「BIRTH OF THE MICROSTAR」 microstar
「BIRTH OF THE MICROSTAR」 (1996 シンクシンク)
microstar

<members>
飯泉裕子:vocal・bass
佐藤清喜:guitars・chorus・electronics
1.「idol」 詞:飯泉裕子 曲:佐藤清輝 編:microstar
2.「miss honey tongue」 詞:飯泉裕子 曲:佐藤清輝 編:microstar
3.「sweet stupid」 詞:飯泉裕子 曲:佐藤清輝 編:microstar
4.「rap phenomena」 詞:細野晴臣・Peter Barakan 曲:細野晴臣 編:microstar
5.「marmalade」 詞:飯泉裕子 曲:佐藤清輝 編:microstar
6.「microstar’s theme」 詞・曲・編:microstar
produced by Think Sync Integral・microstar
engineered by 寺田康彦・佐藤清喜
● nice music解散後に始動させたテクノ風味な泣きのガールポップユニットが放つ挨拶代わりのデビュー作
テクノポップと渋谷系のおいしいエッセンスを巧みに料理した90年代の再評価すべき優良POPSユニットであったnice music解散後、安達祐実らに楽曲提供するなどクリエイターとしても評価を上げつつあった佐藤清喜が、P-Chanこと飯泉裕子と結成したガールズポップユニットがmicrostarです。折しもアルファレコードの名エンジニアであった寺田康彦らが立ち上げた「Mezo Techno」を標榜するレーベルThink Sync Integralが立ち上がり、その看板アーティストとしてmicrostarに白羽の矢が立ち、早速1996年1stミニアルバムである本作がリリースされます。nice music時代はテクノ心をそそられるシンセサウンドに60年代的な美メロを施した楽曲に定評があった佐藤の新ユニットということで、どのようなアプローチを見せるのか注目されていましたが、シンセによる電子音に対するこだわりは残しつつも、外に飛び出したような開放的で明るい曲調はまさに新ユニットへの意気込みが感じられるものでした。
躍動感のあるギターによるアメリカンなバブルガムポップを彷佛とさせる懐かしいサウンド、そしてP-chanのオシャレなヴォーカルスタイルによる安定感抜群の楽曲スタイルには、もはや文句のつけどころがないところですが、本作は次作以降の作品に比べると、いかにもシンセやシーケンスを駆使した楽曲も多く、nice musicが持っていたスペイシーな感覚の残滓を感じ取ることができます。そんなきらびやかなテイストもガーリーなヴォーカルのおかげで夢見る少女を想起させることに成功しており、決して高品質な楽曲のクオリティに影響するものではありません。また、まさかのガレージポップなYMOのリメイク「rap phenomena(ラップ現象)」には、あの陰鬱な原曲を覆すほどの確固たる個性と自身の音楽の方向性が感じられます。このリメイクこそが彼らの実力とセンスを遺憾なく発揮していると言えるでしょう。次作には既に美メロエヴァーグリーンPOPSの萌芽を見せ、00年代からは完全にポップマエストロへの道を歩んでいくmicrostarですが、このデビュー作においても現在のイメージとは違えどもその方向性にブレは感じさせませんし、この直線的な電子ガールポップにも現在の彼らにつながる楽曲センスは既に散りばめられているのです。
<Favorite Songs>
・「idol」
はじけるような爽快感がやみつきになるメジャー感抜群のポップソング。直線的な打ち込みによるドラム&ベースによる粗いサウンドが躍動的でまさに新ユニットの幕開けにふさわしい良曲です。
・「marmalade」
完全スペイシーなドリーミーエレクトリックPOPS。nice musicの残り香漂う宇宙なシンセパッドと幾層にも重ねられたシーケンス、ロマンティックなBメロなど、現在の印象とは違いますが90年代テクノポップの名曲には違いありません。
<評点>
・サウンド ★★ (全編打ち込みが活躍することで輪郭のはっきりした楽曲に)
・メロディ ★★★ (定型的な構成の中で美メロを追求するまさに職人的なセンス)
・リズム ★★ (打ち込みの良さが伝わるジャストなリズムワーク)
・曲構成 ★ (ミニアルバムとはいえもう少し収録してほしかったのも事実)
・個性 ★ (いわゆる過渡期のため前ユニットの感覚も引きずり気味)
総合評点: 7点
microstar

<members>
飯泉裕子:vocal・bass
佐藤清喜:guitars・chorus・electronics
1.「idol」 詞:飯泉裕子 曲:佐藤清輝 編:microstar
2.「miss honey tongue」 詞:飯泉裕子 曲:佐藤清輝 編:microstar
3.「sweet stupid」 詞:飯泉裕子 曲:佐藤清輝 編:microstar
4.「rap phenomena」 詞:細野晴臣・Peter Barakan 曲:細野晴臣 編:microstar
