「5」 ねごと
「5」(2013 キューン)
ねごと

<members>
蒼山幸子:vocal・keyboard
沙田瑞紀:guitar・computer programming
藤咲佑:bass
澤村小夜子:drums
1.「greatwall」 詞・曲:ねごと 編:江口亮
2.「トレモロ」 詞・曲:ねごと 編:江口亮
3.「sharp#」 詞:蒼山幸子 曲:沙田瑞紀・蒼山幸子 編:ねごと
4.「nameless」 詞:蒼山幸子 曲:ねごと 編:江口亮
5.「たしかなうた」 詞・曲:ねごと 編:江口亮
6.「街」 詞・曲:ねごと 編:江口亮
7.「潜在証明」 詞・曲・編:ねごと
8.「メイドミー・・・」 詞・曲・編:ねごと
9.「Re:myend!」 詞:蒼山幸子 曲:沙田瑞紀・蒼山幸子 編:ねごと
10.「そして、夜明け」 詞・曲・編:ねごと
11.「Lightdentity」 詞:ねごと 曲:沙田瑞紀・蒼山幸子 編:ねごと
12.「flower」 詞・曲・編:ねごと
13.「SEED with groove」 曲・編:沙田瑞紀
produced by みるく川崎
sound produced by 江口亮・河野圭
mixing engineered by 浦本雅史・玉乃井光紀・甲斐俊郎
recording engineered by 玉乃井光紀・浦本雅史・甲斐俊郎・前田健介
● 不思議なのに爽やかな質感を持つ新進気鋭のガールズバンドが放つポップ&クリエイティブな2ndフルアルバム
大学生ガールズバンドとして2010年にミニアルバム「Hello! “Z”」でデビューしたねごと。この個性的なバンド名からも想起されるようにファンタジック性とリアリティの両側面を兼ね備えた音楽性は、このバンドが元来持ち合わせているキャッチーなメロディセンスと爽やかさすら感じさせる思い切りの良さが光る演奏によってリスナーにアピールされており、アニメやドラマ主題歌やCMソングなどタイアップの多さにも助けられて、順調な活動を続けられている気鋭のグループとして、赤い公園等と並んで今後のガールズバンド勢を引っ張っていく存在として期待されています。さて、2012年からは1stアルバム「ex Negoto」の後シングル5枚連続リリースという大胆な戦略に打って出たねごとは、翌2013年に待望の2ndアルバムとなる本作をリリースすることになりますが、4枚目のシングル「nameless」からはサウンドプロデューサーに00年代後半から頭角を現した進境著しい作編曲家である江口亮を迎えたこのアルバムは、シングル曲のクオリティと一段と深まったバンドとしての一体感を感じさせる秀作に仕上がっています。
江口亮とのコラボともいうべきシングル曲で攻めまくる前半と、クレジットをバンド名にして4人が関わった新曲を多く収録した後半とで大きく分かれる本作とはいえ、本作におけるバンド全体の意気込みと勢いは十分に感じさせる質の高さを感じる楽曲が満載です。ロックバンドのヴォーカルとしては線が細いもののスッと耳に馴染んでいく蒼山の声質がバンドの性格を決定づけていることもありますが、楽曲によっては野太いギターサウンドを聴かせながらも全体的な印象としてはニューウェーブの匂いすら感じさせるノスタルジック系POPSと言えるかもしれません。そして特に驚かされるのは思いのほかしっかりした演奏センスで、特にドラムの澤村はリズムワークの存在感というか手数だけではない構築全体の隙のなさに非常に光るものがある、久しぶりに現れた優れた女性ドラマーであると思います。この手のバンドには珍しく電子音との相性が良いのも嬉しい部分で(シンセの音色やエフェクトに使い方にも他のバンドにはない個性がある)、ヴォーカルがキーボードも弾くスタイルもさることながら、多少江口亮に助けられた部分があるものの洗練された現代的なサウンドに仕上げられているのは、ねごとというバンドのサウンド部分に対する可能性と才能によるところが大きいと思われます。問題は本作のような優れた作品を発表した後に、これ以上の作品を出せるかどうかにこのバンドが大きく羽ばたいていくか否かがかかっているでしょう。
<Favorite Songs>
・「greatwall」
シングル曲らしくすっきりしたサウンドメイクに爽快なメロディを絡めたファインチューン。軽快なドラミングと自由奔放なギターとよく動き回るベースはセンスの塊です。控えめな電子音をプラスしてまとめ上げる江口亮の構成力も光ります。
・「トレモロ」
シンセが前面に出てくるファンタジックなサウンド志向の楽曲。印象的なサビに力があるため相当実験的な音を詰め込みながらも嫌みがなくサウンド過多になり過ぎないところはバンド+江口亮の相性の良さが成せる業と言えるでしょう。
・「SEED with groove」
ボーナストラック扱いの沙田瑞紀ソロともいうべきインストゥルメンタル。これがなかなかの広がりのあるサウンドデザインと含蓄あるプログラミングが織りなす見事なエレクトリックミュージックで、習作ながらも下手に流行に囚われない音づくりにも好感が持てます。
<評点>
・サウンド ★★ (バンドサウンドに控えめな電子音できらびやかに)
・メロディ ★★ (綺麗なサビも書けるしロックバンドとしては及第点)
・リズム ★★★ (決して重くはないが引きつけられるドラムの存在感)
・曲構成 ★ (後半に進むにしたがってややマンネリ感も)
・個性 ★ (今回は江口に助けられた部分もあり今後が勝負)
総合評点: 6点
ねごと

<members>
蒼山幸子:vocal・keyboard
沙田瑞紀:guitar・computer programming
藤咲佑:bass
澤村小夜子:drums
1.「greatwall」 詞・曲:ねごと 編:江口亮
2.「トレモロ」 詞・曲:ねごと 編:江口亮
3.「sharp#」 詞:蒼山幸子 曲:沙田瑞紀・蒼山幸子 編:ねごと
4.「nameless」 詞:蒼山幸子 曲:ねごと 編:江口亮
