「SAVE OUR SOUL」 原田真二&クライシス
「SAVE OUR SOUL」(1983 フォーライフ)
原田真二&クライシス

<members>
原田真二:vocal・guitars・electric piano・Oberheim OB-X・Mini Moog・Emulator・electric guitar・acoustic guitar・electric bass・chorus
古田たかし:drums・percussions・backing vocal
関雅夫:electric bass・backing vocal
太田美知彦:alto sax・backing vocal
1.「Believe」 詞・曲・編:原田真二
2.「Oh, Dana」 詞・曲・編:原田真二
3.「Happy End」 詞・曲・編:原田真二
4.「愛歌」 詞・曲・編:原田真二
5.「Without You」 詞・曲・編:原田真二
6.「Magic」 詞・曲・編:原田真二
7.「Save Our Soul」 詞・曲・編:原田真二
8.「Make You Feel Good」 詞・曲・編:原田真二
9.「雨のハイウェイ」 詞:松本隆 曲・編:原田真二
10.「Pacific Paradise」 詞・曲・編:原田真二
11.「Get Tomorrow」 詞・曲・編:原田真二
12.「Today’s Love」 詞・曲・編:原田真二
13.「おもちゃばこ」 詞・曲・編:原田真二
<support musician>
Linda Masters:additional vocal
produced by 原田真二
engineered by 石塚良一・五味義雄
● 演奏力重視のハードロック路線から従来のメロディセンスを生かしたポップ路線へと戻りつつあるレコード会社再移籍第1弾
世良公則・Charと並んでロック御三家と呼ばれ、天才シンガーソングライターの名を欲しいままにしていた原田真二は、3ヶ月連続シングルリリースでのデビューという話題性に劣らない洋楽テイスト溢れるポップな音楽性で一気にスターダムへのし上がりますが、彼の突出した才能とそれに伴う音楽に対する飽くなき欲求はそんな作られた地位にとどまることを許さず、程なく大手事務所から独立、今やりたい音楽を追究するために気心知れた若手ミュージシャンと共に自身のバンド、クライシスを結成し、レコード会社も移籍し、「Human Crisis」「Entrance」というハードロックでテクニカルなアプローチへ見せた2枚のアルバムをリリースして、アーティストイメージを払拭します。そしてさらに音楽性を磨くために米国留学を敢行し、当時の先進的な音楽スタイルを目の当たりにしながら日本人としての自我にも目覚めた彼は、帰国後デビュー時のレコード会社に再移籍し、当時の最新テクノロジーを使用しつつメロディアスなポップ路線に回帰した本作でアーティストとしての再スタートを図ろうとしたわけです。
基本的にはオーソドックスなシンガーソングライタースタイルと、クライシスのロックスタイルの熱い演奏の融合でありながら、随所でアシッドかつポルタメントを生かしたシンセフレーズ(シンセベースなど実に太い!)を聴かせるなど、近未来感すら漂わせる部分に、米国留学で培った先進性を感じさせます。そして彼が米国から持ち帰った最大の収穫ともいえる「日本人らしさ」は、シンセによる「琴」音色の多用(その後彼の80年代楽曲の代名詞となる)に生かされていますが、そのほかにも「愛歌」や「雨のハイウェイ」等で聴かれるようなゲートリバーブの効いたドラムも持ち帰ってきたことで、それぞれの楽曲に力を増す結果となり格段にサウンド面のクオリティは向上したように思われます。当然のことながら天才的なメロディ構築力には磨きがかかっていますが、本作は音楽性の向上を目指し培ってきたクライシスというバンドとしての一体感に、シンセやエフェクトなどの電子音響を積極的に取り入れた一歩進んだサウンドを目指した貪欲な姿勢が当時としては13曲という大作に仕上げさせたと言えるでしょう。そしてその後の80年代エレクトリックダンサブル路線の礎となる試金石的な作品とも言えると思います。
<Favorite Songs>
・「Oh, Dana」
全編にわたり高速アルペジオのシンセが駆け巡るロックチューン。前曲「Believe」からのつなぎも絶妙で、バンドサウンドとの無理矢理ともいえるアシッドなシンセがいやがおうにも盛り上げてくれます。メロディは相変わらずも日本の匂いがしない洋楽テイストです。
・「Save Our Soul」
開放的なメロディとシンセ中心のサウンドで広がりを見せるタイトルチューン。なんといってもイントロの分厚いシンセによるメインフレーズが素晴らしい。Bメロのブリブリシンセにも攻めの姿勢が感じられますが、楽曲自体は緩やかで癒しすら感じるメロディで、そのコントラストが実に良いです。
・「雨のハイウェイ」
初期のヒットシングルを思わせるシングルカット曲。しかしその歌謡曲的メロディとは裏腹にサウンド面が激変しており、重厚感抜群のゲートドラムにキュンキュン鳴りまくる琴系シンセがテクニカルな演奏と相まって斬新性を高めています。
<評点>
・サウンド ★★★★ (くっきりしたシンセフレーズの多用に熱さを感じる)
・メロディ ★★★ (相変わらずの日本人離れした構築力に抜け目なし)
・リズム ★★★ (ゲートリバーブの多用で楽曲を無視した分厚さが◯)
・曲構成 ★★ (楽曲の多さが気にならないほどの貪欲さが眩しい)
・個性 ★★ (留学帰りで才気ほとばしる感じが作品から漏出)
総合評点: 8点
