいますかゆったりとした生活テンポといいますか、いやがおうでもスピード感に苛まれる現代人が忘れがちな心のゆとりを感じさせる楽曲であるからこそ、その対照的なエレクトロニクスがより生きた形で表現されています。余りに大胆に(時にはギミカルな)エレクトリックサウンドに挑戦したため、従来の聴き手も含めて賛否両論となった(と思われる)作品でしたが、個人的には従来の音楽性の幅を劇的に広げた素晴らしい決断であったと思います。
<Favorite Songs>
・「街のスーパーマン」
もやがかったミックスによる得意のノスタルジックPOPS。荒れたギターサウンドとオルガンの響きはどこを切り取っても70年代にタイムスリップさせます。またこの楽曲は抑え気味のサビのメロディが素晴らしく、淡々としたチープなリズムマシンの音色とのマッチングにも秀でています。
・「街のマタニティ」
これもギター中心の喫茶ロックながらも電子音剥き出しのシンセフレーズを大胆にも導入した新機軸楽曲。どうせシンセを入れるなら思い切ってスペイシーにチャレンジしてみようという意気込みを感じる豪快なフレーズの使い方で、トーキングモジュレーターやノイズ的なフレーズを中心としたギミックで聴き手を驚かせます。
・「サマーニンジャ」
まさかの4つ打ちエレクトロポップ。ダンサブルなリズムに絡みついてくる滲むような白玉シンセ、この大胆な音色が軸となってエレクトロニクスに溶けていったエフェクティブ処理されたギターはシーケンス然としており全く違和感なく成立しています。
<評点>
・サウンド ★★ (空間処理はローファイに電子音は大胆に)
・メロディ ★★★ (名曲度は落ちたものの安定感は感じられる)
・リズム ★★ (打ち込みリズムの特性も良く生かしている)
・曲構成 ★★ (メロディの良さが大胆な挑戦に違和感を与えず)
・個性 ★★ (電子音を自身の音楽性に巧みに溶け込ませている)
総合評点: 7点
「CHILD IN TIME」 白浜久
「CHILD IN TIME」(1986 ビクター)
白浜久:vocal・guitars

1.「25の時」 詞・曲・編:白浜久
2.「Communication Break Down」 詞・曲・編:白浜久
3.「Here Comes The Night」 詞・曲・編:白浜久
4.「同じ夢」 詞・曲・編:白浜久
5.「無邪気な惨酷」 詞・曲・編:白浜久
6.「Start Only One」 詞・曲・編:白浜久
7.「Breakin’ Glass」 詞・曲・編:白浜久
8.「アウト・オブ・タイム」 詞・曲・編:白浜久
9.「Kitchen Drunker」 詞・曲・編:白浜久
10.「Mother」 詞・曲・編:白浜久
11.「季節の終りに」 詞・曲・編:白浜久
12.「Only Time Will Tell」 詞・曲・編:白浜久
<support musician>
浅田孟:bass・slide guitar
上原裕:drums
寺田正治:drums
矢壁アツノブ:drums
倉富義隆:sax・flute
森の木児童合唱団:chorus
渡辺昌子:voice
星 渉:computer operate
日戸修平:guitar arrangement
produced by 白浜久
co-produced by 寺田正治
mixing engineered by 寺田仁
recording engineered by 比留間整
● ARBの活動と並行しソロアーティストとして星渉とのコンビでニューウェーブサウンドを積極的に取り入れたロックを聴かせる2ndアルバム
学生時代はTHE MODSの前身バンドTHE MOZZのメンバーとして活動していた福岡県出身のギタリスト白浜久は、同バンド脱退後1980年代に入ってからはしばらく沈黙していましたが、1985年にソロアーティストとしてアルバム「NONFICTION」でデビュー、UKニューウェーブを通過した繊細な作風と、沈黙時代に法務教官として少年院にて勤務していた体験を活かしたメッセージ性の強い歌詞で、どこか引っかかりのあるロックミュージシャンとして光を放ちつつありました。ロック色寄りながらもデジタルな要素を惜しみなく楽曲に反映することに積極的な彼は、原マスミやMENUといった先鋭的なアーティストが在籍したユピテルレコードのオムニバス「Technical Music Planning」にも参加、自身のソロ楽曲を収録するとともに、そこで出会ったMENUの星渉とRadio Musikなるユニットを結成し同アルバムに「フライデー・ナイトの悲劇」を収録、ニューウェーブ寄りな活動を続けていくことになります。そのような流れから翌86年にリリースされたのが本作ということになります。
