「TOUCH AND GO」 角松敏生
「TOUCH AND GO」(1986 BMGファンハウス)
角松敏生:vocal・electric guitar・rhythm programming

1.「Overture~Take Off Melody」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・大谷和夫
2.「Lucky Lady Feel So Good」 詞・曲・編:角松敏生
3.「Take It Away」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・Jerry Hey
4.「August Rain ~It's Our Pure Hearts~」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・Jerry Hey
5.「Pile Driver」 詞・曲・編:角松敏生
6.「1975」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・Jerry Hey
7.「Good-Bye Love」 曲・編:角松敏生
8.「The Best Of Love」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・Jerry Hey
<support musician>
David T. Walker:electric guitar
Doc Powell:electric guitar
George Wadenius:electric guitar solo
Ira Seagul:electric guitar
Anthony Jackson:electric bass
Tinker Berfield:electric bass
青木智仁:electric bass
Buddy Williams:drums
Yogi Horton:drums
Don Groluick:piano・electric piano
Richard Tee:piano・electric piano・Hammond organ
Philippe Saisse:synth bass・strings synth・synthesizer
小倉泰治:synthesizer solo
友成好宏:synthesizer
林有三:synthesizer・rhythm programming・synthesizer programming
Bashiri Johnson:latin percussion
ペッカー:percussion
Chuck Findley:trumpet
Gary Grant:trumpet
Jerry Hey:trumpet・flugel horn・brass arrangement
William Reichenbach:trombone
Bob Minzer:sax solo
友田グループ:strings
Angie B:background vocal
Brenda White King:background vocal
Craig Derry:background vocal
Curtis Jr. King:background vocal
Debbie Cole:background vocal
Sandra St. Victor:background vocal
Tawatha Agee:background vocal
木戸泰弘:background vocal
国分友里恵:background vocal
比山貴咏史:background vocal
Rodney C:rap
Sari Jhonson:talk
小滝満:DMX programming
大谷和夫:strings arrangement
produced by 角松敏生
mixing engineered by Michael H. Brauer
recording engineered by Alec Head・Bruce Miller・Mario Salvati・藤田浩・Francis Buckley
● 海外から豪華ゲストを迎えダンスビートとメロディセンスに深みを増した絶頂期の傑作アルバム
初期のリゾートPOPS路線から1984年「AFTER 5 CRASH」、85年「GOLD DIGGER」で都会的なダンサブルファンク路線に飛躍的に進化し、80年代の先鋭的な音楽シーンを引っ張った天才サウンドクリエイター角松敏生は、80年代におけるニューヨークを中心とした最先端のエレクトリックサウンドを貪欲に吸収した結果、ドラムマシンやスクラッチを取り入れた斬新な打ち込みサウンドと贅沢で豪華なミュージシャン陣による確か演奏力が絶妙にマッチした楽曲を世の中に供給し続けていきました。このようにまさに彼の音楽センスが絶頂期にあった時期にあった中、その集大成ともいうべき本作がリリースされます。信頼のおける国内の手練のミュージシャン達に加えて、本作ではなんとYogi HortonやRichard Tee、Philippe Saisse、Jerry Heyといった米国の一流ミュージシャンを従えるなど、ハードルを格段に上げてクオリティを極限まで追求したこの時期における最高のパフォーマンスを目指した、まさに意欲作と言える作品に仕上がっています。
さて、角松といえばバラードにも定評がある稀代のメロディメイカーとしての側面もありますが、本作では「GOLD DIGGER」で片鱗を見せたプログラミングへの傾倒がより鮮明になった印象があります。「GOLD DIGGER」までは都会的な先鋭的サウンドを志向しながらも、リゾート感覚あふれるサマーソング志向を捨て切れていませんでした。しかし本作では遂に初期のリゾート路線をニューヨーク的最先端エレクトロサウンドへの固執が凌駕して、純度の高いエレクトリックシティPOPSの境地に辿り着いたと言ってもよいでしょう。ただしこうしたデジタルサウンドへの傾倒を見せつつもそれだけで終わらず、豪華一流ミュージシャンでサウンドの輪郭を強固なものとする周到さは彼ならではのこだわりであり、こういった姿勢はその後も、そして現在も変わることはないようです。本作がリリースされた86年は中山美穂やJADOESのプロデュースにおいてもその凄まじいクオリティを披露しており、その一聴して角松サウンドだとわかるクセのあるサウンドセンスとあざといまでのフェイク&コーラスは、まさにこの時期に開花したと言ってもよいでしょう。そういった意味でも本作はまさに1つの頂点に達した作品であると言えます。そしてエレクトリカルな洋楽志向が極限に高まった彼は、12インチを集めたベスト盤「T's 12inches」リリース後に遂に海外に渡り、一流ミュージシャンを向こうに回したニューヨークレコーディングの傑作「Before The Daylight」をリリースすることになるのです。
<Favorite Songs>
・「Overture~Take Off Melody」
オープニングには必ずキラーチューンを持ってくる角松渾身の爽やか名曲。とはいえリズムはゴリゴリの打ち込みで、ほとんどがシンセでトラックが構成されたエレクトリカルな楽曲です。それでいてどこか柔らかい印象を受けるのはひとえに大谷和夫のストリングスアレンジと国分友里恵をはじめとしたコーラス隊によるものでしょう。
・「1975」
緊張感が高まる楽曲が多い本作中でも力の抜けた感じが好印象の楽曲。突き抜けたサビのメロディは爽やかではあるのにどこかノスタルジーを感じさせます。間奏のマシナリーリズムに絡むラップから開放的なブラスが広がる巧妙な場面の切り替えが秀逸です。
・「The Best Of Love」
先行シングルとは別バージョンのラストを飾る爽快さが売りの名曲。シングルとは爽やかさが格段にUPしていますが、それもそのはずJerry Heyの快活なブラスアレンジと角松サウンドの売りでもある青木智仁の強力なスラップベース、RIchard TeeやYogi Horton(どちらも故人)の安定感のある技量が悦妙にマッチした奇跡のセッションです。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (贅沢過ぎるサポートと斬新なサウンドメイクに脱帽)
・メロディ ★★★★ (衰えを知らないメロディセンスも本作はサウンド重視)
・リズム ★★★★★ (これだけのリズム隊では評価するのもおこがましい)
・曲構成 ★★★ (楽曲が少なく物足りないが1曲ごとの密度は濃い)
・個性 ★★★ (本作が彼の集大成でありターニングポイントとなった)
総合評点: 9点
角松敏生:vocal・electric guitar・rhythm programming

1.「Overture~Take Off Melody」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・大谷和夫
2.「Lucky Lady Feel So Good」 詞・曲・編:角松敏生
3.「Take It Away」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・Jerry Hey
4.「August Rain ~It's Our Pure Hearts~」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・Jerry Hey
5.「Pile Driver」 詞・曲・編:角松敏生
6.「1975」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・Jerry Hey
7.「Good-Bye Love」 曲・編:角松敏生
8.「The Best Of Love」 詞・曲:角松敏生 編:角松敏生・Jerry Hey
<support musician>
David T. Walker:electric guitar
Doc Powell:electric guitar
George Wadenius:electric guitar solo
Ira Seagul:electric guitar
Anthony Jackson:electric bass
Tinker Berfield:electric bass
青木智仁:electric bass
Buddy Williams:drums
Yogi Horton:drums
Don Groluick:piano・electric piano
Richard Tee:piano・electric piano・Hammond organ
Philippe Saisse:synth bass・strings synth・synthesizer
小倉泰治:synthesizer solo
友成好宏:synthesizer
林有三:synthesizer・rhythm programming・synthesizer programming
Bashiri Johnson:latin percussion
ペッカー:percussion
Chuck Findley:trumpet
Gary Grant:trumpet
Jerry Hey:trumpet・flugel horn・brass arrangement
William Reichenbach:trombone
Bob Minzer:sax solo
友田グループ:strings
Angie B:background vocal
Brenda White King:background vocal
Craig Derry:background vocal
Curtis Jr. King:background vocal
Debbie Cole:background vocal
Sandra St. Victor:background vocal
Tawatha Agee:background vocal
木戸泰弘:background vocal
国分友里恵:background vocal
比山貴咏史:background vocal
Rodney C:rap
Sari Jhonson:talk
小滝満:DMX programming
大谷和夫:strings arrangement
produced by 角松敏生
mixing engineered by Michael H. Brauer
recording engineered by Alec Head・Bruce Miller・Mario Salvati・藤田浩・Francis Buckley
● 海外から豪華ゲストを迎えダンスビートとメロディセンスに深みを増した絶頂期の傑作アルバム
初期のリゾートPOPS路線から1984年「AFTER 5 CRASH」、85年「GOLD DIGGER」で都会的なダンサブルファンク路線に飛躍的に進化し、80年代の先鋭的な音楽シーンを引っ張った天才サウンドクリエイター角松敏生は、80年代におけるニューヨークを中心とした最先端のエレクトリックサウンドを貪欲に吸収した結果、ドラムマシンやスクラッチを取り入れた斬新な打ち込みサウンドと贅沢で豪華なミュージシャン陣による確か演奏力が絶妙にマッチした楽曲を世の中に供給し続けていきました。このようにまさに彼の音楽センスが絶頂期にあった時期にあった中、その集大成ともいうべき本作がリリースされます。信頼のおける国内の手練のミュージシャン達に加えて、本作ではなんとYogi HortonやRichard Tee、Philippe Saisse、Jerry Heyといった米国の一流ミュージシャンを従えるなど、ハードルを格段に上げてクオリティを極限まで追求したこの時期における最高のパフォーマンスを目指した、まさに意欲作と言える作品に仕上がっています。
さて、角松といえばバラードにも定評がある稀代のメロディメイカーとしての側面もありますが、本作では「GOLD DIGGER」で片鱗を見せたプログラミングへの傾倒がより鮮明になった印象があります。「GOLD DIGGER」までは都会的な先鋭的サウンドを志向しながらも、リゾート感覚あふれるサマーソング志向を捨て切れていませんでした。しかし本作では遂に初期のリゾート路線をニューヨーク的最先端エレクトロサウンドへの固執が凌駕して、純度の高いエレクトリックシティPOPSの境地に辿り着いたと言ってもよいでしょう。ただしこうしたデジタルサウンドへの傾倒を見せつつもそれだけで終わらず、豪華一流ミュージシャンでサウンドの輪郭を強固なものとする周到さは彼ならではのこだわりであり、こういった姿勢はその後も、そして現在も変わることはないようです。本作がリリースされた86年は中山美穂やJADOESのプロデュースにおいてもその凄まじいクオリティを披露しており、その一聴して角松サウンドだとわかるクセのあるサウンドセンスとあざといまでのフェイク&コーラスは、まさにこの時期に開花したと言ってもよいでしょう。そういった意味でも本作はまさに1つの頂点に達した作品であると言えます。そしてエレクトリカルな洋楽志向が極限に高まった彼は、12インチを集めたベスト盤「T's 12inches」リリース後に遂に海外に渡り、一流ミュージシャンを向こうに回したニューヨークレコーディングの傑作「Before The Daylight」をリリースすることになるのです。
<Favorite Songs>
・「Overture~Take Off Melody」
オープニングには必ずキラーチューンを持ってくる角松渾身の爽やか名曲。とはいえリズムはゴリゴリの打ち込みで、ほとんどがシンセでトラックが構成されたエレクトリカルな楽曲です。それでいてどこか柔らかい印象を受けるのはひとえに大谷和夫のストリングスアレンジと国分友里恵をはじめとしたコーラス隊によるものでしょう。
・「1975」
緊張感が高まる楽曲が多い本作中でも力の抜けた感じが好印象の楽曲。突き抜けたサビのメロディは爽やかではあるのにどこかノスタルジーを感じさせます。間奏のマシナリーリズムに絡むラップから開放的なブラスが広がる巧妙な場面の切り替えが秀逸です。
・「The Best Of Love」
先行シングルとは別バージョンのラストを飾る爽快さが売りの名曲。シングルとは爽やかさが格段にUPしていますが、それもそのはずJerry Heyの快活なブラスアレンジと角松サウンドの売りでもある青木智仁の強力なスラップベース、RIchard TeeやYogi Horton(どちらも故人)の安定感のある技量が悦妙にマッチした奇跡のセッションです。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (贅沢過ぎるサポートと斬新なサウンドメイクに脱帽)
・メロディ ★★★★ (衰えを知らないメロディセンスも本作はサウンド重視)
・リズム ★★★★★ (これだけのリズム隊では評価するのもおこがましい)
・曲構成 ★★★ (楽曲が少なく物足りないが1曲ごとの密度は濃い)
・個性 ★★★ (本作が彼の集大成でありターニングポイントとなった)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「宇宙人」 ウズマキマズウ
「宇宙人」(2008 AGOGA)
ウズマキマズウ

<members>
小川美潮:vocal・chorus
大川俊司:bass・gut guitar・kalimba
板倉文:guitars・chorus arrangement
Ma*To:keyboards
BANANA-U・G:piano・synthesizer
whacho:toycussion・ULT-sound
マック清水:congas・percussion
青山純:drums
1.「7月」 詞・曲:小川美潮 編:ウズマキマズウ
2.「良心力学」 詞・曲:小川美潮 編:ウズマキマズウ・板倉文
3.「ENSO」 詞:小川美潮 曲:大川俊司・小川美潮 編:ウズマキマズウ
4.「Forget me not」 詞:小川美潮 曲:板倉文 編:ウズマキマズウ
5.「12月21日」 詞:小川美潮 曲:大川俊司・小川美潮 編:ウズマキマズウ
6.「やっとだね」 詞・曲:小川美潮 編:ウズマキマズウ
7.「私は宝」 詞:小川美潮 曲:大川俊司・小川美潮 編:ウズマキマズウ
<support musician>
小林武文:tabla
produced by ウズマキマズウ
engineered by 浅野剛
● とぼけた味に圧倒的な演奏力!気心の知れたメンバーを従えた小川美潮最新傑作
1993年のシングル「言えないI Love You」をもって3枚のソロアルバムを発表したEPICソニーでのソロ活動は終了し、細野晴臣プロデュースのアンビエントユニットLove, Peace and Tranceに参加、その後はインディーズに活動の場を移しながら97年に大川俊司と板倉文と共にウズマキマズウが結成されます。その後一旦解散するなど紆余曲折を経た後、2006年再び往年のメンバー達が集まりウズマキマズウとしての活動を再開します。とはいいつつも活動はライブ中心であり、しかもライブごとに微妙にメンバーが変わるなど不安定な、よくいえば柔軟な活動形態でしたが、ついに2008年待望のスタジオ音源である本作がリリースされます。板倉文はもちろんのこと、Ma*ToやBANANA、青山純などソロ活動全盛期のメンバーが揃った本作では、全く衰えを知らない演奏力に加え、制約にとらわれない小川美潮の自由奔放なヴォーカルスタイルが楽しめる意欲作となっています。
全盛期メンバーということでEPIC時代のソロ作品を思い出させますが、正直なところそれほどのポップ性は感じられません。どちらかといえばチャクラに近い印象を受けます。しかし鍵盤担当にMa*ToとBANANAという一筋縄ではいかない個性派キーボーディストの2人を揃えているだけあって、音空間の広がりは格段に安定感を増しています。日本有数のインプロヴィゼーションバンドであるKilling Timeを中心としたメンバーのアレンジ&演奏ということで複雑なコード進行と不思議メロディが行き来する変拍子スタイルは、相変わらず変幻自在です。おおよそポップとはいえない「ENSO」「Forget me not」などの楽曲が続いていきますが、その中でも「7月」「12月21日」「やっとだね」のようなポップ寄りの技巧的な演奏がより引き立てられており、こういう楽曲があるとなぜか安心させられてしまいます。彼らはそのマイペースな活動ぶりで思い出した時にしか活動しないのですが、これだけのベテランバンドがいまだ色あせない新鮮なサウンドを誇っているのは、そのゆったりとした活動速度にあるのかもしれません。
<Favorite Songs>
・「7月」
奇妙なメロディラインを感性が赴くままに歌い上げる小川節全開の楽曲。シンセの音響的な使い方に合わせるかのような人間LFOな歌唱法といい、そのつかみどころのなさは真骨頂と言えるでしょう。
・「12月21日」
ジャジーな温かみのあるサウンドに癒される本作随一のポップソング。とはいえ頻繁に転調する独特のフレーズはもちろん健在で、後半の驚くべき展開のサビへ向かうメロディセンスは素晴らしいものがあります。板倉文のギターソロも非常にテクニカルです。
・「やっとだね」
ソロ作品「檸檬の月」に収録されていた「Chat Show」に通じるようなお遊びファンクPOPS。熟練した技術でしか表現できないような絶妙な呼吸に基づいたサウンドはこの楽曲で全開に達します。間奏では各メンバーのソロがフィーチャーされており、その個性的なフレーズが十二分に堪能できます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (そのサウンドの印象以上にシンセの2人は目立つ)
・メロディ ★ (技巧に技巧を重ねて複雑になり過ぎる傾向がある)
・リズム ★★★★ (さすが青山純のドラミングのノリは安定感抜群)
・曲構成 ★ (何年も待ったのに7曲だけでは満足できない・・)
・個性 ★★ (よくも悪くも全くその音楽性が変化していない)
総合評点: 7点
ウズマキマズウ

