「Ya!」 麻田華子
「Ya!」(1989 ビクター)
麻田華子:vocal

1.「Ya!」 詞:谷亜ヒロコ 曲:石田正人 編:井上日徳
2.「まけない」 詞:谷亜ヒロコ 曲:羽田一郎 編:井上日徳
3.「ファーストシーンはさよならで」 詞:帆刈伸子 曲:多々納好夫 編:井上日徳
4.「彼女にかまわないで」 詞・曲:斎藤雪絵 編:井上日徳
5.「悲しき15才」 詞:宮原芽映 曲:羽田一郎 編:井上日徳
6.「氷の瞳」 詞:岩室先子 曲:大羽義光 編:井上日徳
7.「H.S.」 詞:MANA・谷亜ヒロコ 曲:大羽義光 編:井上日徳
8.「1人でいいもん」 詞:谷亜ヒロコ 曲:大羽義光 編:井上日徳
9.「DON. DON.」 詞:谷亜ヒロコ 曲:大羽義光 編:井上日徳
10.「風より速く」 詞:岩室先子 曲:石田正人 編:井上日徳
<support musician>
井上日徳:guitars・all instruments・chorus
斎藤英夫:guitars
有賀啓雄:bass
江口信夫:drums
小川賢司:drums
STUDIO KIDS:chorus
大羽義光:chorus
斎藤雪絵:chorus
谷亜ヒロコ:chorus
石川鉄男:synthesizer operate
迫田到:synthesizer operate
福田竜太:synthesizer operate
produced by 町田充生
sound produced by 井上日徳
mixing engineered by 梅津達男
recording engineered by 梅津達男・松本大英・皆藤崇
● 緻密に構築されたリズム&シーケンスが光るハイセンスサウンドを早熟アイドルが歌い上げた井上日徳プロデュースの第2作
1988年、当時としては異例の弱冠13歳のアイドル歌手としてシングル「好き☆嫌い」でデビューを果たした麻田華子は、その年齢には似つかわしくない歌唱力と年相応の元気溌剌さで売り出していき、都志見隆をメロディメイカーに、アレンジャーに西平彰を起用した「Doubt!」、松本晃彦を起用したキレのある名曲「魔法」と質の高いシングルを連発するものの、思った程のセールスには結びつきませんでした。そこで翌89年には目先を変えて切な系アレンジでは右に出る者はそうはいない清水信之を迎えた「さよなら、Dance」(これも名曲)をリリースするもののこれもクリーンヒットとまではいかず、改めて路線をロック寄りにシフトしていったのが麻田華子名義最後の5thシングル「1人でいいもん」と、1stアルバム「13+」に続く2ndアルバムの本作でした。
この勝負の2作目をプロデュースしたのは、元コスミック・インベンションにして当時若手の成長株であった作編曲家の井上ヨシマサの実兄、井上日徳です。彼もまた実力派の編曲家として80年代はアイドルソングを中心に活躍していましたが、ギター弾きの彼が起用されたということはタイトルチューンの「Ya!」や「ファーストシーンはさよならで」等における必然的にサウンド面でもロック系の歪んだギターが大活躍しており、14歳にして背伸びした姿勢を露にしています。しかし彼のサウンドの興味深いところはこのようなロック性を前面に押し出しながら、ノングルーヴなシーケンスと緻密に構築されたリズムトラック(←特に派手なリズム構築は秀逸!)で無機質感を演出するデジタル感覚にも長けており、「彼女にかまわないで」や「氷の瞳」のようなクールなエレクトロポップな楽曲も違和感なく溶け込ませています。また、前述のシングル曲「魔法」や「さよなら、Dance」、そして先行シングル「1人でいいもん」のシャープ&ソリッドなB面「アクエリアス」といった名曲をアルバムに未収録にしてまでも、あくまでアルバムという1つの作品で勝負するという心意気には潔さを感じるとともに、その肝の据わった姿勢がその後の波乱に満ちた麻田華子の人生を投影しているというのは言い過ぎでしょうか。その後の彼女の芸能人生はともかく、本作は80'sアイドルソングの記憶からは薄れがちですが、他の作品に負けないほどの「質」は備えている作品であると、個人的には思っています。
<Favorite Songs>
・「まけない」
シーケンシャルな16ビートにジャストに散りばめられたリズムに硬質なカッティングギターが絡むニューウェーブな楽曲。全体的に元気な麻田節ですが、特にBメロのノスタルジックなメロディラインは羽田一郎の良い仕事です。
・「彼女にかまわないで」