35th Anniversary BOXに収録。
原田真二&クライシス

<members>
原田真二:vocal・guitars・electric piano・Oberheim OB-X・Mini Moog・Emulator・electric guitar・acoustic guitar・electric bass・chorus
古田たかし:drums・percussions・backing vocal
関雅夫:electric bass・backing vocal
太田美知彦:alto sax・backing vocal
1.「Believe」 詞・曲・編:原田真二
2.「Oh, Dana」 詞・曲・編:原田真二
3.「Happy End」 詞・曲・編:原田真二
4.「愛歌」 詞・曲・編:原田真二
5.「Without You」 詞・曲・編:原田真二
6.「Magic」 詞・曲・編:原田真二
7.「Save Our Soul」 詞・曲・編:原田真二
8.「Make You Feel Good」 詞・曲・編:原田真二
9.「雨のハイウェイ」 詞:松本隆 曲・編:原田真二
10.「Pacific Paradise」 詞・曲・編:原田真二
11.「Get Tomorrow」 詞・曲・編:原田真二
12.「Today’s Love」 詞・曲・編:原田真二
13.「おもちゃばこ」 詞・曲・編:原田真二
<support musician>
Linda Masters:additional vocal
produced by 原田真二
engineered by 石塚良一・五味義雄
● 演奏力重視のハードロック路線から従来のメロディセンスを生かしたポップ路線へと戻りつつあるレコード会社再移籍第1弾
世良公則・Charと並んでロック御三家と呼ばれ、天才シンガーソングライターの名を欲しいままにしていた原田真二は、3ヶ月連続シングルリリースでのデビューという話題性に劣らない洋楽テイスト溢れるポップな音楽性で一気にスターダムへのし上がりますが、彼の突出した才能とそれに伴う音楽に対する飽くなき欲求はそんな作られた地位にとどまることを許さず、程なく大手事務所から独立、今やりたい音楽を追究するために気心知れた若手ミュージシャンと共に自身のバンド、クライシスを結成し、レコード会社も移籍し、「Human Crisis」「Entrance」というハードロックでテクニカルなアプローチへ見せた2枚のアルバムをリリースして、アーティストイメージを払拭します。そしてさらに音楽性を磨くために米国留学を敢行し、当時の先進的な音楽スタイルを目の当たりにしながら日本人としての自我にも目覚めた彼は、帰国後デビュー時のレコード会社に再移籍し、当時の最新テクノロジーを使用しつつメロディアスなポップ路線に回帰した本作でアーティストとしての再スタートを図ろうとしたわけです。
基本的にはオーソドックスなシンガーソングライタースタイルと、クライシスのロックスタイルの熱い演奏の融合でありながら、随所でアシッドかつポルタメントを生かしたシンセフレーズ(シンセベースなど実に太い!)を聴かせるなど、近未来感すら漂わせる部分に、米国留学で培った先進性を感じさせます。そして彼が米国から持ち帰った最大の収穫ともいえる「日本人らしさ」は、シンセによる「琴」音色の多用(その後彼の80年代楽曲の代名詞となる)に生かされていますが、そのほかにも「愛歌」や「雨のハイウェイ」等で聴かれるようなゲートリバーブの効いたドラムも持ち帰ってきたことで、それぞれの楽曲に力を増す結果となり格段にサウンド面のクオリティは向上したように思われます。当然のことながら天才的なメロディ構築力には磨きがかかっていますが、本作は音楽性の向上を目指し培ってきたクライシスというバンドとしての一体感に、シンセやエフェクトなどの電子音響を積極的に取り入れた一歩進んだサウンドを目指した貪欲な姿勢が当時としては13曲という大作に仕上げさせたと言えるでしょう。そしてその後の80年代エレクトリックダンサブル路線の礎となる試金石的な作品とも言えると思います。
<Favorite Songs>
・「Oh, Dana」
全編にわたり高速アルペジオのシンセが駆け巡るロックチューン。前曲「Believe」からのつなぎも絶妙で、バンドサウンドとの無理矢理ともいえるアシッドなシンセがいやがおうにも盛り上げてくれます。メロディは相変わらずも日本の匂いがしない洋楽テイストです。
・「Save Our Soul」
開放的なメロディとシンセ中心のサウンドで広がりを見せるタイトルチューン。なんといってもイントロの分厚いシンセによるメインフレーズが素晴らしい。Bメロのブリブリシンセにも攻めの姿勢が感じられますが、楽曲自体は緩やかで癒しすら感じるメロディで、そのコントラストが実に良いです。
・「雨のハイウェイ」
初期のヒットシングルを思わせるシングルカット曲。しかしその歌謡曲的メロディとは裏腹にサウンド面が激変しており、重厚感抜群のゲートドラムにキュンキュン鳴りまくる琴系シンセがテクニカルな演奏と相まって斬新性を高めています。
<評点>
・サウンド ★★★★ (くっきりしたシンセフレーズの多用に熱さを感じる)
・メロディ ★★★ (相変わらずの日本人離れした構築力に抜け目なし)
・リズム ★★★ (ゲートリバーブの多用で楽曲を無視した分厚さが◯)
・曲構成 ★★ (楽曲の多さが気にならないほどの貪欲さが眩しい)
・個性 ★★ (留学帰りで才気ほとばしる感じが作品から漏出)
総合評点: 8点
35th Anniversary BOXに収録。