レコーディング時期がちょうどユピテル関連人脈と近しい時期であったため、本作でのシンセサイザーおよびプログラミングのマニュピレートはMENUのサウンドメーカーであった星渉が全面的に担当、サウンド面での完全なる相棒としてMENU解散後の数少ない活躍の場となっています。ともあれ彼の参加によってシンセ度は確実にアップし、PCMドラムマシンにエフェクトをかけた硬質な音色とジャストなリズムとチープとも言えるデジタル系シンセサウンドはどこまでもニューウェーブ性を漂わせており、楽曲フォーマットはロックながらも凝りまくったエフェクティブギター音色も相まってテクノロジーPOPS特有のゴリッとした80'sサウンドを楽しむことができます。また、本作で際立っているのは星による生き生きとしたサンプルギミックで、ラジオのカットアップやグラスクラッシュを初めとしたごった煮のサンプリング音を随所で詰め込んでおり、サウンドの厚みと実験性を表現することで本職ではなさそうな白浜の線の細い声質を巧みにカバーする役割を担っています。音楽的な趣味が合致したと思われる白浜と星のRadio Muzikから続くコラボレーションの集大成が本作とも言えますが、彼ら2人がギタリストという側面からもギターの音処理にも優れており、しかもニューウェーブを通過した彼らだからこその(ユピテル直系の)一筋縄ではいかないエフェクト満載なギターは当然ユピテルレコードアーティスト達を手掛けた寺田仁のエンジニアリングの妙もありますが、志半ばで絶たれたユピテルアーティストの意地も感じられることも印象的な作品です。白浜は本作のレコーディング中に石橋凌率いる10年選手のロックバンドARBに参加、彼らのサウンド面に多大な影響を与えるとともに、自身のキャリアを着実に積み重ねていくことになります。
<Favorite Songs>
・「Communication Break Down」
ヒンヤリしたソリッドな感覚が研ぎ澄まされたニューウェーブロック。硬質なリズムトラックに導かれたUKニューウェーブっぽい哀愁のメロディラインと枯れたギターサウンドが楽しめます。後半挿入されるギミカルなラジオカットアップや、カウントで締めるエンディングといった仕掛けも効いています。
・「Breakin’ Glass」
イントロのリフにのっけからアクの強さを感じるアップチューン。疾走感のあるリズムの中にメタリックな音色を織り交ぜながら、ハードなギターサウンド(当然デジタル風味)でグイグイ攻めてくる本作中で最も攻撃的な楽曲です。
・「Kitchen Drunker」
地に足の着いたリズムトラックと渋めのメロディが魅力の楽曲。淡々としたギターリフと決して鮮やかとは言えない地味なメロディラインを引き立てているのは、パワフルに処理されたマシンによる正確なリズムで、本作では全面的にこうしたPCMドラムマシンが大活躍してサウンドの芯となる役割を担っています。
<評点>
・サウンド ★★★ (チープな中に実験的要素を忍ばせる粋な音処理)
・メロディ ★ (聴きやすさもあるが全体的には抑揚のなさも)
・リズム ★★★ (マシンの打ち込みに自家製臭さも感じるがそこが◯)
・曲構成 ★ (楽曲は多めだが短めの曲も多く物足りなさも)
・個性 ★★ (歌は弱いがサウンドメイカーとしての魅力は感じる)
総合評点: 7点
白浜久:vocal・guitars

1.「25の時」 詞・曲・編:白浜久
2.「Communication Break Down」 詞・曲・編:白浜久
3.「Here Comes The Night」 詞・曲・編:白浜久
4.「同じ夢」 詞・曲・編:白浜久
5.「無邪気な惨酷」 詞・曲・編:白浜久
6.「Start Only One」 詞・曲・編:白浜久
7.「Breakin’ Glass」 詞・曲・編:白浜久
8.「アウト・オブ・タイム」 詞・曲・編:白浜久
9.「Kitchen Drunker」 詞・曲・編:白浜久
10.「Mother」 詞・曲・編:白浜久
11.「季節の終りに」 詞・曲・編:白浜久
12.「Only Time Will Tell」 詞・曲・編:白浜久
<support musician>
浅田孟:bass・slide guitar
上原裕:drums
寺田正治:drums
矢壁アツノブ:drums
倉富義隆:sax・flute
森の木児童合唱団:chorus
渡辺昌子:voice
星 渉:computer operate
日戸修平:guitar arrangement
produced by 白浜久
co-produced by 寺田正治
mixing engineered by 寺田仁
recording engineered by 比留間整
● ARBの活動と並行しソロアーティストとして星渉とのコンビでニューウェーブサウンドを積極的に取り入れたロックを聴かせる2ndアルバム
学生時代はTHE MODSの前身バンドTHE MOZZのメンバーとして活動していた福岡県出身のギタリスト白浜久は、同バンド脱退後1980年代に入ってからはしばらく沈黙していましたが、1985年にソロアーティストとしてアルバム「NONFICTION」でデビュー、UKニューウェーブを通過した繊細な作風と、沈黙時代に法務教官として少年院にて勤務していた体験を活かしたメッセージ性の強い歌詞で、どこか引っかかりのあるロックミュージシャンとして光を放ちつつありました。ロック色寄りながらもデジタルな要素を惜しみなく楽曲に反映することに積極的な彼は、原マスミやMENUといった先鋭的なアーティストが在籍したユピテルレコードのオムニバス「Technical Music Planning」にも参加、自身のソロ楽曲を収録するとともに、そこで出会ったMENUの星渉とRadio Musikなるユニットを結成し同アルバムに「フライデー・ナイトの悲劇」を収録、ニューウェーブ寄りな活動を続けていくことになります。そのような流れから翌86年にリリースされたのが本作ということになります。
