「Mariner's Valley」 overrocket
「Mariner's Valley」(2001 アトン)
overrocket

<members>
本田みちよ:vocals
鈴木光人:computer programming・keyboards・backing vocals
渡部高士:computer programming・keyboards・backing vocals
1.「valley of mariner」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket・松田正博
2.「equals to you」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket
3.「neon bell」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人・渡部高士 編:overrocket
4.「sabaku」 詞:本田みちよ 曲:渡部高士・鈴木光人 編:overrocket
5.「wasurenaide」 詞・曲:本田みちよ 編:overrocket
6.「aurora」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket
7.「catch」 詞:渡部高士 曲・編:overrocket
8.「still life」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket
9.「tweaker」 曲:渡部高士・鈴木光人 編:overrocket
10.「1301」 詞:渡部高士 曲:鈴木光人・渡部高士 編:overrocket
11.「opym」 詞:本田みちよ・渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
12.「song to end」 詞:渡部高士 曲:鈴木光人・渡部高士 編:overrocket
<support musician>
Tracy:vocals
produced by overrocket
engineered by 渡部高士・赤川新一・本澤尚之・松田正博
● 現在進行形テクノと80年代型エレポップをMIX!TECHNOLOGY POPSの未来を感じさせた期待作
2000年にミニアルバム「blue drum」でデビューしたエレクトロポップユニットという触れ込みの3人組over rocket。「blue drum」のYMOの名盤「BGM」直系の音世界にクラブ系テクノの手法を重ね合わせた女性ヴォーカルモノという新しいアプローチは、期待を抱かせるに十分な出来でありましたが、ここでレコード会社を移籍し翌年に待望のフルアルバムである本作をリリースします。まさに本領発揮ともいうべき本作は、主に声と歌詞を担当する本田みちよ、作編曲に類稀なセンスを備える鈴木光人、サウンドデザインとプログラミングに一日の長がある渡部高士の3人のバランスが上手くとれており、さらに前作は不完全燃焼であったバリエーションの豊富さとリズム面の強化に加え、キャッチーなポップ性を織り込むなど、彼らの現在進行形の音楽性をフルに生かした力作となっています。
まず前作でも彼らの特徴の1つでもあったひんやりした音の壁は本作でも活躍しており、この音の壁(特に「aurora」のストレンジサウンドは圧巻!)と本田の透明感のある声質の相性の良さが抜群です。それに加えてリバーブやディレイ等のエフェクトの使い方が巧みでミニマルなパターンやシンプルなフレーズ、リズムトラックに変化と粒立ちをもたらしているので、聴き手を飽きさせません。鈴木と渡部によるサウンドプロダクションのクオリティの高さが垣間見えます。また、前作では希薄であったクラブ仕様を意識したリズムトラックにも注目で、ダンサブルでスピード感のある楽曲も多く、そういう意味では活動的な作品とも言えますが、もちろん楽曲の多い本作であるわけで、要所要所にゆったりめのエレクトリックバラードを挟み込んでメリハリをつけているところは構成面でもさすがと言えるでしょう。全体的に前作よりパワーアップ、そして00年代を代表する名盤である次作「POPMUSIC」の原点となるポップセンス(多少クール寄り)、現在進行形のテクノミュージックに呼応したリズムトラックの秀逸さ等、まさしく21世紀のエレクトリックPOPSを牽引する可能性を見せつけた傑作です。
<Favorite Songs>
・「valley of mariner」
豪勢なイントロに圧倒されるミディアムテンポのタイトルチューン。ゆったりとした曲調ながらそこに秘められる音色に対するこだわりが凄まじいです。スペイシーな音の壁に覆われているかのような質感や電気的なシンセソロなど圧巻の一言です。
・「neon bell」
PCMドラムマシンの緻密なリズムプログラミングとディレイを上手く活用したシンプルなサウンドが魅力の名曲。何よりも音の隙間を上手く利用して音の粒が立ちまくっています。音質を変化させたヴォーカルやスピードに乗るシーケンス、空から降ってくるようなコーラスなどファンタジック性が抜きん出ています。
・「1301」
本作中最もポップな楽曲であり、また最もYMOに近しい楽曲です。シンセ音色、リズムのキレの良さ、大陸的なフレーズ、どれをとってもYMO直系の80'sテクノポップの匂いが漂います。しかしそれが単なる模倣ではなくオリジナルに消化しているところが彼らの非凡たるゆえんです。
<評点>
・サウンド ★★★★(音をいじりまくった凝り性的で神経質なサウンド)
・メロディ ★★ (このタイプにしてはメロが強いがまだ開き直れないか)
・リズム ★★★★(PCMドラムマシン音色を多用し独特のノリをもたらす)
・曲構成 ★★★ (バラエティに富みつつクールな質感でまとめる)
・個性 ★★★ (新しいタイプの聴かせる歌モノテクノミュージック)
総合評点: 8点
overrocket

<members>
本田みちよ:vocals
鈴木光人:computer programming・keyboards・backing vocals
渡部高士:computer programming・keyboards・backing vocals
1.「valley of mariner」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket・松田正博
2.「equals to you」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket
3.「neon bell」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人・渡部高士 編:overrocket
4.「sabaku」 詞:本田みちよ 曲:渡部高士・鈴木光人 編:overrocket
5.「wasurenaide」 詞・曲:本田みちよ 編:overrocket
6.「aurora」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket
7.「catch」 詞:渡部高士 曲・編:overrocket
8.「still life」 詞:本田みちよ 曲:鈴木光人 編:overrocket
9.「tweaker」 曲:渡部高士・鈴木光人 編:overrocket
10.「1301」 詞:渡部高士 曲:鈴木光人・渡部高士 編:overrocket
