「KEY OF GOLD」 小幡洋子
「KEY OF GOLD」(1986 徳間ジャパン)
小幡洋子:vocal・chorus
1.「Don’t Look Back」 詞:道正千絵 曲:須貝章生 編:鈴木智文・中原信雄
2.「Rock’n Roll Dreamer」 詞・曲:YOCO 編:鈴木智文・中原信雄
3.「Spin On〜自分に優しくしない〜」
詞:松本一起 曲:小田裕一郎 編:鈴木智文・中原信雄
4.「ブレスの放課後」 詞:あさくらせいら 曲:八田雅弘 編:鈴木智文・中原信雄
5.「I’m a Girl」 詞:戸沢暢美 曲:佐藤宣彦 編:鈴木智文・中原信雄
6.「Keep on Try」 詞:戸沢暢美 曲:鈴木キサブロー 編:鈴木智文・中原信雄
7.「Silent Love」 詞・曲:井上龍仁 編:鈴木智文・中原信雄
8.「Time is Up」 詞:秋本奈緒美 曲:羽田一郎 編:鈴木智文・中原信雄
9.「自分だけのLittle Friend」 詞:紗哩南 曲:鈴木智文 編:鈴木智文・中原信雄
10.「Key of Gold」 詞:YOCO 曲:井上龍仁 編:鈴木智文・中原信雄
<support musician>
鈴木智文:guitar・keyboards
月光恵亮:guitar
中原信雄:bass・keyboards
門倉聡:keyboards
本田雅人:sax・chorus
Fighting Voicers:chorus
辻伸夫:synthesizer programming
produced by 月光恵亮
sound produced by 鈴木智文・中原信雄
mixing engineered by 池田秀明
recording engineered by 池田秀明・森山恭行・小泉雅裕
● 自我が芽生えたアイドルが曲者サウンドチームに委ねてロックシンガーへの第一歩を踏み出した意欲作
1985年アニメ「魔法のスターマジカルエミ」の主役に抜擢され、主題歌「不思議色ハピネス」でデビューを果たした小幡洋子は、翌86年にはジブリアニメ映画「天空の城ラピュタ」のイメージソング「もしも空を飛べたら」をリリースするなど、初期はタイアップと良質な楽曲に恵まれたアイドル歌手という立ち位置でしたが、本人の志向はロック色の強いもので、コンサートにおいてもそれゆえの熱さを感じさせるもので、1stアルバムに続く作品がライブアルバムという徹底した背伸び系アイドルロック的な戦略ということもあり、徐々にデビュー当時のハツラツとしたアイドル性は影を潜めていきます。その路線転向は早く、同年には早速初期ビーイングの共同創立者である月光恵亮をプロデューサーに迎え、脱アイドルを目指したロックな2ndアルバムをリリースすることになります。これが本作というわけですが、実はロックといいながらサウンド面においてはプログラミングが多用されたデジタルPOPSの範疇に入る、当事者達の意図とは少しずれたようなある意味「おいしい」作品となっています。
本作のサウンドプロデューサーを務めたのは、同じレコード会社のよしみかどうかはわかりませんが、なんと鈴木智文&中原信雄のPortable Rockです。FILMSやPRICEなどニューウェーブ直系の彼らならではのデジタルサウンドが思う存分展開されています。80年代中期特有の加工されまくったドラム、サンプリング音をふんだんに使用したギミック満載のリズムトラック、ゴリゴリした質感のデジタルシンセ・・・プログラマーもPortable Rockで仕事を共にする辻伸夫が起用されているため、完全に「Tu Tu」〜「Dance Volunteer」の過渡期ともいえる実験的サウンドに終始しています。前述のようにやはり特徴的なのはそのリズムトラックで、全編打ち込み、硬質なPCM&サンプリング音色が全体の印象をバキバキのデジタルPOPSに染めてしまっていますが、楽曲の構成そのものはロックの形態を模しているため、結果的にニューウェーブにもロックにも偏らない絶妙なバランスで成立してしまっているのが、本作の中途半端の部分でもあり個性的な部分でもあると言えるかもしれません。本作後には自身のバンドLOOK OUTを引っさげて本格的にバンド活動に傾倒していく小幡洋子ですが、こうしたアイドルとしてデビューした歌手が自意識を展開する足がかりとなる過渡期的作品には、意外とニューウェーブな作品が生まれてくることがあるわけで、そういう意味では本作は典型的なパターンであると言えるのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「Rock’n Roll Dreamer」
ボイスサンプルと同期させたスネアドラムやその他サンプラー大活躍のギミックにより、ロックというよりニューウェーブ臭が非常に強いナンバー。サビのいなたいポルタメントのシンセも雰囲気出ています。
・「ブレスの放課後」
複雑かつメタリックな質感の音質が絡み合う独特のリズムワークが特徴の楽曲。シンプルなフレーズで音の隙間を作り出すアレンジながら、リズム重視で構築されたサウンドは本作の中でもより実験的要素の強いストレンジ楽曲と言えるでしょう。
・「Time is Up」
ロックな曲調が多い本作の中で、歌謡曲の匂いが強い女優・秋本奈緒美作詞のミディアムチューン。キレの良いリズムトラックに哀愁を漂わせるメロディライン、シンセベースとシンセブラスの絡み合いはまさにエレポップ仕様の何物でもない、いかにも80'sを味わえる作風です。
<評点>
・サウンド ★★★ (とにかくサンプラーをこれでもかと多用する実験場)
・メロディ ★ (ややサウンド志向でフレーズには驚きが少ない)
・リズム ★★★ (電子的に加工するスネアの響きでメリハリが)
・曲構成 ★ (バラードなしで乗り切る構成は潔いが、少し地味?)