5.「marmalade」 詞:飯泉裕子 曲:佐藤清輝 編:microstar
6.「microstar’s theme」 詞・曲・編:microstar
produced by Think Sync Integral・microstar
engineered by 寺田康彦・佐藤清喜
● nice music解散後に始動させたテクノ風味な泣きのガールポップユニットが放つ挨拶代わりのデビュー作
テクノポップと渋谷系のおいしいエッセンスを巧みに料理した90年代の再評価すべき優良POPSユニットであったnice music解散後、安達祐実らに楽曲提供するなどクリエイターとしても評価を上げつつあった佐藤清喜が、P-Chanこと飯泉裕子と結成したガールズポップユニットがmicrostarです。折しもアルファレコードの名エンジニアであった寺田康彦らが立ち上げた「Mezo Techno」を標榜するレーベルThink Sync Integralが立ち上がり、その看板アーティストとしてmicrostarに白羽の矢が立ち、早速1996年1stミニアルバムである本作がリリースされます。nice music時代はテクノ心をそそられるシンセサウンドに60年代的な美メロを施した楽曲に定評があった佐藤の新ユニットということで、どのようなアプローチを見せるのか注目されていましたが、シンセによる電子音に対するこだわりは残しつつも、外に飛び出したような開放的で明るい曲調はまさに新ユニットへの意気込みが感じられるものでした。
躍動感のあるギターによるアメリカンなバブルガムポップを彷佛とさせる懐かしいサウンド、そしてP-chanのオシャレなヴォーカルスタイルによる安定感抜群の楽曲スタイルには、もはや文句のつけどころがないところですが、本作は次作以降の作品に比べると、いかにもシンセやシーケンスを駆使した楽曲も多く、nice musicが持っていたスペイシーな感覚の残滓を感じ取ることができます。そんなきらびやかなテイストもガーリーなヴォーカルのおかげで夢見る少女を想起させることに成功しており、決して高品質な楽曲のクオリティに影響するものではありません。また、まさかのガレージポップなYMOのリメイク「rap phenomena(ラップ現象)」には、あの陰鬱な原曲を覆すほどの確固たる個性と自身の音楽の方向性が感じられます。このリメイクこそが彼らの実力とセンスを遺憾なく発揮していると言えるでしょう。次作には既に美メロエヴァーグリーンPOPSの萌芽を見せ、00年代からは完全にポップマエストロへの道を歩んでいくmicrostarですが、このデビュー作においても現在のイメージとは違えどもその方向性にブレは感じさせませんし、この直線的な電子ガールポップにも現在の彼らにつながる楽曲センスは既に散りばめられているのです。
<Favorite Songs>
・「idol」
はじけるような爽快感がやみつきになるメジャー感抜群のポップソング。直線的な打ち込みによるドラム&ベースによる粗いサウンドが躍動的でまさに新ユニットの幕開けにふさわしい良曲です。
・「marmalade」
完全スペイシーなドリーミーエレクトリックPOPS。nice musicの残り香漂う宇宙なシンセパッドと幾層にも重ねられたシーケンス、ロマンティックなBメロなど、現在の印象とは違いますが90年代テクノポップの名曲には違いありません。
<評点>
・サウンド ★★ (全編打ち込みが活躍することで輪郭のはっきりした楽曲に)
・メロディ ★★★ (定型的な構成の中で美メロを追求するまさに職人的なセンス)
・リズム ★★ (打ち込みの良さが伝わるジャストなリズムワーク)
・曲構成 ★ (ミニアルバムとはいえもう少し収録してほしかったのも事実)
・個性 ★ (いわゆる過渡期のため前ユニットの感覚も引きずり気味)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「AURORA」 平沢進
「AURORA」 (1994 コロムビア)
平沢進:vocals・all instruments

1.「石の庭」 詞・曲・編:平沢進
2.「LOVE SONG」 詞・曲・編:平沢進
3.「オーロラ」 詞・曲・編:平沢進
4.「力の唄」 詞・曲・編:平沢進
5.「舵をとれ」 詞・曲・編:平沢進
6.「スノーブラインド」 詞・曲・編:平沢進
7.「風の分身」 詞・曲・編:平沢進
8.「広場で」 詞・曲・編:平沢進
9.「トビラ島(パラネシアン・サークル)」 詞・曲・編:平沢進
10.「呼んでるベル」 詞・曲・編:平沢進
produced by 平沢進
co-produced by 見城裕一
engineered by 鎮西正憲
● 3部作と3部作の間に挟まれ静謐と孤独の中で緻密に作り上げられた孤高の4thアルバム