11.「opym」 詞:本田みちよ・渡部高士 曲:鈴木光人 編:overrocket
12.「song to end」 詞:渡部高士 曲:鈴木光人・渡部高士 編:overrocket
<support musician>
Tracy:vocals
produced by overrocket
engineered by 渡部高士・赤川新一・本澤尚之・松田正博
● 現在進行形テクノと80年代型エレポップをMIX!TECHNOLOGY POPSの未来を感じさせた期待作
2000年にミニアルバム「blue drum」でデビューしたエレクトロポップユニットという触れ込みの3人組over rocket。「blue drum」のYMOの名盤「BGM」直系の音世界にクラブ系テクノの手法を重ね合わせた女性ヴォーカルモノという新しいアプローチは、期待を抱かせるに十分な出来でありましたが、ここでレコード会社を移籍し翌年に待望のフルアルバムである本作をリリースします。まさに本領発揮ともいうべき本作は、主に声と歌詞を担当する本田みちよ、作編曲に類稀なセンスを備える鈴木光人、サウンドデザインとプログラミングに一日の長がある渡部高士の3人のバランスが上手くとれており、さらに前作は不完全燃焼であったバリエーションの豊富さとリズム面の強化に加え、キャッチーなポップ性を織り込むなど、彼らの現在進行形の音楽性をフルに生かした力作となっています。
まず前作でも彼らの特徴の1つでもあったひんやりした音の壁は本作でも活躍しており、この音の壁(特に「aurora」のストレンジサウンドは圧巻!)と本田の透明感のある声質の相性の良さが抜群です。それに加えてリバーブやディレイ等のエフェクトの使い方が巧みでミニマルなパターンやシンプルなフレーズ、リズムトラックに変化と粒立ちをもたらしているので、聴き手を飽きさせません。鈴木と渡部によるサウンドプロダクションのクオリティの高さが垣間見えます。また、前作では希薄であったクラブ仕様を意識したリズムトラックにも注目で、ダンサブルでスピード感のある楽曲も多く、そういう意味では活動的な作品とも言えますが、もちろん楽曲の多い本作であるわけで、要所要所にゆったりめのエレクトリックバラードを挟み込んでメリハリをつけているところは構成面でもさすがと言えるでしょう。全体的に前作よりパワーアップ、そして00年代を代表する名盤である次作「POPMUSIC」の原点となるポップセンス(多少クール寄り)、現在進行形のテクノミュージックに呼応したリズムトラックの秀逸さ等、まさしく21世紀のエレクトリックPOPSを牽引する可能性を見せつけた傑作です。
<Favorite Songs>
・「valley of mariner」
豪勢なイントロに圧倒されるミディアムテンポのタイトルチューン。ゆったりとした曲調ながらそこに秘められる音色に対するこだわりが凄まじいです。スペイシーな音の壁に覆われているかのような質感や電気的なシンセソロなど圧巻の一言です。
・「neon bell」
PCMドラムマシンの緻密なリズムプログラミングとディレイを上手く活用したシンプルなサウンドが魅力の名曲。何よりも音の隙間を上手く利用して音の粒が立ちまくっています。音質を変化させたヴォーカルやスピードに乗るシーケンス、空から降ってくるようなコーラスなどファンタジック性が抜きん出ています。
・「1301」
本作中最もポップな楽曲であり、また最もYMOに近しい楽曲です。シンセ音色、リズムのキレの良さ、大陸的なフレーズ、どれをとってもYMO直系の80'sテクノポップの匂いが漂います。しかしそれが単なる模倣ではなくオリジナルに消化しているところが彼らの非凡たるゆえんです。
<評点>
・サウンド ★★★★(音をいじりまくった凝り性的で神経質なサウンド)
・メロディ ★★ (このタイプにしてはメロが強いがまだ開き直れないか)
・リズム ★★★★(PCMドラムマシン音色を多用し独特のノリをもたらす)
・曲構成 ★★★ (バラエティに富みつつクールな質感でまとめる)
・個性 ★★★ (新しいタイプの聴かせる歌モノテクノミュージック)
総合評点: 8点
「アカリ」 村上ユカ
「アカリ」 (2001 シンクシンク)
村上ユカ:vocal・computer programming・sopranino recorder・chorus

1.「紅茶」 詞・曲:村上ユカ 編:熊原正幸
2.「カレハコトバ」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆
3.「幸せのかたち」 詞・曲:村上ユカ 編:熊原正幸
4.「朝焼け夕焼け」 詞・曲・編:村上ユカ
5.「ALICA」 曲・編:村上ユカ
6.「赫い鳥」 詞・曲:村上ユカ 編:上野洋子
7.「夕陽トロピカル」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
8.「exile」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
9.「願い」 詞・曲:村上ユカ 編:吉澤瑛師
10.「雪かんむり」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆
11.「ACALI」 曲・編:村上ユカ
<support musician>
田代耕一郎:guitar・mandolin
吉田幸正:bass
曽禰荒助:drums
上野洋子:accordion・toy piano・Clavinora・大正琴・chorus
菊地成孔:tenor sax
熊原正幸:computer programming
田尻光隆:computer programming
吉澤瑛師:computer programming
吉野裕司:computer programming
produced by Think Sync Integral(寺田康彦・矢島潤一・緑川千佳子・杉本健・上村量・市川裕美)
mixing engineered by 寺田康彦・ZAK・杉本健
recording engineered by 杉本健・上村量
● プチテクノ風味はそのままに和風テイストにも挑戦!サウンドの幅を広げた名盤2ndアルバム
元アルファレコードのエンジニア寺田康彦を中心として発足した貴重なテクノポップ系レーベル、THINK SYNC INTEGRALよりシングル「はちみつ」でデビューした北海道出身のシンガーソングライター村上ユカは、1stアルバム「散歩前」でキュートなほのぼのとしながら随所に電子音をちりばめた童謡系打ち込みPOPSを展開、その勢いでメジャーレーベルから2枚のシングル(「小鳥」「雲色のじょうろ」)をリリースするなど順風満帆な活動に見えましたが、再びTHINK SYNCに舞い戻る形で、1999年に過去の名曲を村上ユカ流にリメイクしたカバーソング集「はなうたち。」をリリースします。このカバーソング集が彼女のその後の作風に影響を与えることとなり、2001年にリリースされた2ndアルバムである本作では、持ち前のかわいらしいエレクトリックサウンドは継承しつつも、前作までよりもオリエンタルなメロディが強調されており、自身の世界観を確立したと言ってもよい確固たる「芯」が存在する作品となっています。