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「OCEAN SIDE」 菊池桃子
「OCEAN SIDE」(1984 バップ)
菊池桃子:vocal

1.「Ocean Side」 詞:青木久美子 曲・編:林哲司 ブラス編:兼崎順一
2.「Shadow Surfer」 詞:佐藤純子 曲・編:林哲司
3.「Blind Curve」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
4.「SUMMER EYES」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
5.「ふたりのNight Dive」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
6.「青春のいじわる」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
7.「Evening Break」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
8.「So Many Dreams」 詞:佐藤純子 曲・編:林哲司
9.「I Will」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
<support musician>
青山徹:electric guitar
今 剛:electric guitar
松原正樹:electric guitar
吉川忠英:acoustic guitar
高水健司:electric bass
富倉安生:electric bass
青山純:drums
林立夫:drums
宮崎まさひろ:drums
村上ポンタ秀一:drums
倉田信雄:keyboards
富樫春生:keyboards
難波正司:keyboards
西本明:keyboards
斎藤ノブ:percussion
兼崎順一:trumpet
林研一郎:trumpet
岡田澄雄:trombone
平内保夫:trombone
Jake H. Concepcion:sax
中村哲:sax
加藤JOEグループ:strings
オメガトライブ:chorus
木戸泰弘:chorus
林哲司:chorus
比山貴咏史:chorus
山川恵津子:chorus
助川宏:synthesizer programming
mixing engineered by 清水邦彦
recording engineered by 清水邦彦・若尾潤・関根辰夫・藤田浩
● ウィスパーボイスのリゾート風味の哀愁シティポップに驚かされた新感覚アイドルのデビューアルバム
松田聖子や中森明菜が歌謡界を席巻していたアイドル全盛時代の80年代において、新人アイドルが数多くデビューしていく中で、クオリティ重視のPOPSアルバムを連発しアイドルの枠を越えた楽曲を次々とリリースしていたのが、かのトップアイドル菊池桃子です。清純かつファニーなキャラクターと独特のウィスパーヴォイスが魅力の彼女は、シングル曲では歌謡曲テイストを残しているものの、アイドルらしからぬ陰りを見せる哀愁メロディと都会的で絹漉しの肌触りともいうべき滑らかなサウンドが、音楽好きにも評価が高かったものでした。本作は彼女の記念すべき1stアルバムで、トライアングルプロダクションのコンセプト力豊かなスタッフと、林哲司という稀代のトラックメイカーという優秀な制作陣に恵まれ、見事なまでの歌謡曲+シティポップのブレンドに成功した作品と言えるでしょう。
とにかく「Ocean Side」の冒頭のブラスフレーズで一気に世界観に引き込む推進力に驚かされます。菊池桃子の楽曲はこの路線で行く!という意志があのブラスに込められているような印象を受けます。明らかにシティポップを意識した林哲司の楽曲は、新人アイドルとして快活明瞭なポップソングで勝負したいところを、洋楽的マイナーフレーズを基調とした哀愁ロマンスなニューミュージックで渋くまとめ上げられています。シングルカット曲ではバタ臭い歌謡テイストが色濃く残るもののキラリと光る憂いのあるフレーズを忍ばせているところは実にニクいです(特に「青春のいじわる」の後半のサビのラストからもう1回サビへのつなぎなどは素晴らしい)。サウンド面でも安定感抜群の演奏陣に加え、控えめなシンセベースや効果的なエレピとそれを包み込むようなシンセパッドなどエレクトリックなサウンドが出しゃばらず目立たず支えているのも好感が持てます。 1stということでまだ名刺代わりという側面もありますが、既存のアイドルソングに一石を投じるようなインパクトを与えた作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「Ocean Side」
アイドルらしからぬ初期角松敏生的なサマーソング全開のオープニングチューン。最初の1フレーズで持っていく兼崎順一のブラスアレンジが小気味よく、跳ねるベースやエレピ&サックスの雰囲気といいまさにリゾートファンクそのものです。
・「Blind Curve」
エレドラとシンセベースがフィーチャーされた本作中最もテクノ度の高いエレクトロシティポップ。きらびやかなシンセパッドが全編にわたってアクセントとなり、そしてシティポップ特有の煮え切らないロマンティックコード進行が印象的ですが、やはりエレドラとシンセベースのリズム感が絶妙です。
・「Evening Break」
本作の中では数少ないメジャー調の明るいポップソング。上品なエレピ&シンセパッドとコーラスの絡みもバランスが良く、イントロの不思議なシンセフレーズの音色も面白いし、特にBメロのアクセントとなるエレドラの減衰音が気持ちいいです。