コクのある跳ねるシンセベース&無機質でクールなシーケンス、そして乱れ打たれるリズムトラック等見せ場満載の隠れた後のハウスムーブメントを先取りしたかのようなテクノポップの名曲。メロディとしては地味目ではあるものの、サビのキュートなシンセシーケンスと豪快なリズムパターンにもかかわらず、ホームメイドな感覚なのも絶妙です。
・「DON. DON.」
グッとくるファンキーなベースラインとは裏腹な爽やかメロディとのアンバランスさが魅力のキュートPOPS。他の楽曲と比較しての音数の少なさによる風通しの良さが印象的です。アウトロのエフェクティブなギターフレーズも涼しげです。
<評点>
・サウンド ★★ (ロックギターとデジタル音の融合という典型的80's)
・メロディ ★ (売り出しにいくにはやはり地味な感覚が否めない)
・リズム ★★★ (特にデジタル先行曲でのやり過ぎ感が素晴らしい)
・曲構成 ★ (ロックに行きたいががデジタル成分にも未練が)
・個性 ★ (若さ故の大人っぽさへの背伸び感覚が吉と出るか)
総合評点: 6点
麻田華子:vocal

1.「Ya!」 詞:谷亜ヒロコ 曲:石田正人 編:井上日徳
2.「まけない」 詞:谷亜ヒロコ 曲:羽田一郎 編:井上日徳
3.「ファーストシーンはさよならで」 詞:帆刈伸子 曲:多々納好夫 編:井上日徳
4.「彼女にかまわないで」 詞・曲:斎藤雪絵 編:井上日徳
5.「悲しき15才」 詞:宮原芽映 曲:羽田一郎 編:井上日徳
6.「氷の瞳」 詞:岩室先子 曲:大羽義光 編:井上日徳
7.「H.S.」 詞:MANA・谷亜ヒロコ 曲:大羽義光 編:井上日徳
8.「1人でいいもん」 詞:谷亜ヒロコ 曲:大羽義光 編:井上日徳
9.「DON. DON.」 詞:谷亜ヒロコ 曲:大羽義光 編:井上日徳
10.「風より速く」 詞:岩室先子 曲:石田正人 編:井上日徳
<support musician>
井上日徳:guitars・all instruments・chorus
斎藤英夫:guitars
有賀啓雄:bass
江口信夫:drums
小川賢司:drums
STUDIO KIDS:chorus
大羽義光:chorus
斎藤雪絵:chorus
谷亜ヒロコ:chorus
石川鉄男:synthesizer operate
迫田到:synthesizer operate
福田竜太:synthesizer operate
produced by 町田充生
sound produced by 井上日徳
mixing engineered by 梅津達男
recording engineered by 梅津達男・松本大英・皆藤崇
● 緻密に構築されたリズム&シーケンスが光るハイセンスサウンドを早熟アイドルが歌い上げた井上日徳プロデュースの第2作
1988年、当時としては異例の弱冠13歳のアイドル歌手としてシングル「好き☆嫌い」でデビューを果たした麻田華子は、その年齢には似つかわしくない歌唱力と年相応の元気溌剌さで売り出していき、都志見隆をメロディメイカーに、アレンジャーに西平彰を起用した「Doubt!」、松本晃彦を起用したキレのある名曲「魔法」と質の高いシングルを連発するものの、思った程のセールスには結びつきませんでした。そこで翌89年には目先を変えて切な系アレンジでは右に出る者はそうはいない清水信之を迎えた「さよなら、Dance」(これも名曲)をリリースするもののこれもクリーンヒットとまではいかず、改めて路線をロック寄りにシフトしていったのが麻田華子名義最後の5thシングル「1人でいいもん」と、1stアルバム「13+」に続く2ndアルバムの本作でした。
この勝負の2作目をプロデュースしたのは、元コスミック・インベンションにして当時若手の成長株であった作編曲家の井上ヨシマサの実兄、井上日徳です。彼もまた実力派の編曲家として80年代はアイドルソングを中心に活躍していましたが、ギター弾きの彼が起用されたということはタイトルチューンの「Ya!」や「ファーストシーンはさよならで」等における必然的にサウンド面でもロック系の歪んだギターが大活躍しており、14歳にして背伸びした姿勢を露にしています。しかし彼のサウンドの興味深いところはこのようなロック性を前面に押し出しながら、ノングルーヴなシーケンスと緻密に構築されたリズムトラック(←特に派手なリズム構築は秀逸!)で無機質感を演出するデジタル感覚にも長けており、「彼女にかまわないで」や「氷の瞳」のようなクールなエレクトロポップな楽曲も違和感なく溶け込ませています。また、前述のシングル曲「魔法」や「さよなら、Dance」、そして先行シングル「1人でいいもん」のシャープ&ソリッドなB面「アクエリアス」といった名曲をアルバムに未収録にしてまでも、あくまでアルバムという1つの作品で勝負するという心意気には潔さを感じるとともに、その肝の据わった姿勢がその後の波乱に満ちた麻田華子の人生を投影しているというのは言い過ぎでしょうか。その後の彼女の芸能人生はともかく、本作は80'sアイドルソングの記憶からは薄れがちですが、他の作品に負けないほどの「質」は備えている作品であると、個人的には思っています。
