「MAD, BAD AND DANGEROUS TO KNOW」 DEAD OR ALIVE
「MAD, BAD AND DANGEROUS TO KNOW」 (1986 CBS)
DEAD OR ALIVE

<members>
Pete Burns:vocals
Mike Percy:bass
Steve Coy:percussion
Timothy Lever:keyboards
1.「BRAND NEW LOVER」 DEAD OR ALIVE
2.「I'LL SAVE YOU ALL MY KISSES」 DEAD OR ALIVE
3.「SON OF A GUN」 DEAD OR ALIVE
4.「THEN THERE WAS YOU」 DEAD OR ALIVE
5.「COME INSIDE」 DEAD OR ALIVE
6.「SOMETHING IN MY HOUSE」 DEAD OR ALIVE
7.「HOOKED ON LOVE」 DEAD OR ALIVE
8.「I WANT YOU」 DEAD OR ALIVE
9.「SPECIAL STAR」 DEAD OR ALIVE
produced by Stock, Aitken & Waterman
mixing engineered by Phil Harding
recording engineered by Mark McGuire・Mike Duffy・Karen Hewitt
● ニューロマから進化した元祖ユーロビートバンドが全盛期に放った快心作
ユーロビートをメジャーフィールドに押し上げた元祖的重要アーティストの1つであるユニット、あのPete Burns率いるDEAD OR ALIVE。最近はPeteの整形失敗などゴシップ的話題が先行しがちな彼らですが、84年リリースの「You Spin Me Round(Like A Record)」の大ヒットからの快進撃により本作のリリース当時はまさに絶頂期で、ユーロビートの申し子というべきサウンドプロデュース軍団Stock, Aitken & Watermanを前作「Youthquake」に引き続き起用し、鉄壁のデジタルダンスミュージックを繰り広げています。多くのシングルカットを生んだ収録曲のクオリティは総じて高く、しかも明るさに満ちた力強い楽曲も多いため、彼らの作品の中でも最高傑作の呼び声が高いアルバムでもあります。
さて、当時のユーロビートといえばデジタルシンセを基調とした高速BPMながらも、リズム自体はロックなリズムを踏襲したものが多く、打ち込みながら力強いのが特徴です。また、声を初めとしたサンプリング音を高速シーケンスで走らせるのも時代の産物ですが、下世話になりそうでならない打ち込み技術はさすがにPWL、Stock, Aitken & Watermanといったところでしょうか。ダンスビートのコンセプトはしっかり守りつつ「BRAND NEW LOVER」のエレキギター、「THEN THERE WAS YOU」のストリングス(サンプル)、「SOMETHING IN MY HOUSE」のフラメンコギターなど、ちょっとしたスパイスを効かせることで楽曲の質をグッと上げるところなどまさに匠の技です。全体的に明るく力強い楽曲が多いためか、Peteの歌もあの独特の爬虫類ヴォイスで気持ちよく歌い上げています。特に「THEN THERE WAS YOU」「HOOKED ON LOVE」などのマイナー調楽曲などは後のSOFT BALLETを彷佛とさせるものがあります。しかしその後もディスコシーンで活躍し続けた彼らの人気も、流行を極めた者に必ずやってくる引き潮の波に飲み込まれていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「BRAND NEW LOVER」
ゴリゴリのユーロビートに乗るエレキギターが持ち味のシングルカット第1弾。サンプリングされたチョッパーベースが時代を感じさせますが、この明るさに絶頂期の自信が漲っています。間奏のギターソロも気持ち良くいなないています。
・「THEN THERE WAS YOU」
本作中最も異質な憂いを含んだニューウェーブPOPSの名曲。この曲があるだけであるバムが締まるといっても過言ではありません。ストリングスのイントロといい、Pete自慢の低音ヴォーカルがフィーチャーされたAメロ、その歌謡曲メロディといい、ユーロビートというよりニューロマの残り香漂う渋くかっこいい楽曲です。
・「HOOKED ON LOVE」
他の楽曲よりも遅いテンポながら力強さでは他を凌ぐシングルカット曲。ギターも活躍するロックテイストのナンバーで、Peteの歌も打ち込みリズムもがっしりとした印象です。マイナー調のメロディもキャッチーで、特にサビ前に入る盛り上がり部分は秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (ユーロビートの典型といわれながらロックテイスト強し)
・メロディ ★★ (リズム重視とはいえ他と異なるのはそのポップテイスト)
・リズム ★★★ (打ち込みで単調になりがちなリズムを力強さでカバー)
・曲構成 ★★ (夏っぽい楽曲が多いがゆえにマイナー調の2曲が生きる)
・個性 ★★ (Peteの持つ妖しさは後退し個性よりも狙った感ありあり)
総合評点: 7点
DEAD OR ALIVE

<members>
Pete Burns:vocals
Mike Percy:bass
Steve Coy:percussion
Timothy Lever:keyboards
1.「BRAND NEW LOVER」 DEAD OR ALIVE
2.「I'LL SAVE YOU ALL MY KISSES」 DEAD OR ALIVE
3.「SON OF A GUN」 DEAD OR ALIVE
4.「THEN THERE WAS YOU」 DEAD OR ALIVE
5.「COME INSIDE」 DEAD OR ALIVE
6.「SOMETHING IN MY HOUSE」 DEAD OR ALIVE
7.「HOOKED ON LOVE」 DEAD OR ALIVE
8.「I WANT YOU」 DEAD OR ALIVE
9.「SPECIAL STAR」 DEAD OR ALIVE
produced by Stock, Aitken & Waterman
mixing engineered by Phil Harding
recording engineered by Mark McGuire・Mike Duffy・Karen Hewitt
● ニューロマから進化した元祖ユーロビートバンドが全盛期に放った快心作
ユーロビートをメジャーフィールドに押し上げた元祖的重要アーティストの1つであるユニット、あのPete Burns率いるDEAD OR ALIVE。最近はPeteの整形失敗などゴシップ的話題が先行しがちな彼らですが、84年リリースの「You Spin Me Round(Like A Record)」の大ヒットからの快進撃により本作のリリース当時はまさに絶頂期で、ユーロビートの申し子というべきサウンドプロデュース軍団Stock, Aitken & Watermanを前作「Youthquake」に引き続き起用し、鉄壁のデジタルダンスミュージックを繰り広げています。多くのシングルカットを生んだ収録曲のクオリティは総じて高く、しかも明るさに満ちた力強い楽曲も多いため、彼らの作品の中でも最高傑作の呼び声が高いアルバムでもあります。
さて、当時のユーロビートといえばデジタルシンセを基調とした高速BPMながらも、リズム自体はロックなリズムを踏襲したものが多く、打ち込みながら力強いのが特徴です。また、声を初めとしたサンプリング音を高速シーケンスで走らせるのも時代の産物ですが、下世話になりそうでならない打ち込み技術はさすがにPWL、Stock, Aitken & Watermanといったところでしょうか。ダンスビートのコンセプトはしっかり守りつつ「BRAND NEW LOVER」のエレキギター、「THEN THERE WAS YOU」のストリングス(サンプル)、「SOMETHING IN MY HOUSE」のフラメンコギターなど、ちょっとしたスパイスを効かせることで楽曲の質をグッと上げるところなどまさに匠の技です。全体的に明るく力強い楽曲が多いためか、Peteの歌もあの独特の爬虫類ヴォイスで気持ちよく歌い上げています。特に「THEN THERE WAS YOU」「HOOKED ON LOVE」などのマイナー調楽曲などは後のSOFT BALLETを彷佛とさせるものがあります。しかしその後もディスコシーンで活躍し続けた彼らの人気も、流行を極めた者に必ずやってくる引き潮の波に飲み込まれていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「BRAND NEW LOVER」
ゴリゴリのユーロビートに乗るエレキギターが持ち味のシングルカット第1弾。サンプリングされたチョッパーベースが時代を感じさせますが、この明るさに絶頂期の自信が漲っています。間奏のギターソロも気持ち良くいなないています。
・「THEN THERE WAS YOU」
本作中最も異質な憂いを含んだニューウェーブPOPSの名曲。この曲があるだけであるバムが締まるといっても過言ではありません。ストリングスのイントロといい、Pete自慢の低音ヴォーカルがフィーチャーされたAメロ、その歌謡曲メロディといい、ユーロビートというよりニューロマの残り香漂う渋くかっこいい楽曲です。
・「HOOKED ON LOVE」
他の楽曲よりも遅いテンポながら力強さでは他を凌ぐシングルカット曲。ギターも活躍するロックテイストのナンバーで、Peteの歌も打ち込みリズムもがっしりとした印象です。マイナー調のメロディもキャッチーで、特にサビ前に入る盛り上がり部分は秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (ユーロビートの典型といわれながらロックテイスト強し)
・メロディ ★★ (リズム重視とはいえ他と異なるのはそのポップテイスト)
・リズム ★★★ (打ち込みで単調になりがちなリズムを力強さでカバー)
・曲構成 ★★ (夏っぽい楽曲が多いがゆえにマイナー調の2曲が生きる)
・個性 ★★ (Peteの持つ妖しさは後退し個性よりも狙った感ありあり)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「不思議」 中森明菜
「不思議」(1986 ワーナー)
中森明菜:vocal

1.「Back door night」 詞:麻生圭子 曲・編:EUROX
2.「ニュー・ジェネレーション」 詞:竹花いち子 曲・編:EUROX
3.「Labyrinth」 詞:麻生圭子 曲・編:EUROX
4.「マリオネット」 詞・曲:安岡孝章 編:EUROX
5.「幻惑されて」 詞:吉田美奈子 曲・編:EUROX
6.「ガラスの心」 詞:SANDII 曲:井ノ浦英雄・久保田真箏 編:井上鑑
7.「Teen-age blue」 詞・曲:吉田美奈子 編:椎名和夫
8.「燠火」 詞・曲:吉田美奈子 編:吉田美奈子・椎名和夫
9.「Wait for me」 詞:SHOW 曲・編:EUROX
10.「Mushroom dance」 詞:SANDII 曲:久保田真箏・井上ケン一 編:EUROX
<support musician>
栗原務:guitars
今 剛:guitars
岡野治雄:bass・chorus
美久月千晴:bass
Anton Fier:drums
山木秀夫:drums
井上鑑:keyboards
椎名和夫:keyboards・chorus
富樫春生:keyboards
中村哲:keyboards
数原晋:trumpet
Jake H. Concepcion:sax
関根安里:violin・keyboards・chorus
EVE:chorus
麻生圭子:chorus
新倉芳美:chorus
長谷川勇:chorus
比山貴咏史:chorus
藤倉克巳:chorus
山川恵津子:chorus
吉田美奈子:chorus・keyboards
produced by 中森明菜
engineered by 石崎信郎
● 地獄の底から声が聞こえる!絶頂期にリリースされたアイドル史上最大の問題作
松田聖子と共に80年代の頂点に立つアイドルとして君臨した中森明菜は、当然のごとく80年代中盤は全盛期で、「ミ・アモーレ」「DESIRE」といった大ヒット曲を連発し向かうところ敵なし状態でした。そのような時期にリリースされるアルバムということでこれも大ヒット間違いなしと期待されていたところですが、この時期にして挑戦的かつ異様に実験的な作風をリリースしてきました。それが今回取り上げる本作「不思議」です。まさにタイトルどおりのインパクトで、中森自身のヴォーカルが全く表に出てこないミキシングながら、その抑えきれない歌唱力のため、地下で蠢くようにバックグラウンドで聴こえる歌声が尋常でない何かを感じさせます。通常アイドルのアルバムというのは、アイドルという被写体があってなんぼであるもの。その常識が本作では覆される、その一点のみでも本作の問題作ぶりが明らかであると言えるでしょう。
そのような文字通り「不思議」な作品をサウンド面で支えたのが、「ガリアンワールド」や「星の一秒」でおなじみ?のプログレ出身ロックバンド、EUROX。このバンドに目をつけること自体慧眼であることに間違いないのですが、およそアイドルソングとは思えない楽曲の展開や、オケヒットやバイオリンを導入するといった独特のゴシック系世界観が異様な雰囲気を醸し出します。前述のようにヴォーカルが聴こえないくらいのサウンドバリアーを施したミックスは、絶頂的人気へのアンチテーゼすら感じさせます。いわゆるYMOでいうところの「BGM」的位置づけと言えるかと思います。確かに「BGM」における全面的なフランジャーサウンドを彷佛とさせる、全面的(主にスネアドラム)なリバーブの壁が非常に分厚く、これが彼女のヴォーカルを別次元から聴こえているように隔てていると思われますが、そんな曇りガラス越しの向こうのおどろおどろしい歌声(それが彼女の歌唱力の成せる業なのですが)は、この作品に対する戸惑いや驚きの印象を与えつつも結果的にアーティストとして評価を上げる作品に押し上げた印象があります。このような内容的に明らかに実験作とはいえ、当時はやはり人気に乗り大ヒットしました。大ヒットには理由などないのかもしれません。
<Favorite Songs>
・「マリオネット」
冒頭からオケヒットで盛り上げるミディアムチューン。しかし他の曲と比較すると相変わらずのリバーブ偏重ミックスの裏でロマンチシズム溢れるメロディが際立っています。それもそのはず、当時アイリーンフォーリーンにおいてそのメロディセンスへの評価が高まっていた安岡孝章の作品で、EUROXのプログレサウンドとのコントラストが興味深いです。
・「幻惑されて」
アルバムの前半を彩るEUROX楽曲の中でも不思議度の高い楽曲。闇から湧き出るかのような過剰なビブラート歌唱が強烈な印象を残しますが、イントロの金属的なシンセサウンドが印象的で、アイドルソングとはとても思えないほどの微妙なメロディで押し切ってしまうところがただものではありません。
・「Teen-age blue」
本作中最もポップな椎名和夫アレンジ楽曲。それでもサウンドバリアーは強烈でヴォーカルは遠くで聴こえる感覚のみとなっています。それでもいわゆる起承転結された歌謡曲としての構成を保っているので、本作中に限っては非常に聴きやすい作品となっています。
<評点>
・サウンド ★★ (驚きの奇抜なミックスながらそれでもリバーブをかけ過ぎ)
・メロディ ★ (明らかにサウンド、音響志向に偏っておりメロディは普遍的)
・リズム ★★ (スネアへの過剰なリバーブでサウンドをシャットアウト)
・曲構成 ★ (コンセプト作品ながら盛り上がりには欠けている印象)
・個性 ★★★ (アイドルから脱皮をはかった類稀なコンセプトアルバム)
総合評点: 7点
中森明菜:vocal