<評点>
・サウンド ★★ (生とシンセのブレンド感が半端ないが軽さも目立つ)
・メロディ ★★★ (メロディの構築術に完成度の高さを感じる)
・リズム ★ (まだ平面的でライトなサウンドのため軽さが・・)
・曲構成 ★ (どうしてもシングル曲が浮いてしまうが・・)
・個性 ★★★ (一発目で他のアイドルとの違いを鮮明にする)
総合評点: 7点
菊池桃子:vocal

1.「Ocean Side」 詞:青木久美子 曲・編:林哲司 ブラス編:兼崎順一
2.「Shadow Surfer」 詞:佐藤純子 曲・編:林哲司
3.「Blind Curve」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
4.「SUMMER EYES」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
5.「ふたりのNight Dive」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
6.「青春のいじわる」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
7.「Evening Break」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
8.「So Many Dreams」 詞:佐藤純子 曲・編:林哲司
9.「I Will」 詞:秋元康 曲・編:林哲司
<support musician>
青山徹:electric guitar
今 剛:electric guitar
松原正樹:electric guitar
吉川忠英:acoustic guitar
高水健司:electric bass
富倉安生:electric bass
青山純:drums
林立夫:drums
宮崎まさひろ:drums
村上ポンタ秀一:drums
倉田信雄:keyboards
富樫春生:keyboards
難波正司:keyboards
西本明:keyboards
斎藤ノブ:percussion
兼崎順一:trumpet
林研一郎:trumpet
岡田澄雄:trombone
平内保夫:trombone
Jake H. Concepcion:sax
中村哲:sax
加藤JOEグループ:strings
オメガトライブ:chorus
木戸泰弘:chorus
林哲司:chorus
比山貴咏史:chorus
山川恵津子:chorus
助川宏:synthesizer programming
mixing engineered by 清水邦彦
recording engineered by 清水邦彦・若尾潤・関根辰夫・藤田浩
● ウィスパーボイスのリゾート風味の哀愁シティポップに驚かされた新感覚アイドルのデビューアルバム
松田聖子や中森明菜が歌謡界を席巻していたアイドル全盛時代の80年代において、新人アイドルが数多くデビューしていく中で、クオリティ重視のPOPSアルバムを連発しアイドルの枠を越えた楽曲を次々とリリースしていたのが、かのトップアイドル菊池桃子です。清純かつファニーなキャラクターと独特のウィスパーヴォイスが魅力の彼女は、シングル曲では歌謡曲テイストを残しているものの、アイドルらしからぬ陰りを見せる哀愁メロディと都会的で絹漉しの肌触りともいうべき滑らかなサウンドが、音楽好きにも評価が高かったものでした。本作は彼女の記念すべき1stアルバムで、トライアングルプロダクションのコンセプト力豊かなスタッフと、林哲司という稀代のトラックメイカーという優秀な制作陣に恵まれ、見事なまでの歌謡曲+シティポップのブレンドに成功した作品と言えるでしょう。
とにかく「Ocean Side」の冒頭のブラスフレーズで一気に世界観に引き込む推進力に驚かされます。菊池桃子の楽曲はこの路線で行く!という意志があのブラスに込められているような印象を受けます。明らかにシティポップを意識した林哲司の楽曲は、新人アイドルとして快活明瞭なポップソングで勝負したいところを、洋楽的マイナーフレーズを基調とした哀愁ロマンスなニューミュージックで渋くまとめ上げられています。シングルカット曲ではバタ臭い歌謡テイストが色濃く残るもののキラリと光る憂いのあるフレーズを忍ばせているところは実にニクいです(特に「青春のいじわる」の後半のサビのラストからもう1回サビへのつなぎなどは素晴らしい)。サウンド面でも安定感抜群の演奏陣に加え、控えめなシンセベースや効果的なエレピとそれを包み込むようなシンセパッドなどエレクトリックなサウンドが出しゃばらず目立たず支えているのも好感が持てます。 1stということでまだ名刺代わりという側面もありますが、既存のアイドルソングに一石を投じるようなインパクトを与えた作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「Ocean Side」
アイドルらしからぬ初期角松敏生的なサマーソング全開のオープニングチューン。最初の1フレーズで持っていく兼崎順一のブラスアレンジが小気味よく、跳ねるベースやエレピ&サックスの雰囲気といいまさにリゾートファンクそのものです。
・「Blind Curve」
エレドラとシンセベースがフィーチャーされた本作中最もテクノ度の高いエレクトロシティポップ。きらびやかなシンセパッドが全編にわたってアクセントとなり、そしてシティポップ特有の煮え切らないロマンティックコード進行が印象的ですが、やはりエレドラとシンセベースのリズム感が絶妙です。