<Favorite Songs>
・「まけない」
シーケンシャルな16ビートにジャストに散りばめられたリズムに硬質なカッティングギターが絡むニューウェーブな楽曲。全体的に元気な麻田節ですが、特にBメロのノスタルジックなメロディラインは羽田一郎の良い仕事です。
・「彼女にかまわないで」
コクのある跳ねるシンセベース&無機質でクールなシーケンス、そして乱れ打たれるリズムトラック等見せ場満載の隠れた後のハウスムーブメントを先取りしたかのようなテクノポップの名曲。メロディとしては地味目ではあるものの、サビのキュートなシンセシーケンスと豪快なリズムパターンにもかかわらず、ホームメイドな感覚なのも絶妙です。
・「DON. DON.」
グッとくるファンキーなベースラインとは裏腹な爽やかメロディとのアンバランスさが魅力のキュートPOPS。他の楽曲と比較しての音数の少なさによる風通しの良さが印象的です。アウトロのエフェクティブなギターフレーズも涼しげです。
<評点>
・サウンド ★★ (ロックギターとデジタル音の融合という典型的80's)
・メロディ ★ (売り出しにいくにはやはり地味な感覚が否めない)
・リズム ★★★ (特にデジタル先行曲でのやり過ぎ感が素晴らしい)
・曲構成 ★ (ロックに行きたいががデジタル成分にも未練が)
・個性 ★ (若さ故の大人っぽさへの背伸び感覚が吉と出るか)
総合評点: 6点
「Deep Architecture」 中野テルヲ
「Deep Architecture」 (2013 ビートサーファーズ)
中野テルヲ:vocal・all instruments

1.「Leonid」 詞・曲・編:中野テルヲ
2.「ラジアン」 詞・曲・編:中野テルヲ
3.「Legs」 詞・曲:anonymous composer 編:中野テルヲ
4.「構築子」 詞・曲・編:中野テルヲ
5.「サンパリーツ」 詞・曲・編:中野照夫
6.「Dreaming」 詞・曲・編:中野テルヲ
7.「ロマンチスト」 詞・曲:遠藤ミチロウ 編:中野テルヲ
8.「ディープ・アーキテクチャ」 詞・曲・編:中野テルヲ
produced by 中野テルヲ
engineered by 中野テルヲ
● 精力的にリリースを続ける電子音マエストロが久しぶりにベースを片手に躍動するオリジナル4thアルバム
1996年のデビュー作「USER UNKNOWN」でソロ活動を開始した孤高の「電子音」POPSアーティスト中野テルヲ。彼は2011年の15年振りのオリジナルアルバム「Signal/Noise」をリリースした後、翌年には「Oscillator and Spaceship」、そして2013年の本作というように、1年ごとに3作連続リリースするなどこれまでのキャリアからすると空前の精力的な活動期であったと言えます。音楽性としてはソロ活動を開始してから一貫としてブレないハンドメイドな電子楽器やオシレーターを駆使した剥き出しの電子音が実験生を際立たせているものの、楽曲自体は至ってわかりやすい歌モノPOPSというもので、キャッチーさという点では善し悪しがあるものの、あくまで歌モノで勝負する姿勢には清々しいものがあります。本作はソロ活動再開後3作目ということもあり、円熟味を増したTHE 中野サウンドをこれまで以上にアピールした傑作に仕上がっています。
さて、前2作と本作の決定的な違いといえば、やはり中野自身が久しぶりに弾きまくるエレクトリックベースの活躍ぶりでしょう。もともとP-MODELのベーシストとしてデビューした中野の、粗さと硬さが同居したかのようなベースフレーズは、電子ギミックをふんだんに活用しつつミニマル要素を含んだ楽曲との相性も良く、本来の硬軟織り交ぜた独特の楽曲に堅固なボトムを作り出しています。そこに相応の年齢にしては若々しいヴォーカルに比較的肌触りの良いシンセストリングスを加えていくことで、独特のポップ性を獲得しているわけです。また、本作ではP-MODEL「サンパリーツ」(原曲の開き直ったかのような明るさは抜け落ちたサスペンスタッチのリアレンジ)、Long Vacation「Legs」(スクラッチの多用と爽やかなシンセストリングスがポイント)、THE STALIN「ロマンチスト」(パンクな原曲をエレクトロレゲエダブにリメイク)といった中野手法ならではのセルフカバー&リメイク楽曲も収録しており、そういった意味でも前2作で追い込んだ作風の集大成として挑んだ作品と言う意味で気合いの乗った作品と言えるかもしれません。齢50にしてますます自身の音楽性の追求がやまない中野テルヲの今後の活動に期待したいところです。