1.「Back door night」 詞:麻生圭子 曲・編:EUROX
2.「ニュー・ジェネレーション」 詞:竹花いち子 曲・編:EUROX
3.「Labyrinth」 詞:麻生圭子 曲・編:EUROX
4.「マリオネット」 詞・曲:安岡孝章 編:EUROX
5.「幻惑されて」 詞:吉田美奈子 曲・編:EUROX
6.「ガラスの心」 詞:SANDII 曲:井ノ浦英雄・久保田真箏 編:井上鑑
7.「Teen-age blue」 詞・曲:吉田美奈子 編:椎名和夫
8.「燠火」 詞・曲:吉田美奈子 編:吉田美奈子・椎名和夫
9.「Wait for me」 詞:SHOW 曲・編:EUROX
10.「Mushroom dance」 詞:SANDII 曲:久保田真箏・井上ケン一 編:EUROX
<support musician>
栗原務:guitars
今 剛:guitars
岡野治雄:bass・chorus
美久月千晴:bass
Anton Fier:drums
山木秀夫:drums
井上鑑:keyboards
椎名和夫:keyboards・chorus
富樫春生:keyboards
中村哲:keyboards
数原晋:trumpet
Jake H. Concepcion:sax
関根安里:violin・keyboards・chorus
EVE:chorus
麻生圭子:chorus
新倉芳美:chorus
長谷川勇:chorus
比山貴咏史:chorus
藤倉克巳:chorus
山川恵津子:chorus
吉田美奈子:chorus・keyboards
produced by 中森明菜
engineered by 石崎信郎
● 地獄の底から声が聞こえる!絶頂期にリリースされたアイドル史上最大の問題作
松田聖子と共に80年代の頂点に立つアイドルとして君臨した中森明菜は、当然のごとく80年代中盤は全盛期で、「ミ・アモーレ」「DESIRE」といった大ヒット曲を連発し向かうところ敵なし状態でした。そのような時期にリリースされるアルバムということでこれも大ヒット間違いなしと期待されていたところですが、この時期にして挑戦的かつ異様に実験的な作風をリリースしてきました。それが今回取り上げる本作「不思議」です。まさにタイトルどおりのインパクトで、中森自身のヴォーカルが全く表に出てこないミキシングながら、その抑えきれない歌唱力のため、地下で蠢くようにバックグラウンドで聴こえる歌声が尋常でない何かを感じさせます。通常アイドルのアルバムというのは、アイドルという被写体があってなんぼであるもの。その常識が本作では覆される、その一点のみでも本作の問題作ぶりが明らかであると言えるでしょう。
そのような文字通り「不思議」な作品をサウンド面で支えたのが、「ガリアンワールド」や「星の一秒」でおなじみ?のプログレ出身ロックバンド、EUROX。このバンドに目をつけること自体慧眼であることに間違いないのですが、およそアイドルソングとは思えない楽曲の展開や、オケヒットやバイオリンを導入するといった独特のゴシック系世界観が異様な雰囲気を醸し出します。前述のようにヴォーカルが聴こえないくらいのサウンドバリアーを施したミックスは、絶頂的人気へのアンチテーゼすら感じさせます。いわゆるYMOでいうところの「BGM」的位置づけと言えるかと思います。確かに「BGM」における全面的なフランジャーサウンドを彷佛とさせる、全面的(主にスネアドラム)なリバーブの壁が非常に分厚く、これが彼女のヴォーカルを別次元から聴こえているように隔てていると思われますが、そんな曇りガラス越しの向こうのおどろおどろしい歌声(それが彼女の歌唱力の成せる業なのですが)は、この作品に対する戸惑いや驚きの印象を与えつつも結果的にアーティストとして評価を上げる作品に押し上げた印象があります。このような内容的に明らかに実験作とはいえ、当時はやはり人気に乗り大ヒットしました。大ヒットには理由などないのかもしれません。
<Favorite Songs>
・「マリオネット」
冒頭からオケヒットで盛り上げるミディアムチューン。しかし他の曲と比較すると相変わらずのリバーブ偏重ミックスの裏でロマンチシズム溢れるメロディが際立っています。それもそのはず、当時アイリーンフォーリーンにおいてそのメロディセンスへの評価が高まっていた安岡孝章の作品で、EUROXのプログレサウンドとのコントラストが興味深いです。
・「幻惑されて」
アルバムの前半を彩るEUROX楽曲の中でも不思議度の高い楽曲。闇から湧き出るかのような過剰なビブラート歌唱が強烈な印象を残しますが、イントロの金属的なシンセサウンドが印象的で、アイドルソングとはとても思えないほどの微妙なメロディで押し切ってしまうところがただものではありません。
・「Teen-age blue」
本作中最もポップな椎名和夫アレンジ楽曲。それでもサウンドバリアーは強烈でヴォーカルは遠くで聴こえる感覚のみとなっています。それでもいわゆる起承転結された歌謡曲としての構成を保っているので、本作中に限っては非常に聴きやすい作品となっています。
<評点>
・サウンド ★★ (驚きの奇抜なミックスながらそれでもリバーブをかけ過ぎ)
・メロディ ★ (明らかにサウンド、音響志向に偏っておりメロディは普遍的)
・リズム ★★ (スネアへの過剰なリバーブでサウンドをシャットアウト)
・曲構成 ★ (コンセプト作品ながら盛り上がりには欠けている印象)
・個性 ★★★ (アイドルから脱皮をはかった類稀なコンセプトアルバム)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「SOIL 未来の記憶」 SYOKO
「SOIL 未来の記憶」 (1986 東芝EMI)
SYOKO:voice

1.「Erewhon」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
2.「Criminal Shuffle」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
3.「Sphinx In The Night」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
4.「Magie」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
5.「Sunday Never Comes」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
6.「Sunset」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
<support musician>
久石譲:instruments
瀬川英史:Fairlight III・synthesizer programming
福岡保子:Fairlight III・synthesizer programming
produced by 宮部智彦
co-produced by 吉永多賀士
sound produced by 久石譲
mixing engineered by 梶 篤
recording engineered by 浜田純伸
● インダストリアル久石譲!硬質の打ち込みとインディーズの歌姫がコラボした問題作
退廃的かつ幻想的な音楽性を持つロックバンドG-Shumittは、カリスマ的な女性ヴォーカルSYOKOをフロントに押し出し、80年代のインディーズロックシーンを席巻しました。まだインディーズが自主制作の域を出ず、現在のように表舞台への登場が容易でない時代においても、その存在感は異彩を放っていました。そんなインディーズの歌姫とさえ呼ばれたSYOKOが86年にメジャーからリリースしたソロアルバムが本作です。G-Shumittのバンドサウンドとは打って変わって打ち込みを全面的に使用した陰鬱な楽曲は、彼女のイメージを大切にしながら実験的作風に挑戦しようとしていることがうかがえます。86年当時の先鋭的なサウンドが楽しめる小作品に仕上がっています。
SYOKOがソロを制作する上でタッグを組んだのが、「風の谷のナウシカ」で頭角を現した当時気鋭のサウンドクリエイター久石譲です。今でこそすっかり映画音楽の大御所の地位に収まっている彼ですが、当時はまだまだ若気の至りというか最新鋭の電子楽器を使用した機械的な音楽を試みていた時期で、中森明菜や菊池桃子のアルバム曲でも非常にテクノ度の高い作風で楽しませてくれます。そしてこのアルバムではほとんどのサウンドをFairlightCMIを利用したガチガチの打ち込みサウンドで彩っています。「動」の3曲では硬質な打ち込みによる実験的なインダストリアルサウンドで攻めまくり、「静」の3曲では、後世の彼の作風を思わせる叙情的なバラードでしっかりと落としどころを抑えています。6曲という曲数の少ない中でしっかりと物語を構築する、しかもSYOKOというアーティストのイメージを損なわずに実験性を持たせるプロデュース能力はさすが久石譲というところでしょう。今となっては聴くことのできない作風なので貴重な作品です。
<Favorite Songs>
・「Criminal Shuffle」
マシナリーなリズムと正確に刻む16分のサンプルベースが妙な切迫感を与える楽曲。SYOKOのイメージを損なわない退廃的な雰囲気が漂います。Fairlightのサンプル音色をこれでもかと使いまくった強烈なサンプラーサウンドで押し切るアレンジが当時の久石譲の裏の側面だったのです。
・「Magie」
ポエトリーリーディングをインダストリアルサウンドに乗せる実験的な楽曲。ノイズと機械的な打ち込みリズムの応酬が苛烈な印象を与えます。SYOKO自身の七変化する声をもサンプルに取り込み音の渦に巻き込む混沌さがいかにも80年代的な実験性を感じさせます。
<評点>
・サウンド ★★ (サンプラーを駆使した大胆かつ過激なインダストリアル)
・メロディ ★ (典型的なサウンド志向の作品なのでメロディは二の次)
・リズム ★★ (マシナリーに統一されたリズムは近未来すら感じる)
・曲構成 ★ (半分を占める静かなバラードがかなり退屈な出来)
・個性 ★ (実験していてもいつもの彼女なのでソロである必要は?)
総合評点: 6点
SYOKO:voice

1.「Erewhon」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
2.「Criminal Shuffle」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
3.「Sphinx In The Night」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
4.「Magie」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
5.「Sunday Never Comes」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
6.「Sunset」 詞:SYOKO 曲・編:久石譲
<support musician>
久石譲:instruments
瀬川英史:Fairlight III・synthesizer programming
福岡保子:Fairlight III・synthesizer programming
produced by 宮部智彦
co-produced by 吉永多賀士
sound produced by 久石譲
mixing engineered by 梶 篤
recording engineered by 浜田純伸
● インダストリアル久石譲!硬質の打ち込みとインディーズの歌姫がコラボした問題作
退廃的かつ幻想的な音楽性を持つロックバンドG-Shumittは、カリスマ的な女性ヴォーカルSYOKOをフロントに押し出し、80年代のインディーズロックシーンを席巻しました。まだインディーズが自主制作の域を出ず、現在のように表舞台への登場が容易でない時代においても、その存在感は異彩を放っていました。そんなインディーズの歌姫とさえ呼ばれたSYOKOが86年にメジャーからリリースしたソロアルバムが本作です。G-Shumittのバンドサウンドとは打って変わって打ち込みを全面的に使用した陰鬱な楽曲は、彼女のイメージを大切にしながら実験的作風に挑戦しようとしていることがうかがえます。86年当時の先鋭的なサウンドが楽しめる小作品に仕上がっています。
SYOKOがソロを制作する上でタッグを組んだのが、「風の谷のナウシカ」で頭角を現した当時気鋭のサウンドクリエイター久石譲です。今でこそすっかり映画音楽の大御所の地位に収まっている彼ですが、当時はまだまだ若気の至りというか最新鋭の電子楽器を使用した機械的な音楽を試みていた時期で、中森明菜や菊池桃子のアルバム曲でも非常にテクノ度の高い作風で楽しませてくれます。そしてこのアルバムではほとんどのサウンドをFairlightCMIを利用したガチガチの打ち込みサウンドで彩っています。「動」の3曲では硬質な打ち込みによる実験的なインダストリアルサウンドで攻めまくり、「静」の3曲では、後世の彼の作風を思わせる叙情的なバラードでしっかりと落としどころを抑えています。6曲という曲数の少ない中でしっかりと物語を構築する、しかもSYOKOというアーティストのイメージを損なわずに実験性を持たせるプロデュース能力はさすが久石譲というところでしょう。今となっては聴くことのできない作風なので貴重な作品です。
<Favorite Songs>
・「Criminal Shuffle」
マシナリーなリズムと正確に刻む16分のサンプルベースが妙な切迫感を与える楽曲。SYOKOのイメージを損なわない退廃的な雰囲気が漂います。Fairlightのサンプル音色をこれでもかと使いまくった強烈なサンプラーサウンドで押し切るアレンジが当時の久石譲の裏の側面だったのです。
・「Magie」
ポエトリーリーディングをインダストリアルサウンドに乗せる実験的な楽曲。ノイズと機械的な打ち込みリズムの応酬が苛烈な印象を与えます。SYOKO自身の七変化する声をもサンプルに取り込み音の渦に巻き込む混沌さがいかにも80年代的な実験性を感じさせます。
<評点>
・サウンド ★★ (サンプラーを駆使した大胆かつ過激なインダストリアル)
・メロディ ★ (典型的なサウンド志向の作品なのでメロディは二の次)
・リズム ★★ (マシナリーに統一されたリズムは近未来すら感じる)
・曲構成 ★ (半分を占める静かなバラードがかなり退屈な出来)
・個性 ★ (実験していてもいつもの彼女なのでソロである必要は?)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「momoism」 遊佐未森
「momoism」 (1993 エピックソニー)
遊佐未森:vox・organ・keyboard・marimba・piano・shaker・background vocals

1.「オルガン」 曲・編:遊佐未森
2.「ロンド」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
3.「森とさかな」 詞:工藤順子 曲:遊佐未森 編:野見祐二
4.「ハープ」 詞:工藤順子 曲:遊佐未森 編:野見祐二
5.「桃」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
6.「土の話」 詞・曲:外間隆史 編:野見祐二
7.「虫の話」 詞:遊佐未森・外間隆史 曲:外間隆史 編:野見祐二
8.「一粒の予感」 詞:工藤順子 曲:遊佐未森 編:野見祐二
9.「水辺にて」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
10.「エピローグ」 詞:工藤順子 曲:遊佐未森 編:野見祐二
11.「月夜の散歩」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
12.「ブルッキーのひつじ」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
<support musician>
今堀恒雄:electric guitar・acoustic guitar
高野寛:electric guitar・acoustic guitar
MECKEN:bass
沖山優司:bass
青山純:brush snare
鶴来正基:piano・accordion
梯郁夫:percussion
村田陽一:trombone
浦文彦:english horn
佐藤潔:tuba
十亀正司:clarinet
柴山洋:oboe d'amore
三谷真紀:oboe d'amore
守安功:alto recorder・tenor recorder
大沢浄:violin
加藤高志:violin
斉藤葉:harp
梅崎俊春:synthesizers programming
野見祐二:computer & synthesizer programming
produced by 福岡知彦・遊佐未森
sound produced by 野見祐二
mixing engineered by Nigel Walker
recording engineered by 河合十里
● 野見祐二の瑞々しいサウンドデザインが秀逸!ドラムレスで挑んだ実験作にして最高傑作
「瞳水晶」によるデビューから「空耳の丘」「ハルモニオデオン」「HOPE」「モザイク」とその個性的なメルヘン的音楽性を着実に伸ばし、確固たる人気を確立してきた遊佐未森が1年半のブランクを経た後満を持してリリースされた新境地のアルバムが本作です。声楽出身ならではの美声を持ち味にナチュラルかつファンタジックな世界で人気を博していた彼女は良くも悪くもコンセプチュアルに仕立て上げられたアーティストでしたが、これまで中心的にプロデュースを行っていた外間隆史が一歩引いた形となり、遊佐自身のセルフプロデュースの色が濃くなっていく転換期の作品と言えますが、クオリティの高いこれまでの演奏陣による開放的な作風から密室による手作り感すら感じさせるコンパクトな作風に変化し、まさしく新境地に挑戦しています。
彼女が外間に代わりサウンドプロデュースに迎えたのは、おしゃれテレビとしての活動や「子猫物語」や「オネアミスの翼」のサントラでの坂本龍一との共同編曲、後の宮崎駿アニメ「耳をすませば」での劇伴など、そのサウンドセンスが高く評価されている野見祐二です。独特のオーケストレーションが得意な彼のアレンジと音色が練りに練られたシンセサウンドのセンスは本作において十二分に発揮されており、「ドラムレス」という究極命題のもと、シンセによる音の長さを短くしたシーケンスによってリズム感を引き出したり、極力肉感を排しながら柔らかく丸みを帯びたチープな電子的シンセ音を駆使したアレンジの構成力は既に熟練の域に達しています。また、このサウンドが遊佐の声質に絶妙にマッチしており、声と音が混ざり合う瞬間のクオリティたるや見事と言うよりほかありません。その後、野見が全面的に彼女をプロデュースする機会はありませんが、比較的寡作なのが野見作品なので仕方ないことかもしれません。しかし本作はそんな野見作品の中でも最も成功した最高傑作と呼ぶべきクオリティを誇っている名作なのです。メルヘン好きもシンセ好きも音響好きも必聴のアルバムです。
<Favorite Songs>
・「ロンド」
ほとんどシンセのみで構成されたオーケストレーションを聴かせる実質的なオープニング楽曲。コロコロした短い音を多用したシーケンスとよく練られたシンセのチープな音色が独特の世界観を構築しています。
・「森とさかな」
童話的世界を軽やかなシーケンスに乗せた本作中における代表曲の1つ。遊佐自身のコーラスワークと野見特有のシンセが溶け合う様はもはや芸術の域に達しています。ドラムがなくてもしっかりリズムを作り出していく巧みな技にも注目です。
・「一粒の予感」
ピチカートの音色のイントロが印象的なシングルカット曲。ここでもチープで少しざらついた野見シンセ音色が大活躍していますが、この楽曲に関しては今堀恒雄のギターソロのフレーズが秀逸で、その音色さえも野見サウンドに溶け込んでしまうほどの一体感が感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (シンセミュージックとしても最高峰の音の粒立ちに感動)
・メロディ ★★★★ (サウンド面での冒険が目立つがメロも明快でポップな味)
・リズム ★★★★ (ドラムレスを逆手に取った緻密な打楽器的音の美しさが○)
・曲構成 ★★★★★ (確固たるサウンドコンセプトに沿っており完成度が高い)
・個性 ★★★★★ (確実に遊佐未森としてのアーティストの格を上げた作品)
総合評点: 10点
遊佐未森:vox・organ・keyboard・marimba・piano・shaker・background vocals