レコーディング時期がちょうどユピテル関連人脈と近しい時期であったため、本作でのシンセサイザーおよびプログラミングのマニュピレートはMENUのサウンドメーカーであった星渉が全面的に担当、サウンド面での完全なる相棒としてMENU解散後の数少ない活躍の場となっています。ともあれ彼の参加によってシンセ度は確実にアップし、PCMドラムマシンにエフェクトをかけた硬質な音色とジャストなリズムとチープとも言えるデジタル系シンセサウンドはどこまでもニューウェーブ性を漂わせており、楽曲フォーマットはロックながらも凝りまくったエフェクティブギター音色も相まってテクノロジーPOPS特有のゴリッとした80'sサウンドを楽しむことができます。また、本作で際立っているのは星による生き生きとしたサンプルギミックで、ラジオのカットアップやグラスクラッシュを初めとしたごった煮のサンプリング音を随所で詰め込んでおり、サウンドの厚みと実験性を表現することで本職ではなさそうな白浜の線の細い声質を巧みにカバーする役割を担っています。音楽的な趣味が合致したと思われる白浜と星のRadio Muzikから続くコラボレーションの集大成が本作とも言えますが、彼ら2人がギタリストという側面からもギターの音処理にも優れており、しかもニューウェーブを通過した彼らだからこその(ユピテル直系の)一筋縄ではいかないエフェクト満載なギターは当然ユピテルレコードアーティスト達を手掛けた寺田仁のエンジニアリングの妙もありますが、志半ばで絶たれたユピテルアーティストの意地も感じられることも印象的な作品です。白浜は本作のレコーディング中に石橋凌率いる10年選手のロックバンドARBに参加、彼らのサウンド面に多大な影響を与えるとともに、自身のキャリアを着実に積み重ねていくことになります。
<Favorite Songs>
・「Communication Break Down」
ヒンヤリしたソリッドな感覚が研ぎ澄まされたニューウェーブロック。硬質なリズムトラックに導かれたUKニューウェーブっぽい哀愁のメロディラインと枯れたギターサウンドが楽しめます。後半挿入されるギミカルなラジオカットアップや、カウントで締めるエンディングといった仕掛けも効いています。
・「Breakin’ Glass」
イントロのリフにのっけからアクの強さを感じるアップチューン。疾走感のあるリズムの中にメタリックな音色を織り交ぜながら、ハードなギターサウンド(当然デジタル風味)でグイグイ攻めてくる本作中で最も攻撃的な楽曲です。
・「Kitchen Drunker」
地に足の着いたリズムトラックと渋めのメロディが魅力の楽曲。淡々としたギターリフと決して鮮やかとは言えない地味なメロディラインを引き立てているのは、パワフルに処理されたマシンによる正確なリズムで、本作では全面的にこうしたPCMドラムマシンが大活躍してサウンドの芯となる役割を担っています。
<評点>
・サウンド ★★★ (チープな中に実験的要素を忍ばせる粋な音処理)
・メロディ ★ (聴きやすさもあるが全体的には抑揚のなさも)
・リズム ★★★ (マシンの打ち込みに自家製臭さも感じるがそこが◯)
・曲構成 ★ (楽曲は多めだが短めの曲も多く物足りなさも)
・個性 ★★ (歌は弱いがサウンドメイカーとしての魅力は感じる)
総合評点: 7点
「青春ファンタジア」 さよならポニーテール
「青春ファンタジア」(2013 エピック)
さよならポニーテール

<members>
みいな:vocal・guitar・chorus
なっちゃん:vocal・synthesizer・chorus
あゆみん:vocal・guitar・synthesizer・chorus
しゅか:vocal・chorus
ゆゆ:vocal・chorus
ふっくん:acoustic guitar・synthesizer
マウマウ:bass・guitar・keyboards・drums・computer programming
324P:synthesizers・computer programming
メグ:sax・pianica・chorus
メガネくん:応援
ゆりたん:神さま
クロネコ:total produce
1.「ぼくらの季節」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
2.「女のコのエトセトラ」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
3.「ヘイ!!にゃん♡」 詞・曲:マウマウ 編:さよならポニーテール
4.「わたしの悲しみを盗んだ泥棒」 詞・曲:324P 編:さよならポニーテール
5.「恋するスポーツ」 詞・曲:324P 編:さよならポニーテール
6.「放課後れっすん」 詞・曲:クロネコ 編:さよならポニーテール
7.「きみに、なりたい」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
8.「星屑とコスモス」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
9.「お気に召すままに」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
10.「きみがみたゴースト」 詞・曲:324P 編:さよならポニーテール
11.「飛行少女」 詞・曲:マウマウ 編:さよならポニーテール