<Favorite Songs>
・「Leonid」
白玉のインパクトが全体を支配する楽曲ですが、硬質な生ベースとリズムトラックがしっかりボトムを支えている印象です。間奏のシンセストリングスとギターフレーズとの掛け合いも地味ながら生き生きとしています。
・「ラジアン」
中野の得意とするところの電子民謡なメロディが親しみやすい楽曲。グラスを叩いたようなメタリック音とノイズで構築するリズムが印象深いです。
・「ディープ・アーキテクチャ」
本作のタイトルチューンにして中野サウンドの集大成とも言えるエレクトロコラージュPOPS。しっちゃかめっちゃかしたサウンドの渦の中で中野とサンプルギミックとの掛け合いが実に楽しそうで、かつ生き生きとしているのがなんとも微笑ましいです。
<評点>
・サウンド ★★★ (シンプルな電子サウンドやギミックももはや円熟の域)
・メロディ ★ (ポップなラインから外しまくるひねくれたメロは健在)
・リズム ★★★ (多彩な音色を使用したスクラッチ&リズム&ベース)
・曲構成 ★ (収録楽曲は少なめですがワンパターンの美学を感じる)
・個性 ★★★ (このサウンドは彼にしか不可能という認識が正しい)
総合評点: 7点
中野テルヲ:vocal・all instruments

1.「Leonid」 詞・曲・編:中野テルヲ
2.「ラジアン」 詞・曲・編:中野テルヲ
3.「Legs」 詞・曲:anonymous composer 編:中野テルヲ
4.「構築子」 詞・曲・編:中野テルヲ
5.「サンパリーツ」 詞・曲・編:中野照夫
6.「Dreaming」 詞・曲・編:中野テルヲ
7.「ロマンチスト」 詞・曲:遠藤ミチロウ 編:中野テルヲ
8.「ディープ・アーキテクチャ」 詞・曲・編:中野テルヲ
produced by 中野テルヲ
engineered by 中野テルヲ
● 精力的にリリースを続ける電子音マエストロが久しぶりにベースを片手に躍動するオリジナル4thアルバム
1996年のデビュー作「USER UNKNOWN」でソロ活動を開始した孤高の「電子音」POPSアーティスト中野テルヲ。彼は2011年の15年振りのオリジナルアルバム「Signal/Noise」をリリースした後、翌年には「Oscillator and Spaceship」、そして2013年の本作というように、1年ごとに3作連続リリースするなどこれまでのキャリアからすると空前の精力的な活動期であったと言えます。音楽性としてはソロ活動を開始してから一貫としてブレないハンドメイドな電子楽器やオシレーターを駆使した剥き出しの電子音が実験生を際立たせているものの、楽曲自体は至ってわかりやすい歌モノPOPSというもので、キャッチーさという点では善し悪しがあるものの、あくまで歌モノで勝負する姿勢には清々しいものがあります。本作はソロ活動再開後3作目ということもあり、円熟味を増したTHE 中野サウンドをこれまで以上にアピールした傑作に仕上がっています。
さて、前2作と本作の決定的な違いといえば、やはり中野自身が久しぶりに弾きまくるエレクトリックベースの活躍ぶりでしょう。もともとP-MODELのベーシストとしてデビューした中野の、粗さと硬さが同居したかのようなベースフレーズは、電子ギミックをふんだんに活用しつつミニマル要素を含んだ楽曲との相性も良く、本来の硬軟織り交ぜた独特の楽曲に堅固なボトムを作り出しています。そこに相応の年齢にしては若々しいヴォーカルに比較的肌触りの良いシンセストリングスを加えていくことで、独特のポップ性を獲得しているわけです。また、本作ではP-MODEL「サンパリーツ」(原曲の開き直ったかのような明るさは抜け落ちたサスペンスタッチのリアレンジ)、Long Vacation「Legs」(スクラッチの多用と爽やかなシンセストリングスがポイント)、THE STALIN「ロマンチスト」(パンクな原曲をエレクトロレゲエダブにリメイク)といった中野手法ならではのセルフカバー&リメイク楽曲も収録しており、そういった意味でも前2作で追い込んだ作風の集大成として挑んだ作品と言う意味で気合いの乗った作品と言えるかもしれません。齢50にしてますます自身の音楽性の追求がやまない中野テルヲの今後の活動に期待したいところです。
