「 L’OPERA FRAGILE うたかたのオペラ」 加藤和彦
「 L’OPERA FRAGILE うたかたのオペラ」(1980 ワーナー)
加藤和彦:vocals・guitar・electronics

1.「L’OPERA FRAGILE うたかたのオペラ」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
2.「RUMBA AMERICAN ルムバ・アメリカン」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
3.「PARIS, YESTERDAY パリはもう誰も愛さない」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
4.「RADIO CABARET ラジオ・キャバレー」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
5.「LADY IN A SILKEN SHIRT 絹のシャツを着た女」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
6.「S-BAHN Sバーン」 曲・編:加藤和彦
7.「CAFE BRISTOL キャフェ・ブリストル」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
8.「DOCTOR KESSELER’S BUSY WEEKEND ケスラー博士の忙しい週末」
詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
9.「SOPHIE’S PRELUDE ソフィーのプレリュード」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
10.「FIFTY YEARS THEME 50年目の旋律」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
<support musician>
佐藤奈々子:vocal
大村憲司:guitar
細野晴臣:bass・Moog・ULT Sound・electronics・percussions
高橋幸宏:drums・ULT Sound・percussions
矢野顕子:piano・Prophet5・xylophone
岡田徹:organ・Prophet5・orchestration
坂本龍一:piano・Prophet5
清水信之:Prophet5・orchestration
Heinz von Hermann:sax
Gunter Melde:strings
巻上公一:voice
Franz Bartzsch:synthesizer programming
松武秀樹:synthesizer programming
produced by 加藤和彦
mixing engineered by 島雄一・加藤和彦
recording engineered by Michael Zimmerling・島雄一
● ベルリン録音でニューウェーブ真っ只中!モチーフは1920年代ながらエレクトロニクスを大胆に導入した緊張感あふれる名盤
1970年代後半には既に日本ロック界においてトップアーティストの地位にあり、その妥協なき自身の音楽に対する取り組みに定評があった加藤和彦は、レコード会社移籍後最初のアルバム「パパ・ヘミングウェイ」におけるバハマレコーディングの敢行など、他には真似のできない制作環境によるゴージャスでオシャレな作品を聴き手に提供し、その音楽性は絶頂期にありました。そして「パパ・ヘミングウェイ」に引き続く本作は1920年大のヨーロッパの風景を切り取るというコンセプトのもとレコーディングをドイツ・ベルリンのハンザ・スタジオに求め、ジャケもロシア構成主義を彷佛とさせる歯車デザインを施した、前作とは雰囲気を一新して臨んだ作品です。
リリース年の1980年は世界的なシンセポップ・ニューウェーブムーブメントの真っ只中で、日本ではYMOを始めとするテクノポップブームが爆発した年でもあります。一躍時の人となったYMO及び第2次ワールドツアーメンバーを前作に引き続き起用(坂本龍一のみほとんどの楽曲を病欠→矢野顕子が代役を買って出る)、しかしYMOとは違った彼らの演奏力とセンスを生かした渋めのヨーロピアンPOPSを堅実に展開しています。しかし上記のメンバーは加藤自身にも着実に影響を与えており、Ult Soundによるシンセドラムの多用や風変わりな音響処理も目立ち、インスト曲「S-BAHN」は、タイトルからも察せられる通りKraftwerkを加藤楽曲としてYMOメンバーが料理した異色曲に仕上がっています。また、ベルリンから帰国後の東京レコーディングでは天才的なエレクトリックアレンジで頭角を現しつつあった清水信之が大活躍で、特に加藤も絶賛していたシンセブラス等のオーケストレーションは本作の最たる聴き所となっています。加えて、レコーディングエンジニアに後年BOφWYや大沢誉志幸、URBAN DANCEなど日本のロックバンド&アーティストにエッジの効いたサウンドを施し多大な影響を与えた若き日のMichael Zimmerlingが参加していることも特筆すべき点と言えるでしょう。そのためかはわかりませんが心なしが硬質な肌触りも漂う本作は、まさに加藤和彦の全盛期。ロック史に足跡を確かに残す作品として語り継がれているのです。
<Favorite Songs>
・「PARIS, YESTERDAY パリはもう誰も愛さない」
ピアノ中心のヨーロピアンPOPSといった風情ですが、ストリングスのカット&ペースト的なインパクトが強烈で、その緩急の差し引きの妙が楽しめます。細野晴臣の弾くMoogのシンセベースも渋さ満点。
・「LADY IN A SILKEN SHIRT 絹のシャツを着た女」
本作でただ1曲坂本龍一が参加したCMソングとしてのシングルカット曲。YMOが演奏するエレクトリック風味のタンゴ曲として、高橋幸宏・坂本・細野それぞれが特徴を生かした巧みな演奏力を再確認できます。
・「S-BAHN Sバーン」
明らかにKraftwerk的なテクノポップムーブメントに影響を受けたと思われるミニマルリズム&アシッドエレクトロ全開のインスト曲。しかしそこにはポップさのかけらもなくインプロヴィゼーション的にフレーズを散りばめながら陰鬱とした不穏な空気を醸し出しています。ヒカシューの巻上公一のVoice参加もその異様さに拍車をかけています。
<評点>
・サウンド ★★ (電子音も積極的に取り入れつつ安定感抜群の演奏)
・メロディ ★ (欧州的雰囲気を重視するがメロとしては少し単調かも)
・リズム ★★ (幸宏らしい前のめりなドラミングだが派手さは皆無)
・曲構成 ★ (実験作も織り込みつつ物語性も感じさせるが単調さも)
・個性 ★★ (ベルリン録音のサウンドに与える影響力はやはり強い)
総合評点: 6点
加藤和彦:vocals・guitar・electronics

1.「L’OPERA FRAGILE うたかたのオペラ」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
2.「RUMBA AMERICAN ルムバ・アメリカン」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
3.「PARIS, YESTERDAY パリはもう誰も愛さない」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
4.「RADIO CABARET ラジオ・キャバレー」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