12.「きみにありがとう」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
13.「ロマンス」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
<support musician>
Gon-chan:drums
金川卓矢:drums
徳永友美ストリングス:strings
石塚徹:strings arrangement
produced by クロネコ
mixing engineered by 324P・高山浩也
recording engineered by 324P・マウマウ・高山浩也・村上宣之・原田孝一・大渕秀文・野村智仁・慎秀範・山口敦史・唐沢千文
● ヴォーカルも増殖して勢いが止まらないポップミュージック工房のきらめきノスタルジックPOPSが散りばめられた4thアルバム
音楽や漫画等を中心にポップアート全般を取り仕切る覆面エンターテインメント集団とも言えるさよならポニーテールは、自主制作活動を経て満を持して2011年にアルバム「魔法のメロディ」でメジャーデビュー、懐かしのニューミュージックを思い出させるメロディセンスとDTM世代お得意の軽快なエレクトロポップテイストのサウンドワークにより、高品位なポップミュージックを提供、(それほど売れてはいないものの)停滞気味とも言われるポピュラー音楽界に一筋の光をもたらしたと思わせる程の高評価を得ることに成功しました。徹底した情報管理によりメンバーの素性は明かされず、それが一種のカリスマ性を生み出したのか熱狂的なファン層も獲得したわけですが、順風満帆な彼らはメンバーそれぞれが楽曲を持ち寄った新機軸のミニアルバム「なんだかキミが恋しくて」を予告編として、2ndアルバムである本作のリリースに至りました。ヴォーカルも3人から5人に増え、ますますガーリーな雰囲気に拍車がかかったこの覆面グループの本作は、さらにバラエティ豊かなカラーに富んだ珠玉の作品集となっています。
「ぼくらの季節」でスタートしてのっけから疾走感溢れるポップソングが続いていきますが、彼らの特徴の1つである粗さの残るギターとチープなエレクトロ&ウィスパーボイスはヴォーカルが5人に増えたとしても変わることがなく、そのはかなさや壊れやすい脆さは維持されています。これは多少の個性の差はあるものの似たようなガーリーボイスを集めているため、そのあたりはコンセプトを崩さない程度に歌に厚みを持たせたということなのでしょう。また、本作では相変わらず強力なメロディメイカーであるふっくんが8曲を担当し主導権を握りながらも、「魔法のメロディ」でも楽曲提供していたサウンドデザイン担当の324Pに加えて、アレンジや演奏を手掛けるマウマウが楽曲を提供、各パートにテクニカルな場面を忍ばせるマウマウ、ガールポップに必須の軽やかさをまとったサウンドメイクの324Pとそれぞれの持ち味が発揮されていますが、それでもやはり際立つのがふっくんの訴求力抜群のメロディで、あざとさが目立つ楽曲は他の2人に任せてPOPSの王道を歩んでいくふっくんの堂々たる名曲の数々は、さよならポニーテールという不定形なつかみどころのないグループに確固たる存在感を与えているように思えます。もちろん自主制作時代の弾き語り風のフォーキーな楽曲を求めているリスナーにも「きみに、なりたい」「星屑とコスモス」等のみいなのハスキーボイスを活かしたバラードソングで溜飲を下げさせていますし、こうした楽曲を挟んでいるからこそアルバム全体の起承転結が生まれストーリー性を際立たせることに成功するわけで、そのあたりはさすがはコンセプトワークで固められたこの集団の真骨頂と言ったところでしょう。
メロディの強さとコクのあるシティポップ調のふわふわガールPOPSサウンドが散りばめられた本作は確かに10年代のポップミュージックの金字塔ともいえる好作品と言えますが、隙のない楽曲群に比べて隙だらけの5人の歌唱のコントラストが親しみやすさを忘れさせないというある種のあざとさが、彼らの魅力と言えるのではないかと思います。この2年後には3枚組アルバムという安全地帯以来の暴挙に出た彼らですが、それも彼らの楽曲制作能力の成せる業、今後も良質のポップミュージックを提供してくれることを期待しています。
<Favorite Songs>
・「ぼくらの季節」
前作のミニアルバム「なんだかキミが恋しくて」にも収録されたリード楽曲のニューバージョン。粗さの残るギターポップ基調にストリングスでノスタルジックに演出するメロディ志向のふっくん特有のポップチューンです。
・「星屑とコスモス」
初期さよポニテイストを引き継ぐメロウなミディアムバラード。アコースティックギターを基調に程よいシーケンスにハートウォームなエレピ&コーラスが絡む味わいは絶品です。シャラララコーラスがここまでハマる楽曲も現在ではなかなか珍しいと思います。
・「きみにありがとう」
名曲度の高いバラードソング。Aメロを制するもの世界を制すと言わんばかりの素晴らしいメロディで始まり、随所で(あえてストリングスではなく)バイオリンが良い味を出しているため、それほど大げさな盛り上がりの場面はないものの、その分ノスタルジー性が際立つ美しい楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (POPS特有のひねりの効いたフレーズを多用)
・メロディ ★★★★ (ふっくんのメロディセンスは相変わらず突出)