1.「オルガン」 曲・編:遊佐未森
2.「ロンド」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
3.「森とさかな」 詞:工藤順子 曲:遊佐未森 編:野見祐二
4.「ハープ」 詞:工藤順子 曲:遊佐未森 編:野見祐二
5.「桃」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
6.「土の話」 詞・曲:外間隆史 編:野見祐二
7.「虫の話」 詞:遊佐未森・外間隆史 曲:外間隆史 編:野見祐二
8.「一粒の予感」 詞:工藤順子 曲:遊佐未森 編:野見祐二
9.「水辺にて」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
10.「エピローグ」 詞:工藤順子 曲:遊佐未森 編:野見祐二
11.「月夜の散歩」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
12.「ブルッキーのひつじ」 詞・曲:遊佐未森 編:野見祐二
<support musician>
今堀恒雄:electric guitar・acoustic guitar
高野寛:electric guitar・acoustic guitar
MECKEN:bass
沖山優司:bass
青山純:brush snare
鶴来正基:piano・accordion
梯郁夫:percussion
村田陽一:trombone
浦文彦:english horn
佐藤潔:tuba
十亀正司:clarinet
柴山洋:oboe d'amore
三谷真紀:oboe d'amore
守安功:alto recorder・tenor recorder
大沢浄:violin
加藤高志:violin
斉藤葉:harp
梅崎俊春:synthesizers programming
野見祐二:computer & synthesizer programming
produced by 福岡知彦・遊佐未森
sound produced by 野見祐二
mixing engineered by Nigel Walker
recording engineered by 河合十里
● 野見祐二の瑞々しいサウンドデザインが秀逸!ドラムレスで挑んだ実験作にして最高傑作
「瞳水晶」によるデビューから「空耳の丘」「ハルモニオデオン」「HOPE」「モザイク」とその個性的なメルヘン的音楽性を着実に伸ばし、確固たる人気を確立してきた遊佐未森が1年半のブランクを経た後満を持してリリースされた新境地のアルバムが本作です。声楽出身ならではの美声を持ち味にナチュラルかつファンタジックな世界で人気を博していた彼女は良くも悪くもコンセプチュアルに仕立て上げられたアーティストでしたが、これまで中心的にプロデュースを行っていた外間隆史が一歩引いた形となり、遊佐自身のセルフプロデュースの色が濃くなっていく転換期の作品と言えますが、クオリティの高いこれまでの演奏陣による開放的な作風から密室による手作り感すら感じさせるコンパクトな作風に変化し、まさしく新境地に挑戦しています。
彼女が外間に代わりサウンドプロデュースに迎えたのは、おしゃれテレビとしての活動や「子猫物語」や「オネアミスの翼」のサントラでの坂本龍一との共同編曲、後の宮崎駿アニメ「耳をすませば」での劇伴など、そのサウンドセンスが高く評価されている野見祐二です。独特のオーケストレーションが得意な彼のアレンジと音色が練りに練られたシンセサウンドのセンスは本作において十二分に発揮されており、「ドラムレス」という究極命題のもと、シンセによる音の長さを短くしたシーケンスによってリズム感を引き出したり、極力肉感を排しながら柔らかく丸みを帯びたチープな電子的シンセ音を駆使したアレンジの構成力は既に熟練の域に達しています。また、このサウンドが遊佐の声質に絶妙にマッチしており、声と音が混ざり合う瞬間のクオリティたるや見事と言うよりほかありません。その後、野見が全面的に彼女をプロデュースする機会はありませんが、比較的寡作なのが野見作品なので仕方ないことかもしれません。しかし本作はそんな野見作品の中でも最も成功した最高傑作と呼ぶべきクオリティを誇っている名作なのです。メルヘン好きもシンセ好きも音響好きも必聴のアルバムです。
<Favorite Songs>
・「ロンド」
ほとんどシンセのみで構成されたオーケストレーションを聴かせる実質的なオープニング楽曲。コロコロした短い音を多用したシーケンスとよく練られたシンセのチープな音色が独特の世界観を構築しています。
・「森とさかな」
童話的世界を軽やかなシーケンスに乗せた本作中における代表曲の1つ。遊佐自身のコーラスワークと野見特有のシンセが溶け合う様はもはや芸術の域に達しています。ドラムがなくてもしっかりリズムを作り出していく巧みな技にも注目です。
・「一粒の予感」
ピチカートの音色のイントロが印象的なシングルカット曲。ここでもチープで少しざらついた野見シンセ音色が大活躍していますが、この楽曲に関しては今堀恒雄のギターソロのフレーズが秀逸で、その音色さえも野見サウンドに溶け込んでしまうほどの一体感が感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (シンセミュージックとしても最高峰の音の粒立ちに感動)
・メロディ ★★★★ (サウンド面での冒険が目立つがメロも明快でポップな味)
・リズム ★★★★ (ドラムレスを逆手に取った緻密な打楽器的音の美しさが○)
・曲構成 ★★★★★ (確固たるサウンドコンセプトに沿っており完成度が高い)
・個性 ★★★★★ (確実に遊佐未森としてのアーティストの格を上げた作品)
総合評点: 10点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「愛情の天才」 岩城由美
「愛情の天才」(1994 コロムビア)
岩城由美:vocal・piano

1.「空中線」 詞:岩城由美 曲・編:金津ひろし
2.「トリップ・リップ・タラップ・ホップ」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
3.「愛情の天才」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
4.「ここまでおいで」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
5.「雨行きのバス」 詞:岩城由美 曲:金津ひろし・岩城由美 編:金津ひろし
6.「ハオ!」 詞:岩城由美 曲・編:金津ひろし
7.「朝」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
8.「チェリーのお酒」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし・岩城由美
9.「ELIZA」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
10.「7Days Hat」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
11.「私のきもち」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
<support musician>
伊丹雅博:guitar・mandolin・ukulele
小倉博和:guitar
鈴木智文:guitar
横川理彦:bouzouki・mandolin
荻原"MECKEN"基文:bass
渡辺等:bass・cello・mandolin・ukulele
三浦晃司:drums
小川文明:keyboards
金津ひろし:keyboards・computer programming
中山努:keyboards
ライオンメリー:accordion
帆足"WHACHO"哲昭:percussions
大石真理恵:marimba
菊地成孔:sax
矢口博康:sax
武川雅寛:violin
朝川朋之:harp
Cheryl Poirier:background vocals
Dana Kral:background vocals
水谷紹:background vocals
produced by 吉永多賀士
co-produced by 金津ひろし
mixing engineered by Craig Leon
recording engineered by 藤井暁
● ファニーな歌声で休日の昼下がりを癒す無国籍旅行に誘う90年代ガールポップの隠れた名作
CM界では有名な女性シンガーとして現在も活躍する岩城由美はソロシンガーとして94年にシングル「トリップ・リップ・タラップ・ホップ」、そして本作「愛情の天才」でデビューを果たします。90年代前半は80年代特有の実験的で派手なサウンドに疲れた耳を癒すかのようにメロディ志向が強まり、またアコースティック系や渋谷系のアナログな味を醸し出すサウンドが流行したこともあり、特に女性アーティストは癒し系と称される穏やかな楽曲を創り出す傾向にあったと思われます。そのようなシーンの中に確かにこの岩城由美も存在していたのではないかと思います。タイプ的にはオシャレ感をやや抑えたかの香織、現実的な小川美潮といった立ち位置にいたのではないでしょうか。もちろん彼女は歌だけではなく、作曲家としての側面もあり、また鴨宮諒のユニットThe End Of The Worldにおいてもメインで作詞を担当しているように、作詞家としての才能も目立っているマルチアーティストとしても評価されるべきであり、だからこそ現在もCM業界を中心に活躍できているのです。
さて、このデビュー作は流行のアコースティックな肌触りを持つものの、実は結構打ち込み度が高く、雰囲気に似つかわしくない電子音も随所に散りばめられている作品です。特に本作の特徴の1つであるオリエンタルな雰囲気は、そのメロディもありますがコミカルさを演出するような電子音(「トリップ・リップ・タラップ・ホップ」や「ハオ!」のような)による部分も大きいのではないかと思います。そうしたサウンドをプロデュースしているのは、本間哲子とのユニットであるプラチナKITでも良作を生み出していた金津ひろし。もともと派手さはないものの職人技とも言えるサウンドメイクを手掛ける彼は全曲アレンジを任せられ、90年代サウンドの命題でもある打ち込みと生演奏の融合を巧みに仕掛けるなど本領を発揮しています。岩城のナチュラル系ではあるが随所でファニーでコミカルな側面を垣間見せる独特の声質もあってプラチナKITの続編のような印象も与え、オリエンタルからユーロピアンまで世界を一周するかのような(しかもラストの「私のきもち」は日本風?)本作ですが、デビュー作にして地味ながらも存在感を放つ良質なPOPSアルバムとしてチェックしておくべき作品でしょう。
<Favorite Songs>
・「空中線」
柔らかいシンセサウンドによる癒しのオリエンタルフレーズが特徴的な楽曲。独特の声質に施されたリバーブに代表される雰囲気作りに非常に長けていて、特に盛り上がるわけではないものの安心感のあるメロディが心地良いです。
・「トリップ・リップ・タラップ・ホップ」
水の中のようなおもしろい音響を聴かせるシングルカット曲。スチールドラムっぽい音色や縦横無尽に駆け巡るハープなどゴージャスながら力の抜けたサウンドに、サビに向かって整理良くまとめられたメロディに秀逸さを感じさせます。
・「7Days Hat」
オルガンのフレーズとベースフレーズがオシャレでジャジーな空間を演出するポップチューン。ジャズテイストということでとにかく肩の力が抜けた印象で、休日によく似合う暖かさと心地良さが同居した雰囲気は幸福感に満ちあふれた感じでそれが彼女の持ち味となっているようです。
<評点>
・サウンド ★★ (シンセ度は高いもののそれを感じさせないのは匠の技)
・メロディ ★★ (随所にハッとさせるフレーズは導入させているが・・・)
・リズム ★ (タイプ的にリズムは目立たない楽曲が多いので仕方ないか)
・曲構成 ★★ (同タイプの作品も多く刺激は少なく中だるみの危険性も)
・個性 ★ (良質であるがゆえに普遍的に埋もれがちになったかも)
総合評点: 6点
岩城由美:vocal・piano

1.「空中線」 詞:岩城由美 曲・編:金津ひろし
2.「トリップ・リップ・タラップ・ホップ」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
3.「愛情の天才」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
4.「ここまでおいで」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
5.「雨行きのバス」 詞:岩城由美 曲:金津ひろし・岩城由美 編:金津ひろし
6.「ハオ!」 詞:岩城由美 曲・編:金津ひろし
7.「朝」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
8.「チェリーのお酒」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし・岩城由美
9.「ELIZA」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
10.「7Days Hat」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
11.「私のきもち」 詞・曲:岩城由美 編:金津ひろし
<support musician>
伊丹雅博:guitar・mandolin・ukulele
小倉博和:guitar
鈴木智文:guitar
横川理彦:bouzouki・mandolin
荻原"MECKEN"基文:bass
渡辺等:bass・cello・mandolin・ukulele
三浦晃司:drums
小川文明:keyboards
金津ひろし:keyboards・computer programming
中山努:keyboards
ライオンメリー:accordion
帆足"WHACHO"哲昭:percussions
大石真理恵:marimba
菊地成孔:sax
矢口博康:sax
武川雅寛:violin
朝川朋之:harp
Cheryl Poirier:background vocals
Dana Kral:background vocals
水谷紹:background vocals
produced by 吉永多賀士
co-produced by 金津ひろし
mixing engineered by Craig Leon
recording engineered by 藤井暁
● ファニーな歌声で休日の昼下がりを癒す無国籍旅行に誘う90年代ガールポップの隠れた名作
CM界では有名な女性シンガーとして現在も活躍する岩城由美はソロシンガーとして94年にシングル「トリップ・リップ・タラップ・ホップ」、そして本作「愛情の天才」でデビューを果たします。90年代前半は80年代特有の実験的で派手なサウンドに疲れた耳を癒すかのようにメロディ志向が強まり、またアコースティック系や渋谷系のアナログな味を醸し出すサウンドが流行したこともあり、特に女性アーティストは癒し系と称される穏やかな楽曲を創り出す傾向にあったと思われます。そのようなシーンの中に確かにこの岩城由美も存在していたのではないかと思います。タイプ的にはオシャレ感をやや抑えたかの香織、現実的な小川美潮といった立ち位置にいたのではないでしょうか。もちろん彼女は歌だけではなく、作曲家としての側面もあり、また鴨宮諒のユニットThe End Of The Worldにおいてもメインで作詞を担当しているように、作詞家としての才能も目立っているマルチアーティストとしても評価されるべきであり、だからこそ現在もCM業界を中心に活躍できているのです。
さて、このデビュー作は流行のアコースティックな肌触りを持つものの、実は結構打ち込み度が高く、雰囲気に似つかわしくない電子音も随所に散りばめられている作品です。特に本作の特徴の1つであるオリエンタルな雰囲気は、そのメロディもありますがコミカルさを演出するような電子音(「トリップ・リップ・タラップ・ホップ」や「ハオ!」のような)による部分も大きいのではないかと思います。そうしたサウンドをプロデュースしているのは、本間哲子とのユニットであるプラチナKITでも良作を生み出していた金津ひろし。もともと派手さはないものの職人技とも言えるサウンドメイクを手掛ける彼は全曲アレンジを任せられ、90年代サウンドの命題でもある打ち込みと生演奏の融合を巧みに仕掛けるなど本領を発揮しています。岩城のナチュラル系ではあるが随所でファニーでコミカルな側面を垣間見せる独特の声質もあってプラチナKITの続編のような印象も与え、オリエンタルからユーロピアンまで世界を一周するかのような(しかもラストの「私のきもち」は日本風?)本作ですが、デビュー作にして地味ながらも存在感を放つ良質なPOPSアルバムとしてチェックしておくべき作品でしょう。
<Favorite Songs>
・「空中線」
柔らかいシンセサウンドによる癒しのオリエンタルフレーズが特徴的な楽曲。独特の声質に施されたリバーブに代表される雰囲気作りに非常に長けていて、特に盛り上がるわけではないものの安心感のあるメロディが心地良いです。
・「トリップ・リップ・タラップ・ホップ」
水の中のようなおもしろい音響を聴かせるシングルカット曲。スチールドラムっぽい音色や縦横無尽に駆け巡るハープなどゴージャスながら力の抜けたサウンドに、サビに向かって整理良くまとめられたメロディに秀逸さを感じさせます。
・「7Days Hat」
オルガンのフレーズとベースフレーズがオシャレでジャジーな空間を演出するポップチューン。ジャズテイストということでとにかく肩の力が抜けた印象で、休日によく似合う暖かさと心地良さが同居した雰囲気は幸福感に満ちあふれた感じでそれが彼女の持ち味となっているようです。
<評点>
・サウンド ★★ (シンセ度は高いもののそれを感じさせないのは匠の技)
・メロディ ★★ (随所にハッとさせるフレーズは導入させているが・・・)
・リズム ★ (タイプ的にリズムは目立たない楽曲が多いので仕方ないか)
・曲構成 ★★ (同タイプの作品も多く刺激は少なく中だるみの危険性も)
・個性 ★ (良質であるがゆえに普遍的に埋もれがちになったかも)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「CHRONICLES」 土橋安騎夫
「CHRONICLES」(1987 CBSソニー)
土橋安騎夫:vocal・keyboards・chorus