前作の緻密なアレンジ面を支えた期待のクリエイター田尻光隆は引き続き参加しているものの、本作はFantstic Plastic Machineをにも参加したプログラマー熊原正幸や言わずと知れたもとZABADAKの上野洋子、元3デシリットル、スクーデリアエレクトロの吉澤瑛師が参加し、2枚目にふさわしいサウンドの幅を与えてくれています。その結果、「夕陽トロピカル」のような村上ユカと田尻光隆のオリエンタルシンセポップなアレンジ手法に加えて、「紅茶」「幸せのかたち」の熊原正幸の細かいリズムワークによるキュートテクノや、「赫い鳥」の必要以上に「和」を意識した上野洋子&吉野裕司のVita Novaサウンド、「願い」の静かな曲調ながら3デシリットルを彷佛とさせる吉澤瑛師得意の硬質リズム隊とボコーダーボイスの炸裂など、統一された世界観が魅力であり「おとぎ話」的であった1st「散歩前」と比べて、本作はバラエティ豊かなサウンドにカバー集「はなうたち。」のエッセンスを取り入れ日本を再発見したかのような「日本童謡」的な世界を、打ち込みシンセポップという共通言語で仕上げた、これぞ日本的テクノロジーPOPSの落とし子的な作品を生み出しています。3rdアルバム「角砂糖」リリース後、活動ペースは緩やかになっていますがそれも彼女らしいといえば彼女らしいと言えるかもしれません。
<Favorite Songs>
・「紅茶」
ピアノ系パッドの響きに癒されるきらびやかなポップチューン。特別にキャッチーなサビを一際盛り上げるためにある楽曲で、Aメロ~Bメロはその対比で抑え気味に推移、思い切りタメてパーッと広がるサビとそのインパクトでエンディングに持っていく構成が気に入っています。
・「幸せのかたち」
本作では珍しい熊原正幸のキュートでスピーディーなシーケンスが光るファンタジックシンセポップ。緻密に作り込まれたチープなリズムトラックにシンセがふんだんに使用されたサウンドは彼女の真骨頂で、こうした前作のキュートシンセポップ路線を見事に引き継いだと言える名曲です。
・「exile」
サウンド面は前作を引き継ぎ、メロディは本作の特徴を巧みにとらえた仕掛けの多い楽曲。Aメロ~Bメロ~サビと徐々に分厚さを増すサウンド、ラストに1フレーズ転調させるメロディセンス、そして無駄に長いがゆえに盛り上がるアウトロなど構成も抜群です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (どんな曲調であっても電子音を忘れない興味深い作風)
・メロディ ★★★ (キャッチーでもありキュートでもあり哀しくもある)
・リズム ★★★ (緻密に細かく構成された神経質なほどのリズムワーク)
・曲構成 ★★★ (複数の編曲者起用でもその統一感を保てるのは彼女の力)
・個性 ★★★ (クオリティの高い和風シンセポップシンガーの覚醒)
総合評点: 8点
村上ユカ:vocal・computer programming・sopranino recorder・chorus

1.「紅茶」 詞・曲:村上ユカ 編:熊原正幸
2.「カレハコトバ」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆
3.「幸せのかたち」 詞・曲:村上ユカ 編:熊原正幸
4.「朝焼け夕焼け」 詞・曲・編:村上ユカ
5.「ALICA」 曲・編:村上ユカ
6.「赫い鳥」 詞・曲:村上ユカ 編:上野洋子
7.「夕陽トロピカル」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
8.「exile」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆・村上ユカ
9.「願い」 詞・曲:村上ユカ 編:吉澤瑛師
10.「雪かんむり」 詞・曲:村上ユカ 編:田尻光隆
11.「ACALI」 曲・編:村上ユカ
<support musician>
田代耕一郎:guitar・mandolin
吉田幸正:bass
曽禰荒助:drums
上野洋子:accordion・toy piano・Clavinora・大正琴・chorus
菊地成孔:tenor sax
熊原正幸:computer programming
田尻光隆:computer programming
吉澤瑛師:computer programming
吉野裕司:computer programming
produced by Think Sync Integral(寺田康彦・矢島潤一・緑川千佳子・杉本健・上村量・市川裕美)
mixing engineered by 寺田康彦・ZAK・杉本健
recording engineered by 杉本健・上村量
● プチテクノ風味はそのままに和風テイストにも挑戦!サウンドの幅を広げた名盤2ndアルバム
元アルファレコードのエンジニア寺田康彦を中心として発足した貴重なテクノポップ系レーベル、THINK SYNC INTEGRALよりシングル「はちみつ」でデビューした北海道出身のシンガーソングライター村上ユカは、1stアルバム「散歩前」でキュートなほのぼのとしながら随所に電子音をちりばめた童謡系打ち込みPOPSを展開、その勢いでメジャーレーベルから2枚のシングル(「小鳥」「雲色のじょうろ」)をリリースするなど順風満帆な活動に見えましたが、再びTHINK SYNCに舞い戻る形で、1999年に過去の名曲を村上ユカ流にリメイクしたカバーソング集「はなうたち。」をリリースします。このカバーソング集が彼女のその後の作風に影響を与えることとなり、2001年にリリースされた2ndアルバムである本作では、持ち前のかわいらしいエレクトリックサウンドは継承しつつも、前作までよりもオリエンタルなメロディが強調されており、自身の世界観を確立したと言ってもよい確固たる「芯」が存在する作品となっています。
前作の緻密なアレンジ面を支えた期待のクリエイター田尻光隆は引き続き参加しているものの、本作はFantstic Plastic Machineをにも参加したプログラマー熊原正幸や言わずと知れたもとZABADAKの上野洋子、元3デシリットル、スクーデリアエレクトロの吉澤瑛師が参加し、2枚目にふさわしいサウンドの幅を与えてくれています。その結果、「夕陽トロピカル」のような村上ユカと田尻光隆のオリエンタルシンセポップなアレンジ手法に加えて、「紅茶」「幸せのかたち」の熊原正幸の細かいリズムワークによるキュートテクノや、「赫い鳥」の必要以上に「和」を意識した上野洋子&吉野裕司のVita Novaサウンド、「願い」の静かな曲調ながら3デシリットルを彷佛とさせる吉澤瑛師得意の硬質リズム隊とボコーダーボイスの炸裂など、統一された世界観が魅力であり「おとぎ話」的であった1st「散歩前」と比べて、本作はバラエティ豊かなサウンドにカバー集「はなうたち。」のエッセンスを取り入れ日本を再発見したかのような「日本童謡」的な世界を、打ち込みシンセポップという共通言語で仕上げた、これぞ日本的テクノロジーPOPSの落とし子的な作品を生み出しています。3rdアルバム「角砂糖」リリース後、活動ペースは緩やかになっていますがそれも彼女らしいといえば彼女らしいと言えるかもしれません。
<Favorite Songs>
・「紅茶」
ピアノ系パッドの響きに癒されるきらびやかなポップチューン。特別にキャッチーなサビを一際盛り上げるためにある楽曲で、Aメロ~Bメロはその対比で抑え気味に推移、思い切りタメてパーッと広がるサビとそのインパクトでエンディングに持っていく構成が気に入っています。
・「幸せのかたち」
本作では珍しい熊原正幸のキュートでスピーディーなシーケンスが光るファンタジックシンセポップ。緻密に作り込まれたチープなリズムトラックにシンセがふんだんに使用されたサウンドは彼女の真骨頂で、こうした前作のキュートシンセポップ路線を見事に引き継いだと言える名曲です。