5.「たしかなうた」 詞・曲:ねごと 編:江口亮
6.「街」 詞・曲:ねごと 編:江口亮
7.「潜在証明」 詞・曲・編:ねごと
8.「メイドミー・・・」 詞・曲・編:ねごと
9.「Re:myend!」 詞:蒼山幸子 曲:沙田瑞紀・蒼山幸子 編:ねごと
10.「そして、夜明け」 詞・曲・編:ねごと
11.「Lightdentity」 詞:ねごと 曲:沙田瑞紀・蒼山幸子 編:ねごと
12.「flower」 詞・曲・編:ねごと
13.「SEED with groove」 曲・編:沙田瑞紀
produced by みるく川崎
sound produced by 江口亮・河野圭
mixing engineered by 浦本雅史・玉乃井光紀・甲斐俊郎
recording engineered by 玉乃井光紀・浦本雅史・甲斐俊郎・前田健介
● 不思議なのに爽やかな質感を持つ新進気鋭のガールズバンドが放つポップ&クリエイティブな2ndフルアルバム
大学生ガールズバンドとして2010年にミニアルバム「Hello! “Z”」でデビューしたねごと。この個性的なバンド名からも想起されるようにファンタジック性とリアリティの両側面を兼ね備えた音楽性は、このバンドが元来持ち合わせているキャッチーなメロディセンスと爽やかさすら感じさせる思い切りの良さが光る演奏によってリスナーにアピールされており、アニメやドラマ主題歌やCMソングなどタイアップの多さにも助けられて、順調な活動を続けられている気鋭のグループとして、赤い公園等と並んで今後のガールズバンド勢を引っ張っていく存在として期待されています。さて、2012年からは1stアルバム「ex Negoto」の後シングル5枚連続リリースという大胆な戦略に打って出たねごとは、翌2013年に待望の2ndアルバムとなる本作をリリースすることになりますが、4枚目のシングル「nameless」からはサウンドプロデューサーに00年代後半から頭角を現した進境著しい作編曲家である江口亮を迎えたこのアルバムは、シングル曲のクオリティと一段と深まったバンドとしての一体感を感じさせる秀作に仕上がっています。
江口亮とのコラボともいうべきシングル曲で攻めまくる前半と、クレジットをバンド名にして4人が関わった新曲を多く収録した後半とで大きく分かれる本作とはいえ、本作におけるバンド全体の意気込みと勢いは十分に感じさせる質の高さを感じる楽曲が満載です。ロックバンドのヴォーカルとしては線が細いもののスッと耳に馴染んでいく蒼山の声質がバンドの性格を決定づけていることもありますが、楽曲によっては野太いギターサウンドを聴かせながらも全体的な印象としてはニューウェーブの匂いすら感じさせるノスタルジック系POPSと言えるかもしれません。そして特に驚かされるのは思いのほかしっかりした演奏センスで、特にドラムの澤村はリズムワークの存在感というか手数だけではない構築全体の隙のなさに非常に光るものがある、久しぶりに現れた優れた女性ドラマーであると思います。この手のバンドには珍しく電子音との相性が良いのも嬉しい部分で(シンセの音色やエフェクトに使い方にも他のバンドにはない個性がある)、ヴォーカルがキーボードも弾くスタイルもさることながら、多少江口亮に助けられた部分があるものの洗練された現代的なサウンドに仕上げられているのは、ねごとというバンドのサウンド部分に対する可能性と才能によるところが大きいと思われます。問題は本作のような優れた作品を発表した後に、これ以上の作品を出せるかどうかにこのバンドが大きく羽ばたいていくか否かがかかっているでしょう。
<Favorite Songs>
・「greatwall」
シングル曲らしくすっきりしたサウンドメイクに爽快なメロディを絡めたファインチューン。軽快なドラミングと自由奔放なギターとよく動き回るベースはセンスの塊です。控えめな電子音をプラスしてまとめ上げる江口亮の構成力も光ります。
・「トレモロ」
シンセが前面に出てくるファンタジックなサウンド志向の楽曲。印象的なサビに力があるため相当実験的な音を詰め込みながらも嫌みがなくサウンド過多になり過ぎないところはバンド+江口亮の相性の良さが成せる業と言えるでしょう。
・「SEED with groove」
ボーナストラック扱いの沙田瑞紀ソロともいうべきインストゥルメンタル。これがなかなかの広がりのあるサウンドデザインと含蓄あるプログラミングが織りなす見事なエレクトリックミュージックで、習作ながらも下手に流行に囚われない音づくりにも好感が持てます。
<評点>
・サウンド ★★ (バンドサウンドに控えめな電子音できらびやかに)
・メロディ ★★ (綺麗なサビも書けるしロックバンドとしては及第点)
・リズム ★★★ (決して重くはないが引きつけられるドラムの存在感)
・曲構成 ★ (後半に進むにしたがってややマンネリ感も)
・個性 ★ (今回は江口に助けられた部分もあり今後が勝負)
総合評点: 6点
「La Fleur Bleue」 門あさ美
「La Fleur Bleue」(1988 東芝EMI)
門あさ美:vocals

1.「ここにいるの」 詞:門あさ美 曲・編:高橋幸宏
2.「夢の音」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
3.「窓辺の肖像」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
4.「青空を抱いていたい」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
5.「ほとり」 詞:門あさ美 曲・編:高橋幸宏
6.「Oriental Flash」 曲:門あさ美 編:高橋幸宏
7.「退屈と二つの月」 詞:売野雅勇 曲:YMO 編:高橋幸宏
8.「睦事」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
