「MEAT THE BEAT」 TAKUMI(岩崎工)
「MEAT THE BEAT」 (1983 サウンドデザイン)
TAKUMI(岩崎工):vocal・syn-volizer・KORG PS-3200・Mono-Poly・Yamaha DX-7・Roland SH-1・Jupiter-4・Vocoder plus・TR-808・Pearl Poly-sensor・Clavinet・acoustic piano・tubular-bells・Linn & Linn II programming・FairlightCMI

1.「Hauch Von Mir」 詞・曲・編:岩崎工
2.「Snapshot」 詞・曲・編:岩崎工
3.「Tokyoite」 詞・曲・編:岩崎工
4.「In The Ordinary Way」 詞・曲・編:岩崎工
5.「Reproduced Functionalist」 詞・曲・編:岩崎工
6.「A Cloudy Sky In My Yard」 詞・曲・編:岩崎工
7.「Myron」 詞・曲・編:岩崎工
8.「Days Of Romance」 詞・曲・編:岩崎工
9.「Dear Dori...」 詞・曲・編:岩崎工
10.「Mein Schatz」 詞・曲・編:岩崎工
11.「Wave Over And」 曲・編:岩崎工
<support musician>
鈴木智文:electric guitar・acoustic guitar
津村泰彦:electric guitar・acoustic guitar
中原信雄:electric bass・fretless bass
石川雅春:drums・Simmons drum
矢口博康:sax
produced by 岩崎工
mixing engineered by 小野誠彦
recording engineered by 小野誠彦・梶 篤
● フェアライト等最新機材を駆使しUKニューウェーヴに挑んだCM音楽家の渾身の一作!
1970年代後半よりシンセサイザーコンテストなどで脚光を浴び伝説のレトロフューチャーなニューウェーブバンドFILMSのキーボーディストとしてデビュー、FILMS以降はサンプラーの先駆けとなり世界的にデジタルサウンドの中心となるFairlight CMIを日本に初めて持ち帰った人物として知られる岩崎工は、Fairlightを国内で全面的に導入したシンセミュージックグループTPOの一員として活動し、アルバム「TPO1」を残します。しかしこのアルバムにおいての岩崎の楽曲は、プログレを背景にしたテクニカルな安西史孝や豊富な音楽知識を裏付けにした天野正道らの楽曲とは異なり、UKニューウェーブ色が濃いヴォーカル曲であり、印すと中心の作品において異彩を放っていました。ほどなく岩崎はTPOを脱退しますが、TPOと同時期に既にソロ活動を開始、1stアルバムである本作をリリースしています。
本作は「TPO1」で見せたニューウェーブ色をそのまま推し進めた印象で、自身が歌う英語詞のヴォーカルと相まってイギリス特有の青く憂いを含んだシンセポップミュージックに仕上がっています。しかし当時席巻していたエレポップとは印象を異にしており、Linn DrumやFairlightといったPCM・サンプラー系の機材の多用と小野誠彦によるパワフルなリズムの音処理により非常に硬質なデジタルサウンドという印象が強く感じられます。またジャケのヴィジュアルイメージからも連想されるようにメロディラインなどからはニューロマンティクスの影響も強く感じられ、特に「Days Of Romance」などの耽美的なヴォーカルスタイルにはそうしたバックボーンを隠せません。こうしたサウンドを支えているのがFILMSの盟友中原信雄と元プライスの鈴木智文で、彼らはPortable Rockとしての活動を開始していきますが、ニューウェーブと相性の良い彼らのプレイも、本作の世界観に一役買っているようです。本作における彼の先鋭的なサウンドデザインとヨーロッパ感覚あふれるメロディセンスは業界で高く評価され、現在までCM音楽や劇伴などで大活躍していくことになりますが、レコード会社の倒産もあり本作はいまだ再発もCD化もされず今日に至っています。同じレコード会社のJULLANの作品群と共にぜひCD化されることを望んでいます。
<Favorite Songs>
・「Hauch Von Mir」
金属系のスネアが光るリズムが印象に残るオープニングナンバー。このスネア音色は初期PSY・Sを想起させるものでFairlight特有の音色でしょう。全体に漂うのはイギリス的な青臭さで、それがそのまま本作の(特に前半の)カラーになっていきます。
・「Myron」
CM音楽に定評のある岩崎が、既存のCMソングのフレーズをモチーフとして再構築したキャッチーなナンバー。バスドラ連打の機械的リズムに乗り英語のラップを散りばめ、HIPHOPなノリさえ感じさせる名曲です。
・「Days Of Romance」
これぞ岩崎流ニューロマソングと呼べるほどの憂愁を帯びた名曲。うねりを感じさせるシンセベースが心地良く、陰りのあるフレーズによくマッチしています。またJohn Foxxばりの語尾を下げる歌唱法は明らかにニューロマンティクスを意識していると思われます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (Fairlight&シンセの生かし方はさすがに一日の長があり)
・メロディ ★★★ (日本らしくなく洋楽的メロディセンスは好き嫌いを分けた)
・リズム ★★★★ (パワフルなスネア音色とミキシングは程なく主流となる)
・曲構成 ★★ (後半に比べて前半部分の楽曲が少々地味過ぎた感があり)
・個性 ★★★ (UKニューウェーブの影響を素地としたが個性を確立できず)
総合評点: 8点
TAKUMI(岩崎工):vocal・syn-volizer・KORG PS-3200・Mono-Poly・Yamaha DX-7・Roland SH-1・Jupiter-4・Vocoder plus・TR-808・Pearl Poly-sensor・Clavinet・acoustic piano・tubular-bells・Linn & Linn II programming・FairlightCMI

1.「Hauch Von Mir」 詞・曲・編:岩崎工
2.「Snapshot」 詞・曲・編:岩崎工
3.「Tokyoite」 詞・曲・編:岩崎工
4.「In The Ordinary Way」 詞・曲・編:岩崎工
5.「Reproduced Functionalist」 詞・曲・編:岩崎工
6.「A Cloudy Sky In My Yard」 詞・曲・編:岩崎工
7.「Myron」 詞・曲・編:岩崎工
8.「Days Of Romance」 詞・曲・編:岩崎工
9.「Dear Dori...」 詞・曲・編:岩崎工
10.「Mein Schatz」 詞・曲・編:岩崎工
11.「Wave Over And」 曲・編:岩崎工
<support musician>
鈴木智文:electric guitar・acoustic guitar
津村泰彦:electric guitar・acoustic guitar
中原信雄:electric bass・fretless bass
石川雅春:drums・Simmons drum
矢口博康:sax
produced by 岩崎工
mixing engineered by 小野誠彦
recording engineered by 小野誠彦・梶 篤
● フェアライト等最新機材を駆使しUKニューウェーヴに挑んだCM音楽家の渾身の一作!
1970年代後半よりシンセサイザーコンテストなどで脚光を浴び伝説のレトロフューチャーなニューウェーブバンドFILMSのキーボーディストとしてデビュー、FILMS以降はサンプラーの先駆けとなり世界的にデジタルサウンドの中心となるFairlight CMIを日本に初めて持ち帰った人物として知られる岩崎工は、Fairlightを国内で全面的に導入したシンセミュージックグループTPOの一員として活動し、アルバム「TPO1」を残します。しかしこのアルバムにおいての岩崎の楽曲は、プログレを背景にしたテクニカルな安西史孝や豊富な音楽知識を裏付けにした天野正道らの楽曲とは異なり、UKニューウェーブ色が濃いヴォーカル曲であり、印すと中心の作品において異彩を放っていました。ほどなく岩崎はTPOを脱退しますが、TPOと同時期に既にソロ活動を開始、1stアルバムである本作をリリースしています。
本作は「TPO1」で見せたニューウェーブ色をそのまま推し進めた印象で、自身が歌う英語詞のヴォーカルと相まってイギリス特有の青く憂いを含んだシンセポップミュージックに仕上がっています。しかし当時席巻していたエレポップとは印象を異にしており、Linn DrumやFairlightといったPCM・サンプラー系の機材の多用と小野誠彦によるパワフルなリズムの音処理により非常に硬質なデジタルサウンドという印象が強く感じられます。またジャケのヴィジュアルイメージからも連想されるようにメロディラインなどからはニューロマンティクスの影響も強く感じられ、特に「Days Of Romance」などの耽美的なヴォーカルスタイルにはそうしたバックボーンを隠せません。こうしたサウンドを支えているのがFILMSの盟友中原信雄と元プライスの鈴木智文で、彼らはPortable Rockとしての活動を開始していきますが、ニューウェーブと相性の良い彼らのプレイも、本作の世界観に一役買っているようです。本作における彼の先鋭的なサウンドデザインとヨーロッパ感覚あふれるメロディセンスは業界で高く評価され、現在までCM音楽や劇伴などで大活躍していくことになりますが、レコード会社の倒産もあり本作はいまだ再発もCD化もされず今日に至っています。同じレコード会社のJULLANの作品群と共にぜひCD化されることを望んでいます。
<Favorite Songs>
・「Hauch Von Mir」
金属系のスネアが光るリズムが印象に残るオープニングナンバー。このスネア音色は初期PSY・Sを想起させるものでFairlight特有の音色でしょう。全体に漂うのはイギリス的な青臭さで、それがそのまま本作の(特に前半の)カラーになっていきます。
・「Myron」
CM音楽に定評のある岩崎が、既存のCMソングのフレーズをモチーフとして再構築したキャッチーなナンバー。バスドラ連打の機械的リズムに乗り英語のラップを散りばめ、HIPHOPなノリさえ感じさせる名曲です。
・「Days Of Romance」
これぞ岩崎流ニューロマソングと呼べるほどの憂愁を帯びた名曲。うねりを感じさせるシンセベースが心地良く、陰りのあるフレーズによくマッチしています。またJohn Foxxばりの語尾を下げる歌唱法は明らかにニューロマンティクスを意識していると思われます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (Fairlight&シンセの生かし方はさすがに一日の長があり)
・メロディ ★★★ (日本らしくなく洋楽的メロディセンスは好き嫌いを分けた)
・リズム ★★★★ (パワフルなスネア音色とミキシングは程なく主流となる)
・曲構成 ★★ (後半に比べて前半部分の楽曲が少々地味過ぎた感があり)
・個性 ★★★ (UKニューウェーブの影響を素地としたが個性を確立できず)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「"FREAK SMILE"」 SPANK HAPPY
「"FREAK SMILE"」 (1995 東芝EMI)
SPANK HAPPY

<members>
ハラミドリ:vocal・chorus・hand-clap
菊地成孔:sax・chorus・hand-clap
河野伸:synthesizers・acoustic piano・Rhodes・Hammond organ・organ・guitar-sample・chorus・hand-clap
1.「I LOVE YOUの逆襲」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
2.「鉄の馬と女」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
3.「破壊」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
4.「トラベルロリータ」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
5.「空飛ぶ花嫁」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
6.「スパンクスのテーマ」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
7.「私の場合」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
8.「ラブクランクイン」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
9.「悲しむ物体」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
10.「USSR?」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
11.「80年代」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
12.「さよならとオルガン(とタイコ)」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
<support musician>
Graucho Putiatih:guitar
今堀恒雄:guitar
内橋和久:guitar
窪田晴男:guitar
Chico Godowsky:bass
MECKEN:bass
沢田浩史:bass
那須野満:bass
ASA-CHANG:drums・percussions
Kari Muraviyou:drums
植村昌弘:drums
鎌田清:drums
外山明:drums・percussions
芳垣安洋:drums
三沢いずみ:percussions・chorus
大友良英:turntable・handmade-guitar・guitar solo
佐々木史郎:trumpet
中路英明:trombone
桑野聖Strings:strings
あらきなおみ:chorus
坂本ナポリ:voice
鈴木達也:hand-clap
光山征児:hand-clap
produced by SPANK HAPPY
engineered by 野島英明・薮原正史
● 存在感のあるボーカルと前衛と王道が交錯するクセ者サウンドが凄腕演奏陣に支えられた名盤
ソロシンガーであったハラミドリ(ソロでは原みどり名義)とジャズ畑でありカルトなモンド芸術集団?京浜兄弟社との活動など幅広い活躍で異彩を放っていた菊地成孔、アイドルソング畑で鍛えられていたアレンジャーの河野伸が結成したSPANK HAPPYは、マキシシングル「走り泣く乙女」、1stアルバム「MY NAME IS」、2ndシングル「僕は楽器」と立て続けにリリース、明らかにヒットチャートを意識した楽曲でありながら、マニアックで一筋縄ではいかない匂いを感じさせるサウンドが魅力でした。当時全盛を誇っていたDream Comes Trueを引き合いに「裏ドリカム」もしくは「悪ドリカム」という俗称で呼ばれていた彼らですが、本家に負けないほどのポップセンスを随所に散りばめていたものの、持ち前のヒネクレ精神から挿入されるスパイスが、彼らの特徴の1つでした。そして彼らの才能が本領発揮された名盤が本作となります。
不思議少女をてらいもなく演じるハラミドリと楽曲の世界観を作家である兄、菊地秀行譲りの独特の文才で構築する菊地成孔の作詞能力とクセのある手練のミュージシャン達を参加させることのできるコーディネーターぶり、前衛に傾きがちな2人を向こうに回し幅広い音楽知識に裏打ちされたポップアレンジで、POPSサイドを一手に引き受けた感のある河野伸のサウンドクリエイト能力が、本作では見事にかみ合っています。また、Ground Zeroやティポグラフィカといった個性的な技巧派グループのメンバーによるアグレッシブな演奏も聴き所の1つです。度肝を抜く「I LOVE YOUの逆襲」や情熱ほとばしるバラード「悲しむ物体」といったインパクト抜群の楽曲や、「トラベルロリータ」「ラブクランクイン」などのセレブであっさりした耳なじみの良いサウンドといった対照的な楽曲が収録された本作は、彼らの表裏一体の音楽性を表すと共にわざわざ売れ線をにぎわすことのできるようなキャッチーなPOPSにも確固たる自信を持って挑戦していることが窺えます。結果的にヒットを飛ばすことはできなかったものの、河野・ハラが脱退し、菊地中心の第2期SPANK HAPPYとなってもキャッチーなPOPSへの挑戦は続いていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「破壊」
シンセストリングスを中心としたサウンドから後半にかけて徐々にバンドサウンドが盛り上がっていく彼らにとって代表曲とも言える楽曲。サビの泣きフレーズと外山明ならではの独特なノリのリズム、ラストには前作収録の「お早う」のフレーズを持ってくるなど仕掛けも十分です。
・「トラベルロリータ」
河野伸のポップアレンジ全開のミディアムバラード。優しく包み込むようなサウンドは非常に耳障りが良く、その気さえあれば純粋に聴かせる曲も書けるという余裕が感じられます。菊地の枯れたサックスも印象的です。
・「悲しむ物体」
大友良英とその仲間達がフィーチャーされた大作バラード。強烈なリズムとそれに負けないハラミドリのヴォーカル、大友のひきつるような音響的ギターと泣きの菊地サックスフレーズなどハイライトには事欠きません。
<評点>
・サウンド ★★★★ (クセのある演奏陣に支えられ完成度の高いサウンドを実現)
・メロディ ★★★ (冒険的な仕掛けもあるがメロディもよく考えられている)
・リズム ★★★★ (ゲスト陣の生リズム隊はさすがの貫禄を感じさせる技量)
・曲構成 ★★ (幅広い音楽性を見せるが1曲1曲が長いので曲数が多く感じる)
・個性 ★★★ (いわゆる勝負作だが個性的な楽曲で統一してもよかった)
総合評点: 8点
SPANK HAPPY