・「exile」
サウンド面は前作を引き継ぎ、メロディは本作の特徴を巧みにとらえた仕掛けの多い楽曲。Aメロ~Bメロ~サビと徐々に分厚さを増すサウンド、ラストに1フレーズ転調させるメロディセンス、そして無駄に長いがゆえに盛り上がるアウトロなど構成も抜群です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (どんな曲調であっても電子音を忘れない興味深い作風)
・メロディ ★★★ (キャッチーでもありキュートでもあり哀しくもある)
・リズム ★★★ (緻密に細かく構成された神経質なほどのリズムワーク)
・曲構成 ★★★ (複数の編曲者起用でもその統一感を保てるのは彼女の力)
・個性 ★★★ (クオリティの高い和風シンセポップシンガーの覚醒)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「風note」 snow mobiles
「風note」(2001 シンクシンク)
snow mobiles

<members>
折原信明:vocal・guitars・bass・drums・piano・computer programming
遠藤裕文:vocal・drums・bass・piano・pianica・computer programming
1.「風景 I」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
2.「魔法使いの血統」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
3.「白い旅人たち」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
4.「パイプオルガン」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
5.「風景 II」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
6.「雨降りの木の下」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
7.「おひるごはんのうた」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
8.「ばかばやし」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
9.「風景 III」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
10.「積乱雲もくもく」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
11.「透明な熱」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
12.「ジプシーと原稿用紙」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
13.「風景 IV」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
14.「物語のさいはて」 詞・曲:endorihara 編:佐藤清喜
15.「夢の細道」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
16.「除夜」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
17.「風景 V」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
<support musician>
飯泉裕子:whistle・marimba・kazoo・theremin
村上ユカ:chorus
佐藤清喜:electronics programming・bass・drums・piano・horn・strings・chorus arrangement
produced by Think Sync Integral(寺田康彦・矢島潤一・緑川千佳子・高原裕介・杉本健・市川裕美)
sound produced by 佐藤清喜
mixing engineered by 寺田康彦・佐藤清喜
recording engineered by 高原裕介・杉本健・上村量・佐藤清喜
● テクノポップから完全に脱却!コーラスワークを重視し世界観を確立した3rdアルバムにして最高傑作
1998年に2ndアルバム「銀の烏と小さな熊」をリリースした後、舞台をメジャーに移しポリスターより「晩秋のつむじ風」「風景観察官と夕焼け」という情緒溢れる個性的なシングルを2枚リリースした日本語の美しさと楽しさをテクノロジーサウンドに昇華させその異彩な存在感を放つsnow mobilesは、メジャーではその独特な世界観が受け入れられたとは言い難く、再びインディーズに戻って最高のクオリティを目指して大作に取り組んでいきます。そして2年の沈黙の後生み出された本作は、まず外部からのプロデューサーとして、レーベルメイトでもあり、nice music、microstarにおいてそのエレクトロに精通しつつしっかりと「POPS」が書ける才能を惜しげもなく披露していた佐藤清喜を迎えたコンセプトアルバムとして仕上がり、そのストーリー性豊かな楽曲構成と、もはやテクノポップとは言えないほどのPOPSとしての旨味が広がった芳醇なメロディ&サウンドで、この作品が彼らの音楽性のすべてと言うべき隠れた名盤の資格を十二分に得た作品となっています。
もちろん前作までに彼らの個性を決定的なものにした日本的情緒とオノマトペなどの言葉遊びを前面に押し出す唯一無二の歌詞世界は健在で、物語性のあるコンセプトアルバムの形態をとったことで、その歌詞の存在感がさらに高まっていますが、注目すべきは非常に丁寧に制作された楽曲そのものにあります。派手なギミックはないものの1つ1つのフレーズにこだわりが感じられるし、「パイプオルガン」「雨降りの木の下」といった王道のスノモーソング以外にも、途中チップマンクス風に様変わりする「おひるごはんのうた」や、昔話の宴会ソング風な「ばかばやし」、初期細野晴臣ライクな「夢の細道」といった新境地とも言える楽曲も違和感なく1つのアルバムに溶け込ませるなど、一見異なるタイプを揃えつつそれらをsnow mobilesの世界へ誘う世界観の吸引力が半端ではありません。また本作で目立つのはBeach Boysばりのコーラスワークと要所で聴くことのできる鈴の音で、エレクトリックな部分を多少排除してでもそれをカバーして余りある全体を包み込むような暖かいコーラスの力と、得意のウィンターソングに欠かせない鈴の音は本作における重要な要素となっています。しかしやはりそれらを支えるのは彼らの音楽性に根づくテクノな魂で、Mellotoronライクなストリングスや幻想的なテルミン、チープなシンセフレーズは控えめながらもこれらなくしてsnow mobilesのサウンドを語ることはできないようです(特に幕間的なインスト「風景」シリーズは白眉)。