5.「LADY IN A SILKEN SHIRT 絹のシャツを着た女」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
6.「S-BAHN Sバーン」 曲・編:加藤和彦
7.「CAFE BRISTOL キャフェ・ブリストル」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
8.「DOCTOR KESSELER’S BUSY WEEKEND ケスラー博士の忙しい週末」
詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
9.「SOPHIE’S PRELUDE ソフィーのプレリュード」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
10.「FIFTY YEARS THEME 50年目の旋律」 詞:安井かずみ 曲・編:加藤和彦
<support musician>
佐藤奈々子:vocal
大村憲司:guitar
細野晴臣:bass・Moog・ULT Sound・electronics・percussions
高橋幸宏:drums・ULT Sound・percussions
矢野顕子:piano・Prophet5・xylophone
岡田徹:organ・Prophet5・orchestration
坂本龍一:piano・Prophet5
清水信之:Prophet5・orchestration
Heinz von Hermann:sax
Gunter Melde:strings
巻上公一:voice
Franz Bartzsch:synthesizer programming
松武秀樹:synthesizer programming
produced by 加藤和彦
mixing engineered by 島雄一・加藤和彦
recording engineered by Michael Zimmerling・島雄一
● ベルリン録音でニューウェーブ真っ只中!モチーフは1920年代ながらエレクトロニクスを大胆に導入した緊張感あふれる名盤
1970年代後半には既に日本ロック界においてトップアーティストの地位にあり、その妥協なき自身の音楽に対する取り組みに定評があった加藤和彦は、レコード会社移籍後最初のアルバム「パパ・ヘミングウェイ」におけるバハマレコーディングの敢行など、他には真似のできない制作環境によるゴージャスでオシャレな作品を聴き手に提供し、その音楽性は絶頂期にありました。そして「パパ・ヘミングウェイ」に引き続く本作は1920年大のヨーロッパの風景を切り取るというコンセプトのもとレコーディングをドイツ・ベルリンのハンザ・スタジオに求め、ジャケもロシア構成主義を彷佛とさせる歯車デザインを施した、前作とは雰囲気を一新して臨んだ作品です。
リリース年の1980年は世界的なシンセポップ・ニューウェーブムーブメントの真っ只中で、日本ではYMOを始めとするテクノポップブームが爆発した年でもあります。一躍時の人となったYMO及び第2次ワールドツアーメンバーを前作に引き続き起用(坂本龍一のみほとんどの楽曲を病欠→矢野顕子が代役を買って出る)、しかしYMOとは違った彼らの演奏力とセンスを生かした渋めのヨーロピアンPOPSを堅実に展開しています。しかし上記のメンバーは加藤自身にも着実に影響を与えており、Ult Soundによるシンセドラムの多用や風変わりな音響処理も目立ち、インスト曲「S-BAHN」は、タイトルからも察せられる通りKraftwerkを加藤楽曲としてYMOメンバーが料理した異色曲に仕上がっています。また、ベルリンから帰国後の東京レコーディングでは天才的なエレクトリックアレンジで頭角を現しつつあった清水信之が大活躍で、特に加藤も絶賛していたシンセブラス等のオーケストレーションは本作の最たる聴き所となっています。加えて、レコーディングエンジニアに後年BOφWYや大沢誉志幸、URBAN DANCEなど日本のロックバンド&アーティストにエッジの効いたサウンドを施し多大な影響を与えた若き日のMichael Zimmerlingが参加していることも特筆すべき点と言えるでしょう。そのためかはわかりませんが心なしが硬質な肌触りも漂う本作は、まさに加藤和彦の全盛期。ロック史に足跡を確かに残す作品として語り継がれているのです。
<Favorite Songs>
・「PARIS, YESTERDAY パリはもう誰も愛さない」
ピアノ中心のヨーロピアンPOPSといった風情ですが、ストリングスのカット&ペースト的なインパクトが強烈で、その緩急の差し引きの妙が楽しめます。細野晴臣の弾くMoogのシンセベースも渋さ満点。
・「LADY IN A SILKEN SHIRT 絹のシャツを着た女」
本作でただ1曲坂本龍一が参加したCMソングとしてのシングルカット曲。YMOが演奏するエレクトリック風味のタンゴ曲として、高橋幸宏・坂本・細野それぞれが特徴を生かした巧みな演奏力を再確認できます。
・「S-BAHN Sバーン」
明らかにKraftwerk的なテクノポップムーブメントに影響を受けたと思われるミニマルリズム&アシッドエレクトロ全開のインスト曲。しかしそこにはポップさのかけらもなくインプロヴィゼーション的にフレーズを散りばめながら陰鬱とした不穏な空気を醸し出しています。ヒカシューの巻上公一のVoice参加もその異様さに拍車をかけています。
<評点>
・サウンド ★★ (電子音も積極的に取り入れつつ安定感抜群の演奏)
・メロディ ★ (欧州的雰囲気を重視するがメロとしては少し単調かも)
・リズム ★★ (幸宏らしい前のめりなドラミングだが派手さは皆無)
・曲構成 ★ (実験作も織り込みつつ物語性も感じさせるが単調さも)
・個性 ★★ (ベルリン録音のサウンドに与える影響力はやはり強い)
総合評点: 6点
「飛行夢 sora・tobu・yume」 ZABADAK
「飛行夢 sora・tobu・yume」(1989 MMG)
ZABADAK

<members>
吉良知彦:vocal・guitars・bass・keyboards
上野洋子:vocal・keyboards・computer programming
1.「FOLLOW YOUR DREAMS」 詞:小峰公子 曲:吉良知彦 編:ZABADAK
2.「飛行夢(そら とぶ ゆめ)」 詞:小峰公子 曲:上野洋子 編:ZABADAK
3.「砂煙りのまち」 詞:松田克志 曲:上野洋子 編:ZABADAK
4.「I AM・・・」 詞:Chris Mosdell 曲:上野洋子 編:ZABADAK
5.「THERE’S A VISION」 詞:Tommy Snyder 曲:吉良知彦 編:ZABADAK
6.「GOOD BYE EARTH」 詞・曲:吉良知彦 編:ZABADAK
7.「街角・影法師」 詞:小峰公子 曲:吉良知彦 編:ZABADAK
8.「人形たちの永い午睡」 詞:小峰公子 曲:吉良知彦 編:ZABADAK
9.「WALKING TOUR」 詞:松田克志 曲:上野洋子 編:ZABADAK
10.「LET THERE BE LIGHT」 詞:Ralph McCarthy 曲:上野洋子 編:ZABADAK
<support musician>
内田健太郎:bass
宮田繁男:drums
坂上真清:irish harp
安井敬:tin whistle・recorder
今井裕:sax
Alan Smale:violin
Kathy Smale:violin
Padraig O’Conner:viola
David James:cello
Martin Walsh:contrabass
produced by 今井裕・Kevin Moloney