<members>
小川美潮:vocal・chorus
大川俊司:bass・gut guitar・kalimba
板倉文:guitars・chorus arrangement
Ma*To:keyboards
BANANA-U・G:piano・synthesizer
whacho:toycussion・ULT-sound
マック清水:congas・percussion
青山純:drums
1.「7月」 詞・曲:小川美潮 編:ウズマキマズウ
2.「良心力学」 詞・曲:小川美潮 編:ウズマキマズウ・板倉文
3.「ENSO」 詞:小川美潮 曲:大川俊司・小川美潮 編:ウズマキマズウ
4.「Forget me not」 詞:小川美潮 曲:板倉文 編:ウズマキマズウ
5.「12月21日」 詞:小川美潮 曲:大川俊司・小川美潮 編:ウズマキマズウ
6.「やっとだね」 詞・曲:小川美潮 編:ウズマキマズウ
7.「私は宝」 詞:小川美潮 曲:大川俊司・小川美潮 編:ウズマキマズウ
<support musician>
小林武文:tabla
produced by ウズマキマズウ
engineered by 浅野剛
● とぼけた味に圧倒的な演奏力!気心の知れたメンバーを従えた小川美潮最新傑作
1993年のシングル「言えないI Love You」をもって3枚のソロアルバムを発表したEPICソニーでのソロ活動は終了し、細野晴臣プロデュースのアンビエントユニットLove, Peace and Tranceに参加、その後はインディーズに活動の場を移しながら97年に大川俊司と板倉文と共にウズマキマズウが結成されます。その後一旦解散するなど紆余曲折を経た後、2006年再び往年のメンバー達が集まりウズマキマズウとしての活動を再開します。とはいいつつも活動はライブ中心であり、しかもライブごとに微妙にメンバーが変わるなど不安定な、よくいえば柔軟な活動形態でしたが、ついに2008年待望のスタジオ音源である本作がリリースされます。板倉文はもちろんのこと、Ma*ToやBANANA、青山純などソロ活動全盛期のメンバーが揃った本作では、全く衰えを知らない演奏力に加え、制約にとらわれない小川美潮の自由奔放なヴォーカルスタイルが楽しめる意欲作となっています。
全盛期メンバーということでEPIC時代のソロ作品を思い出させますが、正直なところそれほどのポップ性は感じられません。どちらかといえばチャクラに近い印象を受けます。しかし鍵盤担当にMa*ToとBANANAという一筋縄ではいかない個性派キーボーディストの2人を揃えているだけあって、音空間の広がりは格段に安定感を増しています。日本有数のインプロヴィゼーションバンドであるKilling Timeを中心としたメンバーのアレンジ&演奏ということで複雑なコード進行と不思議メロディが行き来する変拍子スタイルは、相変わらず変幻自在です。おおよそポップとはいえない「ENSO」「Forget me not」などの楽曲が続いていきますが、その中でも「7月」「12月21日」「やっとだね」のようなポップ寄りの技巧的な演奏がより引き立てられており、こういう楽曲があるとなぜか安心させられてしまいます。彼らはそのマイペースな活動ぶりで思い出した時にしか活動しないのですが、これだけのベテランバンドがいまだ色あせない新鮮なサウンドを誇っているのは、そのゆったりとした活動速度にあるのかもしれません。
<Favorite Songs>
・「7月」
奇妙なメロディラインを感性が赴くままに歌い上げる小川節全開の楽曲。シンセの音響的な使い方に合わせるかのような人間LFOな歌唱法といい、そのつかみどころのなさは真骨頂と言えるでしょう。
・「12月21日」
ジャジーな温かみのあるサウンドに癒される本作随一のポップソング。とはいえ頻繁に転調する独特のフレーズはもちろん健在で、後半の驚くべき展開のサビへ向かうメロディセンスは素晴らしいものがあります。板倉文のギターソロも非常にテクニカルです。
・「やっとだね」
ソロ作品「檸檬の月」に収録されていた「Chat Show」に通じるようなお遊びファンクPOPS。熟練した技術でしか表現できないような絶妙な呼吸に基づいたサウンドはこの楽曲で全開に達します。間奏では各メンバーのソロがフィーチャーされており、その個性的なフレーズが十二分に堪能できます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (そのサウンドの印象以上にシンセの2人は目立つ)
・メロディ ★ (技巧に技巧を重ねて複雑になり過ぎる傾向がある)
・リズム ★★★★ (さすが青山純のドラミングのノリは安定感抜群)
・曲構成 ★ (何年も待ったのに7曲だけでは満足できない・・)
・個性 ★★ (よくも悪くも全くその音楽性が変化していない)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「RAKU RAKU KIRAKU」 MENU
「RAKU RAKU KIRAKU」 (1984 ユピテル)
MENU

<members>
ちわきまゆみ:vocal
星 渉:guitars・voice・Drumulater・computer・synthesizer
1.「つちのこサン」 詞・曲:きしださーや・ちわきまゆみ 編:星 渉
2.「ナンキンテリアでドテカボチャ」 詞:ちわきまゆみ 曲・編:星 渉
3.「私と異人さん」 詞:ちわきまゆみ 曲・編:星 渉
4.「はずれのマーチ」 詞:ちわきまゆみ・星 渉 曲・編:星 渉
5.「花咲か娘」 詞:ちわきまゆみ 曲・編:星 渉
6.「みんなおいで」 詞:ちわきまゆみ・星 渉 曲・編:星 渉
<support musician>
岡野一:bass
荻原基文:bass
渡辺茂:bass
BANANA:keyboards
友田真吾:percussion
矢壁篤信:percussion
戸田誠司:sax・voice
produced by 山田道成
mixing engineered by 寺田仁
recording engineered by 寺田仁・比留間整
● 前作から一転しチョッパーベースも鮮やかな躍動感溢れる完成度を増した2ndアルバム
1980年代初頭に日本独自の無国籍ニューウェーブサウンドを目指して結成された男女混合バンドLe Menuがメンバー脱退の末に2人組ユニットになったのが、チャイルディッシュなテクノポップユニットであるMENUです。強烈な個性の声を操るちわきまゆみとサウンド面でイニシアチブをとる星渉の2人は、ユニット化を機にシンセサイザーやリズムマシンを前面に押し出したサウンドを志向していくことになりますが、もともとはLe Menuが目指していた自由奔放なニューウェーブを最小メンバーで表現するための苦肉の策であったように見受けられます。84年ユピテルレコードより1stミニアルバム「Do Do'n'ka-Don!」をリリース、素っ頓狂な子供声ヴォーカルと童謡テクノな世界観は当時既に廃れつつあったニューウェーブムーブメントに遅れて一石を投じる形となりました。そして同年早くも2ndミニアルバムの本作をリリースに至ったわけですが、リリース当日にユピテルレコードが倒産し、現在でもCD化には至らず幻のアルバムとされています。
そのような波乱な経緯をたどったアルバムですが、その中身はとても充実しています。サポート陣には前作に引き続きSHI-SHONENやPINKのメンバー、BANANAといった80年代中期のポストニューウェーブを支える個性溢れるミュージシャン達が参加し、彩りを加えています。しかしサウンド面ではっきり違いが見られるのは、前作はフレットレスベースが多用されているのに対して、本作はチョッパーベースがフィーチャーされ前作と比べて躍動感が全面的に強調されている印象を受けます。音響的なギターのフレーズや電子的なSE風のシンセサウンドなどは星渉のセンスが光る部分ですが、こうしたともすれば頭でっかちになりがちなタイプのサウンドをここまでポップで親しみやすい楽曲に昇華させるところにMENUの個性があり、本作ではこうした音楽性がようやく形になってきた感があっただけに、レコード会社倒産により水を差されてしまったのが残念でなりません。結局活動ペースを崩したMENUは東芝EMIに移籍しベストアルバムリリース後解散、ちわきまゆみはご存じの通りグラムロック女王として80年代後期のバンドブームを向こうに回して奮闘し、星渉は白浜久とのコラボの後に音楽業界から姿を消してしまいます。
<Favorite Songs>
・「はずれのマーチ」
タイトル通り調子っぱずれのサックスフレーズが楽しいファンキーチューン。Bメロを歌なしで電子音フレーズに任せるセンスがニューウェーブっぽいです。滑らかなベースラインも主旋律のように聴こえるほど主張しています。
・「みんなおいで」
多彩なギターサウンドとゆったりめに跳ねるリズムが艶やかな楽曲。ギターとベース、ドラムのリズミカルな絡み合いが絶妙で、後半の祭のような盛り上がりもあってただ単純に完成度が高く感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (マニアックな音響的フレーズにこだわりを感じる)
・メロディ ★★★ (サウンドに惑わされるが1つ1つが実にわかりやすい)
・リズム ★★★★ (2つの個性派バンドのリズム隊による強力な個性)
・曲構成 ★★ (6曲ながら緩急のついた構成で十分に楽しめる)
・個性 ★★★ (前作よりも自由奔放に開き直った音が気持ち良い)
総合評点: 8点
MENU

<members>
ちわきまゆみ:vocal
星 渉:guitars・voice・Drumulater・computer・synthesizer
1.「つちのこサン」 詞・曲:きしださーや・ちわきまゆみ 編:星 渉
2.「ナンキンテリアでドテカボチャ」 詞:ちわきまゆみ 曲・編:星 渉
3.「私と異人さん」 詞:ちわきまゆみ 曲・編:星 渉
4.「はずれのマーチ」 詞:ちわきまゆみ・星 渉 曲・編:星 渉
5.「花咲か娘」 詞:ちわきまゆみ 曲・編:星 渉
6.「みんなおいで」 詞:ちわきまゆみ・星 渉 曲・編:星 渉
<support musician>
岡野一:bass
荻原基文:bass
渡辺茂:bass
BANANA:keyboards
友田真吾:percussion
矢壁篤信:percussion
戸田誠司:sax・voice
produced by 山田道成
mixing engineered by 寺田仁
recording engineered by 寺田仁・比留間整
● 前作から一転しチョッパーベースも鮮やかな躍動感溢れる完成度を増した2ndアルバム
1980年代初頭に日本独自の無国籍ニューウェーブサウンドを目指して結成された男女混合バンドLe Menuがメンバー脱退の末に2人組ユニットになったのが、チャイルディッシュなテクノポップユニットであるMENUです。強烈な個性の声を操るちわきまゆみとサウンド面でイニシアチブをとる星渉の2人は、ユニット化を機にシンセサイザーやリズムマシンを前面に押し出したサウンドを志向していくことになりますが、もともとはLe Menuが目指していた自由奔放なニューウェーブを最小メンバーで表現するための苦肉の策であったように見受けられます。84年ユピテルレコードより1stミニアルバム「Do Do'n'ka-Don!」をリリース、素っ頓狂な子供声ヴォーカルと童謡テクノな世界観は当時既に廃れつつあったニューウェーブムーブメントに遅れて一石を投じる形となりました。そして同年早くも2ndミニアルバムの本作をリリースに至ったわけですが、リリース当日にユピテルレコードが倒産し、現在でもCD化には至らず幻のアルバムとされています。
そのような波乱な経緯をたどったアルバムですが、その中身はとても充実しています。サポート陣には前作に引き続きSHI-SHONENやPINKのメンバー、BANANAといった80年代中期のポストニューウェーブを支える個性溢れるミュージシャン達が参加し、彩りを加えています。しかしサウンド面ではっきり違いが見られるのは、前作はフレットレスベースが多用されているのに対して、本作はチョッパーベースがフィーチャーされ前作と比べて躍動感が全面的に強調されている印象を受けます。音響的なギターのフレーズや電子的なSE風のシンセサウンドなどは星渉のセンスが光る部分ですが、こうしたともすれば頭でっかちになりがちなタイプのサウンドをここまでポップで親しみやすい楽曲に昇華させるところにMENUの個性があり、本作ではこうした音楽性がようやく形になってきた感があっただけに、レコード会社倒産により水を差されてしまったのが残念でなりません。結局活動ペースを崩したMENUは東芝EMIに移籍しベストアルバムリリース後解散、ちわきまゆみはご存じの通りグラムロック女王として80年代後期のバンドブームを向こうに回して奮闘し、星渉は白浜久とのコラボの後に音楽業界から姿を消してしまいます。
<Favorite Songs>
・「はずれのマーチ」
タイトル通り調子っぱずれのサックスフレーズが楽しいファンキーチューン。Bメロを歌なしで電子音フレーズに任せるセンスがニューウェーブっぽいです。滑らかなベースラインも主旋律のように聴こえるほど主張しています。
・「みんなおいで」
多彩なギターサウンドとゆったりめに跳ねるリズムが艶やかな楽曲。ギターとベース、ドラムのリズミカルな絡み合いが絶妙で、後半の祭のような盛り上がりもあってただ単純に完成度が高く感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (マニアックな音響的フレーズにこだわりを感じる)
・メロディ ★★★ (サウンドに惑わされるが1つ1つが実にわかりやすい)
・リズム ★★★★ (2つの個性派バンドのリズム隊による強力な個性)
・曲構成 ★★ (6曲ながら緩急のついた構成で十分に楽しめる)
・個性 ★★★ (前作よりも自由奔放に開き直った音が気持ち良い)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「π3.14」 ROCKETS
「π3.14」(1981 Rocketland)
ROCKETS

<members>
Christan Le Bartz:vocals
"Little" Gerard L'Her:bass・vocals
Alain Maratrat:guitars・keyboards・vocals
Fabrice Quagliotti:keyboards
Alain Groetzinger:drums・percussion
1.「RADIATE」 Jean-Pierre Massiera/Claude Lemoine
2.「IMAGINE E.S.P」 Jean-Pierre Massiera/Spege/Claude Lemoine
3.「ZIGA ZIGA 999」 Guy Battarel/Claude Lemoine/Jean-Pierre Massiera
4.「HYPNOTIC REALITY」 Alain Maratrat/Claude Lemoine/Jean-Pierre Massiera
5.「IDEOMATIC」 Jean-Pierre Massiera/Claude Lemoine
6.「VIDEO-ADDICT」 Jean-Pierre Massiera/Claude Lemoine/Maknarce
7.「ASTRO STORM」 Jean-Pierre Massiera/Claude Lemoine
8.「KING OF THE UNIVERSE」 Gerard L'Her
<support musician>
Chantal Ricci:vocal
produced by Claude Lemoine
● エレドラを導入しさらにマシナリーに!外部交信での相乗作用によって生まれたバンド史上最高傑作
銀塗りスキンヘッドのインパクトとあからさまな宇宙コンセプトによるスペースロックなサウンドで、イタリアではかなりの人気を誇っていたフランス出身グループ、ROCKETS。70年代後半からその近未来ぶりを見せつけて来た彼らですが、80年代に入りPOPS界への電子楽器の普及が急速に進んでいくにつれて、彼らのサウンド面にも変化が現れてきます。前作「GALAXY」まではスペイシーな音を多用しながらも演奏力による肉感的な印象が残っていましたが、翌81年にリリースされた本作ではドラムにも全面的にSIMMONSエレクトリックドラムが導入され、マシナリー感が強まりSF映画のような近未来感が最高潮に達することになりました。ぱっと見ではキワモノ感の強い彼らの作品の中でも、そのわかりやすさといいカルトな話題性も強い重要作品となっています。
さて、本作がリリースされた時期は、当時一貫としてROCKETSをプロデュースしてきたClaude Lemoineが、ベテランプログレバンドVISITORSをプロデュースしていた時期であり、VISITORSの中心人物であるフランスのカルトプロデューサーJean-Pierre Massieraとの共作シングル「V-I-S-I-T-O-R-S」は、ROCKETSスタイルを踏襲したものでした。そのような中、本作の楽曲はこれまでのメンバーが手掛けたものではなく、ほとんどをMassieraとLemoineが共作した楽曲が並び、同年リリースされたVISITORS「V-I-S-I-T-O-R-S」と兄弟作のような形となっています。とはいっても前述のサウンド面での変化以外はROCKETSスタイルはしっかりと保たれており期待を裏切らない仕上がりとなっています。そして本作を語る上で忘れてはいけないのが、「IDEOMATIC」「VIDEO-ADDICT」においてYMOの名盤「BGM」のリズム音色やフレーズを悪びれることなく拝借していることです。サンプラーの使用法も黎明期であった時代に、マッシュアップ的な手法で、しかも極東のシンセポップバンドであったYMOのサウンドに目をつけ(もともと彼らは「Samourai」という楽曲を残すほどの日本好き)、自らの楽曲にちゃっかり採用する(しかも誰でも分かるようにあからさまに)潔さと洒落っ気を今だからこそ再評価すべきです。これをパクリと揶揄するか単純に楽しめるかで賛否が分かれると思いますが、TECHNOLOGY POPSとは実は後者のような解釈で考えられる方向けの音楽であると個人的に思います(お気づきの方もいらっしゃると思いますが、当ブログのタイトルは本作から一部拝借しています。それほど本作はそれを体現しているというわけです)。
<Favorite Songs>
・「RADIATE」
典型的なテクノ的ベースラインに、ロボボイスやエレドラのリズム、そして電子音が混ざるバンドサウンドという時流に乗ったテクノポップチューン。シンセフレーズも音の長さが短い音色を多用するなどリズミカル性を重視したものになっています。
・「IDEOMATIC」
女性ヴォーカリストChantal Ricciをゲストに迎えたいなたいマイナースペイシーエレポップ。なんとイントロからリズムがYMOの名曲「CUE」のリズムトラックをそのまま拝借(フレーズサンプリング?)しており、彼らのYMO愛が忍ばれる楽曲になっています。しかしリズムだけいただいてROCKETS色に染め上げてしまうのは彼らの個性の賜物であると思います。
・「VIDEO-ADDICT」
ROCKETSのYMO愛楽曲その2。前曲からノンストップでつながっていますが繋ぎ目はYMO「LOOM」の無限上昇音、そしてリズムトラックはYMO「MASS」を利用しています。楽曲的にはマイナー感漂うプログレ的構成で、後半はエレドラソロや電子音が飛び交い延々とリズム主体のインストが続いていくといきます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (近未来感が時流に乗った感のある電子音満載作品)
・メロディ ★★ (サウンドでの遊び心が目立ってしまいメロは疎かに)
・リズム ★★★★★ (YMOのリズムだけでなくGroetzingerの技術も評価)
・曲構成 ★★★ (プログレ出身の構成力はさすがプロデューサー主導)
・個性 ★★★ (ネタと技術を兼備したテクノポップとして再評価を)
総合評点: 8点
ROCKETS