本作へ賭ける彼らの意気込みは尋常ではなく、それが本作のクオリティにも反映されたこともあり、その後彼らのオリジナルアルバムは10年近くたった今でも発表されていませんが、そろそろ活動再開への気配が感じられているようです。日本のみならず世界においても稀有な存在のユニットですので、次回作リリースまで根気よく見守っていたいと思います。
<Favorite Songs>
・「パイプオルガン」
小粋なベースラインとリズムながら全体的にシンプルな印象の名曲。キャッチーなサビに入る部分と間奏に入る部分の「来る」感じが素晴らしいです。また間奏のコーラスから後半のサビになだれ込む構成の美しさも良いです。
・「物語のさいはて」
サウンドプロデューサー佐藤清喜単独アレンジのキラーソング。間違いなく本作中最もキャッチーな楽曲で、すべてのフレーズに泣きを入れてくる明らかに「狙った」名曲です。間奏のコーラスワーク、後半のサビへ入るちょっとしたフレーズの工夫など、感心しきりです。
・「夢の細道」
ヴォーカルの雰囲気も変えた70年代細野晴臣を想起させるファンキーソング。ホンキートンクなピアノフレーズや粘っこいチープシンセ、間奏直前のタメの効いた幻想的シンセなど聴き所も十分です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (テクノもフォークも通り越してデジアナが見事に融合)
・メロディ ★★★★★(とにかくコクのある心にしみるメロディが連発)
・リズム ★★★ (ユルい楽曲が多いが時折見せるファンキーな打ち込み)
・曲構成 ★★★★★(多彩な楽曲を1つにする圧倒的な世界観に脱帽)
・個性 ★★★★★(もはや童話というより民話の世界をPOPSに昇華)
総合評点: 10点
snow mobiles

<members>
折原信明:vocal・guitars・bass・drums・piano・computer programming
遠藤裕文:vocal・drums・bass・piano・pianica・computer programming
1.「風景 I」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
2.「魔法使いの血統」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
3.「白い旅人たち」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
4.「パイプオルガン」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
5.「風景 II」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
6.「雨降りの木の下」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
7.「おひるごはんのうた」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
8.「ばかばやし」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
9.「風景 III」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
10.「積乱雲もくもく」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
11.「透明な熱」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
12.「ジプシーと原稿用紙」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
13.「風景 IV」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
14.「物語のさいはて」 詞・曲:endorihara 編:佐藤清喜
15.「夢の細道」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
16.「除夜」 詞・曲:endorihara 編:折原信明・遠藤裕文・佐藤清喜
17.「風景 V」 曲:endorihara 編:佐藤清喜
<support musician>
飯泉裕子:whistle・marimba・kazoo・theremin
村上ユカ:chorus
佐藤清喜:electronics programming・bass・drums・piano・horn・strings・chorus arrangement
produced by Think Sync Integral(寺田康彦・矢島潤一・緑川千佳子・高原裕介・杉本健・市川裕美)
sound produced by 佐藤清喜
mixing engineered by 寺田康彦・佐藤清喜
recording engineered by 高原裕介・杉本健・上村量・佐藤清喜
● テクノポップから完全に脱却!コーラスワークを重視し世界観を確立した3rdアルバムにして最高傑作
1998年に2ndアルバム「銀の烏と小さな熊」をリリースした後、舞台をメジャーに移しポリスターより「晩秋のつむじ風」「風景観察官と夕焼け」という情緒溢れる個性的なシングルを2枚リリースした日本語の美しさと楽しさをテクノロジーサウンドに昇華させその異彩な存在感を放つsnow mobilesは、メジャーではその独特な世界観が受け入れられたとは言い難く、再びインディーズに戻って最高のクオリティを目指して大作に取り組んでいきます。そして2年の沈黙の後生み出された本作は、まず外部からのプロデューサーとして、レーベルメイトでもあり、nice music、microstarにおいてそのエレクトロに精通しつつしっかりと「POPS」が書ける才能を惜しげもなく披露していた佐藤清喜を迎えたコンセプトアルバムとして仕上がり、そのストーリー性豊かな楽曲構成と、もはやテクノポップとは言えないほどのPOPSとしての旨味が広がった芳醇なメロディ&サウンドで、この作品が彼らの音楽性のすべてと言うべき隠れた名盤の資格を十二分に得た作品となっています。
もちろん前作までに彼らの個性を決定的なものにした日本的情緒とオノマトペなどの言葉遊びを前面に押し出す唯一無二の歌詞世界は健在で、物語性のあるコンセプトアルバムの形態をとったことで、その歌詞の存在感がさらに高まっていますが、注目すべきは非常に丁寧に制作された楽曲そのものにあります。派手なギミックはないものの1つ1つのフレーズにこだわりが感じられるし、「パイプオルガン」「雨降りの木の下」といった王道のスノモーソング以外にも、途中チップマンクス風に様変わりする「おひるごはんのうた」や、昔話の宴会ソング風な「ばかばやし」、初期細野晴臣ライクな「夢の細道」といった新境地とも言える楽曲も違和感なく1つのアルバムに溶け込ませるなど、一見異なるタイプを揃えつつそれらをsnow mobilesの世界へ誘う世界観の吸引力が半端ではありません。また本作で目立つのはBeach Boysばりのコーラスワークと要所で聴くことのできる鈴の音で、エレクトリックな部分を多少排除してでもそれをカバーして余りある全体を包み込むような暖かいコーラスの力と、得意のウィンターソングに欠かせない鈴の音は本作における重要な要素となっています。しかしやはりそれらを支えるのは彼らの音楽性に根づくテクノな魂で、Mellotoronライクなストリングスや幻想的なテルミン、チープなシンセフレーズは控えめながらもこれらなくしてsnow mobilesのサウンドを語ることはできないようです(特に幕間的なインスト「風景」シリーズは白眉)。