1989年のソロ活動開始以降、トリッキーかつ大陸的な無国籍POPSをみずからの美声を生かして3枚のアルバムリリースにより確立した平沢進は、アニメ「DETONATORオーガン」シリーズやライトノベルのイメージアルバム「グローリー戦記」のサントラを手掛けた後レコード会社を移籍、94年に4枚目のアルバムとなる本作をリリースします。過去のオリジナル3作では豪華なゲストを迎え気心の知れた仲間たちとソロ活動を楽しんでいた印象がありましたが、本作ではほぼ完全なる個人作業によって制作され、その後の活動は基本的にこのスタイルを継続していくことになります。これは別プロジェクトのP-MODELとの棲み分けをさらに明確化したとも言えますが、その背景にはこの時期より始められた今では彼の代名詞の1つでもある「あらかじめ作られたストーリーへの観客参加型ライブ」、インタラクティブ・ライブ構想をイメージが既にあったものと思われます。
さて、個人作業となった本作のサウンドは平沢が持ち合わせる壮大な世界観を前3作で見られたようなトリッキーなギミック要素を極力排除して表現した、究極のヒーリングミュージックです。奇をてらわないメロディライン、柔らかい音色選択と緻密に組み立てられたシーケンス、荘厳なオーケストレーションと、どちらかといえば耳に優しい新しいアプローチに挑戦している意欲的な作風です。また、随所で見られる壮大なオーケストレーションと電子音との融合、そしてリバーブを多用した平沢のよく伸びる歌唱は、後年確立される平沢ソロサウンドスタイルとのまさに橋渡しとなっています。超大作「トビラ島」では我慢しきれずTangerine Dreamやっちゃうなどテクノな精神は隠せない本作ですが、全体的に地味な印象は拭えないものの転換期の重厚な楽曲を取り揃えた作品として、平沢ソロ活動の中でも大変重要な分岐点となった作品であることは間違いありません。
<Favorite Songs>
・「舵をとれ」
全編に響き渡るシンセベースが嬉しい本作中最も躍動感がある楽曲。後に「BERSERK -Forces-」として生まれ変わるこの楽曲は目まぐるしく蠢くストリングスフレーズがポイントで、この手法は現在でも平沢サウンドの核となっています。
・「スノーブラインド」
ボイスサンプリングの散りばめ方やクラップの音響、神秘的なシンセの使い方にセンスを感じるミディアムバラード。緩急の巧みな使い方は平沢メロの真骨頂ですが、全体的に地味なフレーズの中で繊細な音づくりが生きています。
・「トビラ島(パラネシアン・サークル)」
13分以上にもわたるTangerine Dream風組曲。結局本作でやりたかったのはこれ、と言っても過言ではないかも。前半は静謐なバラードが延々と続き、後半では電子音シーケンスをベースに情報量の多い畳み掛ける歌唱で緊張感を高めていく、大作ながらもなんとも地味な楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (丸みを帯びた音色によって肌触りの良い癒し系サウンドに)
・メロディ ★ (聴きやすいがひねった部分もなく素直なフレーズに終始)
・リズム ★ (緩めの楽曲が多いためかリズムが目立つ部分が少ない)
・曲構成 ★ (1曲が長くじっくり聴かせる意図は感じられるが・・)
・個性 ★ (平沢のトリッキーな部分を期待すると肩透かしかも)
総合評点: 6点
平沢進:vocals・all instruments

1.「石の庭」 詞・曲・編:平沢進
2.「LOVE SONG」 詞・曲・編:平沢進
3.「オーロラ」 詞・曲・編:平沢進
4.「力の唄」 詞・曲・編:平沢進
5.「舵をとれ」 詞・曲・編:平沢進
6.「スノーブラインド」 詞・曲・編:平沢進
7.「風の分身」 詞・曲・編:平沢進
8.「広場で」 詞・曲・編:平沢進
9.「トビラ島(パラネシアン・サークル)」 詞・曲・編:平沢進
10.「呼んでるベル」 詞・曲・編:平沢進
produced by 平沢進
co-produced by 見城裕一
engineered by 鎮西正憲
● 3部作と3部作の間に挟まれ静謐と孤独の中で緻密に作り上げられた孤高の4thアルバム
1989年のソロ活動開始以降、トリッキーかつ大陸的な無国籍POPSをみずからの美声を生かして3枚のアルバムリリースにより確立した平沢進は、アニメ「DETONATORオーガン」シリーズやライトノベルのイメージアルバム「グローリー戦記」のサントラを手掛けた後レコード会社を移籍、94年に4枚目のアルバムとなる本作をリリースします。過去のオリジナル3作では豪華なゲストを迎え気心の知れた仲間たちとソロ活動を楽しんでいた印象がありましたが、本作ではほぼ完全なる個人作業によって制作され、その後の活動は基本的にこのスタイルを継続していくことになります。これは別プロジェクトのP-MODELとの棲み分けをさらに明確化したとも言えますが、その背景にはこの時期より始められた今では彼の代名詞の1つでもある「あらかじめ作られたストーリーへの観客参加型ライブ」、インタラクティブ・ライブ構想をイメージが既にあったものと思われます。