1.「EVEN WITH YOU」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
2.「MONDAY PARK」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
3.「JENNY」 詞:宮原芽映 曲:土橋安騎夫 編:土橋安騎夫・斉藤ネコ
4.「SKIPPIN' STREET」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
5.「WALKING TO NOWHERE」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
6.「PERMANENT DRIVE」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
7.「JENNY REPRISE」 曲:土橋安騎夫 編:土橋安騎夫・斉藤ネコ
<support musician>
伊藤浩樹:guitars
是永巧一:electric guitar
Silbert Co'Saliban:acoustic guitar
浅田孟:bass
小池ヒロミチ:bass
高橋教之:bass
根岸孝旨:bass
今川勉:drums
小田原豊:drums
松永俊弥:drums
中島オバヲ:percussion
矢口博康:sax
ネコと元気なストリングス:strings
斉藤ネコ:strings arrangement
produced by 土橋安騎夫
engineered by 大森政人
● 渋く淡々としたボーカル!キレがあり広がりを感じさせるサウンドの話題作
80年代に一世を風靡したガールズPOPSの元祖的なバンドであるレベッカは、ヴォーカルのNOKKOのパフォーマンスによる人気もさることながら、ほとんどの楽曲を手掛けるキーボーディスト、土橋安騎夫のメロディメイク能力により数々の名曲を生み出してきたことは周知の事実です。一躍超一流バンドの仲間入りを果たした彼らは、他の大御所バンドがたどる経過と同じくメンバーそれぞれソロ活動を開始しますが、レベッカの楽曲を支える土橋も例外なくソロとしてデビューすることになります。メロディメイカーとしての才能が認められつつあった土橋がソロとしてどのような作品をリリースするのか注目を集めましたが、キーボードテクニックを見せつけるのではなく、あくまでメロディを聴かせるクオリティの高いPOPSアルバムに仕上げました。それがデビュー作である本作となります。
打ち込み全盛の当時にあってキーボーディストであるがために、カラフルなシンセ音色に囲まれたサウンドも予想されましたが、あくまでメロディを前面に押し出し、さらにECHOESのギタリスト伊藤浩樹を迎えたギターを中心とした生演奏を基調としたサウンドを志向しています。「EVEN WITH YOU」「PERMANENT DRIVE」といった開放的なギターロック(&POPS)は本作のハイライトとなっていますが、そこはキーボーディスト。バンドサウンドに埋もれながらも細かいシンセを音の奥に忍ばせるような隠し味的使い方に徹しています。そして忘れてはならないのは土橋自身の味わい深いヴォーカルで、ニューロマの匂いすら感じさせる哀愁がかったマイナー調がよく似合う線の細い金属的な声質が、楽曲の雰囲気を決定づけていることは否定できません。当時土橋自身が考えられ得るPOPソングの姿を表現した作品集という点で、地味ながら再評価すべき作品であると思います(現在廃盤であるのが残念ではあります)。
<Favorite Songs>
・「EVEN WITH YOU」
出だしのシーケンスはエレクトリック風味であるものの基本はバンドサウンドに仕上がったオープニング曲。ギターリフが印象的なこの楽曲のキモは、サビに進むにしたがって徐々にメジャー調からマイナー調に変化していくメロディです。こうした雰囲気作りに彼は優れているのです。
・「JENNY」
アコースティックな肌触りのミディアムバラード。ストリングスが大活躍するソフトロック的サウンドに、彼特有の乾いた線の細いヴォーカルがさらに枯れた味わいを醸し出しています。特にストリングスが盛り上がる後半はアレンジメントの力量も窺わせます。
<評点>
・サウンド ★★★ (あくまでギター中心だが随所のシンセ音色にはこだわりが)
・メロディ ★★★★ (さすがにマイナー調を巧みに使ったメロディセンスは非凡)
・リズム ★★ (小田原豊や松永俊弥らのキレのあるリズムはまさに旬の味)
・曲構成 ★★ (デビュー作なのでもう少し楽曲を集めてもよかったのでは)
・個性 ★★★ (確かに地味ではあるが土橋の声質だけでも存在感を感じる)
総合評点: 8点
土橋安騎夫:vocal・keyboards・chorus

1.「EVEN WITH YOU」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
2.「MONDAY PARK」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
3.「JENNY」 詞:宮原芽映 曲:土橋安騎夫 編:土橋安騎夫・斉藤ネコ
4.「SKIPPIN' STREET」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
5.「WALKING TO NOWHERE」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
6.「PERMANENT DRIVE」 詞:宮原芽映 曲・編:土橋安騎夫
7.「JENNY REPRISE」 曲:土橋安騎夫 編:土橋安騎夫・斉藤ネコ
<support musician>
伊藤浩樹:guitars
是永巧一:electric guitar
Silbert Co'Saliban:acoustic guitar
浅田孟:bass
小池ヒロミチ:bass
高橋教之:bass
根岸孝旨:bass
今川勉:drums
小田原豊:drums
松永俊弥:drums
中島オバヲ:percussion
矢口博康:sax
ネコと元気なストリングス:strings
斉藤ネコ:strings arrangement
produced by 土橋安騎夫
engineered by 大森政人
● 渋く淡々としたボーカル!キレがあり広がりを感じさせるサウンドの話題作
80年代に一世を風靡したガールズPOPSの元祖的なバンドであるレベッカは、ヴォーカルのNOKKOのパフォーマンスによる人気もさることながら、ほとんどの楽曲を手掛けるキーボーディスト、土橋安騎夫のメロディメイク能力により数々の名曲を生み出してきたことは周知の事実です。一躍超一流バンドの仲間入りを果たした彼らは、他の大御所バンドがたどる経過と同じくメンバーそれぞれソロ活動を開始しますが、レベッカの楽曲を支える土橋も例外なくソロとしてデビューすることになります。メロディメイカーとしての才能が認められつつあった土橋がソロとしてどのような作品をリリースするのか注目を集めましたが、キーボードテクニックを見せつけるのではなく、あくまでメロディを聴かせるクオリティの高いPOPSアルバムに仕上げました。それがデビュー作である本作となります。
打ち込み全盛の当時にあってキーボーディストであるがために、カラフルなシンセ音色に囲まれたサウンドも予想されましたが、あくまでメロディを前面に押し出し、さらにECHOESのギタリスト伊藤浩樹を迎えたギターを中心とした生演奏を基調としたサウンドを志向しています。「EVEN WITH YOU」「PERMANENT DRIVE」といった開放的なギターロック(&POPS)は本作のハイライトとなっていますが、そこはキーボーディスト。バンドサウンドに埋もれながらも細かいシンセを音の奥に忍ばせるような隠し味的使い方に徹しています。そして忘れてはならないのは土橋自身の味わい深いヴォーカルで、ニューロマの匂いすら感じさせる哀愁がかったマイナー調がよく似合う線の細い金属的な声質が、楽曲の雰囲気を決定づけていることは否定できません。当時土橋自身が考えられ得るPOPソングの姿を表現した作品集という点で、地味ながら再評価すべき作品であると思います(現在廃盤であるのが残念ではあります)。
<Favorite Songs>
・「EVEN WITH YOU」
出だしのシーケンスはエレクトリック風味であるものの基本はバンドサウンドに仕上がったオープニング曲。ギターリフが印象的なこの楽曲のキモは、サビに進むにしたがって徐々にメジャー調からマイナー調に変化していくメロディです。こうした雰囲気作りに彼は優れているのです。
・「JENNY」
アコースティックな肌触りのミディアムバラード。ストリングスが大活躍するソフトロック的サウンドに、彼特有の乾いた線の細いヴォーカルがさらに枯れた味わいを醸し出しています。特にストリングスが盛り上がる後半はアレンジメントの力量も窺わせます。
<評点>
・サウンド ★★★ (あくまでギター中心だが随所のシンセ音色にはこだわりが)
・メロディ ★★★★ (さすがにマイナー調を巧みに使ったメロディセンスは非凡)
・リズム ★★ (小田原豊や松永俊弥らのキレのあるリズムはまさに旬の味)
・曲構成 ★★ (デビュー作なのでもう少し楽曲を集めてもよかったのでは)
・個性 ★★★ (確かに地味ではあるが土橋の声質だけでも存在感を感じる)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「STEVE MCQUEEN」 PREFAB SPROUT
「STEVE MCQUEEN」(1985 Kitchenware)
PREFAB SPROUT

<members>
Paddy McAloon:vocals・guitars
Martin McAloon:bass
Wendy Smith:backing vocals
Neil Conti:drums
1.「FARON」 Paddy McAloon
2.「BONNY」 Paddy McAloon
3.「APPETITE」 Paddy McAloon
4.「WHEN LOVE BREAKS DOWN」 Paddy McAloon
5.「GOODBYE LUCILLE #1」 Paddy McAloon
6.「HALLELUJAH」 Paddy McAloon
7.「MOVING THE RIVER」 Paddy McAloon
8.「HORSIN' AROUND」 Paddy McAloon
9.「DESIRE AS」 Paddy McAloon
10.「BLUEBERRY PIES」 Paddy McAloon
11.「WHEN THE ANGELS」 Paddy McAloon
<support musician>
Thomas Dolby:all instruments
Kevin Armstrong:guitar
Mark Lockhart:sax
produced by Thomas Dolby・Phil Thornally
mixing engineered by Nick Shipley・Thomas Dolby
recording engineered by Tim Hunt・Brian Evans・Andy Scarth・Chris Sheldon
● 類い稀なメロディセンスにCOOLにして透き通ったシンセサウンドが溶け合ったPOP史に残る名盤
UK POPS界において有数のセンチメンタルポップグループといえるPrefab Sproutはネオアコの旗手として84年にアルバム「Swoon」でデビューしました。当時はまさしくアコースティックギター基調の瑞々しいギターポップという趣でしたが、既にニューウェーブアーティストとしての地位を確立していたThomas Dolbyをプロデューサーに迎えた本作(本国では「Two Feels Good」というタイトルでリリース)が出世作となり、Paddy McAloonのメロディメイカーとしての才能も開花していくことになります。80年代も中盤を迎え高揚していく世の中に合わせるかのように派手さを増していくサウンドが横行していく中で、あくまでCOOLに落ち着きのある、それでいてロマンティックな響きを持つメロディを生かした楽曲はある意味異彩を放っていたと言えるのではないでしょうか。
前述のように本作のプロデュースを務めるのが「She Blinded Me With Science」の大ヒットで知られるマッドサウンドプロデューサーThomas Dolbyで、彼は名作と言われる本作の功労者と言っても過言ではありません。もともとメロディメイカーとしての素養があったPaddy McAloonの楽曲を、メロディを引き立たせるように控えめながら主張の激しいエレクトリックサウンドをまぶしたファンタジックなサウンドメイクで楽曲の幅を広げ、一気にPrefab独自の世界観の構築を成し遂げてしまいました。また、彼らはWendy Smithという独特のコーラスをメンバーに持つある意味変則的な構成のバンドですが、彼女の感情のこもらないどこおか機械的な歌唱を、エフェクティブに処理しながら存在を際立たせているのも本作の特徴です。Thomas Dolbyの緻密なサウンドとWendyの個性的な声質がPaddyが創り出す楽曲をよりロマンティックに、よりメランコリックに仕上げています。このように世界観を確立すると同時に、バンドとして数段レベルアップした彼らは、その後大作「Jordan:The Comeback」をはじめ名作を連発していきます。本作は歴史に残る稀代のPOPSバンドがはばたくきっかけとなったPOPS界における重要作と言えるのです。
<Favorite Songs>
・「WHEN LOVE BREAKS DOWN」
シングルカットされた瑞々しい感性が全開となった名曲。涼しげなシンセ音色が目立っており、Wendyのコーラスも宗教がかっているかのように幻想的です。そのドリーミーな音処理もあって世界観の確立ぶりが尋常でないことがわかります。
・「DESIRE AS」
いかにもThomas Dolbyサウンド(というよりほとんど彼のソロと見まがうほど)といった趣のミステリアスなバラード。チープなシンセパッドの音色が印象的で、エレクトリック主導のサウンドにサックスが絡む構成などは、往年の高橋幸宏のソロ楽曲を彷佛とさせるほどです。
・「WHEN THE ANGELS」
アルバムのラストを飾る爽やかなポップチューン。珍しくシーケンスフレーズに乗った涼しげかつキャッチーなサビがこの楽曲の命であるが、ここでもWendyの美声の存在感が素晴らしく、間違いなく本作のハイライトとなる楽曲です。しかしそれでいて決して熱くならない。ここにPrefab Sproutたるゆえんが隠されているのではないかと思うのです。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (派手さを抑えた大人のシンセサウンドメイキング)
・メロディ ★★★★★ (しゃれた雰囲気に持ち前のメロディセンスが見事に開花)
・リズム ★★★ (実はMartin & Neilの堅実なリズムワークも欠かせない)
・曲構成 ★★★ (盛り上がる楽曲はないものの良曲揃いで無駄がない)
・個性 ★★★★ (2ndにして早くも個性は確立し以後熟成をはかることに)
総合評点: 9点
PREFAB SPROUT

<members>
Paddy McAloon:vocals・guitars
Martin McAloon:bass
Wendy Smith:backing vocals
Neil Conti:drums
1.「FARON」 Paddy McAloon
2.「BONNY」 Paddy McAloon
3.「APPETITE」 Paddy McAloon
4.「WHEN LOVE BREAKS DOWN」 Paddy McAloon
5.「GOODBYE LUCILLE #1」 Paddy McAloon
6.「HALLELUJAH」 Paddy McAloon
7.「MOVING THE RIVER」 Paddy McAloon
8.「HORSIN' AROUND」 Paddy McAloon
9.「DESIRE AS」 Paddy McAloon
10.「BLUEBERRY PIES」 Paddy McAloon
11.「WHEN THE ANGELS」 Paddy McAloon
<support musician>
Thomas Dolby:all instruments
Kevin Armstrong:guitar
Mark Lockhart:sax
produced by Thomas Dolby・Phil Thornally
mixing engineered by Nick Shipley・Thomas Dolby
recording engineered by Tim Hunt・Brian Evans・Andy Scarth・Chris Sheldon
● 類い稀なメロディセンスにCOOLにして透き通ったシンセサウンドが溶け合ったPOP史に残る名盤
UK POPS界において有数のセンチメンタルポップグループといえるPrefab Sproutはネオアコの旗手として84年にアルバム「Swoon」でデビューしました。当時はまさしくアコースティックギター基調の瑞々しいギターポップという趣でしたが、既にニューウェーブアーティストとしての地位を確立していたThomas Dolbyをプロデューサーに迎えた本作(本国では「Two Feels Good」というタイトルでリリース)が出世作となり、Paddy McAloonのメロディメイカーとしての才能も開花していくことになります。80年代も中盤を迎え高揚していく世の中に合わせるかのように派手さを増していくサウンドが横行していく中で、あくまでCOOLに落ち着きのある、それでいてロマンティックな響きを持つメロディを生かした楽曲はある意味異彩を放っていたと言えるのではないでしょうか。
前述のように本作のプロデュースを務めるのが「She Blinded Me With Science」の大ヒットで知られるマッドサウンドプロデューサーThomas Dolbyで、彼は名作と言われる本作の功労者と言っても過言ではありません。もともとメロディメイカーとしての素養があったPaddy McAloonの楽曲を、メロディを引き立たせるように控えめながら主張の激しいエレクトリックサウンドをまぶしたファンタジックなサウンドメイクで楽曲の幅を広げ、一気にPrefab独自の世界観の構築を成し遂げてしまいました。また、彼らはWendy Smithという独特のコーラスをメンバーに持つある意味変則的な構成のバンドですが、彼女の感情のこもらないどこおか機械的な歌唱を、エフェクティブに処理しながら存在を際立たせているのも本作の特徴です。Thomas Dolbyの緻密なサウンドとWendyの個性的な声質がPaddyが創り出す楽曲をよりロマンティックに、よりメランコリックに仕上げています。このように世界観を確立すると同時に、バンドとして数段レベルアップした彼らは、その後大作「Jordan:The Comeback」をはじめ名作を連発していきます。本作は歴史に残る稀代のPOPSバンドがはばたくきっかけとなったPOPS界における重要作と言えるのです。
<Favorite Songs>
・「WHEN LOVE BREAKS DOWN」
シングルカットされた瑞々しい感性が全開となった名曲。涼しげなシンセ音色が目立っており、Wendyのコーラスも宗教がかっているかのように幻想的です。そのドリーミーな音処理もあって世界観の確立ぶりが尋常でないことがわかります。
・「DESIRE AS」
いかにもThomas Dolbyサウンド(というよりほとんど彼のソロと見まがうほど)といった趣のミステリアスなバラード。チープなシンセパッドの音色が印象的で、エレクトリック主導のサウンドにサックスが絡む構成などは、往年の高橋幸宏のソロ楽曲を彷佛とさせるほどです。
・「WHEN THE ANGELS」
アルバムのラストを飾る爽やかなポップチューン。珍しくシーケンスフレーズに乗った涼しげかつキャッチーなサビがこの楽曲の命であるが、ここでもWendyの美声の存在感が素晴らしく、間違いなく本作のハイライトとなる楽曲です。しかしそれでいて決して熱くならない。ここにPrefab Sproutたるゆえんが隠されているのではないかと思うのです。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (派手さを抑えた大人のシンセサウンドメイキング)
・メロディ ★★★★★ (しゃれた雰囲気に持ち前のメロディセンスが見事に開花)
・リズム ★★★ (実はMartin & Neilの堅実なリズムワークも欠かせない)
・曲構成 ★★★ (盛り上がる楽曲はないものの良曲揃いで無駄がない)
・個性 ★★★★ (2ndにして早くも個性は確立し以後熟成をはかることに)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「檸檬の月」 小川美潮
「檸檬の月」(1993 エピックソニー)
小川美潮:vox・keyboard・background vocals