9.「白い花と赤い花」 詞:門あさ美 曲・編:大村憲司
10.「フォマルハウト −南の魚−」 詞:門あさ美 曲・編:高橋幸宏
<support musician>
大村憲司:electric guitar
小原礼:electric bass
渡辺等:electric bass
菅野よう子:keyboards
小林武史:keyboards
高橋幸宏:drums・keyboards・backing vocals
ラジ:chorus
木本靖夫:computer operate
菅原弘明:computer operate
produced by 高橋幸宏
engineered by 中山大輔
● 高橋幸宏プロデュースも板について柔らかさの目立つセレブなPOPSアルバムに仕上がった現時点でのラストアルバム
1980年代前半を席巻したほとんどメディアに露出しないミステリアスシティポップシンガー門あさ美は、80年代中盤ともなると大胆にニューウェーブへと接近、特に85年リリースの傑作アルバム「BELLADONNA」では、白井良明、岩崎工、鷺巣詩郎といったアヴァンギャルド色の強いアレンジャーのストレンジかつロマンティックなサウンドを背景に、セレブなイメージを想起させる上品な楽曲をより進化させることに成功しました。しかしここで彼女は心機一転レコード会社をテイチクから東芝EMIに移籍し、2年後の87年にはプロデューサーにヨーロピアンテクノサウンドに定評のあった高橋幸宏を迎え、アルバム「Anti Fleur」をリリース、高橋お得意のフレンチテクノサウンドに手応えを掴むと、翌88年には高橋幸宏プロデュースを継続した本作をリリースすることになります。
ニューウェーブに接近してからというもの、門あさ美楽曲はアンニュイでふわっとしたシンセに包まれたミディアムチューンが中心となっていきますが、本作はまさにその路線の集大成と言える仕上がりとなっています。前作ではまだ模索気味であった高橋幸宏プロデュースも本作ではすっかり板についており、独特なジャストなノリの幸宏ドラムの違和感も感じさせず、奇をてらうことはないもののリバーブ成分たっぷりのシンセ中心のサウンドメイクは、ウィスパー気味の清楚可憐なヴォーカルを引き立てつつ強力にバックアップしています。楽曲によっては幸宏コーラス(非常に個性的で一聴してわかるため、時には主役を食ってしまうことも)を前面に押し出してくることもありますが、プロデュース2作目ということもあって既に世界観の一部として機能しているため、許容範囲と言えるでしょう。また、唯一のインストゥルメンタル「Oriental Flash」の大胆なメランコリックサウンドが幕間にするにはもったいないほど出色で、かつそれに続くフレンチテクノアイドルの夢を甦らせた小池玉緒唯一のシングル「鏡の中の十月」のリメイク「退屈と二つの月」への流れは、多少淡々としたきらいはあるもののなかなかのドラマティックな展開です。
<Favorite Songs>
・「窓辺の肖像」
TENTレーベル期特有の生の感触が強い幸宏ドラムが引っ張るミディアムチューン。ピチカートを効果的に使用したストリングスのフレーズと、イントロのホルン音色の絶妙な柔らかさが魅力です。後半からラストにかけてこのストリングスが盛り上げていきながらの幸宏エンディングが「らしさ」を感じさせます。
・「ほとり」
「The Price To Pay」「One More Chance」といった高橋幸宏の名曲に使用される名イントロ技が再利用された楽曲。門あさ美自身の声がサンプリングされた音をリズムに使用するなど小技も効いています。
・「フォマルハウト −南の魚−」
本作でも随一のノリの良いリズムトラックを聴かせるアップテンポなポップチューン。本作には珍しくいかにもな打ち込みシーケンスが上モノ&ベースに使用され、もたるような独特なスネアフィルインがアクセントとなる開放的な楽曲です。メロディもコーラスもエンディングもどこを切り取ってみても高橋幸宏節であることが一目瞭然。
<評点>
・サウンド ★★ (ドリーミーなシンセ音色を多用し世界観を構築)
・メロディ ★ (目新しさはないものの堅実なポップソングに)
・リズム ★★ (派手さはないものの安心する幸宏印のリズムワーク)
・曲構成 ★ (冒険的な楽曲が少ないのが作品の平坦な印象を与える)
・個性 ★ (出来は決して悪くないがすっかり安住の地に落ち着く)
総合評点: 6点
門あさ美:vocals

1.「ここにいるの」 詞:門あさ美 曲・編:高橋幸宏
2.「夢の音」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
3.「窓辺の肖像」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
4.「青空を抱いていたい」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
5.「ほとり」 詞:門あさ美 曲・編:高橋幸宏
6.「Oriental Flash」 曲:門あさ美 編:高橋幸宏
7.「退屈と二つの月」 詞:売野雅勇 曲:YMO 編:高橋幸宏
8.「睦事」 詞・曲:門あさ美 編:高橋幸宏
9.「白い花と赤い花」 詞:門あさ美 曲・編:大村憲司
10.「フォマルハウト −南の魚−」 詞:門あさ美 曲・編:高橋幸宏
<support musician>
大村憲司:electric guitar
小原礼:electric bass
渡辺等:electric bass
菅野よう子:keyboards
小林武史:keyboards
高橋幸宏:drums・keyboards・backing vocals
ラジ:chorus
木本靖夫:computer operate
菅原弘明:computer operate
produced by 高橋幸宏