さて、個人作業となった本作のサウンドは平沢が持ち合わせる壮大な世界観を前3作で見られたようなトリッキーなギミック要素を極力排除して表現した、究極のヒーリングミュージックです。奇をてらわないメロディライン、柔らかい音色選択と緻密に組み立てられたシーケンス、荘厳なオーケストレーションと、どちらかといえば耳に優しい新しいアプローチに挑戦している意欲的な作風です。また、随所で見られる壮大なオーケストレーションと電子音との融合、そしてリバーブを多用した平沢のよく伸びる歌唱は、後年確立される平沢ソロサウンドスタイルとのまさに橋渡しとなっています。超大作「トビラ島」では我慢しきれずTangerine Dreamやっちゃうなどテクノな精神は隠せない本作ですが、全体的に地味な印象は拭えないものの転換期の重厚な楽曲を取り揃えた作品として、平沢ソロ活動の中でも大変重要な分岐点となった作品であることは間違いありません。
<Favorite Songs>
・「舵をとれ」
全編に響き渡るシンセベースが嬉しい本作中最も躍動感がある楽曲。後に「BERSERK -Forces-」として生まれ変わるこの楽曲は目まぐるしく蠢くストリングスフレーズがポイントで、この手法は現在でも平沢サウンドの核となっています。
・「スノーブラインド」
ボイスサンプリングの散りばめ方やクラップの音響、神秘的なシンセの使い方にセンスを感じるミディアムバラード。緩急の巧みな使い方は平沢メロの真骨頂ですが、全体的に地味なフレーズの中で繊細な音づくりが生きています。
・「トビラ島(パラネシアン・サークル)」
13分以上にもわたるTangerine Dream風組曲。結局本作でやりたかったのはこれ、と言っても過言ではないかも。前半は静謐なバラードが延々と続き、後半では電子音シーケンスをベースに情報量の多い畳み掛ける歌唱で緊張感を高めていく、大作ながらもなんとも地味な楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (丸みを帯びた音色によって肌触りの良い癒し系サウンドに)
・メロディ ★ (聴きやすいがひねった部分もなく素直なフレーズに終始)
・リズム ★ (緩めの楽曲が多いためかリズムが目立つ部分が少ない)
・曲構成 ★ (1曲が長くじっくり聴かせる意図は感じられるが・・)
・個性 ★ (平沢のトリッキーな部分を期待すると肩透かしかも)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「THE WILDEST WISH TO FLY」 Rupert Hine
「THE WILDEST WISH TO FLY」(1983 A&M)
Rupert Hine:vocals・all instruments

1.「No Yellow Heart」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
2.「Blue Flame (Melt The Ice)」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
3.「The Saturation Of The Video Rat」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
4.「Firefly In The Night」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
5.「A Golden Age」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
6.「Picture Phone」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
7.「The Victim Of Wanderlust」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
8.「The Most Dangerous Of Men」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
9.「The Wildest Wish To Fly」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
<support musician>
Robert Palmer:vocal
James West Oram:guitars
Phil Palmer:guitars・icicles
Michael Dawe:drums
Trevor Morais:drums
Ollie William Tayler:woodwind・recorder・bottles
produced by Rupert Hine・Stephen William Tayler
engineered by Stephen William Tayler
● 前作の発展型ながらわずかながらポップ方向へ移行したエレクトロラジカルポップの職人による3部作最後の作品