・「Evening Break」
本作の中では数少ないメジャー調の明るいポップソング。上品なエレピ&シンセパッドとコーラスの絡みもバランスが良く、イントロの不思議なシンセフレーズの音色も面白いし、特にBメロのアクセントとなるエレドラの減衰音が気持ちいいです。
<評点>
・サウンド ★★ (生とシンセのブレンド感が半端ないが軽さも目立つ)
・メロディ ★★★ (メロディの構築術に完成度の高さを感じる)
・リズム ★ (まだ平面的でライトなサウンドのため軽さが・・)
・曲構成 ★ (どうしてもシングル曲が浮いてしまうが・・)
・個性 ★★★ (一発目で他のアイドルとの違いを鮮明にする)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「AMATEUR ACADEMY」 MOON RIDERS
「AMATEUR ACADEMY」(1984 RVC)
MOON RIDERS

<members>
鈴木慶一:vocal・keyboards・guitar・bass
岡田徹:keyboards
白井良明:guitar・percussion・back vocal
武川雅寛:violin・trumpet・back vocal
橿渕哲郎:drums・back vocal
鈴木博文:bass・guitar・back vocal
1.「Y.B.J (YOUNG BLOOD JACK)」
詞:鈴木博文 曲:鈴木博文・鈴木慶一・岡田徹 編:岡田徹・Moon Riders
2.「30 (30AGE)」 詞・曲:鈴木博文 編:白井良明・Moon Riders
3.「G.o.a.P. (急いでピクニックへ行こう)」
詞:鈴木慶一 曲:岡田徹 編:岡田徹・Moon Riders
4.「B TO F (森へ帰ろう〜絶頂のコツ)」
詞:鈴木慶一 曲:鈴木博文 編:鈴木博文・Moon Riders
5.「S・E・X (個人調査)」 詞・曲:橿渕哲郎 編:白井良明・Moon Riders
6.「M.I.J.」 詞:Diane Silverthorn 曲:岡田徹 編:岡田徹・Moon Riders
7.「NO.OH」 詞・曲:白井良明 編:白井良明・Moon Riders
8.「D/P (ダム/パール)」
詞:橿渕哲郎 曲:白井良明・鈴木博文 編:白井良明・Moon Riders
9.「BLDG (ジャックはビルを見つめて)」 詞・曲・編:鈴木慶一
10.「B.B.L.B (ベイビー・ボーイ、レディ・ボーイ)」
詞:鈴木慶一 曲:鈴木慶一・岡田徹 編:岡田徹・鈴木慶一 ・Moon Riders
<support musician>
松本治:trombone
矢口博康:sax
美尾洋乃:violin
寺崎和子:cello
土岐幸男:instruments・equipment
produced by MOON RIDERS・宮田茂樹
engineered by 田中信一
● 最新機材による硬質な肌触りにほのかにアコースティックな味わいを垣間見せる難産のコンセプチュアル作品
大胆にシーケンサーやサンプラーを導入しエレクトリックに先鋭化したため一旦お蔵入りとなった名盤「マニア・マニエラ」とその代用として一気に作り上げられながらも逆にそのポップセンスが開花したともいえる「青空百景」という2枚のアルバムで完全にMOON RIDERSとしての立ち位置を確立した彼らは、レコード会社を移籍した2年後新作の制作にとりかかります。初めて外部プロデューサーを迎えた新機軸的なアルバムである本作は、もはや後戻りできないかのようにテクノ・ニューウェーブ精神に溢れた最新機材を駆使したポップソングを多く収録していますが、印象としては前述の2作を足して2で割ったかのようなポップとアヴァンギャルドを行き来するバランスに優れた作品に仕上がっていますが、バンドとしての一体感が希薄になり始めた作品と言えるかもしれない問題作でもあります。
全体的にリズム隊を機械化したりサンプラーを多用することでエレクトリックな印象が強いというリスナーがいる反面、生っぽいギターやブラスセクションが頻出するためアコースティックな印象を受けるリスナーも存在するみたいですが、実際のサウンドは紛れもないテクノポップを通過したニューウェーブそのものと言える電子的な音響を中心にして構築されたものです。それゆえに本作は「マニア・マニエラ」のサウンド手法を踏襲した作品と一面的には言えると思われますが、あの作品のような閉塞感は感じられず、程よいオプティミスティックな明るさを感じることができるのも「青空百景」を通過したためとも言えるので、結局のところは前述のように両作品で得た経験とセンスをバランス良く生かし、進化させた作品というのがほぼ正当な印象と言えるでしょう。もちろんプロデューサーとの軋轢やレコーディング時間の長さ(これは打ち込み多用による手間がそうさせたのでしょう)といった側面的な話題もある本作ですが、機材の進化と共にセンスを研ぎ澄ませていた80年代のMOON RIDERSらしい、ニューウェーブ好きを裏切らない好作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「Y.B.J (YOUNG BLOOD JACK)」
サンプリングによるカークラッシュの導入から期待感を煽られるオープニングチューン。特にBメロにかぶさる小気味よいギターと人力ディレイなコーラスが楽しいです。音数が少ない中で光る機械的なリズムもしっかりと楽曲を支えています。
・「M.I.J.」
