「Perspective」 P-MODEL
「Perspective」(1982 ジャパン)
P-MODEL

<members>
平沢進:vocal・guitar・synthesizers
田中靖美:keyboards
田井中貞利:drums
菊池達也:bass
1.「Heaven」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
2.「列車」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
3.「Zombi」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
4.「Coelacanth」 詞:田中靖美・平沢進 曲:田中靖美 編:P-MODEL
5.「うわばみ」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
6.「Perspective」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
7.「Solid Air」 詞:平沢進 曲:平沢進・田中靖美 編:P-MODEL
8.「のこりギリギリ」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
9.「Perspective II」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
produced by P-MODEL
engineered by 佐々木章
● 前作のダーク路線からさらに音響面で冒険しポップのかけらもなくなったP-MODEL最大の実験作
3rdアルバム「Potpourri」はいわゆる「テクノポップ」という潮流に三行半を突きつけて深淵に潜り込んでいったエポックメイキングなアルバムでしたが、この3rdアルバムではトリオ編成であったP-MODELに平沢が講師を務めていた専門学校の生徒であった菊池達也がベースとして加入し、4人編成に戻した形でリリースされた4枚目のアルバムが本作です。前作のように1度ポップ路線に背を向けてから既に歯止めがきかなくなっていった彼らは、それからはひたすらストイックに実験的な歌詞とサウンドにのめり込んでいってしまうことになり、自作サンプラーというべき改良テープエコー「ヘヴナイザー」を駆使したライブを行ったり、キテレツな行動で観客を煽ったりと試行錯誤を繰り返す中リリースされた作品ということもあり、作品の印象はどんよりとした空気に重厚感を保っているポップのかけらも感じさせないものでした。
本作の特徴といえば何といっても過剰な音響が施されたドラムサウンドです。残響が響き過ぎるほどのロングリバーブのスネアのインパクトは強烈で、ともすればサウンド全体を飲み込むかのような支配的な音響で、全体的な曇りガラスのような感覚はこういった音響面から滲み出ているものと思われます。また楽曲の展開力に乏しくミニマルフレーズを多用した作風も、どこか晴れ晴れしない印象の一端を担っていると言えるでしょう。また、本作ではP-MODELの売りの1つであった田中靖美の軽快なテクニックに溢れたキーボードプレイが影を潜めたことも最大の変化の1つでしょう。もちろんアクセントとしてのシンセサウンドは健在ではありますが、その使い方はどこか効果音的であり見せ場というには程遠いものです。その代わりに前作で既に醸し出していた不気味かつ変態的なギターフレーズが表面化して全体的な気持ち悪さを演出していますが、その反面それぞれのパートの音が際立って音の訴求力が高まった感もあって、実は成功と言えなくもないと思います。結果として見せ場をなくした格好となった田中靖美は翌83年には脱退し、純粋なキーボードプレイヤーはいなくなったP-MODELは、自身の実験的な自宅録音集「不許可曲集」をリリースする平沢進の個性が一段と濃くなりTECHNOLOGY道を歩んでいくことになります。
<Favorite Songs>
・「Heaven」
何よりも耳を刺激されるドラムの音響処理が革新的な名曲。ミニマルな曲調であるこの楽曲を強烈なものにしているこのパワフルな音圧のスネアが本作全体のカラーを位置づけています。前衛的なギターソロもかっこいいの一言。
・「Coelacanth」
強烈なドラムと無機質なキーボードフレーズとのコントラストが刺激的な楽曲。同じフレーズの繰り返しによる麻薬作用が半端でなく、ささやくようなヴォーカルもどこか呪術的なものさえ感じるほどで、洗脳ソングと言えるかもしれない不気味な楽曲です。
・「のこりギリギリ」
平沢進お得意のひきつるようなギターフレーズが頭から離れない抑鬱された感情が吐露された名曲。単純なリズムとささやきヴォーカルが軍隊の行進のようでどこかしら暗さを感じてしまいます。
<評点>
・サウンド ★★ (単純なシンセ音色よりもドロっとしたギターに興味が)
・メロディ ★ (気味悪いメロディとミニマルなフレーズでポップ性は皆無)
・リズム ★★★★★(82年でここまでの音響と音圧のドラムには脱帽のほかなし)
・曲構成 ★ (全体を通して薄暗くラストも気味悪く終わっていく・・)
・個性 ★★ (華やかな80年代前半の路地裏を感じさせるドス黒い作品)
総合評点: 7点
P-MODEL

<members>
平沢進:vocal・guitar・synthesizers
田中靖美:keyboards
田井中貞利:drums
菊池達也:bass
1.「Heaven」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
2.「列車」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
3.「Zombi」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
4.「Coelacanth」 詞:田中靖美・平沢進 曲:田中靖美 編:P-MODEL
5.「うわばみ」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
6.「Perspective」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
7.「Solid Air」 詞:平沢進 曲:平沢進・田中靖美 編:P-MODEL
8.「のこりギリギリ」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
9.「Perspective II」 詞・曲:平沢進 編:P-MODEL
produced by P-MODEL
engineered by 佐々木章
● 前作のダーク路線からさらに音響面で冒険しポップのかけらもなくなったP-MODEL最大の実験作
3rdアルバム「Potpourri」はいわゆる「テクノポップ」という潮流に三行半を突きつけて深淵に潜り込んでいったエポックメイキングなアルバムでしたが、この3rdアルバムではトリオ編成であったP-MODELに平沢が講師を務めていた専門学校の生徒であった菊池達也がベースとして加入し、4人編成に戻した形でリリースされた4枚目のアルバムが本作です。前作のように1度ポップ路線に背を向けてから既に歯止めがきかなくなっていった彼らは、それからはひたすらストイックに実験的な歌詞とサウンドにのめり込んでいってしまうことになり、自作サンプラーというべき改良テープエコー「ヘヴナイザー」を駆使したライブを行ったり、キテレツな行動で観客を煽ったりと試行錯誤を繰り返す中リリースされた作品ということもあり、作品の印象はどんよりとした空気に重厚感を保っているポップのかけらも感じさせないものでした。
本作の特徴といえば何といっても過剰な音響が施されたドラムサウンドです。残響が響き過ぎるほどのロングリバーブのスネアのインパクトは強烈で、ともすればサウンド全体を飲み込むかのような支配的な音響で、全体的な曇りガラスのような感覚はこういった音響面から滲み出ているものと思われます。また楽曲の展開力に乏しくミニマルフレーズを多用した作風も、どこか晴れ晴れしない印象の一端を担っていると言えるでしょう。また、本作ではP-MODELの売りの1つであった田中靖美の軽快なテクニックに溢れたキーボードプレイが影を潜めたことも最大の変化の1つでしょう。もちろんアクセントとしてのシンセサウンドは健在ではありますが、その使い方はどこか効果音的であり見せ場というには程遠いものです。その代わりに前作で既に醸し出していた不気味かつ変態的なギターフレーズが表面化して全体的な気持ち悪さを演出していますが、その反面それぞれのパートの音が際立って音の訴求力が高まった感もあって、実は成功と言えなくもないと思います。結果として見せ場をなくした格好となった田中靖美は翌83年には脱退し、純粋なキーボードプレイヤーはいなくなったP-MODELは、自身の実験的な自宅録音集「不許可曲集」をリリースする平沢進の個性が一段と濃くなりTECHNOLOGY道を歩んでいくことになります。
<Favorite Songs>
・「Heaven」
何よりも耳を刺激されるドラムの音響処理が革新的な名曲。ミニマルな曲調であるこの楽曲を強烈なものにしているこのパワフルな音圧のスネアが本作全体のカラーを位置づけています。前衛的なギターソロもかっこいいの一言。
・「Coelacanth」
強烈なドラムと無機質なキーボードフレーズとのコントラストが刺激的な楽曲。同じフレーズの繰り返しによる麻薬作用が半端でなく、ささやくようなヴォーカルもどこか呪術的なものさえ感じるほどで、洗脳ソングと言えるかもしれない不気味な楽曲です。
・「のこりギリギリ」
平沢進お得意のひきつるようなギターフレーズが頭から離れない抑鬱された感情が吐露された名曲。単純なリズムとささやきヴォーカルが軍隊の行進のようでどこかしら暗さを感じてしまいます。
<評点>
・サウンド ★★ (単純なシンセ音色よりもドロっとしたギターに興味が)
・メロディ ★ (気味悪いメロディとミニマルなフレーズでポップ性は皆無)
・リズム ★★★★★(82年でここまでの音響と音圧のドラムには脱帽のほかなし)
・曲構成 ★ (全体を通して薄暗くラストも気味悪く終わっていく・・)
・個性 ★★ (華やかな80年代前半の路地裏を感じさせるドス黒い作品)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「Digitalian is eating breakfast」 小室哲哉
「Digitalian is eating breakfast」(1989 エピックソニー)
小室哲哉:vocals・Synclavier・keyboards