「Immunity」「Waving Not Drowning」とエレクトリック&ドラマティックなアルバムを連発し、プロデューサーとしてのセンスと力量をいかんなく発揮したRupert Hineは、1年1枚のペースを崩さずに1983年、エレクトリック3部作ともいえる本作をリリースすることになります。神経質と思えるほどの緻密な構成を進歩が著しかった電子楽器を存分に活用して作り上げた難解なエレクトロポップという作風は前2作とほぼ変わらないものの、単純にわかりやすくあろうとする意志が見え隠れするようなポップなフレーズを無理矢理繰り出そうと苦労している面もあり、3部作ラストにしてバランスをつかみたかったのに逆に散漫になってしまったかのように思えます。世界的なリリースを目指す上で、オランダ等の欧州先行発売では一部楽曲変更(「No Yellow Heart 」は新バージョンに、「Living in Sin」は「Blue Flame (Melt the Ice)」に変更)したことからも、極力「わかりやすさ」をアピールすることに腐心した様子がうかがえる作品です。
世界リリース盤では余りに明るいエレポップ「Blue Flame (Melt the Ice)」でイメージを覆されてしまうこと請け合いの本作ですが、これは世界へのウケを狙った勝負の賜物であると言えるでしょう。その他の楽曲はこれまでの期待を裏切らない難解で煮え切らないエレクトロミュージックの枠に収まった楽曲が並びます。しかしながら83年という時期により音の粒が鮮明化したことと、クオリティの高さは言うまでもないものの一般には受け入れ難い作品であったことの反省からの「わかりやすさ」の追求が、邦題の「飛翔への野望」に暗喩されるような一般認知への欲求と捉えられるポップ性を生み出していると言っても過言ではありません。サウンド面で目立つのは地を這うようなシーケンスで、しかもフィルターでくぐもらせたような粘っこいフレーズを多用しています。このあたりの気持ち悪さというかアナログ臭さは前作までの路線を継承していますが、もはやこれは彼の手グセともいうべきでしょう。古くから活躍するプロデューサーとしての豊富な経験により培った音に対するセンスの行き着く先が、このシーケンスであると言えるかもしれません。そして何といってもやはりこの湿っぽい歌唱がニューウェーブで、好き嫌いは分かれそうですが時代を感じさせる独特の「味」として楽しめる80年代らしい作品の1つであると思います。結局Rupert Hine名義ソロとしてはポップになりきれず成功はしなかったものの、後にHoward Jones等のプロデュースで脚光を浴びるなど一流のサウンドプロデューサーとして現在もなお裏方として活躍し続けています。
<Favorite Songs>
・「No Yellow Heart」
本作の「わかりやすさ」をアピールするのに最適なエレクトロポップ。Aメロの機械的に跳ねるシーケンスがまさにテクノティック。絶妙なスピード感とクールな質感がかっこよさを失わず、なおかつポップであろうとしている部分にこれまでにない姿勢が見えます。
・「The Saturation Of The Video Rat」
全体的な音色のコクが味わい深いRupert Hine節の楽曲。尖った音の角を削り取ったような丸みのある音色を神経質に積み重ねたシーケンス&リズムが、朴訥としたフレーズによくマッチしています。
・「A Golden Age」
重厚なシーケンス&リズムが支配するこれぞRupertソロの真骨頂というべきミディアムテンポの楽曲。前作を継承するプログレッシブでポップ性のかけらもないサスペンスタッチのメロディに良い意味で相変わらず神経質さが滲み出ています。
<評点>
・サウンド ★★★ (煮え切らなさは音からも表出するが高品質)
・メロディ ★ (ポップ化を目指そうとするが無理してる印象)
・リズム ★★ (冒険していはいるが全体としてどうしても地味)
・曲構成 ★ (わかりやすくしようとしてバランスを欠く)
・個性 ★ (結果的にやはり難解な作風から抜けきれず)
総合評点: 6点
Rupert Hine:vocals・all instruments

1.「No Yellow Heart」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
2.「Blue Flame (Melt The Ice)」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
3.「The Saturation Of The Video Rat」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
4.「Firefly In The Night」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
5.「A Golden Age」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
6.「Picture Phone」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
7.「The Victim Of Wanderlust」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