<members>
Christan Le Bartz:vocals
"Little" Gerard L'Her:bass・vocals
Alain Maratrat:guitars・keyboards・vocals
Fabrice Quagliotti:keyboards
Alain Groetzinger:drums・percussion
1.「RADIATE」 Jean-Pierre Massiera/Claude Lemoine
2.「IMAGINE E.S.P」 Jean-Pierre Massiera/Spege/Claude Lemoine
3.「ZIGA ZIGA 999」 Guy Battarel/Claude Lemoine/Jean-Pierre Massiera
4.「HYPNOTIC REALITY」 Alain Maratrat/Claude Lemoine/Jean-Pierre Massiera
5.「IDEOMATIC」 Jean-Pierre Massiera/Claude Lemoine
6.「VIDEO-ADDICT」 Jean-Pierre Massiera/Claude Lemoine/Maknarce
7.「ASTRO STORM」 Jean-Pierre Massiera/Claude Lemoine
8.「KING OF THE UNIVERSE」 Gerard L'Her
<support musician>
Chantal Ricci:vocal
produced by Claude Lemoine
● エレドラを導入しさらにマシナリーに!外部交信での相乗作用によって生まれたバンド史上最高傑作
銀塗りスキンヘッドのインパクトとあからさまな宇宙コンセプトによるスペースロックなサウンドで、イタリアではかなりの人気を誇っていたフランス出身グループ、ROCKETS。70年代後半からその近未来ぶりを見せつけて来た彼らですが、80年代に入りPOPS界への電子楽器の普及が急速に進んでいくにつれて、彼らのサウンド面にも変化が現れてきます。前作「GALAXY」まではスペイシーな音を多用しながらも演奏力による肉感的な印象が残っていましたが、翌81年にリリースされた本作ではドラムにも全面的にSIMMONSエレクトリックドラムが導入され、マシナリー感が強まりSF映画のような近未来感が最高潮に達することになりました。ぱっと見ではキワモノ感の強い彼らの作品の中でも、そのわかりやすさといいカルトな話題性も強い重要作品となっています。
さて、本作がリリースされた時期は、当時一貫としてROCKETSをプロデュースしてきたClaude Lemoineが、ベテランプログレバンドVISITORSをプロデュースしていた時期であり、VISITORSの中心人物であるフランスのカルトプロデューサーJean-Pierre Massieraとの共作シングル「V-I-S-I-T-O-R-S」は、ROCKETSスタイルを踏襲したものでした。そのような中、本作の楽曲はこれまでのメンバーが手掛けたものではなく、ほとんどをMassieraとLemoineが共作した楽曲が並び、同年リリースされたVISITORS「V-I-S-I-T-O-R-S」と兄弟作のような形となっています。とはいっても前述のサウンド面での変化以外はROCKETSスタイルはしっかりと保たれており期待を裏切らない仕上がりとなっています。そして本作を語る上で忘れてはいけないのが、「IDEOMATIC」「VIDEO-ADDICT」においてYMOの名盤「BGM」のリズム音色やフレーズを悪びれることなく拝借していることです。サンプラーの使用法も黎明期であった時代に、マッシュアップ的な手法で、しかも極東のシンセポップバンドであったYMOのサウンドに目をつけ(もともと彼らは「Samourai」という楽曲を残すほどの日本好き)、自らの楽曲にちゃっかり採用する(しかも誰でも分かるようにあからさまに)潔さと洒落っ気を今だからこそ再評価すべきです。これをパクリと揶揄するか単純に楽しめるかで賛否が分かれると思いますが、TECHNOLOGY POPSとは実は後者のような解釈で考えられる方向けの音楽であると個人的に思います(お気づきの方もいらっしゃると思いますが、当ブログのタイトルは本作から一部拝借しています。それほど本作はそれを体現しているというわけです)。
<Favorite Songs>
・「RADIATE」
典型的なテクノ的ベースラインに、ロボボイスやエレドラのリズム、そして電子音が混ざるバンドサウンドという時流に乗ったテクノポップチューン。シンセフレーズも音の長さが短い音色を多用するなどリズミカル性を重視したものになっています。
・「IDEOMATIC」
女性ヴォーカリストChantal Ricciをゲストに迎えたいなたいマイナースペイシーエレポップ。なんとイントロからリズムがYMOの名曲「CUE」のリズムトラックをそのまま拝借(フレーズサンプリング?)しており、彼らのYMO愛が忍ばれる楽曲になっています。しかしリズムだけいただいてROCKETS色に染め上げてしまうのは彼らの個性の賜物であると思います。
・「VIDEO-ADDICT」
ROCKETSのYMO愛楽曲その2。前曲からノンストップでつながっていますが繋ぎ目はYMO「LOOM」の無限上昇音、そしてリズムトラックはYMO「MASS」を利用しています。楽曲的にはマイナー感漂うプログレ的構成で、後半はエレドラソロや電子音が飛び交い延々とリズム主体のインストが続いていくといきます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (近未来感が時流に乗った感のある電子音満載作品)
・メロディ ★★ (サウンドでの遊び心が目立ってしまいメロは疎かに)
・リズム ★★★★★ (YMOのリズムだけでなくGroetzingerの技術も評価)
・曲構成 ★★★ (プログレ出身の構成力はさすがプロデューサー主導)
・個性 ★★★ (ネタと技術を兼備したテクノポップとして再評価を)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「Let’s Change The World With Music」PREFAB SPROUT
「Let’s Change The World With Music」 (2009 Kitchenware)
PREFAB SPROUT

<members>
Paddy McAloon:vocals・all instruments
1.「Let There Be Music」 Paddy McAloon
2.「Ride」 Paddy McAloon
3.「I Love Music」 Paddy McAloon
4.「God Watch Over You」 Paddy McAloon
5.「Music Is A Princess」 Paddy McAloon
6.「Earth: The Story So Far」 Paddy McAloon
7.「Last Of The Great Romantics」 Paddy McAloon
8.「Falling In Love」 Paddy McAloon
9.「Sweet Gospel Music」 Paddy McAloon
10.「Meet The New Mozart」 Paddy McAloon
11.「Angel Of Love」 Paddy McAloon
produced by Paddy McAloon
mixing engineered by Calum Malcolm
recording engineered by Paddy McAloon
● どこまでも音楽を愛する天才アーティストの神々しくも美しいメロディ至上主義的名作アルバム
80年代から90年代にかけて「Steve McQueen」「Jordan: The Comeback」など奇跡の名盤を連発し世界のPOPS史にその名を残すPREFAB SPROUTは、彼らのサウンド面での個性でもあったコーラスのWendy Smithが97年の「Andromeda Heights」をもって脱退し、Paddy McAloonのソロユニットとして緩やかに、そして妥協を許さずに活動していきますが、2001年「The Gunman and Other Stories」のリリースを最後に8年間沈黙を保っていました。そして2009年に待望の新作として本作がリリースされることになります。ところが本作はもともと「Jordan: The Comeback」の次回作としてリリースされる予定の作品であり、録音は93年のものに手を加えたものになっており、現在進行形のPREFAB SPROUTというよりは、世紀の名盤をリリースされた後の充実した時期に作られた芳醇な楽曲を収録した記録集としての意味合いが強い作品となっています。
最初から突然のハウス調リズムによるプログラマブルなサウンドに驚かされる本作ですが、それは1人でサウンドまで一手に引き受けるための手段の1つでしかなく、彼の類稀なメロディセンスは全く衰えを見せていません。それどころか時期的に大作「Jordan~」の後に続く時期ということもあって、その勢いもあってますますメロディメイカーとしての才覚に磨きがかかっているという印象を受けます。とはいえさすがに「Let There Be Music」から「I Love Music」までは新境地を垣間見せようとして若干実験的な作風に挑戦している感があります。しかし特に「Music Is A Princess」から「Falling In Love」までの流れはまさしくPREFAB SPROUTでしか表現できないファンタジック&ロマンティックなメロディが目白押しで、これだからPREFAB SPROUTを聴くのはやめられない、といったリスナーの気持ちも理解できるというものです。Paddy McAloonの容態もあって本作以降の作品リリースは望めないかもしれませんが、本作のような美しいメロディ勝負の作品は最近の洋楽ではなかなか聴くことができないため、本作が貴重な名盤であることには間違いありません。
<Favorite Songs>
・「Music Is A Princess」
Paddyらしい隙のないメロディラインとコード感覚の美しさが凝縮された優良POPS。2パートを繰り返す単純な構成でありながらその安定感は抜群で、アレンジを凌駕するメロディ重視の楽曲として素晴らしい仕上がりです。
・「Earth: The Story So Far」
きらびやかで美しくメルヘンティックなおとぎ話のような珠玉の名クリスマスソング。サックス音色の導入でムーディーに盛り上げながらキーの高いサビのフレーズが宇宙への広がりすら感じさせます。
・「Last Of The Great Romantics」
タイトルからして壮大なテーマを感じさせるミディアムバラード。ピアノを基調とした弾き語り風の楽曲ですが、打ち込みと思われるオーケストレーションが、この楽曲が持つファンタジー性を見事に増幅させています。
<評点>
・サウンド ★★★ (メロディを引き立たせる努力は感じるがばらつきも)
・メロディ ★★★★★ (美しいメロディを構築する才能は追随を許さない)
・リズム ★ (打ち込みと思われるリズムは特に前へ出ることはない)
・曲構成 ★★ (掘り出した作品とはいえ若干の手直し感は否めない)
・個性 ★★ (活動するだけでも嬉しいがやはりWendyがいないと)
総合評点: 8点
PREFAB SPROUT

<members>
Paddy McAloon:vocals・all instruments
1.「Let There Be Music」 Paddy McAloon
2.「Ride」 Paddy McAloon
3.「I Love Music」 Paddy McAloon
4.「God Watch Over You」 Paddy McAloon
5.「Music Is A Princess」 Paddy McAloon
6.「Earth: The Story So Far」 Paddy McAloon
7.「Last Of The Great Romantics」 Paddy McAloon
8.「Falling In Love」 Paddy McAloon
9.「Sweet Gospel Music」 Paddy McAloon
10.「Meet The New Mozart」 Paddy McAloon
11.「Angel Of Love」 Paddy McAloon
produced by Paddy McAloon
mixing engineered by Calum Malcolm
recording engineered by Paddy McAloon
● どこまでも音楽を愛する天才アーティストの神々しくも美しいメロディ至上主義的名作アルバム
80年代から90年代にかけて「Steve McQueen」「Jordan: The Comeback」など奇跡の名盤を連発し世界のPOPS史にその名を残すPREFAB SPROUTは、彼らのサウンド面での個性でもあったコーラスのWendy Smithが97年の「Andromeda Heights」をもって脱退し、Paddy McAloonのソロユニットとして緩やかに、そして妥協を許さずに活動していきますが、2001年「The Gunman and Other Stories」のリリースを最後に8年間沈黙を保っていました。そして2009年に待望の新作として本作がリリースされることになります。ところが本作はもともと「Jordan: The Comeback」の次回作としてリリースされる予定の作品であり、録音は93年のものに手を加えたものになっており、現在進行形のPREFAB SPROUTというよりは、世紀の名盤をリリースされた後の充実した時期に作られた芳醇な楽曲を収録した記録集としての意味合いが強い作品となっています。
最初から突然のハウス調リズムによるプログラマブルなサウンドに驚かされる本作ですが、それは1人でサウンドまで一手に引き受けるための手段の1つでしかなく、彼の類稀なメロディセンスは全く衰えを見せていません。それどころか時期的に大作「Jordan~」の後に続く時期ということもあって、その勢いもあってますますメロディメイカーとしての才覚に磨きがかかっているという印象を受けます。とはいえさすがに「Let There Be Music」から「I Love Music」までは新境地を垣間見せようとして若干実験的な作風に挑戦している感があります。しかし特に「Music Is A Princess」から「Falling In Love」までの流れはまさしくPREFAB SPROUTでしか表現できないファンタジック&ロマンティックなメロディが目白押しで、これだからPREFAB SPROUTを聴くのはやめられない、といったリスナーの気持ちも理解できるというものです。Paddy McAloonの容態もあって本作以降の作品リリースは望めないかもしれませんが、本作のような美しいメロディ勝負の作品は最近の洋楽ではなかなか聴くことができないため、本作が貴重な名盤であることには間違いありません。
<Favorite Songs>
・「Music Is A Princess」
Paddyらしい隙のないメロディラインとコード感覚の美しさが凝縮された優良POPS。2パートを繰り返す単純な構成でありながらその安定感は抜群で、アレンジを凌駕するメロディ重視の楽曲として素晴らしい仕上がりです。
・「Earth: The Story So Far」
きらびやかで美しくメルヘンティックなおとぎ話のような珠玉の名クリスマスソング。サックス音色の導入でムーディーに盛り上げながらキーの高いサビのフレーズが宇宙への広がりすら感じさせます。
・「Last Of The Great Romantics」
タイトルからして壮大なテーマを感じさせるミディアムバラード。ピアノを基調とした弾き語り風の楽曲ですが、打ち込みと思われるオーケストレーションが、この楽曲が持つファンタジー性を見事に増幅させています。
<評点>
・サウンド ★★★ (メロディを引き立たせる努力は感じるがばらつきも)
・メロディ ★★★★★ (美しいメロディを構築する才能は追随を許さない)
・リズム ★ (打ち込みと思われるリズムは特に前へ出ることはない)
・曲構成 ★★ (掘り出した作品とはいえ若干の手直し感は否めない)
・個性 ★★ (活動するだけでも嬉しいがやはりWendyがいないと)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「wishes」 安倍麻美
「wishes」 (2003 ユニバーサル)
安倍麻美:vocal・rap・chorus・clap・shout