1.「DIGITALIAN」 詞・曲・編:小室哲哉
2.「SHOUT」 詞・曲・編:小室哲哉
3.「OPERA NIGHT」 詞:小室みつ子 曲・編:小室哲哉
4.「I WANT YOU BACK」 詞・曲・編:小室哲哉
5.「GRAVITY OF LOVE」 詞・曲・編:小室哲哉
6.「HURRAY FOR WORKING LOVERS」 詞・曲・編:小室哲哉
7.「NEVER CRY FOR ME」 詞:小室みつ子 曲・編:小室哲哉
8.「WINTER DANCE」 曲・編:小室哲哉
9.「RUNNING TO HORIZON」 詞:小室みつ子 曲・編:小室哲哉
10.「CHRISTMAS CHORUS」 詞・曲・編:小室哲哉
<support musician>
Warren Cuccurullo:guitar
松本孝弘:guitar
木根尚登:acoustic guitar
加々美淳:cavaquinho・backing vocals
Jeff Smith:sax solo
Stan Harrison:sax solo
Gill O'Donovan:backing vocals
Suzie O'List:backing vocals
秋月マヤ:backing vocals
大滝裕子:backing vocals
桑名晴子:backing vocals
斉藤久美:backing vocals
杉並児童合唱団:backing vocals
吉川智子:backing vocals
和田恵子:backing vocals
久保こーじ:computer programming
秋葉淳:Synclavier operate
日向大介:Synclavier operate
produced by 小室哲哉
co-produced by 日向大介
mixing engineered by Steve Jackson・日向大介・Shep Pettibone・Goh Hotoda
recording engineered by 日向大介・Lance Phillips・Rupert Coulson・伊藤敬・吉田睦
● シンクラヴィア導入でゴージャス感が増したシンセサウンドが圧巻な全盛期にしてソロデビュー盤
自身のパーマネントなグループTM NETWORKが見事にブレイクしスターダムにのし上がりながら80年代後半を駆け抜けた小室哲哉は、渡辺美里「My Revolution」のスマッシュヒットを飾るなど他者への提供曲にも光るセンスを感じさせていましたが、そのメロディメイカーとしての才能とシンセサウンドに対する造詣の深さから、ソロ活動への期待も高まりつつありました。そして80年代も終わりに近づいた1989年、TM NETWORKがトップアーティストとしての地位を確立したのを見計らって小室哲哉は待望のソロ活動を開始いたします。デビュー当初からアニメや映画などの劇伴を担当するなどソロ活動は初めてではなかったものの、POPSとして自身が歌い手を務めるのはまさに初の試みではありましたが、デビューシングル「RUNNING TO HORIZON」は大ヒットとなり、その時流に乗った軽快なシンセポップがいかに世間に浸透していたかがわかります。その後も「GRAVITY OF LOVE」「CHRISTMAS CHORUS」と3連続シングルリリースが大成功を収める中、一連のソロプロジェクトの集大成となったのがソロデビューアルバムとなった本作というわけです。
本作といえば当時最新鋭のデジタルオーディオワークステーションの元祖ともいえるSynclavier(シンクラヴィア)の本格的導入によるハイクオリティなサウンドと、倍音を含み過ぎた小室哲哉の歌声とのミスマッチに尽きるわけですが、全体的に漂う徹底したエレクトリックでデジタルなアプローチから考えると小室の声質は逆にハマっていると考えてもよいのではないかと思います。一方サウンド面では、インテリアズの日向大介らの協力によってフィーチャーされたシンクラヴィアはどちらかといえばシステム面での革新性が目立っているだけなので、全体的に支配している音の「硬さ」以外に驚く部分は少なくTM NETWORKにおける方法論を継承してはいるものの、本作では彼がもともと持ち合わせているPOPSメイカーとしての優れたセンスがアピールされています。前述のシングル曲のみならず、ラップ調に挑戦した「SHOUT」や「OPERA NIGHT」「I WANT YOU BACK」といったシーケンス仕掛けのエレクトロダンスチューンなどはシングルカットされてもおかしくないほどの完成度を誇っており、さらに本作の充実ぶりがうかがえます。そのようなPOPSとしての優れた側面がピックアップされている本作ですが、やはり隠しきれないのはインスト「「WINTER DANCE」で垣間見える彼のシンセサイザー(というよりシーケンサー)への愛情であり、さまざまなシーケンスパターンを組み合わせたお得意の楽曲構成がその後の数多のプログラマブルな楽曲の基本フォーマットとなっていくことを考えると、本作が音楽的なトレンドに与えた影響ははからずも小さくは亡かったのではないかと今さらながら思われるのです。
<Favorite Songs>
・「SHOUT」
そのギラギラしたテンションで世間を揺るがした本作のキラーチューン。印象的なイントロと既聴感のある間奏はともかく、つんのめりそうな自身のラップ調歌唱はなかなか衝撃的で、シンクラヴィア特有の硬いデジタル音も相まってどこまでも攻撃的に聴こえます。
・「GRAVITY OF LOVE」
どちらかといえば柔らかく軽やかな音色で癒しのエレクトロポップを聴かせる本作随一の名曲。シーケンスもリズムもシンセフレーズもチープで軽やかなサウンドで通し、特にBメロに泣きが入れてくるセンスに非凡なものを感じさせます。後半のお得意な転調もさすがに効果的です。
・「RUNNING TO HORIZON」
当時みんなが彼に求めていたいかにもTM的なタイプを目指したデビューシングル。そのリズミカルなイントロのシンセフレーズのせわしない感じはまさに小室シンセポップの真骨頂ですが、歌詞のメロディの乗せ方などにセンスを忍ばせているのも彼らしいと思います。
<評点>
・サウンド ★★ (音がギラギラし過ぎることが良くも悪くもカラーとなる)
・メロディ ★★★ (お得意のフレーズを惜しみなく披露し集大成的なものに)
・リズム ★★ (90年代を示唆するかのような軽めのリズム音を多用)
・曲構成 ★★ (異なるタイプの楽曲を揃えているのにこの音的な統一感)
・個性 ★★ (彼の音楽性という面で驚きは少なくハイライト的な作品)
総合評点: 7点
小室哲哉:vocals・Synclavier・keyboards

1.「DIGITALIAN」 詞・曲・編:小室哲哉
2.「SHOUT」 詞・曲・編:小室哲哉
3.「OPERA NIGHT」 詞:小室みつ子 曲・編:小室哲哉
4.「I WANT YOU BACK」 詞・曲・編:小室哲哉
5.「GRAVITY OF LOVE」 詞・曲・編:小室哲哉
6.「HURRAY FOR WORKING LOVERS」 詞・曲・編:小室哲哉
7.「NEVER CRY FOR ME」 詞:小室みつ子 曲・編:小室哲哉
8.「WINTER DANCE」 曲・編:小室哲哉
9.「RUNNING TO HORIZON」 詞:小室みつ子 曲・編:小室哲哉
10.「CHRISTMAS CHORUS」 詞・曲・編:小室哲哉
<support musician>
Warren Cuccurullo:guitar
松本孝弘:guitar
木根尚登:acoustic guitar
加々美淳:cavaquinho・backing vocals
Jeff Smith:sax solo
Stan Harrison:sax solo
Gill O'Donovan:backing vocals
Suzie O'List:backing vocals
秋月マヤ:backing vocals
大滝裕子:backing vocals
桑名晴子:backing vocals
斉藤久美:backing vocals
杉並児童合唱団:backing vocals
吉川智子:backing vocals
和田恵子:backing vocals
久保こーじ:computer programming
秋葉淳:Synclavier operate
日向大介:Synclavier operate
produced by 小室哲哉
co-produced by 日向大介
mixing engineered by Steve Jackson・日向大介・Shep Pettibone・Goh Hotoda
recording engineered by 日向大介・Lance Phillips・Rupert Coulson・伊藤敬・吉田睦
● シンクラヴィア導入でゴージャス感が増したシンセサウンドが圧巻な全盛期にしてソロデビュー盤
自身のパーマネントなグループTM NETWORKが見事にブレイクしスターダムにのし上がりながら80年代後半を駆け抜けた小室哲哉は、渡辺美里「My Revolution」のスマッシュヒットを飾るなど他者への提供曲にも光るセンスを感じさせていましたが、そのメロディメイカーとしての才能とシンセサウンドに対する造詣の深さから、ソロ活動への期待も高まりつつありました。そして80年代も終わりに近づいた1989年、TM NETWORKがトップアーティストとしての地位を確立したのを見計らって小室哲哉は待望のソロ活動を開始いたします。デビュー当初からアニメや映画などの劇伴を担当するなどソロ活動は初めてではなかったものの、POPSとして自身が歌い手を務めるのはまさに初の試みではありましたが、デビューシングル「RUNNING TO HORIZON」は大ヒットとなり、その時流に乗った軽快なシンセポップがいかに世間に浸透していたかがわかります。その後も「GRAVITY OF LOVE」「CHRISTMAS CHORUS」と3連続シングルリリースが大成功を収める中、一連のソロプロジェクトの集大成となったのがソロデビューアルバムとなった本作というわけです。
本作といえば当時最新鋭のデジタルオーディオワークステーションの元祖ともいえるSynclavier(シンクラヴィア)の本格的導入によるハイクオリティなサウンドと、倍音を含み過ぎた小室哲哉の歌声とのミスマッチに尽きるわけですが、全体的に漂う徹底したエレクトリックでデジタルなアプローチから考えると小室の声質は逆にハマっていると考えてもよいのではないかと思います。一方サウンド面では、インテリアズの日向大介らの協力によってフィーチャーされたシンクラヴィアはどちらかといえばシステム面での革新性が目立っているだけなので、全体的に支配している音の「硬さ」以外に驚く部分は少なくTM NETWORKにおける方法論を継承してはいるものの、本作では彼がもともと持ち合わせているPOPSメイカーとしての優れたセンスがアピールされています。前述のシングル曲のみならず、ラップ調に挑戦した「SHOUT」や「OPERA NIGHT」「I WANT YOU BACK」といったシーケンス仕掛けのエレクトロダンスチューンなどはシングルカットされてもおかしくないほどの完成度を誇っており、さらに本作の充実ぶりがうかがえます。そのようなPOPSとしての優れた側面がピックアップされている本作ですが、やはり隠しきれないのはインスト「「WINTER DANCE」で垣間見える彼のシンセサイザー(というよりシーケンサー)への愛情であり、さまざまなシーケンスパターンを組み合わせたお得意の楽曲構成がその後の数多のプログラマブルな楽曲の基本フォーマットとなっていくことを考えると、本作が音楽的なトレンドに与えた影響ははからずも小さくは亡かったのではないかと今さらながら思われるのです。
<Favorite Songs>
・「SHOUT」
そのギラギラしたテンションで世間を揺るがした本作のキラーチューン。印象的なイントロと既聴感のある間奏はともかく、つんのめりそうな自身のラップ調歌唱はなかなか衝撃的で、シンクラヴィア特有の硬いデジタル音も相まってどこまでも攻撃的に聴こえます。
・「GRAVITY OF LOVE」
どちらかといえば柔らかく軽やかな音色で癒しのエレクトロポップを聴かせる本作随一の名曲。シーケンスもリズムもシンセフレーズもチープで軽やかなサウンドで通し、特にBメロに泣きが入れてくるセンスに非凡なものを感じさせます。後半のお得意な転調もさすがに効果的です。
・「RUNNING TO HORIZON」
当時みんなが彼に求めていたいかにもTM的なタイプを目指したデビューシングル。そのリズミカルなイントロのシンセフレーズのせわしない感じはまさに小室シンセポップの真骨頂ですが、歌詞のメロディの乗せ方などにセンスを忍ばせているのも彼らしいと思います。
<評点>
・サウンド ★★ (音がギラギラし過ぎることが良くも悪くもカラーとなる)
・メロディ ★★★ (お得意のフレーズを惜しみなく披露し集大成的なものに)
・リズム ★★ (90年代を示唆するかのような軽めのリズム音を多用)
・曲構成 ★★ (異なるタイプの楽曲を揃えているのにこの音的な統一感)
・個性 ★★ (彼の音楽性という面で驚きは少なくハイライト的な作品)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「weather forecast」 bambi synapse
「weather forecast」(1996 グリーン)
bambi synapse