8.「The Most Dangerous Of Men」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
9.「The Wildest Wish To Fly」 Rupert Hine/Jeannette Obstoj
<support musician>
Robert Palmer:vocal
James West Oram:guitars
Phil Palmer:guitars・icicles
Michael Dawe:drums
Trevor Morais:drums
Ollie William Tayler:woodwind・recorder・bottles
produced by Rupert Hine・Stephen William Tayler
engineered by Stephen William Tayler
● 前作の発展型ながらわずかながらポップ方向へ移行したエレクトロラジカルポップの職人による3部作最後の作品
「Immunity」「Waving Not Drowning」とエレクトリック&ドラマティックなアルバムを連発し、プロデューサーとしてのセンスと力量をいかんなく発揮したRupert Hineは、1年1枚のペースを崩さずに1983年、エレクトリック3部作ともいえる本作をリリースすることになります。神経質と思えるほどの緻密な構成を進歩が著しかった電子楽器を存分に活用して作り上げた難解なエレクトロポップという作風は前2作とほぼ変わらないものの、単純にわかりやすくあろうとする意志が見え隠れするようなポップなフレーズを無理矢理繰り出そうと苦労している面もあり、3部作ラストにしてバランスをつかみたかったのに逆に散漫になってしまったかのように思えます。世界的なリリースを目指す上で、オランダ等の欧州先行発売では一部楽曲変更(「No Yellow Heart 」は新バージョンに、「Living in Sin」は「Blue Flame (Melt the Ice)」に変更)したことからも、極力「わかりやすさ」をアピールすることに腐心した様子がうかがえる作品です。
世界リリース盤では余りに明るいエレポップ「Blue Flame (Melt the Ice)」でイメージを覆されてしまうこと請け合いの本作ですが、これは世界へのウケを狙った勝負の賜物であると言えるでしょう。その他の楽曲はこれまでの期待を裏切らない難解で煮え切らないエレクトロミュージックの枠に収まった楽曲が並びます。しかしながら83年という時期により音の粒が鮮明化したことと、クオリティの高さは言うまでもないものの一般には受け入れ難い作品であったことの反省からの「わかりやすさ」の追求が、邦題の「飛翔への野望」に暗喩されるような一般認知への欲求と捉えられるポップ性を生み出していると言っても過言ではありません。サウンド面で目立つのは地を這うようなシーケンスで、しかもフィルターでくぐもらせたような粘っこいフレーズを多用しています。このあたりの気持ち悪さというかアナログ臭さは前作までの路線を継承していますが、もはやこれは彼の手グセともいうべきでしょう。古くから活躍するプロデューサーとしての豊富な経験により培った音に対するセンスの行き着く先が、このシーケンスであると言えるかもしれません。そして何といってもやはりこの湿っぽい歌唱がニューウェーブで、好き嫌いは分かれそうですが時代を感じさせる独特の「味」として楽しめる80年代らしい作品の1つであると思います。結局Rupert Hine名義ソロとしてはポップになりきれず成功はしなかったものの、後にHoward Jones等のプロデュースで脚光を浴びるなど一流のサウンドプロデューサーとして現在もなお裏方として活躍し続けています。
<Favorite Songs>
・「No Yellow Heart」
本作の「わかりやすさ」をアピールするのに最適なエレクトロポップ。Aメロの機械的に跳ねるシーケンスがまさにテクノティック。絶妙なスピード感とクールな質感がかっこよさを失わず、なおかつポップであろうとしている部分にこれまでにない姿勢が見えます。
・「The Saturation Of The Video Rat」
全体的な音色のコクが味わい深いRupert Hine節の楽曲。尖った音の角を削り取ったような丸みのある音色を神経質に積み重ねたシーケンス&リズムが、朴訥としたフレーズによくマッチしています。
・「A Golden Age」
重厚なシーケンス&リズムが支配するこれぞRupertソロの真骨頂というべきミディアムテンポの楽曲。前作を継承するプログレッシブでポップ性のかけらもないサスペンスタッチのメロディに良い意味で相変わらず神経質さが滲み出ています。
<評点>
・サウンド ★★★ (煮え切らなさは音からも表出するが高品質)
・メロディ ★ (ポップ化を目指そうとするが無理してる印象)
・リズム ★★ (冒険していはいるが全体としてどうしても地味)
・曲構成 ★ (わかりやすくしようとしてバランスを欠く)
・個性 ★ (結果的にやはり難解な作風から抜けきれず)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「THE MAN・MACHINE」 KRAFTWARK