1.「はじめて」 詞:小川美潮 曲:小川美潮・板倉文 編:板倉文
2.「檸檬の月」 詞:工藤順子 曲・編:板倉文
3.「ふたつのドア」 詞:工藤順子 曲・編:近藤達郎
4.「SHANBHALINE I」 詞:小川美潮 曲・編:板倉文
5.「SHANBHALINE II」 曲・編:板倉文
6.「TALL NOSER」 詞:小川美潮 曲・編:板倉文
7.「DEAR MR. OPTIMIST」 詞・曲:小川美潮 編:板倉文
8.「MONDAY」 詞:工藤順子 曲:小川美潮 編:板倉文
9.「CHAT SHOW」 詞:小川美潮 曲・編:Ma*To
10.「BLUE」 詞・曲:小川美潮 編:小川美潮・板倉文
<support musician>
板倉文:electric guitar・steel guitar・acoustic guitar・synthesizer・piano・sound effect
浦山秀彦:acoustic guitarelectric ・guitar
MECKEN:bass・lo-curve fx・percussion loop
青山純:drums・hi-hat
BAnΛNA-UG:synthesizer・piano
Ma*To:synthesizer・computer programming・edit
近藤達郎:synthesizer・piano・harmonica・Hammond organ・clavinet・sound effect
大川俊司:synth-bass
Whacho:percussion
村田陽一:trombone
相馬充:flute
平原まこと:flute・alto flute
小曽根みほ:clarinet
山根公男:clarinet
及川豪:bass clarinet
森田格:fagotto
Sandii:background vocals
福岡ユタカ:background vocals
高橋章:computer & synthesizer programming
produced by 小川美潮・板倉文・福岡知彦
mixing engineered by 大森政人
recording engineered by 大森政人・松田龍太
● 板倉文の復帰により得意のほのぼの美潮POPSの完成型を見たいまだ最新の名作アルバム
チャクラ時代から現在のウズマキマズウに至るまで首尾一貫した音楽性を持つ稀代のヴォーカリスト、小川美潮は90年代にEPIC3部作と呼ばれる素晴らしいアルバムを3枚続けてリリースしています。91年の「4 to 3」、92年の「ウレシイノモト」に続いてリリースされたのが本作「檸檬の月」で、精神的に開放される「4 to 3」や肉感的な躍動感にあふれる「ウレシイノモト」に続く作品ということで小川美潮流コンテンポラリーPOPSの完成型ともいえる名盤として語り継がれている作品です。いつもの気心の知れたメンバーによる安定感抜群の演奏とナチュラルでどこかファニーな小川ヴォーカル、そしてプログレを通過したような凝りまくったアレンジ力は、いま現在でも他の追随を許さない程のクオリティを誇っているのです。
また、本作では前作「ウレシイノモト」で一旦身を引いた盟友、板倉文が中心的アレンジャーに返り咲いており(10曲中8曲を担当)、「4 to 3」のサウンドに回帰した印象を受けます。板倉もこれまで溜めていたものを吐き出すかのように、独特の変拍子リズムとモヤッとした不思議サウンドを随所に織り交ぜながら持ち味を十二分に発揮しています。とはいえ、楽曲そのもののスケールは「4 to 3」時よりも格段にUPしていて、それが演奏陣の力量の向上なのか、アレンジなのか、メロディの充実度によるものかは定かではありませんが、壮大な中にはっきりしないモヤがかった何かが感じられた「4 to 3」と比較して、吹っ切れたようなピースソングが満載で、さらに温かみが増したような印象を受けるのです。「はじめて」「DEAR MR. OPTIMIST」なんかはその最たる楽曲であると思われます。個人的にはプログレ色満載の「SHANBHALINE I」、オシャレな新境地「TALL NOSER」や遊び心に溢れた「CHAT SHOW」のような冒険心のある部分も非常に評価したい部分です。
これほどの名作を残した小川美潮もソロとしてはアルバムを残さず地道にライブ活動を繰り返し、現在はこの当時のメンバーを中心にウズマキマズウを結成し、今も変わらぬ奔放で唯一無二の小川POPSを繰り広げています。昨年はウズマキマズウの新作もリリースされ、その健在ぶりをアピールしています。
<Favorite Songs>
・「ふたつのドア」
歌詞、メロディ、アレンジすべてが高水準にあるこれぞ名曲の誉れ高い楽曲。風通しの良いAメロ、壮大なメロディが光るブリッジ、後半のたたみかけるサビなど聴き所は満載です。地味だと思わせながら玄人好みの凝り性サウンドが近藤達郎アレンジたるゆえんでしょうか。
・「TALL NOSER」
本作中最もオシャレなナンバーで小川のヴォーカリストとしての力量が発揮された楽曲。いつもの小川POPSらしくない俗っぽい楽曲の印象ですが、青山純の叩き出すグルーヴ満点のリズムがかっこ良過ぎます。またこのような踊れるような楽曲をリズム感抜群のフェイクでこなす小川美潮の楽曲への適応能力もさすがの一言です。
・「CHAT SHOW」
Ma*Toの十八番であるエディットしまくりのトリッキーな実験的ナンバー。他の楽曲にないほどのエレクトリックな質感で、小川のヴォーカルもエフェクティブにデフォルメされたり、楽曲そのもののスピードを緩くしたりと、Ma*Toらしい遊び心の感じられるやりたい放題加減が、癒し系中心の本作にあって異色であり、格好のアクセントにもなっています。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (安定感と深みを増したサウンドと演奏は円熟の域に達する)
・メロディ ★★★★★ (親しみやすい中にもテクニカルなフレーズも忘れない)
・リズム ★★★★ (楽曲によって非常に複雑な技を見せつける熟練のリズム隊)
・曲構成 ★★★ (ラストの「BLUE」がもう少し盛り上がればよかったが)
・個性 ★★★★★ (板倉も戻って小川POPSはここに完成を見たと言える)
総合評点: 9点
小川美潮:vox・keyboard・background vocals

1.「はじめて」 詞:小川美潮 曲:小川美潮・板倉文 編:板倉文
2.「檸檬の月」 詞:工藤順子 曲・編:板倉文
3.「ふたつのドア」 詞:工藤順子 曲・編:近藤達郎
4.「SHANBHALINE I」 詞:小川美潮 曲・編:板倉文
5.「SHANBHALINE II」 曲・編:板倉文
6.「TALL NOSER」 詞:小川美潮 曲・編:板倉文
7.「DEAR MR. OPTIMIST」 詞・曲:小川美潮 編:板倉文
8.「MONDAY」 詞:工藤順子 曲:小川美潮 編:板倉文
9.「CHAT SHOW」 詞:小川美潮 曲・編:Ma*To
10.「BLUE」 詞・曲:小川美潮 編:小川美潮・板倉文
<support musician>
板倉文:electric guitar・steel guitar・acoustic guitar・synthesizer・piano・sound effect
浦山秀彦:acoustic guitarelectric ・guitar
MECKEN:bass・lo-curve fx・percussion loop
青山純:drums・hi-hat
BAnΛNA-UG:synthesizer・piano
Ma*To:synthesizer・computer programming・edit
近藤達郎:synthesizer・piano・harmonica・Hammond organ・clavinet・sound effect
大川俊司:synth-bass
Whacho:percussion
村田陽一:trombone
相馬充:flute
平原まこと:flute・alto flute
小曽根みほ:clarinet
山根公男:clarinet
及川豪:bass clarinet
森田格:fagotto
Sandii:background vocals
福岡ユタカ:background vocals
高橋章:computer & synthesizer programming
produced by 小川美潮・板倉文・福岡知彦
mixing engineered by 大森政人
recording engineered by 大森政人・松田龍太
● 板倉文の復帰により得意のほのぼの美潮POPSの完成型を見たいまだ最新の名作アルバム
チャクラ時代から現在のウズマキマズウに至るまで首尾一貫した音楽性を持つ稀代のヴォーカリスト、小川美潮は90年代にEPIC3部作と呼ばれる素晴らしいアルバムを3枚続けてリリースしています。91年の「4 to 3」、92年の「ウレシイノモト」に続いてリリースされたのが本作「檸檬の月」で、精神的に開放される「4 to 3」や肉感的な躍動感にあふれる「ウレシイノモト」に続く作品ということで小川美潮流コンテンポラリーPOPSの完成型ともいえる名盤として語り継がれている作品です。いつもの気心の知れたメンバーによる安定感抜群の演奏とナチュラルでどこかファニーな小川ヴォーカル、そしてプログレを通過したような凝りまくったアレンジ力は、いま現在でも他の追随を許さない程のクオリティを誇っているのです。
また、本作では前作「ウレシイノモト」で一旦身を引いた盟友、板倉文が中心的アレンジャーに返り咲いており(10曲中8曲を担当)、「4 to 3」のサウンドに回帰した印象を受けます。板倉もこれまで溜めていたものを吐き出すかのように、独特の変拍子リズムとモヤッとした不思議サウンドを随所に織り交ぜながら持ち味を十二分に発揮しています。とはいえ、楽曲そのもののスケールは「4 to 3」時よりも格段にUPしていて、それが演奏陣の力量の向上なのか、アレンジなのか、メロディの充実度によるものかは定かではありませんが、壮大な中にはっきりしないモヤがかった何かが感じられた「4 to 3」と比較して、吹っ切れたようなピースソングが満載で、さらに温かみが増したような印象を受けるのです。「はじめて」「DEAR MR. OPTIMIST」なんかはその最たる楽曲であると思われます。個人的にはプログレ色満載の「SHANBHALINE I」、オシャレな新境地「TALL NOSER」や遊び心に溢れた「CHAT SHOW」のような冒険心のある部分も非常に評価したい部分です。
これほどの名作を残した小川美潮もソロとしてはアルバムを残さず地道にライブ活動を繰り返し、現在はこの当時のメンバーを中心にウズマキマズウを結成し、今も変わらぬ奔放で唯一無二の小川POPSを繰り広げています。昨年はウズマキマズウの新作もリリースされ、その健在ぶりをアピールしています。
<Favorite Songs>
・「ふたつのドア」
歌詞、メロディ、アレンジすべてが高水準にあるこれぞ名曲の誉れ高い楽曲。風通しの良いAメロ、壮大なメロディが光るブリッジ、後半のたたみかけるサビなど聴き所は満載です。地味だと思わせながら玄人好みの凝り性サウンドが近藤達郎アレンジたるゆえんでしょうか。
・「TALL NOSER」
本作中最もオシャレなナンバーで小川のヴォーカリストとしての力量が発揮された楽曲。いつもの小川POPSらしくない俗っぽい楽曲の印象ですが、青山純の叩き出すグルーヴ満点のリズムがかっこ良過ぎます。またこのような踊れるような楽曲をリズム感抜群のフェイクでこなす小川美潮の楽曲への適応能力もさすがの一言です。
・「CHAT SHOW」
Ma*Toの十八番であるエディットしまくりのトリッキーな実験的ナンバー。他の楽曲にないほどのエレクトリックな質感で、小川のヴォーカルもエフェクティブにデフォルメされたり、楽曲そのもののスピードを緩くしたりと、Ma*Toらしい遊び心の感じられるやりたい放題加減が、癒し系中心の本作にあって異色であり、格好のアクセントにもなっています。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (安定感と深みを増したサウンドと演奏は円熟の域に達する)
・メロディ ★★★★★ (親しみやすい中にもテクニカルなフレーズも忘れない)
・リズム ★★★★ (楽曲によって非常に複雑な技を見せつける熟練のリズム隊)
・曲構成 ★★★ (ラストの「BLUE」がもう少し盛り上がればよかったが)
・個性 ★★★★★ (板倉も戻って小川POPSはここに完成を見たと言える)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「ESCAPE from DIMENSION」 菊池桃子
「ESCAPE from DIMENSION」(1987 バップ)
菊池桃子:vocal

1.「STARLIGHT MOVEMENT」 詞:青木久美子 曲・編:林哲司
2.「DREAMIN' RIDER」 詞:有川正沙子 曲:林哲司 編:鷺巣詩郎
3.「YOKOHAMA CITY OF LIGHTS」 詞:売野雅勇 曲:林哲司 編:鷺巣詩郎
4.「SAY YES!」 詞:売野雅勇 曲・編:林哲司
5.「IVORY COAST」 詞:売野雅勇 曲:林哲司 編:久石譲
6.「NON STOP THE RAIN」 詞:青木久美子 曲・編:林哲司
7.「LAST RUNNER」 詞:売野雅勇 曲・編:林哲司
8.「夜明けのバスターミナル」 詞:有川正沙子 曲・編:林哲司
9.「SUNDIAL」 詞:売野雅勇 曲:林哲司 編:鷺巣詩郎
<support musician>
今 剛:electric guitar
松原正樹:electric guitar
鳴海寛:acoustic guitar
吉川忠英:acoustic guitar
富倉安生:bass
青山純:drums
山木秀夫:drums
村上"ポンタ"秀一:drums
鷺巣詩郎:keyboards
富樫春生:keyboards
久石譲:keyboards
山田秀俊:keyboards
浜口茂外也:percussion
生明慶二:dulcimer
数原晋:flugel horn
旭 孝:quena
八木のぶお:mouth harp
木戸泰弘:chorus
比山貴咏史:chorus
広谷順子:chorus
梅原篤:synthesizer programming
助川宏:synthesizer programming
produced by 藤田浩一
sound produced by 藤田浩一
mixing engineer by 清水邦彦・大川正義
recording engineer by 清水邦彦・大川正義・関根辰夫・松岡義昭・吉井聡
● ソリッドで攻撃的なシンセが新境地!後のラ・ムー時代の到来を告げる意欲作
林哲司とのコンビによるアイドルとしては陰りのある哀愁のメロディが好評だった菊池桃子楽曲は、「雪に書いたラブレター」や「卒業」などの大ヒット曲によって一時代を築きましたが、リリースしたアルバムでは一貫としてほとんどAORと言ってもおかしくないほどのシティポップ調の楽曲を並べクオリティの高さを誇っていました。そしてヒット曲も一段落して世間一般でいうところの全盛期を過ぎた頃、次なる戦略へ向かおうとした転換期のアルバムとしてリリースされたのが4thアルバムである本作です。それまでの菊池の作風は林哲司がその名をしらしめたリゾートミュージック寄りのメロディと楽曲が多く、本作でも今までと同様に林哲司が全曲を担当して楽曲の雰囲気としては延長線上という印象ですが、編曲者に鷺巣詩郎や久石譲という新しい風を導入することで、シンセサウンドに厚みを増した感があります。
まず驚かされるのはこれまで以上に前面に押し出されているデジタルサウンドで、特に派手でねちっこいシンセフレーズに定評がある鷺巣詩郎が編曲を担当した「DREAMIN' RIDER」「YOKOHAMA CITY OF LIGHTS」や、当時はまだテクノ度の高かった久石譲編曲の「IVORY COAST」などはその激しいシンセの応酬によって形成されたこってりとしたサウンドがまさしく新境地としての確立を物語っています。こうした外部の編曲家を迎えた影響もあってか林哲司編曲の他の楽曲においてもベースをシンセに任せたエレクトロテイストの作品が多く、菊池のか弱いヴォーカルがそうしたどぎついサウンドに合わないかと思いきや、実は絶妙にマッチしているという新発見もあり、全体としてもTECHNOLOGY POPSとして評価されるべきシンセ度、エレクトリック度の高い作品に仕上がっていると思います。後に結成するラ・ムーが打ち込みブラックミュージックを歌謡曲に換骨奪胎したようなグループだったことを考えると本作なしではラ・ムーは生まれなかったと言ってもよいと思います。つまり、本作はラ・ムー前哨戦といってもよい転換期の重要作品と言えるのです。
<Favorite Songs>
・「DREAMIN' RIDER」
鷺巣詩郎をアレンジャーに迎えた激しいシンセサウンドで畳み掛けるアップテンポな楽曲。キレのあるシンセフレーズと強烈なオケヒットの派手さ加減は鷺巣アレンジの真骨頂とも言えます。激しい打ち込みPOPSと菊池ならではのウィスパーヴォーカルのマッチングは思いのほか絶妙です。
・「IVORY COAST」
今や大御所の作編曲家である久石譲がアレンジを担当したエキゾチックな名曲。本作中4、2を争うほどの打ち込み度の割合が高く、ケーナやダルシマーなどの民族楽器をテクノに紛れさせる実験性も忘れないサウンドメイキングはやはりただものではない感を漂わせています。コンセプト的にもシングル「Nile in Blue」の兄弟曲と言っても良いでしょう。
・「NON STOP THE RAIN」
林哲司お得意の哀愁メロディのエレクトロPOPS。テクノなシンセベースのシーケンスが印象的ですが、「Broken Sunset」以降エレクトロ度が高くなっていった菊池楽曲の象徴的な楽曲とも言えます。Bメロで一瞬メジャー調になってサビの哀愁メロを生かす構成にいつも感心させられます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (激しいシンセサウンドで意欲的で冒険色を強めた感がある)
・メロディ ★★★ (林哲司の菊池仕事には職人芸的丁寧さにあふれている)
・リズム ★★ (オーソドックスではあるが実はテクノ的リズムも多い)
・曲構成 ★ (シングル「SAY! YES」は必要なかったのでは)
・個性 ★★ (アイドル時代からの脱却を図ったとも言える)
総合評点: 7点
菊池桃子:vocal