<members>
渡辺美智代:vocal・keyboard・clarinet・guitar・acoustic guitar・bass・tones・metal percussion・computer programming
渡辺良:drums・computer programming・bass・keyboard・ball beat・bell・太鼓
佐脇興英:synthesizer・piano・electric piano・bass・strings・tom・rhythm machine
1.「lotus」 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・渡辺良 編:bambi synapse
2.「weather forecast」 詞・曲:渡辺美智代 編:bambi synapse
3.「stone」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
4.「jet slope」 詞:渡辺美智代 曲:佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
5.「two red semicircles」 詞・曲:渡辺美智代 編:bambi synapse
6.「traum」 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・渡辺良 編:bambi synapse
produced by bambi synapse
engineered by 渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
● 電子音の海で泳ぐ感覚?アンビエント感覚の幻想的POPSが印象的な前衛ユニットの1stアルバム
現在も活動を続ける長寿バンドでありながら一貫して関西のインディーズシーンを中心に活動しその優れた音楽性が一部で評価されている京都のスリーピースバンドCONVEX LEVEL。そのギターとヴォーカルを担当するフロントパーソン渡辺良は、90年代半ばに伴侶である渡辺美智代をパートナーに迎えた別ユニットを結成し活動を始めます。もともとが電子音楽もルーツの1つであった彼らは、電子音を前面に押し出して浮遊感のあるアンビエントPOPSを志向していましたが、この夫婦ユニットに勃興期にあった日本のTECHNO界で強烈な個性を放った2人組エレクトリックユニットTANZMUZIKの「動」の電子音担当であった佐脇興英(サワキオキヒデ)が加わり、エレクトロアンビエントな音空間が一段と洗練され音源リリースへと向かっていきます。渡辺夫婦が設立したGREEN RECORDSからリリースされたデビュー作の本作は、6曲という少なめの曲数ながら幻想的なサウンドと透き通った歌声の融合が違和感なく成功しているセンス溢れる名盤で、それぞれの個性のぶつかり合いが堪能できる緊張感のある作品でもあります。
基本的に地に足がつかないふわふわとした感じが魅力的なグループであり、それが淡々とした渡辺良のリズムと神々しいまでの歌声を聴かせる渡辺美智代のヴォーカルを中心に、自由奔放な佐脇興英の装飾的な電子音で鮮やかに彩るサウンドスタイルは他に類を見ないものです。緻密なプログラミングとエフェクトを存分に駆使した芸術的な非現実感は聴き手を夢の世界を誘うかのようですが、その多彩かつ大胆なシンセワークはそれこそサワキマジックだからこそ成せる業と言えるでしょう。また本作の特徴となっているのが全体的に浮遊感あふれるサウンドが目立つ中で一段と映える細かいリズムトラックで、生でも打ち込みでもディレイを始めとしたエフェクトを駆使したダブっぽい金物系を多用した独特のリズムで楽曲を支えています。非常に遊び心にあふれた実験的とも言える電子音で花を添えながらも、ヴォーカルの声質からくる清涼感が印象をポップでキャッチーなものにも感じさせてくれる本作は、余り知られてはいない作品ながら、90年代後半のエレクトリックシーンの突然変異なPOPミュージックとして評価したい作品の1つです。
<Favorite Songs>
・「stone」
不気味に蠢くように始まる長いイントロでタメにタメるストレンジポップの名曲。後半からリズムと歌が入ってからのクールな盛り上がりは必聴です。メロディは単調ながらもサウンド(特にシンセパッドの柔らかさ)で飽きさせないセンスの良さを持ち合わせています。
・「traum」
本作中でも重要なフレーズを奏でるサックスが牧歌的なラストソング。しかし牧歌的なのはイントロだけでリズムが入ってくるとシリアスでクールに展開していくのも魅力の1つです。結果的にどんよりしたサウンドを基軸に奔放な音遊びも目立つ実験的な楽曲に仕上がっています。
<評点>
・サウンド ★★★★ (ミニマル要素の中で奔放に飛び交う電子音が心地良い)
・メロディ ★ (単純なフレーズを繰り返すことによる麻薬作用が持ち味)
・リズム ★★★ (エフェクティブな音処理以上にスネアの音が特徴的)
・曲構成 ★★ (1曲のボリュームもあり曲数の少なさは感じさせない)
・個性 ★★ (このデビュー作だけでは全貌がつかみにくく様子見)
総合評点: 7点
bambi synapse

<members>
渡辺美智代:vocal・keyboard・clarinet・guitar・acoustic guitar・bass・tones・metal percussion・computer programming
渡辺良:drums・computer programming・bass・keyboard・ball beat・bell・太鼓
佐脇興英:synthesizer・piano・electric piano・bass・strings・tom・rhythm machine
1.「lotus」 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・渡辺良 編:bambi synapse
2.「weather forecast」 詞・曲:渡辺美智代 編:bambi synapse
3.「stone」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
4.「jet slope」 詞:渡辺美智代 曲:佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
5.「two red semicircles」 詞・曲:渡辺美智代 編:bambi synapse
6.「traum」 詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・渡辺良 編:bambi synapse
produced by bambi synapse
engineered by 渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
● 電子音の海で泳ぐ感覚?アンビエント感覚の幻想的POPSが印象的な前衛ユニットの1stアルバム
現在も活動を続ける長寿バンドでありながら一貫して関西のインディーズシーンを中心に活動しその優れた音楽性が一部で評価されている京都のスリーピースバンドCONVEX LEVEL。そのギターとヴォーカルを担当するフロントパーソン渡辺良は、90年代半ばに伴侶である渡辺美智代をパートナーに迎えた別ユニットを結成し活動を始めます。もともとが電子音楽もルーツの1つであった彼らは、電子音を前面に押し出して浮遊感のあるアンビエントPOPSを志向していましたが、この夫婦ユニットに勃興期にあった日本のTECHNO界で強烈な個性を放った2人組エレクトリックユニットTANZMUZIKの「動」の電子音担当であった佐脇興英(サワキオキヒデ)が加わり、エレクトロアンビエントな音空間が一段と洗練され音源リリースへと向かっていきます。渡辺夫婦が設立したGREEN RECORDSからリリースされたデビュー作の本作は、6曲という少なめの曲数ながら幻想的なサウンドと透き通った歌声の融合が違和感なく成功しているセンス溢れる名盤で、それぞれの個性のぶつかり合いが堪能できる緊張感のある作品でもあります。
基本的に地に足がつかないふわふわとした感じが魅力的なグループであり、それが淡々とした渡辺良のリズムと神々しいまでの歌声を聴かせる渡辺美智代のヴォーカルを中心に、自由奔放な佐脇興英の装飾的な電子音で鮮やかに彩るサウンドスタイルは他に類を見ないものです。緻密なプログラミングとエフェクトを存分に駆使した芸術的な非現実感は聴き手を夢の世界を誘うかのようですが、その多彩かつ大胆なシンセワークはそれこそサワキマジックだからこそ成せる業と言えるでしょう。また本作の特徴となっているのが全体的に浮遊感あふれるサウンドが目立つ中で一段と映える細かいリズムトラックで、生でも打ち込みでもディレイを始めとしたエフェクトを駆使したダブっぽい金物系を多用した独特のリズムで楽曲を支えています。非常に遊び心にあふれた実験的とも言える電子音で花を添えながらも、ヴォーカルの声質からくる清涼感が印象をポップでキャッチーなものにも感じさせてくれる本作は、余り知られてはいない作品ながら、90年代後半のエレクトリックシーンの突然変異なPOPミュージックとして評価したい作品の1つです。
<Favorite Songs>
・「stone」
不気味に蠢くように始まる長いイントロでタメにタメるストレンジポップの名曲。後半からリズムと歌が入ってからのクールな盛り上がりは必聴です。メロディは単調ながらもサウンド(特にシンセパッドの柔らかさ)で飽きさせないセンスの良さを持ち合わせています。
・「traum」
本作中でも重要なフレーズを奏でるサックスが牧歌的なラストソング。しかし牧歌的なのはイントロだけでリズムが入ってくるとシリアスでクールに展開していくのも魅力の1つです。結果的にどんよりしたサウンドを基軸に奔放な音遊びも目立つ実験的な楽曲に仕上がっています。
<評点>
・サウンド ★★★★ (ミニマル要素の中で奔放に飛び交う電子音が心地良い)
・メロディ ★ (単純なフレーズを繰り返すことによる麻薬作用が持ち味)
・リズム ★★★ (エフェクティブな音処理以上にスネアの音が特徴的)
・曲構成 ★★ (1曲のボリュームもあり曲数の少なさは感じさせない)
・個性 ★★ (このデビュー作だけでは全貌がつかみにくく様子見)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「Glassy Heaven」 Ceui
「Glassy Heaven」(2009 ランティス)
Ceui:vocal