・リズム ★ (POPSフォーマットにのっとり冒険は少なく)
・曲構成 ★★★★ (楽曲にバラエティは富むが空気感を絶妙に維持)
・個性 ★★ (そのはかなさも脆さも完全に魅力として掌握)
総合評点: 8点
さよならポニーテール

<members>
みいな:vocal・guitar・chorus
なっちゃん:vocal・synthesizer・chorus
あゆみん:vocal・guitar・synthesizer・chorus
しゅか:vocal・chorus
ゆゆ:vocal・chorus
ふっくん:acoustic guitar・synthesizer
マウマウ:bass・guitar・keyboards・drums・computer programming
324P:synthesizers・computer programming
メグ:sax・pianica・chorus
メガネくん:応援
ゆりたん:神さま
クロネコ:total produce
1.「ぼくらの季節」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
2.「女のコのエトセトラ」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
3.「ヘイ!!にゃん♡」 詞・曲:マウマウ 編:さよならポニーテール
4.「わたしの悲しみを盗んだ泥棒」 詞・曲:324P 編:さよならポニーテール
5.「恋するスポーツ」 詞・曲:324P 編:さよならポニーテール
6.「放課後れっすん」 詞・曲:クロネコ 編:さよならポニーテール
7.「きみに、なりたい」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
8.「星屑とコスモス」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
9.「お気に召すままに」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
10.「きみがみたゴースト」 詞・曲:324P 編:さよならポニーテール
11.「飛行少女」 詞・曲:マウマウ 編:さよならポニーテール
12.「きみにありがとう」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
13.「ロマンス」 詞・曲:ふっくん 編:さよならポニーテール
<support musician>
Gon-chan:drums
金川卓矢:drums
徳永友美ストリングス:strings
石塚徹:strings arrangement
produced by クロネコ
mixing engineered by 324P・高山浩也
recording engineered by 324P・マウマウ・高山浩也・村上宣之・原田孝一・大渕秀文・野村智仁・慎秀範・山口敦史・唐沢千文
● ヴォーカルも増殖して勢いが止まらないポップミュージック工房のきらめきノスタルジックPOPSが散りばめられた4thアルバム
音楽や漫画等を中心にポップアート全般を取り仕切る覆面エンターテインメント集団とも言えるさよならポニーテールは、自主制作活動を経て満を持して2011年にアルバム「魔法のメロディ」でメジャーデビュー、懐かしのニューミュージックを思い出させるメロディセンスとDTM世代お得意の軽快なエレクトロポップテイストのサウンドワークにより、高品位なポップミュージックを提供、(それほど売れてはいないものの)停滞気味とも言われるポピュラー音楽界に一筋の光をもたらしたと思わせる程の高評価を得ることに成功しました。徹底した情報管理によりメンバーの素性は明かされず、それが一種のカリスマ性を生み出したのか熱狂的なファン層も獲得したわけですが、順風満帆な彼らはメンバーそれぞれが楽曲を持ち寄った新機軸のミニアルバム「なんだかキミが恋しくて」を予告編として、2ndアルバムである本作のリリースに至りました。ヴォーカルも3人から5人に増え、ますますガーリーな雰囲気に拍車がかかったこの覆面グループの本作は、さらにバラエティ豊かなカラーに富んだ珠玉の作品集となっています。
「ぼくらの季節」でスタートしてのっけから疾走感溢れるポップソングが続いていきますが、彼らの特徴の1つである粗さの残るギターとチープなエレクトロ&ウィスパーボイスはヴォーカルが5人に増えたとしても変わることがなく、そのはかなさや壊れやすい脆さは維持されています。これは多少の個性の差はあるものの似たようなガーリーボイスを集めているため、そのあたりはコンセプトを崩さない程度に歌に厚みを持たせたということなのでしょう。また、本作では相変わらず強力なメロディメイカーであるふっくんが8曲を担当し主導権を握りながらも、「魔法のメロディ」でも楽曲提供していたサウンドデザイン担当の324Pに加えて、アレンジや演奏を手掛けるマウマウが楽曲を提供、各パートにテクニカルな場面を忍ばせるマウマウ、ガールポップに必須の軽やかさをまとったサウンドメイクの324Pとそれぞれの持ち味が発揮されていますが、それでもやはり際立つのがふっくんの訴求力抜群のメロディで、あざとさが目立つ楽曲は他の2人に任せてPOPSの王道を歩んでいくふっくんの堂々たる名曲の数々は、さよならポニーテールという不定形なつかみどころのないグループに確固たる存在感を与えているように思えます。もちろん自主制作時代の弾き語り風のフォーキーな楽曲を求めているリスナーにも「きみに、なりたい」「星屑とコスモス」等のみいなのハスキーボイスを活かしたバラードソングで溜飲を下げさせていますし、こうした楽曲を挟んでいるからこそアルバム全体の起承転結が生まれストーリー性を際立たせることに成功するわけで、そのあたりはさすがはコンセプトワークで固められたこの集団の真骨頂と言ったところでしょう。