・個性 ★ (過渡期なのでいまだ立ち位置は中途半端に終始)
総合評点: 7点
小幡洋子:vocal・chorus
1.「Don’t Look Back」 詞:道正千絵 曲:須貝章生 編:鈴木智文・中原信雄
2.「Rock’n Roll Dreamer」 詞・曲:YOCO 編:鈴木智文・中原信雄
3.「Spin On〜自分に優しくしない〜」
詞:松本一起 曲:小田裕一郎 編:鈴木智文・中原信雄
4.「ブレスの放課後」 詞:あさくらせいら 曲:八田雅弘 編:鈴木智文・中原信雄
5.「I’m a Girl」 詞:戸沢暢美 曲:佐藤宣彦 編:鈴木智文・中原信雄
6.「Keep on Try」 詞:戸沢暢美 曲:鈴木キサブロー 編:鈴木智文・中原信雄
7.「Silent Love」 詞・曲:井上龍仁 編:鈴木智文・中原信雄
8.「Time is Up」 詞:秋本奈緒美 曲:羽田一郎 編:鈴木智文・中原信雄
9.「自分だけのLittle Friend」 詞:紗哩南 曲:鈴木智文 編:鈴木智文・中原信雄
10.「Key of Gold」 詞:YOCO 曲:井上龍仁 編:鈴木智文・中原信雄
<support musician>
鈴木智文:guitar・keyboards
月光恵亮:guitar
中原信雄:bass・keyboards
門倉聡:keyboards
本田雅人:sax・chorus
Fighting Voicers:chorus
辻伸夫:synthesizer programming
produced by 月光恵亮
sound produced by 鈴木智文・中原信雄
mixing engineered by 池田秀明
recording engineered by 池田秀明・森山恭行・小泉雅裕
● 自我が芽生えたアイドルが曲者サウンドチームに委ねてロックシンガーへの第一歩を踏み出した意欲作
1985年アニメ「魔法のスターマジカルエミ」の主役に抜擢され、主題歌「不思議色ハピネス」でデビューを果たした小幡洋子は、翌86年にはジブリアニメ映画「天空の城ラピュタ」のイメージソング「もしも空を飛べたら」をリリースするなど、初期はタイアップと良質な楽曲に恵まれたアイドル歌手という立ち位置でしたが、本人の志向はロック色の強いもので、コンサートにおいてもそれゆえの熱さを感じさせるもので、1stアルバムに続く作品がライブアルバムという徹底した背伸び系アイドルロック的な戦略ということもあり、徐々にデビュー当時のハツラツとしたアイドル性は影を潜めていきます。その路線転向は早く、同年には早速初期ビーイングの共同創立者である月光恵亮をプロデューサーに迎え、脱アイドルを目指したロックな2ndアルバムをリリースすることになります。これが本作というわけですが、実はロックといいながらサウンド面においてはプログラミングが多用されたデジタルPOPSの範疇に入る、当事者達の意図とは少しずれたようなある意味「おいしい」作品となっています。
本作のサウンドプロデューサーを務めたのは、同じレコード会社のよしみかどうかはわかりませんが、なんと鈴木智文&中原信雄のPortable Rockです。FILMSやPRICEなどニューウェーブ直系の彼らならではのデジタルサウンドが思う存分展開されています。80年代中期特有の加工されまくったドラム、サンプリング音をふんだんに使用したギミック満載のリズムトラック、ゴリゴリした質感のデジタルシンセ・・・プログラマーもPortable Rockで仕事を共にする辻伸夫が起用されているため、完全に「Tu Tu」〜「Dance Volunteer」の過渡期ともいえる実験的サウンドに終始しています。前述のようにやはり特徴的なのはそのリズムトラックで、全編打ち込み、硬質なPCM&サンプリング音色が全体の印象をバキバキのデジタルPOPSに染めてしまっていますが、楽曲の構成そのものはロックの形態を模しているため、結果的にニューウェーブにもロックにも偏らない絶妙なバランスで成立してしまっているのが、本作の中途半端の部分でもあり個性的な部分でもあると言えるかもしれません。本作後には自身のバンドLOOK OUTを引っさげて本格的にバンド活動に傾倒していく小幡洋子ですが、こうしたアイドルとしてデビューした歌手が自意識を展開する足がかりとなる過渡期的作品には、意外とニューウェーブな作品が生まれてくることがあるわけで、そういう意味では本作は典型的なパターンであると言えるのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「Rock’n Roll Dreamer」
ボイスサンプルと同期させたスネアドラムやその他サンプラー大活躍のギミックにより、ロックというよりニューウェーブ臭が非常に強いナンバー。サビのいなたいポルタメントのシンセも雰囲気出ています。
・「ブレスの放課後」
複雑かつメタリックな質感の音質が絡み合う独特のリズムワークが特徴の楽曲。シンプルなフレーズで音の隙間を作り出すアレンジながら、リズム重視で構築されたサウンドは本作の中でもより実験的要素の強いストレンジ楽曲と言えるでしょう。
・「Time is Up」
ロックな曲調が多い本作の中で、歌謡曲の匂いが強い女優・秋本奈緒美作詞のミディアムチューン。キレの良いリズムトラックに哀愁を漂わせるメロディライン、シンセベースとシンセブラスの絡み合いはまさにエレポップ仕様の何物でもない、いかにも80'sを味わえる作風です。
<評点>
・サウンド ★★★ (とにかくサンプラーをこれでもかと多用する実験場)
・メロディ ★ (ややサウンド志向でフレーズには驚きが少ない)
・リズム ★★★ (電子的に加工するスネアの響きでメリハリが)
・曲構成 ★ (バラードなしで乗り切る構成は潔いが、少し地味?)