1.「羽化」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
2.「Qualia」 詞:Ceui 曲・編:小高光太郎
3.「Frozen Tear」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
4.「Prayer」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
5.「dreamscape」 詞:Ceui 曲・編:小高光太郎
6.「mellow melody」 詞:畑亜貴 曲・編:小高光太郎
7.「永久のコトバ」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
8.「espacio」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
9.「パラノイア」 詞:Ceui 曲:神前暁・小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
10.「Prelude~運命の欠片~」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
11.「微睡みの楽園」 詞:こだまさおり 曲・編:小高光太郎
12.「聖戦スペクタル」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
13.「心の翼」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
<support musician>
小高光太郎:all instruments
浅田靖:guitar
飯室博:guitar
菊池達也:guitar
室屋ストリングス:strings
sound produced by 小高光太郎
mixing engineered by 浅野浩伸・上村量・森田信之・佐藤純之介・小林敦
vocal recordjing engineered by 関朋充・上村量・森田信之・奥田基樹・佐藤純之介・守屋勝美
● 全曲最終回!透き通る声質と神々しいサウンドで完成された世界観をまざまざと見せつける驚きの1stアルバム
2000年頃からインディーズで地道に活動を続けていた女性シンガーCeui(セイ)がメジャーデビューを果たしたのは2007年。アニメ「京四郎と永遠の空」エンディングテーマに抜擢された1stシングル「微睡みの楽園」は、乙女チックで爽やかなバラードソングで、その儚げな歌声が俄然注目を浴びることになります。そしてCeuiの名がその高い評価と共に刻まれたのが2ndシングル、アニメ「sola」エンディングテーマの名曲「mellow melody」で、美しくも悲しげなストーリーを締めるこの楽曲の作品との絶妙なマッチングは、その筋からも賞賛を浴びました。この楽曲である種のブランドを確立したCeuiはその後もアニメやゲームの主題歌に起用されることが多く、そのクオリティの高い楽曲を集めたアルバムリリースが待望される中、遂に本作がリリースされることとなったわけです。13曲という飽和とも受け取れるようなボリュームにもかかわらず、全く飽きさせない高品質の楽曲を収録した本作は、彼女の歌手としての個性と緻密なサウンドプロダクションとの相性ががっちり噛み合い、デビュー作にして早くも貫禄の名盤に仕上がっています。
彼女のような決して声量のあるタイプではないが透明感のある声質で、分厚いリバーブの効いたコーラスワークで聴かせるシンガーはアコースティックへ傾倒してしまう傾向が多い中、彼女の楽曲は人間味あふれる方向ではなくより神秘的なファンタジックな世界観を、緻密なシンセサウンドを駆使した電子的な音世界で表現しています。この神々しいサウンドを展開しているのがCeuiと全曲においてコンビを組む若手クリエイター小高光太郎で、その無国籍民族的な性格の清涼感と哀愁が同居する楽曲を、それらが持つ味わい深さを殺さずに多用するアルペジオ等の短い音と、ストリングス系とパッド系の長い音を、Ceuiのヴォーカルワークと組み合わせつつ過剰ともいえるエフェクトを効かせることによって、SFファンタジー的な非現実感を演出することに成功しています。そうして仕上がった楽曲はそれぞれにメロディとサウンドの相互作用による盛り上がりが凄まじく、まさに全曲最終回のような高揚感を感じさせてくれるわけです。このような音の性格がアニメやゲームに起用されやすいとも言えますが、ただ単純にシンセワークとプログラミングサウンドの楽曲への生かし方を堪能するだけでも本作のTECHNOLOGY POPSとしての名盤としての価値があると思われます。今後さらに期待したいアーティストの1人です。
<Favorite Songs>
・「Qualia」
音の粒がちらばるようなイントロ一発で圧倒されるミディアムチューン。とにかく余り使われないような音色を多用し、ピアノ系もストリングス系もエフェクティブに処理されているのが嬉しいです。
・「espacio」
アニメ「宇宙をかける少女」エンディングに起用されたクール&ファンタジーの名曲。ピアノ系のアルペジオが紡ぐきらびやかな音の粒と、冷たく悲しげなメロディラインと後半に進むにしたがって凍っていくように神々しさを増していくコーラスワークは鳥肌モノです。
・「微睡みの楽園」
記念すべきデビューシングル。どちらかというとまだ人間に近い雰囲気の楽曲ですが、泣きのメロディを効かせるサビまで持っていくAメロ&Bメロのセンスが光ります。薄っぺらいシンセストリングスもCeuiの透明度の高い声質と相まって楽曲が持つ爽やかさを無駄なく表現しています。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (緻密な音を並べつつ冷たい音の壁で覆った鉄壁の音世界)
・メロディ ★★★★★ (歌を意識したしっかりしたメロディがあってこその歌唱)
・リズム ★★★ (楽曲の性質から目立ちはしないが音自体の配置でカバー)
・曲構成 ★★★★★ (ベスト盤的なはずなのに世界観が完全に統一されている)
・個性 ★★★★★ (圧倒的な宇宙規模のファンタジー&メルヘティックな世界)
総合評点: 10点
Ceui:vocal

1.「羽化」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
2.「Qualia」 詞:Ceui 曲・編:小高光太郎
3.「Frozen Tear」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
4.「Prayer」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
5.「dreamscape」 詞:Ceui 曲・編:小高光太郎
6.「mellow melody」 詞:畑亜貴 曲・編:小高光太郎
7.「永久のコトバ」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
8.「espacio」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
9.「パラノイア」 詞:Ceui 曲:神前暁・小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
10.「Prelude~運命の欠片~」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
11.「微睡みの楽園」 詞:こだまさおり 曲・編:小高光太郎
12.「聖戦スペクタル」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
13.「心の翼」 詞:Ceui 曲:小高光太郎・Ceui 編:小高光太郎
<support musician>
小高光太郎:all instruments
浅田靖:guitar
飯室博:guitar
菊池達也:guitar
室屋ストリングス:strings
sound produced by 小高光太郎
mixing engineered by 浅野浩伸・上村量・森田信之・佐藤純之介・小林敦
vocal recordjing engineered by 関朋充・上村量・森田信之・奥田基樹・佐藤純之介・守屋勝美
● 全曲最終回!透き通る声質と神々しいサウンドで完成された世界観をまざまざと見せつける驚きの1stアルバム
2000年頃からインディーズで地道に活動を続けていた女性シンガーCeui(セイ)がメジャーデビューを果たしたのは2007年。アニメ「京四郎と永遠の空」エンディングテーマに抜擢された1stシングル「微睡みの楽園」は、乙女チックで爽やかなバラードソングで、その儚げな歌声が俄然注目を浴びることになります。そしてCeuiの名がその高い評価と共に刻まれたのが2ndシングル、アニメ「sola」エンディングテーマの名曲「mellow melody」で、美しくも悲しげなストーリーを締めるこの楽曲の作品との絶妙なマッチングは、その筋からも賞賛を浴びました。この楽曲である種のブランドを確立したCeuiはその後もアニメやゲームの主題歌に起用されることが多く、そのクオリティの高い楽曲を集めたアルバムリリースが待望される中、遂に本作がリリースされることとなったわけです。13曲という飽和とも受け取れるようなボリュームにもかかわらず、全く飽きさせない高品質の楽曲を収録した本作は、彼女の歌手としての個性と緻密なサウンドプロダクションとの相性ががっちり噛み合い、デビュー作にして早くも貫禄の名盤に仕上がっています。
彼女のような決して声量のあるタイプではないが透明感のある声質で、分厚いリバーブの効いたコーラスワークで聴かせるシンガーはアコースティックへ傾倒してしまう傾向が多い中、彼女の楽曲は人間味あふれる方向ではなくより神秘的なファンタジックな世界観を、緻密なシンセサウンドを駆使した電子的な音世界で表現しています。この神々しいサウンドを展開しているのがCeuiと全曲においてコンビを組む若手クリエイター小高光太郎で、その無国籍民族的な性格の清涼感と哀愁が同居する楽曲を、それらが持つ味わい深さを殺さずに多用するアルペジオ等の短い音と、ストリングス系とパッド系の長い音を、Ceuiのヴォーカルワークと組み合わせつつ過剰ともいえるエフェクトを効かせることによって、SFファンタジー的な非現実感を演出することに成功しています。そうして仕上がった楽曲はそれぞれにメロディとサウンドの相互作用による盛り上がりが凄まじく、まさに全曲最終回のような高揚感を感じさせてくれるわけです。このような音の性格がアニメやゲームに起用されやすいとも言えますが、ただ単純にシンセワークとプログラミングサウンドの楽曲への生かし方を堪能するだけでも本作のTECHNOLOGY POPSとしての名盤としての価値があると思われます。今後さらに期待したいアーティストの1人です。
<Favorite Songs>
・「Qualia」
音の粒がちらばるようなイントロ一発で圧倒されるミディアムチューン。とにかく余り使われないような音色を多用し、ピアノ系もストリングス系もエフェクティブに処理されているのが嬉しいです。
・「espacio」
アニメ「宇宙をかける少女」エンディングに起用されたクール&ファンタジーの名曲。ピアノ系のアルペジオが紡ぐきらびやかな音の粒と、冷たく悲しげなメロディラインと後半に進むにしたがって凍っていくように神々しさを増していくコーラスワークは鳥肌モノです。
・「微睡みの楽園」
記念すべきデビューシングル。どちらかというとまだ人間に近い雰囲気の楽曲ですが、泣きのメロディを効かせるサビまで持っていくAメロ&Bメロのセンスが光ります。薄っぺらいシンセストリングスもCeuiの透明度の高い声質と相まって楽曲が持つ爽やかさを無駄なく表現しています。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (緻密な音を並べつつ冷たい音の壁で覆った鉄壁の音世界)
・メロディ ★★★★★ (歌を意識したしっかりしたメロディがあってこその歌唱)
・リズム ★★★ (楽曲の性質から目立ちはしないが音自体の配置でカバー)
・曲構成 ★★★★★ (ベスト盤的なはずなのに世界観が完全に統一されている)
・個性 ★★★★★ (圧倒的な宇宙規模のファンタジー&メルヘティックな世界)
総合評点: 10点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「GROOVIN’」 久保田利伸
「GROOVIN’」(1987 CBSソニー)
久保田利伸:vocals・chorus