<members>
ハラミドリ:vocal・chorus・hand-clap
菊地成孔:sax・chorus・hand-clap
河野伸:synthesizers・acoustic piano・Rhodes・Hammond organ・organ・guitar-sample・chorus・hand-clap
1.「I LOVE YOUの逆襲」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
2.「鉄の馬と女」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
3.「破壊」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
4.「トラベルロリータ」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
5.「空飛ぶ花嫁」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
6.「スパンクスのテーマ」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
7.「私の場合」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
8.「ラブクランクイン」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
9.「悲しむ物体」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
10.「USSR?」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
11.「80年代」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
12.「さよならとオルガン(とタイコ)」 詞・曲・編:SPANK HAPPY
<support musician>
Graucho Putiatih:guitar
今堀恒雄:guitar
内橋和久:guitar
窪田晴男:guitar
Chico Godowsky:bass
MECKEN:bass
沢田浩史:bass
那須野満:bass
ASA-CHANG:drums・percussions
Kari Muraviyou:drums
植村昌弘:drums
鎌田清:drums
外山明:drums・percussions
芳垣安洋:drums
三沢いずみ:percussions・chorus
大友良英:turntable・handmade-guitar・guitar solo
佐々木史郎:trumpet
中路英明:trombone
桑野聖Strings:strings
あらきなおみ:chorus
坂本ナポリ:voice
鈴木達也:hand-clap
光山征児:hand-clap
produced by SPANK HAPPY
engineered by 野島英明・薮原正史
● 存在感のあるボーカルと前衛と王道が交錯するクセ者サウンドが凄腕演奏陣に支えられた名盤
ソロシンガーであったハラミドリ(ソロでは原みどり名義)とジャズ畑でありカルトなモンド芸術集団?京浜兄弟社との活動など幅広い活躍で異彩を放っていた菊地成孔、アイドルソング畑で鍛えられていたアレンジャーの河野伸が結成したSPANK HAPPYは、マキシシングル「走り泣く乙女」、1stアルバム「MY NAME IS」、2ndシングル「僕は楽器」と立て続けにリリース、明らかにヒットチャートを意識した楽曲でありながら、マニアックで一筋縄ではいかない匂いを感じさせるサウンドが魅力でした。当時全盛を誇っていたDream Comes Trueを引き合いに「裏ドリカム」もしくは「悪ドリカム」という俗称で呼ばれていた彼らですが、本家に負けないほどのポップセンスを随所に散りばめていたものの、持ち前のヒネクレ精神から挿入されるスパイスが、彼らの特徴の1つでした。そして彼らの才能が本領発揮された名盤が本作となります。
不思議少女をてらいもなく演じるハラミドリと楽曲の世界観を作家である兄、菊地秀行譲りの独特の文才で構築する菊地成孔の作詞能力とクセのある手練のミュージシャン達を参加させることのできるコーディネーターぶり、前衛に傾きがちな2人を向こうに回し幅広い音楽知識に裏打ちされたポップアレンジで、POPSサイドを一手に引き受けた感のある河野伸のサウンドクリエイト能力が、本作では見事にかみ合っています。また、Ground Zeroやティポグラフィカといった個性的な技巧派グループのメンバーによるアグレッシブな演奏も聴き所の1つです。度肝を抜く「I LOVE YOUの逆襲」や情熱ほとばしるバラード「悲しむ物体」といったインパクト抜群の楽曲や、「トラベルロリータ」「ラブクランクイン」などのセレブであっさりした耳なじみの良いサウンドといった対照的な楽曲が収録された本作は、彼らの表裏一体の音楽性を表すと共にわざわざ売れ線をにぎわすことのできるようなキャッチーなPOPSにも確固たる自信を持って挑戦していることが窺えます。結果的にヒットを飛ばすことはできなかったものの、河野・ハラが脱退し、菊地中心の第2期SPANK HAPPYとなってもキャッチーなPOPSへの挑戦は続いていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「破壊」
シンセストリングスを中心としたサウンドから後半にかけて徐々にバンドサウンドが盛り上がっていく彼らにとって代表曲とも言える楽曲。サビの泣きフレーズと外山明ならではの独特なノリのリズム、ラストには前作収録の「お早う」のフレーズを持ってくるなど仕掛けも十分です。
・「トラベルロリータ」
河野伸のポップアレンジ全開のミディアムバラード。優しく包み込むようなサウンドは非常に耳障りが良く、その気さえあれば純粋に聴かせる曲も書けるという余裕が感じられます。菊地の枯れたサックスも印象的です。
・「悲しむ物体」
大友良英とその仲間達がフィーチャーされた大作バラード。強烈なリズムとそれに負けないハラミドリのヴォーカル、大友のひきつるような音響的ギターと泣きの菊地サックスフレーズなどハイライトには事欠きません。
<評点>
・サウンド ★★★★ (クセのある演奏陣に支えられ完成度の高いサウンドを実現)
・メロディ ★★★ (冒険的な仕掛けもあるがメロディもよく考えられている)
・リズム ★★★★ (ゲスト陣の生リズム隊はさすがの貫禄を感じさせる技量)
・曲構成 ★★ (幅広い音楽性を見せるが1曲1曲が長いので曲数が多く感じる)
・個性 ★★★ (いわゆる勝負作だが個性的な楽曲で統一してもよかった)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「MAGICAL HEALING」 原田真二
「MAGICAL HEALING」 (1985 フォーライフ)
原田真二:vocal・keyboards・guitars・drums・percussion・chorus

1.「バンドは金曜日に出来た」 詞・曲・編:原田真二
2.「ORIENTAL KISS」 詞・曲・編:原田真二
3.「永遠を感じた夜」 詞・曲・編:原田真二
4.「SUBWAYの夜明け」 詞・曲・編:原田真二
5.「HEAT DANCING」 詞・曲・編:原田真二
6.「寒がりのVOICE」 詞:安藤秀樹 曲・編:原田真二
7.「MAGICAL HEALING」 詞・曲・編:原田真二
8.「SWAY ME」 詞・曲・編:原田真二
9.「バスルームの沈黙」 詞・曲・編:原田真二
<support musician>
原田末秋:guitar
有賀啓雄:bass
矢口博康:sax
八木のぶお:chromatic harp
金子飛鳥Team:strings
百田忠正:chorus
深沢順:synthesizer programming
produced by 原田真二
mixing engineered by Michael H. Brauer
recording engineered by 内沼映二・平瀬公一
● テクノロジーを巧みに利用しメロディアスかつダンサブルに仕上げたPOPS職人の名盤
10代にして作曲・編曲をこなす弾き語りシンガーソングライターとしてデビューし、数々のヒットを飛ばしアイドル的人気を得るなど、天才の呼び名を欲しいままにしてきた原田真二は、そのきらびやかな才能を持つが故により高い音楽性を求めるために果敢に事務所を独立、自身のバンドであるクライシスを結成し名実共にロックミュージシャンとしての活動を本格化させ、さらなる高みを目指して1981年から米国へ留学します。これが彼の音楽性に大きな影響を与えることになり、帰国後は先鋭的なシンセサウンドを中心としたTECHNOLOGY POPSへと変貌を遂げ、ライブパフォーマンスもよりダンサブルな方向へシフトするなど、もともと持ち合わせている自身の音楽的才能も手伝ってクオリティの高い作品を連発していくことになります。
本作はクライシスを解消し本格的に打ち込み中心のダンサブルサウンドに移行したアルバムで、全編プログラミングされたジャストで強烈なリズムとテクノ・ニューウェーブ出身かと思わせるほど酸いも甘いも知り尽くした多彩なシンセサウンドに圧倒されます。特に前半を占める楽曲の充実度は抜群で、80年代特有のタイトなドラムによってグイグイと引っ張られるかのようです。しかし、その一言で「かっこいい」サウンドを支えているのがプログラマーの深沢順で、彼のプログラミングによる貢献は非常に大きく、その後原田のダンサブル路線の核となっていきます。もちろん、原田本人のマルチアーティストぶりは本作において際立っており、持ち前のポップセンスが存分に生かされた楽曲と表現豊かなヴォーカルスタイルだからこそ、このサウンドデザインが生きているのだと思います。そして、本作を含め「Doing Wonders」「Urban Game」という作品クオリティに関して全盛期とも言えるダンサブル路線の名盤が80年代末まで続いていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「ORIENTAL KISS」
ミニマルなシーケンスにいかにもデジタルなキラキラシンセ、ジャストなリズムキープが気持ちよい本作随一の名曲。作品全体のクールな質感を如実に表現しており、Aメロの緊張感などは非常にセンスを感じます。矢口博康のサックスプレイもさすがの安定感です。
・「永遠を感じた夜」
パワフルなドラムサウンドがインパクト十分なシングルカット曲。オケヒットを混ぜたようなスネア音色や2番Bメロに現れる幻想的なシンセ音色などもこだわりを感じます、そしてしっかりサビではキャッチーに持っていくポップセンスがニクいです。
・「SUBWAYの夜明け」
本作中最もスピード感がありファンキーなエレクトリックPOPS。音の分離がはっきりした凝ったシンセフレーズと音色が素晴らしい。数あるエレポップバンドでもなかなか太刀打ちできない貫禄のあるサウンドデザインは原田本人の才能であるがゆえんでしょう。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (テクノ系アーティストを凌ぐほどの音色センスには脱帽)
・メロディ ★★★★ (定評のあるポップセンスはもちろん上位安定している)
・リズム ★★★★★ (80年代らしいジャスト&タイトなリズムにキレがある)
・曲構成 ★★ (前半部分が完璧なだけに後半でもう1曲激しいのが欲しい)
・個性 ★★★★ (80年代を席巻する原田の打ち込みPOPS路線の代名詞)
総合評点: 9点
原田真二:vocal・keyboards・guitars・drums・percussion・chorus

1.「バンドは金曜日に出来た」 詞・曲・編:原田真二
2.「ORIENTAL KISS」 詞・曲・編:原田真二
3.「永遠を感じた夜」 詞・曲・編:原田真二
4.「SUBWAYの夜明け」 詞・曲・編:原田真二
5.「HEAT DANCING」 詞・曲・編:原田真二
6.「寒がりのVOICE」 詞:安藤秀樹 曲・編:原田真二
7.「MAGICAL HEALING」 詞・曲・編:原田真二
8.「SWAY ME」 詞・曲・編:原田真二
9.「バスルームの沈黙」 詞・曲・編:原田真二
<support musician>
原田末秋:guitar
有賀啓雄:bass
矢口博康:sax
八木のぶお:chromatic harp
金子飛鳥Team:strings
百田忠正:chorus
深沢順:synthesizer programming
produced by 原田真二
mixing engineered by Michael H. Brauer
recording engineered by 内沼映二・平瀬公一
● テクノロジーを巧みに利用しメロディアスかつダンサブルに仕上げたPOPS職人の名盤
10代にして作曲・編曲をこなす弾き語りシンガーソングライターとしてデビューし、数々のヒットを飛ばしアイドル的人気を得るなど、天才の呼び名を欲しいままにしてきた原田真二は、そのきらびやかな才能を持つが故により高い音楽性を求めるために果敢に事務所を独立、自身のバンドであるクライシスを結成し名実共にロックミュージシャンとしての活動を本格化させ、さらなる高みを目指して1981年から米国へ留学します。これが彼の音楽性に大きな影響を与えることになり、帰国後は先鋭的なシンセサウンドを中心としたTECHNOLOGY POPSへと変貌を遂げ、ライブパフォーマンスもよりダンサブルな方向へシフトするなど、もともと持ち合わせている自身の音楽的才能も手伝ってクオリティの高い作品を連発していくことになります。
本作はクライシスを解消し本格的に打ち込み中心のダンサブルサウンドに移行したアルバムで、全編プログラミングされたジャストで強烈なリズムとテクノ・ニューウェーブ出身かと思わせるほど酸いも甘いも知り尽くした多彩なシンセサウンドに圧倒されます。特に前半を占める楽曲の充実度は抜群で、80年代特有のタイトなドラムによってグイグイと引っ張られるかのようです。しかし、その一言で「かっこいい」サウンドを支えているのがプログラマーの深沢順で、彼のプログラミングによる貢献は非常に大きく、その後原田のダンサブル路線の核となっていきます。もちろん、原田本人のマルチアーティストぶりは本作において際立っており、持ち前のポップセンスが存分に生かされた楽曲と表現豊かなヴォーカルスタイルだからこそ、このサウンドデザインが生きているのだと思います。そして、本作を含め「Doing Wonders」「Urban Game」という作品クオリティに関して全盛期とも言えるダンサブル路線の名盤が80年代末まで続いていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「ORIENTAL KISS」
ミニマルなシーケンスにいかにもデジタルなキラキラシンセ、ジャストなリズムキープが気持ちよい本作随一の名曲。作品全体のクールな質感を如実に表現しており、Aメロの緊張感などは非常にセンスを感じます。矢口博康のサックスプレイもさすがの安定感です。
・「永遠を感じた夜」
パワフルなドラムサウンドがインパクト十分なシングルカット曲。オケヒットを混ぜたようなスネア音色や2番Bメロに現れる幻想的なシンセ音色などもこだわりを感じます、そしてしっかりサビではキャッチーに持っていくポップセンスがニクいです。
・「SUBWAYの夜明け」
本作中最もスピード感がありファンキーなエレクトリックPOPS。音の分離がはっきりした凝ったシンセフレーズと音色が素晴らしい。数あるエレポップバンドでもなかなか太刀打ちできない貫禄のあるサウンドデザインは原田本人の才能であるがゆえんでしょう。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (テクノ系アーティストを凌ぐほどの音色センスには脱帽)
・メロディ ★★★★ (定評のあるポップセンスはもちろん上位安定している)
・リズム ★★★★★ (80年代らしいジャスト&タイトなリズムにキレがある)
・曲構成 ★★ (前半部分が完璧なだけに後半でもう1曲激しいのが欲しい)
・個性 ★★★★ (80年代を席巻する原田の打ち込みPOPS路線の代名詞)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「瞳水晶」 遊佐未森
「瞳水晶」 (1988 エピックソニー)
遊佐未森:vocal・chorus・marimba

1.「瞳水晶」 詞・曲:外間隆史 編:成田忍
2.「Happy Shoes」 詞・曲:外間隆史 編:成田忍
3.「Destination」 詞:工藤順子 曲・編:成田忍
4.「花ざんげ」 詞・曲:太田裕美 編:成田忍
5.「桜」 詞:工藤順子 曲:近藤由起夫 編:成田忍
6.「水夢 [スイム]」 詞・曲:外間隆史 編:成田忍
7.「花一杯君を待つ」 詞:工藤順子 曲・編:成田忍
8.「ステイション」 詞:杉林恭雄 曲:Q 編:成田忍
9.「月姫」 詞:工藤順子 曲:松尾清憲 編:成田忍
10.「カナリヤ」 詞・曲:外間隆史 編:成田忍
<support musician>
成田忍:guitar・synthesizer
沖山優司:bass
寺谷誠一:drums
鶴来正基:piano
八尋知洋:percussion
清水一登:clarinet
小久保隆:computer & synthesizer programming
produced by 福岡知彦・柿崎譲二・外間隆史
sound produced by 成田忍
mixing engineered by 飯尾芳史
recording engineered by 河合十里・小久保隆
● 透き通る歌声に控えめなシンセが絡む!アコースティックな新感覚シンガー名作デビュー盤
国立音楽大学出身の新進気鋭ヴォーカリストとして、そのクラシカルな歌唱法と斬新なサウンドスケープ、メルヘンチックなイメージで颯爽とデビューした遊佐未森のデビュー作である本作は、4-DやURBAN DANCEにおいてニューウェーブ直系のスタイリッシュなエレクトロサウンドとキャッチーなロックテイストを融合させていたギタリスト&クリエイター成田忍をサウンドプロデュースに迎え、牧歌的でほんわかした遊佐のパーソナリティとこれまでの成田忍の経歴との違和感がどのように埋められているかが作品がリリースされるまでの期待と不安でした。しかし、仕上がった作品はデジタルを隠し味にしながらも涼やかな情景を感じさせる絶妙なバランスのもとにサウンドデザインがなされ、デビュー作としては成功と呼べる作品になっています。
成田忍のサウンドプロデュースでありながら遊佐の世界観をデビューより導いていくのは、次作以降も中心的な役割を担う外間隆史です。元Filmsでもある彼は本作でも4曲を作曲し遊佐の世界観を決定づけていますが、このデビュー作に関してだけは成田忍の先鋭的なサウンドが先走っており、土屋昌巳のサポート等で鍛え上げられた多彩で精密なギターフレーズと後期URBAN DANCE(沖山優司+寺谷誠一)の安定感のある演奏と、エレクトリック関係の盟友である小久保隆のプログラミングによって、以後の遊佐作品にはない独特のプラスチック感が楽しめます。そしてそんなテクノ新感覚派とも呼べるサウンドに一歩も退かない遊佐のPOPS的でない真っ直ぐで音域の広いヴォーカルは、これがデビュー作とは思えないほどの存在感を放っておりその後の活躍を予想させるに十分なクオリティとなっています。成田忍は外間隆史とのサウンドに対する方向性の違いから本作のみのプロデュースとなりましたが、だからこそ本作が彼女の作品の中でも異彩を放つ個性的で貴重な作品として評価したいと思います。
<Favorite Songs>
・「瞳水晶」
ナチュラルなイメージを打ち出したデビューシングルにしてタイトルナンバー。透明感のある声質に外間隆史が紡ぎ出すサビで転調する不思議なメロディに抑え気味のデジタルサウンドがマッチしています。
・「Destination」
独特のリズムと和風感覚漂うメロディで構築された不思議テイストの楽曲。ドアのきしむ音など細部にこだわった音にも注目ですが、聴き所は間奏のギターソロのE-bowっぽい永続的で繊細な音づくりです。
・「水夢 [スイム]」
牧歌的なメロディなのにサウンドはロックテイストも潜んでいるおもしろい楽曲。金属的な音色が飛び交うイントロと主旋律に似つかわしくない複雑なリズムに絡むギターソロなどストレートと思わせながら凝ったギミックを忘れない成田忍のセンスが表れています。
<評点>
・サウンド ★★★★ (神経質に凝りまくったギターサウンドは成田忍の面目躍如)
・メロディ ★★ (ほんわか緩いメロディを狙ったがサウンドに押され気味)
・リズム ★★ (どこかひねった楽曲が多い中安定感をもたらすドラミング)
・曲構成 ★★ (同じ系統の楽曲が並んでいるがキラーソングも欲しい)
・個性 ★★ (日本のPOPS界にあっておもしろい立ち位置にはまった)
総合評点: 7点
遊佐未森:vocal・chorus・marimba