1.「理由 (Album Version)」 詞:326 曲:筒美京平 編:久保田光太郎
2.「捨てるのは拾うため 泣くのは笑うために」
詞:326 曲:筒美京平 編:久保田光太郎
3.「水たまりの中の月」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
4.「きみをつれていく」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
5.「Rolling Stone」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:中西亮輔
6.「Our Song」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
7.「夢見」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:山路敦斗詩
8.「Answer Me」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
9.「赤い花」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
10.「守ってあげるよ」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
11.「Wish for Loving ~愛せたらいいのに」
詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:中西亮輔
<support musician>
朝三憲一:guitars
飯塚昌明:guitars
石成正人:guitars・clap
越田太郎丸:guitars
高砂圭司:bass
渡辺等:bass・cello
井上ヨシマサ:keyboards・computer programming
久保田光太郎:keyboards・computer programming
中西亮輔:keyboards・computer programming・chorus・clap
山路敦斗詩:keyboards・computer programming
石垣千香:violin
中井一朗:violin
御法川雄矢:violin
前田善彦:violin
下成佐登子:chorus
キク:rap
コータ:rap
瀧澤大介:shout
タッキー:shout
田村充義:shout
チン☆パラ:shout
Deckstream:scratch・clap
LOWARS:clap
高橋良一:clap
村上葉子:clap・shout
山口雅人:clap・shout
石川鉄男:synthesizer manipulate
produced by 田村充義
mixing engineered by 関口正樹・石川鉄男
recording engineered by 関口正樹・石川鉄男・小長谷正美・山田信正・佐藤宏章
● 筒美京平21世紀最高仕事!程よいエレクトロサウンドがメロディを引き立てるアイドルソングアルバムの傑作
モーニング娘。の安倍なつみの妹という触れ込みでデビュー前から話題を振りまいていた安倍麻美は、大手芸能事務所ナベプロに所属し、シングル「理由」で歌手デビューを果たします。作詞にはイラストレーターの326を、日本歌謡界を代表する作曲家である筒美京平を迎えたこのデビューシングルは、ダンサブルなR&B志向が強かった当時のJ-POP楽曲にしては珍しく、古き良き歌謡曲に忠実な文学臭いメロディが特徴で、ナベプロとしては久しぶりのアイドルとしてそのPRに力が入っていました。その後はアレンジャーに井上ヨシマサを起用し「Our Song」「きみをつれていく」というアイドルらしからぬ奇妙で重苦しい質感のシングルを連発し、それらを引っさげた形でデビューアルバムである本作がリリースされます。
シングルだけの起用と思いきやなんとアルバム全曲に筒美京平が担当するなど、往年の80'sアイドルのようなメロディラインを00年代風にリニューアルしたような楽曲が多数収録された本作ですが、作詞は前述の326と安倍麻美本人が担当し、安倍本人の歌手活動への意気込みが感じられます。本作はシングルの世界観とは異なる「Rolling Stone」や「Answer Me」のような浮いた楽曲があるのが残念ですが、かわいらしさが前面に出がちなアイドルソングとは一線を画した、悩ましい頭でっかちな歌詞と昭和メロディと井上ヨシマサアレンジ曲をはじめとしたうっすらエレクトロなサウンドとの相性が良くクオリティは事務所の期待に沿うように高いものがあります。とはいえやはり本作は筒美京平の全面参加という部分にスポットが与えられるのは仕方のないところで、しかも全く衰えない美しくバタ臭い構成力抜群のメロディラインが健在なところに、昭和の大作曲家としての底力が感じられます。そういった意味でも本作は00年代のアイドルソングの隠れた名盤に挙げられると言ってよいでしょう。
<Favorite Songs>
・「水たまりの中の月」
細かいドラムンベース的リズムに、さらにチープなシンセフレーズが絡みつく説教じみたエレクトリック歌謡。スピード感がありほどよくエレクトロなシンセが混じってくるため、臭いラップもある程度調和されて聴くことができます。これは井上ヨシマサのアレンジ力の成せる業です。
・「きみをつれていく」
イントロやサビにおける切迫感のある歪んだギターがアイドルソングらしくないヘビーな3rdシングル。Aメロの裏で鳴るアルペジオや全編で挿入されるサンプルボイスの効果音的な使用法など、意外と凝った音づくりが楽しめます。
・「Our Song」
デビューシングルから一転して荘厳なトランスシーケンスが飛び交う16ビートエレクトロ歌謡に変身したハードな2ndシングル。しかしこれがダンサブルにならないのは、いかにも昭和な筒美メロディの力が強過ぎるからにほかなりません。サビが2フレーズに分かれたり、サビ前の裏声フレーズなどアイドルらしからぬ冒険的ギミックがキテレツな楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (意外と随所で電子音が散りばめられアクセントになる)
・メロディ ★★★ (楽曲に差はあるがマイナー曲には往年のオーラがある)
・リズム ★ (00年代な細かいリズムが多用されるが軽さは否めない)
・曲構成 ★ (全曲シングルの世界観で押し切るべきであったと思う)
・個性 ★★ (安倍麻美という話題性を利用して筒美メロを復活させた)
総合評点: 7点
安倍麻美:vocal・rap・chorus・clap・shout

1.「理由 (Album Version)」 詞:326 曲:筒美京平 編:久保田光太郎
2.「捨てるのは拾うため 泣くのは笑うために」
詞:326 曲:筒美京平 編:久保田光太郎
3.「水たまりの中の月」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
4.「きみをつれていく」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
5.「Rolling Stone」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:中西亮輔
6.「Our Song」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
7.「夢見」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:山路敦斗詩
8.「Answer Me」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
9.「赤い花」 詞:326 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
10.「守ってあげるよ」 詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:井上ヨシマサ
11.「Wish for Loving ~愛せたらいいのに」
詞:安倍麻美 曲:筒美京平 編:中西亮輔
<support musician>
朝三憲一:guitars
飯塚昌明:guitars
石成正人:guitars・clap
越田太郎丸:guitars
高砂圭司:bass
渡辺等:bass・cello
井上ヨシマサ:keyboards・computer programming
久保田光太郎:keyboards・computer programming
中西亮輔:keyboards・computer programming・chorus・clap
山路敦斗詩:keyboards・computer programming
石垣千香:violin
中井一朗:violin
御法川雄矢:violin
前田善彦:violin
下成佐登子:chorus
キク:rap
コータ:rap
瀧澤大介:shout
タッキー:shout
田村充義:shout
チン☆パラ:shout
Deckstream:scratch・clap
LOWARS:clap
高橋良一:clap
村上葉子:clap・shout
山口雅人:clap・shout
石川鉄男:synthesizer manipulate
produced by 田村充義
mixing engineered by 関口正樹・石川鉄男
recording engineered by 関口正樹・石川鉄男・小長谷正美・山田信正・佐藤宏章
● 筒美京平21世紀最高仕事!程よいエレクトロサウンドがメロディを引き立てるアイドルソングアルバムの傑作
モーニング娘。の安倍なつみの妹という触れ込みでデビュー前から話題を振りまいていた安倍麻美は、大手芸能事務所ナベプロに所属し、シングル「理由」で歌手デビューを果たします。作詞にはイラストレーターの326を、日本歌謡界を代表する作曲家である筒美京平を迎えたこのデビューシングルは、ダンサブルなR&B志向が強かった当時のJ-POP楽曲にしては珍しく、古き良き歌謡曲に忠実な文学臭いメロディが特徴で、ナベプロとしては久しぶりのアイドルとしてそのPRに力が入っていました。その後はアレンジャーに井上ヨシマサを起用し「Our Song」「きみをつれていく」というアイドルらしからぬ奇妙で重苦しい質感のシングルを連発し、それらを引っさげた形でデビューアルバムである本作がリリースされます。
シングルだけの起用と思いきやなんとアルバム全曲に筒美京平が担当するなど、往年の80'sアイドルのようなメロディラインを00年代風にリニューアルしたような楽曲が多数収録された本作ですが、作詞は前述の326と安倍麻美本人が担当し、安倍本人の歌手活動への意気込みが感じられます。本作はシングルの世界観とは異なる「Rolling Stone」や「Answer Me」のような浮いた楽曲があるのが残念ですが、かわいらしさが前面に出がちなアイドルソングとは一線を画した、悩ましい頭でっかちな歌詞と昭和メロディと井上ヨシマサアレンジ曲をはじめとしたうっすらエレクトロなサウンドとの相性が良くクオリティは事務所の期待に沿うように高いものがあります。とはいえやはり本作は筒美京平の全面参加という部分にスポットが与えられるのは仕方のないところで、しかも全く衰えない美しくバタ臭い構成力抜群のメロディラインが健在なところに、昭和の大作曲家としての底力が感じられます。そういった意味でも本作は00年代のアイドルソングの隠れた名盤に挙げられると言ってよいでしょう。
<Favorite Songs>
・「水たまりの中の月」
細かいドラムンベース的リズムに、さらにチープなシンセフレーズが絡みつく説教じみたエレクトリック歌謡。スピード感がありほどよくエレクトロなシンセが混じってくるため、臭いラップもある程度調和されて聴くことができます。これは井上ヨシマサのアレンジ力の成せる業です。
・「きみをつれていく」
イントロやサビにおける切迫感のある歪んだギターがアイドルソングらしくないヘビーな3rdシングル。Aメロの裏で鳴るアルペジオや全編で挿入されるサンプルボイスの効果音的な使用法など、意外と凝った音づくりが楽しめます。
・「Our Song」
デビューシングルから一転して荘厳なトランスシーケンスが飛び交う16ビートエレクトロ歌謡に変身したハードな2ndシングル。しかしこれがダンサブルにならないのは、いかにも昭和な筒美メロディの力が強過ぎるからにほかなりません。サビが2フレーズに分かれたり、サビ前の裏声フレーズなどアイドルらしからぬ冒険的ギミックがキテレツな楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (意外と随所で電子音が散りばめられアクセントになる)
・メロディ ★★★ (楽曲に差はあるがマイナー曲には往年のオーラがある)
・リズム ★ (00年代な細かいリズムが多用されるが軽さは否めない)
・曲構成 ★ (全曲シングルの世界観で押し切るべきであったと思う)
・個性 ★★ (安倍麻美という話題性を利用して筒美メロを復活させた)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「Virgin VS Virgin」 VIRGIN VS
「Virgin VS Virgin」 (1981 キティ)
VIRGIN VS

<members>
A児:vocal
久保田さちお:guitar・chorus
ツッチーまこと:bass
木村しんぺい:drums
ライオンメリー:synthesizer
ひかる:chorus
リッツ:chorus
1.「夢見るカクテルマシン~Cocktail Machine Moon Light Magic Show~」
詞・曲・編:VIRGIN VS
2.「ヌーベル・シンデレラ」 詞・曲・編:VIRGIN VS
3.「ブリキ・ロコモーション」 詞・曲・編:VIRGIN VS
4.「サントワマミイ」
詞:Salvatore Adamo(訳詞:岩谷時子)曲:Salvatore Adamo 編:VIRGIN VS
5.「やきぐりバンバン」 詞・曲:Sonny Bonno 編:VIRGIN VS
6.「ロンリー・ローラー~Only Lonely Skate Roller~」 詞・曲・編:VIRGIN VS
7.「モンテクリスト・ファン・クラブ」 詞・曲・編:VIRGIN VS
8.「サブウェイ・ランナウェイ」 詞・曲・編:VIRGIN VS
9.「さらば青春のハイウェイ~Good-Bye My Friend~」 詞・曲・編:VIRGIN VS
10.「ベスパップ・スカウト」 詞・曲・編:VIRGIN VS
11.「シンデレラ・ラッキー・ロッキー」 詞・曲・編:VIRGIN VS
12.「セラヴィ」 詞・曲・編:VIRGIN VS
<support musician>
張紅陽:keyboards
produced by VIRGIN VS
engineered by 伊藤昭男
● 有無を言わせぬ独特の世界観!A児ことあがた森魚がテクノポップに急接近した問題作
70年代にはフォーキーな活動を展開していたあがた森魚がニューウェーブの洗礼を受け、これまでの音楽性をリセットするかのように電子音が強調されたサウンドを施した自主制作盤「乗物図鑑」をリリースしたのが1980年。この斬新で前衛的な音世界をバンドで表現しようということで、オーディションによりメンバーを集めながら結成されたのがヴァージンVSです。ドラマ「探偵同盟」の主題歌となったシングル「ロンリー・ローラー」で颯爽とデビューし、あがたもA児と名乗り、金色のスーツにサングラスという奇抜な出で立ちで強烈なインパクトを与えながら、その勢いのままに1stアルバムである本作をリリースすることになります。シンセがフィーチャーされつつも2名の女性コーラスを従え、非常に賑やかなパーティーバンドとしての側面も見られた彼らですが、本作はバンドとしてのストレートな姿勢が感じられる作品に仕上がっていると思います。
見事にニューウェーブ化を果たしたA児ことあがた森魚が率いるヴァージンVSですが、当時の日本のニューウェーブバンドは電子音が表現しやすい近未来やSF感覚を醸し出すサウンドを志向することが多かったのですが、彼らはどちらかというとシンセサイザーが生み出すファンタジックなイメージを前面に押し出しているように感じられます。ジャケにもあるように「ブリキ」が1つのテーマになっていることからも、彼らが表現しているのは古き良き時代のブリキのおもちゃが醸し出すようなノスタルジックで童話的な世界観であることが想像できます。また、このバンドは長髪の女装キーボーディスト、ライオン・メリーのデビューバンドとしても知られていますが、彼の参加も強烈な個性となっていて、特にポルタメントを活用した喋るような、そして笑うような技巧的シンセフレーズは斬新かつ圧倒されるインパクトを放っています。2ndアルバムからはニューウェーブバンドらしく徐々にひねくれたサウンドへと変化していく彼らですが、本作ではまだニューウェーブからの影響をストレートに表現しており、だからこそただ単純に純粋で少し変な(?)構成の楽曲を楽しむことができます。デビューアルバムならではの若々しい雰囲気が感じられる好盤であると言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「ヌーベル・シンデレラ」
ディストーションギターを効かせたロックンロール。A児のもはや言葉の判別がつかないようなシャウト気味のヴォーカルに圧倒されます。70年代の彼を知るリスナーにとっては衝撃的であったでしょう。カウントダウンの弾け具合も熱さを通り越してある種の楽しさがこみ上げてきます。
・「やきぐりバンバン」
60年代のヒット曲「Bang Bang」のテクノポップ風リメイク。ロングディレイと早回し&遅回しを多用した音遊びは既にサンプリング的手法を先取りしていますが、このカオスな展開でさえこれもおもちゃ的な単純方法に感じられ親しみやすいです。
・「モンテクリスト・ファン・クラブ」
激しく曲調とヴォーカルが弾ける本作中最も熱さを感じるパーティーソング。なんといってもライオン・メリーの笑うシンセフレーズが圧巻の一言です。間奏のSE的なシンセギミックや途中の寸劇のような台詞回しなど、1曲の中に見せ場がてんこ盛りです。
<評点>
・サウンド ★★★ (少々粗さも目立つがシンセフレーズの個性は抜群)
・メロディ ★ (ノリ重視の単純でわかりやすいメロディが多い)
・リズム ★ (典型的なバンド的ドラムで個性的とは言えない)
・曲構成 ★★★ (コンセプチュアルな構成力はさすがはあがた作品)
・個性 ★★★ (同種のバンドとは異なり楽しさや可愛らしさを追求)
総合評点: 7点
VIRGIN VS