1.「STARLIGHT MOVEMENT」 詞:青木久美子 曲・編:林哲司
2.「DREAMIN' RIDER」 詞:有川正沙子 曲:林哲司 編:鷺巣詩郎
3.「YOKOHAMA CITY OF LIGHTS」 詞:売野雅勇 曲:林哲司 編:鷺巣詩郎
4.「SAY YES!」 詞:売野雅勇 曲・編:林哲司
5.「IVORY COAST」 詞:売野雅勇 曲:林哲司 編:久石譲
6.「NON STOP THE RAIN」 詞:青木久美子 曲・編:林哲司
7.「LAST RUNNER」 詞:売野雅勇 曲・編:林哲司
8.「夜明けのバスターミナル」 詞:有川正沙子 曲・編:林哲司
9.「SUNDIAL」 詞:売野雅勇 曲:林哲司 編:鷺巣詩郎
<support musician>
今 剛:electric guitar
松原正樹:electric guitar
鳴海寛:acoustic guitar
吉川忠英:acoustic guitar
富倉安生:bass
青山純:drums
山木秀夫:drums
村上"ポンタ"秀一:drums
鷺巣詩郎:keyboards
富樫春生:keyboards
久石譲:keyboards
山田秀俊:keyboards
浜口茂外也:percussion
生明慶二:dulcimer
数原晋:flugel horn
旭 孝:quena
八木のぶお:mouth harp
木戸泰弘:chorus
比山貴咏史:chorus
広谷順子:chorus
梅原篤:synthesizer programming
助川宏:synthesizer programming
produced by 藤田浩一
sound produced by 藤田浩一
mixing engineer by 清水邦彦・大川正義
recording engineer by 清水邦彦・大川正義・関根辰夫・松岡義昭・吉井聡
● ソリッドで攻撃的なシンセが新境地!後のラ・ムー時代の到来を告げる意欲作
林哲司とのコンビによるアイドルとしては陰りのある哀愁のメロディが好評だった菊池桃子楽曲は、「雪に書いたラブレター」や「卒業」などの大ヒット曲によって一時代を築きましたが、リリースしたアルバムでは一貫としてほとんどAORと言ってもおかしくないほどのシティポップ調の楽曲を並べクオリティの高さを誇っていました。そしてヒット曲も一段落して世間一般でいうところの全盛期を過ぎた頃、次なる戦略へ向かおうとした転換期のアルバムとしてリリースされたのが4thアルバムである本作です。それまでの菊池の作風は林哲司がその名をしらしめたリゾートミュージック寄りのメロディと楽曲が多く、本作でも今までと同様に林哲司が全曲を担当して楽曲の雰囲気としては延長線上という印象ですが、編曲者に鷺巣詩郎や久石譲という新しい風を導入することで、シンセサウンドに厚みを増した感があります。
まず驚かされるのはこれまで以上に前面に押し出されているデジタルサウンドで、特に派手でねちっこいシンセフレーズに定評がある鷺巣詩郎が編曲を担当した「DREAMIN' RIDER」「YOKOHAMA CITY OF LIGHTS」や、当時はまだテクノ度の高かった久石譲編曲の「IVORY COAST」などはその激しいシンセの応酬によって形成されたこってりとしたサウンドがまさしく新境地としての確立を物語っています。こうした外部の編曲家を迎えた影響もあってか林哲司編曲の他の楽曲においてもベースをシンセに任せたエレクトロテイストの作品が多く、菊池のか弱いヴォーカルがそうしたどぎついサウンドに合わないかと思いきや、実は絶妙にマッチしているという新発見もあり、全体としてもTECHNOLOGY POPSとして評価されるべきシンセ度、エレクトリック度の高い作品に仕上がっていると思います。後に結成するラ・ムーが打ち込みブラックミュージックを歌謡曲に換骨奪胎したようなグループだったことを考えると本作なしではラ・ムーは生まれなかったと言ってもよいと思います。つまり、本作はラ・ムー前哨戦といってもよい転換期の重要作品と言えるのです。
<Favorite Songs>
・「DREAMIN' RIDER」
鷺巣詩郎をアレンジャーに迎えた激しいシンセサウンドで畳み掛けるアップテンポな楽曲。キレのあるシンセフレーズと強烈なオケヒットの派手さ加減は鷺巣アレンジの真骨頂とも言えます。激しい打ち込みPOPSと菊池ならではのウィスパーヴォーカルのマッチングは思いのほか絶妙です。
・「IVORY COAST」
今や大御所の作編曲家である久石譲がアレンジを担当したエキゾチックな名曲。本作中4、2を争うほどの打ち込み度の割合が高く、ケーナやダルシマーなどの民族楽器をテクノに紛れさせる実験性も忘れないサウンドメイキングはやはりただものではない感を漂わせています。コンセプト的にもシングル「Nile in Blue」の兄弟曲と言っても良いでしょう。
・「NON STOP THE RAIN」
林哲司お得意の哀愁メロディのエレクトロPOPS。テクノなシンセベースのシーケンスが印象的ですが、「Broken Sunset」以降エレクトロ度が高くなっていった菊池楽曲の象徴的な楽曲とも言えます。Bメロで一瞬メジャー調になってサビの哀愁メロを生かす構成にいつも感心させられます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (激しいシンセサウンドで意欲的で冒険色を強めた感がある)
・メロディ ★★★ (林哲司の菊池仕事には職人芸的丁寧さにあふれている)
・リズム ★★ (オーソドックスではあるが実はテクノ的リズムも多い)
・曲構成 ★ (シングル「SAY! YES」は必要なかったのでは)
・個性 ★★ (アイドル時代からの脱却を図ったとも言える)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「in style」 VARIETE
「in style」(1985 アルファ)
VARIETE

<members>
有近真澄:vocals・chorus arrangement
浜田康史:drums・percussions
錦織幸也:acoustic guitars
鶴来正基:piano・keyboards・alto sax・strings arrangement
山田多理:our style・occational keyboards
1.「Divine」 詞:有近真澄 曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
2.「ミセスの不思議」 詞:有近真澄 曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
3.「Sugar Yellow」 詞:有近真澄 曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
4.「白鳥」 詞・曲:有近真澄 編:山田多理 with VARIETEAM・有近真澄
5.「Tarzan & Jane in Paris」 詞・曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
6.「These Melodramatic Things」
詞:山田多理 曲:有近真澄 編:山田多理 with VARIETEAM
7.「まるでジャングルナイト」
詞:Alan Jay Lerner(訳詞:有近真澄・山田多理) 曲:Frederick Loewe 編:山田多理 with VARIETEAM・鶴来正基
8.「Francis Grey」
詞:山田多理 曲:山田多理・有近真澄・鶴来正基 編:山田多理 with VARIETEAM
9.「ある晴れた日に」 詞:有近真澄 曲:山田多理 編:上野耕路
10.「Balconey Serenade」 詞・曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
<support musician>
内田健太郎:electric bass
榊原雄一:electric bass
上野耕路:piano
福井崚:accordion
金子飛鳥:violin
美尾洋乃:violin
渡辺等:cello・double bass
Anne Flaviat:voice
有近オウコ:voice
佐々木麻美子:voice
Aja Jefferson:chorus
Ameria Maria:chorus
Barbara Jackson:chorus
Francesca Piovanell:chorus
Mary Daniells:chorus
Monica Ferrari:chorus
Rita Miles:chorus
Sarah Smith:chorus
市原ナツコ:chorus
小川フミ:chorus
鎌形カズコ:chorus
佐野ユキコ:chorus
志村理恵:chorus
菅原ケイコ:chorus
竹島キミエ:chorus
細田博子:chorus
三須知子:chorus
produced by 山田多理
engineered by 土井章嗣
● フレンチを基調にしたセレブかつミュージカル仕立てのコンセプチュアルユニットのデビュー作
YMO以後にアルファレコードから生まれたレーベルEDGEはポストニューウェーブを狙ったのかP-MODELやZEROSPECTRE、TENSAWのメンバーが始めたニューウェーブバンドPOISON POPといったバンドが在籍し、一筋縄ではいかないひねくれたニューウェーブ風ロック&ポップを展開していました。このヴァリエテ(VARIETE)もEDGEレーベルに在籍したニューウェーブ基調のグループで、あからさまなフレンチポップへの影響をモロ出しにした音楽性で80年代の軽薄さをイメージさせる雰囲気を醸し出していました。作詞家星野哲郎を父に持つ舞台俳優でもあった有近真澄の甲高いユニセックスなヴォーカルの楽曲を、全体のサウンドをクリエイトする山田多理(いまだに何の楽器を担当しているのかわからない)がいかに料理するかが勝負のようで、彼の計算し尽くされたフレンチPOPSのパロディ的楽曲で注目されないまでも確かな記憶だけは残したグループではなかったかと思います。
本作は彼らの記念すべきデビュー作で、全体が歯の浮くようなフレンチPOPSをデジタル化したような楽曲で占められています。キュートでウィスパーな女性ヴォーカルを擁した男女ユニットなんかではこうしたジャンルの楽曲は多々ありますが、彼らはむつくけき男5人バンドであり、彼らが恥ずかしげもなくこうした楽曲を展開できるのは潔いと感じてしまいます。その時点で山田多理の策略にハマっているのかもしれませんが。こうした楽曲、ひいては活動自体が演技しているようなコンセプチュアルなバンドは、それゆえにサウンドがみすぼらしくてはただのパフォーマンスバンドになってしまうのですが、そこはさすがに本気で演技するただものではないヴァリエテで、山田の疑似フレンチサウンドを後に遊佐未森のバックバンド等作編曲家としても活躍した鶴来正基をはじめとしたメンバーの確かな演奏力と金子飛鳥、美尾洋乃、渡辺等といったニューウェーブ御用達のストリングス陣の見事な雰囲気作りで、ドラマティックな音に仕上がっています。本作はCD化もされずレコードでしか聴くことができませんが、いつの日か陽の目を見ることを願ってやみません。なお、ヴァリエテはその後1枚アルバムをリリースした後、あっさりと活動を停止してしまいます。
<Favorite Songs>
・「Divine」
乾いたギターリフとピアノが爽やかなオープニングナンバー。小粋ながらどこか人を食ったスカした感じが彼ららしいです。トランペットのフレーズもサンプラーとおぼしきストリングスの音色もどれもが乾いたカラッとした感じです。
・「白鳥」
ミュージカル仕立てなのか老舗バレエ劇団の劇伴をパロディにしたような人を食ったような小楽曲。ストリングスとピアノを中心としていますが、やはり劇団チックな合いの手が素晴らしく、恐らくこのジャンルに手をつけるバンドは現在もそういないのではないかと思います。
・「Tarzan & Jane in Paris」
小気味良いリズムによるフレンチポップインスト。Pizzicato Fiveの初代ヴォーカル佐々木麻美子がその特徴的なキュートなボイスで全てを持っていってしまっています。アコーディオンにしてもハンドクラップにしても演奏には隙がなく、やはり一筋縄ではいかないもどかしさすら感じます。
<評点>
・サウンド ★★★ (これだけ演奏力が目立ちながら打ち込みの印象が強い)
・メロディ ★ (どこかで聴いたことのあるフレンチ的メロディが満載)
・リズム ★★ (生も機械もこのノングルーヴっぽいリズムが特徴的)
・曲構成 ★★ (フレンチな楽曲より何よりコンセプトに筋が通っている)
・個性 ★★★ (男性バンドでこのサウンドは恐らく現在までもなかった)
総合評点: 7点
VARIETE

<members>
有近真澄:vocals・chorus arrangement
浜田康史:drums・percussions
錦織幸也:acoustic guitars
鶴来正基:piano・keyboards・alto sax・strings arrangement
山田多理:our style・occational keyboards
1.「Divine」 詞:有近真澄 曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
2.「ミセスの不思議」 詞:有近真澄 曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
3.「Sugar Yellow」 詞:有近真澄 曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
4.「白鳥」 詞・曲:有近真澄 編:山田多理 with VARIETEAM・有近真澄
5.「Tarzan & Jane in Paris」 詞・曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
6.「These Melodramatic Things」
詞:山田多理 曲:有近真澄 編:山田多理 with VARIETEAM
7.「まるでジャングルナイト」
詞:Alan Jay Lerner(訳詞:有近真澄・山田多理) 曲:Frederick Loewe 編:山田多理 with VARIETEAM・鶴来正基
8.「Francis Grey」
詞:山田多理 曲:山田多理・有近真澄・鶴来正基 編:山田多理 with VARIETEAM
9.「ある晴れた日に」 詞:有近真澄 曲:山田多理 編:上野耕路
10.「Balconey Serenade」 詞・曲:山田多理 編:山田多理 with VARIETEAM
<support musician>
内田健太郎:electric bass
榊原雄一:electric bass
上野耕路:piano
福井崚:accordion
金子飛鳥:violin
美尾洋乃:violin
渡辺等:cello・double bass
Anne Flaviat:voice
有近オウコ:voice
佐々木麻美子:voice
Aja Jefferson:chorus
Ameria Maria:chorus
Barbara Jackson:chorus
Francesca Piovanell:chorus
Mary Daniells:chorus
Monica Ferrari:chorus
Rita Miles:chorus
Sarah Smith:chorus
市原ナツコ:chorus
小川フミ:chorus
鎌形カズコ:chorus
佐野ユキコ:chorus
志村理恵:chorus
菅原ケイコ:chorus
竹島キミエ:chorus
細田博子:chorus
三須知子:chorus
produced by 山田多理
engineered by 土井章嗣
● フレンチを基調にしたセレブかつミュージカル仕立てのコンセプチュアルユニットのデビュー作
YMO以後にアルファレコードから生まれたレーベルEDGEはポストニューウェーブを狙ったのかP-MODELやZEROSPECTRE、TENSAWのメンバーが始めたニューウェーブバンドPOISON POPといったバンドが在籍し、一筋縄ではいかないひねくれたニューウェーブ風ロック&ポップを展開していました。このヴァリエテ(VARIETE)もEDGEレーベルに在籍したニューウェーブ基調のグループで、あからさまなフレンチポップへの影響をモロ出しにした音楽性で80年代の軽薄さをイメージさせる雰囲気を醸し出していました。作詞家星野哲郎を父に持つ舞台俳優でもあった有近真澄の甲高いユニセックスなヴォーカルの楽曲を、全体のサウンドをクリエイトする山田多理(いまだに何の楽器を担当しているのかわからない)がいかに料理するかが勝負のようで、彼の計算し尽くされたフレンチPOPSのパロディ的楽曲で注目されないまでも確かな記憶だけは残したグループではなかったかと思います。
本作は彼らの記念すべきデビュー作で、全体が歯の浮くようなフレンチPOPSをデジタル化したような楽曲で占められています。キュートでウィスパーな女性ヴォーカルを擁した男女ユニットなんかではこうしたジャンルの楽曲は多々ありますが、彼らはむつくけき男5人バンドであり、彼らが恥ずかしげもなくこうした楽曲を展開できるのは潔いと感じてしまいます。その時点で山田多理の策略にハマっているのかもしれませんが。こうした楽曲、ひいては活動自体が演技しているようなコンセプチュアルなバンドは、それゆえにサウンドがみすぼらしくてはただのパフォーマンスバンドになってしまうのですが、そこはさすがに本気で演技するただものではないヴァリエテで、山田の疑似フレンチサウンドを後に遊佐未森のバックバンド等作編曲家としても活躍した鶴来正基をはじめとしたメンバーの確かな演奏力と金子飛鳥、美尾洋乃、渡辺等といったニューウェーブ御用達のストリングス陣の見事な雰囲気作りで、ドラマティックな音に仕上がっています。本作はCD化もされずレコードでしか聴くことができませんが、いつの日か陽の目を見ることを願ってやみません。なお、ヴァリエテはその後1枚アルバムをリリースした後、あっさりと活動を停止してしまいます。
<Favorite Songs>
・「Divine」
乾いたギターリフとピアノが爽やかなオープニングナンバー。小粋ながらどこか人を食ったスカした感じが彼ららしいです。トランペットのフレーズもサンプラーとおぼしきストリングスの音色もどれもが乾いたカラッとした感じです。
・「白鳥」
ミュージカル仕立てなのか老舗バレエ劇団の劇伴をパロディにしたような人を食ったような小楽曲。ストリングスとピアノを中心としていますが、やはり劇団チックな合いの手が素晴らしく、恐らくこのジャンルに手をつけるバンドは現在もそういないのではないかと思います。
・「Tarzan & Jane in Paris」
小気味良いリズムによるフレンチポップインスト。Pizzicato Fiveの初代ヴォーカル佐々木麻美子がその特徴的なキュートなボイスで全てを持っていってしまっています。アコーディオンにしてもハンドクラップにしても演奏には隙がなく、やはり一筋縄ではいかないもどかしさすら感じます。
<評点>
・サウンド ★★★ (これだけ演奏力が目立ちながら打ち込みの印象が強い)
・メロディ ★ (どこかで聴いたことのあるフレンチ的メロディが満載)
・リズム ★★ (生も機械もこのノングルーヴっぽいリズムが特徴的)
・曲構成 ★★ (フレンチな楽曲より何よりコンセプトに筋が通っている)
・個性 ★★★ (男性バンドでこのサウンドは恐らく現在までもなかった)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「CHILDHOOD'S END」 TM NETWORK
「CHILDHOOD'S END」 (1985 エピックソニー)
TM NETWORK