リズムパターンからも黒さ満点のエレクトロポップ。前面に出て主張するエレドラやスラップ、そして跳ねるようなカッティングギターといったエレクトリックファンク全開のトラックが彼らにしては「らしくない」とすら思わせますが、バックのアコギにバンドとしての主張を残している印象です。
・「BLDG (ジャックはビルを見つめて)」
サンプリングで構築されたリズムと音の壁と化しているコーラスワークが印象的なバラードソング。ほとんどリズムとヴォーカルとコーラスで構築されているためアカペラソングとしても聴くことができますが、後半急に深いリバーブに包まれる激変ぶりに意表を突かれるなど、彼ららしい仕掛けもバッチリです。
<評点>
・サウンド ★★★ (生楽器にも電子的に音響をいじって結果エレクトリックに)
・メロディ ★★ (彼らなりのひねくれポップなメロを書こうとしているが)
・リズム ★★★★ (サンプラーを駆使したリズムで全体的にマシナリーな印象に)
・曲構成 ★ (コンセプト作ではあるが劇的な構成ではなく淡々と進む印象)
・個性 ★★ (「マニア〜」ほどの刺激はないものの紛れもない彼らの音)
総合評点: 7点
MOON RIDERS

<members>
鈴木慶一:vocal・keyboards・guitar・bass
岡田徹:keyboards
白井良明:guitar・percussion・back vocal
武川雅寛:violin・trumpet・back vocal
橿渕哲郎:drums・back vocal
鈴木博文:bass・guitar・back vocal
1.「Y.B.J (YOUNG BLOOD JACK)」
詞:鈴木博文 曲:鈴木博文・鈴木慶一・岡田徹 編:岡田徹・Moon Riders
2.「30 (30AGE)」 詞・曲:鈴木博文 編:白井良明・Moon Riders
3.「G.o.a.P. (急いでピクニックへ行こう)」
詞:鈴木慶一 曲:岡田徹 編:岡田徹・Moon Riders
4.「B TO F (森へ帰ろう〜絶頂のコツ)」
詞:鈴木慶一 曲:鈴木博文 編:鈴木博文・Moon Riders
5.「S・E・X (個人調査)」 詞・曲:橿渕哲郎 編:白井良明・Moon Riders
6.「M.I.J.」 詞:Diane Silverthorn 曲:岡田徹 編:岡田徹・Moon Riders
7.「NO.OH」 詞・曲:白井良明 編:白井良明・Moon Riders
8.「D/P (ダム/パール)」
詞:橿渕哲郎 曲:白井良明・鈴木博文 編:白井良明・Moon Riders
9.「BLDG (ジャックはビルを見つめて)」 詞・曲・編:鈴木慶一
10.「B.B.L.B (ベイビー・ボーイ、レディ・ボーイ)」
詞:鈴木慶一 曲:鈴木慶一・岡田徹 編:岡田徹・鈴木慶一 ・Moon Riders
<support musician>
松本治:trombone
矢口博康:sax
美尾洋乃:violin
寺崎和子:cello
土岐幸男:instruments・equipment
produced by MOON RIDERS・宮田茂樹
engineered by 田中信一
● 最新機材による硬質な肌触りにほのかにアコースティックな味わいを垣間見せる難産のコンセプチュアル作品
大胆にシーケンサーやサンプラーを導入しエレクトリックに先鋭化したため一旦お蔵入りとなった名盤「マニア・マニエラ」とその代用として一気に作り上げられながらも逆にそのポップセンスが開花したともいえる「青空百景」という2枚のアルバムで完全にMOON RIDERSとしての立ち位置を確立した彼らは、レコード会社を移籍した2年後新作の制作にとりかかります。初めて外部プロデューサーを迎えた新機軸的なアルバムである本作は、もはや後戻りできないかのようにテクノ・ニューウェーブ精神に溢れた最新機材を駆使したポップソングを多く収録していますが、印象としては前述の2作を足して2で割ったかのようなポップとアヴァンギャルドを行き来するバランスに優れた作品に仕上がっていますが、バンドとしての一体感が希薄になり始めた作品と言えるかもしれない問題作でもあります。
全体的にリズム隊を機械化したりサンプラーを多用することでエレクトリックな印象が強いというリスナーがいる反面、生っぽいギターやブラスセクションが頻出するためアコースティックな印象を受けるリスナーも存在するみたいですが、実際のサウンドは紛れもないテクノポップを通過したニューウェーブそのものと言える電子的な音響を中心にして構築されたものです。それゆえに本作は「マニア・マニエラ」のサウンド手法を踏襲した作品と一面的には言えると思われますが、あの作品のような閉塞感は感じられず、程よいオプティミスティックな明るさを感じることができるのも「青空百景」を通過したためとも言えるので、結局のところは前述のように両作品で得た経験とセンスをバランス良く生かし、進化させた作品というのがほぼ正当な印象と言えるでしょう。もちろんプロデューサーとの軋轢やレコーディング時間の長さ(これは打ち込み多用による手間がそうさせたのでしょう)といった側面的な話題もある本作ですが、機材の進化と共にセンスを研ぎ澄ませていた80年代のMOON RIDERSらしい、ニューウェーブ好きを裏切らない好作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「Y.B.J (YOUNG BLOOD JACK)」
サンプリングによるカークラッシュの導入から期待感を煽られるオープニングチューン。特にBメロにかぶさる小気味よいギターと人力ディレイなコーラスが楽しいです。音数が少ない中で光る機械的なリズムもしっかりと楽曲を支えています。