<members>
A児:vocal
久保田さちお:guitar・chorus
ツッチーまこと:bass
木村しんぺい:drums
ライオンメリー:synthesizer
ひかる:chorus
リッツ:chorus
1.「夢見るカクテルマシン~Cocktail Machine Moon Light Magic Show~」
詞・曲・編:VIRGIN VS
2.「ヌーベル・シンデレラ」 詞・曲・編:VIRGIN VS
3.「ブリキ・ロコモーション」 詞・曲・編:VIRGIN VS
4.「サントワマミイ」
詞:Salvatore Adamo(訳詞:岩谷時子)曲:Salvatore Adamo 編:VIRGIN VS
5.「やきぐりバンバン」 詞・曲:Sonny Bonno 編:VIRGIN VS
6.「ロンリー・ローラー~Only Lonely Skate Roller~」 詞・曲・編:VIRGIN VS
7.「モンテクリスト・ファン・クラブ」 詞・曲・編:VIRGIN VS
8.「サブウェイ・ランナウェイ」 詞・曲・編:VIRGIN VS
9.「さらば青春のハイウェイ~Good-Bye My Friend~」 詞・曲・編:VIRGIN VS
10.「ベスパップ・スカウト」 詞・曲・編:VIRGIN VS
11.「シンデレラ・ラッキー・ロッキー」 詞・曲・編:VIRGIN VS
12.「セラヴィ」 詞・曲・編:VIRGIN VS
<support musician>
張紅陽:keyboards
produced by VIRGIN VS
engineered by 伊藤昭男
● 有無を言わせぬ独特の世界観!A児ことあがた森魚がテクノポップに急接近した問題作
70年代にはフォーキーな活動を展開していたあがた森魚がニューウェーブの洗礼を受け、これまでの音楽性をリセットするかのように電子音が強調されたサウンドを施した自主制作盤「乗物図鑑」をリリースしたのが1980年。この斬新で前衛的な音世界をバンドで表現しようということで、オーディションによりメンバーを集めながら結成されたのがヴァージンVSです。ドラマ「探偵同盟」の主題歌となったシングル「ロンリー・ローラー」で颯爽とデビューし、あがたもA児と名乗り、金色のスーツにサングラスという奇抜な出で立ちで強烈なインパクトを与えながら、その勢いのままに1stアルバムである本作をリリースすることになります。シンセがフィーチャーされつつも2名の女性コーラスを従え、非常に賑やかなパーティーバンドとしての側面も見られた彼らですが、本作はバンドとしてのストレートな姿勢が感じられる作品に仕上がっていると思います。
見事にニューウェーブ化を果たしたA児ことあがた森魚が率いるヴァージンVSですが、当時の日本のニューウェーブバンドは電子音が表現しやすい近未来やSF感覚を醸し出すサウンドを志向することが多かったのですが、彼らはどちらかというとシンセサイザーが生み出すファンタジックなイメージを前面に押し出しているように感じられます。ジャケにもあるように「ブリキ」が1つのテーマになっていることからも、彼らが表現しているのは古き良き時代のブリキのおもちゃが醸し出すようなノスタルジックで童話的な世界観であることが想像できます。また、このバンドは長髪の女装キーボーディスト、ライオン・メリーのデビューバンドとしても知られていますが、彼の参加も強烈な個性となっていて、特にポルタメントを活用した喋るような、そして笑うような技巧的シンセフレーズは斬新かつ圧倒されるインパクトを放っています。2ndアルバムからはニューウェーブバンドらしく徐々にひねくれたサウンドへと変化していく彼らですが、本作ではまだニューウェーブからの影響をストレートに表現しており、だからこそただ単純に純粋で少し変な(?)構成の楽曲を楽しむことができます。デビューアルバムならではの若々しい雰囲気が感じられる好盤であると言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「ヌーベル・シンデレラ」
ディストーションギターを効かせたロックンロール。A児のもはや言葉の判別がつかないようなシャウト気味のヴォーカルに圧倒されます。70年代の彼を知るリスナーにとっては衝撃的であったでしょう。カウントダウンの弾け具合も熱さを通り越してある種の楽しさがこみ上げてきます。
・「やきぐりバンバン」
60年代のヒット曲「Bang Bang」のテクノポップ風リメイク。ロングディレイと早回し&遅回しを多用した音遊びは既にサンプリング的手法を先取りしていますが、このカオスな展開でさえこれもおもちゃ的な単純方法に感じられ親しみやすいです。
・「モンテクリスト・ファン・クラブ」
激しく曲調とヴォーカルが弾ける本作中最も熱さを感じるパーティーソング。なんといってもライオン・メリーの笑うシンセフレーズが圧巻の一言です。間奏のSE的なシンセギミックや途中の寸劇のような台詞回しなど、1曲の中に見せ場がてんこ盛りです。
<評点>
・サウンド ★★★ (少々粗さも目立つがシンセフレーズの個性は抜群)
・メロディ ★ (ノリ重視の単純でわかりやすいメロディが多い)
・リズム ★ (典型的なバンド的ドラムで個性的とは言えない)
・曲構成 ★★★ (コンセプチュアルな構成力はさすがはあがた作品)
・個性 ★★★ (同種のバンドとは異なり楽しさや可愛らしさを追求)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「天国一の大きなバンド」 REAL FISH
「天国一の大きなバンド」(1984 ビクター)
REAL FISH

<members>
矢口博康:sax・clarinet・keyboards・chorus
美尾洋乃:violin・keyboards・voice・chorus
戸田誠司:electric guitar・acoustic guitar・keyboards・sax・computer
福原まり:keyboards・acoustic piano・marimba・vibraphone・accordion・percussions・chorus
渡辺等:wood and silent bass・cello・mandolin・ukelele・chorus
友田真吾:drums・percussions・chorus
1.「赤いリボンに御用心」 曲:戸田誠司 編:REAL FISH
2.「金星のタクシー」 曲:戸田誠司 編:REAL FISH
3.「恋はビーチパラソル」 曲:福原まり 編:REAL FISH
4.「極楽大将」 曲:友田真吾 編:REAL FISH
5.「力持ちのおじさん」 曲:福原まり 編:REAL FISH
6.「パレード」 曲:福原まり 編:REAL FISH
7.「トンネル減速」 曲:矢口博康 編:REAL FISH
8.「金の破片」 曲:福原まり 編:REAL FISH
9.「ジャム」 曲:矢口博康 編:REAL FISH
10.「長女の月曜日」 曲:福原まり 編:REAL FISH
11.「婚約者の規則」 曲:福原まり 編:REAL FISH
12.「愛の寸法」 曲:美尾洋乃 編:REAL FISH
13.「にわとり王様」 曲:渡辺等 編:REAL FISH
14.「再帰法手段」 曲:渡辺等・戸田誠司 編:REAL FISH
15.「タイプでABC」 曲:戸田誠司 編:REAL FISH
16.「大きな会社」 曲:矢口博康 編:REAL FISH
produced by 鈴木慶一
engineered by 山口州治
● "聴かせる"POPなインストを志向する遊星少年オーケストラが放った親しみやすいデビュー作
ポストニューウェーブバンドの一角としてデビューしたSHI-SHONENのメンバーに新進気鋭のサックスプレイヤー矢口博康とバイオリニスト美尾洋乃を加えた音楽集団がREAL FISHです。SHI-SHONENとREAL FISHは並行して活動が続けられ、歌モノとしてのPOPS面でSHI-SHONENが、クラシックもジャズもイージーリスニングも多彩なジャンルをごった煮にしてニューウェーブで和えたような無国籍インスト面をREAL FISHが志向するなど、活動としての指針はしっかり仕分けられていたようですが、これまでにないタイプの音楽グループという観点ではREAL FISHに軍配が上がるかもしれません。ジャズに飽きてニューウェーブに感化された矢口を中心とした若手プレイヤー集団であった彼らでしたが、記念すべきデビューアルバムである本作ではレコーディングでその実力を発揮すると戸田誠司のサウンドメイキングと相まって、近未来的でありながらノスタルジーを感じさせる二律背反的なサウンドによるインストゥルメンタルが楽しめる作品になっています。
矢口本人がジャズと決別してニューウェーブに走って結成したというだけあって、インストなのに小難しいテクニックに走ることなくわかりやすいメロディと乾いたサックスとシンプルなギターに代表されるように、楽曲そのものは冒険心にあふれ、かわいらしいものが多く収録されています。しかしもちろん一筋縄ではいかない彼らなので、そのフレーズにはどちらかといえばアヴァンギャルドなプログレ的なフレーズを忍ばせるなど、自己主張も忘れてはいません。それほど好き勝手にやっているような彼らの楽曲ですが非常に親しみやすく愛されているのは、ひとえに全体を覆う幸福感といいますかオプティミスティックな雰囲気によるものでしょう(これは鈴木慶一のプロデュースということも大きいと思いますが)。歌はないのに歌があるようなフレーズを疎かにせずに取り入れ、聴き手を和ませるセンス・・・ここにREAL FISHの「ポップな」インストへのこだわりが感じられるのです。本作は収録曲も多く手持ちの駒を惜しげもなく披露した感がありますが、次作「TENON」ではエレクトリックな側面をもう少し前面に押し出して近未来感をさらに演出していくことになります。
<Favorite Songs>
・「金星のタクシー」
ローファイなリズムとシーケンスのくぐもった空気感が心地良いマシナリーなテクノミュージック。戸田誠司のエレクトロ魂が感じられる楽曲で、本作のどの楽曲よりもコンピューター度が高い構成となっています。
・「パレード」
いかにも福原まりらしいヨーロッパ感覚と少女趣味がまぶしい美しいメロディラインの名曲。難しいことを考えずにただメロディの持つメルヘンティックな雰囲気に身を任せるのが、この楽曲を楽しむ唯一の方法であると思います。
・「再帰法手段」
ギターとサックスのシンプルなAメロとバイオリンと跳ねるリズムで盛り上がるBメロで構成される本作中最長の楽曲(といっても4分ちょっとですが)。何よりもBメロのタメの効いたリズムがすべてであり美尾のロリータヴォイスはほんの味つけでしかありません。
<評点>
・サウンド ★★★ (クセのある演奏力と実験的な音に挑戦する意欲が◯)
・メロディ ★★★ (インストなのに飽きないのはメロディの質の高さから)
・リズム ★★ (音楽のタイプ的に技巧は感じるが力強さはあと一歩)
・曲構成 ★★ (収録曲が多くてもコンパクトにまとめ飽きは来ない)
・個性 ★★ (牧歌的でノスタルジックな印象が強過ぎた感も)
総合評点: 7点
REAL FISH

<members>
矢口博康:sax・clarinet・keyboards・chorus
美尾洋乃:violin・keyboards・voice・chorus
戸田誠司:electric guitar・acoustic guitar・keyboards・sax・computer
福原まり:keyboards・acoustic piano・marimba・vibraphone・accordion・percussions・chorus
渡辺等:wood and silent bass・cello・mandolin・ukelele・chorus
友田真吾:drums・percussions・chorus
1.「赤いリボンに御用心」 曲:戸田誠司 編:REAL FISH
2.「金星のタクシー」 曲:戸田誠司 編:REAL FISH
3.「恋はビーチパラソル」 曲:福原まり 編:REAL FISH
4.「極楽大将」 曲:友田真吾 編:REAL FISH
5.「力持ちのおじさん」 曲:福原まり 編:REAL FISH
6.「パレード」 曲:福原まり 編:REAL FISH
7.「トンネル減速」 曲:矢口博康 編:REAL FISH
8.「金の破片」 曲:福原まり 編:REAL FISH
9.「ジャム」 曲:矢口博康 編:REAL FISH
10.「長女の月曜日」 曲:福原まり 編:REAL FISH
11.「婚約者の規則」 曲:福原まり 編:REAL FISH
12.「愛の寸法」 曲:美尾洋乃 編:REAL FISH
13.「にわとり王様」 曲:渡辺等 編:REAL FISH
14.「再帰法手段」 曲:渡辺等・戸田誠司 編:REAL FISH
15.「タイプでABC」 曲:戸田誠司 編:REAL FISH
16.「大きな会社」 曲:矢口博康 編:REAL FISH
produced by 鈴木慶一
engineered by 山口州治
● "聴かせる"POPなインストを志向する遊星少年オーケストラが放った親しみやすいデビュー作
ポストニューウェーブバンドの一角としてデビューしたSHI-SHONENのメンバーに新進気鋭のサックスプレイヤー矢口博康とバイオリニスト美尾洋乃を加えた音楽集団がREAL FISHです。SHI-SHONENとREAL FISHは並行して活動が続けられ、歌モノとしてのPOPS面でSHI-SHONENが、クラシックもジャズもイージーリスニングも多彩なジャンルをごった煮にしてニューウェーブで和えたような無国籍インスト面をREAL FISHが志向するなど、活動としての指針はしっかり仕分けられていたようですが、これまでにないタイプの音楽グループという観点ではREAL FISHに軍配が上がるかもしれません。ジャズに飽きてニューウェーブに感化された矢口を中心とした若手プレイヤー集団であった彼らでしたが、記念すべきデビューアルバムである本作ではレコーディングでその実力を発揮すると戸田誠司のサウンドメイキングと相まって、近未来的でありながらノスタルジーを感じさせる二律背反的なサウンドによるインストゥルメンタルが楽しめる作品になっています。
矢口本人がジャズと決別してニューウェーブに走って結成したというだけあって、インストなのに小難しいテクニックに走ることなくわかりやすいメロディと乾いたサックスとシンプルなギターに代表されるように、楽曲そのものは冒険心にあふれ、かわいらしいものが多く収録されています。しかしもちろん一筋縄ではいかない彼らなので、そのフレーズにはどちらかといえばアヴァンギャルドなプログレ的なフレーズを忍ばせるなど、自己主張も忘れてはいません。それほど好き勝手にやっているような彼らの楽曲ですが非常に親しみやすく愛されているのは、ひとえに全体を覆う幸福感といいますかオプティミスティックな雰囲気によるものでしょう(これは鈴木慶一のプロデュースということも大きいと思いますが)。歌はないのに歌があるようなフレーズを疎かにせずに取り入れ、聴き手を和ませるセンス・・・ここにREAL FISHの「ポップな」インストへのこだわりが感じられるのです。本作は収録曲も多く手持ちの駒を惜しげもなく披露した感がありますが、次作「TENON」ではエレクトリックな側面をもう少し前面に押し出して近未来感をさらに演出していくことになります。
<Favorite Songs>
・「金星のタクシー」
ローファイなリズムとシーケンスのくぐもった空気感が心地良いマシナリーなテクノミュージック。戸田誠司のエレクトロ魂が感じられる楽曲で、本作のどの楽曲よりもコンピューター度が高い構成となっています。
・「パレード」
いかにも福原まりらしいヨーロッパ感覚と少女趣味がまぶしい美しいメロディラインの名曲。難しいことを考えずにただメロディの持つメルヘンティックな雰囲気に身を任せるのが、この楽曲を楽しむ唯一の方法であると思います。
・「再帰法手段」
ギターとサックスのシンプルなAメロとバイオリンと跳ねるリズムで盛り上がるBメロで構成される本作中最長の楽曲(といっても4分ちょっとですが)。何よりもBメロのタメの効いたリズムがすべてであり美尾のロリータヴォイスはほんの味つけでしかありません。
<評点>
・サウンド ★★★ (クセのある演奏力と実験的な音に挑戦する意欲が◯)
・メロディ ★★★ (インストなのに飽きないのはメロディの質の高さから)
・リズム ★★ (音楽のタイプ的に技巧は感じるが力強さはあと一歩)
・曲構成 ★★ (収録曲が多くてもコンパクトにまとめ飽きは来ない)
・個性 ★★ (牧歌的でノスタルジックな印象が強過ぎた感も)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「NEW WAVER」 オカノフリーク
「NEW WAVER」 (1999 Hu-Kenkoh STUDIO)
オカノフリーク