1.「瞳水晶」 詞・曲:外間隆史 編:成田忍
2.「Happy Shoes」 詞・曲:外間隆史 編:成田忍
3.「Destination」 詞:工藤順子 曲・編:成田忍
4.「花ざんげ」 詞・曲:太田裕美 編:成田忍
5.「桜」 詞:工藤順子 曲:近藤由起夫 編:成田忍
6.「水夢 [スイム]」 詞・曲:外間隆史 編:成田忍
7.「花一杯君を待つ」 詞:工藤順子 曲・編:成田忍
8.「ステイション」 詞:杉林恭雄 曲:Q 編:成田忍
9.「月姫」 詞:工藤順子 曲:松尾清憲 編:成田忍
10.「カナリヤ」 詞・曲:外間隆史 編:成田忍
<support musician>
成田忍:guitar・synthesizer
沖山優司:bass
寺谷誠一:drums
鶴来正基:piano
八尋知洋:percussion
清水一登:clarinet
小久保隆:computer & synthesizer programming
produced by 福岡知彦・柿崎譲二・外間隆史
sound produced by 成田忍
mixing engineered by 飯尾芳史
recording engineered by 河合十里・小久保隆
● 透き通る歌声に控えめなシンセが絡む!アコースティックな新感覚シンガー名作デビュー盤
国立音楽大学出身の新進気鋭ヴォーカリストとして、そのクラシカルな歌唱法と斬新なサウンドスケープ、メルヘンチックなイメージで颯爽とデビューした遊佐未森のデビュー作である本作は、4-DやURBAN DANCEにおいてニューウェーブ直系のスタイリッシュなエレクトロサウンドとキャッチーなロックテイストを融合させていたギタリスト&クリエイター成田忍をサウンドプロデュースに迎え、牧歌的でほんわかした遊佐のパーソナリティとこれまでの成田忍の経歴との違和感がどのように埋められているかが作品がリリースされるまでの期待と不安でした。しかし、仕上がった作品はデジタルを隠し味にしながらも涼やかな情景を感じさせる絶妙なバランスのもとにサウンドデザインがなされ、デビュー作としては成功と呼べる作品になっています。
成田忍のサウンドプロデュースでありながら遊佐の世界観をデビューより導いていくのは、次作以降も中心的な役割を担う外間隆史です。元Filmsでもある彼は本作でも4曲を作曲し遊佐の世界観を決定づけていますが、このデビュー作に関してだけは成田忍の先鋭的なサウンドが先走っており、土屋昌巳のサポート等で鍛え上げられた多彩で精密なギターフレーズと後期URBAN DANCE(沖山優司+寺谷誠一)の安定感のある演奏と、エレクトリック関係の盟友である小久保隆のプログラミングによって、以後の遊佐作品にはない独特のプラスチック感が楽しめます。そしてそんなテクノ新感覚派とも呼べるサウンドに一歩も退かない遊佐のPOPS的でない真っ直ぐで音域の広いヴォーカルは、これがデビュー作とは思えないほどの存在感を放っておりその後の活躍を予想させるに十分なクオリティとなっています。成田忍は外間隆史とのサウンドに対する方向性の違いから本作のみのプロデュースとなりましたが、だからこそ本作が彼女の作品の中でも異彩を放つ個性的で貴重な作品として評価したいと思います。
<Favorite Songs>
・「瞳水晶」
ナチュラルなイメージを打ち出したデビューシングルにしてタイトルナンバー。透明感のある声質に外間隆史が紡ぎ出すサビで転調する不思議なメロディに抑え気味のデジタルサウンドがマッチしています。
・「Destination」
独特のリズムと和風感覚漂うメロディで構築された不思議テイストの楽曲。ドアのきしむ音など細部にこだわった音にも注目ですが、聴き所は間奏のギターソロのE-bowっぽい永続的で繊細な音づくりです。
・「水夢 [スイム]」
牧歌的なメロディなのにサウンドはロックテイストも潜んでいるおもしろい楽曲。金属的な音色が飛び交うイントロと主旋律に似つかわしくない複雑なリズムに絡むギターソロなどストレートと思わせながら凝ったギミックを忘れない成田忍のセンスが表れています。
<評点>
・サウンド ★★★★ (神経質に凝りまくったギターサウンドは成田忍の面目躍如)
・メロディ ★★ (ほんわか緩いメロディを狙ったがサウンドに押され気味)
・リズム ★★ (どこかひねった楽曲が多い中安定感をもたらすドラミング)
・曲構成 ★★ (同じ系統の楽曲が並んでいるがキラーソングも欲しい)
・個性 ★★ (日本のPOPS界にあっておもしろい立ち位置にはまった)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「あっちの目こっちの目」 ヒカシュー
「あっちの目こっちの目」(1993 徳間ジャパン)
ヒカシュー

<members>
巻上公一:vocal・cornet
三田超人:guitar・vocal
野本和浩:sax・bass clarinet
Torsten Rasch:keyboards
坂出雅海:bass
つの犬:drums
1.「石仏」 詞:巻上公一 曲:Torsten Rasch 編:ヒカシュー
2.「零桜 こぼれざくら」 詞:巻上公一 曲:三田超人 編:ヒカシュー
3.「あっちの目こっちの目」 詞:巻上公一 曲:野本和浩 編:ヒカシュー
4.「シーラカンス」 詞:巻上公一 曲:野本和浩 編:ヒカシュー
5.「πラップル」 詞・曲:三田超人 編:ヒカシュー
6.「さなぎ」 詞・曲:巻上公一 編:ヒカシュー
7.「男は言った」 詞:巻上公一 曲:三田超人 編:ヒカシュー
8.「だるま」 詞:巻上公一 曲:野本和浩 編:ヒカシュー
9.「草雲雀」 詞:巻上公一 曲:坂出雅海 編:ヒカシュー
10.「ハーシー#3」 曲:Lauren Newton 編:ヒカシュー
11.「夢植物」 詞:巻上公一 曲:Torsten Rasch 編:ヒカシュー
12.「色えんぴつ」 詞:巻上公一 曲:野本和浩 編:ヒカシュー
<support musician>
Hans-Jurgen Noack:violin
Lauren Newton:voice
produced by ヒカシュー
co-produced by 及川善博
mixing engineered by Matt Hartl
recording engineered by Jonas Gottfriedsen
● フリージャズ的アプローチのサウンドと即興女性ボーカルが構築する独自の世界が前衛的な名盤
90年代に入って「丁重なおもてなし」「はなうたはじめ」と連続したアルバムをリリースし活動期に入っていたヒカシューでしたが、ここで長年ヒカシューのTECHNOLOGY面を影から支えてきたオリジナルメンバーの井上誠が脱退し、ドイツ人キーボーディストTorsten Raschが加入して心機一転、さらにそのフリーキーな即興サウンドを目指していくことになります。そして前作から2年後にリリースされた本作は、気合いの入ったベルリンレコーディングによりそのテクニカルな演奏力に磨きがかかっており、Hans-Jurgen NoackやLauren Newtonといったゲスト陣との相性も抜群で、非常にテンションの高い作品となっています。
古くはテクノポップ御三家と呼ばれたヒカシューもこの頃にはそんな面影は微塵にも感じさせないプログレッシブな演奏を聴かせてくれています。もともとヒカシューをテクノポップのカテゴリーに分類することがそもそもの間違いであるのですが、80年代後半からのインプロヴィゼーションを基調とした劇的なサウンドの変化によって独自かつ孤高の地位を確立したと言ってよいと思います。ギターはいつものキテレツな三田節、つの犬こと角田健のドラミングも本作ではタイトで大活躍(音響面でエンジニアも良い仕事)していますが、やはり本作のテーマは「声」としか言いようがありません。巻上の何かに憑かれたようなヴォーカルはいつものことですが、本作ではゲストのLauren Newtonの存在感が凄まじく、鬼気迫る金切りボイスで、巻上を向こうに張ってもはやサンプリングボイスと聴きまがうような即興ヴォーカルの戦いを挑んでいます。この2人の戦いによる相乗効果が前衛的な演奏と共に楽曲のテンションを上げていった結果が、彼らの作品の中でも傑作の部類に数えられるクオリティを誇る本作となったわけです。
<Favorite Songs>
・「あっちの目こっちの目」
独特の脱力感に癒されるタイトルナンバー。ポップでありながら巻上とLaurenの掛け合いの凄まじさは他にはないもの。特に後半のサビから徐々に壊れていくさまはこれぞプロフェッショナルで、即興の楽しさを見せつけられます。
・「πラップル」
その壊れ具合に度肝を抜かれる即興ヴォーカルがフィーチャーされた世紀の奇曲。歌詞カードを見てその宇宙人みたいな言葉の羅列に笑ってしまいますが、巻上&Lauren、そして三田まで加わった狂人の宴といった風情の展開は、ヒカシューのポテンシャルを如実に表しているような気がします。
・「男は言った」
スピード感溢れるロック調のヒカシューが堪能できる楽曲。そしてここでも間奏のインプロヴィゼーションでLaurenが大活躍です。しかしこのテンションの高い楽曲ではディストーションの効いたギターとTorstenのオルガンプレイが光っていることも忘れてはなりません。
<評点>
・サウンド ★★★★ (ヴォーカル陣に引っ張られるかのようなキレのある演奏)
・メロディ ★★ (ポップ性も兼ね備えているがサウンドのインパクトには・・)
・リズム ★★★ (つの犬の生ドラムは技巧的な演奏にあって存在感を放つ)
・曲構成 ★★ (12曲の中に見せ場を作り飽きさせない構成に好印象)
・個性 ★★★★★(こんな立ち位置のバンドは他には見当たらない強烈な個性)
総合評点: 8点
ヒカシュー

<members>
巻上公一:vocal・cornet
三田超人:guitar・vocal
野本和浩:sax・bass clarinet
Torsten Rasch:keyboards
坂出雅海:bass
つの犬:drums
1.「石仏」 詞:巻上公一 曲:Torsten Rasch 編:ヒカシュー
2.「零桜 こぼれざくら」 詞:巻上公一 曲:三田超人 編:ヒカシュー
3.「あっちの目こっちの目」 詞:巻上公一 曲:野本和浩 編:ヒカシュー
4.「シーラカンス」 詞:巻上公一 曲:野本和浩 編:ヒカシュー
5.「πラップル」 詞・曲:三田超人 編:ヒカシュー
6.「さなぎ」 詞・曲:巻上公一 編:ヒカシュー
7.「男は言った」 詞:巻上公一 曲:三田超人 編:ヒカシュー
8.「だるま」 詞:巻上公一 曲:野本和浩 編:ヒカシュー
9.「草雲雀」 詞:巻上公一 曲:坂出雅海 編:ヒカシュー
10.「ハーシー#3」 曲:Lauren Newton 編:ヒカシュー
11.「夢植物」 詞:巻上公一 曲:Torsten Rasch 編:ヒカシュー
12.「色えんぴつ」 詞:巻上公一 曲:野本和浩 編:ヒカシュー
<support musician>
Hans-Jurgen Noack:violin
Lauren Newton:voice
produced by ヒカシュー
co-produced by 及川善博
mixing engineered by Matt Hartl
recording engineered by Jonas Gottfriedsen
● フリージャズ的アプローチのサウンドと即興女性ボーカルが構築する独自の世界が前衛的な名盤
90年代に入って「丁重なおもてなし」「はなうたはじめ」と連続したアルバムをリリースし活動期に入っていたヒカシューでしたが、ここで長年ヒカシューのTECHNOLOGY面を影から支えてきたオリジナルメンバーの井上誠が脱退し、ドイツ人キーボーディストTorsten Raschが加入して心機一転、さらにそのフリーキーな即興サウンドを目指していくことになります。そして前作から2年後にリリースされた本作は、気合いの入ったベルリンレコーディングによりそのテクニカルな演奏力に磨きがかかっており、Hans-Jurgen NoackやLauren Newtonといったゲスト陣との相性も抜群で、非常にテンションの高い作品となっています。
古くはテクノポップ御三家と呼ばれたヒカシューもこの頃にはそんな面影は微塵にも感じさせないプログレッシブな演奏を聴かせてくれています。もともとヒカシューをテクノポップのカテゴリーに分類することがそもそもの間違いであるのですが、80年代後半からのインプロヴィゼーションを基調とした劇的なサウンドの変化によって独自かつ孤高の地位を確立したと言ってよいと思います。ギターはいつものキテレツな三田節、つの犬こと角田健のドラミングも本作ではタイトで大活躍(音響面でエンジニアも良い仕事)していますが、やはり本作のテーマは「声」としか言いようがありません。巻上の何かに憑かれたようなヴォーカルはいつものことですが、本作ではゲストのLauren Newtonの存在感が凄まじく、鬼気迫る金切りボイスで、巻上を向こうに張ってもはやサンプリングボイスと聴きまがうような即興ヴォーカルの戦いを挑んでいます。この2人の戦いによる相乗効果が前衛的な演奏と共に楽曲のテンションを上げていった結果が、彼らの作品の中でも傑作の部類に数えられるクオリティを誇る本作となったわけです。
<Favorite Songs>
・「あっちの目こっちの目」
独特の脱力感に癒されるタイトルナンバー。ポップでありながら巻上とLaurenの掛け合いの凄まじさは他にはないもの。特に後半のサビから徐々に壊れていくさまはこれぞプロフェッショナルで、即興の楽しさを見せつけられます。
・「πラップル」
その壊れ具合に度肝を抜かれる即興ヴォーカルがフィーチャーされた世紀の奇曲。歌詞カードを見てその宇宙人みたいな言葉の羅列に笑ってしまいますが、巻上&Lauren、そして三田まで加わった狂人の宴といった風情の展開は、ヒカシューのポテンシャルを如実に表しているような気がします。
・「男は言った」
スピード感溢れるロック調のヒカシューが堪能できる楽曲。そしてここでも間奏のインプロヴィゼーションでLaurenが大活躍です。しかしこのテンションの高い楽曲ではディストーションの効いたギターとTorstenのオルガンプレイが光っていることも忘れてはなりません。
<評点>
・サウンド ★★★★ (ヴォーカル陣に引っ張られるかのようなキレのある演奏)
・メロディ ★★ (ポップ性も兼ね備えているがサウンドのインパクトには・・)
・リズム ★★★ (つの犬の生ドラムは技巧的な演奏にあって存在感を放つ)
・曲構成 ★★ (12曲の中に見せ場を作り飽きさせない構成に好印象)
・個性 ★★★★★(こんな立ち位置のバンドは他には見当たらない強烈な個性)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「VISAGE」 VISAGE
「VISAGE」 (1980 Polydor)
VISAGE

<members>
Steve Strange:vocals
Midge Ure:guitar・keyboards・bass・backing vocals
Billy Currie:electric violin・keyboards
John McGeoch:guitar
Rusty Egan:drums・electronic percussion・sax・backing vocals
Dave Formula:keyboards
1.「Visage」 VISAGE
2.「Blocks on Blocks」 VISAGE
3.「The Dancer」 Midge Ure/Rusty Egan
4.「Tar」 VISAGE
5.「Fade to Grey」 Billy Currie/Midge Ure/Christpher Payne
6.「Malpaso Man」 VISAGE
7.「Mind of a Toy」 VISAGE
8.「Moon Over Moscow」 VISAGE
9.「Visa-age」 VISAGE
10.「The Steps」 VISAGE
<support musician>
Barry Adamson:bass
produced by VISAGE・Midge Ure
engineered by John Hudson
● 効果的なシンセサウンドが妖しさ倍増!ニューロマンティクスの象徴的存在ユニットデビュー作
80年代初頭に突如表出したニューロマンティクスムーブメントの中心的なバンドであったVISAGEは、フロントマンのSteve Strangeを中心に、UltravoxやMagazineのメンバーが参加したスペシャルユニットで、電子楽器を多用した近未来的なサウンドともはや芸術的とも言えるSteve Strangeの丁寧に作り込まれたヴィジュアルで世間を驚かせ、数々のフォロワーを生み出しました。彼らの1stアルバムである本作はまさに80年代の夜明けを告げるかのような先鋭的で斬新なイメージを体現した作品ですが、後にUltravoxのメンバーとなりそのポップセンスを開花させるRich KidsのMidge Ureがイニシアチブをとった楽曲の数々は、奇抜なヴィジュアルイメージとは裏腹なポップな印象を受けるもので、既にMIdgeのヒットメイカーとしての才能の萌芽が見られる形となっています。
このようにMidge Ureの活躍が目立つ本作ですが、彼以外にも注目すべきメンバーがいます。後にMidgeを連れてUltravoxに再合流するBilly CurrieのシンセワークはVISAGEが誇るフューチャリスティックなサウンドになくてはならない要素の1つで、モジュレーションがかった独特の粘っこいシンセフレーズがあるからこそ、VISAGEがサウンド面でも高い評価を受けたものと思われます。また、ドラムのRusty Eganは終始攻撃的なドラミングで楽曲を締めることに成功しており、時には機械的なリズムボックスと掛け合いながら近未来的イメージの楽曲を縁の下から支えるなど非常に重要な役割を担っています。その結果Steveのヴィジュアルインパクトの助けを借りずともサウンドのみでリスナーに衝撃を与えられるほどのクオリティの高いサウンドを実現したと言えるでしょう。デビュー作にして彼らの全盛期と呼ばれる本作ですが、次作「The Anvil」のリリースまでのその短いニューロマンティクスとしてのスターダム期間を彼らは駆け抜けていくことになります。
<Favorite Songs>
・「Tar」
鋭いシンセフレーズのイントロが印象的な1979年のシングルカット曲。これぞニューウェーブといったようなシンセ主導のサウンドにサックスを交えた当時で言うところのオシャレサウンドは、先鋭的なリスナーには支持されたものの、いまだこの楽曲がリリースされたのはブレイク直前でした。
・「Mind of a Toy」
メランコリックな世界観を形づくる独特の個性を放つシングルカットナンバー。チープなリズムボックスと生ドラムの併用が特徴で、このリズムボックスの淡々と刻むテンポが個性の源であると思われます。オルゴール調のメルヘンなイントロとアウトロも雰囲気十分です。
・「Visa-age」
タイトル曲のアナザーバージョンとも言うべき楽曲であるが、より斬新で苛烈なエレクトリックナンバー。Billyの鋭く主張するシンセフレーズが全開で、そのにじむような音色は本作のハイライトとも呼べるものです。
<評点>
・サウンド ★★★ (どぎつい汚したシンセフレーズが個性的でインパクト十分)
・メロディ ★★ (シングルを切りやすいキャッチーなメロディを多用している)
・リズム ★★ (Rusty Eganの直線的で揺れないドラミングは好感が持てる)
・曲構成 ★★ (ノンストップ気味に1つの物語を築く手法は考えられている)
・個性 ★★ (世界観のための電子楽器を多用するという志向は誤りでない)
総合評点: 7点
VISAGE