本作へ賭ける彼らの意気込みは尋常ではなく、それが本作のクオリティにも反映されたこともあり、その後彼らのオリジナルアルバムは10年近くたった今でも発表されていませんが、そろそろ活動再開への気配が感じられているようです。日本のみならず世界においても稀有な存在のユニットですので、次回作リリースまで根気よく見守っていたいと思います。
<Favorite Songs>
・「パイプオルガン」
小粋なベースラインとリズムながら全体的にシンプルな印象の名曲。キャッチーなサビに入る部分と間奏に入る部分の「来る」感じが素晴らしいです。また間奏のコーラスから後半のサビになだれ込む構成の美しさも良いです。
・「物語のさいはて」
サウンドプロデューサー佐藤清喜単独アレンジのキラーソング。間違いなく本作中最もキャッチーな楽曲で、すべてのフレーズに泣きを入れてくる明らかに「狙った」名曲です。間奏のコーラスワーク、後半のサビへ入るちょっとしたフレーズの工夫など、感心しきりです。
・「夢の細道」
ヴォーカルの雰囲気も変えた70年代細野晴臣を想起させるファンキーソング。ホンキートンクなピアノフレーズや粘っこいチープシンセ、間奏直前のタメの効いた幻想的シンセなど聴き所も十分です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (テクノもフォークも通り越してデジアナが見事に融合)
・メロディ ★★★★★(とにかくコクのある心にしみるメロディが連発)
・リズム ★★★ (ユルい楽曲が多いが時折見せるファンキーな打ち込み)
・曲構成 ★★★★★(多彩な楽曲を1つにする圧倒的な世界観に脱帽)
・個性 ★★★★★(もはや童話というより民話の世界をPOPSに昇華)
総合評点: 10点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「LOVEBEAT」 砂原良徳
「LOVEBEAT」(2001 キューン)
砂原良徳:all instruments・vocoder

1.「earth beat」 詞・曲・編:砂原良徳
2.「balance」 詞・曲・編:砂原良徳
3.「in and out」 詞:Bryan Burton-Lewis・砂原良徳 曲・編:砂原良徳
4.「lovebeat」 詞・曲・編:砂原良徳
5.「spiral never before」 詞・曲・編:砂原良徳
6.「echo endless echo」 詞・曲・編:砂原良徳
7.「hold'on tight」 詞・曲・編:砂原良徳
8.「sun beats down」 詞:Bryan Burton-Lewis・砂原良徳 曲・編:砂原良徳
9.「bright beat」 詞:Bryan Burton-Lewis・砂原良徳 曲・編:砂原良徳
10.「the center of gravity」 詞・曲・編:砂原良徳
produced by 砂原良徳
engineered by 砂原良徳・松本靖雄
● シンプルな電子音にこだわりの静謐感が見え隠れするテクノクリエイター渾身の一作
古くは老舗テクノポップレーベルTRIGGERレーベルの設立に関わり、その後電気グルーヴの一員として90年代テクノムーブメントを牽引してきた生粋のYMO・KRAFTWERK系テクノクリエイターである砂原良徳は、電気グルーヴ在籍時の1995年にアルバム「CROSSOVER」でソロデビュー、以後「TAKE OFF AND LANDING 」「THE SOUND OF 70's」とバンド活動と並行して作品を残していきますが、1999年に電気グルーヴを脱退、純粋のソロアーティストとしてのスタートを切ることになります。そして2年後彼が導き出したエレクトロミュージックの回答として本作がリリースされました。これまでのソロ作品はサンプリング主体のモンドミュージックの体裁をとっており、これは当時のジャパニーズテクノ黎明期のアーティストがサウンド追求の果てに辿り着いた1つの境地でもありましたが、本作では再びシンセサイザーそのものの音色、電子音の響きをとことんまで追求した、ストイック過ぎる世界観を構築した作品となっています。
本作に収録されている楽曲は、派手な展開を見せるわけでもなく、インパクトの大きい音色で引きつけるわけでもない、スピード感のあるダンサブルサウンドに傾倒することもなく、テクノポップ自体の持つ可愛らしさを演出することもない、ただただ音数が少ないシンプルな電子音をいかに効果的にリスナーの耳に届けさせるかに焦点を置いたサウンドが心がけられています。その電子音には丁寧なエフェクトが施されていて、常にセンターに配置されている突き刺さるようなリズムトラックが重心となって、サウンドの核を形成しています。ここまでのシンセサウンドに対するストイックさは他には見られないものであり、砂原本人の音楽性を極限まで高めることに成功しています。しかし、このようなマニアックな感性のサウンドながらなぜかBGMとしても非常に聴きやすく飽きさせない楽曲に仕上げているのが彼のセンスが成せる業であり、現在でも寡作ではありますが、リズムと電子音の配置の妙で勝負できる数少ないエレクトロ(TECHNOLOGY)「ポップ」アーティストであると思います。
<Favorite Songs>
・「in and out」
ゆったりリズムに全編をディレイでぼやけさせたドリーミーなエレクトロミュージック。フルート系音色によるフレーズに空間に響き渡るハンドクラップ、クールなヴォコーダーなど、各パートを整然と並べた清潔感が印象的です。途中ディレイを止める効果が楽曲の中で非常に生きてきます。
・「hold'on tight」
涼しげなコード感覚がリゾートミュージックテイストな癒しのエレクトロ。微妙なフィルタリングのシンセフレーズに、節目のハンドクラップがインパクトとなって、シンプルなサウンドにメリハリを効かせています。
・「the center of gravity」
鏡の中の世界のようなめくるめく音世界が美しいラストを飾る逸品。リバーブの壁でぼやかしたランダムフレーズにストリングス系のシンセパッドが絡んで、電子音で作られた唯一無二の世界観に圧倒されます。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (音数の少なさで隙間を聴かせる大人のサウンド感性)
・メロディ ★ (聴きやすいがミニマル要素が強く一本調子の面も)
・リズム ★★★ (全編にわたりど真ん中ストレートを打ち抜くリズム)
・曲構成 ★ (構成というよりアルバム自体が1曲分の扱いでもよい)
・個性 ★★ (シンセフリークが極限まで高じるとここまでに到達)
総合評点: 7点
砂原良徳:all instruments・vocoder

1.「earth beat」 詞・曲・編:砂原良徳
2.「balance」 詞・曲・編:砂原良徳
3.「in and out」 詞:Bryan Burton-Lewis・砂原良徳 曲・編:砂原良徳
4.「lovebeat」 詞・曲・編:砂原良徳
5.「spiral never before」 詞・曲・編:砂原良徳
6.「echo endless echo」 詞・曲・編:砂原良徳
7.「hold'on tight」 詞・曲・編:砂原良徳
8.「sun beats down」 詞:Bryan Burton-Lewis・砂原良徳 曲・編:砂原良徳