<members>
岡野晶:all instruments・chorus
1.「誘惑のすべて」 詞:土木キャロライン 曲・編:岡野晶
2.「ラジオ塔の下で会いましょう」 詞:土木キャロライン・岡野晶 曲・編:岡野晶
3.「RING MY BELL」 詞・曲・編:岡野晶
4.「ジャンピング・ジャック・ローラー」 詞:土木キャロライン 曲・編:岡野晶
5.「盗聴機」 詞・曲・編:岡野晶
6.「自動書記」 詞・曲・編:岡野晶
7.「あなたに夢中」 詞・曲・編:岡野晶
8.「幻惑のドライブ」 詞・曲・編:岡野晶
9.「嵐が丘」 詞:土木キャロライン・岡野晶 曲・編:岡野晶
10.「DING DONG」 詞:源代恭子 曲・編:岡野晶
11.「NW@1971」 詞・曲・編:岡野晶
12.「Sweet JAM」 詞・曲・編:岡野晶
<support musician>
源代恭子:vocals
つるたまゆみ:vocals・chorus
TAMA:vocals・chorus
キャプテン材木:electric guitar・MIDI guitar・E-bow guitar
久保恵司:electric guitar
アーヴァン野村:chorus
土木キャロライン:chorus
produced by 岡野晶
engineered by 岡野晶
● ここにオカノ流ニューウェーヴ歌謡が完成!名曲揃いの関西自主制作ソロユニット最高傑作
関西中心に活躍するセミプロサウンドクリエイター(マルチクリエイター?)オカノアキラが90年代にパーマネントなソロユニットとして活動していたオカノフリークは、外資系レコード店におけるカセットテープ販売等で当時から知る人ぞ知る存在でしたが、小泉今日子の一般公募楽曲を揃えたアルバム「KYO→」にはオカノ作曲の「夢の底」が採用されたり、Cosmic Village主催のリミックスコンテストでグランプリに輝くなど、その80年代センスに裏打ちされたニューウェーブサウンドと昭和(アイドル)歌謡なメロディラインは評価されるべき才能であると思います。さて、オカノフリークのカセットアルバムはVol.1~Vol.6までリリースされてきましたが、実はVol.4は何らかの理由でお蔵入りになっており、そのリリースは1999年まで待たなくてはなりませんでした。そしてついにCD-Rとなってライブ会場を中心にリリースされたのが本作、Vol.4「NEW WAVER」というわけです。
タイトルからも80年代への影響が隠せないことからもわかるように、本作も基本となるのはオカノ本人の打ち込みを中心としたニューウェーブ仕込みの歌謡POPSです。楽曲によってヴォーカリストを取っ替え引っ替えするスタイルは不変ですが、今回は源代恭子やつるたまゆみの歌唱センスも目に見えてアップしており、オカノ自身でなくサポート部隊にも本作への意気込みが窺えるようです。また、本作の特徴はオカノ本人の作詞が多く、それがしっかりとしたコンセプトのもとに統一感のある作品に無理なく仕上げられている要因の1つかもしれません。オカノフリークの王道POPS路線ともいえる「誘惑のすべて」「RING MY BELL」、80'sアイドルソングへの愛が見られる「ジャンピング・ジャック・ローラー」「DING DONG」や小泉今日子提供曲の最終候補に残ったといわれる「盗聴器」「自動書記」といったマニアックなマイナーPOPS、昭和の香り満載の「嵐が丘」や珠玉の哀愁バラード「Sweet JAM」など楽曲のタイプも豊富ですが、そのどれもが良い意味で粗さの残るリズムトラックと映画音楽からの影響を引き出しにしたオーケストレーションとエレクトリックな電子音をまぶして、セミプロとは思えないクオリティに仕上がっています。これはまさに20世紀最後に残した隠れた名盤です。
そんなインディーズに埋もれた中で今となってはほとんど誰もが見つけることができない本作を残して、90年代をもってオカノフリークは活動休止、オカノアキラはチャンキー松本とのデュオ「33」を経て現在はソロ活動(もちろん関西アンダーグラウンドで)で活動しています。1度オカノフリークの作品はCD-Rで再発されましたが(自主制作で)もう1度配信でもよいので過去の音源を再発してほしいところです。
<Favorite Songs>
・「誘惑のすべて」
シンセストリングスとギターのユニゾンが気持ち良い壮大な歌詞のオープニングナンバー。相変わらずしつこいフィルインのリズムトラックが楽しいです。いつもの歌謡オーケストレーションに力強いギターが加わって全体的にスケールアップしている感じです。
・「自動書記」
オルガンとピアノを基調にした昭和の匂い漂うマイナー調の名曲。1周目のサビからパヤパヤコーラス~歌謡ブラスセクションからピアノソロへの流れは絶品です。そしてサビへなだれ込んでいく流れも巧みです。
・「DING DONG」
本作の中でも最もテクノポップに近いアイドル歌謡POPS。跳ねるようなシンセベースに昭和歌謡フレーズが乗っかるベタベタなアイドルソングですが、間奏のシンセソロからギターソロに続く場面の切り替わり具合が絶妙で、またラストを幸宏エンディング(スネアのフィルインで止める)で締めるところもニクいです。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (大雑把に見えて細部にこだわる計算ずくの音世界)
・メロディ ★★★★★ (彼の売りはこのメロディ構築能力に間違いない)
・リズム ★★★★ (相変わらずこのしつこ過ぎるフィルインがツボを突く)
・曲構成 ★★★★★ (12曲の間に起伏を作り起承転結がはっきりしている)
・個性 ★★★★ (あえて80's歌謡POPSで勝負する隠れた才能に再評価を)
総合評点: 10点
オカノフリーク

<members>
岡野晶:all instruments・chorus
1.「誘惑のすべて」 詞:土木キャロライン 曲・編:岡野晶
2.「ラジオ塔の下で会いましょう」 詞:土木キャロライン・岡野晶 曲・編:岡野晶
3.「RING MY BELL」 詞・曲・編:岡野晶
4.「ジャンピング・ジャック・ローラー」 詞:土木キャロライン 曲・編:岡野晶
5.「盗聴機」 詞・曲・編:岡野晶
6.「自動書記」 詞・曲・編:岡野晶
7.「あなたに夢中」 詞・曲・編:岡野晶
8.「幻惑のドライブ」 詞・曲・編:岡野晶
9.「嵐が丘」 詞:土木キャロライン・岡野晶 曲・編:岡野晶
10.「DING DONG」 詞:源代恭子 曲・編:岡野晶
11.「NW@1971」 詞・曲・編:岡野晶
12.「Sweet JAM」 詞・曲・編:岡野晶
<support musician>
源代恭子:vocals
つるたまゆみ:vocals・chorus
TAMA:vocals・chorus
キャプテン材木:electric guitar・MIDI guitar・E-bow guitar
久保恵司:electric guitar
アーヴァン野村:chorus
土木キャロライン:chorus
produced by 岡野晶
engineered by 岡野晶
● ここにオカノ流ニューウェーヴ歌謡が完成!名曲揃いの関西自主制作ソロユニット最高傑作
関西中心に活躍するセミプロサウンドクリエイター(マルチクリエイター?)オカノアキラが90年代にパーマネントなソロユニットとして活動していたオカノフリークは、外資系レコード店におけるカセットテープ販売等で当時から知る人ぞ知る存在でしたが、小泉今日子の一般公募楽曲を揃えたアルバム「KYO→」にはオカノ作曲の「夢の底」が採用されたり、Cosmic Village主催のリミックスコンテストでグランプリに輝くなど、その80年代センスに裏打ちされたニューウェーブサウンドと昭和(アイドル)歌謡なメロディラインは評価されるべき才能であると思います。さて、オカノフリークのカセットアルバムはVol.1~Vol.6までリリースされてきましたが、実はVol.4は何らかの理由でお蔵入りになっており、そのリリースは1999年まで待たなくてはなりませんでした。そしてついにCD-Rとなってライブ会場を中心にリリースされたのが本作、Vol.4「NEW WAVER」というわけです。
タイトルからも80年代への影響が隠せないことからもわかるように、本作も基本となるのはオカノ本人の打ち込みを中心としたニューウェーブ仕込みの歌謡POPSです。楽曲によってヴォーカリストを取っ替え引っ替えするスタイルは不変ですが、今回は源代恭子やつるたまゆみの歌唱センスも目に見えてアップしており、オカノ自身でなくサポート部隊にも本作への意気込みが窺えるようです。また、本作の特徴はオカノ本人の作詞が多く、それがしっかりとしたコンセプトのもとに統一感のある作品に無理なく仕上げられている要因の1つかもしれません。オカノフリークの王道POPS路線ともいえる「誘惑のすべて」「RING MY BELL」、80'sアイドルソングへの愛が見られる「ジャンピング・ジャック・ローラー」「DING DONG」や小泉今日子提供曲の最終候補に残ったといわれる「盗聴器」「自動書記」といったマニアックなマイナーPOPS、昭和の香り満載の「嵐が丘」や珠玉の哀愁バラード「Sweet JAM」など楽曲のタイプも豊富ですが、そのどれもが良い意味で粗さの残るリズムトラックと映画音楽からの影響を引き出しにしたオーケストレーションとエレクトリックな電子音をまぶして、セミプロとは思えないクオリティに仕上がっています。これはまさに20世紀最後に残した隠れた名盤です。
そんなインディーズに埋もれた中で今となってはほとんど誰もが見つけることができない本作を残して、90年代をもってオカノフリークは活動休止、オカノアキラはチャンキー松本とのデュオ「33」を経て現在はソロ活動(もちろん関西アンダーグラウンドで)で活動しています。1度オカノフリークの作品はCD-Rで再発されましたが(自主制作で)もう1度配信でもよいので過去の音源を再発してほしいところです。
<Favorite Songs>
・「誘惑のすべて」
シンセストリングスとギターのユニゾンが気持ち良い壮大な歌詞のオープニングナンバー。相変わらずしつこいフィルインのリズムトラックが楽しいです。いつもの歌謡オーケストレーションに力強いギターが加わって全体的にスケールアップしている感じです。
・「自動書記」
オルガンとピアノを基調にした昭和の匂い漂うマイナー調の名曲。1周目のサビからパヤパヤコーラス~歌謡ブラスセクションからピアノソロへの流れは絶品です。そしてサビへなだれ込んでいく流れも巧みです。
・「DING DONG」
本作の中でも最もテクノポップに近いアイドル歌謡POPS。跳ねるようなシンセベースに昭和歌謡フレーズが乗っかるベタベタなアイドルソングですが、間奏のシンセソロからギターソロに続く場面の切り替わり具合が絶妙で、またラストを幸宏エンディング(スネアのフィルインで止める)で締めるところもニクいです。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (大雑把に見えて細部にこだわる計算ずくの音世界)
・メロディ ★★★★★ (彼の売りはこのメロディ構築能力に間違いない)
・リズム ★★★★ (相変わらずこのしつこ過ぎるフィルインがツボを突く)
・曲構成 ★★★★★ (12曲の間に起伏を作り起承転結がはっきりしている)
・個性 ★★★★ (あえて80's歌謡POPSで勝負する隠れた才能に再評価を)
総合評点: 10点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「羊ヶ丘デパートメントストア」 VIRGIN VS
「羊ヶ丘デパートメントストア」 (1987 キティ)
VIRGIN VS

<members>
あがた森魚:vocal
久保田さちを:guitar・mandolin・chorus
土田弥ノ助:bass
三科勝:drums
ライオンメリー:keyboard
ひかる:chorus・sax・clarinet・recorder
リッツ:chorus・guitar・accordion・percussions
1.「デパートメントストア」
詞:あがた森魚 曲:ライオンメリー・あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
2.「恋のダイヤモンド・リング」
詞:あがた森魚 曲:Bob Brass・Al Kooper・Irwin Levine
編:鈴木慶一・VIRGIN VS
3.「ピカピカ・タクシー・ボーイ」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
4.「秋晴れ秋葉原」
詞:あがた森魚・土田弥ノ助・久保田さちを 曲:土田弥ノ助・久保田さちを
編:鈴木慶一・VIRGIN VS
5.「羊は眠る」 詞:ひかる 曲:リッツ・ひかる 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
6.「カタビラ辻に異星人を待つ」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
7.「百合コレクション」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
8.「ピクニック・パニック」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
9.「月夜の尖端り」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
<support musician>
貫田顕勇:MC202 & DX7 programming・chorus
山崎進:violin
produced by 鈴木慶一
engineered by 山崎進・平昌弘
● 初期サウンドから一周回ってジャンクな味わいに!ハンドメイド感あふれる幻の3rdアルバム
あがた森魚のニューウェーブ魂が高じて結成され80年代初頭を席巻したヴァージンVSは、2枚のアルバムをリリースした後すぐに3枚目のアルバム制作にとりかかります。しかし2ndアルバム「STAR☆CRAZY」において徐々にマニアックな音づくりで目覚めストレンジさを増していた彼らのサウンドは一般的に理解されにくく、さらに制作時点でバンド解散が決まってしまったことも遠因となって、83年にリリースされるはずであった本作はあえなくお蔵入りとなりその後4年間寝かされることになりました。しかし既にヴァージンVSが解散し、あがた森魚は再びソロ活動を開始しタンゴアルバム「バンドネオンの豹」のリリースなど精力的に活動していた矢先に、突然本作が日の目を見ることとなりました。
ハルメンズなど数々のニューウェーブバンドを手掛けてきたMOON RIDERSの鈴木慶一をプロデューサーに迎えた本作は、前半(A面:踊る帝都)をヴァージンVSとしてのバンドサイド、後半(B面:光る農村)をあがた森魚としてのソロサイドとして明確に区別されており、当時のバンドとしての環境の複雑さを思わせる構成となっていますが、サウンド志向の進化こそあれ基本的には音楽性を継承していたこれまでの2枚のアルバムと比較しても明らかにタイプの異なる楽曲が収録されています。初期はテクノポップに分類されてもおかしくないピコピコ度豊かなサウンドは、レコーディングされた83年当時にして既にポストニューウェーブの様相を呈すなど劇的に変化し、コーラス隊のリッツやひかるまで作曲に参加して演奏に参加するなど自由度の高いアヴァンギャルド性はこれまでの作品の中で最も高いと言えるでしょう。しかし前半にしても後半にしても全体的に漂うのはほのぼのとした牧歌的な雰囲気です。「踊る帝都」サイドにしても漂う空気は少し脱力感のあるようなほのぼのムードであり、童心に返るかのごときスカスカでキュートなサウンドはノスタルジック性を助長させています。そういった意味では本作は既にあがた森魚のソロ活動と同化しつつあり、あがたがバンドに終止符を打ったのも頷ける仕上がりの作品であると言えると思います。
<Favorite Songs>
・「デパートメントストア」
アコースティックギターの目立つギターポップ調のこれまでの作風とはひと味違ったタイトルチューン。シンセも最低限に抑えられ、あがたの歌唱法もソロに近く牧歌的な雰囲気に変化しているように感じられます。
・「秋晴れ秋葉原」
まだ萌え文化に染まらない電気街全盛時の秋葉原を想起させるエレクトリックポップ。Aメロのピコピコシーケンスは2ndアルバムまでの音楽性の残り香を漂わせていますが、本作中最もテクノ度の強いこの楽曲でさえラストは店員の呼び込みや和風フレーズでカオスに展開するなど前衛度が半端ではありません。
・「羊は眠る」
本作中最も実験的で前衛的な楽曲。コーラスのリッツとひかるの共作曲を鈴木慶一のアイデアと好き勝手放題のアレンジで摩訶不思議な楽曲に仕立て上げています。ほのぼの演奏とぼやけた音像によるアンビエント性がクセになります。
<評点>
・サウンド ★★★★ (実験的な音遊びも随所で活躍し前衛性は格段にUP)
・メロディ ★★ (ほのぼのさは武器になるがポップ性は後退した印象)
・リズム ★ (音質的には比較的軽く当時としては物足りないか)
・曲構成 ★ (後半のポップ性が前半の前衛性と異なりいびつな感覚)
・個性 ★★ (仕上がりは良いが良くも悪くも過渡期的作品の様子)
総合評点: 7点
VIRGIN VS

<members>
あがた森魚:vocal
久保田さちを:guitar・mandolin・chorus
土田弥ノ助:bass
三科勝:drums
ライオンメリー:keyboard
ひかる:chorus・sax・clarinet・recorder
リッツ:chorus・guitar・accordion・percussions
1.「デパートメントストア」
詞:あがた森魚 曲:ライオンメリー・あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
2.「恋のダイヤモンド・リング」
詞:あがた森魚 曲:Bob Brass・Al Kooper・Irwin Levine
編:鈴木慶一・VIRGIN VS
3.「ピカピカ・タクシー・ボーイ」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
4.「秋晴れ秋葉原」
詞:あがた森魚・土田弥ノ助・久保田さちを 曲:土田弥ノ助・久保田さちを
編:鈴木慶一・VIRGIN VS
5.「羊は眠る」 詞:ひかる 曲:リッツ・ひかる 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
6.「カタビラ辻に異星人を待つ」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
7.「百合コレクション」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
8.「ピクニック・パニック」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
9.「月夜の尖端り」 詞・曲:あがた森魚 編:鈴木慶一・VIRGIN VS
<support musician>
貫田顕勇:MC202 & DX7 programming・chorus
山崎進:violin
produced by 鈴木慶一
engineered by 山崎進・平昌弘
● 初期サウンドから一周回ってジャンクな味わいに!ハンドメイド感あふれる幻の3rdアルバム
あがた森魚のニューウェーブ魂が高じて結成され80年代初頭を席巻したヴァージンVSは、2枚のアルバムをリリースした後すぐに3枚目のアルバム制作にとりかかります。しかし2ndアルバム「STAR☆CRAZY」において徐々にマニアックな音づくりで目覚めストレンジさを増していた彼らのサウンドは一般的に理解されにくく、さらに制作時点でバンド解散が決まってしまったことも遠因となって、83年にリリースされるはずであった本作はあえなくお蔵入りとなりその後4年間寝かされることになりました。しかし既にヴァージンVSが解散し、あがた森魚は再びソロ活動を開始しタンゴアルバム「バンドネオンの豹」のリリースなど精力的に活動していた矢先に、突然本作が日の目を見ることとなりました。
ハルメンズなど数々のニューウェーブバンドを手掛けてきたMOON RIDERSの鈴木慶一をプロデューサーに迎えた本作は、前半(A面:踊る帝都)をヴァージンVSとしてのバンドサイド、後半(B面:光る農村)をあがた森魚としてのソロサイドとして明確に区別されており、当時のバンドとしての環境の複雑さを思わせる構成となっていますが、サウンド志向の進化こそあれ基本的には音楽性を継承していたこれまでの2枚のアルバムと比較しても明らかにタイプの異なる楽曲が収録されています。初期はテクノポップに分類されてもおかしくないピコピコ度豊かなサウンドは、レコーディングされた83年当時にして既にポストニューウェーブの様相を呈すなど劇的に変化し、コーラス隊のリッツやひかるまで作曲に参加して演奏に参加するなど自由度の高いアヴァンギャルド性はこれまでの作品の中で最も高いと言えるでしょう。しかし前半にしても後半にしても全体的に漂うのはほのぼのとした牧歌的な雰囲気です。「踊る帝都」サイドにしても漂う空気は少し脱力感のあるようなほのぼのムードであり、童心に返るかのごときスカスカでキュートなサウンドはノスタルジック性を助長させています。そういった意味では本作は既にあがた森魚のソロ活動と同化しつつあり、あがたがバンドに終止符を打ったのも頷ける仕上がりの作品であると言えると思います。
<Favorite Songs>
・「デパートメントストア」
アコースティックギターの目立つギターポップ調のこれまでの作風とはひと味違ったタイトルチューン。シンセも最低限に抑えられ、あがたの歌唱法もソロに近く牧歌的な雰囲気に変化しているように感じられます。
・「秋晴れ秋葉原」
まだ萌え文化に染まらない電気街全盛時の秋葉原を想起させるエレクトリックポップ。Aメロのピコピコシーケンスは2ndアルバムまでの音楽性の残り香を漂わせていますが、本作中最もテクノ度の強いこの楽曲でさえラストは店員の呼び込みや和風フレーズでカオスに展開するなど前衛度が半端ではありません。
・「羊は眠る」
本作中最も実験的で前衛的な楽曲。コーラスのリッツとひかるの共作曲を鈴木慶一のアイデアと好き勝手放題のアレンジで摩訶不思議な楽曲に仕立て上げています。ほのぼの演奏とぼやけた音像によるアンビエント性がクセになります。
<評点>
・サウンド ★★★★ (実験的な音遊びも随所で活躍し前衛性は格段にUP)
・メロディ ★★ (ほのぼのさは武器になるがポップ性は後退した印象)
・リズム ★ (音質的には比較的軽く当時としては物足りないか)
・曲構成 ★ (後半のポップ性が前半の前衛性と異なりいびつな感覚)
・個性 ★★ (仕上がりは良いが良くも悪くも過渡期的作品の様子)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「Moon Voice」 GRASS VALLEY
「Moon Voice」 (1987 CBSソニー)
GRASS VALLEY