engineered by 中山大輔
● 高橋幸宏プロデュースも板について柔らかさの目立つセレブなPOPSアルバムに仕上がった現時点でのラストアルバム
1980年代前半を席巻したほとんどメディアに露出しないミステリアスシティポップシンガー門あさ美は、80年代中盤ともなると大胆にニューウェーブへと接近、特に85年リリースの傑作アルバム「BELLADONNA」では、白井良明、岩崎工、鷺巣詩郎といったアヴァンギャルド色の強いアレンジャーのストレンジかつロマンティックなサウンドを背景に、セレブなイメージを想起させる上品な楽曲をより進化させることに成功しました。しかしここで彼女は心機一転レコード会社をテイチクから東芝EMIに移籍し、2年後の87年にはプロデューサーにヨーロピアンテクノサウンドに定評のあった高橋幸宏を迎え、アルバム「Anti Fleur」をリリース、高橋お得意のフレンチテクノサウンドに手応えを掴むと、翌88年には高橋幸宏プロデュースを継続した本作をリリースすることになります。
ニューウェーブに接近してからというもの、門あさ美楽曲はアンニュイでふわっとしたシンセに包まれたミディアムチューンが中心となっていきますが、本作はまさにその路線の集大成と言える仕上がりとなっています。前作ではまだ模索気味であった高橋幸宏プロデュースも本作ではすっかり板についており、独特なジャストなノリの幸宏ドラムの違和感も感じさせず、奇をてらうことはないもののリバーブ成分たっぷりのシンセ中心のサウンドメイクは、ウィスパー気味の清楚可憐なヴォーカルを引き立てつつ強力にバックアップしています。楽曲によっては幸宏コーラス(非常に個性的で一聴してわかるため、時には主役を食ってしまうことも)を前面に押し出してくることもありますが、プロデュース2作目ということもあって既に世界観の一部として機能しているため、許容範囲と言えるでしょう。また、唯一のインストゥルメンタル「Oriental Flash」の大胆なメランコリックサウンドが幕間にするにはもったいないほど出色で、かつそれに続くフレンチテクノアイドルの夢を甦らせた小池玉緒唯一のシングル「鏡の中の十月」のリメイク「退屈と二つの月」への流れは、多少淡々としたきらいはあるもののなかなかのドラマティックな展開です。
<Favorite Songs>
・「窓辺の肖像」
TENTレーベル期特有の生の感触が強い幸宏ドラムが引っ張るミディアムチューン。ピチカートを効果的に使用したストリングスのフレーズと、イントロのホルン音色の絶妙な柔らかさが魅力です。後半からラストにかけてこのストリングスが盛り上げていきながらの幸宏エンディングが「らしさ」を感じさせます。
・「ほとり」
「The Price To Pay」「One More Chance」といった高橋幸宏の名曲に使用される名イントロ技が再利用された楽曲。門あさ美自身の声がサンプリングされた音をリズムに使用するなど小技も効いています。
・「フォマルハウト −南の魚−」
本作でも随一のノリの良いリズムトラックを聴かせるアップテンポなポップチューン。本作には珍しくいかにもな打ち込みシーケンスが上モノ&ベースに使用され、もたるような独特なスネアフィルインがアクセントとなる開放的な楽曲です。メロディもコーラスもエンディングもどこを切り取ってみても高橋幸宏節であることが一目瞭然。
<評点>
・サウンド ★★ (ドリーミーなシンセ音色を多用し世界観を構築)
・メロディ ★ (目新しさはないものの堅実なポップソングに)
・リズム ★★ (派手さはないものの安心する幸宏印のリズムワーク)
・曲構成 ★ (冒険的な楽曲が少ないのが作品の平坦な印象を与える)
・個性 ★ (出来は決して悪くないがすっかり安住の地に落ち着く)
総合評点: 6点
「JUST A PRETENDER」 森山達也
「JUST A PRETENDER」 (1985 エピックソニー)
森山達也:vocal・chorus

1.「FLASH THE NIGHT」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳・中村哲
2.「BLUE JEAN BLUES」 詞:森山達也・入賀卓 曲:森山達也 編:土屋昌巳・中村哲
3.「NEW YORK NEW YORK(さらば愛しき女たち)」 詞:入賀卓 曲:森山達也 編:土屋昌巳
4.「25時の女神」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
5.「HEY BAMBINO(相棒)」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
6.「SLOW DANCE」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
7.「LOVE, かくし色」 詞:麻生圭子 曲:森山達也 編:土屋昌巳
8.「JUST MY LADY」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
9.「SAD NIGHT(おそすぎた愛)」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
<support musician>
土屋昌巳:guitars・keyboards・percussion
伊藤広規:bass
渡辺等:bass
青山純:drums
川島BANANA:keyboards
中村哲:sax・keyboards・horn arrangement
ペッカー:percussion
浜口茂外也:percussion・flute
兼崎順一:trumpet
早川隆章:trombone
EVE:chorus
梅原篤:computer programming
坂下ヨシマサ:computer programming