mixing engineered by Kevin Moloney・新銅"V"康晃
recording engineered by 新銅"V"康晃・松林正志・鎮西正憲
● 瑞々しいアコースティック寄りのポップサウンドに進化した後世に影響を与える男女ユニットの出世作
早くからアコースティックサウンドにデジタル的な手法によるサウンドデザインを施す斬新性を包含した楽曲で新しい音楽シーンを模索していたZABADAK。1986年のデビュー時は3人組であった彼らはミニアルバム2枚を残し翌87年にドラムの松田克志が脱退、吉良知彦と上野洋子のデュオとなった彼らは間髪入れず3rdアルバム「ウェルカム・トゥ・ザバダック」をリリースするもののここでレコード会社を移籍し仕切り直しを図ります。本作はそんな彼らのMMG移籍後にリリースされた初のアルバムということになりますが、再デビューかと思わせる程の丹念な準備と周到に固められたコンセプトに裏打ちされた気合いの乗った内容に仕上がっており、アイルランド録音ということもあり、以前から表面化しつつあったアイリッシュトラッド的な民族音楽的な部分が全開となり、強烈にユニットとしての個性を世に知らしめた作品となっています。
3人組時代のZABADAKは打ち込み主体のサウンドを柱にしてアコースティックやプログレを装飾した楽曲が目立っていましたが、本作からはそれが逆転してまずギターを前面に据えたアコースティック性を表に出しながら80'sの残り香漂うエフェクティブなスネアサウンドやシンセフレーズをあくまで控えめに主張させる作風に転換しています。これはプロデューサーである元サディスティックミカバンドの今井裕の影響も多分にあると思われますが、それ以上にデジタルサウンドをあからさまなプログラミングではなくディレイやリバーブを駆使した音響面によるギミカルな工夫でより隠し味的な整えたことが、サウンド面において広がりを持たせることに成功していると思います。非常に先鋭化しつつあった上野洋子のヴォーカルセンスとアコースティックな中のデジタル音響が相まって、幻想的でファンタジックな世界観を形成する足がかりになったと言えるでしょう。洋邦を巧みに使い分けたトラッドソングや渋いデジアナロック&POPSなど楽曲的にもバラエティに富んでおり、この後全盛期に向かうZABADAKサウンドの礎を築いた重要作品ではないでしょうか。この勢いを駆りメディアへの露出を増やしながら翌年には名盤「遠い音楽」がリリースされることになります。
<Favorite Songs>
・「砂煙りのまち」
旧メンバーの松田克志作詞の連続するギターリフが印象的なマイナーチューン。浮遊感のあるベースフレーズや随所でアクセントとなるシンセフレーズがよい仕事ぶりです。2回り目に1度だけシンセブラスを挿入するセンスが面白いです。サビの最後のメロディがメジャーに転調して救いが出るのも実に良いです。
・「THERE’S A VISION」
吉良知彦ヴォーカルのアコギPOPS。ゴダイゴのドラマーであるTommy Snyder作詞のこの楽曲に限らず、吉良ヴォーカル楽曲は吉良なりのダンディズムが前面に出てくるのが興味深いです。本作でも他の楽曲に比べてガラッと空気が変わります。コーラスに徹する上野の声質もここでは上質な脇役といったところでしょうか。
・「LET THERE BE LIGHT」
上野の美しいヴォーカルによる賛美歌的楽曲。リバーブで広がりを持たせた音響による上野ヴォーカルに完全に耳を奪われますが、それを支える幻想的なシンセパッドなしではこのファンタジーは生み出せないでしょう。繊細過ぎるギターフレーズの音処理もバッチリキマッたまさに名曲中の名曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (印象はアコースティック隠し味はデジタル風味で)
・メロディ ★★ (格段にわかりやすくなり親しみやすいメロディ)
・リズム ★★ (リズムは控えめにしかししっかりエフェクティブに)
・曲構成 ★★★ (美しくシンプルな楽曲で最初と最後を締める安定感)
・個性 ★★★ (全盛期の彼らの音の基礎となった試金石的作品)
総合評点: 7点
ZABADAK

<members>
吉良知彦:vocal・guitars・bass・keyboards
上野洋子:vocal・keyboards・computer programming
1.「FOLLOW YOUR DREAMS」 詞:小峰公子 曲:吉良知彦 編:ZABADAK
2.「飛行夢(そら とぶ ゆめ)」 詞:小峰公子 曲:上野洋子 編:ZABADAK
3.「砂煙りのまち」 詞:松田克志 曲:上野洋子 編:ZABADAK
4.「I AM・・・」 詞:Chris Mosdell 曲:上野洋子 編:ZABADAK
5.「THERE’S A VISION」 詞:Tommy Snyder 曲:吉良知彦 編:ZABADAK
6.「GOOD BYE EARTH」 詞・曲:吉良知彦 編:ZABADAK
7.「街角・影法師」 詞:小峰公子 曲:吉良知彦 編:ZABADAK
8.「人形たちの永い午睡」 詞:小峰公子 曲:吉良知彦 編:ZABADAK
9.「WALKING TOUR」 詞:松田克志 曲:上野洋子 編:ZABADAK
10.「LET THERE BE LIGHT」 詞:Ralph McCarthy 曲:上野洋子 編:ZABADAK
<support musician>
内田健太郎:bass
宮田繁男:drums
坂上真清:irish harp
安井敬:tin whistle・recorder
今井裕:sax
Alan Smale:violin
Kathy Smale:violin
Padraig O’Conner:viola
David James:cello
Martin Walsh:contrabass
produced by 今井裕・Kevin Moloney
mixing engineered by Kevin Moloney・新銅"V"康晃
recording engineered by 新銅"V"康晃・松林正志・鎮西正憲
● 瑞々しいアコースティック寄りのポップサウンドに進化した後世に影響を与える男女ユニットの出世作
早くからアコースティックサウンドにデジタル的な手法によるサウンドデザインを施す斬新性を包含した楽曲で新しい音楽シーンを模索していたZABADAK。1986年のデビュー時は3人組であった彼らはミニアルバム2枚を残し翌87年にドラムの松田克志が脱退、吉良知彦と上野洋子のデュオとなった彼らは間髪入れず3rdアルバム「ウェルカム・トゥ・ザバダック」をリリースするもののここでレコード会社を移籍し仕切り直しを図ります。本作はそんな彼らのMMG移籍後にリリースされた初のアルバムということになりますが、再デビューかと思わせる程の丹念な準備と周到に固められたコンセプトに裏打ちされた気合いの乗った内容に仕上がっており、アイルランド録音ということもあり、以前から表面化しつつあったアイリッシュトラッド的な民族音楽的な部分が全開となり、強烈にユニットとしての個性を世に知らしめた作品となっています。
3人組時代のZABADAKは打ち込み主体のサウンドを柱にしてアコースティックやプログレを装飾した楽曲が目立っていましたが、本作からはそれが逆転してまずギターを前面に据えたアコースティック性を表に出しながら80'sの残り香漂うエフェクティブなスネアサウンドやシンセフレーズをあくまで控えめに主張させる作風に転換しています。これはプロデューサーである元サディスティックミカバンドの今井裕の影響も多分にあると思われますが、それ以上にデジタルサウンドをあからさまなプログラミングではなくディレイやリバーブを駆使した音響面によるギミカルな工夫でより隠し味的な整えたことが、サウンド面において広がりを持たせることに成功していると思います。非常に先鋭化しつつあった上野洋子のヴォーカルセンスとアコースティックな中のデジタル音響が相まって、幻想的でファンタジックな世界観を形成する足がかりになったと言えるでしょう。洋邦を巧みに使い分けたトラッドソングや渋いデジアナロック&POPSなど楽曲的にもバラエティに富んでおり、この後全盛期に向かうZABADAKサウンドの礎を築いた重要作品ではないでしょうか。この勢いを駆りメディアへの露出を増やしながら翌年には名盤「遠い音楽」がリリースされることになります。