9.「bright beat」 詞:Bryan Burton-Lewis・砂原良徳 曲・編:砂原良徳
10.「the center of gravity」 詞・曲・編:砂原良徳
produced by 砂原良徳
engineered by 砂原良徳・松本靖雄
● シンプルな電子音にこだわりの静謐感が見え隠れするテクノクリエイター渾身の一作
古くは老舗テクノポップレーベルTRIGGERレーベルの設立に関わり、その後電気グルーヴの一員として90年代テクノムーブメントを牽引してきた生粋のYMO・KRAFTWERK系テクノクリエイターである砂原良徳は、電気グルーヴ在籍時の1995年にアルバム「CROSSOVER」でソロデビュー、以後「TAKE OFF AND LANDING 」「THE SOUND OF 70's」とバンド活動と並行して作品を残していきますが、1999年に電気グルーヴを脱退、純粋のソロアーティストとしてのスタートを切ることになります。そして2年後彼が導き出したエレクトロミュージックの回答として本作がリリースされました。これまでのソロ作品はサンプリング主体のモンドミュージックの体裁をとっており、これは当時のジャパニーズテクノ黎明期のアーティストがサウンド追求の果てに辿り着いた1つの境地でもありましたが、本作では再びシンセサイザーそのものの音色、電子音の響きをとことんまで追求した、ストイック過ぎる世界観を構築した作品となっています。
本作に収録されている楽曲は、派手な展開を見せるわけでもなく、インパクトの大きい音色で引きつけるわけでもない、スピード感のあるダンサブルサウンドに傾倒することもなく、テクノポップ自体の持つ可愛らしさを演出することもない、ただただ音数が少ないシンプルな電子音をいかに効果的にリスナーの耳に届けさせるかに焦点を置いたサウンドが心がけられています。その電子音には丁寧なエフェクトが施されていて、常にセンターに配置されている突き刺さるようなリズムトラックが重心となって、サウンドの核を形成しています。ここまでのシンセサウンドに対するストイックさは他には見られないものであり、砂原本人の音楽性を極限まで高めることに成功しています。しかし、このようなマニアックな感性のサウンドながらなぜかBGMとしても非常に聴きやすく飽きさせない楽曲に仕上げているのが彼のセンスが成せる業であり、現在でも寡作ではありますが、リズムと電子音の配置の妙で勝負できる数少ないエレクトロ(TECHNOLOGY)「ポップ」アーティストであると思います。
<Favorite Songs>
・「in and out」
ゆったりリズムに全編をディレイでぼやけさせたドリーミーなエレクトロミュージック。フルート系音色によるフレーズに空間に響き渡るハンドクラップ、クールなヴォコーダーなど、各パートを整然と並べた清潔感が印象的です。途中ディレイを止める効果が楽曲の中で非常に生きてきます。
・「hold'on tight」
涼しげなコード感覚がリゾートミュージックテイストな癒しのエレクトロ。微妙なフィルタリングのシンセフレーズに、節目のハンドクラップがインパクトとなって、シンプルなサウンドにメリハリを効かせています。
・「the center of gravity」
鏡の中の世界のようなめくるめく音世界が美しいラストを飾る逸品。リバーブの壁でぼやかしたランダムフレーズにストリングス系のシンセパッドが絡んで、電子音で作られた唯一無二の世界観に圧倒されます。
<評点>
・サウンド ★★★★★ (音数の少なさで隙間を聴かせる大人のサウンド感性)
・メロディ ★ (聴きやすいがミニマル要素が強く一本調子の面も)
・リズム ★★★ (全編にわたりど真ん中ストレートを打ち抜くリズム)
・曲構成 ★ (構成というよりアルバム自体が1曲分の扱いでもよい)
・個性 ★★ (シンセフリークが極限まで高じるとここまでに到達)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「カナシイタマシイ」 かの香織
「カナシイタマシイ」 (2001 トエラ)
かの香織:vocal・computer programming・chorus arrangement

1.「REPLICA」 詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
2.「熱帯の夜に雪が降る」 詞・曲・編:かの香織
3.「Afternoon Tea for "Allo? Allo?"」 詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
4.「MINT SHOWER GEL」 曲・編:かの香織
5.「空港で生まれ変わる女~sunny day~」
詞:菊地成孔・かの香織 曲:かの香織 編:CHIBUN
6.「LOVELY」 詞:菊地成孔 曲:かの香織 編:長谷部徹
7.「BITTER SUMMER'S END~夏の終わりのキャンプファイヤー~ (album mix)」
詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
8.「まわりだした日々~Days Gone and Days Still Here~ (album mix)」
詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
9.「PRECIOUS RAINY DAY」 詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
10.「SPLASH INTO THE BLUE (album mix)」 詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
11.「陽はまた昇る」 詞・曲・編:かの香織
12.「BEAUTIFUL DAYS」 詞・曲:かの香織 編:長谷部徹・CHIBUN
<support musician>
CHIBUN:guitars・computer programming
阿部光一郎:bass
キタダマキ:bass
中原信雄:bass
阿部耕作:drums
小島徹也:drums
中山努:acoustic piano・Wuritzer
長谷部徹:keyboards・computer programming
毛利泰士:horn
Marie Cochrane:background vocals
青山陽一:background vocals・chorus arrangement
松岡モトキ:background vocals
木本靖夫:computer programming
坂田雅幸:computer programming
produced by かの香織
co-produced by CHIBUN
mixing engineered by 藤田哲司・守屋勝美・長谷部徹・浅野浩伸・CHIBUN
recording engineered by 浅野浩伸・滝沢武士・松田正博
● 切ないメロディを生かす青く幻想的なサウンド!珠玉の12曲を携えたかの香織最高傑作