藤井丈司:computer programming
森達彦:computer programming
produced by 土屋昌巳
co-produced by 森山達也
mixing engineered by 伊東俊郎
recording engineered by 伊東俊郎・渡辺茂実・大森政人
● 骨太ロックバンドのヴォーカリストが土屋昌巳をパートナーにデジタル歌謡ロックへ接近する柔軟性と懐の深さを見せた問題作
1970年代からめんたいロックの中心的存在として日本のロック界に多大な影響を与えてきたTHE MODS。その実力とは裏腹にメジャーデビューを果たしたのは80年代に入ってからでしたが、リーゼント&革ジャンスタイルのいかにもロッカーな出で立ちと硬派なロックサウンドで、しっかりとその存在感を発揮していました。そして80年代も中盤に入って安定期に入るとフロントマンの森山達也はソロ活動を開始します。もともとがブリティッシュロックが出自ということもあり、彼はソロでは革ジャンからスーツに衣替えし、化粧を施してニューロマな雰囲気を携えながら、ロックでありながらよりわかりやすいメロディと、当時流行のきらびやかなデジタル系サウンドを積極的に利用した進取精神に富んだ音楽性で、イメチェンとも不変ともどちらとも印象づけるような絶妙な立ち位置での活動を進め、CMソングに抜擢されたシングル「LOVE, かくし色」はスマッシュヒット、その勢いを駆り発表されたアルバムが本作というわけです。
このロックスターのソロデビュー作をプロデュースしたのは、元一風堂にしてJAPANのサポートギタリストとしても活躍した土屋昌巳で、ロックにもニューウェーブにも通じる土屋のプロデュース能力が遺憾なく発揮されています。ロックに硬質なデジタルシンセを絡ませたきらびやかなサウンドと、自分の作品以上に豪快に弾きまくるギターフレーズには、本作と同時期にリリースされた土屋のソロアルバム「TOKYO BALLET」を彷佛とさせる部分もあり、兄弟アルバムと言ってもよいかもしれません。「HEY BAMBINO(相棒)」「SLOW DANCE」等のように、(ロックチューンもバラードですらも関係なく)派手なオケヒットをかましたり、「NEW YORK NEW YORK」ではフルートとオルガンによるソフトロックなアプローチも見せたりと、意外性を感じさせながらも根幹となるロック精神は決して外さないところは、さすが先鋭的なロッカーである土屋のバランス感覚によるものと思われます。また、本作を根底で支えているのは青山純のキレのあるドラミングで、力強くも正確に刻まれるリズムワークはさすがの人選であると思います。ロックスターらしく森山のヴォーカルはサウンドの変化など物ともせず気持ちよく歌い上げていますが、そんな彼を下支えする土屋昌巳はオーバープロデュース気味とはいえ森山の新しい魅力を十分に引き出すことに成功しており、このコラボは良い相性であったのではないでしょうか。オケヒットの大胆な使い方も含めてロックシンガーが挑んだ80'sロック&POPSの典型的作品として優れた作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「FLASH THE NIGHT」
1曲目はお得意の直球のロックナンバー、しかしながらブラスセクションを交えたゴージャスなサウンドに包まれています。印象的なのは随所でしつこく鳴りまくるメタリックフレーズと、シンセによるギュイーン音で、強烈なギターソロと共に楽曲のアクセントとなっています。
・「HEY BAMBINO(相棒)」
強烈なオケヒットに驚かされる渋めのロックチューン。バスドラ連打を効果的に使った前へ出るリズムがポイントで、ラストはギターソロが暴れまくります。オケヒットをちょい鳴らしで止めて、さらに長い残響音(かつロービット)で鳴らすという、タイミングも心得ています。
・「LOVE, かくし色」
土屋昌巳「東京バレエ」と同じく化粧品CMソングということで、同路線のミディアムチューン。サックスがフィーチャーされたリバーブ成分の高いサウンドデザイン、深いドラミング、キャッチーなサビのメロディ、その開放的な楽曲はまさにヒット曲の条件をクリアした計算づくのポップチューンと言えるでしょう。ラストのスネアにかけたロングリバーブも素敵です。
<評点>
・サウンド ★★★ (大胆なオケヒット使用など積極的にデジタルに挑む)
・メロディ ★ (ひねた部分もなく直球メロディで挑むロック精神)
・リズム ★★★ (青山純のドラミングは分離が良く気持ちがよい)
・曲構成 ★★ (後半は緩やかなバラードが多く肩の力が抜けた感)
・個性 ★ (ポップソングへ挑戦するもロックな歌唱は信念)
総合評点: 7点
森山達也:vocal・chorus

1.「FLASH THE NIGHT」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳・中村哲
2.「BLUE JEAN BLUES」 詞:森山達也・入賀卓 曲:森山達也 編:土屋昌巳・中村哲
3.「NEW YORK NEW YORK(さらば愛しき女たち)」 詞:入賀卓 曲:森山達也 編:土屋昌巳
4.「25時の女神」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
5.「HEY BAMBINO(相棒)」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
6.「SLOW DANCE」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
7.「LOVE, かくし色」 詞:麻生圭子 曲:森山達也 編:土屋昌巳
8.「JUST MY LADY」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