<members>
Steve Strange:vocals
Midge Ure:guitar・keyboards・bass・backing vocals
Billy Currie:electric violin・keyboards
John McGeoch:guitar
Rusty Egan:drums・electronic percussion・sax・backing vocals
Dave Formula:keyboards
1.「Visage」 VISAGE
2.「Blocks on Blocks」 VISAGE
3.「The Dancer」 Midge Ure/Rusty Egan
4.「Tar」 VISAGE
5.「Fade to Grey」 Billy Currie/Midge Ure/Christpher Payne
6.「Malpaso Man」 VISAGE
7.「Mind of a Toy」 VISAGE
8.「Moon Over Moscow」 VISAGE
9.「Visa-age」 VISAGE
10.「The Steps」 VISAGE
<support musician>
Barry Adamson:bass
produced by VISAGE・Midge Ure
engineered by John Hudson
● 効果的なシンセサウンドが妖しさ倍増!ニューロマンティクスの象徴的存在ユニットデビュー作
80年代初頭に突如表出したニューロマンティクスムーブメントの中心的なバンドであったVISAGEは、フロントマンのSteve Strangeを中心に、UltravoxやMagazineのメンバーが参加したスペシャルユニットで、電子楽器を多用した近未来的なサウンドともはや芸術的とも言えるSteve Strangeの丁寧に作り込まれたヴィジュアルで世間を驚かせ、数々のフォロワーを生み出しました。彼らの1stアルバムである本作はまさに80年代の夜明けを告げるかのような先鋭的で斬新なイメージを体現した作品ですが、後にUltravoxのメンバーとなりそのポップセンスを開花させるRich KidsのMidge Ureがイニシアチブをとった楽曲の数々は、奇抜なヴィジュアルイメージとは裏腹なポップな印象を受けるもので、既にMIdgeのヒットメイカーとしての才能の萌芽が見られる形となっています。
このようにMidge Ureの活躍が目立つ本作ですが、彼以外にも注目すべきメンバーがいます。後にMidgeを連れてUltravoxに再合流するBilly CurrieのシンセワークはVISAGEが誇るフューチャリスティックなサウンドになくてはならない要素の1つで、モジュレーションがかった独特の粘っこいシンセフレーズがあるからこそ、VISAGEがサウンド面でも高い評価を受けたものと思われます。また、ドラムのRusty Eganは終始攻撃的なドラミングで楽曲を締めることに成功しており、時には機械的なリズムボックスと掛け合いながら近未来的イメージの楽曲を縁の下から支えるなど非常に重要な役割を担っています。その結果Steveのヴィジュアルインパクトの助けを借りずともサウンドのみでリスナーに衝撃を与えられるほどのクオリティの高いサウンドを実現したと言えるでしょう。デビュー作にして彼らの全盛期と呼ばれる本作ですが、次作「The Anvil」のリリースまでのその短いニューロマンティクスとしてのスターダム期間を彼らは駆け抜けていくことになります。
<Favorite Songs>
・「Tar」
鋭いシンセフレーズのイントロが印象的な1979年のシングルカット曲。これぞニューウェーブといったようなシンセ主導のサウンドにサックスを交えた当時で言うところのオシャレサウンドは、先鋭的なリスナーには支持されたものの、いまだこの楽曲がリリースされたのはブレイク直前でした。
・「Mind of a Toy」
メランコリックな世界観を形づくる独特の個性を放つシングルカットナンバー。チープなリズムボックスと生ドラムの併用が特徴で、このリズムボックスの淡々と刻むテンポが個性の源であると思われます。オルゴール調のメルヘンなイントロとアウトロも雰囲気十分です。
・「Visa-age」
タイトル曲のアナザーバージョンとも言うべき楽曲であるが、より斬新で苛烈なエレクトリックナンバー。Billyの鋭く主張するシンセフレーズが全開で、そのにじむような音色は本作のハイライトとも呼べるものです。
<評点>
・サウンド ★★★ (どぎつい汚したシンセフレーズが個性的でインパクト十分)
・メロディ ★★ (シングルを切りやすいキャッチーなメロディを多用している)
・リズム ★★ (Rusty Eganの直線的で揺れないドラミングは好感が持てる)
・曲構成 ★★ (ノンストップ気味に1つの物語を築く手法は考えられている)
・個性 ★★ (世界観のための電子楽器を多用するという志向は誤りでない)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「Strawberry」 CoCo
「Strawberry」 (1990 ポニーキャニオン)
CoCo

<members>
大野幹代:vocal
瀬能あづさ:vocal
羽田惠利香:vocal
三浦理恵子:vocal
宮前真樹:vocal
1.「OUT of BLUE~ふたりの伝説~」 詞:和泉ゆかり 曲:朝倉紀幸 編:有賀啓雄
2.「EQUALロマンス」 詞:及川眠子 曲:山口美央子 編:中村哲
3.「雨のジェラシー」 詞:石川あゆ子 曲:松本俊明 編:有賀啓雄
4.「乙女のリハーサル」 詞:及川眠子 曲:岩田雅之 編:中村哲
5.「天使のチャイム」 詞:及川眠子 曲:山口美央子 編:亀田誠治
6.「春・ミルキーウェイ」 詞:吉澤久美子 曲:小室哲哉 編:西脇辰弥
7.「Misty Heart」 曲:岩田雅之 編:十川知司
8.「はんぶん不思議」 詞:及川眠子 曲:岩田雅之 編:有賀啓雄
9.「さよならから始まる物語」 詞:森本抄夜子 曲:山口美央子 編:十川知司
10.「夢は眠らない」 詞:及川眠子 曲・編:亀田誠治
engineered by 中林慶一・村瀬範恭
● 爽やかな良質の楽曲で90年代式アイドルPOPSの先鞭をつけた人気アイドルグループのデビュー作
80年代末に生まれたアイドル集団「乙女塾」から生まれた90年代を代表するアイドルグループCoCoは、派手なサウンドとハイパーなギミックによって支えられた80年代のアイドルソングからは一線を画し、渡辺満里奈が山川恵津子楽曲によって作り出した上品で優等生なニューミュージック系歌謡POPSの流れを汲んだキュートで切ない楽曲を得意として、アイドル冬の時代を支え続けました。本作は彼女達の記念すべきデビューアルバムですが、奇をてらうことなくストレートに等身大の姿を映し出した好感の持てる仕上がりを見せた作品です。
一見5人ユニゾンの薄い個性に思える彼女達のヴォーカルですが、明らかに歌唱力のある瀬能あづさと破壊的な猫なで声質を持つ三浦理恵子の個性が際立っており、その振り幅を大野・宮前・羽田の3人がカバーしてバランスを保っているといった印象です。まだまだ心許ない彼女達のヴォーカルを支えるのは、ソロ活動やベーシストとしての評価も高い有賀啓雄やニューミュージック系歌謡POPSの作曲では欠かせない山口美央子、ジャニーズ系の楽曲を手掛けた岩田雅之、後年椎名林檎らのプロデューサーとしてトップクリエイターとして名を上げる若かりし頃の亀田誠治といった面々で、特に有賀の打ち込みを基調にしながらも上品さと爽やかさを忘れない柔らかサウンドは、その後のCoCo楽曲の十八番となっていきます。また、本作でも多くの楽曲の作詞を手掛けた及川眠子などはCoCo楽曲によって評価を上げたといっても過言ではなく、女性作詞家をあえて多数起用した戦略は、その爽やか柔かなサウンドに絶妙にマッチしておりズバリ当たっていたと思います。
そして本作リリース後も、CoCoは決して慌てず騒がずナチュラルな楽曲を得意とした90年代アイドルソングの中心的グループとして地道に活動していくことになります。
<Favorite Songs>
・「OUT of BLUE~ふたりの伝説~」
テンションの高いソリッドなフレーズのイントロが眩しいオープニングナンバー。デビューアルバムの1曲目にこの楽曲を持ってくるところに90年代アイドルとしての立ち位置が決まったような、それだけの意味を持つ切なくも哀しいメロディと完成されたサウンドが耳に響きます。
・「EQUALロマンス」
キュートな音色を散りばめた記念すべきデビューシングル。アニメのタイアップとして評価されるには惜しいほど爽やかで上品な単純に「良い」楽曲です。乾いたサックスをフィーチャーしたこのようなタイプのアイドルソングは80年代までは少なかったと思います。柔らかいフィルインの響きも心地良いです。
・「はんぶん不思議」
聴く者すべての腰を砕けさせた必殺の「あなたいじわるぅ♪」が有名な2ndシングル。鐘の音のイントロはドリーミーで印象に残りますが、この楽曲は計算されたドラムのフィルインに尽きます。特にラストの「はんぶん」と「不思議」の間のフィルは完璧です。
<評点>
・サウンド ★ (打ち込み中心で安定感はあるが音色に関する冒険が足りない)
・メロディ ★★ (後には残らないタイプのメロディだが切なさ成分は多い)
・リズム ★★ (柔らかいリズム音色は好感が持てるが派手さは感じられない)
・曲構成 ★ (さすがに小室楽曲は悪くはないのだが浮きまくってしまった)
・個性 ★ (90年代のアイドルとしての指針は見せたがいまだ未完成か)
総合評点: 6点
CoCo

<members>
大野幹代:vocal
瀬能あづさ:vocal
羽田惠利香:vocal
三浦理恵子:vocal
宮前真樹:vocal
1.「OUT of BLUE~ふたりの伝説~」 詞:和泉ゆかり 曲:朝倉紀幸 編:有賀啓雄
2.「EQUALロマンス」 詞:及川眠子 曲:山口美央子 編:中村哲
3.「雨のジェラシー」 詞:石川あゆ子 曲:松本俊明 編:有賀啓雄
4.「乙女のリハーサル」 詞:及川眠子 曲:岩田雅之 編:中村哲
5.「天使のチャイム」 詞:及川眠子 曲:山口美央子 編:亀田誠治
6.「春・ミルキーウェイ」 詞:吉澤久美子 曲:小室哲哉 編:西脇辰弥
7.「Misty Heart」 曲:岩田雅之 編:十川知司
8.「はんぶん不思議」 詞:及川眠子 曲:岩田雅之 編:有賀啓雄
9.「さよならから始まる物語」 詞:森本抄夜子 曲:山口美央子 編:十川知司
10.「夢は眠らない」 詞:及川眠子 曲・編:亀田誠治
engineered by 中林慶一・村瀬範恭
● 爽やかな良質の楽曲で90年代式アイドルPOPSの先鞭をつけた人気アイドルグループのデビュー作
80年代末に生まれたアイドル集団「乙女塾」から生まれた90年代を代表するアイドルグループCoCoは、派手なサウンドとハイパーなギミックによって支えられた80年代のアイドルソングからは一線を画し、渡辺満里奈が山川恵津子楽曲によって作り出した上品で優等生なニューミュージック系歌謡POPSの流れを汲んだキュートで切ない楽曲を得意として、アイドル冬の時代を支え続けました。本作は彼女達の記念すべきデビューアルバムですが、奇をてらうことなくストレートに等身大の姿を映し出した好感の持てる仕上がりを見せた作品です。
一見5人ユニゾンの薄い個性に思える彼女達のヴォーカルですが、明らかに歌唱力のある瀬能あづさと破壊的な猫なで声質を持つ三浦理恵子の個性が際立っており、その振り幅を大野・宮前・羽田の3人がカバーしてバランスを保っているといった印象です。まだまだ心許ない彼女達のヴォーカルを支えるのは、ソロ活動やベーシストとしての評価も高い有賀啓雄やニューミュージック系歌謡POPSの作曲では欠かせない山口美央子、ジャニーズ系の楽曲を手掛けた岩田雅之、後年椎名林檎らのプロデューサーとしてトップクリエイターとして名を上げる若かりし頃の亀田誠治といった面々で、特に有賀の打ち込みを基調にしながらも上品さと爽やかさを忘れない柔らかサウンドは、その後のCoCo楽曲の十八番となっていきます。また、本作でも多くの楽曲の作詞を手掛けた及川眠子などはCoCo楽曲によって評価を上げたといっても過言ではなく、女性作詞家をあえて多数起用した戦略は、その爽やか柔かなサウンドに絶妙にマッチしておりズバリ当たっていたと思います。
そして本作リリース後も、CoCoは決して慌てず騒がずナチュラルな楽曲を得意とした90年代アイドルソングの中心的グループとして地道に活動していくことになります。
<Favorite Songs>
・「OUT of BLUE~ふたりの伝説~」
テンションの高いソリッドなフレーズのイントロが眩しいオープニングナンバー。デビューアルバムの1曲目にこの楽曲を持ってくるところに90年代アイドルとしての立ち位置が決まったような、それだけの意味を持つ切なくも哀しいメロディと完成されたサウンドが耳に響きます。
・「EQUALロマンス」
キュートな音色を散りばめた記念すべきデビューシングル。アニメのタイアップとして評価されるには惜しいほど爽やかで上品な単純に「良い」楽曲です。乾いたサックスをフィーチャーしたこのようなタイプのアイドルソングは80年代までは少なかったと思います。柔らかいフィルインの響きも心地良いです。
・「はんぶん不思議」
聴く者すべての腰を砕けさせた必殺の「あなたいじわるぅ♪」が有名な2ndシングル。鐘の音のイントロはドリーミーで印象に残りますが、この楽曲は計算されたドラムのフィルインに尽きます。特にラストの「はんぶん」と「不思議」の間のフィルは完璧です。
<評点>
・サウンド ★ (打ち込み中心で安定感はあるが音色に関する冒険が足りない)
・メロディ ★★ (後には残らないタイプのメロディだが切なさ成分は多い)
・リズム ★★ (柔らかいリズム音色は好感が持てるが派手さは感じられない)
・曲構成 ★ (さすがに小室楽曲は悪くはないのだが浮きまくってしまった)
・個性 ★ (90年代のアイドルとしての指針は見せたがいまだ未完成か)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「TIME PASSENGER」 土屋昌巳
「TIME PASSENGER」(1989 エピックソニー)
土屋昌巳:vocal・electric guitar・acoustic guitar・computer & synthesizer programming・synthesizer・guitar-synthesizer・piano

1.「MIND FRICTION」 詞・曲・編:土屋昌巳
2.「LADY ROXY」 詞・曲・編:土屋昌巳
3.「太陽とラムセス」 曲・編:土屋昌巳
4.「水鏡」 詞・曲・編:土屋昌巳
5.「ラヴ・ラヴ・ラヴ」 詞・曲・編:土屋昌巳
6.「UNDER THE BAD SIGN」 詞・曲・編:土屋昌巳
7.「詩人達の血」 詞・曲・編:土屋昌巳
8.「TIME PASSENGER」 詞・曲・編:土屋昌巳
9.「VELVET FLOWER」 詞・曲・編:土屋昌巳
<support musician>
成田忍:acoustic guitar
小原礼:bass
横山雅文:bass
渡辺等:bass
青山純:drums
れいち:drums
近藤達郎:synthesizer・accordion・harmonica
清水一登:piano・synthesizer・marimba・clarinet・bass clarinet・CP-80
仙波清彦:percussion・bass recorder・鉦
本田雅人:sax・trumpet
山本拓夫:sax
JOE Strings:strings
Lynn Davis:chorus
Melody McCully:chorus・voice
飯尾芳史:computer programming
斎藤ネコ:strings arrangement
produced by 土屋昌巳
mixing engineered by 飯尾芳史
recording engineered by 飯尾芳史・伊東俊郎
● 行き着いた先は中近東!3部作ラストは最もアラビアンロックな大人の名盤
前々作「Life in Mirrors」、前作「HORIZON」と全盛期とも呼べるクオリティの高い名盤を連発した土屋昌巳が次なる高みを目指して傾倒したのが中近東サウンド。おりしもワールドミュージックが盛り上がっていた時期にあえてアラビアサウンドとロックとの融合を図るべくリリースしたEPIC3部作のラストを飾る本作は、これまでの作品にもその片鱗を見せていた中近東趣味が明らかに顕在化し、「Life in Mirrors」の骨太なロック精神、「HORIZON」の含蓄のある重厚な世界観を継承しながら、さらに異国情緒溢れる類を見ない大人のエキゾチックロックを展開しています。清水靖晃との共同プロデュースであった前作から土屋単独のプロデュースに戻り、たがが外れたかのように土屋個人の趣味性が感じられる作品で、結局彼はこの手のサウンドがやりたくて仕方がなかったのでしょう。
レコーディングには近藤達郎や清水一登、仙波清彦らのライブツアーメンバーが引き続き参加し、土屋が求めるサウンドを見事に具現化しています。全体的な音の印象としては、これまでの作品と比べてどこか乾いた印象を受けます。アラビアなだけに砂漠を意識したわけでもないと思いますが、管楽器の多用や前面に出てくるギター、エフェクトを抑えたスネアドラムなどがカラッとしたイメージを演出しているような気がします。また、特徴的なのはロック性の強さと渋みのあるバラードの対照的な格差が目立つことで、「MIND FRICTION」「LADY ROXY」「UNDER THE BAD SIGN」などのキャッチーなロックギターが作品を引っぱり、「水鏡」「詩人達の血」「VELVET FLOWER」のようなどこまでも深みを感じさせる重厚なバラードで作品をしっかり締めることで絶妙なバランスを保っているかのようです。3部作ラストにしてある境地に達したかのようなアルバムを残しその後10年近くも沈黙することになりますが、さすがに本作のような作品を残すとその後の作品を作りにくくなるのが理解できてしまう、そんな完成度の高さが感じられる作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「MIND FRICTION」
アラビックなイントロからロックなギターへとなだれ込むオープニングナンバー。ロック調のAメロとサビに挟まれた中近東なBメロがこの楽曲のポイントで、乾いたサックスとドラムが砂漠っぽい印象を与えます。ギターソロがさすがの熟練技です。
・「太陽とラムセス」
コーランのサンプリングを使用した日本人らしからぬアラビックインスト。インストだけあて土屋の奔放なギターテクニックが堪能できます。この楽曲だけ聴いていると本作がPOPSアルバムということを忘れてしまうかのようです。
・「VELVET FLOWER」
アコースティックギターの弾き語りとハーモニカという夕焼けが似合うバラード。サビのウィスパーコーラスが耳のこそばゆいですが、2番からシンセサウンドが流れるように入ってくるところは鳥肌が立つ絶妙のタイミングだと思います。
<評点>
・サウンド ★★★★ (難しい演奏をサラッと演奏する演奏陣の抜群の安定感)
・メロディ ★★ (アラビックな音階をPOPSと融合させる意気込みは買える)
・リズム ★★★ (ドラムとパーカッションはこれまで以上のライブ感)
・曲構成 ★★★ (ロック調にしてもバラードにしても深みと説得力がある)
・個性 ★★★ (ここまで徹底した中近東POPSに取り組むだけでも開拓者)
総合評点: 8点
土屋昌巳:vocal・electric guitar・acoustic guitar・computer & synthesizer programming・synthesizer・guitar-synthesizer・piano