<Favorite Songs>
・「砂煙りのまち」
旧メンバーの松田克志作詞の連続するギターリフが印象的なマイナーチューン。浮遊感のあるベースフレーズや随所でアクセントとなるシンセフレーズがよい仕事ぶりです。2回り目に1度だけシンセブラスを挿入するセンスが面白いです。サビの最後のメロディがメジャーに転調して救いが出るのも実に良いです。
・「THERE’S A VISION」
吉良知彦ヴォーカルのアコギPOPS。ゴダイゴのドラマーであるTommy Snyder作詞のこの楽曲に限らず、吉良ヴォーカル楽曲は吉良なりのダンディズムが前面に出てくるのが興味深いです。本作でも他の楽曲に比べてガラッと空気が変わります。コーラスに徹する上野の声質もここでは上質な脇役といったところでしょうか。
・「LET THERE BE LIGHT」
上野の美しいヴォーカルによる賛美歌的楽曲。リバーブで広がりを持たせた音響による上野ヴォーカルに完全に耳を奪われますが、それを支える幻想的なシンセパッドなしではこのファンタジーは生み出せないでしょう。繊細過ぎるギターフレーズの音処理もバッチリキマッたまさに名曲中の名曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (印象はアコースティック隠し味はデジタル風味で)
・メロディ ★★ (格段にわかりやすくなり親しみやすいメロディ)
・リズム ★★ (リズムは控えめにしかししっかりエフェクティブに)
・曲構成 ★★★ (美しくシンプルな楽曲で最初と最後を締める安定感)
・個性 ★★★ (全盛期の彼らの音の基礎となった試金石的作品)
総合評点: 7点
「Artificial Intelligence」 Doris Norton
「Artificial Intelligence」 (1985 Globo)
Doris Norton:vocals・Roland MKS-10・Roland MKS-30・Roland MKS-50・Akai S612・Roland Jupiter-6・Roland Juno-106・computer programming

1.「Artificial Intelligence」 Doris Norton/Antonius Rex
2.「Machine Language」 Doris Norton/Antonius Rex
3.「Advanced Micro Music」 Doris Norton/Antonius Rex
4.「Sylicon Valley」 Doris Norton/Antonius Rex
5.「Juno 106 Software」 Doris Norton/Antonius Rex
6.「Norton Institute」 Doris Norton/Antonius Rex
7.「Norton Musik Research」 Doris Norton/Antonius Rex
8.「Oh Supermac」 Doris Norton/Antonius Rex
9.「Bit Killed Hertz」 Doris Norton/Antonius Rex
10.「JX-3P Software」 Doris Norton/Antonius Rex
produced by Musik Reserch
engineered by Antonius Rex・Rudy Luksch
● 遂にサンプリングも導入しRolandシンセをフィーチャーして新機軸を見せるイタリアン女性シンセマニアの5thアルバム
70年代より黒魔術信仰のシンフォニックプログレロックバンドAntonius Rexで活躍していたイタリア人シンセサイザープレイヤーDoris Nortonは、同バンド脱退後80年代からは自身のソロ活動に没頭することとなります。81年の「Raptus」を皮切りに、84年の「Personal Computer」まで4枚のアルバムを残してきましたが、彼女の作品は日本の気鋭の電子楽器メーカーRolandとまだ勃興期にあったベンチャーコンピューター会社Appleの公式的なサポートを得ながら、それらの電子アイテムを使用した実験的かつプログレッシブなエレクトリックミュージックを展開していました。そんな硬派な電子音クリエイターであった彼女が85年にリリースした作品が本作です。「Personal Computer」(傑作!)においてアナログシンセサウンドに集大成を見た彼女が、その先をサウンド面で見据えたのは、当然DCOシンセ&サンプラーサウンド。本作ではRoland MKSシリーズの音源モジュール群と8bitサンプラーの画期的な廉価版であったAkai S612を駆使したLo-FiサンプリングとDCOらしい痩せ気味のシンセ音が程よく絡み合った実験音楽集に仕上がっています。
まずはオープニングの新兵器サンプラーによる執拗なドモリングサウンドに圧倒されますが、基本はRoland特有のDCOオシレーターによる安定感のあるシンセサウンドによるシーケンスフレーズを駆使した実験風楽曲です。JUNO-106やJX-3Pの音色データをカセットテープにより交換するための信号を収録するなど、ほとんどRolandの販促デモのような内容ですが、肝心の楽曲はプログレ的な目まぐるしい展開と多彩な音色による自由に動き回るフレーズが支配するアグレッシブな作風で、その雑多で混沌としたエレクトリックミュージックにはサンプリングという新しい要素を導入したといっても全くブレがありません。しかしながらそのブレのなさがある種のマンネリ感を引き起こしている点も否めず、これまでのNortonサウンドとサンプリングサウンドとの融合はまだまだ発展途上にあると言わざるを得ないのも事実です。そこでNortonは同年間髪入れずに大々的にデジタル&サンプラーをフィーチャーしたアルバム「Automatic Feeling」で、Nortonサウンドの新機軸と集大成に挑んでいくことになります。
<Favorite Songs>
・「Artificial Intelligence」
執拗なドモリングサンプリングが時代を感じさせる本作のリードチューン。どこかオリエンタルかつ攻撃的なメロディラインに、チープなシンセドラム&ハンドクラップ、そして惜しげもなく披露される犬の吠え声&人間ボイスサンプリング・・・新しいデバイスを積極的に利用しようとする姿勢が潔い楽曲です。
・「Norton Institute」
いかにもPCシーケンスっぽいマシナリーフレーズが目立つB面1曲目。まるで音色デモのように音数は少ないまでも自由奔放なフレーズが動き回ります。その中でアクセントとなるサンプルボイスもまさにデモのように鳴らしまくりです。
・「Bit Killed Hertz」
これも狂おしいほどのサンプリングで聴き手を惑わすラストナンバー。新しいおもちゃを手に入れた子供のように嬉々としてサンプラーを操作するDoris Nortonを想像すると微笑ましくすらあります。途中から入ってくるSuper SAWなシンセフレーズがカッコ良さを増幅させます。
<評点>
・サウンド ★★ (サンプラーの導入の仕方がなんとも大味)
・メロディ ★ (フレーズがすこぶる東洋的なのはRolandだから?)