1.「PSYCHIC BEAT」 詞・曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
2.「北風と太陽」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
3.「PLACE」 詞・曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
4.「RANDY CANDY」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
5.「LADY SUICIDE」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
6.「一途な夜、無傷な朝」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫
7.「ダイヤモンドの犬たち」
詞:川村真澄 曲:久保田利伸・羽田一郎 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
8.「薄情LOVE MACHINE」
詞:川村真澄・久保田利伸 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
9.「永遠の翼」 詞・曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
10.「VISIONS」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
11.「八番目の虹の色」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
<support musician>
羽田一郎:electric guitar
中村きたろう:bass・synthesizer bass
江口信夫:drums
杉山卓夫:synthesizers・piano
木村誠:percussion
Cindy:chorus
大竹徹夫:synthesizer operate
伯耆弘徳:synthesizer operate
山中雅文:synthesizer operate
produced by 稲葉竜文・石谷仁
mixing engineered by 清水高志
recording engineered by 清水高志・井川彰夫・山崎進・脇田貞二
● ヴォーカル&リズム感にメロディセンスが格段の進歩を遂げたブレイクスルーの2ndアルバム
シングル「失意のダウンタウン」でデビューした久保田利伸の登場は、その圧倒的なヴォーカルとキレのあるデジタルファンキーな楽曲を生み出すメロディセンスもあって新世代ヴォーカリストの時代到来を予期させるものでした。アルバム「SHAKE IT PARADISE」でその才能に対する評価を確かなものにした後リリースされた2ndシングル「Timeシャワーに射たれて・・・」はAメロにラップを導入するなど本領発揮の日本式デジタルファンクPOPSを展開し話題を呼び、翌1987年の3rdシングル「GODDESS ~新しい女神~」においてそのリズム感にあふれた音楽性は彼の代名詞となりました。そのようなブレイクの兆しが高まる中満を持してリリースされた2ndアルバムが本作です。この作品はアルバムリリース時点ではシングルカット曲もない完全オリジナル楽曲を集めたもので、すべての面で前作よりレベルアップを果たした彼にとっての自信作であると思われます。
さて本作では彼が信頼するバックバンド、MOTHER EARTHにほぼ全曲のアレンジを任せ、その気心の知れたメンバーによる洒落た演奏力で楽曲を盛り上げることに成功しています。特に杉山卓夫のシンセワークはますます磨きがかかり、デジタル色の強い初期久保田ソングのサウンドに非常に重要な役割を果たしています。彼のようなブラックミュージックをルーツにしたファンクPOPSを志向するタイプであれば、もう少しシンセ度は低くなってもよいかと思うのですが、特に初期の彼の楽曲はシンセ度が高く、アップテンポでもミディアムでもバラードでもとにかくベースや上モノでシンセが大活躍、そういったエレクトリックなサウンドに抵抗がない部分もこの時期の彼の音楽に好感が持てるところです。前作よりファンク色が前面に出ながらも粘っこくも野暮ったくもなくスマートでスタイリッシュな印象を受けるのは、特にミディアムテンポやバラードソングで映える久保田のキャッチーなメロディセンスの賜物で、特にサビにつなげるまでのBメロの使い方が非常に巧みです。このセンスとMOTHER EARTHのサウンドデザインが相まって、本作は見事にブレイクスルーを果たし、その後の活躍を見てもわかるように久保田利伸というアーティストの地位を確立することになるのです。
<Favorite Songs>
・「北風と太陽」
久保田利伸のメロディメイカーとしての才能がいかんなく発揮されたファンキーリズムのミディアムチューン。難しいことはしていないのに天性のリズム感覚とキャッチーなメロディラインが絶妙にマッチしている名曲です。サビのメロディの合間に入る気の利いたシンセフレーズも良いです。
・「RANDY CANDY」
これぞファンクの醍醐味であるギターカッティングが印象的な80年代のこの時期だから楽しめるデジタルファンクPOPS。いやがおうでも盛り上がるサビとそれを支える細かいシーケンスとサビ裏のシンセフレーズの絡み合いは本作のハイライトでもあります。
・「ダイヤモンドの犬たち」
シンセやギターのみならずドラムやベースのリズム隊も目立つお得意のファンクナンバー。特に中村きたろうのチョッパーがフィーチャーされ大活躍を見せており、アタック感の強いドラムとの相性もバッチリです。それでいてどこかスマートな印象を受けるところが80年代たるゆえんと言えるでしょう。
<評点>
・サウンド ★★ (信頼できるバンドのキレに隙はないが少し薄い印象も)
・メロディ ★★★★ (POPSをよく理解し耳障りの良さをセンスで感じ取る)
・リズム ★★★ (リズム隊の安定感のある仕事に文句などあるはずがない)
・曲構成 ★★ (緩急自在の楽曲を散りばめるがバラードも飽きさせない)
・個性 ★★ (音楽性は本作で確立したため新展開もほしいところ)
総合評点: 7点
久保田利伸:vocals・chorus

1.「PSYCHIC BEAT」 詞・曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
2.「北風と太陽」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
3.「PLACE」 詞・曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
4.「RANDY CANDY」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
5.「LADY SUICIDE」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
6.「一途な夜、無傷な朝」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫
7.「ダイヤモンドの犬たち」
詞:川村真澄 曲:久保田利伸・羽田一郎 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
8.「薄情LOVE MACHINE」
詞:川村真澄・久保田利伸 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
9.「永遠の翼」 詞・曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
10.「VISIONS」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
11.「八番目の虹の色」 詞:川村真澄 曲:久保田利伸 編:杉山卓夫&MOTHER EARTH
<support musician>
羽田一郎:electric guitar
中村きたろう:bass・synthesizer bass
江口信夫:drums
杉山卓夫:synthesizers・piano
木村誠:percussion
Cindy:chorus
大竹徹夫:synthesizer operate
伯耆弘徳:synthesizer operate
山中雅文:synthesizer operate
produced by 稲葉竜文・石谷仁
mixing engineered by 清水高志
recording engineered by 清水高志・井川彰夫・山崎進・脇田貞二
● ヴォーカル&リズム感にメロディセンスが格段の進歩を遂げたブレイクスルーの2ndアルバム
シングル「失意のダウンタウン」でデビューした久保田利伸の登場は、その圧倒的なヴォーカルとキレのあるデジタルファンキーな楽曲を生み出すメロディセンスもあって新世代ヴォーカリストの時代到来を予期させるものでした。アルバム「SHAKE IT PARADISE」でその才能に対する評価を確かなものにした後リリースされた2ndシングル「Timeシャワーに射たれて・・・」はAメロにラップを導入するなど本領発揮の日本式デジタルファンクPOPSを展開し話題を呼び、翌1987年の3rdシングル「GODDESS ~新しい女神~」においてそのリズム感にあふれた音楽性は彼の代名詞となりました。そのようなブレイクの兆しが高まる中満を持してリリースされた2ndアルバムが本作です。この作品はアルバムリリース時点ではシングルカット曲もない完全オリジナル楽曲を集めたもので、すべての面で前作よりレベルアップを果たした彼にとっての自信作であると思われます。
さて本作では彼が信頼するバックバンド、MOTHER EARTHにほぼ全曲のアレンジを任せ、その気心の知れたメンバーによる洒落た演奏力で楽曲を盛り上げることに成功しています。特に杉山卓夫のシンセワークはますます磨きがかかり、デジタル色の強い初期久保田ソングのサウンドに非常に重要な役割を果たしています。彼のようなブラックミュージックをルーツにしたファンクPOPSを志向するタイプであれば、もう少しシンセ度は低くなってもよいかと思うのですが、特に初期の彼の楽曲はシンセ度が高く、アップテンポでもミディアムでもバラードでもとにかくベースや上モノでシンセが大活躍、そういったエレクトリックなサウンドに抵抗がない部分もこの時期の彼の音楽に好感が持てるところです。前作よりファンク色が前面に出ながらも粘っこくも野暮ったくもなくスマートでスタイリッシュな印象を受けるのは、特にミディアムテンポやバラードソングで映える久保田のキャッチーなメロディセンスの賜物で、特にサビにつなげるまでのBメロの使い方が非常に巧みです。このセンスとMOTHER EARTHのサウンドデザインが相まって、本作は見事にブレイクスルーを果たし、その後の活躍を見てもわかるように久保田利伸というアーティストの地位を確立することになるのです。
<Favorite Songs>
・「北風と太陽」
久保田利伸のメロディメイカーとしての才能がいかんなく発揮されたファンキーリズムのミディアムチューン。難しいことはしていないのに天性のリズム感覚とキャッチーなメロディラインが絶妙にマッチしている名曲です。サビのメロディの合間に入る気の利いたシンセフレーズも良いです。
・「RANDY CANDY」
これぞファンクの醍醐味であるギターカッティングが印象的な80年代のこの時期だから楽しめるデジタルファンクPOPS。いやがおうでも盛り上がるサビとそれを支える細かいシーケンスとサビ裏のシンセフレーズの絡み合いは本作のハイライトでもあります。
・「ダイヤモンドの犬たち」
シンセやギターのみならずドラムやベースのリズム隊も目立つお得意のファンクナンバー。特に中村きたろうのチョッパーがフィーチャーされ大活躍を見せており、アタック感の強いドラムとの相性もバッチリです。それでいてどこかスマートな印象を受けるところが80年代たるゆえんと言えるでしょう。
<評点>
・サウンド ★★ (信頼できるバンドのキレに隙はないが少し薄い印象も)
・メロディ ★★★★ (POPSをよく理解し耳障りの良さをセンスで感じ取る)
・リズム ★★★ (リズム隊の安定感のある仕事に文句などあるはずがない)
・曲構成 ★★ (緩急自在の楽曲を散りばめるがバラードも飽きさせない)
・個性 ★★ (音楽性は本作で確立したため新展開もほしいところ)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「MIDNIGHT PRINCE」 KiKi
「MIDNIGHT PRINCE」(1987 CBSソニー)
KiKi:vocals・synthesizers・drums programming