メロディの強さとコクのあるシティポップ調のふわふわガールPOPSサウンドが散りばめられた本作は確かに10年代のポップミュージックの金字塔ともいえる好作品と言えますが、隙のない楽曲群に比べて隙だらけの5人の歌唱のコントラストが親しみやすさを忘れさせないというある種のあざとさが、彼らの魅力と言えるのではないかと思います。この2年後には3枚組アルバムという安全地帯以来の暴挙に出た彼らですが、それも彼らの楽曲制作能力の成せる業、今後も良質のポップミュージックを提供してくれることを期待しています。
<Favorite Songs>
・「ぼくらの季節」
前作のミニアルバム「なんだかキミが恋しくて」にも収録されたリード楽曲のニューバージョン。粗さの残るギターポップ基調にストリングスでノスタルジックに演出するメロディ志向のふっくん特有のポップチューンです。
・「星屑とコスモス」
初期さよポニテイストを引き継ぐメロウなミディアムバラード。アコースティックギターを基調に程よいシーケンスにハートウォームなエレピ&コーラスが絡む味わいは絶品です。シャラララコーラスがここまでハマる楽曲も現在ではなかなか珍しいと思います。
・「きみにありがとう」
名曲度の高いバラードソング。Aメロを制するもの世界を制すと言わんばかりの素晴らしいメロディで始まり、随所で(あえてストリングスではなく)バイオリンが良い味を出しているため、それほど大げさな盛り上がりの場面はないものの、その分ノスタルジー性が際立つ美しい楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (POPS特有のひねりの効いたフレーズを多用)
・メロディ ★★★★ (ふっくんのメロディセンスは相変わらず突出)
・リズム ★ (POPSフォーマットにのっとり冒険は少なく)
・曲構成 ★★★★ (楽曲にバラエティは富むが空気感を絶妙に維持)
・個性 ★★ (そのはかなさも脆さも完全に魅力として掌握)
総合評点: 8点
「スーパーモデル」 篠原ともえ
「スーパーモデル」 (1996 キューンソニー)
篠原ともえ:vocal

1.「クルクル ミラクル」 詞・曲・編:石野卓球
2.「やる気センセーション」 詞:マドモワゼルTOKI 曲:近田春夫 編:石野卓球
3.「レインボー・ララ・ルー」 詞:森若香織 曲:中シゲヲ 編:ザ・サーフコースターズ with P
4.「忘れちゃうモン(アクロバットmix)」 詞:篠原ともえ・石野卓球 曲・編:石野卓球
5.「チャタレイ夫人にあこがれて」 詞:中原昌也 曲・編:山本アキヲ
6.「スーパーモデル」 曲・編:石野卓球
7.「篠原ともえのクレクレタコラ」 詞:鶴川五六 曲:菊池俊輔 編:砂原良徳
8.「I LOVE YOU, DE JA VU」 詞:石野卓球 曲・編:HOI VOODOO
9.「メルヘン節」 詞:ピエール瀧 曲・編:CMJK
10.「よのさ」 詞:濱田マリ 曲・編:渡辺貴浩
11.「チャイム」 詞:マドモワゼルTOKI 曲・編:石野卓球
12.「クルクル ミラクル (REPRISE)」 曲・編:石野卓球
<support musician>
遠藤薫:guitar
中シゲヲ:guitar
八木麻紀:bass・screaming
花岡昭和 :drums
CMJK:synthesizer programming
HOI VOODOO:synthesizer programming
石野卓球:synthesizer programming
砂原良徳:synthesizer programming
山本アキヲ:synthesizer programming
渡辺貴浩:synthesizer programming
produced by 石野卓球
mixing engineered by 松本靖雄・石野卓球・内海幸雄・砂原良徳・阿部充泰・ZAK・渡辺省二郎
recording engineered by 松本靖雄・渡辺省二郎・ZAK・内海幸雄・阿部充泰・佐々木志了
● 電気グルーヴ人脈が精力的にやりたい放題プロデュース!稀代のハイテンションタレントのお披露目的デビューアルバム
その異様なハイテンションと奇抜なファッションによって「シノラー」ブームを巻き起こした90年代を代表するサブカルアイコン篠原ともえがデビューしたのは1995年。電気グルーヴが「VITAMIN」「DRAGON」という2枚の本格的テクノアルバムによって思いもがけずテクノスターへの階段を昇りつつある中、石野卓球が細川ふみえに続いて全面的にプロデュースを手掛けたのが彼女でした。1stシングル「チャイム」は篠原ともえ+石野卓球名義でリリースするなどその関わりようの深さには細川以上に電グルテイストをこのプロジェクトに放り込んでくるという確固たる意思表示を感じましたが、生まれてきたのは石野に振り回されながらも持ち前の奇天烈キャラクターで異物感をメジャーストリートに溶け込ませた篠原の若気の至り的なパワフルパフォーマンスで、3rdシングル「クルクルミラクル」では早くもキャラが確立、軽く一線を越えてくる若さ故に許される異常な積極性とイノセントなイメージが世間に大ウケし、前述のムーブメントに乗りつつあった時期にリリースされたのが1stアルバムの本作というわけです。