・個性 ★ (過渡期なのでいまだ立ち位置は中途半端に終始)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「VOICES〜to your heart〜」 渡辺信平
「VOICES〜to your heart〜」 (1990 バップ)
渡辺信平:vocal・all instruments・background vocals
1.「RED SHOES」 詞:栃内淳 曲・編:渡辺信平
2.「太陽の海岸」 詞:南湘一 曲・編:渡辺信平
3.「BEYOND THE TIME」 詞:戸沢暢美 曲・編:渡辺信平
4.「LEAVES IN THE WIND」 詞:南湘一 曲・編:渡辺信平
5.「想い出にあきたら」 詞:柳川英己 曲・編:渡辺信平
6.「LIFE」 詞:K.INOJO 曲・編:渡辺信平
7.「CANDLE OF THE MILLION」 詞:WATARU 曲・編:渡辺信平
8.「AGNUS・DE・I II」
詞:MISSA”BREVIS” 曲:Giovanni Pierlvigi Da Palestrina 編:渡辺信平
9.「終らないクリスマス」 詞:S-WORDS 曲・編:渡辺信平
10.「SACRED MOMENT」 詞・曲・編:渡辺信平
produced by 喜多一郎
mixing engineered by 矢野真一
recording engineered by 矢野真一・森元浩二
● トラックメイクから多重コーラスまでこなす山下達郎タイプのマルチシンガーが放つデジタルリゾートPOPS作品
80年代末より鈴木トオルや鈴木聖美、Qlair等品のあるメロディメイカーとして多数の楽曲を提供してきた渡辺信平が、遅れてきたリゾートポップシンガーとしてソロデビューを果たしたのが1990年。三十路に差しかかってのデビューという遅咲きシンガーソングライターでしたが、彼は作曲のみならず編曲も手掛け、さらにプログラミングから多重コーラスまでこなすマルチぶりでその才能は早くから評価されてきました。ニューミュージックなシーンが下火になってしまった時期のデビューということもあって遅きに失した感もありましたが、2ndシングル「よりかかって Only You」がトレンディドラマ主題歌のタイアップに成功、一躍その名を知られることになり、その後4枚のアルバムを残していくことになります。そんな渡辺信平のデビューアルバムである本作は、潔くリゾート全開に振り切った爽やかさに満ちたポップソング満載の秀作となっています。
さて、彼の武器は何といっても自ら多重録音で重ね合わせた重厚なコーラスワークです。自身で作編曲をこなし、コーラスも何十トラックも重ねるこだわりは、実に山下達郎を彷佛とさせますが、彼は全編キーボード&プログラミングでサウンドを構成してくるため、よりデジタル感が強い音となり、そのキラキラ感は達郎以上です。鼻にかかったクセのある声質という部分もまさにデジタル達郎、もしくはオシャレな楠瀬誠志郎という解釈でよいかと思います(豪華ミュージシャンによる音の完成度と達郎ヴォーカルのねちっこさにはかないませんが)。アップテンポのナンバーでもバラードでもきらびやかで、ミサ曲を取り上げるなどウィットにも富み、トレンディなプログラマブルサウンドとイケメンな多重コーラスは不変で、既に本作において渡辺信平サウンドはほぼ完成されていることがわかりますが、その余りの眩し過ぎるオシャレなキラキラサウンドに食傷気味となるかもしれません。前述のようにこのオシャレサウンドが高じてドラマタイアップを勝ち取るわけですが、やはり4枚のアルバムリリースが限界だったようで、90年代半ばで表舞台からは消えてしまいました。才能のあるメロディメイカー&マルチプレイヤーだったと思いますので、このシティポップ再評価の時期にあってもっと取り上げていただきたいアーティストの1人です。
<Favorite Songs>
・「RED SHOES」
Roland D-50のあの音色をふんだんに使ったイントロが印象的なオープニングナンバー。小粋なシンセベースとグリッサンドを多用したオルガン音色、達郎っぽい音の壁を作るコーラスワーク、全編打ち込みで仕立て上げる大胆な楽曲です。
・「太陽の海岸」
前曲に引き続きリゾート満開のデジタルシティポップ。本作中随一ともいえるキラーチューンで、タイアップされてもおかしくないほどのサビメロの訴求力は抜群です。スピード感溢れる攻撃的なシンセベースにお得意のヴォーカル力を生かしたコーラスワークが包み込む、オシャレな楽曲です。
・「CANDLE OF THE MILLION」
Prefab Sprout「Knock On Wood」からインスパイアされたようなイントロに笑ってしまう英語曲。シンプルな打ち込みサウンドだからこそヴォーカルのエフェクトやコーラスワークの妙が目立つ構成になっています。
<評点>
・サウンド ★★ (打ち込み中心だがコーラスの壁で暖かみをプラス)
・メロディ ★★ (特にバラード曲においてメロディセンスを発揮)
・リズム ★ (全編打ち込みで単調になってしまうきらいも)
・曲構成 ★ (全体的にメロディ志向で派手さは少なく)
・個性 ★ (旬の過ぎたタイプでデビューするのが遅かったか)
総合評点: 6点
渡辺信平:vocal・all instruments・background vocals