1.「MIND FRICTION」 詞・曲・編:土屋昌巳
2.「LADY ROXY」 詞・曲・編:土屋昌巳
3.「太陽とラムセス」 曲・編:土屋昌巳
4.「水鏡」 詞・曲・編:土屋昌巳
5.「ラヴ・ラヴ・ラヴ」 詞・曲・編:土屋昌巳
6.「UNDER THE BAD SIGN」 詞・曲・編:土屋昌巳
7.「詩人達の血」 詞・曲・編:土屋昌巳
8.「TIME PASSENGER」 詞・曲・編:土屋昌巳
9.「VELVET FLOWER」 詞・曲・編:土屋昌巳
<support musician>
成田忍:acoustic guitar
小原礼:bass
横山雅文:bass
渡辺等:bass
青山純:drums
れいち:drums
近藤達郎:synthesizer・accordion・harmonica
清水一登:piano・synthesizer・marimba・clarinet・bass clarinet・CP-80
仙波清彦:percussion・bass recorder・鉦
本田雅人:sax・trumpet
山本拓夫:sax
JOE Strings:strings
Lynn Davis:chorus
Melody McCully:chorus・voice
飯尾芳史:computer programming
斎藤ネコ:strings arrangement
produced by 土屋昌巳
mixing engineered by 飯尾芳史
recording engineered by 飯尾芳史・伊東俊郎
● 行き着いた先は中近東!3部作ラストは最もアラビアンロックな大人の名盤
前々作「Life in Mirrors」、前作「HORIZON」と全盛期とも呼べるクオリティの高い名盤を連発した土屋昌巳が次なる高みを目指して傾倒したのが中近東サウンド。おりしもワールドミュージックが盛り上がっていた時期にあえてアラビアサウンドとロックとの融合を図るべくリリースしたEPIC3部作のラストを飾る本作は、これまでの作品にもその片鱗を見せていた中近東趣味が明らかに顕在化し、「Life in Mirrors」の骨太なロック精神、「HORIZON」の含蓄のある重厚な世界観を継承しながら、さらに異国情緒溢れる類を見ない大人のエキゾチックロックを展開しています。清水靖晃との共同プロデュースであった前作から土屋単独のプロデュースに戻り、たがが外れたかのように土屋個人の趣味性が感じられる作品で、結局彼はこの手のサウンドがやりたくて仕方がなかったのでしょう。
レコーディングには近藤達郎や清水一登、仙波清彦らのライブツアーメンバーが引き続き参加し、土屋が求めるサウンドを見事に具現化しています。全体的な音の印象としては、これまでの作品と比べてどこか乾いた印象を受けます。アラビアなだけに砂漠を意識したわけでもないと思いますが、管楽器の多用や前面に出てくるギター、エフェクトを抑えたスネアドラムなどがカラッとしたイメージを演出しているような気がします。また、特徴的なのはロック性の強さと渋みのあるバラードの対照的な格差が目立つことで、「MIND FRICTION」「LADY ROXY」「UNDER THE BAD SIGN」などのキャッチーなロックギターが作品を引っぱり、「水鏡」「詩人達の血」「VELVET FLOWER」のようなどこまでも深みを感じさせる重厚なバラードで作品をしっかり締めることで絶妙なバランスを保っているかのようです。3部作ラストにしてある境地に達したかのようなアルバムを残しその後10年近くも沈黙することになりますが、さすがに本作のような作品を残すとその後の作品を作りにくくなるのが理解できてしまう、そんな完成度の高さが感じられる作品であると思います。
<Favorite Songs>
・「MIND FRICTION」
アラビックなイントロからロックなギターへとなだれ込むオープニングナンバー。ロック調のAメロとサビに挟まれた中近東なBメロがこの楽曲のポイントで、乾いたサックスとドラムが砂漠っぽい印象を与えます。ギターソロがさすがの熟練技です。
・「太陽とラムセス」
コーランのサンプリングを使用した日本人らしからぬアラビックインスト。インストだけあて土屋の奔放なギターテクニックが堪能できます。この楽曲だけ聴いていると本作がPOPSアルバムということを忘れてしまうかのようです。
・「VELVET FLOWER」
アコースティックギターの弾き語りとハーモニカという夕焼けが似合うバラード。サビのウィスパーコーラスが耳のこそばゆいですが、2番からシンセサウンドが流れるように入ってくるところは鳥肌が立つ絶妙のタイミングだと思います。
<評点>
・サウンド ★★★★ (難しい演奏をサラッと演奏する演奏陣の抜群の安定感)
・メロディ ★★ (アラビックな音階をPOPSと融合させる意気込みは買える)
・リズム ★★★ (ドラムとパーカッションはこれまで以上のライブ感)
・曲構成 ★★★ (ロック調にしてもバラードにしても深みと説得力がある)
・個性 ★★★ (ここまで徹底した中近東POPSに取り組むだけでも開拓者)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「SIREN」 平沢進
「SIREN」 (1996 コロムビア)
平沢進:vocals・guitars・synthesizers・computer programming

1.「電光浴-1」 詞・曲・編:平沢進
2.「サイレン」 詞・曲・編:平沢進
3.「On Line Malaysia」 詞・曲・編:平沢進
4.「Siren」 詞・曲・編:平沢進
5.「Nurse Cafe」 詞・曲・編:平沢進
6.「Holy Delay」 詞・曲・編:平沢進
7.「Gemini」 詞・曲・編:平沢進
8.「Day Scanner」 詞・曲・編:平沢進
9.「Siam Lights」 詞・曲・編:平沢進
10.「電光浴-2」 詞・曲・編:平沢進
11.「Mermaid Song」 詞・曲・編:平沢進
produced by 平沢進
co-produced by 見城裕一
engineered by 鎮西正憲
● アジアン電子POPS路線がさらに進化!楽曲のレベルも一段と上昇したタイ3部作中最高傑作
前作「SIM CITY」において大胆に取り入れられた東南アジアテイストの電子POPSスタイルは同年(1995年)にリリースされたP-MODELのアルバム「舟」にも多大な影響を与えるなど、平沢にとって一大転機となるものでした。このサウンド傾向は90年代末まで続いていくことになりますが、そんな東南アジア作品群の中でも最も洗練されバランスのとれた楽曲とサウンドを聴かせてくれるのが翌年リリースの本作です。前作の延長線上にある朗々として伸びのあるヴォーカルに絡むアジアンフレーズに剥き出しの電子音シーケンスが目立つサウンドは、非常に直線的なアプローチに感じられた前作と比較してしっかり整理された印象があります。
前作と次作「救済の技法」と合わせてタイ3部作とも呼ばれていますが、本作の特徴としてはより堅固になったコンセプトによるストーリー性のある楽曲群とその世界観を見事に表現したエレクトリックサウンドが挙げられるでしょう。他の2作と比べて躍動感で勝負するというよりはいわゆる「聴かせる」楽曲が多く、それでいて壮大な世界観が宗教音楽的にすら感じさせます。「Holy Delay」や「Gemini」「Siam Lights」「Mermaid Song」というミディアムテンポの楽曲はどれも秀作ぞろいで、心なしか柔らかめで含蓄のあるお得意の電子シーケンスの音色もクオリティを高める一助を担っていると言えます。また驚かされるのはその音数の多さで、自身のパーマネントバンドであるP-MODELよりもさらに電子音で楽曲を埋め尽くしており、それが作品全体をオーラで包み込んでいる錯覚に陥ってしまうほどの強い印象を与えています。3部作には総じてそのような傾向にありますが、本作はゆったりめの楽曲が多いこともあって特にそれが目立つ仕様になっています。平沢の東南アジアブームの真只中にして絶頂期の作品ということもあり、楽曲にもサウンドにも非常に気合いの感じられる名作と言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「Nurse Cafe」
男性コーラスのサンプリングが大活躍する躍動感溢れる楽曲。通称バカコーラスと呼ばれるほどインパクトの強いコーラスワークはその後も彼の楽曲において名物の1つとなります。ファルセットを生かした歌唱法も彼の新境地と言えるでしょう。淡々と聴こえるリズムも後半のサビ前のフィルインでいい味を出しています。
・「Holy Delay」
静謐かつ壮大な音世界で圧倒する名バラード。神秘的なシンセパッドにエコーたっぷりのヴォーカルはどこまでも伸び、BPMを落としたリズムとともに音の洪水で埋め尽くしており、その包容力たるや尋常ではありません。
・「Mermaid Song」
7分以上にもおよぶアルバム最後を飾る大作バラード。ゆっくり流れていく風のような荘厳なシンセストリングスと天上世界から聴こえてくるような女性コーラスのサンプリングの世界観に圧倒されます。シンセポップとしても最高峰と思えるほどのファンタジックなサウンドに乗る平沢一世一代の熱唱を聴けば、誰もが名作と思わずにはいられないでしょう。
<評点>
・サウンド ★★★★ (バラードにおけるシンセの可能性を示した素晴らしい音色)
・メロディ ★★★★ (歌謡曲とおもるほどのわかりやすくはっきりしたメロディ)
・リズム ★★★ (淡々とした打ち込みで展開するがその無機質さがいい味)
・曲構成 ★★★★★ (最初から最後まで1つのストーリーが出来上がっている)
・個性 ★★★★ (アジアン電子POPSとしての立ち位置を確立した重要作品)
総合評点: 9点
平沢進:vocals・guitars・synthesizers・computer programming

1.「電光浴-1」 詞・曲・編:平沢進
2.「サイレン」 詞・曲・編:平沢進
3.「On Line Malaysia」 詞・曲・編:平沢進
4.「Siren」 詞・曲・編:平沢進
5.「Nurse Cafe」 詞・曲・編:平沢進
6.「Holy Delay」 詞・曲・編:平沢進
7.「Gemini」 詞・曲・編:平沢進
8.「Day Scanner」 詞・曲・編:平沢進
9.「Siam Lights」 詞・曲・編:平沢進
10.「電光浴-2」 詞・曲・編:平沢進
11.「Mermaid Song」 詞・曲・編:平沢進
produced by 平沢進
co-produced by 見城裕一
engineered by 鎮西正憲
● アジアン電子POPS路線がさらに進化!楽曲のレベルも一段と上昇したタイ3部作中最高傑作
前作「SIM CITY」において大胆に取り入れられた東南アジアテイストの電子POPSスタイルは同年(1995年)にリリースされたP-MODELのアルバム「舟」にも多大な影響を与えるなど、平沢にとって一大転機となるものでした。このサウンド傾向は90年代末まで続いていくことになりますが、そんな東南アジア作品群の中でも最も洗練されバランスのとれた楽曲とサウンドを聴かせてくれるのが翌年リリースの本作です。前作の延長線上にある朗々として伸びのあるヴォーカルに絡むアジアンフレーズに剥き出しの電子音シーケンスが目立つサウンドは、非常に直線的なアプローチに感じられた前作と比較してしっかり整理された印象があります。
前作と次作「救済の技法」と合わせてタイ3部作とも呼ばれていますが、本作の特徴としてはより堅固になったコンセプトによるストーリー性のある楽曲群とその世界観を見事に表現したエレクトリックサウンドが挙げられるでしょう。他の2作と比べて躍動感で勝負するというよりはいわゆる「聴かせる」楽曲が多く、それでいて壮大な世界観が宗教音楽的にすら感じさせます。「Holy Delay」や「Gemini」「Siam Lights」「Mermaid Song」というミディアムテンポの楽曲はどれも秀作ぞろいで、心なしか柔らかめで含蓄のあるお得意の電子シーケンスの音色もクオリティを高める一助を担っていると言えます。また驚かされるのはその音数の多さで、自身のパーマネントバンドであるP-MODELよりもさらに電子音で楽曲を埋め尽くしており、それが作品全体をオーラで包み込んでいる錯覚に陥ってしまうほどの強い印象を与えています。3部作には総じてそのような傾向にありますが、本作はゆったりめの楽曲が多いこともあって特にそれが目立つ仕様になっています。平沢の東南アジアブームの真只中にして絶頂期の作品ということもあり、楽曲にもサウンドにも非常に気合いの感じられる名作と言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「Nurse Cafe」
男性コーラスのサンプリングが大活躍する躍動感溢れる楽曲。通称バカコーラスと呼ばれるほどインパクトの強いコーラスワークはその後も彼の楽曲において名物の1つとなります。ファルセットを生かした歌唱法も彼の新境地と言えるでしょう。淡々と聴こえるリズムも後半のサビ前のフィルインでいい味を出しています。
・「Holy Delay」
静謐かつ壮大な音世界で圧倒する名バラード。神秘的なシンセパッドにエコーたっぷりのヴォーカルはどこまでも伸び、BPMを落としたリズムとともに音の洪水で埋め尽くしており、その包容力たるや尋常ではありません。
・「Mermaid Song」
7分以上にもおよぶアルバム最後を飾る大作バラード。ゆっくり流れていく風のような荘厳なシンセストリングスと天上世界から聴こえてくるような女性コーラスのサンプリングの世界観に圧倒されます。シンセポップとしても最高峰と思えるほどのファンタジックなサウンドに乗る平沢一世一代の熱唱を聴けば、誰もが名作と思わずにはいられないでしょう。
<評点>
・サウンド ★★★★ (バラードにおけるシンセの可能性を示した素晴らしい音色)
・メロディ ★★★★ (歌謡曲とおもるほどのわかりやすくはっきりしたメロディ)
・リズム ★★★ (淡々とした打ち込みで展開するがその無機質さがいい味)
・曲構成 ★★★★★ (最初から最後まで1つのストーリーが出来上がっている)
・個性 ★★★★ (アジアン電子POPSとしての立ち位置を確立した重要作品)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「ヒゲの未亡人の休日」 ヒゲの未亡人
「ヒゲの未亡人の休日」 (2002 Out One DISC、、2016 ヴィヴィッド)
ヒゲの未亡人

<members>
岸野雄一:vocal・chorus
ゲイリー芦屋:keyboards・computer programming・chorus
【CD盤】
1.「ヒゲの未亡人の休日」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
2.「三十路の小娘」 詞:林茂助・山口優・岸野雄一 曲:山口優 編:ゲイリー芦屋
3.「二つの同じ鍵」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
4.「しあわせのエプロン」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
5.「さよならがいえなくて」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
<support musician>
朝倉タクヤ:electric guitar
栗山亮介:electric guitar
高井康生:acoustic guitar
竹田恒夫:trumpet・flugel horn
川口義之:flute・alto sax
成瀬統理:chorus
野村聖子:chorus
produced by 岸野雄一・ゲイリー芦屋
mixing engineered by ゲイリー芦屋
recording engineered by 岸野雄一・ゲイリー芦屋
【アナログレコード盤】
1.「前奏:いつも同じ場面で」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
2.「毎日」 詞:西岡由美子 曲:山口優 編:岡村みどり・ゲイリー芦屋
3.「お友達でいましょうよ」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
4.「三十路の小娘」 詞:林茂助・山口優・岸野雄一 曲:山口優 編:ゲイリー芦屋
5.「滑走路」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
6.「I Married Myself」
詞:Ron Mael・Russell Mael・岸野雄一 曲:Ron Mael 編:ゲイリー芦屋
7.「二つの同じ鍵」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
8.「しあわせのエプロン」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
9.「さよならがいえなくて」
詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋 管編:ゲイリー芦屋・佐藤恭子
10.「ヒゲの未亡人の休日」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
11.「終奏:いちばんうまい愛の演じ方」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
<support musician>
栗山亮介:electric guitar
近藤研二:electric guitar・acoustic guitar
高井康生:acoustic guitar
松野肇:bass
竹田恒夫:trumpet・flugel horn
和田充弘:trombone
佐藤恭子:alto sax
鈴木圭:tenor sax・baritone sax
川口義之:flute・alto sax
宮地夏海:flute
門脇大輔:violin
川島和子:scat
成瀬統理:chorus
野村聖子:chorus
produced by La Veuve Moustachue (岸野雄一・ゲイリー芦屋×ALi)
mixing engineered by ゲイリー芦屋・佐藤清喜・岸野雄一
recording engineered by 岸野雄一・ゲイリー芦屋・西脇史郎
● バカラックテイストのシャンソンを歌い上げるカルトパフォーマーの満を持した名盤
映画や音楽への造詣が深くスタディストと称してカルトな人気を誇っている岸野雄一は、古くは加藤賢崇らとの東京タワーズや常盤響らとのコンスタンスタワーズとしての活動、東京タワーズのファンクラブを乗っ取った形で設立された草の根芸術集団「京浜兄弟社」(加藤や常盤のほかに松前公高や山口優、菊地成孔や砂原良徳等も関係していた)の中心人物としてプロデュースや作詞など精力的に、かつ効果的にポピュラー音楽界に確かな足跡を残してきました。そして90年代にはモンドミュージックの伝道師的な役割を担っていた岸野は京浜兄弟社からキャリアをスタートさせた新進気鋭の作編曲家であるゲイリー芦屋と、シャンソン風歌謡POPSグループ、ヒゲの未亡人としての活動を開始。喪服におかっぱ&ヒゲという女装スタイルの岸野のインパクトと、Burt Bacharachを彷佛とさせるオーケストレーションで豪華に彩った癒し系サウンドで地道にライブ活動をこなしていました。
本作はそんな彼らのライブレパートリーを残した唯一の音源です。BacharachやRoger Nicolsといった60年代A&MグリーンエヴァーPOPSのフレーバーを存分に振りまいたアレンジに歌謡曲と見まがうほどのキャッチーなフレーズを連発した楽曲の数々は、強烈なライブパフォーマンスを差し引いても強い印象を受けることは間違いありません。収録曲数が少なくコンパクトにまとめられてはいるものの、各楽曲のレベルは非常に高くゲイリー芦屋が丹精を込めて緻密に組み上げたオーケストレーションの美しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。また、このオーケストレーションが擬似的なものでありプログラミングされたものであるという事実にも驚かされます。そして最大の魅力は、豪華にしてほのぼのとした楽曲の質感で、この癒し感覚・ノスタルジックな空気感を楽しめるだけでも本作をチョイスする価値はあると思われます。一時ゲイリー芦屋は脱退し、岸野のソロユニットとなりましたが後に復帰し、マイペースにライブ活動を満喫しているようですが、再び彼らのレパートリーが音源化されることを期待したいところです。
(追記)
2016年にアナログレコードにて本作の完全版がリリースされました。ライブレパートリーながら岸野ソロ「A to 2
でしか音源化されていなかった「滑走路」や、ゲイリー芦屋が参加していた70年代歌謡ユニット、ルフランで陽の目を見た「お友達でいましょうよ」等の未発表曲を加えた11曲が収録されています。「三十路の小娘」や「さよならがいえなくて」は新しくリアレンジされ(その他も歌を新録)、40分弱のゴージャスで濃厚なソフトロックとしてよりその独特の世界観を楽しめるようになりました。
<Favorite Songs>
・「三十路の小娘」
寂しさと懐かしさが同居する癒しの文化系POPS。この楽曲のみエキスポの山口優作曲ですが、彼らしい昭和の町並みっぽいのどかなメロディが良い味を出しています。そんな楽曲をA&M風ストリングスで彩るゲイリー芦屋のニクい演出が光ります。
・「さよならがいえなくて」
これぞ究極の癒しソングと呼ぶべき名曲。明らかにBacharachを意識した曲調とアレンジですが、コーラスやピアノ、ハープシコード、木管などここまで徹底していると逆に爽快感さえ漂います。アウトロのトランペットのフレーズも思わず笑ってしまうほど楽曲にハマっています。2016年の新録ではビッグバンド風にリアレンジされましたが、アウトロの雰囲気が好きなのでオリジナルに軍配が上がります。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (計算され尽くしたアレンジ&コーラスは大仰にして大胆)
・メロディ ★★★★★ (無理がなく流れるようにキャッチーなメロディに安心感)
・リズム ★★ (オーケストラ中心でリズムは極力軽めテイストに抑える)
・曲構成 ★★★ (せっかく楽曲のクオリティが高いのでもう少し聴きたい)
・個性 ★★★★★ (ありそうでないジャンルをピンポイントでえぐっている)
総合評点: 9点
ヒゲの未亡人