・リズム ★★ (打ち込みのよるチープで執拗なリズムも大活躍)
・曲構成 ★ (実験音楽集なため同じようなサンプルデモ曲が並ぶ)
・個性 ★ (サンプラー導入も作風にはマンネリ感も漂う)
総合評点: 6点
Doris Norton:vocals・Roland MKS-10・Roland MKS-30・Roland MKS-50・Akai S612・Roland Jupiter-6・Roland Juno-106・computer programming

1.「Artificial Intelligence」 Doris Norton/Antonius Rex
2.「Machine Language」 Doris Norton/Antonius Rex
3.「Advanced Micro Music」 Doris Norton/Antonius Rex
4.「Sylicon Valley」 Doris Norton/Antonius Rex
5.「Juno 106 Software」 Doris Norton/Antonius Rex
6.「Norton Institute」 Doris Norton/Antonius Rex
7.「Norton Musik Research」 Doris Norton/Antonius Rex
8.「Oh Supermac」 Doris Norton/Antonius Rex
9.「Bit Killed Hertz」 Doris Norton/Antonius Rex
10.「JX-3P Software」 Doris Norton/Antonius Rex
produced by Musik Reserch
engineered by Antonius Rex・Rudy Luksch
● 遂にサンプリングも導入しRolandシンセをフィーチャーして新機軸を見せるイタリアン女性シンセマニアの5thアルバム
70年代より黒魔術信仰のシンフォニックプログレロックバンドAntonius Rexで活躍していたイタリア人シンセサイザープレイヤーDoris Nortonは、同バンド脱退後80年代からは自身のソロ活動に没頭することとなります。81年の「Raptus」を皮切りに、84年の「Personal Computer」まで4枚のアルバムを残してきましたが、彼女の作品は日本の気鋭の電子楽器メーカーRolandとまだ勃興期にあったベンチャーコンピューター会社Appleの公式的なサポートを得ながら、それらの電子アイテムを使用した実験的かつプログレッシブなエレクトリックミュージックを展開していました。そんな硬派な電子音クリエイターであった彼女が85年にリリースした作品が本作です。「Personal Computer」(傑作!)においてアナログシンセサウンドに集大成を見た彼女が、その先をサウンド面で見据えたのは、当然DCOシンセ&サンプラーサウンド。本作ではRoland MKSシリーズの音源モジュール群と8bitサンプラーの画期的な廉価版であったAkai S612を駆使したLo-FiサンプリングとDCOらしい痩せ気味のシンセ音が程よく絡み合った実験音楽集に仕上がっています。
まずはオープニングの新兵器サンプラーによる執拗なドモリングサウンドに圧倒されますが、基本はRoland特有のDCOオシレーターによる安定感のあるシンセサウンドによるシーケンスフレーズを駆使した実験風楽曲です。JUNO-106やJX-3Pの音色データをカセットテープにより交換するための信号を収録するなど、ほとんどRolandの販促デモのような内容ですが、肝心の楽曲はプログレ的な目まぐるしい展開と多彩な音色による自由に動き回るフレーズが支配するアグレッシブな作風で、その雑多で混沌としたエレクトリックミュージックにはサンプリングという新しい要素を導入したといっても全くブレがありません。しかしながらそのブレのなさがある種のマンネリ感を引き起こしている点も否めず、これまでのNortonサウンドとサンプリングサウンドとの融合はまだまだ発展途上にあると言わざるを得ないのも事実です。そこでNortonは同年間髪入れずに大々的にデジタル&サンプラーをフィーチャーしたアルバム「Automatic Feeling」で、Nortonサウンドの新機軸と集大成に挑んでいくことになります。
<Favorite Songs>
・「Artificial Intelligence」
執拗なドモリングサンプリングが時代を感じさせる本作のリードチューン。どこかオリエンタルかつ攻撃的なメロディラインに、チープなシンセドラム&ハンドクラップ、そして惜しげもなく披露される犬の吠え声&人間ボイスサンプリング・・・新しいデバイスを積極的に利用しようとする姿勢が潔い楽曲です。
・「Norton Institute」
いかにもPCシーケンスっぽいマシナリーフレーズが目立つB面1曲目。まるで音色デモのように音数は少ないまでも自由奔放なフレーズが動き回ります。その中でアクセントとなるサンプルボイスもまさにデモのように鳴らしまくりです。
・「Bit Killed Hertz」
これも狂おしいほどのサンプリングで聴き手を惑わすラストナンバー。新しいおもちゃを手に入れた子供のように嬉々としてサンプラーを操作するDoris Nortonを想像すると微笑ましくすらあります。途中から入ってくるSuper SAWなシンセフレーズがカッコ良さを増幅させます。
<評点>
・サウンド ★★ (サンプラーの導入の仕方がなんとも大味)
・メロディ ★ (フレーズがすこぶる東洋的なのはRolandだから?)
・リズム ★★ (打ち込みのよるチープで執拗なリズムも大活躍)
・曲構成 ★ (実験音楽集なため同じようなサンプルデモ曲が並ぶ)
・個性 ★ (サンプラー導入も作風にはマンネリ感も漂う)
総合評点: 6点
「Legionäre」 Michael Cretu
「Legionäre」(1983 Virgin)
Michael Cretu:vocals・all instruments

1.「Legionäre」 Michael Cretu/Harald Steinhauer
2.「Total Normal」 Michael Cretu/Mario Killer
3.「Spiel Auf Zeit」 Michael Cretu/Mario Killer
4.「Frau Aus Stein」 Michael Cretu/Mario Killer
5.「Goldene Jahre」 Michael Cretu
6.「Zeitlose Reise」 Michael Cretu/Mario Killer
7.「Data-Alpha-4」 Michael Cretu/Mario Killer
8.「Kaeawanen」 Michael Cretu
9.「Der Planet Der Verlorenen Zeit」 Michael Cretu/Mario Killer
<support musician>
Nilis Tuxen:guitar・sitar
produced by Michael Cretu
engineered by Michael Cretu
● いまや世界的な成功をおさめたルーマニア出身の敏腕プロデューサーが80年代に大胆なエレポップに挑戦した2ndアルバム