9.「SAD NIGHT(おそすぎた愛)」 詞・曲:森山達也 編:土屋昌巳
<support musician>
土屋昌巳:guitars・keyboards・percussion
伊藤広規:bass
渡辺等:bass
青山純:drums
川島BANANA:keyboards
中村哲:sax・keyboards・horn arrangement
ペッカー:percussion
浜口茂外也:percussion・flute
兼崎順一:trumpet
早川隆章:trombone
EVE:chorus
梅原篤:computer programming
坂下ヨシマサ:computer programming
藤井丈司:computer programming
森達彦:computer programming
produced by 土屋昌巳
co-produced by 森山達也
mixing engineered by 伊東俊郎
recording engineered by 伊東俊郎・渡辺茂実・大森政人
● 骨太ロックバンドのヴォーカリストが土屋昌巳をパートナーにデジタル歌謡ロックへ接近する柔軟性と懐の深さを見せた問題作
1970年代からめんたいロックの中心的存在として日本のロック界に多大な影響を与えてきたTHE MODS。その実力とは裏腹にメジャーデビューを果たしたのは80年代に入ってからでしたが、リーゼント&革ジャンスタイルのいかにもロッカーな出で立ちと硬派なロックサウンドで、しっかりとその存在感を発揮していました。そして80年代も中盤に入って安定期に入るとフロントマンの森山達也はソロ活動を開始します。もともとがブリティッシュロックが出自ということもあり、彼はソロでは革ジャンからスーツに衣替えし、化粧を施してニューロマな雰囲気を携えながら、ロックでありながらよりわかりやすいメロディと、当時流行のきらびやかなデジタル系サウンドを積極的に利用した進取精神に富んだ音楽性で、イメチェンとも不変ともどちらとも印象づけるような絶妙な立ち位置での活動を進め、CMソングに抜擢されたシングル「LOVE, かくし色」はスマッシュヒット、その勢いを駆り発表されたアルバムが本作というわけです。
このロックスターのソロデビュー作をプロデュースしたのは、元一風堂にしてJAPANのサポートギタリストとしても活躍した土屋昌巳で、ロックにもニューウェーブにも通じる土屋のプロデュース能力が遺憾なく発揮されています。ロックに硬質なデジタルシンセを絡ませたきらびやかなサウンドと、自分の作品以上に豪快に弾きまくるギターフレーズには、本作と同時期にリリースされた土屋のソロアルバム「TOKYO BALLET」を彷佛とさせる部分もあり、兄弟アルバムと言ってもよいかもしれません。「HEY BAMBINO(相棒)」「SLOW DANCE」等のように、(ロックチューンもバラードですらも関係なく)派手なオケヒットをかましたり、「NEW YORK NEW YORK」ではフルートとオルガンによるソフトロックなアプローチも見せたりと、意外性を感じさせながらも根幹となるロック精神は決して外さないところは、さすが先鋭的なロッカーである土屋のバランス感覚によるものと思われます。また、本作を根底で支えているのは青山純のキレのあるドラミングで、力強くも正確に刻まれるリズムワークはさすがの人選であると思います。ロックスターらしく森山のヴォーカルはサウンドの変化など物ともせず気持ちよく歌い上げていますが、そんな彼を下支えする土屋昌巳はオーバープロデュース気味とはいえ森山の新しい魅力を十分に引き出すことに成功しており、このコラボは良い相性であったのではないでしょうか。オケヒットの大胆な使い方も含めてロックシンガーが挑んだ80'sロック&POPSの典型的作品として優れた作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「FLASH THE NIGHT」
1曲目はお得意の直球のロックナンバー、しかしながらブラスセクションを交えたゴージャスなサウンドに包まれています。印象的なのは随所でしつこく鳴りまくるメタリックフレーズと、シンセによるギュイーン音で、強烈なギターソロと共に楽曲のアクセントとなっています。
・「HEY BAMBINO(相棒)」
強烈なオケヒットに驚かされる渋めのロックチューン。バスドラ連打を効果的に使った前へ出るリズムがポイントで、ラストはギターソロが暴れまくります。オケヒットをちょい鳴らしで止めて、さらに長い残響音(かつロービット)で鳴らすという、タイミングも心得ています。
・「LOVE, かくし色」
土屋昌巳「東京バレエ」と同じく化粧品CMソングということで、同路線のミディアムチューン。サックスがフィーチャーされたリバーブ成分の高いサウンドデザイン、深いドラミング、キャッチーなサビのメロディ、その開放的な楽曲はまさにヒット曲の条件をクリアした計算づくのポップチューンと言えるでしょう。ラストのスネアにかけたロングリバーブも素敵です。
<評点>
・サウンド ★★★ (大胆なオケヒット使用など積極的にデジタルに挑む)
・メロディ ★ (ひねた部分もなく直球メロディで挑むロック精神)
・リズム ★★★ (青山純のドラミングは分離が良く気持ちがよい)
・曲構成 ★★ (後半は緩やかなバラードが多く肩の力が抜けた感)
・個性 ★ (ポップソングへ挑戦するもロックな歌唱は信念)
総合評点: 7点
「フルカラー」 blue marble
「フルカラー」(2013 乙女音楽研究社)
blue marble

<members>
武井麻里子:vocal・chorus
とんCHAN:keyboards
ショック太郎:keyboards・guitar・bass・drums・melodion・percussion・computer programming