<members>
岸野雄一:vocal・chorus
ゲイリー芦屋:keyboards・computer programming・chorus
【CD盤】
1.「ヒゲの未亡人の休日」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
2.「三十路の小娘」 詞:林茂助・山口優・岸野雄一 曲:山口優 編:ゲイリー芦屋
3.「二つの同じ鍵」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
4.「しあわせのエプロン」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
5.「さよならがいえなくて」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
<support musician>
朝倉タクヤ:electric guitar
栗山亮介:electric guitar
高井康生:acoustic guitar
竹田恒夫:trumpet・flugel horn
川口義之:flute・alto sax
成瀬統理:chorus
野村聖子:chorus
produced by 岸野雄一・ゲイリー芦屋
mixing engineered by ゲイリー芦屋
recording engineered by 岸野雄一・ゲイリー芦屋
【アナログレコード盤】
1.「前奏:いつも同じ場面で」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
2.「毎日」 詞:西岡由美子 曲:山口優 編:岡村みどり・ゲイリー芦屋
3.「お友達でいましょうよ」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
4.「三十路の小娘」 詞:林茂助・山口優・岸野雄一 曲:山口優 編:ゲイリー芦屋
5.「滑走路」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
6.「I Married Myself」
詞:Ron Mael・Russell Mael・岸野雄一 曲:Ron Mael 編:ゲイリー芦屋
7.「二つの同じ鍵」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
8.「しあわせのエプロン」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
9.「さよならがいえなくて」
詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋 管編:ゲイリー芦屋・佐藤恭子
10.「ヒゲの未亡人の休日」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
11.「終奏:いちばんうまい愛の演じ方」 詞:岸野雄一 曲・編:ゲイリー芦屋
<support musician>
栗山亮介:electric guitar
近藤研二:electric guitar・acoustic guitar
高井康生:acoustic guitar
松野肇:bass
竹田恒夫:trumpet・flugel horn
和田充弘:trombone
佐藤恭子:alto sax
鈴木圭:tenor sax・baritone sax
川口義之:flute・alto sax
宮地夏海:flute
門脇大輔:violin
川島和子:scat
成瀬統理:chorus
野村聖子:chorus
produced by La Veuve Moustachue (岸野雄一・ゲイリー芦屋×ALi)
mixing engineered by ゲイリー芦屋・佐藤清喜・岸野雄一
recording engineered by 岸野雄一・ゲイリー芦屋・西脇史郎
● バカラックテイストのシャンソンを歌い上げるカルトパフォーマーの満を持した名盤
映画や音楽への造詣が深くスタディストと称してカルトな人気を誇っている岸野雄一は、古くは加藤賢崇らとの東京タワーズや常盤響らとのコンスタンスタワーズとしての活動、東京タワーズのファンクラブを乗っ取った形で設立された草の根芸術集団「京浜兄弟社」(加藤や常盤のほかに松前公高や山口優、菊地成孔や砂原良徳等も関係していた)の中心人物としてプロデュースや作詞など精力的に、かつ効果的にポピュラー音楽界に確かな足跡を残してきました。そして90年代にはモンドミュージックの伝道師的な役割を担っていた岸野は京浜兄弟社からキャリアをスタートさせた新進気鋭の作編曲家であるゲイリー芦屋と、シャンソン風歌謡POPSグループ、ヒゲの未亡人としての活動を開始。喪服におかっぱ&ヒゲという女装スタイルの岸野のインパクトと、Burt Bacharachを彷佛とさせるオーケストレーションで豪華に彩った癒し系サウンドで地道にライブ活動をこなしていました。
本作はそんな彼らのライブレパートリーを残した唯一の音源です。BacharachやRoger Nicolsといった60年代A&MグリーンエヴァーPOPSのフレーバーを存分に振りまいたアレンジに歌謡曲と見まがうほどのキャッチーなフレーズを連発した楽曲の数々は、強烈なライブパフォーマンスを差し引いても強い印象を受けることは間違いありません。収録曲数が少なくコンパクトにまとめられてはいるものの、各楽曲のレベルは非常に高くゲイリー芦屋が丹精を込めて緻密に組み上げたオーケストレーションの美しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。また、このオーケストレーションが擬似的なものでありプログラミングされたものであるという事実にも驚かされます。そして最大の魅力は、豪華にしてほのぼのとした楽曲の質感で、この癒し感覚・ノスタルジックな空気感を楽しめるだけでも本作をチョイスする価値はあると思われます。一時ゲイリー芦屋は脱退し、岸野のソロユニットとなりましたが後に復帰し、マイペースにライブ活動を満喫しているようですが、再び彼らのレパートリーが音源化されることを期待したいところです。
(追記)
2016年にアナログレコードにて本作の完全版がリリースされました。ライブレパートリーながら岸野ソロ「A to 2
でしか音源化されていなかった「滑走路」や、ゲイリー芦屋が参加していた70年代歌謡ユニット、ルフランで陽の目を見た「お友達でいましょうよ」等の未発表曲を加えた11曲が収録されています。「三十路の小娘」や「さよならがいえなくて」は新しくリアレンジされ(その他も歌を新録)、40分弱のゴージャスで濃厚なソフトロックとしてよりその独特の世界観を楽しめるようになりました。
<Favorite Songs>
・「三十路の小娘」
寂しさと懐かしさが同居する癒しの文化系POPS。この楽曲のみエキスポの山口優作曲ですが、彼らしい昭和の町並みっぽいのどかなメロディが良い味を出しています。そんな楽曲をA&M風ストリングスで彩るゲイリー芦屋のニクい演出が光ります。
・「さよならがいえなくて」
これぞ究極の癒しソングと呼ぶべき名曲。明らかにBacharachを意識した曲調とアレンジですが、コーラスやピアノ、ハープシコード、木管などここまで徹底していると逆に爽快感さえ漂います。アウトロのトランペットのフレーズも思わず笑ってしまうほど楽曲にハマっています。2016年の新録ではビッグバンド風にリアレンジされましたが、アウトロの雰囲気が好きなのでオリジナルに軍配が上がります。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (計算され尽くしたアレンジ&コーラスは大仰にして大胆)
・メロディ ★★★★★ (無理がなく流れるようにキャッチーなメロディに安心感)
・リズム ★★ (オーケストラ中心でリズムは極力軽めテイストに抑える)
・曲構成 ★★★ (せっかく楽曲のクオリティが高いのでもう少し聴きたい)
・個性 ★★★★★ (ありそうでないジャンルをピンポイントでえぐっている)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「DOOPEE TIME」 DOOPEES
「DOOPEE TIME」 (1995 フォーライフ)
DOOPEES

<members>
Caroline Novac:vocal ・piano・electronic guitar・voice・air vibes
Suzi Kim:vocal ・voice・narration・chorus・air vibes
Kim San Suu Kyi:vocal
Dr. Domestic:vocal・electronics・horn section・electronically derived sounds・electronically effects・tape processing・turntable・conduct・sound scapes・clock and effect・air vibes
1.「WHAT'S THE TIME? (Some Day, In Time)」 曲・編:ヤン富田
2.「DOOPEE TIME」 詞・曲・編:ヤン富田
3.「HOW DOES IT FEEL」
詞:Poncia Vincent Jr. 曲:Phil Spector・Pete Andreoli 編:ヤン富田
4.「Reprise (How Does It Feel)」 曲:Phil Spector・Pete Andreoli 編:ヤン富田
5.「CHOPIN OPUS 28 NO.4 with TONE CLUSTER」
曲:Frederic Francois Chopin 編:ヤン富田
6.「CHOPIN OPUS 28 NO.4 A LA JIMI STYLE」
曲:Frederic Francois Chopin 編:ヤン富田
7.「MY SPINNING WHEEL」 詞:Suzi Kim 曲・編:ヤン富田
8.「LOVE SONG (LOVE IS A MANY RAZOR BLADED THING)」 曲・編:ヤン富田
9.「MEDICAL SERVICE」 曲・編:ヤン富田
10.「DR. DOMESTIC'S PHYSICAL EFFECT #1-PIECE FOR TURNTABLES AND RECORDS」 曲・編:ヤン富田
11.「DR. DOMESTIC'S PHYSICAL EFFECT #2-ELECTRONIC COLORED TONE AND STRINGS」 曲・編:ヤン富田
12.「TIME AND SPACE」 詞:Suzi Kim 曲・編:ヤン富田
13.「AIR VIBES」 曲・編:ヤン富田
14.「AIR BY BUS」 曲・編:ヤン富田
15.「AUNTIE KIM SINGS "NOW THAT YOU'VE GONE"」
詞:C. P. Sally 曲:B. H. E. Ernest・N. Norman 編:ヤン富田
16.「ASTRO AGE STEEL ORCH. PLAYS "LOOK FOR A STAR"」
曲:Mark Anthony 編:ヤン富田
17.「NOW THAT YOU'VE GONE」
詞:C. P. Sally 曲:B. H. E. Ernest・N. Norman 編:ヤン富田
18.「THROUGH MY WINDOW」 詞・曲・編:ヤン富田
19.「SOME DAY, THAT PLACE IN TIME」 曲・編:ヤン富田
20.「CAROLINE, NO」 詞:Brian Wilson 曲:Tony Asher 編:ヤン富田
<support musician>
Jackie:vocal
比山貴咏史:vocal・chorus
田村玄一:guitar・tenor pan
林憲一:guitar・bass
松永孝義:bass・wood bass
石坪信也:drums
石松元:drums
高橋誠一:piano・organ
八尋知洋:percussion
山田ナオミ:tenor pan
田所ユカリ:double tenor pan
小川千果:double second pan・cymbals
大野由美子:triple cello pan
春名禎子:glocken・vibraphone
兼崎順一:trumpet
早川隆章:trombone
藤田乙比古:horn
松浦光男:horn
中谷勝昭:conduct
Harbor View Strings Ensemble from St. Thomas:strings
伊藤佳奈子:violin
大林典代:violin
清岡珠代:violin
金原千恵子:violin
桑野聖:violin
後藤勇一郎:violin
今野均:violin
志賀恵子:violin
杉浦清美:violin
栃谷若子:violin
原田智子:violin
藤家泉子:violin
矢野晴子:violin
横山俊朗:violin
大沼幸江:viola
飛沢ヒロト:viola
中島久美:viola
村山達哉:viola
笠原あやの:cello
寺田しのぶ:cello
萩原麻理:cello
三宅進:cello
千葉一樹:contrabass
朝川朋之:harp
Lemon Chicken Choir:chorus
岩崎元是:chorus
杉本和代:chorus
広谷順子:chorus
本田淳子:chorus
Sun Cage B.:chorus
produced by ヤン富田
mixing engineered by ヤン富田
recording engineered by 鎮西正憲・土井章嗣
● クロスオーバー電子音楽?天才マッドサイエンティストが果敢に挑んだ実験的POPS作品
Steel Pan奏者にして、数々のプロデュース&リミックスをこなす電子音楽に造詣の深いサイエンス系アーティストであるヤン富田は、Steel Panをフィーチャーした自身のユニットASTRO AGE ORCHESTRA「HAPPY LIVING」など電子音楽を中心とした実験的な作品をリリースしてきましたが、1995年にPOPSを実験場としたユニットDOOPEESを結成、本作をリリースします。70分以上の大作であるこのアルバムは、Caroline Novacという架空の少女歌手をフィーチャー(実はバッファロードーターの大野由美子の声を加工している)、ストーリー性とコンセプトがはっきりした作品で、オリジナルや名曲をカバーした歌モノと懐かしさと実験性が同居したインストにより構成され、どぎつい電子音からムード感あふれる生ピアノやコーラスまで温かさと冷たさが同時に襲ってくるような不思議な作品に仕上がっています。
ヴォーカル3人がメンバーとはいえ、実質はDr. Domesticことヤン富田のソロユニットと言ってもよいDOOPEESですが、POPSの延長線上にある作品ながら全く手加減せずやりたい放題に実験性を押し出しています。作品として1つのストーリーが出来上がっているからこそ実験的なインスト作品が許されていると思われますが、逆に要所で「TIME AND SPACE」「NOW THAT YOU'VE GONE」といった歌モノが光る結果となっている感があります。それにしても「LOVE SONG」のようなコラージュ一直線の楽曲や「MEDICAL SERVICE」~「DR. DOMESTIC'S PHYSICAL EFFECT #2」の電子音実験室よろしくの不思議インストのインパクトはさすがに他のアーティストには真似できない境地に達しており、ヤン富田という稀代のサウンドクリエイターの才能の奥深さを知らしめる結果となっています。
近年最新作がリリースされると噂されながらなかなかリリースされないDOOPEES作品ですが、次回作が何をしてくれるか予想が全くつかないところもこのユニットの魅力であると思います。
<Favorite Songs>
・「LOVE SONG (LOVE IS A MANY RAZOR BLADED THING)」
古今東西のLove Songを収集し再構築した狂気のコラージュ作品。ある意味本作を象徴するかのような実験性に富んだ楽曲で、ジングル+コラージュに1曲をサンドイッチのように挟み込んだ斬新な構成はモンドというよりほかありません。
・「TIME AND SPACE」
独特な雰囲気を醸し出すテンションコードのオルガンサウンドが印象的な本作中最もリズミカルで快活な楽曲。圧巻なのは後半4分以上にもわたるアウトロの電子音とエフェクトの嵐で、しつこいくらいの余韻がマッドサイエンティストと呼ばれるヤン富田の面目躍如と言えます。
・「NOW THAT YOU'VE GONE」
Connie Stevensの1965年のヒット曲のリメイク。Caroline Novacに歌わせることでノスタルジックさと純粋さが倍増しています。映画音楽のような壮大なオーケストレーションとコーラスワークが盛り上げ、この楽曲に関してはストレートにリスペクトされている印象です。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (モンドなコラージュにしろ電子音にしろやり過ぎ感が抜群)
・メロディ ★★ (キャッチーな曲が書けてもサウンド面での印象が強過ぎ)
・リズム ★★ (リズミカルな作品ではないがサウンドほど冒険はなし)
・曲構成 ★★★ (コンセプト大作とはいえ少々詰め込み過ぎたか)
・個性 ★★★ (実験室作品を除けば意外とオーソドックスに聴けたりする)
総合評点: 7点
DOOPEES