「THE MAN・MACHINE」(1978 EMI)
KRAFTWERK

<members>
Ralf Hutter:voice・vocoder・synthesizer・keyboards・Orchestron synthanorma sequencer・electronics
Florian Schneider:vocorder・votrax・synthesizer・electronics
Karl Bartos:electronic drums
Wolfgang Flur:electronic drums
1.「THE ROBOTS」 Ralf Hutter/Florian Schneider/Karl Bartos
2.「SPACELAB」 Ralf Hutter/Karl Bartos
3.「METROPOLIS」 Ralf Hutter/Florian Schneider/Karl Bartos
4.「THE MODEL」 Ralf Hutter/Emil Schult/Karl Bartos
5.「NEON LIGHTS」 Ralf Hutter/Florian Schneider/Karl Bartos
6.「THE MAN・MACHINE」 Ralf Hutter/Karl Bartos
produced by Ralf Hutter・Florian Schneider
engineered by Joschko Rudas・Leanard Jackson
● 遂に意識まで機械化しサイバネティクスなイメージでテクノポップブームの幕開けを飾った歴史的名盤
KRAFTWERKとしてのアイデンティティを確立した1977年リリースの名盤「Trans Europe Express」から1年、その象徴ともいえる本作が生まれました。日本盤では「人間解体」と題された本作は、遂に自動車〜列車という流れの乗物シリーズから人間自らが完全機械化を果たしたかのような近未来SF感覚を前面に押し出してまいります。ロシア構成主義の匂いがプンプン漂うジャケ、コンセプトの塊のような楽曲の数々、人間味を感じさせないパフォーマンス、彼らの一挙手一投足が当時の音楽シーンに与えた影響力は大きく、全世界的に席巻していくテクノポップムーブメントの礎となり、模範ともなった世紀の名盤として、好事家ならずともその存在は知っていると思われる超メジャーな作品でもあります。
さて、本作も気持ち良いくらい全編シンセサイザーで攻めまくるKRAFTWERKですが、まず音色の選択が少し変化したような印象を受けます。音の粒立ちが良くなり特に低音は非常に太くなりました。ズッシリ来るスウィープパッドやフィルタリングサウンドがサウンドに奥行きを持たせていますし、それが近未来なコンセプトに見事にマッチしているため、これまでの彼らのサウンドと比較しても全く違和感は感じられません。それは前作までに培ってきた彼らのパブリックイメージが本作の挑戦的なサウンドを受け入れやすいものにしているのであると思われます。また、もう1つの劇的な変化はKarl Bartosの楽曲への参加で、本作が持ち合わせている親しみやすさ、ポップ性は彼の参加なしにはあり得ないのではないでしょうか。牧歌的にも感じられるオプティミスティックな雰囲気はグループ創設以来のものですが、時間も長くミニマル要素の強い楽曲をキャッチー性のある覚えやすいフレージングで聴き手を飽きさせないようにするセンスは、グループ離脱後のKarl Bartosのソロ活動を考えると、彼の功績によるものであると言えるでしょう。そして本作によってテクノポップブームの火をつけた彼らは、その後もこの不器用かつ鋼のコンセプトを踏襲して孤高のスタイルを確立し、テクノの神と呼ばれるまでの存在となっていくことは周知のことであると思います。
<Favorite Songs>
・「THE ROBOTS」
テクノアンセムとなったシンセベースのリフで始まる彼らの代名詞的名曲。いつ聴いてもこの音色のコクの深さは計り知れません。また日本人が泣いて喜ぶ琴の音色を模したオリエンタルなメインフレーズが採用されていることに、科学技術立国ニッポンのイメージが当時の世界に認識されていたことが垣間見えます。
・「THE MAN・MACHINE」
繰り返しの美学を昇華させたタイトルチューン。電子音を散りばめたパーカッションと地の底から湧き出るようなボコーダーの絡み方が何とも言えない奇妙な雰囲気を醸し出しています。抑揚もなくただ繰り返すというミニマルによる麻薬効果がまた怪しく感じられる楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (音そのものの太さが楽曲に芯を与え不気味さも加える)
・メロディ ★★ (前作と比べるとイメージを崩さない程度の明るさ)
・リズム ★ (電子的なリズムで工夫も見られるが単純さも)
・曲構成 ★ (このコンセプトであれば10曲以上の大作でも良かった)
・個性 ★★ (世間一般のこのグループのイメージは本作に尽きる)
総合評点: 6点
KRAFTWERK

<members>