<members>
小室哲哉:OB-8・DX-7・Oberheim Xpander・PPG wave2.2・PPG wave2.3・PPG wave term・Propeht600・Simmons Drums・acoustic piano・chorus
宇都宮隆:vocal
木根尚登:acoustic guitars・chorus
1.「CHILDHOOD'S END」 曲・編:小室哲哉
2.「ACCIDENT」 詞:松井五郎 曲・編:小室哲哉
3.「FAIRE LA VISE」 詞・曲・編:小室哲哉
4.「永遠のパスポート」 詞:SEYMOUR 曲:小室哲哉・木根尚登 編:小室哲哉
5.「8月の長い夜」 詞:三浦徳子 曲・編:小室哲哉
6.「TIME」 詞:三浦徳子 曲・編:小室哲哉
7.「DRAGON THE FESTIVAL」 詞・曲・編:小室哲哉
8.「さよならの準備」 詞:三浦徳子 曲・編:小室哲哉
9.「INNOCENT BOY」 詞:TM NETWORK 曲:木根尚登 編:小室哲哉
10.「FANTASTIC VISION」 詞・曲・編:小室哲哉
11.「愛をそのままに」 詞:西門加里 曲:木根尚登 編:小室哲哉
<support musician>
山本圭右:electric guitars・acoustic guitar
吉川忠英:acoustic guitar
山田亘:drums
高杉登:percussions
村上"ポンタ"秀一:percussions
小泉洋:computer programming (NEC PC8801 mkII・Drumulator・Drumtracks・TR-707・Simmons Drums)・synthesizer operating
久保浩二:synthesizer operating
中山純一:PPG wave term operating
produced by 小室哲哉
engineered by 中山大輔
● PPGを駆使したシンセサウンドと小室メロディが堪能できるPOPS追求作
84年に近未来的なスペイシーサウンドをポップに展開する期待のシンセバンドとしてデビューしたTM NETWORK。音的にもヴィジュアル的にもインパクトのあった小室哲哉の才能は既に垣間見えていましたが、翌85年には早くも2ndアルバムとなる本作をリリースします。1stアルバム「Rainbow Rainbow」では名刺代わりとなるSF趣味なシンセと能天気で軽やかなポップサウンドが混在したどちらかといえば試行錯誤の作品でしたが、本作では楽曲コンセプトをはっきりさせることのよって成長の跡を感じさせるアルバムとなっています。彼らが目指したのは恐らく「電子楽器などの最新機材で作り上げる等身大のポップソング」といったところでしょう。本作のメロディに対するこだわり、その際立たせ方はサウンド志向に走りつつあった音楽界に対するシンパシーとアンチテーゼがごちゃまぜになった印象すら受けるのです。
他のTM作品にはなかなか見られないほんわかしたロマンティックなメロディ。木根尚登楽曲にはもともとそのような傾向があったものの、本作も8割方は小室作品で、90年代に粗製濫造された使い捨て楽曲の面影はここにはありません。シングル「ACCIDENT」や12インチが切られた「DRAGON THE FESTIVAL」などは後年のブレイクしたTMのプレバージョンとしても楽しめますが、本作の醍醐味はやはり「FAIRE LA VISE」「永遠のパスポート」「FANTASTIC VISION」といった涼しげな、それでいて軽やかな控えめなシンセと少し哀愁がかったメロディを備えた純粋なポップソングでしょう。いわゆる「らしくない」穏やかさを持つ華やかさとは違った存在感を持つこれらの楽曲は本作でしか聴けない、85年当時だからこそ、その時代の空気感がゆえに創り出された優れたPOPS群だと思います。もちろん、クレジットを見てもわかるようにPPGをはじめとした最新機材を駆使したシンセサウンドは満載ですが、どれもシンプルに抑え気味に主張し過ぎない絶妙な音使いで、これもTM作品には非常に珍しい傾向でありますが、それゆえに逆にまた好感が持てるのです。当時のリスナーの反応はいまいちだったようですが、今でこそ再評価されるべき作品の1つと言っても過言ではないでしょう。
<Favorite Songs>
・「ACCIDENT」
シングルカットされた本作のサウンド傾向が如実にあらわれたポップソング。シンプルでチープなシンセ音を配置することでメロディアスなサビを邪魔することなく生かしています。細かく刻むシーケンスはその後のTMサウンドの基礎となっていると言えるでしょう。
・「FAIRE LA VISE」
シンセをシンプルにとどめることでメロディを生かした本作のコンセプトに即した楽曲。打ち込みドラムの切迫感が本作の特徴で、サビ前のリズム連打(特にバスドラ)とコーラスの絶妙なブリッジが思いのほかかっこいいです。
・「DRAGON THE FESTIVAL」
のちに彼らの代表曲として数えられるまさにTMのリズム&サウンドと言えるシンセPOPS。はねるリズムは後のFANKS路線を彷佛とさせ、いかにも小室節なBメロなんかは後年のヒットソングのヒントになっているのではないかと思わせます。PPG wave termによる龍の咆哮など純粋に音遊びを楽しめているところも好感が持てます。
<評点>
・サウンド ★★★ (控えめながらPPGに代表される独特のシンセが隠し味に)
・メロディ ★★★★ (メロディメイカーとしての小室の才能はここで一旦開花)
・リズム ★★★ (シンプルなように見えて実は暴れまくる打ち込みドラム)
・曲構成 ★★★ (メロディアス、ダンサブル、バラードとバランスが良い)
・個性 ★★ (これがTMだというよりもむしろ良い意味でTMらしくない)
総合評点: 8点
TM NETWORK

<members>
小室哲哉:OB-8・DX-7・Oberheim Xpander・PPG wave2.2・PPG wave2.3・PPG wave term・Propeht600・Simmons Drums・acoustic piano・chorus
宇都宮隆:vocal
木根尚登:acoustic guitars・chorus
1.「CHILDHOOD'S END」 曲・編:小室哲哉
2.「ACCIDENT」 詞:松井五郎 曲・編:小室哲哉
3.「FAIRE LA VISE」 詞・曲・編:小室哲哉
4.「永遠のパスポート」 詞:SEYMOUR 曲:小室哲哉・木根尚登 編:小室哲哉
5.「8月の長い夜」 詞:三浦徳子 曲・編:小室哲哉
6.「TIME」 詞:三浦徳子 曲・編:小室哲哉
7.「DRAGON THE FESTIVAL」 詞・曲・編:小室哲哉
8.「さよならの準備」 詞:三浦徳子 曲・編:小室哲哉
9.「INNOCENT BOY」 詞:TM NETWORK 曲:木根尚登 編:小室哲哉
10.「FANTASTIC VISION」 詞・曲・編:小室哲哉
11.「愛をそのままに」 詞:西門加里 曲:木根尚登 編:小室哲哉
<support musician>
山本圭右:electric guitars・acoustic guitar
吉川忠英:acoustic guitar
山田亘:drums
高杉登:percussions
村上"ポンタ"秀一:percussions
小泉洋:computer programming (NEC PC8801 mkII・Drumulator・Drumtracks・TR-707・Simmons Drums)・synthesizer operating
久保浩二:synthesizer operating
中山純一:PPG wave term operating
produced by 小室哲哉
engineered by 中山大輔
● PPGを駆使したシンセサウンドと小室メロディが堪能できるPOPS追求作
84年に近未来的なスペイシーサウンドをポップに展開する期待のシンセバンドとしてデビューしたTM NETWORK。音的にもヴィジュアル的にもインパクトのあった小室哲哉の才能は既に垣間見えていましたが、翌85年には早くも2ndアルバムとなる本作をリリースします。1stアルバム「Rainbow Rainbow」では名刺代わりとなるSF趣味なシンセと能天気で軽やかなポップサウンドが混在したどちらかといえば試行錯誤の作品でしたが、本作では楽曲コンセプトをはっきりさせることのよって成長の跡を感じさせるアルバムとなっています。彼らが目指したのは恐らく「電子楽器などの最新機材で作り上げる等身大のポップソング」といったところでしょう。本作のメロディに対するこだわり、その際立たせ方はサウンド志向に走りつつあった音楽界に対するシンパシーとアンチテーゼがごちゃまぜになった印象すら受けるのです。
他のTM作品にはなかなか見られないほんわかしたロマンティックなメロディ。木根尚登楽曲にはもともとそのような傾向があったものの、本作も8割方は小室作品で、90年代に粗製濫造された使い捨て楽曲の面影はここにはありません。シングル「ACCIDENT」や12インチが切られた「DRAGON THE FESTIVAL」などは後年のブレイクしたTMのプレバージョンとしても楽しめますが、本作の醍醐味はやはり「FAIRE LA VISE」「永遠のパスポート」「FANTASTIC VISION」といった涼しげな、それでいて軽やかな控えめなシンセと少し哀愁がかったメロディを備えた純粋なポップソングでしょう。いわゆる「らしくない」穏やかさを持つ華やかさとは違った存在感を持つこれらの楽曲は本作でしか聴けない、85年当時だからこそ、その時代の空気感がゆえに創り出された優れたPOPS群だと思います。もちろん、クレジットを見てもわかるようにPPGをはじめとした最新機材を駆使したシンセサウンドは満載ですが、どれもシンプルに抑え気味に主張し過ぎない絶妙な音使いで、これもTM作品には非常に珍しい傾向でありますが、それゆえに逆にまた好感が持てるのです。当時のリスナーの反応はいまいちだったようですが、今でこそ再評価されるべき作品の1つと言っても過言ではないでしょう。
<Favorite Songs>
・「ACCIDENT」
シングルカットされた本作のサウンド傾向が如実にあらわれたポップソング。シンプルでチープなシンセ音を配置することでメロディアスなサビを邪魔することなく生かしています。細かく刻むシーケンスはその後のTMサウンドの基礎となっていると言えるでしょう。
・「FAIRE LA VISE」
シンセをシンプルにとどめることでメロディを生かした本作のコンセプトに即した楽曲。打ち込みドラムの切迫感が本作の特徴で、サビ前のリズム連打(特にバスドラ)とコーラスの絶妙なブリッジが思いのほかかっこいいです。
・「DRAGON THE FESTIVAL」
のちに彼らの代表曲として数えられるまさにTMのリズム&サウンドと言えるシンセPOPS。はねるリズムは後のFANKS路線を彷佛とさせ、いかにも小室節なBメロなんかは後年のヒットソングのヒントになっているのではないかと思わせます。PPG wave termによる龍の咆哮など純粋に音遊びを楽しめているところも好感が持てます。
<評点>
・サウンド ★★★ (控えめながらPPGに代表される独特のシンセが隠し味に)
・メロディ ★★★★ (メロディメイカーとしての小室の才能はここで一旦開花)
・リズム ★★★ (シンプルなように見えて実は暴れまくる打ち込みドラム)
・曲構成 ★★★ (メロディアス、ダンサブル、バラードとバランスが良い)
・個性 ★★ (これがTMだというよりもむしろ良い意味でTMらしくない)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「REAL」 一風堂
「REAL」 (1980 エピックソニー)
一風堂

<members>
土屋昌巳:vocal・guitar・percussion・manual effect・chorus
見岳章:keyboard・synthesizer・violin・marimba
藤井章司:drums・percussion
赤尾博文:bass
1.「ジャーマン・ロード」 曲・編:土屋昌巳
2.「BROKEN DUMMIES」 詞・曲:土屋昌巳 編:土屋昌巳・見岳章
3.「ロンリー・パイロット」 詞・曲・編:土屋昌巳
4.「IN Side / OUT Side」 詞・曲・編:土屋昌巳
5.「ミステリアス・ナイト~OUT Side / IN Side」
詞・曲:土屋昌巳 編:土屋昌巳・見岳章
6.「HEIDELBURG SYMPHONY」 曲・編:土屋昌巳
7.「FUNK #9 (A present for disco people)」 詞・曲・編:土屋昌巳
8.「NEU! (Changing the history)」 詞・曲:土屋昌巳 編:土屋昌巳・見岳章
9.「HELPLESS SOLDIER」 詞・曲:土屋昌巳 編:土屋昌巳・見岳章
10.「LUNATIC GUITAR」 曲・編:土屋昌巳
produced by 土屋昌巳
engineered by Tom Mueller・鈴木良博
● レゲエと電子音を巧みに採り入れたジャーマンロックへの傾倒ぶりが顕著なベルリン録音2nd
ニューウェーブの初期衝動を惜しげもなく披露した1stアルバム「NORMAL」で80年に颯爽とデビューした一風堂は、同年早くも2ndアルバムをリリースします。2ndアルバムである本作では思い切って海外録音を敢行しますが、アメリカでもイギリスでもなくドイツベルリンでの録音というところにニューウェーブな精神を感じさせます。不思議なことにベルリン録音の空気感は一風堂の音楽性にストレートに反映されており、スパンの短いリリース間隔とは思えないほど前作とは感触の異なるサウンドに仕上がっています。多用される金属的なシンセ音色、ボコーダーを始めとした声の電子的処理、開放的なインストはあるもののどこか陰りのあるメロディが目立つ楽曲といい、明らかにジャーマンロックへの傾倒ぶりが目立つ作品であると言えます。
「ジャーマン・ロード」「HEIDELBURG SYMPHONY」のようなインストをレコード両面のオープニングに並べ、さらに組曲的な「NEU! 」といったジャーマンロックなどの大作を多く収録することで本作の方向性をアピールしていることからも、本作に対する気合いのほどはうかがえますが、その意欲が存分に発揮されているのが「ロンリー・パイロット」「ミステリアス・ナイト」「FUNK #9」といった金属的電子音が目立つニューウェーブ楽曲で、1st譲りのまだ甲高い頃の土屋ヴォーカルをさらに狂気にデフォルメした声処理と共にシンセサウンドもモジュレーション系の音色を駆使して存分に暴れ回っている印象があります。どうしても土屋の印象が強かった1stと比べると見岳章の顔が徐々に見えてきたといってよいでしょう。次作「Radio Fantasy」によって見岳の才能が開花し一風堂の個性的なサウンドが完成の域に達しますが、本作はその礎となるきっかけとなった重要な作品に位置づけられています。
<Favorite Songs>
・「BROKEN DUMMIES」
1stアルバムの流れを汲む能天気なニューウェーブソング。ボコーダーのコーラスとローファイにエフェクトされたヴォーカル処理が魅力です。若かりし土屋のシャウトが楽しめるのも興味深いが、曖昧な音階のフレーズにも注目です。
・「ロンリー・パイロット」
シンセの音色といいバイオリンを導入した楽曲構成といいどちらかといえば実験的POPSの範疇に入る楽曲。Bメロではハーモナイズされた子供声を駆使し、ラストには強烈なモジュレーション音色で度肝を抜きます。
・「FUNK #9 (A present for disco people)」
本作の中でも電子的要素の強いテクノポップ寄りの楽曲。それでも完全なるテクノに感じさせないのはギター&ベース、そしてドラムの堅実なプレーぶりにあると思います。しかし上モノのシンセ音色はいかにもな剥き出しな電子音満載です。
<評点>
・サウンド ★★★ (Bメロがレゲエ調になるニューウェーブ直系サウンド)
・メロディ ★ (どちらかというといなたいというか田舎っぽいメロディ)
・リズム ★★ (藤井章司のドラミングは見事であるがまだオーソドックス)
・曲構成 ★ (インストや大作を収録することで若干間延びした印象に)
・個性 ★★ (個性が完全に萌芽するのは見岳が本格化する次作以降で)
総合評点: 6点
一風堂