<members>
Caroline Novac:vocal ・piano・electronic guitar・voice・air vibes
Suzi Kim:vocal ・voice・narration・chorus・air vibes
Kim San Suu Kyi:vocal
Dr. Domestic:vocal・electronics・horn section・electronically derived sounds・electronically effects・tape processing・turntable・conduct・sound scapes・clock and effect・air vibes
1.「WHAT'S THE TIME? (Some Day, In Time)」 曲・編:ヤン富田
2.「DOOPEE TIME」 詞・曲・編:ヤン富田
3.「HOW DOES IT FEEL」
詞:Poncia Vincent Jr. 曲:Phil Spector・Pete Andreoli 編:ヤン富田
4.「Reprise (How Does It Feel)」 曲:Phil Spector・Pete Andreoli 編:ヤン富田
5.「CHOPIN OPUS 28 NO.4 with TONE CLUSTER」
曲:Frederic Francois Chopin 編:ヤン富田
6.「CHOPIN OPUS 28 NO.4 A LA JIMI STYLE」
曲:Frederic Francois Chopin 編:ヤン富田
7.「MY SPINNING WHEEL」 詞:Suzi Kim 曲・編:ヤン富田
8.「LOVE SONG (LOVE IS A MANY RAZOR BLADED THING)」 曲・編:ヤン富田
9.「MEDICAL SERVICE」 曲・編:ヤン富田
10.「DR. DOMESTIC'S PHYSICAL EFFECT #1-PIECE FOR TURNTABLES AND RECORDS」 曲・編:ヤン富田
11.「DR. DOMESTIC'S PHYSICAL EFFECT #2-ELECTRONIC COLORED TONE AND STRINGS」 曲・編:ヤン富田
12.「TIME AND SPACE」 詞:Suzi Kim 曲・編:ヤン富田
13.「AIR VIBES」 曲・編:ヤン富田
14.「AIR BY BUS」 曲・編:ヤン富田
15.「AUNTIE KIM SINGS "NOW THAT YOU'VE GONE"」
詞:C. P. Sally 曲:B. H. E. Ernest・N. Norman 編:ヤン富田
16.「ASTRO AGE STEEL ORCH. PLAYS "LOOK FOR A STAR"」
曲:Mark Anthony 編:ヤン富田
17.「NOW THAT YOU'VE GONE」
詞:C. P. Sally 曲:B. H. E. Ernest・N. Norman 編:ヤン富田
18.「THROUGH MY WINDOW」 詞・曲・編:ヤン富田
19.「SOME DAY, THAT PLACE IN TIME」 曲・編:ヤン富田
20.「CAROLINE, NO」 詞:Brian Wilson 曲:Tony Asher 編:ヤン富田
<support musician>
Jackie:vocal
比山貴咏史:vocal・chorus
田村玄一:guitar・tenor pan
林憲一:guitar・bass
松永孝義:bass・wood bass
石坪信也:drums
石松元:drums
高橋誠一:piano・organ
八尋知洋:percussion
山田ナオミ:tenor pan
田所ユカリ:double tenor pan
小川千果:double second pan・cymbals
大野由美子:triple cello pan
春名禎子:glocken・vibraphone
兼崎順一:trumpet
早川隆章:trombone
藤田乙比古:horn
松浦光男:horn
中谷勝昭:conduct
Harbor View Strings Ensemble from St. Thomas:strings
伊藤佳奈子:violin
大林典代:violin
清岡珠代:violin
金原千恵子:violin
桑野聖:violin
後藤勇一郎:violin
今野均:violin
志賀恵子:violin
杉浦清美:violin
栃谷若子:violin
原田智子:violin
藤家泉子:violin
矢野晴子:violin
横山俊朗:violin
大沼幸江:viola
飛沢ヒロト:viola
中島久美:viola
村山達哉:viola
笠原あやの:cello
寺田しのぶ:cello
萩原麻理:cello
三宅進:cello
千葉一樹:contrabass
朝川朋之:harp
Lemon Chicken Choir:chorus
岩崎元是:chorus
杉本和代:chorus
広谷順子:chorus
本田淳子:chorus
Sun Cage B.:chorus
produced by ヤン富田
mixing engineered by ヤン富田
recording engineered by 鎮西正憲・土井章嗣
● クロスオーバー電子音楽?天才マッドサイエンティストが果敢に挑んだ実験的POPS作品
Steel Pan奏者にして、数々のプロデュース&リミックスをこなす電子音楽に造詣の深いサイエンス系アーティストであるヤン富田は、Steel Panをフィーチャーした自身のユニットASTRO AGE ORCHESTRA「HAPPY LIVING」など電子音楽を中心とした実験的な作品をリリースしてきましたが、1995年にPOPSを実験場としたユニットDOOPEESを結成、本作をリリースします。70分以上の大作であるこのアルバムは、Caroline Novacという架空の少女歌手をフィーチャー(実はバッファロードーターの大野由美子の声を加工している)、ストーリー性とコンセプトがはっきりした作品で、オリジナルや名曲をカバーした歌モノと懐かしさと実験性が同居したインストにより構成され、どぎつい電子音からムード感あふれる生ピアノやコーラスまで温かさと冷たさが同時に襲ってくるような不思議な作品に仕上がっています。
ヴォーカル3人がメンバーとはいえ、実質はDr. Domesticことヤン富田のソロユニットと言ってもよいDOOPEESですが、POPSの延長線上にある作品ながら全く手加減せずやりたい放題に実験性を押し出しています。作品として1つのストーリーが出来上がっているからこそ実験的なインスト作品が許されていると思われますが、逆に要所で「TIME AND SPACE」「NOW THAT YOU'VE GONE」といった歌モノが光る結果となっている感があります。それにしても「LOVE SONG」のようなコラージュ一直線の楽曲や「MEDICAL SERVICE」~「DR. DOMESTIC'S PHYSICAL EFFECT #2」の電子音実験室よろしくの不思議インストのインパクトはさすがに他のアーティストには真似できない境地に達しており、ヤン富田という稀代のサウンドクリエイターの才能の奥深さを知らしめる結果となっています。
近年最新作がリリースされると噂されながらなかなかリリースされないDOOPEES作品ですが、次回作が何をしてくれるか予想が全くつかないところもこのユニットの魅力であると思います。
<Favorite Songs>
・「LOVE SONG (LOVE IS A MANY RAZOR BLADED THING)」
古今東西のLove Songを収集し再構築した狂気のコラージュ作品。ある意味本作を象徴するかのような実験性に富んだ楽曲で、ジングル+コラージュに1曲をサンドイッチのように挟み込んだ斬新な構成はモンドというよりほかありません。
・「TIME AND SPACE」
独特な雰囲気を醸し出すテンションコードのオルガンサウンドが印象的な本作中最もリズミカルで快活な楽曲。圧巻なのは後半4分以上にもわたるアウトロの電子音とエフェクトの嵐で、しつこいくらいの余韻がマッドサイエンティストと呼ばれるヤン富田の面目躍如と言えます。
・「NOW THAT YOU'VE GONE」
Connie Stevensの1965年のヒット曲のリメイク。Caroline Novacに歌わせることでノスタルジックさと純粋さが倍増しています。映画音楽のような壮大なオーケストレーションとコーラスワークが盛り上げ、この楽曲に関してはストレートにリスペクトされている印象です。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (モンドなコラージュにしろ電子音にしろやり過ぎ感が抜群)
・メロディ ★★ (キャッチーな曲が書けてもサウンド面での印象が強過ぎ)
・リズム ★★ (リズミカルな作品ではないがサウンドほど冒険はなし)
・曲構成 ★★★ (コンセプト大作とはいえ少々詰め込み過ぎたか)
・個性 ★★★ (実験室作品を除けば意外とオーソドックスに聴けたりする)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「安全地帯 IV」 安全地帯
「安全地帯 IV」(1985 キティ)
安全地帯

<members>
玉置浩二:vocal・guitar
矢萩渉:guitar・chorus
武沢豊:guitar・chorus
六土開正:bass・keyboard・chorus
田中裕二:drums・chorus
1.「夢のつづき」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
2.「デリカシー」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
3.「碧い瞳のエリス」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
4.「合言葉」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
5.「こしゃくなTEL」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
6.「消えない夜」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
7.「悲しみにさよなら」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
8.「彼女は何かを知っている」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
9.「ガラスのささやき」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
10.「ありふれないで」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
<support musician>
川島裕二:keyboards
produced by 星 勝・金子章平
engineered by 諸鍛冶辰也
● アダルトなギターサウンドと珠玉のバラードで時代を彩った大ヒットアルバム
北海道No.1のアマチュアバンドとして期待されつつ上京し、井上陽水のバックバンドとして活躍、1981年にはシングル「萌黄色のスナップ」(名曲!)でデビューした稀代のケロディメイカー玉置浩二率いる安全地帯は、CMソングに抜擢された4thシングル「ワインレッドの心」でブレイクしてからは立て続けにヒットソングを連発、一躍日本を代表するPOPSバンドとしての地位を確立しました。そして彼らの実力が最も発揮され、最大のヒットシングルとなった「悲しみにさよなら」によって数々の栄誉を獲得し安全地帯は絶頂期に入っていきます。その最もノッていた時期の作品が1985年リリースの本作です。
「悲しみにさよなら」や「碧い瞳のエリス」「デリカシー」といったシングルやドラマ主題歌が収録された本作ですが、これらの楽曲は言うまでもなく他の楽曲も捨て曲が存在せず、安全地帯印の巧みでアダルティなメロディが堪能できます。すべての作曲を担当する玉置浩二のメロディセンスは尋常でなく、定評のある流麗なバラードは当然のこと、冒険心が感じられる機械的なエレクトリックサウンドをバックにしてもここまでキャッチーに楽曲を仕立て上げる能力は単純にスゴいことであると思います。しかも彼の歌唱力(声量だけではなくその個性)によってラストピースがはめられた楽曲は、特にこの絶頂期の当時には確かなオーラが放たれていました。少々言い過ぎかもしれませんがそれほどの説得力はあったと思われるのです。また、忘れてはならないのは、矢萩渉と武沢豊のギターワーク。玉置の影に隠れてはいますが、彼らの実力は相当のもので、安全地帯サウンドは彼らの独特で繊細かつ緻密に作り上げられたギターワークによる部分が大きいと思います。もちろん太のメンバーやサポートの川島"BANANA"裕二の確かな仕事ぶりも見逃せません。本作が80年代POPSの1つの形と言っても過言ではないでしょう。
<Favorite Songs>
・「夢のつづき」
オープニングにして極上のメロディを紡ぎ出す安全地帯の中でも1、2を争う名曲バラード。1曲目にこうしたタイプの楽曲が持ってくるところに、PoPsバンドとしての彼らの自信が表れています。優しいストリングスにサビのメロディがうまく溶け合い、ラストのピアノは否が応でも盛り上げてくれます。
・「デリカシー」
ドラマの主題歌にもなった80年代らしいエレクトリックなPOPS。彼ら特有の妖しいマイナー調のメロディは隙がなく、機械的なリズムが散りばめているところはデジタル系好きにも訴えるものがあります。しかしこの楽曲は間奏の素晴らしいエフェクトと音色のオリエンタルなギターソロに尽きます。
・「彼女は何かを知っている」
タイトなデジタルリズムがマシナリー感覚すら含んでいるTECHNOLOGYな楽曲。恋いにハスキーなウィスパーボイスが印象的ですが、ギターやリズム、シンセ共に派手にエフェクトされている人工造形美的な、80年代でなければなし得ない楽曲と言えます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (エフェクトが施されたギターサウンドはまさに職人技)
・メロディ ★★★★★ (ミュージシャン出身の作曲家としては玉置はトップレベル)
・リズム ★★★ (80年代的ドラムで音色的には豊富で楽しめるが安定感あり)
・曲構成 ★★★ (聴かせるバラードとキレのあるPOPSのメリハリが良い)
・個性 ★★★ (THE 安全地帯の作品と言えるがそれ以上でも以下でもない)
総合評点: 8点
安全地帯

<members>
玉置浩二:vocal・guitar
矢萩渉:guitar・chorus
武沢豊:guitar・chorus
六土開正:bass・keyboard・chorus
田中裕二:drums・chorus
1.「夢のつづき」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
2.「デリカシー」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
3.「碧い瞳のエリス」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
4.「合言葉」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
5.「こしゃくなTEL」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
6.「消えない夜」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
7.「悲しみにさよなら」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
8.「彼女は何かを知っている」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
9.「ガラスのささやき」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
10.「ありふれないで」 詞:松井五郎 曲:玉置浩二 編:安全地帯・星 勝
<support musician>
川島裕二:keyboards
produced by 星 勝・金子章平
engineered by 諸鍛冶辰也
● アダルトなギターサウンドと珠玉のバラードで時代を彩った大ヒットアルバム
北海道No.1のアマチュアバンドとして期待されつつ上京し、井上陽水のバックバンドとして活躍、1981年にはシングル「萌黄色のスナップ」(名曲!)でデビューした稀代のケロディメイカー玉置浩二率いる安全地帯は、CMソングに抜擢された4thシングル「ワインレッドの心」でブレイクしてからは立て続けにヒットソングを連発、一躍日本を代表するPOPSバンドとしての地位を確立しました。そして彼らの実力が最も発揮され、最大のヒットシングルとなった「悲しみにさよなら」によって数々の栄誉を獲得し安全地帯は絶頂期に入っていきます。その最もノッていた時期の作品が1985年リリースの本作です。
「悲しみにさよなら」や「碧い瞳のエリス」「デリカシー」といったシングルやドラマ主題歌が収録された本作ですが、これらの楽曲は言うまでもなく他の楽曲も捨て曲が存在せず、安全地帯印の巧みでアダルティなメロディが堪能できます。すべての作曲を担当する玉置浩二のメロディセンスは尋常でなく、定評のある流麗なバラードは当然のこと、冒険心が感じられる機械的なエレクトリックサウンドをバックにしてもここまでキャッチーに楽曲を仕立て上げる能力は単純にスゴいことであると思います。しかも彼の歌唱力(声量だけではなくその個性)によってラストピースがはめられた楽曲は、特にこの絶頂期の当時には確かなオーラが放たれていました。少々言い過ぎかもしれませんがそれほどの説得力はあったと思われるのです。また、忘れてはならないのは、矢萩渉と武沢豊のギターワーク。玉置の影に隠れてはいますが、彼らの実力は相当のもので、安全地帯サウンドは彼らの独特で繊細かつ緻密に作り上げられたギターワークによる部分が大きいと思います。もちろん太のメンバーやサポートの川島"BANANA"裕二の確かな仕事ぶりも見逃せません。本作が80年代POPSの1つの形と言っても過言ではないでしょう。
<Favorite Songs>
・「夢のつづき」
オープニングにして極上のメロディを紡ぎ出す安全地帯の中でも1、2を争う名曲バラード。1曲目にこうしたタイプの楽曲が持ってくるところに、PoPsバンドとしての彼らの自信が表れています。優しいストリングスにサビのメロディがうまく溶け合い、ラストのピアノは否が応でも盛り上げてくれます。
・「デリカシー」
ドラマの主題歌にもなった80年代らしいエレクトリックなPOPS。彼ら特有の妖しいマイナー調のメロディは隙がなく、機械的なリズムが散りばめているところはデジタル系好きにも訴えるものがあります。しかしこの楽曲は間奏の素晴らしいエフェクトと音色のオリエンタルなギターソロに尽きます。
・「彼女は何かを知っている」
タイトなデジタルリズムがマシナリー感覚すら含んでいるTECHNOLOGYな楽曲。恋いにハスキーなウィスパーボイスが印象的ですが、ギターやリズム、シンセ共に派手にエフェクトされている人工造形美的な、80年代でなければなし得ない楽曲と言えます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (エフェクトが施されたギターサウンドはまさに職人技)
・メロディ ★★★★★ (ミュージシャン出身の作曲家としては玉置はトップレベル)
・リズム ★★★ (80年代的ドラムで音色的には豊富で楽しめるが安定感あり)
・曲構成 ★★★ (聴かせるバラードとキレのあるPOPSのメリハリが良い)
・個性 ★★★ (THE 安全地帯の作品と言えるがそれ以上でも以下でもない)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「懐かしい未来」 新居昭乃
「懐かしい未来」 (1986 ビクター)
新居昭乃:vocal