<Favorite Songs>
・「Leonid」
白玉のインパクトが全体を支配する楽曲ですが、硬質な生ベースとリズムトラックがしっかりボトムを支えている印象です。間奏のシンセストリングスとギターフレーズとの掛け合いも地味ながら生き生きとしています。
・「ラジアン」
中野の得意とするところの電子民謡なメロディが親しみやすい楽曲。グラスを叩いたようなメタリック音とノイズで構築するリズムが印象深いです。
・「ディープ・アーキテクチャ」
本作のタイトルチューンにして中野サウンドの集大成とも言えるエレクトロコラージュPOPS。しっちゃかめっちゃかしたサウンドの渦の中で中野とサンプルギミックとの掛け合いが実に楽しそうで、かつ生き生きとしているのがなんとも微笑ましいです。
<評点>
・サウンド ★★★ (シンプルな電子サウンドやギミックももはや円熟の域)
・メロディ ★ (ポップなラインから外しまくるひねくれたメロは健在)
・リズム ★★★ (多彩な音色を使用したスクラッチ&リズム&ベース)
・曲構成 ★ (収録楽曲は少なめですがワンパターンの美学を感じる)
・個性 ★★★ (このサウンドは彼にしか不可能という認識が正しい)
総合評点: 7点
「REPEAT REPEAT」 Peter Baumann
「「REPEAT REPEAT」(1981 Virgin)
Peter Baumann:vocals・keyboards・synthesizer

1.「Repeat Repeat」 Peter Baumann
2.「Home Sweet Home」 Peter Baumann
3.「Deccadance」 Peter Baumann
4.「Realtimes」 Peter Baumann
5.「M.A.N. Series Two」 Peter Baumann
6.「Brain Damage」 Peter Baumann
7.「Kinky Dinky」 Peter Baumann
8.「Daytime Logic」 Peter Baumann/Carsten Bohn
9.「Playland Pleasure」 Peter Baumann
10.「What Is Your Use?」 Peter Baumann
<support musician>
Ritchie Fliegler:guitar
John Tropea:guitar
Carsten Bohn:drums・keyboards
Mike Dawe:drums
Linda Kay Brynan:backing vocals
produced by Robert Palmer・Peter Baumann
engineered by Jack Nuber・Jan Hammer・Alan Douglas・Peter Baumann
● 元Tangerine Dreamのシンセシストがニューウェーブに転身!ゲリマン節を彷佛とさせるシンセポップ挑戦の意欲作
エレクトリック、プログレ、ニューエイジ、クラウトロック等多彩なジャンルに大きな影響を与えてきたドイツが生んだ伝説のモンスターグループ、Tangerine Dreamの全盛期(1972年〜1977年)をメンバーきっての若手として支えてきたPeter Baumannは、ソロアーティストとしても「Romance '76」でデビュー、Tangerine Dream脱退後の79年にもアルバム「Trans Harmonic Nights」をリリース、ドイツの世界に誇る電子音楽ユニットClusterの名盤「Grosses Wasser」をプロデュースするなど、早くからシンセサイザーを導入した電子音楽の期待のサウンドメイカーとして活躍していました。しかし80年代に入ってリリースされた3rdアルバムの本作は、それまでの経歴を考えると呆気にとられるほどのイメチェンを図ります。長髪だった髪の毛もオールバックに整えられ、David BowieやJohn Foxx、Gary Numanといったニューウェーブなアーティストに影響されたためか、ヌメりのあるヴォーカルスタイルと無機質なビートに得意の電子音を散りばめた楽曲が多数収録され、これまでの彼のファン層を困惑させることとなりました。