1.「RED SHOES」 詞:栃内淳 曲・編:渡辺信平
2.「太陽の海岸」 詞:南湘一 曲・編:渡辺信平
3.「BEYOND THE TIME」 詞:戸沢暢美 曲・編:渡辺信平
4.「LEAVES IN THE WIND」 詞:南湘一 曲・編:渡辺信平
5.「想い出にあきたら」 詞:柳川英己 曲・編:渡辺信平
6.「LIFE」 詞:K.INOJO 曲・編:渡辺信平
7.「CANDLE OF THE MILLION」 詞:WATARU 曲・編:渡辺信平
8.「AGNUS・DE・I II」
詞:MISSA”BREVIS” 曲:Giovanni Pierlvigi Da Palestrina 編:渡辺信平
9.「終らないクリスマス」 詞:S-WORDS 曲・編:渡辺信平
10.「SACRED MOMENT」 詞・曲・編:渡辺信平
produced by 喜多一郎
mixing engineered by 矢野真一
recording engineered by 矢野真一・森元浩二
● トラックメイクから多重コーラスまでこなす山下達郎タイプのマルチシンガーが放つデジタルリゾートPOPS作品
80年代末より鈴木トオルや鈴木聖美、Qlair等品のあるメロディメイカーとして多数の楽曲を提供してきた渡辺信平が、遅れてきたリゾートポップシンガーとしてソロデビューを果たしたのが1990年。三十路に差しかかってのデビューという遅咲きシンガーソングライターでしたが、彼は作曲のみならず編曲も手掛け、さらにプログラミングから多重コーラスまでこなすマルチぶりでその才能は早くから評価されてきました。ニューミュージックなシーンが下火になってしまった時期のデビューということもあって遅きに失した感もありましたが、2ndシングル「よりかかって Only You」がトレンディドラマ主題歌のタイアップに成功、一躍その名を知られることになり、その後4枚のアルバムを残していくことになります。そんな渡辺信平のデビューアルバムである本作は、潔くリゾート全開に振り切った爽やかさに満ちたポップソング満載の秀作となっています。
さて、彼の武器は何といっても自ら多重録音で重ね合わせた重厚なコーラスワークです。自身で作編曲をこなし、コーラスも何十トラックも重ねるこだわりは、実に山下達郎を彷佛とさせますが、彼は全編キーボード&プログラミングでサウンドを構成してくるため、よりデジタル感が強い音となり、そのキラキラ感は達郎以上です。鼻にかかったクセのある声質という部分もまさにデジタル達郎、もしくはオシャレな楠瀬誠志郎という解釈でよいかと思います(豪華ミュージシャンによる音の完成度と達郎ヴォーカルのねちっこさにはかないませんが)。アップテンポのナンバーでもバラードでもきらびやかで、ミサ曲を取り上げるなどウィットにも富み、トレンディなプログラマブルサウンドとイケメンな多重コーラスは不変で、既に本作において渡辺信平サウンドはほぼ完成されていることがわかりますが、その余りの眩し過ぎるオシャレなキラキラサウンドに食傷気味となるかもしれません。前述のようにこのオシャレサウンドが高じてドラマタイアップを勝ち取るわけですが、やはり4枚のアルバムリリースが限界だったようで、90年代半ばで表舞台からは消えてしまいました。才能のあるメロディメイカー&マルチプレイヤーだったと思いますので、このシティポップ再評価の時期にあってもっと取り上げていただきたいアーティストの1人です。
<Favorite Songs>
・「RED SHOES」
Roland D-50のあの音色をふんだんに使ったイントロが印象的なオープニングナンバー。小粋なシンセベースとグリッサンドを多用したオルガン音色、達郎っぽい音の壁を作るコーラスワーク、全編打ち込みで仕立て上げる大胆な楽曲です。
・「太陽の海岸」
前曲に引き続きリゾート満開のデジタルシティポップ。本作中随一ともいえるキラーチューンで、タイアップされてもおかしくないほどのサビメロの訴求力は抜群です。スピード感溢れる攻撃的なシンセベースにお得意のヴォーカル力を生かしたコーラスワークが包み込む、オシャレな楽曲です。
・「CANDLE OF THE MILLION」
Prefab Sprout「Knock On Wood」からインスパイアされたようなイントロに笑ってしまう英語曲。シンプルな打ち込みサウンドだからこそヴォーカルのエフェクトやコーラスワークの妙が目立つ構成になっています。
<評点>
・サウンド ★★ (打ち込み中心だがコーラスの壁で暖かみをプラス)
・メロディ ★★ (特にバラード曲においてメロディセンスを発揮)
・リズム ★ (全編打ち込みで単調になってしまうきらいも)
・曲構成 ★ (全体的にメロディ志向で派手さは少なく)
・個性 ★ (旬の過ぎたタイプでデビューするのが遅かったか)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「O」 島みやえい子
「O」(2006 ジェネオン)
島みやえい子:vocal
1.「O」 詞・曲:島みやえい子 編:高瀬一矢
2.「笑顔をみせて」 詞・曲:島みやえい子 編:中沢伴行
3.「カーネリアンの奏でる夢」 詞・曲:島みやえい子 編:藤田淳平
4.「胸のクロス」 詞・曲:島みやえい子 編:井内舞子