ニューエイジミュージックの分野では第一人者ともいえるドイツを拠点とする音楽プロジェクトとして90年代を席巻したEnigma。このグループの中心人物であるMichael Cretuはルーマニア出身のソロミュージシャンでデビューは1978年と古く、ルーマニアや西ドイツで正当な音楽教育を受けた彼は80年代のニューウェーブシーンにも敏感に反応し、79年リリースの1stアルバム「Moon, Light & Flowers」ではまだ電子楽器を取り入れたシンガーソングライターという印象であった彼は、エレポップ感覚を醸成させた上で83年に本作をリリースします。当時はまだまだ日本での知名度が低かった彼ですが、本作では打って変わったように強力なシンセサイザーサウンドにエレクトリックなリズムでサウンド面で大きな飛躍を見せ、持ち前のメロディセンスを控えめにしながらも当時先鋭的であった電子音POPSへの挑戦に嬉々として取り組んでいる様子が窺えます。
テクノポップ的な上下反復なシンセベースラインや、ボコーダーの多用、83年らしい派手になりつつあったエレドラ、これらシンセサイザーを中心とした電子楽器を熟知した派手なエレクトリックサウンドで楽曲を彩っていますが、彼は基本的にはシンガーソングライターで熱いヴォーカルも魅力的なメロディ志向の歌手です。本作では派手に暴れ回るエレクトリックチューンもありますが、どれもこれも歌謡曲的ないなたいメロディラインがフィーチャーされており、この特徴的なメロディがそのまま個性となっているとも言えるでしょう。それらはどこか日本的な雰囲気すら醸し出すくらいカラオケ文化にもなじみやすいフレーズが目立つもので、そのあたりが欧米POPSぽくない、独特の空気感を演出しているのではないでしょうか。実際、Michael Cretuは日本文化に興味があるらしく、プロデュースしたArabesqueのSandraのデビューシングルが「Japan ist weit」ですし、85年にはシングル「Samurai」が欧州で大ヒットするなど、日本分化からの影響はすくなからず受けていたのではないかと推察されます。本作は彼らのエレクトリックなサウンドメイカーとしての部分が強調された仕上がりとなっていますが、彼の先鋭的なサウンド感覚ははプロデューサーとしての地位を確立しつつ、Enigamaの成功へと繋がっていきます。
<Favorite Songs>
・「Spiel Auf Zeit」
エレドラリズムも跳ねまくるポップなサウンドのエレポップチューン。「オーオーオー」のコーラスやサビのメロディなどいなたさも見え隠れするものの、シンセソロも活躍、ベースラインも粋なフレーズで、ノリの良さを忘れない仕上がりです。
・「Frau Aus Stein」
アナログっぽいスペイシーな白玉パッドが印象的なミディアムバラード。当日としては強烈なスネアがインパクト十分です。熱いヴォーカルが目立つ楽曲で、それに負けず劣らずサウンドも曲が進むにつれてエレクトリックに派手になっていきます。
・「Data-Alpha-4」
本作において最も疾走する高速エレクトリックナンバー。攻めるエレドラ、ボコーダーによるエフェクティブなコーラス、相変わらずの上下反復ベースライン、本作におけるCretuサウンドの集大成とも言えるキレ抜群の楽曲です。ダークなサビのフレーズも実に良いです。
<評点>
・サウンド ★★★ (特にボコーダーの多用でスペイシー感UP)
・メロディ ★ (歌謡的ないなたさに好き嫌いが分かれるかも)
・リズム ★★ (当時としてはスネアの音処理にこだわっている)
・曲構成 ★ (起承転結がしっかりした構成ながら物足りなさも)
・個性 ★ (テクノ的な冷たさは感じられず本質は熱い歌手)
総合評点: 6点
Michael Cretu:vocals・all instruments

1.「Legionäre」 Michael Cretu/Harald Steinhauer
2.「Total Normal」 Michael Cretu/Mario Killer
3.「Spiel Auf Zeit」 Michael Cretu/Mario Killer
4.「Frau Aus Stein」 Michael Cretu/Mario Killer
5.「Goldene Jahre」 Michael Cretu
6.「Zeitlose Reise」 Michael Cretu/Mario Killer
7.「Data-Alpha-4」 Michael Cretu/Mario Killer
8.「Kaeawanen」 Michael Cretu
9.「Der Planet Der Verlorenen Zeit」 Michael Cretu/Mario Killer
<support musician>
Nilis Tuxen:guitar・sitar
produced by Michael Cretu
engineered by Michael Cretu
● いまや世界的な成功をおさめたルーマニア出身の敏腕プロデューサーが80年代に大胆なエレポップに挑戦した2ndアルバム
ニューエイジミュージックの分野では第一人者ともいえるドイツを拠点とする音楽プロジェクトとして90年代を席巻したEnigma。このグループの中心人物であるMichael Cretuはルーマニア出身のソロミュージシャンでデビューは1978年と古く、ルーマニアや西ドイツで正当な音楽教育を受けた彼は80年代のニューウェーブシーンにも敏感に反応し、79年リリースの1stアルバム「Moon, Light & Flowers」ではまだ電子楽器を取り入れたシンガーソングライターという印象であった彼は、エレポップ感覚を醸成させた上で83年に本作をリリースします。当時はまだまだ日本での知名度が低かった彼ですが、本作では打って変わったように強力なシンセサイザーサウンドにエレクトリックなリズムでサウンド面で大きな飛躍を見せ、持ち前のメロディセンスを控えめにしながらも当時先鋭的であった電子音POPSへの挑戦に嬉々として取り組んでいる様子が窺えます。
テクノポップ的な上下反復なシンセベースラインや、ボコーダーの多用、83年らしい派手になりつつあったエレドラ、これらシンセサイザーを中心とした電子楽器を熟知した派手なエレクトリックサウンドで楽曲を彩っていますが、彼は基本的にはシンガーソングライターで熱いヴォーカルも魅力的なメロディ志向の歌手です。本作では派手に暴れ回るエレクトリックチューンもありますが、どれもこれも歌謡曲的ないなたいメロディラインがフィーチャーされており、この特徴的なメロディがそのまま個性となっているとも言えるでしょう。それらはどこか日本的な雰囲気すら醸し出すくらいカラオケ文化にもなじみやすいフレーズが目立つもので、そのあたりが欧米POPSぽくない、独特の空気感を演出しているのではないでしょうか。実際、Michael Cretuは日本文化に興味があるらしく、プロデュースしたArabesqueのSandraのデビューシングルが「Japan ist weit」ですし、85年にはシングル「Samurai」が欧州で大ヒットするなど、日本分化からの影響はすくなからず受けていたのではないかと推察されます。本作は彼らのエレクトリックなサウンドメイカーとしての部分が強調された仕上がりとなっていますが、彼の先鋭的なサウンド感覚ははプロデューサーとしての地位を確立しつつ、Enigamaの成功へと繋がっていきます。