1.「Ring Ring」 詞:戸沢暢美 曲:新居昭乃 編:清水信之
2.「月よ凍れ」 詞:川村真澄 曲:新居昭乃 編:門倉聡
3.「金色の目」 詞・曲:新居昭乃 編:門倉聡
4.「地図をゆく雲」 詞:青木景子 曲:新居昭乃 編:清水信之
5.「美しい星」 詞・曲:新居昭乃 編:門倉聡
6.「1999」 詞・曲:新居昭乃 編:門倉聡
7.「約束」 詞:川村真澄 曲:加藤和彦 編:清水信之
8.「ロゼ・ルージュ」 詞・曲:新居昭乃 編:門倉聡
9.「Sky Lounge」 詞・曲:新居昭乃 編:清水信之
<support musician>
鈴木智文:guitars
富倉安生:bass
中原信雄:bass
渡辺等:bass
村上"ポンタ"秀一:drums
門倉聡:keyboards・computer programming
清水信之:keyboards・guitars・computer programming
旭 孝:flute
金子飛鳥グループ:strings
中西俊博グループ:strings
中西俊博:violin
木戸泰弘:chorus
比山貴咏史:chorus
みかんちゃん:chorus
飯田高広:synthesizer operate
池田だめお:synthesizer operate
directed by 和田マサシ
mixing engineered by 佐藤忠治・森本信・赤川新一・清水信之
recording engineered by 寺田康彦・藤田浩・石橋守・目等進
● ファンタジー系カリスマ歌手に変身前の典型的80年代ニューミュージックメロディが素敵なデビュー作
現在のファンタジー系アニメソングや同人音楽界において絶大な影響を与えたシンガーソングライターである新居昭乃は、プログレッシブな曲調に乗った安定感がありよく伸びる歌声でカリスマ的人気を誇っているアーティストです。彼女は1986年に劇場版アニメ「ウインダリア」の主題歌「約束」と挿入歌「美しい星」でデビュー、その透き通った声質と安定感のあるピッチによる歌唱力によって評価されていました。この2曲を引っさげる形で彼女はデビューアルバムを作り上げますが、それが本作です。現在のプログレ的作風とは異なり、80年代らしいシティポップ系ニューミュージックの味わいが深い作品ですが、清水信之と門倉聡という繊細なサウンドと緻密なアレンジに定評がある2人のアレンジャーによって作られた楽曲はどれも高いクオリティを誇っています。
ほぼ全曲の作曲を手掛けた新居のメロディセンスも彼女の歌唱力以上に侮れないものがあり、「美しい星」「ロゼ・ルージュ」などは当時新人とは思えないほどの才能が感じられる楽曲と言えます。しかしこうした才気あふれる楽曲をしっかり形にしていく職人芸はさすが清水&門倉のアレンジャー陣です。清水は大江千里や飯島真理で見せたニューミュージックの王道的な流麗なフレーズを多用した上品なアレンジ、門倉はヨーロッパ感覚を漂わせながら分離のよいシンプルな音を組み合わせながら構築するフレーズの妙で聴かせる緻密なアレンジが光っています。ある意味当時のサウンドフォーマットにのっとったデジタルサウンドでありながら、新居の歌唱力とPOPSとしてチャレンジされたメロディ、それを支えるプロフェッショナルなアレンジは、一際まぶしい輝きを放っているかのようです。新居本人は自身を押し殺していたというイメージで捉えているようですが、それを差し引いても80年代ニューミュージックの名盤として語られるべき作品です。
<Favorite Songs>
・「1999」
本作中最も硬派なサウンドが楽しいエレクトリックPOPS。特筆すべきはPCMドラムマシンによるキレのあるリズムで、シンセベースやギターとの絡みによるノリが良いです。Bメロのシンセコーラスのパッドもいい音しています。
・「約束」
記念すべきデビューシングルで清水信之お得意のシンセポップ。本作中この楽曲のみ加藤和彦の作曲ですが、さすがアニメ主題歌というだけあってツボを押さえたサビと目立つシンセフレーズの相性が良いです。2番で初めて大サビを入れてくるところなんかにニクいです。
・「Sky Lounge」
リゾートポップ一直線であるものの計算されたメロディが美しいバラード。ピアノとストリングスの合わせ技で空へ広がっていく風景が感じられます。ロータリースピーカーよろしくなオルガンが渋くいい味出してます。70年代かと思わせるほどのノスタルジックな印象も強い名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (テクノと言ってもよいほどのシンセ比率の高さが魅力的)
・メロディ ★★★★ (デビュー直後にしてツボを押さえたメロディがわかる才能)
・リズム ★★★ (生ドラムとドラムマシンを併用したスタイルだが冒険せず)
・曲構成 ★★★ (世界観を崩さず捨て曲もないがもう少し冒険してもよい)
・個性 ★★★ (ニューミュージックにしては確固たる世界観を既に持つ)
総合評点: 8点
新居昭乃:vocal

1.「Ring Ring」 詞:戸沢暢美 曲:新居昭乃 編:清水信之
2.「月よ凍れ」 詞:川村真澄 曲:新居昭乃 編:門倉聡
3.「金色の目」 詞・曲:新居昭乃 編:門倉聡
4.「地図をゆく雲」 詞:青木景子 曲:新居昭乃 編:清水信之
5.「美しい星」 詞・曲:新居昭乃 編:門倉聡
6.「1999」 詞・曲:新居昭乃 編:門倉聡
7.「約束」 詞:川村真澄 曲:加藤和彦 編:清水信之
8.「ロゼ・ルージュ」 詞・曲:新居昭乃 編:門倉聡
9.「Sky Lounge」 詞・曲:新居昭乃 編:清水信之
<support musician>
鈴木智文:guitars
富倉安生:bass
中原信雄:bass
渡辺等:bass
村上"ポンタ"秀一:drums
門倉聡:keyboards・computer programming
清水信之:keyboards・guitars・computer programming
旭 孝:flute
金子飛鳥グループ:strings
中西俊博グループ:strings
中西俊博:violin
木戸泰弘:chorus
比山貴咏史:chorus
みかんちゃん:chorus
飯田高広:synthesizer operate
池田だめお:synthesizer operate
directed by 和田マサシ
mixing engineered by 佐藤忠治・森本信・赤川新一・清水信之
recording engineered by 寺田康彦・藤田浩・石橋守・目等進
● ファンタジー系カリスマ歌手に変身前の典型的80年代ニューミュージックメロディが素敵なデビュー作
現在のファンタジー系アニメソングや同人音楽界において絶大な影響を与えたシンガーソングライターである新居昭乃は、プログレッシブな曲調に乗った安定感がありよく伸びる歌声でカリスマ的人気を誇っているアーティストです。彼女は1986年に劇場版アニメ「ウインダリア」の主題歌「約束」と挿入歌「美しい星」でデビュー、その透き通った声質と安定感のあるピッチによる歌唱力によって評価されていました。この2曲を引っさげる形で彼女はデビューアルバムを作り上げますが、それが本作です。現在のプログレ的作風とは異なり、80年代らしいシティポップ系ニューミュージックの味わいが深い作品ですが、清水信之と門倉聡という繊細なサウンドと緻密なアレンジに定評がある2人のアレンジャーによって作られた楽曲はどれも高いクオリティを誇っています。
ほぼ全曲の作曲を手掛けた新居のメロディセンスも彼女の歌唱力以上に侮れないものがあり、「美しい星」「ロゼ・ルージュ」などは当時新人とは思えないほどの才能が感じられる楽曲と言えます。しかしこうした才気あふれる楽曲をしっかり形にしていく職人芸はさすが清水&門倉のアレンジャー陣です。清水は大江千里や飯島真理で見せたニューミュージックの王道的な流麗なフレーズを多用した上品なアレンジ、門倉はヨーロッパ感覚を漂わせながら分離のよいシンプルな音を組み合わせながら構築するフレーズの妙で聴かせる緻密なアレンジが光っています。ある意味当時のサウンドフォーマットにのっとったデジタルサウンドでありながら、新居の歌唱力とPOPSとしてチャレンジされたメロディ、それを支えるプロフェッショナルなアレンジは、一際まぶしい輝きを放っているかのようです。新居本人は自身を押し殺していたというイメージで捉えているようですが、それを差し引いても80年代ニューミュージックの名盤として語られるべき作品です。
<Favorite Songs>
・「1999」
本作中最も硬派なサウンドが楽しいエレクトリックPOPS。特筆すべきはPCMドラムマシンによるキレのあるリズムで、シンセベースやギターとの絡みによるノリが良いです。Bメロのシンセコーラスのパッドもいい音しています。
・「約束」
記念すべきデビューシングルで清水信之お得意のシンセポップ。本作中この楽曲のみ加藤和彦の作曲ですが、さすがアニメ主題歌というだけあってツボを押さえたサビと目立つシンセフレーズの相性が良いです。2番で初めて大サビを入れてくるところなんかにニクいです。
・「Sky Lounge」
リゾートポップ一直線であるものの計算されたメロディが美しいバラード。ピアノとストリングスの合わせ技で空へ広がっていく風景が感じられます。ロータリースピーカーよろしくなオルガンが渋くいい味出してます。70年代かと思わせるほどのノスタルジックな印象も強い名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (テクノと言ってもよいほどのシンセ比率の高さが魅力的)
・メロディ ★★★★ (デビュー直後にしてツボを押さえたメロディがわかる才能)
・リズム ★★★ (生ドラムとドラムマシンを併用したスタイルだが冒険せず)
・曲構成 ★★★ (世界観を崩さず捨て曲もないがもう少し冒険してもよい)
・個性 ★★★ (ニューミュージックにしては確固たる世界観を既に持つ)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「出口主義~EXITENTIALISM」 THE BEATNIKS
「出口主義~EXITENTIALISM」 (1981 バップ)
THE BEATNIKS

<members>
高橋幸宏:vocal・keyboards・guitar・drums・percussion
鈴木慶一:vocal・keyboards・guitar・bass
1.「Le Sang du Poete」 曲・編:THE BEATNIKS
2.「No Way Out」
詞:鈴木慶一・Peter Barakan 曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
3.「Ark Diamant」 詞・曲:鈴木慶一 編:THE BEATNIKS
4.「Now And Then・・・」 詞・曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
5.「Loopy」 曲・編:THE BEATNIKS
6.「Une Femme N'est Pas Un Homme」 詞・曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
7.「Mirrors」 詞:渡辺真也・Peter Barakan 曲:鈴木慶一 編:THE BEATNIKS
8.「Le Robinet」 詞・曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
9.「L'Etoile de Mer」 詞・曲:鈴木慶一 編:THE BEATNIKS
10.「Inevitable」 詞・曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
<support musician>
藤井丈司:computer programming
山添昭彦:computer programming
松武秀樹:technical assistance
produced by THE BEATNIKS
mixing engineered by THE BEATNIKS・田中信一
recording engineered by 田中信一
● ニューウェーヴ産業革命?2人の才能が見事に融合した前衛かつポップな傑作
1981年は高橋幸宏が最も先鋭的な音楽センスを発揮した年で、YMOでの「BGM」「TECHNODELIC」のリリースや自身のソロ「NEUROMANTIC」といったニューウェーブに傾倒しながら緻密で病的なシンセサウンドをベースに世界に通用するクオリティの作品を連発していました。しかし彼はそれにとどまらずさらにストイックに、そしてマニアックにテクノな要素をPOPSとして昇華するために、当時「マニアマニエラ」のレコーディングで急速にテクノ&ニューウェーブ化を勧めていたMOON RIDERSのリーダーである鈴木慶一を相棒に迎えTHE BEATNIKSを結成、それぞれが当時志向していたエレクトリックなセンスを持ち寄って完成させた名盤が本作です。高橋幸宏が持つロマンチシズムと鈴木慶一のヒネた音楽センスが見事に融合した本作は、現在でもテクノ界隈の名盤と称される同年リリースの前述の3枚に負けずとも劣らない、世界でも有数のテクノ&ニューウェーブ作品と評価されるに値するアルバムです。
YMOが異常なブームに巻き込まれたこともありそのソロ活動もある意味自由が保障されていた高橋幸宏は、本作において自身が当時目指していたサウンドをYMOや自身のソロ以上に表現できているのではないかと思わせるほど、そのシンセサウンドの実験性と前衛性は際立っています。金属的な音色を多用したインダストリアル感覚、ピアノやギターなどの生楽器を取り入れながらもそれを打ち消すかのような奇妙なシンセサウンド、圧巻のノリとタイトなリズムを刻むおなじみの幸宏ドラムなど、その神経質かつ緻密なサウンドは非の打ち所がないといった印象を受けます。特にインストの2曲「Le Sang du Poete」「Loopy」はインダストリアルミニマルミュージックと言ってよい実験的楽曲で、自由に制作できた本作だからこそ収録できたと言えるでしょう。しかし本作のツボはこれほど自由気ままな前衛的サウンドにしてしっかり歌モノとして成立させているところで、特に後半(レコードでいうところのB面)のフランス語タイトルの楽曲や「Mirrors」などのポップな楽曲では幸宏ソロ作品やMOON RIDERS作品で培われたメロディセンスの一端を見ることができます。このように歌モノとしても十分評価できる作品でありながら、POPSとしては似つかわしくない奇妙でストレンジなシンセサウンドを施すところに、彼らの音楽的感性が当時において世界的に最先端を走っていた証拠であると思われるのです。実際に彼らはイギリスでシングル「River inthe Ocean」をリリース(本作未収録)し、確かな足跡を残しています。
<Favorite Songs>
・「Une Femme N'est Pas Un Homme」
Aパートをタイトなリズムとシンセが生かされたテクノ、Bパートがアコースティックギターの目立つ癒し系フレンチテイストという二面性を持つストレンジな楽曲。音色はしっかりインダストリアルしていて音色だけでも興味深い楽曲です。
・「Mirrors」
独特なノリの幸宏ドラム大活躍の本作の中ではポップな部類の楽曲。しかしながらサウンド面では無線ボイスによるAメロもいい味を出しているものの、やはりラストのひきつったようなノイジーサウンドが圧巻です。
・「Inevitable」
幸宏ソロ作品に収録されていてもおかしくないポップでロマンチシズム溢れる幸宏節の名曲。ULTRAVOX的王道のシンセベースに乗って、本作の特徴でもある音が破れるようなノイジーサウンドで合いの手を打つ、非常に興味深い音の構成です。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (数あるシンセポップ作品の中でもキテレツ度は高い)
・メロディ ★★★ (暗めのタイプが多い中ポップな楽曲もしっかり収録)
・リズム ★★★★★ (最もテクニカルな幸宏ドラムが堪能できる作品だと思う)
・曲構成 ★★★★★ (緩急自在にインストも完成度が高く全体としてハイレベル)
・個性 ★★★★ (各々ができなかったことを自由に表現し雰囲気も良好)
総合評点: 9点
THE BEATNIKS

<members>
高橋幸宏:vocal・keyboards・guitar・drums・percussion
鈴木慶一:vocal・keyboards・guitar・bass
1.「Le Sang du Poete」 曲・編:THE BEATNIKS
2.「No Way Out」
詞:鈴木慶一・Peter Barakan 曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
3.「Ark Diamant」 詞・曲:鈴木慶一 編:THE BEATNIKS
4.「Now And Then・・・」 詞・曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
5.「Loopy」 曲・編:THE BEATNIKS
6.「Une Femme N'est Pas Un Homme」 詞・曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
7.「Mirrors」 詞:渡辺真也・Peter Barakan 曲:鈴木慶一 編:THE BEATNIKS
8.「Le Robinet」 詞・曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
9.「L'Etoile de Mer」 詞・曲:鈴木慶一 編:THE BEATNIKS
10.「Inevitable」 詞・曲:高橋幸宏 編:THE BEATNIKS
<support musician>
藤井丈司:computer programming
山添昭彦:computer programming
松武秀樹:technical assistance
produced by THE BEATNIKS
mixing engineered by THE BEATNIKS・田中信一
recording engineered by 田中信一
● ニューウェーヴ産業革命?2人の才能が見事に融合した前衛かつポップな傑作
1981年は高橋幸宏が最も先鋭的な音楽センスを発揮した年で、YMOでの「BGM」「TECHNODELIC」のリリースや自身のソロ「NEUROMANTIC」といったニューウェーブに傾倒しながら緻密で病的なシンセサウンドをベースに世界に通用するクオリティの作品を連発していました。しかし彼はそれにとどまらずさらにストイックに、そしてマニアックにテクノな要素をPOPSとして昇華するために、当時「マニアマニエラ」のレコーディングで急速にテクノ&ニューウェーブ化を勧めていたMOON RIDERSのリーダーである鈴木慶一を相棒に迎えTHE BEATNIKSを結成、それぞれが当時志向していたエレクトリックなセンスを持ち寄って完成させた名盤が本作です。高橋幸宏が持つロマンチシズムと鈴木慶一のヒネた音楽センスが見事に融合した本作は、現在でもテクノ界隈の名盤と称される同年リリースの前述の3枚に負けずとも劣らない、世界でも有数のテクノ&ニューウェーブ作品と評価されるに値するアルバムです。
YMOが異常なブームに巻き込まれたこともありそのソロ活動もある意味自由が保障されていた高橋幸宏は、本作において自身が当時目指していたサウンドをYMOや自身のソロ以上に表現できているのではないかと思わせるほど、そのシンセサウンドの実験性と前衛性は際立っています。金属的な音色を多用したインダストリアル感覚、ピアノやギターなどの生楽器を取り入れながらもそれを打ち消すかのような奇妙なシンセサウンド、圧巻のノリとタイトなリズムを刻むおなじみの幸宏ドラムなど、その神経質かつ緻密なサウンドは非の打ち所がないといった印象を受けます。特にインストの2曲「Le Sang du Poete」「Loopy」はインダストリアルミニマルミュージックと言ってよい実験的楽曲で、自由に制作できた本作だからこそ収録できたと言えるでしょう。しかし本作のツボはこれほど自由気ままな前衛的サウンドにしてしっかり歌モノとして成立させているところで、特に後半(レコードでいうところのB面)のフランス語タイトルの楽曲や「Mirrors」などのポップな楽曲では幸宏ソロ作品やMOON RIDERS作品で培われたメロディセンスの一端を見ることができます。このように歌モノとしても十分評価できる作品でありながら、POPSとしては似つかわしくない奇妙でストレンジなシンセサウンドを施すところに、彼らの音楽的感性が当時において世界的に最先端を走っていた証拠であると思われるのです。実際に彼らはイギリスでシングル「River inthe Ocean」をリリース(本作未収録)し、確かな足跡を残しています。
<Favorite Songs>
・「Une Femme N'est Pas Un Homme」
Aパートをタイトなリズムとシンセが生かされたテクノ、Bパートがアコースティックギターの目立つ癒し系フレンチテイストという二面性を持つストレンジな楽曲。音色はしっかりインダストリアルしていて音色だけでも興味深い楽曲です。
・「Mirrors」
独特なノリの幸宏ドラム大活躍の本作の中ではポップな部類の楽曲。しかしながらサウンド面では無線ボイスによるAメロもいい味を出しているものの、やはりラストのひきつったようなノイジーサウンドが圧巻です。
・「Inevitable」
幸宏ソロ作品に収録されていてもおかしくないポップでロマンチシズム溢れる幸宏節の名曲。ULTRAVOX的王道のシンセベースに乗って、本作の特徴でもある音が破れるようなノイジーサウンドで合いの手を打つ、非常に興味深い音の構成です。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (数あるシンセポップ作品の中でもキテレツ度は高い)
・メロディ ★★★ (暗めのタイプが多い中ポップな楽曲もしっかり収録)
・リズム ★★★★★ (最もテクニカルな幸宏ドラムが堪能できる作品だと思う)
・曲構成 ★★★★★ (緩急自在にインストも完成度が高く全体としてハイレベル)
・個性 ★★★★ (各々ができなかったことを自由に表現し雰囲気も良好)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
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