・「M.I.J.」
リズムパターンからも黒さ満点のエレクトロポップ。前面に出て主張するエレドラやスラップ、そして跳ねるようなカッティングギターといったエレクトリックファンク全開のトラックが彼らにしては「らしくない」とすら思わせますが、バックのアコギにバンドとしての主張を残している印象です。
・「BLDG (ジャックはビルを見つめて)」
サンプリングで構築されたリズムと音の壁と化しているコーラスワークが印象的なバラードソング。ほとんどリズムとヴォーカルとコーラスで構築されているためアカペラソングとしても聴くことができますが、後半急に深いリバーブに包まれる激変ぶりに意表を突かれるなど、彼ららしい仕掛けもバッチリです。
<評点>
・サウンド ★★★ (生楽器にも電子的に音響をいじって結果エレクトリックに)
・メロディ ★★ (彼らなりのひねくれポップなメロを書こうとしているが)
・リズム ★★★★ (サンプラーを駆使したリズムで全体的にマシナリーな印象に)
・曲構成 ★ (コンセプト作ではあるが劇的な構成ではなく淡々と進む印象)
・個性 ★★ (「マニア〜」ほどの刺激はないものの紛れもない彼らの音)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「PROMISED MELODIES」 face to ace
「PROMISED MELODIES」(2011 Free-style)
face to ace

<members>
ACE:vocal・guitar・chorus
本田海月:vocal・synthesizer・computer programming・chorus
1.「HISTORIA」 曲・編:本田海月
2.「約束の旋律」 詞:ACE 曲・編:本田海月
3.「ACROSS THE DAWN」 詞・曲:ACE 編:本田海月
4.「MY SKY」 詞・曲:ACE 編:本田海月
5.「残照」 詞・曲:ACE 編:本田海月
6.「荒野」 詞・曲・編:本田海月
7.「SUSPECT」 詞・曲:ACE 編:本田海月
8.「BE ALIVE」 詞・曲:ACE 編:本田海月
9.「silence」 曲:ACE 編:本田海月
10.「灯」 詞:ACE 曲・編:本田海月
<support musician>
YANZ:bass
西川貴博:drums
produced by face to ace
engineered by 本田海月・河野利昭・青木久能
● 10周年にして10枚目!オリジナルとしては6枚目の美メロと繊細なサウンドメイクに満ちたバラエティにも富む好作品
face to aceの2009年の5thアルバム「PEAKS」はギターサウンドをフィーチャーしたロックアルバムでしたが、結成10周年を迎えるにあたり彼らが選択したのは、原点に立ち返ることでした。ノスタルジックな味わいの切ないメロディとテクニカルなギターフレーズ、優しく包み込む滲むようなシンセサウンドという彼らの得意技を、やはり10周年記念盤では重視していくことになります。しかし当然のことながらこれまでの作品で培ってきた生楽器やプログラミングを楽曲に応じて巧みに使い分けてきた経験は、その楽曲群にバラエティをもたらしていて、新機軸を取り入れながらこれからのface to aceへの期待感を煽るような良質の作品への仕上げ方など、彼らの相変わらずのクオリティに安心させられます。
本作の特徴としてはまずACEと本田海月の各々が書いたインストが収録されていることでしょう。大陸的な血湧き肉踊る本田作曲の「HISTORIA」、静謐なギターインスト「silence」との対比が興味深いです。そしてface to aceでは初めて本田海月が歌を担当した「荒野」。彼の歌はハイスクールオーラバスターシリーズでしか堪能できませんでしたが、相変わらずの線の細さとそれゆえにすんなり染み込んでくる不思議な歌唱で、ACEとは全く異なった味を醸し出しています。そしてもはや毎回述べていると思うのですが、空間を巧みに利用したシンセの使い方が相変わらず絶妙で、激しめの楽曲でもゆったりめの楽曲でも美しいシンセパッドがいぶし銀のように支えていて、それだけで楽曲に限りなく広がりを持たせているこの職人芸には相変わらず感心させられます。本作も良質な楽曲が多く収録される中でテクノなプログラミングが光る「SUSPECT」やストレートなロックチューン「BE ALIVE」のようなバラエティを持たせようとした挑戦的な楽曲もありますが、既に完成され熟成され尽くした彼らの王道的旅情エレクトロ楽曲でも十分満足できる完成度であり、今後もじっくり彼らのストロングポイントをより熟成し充実させた良い作品を届けてほしいと思います。
<Favorite Songs>
・「約束の旋律」
壮大なインスト「HISTORIA」から続く形でなだれ込む王道face to aceソング。相変わらずの訴求力のある哀愁メロディラインと本田特有の繊細なシンセフレーズが楽曲を包み込む、あの名盤「NOSTALGIA」を彷佛とさせる名曲です。本田シンセソロ&本田エンディングもまさに王道です。
・「ACROSS THE DAWN」
前作「PEAKS」に収録されてもおかしくないようなロック調の中に爽やかさを包含したようなメロディが心地良い楽曲。全体を包んでいる控えめのシンセパッドが非常に効いています。サビやギターソロもこの白玉があってこそで、こういった音の壁のセンスには相変わらず非凡なものがあります。最後のシンセソロも圧巻!