5.「求道の人-remix-」 詞・曲:島みやえい子 編:高瀬一矢
6.「太陽」 詞・曲:島みやえい子 編:SORMA No.1
7.「I need you」 詞・曲:島みやえい子 編:高瀬一矢
8.「宇宙のまほろば」 詞:若月佑輝郎 曲:島みやえい子 編:SORMA No.1
9.「銀河の子」 詞・曲:島みやえい子 編:C.G mix
10.「Recovery」 詞・曲:島みやえい子 編:一色由比
11.「ひぐらしのなく頃に」 詞:島みやえい子 曲:中沢伴行 編:中沢伴行・高瀬一矢
12.「どこにも無い道」 詞・曲:島みやえい子 編:井内舞子
<support musician>
C.G mix:all instruments・computer programming
SORMA No.1:all instruments・computer programming
井内舞子:all instruments・computer programming
一色由比:all instruments・computer programming
高瀬一矢:all instruments・computer programming
中沢伴行:all instruments・computer programming
藤田淳平:all instruments・computer programming
blue-1:erhu
森拓哉:violin
produced by I’ve
engineered by 高橋利幸・高瀬一矢
● 北海道のサウンド集団I’veの象徴的ヴォーカルとも言える幻想的な女性シンガーの待望の1stフルアルバム
北海道が生んだ00年代を代表するサウンドチームI'veは、多数のヴォーカリストを抱えながらゲームやアニメーション、CM音楽の制作を中心に、得意のエレクトリック&トランスなテクノサウンドで一世を風靡、I've専属歌手として活動していたKOTOKOや川田まみがデビューする中、実力派ヴォーカリストとして評価を得ていた島みやえい子は2004年にミニアルバム「ULYSSES」でメジャーデビューを果たします。もともと札幌でボイストレーナーとして活躍していた彼女の実力は地元界隈ではよく知られていたと思われますが、一般的にそのアーティスト性が認知されたのは、アニメ「ひぐらしのなく頃に」の同名主題歌で、その和風エレクトロな作風は少なからずインパクトを与えました。その勢いに乗る形でリリースされたのが1stフルアルバムとなる本作というわけです。
編曲にはI'veサウンドチームが関わっているため遠慮なくシンセの波は襲いかかってきますが、他のI'veヴォーカリストとは異なりほとんどの楽曲において彼女自身が作詞作曲をこなしており、歌メロを生かした歌謡POPS的な作風が露になっています。だからこそ楽曲の存在感が際立っているとも言えますし、実力のある歌唱力からくる力強さには神々しさすら感じさせるほどです。余りに歌唱にソツがないが故の近寄り難さも兼ね備えているため、アーティストとしての個性が埋没してしまうおそれもあるものの、それを大胆な電子音響で補うアレンジャー達の仕事ぶりは流石と言わざるを得ません。高瀬一矢や井内舞子らのI'veチームのみならず、Elements Gardenの藤田淳平や、KANや杉真理らのサポートとしての実績も豊富な大ベテラン嶋田陽一(SORMA No.1)らの外部アレンジャーも、世界観を崩さずI've以上にエレクトリックなサウンドを散りばめたサウンドワークを見せています。サウンド的にもメロディ的にも和洋折衷なスタイルを貫いていますが、どのようなタイプでも不変なのは彼女の歌唱力であり、歌で1本筋を通しているからこその安定感が本作のクオリティを高めている要因であると思われます。現在はI'veを離れフリーランスで活動していますが、彼女の実力であればサウンド面での縛りなく自由に自身の楽曲を歌わせるのが一番なのでしょう。
<Favorite Songs>
・「太陽」
奇妙なシーケンスから始まり、にじむような白玉パッドで全体を包み込むシンセ好きにはもってこいのエレクトリックPOPS。浮遊感のあるヒーリング系楽曲とも言えますが、1つ1つのシンセ音色が効果的で、ベテランのSORMAらしいこだわりを感じさせます。
・「銀河の子」
本作中最もアップテンポなC.G.mixアレンジの4つ打ち楽曲。流れるような高速シーケンスとダンサブルなリズムに安定感のある歌唱が映えます。緩急はなく直球型のエレポップですが、開放的なサビのメロディによる爽快感がこの楽曲の魅力です。
・「ひぐらしのなく頃に」
ハードなエレクトロ魂を見せる同名タイトルアニメ主題歌。Aメロでアヴァンギャルドな音処理を施し、Bメロからバタ臭いメロディ展開を見せる構成は、まさしく高瀬マジックの十八番とも言えるでしょう。呪術的なコーラスとねちっこいシンセベースはタイアップを良く理解したサウンド処理と思われます。
<評点>
・サウンド ★★ (個性のなさを大胆な電子音で巧みにフォロー)
・メロディ ★★ (オーソドックスであるがフレーズには力がある)
・リズム ★ (多少一本調子な部分もあるが音色は工夫が見られる)
・曲構成 ★ (一曲一曲が長く重厚感は感じるが後半は疲れも・・)
・個性 ★ (歌唱面での実力が申し分ないがその分個性も埋没?)