1.「DON’T THROW MY HEART AWAY (SEXY BOY)」
詞:John Ketterer 曲:KiKi 編:吉田仁
2.「水の中のシェスタ」 詞:麻生圭子 曲:KiKi 編:吉田仁
3.「ONE AFTERNOON」 詞:John Ketterer 曲:KiKi 編: KiKi・吉田仁
4.「IT’S MY DESIRE」 詞:John Ketterer 曲・編: KiKi
5.「LONG AGO IN THE STARS」 詞:John Ketterer 曲:KiKi 編: KiKi・吉田仁
6.「BEAUTIFUL HILL」 詞・曲・編: KiKi
7.「CELESTIAL ROAD」 詞:John Ketterer 曲:KiKi 編: KiKi・吉田仁
8.「LESSONS OF LOVE」 詞:John Ketterer 曲:KiKi 編: KiKi・吉田仁
9.「FALLEN PALETTE」 詞:竹中仁見 曲:KiKi 編:吉田仁
10.「MIDNIGHT PRINCE」 詞:John Ketterer 曲・編: KiKi
<support musician>
吉良知彦:guitars
近藤正明:guitars
Rodney Drummer:bass・fletless bass
岡沢章:electric bass
小田原豊:drums・congas・symbals・tom toms・hi-hats
緒方泰男:keyboards・synthesizers・piano・organ・Mini Moog
野力奏一:piano
古村利彦:sax
大山曜:computer programming
坂本俊介:computer programming
竹中仁見:computer programming
吉田仁:drums programming
produced by 中村慶一
co-produced by 梶原浩史
sound produced by 吉田仁
mixing engineered by 中村悦弘
recording engineered by 鈴木良博・中村悦弘
● SALON MUSICをサポートに硬質なデジタルサウンドを構築する女性マルチシンガーのデビュー作&ラスト作
1986年にリリースされた高橋幸宏とSteve Jansenの合作シングル「STAY CLOSE」のバッキングヴォーカル等で活動を開始した女性シンガーKiKiは、その自由奔放なヴォーカリゼーションに定評のある歌手であり、自身で作詞、作曲、編曲まで手掛けることのできるマルチプレイヤーでもあります。彼女のそんな圧倒的な音楽性は放っておかれるはずはなく、翌87年に全曲オリジナルソングが収録された本作でデビューを果たします。KiKiという匿名性から来る不思議なイメージと、れっきとした日本人でありながら洋楽テイストが強い楽曲も相まって、当時の音楽シーンの中でもある種の違和感を持って迎えられた作品でもありましたが、80年代らしいデジタルサウンドに彩られたそれらの楽曲はKiKiのヴォーカルとの相性も良く、デビュー作とは思えないほどのクオリティを持ったアルバムに仕上がっているといった印象です。
この明らかにUKニューウェーブ的なサウンドをプロデュースしたのは、後にThe Fripper's Guitarを手掛け渋谷系の一翼を担った吉田仁で、SALON MUSICで古くから欧州で人気を博した音楽性をこのプロデュース作品でもいかんなく発揮しています。相棒の竹中仁見も何曲かプログラミングを担当しまさにSALON MUSICがバックを支えたといってもよい本作だけあって、作品全体の印象は(英詞が多いということもあって)邦楽POPSとは一線を画したヨーロッパ感覚あふれるファンタジーPOPSという色彩が強いです。とはいえやはり本作の魅力といえばKiKiのデビュー作とは思えないほどの自信にあふれた安定感たっぷりのヴォーカルパフォーマンスと、アレンジまでも手掛けるマルチタスクぶりにあります。余りのプロフェッショナルぶりにヴォーカルよりも音数の少なさによりできた音の隙間を利用したキレの良いサウンドに耳が行ってしまいますが、サウンド過多な80年代後半の音楽シーンにあって、本作はデジタルな処理が目立ちながらもKiKiという優れたヴォーカリストの歌を引き立てることに専念したプロデュース術の確かさを感じさせる好作品であると思っています。結局一般的には受け入れられずソロアーティストとしてはラスト作となりますが、その後はSOFT BALLETのサポート等で活動、ヴォイストレーナーに転身後はUAや鬼束ちひろらを育てるなど、縁の下で重要な活躍をしながらゴスペルにも傾倒するなど現在でも多方面で活動しています。
<Favorite Songs>
・「ONE AFTERNOON」
どこか初期ZABADAKを彷佛とさせるファンタジックな3拍子ナンバー。アクセントとなるスネアの響きも分厚くて好印象です。計算されたカッチリしたリズムをはじめ機械的なサウンドが80年代らしいです。
・「BEAUTIFUL HILL」
クッキリしたリズムにエフェクティブな装飾が施されたミディアムチューン。デジタルなシンセと音数が少ないからこそ際立つドラミングでヴォーカルを引き立てることを忘れていません。
・「CELESTIAL ROAD」
本作の中でも硬派なデジタルサウンドを聴かせてくれる。スネアドラムの響きやファンキーなベースプレイなど、PINKを思わせるデジタルファンクでありながらこの楽曲の音数の少なさがそれぞれの音を際立たせることに成功しています。
<評点>
・サウンド ★★ (シンプルな音を組み合わせながら音響面にこだわりあり)
・メロディ ★ (全曲KiKiが手掛けているが洋楽志向が強くメロは強くない)
・リズム ★★ (80年代らしい力強いリズム音が堪能できるところは好感)
・曲構成 ★ (いわゆるキラーソングがないためメリハリに欠けてしまう)
・個性 ★ (歌手としての実力は申し分ないがインパクトが薄い)
総合評点: 6点
KiKi:vocals・synthesizers・drums programming

1.「DON’T THROW MY HEART AWAY (SEXY BOY)」
詞:John Ketterer 曲:KiKi 編:吉田仁
2.「水の中のシェスタ」 詞:麻生圭子 曲:KiKi 編:吉田仁
3.「ONE AFTERNOON」 詞:John Ketterer 曲:KiKi 編: KiKi・吉田仁
4.「IT’S MY DESIRE」 詞:John Ketterer 曲・編: KiKi
5.「LONG AGO IN THE STARS」 詞:John Ketterer 曲:KiKi 編: KiKi・吉田仁
6.「BEAUTIFUL HILL」 詞・曲・編: KiKi
7.「CELESTIAL ROAD」 詞:John Ketterer 曲:KiKi 編: KiKi・吉田仁
8.「LESSONS OF LOVE」 詞:John Ketterer 曲:KiKi 編: KiKi・吉田仁
9.「FALLEN PALETTE」 詞:竹中仁見 曲:KiKi 編:吉田仁
10.「MIDNIGHT PRINCE」 詞:John Ketterer 曲・編: KiKi
<support musician>
吉良知彦:guitars
近藤正明:guitars
Rodney Drummer:bass・fletless bass
岡沢章:electric bass
小田原豊:drums・congas・symbals・tom toms・hi-hats
緒方泰男:keyboards・synthesizers・piano・organ・Mini Moog
野力奏一:piano
古村利彦:sax
大山曜:computer programming
坂本俊介:computer programming
竹中仁見:computer programming
吉田仁:drums programming
produced by 中村慶一
co-produced by 梶原浩史
sound produced by 吉田仁
mixing engineered by 中村悦弘
recording engineered by 鈴木良博・中村悦弘
● SALON MUSICをサポートに硬質なデジタルサウンドを構築する女性マルチシンガーのデビュー作&ラスト作
1986年にリリースされた高橋幸宏とSteve Jansenの合作シングル「STAY CLOSE」のバッキングヴォーカル等で活動を開始した女性シンガーKiKiは、その自由奔放なヴォーカリゼーションに定評のある歌手であり、自身で作詞、作曲、編曲まで手掛けることのできるマルチプレイヤーでもあります。彼女のそんな圧倒的な音楽性は放っておかれるはずはなく、翌87年に全曲オリジナルソングが収録された本作でデビューを果たします。KiKiという匿名性から来る不思議なイメージと、れっきとした日本人でありながら洋楽テイストが強い楽曲も相まって、当時の音楽シーンの中でもある種の違和感を持って迎えられた作品でもありましたが、80年代らしいデジタルサウンドに彩られたそれらの楽曲はKiKiのヴォーカルとの相性も良く、デビュー作とは思えないほどのクオリティを持ったアルバムに仕上がっているといった印象です。
この明らかにUKニューウェーブ的なサウンドをプロデュースしたのは、後にThe Fripper's Guitarを手掛け渋谷系の一翼を担った吉田仁で、SALON MUSICで古くから欧州で人気を博した音楽性をこのプロデュース作品でもいかんなく発揮しています。相棒の竹中仁見も何曲かプログラミングを担当しまさにSALON MUSICがバックを支えたといってもよい本作だけあって、作品全体の印象は(英詞が多いということもあって)邦楽POPSとは一線を画したヨーロッパ感覚あふれるファンタジーPOPSという色彩が強いです。とはいえやはり本作の魅力といえばKiKiのデビュー作とは思えないほどの自信にあふれた安定感たっぷりのヴォーカルパフォーマンスと、アレンジまでも手掛けるマルチタスクぶりにあります。余りのプロフェッショナルぶりにヴォーカルよりも音数の少なさによりできた音の隙間を利用したキレの良いサウンドに耳が行ってしまいますが、サウンド過多な80年代後半の音楽シーンにあって、本作はデジタルな処理が目立ちながらもKiKiという優れたヴォーカリストの歌を引き立てることに専念したプロデュース術の確かさを感じさせる好作品であると思っています。結局一般的には受け入れられずソロアーティストとしてはラスト作となりますが、その後はSOFT BALLETのサポート等で活動、ヴォイストレーナーに転身後はUAや鬼束ちひろらを育てるなど、縁の下で重要な活躍をしながらゴスペルにも傾倒するなど現在でも多方面で活動しています。
<Favorite Songs>
・「ONE AFTERNOON」
どこか初期ZABADAKを彷佛とさせるファンタジックな3拍子ナンバー。アクセントとなるスネアの響きも分厚くて好印象です。計算されたカッチリしたリズムをはじめ機械的なサウンドが80年代らしいです。
・「BEAUTIFUL HILL」
クッキリしたリズムにエフェクティブな装飾が施されたミディアムチューン。デジタルなシンセと音数が少ないからこそ際立つドラミングでヴォーカルを引き立てることを忘れていません。
・「CELESTIAL ROAD」
本作の中でも硬派なデジタルサウンドを聴かせてくれる。スネアドラムの響きやファンキーなベースプレイなど、PINKを思わせるデジタルファンクでありながらこの楽曲の音数の少なさがそれぞれの音を際立たせることに成功しています。
<評点>
・サウンド ★★ (シンプルな音を組み合わせながら音響面にこだわりあり)
・メロディ ★ (全曲KiKiが手掛けているが洋楽志向が強くメロは強くない)
・リズム ★★ (80年代らしい力強いリズム音が堪能できるところは好感)
・曲構成 ★ (いわゆるキラーソングがないためメリハリに欠けてしまう)
・個性 ★ (歌手としての実力は申し分ないがインパクトが薄い)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「illusion」 久石譲
「illusion」(1988 NECアベニュー)
久石譲:vocal・Fairlight III・synthesizers・acoustic piano・backing vocal