<members>
土屋昌巳:vocal・guitar・percussion・manual effect・chorus
見岳章:keyboard・synthesizer・violin・marimba
藤井章司:drums・percussion
赤尾博文:bass
1.「ジャーマン・ロード」 曲・編:土屋昌巳
2.「BROKEN DUMMIES」 詞・曲:土屋昌巳 編:土屋昌巳・見岳章
3.「ロンリー・パイロット」 詞・曲・編:土屋昌巳
4.「IN Side / OUT Side」 詞・曲・編:土屋昌巳
5.「ミステリアス・ナイト~OUT Side / IN Side」
詞・曲:土屋昌巳 編:土屋昌巳・見岳章
6.「HEIDELBURG SYMPHONY」 曲・編:土屋昌巳
7.「FUNK #9 (A present for disco people)」 詞・曲・編:土屋昌巳
8.「NEU! (Changing the history)」 詞・曲:土屋昌巳 編:土屋昌巳・見岳章
9.「HELPLESS SOLDIER」 詞・曲:土屋昌巳 編:土屋昌巳・見岳章
10.「LUNATIC GUITAR」 曲・編:土屋昌巳
produced by 土屋昌巳
engineered by Tom Mueller・鈴木良博
● レゲエと電子音を巧みに採り入れたジャーマンロックへの傾倒ぶりが顕著なベルリン録音2nd
ニューウェーブの初期衝動を惜しげもなく披露した1stアルバム「NORMAL」で80年に颯爽とデビューした一風堂は、同年早くも2ndアルバムをリリースします。2ndアルバムである本作では思い切って海外録音を敢行しますが、アメリカでもイギリスでもなくドイツベルリンでの録音というところにニューウェーブな精神を感じさせます。不思議なことにベルリン録音の空気感は一風堂の音楽性にストレートに反映されており、スパンの短いリリース間隔とは思えないほど前作とは感触の異なるサウンドに仕上がっています。多用される金属的なシンセ音色、ボコーダーを始めとした声の電子的処理、開放的なインストはあるもののどこか陰りのあるメロディが目立つ楽曲といい、明らかにジャーマンロックへの傾倒ぶりが目立つ作品であると言えます。
「ジャーマン・ロード」「HEIDELBURG SYMPHONY」のようなインストをレコード両面のオープニングに並べ、さらに組曲的な「NEU! 」といったジャーマンロックなどの大作を多く収録することで本作の方向性をアピールしていることからも、本作に対する気合いのほどはうかがえますが、その意欲が存分に発揮されているのが「ロンリー・パイロット」「ミステリアス・ナイト」「FUNK #9」といった金属的電子音が目立つニューウェーブ楽曲で、1st譲りのまだ甲高い頃の土屋ヴォーカルをさらに狂気にデフォルメした声処理と共にシンセサウンドもモジュレーション系の音色を駆使して存分に暴れ回っている印象があります。どうしても土屋の印象が強かった1stと比べると見岳章の顔が徐々に見えてきたといってよいでしょう。次作「Radio Fantasy」によって見岳の才能が開花し一風堂の個性的なサウンドが完成の域に達しますが、本作はその礎となるきっかけとなった重要な作品に位置づけられています。
<Favorite Songs>
・「BROKEN DUMMIES」
1stアルバムの流れを汲む能天気なニューウェーブソング。ボコーダーのコーラスとローファイにエフェクトされたヴォーカル処理が魅力です。若かりし土屋のシャウトが楽しめるのも興味深いが、曖昧な音階のフレーズにも注目です。
・「ロンリー・パイロット」
シンセの音色といいバイオリンを導入した楽曲構成といいどちらかといえば実験的POPSの範疇に入る楽曲。Bメロではハーモナイズされた子供声を駆使し、ラストには強烈なモジュレーション音色で度肝を抜きます。
・「FUNK #9 (A present for disco people)」
本作の中でも電子的要素の強いテクノポップ寄りの楽曲。それでも完全なるテクノに感じさせないのはギター&ベース、そしてドラムの堅実なプレーぶりにあると思います。しかし上モノのシンセ音色はいかにもな剥き出しな電子音満載です。
<評点>
・サウンド ★★★ (Bメロがレゲエ調になるニューウェーブ直系サウンド)
・メロディ ★ (どちらかというといなたいというか田舎っぽいメロディ)
・リズム ★★ (藤井章司のドラミングは見事であるがまだオーソドックス)
・曲構成 ★ (インストや大作を収録することで若干間延びした印象に)
・個性 ★★ (個性が完全に萌芽するのは見岳が本格化する次作以降で)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「CERAMIC DANCER」 URBAN DANCE
「CERAMIC DANCER」 (1986 テイチク)
URBAN DANCE

<members>
成田忍:vocal・guitar・electronics
小山謙吾:bass・backing vocals
松本浩一:beat construction・vocal・backing vocals
<electric instruments>
DX-7・MSQ-700・Prophet5・Prophet T8・QX-7・Poly-6・PPG wave2.3・CSQ-600・DW-6000・TR-707・AKAI S612 ・MD280・Super Jupiter・FairlightCMI
1.「ALIEN LOVER」
詞:成田忍・小山謙吾・松本浩一・山田次朗 曲:細野晴臣・成田忍 編:細野晴臣・URBAN DANCE
2.「A MOMENT'S PLEASURE」
詞:和田博巳・沢田雄児 曲:松本浩一・成田忍 編:URBAN DANCE
3.「WHY YOU SAID GOODBYE」
詞:Giles Duke・沢田雄児 曲:成田忍 編:URBAN DANCE
4.「SOFTLY TAKE IT」
詞:Giles Duke・成田忍・沢田雄児 曲:成田忍 編:URBAN DANCE
<support musician>
寺谷誠一:hi-hat
松岡晃代:acoustic piano
Mr. Berlin:backing vocals
荒川勝:backing vocals
大内美貴子:backing vocals
小塚類子:backing vocals
菅原弘明:backing vocals
小久保隆:synthesizer manipulate
produced by 成田忍 and URBAN DANCE・URBAN DANCE and 細野晴臣
mixing engineered by Michael Zimmerling・田中信一・URBAN DANCE
recording engineered by Michael Zimmerling・田中信一
● ハードエッジな打ち込みがロック色を濃くさせた成長著しいミニアルバム
細野晴臣のNon Standardレーベルからのデビュー、さらには高橋幸宏プロデュースの1stアルバムということでポストYMOという触れ込みだったURBAN DANCEですが、中心人物の成田忍は関西ニューウェーブの重鎮ユニットである4-Dに参加し、小西健司、横川理彦といった後にP-MODELに加入する面々と活動していたこともあり、YMOとP-MODELの間の絶妙な立ち位置にいたテクノニューウェーブシーンの重要人物と言えるでしょう。その成田忍を中心としたURBAN DANCEはデビュー作からの次なる展開として、4曲入りの12インチミニアルバムを制作します。それが今回取り上げる本作となりますが、前作のスッキリしたシンプルなエレクトロPOPSに比べ、過激になりつつある当時のデジタルサウンドを体現した激しく硬質なビートとマシナリーなサウンドに傾倒しながらロック色のあふれる意欲作に仕上がっています。
そんな肉感的なサウンドに進化した本作ですが、1つの要因として布袋寅泰関連仕事で知られるMichael ZimmerlingのMIXによる部分も大きいと思います。デジタル系ロックに力を発揮するエッジの効いたサウンドメイキングは、本作の方向性を決定づける役割を果たしたと言えます。またロック色のシフトしたとはいえハードな打ち込みやデジタルサウンドに対するこだわりは増す一方で、アルバムクレジットに「electric instruments」として機材名を掲載するなど、テクノ好きにも十分アピールした作品となっています。Non Standardというレーベルからの視点では、細野晴臣が自身のユニットF.O.Eでやり残した過激なデジタルビートを駆使したPOPSを受け継いだかのように強烈なリズムトラックが一際目立っており、成田以外のメンバーも楽曲に積極的に関わっていることからも、レーベルにとってもバンドにとっても(4曲のみのミニアルバムとはいえ)重要な作品であることに異論はないところです。その後の2ndフルアルバム「2 1/2」が成田ソロ的作品ということからも、URBAN DANCEというバンドとしての最盛期に生まれたアルバムなのです。
<Favorite Songs>
・「A MOMENT'S PLEASURE」
珍しく成田ではなく松本浩一が書いたメロウな楽曲。ニューロマなメロディに彼のルーツが感じられますが、マシナリーなリズムによってサウンドに切れ味が増している印象です。サビ部分のバイオリン音色のシンセフレーズがいい味を出しています。
・「WHY YOU SAID GOODBYE」
1st収録の代表曲「Why」をハードコアに再構築した過激な楽曲。ゲートの効いたバスドラ連打がいかにもF.O.Eのように攻撃的で、原曲のサビのシンプルな感覚をぶち壊すかのように破壊的なリズムで暴走しています。それでもしっかりメロディを冒さずに楽曲として成立させているところが成田忍のクリエイターとしての力量だと思います。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (独特の乾いた硬質なシンセ音を過激に機械化した感覚が◎)
・メロディ ★★★ (明らかにサウンド志向ではあるもののメロはポップ色濃い)
・リズム ★★★★★ (本作と言えばこの強烈なマシナリービートは欠かせない)
・曲構成 ★★ (この路線でフルアルバムを作ってほしかった・・・)
・個性 ★★★ (彼らが目指したサウンドは一旦完成を見たと言ってよい)
総合評点: 8点
URBAN DANCE

<members>
成田忍:vocal・guitar・electronics
小山謙吾:bass・backing vocals
松本浩一:beat construction・vocal・backing vocals
<electric instruments>
DX-7・MSQ-700・Prophet5・Prophet T8・QX-7・Poly-6・PPG wave2.3・CSQ-600・DW-6000・TR-707・AKAI S612 ・MD280・Super Jupiter・FairlightCMI
1.「ALIEN LOVER」
詞:成田忍・小山謙吾・松本浩一・山田次朗 曲:細野晴臣・成田忍 編:細野晴臣・URBAN DANCE
2.「A MOMENT'S PLEASURE」
詞:和田博巳・沢田雄児 曲:松本浩一・成田忍 編:URBAN DANCE
3.「WHY YOU SAID GOODBYE」
詞:Giles Duke・沢田雄児 曲:成田忍 編:URBAN DANCE
4.「SOFTLY TAKE IT」
詞:Giles Duke・成田忍・沢田雄児 曲:成田忍 編:URBAN DANCE
<support musician>
寺谷誠一:hi-hat
松岡晃代:acoustic piano
Mr. Berlin:backing vocals
荒川勝:backing vocals
大内美貴子:backing vocals
小塚類子:backing vocals
菅原弘明:backing vocals
小久保隆:synthesizer manipulate
produced by 成田忍 and URBAN DANCE・URBAN DANCE and 細野晴臣
mixing engineered by Michael Zimmerling・田中信一・URBAN DANCE
recording engineered by Michael Zimmerling・田中信一
● ハードエッジな打ち込みがロック色を濃くさせた成長著しいミニアルバム
細野晴臣のNon Standardレーベルからのデビュー、さらには高橋幸宏プロデュースの1stアルバムということでポストYMOという触れ込みだったURBAN DANCEですが、中心人物の成田忍は関西ニューウェーブの重鎮ユニットである4-Dに参加し、小西健司、横川理彦といった後にP-MODELに加入する面々と活動していたこともあり、YMOとP-MODELの間の絶妙な立ち位置にいたテクノニューウェーブシーンの重要人物と言えるでしょう。その成田忍を中心としたURBAN DANCEはデビュー作からの次なる展開として、4曲入りの12インチミニアルバムを制作します。それが今回取り上げる本作となりますが、前作のスッキリしたシンプルなエレクトロPOPSに比べ、過激になりつつある当時のデジタルサウンドを体現した激しく硬質なビートとマシナリーなサウンドに傾倒しながらロック色のあふれる意欲作に仕上がっています。
そんな肉感的なサウンドに進化した本作ですが、1つの要因として布袋寅泰関連仕事で知られるMichael ZimmerlingのMIXによる部分も大きいと思います。デジタル系ロックに力を発揮するエッジの効いたサウンドメイキングは、本作の方向性を決定づける役割を果たしたと言えます。またロック色のシフトしたとはいえハードな打ち込みやデジタルサウンドに対するこだわりは増す一方で、アルバムクレジットに「electric instruments」として機材名を掲載するなど、テクノ好きにも十分アピールした作品となっています。Non Standardというレーベルからの視点では、細野晴臣が自身のユニットF.O.Eでやり残した過激なデジタルビートを駆使したPOPSを受け継いだかのように強烈なリズムトラックが一際目立っており、成田以外のメンバーも楽曲に積極的に関わっていることからも、レーベルにとってもバンドにとっても(4曲のみのミニアルバムとはいえ)重要な作品であることに異論はないところです。その後の2ndフルアルバム「2 1/2」が成田ソロ的作品ということからも、URBAN DANCEというバンドとしての最盛期に生まれたアルバムなのです。
<Favorite Songs>
・「A MOMENT'S PLEASURE」
珍しく成田ではなく松本浩一が書いたメロウな楽曲。ニューロマなメロディに彼のルーツが感じられますが、マシナリーなリズムによってサウンドに切れ味が増している印象です。サビ部分のバイオリン音色のシンセフレーズがいい味を出しています。
・「WHY YOU SAID GOODBYE」
1st収録の代表曲「Why」をハードコアに再構築した過激な楽曲。ゲートの効いたバスドラ連打がいかにもF.O.Eのように攻撃的で、原曲のサビのシンプルな感覚をぶち壊すかのように破壊的なリズムで暴走しています。それでもしっかりメロディを冒さずに楽曲として成立させているところが成田忍のクリエイターとしての力量だと思います。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (独特の乾いた硬質なシンセ音を過激に機械化した感覚が◎)
・メロディ ★★★ (明らかにサウンド志向ではあるもののメロはポップ色濃い)
・リズム ★★★★★ (本作と言えばこの強烈なマシナリービートは欠かせない)
・曲構成 ★★ (この路線でフルアルバムを作ってほしかった・・・)
・個性 ★★★ (彼らが目指したサウンドは一旦完成を見たと言ってよい)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
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