総合評点: 6点
島みやえい子:vocal
1.「O」 詞・曲:島みやえい子 編:高瀬一矢
2.「笑顔をみせて」 詞・曲:島みやえい子 編:中沢伴行
3.「カーネリアンの奏でる夢」 詞・曲:島みやえい子 編:藤田淳平
4.「胸のクロス」 詞・曲:島みやえい子 編:井内舞子
5.「求道の人-remix-」 詞・曲:島みやえい子 編:高瀬一矢
6.「太陽」 詞・曲:島みやえい子 編:SORMA No.1
7.「I need you」 詞・曲:島みやえい子 編:高瀬一矢
8.「宇宙のまほろば」 詞:若月佑輝郎 曲:島みやえい子 編:SORMA No.1
9.「銀河の子」 詞・曲:島みやえい子 編:C.G mix
10.「Recovery」 詞・曲:島みやえい子 編:一色由比
11.「ひぐらしのなく頃に」 詞:島みやえい子 曲:中沢伴行 編:中沢伴行・高瀬一矢
12.「どこにも無い道」 詞・曲:島みやえい子 編:井内舞子
<support musician>
C.G mix:all instruments・computer programming
SORMA No.1:all instruments・computer programming
井内舞子:all instruments・computer programming
一色由比:all instruments・computer programming
高瀬一矢:all instruments・computer programming
中沢伴行:all instruments・computer programming
藤田淳平:all instruments・computer programming
blue-1:erhu
森拓哉:violin
produced by I’ve
engineered by 高橋利幸・高瀬一矢
● 北海道のサウンド集団I’veの象徴的ヴォーカルとも言える幻想的な女性シンガーの待望の1stフルアルバム
北海道が生んだ00年代を代表するサウンドチームI'veは、多数のヴォーカリストを抱えながらゲームやアニメーション、CM音楽の制作を中心に、得意のエレクトリック&トランスなテクノサウンドで一世を風靡、I've専属歌手として活動していたKOTOKOや川田まみがデビューする中、実力派ヴォーカリストとして評価を得ていた島みやえい子は2004年にミニアルバム「ULYSSES」でメジャーデビューを果たします。もともと札幌でボイストレーナーとして活躍していた彼女の実力は地元界隈ではよく知られていたと思われますが、一般的にそのアーティスト性が認知されたのは、アニメ「ひぐらしのなく頃に」の同名主題歌で、その和風エレクトロな作風は少なからずインパクトを与えました。その勢いに乗る形でリリースされたのが1stフルアルバムとなる本作というわけです。
編曲にはI'veサウンドチームが関わっているため遠慮なくシンセの波は襲いかかってきますが、他のI'veヴォーカリストとは異なりほとんどの楽曲において彼女自身が作詞作曲をこなしており、歌メロを生かした歌謡POPS的な作風が露になっています。だからこそ楽曲の存在感が際立っているとも言えますし、実力のある歌唱力からくる力強さには神々しさすら感じさせるほどです。余りに歌唱にソツがないが故の近寄り難さも兼ね備えているため、アーティストとしての個性が埋没してしまうおそれもあるものの、それを大胆な電子音響で補うアレンジャー達の仕事ぶりは流石と言わざるを得ません。高瀬一矢や井内舞子らのI'veチームのみならず、Elements Gardenの藤田淳平や、KANや杉真理らのサポートとしての実績も豊富な大ベテラン嶋田陽一(SORMA No.1)らの外部アレンジャーも、世界観を崩さずI've以上にエレクトリックなサウンドを散りばめたサウンドワークを見せています。サウンド的にもメロディ的にも和洋折衷なスタイルを貫いていますが、どのようなタイプでも不変なのは彼女の歌唱力であり、歌で1本筋を通しているからこその安定感が本作のクオリティを高めている要因であると思われます。現在はI'veを離れフリーランスで活動していますが、彼女の実力であればサウンド面での縛りなく自由に自身の楽曲を歌わせるのが一番なのでしょう。
<Favorite Songs>
・「太陽」
奇妙なシーケンスから始まり、にじむような白玉パッドで全体を包み込むシンセ好きにはもってこいのエレクトリックPOPS。浮遊感のあるヒーリング系楽曲とも言えますが、1つ1つのシンセ音色が効果的で、ベテランのSORMAらしいこだわりを感じさせます。
・「銀河の子」
本作中最もアップテンポなC.G.mixアレンジの4つ打ち楽曲。流れるような高速シーケンスとダンサブルなリズムに安定感のある歌唱が映えます。緩急はなく直球型のエレポップですが、開放的なサビのメロディによる爽快感がこの楽曲の魅力です。
・「ひぐらしのなく頃に」
ハードなエレクトロ魂を見せる同名タイトルアニメ主題歌。Aメロでアヴァンギャルドな音処理を施し、Bメロからバタ臭いメロディ展開を見せる構成は、まさしく高瀬マジックの十八番とも言えるでしょう。呪術的なコーラスとねちっこいシンセベースはタイアップを良く理解したサウンド処理と思われます。