1.「Zin-Zin」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
2.「Night City」 詞:三浦徳子 曲・編:久石譲
3.「8 1/2の風景画」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
4.「風のHighway」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
5.「冬の旅人」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
6.「オリエントへの曵航」 曲・編:久石譲
7.「ブレードランナーの彷徨」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
8.「L’etranger」 詞:冬杜花代子 曲・編:久石譲
9.「少年の日の夕暮れ」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
10.「illusion」 曲・編:久石譲
<support musician>
藤沢麻衣:vocal
斉藤英夫:electric guitar
鈴木智文:electric guitar
土方隆行:electric guitar
芳野藤丸:electric guitar
宮野弘紀:acoustic guitar
高水健司:bass
小林靖宏:accordion
浜田均:vibraphone
浜口茂外也:percussion
数原晋:trumpet
Jake H. Conception:tenor sax
金子飛鳥グループ:strings
篠崎正嗣グループ:strings
Darek Jackson:chorus
木戸泰弘:chorus
劇団ひまわり:chorus
比山貴咏史:chorus
広谷順子:chorus・scat
produced by 久石譲
co-produced by 島袋晃・大川正義
mixing engineered by 大川正義
recording engineered by 大川正義・浜田純伸
● 映画音楽の巨匠の華麗なシティポップ!Fairlightも活躍する若き日のデジタルPOPS作品
今や劇伴においては第1人者に上り詰めたと言ってもよい音楽家、久石譲は、「風の谷のナウシカ」の音楽を手掛けたことで脚光を浴び、特にスタジオジブリ制作のアニメにおける評価と共に映画音楽においてもその才能を発揮し、現在の高い評価につながっているわけですが、そのような劇伴とは別に意外とアイドルソングへの楽曲提供も多く、CM音楽制作のかたわらいち早くFairlightなどのサンプラーを駆使してデジタル系サウンドへのアプローチを図るなど、新しいサウンドを追求する姿勢と電子楽器に対する造詣の深さをも感じさせる意欲的なサウンドクリエイターでもありました。特に80年代ではFairlightを利用した緻密なエレクトリック作品が多かったわけですが、そんな彼がこうしたサウンドをバックにみずからヴォーカルをとった初のシティポップ作品が本作です。
意外なほどストレートなAORな楽曲をまるでシンガーソングライターのように歌い上げるこの作品は、非常に「歌」を重視していることに間違いはないのですが、それはやはり豊富な経験と持ち前のメロディセンスによる楽曲があればこそです。数々の名曲を生み出している彼からすれば膨大な楽曲のうちの何曲かかもしれませんが、歌モノPOPSに真剣に向き合った結果生み出された本作の楽曲群は、自身がヴォーカルをとっていることもあり歌い手以上にどこかしら「愛」が感じられてなりません。そして特筆すべきはFairlightを駆使したサンプラー&デジタル系シンセとストリングス、ピアノ、ビブラフォンといった生楽器の融合をいち早く試みたエレクトリックサウンドの充実ぶりです。基本的にリズム隊を始めとしてプログラミングサウンドが中心でありながらどこか歌謡曲的な、優しげなイメージの楽曲が多いのは、ストリングスを始めとした生楽器の使い方に一日の長があるからで、そのあたりはさすがは稀代のメロディメイカーたるゆえんでもあるでしょう。その後は現代音楽まですの守備範囲を広げて巨匠への道を歩んでいく久石譲ですが、本作は歌モノに挑戦しつつしっかりモノにしている彼の音楽センスを改めて再確認させる名盤であると思います。
<Favorite Songs>
・「Night City」
アダルトに、そしてクールにキメるドライブにマッチした久石流シティポップ。シーケンスされた軽快なシンセベースのノリがテクノを感じさせますが、Bメロで優しく入ってくるストリングスがいかにも彼らしいです。そして何といってもビブラフォンとギターのソロバトルが素晴らしい!
・「オリエントへの曵航」
民族系要素と大陸的メロディを生かした真骨頂とも言えるインスト。しかしPOPS作品のインストとはいえ、マシナリーなリズムが強調され、民族コーラスやストリングス音色などFairlightが大活躍しており、得意技と実験的アプローチの両方を兼ね備えたクオリティの高い楽曲です。
・「ブレードランナーの彷徨」
「オリエントへの曵航」に続く形での民族コーラスサンプリングのイントロとオリエンタルフレーズが魅力のシティポップ。「Night City」のようなキャッチーでスピード感も兼ね備えていますが、激しいギターソロも含めて本作の中でもハードなアプローチが光ります。
<評点>
・サウンド ★★★ (Fairlightを巧みに使いデジタル度は非常に高いサウンド)
・メロディ ★★★★ (構成もフレーズの使い方もその非凡さを隠しきれない)
・リズム ★★ (全編打ち込みながら隙はなく違和感は感じさせない)
・曲構成 ★★ (ラスト3曲のうちもう1曲盛り上げてほしかったところ)
・個性 ★ (久石という名前がなければ隠れた名盤扱いされるほどの)
総合評点: 7点
久石譲:vocal・Fairlight III・synthesizers・acoustic piano・backing vocal

1.「Zin-Zin」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
2.「Night City」 詞:三浦徳子 曲・編:久石譲
3.「8 1/2の風景画」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
4.「風のHighway」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
5.「冬の旅人」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
6.「オリエントへの曵航」 曲・編:久石譲
7.「ブレードランナーの彷徨」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
8.「L’etranger」 詞:冬杜花代子 曲・編:久石譲
9.「少年の日の夕暮れ」 詞:松本一起 曲・編:久石譲
10.「illusion」 曲・編:久石譲
<support musician>
藤沢麻衣:vocal
斉藤英夫:electric guitar
鈴木智文:electric guitar
土方隆行:electric guitar
芳野藤丸:electric guitar
宮野弘紀:acoustic guitar
高水健司:bass
小林靖宏:accordion
浜田均:vibraphone
浜口茂外也:percussion
数原晋:trumpet
Jake H. Conception:tenor sax
金子飛鳥グループ:strings
篠崎正嗣グループ:strings
Darek Jackson:chorus
木戸泰弘:chorus
劇団ひまわり:chorus
比山貴咏史:chorus
広谷順子:chorus・scat
produced by 久石譲
co-produced by 島袋晃・大川正義
mixing engineered by 大川正義
recording engineered by 大川正義・浜田純伸
● 映画音楽の巨匠の華麗なシティポップ!Fairlightも活躍する若き日のデジタルPOPS作品
今や劇伴においては第1人者に上り詰めたと言ってもよい音楽家、久石譲は、「風の谷のナウシカ」の音楽を手掛けたことで脚光を浴び、特にスタジオジブリ制作のアニメにおける評価と共に映画音楽においてもその才能を発揮し、現在の高い評価につながっているわけですが、そのような劇伴とは別に意外とアイドルソングへの楽曲提供も多く、CM音楽制作のかたわらいち早くFairlightなどのサンプラーを駆使してデジタル系サウンドへのアプローチを図るなど、新しいサウンドを追求する姿勢と電子楽器に対する造詣の深さをも感じさせる意欲的なサウンドクリエイターでもありました。特に80年代ではFairlightを利用した緻密なエレクトリック作品が多かったわけですが、そんな彼がこうしたサウンドをバックにみずからヴォーカルをとった初のシティポップ作品が本作です。
意外なほどストレートなAORな楽曲をまるでシンガーソングライターのように歌い上げるこの作品は、非常に「歌」を重視していることに間違いはないのですが、それはやはり豊富な経験と持ち前のメロディセンスによる楽曲があればこそです。数々の名曲を生み出している彼からすれば膨大な楽曲のうちの何曲かかもしれませんが、歌モノPOPSに真剣に向き合った結果生み出された本作の楽曲群は、自身がヴォーカルをとっていることもあり歌い手以上にどこかしら「愛」が感じられてなりません。そして特筆すべきはFairlightを駆使したサンプラー&デジタル系シンセとストリングス、ピアノ、ビブラフォンといった生楽器の融合をいち早く試みたエレクトリックサウンドの充実ぶりです。基本的にリズム隊を始めとしてプログラミングサウンドが中心でありながらどこか歌謡曲的な、優しげなイメージの楽曲が多いのは、ストリングスを始めとした生楽器の使い方に一日の長があるからで、そのあたりはさすがは稀代のメロディメイカーたるゆえんでもあるでしょう。その後は現代音楽まですの守備範囲を広げて巨匠への道を歩んでいく久石譲ですが、本作は歌モノに挑戦しつつしっかりモノにしている彼の音楽センスを改めて再確認させる名盤であると思います。
<Favorite Songs>
・「Night City」
アダルトに、そしてクールにキメるドライブにマッチした久石流シティポップ。シーケンスされた軽快なシンセベースのノリがテクノを感じさせますが、Bメロで優しく入ってくるストリングスがいかにも彼らしいです。そして何といってもビブラフォンとギターのソロバトルが素晴らしい!
・「オリエントへの曵航」
民族系要素と大陸的メロディを生かした真骨頂とも言えるインスト。しかしPOPS作品のインストとはいえ、マシナリーなリズムが強調され、民族コーラスやストリングス音色などFairlightが大活躍しており、得意技と実験的アプローチの両方を兼ね備えたクオリティの高い楽曲です。
・「ブレードランナーの彷徨」
「オリエントへの曵航」に続く形での民族コーラスサンプリングのイントロとオリエンタルフレーズが魅力のシティポップ。「Night City」のようなキャッチーでスピード感も兼ね備えていますが、激しいギターソロも含めて本作の中でもハードなアプローチが光ります。
<評点>
・サウンド ★★★ (Fairlightを巧みに使いデジタル度は非常に高いサウンド)
・メロディ ★★★★ (構成もフレーズの使い方もその非凡さを隠しきれない)
・リズム ★★ (全編打ち込みながら隙はなく違和感は感じさせない)
・曲構成 ★★ (ラスト3曲のうちもう1曲盛り上げてほしかったところ)
・個性 ★ (久石という名前がなければ隠れた名盤扱いされるほどの)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「INVITATION」 田中陽子
「INVITATION」(1990 ポニーキャニオン)
田中陽子:vocal