当然この1stアルバムもプロデュースは石野卓球で、全面的に電気グルーヴ直系のハイパーテクノチューンを歌モノに料理したサウンドが席巻しています。しかしそれはお仕事的な控えめな仕上がりではなく、四つ打ち基調ながらTB-303なアシッドベースやダブ要素も取り入れた執拗なギミックを挿入した本格的なもので、そこには新人アーティストへの遠慮も何もあったものではありませんが、それも篠原の(ある意味作られた)飛び抜けたキャラクターを考慮したということなのでしょう。石野の下に集まったゲスト陣も豪華で、電気グルーヴの新旧の盟友であるCMJKと砂原良徳、当時のテクノ界で鮮烈なインパクトを与えていたTanzmuzikの山本アキヲやHOI VOODOO等のクリエイター達のチョイスも「らしさ」を感じさせるもので、しかもそれぞれが強烈に持ち味を発揮しているので個性が散漫になりがちなところを、篠原の若さ溢れるパワフルな求心力と石野のユーモラスなセンスが必死に繋ぎ止めているといった印象です。しかしながら当然のことながら楽曲のバラエティは豊富以外の何物でもなく、山本アキヲの「チャタレイ夫人にあこがれて」は歌モノとしては禁断のアンビエントテクノ感や、初のソロ作「CROSSOVER」で極上のサンプリングモンドミュージックを開花させた砂原良徳のソロワークテイストが生かされた「篠原ともえのクレクレタコラ」は出色の出来で、その他の疾走感溢れる石野作品や軽快なポップチューン「よのさ」といった名曲も散りばめられており、やり放題やりつつも 1stアルバムとしてはこれ以上ないほどのクオリティを示したインパクト十分の作品となっています。
このシノラーブームの最高潮は本作後のシングル「ウルトラリラックス」にて到達するわけですが、その後は人脈に恵まれた音楽的環境を肥やしにして持ち前のアーティスティックな側面を作品に反映していくことになります。現在ではそのキャラクターも封印され、多方面でその多彩ぶりを発揮していくなど、その奇抜なインパクトゆえに消え去っていく数多のキャラクター達とは一線を画す活躍ぶりを見せています。
<Favorite Songs>
・「忘れちゃうモン(アクロバットmix)」
2ndシングルのc/wをレゲエ調にリアレンジ。シングルver.よりスピード感は控えられているものの、アクセントにメリハリをつけられたリズムトラックと奇妙な早口ボイスサンプリングで気持ち悪さは倍増しています。
・「チャタレイ夫人にあこがれて」
Tanzmuzik山本アキヲプロデュースの幻想的なアンビエントテクノチューン。こういったサウンドに歌を乗せアルバムに収録できるのはコンセプトの勝利と言えるでしょう。突き刺すような電子音の波が寄せては返し、グラウンドビートで芯を入れながらメランコリックな世界にどっぷり浸かることができます。
・「よのさ」
軽快な5thなイントロが心地よい四つ打ちポップチューン。当時10年選手のVIBRASTONEの渡辺貴浩作品ということもあって、隙のないサウンドメイクは全体的に若さと勢いが目立つ他のトラックに比べても安心感があります。踊らせることはもちろんのこと聴かせることもできる上品なトラックであると思います。
<評点>
・サウンド ★★★ (若きクリエイター達の冒険心溢れる攻撃的な音使い)
・メロディ ★ (基本リズム重視の作風でとにかく勢いに任せる方向)
・リズム ★ (いかにもテクノなリズム使いだがノリは緻密に形成)
・曲構成 ★ (多彩な楽曲を放り込むがやり過ぎてつかみどころが)
・個性 ★★ (実は篠原自身のキャラの貢献度が意外に高い)
総合評点: 6点
篠原ともえ:vocal

1.「クルクル ミラクル」 詞・曲・編:石野卓球
2.「やる気センセーション」 詞:マドモワゼルTOKI 曲:近田春夫 編:石野卓球
3.「レインボー・ララ・ルー」 詞:森若香織 曲:中シゲヲ 編:ザ・サーフコースターズ with P
4.「忘れちゃうモン(アクロバットmix)」 詞:篠原ともえ・石野卓球 曲・編:石野卓球
5.「チャタレイ夫人にあこがれて」 詞:中原昌也 曲・編:山本アキヲ
6.「スーパーモデル」 曲・編:石野卓球
7.「篠原ともえのクレクレタコラ」 詞:鶴川五六 曲:菊池俊輔 編:砂原良徳
8.「I LOVE YOU, DE JA VU」 詞:石野卓球 曲・編:HOI VOODOO
9.「メルヘン節」 詞:ピエール瀧 曲・編:CMJK
10.「よのさ」 詞:濱田マリ 曲・編:渡辺貴浩
11.「チャイム」 詞:マドモワゼルTOKI 曲・編:石野卓球
12.「クルクル ミラクル (REPRISE)」 曲・編:石野卓球
<support musician>
遠藤薫:guitar
中シゲヲ:guitar
八木麻紀:bass・screaming
花岡昭和 :drums
CMJK:synthesizer programming
HOI VOODOO:synthesizer programming
石野卓球:synthesizer programming
砂原良徳:synthesizer programming