それにしても2ndアルバムまでのTangerine Dreamの流れを汲んだ静謐でシンプルな電子音楽からの変貌ぶりには改めて目を見張るものがあります。しかしながらサウンド面での手法的には、単純に16音符を刻んでいくシーケンス、うっすらチープなボコーダー、多彩なシンセサウンドの滲み方、間奏等で聴かれるめくるめく大げさなシンセオーケストレーションに至るまで、それほど変化はないように思われます。前作までの決定的な違いはいわゆる「生」音の導入です。まずはBaumannみずからのボコーダーを介しない生歌の披露です。Gary Numanに代表される自然と倍音を含んだかのように喉に絡みついたような声質は決して美しいものではありませんが、80年代初頭のニューウェーブな空気感を演出するには十分な仕事を果たしていると思います。そしてもう1つはドラマーの起用です。本作では本格的に生ドラムを導入していますが、これが楽曲に肉感をもたらしロックテイストを醸すことで、彼の難解なエレクトリックサウンドをポピュラーな印象として伝えることに成功しています(しかも「Daytime Logic」「What Is Your Use?」等における力強いスネアは後の過剰なドラム音処理を彷佛とさせます)。結果的にこの路線はリスナーを驚かせるまでにとどまり、Baumann自身は83年に同路線のアルバムを1作リリースしてからは、実業家としての活動にほぼ専念していくことになりますが、70年代を通過した堅物なエレクトリックアーティストの冒険作として記憶に残しておきたい作品です。
<Favorite Songs>
・「Brain Damage」
ミニマルなシーケンスによる緊迫感に心躍らされるエレクトリックポップ。奇妙な音階を奏でるリフも気になりますが、後半へ進むにしたがってバラエティに富んだシンセギミックが繰り出されるところに、電子音への造詣とこだわりが感じられます。
・「Playland Pleasure」
瞑想的なエレクトリックシーケンスで幻惑させながら、その流れからシーケンスをそのままに直線的なロックテイストへと持っていく力技を感じる楽曲。しかしヴォーカルは斜に構えたままでクールに、というコントラストが魅力です。
・「What Is Your Use?」
コクのあるシンセベースとエフェクティブなドラムサウンドが魅力的なラストナンバー。SE的に使われる電子音と遠くで響くエレクトリックタムの連打、経験に裏打ちされたシンセソロフレーズ、最後になってもその熱さは衰えません。
<評点>
・サウンド ★★★ (電子音の大仰な使い方は70年代の豊富な経験の賜物)
・メロディ ★ (どれをとっても煮え切らない部分に融通の利かなさが)
・リズム ★★★ (生ドラムによる躍動感でスネアがエフェクティブ)
・曲構成 ★ (切迫感のある楽曲と呑気な楽曲とのギャップが・・)
・個性 ★★ (流行を察知して果敢にポップ路線に挑んだ結果問題作に)
総合評点: 7点
彼のソロアルバムは軒並み廃盤なので、このベストを聴くしかありません。本作から4曲を収録。
Peter Baumann:vocals・keyboards・synthesizer

1.「Repeat Repeat」 Peter Baumann
2.「Home Sweet Home」 Peter Baumann
3.「Deccadance」 Peter Baumann
4.「Realtimes」 Peter Baumann
5.「M.A.N. Series Two」 Peter Baumann
6.「Brain Damage」 Peter Baumann
7.「Kinky Dinky」 Peter Baumann
8.「Daytime Logic」 Peter Baumann/Carsten Bohn
9.「Playland Pleasure」 Peter Baumann
10.「What Is Your Use?」 Peter Baumann
<support musician>
Ritchie Fliegler:guitar
John Tropea:guitar
Carsten Bohn:drums・keyboards
Mike Dawe:drums
Linda Kay Brynan:backing vocals
produced by Robert Palmer・Peter Baumann
engineered by Jack Nuber・Jan Hammer・Alan Douglas・Peter Baumann