Ralf Hutter:voice・vocoder・synthesizer・keyboards・Orchestron synthanorma sequencer・electronics
Florian Schneider:vocorder・votrax・synthesizer・electronics
Karl Bartos:electronic drums
Wolfgang Flur:electronic drums
1.「THE ROBOTS」 Ralf Hutter/Florian Schneider/Karl Bartos
2.「SPACELAB」 Ralf Hutter/Karl Bartos
3.「METROPOLIS」 Ralf Hutter/Florian Schneider/Karl Bartos
4.「THE MODEL」 Ralf Hutter/Emil Schult/Karl Bartos
5.「NEON LIGHTS」 Ralf Hutter/Florian Schneider/Karl Bartos
6.「THE MAN・MACHINE」 Ralf Hutter/Karl Bartos
produced by Ralf Hutter・Florian Schneider
engineered by Joschko Rudas・Leanard Jackson
● 遂に意識まで機械化しサイバネティクスなイメージでテクノポップブームの幕開けを飾った歴史的名盤
KRAFTWERKとしてのアイデンティティを確立した1977年リリースの名盤「Trans Europe Express」から1年、その象徴ともいえる本作が生まれました。日本盤では「人間解体」と題された本作は、遂に自動車〜列車という流れの乗物シリーズから人間自らが完全機械化を果たしたかのような近未来SF感覚を前面に押し出してまいります。ロシア構成主義の匂いがプンプン漂うジャケ、コンセプトの塊のような楽曲の数々、人間味を感じさせないパフォーマンス、彼らの一挙手一投足が当時の音楽シーンに与えた影響力は大きく、全世界的に席巻していくテクノポップムーブメントの礎となり、模範ともなった世紀の名盤として、好事家ならずともその存在は知っていると思われる超メジャーな作品でもあります。
さて、本作も気持ち良いくらい全編シンセサイザーで攻めまくるKRAFTWERKですが、まず音色の選択が少し変化したような印象を受けます。音の粒立ちが良くなり特に低音は非常に太くなりました。ズッシリ来るスウィープパッドやフィルタリングサウンドがサウンドに奥行きを持たせていますし、それが近未来なコンセプトに見事にマッチしているため、これまでの彼らのサウンドと比較しても全く違和感は感じられません。それは前作までに培ってきた彼らのパブリックイメージが本作の挑戦的なサウンドを受け入れやすいものにしているのであると思われます。また、もう1つの劇的な変化はKarl Bartosの楽曲への参加で、本作が持ち合わせている親しみやすさ、ポップ性は彼の参加なしにはあり得ないのではないでしょうか。牧歌的にも感じられるオプティミスティックな雰囲気はグループ創設以来のものですが、時間も長くミニマル要素の強い楽曲をキャッチー性のある覚えやすいフレージングで聴き手を飽きさせないようにするセンスは、グループ離脱後のKarl Bartosのソロ活動を考えると、彼の功績によるものであると言えるでしょう。そして本作によってテクノポップブームの火をつけた彼らは、その後もこの不器用かつ鋼のコンセプトを踏襲して孤高のスタイルを確立し、テクノの神と呼ばれるまでの存在となっていくことは周知のことであると思います。
<Favorite Songs>
・「THE ROBOTS」
テクノアンセムとなったシンセベースのリフで始まる彼らの代名詞的名曲。いつ聴いてもこの音色のコクの深さは計り知れません。また日本人が泣いて喜ぶ琴の音色を模したオリエンタルなメインフレーズが採用されていることに、科学技術立国ニッポンのイメージが当時の世界に認識されていたことが垣間見えます。
・「THE MAN・MACHINE」
繰り返しの美学を昇華させたタイトルチューン。電子音を散りばめたパーカッションと地の底から湧き出るようなボコーダーの絡み方が何とも言えない奇妙な雰囲気を醸し出しています。抑揚もなくただ繰り返すというミニマルによる麻薬効果がまた怪しく感じられる楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (音そのものの太さが楽曲に芯を与え不気味さも加える)
・メロディ ★★ (前作と比べるとイメージを崩さない程度の明るさ)
・リズム ★ (電子的なリズムで工夫も見られるが単純さも)
・曲構成 ★ (このコンセプトであれば10曲以上の大作でも良かった)
・個性 ★★ (世間一般のこのグループのイメージは本作に尽きる)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
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