<Favorite Songs>
・「Spiel Auf Zeit」
エレドラリズムも跳ねまくるポップなサウンドのエレポップチューン。「オーオーオー」のコーラスやサビのメロディなどいなたさも見え隠れするものの、シンセソロも活躍、ベースラインも粋なフレーズで、ノリの良さを忘れない仕上がりです。
・「Frau Aus Stein」
アナログっぽいスペイシーな白玉パッドが印象的なミディアムバラード。当日としては強烈なスネアがインパクト十分です。熱いヴォーカルが目立つ楽曲で、それに負けず劣らずサウンドも曲が進むにつれてエレクトリックに派手になっていきます。
・「Data-Alpha-4」
本作において最も疾走する高速エレクトリックナンバー。攻めるエレドラ、ボコーダーによるエフェクティブなコーラス、相変わらずの上下反復ベースライン、本作におけるCretuサウンドの集大成とも言えるキレ抜群の楽曲です。ダークなサビのフレーズも実に良いです。
<評点>
・サウンド ★★★ (特にボコーダーの多用でスペイシー感UP)
・メロディ ★ (歌謡的ないなたさに好き嫌いが分かれるかも)
・リズム ★★ (当時としてはスネアの音処理にこだわっている)
・曲構成 ★ (起承転結がしっかりした構成ながら物足りなさも)
・個性 ★ (テクノ的な冷たさは感じられず本質は熱い歌手)
総合評点: 6点
「グレイテスト・アイドル」 Mitchie_M feat.初音ミク
「グレイテスト・アイドル」 (2013 ソニー)
Mitchie_M:all instruments・初音ミク・巡音ルカ・鏡音リン・鏡音レン・KAITO・MEIKO

1.「FREELY TOMORROW」 詞:ЯIRE・Mitchie_M 曲・編:Mitchie_M
2.「アゲアゲアゲイン」 詞・曲・編:Mitchie_M
3.「愛Dee」 詞:Cotori・Mitchie_M 曲・編:Mitchie_M
4.「ビバハピ」 詞・曲・編:Mitchie_M
5.「Bye Bye Blue Memory」 詞・曲・編:Mitchie_M
6.「Aizu〜会津〜」 詞・曲・編:Mitchie_M
7.「イージーデンス」 詞:ЯIRE 曲・編:Mitchie_M
8.「悲しみは愛情のように」 詞・曲・編:Mitchie_M
9.「短気呑気男子」 詞・曲・編:Mitchie_M
10.「アイドルを咲かせ」 詞・曲・編:Mitchie_M
11.「Believe (ver.HD)」 詞・曲:田辺智沙 編:Mitchie_M
12.「シティー・ボーイ」 詞・曲:中嶋一徳 編:Mitchie_M
13.「Birthday Song for ミク」 詞・曲・編:Mitchie_M
produced by 田中靖浩・岩永裕史
mixing engineered by Mitchie_M
● ボーカロイドの神懸かり的な調声以上に多彩な音楽性とキャッチーなポップセンスが魅力的な才気溢れるクリエイターが放つ現代の名盤
声を楽器として使用することができるサンプラーの登場から20年余り経過し、00年代になると遂に「歌」を(しかも日本語で)プログラミングできるボーカロイド技術が開発され、DTMソフトとしての供給と親しみやすいイメージキャラクター戦略も相まってDTM世代に急速に普及し始め、動画サイトによるお手軽な作品公開の場が作られたことによる盛り上がりから、一大ムーブメントを起こすと共に隠れた才能を秘めていたクリエイターも表舞台に登場することになりました。Mitchie_Mもその1人だと思われがちですが、彼はもともと塚田道雄〜Mitchie Michell名義で既に作編曲家活動を行っていたプロクリエイターで、インディーズテクノポップアイドルCutie Paiの名曲「SIGNAL」「テクノ*ドール」の凄まじいエディットを駆使したアレンジを聴いてみてもわかるとおり、知る人ぞ知る類稀なセンスを持ち合わせているアーティストでした。にもかかわらず表舞台に出てくるタイミングを逸していた彼が新たな武器としたのがボーカロイド「初音ミク」で、しかも一連のボーカロイドが弱点としていた調声の拙さ(特に高音になると途端に機械っぽさが表面化する)を緻密に研究を重ねた結果編み出した調声技術で見事にカバーし、「人間のように歌うボカロ」という触れ込みで動画サイトで公開された「FREELY TOMORROW」が大ヒット、その後も「愛Dee」「ビバハピ」などキャッチーでポップなエレクトロPOPSを人間のように歌わせる楽曲が話題となったことで、遂にメジャーレコード会社からアルバムがリリースされることになったというわけです。
その「神調教」と呼ばれる調整技術ばかりが注目されるMitchie_Mですが、彼の楽曲の魅力はボカロを使用していると思わせないほどの圧倒的なサウンドメイキングと起承転結をはっきりさせた優れたメロディセンスにあります。全編プログラミングながらシンセ音色にもこだわりを感じるほど音の滲ませ方の質が高いです。特にベースフレーズの細部にわたったプログラミングのセンスが抜きん出ています。また、とにかくギミックの引き出しが多彩で、さまざまなタイプの楽曲にもリズム・フレーズ・歌メロ等それぞれにエフェクトやサンプラー、波形エディット等を駆使したいわゆる「オカズ」をこれでもかと繰り出して、楽曲に彩りを加えています。そして、なんといってもクリエイターとしてのセンスを感じるのがしっかりしたメロディの構築力で、電波曲でもダンスチューンでもバラード曲であってもフレーズとコード進行1つ1つが印象深く、初聴でも覚えやすいサビのメロディラインは80年代〜90年代を通過してきたMitchie_Mの豊富な音楽体験の賜物であると言えるでしょう。またプロクリエイターだからといってエレクトロニカやクラシック等のように妙に芸術肌に走るわけでもなく、しっかり(エレクトリック)POPSのフィールドで勝負しているのも非常に好印象です。本作を聴けばもはやボーカロイドを使用していることさえ忘れてしまうほどの楽曲のレベルの高さが味わえるので、逆に初音ミクを強調するようなジャケがない方が十分に本作が正当な評価を得られたと思いますし、そう考えると先入観というものは非常にもったいないと感じさせる作品でもあります。ボーカロイドとか関係なくただ単純にTECHNOLOGY POPS的にクオリティが抜群に高い作品であることに間違いないのですから。
<Favorite Songs>
・「愛Dee」
ボカロ「巡音ルカ」に流暢に英語をラップさせた技術で話題となったファンキーディスコチューン。軽快なスラップのフレーズとシンセベースの混ぜ合わせたフレーズが絶妙です。随所でリズムにギミックを加えながらサビはなんともキャッチーで、しっかり売れ線まで意識させるという職人芸に脱帽です。
・「ビバハピ」
エレクトリックギミックポップのやり過ぎ感がたまらないハイパーポップチューン。とにかく音とフレーズの散りばめ方というかぶっこみ具合が尋常でなく、アシッドテクノからチップチューンまでエレクトリカルなおいしいとこどりの電波ソングに仕上げています。
・「短気呑気男子」