● 元Tangerine Dreamのシンセシストがニューウェーブに転身!ゲリマン節を彷佛とさせるシンセポップ挑戦の意欲作
エレクトリック、プログレ、ニューエイジ、クラウトロック等多彩なジャンルに大きな影響を与えてきたドイツが生んだ伝説のモンスターグループ、Tangerine Dreamの全盛期(1972年〜1977年)をメンバーきっての若手として支えてきたPeter Baumannは、ソロアーティストとしても「Romance '76」でデビュー、Tangerine Dream脱退後の79年にもアルバム「Trans Harmonic Nights」をリリース、ドイツの世界に誇る電子音楽ユニットClusterの名盤「Grosses Wasser」をプロデュースするなど、早くからシンセサイザーを導入した電子音楽の期待のサウンドメイカーとして活躍していました。しかし80年代に入ってリリースされた3rdアルバムの本作は、それまでの経歴を考えると呆気にとられるほどのイメチェンを図ります。長髪だった髪の毛もオールバックに整えられ、David BowieやJohn Foxx、Gary Numanといったニューウェーブなアーティストに影響されたためか、ヌメりのあるヴォーカルスタイルと無機質なビートに得意の電子音を散りばめた楽曲が多数収録され、これまでの彼のファン層を困惑させることとなりました。
それにしても2ndアルバムまでのTangerine Dreamの流れを汲んだ静謐でシンプルな電子音楽からの変貌ぶりには改めて目を見張るものがあります。しかしながらサウンド面での手法的には、単純に16音符を刻んでいくシーケンス、うっすらチープなボコーダー、多彩なシンセサウンドの滲み方、間奏等で聴かれるめくるめく大げさなシンセオーケストレーションに至るまで、それほど変化はないように思われます。前作までの決定的な違いはいわゆる「生」音の導入です。まずはBaumannみずからのボコーダーを介しない生歌の披露です。Gary Numanに代表される自然と倍音を含んだかのように喉に絡みついたような声質は決して美しいものではありませんが、80年代初頭のニューウェーブな空気感を演出するには十分な仕事を果たしていると思います。そしてもう1つはドラマーの起用です。本作では本格的に生ドラムを導入していますが、これが楽曲に肉感をもたらしロックテイストを醸すことで、彼の難解なエレクトリックサウンドをポピュラーな印象として伝えることに成功しています(しかも「Daytime Logic」「What Is Your Use?」等における力強いスネアは後の過剰なドラム音処理を彷佛とさせます)。結果的にこの路線はリスナーを驚かせるまでにとどまり、Baumann自身は83年に同路線のアルバムを1作リリースしてからは、実業家としての活動にほぼ専念していくことになりますが、70年代を通過した堅物なエレクトリックアーティストの冒険作として記憶に残しておきたい作品です。
<Favorite Songs>
・「Brain Damage」
ミニマルなシーケンスによる緊迫感に心躍らされるエレクトリックポップ。奇妙な音階を奏でるリフも気になりますが、後半へ進むにしたがってバラエティに富んだシンセギミックが繰り出されるところに、電子音への造詣とこだわりが感じられます。
・「Playland Pleasure」
瞑想的なエレクトリックシーケンスで幻惑させながら、その流れからシーケンスをそのままに直線的なロックテイストへと持っていく力技を感じる楽曲。しかしヴォーカルは斜に構えたままでクールに、というコントラストが魅力です。
・「What Is Your Use?」
コクのあるシンセベースとエフェクティブなドラムサウンドが魅力的なラストナンバー。SE的に使われる電子音と遠くで響くエレクトリックタムの連打、経験に裏打ちされたシンセソロフレーズ、最後になってもその熱さは衰えません。
<評点>
・サウンド ★★★ (電子音の大仰な使い方は70年代の豊富な経験の賜物)
・メロディ ★ (どれをとっても煮え切らない部分に融通の利かなさが)
・リズム ★★★ (生ドラムによる躍動感でスネアがエフェクティブ)
・曲構成 ★ (切迫感のある楽曲と呑気な楽曲とのギャップが・・)
・個性 ★★ (流行を察知して果敢にポップ路線に挑んだ結果問題作に)
総合評点: 7点
彼のソロアルバムは軒並み廃盤なので、このベストを聴くしかありません。本作から4曲を収録。
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