山本アキヲ:synthesizer programming
渡辺貴浩:synthesizer programming
produced by 石野卓球
mixing engineered by 松本靖雄・石野卓球・内海幸雄・砂原良徳・阿部充泰・ZAK・渡辺省二郎
recording engineered by 松本靖雄・渡辺省二郎・ZAK・内海幸雄・阿部充泰・佐々木志了
● 電気グルーヴ人脈が精力的にやりたい放題プロデュース!稀代のハイテンションタレントのお披露目的デビューアルバム
その異様なハイテンションと奇抜なファッションによって「シノラー」ブームを巻き起こした90年代を代表するサブカルアイコン篠原ともえがデビューしたのは1995年。電気グルーヴが「VITAMIN」「DRAGON」という2枚の本格的テクノアルバムによって思いもがけずテクノスターへの階段を昇りつつある中、石野卓球が細川ふみえに続いて全面的にプロデュースを手掛けたのが彼女でした。1stシングル「チャイム」は篠原ともえ+石野卓球名義でリリースするなどその関わりようの深さには細川以上に電グルテイストをこのプロジェクトに放り込んでくるという確固たる意思表示を感じましたが、生まれてきたのは石野に振り回されながらも持ち前の奇天烈キャラクターで異物感をメジャーストリートに溶け込ませた篠原の若気の至り的なパワフルパフォーマンスで、3rdシングル「クルクルミラクル」では早くもキャラが確立、軽く一線を越えてくる若さ故に許される異常な積極性とイノセントなイメージが世間に大ウケし、前述のムーブメントに乗りつつあった時期にリリースされたのが1stアルバムの本作というわけです。
当然この1stアルバムもプロデュースは石野卓球で、全面的に電気グルーヴ直系のハイパーテクノチューンを歌モノに料理したサウンドが席巻しています。しかしそれはお仕事的な控えめな仕上がりではなく、四つ打ち基調ながらTB-303なアシッドベースやダブ要素も取り入れた執拗なギミックを挿入した本格的なもので、そこには新人アーティストへの遠慮も何もあったものではありませんが、それも篠原の(ある意味作られた)飛び抜けたキャラクターを考慮したということなのでしょう。石野の下に集まったゲスト陣も豪華で、電気グルーヴの新旧の盟友であるCMJKと砂原良徳、当時のテクノ界で鮮烈なインパクトを与えていたTanzmuzikの山本アキヲやHOI VOODOO等のクリエイター達のチョイスも「らしさ」を感じさせるもので、しかもそれぞれが強烈に持ち味を発揮しているので個性が散漫になりがちなところを、篠原の若さ溢れるパワフルな求心力と石野のユーモラスなセンスが必死に繋ぎ止めているといった印象です。しかしながら当然のことながら楽曲のバラエティは豊富以外の何物でもなく、山本アキヲの「チャタレイ夫人にあこがれて」は歌モノとしては禁断のアンビエントテクノ感や、初のソロ作「CROSSOVER」で極上のサンプリングモンドミュージックを開花させた砂原良徳のソロワークテイストが生かされた「篠原ともえのクレクレタコラ」は出色の出来で、その他の疾走感溢れる石野作品や軽快なポップチューン「よのさ」といった名曲も散りばめられており、やり放題やりつつも 1stアルバムとしてはこれ以上ないほどのクオリティを示したインパクト十分の作品となっています。
このシノラーブームの最高潮は本作後のシングル「ウルトラリラックス」にて到達するわけですが、その後は人脈に恵まれた音楽的環境を肥やしにして持ち前のアーティスティックな側面を作品に反映していくことになります。現在ではそのキャラクターも封印され、多方面でその多彩ぶりを発揮していくなど、その奇抜なインパクトゆえに消え去っていく数多のキャラクター達とは一線を画す活躍ぶりを見せています。
<Favorite Songs>
・「忘れちゃうモン(アクロバットmix)」
2ndシングルのc/wをレゲエ調にリアレンジ。シングルver.よりスピード感は控えられているものの、アクセントにメリハリをつけられたリズムトラックと奇妙な早口ボイスサンプリングで気持ち悪さは倍増しています。
・「チャタレイ夫人にあこがれて」
Tanzmuzik山本アキヲプロデュースの幻想的なアンビエントテクノチューン。こういったサウンドに歌を乗せアルバムに収録できるのはコンセプトの勝利と言えるでしょう。突き刺すような電子音の波が寄せては返し、グラウンドビートで芯を入れながらメランコリックな世界にどっぷり浸かることができます。
・「よのさ」
軽快な5thなイントロが心地よい四つ打ちポップチューン。当時10年選手のVIBRASTONEの渡辺貴浩作品ということもあって、隙のないサウンドメイクは全体的に若さと勢いが目立つ他のトラックに比べても安心感があります。踊らせることはもちろんのこと聴かせることもできる上品なトラックであると思います。
<評点>
・サウンド ★★★ (若きクリエイター達の冒険心溢れる攻撃的な音使い)
・メロディ ★ (基本リズム重視の作風でとにかく勢いに任せる方向)
・リズム ★ (いかにもテクノなリズム使いだがノリは緻密に形成)
・曲構成 ★ (多彩な楽曲を放り込むがやり過ぎてつかみどころが)
・個性 ★★ (実は篠原自身のキャラの貢献度が意外に高い)
総合評点: 6点
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