ビュンビュン飛び交う電子音とピコピコシーケンス、ジャストなPCMっぽいリズムに80'sを感じさせるエレクトロナンバー。イントロのスクラッチなどもまさに80年代中期のNYファンクあたりを意識したギミックで、そんな懐かしさも現代的に料理する技を兼ね備えています。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (ボカロ技術やシンセ音色等こだわり方が尋常でない)
・メロディ ★★★★ (サウンド過多でありながら実に覚えやすいメロディ)
・リズム ★★★★ (ベース&ドラムは特に緻密な分析力を感じる)
・曲構成 ★★★★★ (楽曲的な引き出しの多さにも嫌みのない統一感)
・個性 ★★★★★ (ボカロが人間のように歌っているだけでも画期的)
総合評点: 10点
Mitchie_M:all instruments・初音ミク・巡音ルカ・鏡音リン・鏡音レン・KAITO・MEIKO

1.「FREELY TOMORROW」 詞:ЯIRE・Mitchie_M 曲・編:Mitchie_M
2.「アゲアゲアゲイン」 詞・曲・編:Mitchie_M
3.「愛Dee」 詞:Cotori・Mitchie_M 曲・編:Mitchie_M
4.「ビバハピ」 詞・曲・編:Mitchie_M
5.「Bye Bye Blue Memory」 詞・曲・編:Mitchie_M
6.「Aizu〜会津〜」 詞・曲・編:Mitchie_M
7.「イージーデンス」 詞:ЯIRE 曲・編:Mitchie_M
8.「悲しみは愛情のように」 詞・曲・編:Mitchie_M
9.「短気呑気男子」 詞・曲・編:Mitchie_M
10.「アイドルを咲かせ」 詞・曲・編:Mitchie_M
11.「Believe (ver.HD)」 詞・曲:田辺智沙 編:Mitchie_M
12.「シティー・ボーイ」 詞・曲:中嶋一徳 編:Mitchie_M
13.「Birthday Song for ミク」 詞・曲・編:Mitchie_M
produced by 田中靖浩・岩永裕史
mixing engineered by Mitchie_M
● ボーカロイドの神懸かり的な調声以上に多彩な音楽性とキャッチーなポップセンスが魅力的な才気溢れるクリエイターが放つ現代の名盤
声を楽器として使用することができるサンプラーの登場から20年余り経過し、00年代になると遂に「歌」を(しかも日本語で)プログラミングできるボーカロイド技術が開発され、DTMソフトとしての供給と親しみやすいイメージキャラクター戦略も相まってDTM世代に急速に普及し始め、動画サイトによるお手軽な作品公開の場が作られたことによる盛り上がりから、一大ムーブメントを起こすと共に隠れた才能を秘めていたクリエイターも表舞台に登場することになりました。Mitchie_Mもその1人だと思われがちですが、彼はもともと塚田道雄〜Mitchie Michell名義で既に作編曲家活動を行っていたプロクリエイターで、インディーズテクノポップアイドルCutie Paiの名曲「SIGNAL」「テクノ*ドール」の凄まじいエディットを駆使したアレンジを聴いてみてもわかるとおり、知る人ぞ知る類稀なセンスを持ち合わせているアーティストでした。にもかかわらず表舞台に出てくるタイミングを逸していた彼が新たな武器としたのがボーカロイド「初音ミク」で、しかも一連のボーカロイドが弱点としていた調声の拙さ(特に高音になると途端に機械っぽさが表面化する)を緻密に研究を重ねた結果編み出した調声技術で見事にカバーし、「人間のように歌うボカロ」という触れ込みで動画サイトで公開された「FREELY TOMORROW」が大ヒット、その後も「愛Dee」「ビバハピ」などキャッチーでポップなエレクトロPOPSを人間のように歌わせる楽曲が話題となったことで、遂にメジャーレコード会社からアルバムがリリースされることになったというわけです。
その「神調教」と呼ばれる調整技術ばかりが注目されるMitchie_Mですが、彼の楽曲の魅力はボカロを使用していると思わせないほどの圧倒的なサウンドメイキングと起承転結をはっきりさせた優れたメロディセンスにあります。全編プログラミングながらシンセ音色にもこだわりを感じるほど音の滲ませ方の質が高いです。特にベースフレーズの細部にわたったプログラミングのセンスが抜きん出ています。また、とにかくギミックの引き出しが多彩で、さまざまなタイプの楽曲にもリズム・フレーズ・歌メロ等それぞれにエフェクトやサンプラー、波形エディット等を駆使したいわゆる「オカズ」をこれでもかと繰り出して、楽曲に彩りを加えています。そして、なんといってもクリエイターとしてのセンスを感じるのがしっかりしたメロディの構築力で、電波曲でもダンスチューンでもバラード曲であってもフレーズとコード進行1つ1つが印象深く、初聴でも覚えやすいサビのメロディラインは80年代〜90年代を通過してきたMitchie_Mの豊富な音楽体験の賜物であると言えるでしょう。またプロクリエイターだからといってエレクトロニカやクラシック等のように妙に芸術肌に走るわけでもなく、しっかり(エレクトリック)POPSのフィールドで勝負しているのも非常に好印象です。本作を聴けばもはやボーカロイドを使用していることさえ忘れてしまうほどの楽曲のレベルの高さが味わえるので、逆に初音ミクを強調するようなジャケがない方が十分に本作が正当な評価を得られたと思いますし、そう考えると先入観というものは非常にもったいないと感じさせる作品でもあります。ボーカロイドとか関係なくただ単純にTECHNOLOGY POPS的にクオリティが抜群に高い作品であることに間違いないのですから。
<Favorite Songs>
・「愛Dee」
ボカロ「巡音ルカ」に流暢に英語をラップさせた技術で話題となったファンキーディスコチューン。軽快なスラップのフレーズとシンセベースの混ぜ合わせたフレーズが絶妙です。随所でリズムにギミックを加えながらサビはなんともキャッチーで、しっかり売れ線まで意識させるという職人芸に脱帽です。
・「ビバハピ」
エレクトリックギミックポップのやり過ぎ感がたまらないハイパーポップチューン。とにかく音とフレーズの散りばめ方というかぶっこみ具合が尋常でなく、アシッドテクノからチップチューンまでエレクトリカルなおいしいとこどりの電波ソングに仕上げています。
・「短気呑気男子」
ビュンビュン飛び交う電子音とピコピコシーケンス、ジャストなPCMっぽいリズムに80'sを感じさせるエレクトロナンバー。イントロのスクラッチなどもまさに80年代中期のNYファンクあたりを意識したギミックで、そんな懐かしさも現代的に料理する技を兼ね備えています。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (ボカロ技術やシンセ音色等こだわり方が尋常でない)
・メロディ ★★★★ (サウンド過多でありながら実に覚えやすいメロディ)
・リズム ★★★★ (ベース&ドラムは特に緻密な分析力を感じる)
・曲構成 ★★★★★ (楽曲的な引き出しの多さにも嫌みのない統一感)
・個性 ★★★★★ (ボカロが人間のように歌っているだけでも画期的)
総合評点: 10点
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