1.「太陽のバースディ」 詞:森雪之丞 曲:柴矢俊彦 編:鷺巣詩郎
2.「陽春のパッセージ」 詞:森雪之丞 曲:岡本朗 編:鷺巣詩郎
3.「水たまりの太陽」 詞:森雪之丞 曲:山口美央子 編:鷺巣詩郎
4.「一人にさせない」 詞:許瑛子 曲:山口美央子 編:鷺巣詩郎
5.「夢の中の待ちぼうけ」 詞:田口俊 曲:山口美央子 編:鷺巣詩郎
6.「夕陽のクレッシェンド」 詞:森雪之丞 曲:いしいめぐみ 編:鷺巣詩郎
7.「放課後の冒険者たち」 詞:田口俊 曲:松浦有希 編:鷺巣詩郎
8.「陽炎のエチュード」 詞:工藤順子 曲:いしいめぐみ 編:鷺巣詩郎
9.「赤い口紅」 詞:大森祥子 曲:松本俊明 編:鷺巣詩郎
10.「陽のあたるステーション」 詞:田口俊 曲:山口美央子 編:鷺巣詩郎
produced by 長岡和弘
mixing engineered by 内門幸司
recording engineered by 内門幸司・松本幸一郎
● 鷺巣詩郎全面サウンドプロデュースでの粘っこいシンセが炸裂!時代に恵まれなかった不遇のアイドル唯一のアルバム
ホリプロスカウトキャラバングランプリの看板を引っさげて1990年にシングル「陽春のパッセージ」でデビューした田中陽子は、同時期に放映されたドラマ「アイドル天使ようこそようこ」とリンクする形で売り出しにかけられた90年代の幕開けを飾る期待のアイドルでしたが、この90年に3枚のシングルをリリースした後、活動期間たった1年で芸能界を突如引退するという、一瞬の輝きを見せたアイドルでもありました。そんな彼女がたった1枚残したアルバムが本作です。芯の強そうなルックスと90年代らしい軽いリズムに乗ったライトサウンドが魅力の楽曲に恵まれた本作は、シングル曲以外にも一定以上のクオリティを保っているなかなかの好作品に仕上がっています。
さて、本作のサウンド面を一手に引き受けているのが80年代を代表する職業編曲家でありながら現在もなお第一線で活躍する不屈不撓の名アレンジャー鷺巣詩郎です。メジャーなアーティストやアイドルのみならず、B級と呼ばれる短命アイドルも多数手掛ける彼は、非常にクセのあるシンセアレンジが得意であり、時には楽曲を凌駕してしまうこともあるため賛否両論分かれていますが、実績は申し分なく80年代の五本指に入るほどの編曲家であると個人的には思っています。そんな彼が手掛けた本作においても、もはや彼の代名詞である粘り気のあるシンセブラスは健在です。しかしさすがは90年代らしく爽やか曲調を得意とする山口美央子楽曲が半数近くを占める状況にあって鷺巣アレンジとしてはやや控えめな印象も受けます。とはいってもそこはさすがは手練のアーティストらしく、バラードソング「夢の中の待ちぼうけ」におけるヘタウマ木管の自由奔放なフレーズやメランコリックな「赤い口紅」などでその独特のセンスを垣間みることができます。短命に終わり作品もわすかしか残せないアイドルは少なくありませんが、その1枚が実は洗練されているというケースもよくあるわけで、本作などはその部類に入る隠れた高品質のアルバムと言えるのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「太陽のバースディ」
元ジューシィーフルーツの柴矢俊彦作曲のテクノポップ歌謡。正確に刻む16ビートのシーケンスの音色の粘っこさが鷺巣サウンドで興味深いです。間奏のリズムマシンギミックも楽しく(テクノですよ!)この楽曲の軽快さを上手に表現した名曲です。
・「夕陽のクレッシェンド」
マイナー調で攻めるアップテンポのセカンドシングル。こういったスピード感のあるロック調楽曲には派手な鷺巣シンセブラスがよく似合います。特にサビの細かく刻むシーケンスと駆け上がるシンセフレーズもコンビネーションは圧巻です。
・「陽炎のエチュード」
「夕陽のクレッシェンド」の続編的なサードシングル。打ち込みのスチールドラムとディレイの効いたシンセブラスがちょっぴり南国風味を感じさせるものの、基本は哀愁で、寂寥感も少し感じさせます。そしてこの楽曲もしつこいくらいのシンセブラスで楽曲を彩っています。3枚のシングルの中では個人的にはベストです。
<評点>
・サウンド ★★★ (緩急のある楽曲に巧みに合わせて変化に富むフレーズの妙)
・メロディ ★ (クセのあるアレンジと比較するとあっさりし過ぎな面も)
・リズム ★ (1曲目のリズム遊びは楽しいが全体的には印象は薄い)
・曲構成 ★ (シングル曲とアルバム曲のタイプにブレがあり散漫さも)
・個性 ★ (アイドル歌手としての個性は微妙だが楽曲の質は低くない)
総合評点: 6点
田中陽子:vocal

1.「太陽のバースディ」 詞:森雪之丞 曲:柴矢俊彦 編:鷺巣詩郎
2.「陽春のパッセージ」 詞:森雪之丞 曲:岡本朗 編:鷺巣詩郎
3.「水たまりの太陽」 詞:森雪之丞 曲:山口美央子 編:鷺巣詩郎
4.「一人にさせない」 詞:許瑛子 曲:山口美央子 編:鷺巣詩郎
5.「夢の中の待ちぼうけ」 詞:田口俊 曲:山口美央子 編:鷺巣詩郎
6.「夕陽のクレッシェンド」 詞:森雪之丞 曲:いしいめぐみ 編:鷺巣詩郎
7.「放課後の冒険者たち」 詞:田口俊 曲:松浦有希 編:鷺巣詩郎
8.「陽炎のエチュード」 詞:工藤順子 曲:いしいめぐみ 編:鷺巣詩郎
9.「赤い口紅」 詞:大森祥子 曲:松本俊明 編:鷺巣詩郎
10.「陽のあたるステーション」 詞:田口俊 曲:山口美央子 編:鷺巣詩郎
produced by 長岡和弘
mixing engineered by 内門幸司
recording engineered by 内門幸司・松本幸一郎
● 鷺巣詩郎全面サウンドプロデュースでの粘っこいシンセが炸裂!時代に恵まれなかった不遇のアイドル唯一のアルバム
ホリプロスカウトキャラバングランプリの看板を引っさげて1990年にシングル「陽春のパッセージ」でデビューした田中陽子は、同時期に放映されたドラマ「アイドル天使ようこそようこ」とリンクする形で売り出しにかけられた90年代の幕開けを飾る期待のアイドルでしたが、この90年に3枚のシングルをリリースした後、活動期間たった1年で芸能界を突如引退するという、一瞬の輝きを見せたアイドルでもありました。そんな彼女がたった1枚残したアルバムが本作です。芯の強そうなルックスと90年代らしい軽いリズムに乗ったライトサウンドが魅力の楽曲に恵まれた本作は、シングル曲以外にも一定以上のクオリティを保っているなかなかの好作品に仕上がっています。
さて、本作のサウンド面を一手に引き受けているのが80年代を代表する職業編曲家でありながら現在もなお第一線で活躍する不屈不撓の名アレンジャー鷺巣詩郎です。メジャーなアーティストやアイドルのみならず、B級と呼ばれる短命アイドルも多数手掛ける彼は、非常にクセのあるシンセアレンジが得意であり、時には楽曲を凌駕してしまうこともあるため賛否両論分かれていますが、実績は申し分なく80年代の五本指に入るほどの編曲家であると個人的には思っています。そんな彼が手掛けた本作においても、もはや彼の代名詞である粘り気のあるシンセブラスは健在です。しかしさすがは90年代らしく爽やか曲調を得意とする山口美央子楽曲が半数近くを占める状況にあって鷺巣アレンジとしてはやや控えめな印象も受けます。とはいってもそこはさすがは手練のアーティストらしく、バラードソング「夢の中の待ちぼうけ」におけるヘタウマ木管の自由奔放なフレーズやメランコリックな「赤い口紅」などでその独特のセンスを垣間みることができます。短命に終わり作品もわすかしか残せないアイドルは少なくありませんが、その1枚が実は洗練されているというケースもよくあるわけで、本作などはその部類に入る隠れた高品質のアルバムと言えるのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「太陽のバースディ」
元ジューシィーフルーツの柴矢俊彦作曲のテクノポップ歌謡。正確に刻む16ビートのシーケンスの音色の粘っこさが鷺巣サウンドで興味深いです。間奏のリズムマシンギミックも楽しく(テクノですよ!)この楽曲の軽快さを上手に表現した名曲です。
・「夕陽のクレッシェンド」
マイナー調で攻めるアップテンポのセカンドシングル。こういったスピード感のあるロック調楽曲には派手な鷺巣シンセブラスがよく似合います。特にサビの細かく刻むシーケンスと駆け上がるシンセフレーズもコンビネーションは圧巻です。
・「陽炎のエチュード」
「夕陽のクレッシェンド」の続編的なサードシングル。打ち込みのスチールドラムとディレイの効いたシンセブラスがちょっぴり南国風味を感じさせるものの、基本は哀愁で、寂寥感も少し感じさせます。そしてこの楽曲もしつこいくらいのシンセブラスで楽曲を彩っています。3枚のシングルの中では個人的にはベストです。
<評点>
・サウンド ★★★ (緩急のある楽曲に巧みに合わせて変化に富むフレーズの妙)
・メロディ ★ (クセのあるアレンジと比較するとあっさりし過ぎな面も)
・リズム ★ (1曲目のリズム遊びは楽しいが全体的には印象は薄い)
・曲構成 ★ (シングル曲とアルバム曲のタイプにブレがあり散漫さも)
・個性 ★ (アイドル歌手としての個性は微妙だが楽曲の質は低くない)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
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