1.「未明☆戦争」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
2.「空、緑」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
3.「びろうどロマン」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
4.「ゲルダの初恋」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
5.「あんのうん」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
6.「空が喚く」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
7.「flowers」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
8.「“INTROIT”」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
9.「boy MEETS girl」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
<support musician>
古川史朗:bass
produced by ショック太郎
mixing engineered by 佐藤清喜
● 艶かしくもポップ、プログレッシブで変幻自在なコードワークで聴き手を魅了する女性ヴォーカルに加入で生まれ変わった2ndアルバム
音大作曲科中心のソングライターチームという紹介も無意味な程のセンスと実力を兼ね備えたキーボーディスト2人を中心とした純正ポップユニットblue marbleが、2010年にCMソングの女王と呼ばれる個性派ベテランシンガー大野方栄をヴォーカリストに迎えてリリースされた傑作アルバム「ヴァレリー」は、各所のPOPS好き界隈を虜にした話題作でしたが、その立ち位置に甘んじることなく大野とのコラボを解消し新たに現役モデル兼女優である武井麻里子をフロントヴォーカルに迎える思い切りの良さは、さらにPOPSクオリティの高みを目指すblue marbleの志の高さを表しているように思えます。舌っ足らずでキュート全開な新ヴォーカリストの加入は世界中のポピュラー音楽をギュッと凝縮したかのような1stから、難解さと(大野)の強烈な個性をリセットしてOSを入れ替えたようなバンドセットライクなサウンドに生まれ変わらせるほどの影響力を持っており、2ndアルバムである本作では新生blue marbleの魅力を十二分に伝えることに成功しています。
前作「ヴァレリー」で顕著であった繊細で緻密なシンセサウンド。これらは複雑かつセンス溢れる不思議コードワーク&メロディと並んでWキーボード編成の彼らの最大の特徴と言ってもよいかもしれませんが、多彩な音楽知識とそれらを昇華する咀嚼力に長けた彼らにとってはもはや自動筆記のようなもので、多少音数は少なめにしてバンド的な肉感を強調してきた印象はあるものの、それが決してロック的な野性味溢れる音にはならず、上品かつ高度な頭脳戦が飛び交うような濃厚POPSサウンドに仕上げる力量はデビュー5年以内とは思えないほどの熟練の域に達しています。このあたりはとんCHAN&ショック太郎の能力もさることながら、エンジニアリングを担当したエヴァーグリーンPOPSマスターmicrostarの佐藤清喜マジックにも起因していると思われます。また、その類稀なポップ性にとどまらず随所でプログレッシブロック魂全開の大仰な展開を惜しげもなく披露(15分にわたるプログレポップな大作「“INTROIT”」は圧巻の一言)、涼しい顔で非常に狡猾な一面も見せつつ音楽的野心も忘れていない非常に濃密かつ実験性も感じられる傑作POPSアルバムと言えるでしょう。
久しぶりに現れたと言っても過言ではない本格派ソングライティング系ポップユニットであるblue marbleは、現在プロデューサーに80年代に数々の名シンセプログラミングを残し、現在はエンジニアとして音のマジシャンとして活躍している森達彦を迎えて、そのキャッチー性にますます磨きをかけるなど今後の作品の動向にも目を離せない状況になっています。
<Favorite Songs>
・「未明☆戦争」
ストリングスの挿入の仕方から既にポップマエストロな雰囲気満載なリードソング。鼻にかかる個性的な歌をセレブでメルヘンティックな音像で包み込むサウンドメイクといい覚えやすい泣きのサビのメロディといい、まさにキラーチューンと呼ぶのにふさわしい完成度です。
・「空、緑」
わざとらしい汚したギターと四つ打ちを刻むバスドラの重みがロックなアクティブポップチューン。随所のキラキラアルペジオに音に対する神経質な一面も垣間見せますが、大げさに展開していく構成にプログレ魂を感じるなど、実に味わいどころの多い楽曲です。
・「空が喚く」
電子音は控えめに本作中でも最もバンド寄りな音を目指したかのようなポップロック。軽快なギターサウンドと控えめなオルガンに乗ってキュートボイスが跳ね回る、グループとしての一体感が感じられる好楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (滲むような電子音の使い方は一々味わい深い)
・メロディ ★★★★(複雑な旋律を組み合わせ見事にポップネスを構築)
・リズム ★ (音楽性の変更からかリズム隊にも力強さを感じる)
・曲構成 ★★ (後半に進みに従い濃厚な空間に閉じ込められていく)
・個性 ★★ (吹っ切れた感も強く今後のステップアップに期待大)
総合評点: 7点
blue marble

<members>
武井麻里子:vocal・chorus
とんCHAN:keyboards
ショック太郎:keyboards・guitar・bass・drums・melodion・percussion・computer programming