<members>
出口雅之:vocal
本田恭之:keyboards
根本一朗:bass
西田信哉:guitar
上領亘:drums
1.「MOON VOICE」 詞:出口雅之 曲:本田恭之 編:GRASS VALLEY
2.「砂上の夢」 詞:出口雅之 曲:本田恭之 編:GRASS VALLEY
3.「ALL OF BARREN SOUL」 詞:出口雅之 曲:根本一朗 編:GRASS VALLEY
4.「輝くほとりに」 詞:出口雅之 曲:上領亘 編:GRASS VALLEY
5.「真夜中の透視図」 詞:出口雅之 曲:本田恭之 編:GRASS VALLEY
6.「TEARFUL COLOR」 詞・曲:本田恭之 編:GRASS VALLEY
7.「遙かなる光芒」 詞:出口雅之 曲:上領亘 編:GRASS VALLEY
directed(produced) by 丸沢和宏・山本ケンヤ
mixing engineered by Ron Saint Germain
recording engineered by 川部修久
● 叙情的かつダークで繊細なシンセサウンド!バンドの世界観が最も如実に表現された名作2ndアルバム
1987年シングル「Freezin'」、アルバム「Grass Valley」で颯爽とデビューした、ニューウェーブをデジタル世代ならではの新解釈で換骨奪胎したクールなサウンドが光るGRASS VALLEYは、その衝撃的な1stアルバムから間髪入れずに、同年秋には2ndアルバムである本作をリリースします。前作同様グレーで染めたダークなジャケからも想像できるように、そこに漂うのは鋼のクールで叙情的な世界観です。名刺代わりであった前作では彼らの志向するニューウェーブ・ニューロマンティクスが進化したエレクトリックなサウンドを披露していましたが、本作では当時の数あるバンドの中でも唯一無二のシンセによる巧みなサウンドデザインによって、さらにそのサウンドを深淵化させることに成功し、それが本作を彼らの作品の中で最も彼ららしく表現された大切な名盤として記憶されているゆえんであると思われます。
前作ほど期待に満ちあふれた作風ではなく、また次作「Style」以降のその名のとおりスタイリッシュでキャッチーなポップ感覚を備えているわけでもない本作ですが、随所に散りばめられた絵画的でセンチメンタルな本田恭之のシンセフレーズはますますフィーチャーされ、夜空に輝く星のごとくファンタジックに楽曲を彩り、このバンドのもう1つの売りでもある複雑でタイト、そしてノングルーヴでエフェクティブな(ここが大事)上領亘のドラミングはますます冴え渡っています。もちろん西田信哉や根本一朗の弦楽器陣が奏でる目立たなくもキレとコクがあるプレイはGRASS VALLEYの重要なサウンド要素の1つでもありますが、ギターやベースが後ろを支え、シンセやドラムがサウンド面で前面に押し出されるパターンは他のいわゆるロックバンド形態のグループでは珍しいスタイルであると言えるでしょう。もちろん出口雅之の湿った低音ヴォーカルもこの世界観の構築には欠かせませんし、まさに彼の声質が最も生かされているのも本作と言えるかもしれません。このサウンドスタイルを本作によっていち早く確立した彼らは、個人的にはYMOやPINKにも劣らない80年代を代表するエレクトリックサウンドのグループとしてもっと評価されてもよいと思いますし、こういったシンセやエレクトロニクスの醍醐味を味わわせてくれる作品こそ、現代のマスタリング技術でリマスターしてほしいと思います。
<Favorite Songs>
・「MOON VOICE」
実は珍しいシーケンスのイントロから複雑なドラムパターンを構築するシングルカットにしてタイトルチューン。シングルに似つかわしくない渋い曲調で盛り上がりにも乏しいのですが、いなたいギターフレーズとドラムにかかるエフェクト処理のキレが鋭いです。
・「砂上の夢」
本田恭之お得意の「砂」シリーズのこれも渋く光るいぶし銀な楽曲。ここではシンセが大活躍で、絶妙なタイミングで組み込まれたフレーズは本田の真骨頂でしょう。特にサビの左から右へ、右から左へパンしながら消えていくキラキラシンセは美しいことこの上ありません。
・「TEARFUL COLOR」
本田恭之が作曲だけでなく作詞も担当した最もロマンティックなミディアムバラード。彼らの楽曲の素晴らしいところはこうした叙情的な楽曲であっても、しっかりドラムがタイトかつクリアで攻撃的なところです。また本田の得意音色の1つでもあるピアノ系サウンドをはじめとしたRoland系シンセの響きも美しさを増しています。
<評点>
・サウンド ★★★★★(まさに絵画的で芸術肌のシンセワークは非の打ち所なし)
・メロディ ★★★ (自己の世界観に忠実であるが故にポップ性は減少)
・リズム ★★★★★(突如現れた天が二物を与えた新星ドラマーの鋭い妙技)
・曲構成 ★★★★ (ラストに渋過ぎる楽曲を持っていってしまった感が)
・個性 ★★★★★(彼らのバンドとしての本質はここに既に確立している)
総合評点: 9点
GRASS VALLEY

<members>
出口雅之:vocal
本田恭之:keyboards
根本一朗:bass
西田信哉:guitar
上領亘:drums
1.「MOON VOICE」 詞:出口雅之 曲:本田恭之 編:GRASS VALLEY
2.「砂上の夢」 詞:出口雅之 曲:本田恭之 編:GRASS VALLEY
3.「ALL OF BARREN SOUL」 詞:出口雅之 曲:根本一朗 編:GRASS VALLEY
4.「輝くほとりに」 詞:出口雅之 曲:上領亘 編:GRASS VALLEY
5.「真夜中の透視図」 詞:出口雅之 曲:本田恭之 編:GRASS VALLEY
6.「TEARFUL COLOR」 詞・曲:本田恭之 編:GRASS VALLEY
7.「遙かなる光芒」 詞:出口雅之 曲:上領亘 編:GRASS VALLEY
directed(produced) by 丸沢和宏・山本ケンヤ
mixing engineered by Ron Saint Germain
recording engineered by 川部修久
● 叙情的かつダークで繊細なシンセサウンド!バンドの世界観が最も如実に表現された名作2ndアルバム
1987年シングル「Freezin'」、アルバム「Grass Valley」で颯爽とデビューした、ニューウェーブをデジタル世代ならではの新解釈で換骨奪胎したクールなサウンドが光るGRASS VALLEYは、その衝撃的な1stアルバムから間髪入れずに、同年秋には2ndアルバムである本作をリリースします。前作同様グレーで染めたダークなジャケからも想像できるように、そこに漂うのは鋼のクールで叙情的な世界観です。名刺代わりであった前作では彼らの志向するニューウェーブ・ニューロマンティクスが進化したエレクトリックなサウンドを披露していましたが、本作では当時の数あるバンドの中でも唯一無二のシンセによる巧みなサウンドデザインによって、さらにそのサウンドを深淵化させることに成功し、それが本作を彼らの作品の中で最も彼ららしく表現された大切な名盤として記憶されているゆえんであると思われます。
前作ほど期待に満ちあふれた作風ではなく、また次作「Style」以降のその名のとおりスタイリッシュでキャッチーなポップ感覚を備えているわけでもない本作ですが、随所に散りばめられた絵画的でセンチメンタルな本田恭之のシンセフレーズはますますフィーチャーされ、夜空に輝く星のごとくファンタジックに楽曲を彩り、このバンドのもう1つの売りでもある複雑でタイト、そしてノングルーヴでエフェクティブな(ここが大事)上領亘のドラミングはますます冴え渡っています。もちろん西田信哉や根本一朗の弦楽器陣が奏でる目立たなくもキレとコクがあるプレイはGRASS VALLEYの重要なサウンド要素の1つでもありますが、ギターやベースが後ろを支え、シンセやドラムがサウンド面で前面に押し出されるパターンは他のいわゆるロックバンド形態のグループでは珍しいスタイルであると言えるでしょう。もちろん出口雅之の湿った低音ヴォーカルもこの世界観の構築には欠かせませんし、まさに彼の声質が最も生かされているのも本作と言えるかもしれません。このサウンドスタイルを本作によっていち早く確立した彼らは、個人的にはYMOやPINKにも劣らない80年代を代表するエレクトリックサウンドのグループとしてもっと評価されてもよいと思いますし、こういったシンセやエレクトロニクスの醍醐味を味わわせてくれる作品こそ、現代のマスタリング技術でリマスターしてほしいと思います。
<Favorite Songs>
・「MOON VOICE」
実は珍しいシーケンスのイントロから複雑なドラムパターンを構築するシングルカットにしてタイトルチューン。シングルに似つかわしくない渋い曲調で盛り上がりにも乏しいのですが、いなたいギターフレーズとドラムにかかるエフェクト処理のキレが鋭いです。
・「砂上の夢」
本田恭之お得意の「砂」シリーズのこれも渋く光るいぶし銀な楽曲。ここではシンセが大活躍で、絶妙なタイミングで組み込まれたフレーズは本田の真骨頂でしょう。特にサビの左から右へ、右から左へパンしながら消えていくキラキラシンセは美しいことこの上ありません。
・「TEARFUL COLOR」
本田恭之が作曲だけでなく作詞も担当した最もロマンティックなミディアムバラード。彼らの楽曲の素晴らしいところはこうした叙情的な楽曲であっても、しっかりドラムがタイトかつクリアで攻撃的なところです。また本田の得意音色の1つでもあるピアノ系サウンドをはじめとしたRoland系シンセの響きも美しさを増しています。
<評点>
・サウンド ★★★★★(まさに絵画的で芸術肌のシンセワークは非の打ち所なし)
・メロディ ★★★ (自己の世界観に忠実であるが故にポップ性は減少)
・リズム ★★★★★(突如現れた天が二物を与えた新星ドラマーの鋭い妙技)
・曲構成 ★★★★ (ラストに渋過ぎる楽曲を持っていってしまった感が)
・個性 ★★★★★(彼らのバンドとしての本質はここに既に確立している)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「A・r・i・e・s」 柏原芳恵
「A・r・i・e・s」(1987 東芝EMI)
柏原芳恵:vocal

1.「美少女党」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:萩田光雄
2.「くちびるかんで純愛」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:萩田光雄
3.「夏の夜は一度ほほえむ」 詞:阿久悠 曲:Frankie. T 編:萩田光雄
4.「Stranger」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:萩田光雄
5.「シャワーの下で」 詞:阿久悠 曲・編:萩田光雄
6.「不良の掟」 詞:阿久悠 曲:Frankie. T 編:船山基紀
7.「A・r・i・e・s」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:船山基紀
8.「ガラスの鍵」 詞:阿久悠 曲・編:船山基紀
9.「私のすべて」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:船山基紀
10.「最後のセーラー服」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:船山基紀
<support musician>
今 剛:electric guitar
角田順:electric guitar
松下誠:electric guitar
富倉安生:electric bass
美久月千晴:electric bass
岡本郭男:drums
宮崎まさひろ:drums
大河原るみ子:keyboard・synthesizer
倉田信雄:keyboards
永田"エルトン"一郎:keyboards
山田秀俊:keyboards
加藤JOEグループ:strings
木戸泰弘:chorus
比山貴咏史:chorus
平塚文子:chorus
広谷順子:chorus
梅原篤:synthesizer programming
坂下ヨシマサ:synthesizer programming
助川宏:synthesizer programming
船山基紀:synthesizer programming
伯耆弘徳:synthesizer programming
produced by 鈴木ジロウ
mixing engineered by 清水邦彦・柳原ヤスシ
recording engineered by 中村三郎・藤田浩・村瀬範恭・下川晴彦
● 2大編曲家の対照的なプロ仕事!デジタルサウンドをバックに貫禄の歌唱力を見せつけた傑作
年齢にそぐわない艶やかな声質と確かな歌唱力で80年代アイドルの中でも実力派と言われた柏原芳恵は、1984年のテクノ歌謡を世間に知らしめた名盤「Luster」リリース後は、大人の歌謡曲、もしくは演歌POPSと呼ばれるような作風に移行し、「最愛」「待ちくたびれてヨコハマ」といったシングルヒットは飛ばしたものの、年齢相応とは言い難いイメージ戦略の中で徐々にアイドル歌手としては微妙な立ち位置に置かれつつありました。そのような中、87年に久しぶりに時代を感じさせるデジタルPOPS歌謡路線が復活し、南野陽子主演のドラマ「アリエスの乙女たち」の主題歌「A・r・i・e・s」がヒットとなり、同名タイトルのPOPS路線アルバムである本作がリリースされました。
昭和を代表する名作詞家、阿久悠が全曲の歌詞を担当した本作は、収録曲の約半数に菊池桃子の一連の楽曲で脚光を浴びていた哀愁メロディの技巧派作曲家である林哲司を起用、そして当時の両翼を担う名アレンジャーの2人、萩田光雄と船山基紀を迎えるなど、楽曲を支えるスタッフは豪華の一言に尽きます。また、林哲司の都会的なメロディライオンのおかげでシティPOPSの雰囲気すら漂わせている楽曲群ですが、80年代後期の時代らしく硬質なデジタルシンセとキレの良いリズムトラックが目立つアレンジとなっています。かの「Luster」ではFairlight CMIサウンドで驚きのテクノアレンジを聴かせた船山基紀のサウンドメイクは本作でも健在で、本作の後半(B面)にあたる船山アレンジ楽曲は、シンセによる多彩なフレーズを相変わらず随所に忍び込ませる職人技を披露しています。しかし注目すべきはどちらかといえばアナログ的なサウンド志向が強い前半(A面)を担当する萩田光雄が、船山サウンドに引っ張られるかのようにデジタルでゴリゴリした音色や、エレドラを多用するなど硬派なサウンドで攻めているところです。これはプログラマー陣の傑出した仕事ぶりにもよる部分が大きいと思いますが、萩田光雄のこのようなデジタル系(テクノ系?)編曲は非常に珍しいと思われるので、それだけでも本作の価値はあるのではないでしょうか。時流に乗った年齢相応の作品でありキャッチーな仕上がりであったのにもかかわらず、その後演歌POPS路線に逆戻りしてしまい、徐々に活動ペースが衰えていく彼女ですが、本作は彼女の作品の中でも楽曲自体のクオリティとしては申し分のない好盤と言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「Stranger」
本作では萩田のデジタルロックなサウンドが目立っていますが、この楽曲は風通しの良い爽やかなニューミュージック風の曲調に、緻密なシーケンス&リズムが絡むという玄人好みのクオリティを持っていると思います。
・「不良の掟」
突き刺さるようなバスドラに代表される力強いリズムが印象的なデジタル歌謡ロック。サビの細かいシーケンスベースのマシナリー感覚も嬉しいのですが、SE的に挿入される多彩なフィルインの芸が細かいです。
・「ガラスの鍵」
軽快なシーケンスにこれも絶妙なエフェクトのリズムが心地良いアップテンポナンバー。隙間の多いシンセフレーズですが、その中途半端さが何とも言えない微妙なニュアンスを感じさせます。とはいえやはり(本作全体を通じてですが)ドラムのキレの良さが目立っています。
<評点>
・サウンド ★★★ (多彩なプログラマー陣の緻密なデジタル仕事が目立つ)
・メロディ ★★★ (林哲司の起用で爽やか哀愁なフレーズが新風を吹き込む)
・リズム ★★★★ (これまでの路線が嘘のように強烈なドラムサウンド)
・曲構成 ★ (アルバム構成としては限りなくノーマルで驚きはない)
・個性 ★ (ロックやニューミュージックを通過した良質な歌謡POPS)
総合評点: 7点
柏原芳恵:vocal