<評点>
・サウンド ★★ (個性のなさを大胆な電子音で巧みにフォロー)
・メロディ ★★ (オーソドックスであるがフレーズには力がある)
・リズム ★ (多少一本調子な部分もあるが音色は工夫が見られる)
・曲構成 ★ (一曲一曲が長く重厚感は感じるが後半は疲れも・・)
・個性 ★ (歌唱面での実力が申し分ないがその分個性も埋没?)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「収斂する輻輳」 高橋芳一
「収斂する輻輳」 (2012 自主制作)
高橋芳一:vocal・all instruments
1.「Fala Mista」 詞・曲・編:高橋芳一
2.「Tau Toe」 詞・曲・編:高橋芳一
3.「ZoDop」 詞・曲・編:高橋芳一
4.「旋回の度合い(右旋回)」 詞・曲・編:高橋芳一
5.「Psy Que」 詞・曲・編:高橋芳一
6.「旋回の度合い(左旋回)」 詞・曲・編:高橋芳一
7.「Tar to Laa ro」 曲・編:高橋芳一
8.「Karth Foo」 詞・曲・編:高橋芳一
9.「Kohsai(虹彩)」 詞・曲・編:高橋芳一
10.「Donkikko」 詞・曲・編:高橋芳一
produced by 高橋芳一
engineered by 高橋芳一
● 元P-MODELのキャリアを持つ自作電子楽器製作者が混濁の轟音電子音をバックに歌い上げるエレクトリック度満点の怪作
サンプラーや打ち込みを多用した1986年のアルバム「ONE PATTERN」リリース時のP-MODELに在籍していた高橋芳一は、3代目キーボードという立ち位置ながら、その多様なサウンド面での役割からSystemsとクレジットされるなど、プレイヤーというよりはサウンドデザイナーとして関わりを持っていました。P-MODELにはたった2年という短い在籍期間でしたが、その後はSystemsの名に恥じないハンドメイドな自作シンセサイザーUTS(Under Techno Systems)を開発するなど、エンジニア気質な活動を地道に続け、その斬新な機材はP-MODELの同期である中野テルヲによって効果的に使用されるなど、つかず離れずP-MODEL周辺との関わりを続けていました。その後21世紀以降は単発的に実験的な作風によるソロ活動を続けていましたが、2010年からは本格的にソロ活動を開始し、コンスタントに自主制作音源をリリース、2012年には初の歌モノ(!)フルアルバムなる本作をリリースすることになります。
さて、歌モノとはいっても歌は完全に音響の一部分となっていて、基本はドギツイ電子音まみれのエレクトリックアンビエントの世界です。しかも音色としても荒削りでメタリックでノイジーな過激さを伴ったものであるため、正直な話聴き手はかなり選ぶタイプであると思われます。音の隙間を完全に埋め尽くすかのような電子の洪水は圧巻で、轟音ともいえるそのサウンドはノイズミュージックの範疇と捉えてもよいほどですが、このご時世電気を余すことなく大量に使いましたー的な過剰な電気!電気!なサウンドは、自分にはこれしかできないんだ、というような潔さも感じます。現在の音楽シーンでは貴重なタイプの音で自作シンセから出てくるその過激な音は多彩さには程遠いものの、いかにもテクノ好きするような音色が散りばめられていて、特に直線的で勝手に漏れ出しているようなフリーダムなサウンドは一部の好事家たちにしか受け入れられない種類のものと言えますが、とにかくその濃厚な電子音世界に浸ってみる勇気のある方はぜひ味わっていただきたいです。前述のようにメインストリームから外れてはいるものの、個性的なエレクトリックミュージックがここにはあるのですから。
<Favorite Songs>
・「ZoDop」
これでもかの電子音に次ぐ電子音でありながらまだ歌モノとしての原型が残っている本作中でもわかりやすい楽曲。シーケンスの音色のチョイスが余りにも剥き出しの電子過ぎて酔いそうになりますが、そこが彼の真骨頂とも言えるでしょう。
・「Psy Que」
暴れ回るリズムトラックに、ディレイ等を駆使したエフェクトワークを電子音の嵐でグチョグチョにしたようなアヴァンギャルドPOPS。明らかにやり過ぎなノイズサウンドと破壊的なリズムでかき回すサウンドで、耳に心地良い疲れが襲ってくること請け合いです。
・「Donkikko」
サイン派のリズムがキュートなラストチューン。しかし全体的にはこれまでと同様グチョグチョ電子音の嵐です。ただし少し跳ねるリズムがどこか音頭の要素もはらんでいるような印象を受けるところが興味深いです。
<評点>
・サウンド ★★ (とにかく電子音の暴れん坊将軍的なザックリ感)
・メロディ ★ (ポップ性には程遠いがインストとしては意外に聴ける)
・リズム ★ (暴れ回っているがとにかく電子音に押しつぶされ・・)
・曲構成 ★ (一芸一発な芸風のためやはり平坦感は拭えないかも)
・個性 ★★★ (さすがにこの過剰電子な作風は自主ならでは)
総合評点: 6点
東京中野のSHOP MECANOで購入可能かも?販売終了かも?