1.「未明☆戦争」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
2.「空、緑」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
3.「びろうどロマン」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
4.「ゲルダの初恋」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
5.「あんのうん」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
6.「空が喚く」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
7.「flowers」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
8.「“INTROIT”」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
9.「boy MEETS girl」 詞:武井麻里子 曲:とんCHAN・ショック太郎 編:ショック太郎
<support musician>
古川史朗:bass
produced by ショック太郎
mixing engineered by 佐藤清喜
● 艶かしくもポップ、プログレッシブで変幻自在なコードワークで聴き手を魅了する女性ヴォーカルに加入で生まれ変わった2ndアルバム
音大作曲科中心のソングライターチームという紹介も無意味な程のセンスと実力を兼ね備えたキーボーディスト2人を中心とした純正ポップユニットblue marbleが、2010年にCMソングの女王と呼ばれる個性派ベテランシンガー大野方栄をヴォーカリストに迎えてリリースされた傑作アルバム「ヴァレリー」は、各所のPOPS好き界隈を虜にした話題作でしたが、その立ち位置に甘んじることなく大野とのコラボを解消し新たに現役モデル兼女優である武井麻里子をフロントヴォーカルに迎える思い切りの良さは、さらにPOPSクオリティの高みを目指すblue marbleの志の高さを表しているように思えます。舌っ足らずでキュート全開な新ヴォーカリストの加入は世界中のポピュラー音楽をギュッと凝縮したかのような1stから、難解さと(大野)の強烈な個性をリセットしてOSを入れ替えたようなバンドセットライクなサウンドに生まれ変わらせるほどの影響力を持っており、2ndアルバムである本作では新生blue marbleの魅力を十二分に伝えることに成功しています。
前作「ヴァレリー」で顕著であった繊細で緻密なシンセサウンド。これらは複雑かつセンス溢れる不思議コードワーク&メロディと並んでWキーボード編成の彼らの最大の特徴と言ってもよいかもしれませんが、多彩な音楽知識とそれらを昇華する咀嚼力に長けた彼らにとってはもはや自動筆記のようなもので、多少音数は少なめにしてバンド的な肉感を強調してきた印象はあるものの、それが決してロック的な野性味溢れる音にはならず、上品かつ高度な頭脳戦が飛び交うような濃厚POPSサウンドに仕上げる力量はデビュー5年以内とは思えないほどの熟練の域に達しています。このあたりはとんCHAN&ショック太郎の能力もさることながら、エンジニアリングを担当したエヴァーグリーンPOPSマスターmicrostarの佐藤清喜マジックにも起因していると思われます。また、その類稀なポップ性にとどまらず随所でプログレッシブロック魂全開の大仰な展開を惜しげもなく披露(15分にわたるプログレポップな大作「“INTROIT”」は圧巻の一言)、涼しい顔で非常に狡猾な一面も見せつつ音楽的野心も忘れていない非常に濃密かつ実験性も感じられる傑作POPSアルバムと言えるでしょう。
久しぶりに現れたと言っても過言ではない本格派ソングライティング系ポップユニットであるblue marbleは、現在プロデューサーに80年代に数々の名シンセプログラミングを残し、現在はエンジニアとして音のマジシャンとして活躍している森達彦を迎えて、そのキャッチー性にますます磨きをかけるなど今後の作品の動向にも目を離せない状況になっています。
<Favorite Songs>
・「未明☆戦争」
ストリングスの挿入の仕方から既にポップマエストロな雰囲気満載なリードソング。鼻にかかる個性的な歌をセレブでメルヘンティックな音像で包み込むサウンドメイクといい覚えやすい泣きのサビのメロディといい、まさにキラーチューンと呼ぶのにふさわしい完成度です。
・「空、緑」
わざとらしい汚したギターと四つ打ちを刻むバスドラの重みがロックなアクティブポップチューン。随所のキラキラアルペジオに音に対する神経質な一面も垣間見せますが、大げさに展開していく構成にプログレ魂を感じるなど、実に味わいどころの多い楽曲です。
・「空が喚く」
電子音は控えめに本作中でも最もバンド寄りな音を目指したかのようなポップロック。軽快なギターサウンドと控えめなオルガンに乗ってキュートボイスが跳ね回る、グループとしての一体感が感じられる好楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (滲むような電子音の使い方は一々味わい深い)
・メロディ ★★★★(複雑な旋律を組み合わせ見事にポップネスを構築)
・リズム ★ (音楽性の変更からかリズム隊にも力強さを感じる)
・曲構成 ★★ (後半に進みに従い濃厚な空間に閉じ込められていく)
・個性 ★★ (吹っ切れた感も強く今後のステップアップに期待大)
総合評点: 7点
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