1.「美少女党」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:萩田光雄
2.「くちびるかんで純愛」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:萩田光雄
3.「夏の夜は一度ほほえむ」 詞:阿久悠 曲:Frankie. T 編:萩田光雄
4.「Stranger」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:萩田光雄
5.「シャワーの下で」 詞:阿久悠 曲・編:萩田光雄
6.「不良の掟」 詞:阿久悠 曲:Frankie. T 編:船山基紀
7.「A・r・i・e・s」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:船山基紀
8.「ガラスの鍵」 詞:阿久悠 曲・編:船山基紀
9.「私のすべて」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:船山基紀
10.「最後のセーラー服」 詞:阿久悠 曲:林哲司 編:船山基紀
<support musician>
今 剛:electric guitar
角田順:electric guitar
松下誠:electric guitar
富倉安生:electric bass
美久月千晴:electric bass
岡本郭男:drums
宮崎まさひろ:drums
大河原るみ子:keyboard・synthesizer
倉田信雄:keyboards
永田"エルトン"一郎:keyboards
山田秀俊:keyboards
加藤JOEグループ:strings
木戸泰弘:chorus
比山貴咏史:chorus
平塚文子:chorus
広谷順子:chorus
梅原篤:synthesizer programming
坂下ヨシマサ:synthesizer programming
助川宏:synthesizer programming
船山基紀:synthesizer programming
伯耆弘徳:synthesizer programming
produced by 鈴木ジロウ
mixing engineered by 清水邦彦・柳原ヤスシ
recording engineered by 中村三郎・藤田浩・村瀬範恭・下川晴彦
● 2大編曲家の対照的なプロ仕事!デジタルサウンドをバックに貫禄の歌唱力を見せつけた傑作
年齢にそぐわない艶やかな声質と確かな歌唱力で80年代アイドルの中でも実力派と言われた柏原芳恵は、1984年のテクノ歌謡を世間に知らしめた名盤「Luster」リリース後は、大人の歌謡曲、もしくは演歌POPSと呼ばれるような作風に移行し、「最愛」「待ちくたびれてヨコハマ」といったシングルヒットは飛ばしたものの、年齢相応とは言い難いイメージ戦略の中で徐々にアイドル歌手としては微妙な立ち位置に置かれつつありました。そのような中、87年に久しぶりに時代を感じさせるデジタルPOPS歌謡路線が復活し、南野陽子主演のドラマ「アリエスの乙女たち」の主題歌「A・r・i・e・s」がヒットとなり、同名タイトルのPOPS路線アルバムである本作がリリースされました。
昭和を代表する名作詞家、阿久悠が全曲の歌詞を担当した本作は、収録曲の約半数に菊池桃子の一連の楽曲で脚光を浴びていた哀愁メロディの技巧派作曲家である林哲司を起用、そして当時の両翼を担う名アレンジャーの2人、萩田光雄と船山基紀を迎えるなど、楽曲を支えるスタッフは豪華の一言に尽きます。また、林哲司の都会的なメロディライオンのおかげでシティPOPSの雰囲気すら漂わせている楽曲群ですが、80年代後期の時代らしく硬質なデジタルシンセとキレの良いリズムトラックが目立つアレンジとなっています。かの「Luster」ではFairlight CMIサウンドで驚きのテクノアレンジを聴かせた船山基紀のサウンドメイクは本作でも健在で、本作の後半(B面)にあたる船山アレンジ楽曲は、シンセによる多彩なフレーズを相変わらず随所に忍び込ませる職人技を披露しています。しかし注目すべきはどちらかといえばアナログ的なサウンド志向が強い前半(A面)を担当する萩田光雄が、船山サウンドに引っ張られるかのようにデジタルでゴリゴリした音色や、エレドラを多用するなど硬派なサウンドで攻めているところです。これはプログラマー陣の傑出した仕事ぶりにもよる部分が大きいと思いますが、萩田光雄のこのようなデジタル系(テクノ系?)編曲は非常に珍しいと思われるので、それだけでも本作の価値はあるのではないでしょうか。時流に乗った年齢相応の作品でありキャッチーな仕上がりであったのにもかかわらず、その後演歌POPS路線に逆戻りしてしまい、徐々に活動ペースが衰えていく彼女ですが、本作は彼女の作品の中でも楽曲自体のクオリティとしては申し分のない好盤と言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「Stranger」
本作では萩田のデジタルロックなサウンドが目立っていますが、この楽曲は風通しの良い爽やかなニューミュージック風の曲調に、緻密なシーケンス&リズムが絡むという玄人好みのクオリティを持っていると思います。
・「不良の掟」
突き刺さるようなバスドラに代表される力強いリズムが印象的なデジタル歌謡ロック。サビの細かいシーケンスベースのマシナリー感覚も嬉しいのですが、SE的に挿入される多彩なフィルインの芸が細かいです。
・「ガラスの鍵」
軽快なシーケンスにこれも絶妙なエフェクトのリズムが心地良いアップテンポナンバー。隙間の多いシンセフレーズですが、その中途半端さが何とも言えない微妙なニュアンスを感じさせます。とはいえやはり(本作全体を通じてですが)ドラムのキレの良さが目立っています。
<評点>
・サウンド ★★★ (多彩なプログラマー陣の緻密なデジタル仕事が目立つ)
・メロディ ★★★ (林哲司の起用で爽やか哀愁なフレーズが新風を吹き込む)
・リズム ★★★★ (これまでの路線が嘘のように強烈なドラムサウンド)
・曲構成 ★ (アルバム構成としては限りなくノーマルで驚きはない)
・個性 ★ (ロックやニューミュージックを通過した良質な歌謡POPS)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「ファースト・キッス」 トロピカル大臣
「ファースト・キッス」(1995 トリニティ)
トロピカル大臣

<members>
上田コウヘイ(30):vocal・keyboards
水野圭太郎(15):guitar・vocal・chorus
加地孝義(9):drums・sax・chorus
今江タケシ(27):bass・chorus
遠藤タカアキ(26):trombone
1.「地底の世界」 詞・曲:上田コウヘイ 編:上田コウヘイ・トロピカル大臣
2.「ミルクマン」
詞:加地孝義 曲:加地孝義・水野圭太郎・上田コウヘイ
編:加地孝義・トロピカル大臣
3.「そして野菜スープ」
詞・曲:加地孝義・水野圭太郎 編:加地孝義・トロピカル大臣
4.「がんばれジーザス」 詞・曲:上田コウヘイ 編:上田コウヘイ・トロピカル大臣
5.「異次元ロッカー」 詞・曲:上田コウヘイ 編:トロピカル大臣
6.「7月10日」 曲:今江タケシ・加地孝義 編:加地孝義・トロピカル大臣
7.「サーカスセーカツ」
詞:加地孝義・上田コウヘイ 曲:加地孝義・上田コウヘイ・水野圭太郎
編:上田コウヘイ・トロピカル大臣
8.「天才くんバイオレンス」 詞・曲:上田コウヘイ 編:トロピカル大臣
9.「モノポリー」 詞:加地孝義 曲・編:加地孝義・トロピカル大臣
10.「ブレーキ」 詞・曲:上田コウヘイ 編:トロピカル大臣
11.「虚無 -Kyomu-(ライブ)」
詞・曲:上田コウヘイ・加地孝義 編:トロピカル大臣
produced by トロピカル大臣
engineered by 水野圭太郎・加地孝義
● おとぼけニューウェーヴに粘着系絶叫ボーカル!関西が生んだ超個性派バンドのカルトな名盤
1980年代後半より関西を中心としてアンダーグラウンドに活動してきたトロピカル大臣は、80年代初頭のニューウェーブシーンに影響された知る人ぞ知るバンドですが、本格的に活発に活動していたのは90年代初頭から中期にかけてであり、P-MODELの影響が濃いリーダーの上田がP-MODELのコピーバンド大会に出場したことをきっかけに、TRIGGERレーベル~トランソニックレコード主宰の永田一直と出会った頃から東京にも進出、カセット「Tokyo Mo TROPICAL DAIZINNNNNNN」を発表、ディスクユニオン2号店などのテクノポップ・ニューウェーブ系に強いレコード店で販売されていました。折しも90年代は表面的にはクラブ系テクノがもてはやされる中、インディーズシーンでは80年代ニューウェーブリバイバルが芽吹きつつあり、特に関東ではパラペッツやGPPなどが地道にライブシーンで活動していたこともあり、こうした流れに乗る形で前述の永田一直がトランソニックレコード内に個性的な歌モノニューウェーブを世に送り出すためにTrinityレーベルを発足させ、GPPのアルバムと共にトロピカル大臣も初めてのCDリリースを果たすことになりました。それが8cmCD規格でのリリースとなった本作です。
メンバーを番号で呼び合ったり全身ジャージで登場したり、時には寸劇やネタも厭わない、ライブパフォーマンスでは独特のユルい感じを醸し出す彼らですが、本作に収録されている楽曲群もニューウェーブらしくロック的なかっこよさとは少しズレた、ニューウェーブやGS、パンクなどをミクスチャーしたような、ある種の脱力感が感じられる作風です。シンセはモノフォニック中心の限りなくチープでな音色が中心で、前衛的なギターと共にSEといってもよいほど不思議なフレーズが彼らの得意とするところです。煮え切らないメロディに剥き出しの電子音、そして一部で参加するヘタウマなトロンボーンの響きが気怠く、時には(誉め言葉として)暑苦しい感覚に襲われますが、それはやはり泥臭く叫ぶようなヴォーカルスタイルによる部分が大きいでしょう。しかしこうした野性的なヴォーカルと、どこか斜に構えて小馬鹿にしたようなチープなシンセと音階が曖昧な演奏とのコントラストが彼らの個性でもあり、魅力なのではないでしょうか。21世紀を過ぎてからは思い出した時にしか活動を再開しない彼らですが、現在でも存続しているベテランバンドとして奇跡的に新しい音源がリリースされることを期待しています。
<Favorite Songs>
・「がんばれジーザス」
ゲームのようにチープなシンセと自由なギターが目立つ彼らの代表曲。身勝手な歌詞を泥臭く絶叫系唱法で歌い上げるヴォーカルは、バックのサウンドと対照的でそのズレがさらに脱力感を呼び起こします。
・「虚無 -Kyomu-(ライブ)」
人力のユルいリズムに電子音がふんだんに絡むライブ録音。シンセをフィーチャーしたプログレ風の変わった構成の楽曲で、薄く入っている控えめなトロンボーンがいい味を出しています。
<評点>
・サウンド ★★ (パンキッシュな中で脱力的チープシンセがスパイスに)
・メロディ ★ (わざと煮え切らないようにしたフレーズがこそばゆい)
・リズム ★ (全体的なユルさを醸し出しているのはこの人力リズム)
・曲構成 ★ (8cmCDのため収録時間が短いのが残念というより寡作)
・個性 ★★★ (その存在自体が普通ではなくどこか少しずつズレている)
総合評点: 7点
トロピカル大臣

<members>
上田コウヘイ(30):vocal・keyboards
水野圭太郎(15):guitar・vocal・chorus
加地孝義(9):drums・sax・chorus
今江タケシ(27):bass・chorus
遠藤タカアキ(26):trombone
1.「地底の世界」 詞・曲:上田コウヘイ 編:上田コウヘイ・トロピカル大臣
2.「ミルクマン」
詞:加地孝義 曲:加地孝義・水野圭太郎・上田コウヘイ
編:加地孝義・トロピカル大臣
3.「そして野菜スープ」
詞・曲:加地孝義・水野圭太郎 編:加地孝義・トロピカル大臣
4.「がんばれジーザス」 詞・曲:上田コウヘイ 編:上田コウヘイ・トロピカル大臣
5.「異次元ロッカー」 詞・曲:上田コウヘイ 編:トロピカル大臣
6.「7月10日」 曲:今江タケシ・加地孝義 編:加地孝義・トロピカル大臣
7.「サーカスセーカツ」
詞:加地孝義・上田コウヘイ 曲:加地孝義・上田コウヘイ・水野圭太郎
編:上田コウヘイ・トロピカル大臣
8.「天才くんバイオレンス」 詞・曲:上田コウヘイ 編:トロピカル大臣
9.「モノポリー」 詞:加地孝義 曲・編:加地孝義・トロピカル大臣
10.「ブレーキ」 詞・曲:上田コウヘイ 編:トロピカル大臣
11.「虚無 -Kyomu-(ライブ)」
詞・曲:上田コウヘイ・加地孝義 編:トロピカル大臣
produced by トロピカル大臣
engineered by 水野圭太郎・加地孝義
● おとぼけニューウェーヴに粘着系絶叫ボーカル!関西が生んだ超個性派バンドのカルトな名盤
1980年代後半より関西を中心としてアンダーグラウンドに活動してきたトロピカル大臣は、80年代初頭のニューウェーブシーンに影響された知る人ぞ知るバンドですが、本格的に活発に活動していたのは90年代初頭から中期にかけてであり、P-MODELの影響が濃いリーダーの上田がP-MODELのコピーバンド大会に出場したことをきっかけに、TRIGGERレーベル~トランソニックレコード主宰の永田一直と出会った頃から東京にも進出、カセット「Tokyo Mo TROPICAL DAIZINNNNNNN」を発表、ディスクユニオン2号店などのテクノポップ・ニューウェーブ系に強いレコード店で販売されていました。折しも90年代は表面的にはクラブ系テクノがもてはやされる中、インディーズシーンでは80年代ニューウェーブリバイバルが芽吹きつつあり、特に関東ではパラペッツやGPPなどが地道にライブシーンで活動していたこともあり、こうした流れに乗る形で前述の永田一直がトランソニックレコード内に個性的な歌モノニューウェーブを世に送り出すためにTrinityレーベルを発足させ、GPPのアルバムと共にトロピカル大臣も初めてのCDリリースを果たすことになりました。それが8cmCD規格でのリリースとなった本作です。
メンバーを番号で呼び合ったり全身ジャージで登場したり、時には寸劇やネタも厭わない、ライブパフォーマンスでは独特のユルい感じを醸し出す彼らですが、本作に収録されている楽曲群もニューウェーブらしくロック的なかっこよさとは少しズレた、ニューウェーブやGS、パンクなどをミクスチャーしたような、ある種の脱力感が感じられる作風です。シンセはモノフォニック中心の限りなくチープでな音色が中心で、前衛的なギターと共にSEといってもよいほど不思議なフレーズが彼らの得意とするところです。煮え切らないメロディに剥き出しの電子音、そして一部で参加するヘタウマなトロンボーンの響きが気怠く、時には(誉め言葉として)暑苦しい感覚に襲われますが、それはやはり泥臭く叫ぶようなヴォーカルスタイルによる部分が大きいでしょう。しかしこうした野性的なヴォーカルと、どこか斜に構えて小馬鹿にしたようなチープなシンセと音階が曖昧な演奏とのコントラストが彼らの個性でもあり、魅力なのではないでしょうか。21世紀を過ぎてからは思い出した時にしか活動を再開しない彼らですが、現在でも存続しているベテランバンドとして奇跡的に新しい音源がリリースされることを期待しています。
<Favorite Songs>
・「がんばれジーザス」
ゲームのようにチープなシンセと自由なギターが目立つ彼らの代表曲。身勝手な歌詞を泥臭く絶叫系唱法で歌い上げるヴォーカルは、バックのサウンドと対照的でそのズレがさらに脱力感を呼び起こします。
・「虚無 -Kyomu-(ライブ)」
人力のユルいリズムに電子音がふんだんに絡むライブ録音。シンセをフィーチャーしたプログレ風の変わった構成の楽曲で、薄く入っている控えめなトロンボーンがいい味を出しています。
<評点>
・サウンド ★★ (パンキッシュな中で脱力的チープシンセがスパイスに)
・メロディ ★ (わざと煮え切らないようにしたフレーズがこそばゆい)
・リズム ★ (全体的なユルさを醸し出しているのはこの人力リズム)
・曲構成 ★ (8cmCDのため収録時間が短いのが残念というより寡作)
・個性 ★★★ (その存在自体が普通ではなくどこか少しずつズレている)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
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