http://members3.jcom.home.ne.jp/mecano/
高橋芳一:vocal・all instruments
1.「Fala Mista」 詞・曲・編:高橋芳一
2.「Tau Toe」 詞・曲・編:高橋芳一
3.「ZoDop」 詞・曲・編:高橋芳一
4.「旋回の度合い(右旋回)」 詞・曲・編:高橋芳一
5.「Psy Que」 詞・曲・編:高橋芳一
6.「旋回の度合い(左旋回)」 詞・曲・編:高橋芳一
7.「Tar to Laa ro」 曲・編:高橋芳一
8.「Karth Foo」 詞・曲・編:高橋芳一
9.「Kohsai(虹彩)」 詞・曲・編:高橋芳一
10.「Donkikko」 詞・曲・編:高橋芳一
produced by 高橋芳一
engineered by 高橋芳一
● 元P-MODELのキャリアを持つ自作電子楽器製作者が混濁の轟音電子音をバックに歌い上げるエレクトリック度満点の怪作
サンプラーや打ち込みを多用した1986年のアルバム「ONE PATTERN」リリース時のP-MODELに在籍していた高橋芳一は、3代目キーボードという立ち位置ながら、その多様なサウンド面での役割からSystemsとクレジットされるなど、プレイヤーというよりはサウンドデザイナーとして関わりを持っていました。P-MODELにはたった2年という短い在籍期間でしたが、その後はSystemsの名に恥じないハンドメイドな自作シンセサイザーUTS(Under Techno Systems)を開発するなど、エンジニア気質な活動を地道に続け、その斬新な機材はP-MODELの同期である中野テルヲによって効果的に使用されるなど、つかず離れずP-MODEL周辺との関わりを続けていました。その後21世紀以降は単発的に実験的な作風によるソロ活動を続けていましたが、2010年からは本格的にソロ活動を開始し、コンスタントに自主制作音源をリリース、2012年には初の歌モノ(!)フルアルバムなる本作をリリースすることになります。
さて、歌モノとはいっても歌は完全に音響の一部分となっていて、基本はドギツイ電子音まみれのエレクトリックアンビエントの世界です。しかも音色としても荒削りでメタリックでノイジーな過激さを伴ったものであるため、正直な話聴き手はかなり選ぶタイプであると思われます。音の隙間を完全に埋め尽くすかのような電子の洪水は圧巻で、轟音ともいえるそのサウンドはノイズミュージックの範疇と捉えてもよいほどですが、このご時世電気を余すことなく大量に使いましたー的な過剰な電気!電気!なサウンドは、自分にはこれしかできないんだ、というような潔さも感じます。現在の音楽シーンでは貴重なタイプの音で自作シンセから出てくるその過激な音は多彩さには程遠いものの、いかにもテクノ好きするような音色が散りばめられていて、特に直線的で勝手に漏れ出しているようなフリーダムなサウンドは一部の好事家たちにしか受け入れられない種類のものと言えますが、とにかくその濃厚な電子音世界に浸ってみる勇気のある方はぜひ味わっていただきたいです。前述のようにメインストリームから外れてはいるものの、個性的なエレクトリックミュージックがここにはあるのですから。
<Favorite Songs>
・「ZoDop」
これでもかの電子音に次ぐ電子音でありながらまだ歌モノとしての原型が残っている本作中でもわかりやすい楽曲。シーケンスの音色のチョイスが余りにも剥き出しの電子過ぎて酔いそうになりますが、そこが彼の真骨頂とも言えるでしょう。
・「Psy Que」
暴れ回るリズムトラックに、ディレイ等を駆使したエフェクトワークを電子音の嵐でグチョグチョにしたようなアヴァンギャルドPOPS。明らかにやり過ぎなノイズサウンドと破壊的なリズムでかき回すサウンドで、耳に心地良い疲れが襲ってくること請け合いです。
・「Donkikko」
サイン派のリズムがキュートなラストチューン。しかし全体的にはこれまでと同様グチョグチョ電子音の嵐です。ただし少し跳ねるリズムがどこか音頭の要素もはらんでいるような印象を受けるところが興味深いです。
<評点>
・サウンド ★★ (とにかく電子音の暴れん坊将軍的なザックリ感)
・メロディ ★ (ポップ性には程遠いがインストとしては意外に聴ける)
・リズム ★ (暴れ回っているがとにかく電子音に押しつぶされ・・)
・曲構成 ★ (一芸一発な芸風のためやはり平坦感は拭えないかも)
・個性 ★★★ (さすがにこの過剰電子な作風は自主ならでは)
総合評点: 6点
東京中野のSHOP MECANOで購入可能かも?販売終了かも?
http://members3.jcom.home.ne.jp/mecano/
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
| HOME |