・「灯」
ラストを飾るのにふさわしい本田バラード。既にAメロでグッとくるメロディで引き込んでくれます。激しいサウンドをバックにしたサビは少々似つかわしくない印象も受けますが、轟音の中でも主張する泣きのフレーズが彼らの音楽的なセンスの賜物でしょう。
<評点>
・サウンド ★★★ (相変わらずの浮遊感のある絶妙なシンセ使い)
・メロディ ★★★ (やはりどうしても本田楽曲の切なさが抜きん出る)
・リズム ★ (曲調もあってか派手さは感じず普遍的な印象が強い)
・曲構成 ★★ (良い楽曲も多いが中盤からもう1つ煮え切らなさも)
・個性 ★★ (原点に立ち返り名曲も連発、しかし挑戦が散漫さに)
総合評点: 7点
face to ace

<members>
ACE:vocal・guitar・chorus
本田海月:vocal・synthesizer・computer programming・chorus
1.「HISTORIA」 曲・編:本田海月
2.「約束の旋律」 詞:ACE 曲・編:本田海月
3.「ACROSS THE DAWN」 詞・曲:ACE 編:本田海月
4.「MY SKY」 詞・曲:ACE 編:本田海月
5.「残照」 詞・曲:ACE 編:本田海月
6.「荒野」 詞・曲・編:本田海月
7.「SUSPECT」 詞・曲:ACE 編:本田海月
8.「BE ALIVE」 詞・曲:ACE 編:本田海月
9.「silence」 曲:ACE 編:本田海月
10.「灯」 詞:ACE 曲・編:本田海月
<support musician>
YANZ:bass
西川貴博:drums
produced by face to ace
engineered by 本田海月・河野利昭・青木久能
● 10周年にして10枚目!オリジナルとしては6枚目の美メロと繊細なサウンドメイクに満ちたバラエティにも富む好作品
face to aceの2009年の5thアルバム「PEAKS」はギターサウンドをフィーチャーしたロックアルバムでしたが、結成10周年を迎えるにあたり彼らが選択したのは、原点に立ち返ることでした。ノスタルジックな味わいの切ないメロディとテクニカルなギターフレーズ、優しく包み込む滲むようなシンセサウンドという彼らの得意技を、やはり10周年記念盤では重視していくことになります。しかし当然のことながらこれまでの作品で培ってきた生楽器やプログラミングを楽曲に応じて巧みに使い分けてきた経験は、その楽曲群にバラエティをもたらしていて、新機軸を取り入れながらこれからのface to aceへの期待感を煽るような良質の作品への仕上げ方など、彼らの相変わらずのクオリティに安心させられます。
本作の特徴としてはまずACEと本田海月の各々が書いたインストが収録されていることでしょう。大陸的な血湧き肉踊る本田作曲の「HISTORIA」、静謐なギターインスト「silence」との対比が興味深いです。そしてface to aceでは初めて本田海月が歌を担当した「荒野」。彼の歌はハイスクールオーラバスターシリーズでしか堪能できませんでしたが、相変わらずの線の細さとそれゆえにすんなり染み込んでくる不思議な歌唱で、ACEとは全く異なった味を醸し出しています。そしてもはや毎回述べていると思うのですが、空間を巧みに利用したシンセの使い方が相変わらず絶妙で、激しめの楽曲でもゆったりめの楽曲でも美しいシンセパッドがいぶし銀のように支えていて、それだけで楽曲に限りなく広がりを持たせているこの職人芸には相変わらず感心させられます。本作も良質な楽曲が多く収録される中でテクノなプログラミングが光る「SUSPECT」やストレートなロックチューン「BE ALIVE」のようなバラエティを持たせようとした挑戦的な楽曲もありますが、既に完成され熟成され尽くした彼らの王道的旅情エレクトロ楽曲でも十分満足できる完成度であり、今後もじっくり彼らのストロングポイントをより熟成し充実させた良い作品を届けてほしいと思います。
<Favorite Songs>
・「約束の旋律」
壮大なインスト「HISTORIA」から続く形でなだれ込む王道face to aceソング。相変わらずの訴求力のある哀愁メロディラインと本田特有の繊細なシンセフレーズが楽曲を包み込む、あの名盤「NOSTALGIA」を彷佛とさせる名曲です。本田シンセソロ&本田エンディングもまさに王道です。
・「ACROSS THE DAWN」
前作「PEAKS」に収録されてもおかしくないようなロック調の中に爽やかさを包含したようなメロディが心地良い楽曲。全体を包んでいる控えめのシンセパッドが非常に効いています。サビやギターソロもこの白玉があってこそで、こういった音の壁のセンスには相変わらず非凡なものがあります。最後のシンセソロも圧巻!
・「灯」
ラストを飾るのにふさわしい本田バラード。既にAメロでグッとくるメロディで引き込んでくれます。激しいサウンドをバックにしたサビは少々似つかわしくない印象も受けますが、轟音の中でも主張する泣きのフレーズが彼らの音楽的なセンスの賜物でしょう。
<評点>
・サウンド ★★★ (相変わらずの浮遊感のある絶妙なシンセ使い)
・メロディ ★★★ (やはりどうしても本田楽曲の切なさが抜きん出る)
・リズム ★ (曲調もあってか派手さは感じず普遍的な印象が強い)
・曲構成 ★★ (良い楽曲も多いが中盤からもう1つ煮え切らなさも)
・個性 ★★ (原点に立ち返り名曲も連発、しかし挑戦が散漫さに)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
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