前作「OH LA LA」では多種多様な個性派アレンジャーを向こうに回してハイクオリティなPOPSを展開していたかの香織でしたが、5年の歳月を経てインディーズに活動の場を移しリリースされたアルバムが本作です。「かなしみをテーマにした12篇のサッド・ソングス」という帯の宣伝文句に違わない全体的に彼女の類稀なメロディセンスを生かしたキラーチューンが詰まった捨て曲なしの名盤に仕上がっています。そしてそれを支えるのが落ち着きのある美しいシンセサウンドです。本作はかの自身がアレンジにも参加するという、より自家製にこだわった私的な作品という印象を受けますが、そんなアットホームな感覚も感じさせながらも弾き語りに頼らず打ち込みサウンドを巧みに操る方向性には好感が持てます。あえてシンセが生み出す深遠な音の広がりを生かすセンスが尋常ではないのです。
前作は多くの編曲者を起用しましたが本作は本人を除けばほとんどを元Portable RockのCHIBUN(鈴木智文)が、一部をドラマの劇伴やテクノユニットstraight 2 heavenで活動していた長谷部徹が担当しています。オシャレ感を失わず打ち込みと生演奏を使い分ける玄人好みのアレンジが光るCHIBUNはかのメロディとの相性も抜群であるが、本作の驚きは長谷部徹の緻密なシンセワークのセンスで、さすが劇伴を中心に活動していると思わせるドラマティックな展開の楽曲に仕上げ聴かせてくれます。願わくば半分くらいの楽曲は彼に担当してもらいたかったくらいです。そんな2人が丹精を込めて作り上げたサウンドによって楽曲のクオリティは前作とはまた違った形で高いレベルを保ち、彼女のヴォーカルを引き立てているのです。まさにPOPSとしてもTECHNOLOGY POPSとしても隠れた名盤と言ってよいでしょう。最近はナチュラルでジャジーな作風にシフトしていますが、またこのようなシンセサウンドの響きを生かした作品を聴いてみたいものです。
<Favorite Songs>
・「REPLICA」
四つ打ちリズムで攻めるダンサブルチューン。要所を占めるシンセパッドの音色が素晴らしく爽快に感じられます。しかしこの楽曲はやはりその隙のないメロディの構成で、Aメロからサビまで展開が完璧。そしてクラブ系要素を取り入れながらも決して下世話にならずオシャレさを外さないところもさすがです。
・「熱帯の夜に雪が降る」
かの香織自身がアレンジを施した本作の代表的楽曲。相変わらずの泣きのメロディセンスは衰えていませんが、長谷部徹のエフェクティブかつキラキラしたシンセワークの助けもあるもののかの自身のプログラミングも侮れないセンスを感じます。2番Bメロのコーラスワークが特に素晴らしいです。
・「LOVELY」
イントロから美しい音色で驚かされる世紀の名バラード。長谷部徹のサウンドセンスが爆発したこの楽曲は、もちろんかのメロディの隙もないのですが、やはりこの柔らかくもドリーミーなシンセ音色が素晴らしい。バラードというメロディとヴォーカルを聴かせる方向にいきがちな曲調にここまでシンセによる広がりを持たせるとは恐れ入りました。
<評点>
・サウンド ★★★★★(楽曲に対する音色の選択が見事にハマっている。素晴らしい)
・メロディ ★★★★★(ドラマティックで切ないお得意のかのメロディは健在)
・リズム ★★★★ (軽快でダンサブルなリズムでオシャレ感を際立たせている)
・曲構成 ★★★★★(12曲とも映画のワンシーンのような質の高さが光る)
・個性 ★★★★ (音にこだわる希有な歌手&クリエイターとして尊敬に値する)
総合評点: 10点
かの香織:vocal・computer programming・chorus arrangement

1.「REPLICA」 詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
2.「熱帯の夜に雪が降る」 詞・曲・編:かの香織
3.「Afternoon Tea for "Allo? Allo?"」 詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
4.「MINT SHOWER GEL」 曲・編:かの香織
5.「空港で生まれ変わる女~sunny day~」
詞:菊地成孔・かの香織 曲:かの香織 編:CHIBUN
6.「LOVELY」 詞:菊地成孔 曲:かの香織 編:長谷部徹
7.「BITTER SUMMER'S END~夏の終わりのキャンプファイヤー~ (album mix)」
詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
8.「まわりだした日々~Days Gone and Days Still Here~ (album mix)」
詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
9.「PRECIOUS RAINY DAY」 詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
10.「SPLASH INTO THE BLUE (album mix)」 詞・曲:かの香織 編:CHIBUN
11.「陽はまた昇る」 詞・曲・編:かの香織
12.「BEAUTIFUL DAYS」 詞・曲:かの香織 編:長谷部徹・CHIBUN
<support musician>
CHIBUN:guitars・computer programming
阿部光一郎:bass
キタダマキ:bass
中原信雄:bass
阿部耕作:drums
小島徹也:drums
中山努:acoustic piano・Wuritzer
長谷部徹:keyboards・computer programming
毛利泰士:horn
Marie Cochrane:background vocals
青山陽一:background vocals・chorus arrangement
松岡モトキ:background vocals
木本靖夫:computer programming
坂田雅幸:computer programming
produced by かの香織
co-produced by CHIBUN
mixing engineered by 藤田哲司・守屋勝美・長谷部徹・浅野浩伸・CHIBUN
recording engineered by 浅野浩伸・滝沢武士・松田正博
● 切ないメロディを生かす青く幻想的なサウンド!珠玉の12曲を携えたかの香織最高傑作
前作「OH LA LA」では多種多様な個性派アレンジャーを向こうに回してハイクオリティなPOPSを展開していたかの香織でしたが、5年の歳月を経てインディーズに活動の場を移しリリースされたアルバムが本作です。「かなしみをテーマにした12篇のサッド・ソングス」という帯の宣伝文句に違わない全体的に彼女の類稀なメロディセンスを生かしたキラーチューンが詰まった捨て曲なしの名盤に仕上がっています。そしてそれを支えるのが落ち着きのある美しいシンセサウンドです。本作はかの自身がアレンジにも参加するという、より自家製にこだわった私的な作品という印象を受けますが、そんなアットホームな感覚も感じさせながらも弾き語りに頼らず打ち込みサウンドを巧みに操る方向性には好感が持てます。あえてシンセが生み出す深遠な音の広がりを生かすセンスが尋常ではないのです。
前作は多くの編曲者を起用しましたが本作は本人を除けばほとんどを元Portable RockのCHIBUN(鈴木智文)が、一部をドラマの劇伴やテクノユニットstraight 2 heavenで活動していた長谷部徹が担当しています。オシャレ感を失わず打ち込みと生演奏を使い分ける玄人好みのアレンジが光るCHIBUNはかのメロディとの相性も抜群であるが、本作の驚きは長谷部徹の緻密なシンセワークのセンスで、さすが劇伴を中心に活動していると思わせるドラマティックな展開の楽曲に仕上げ聴かせてくれます。願わくば半分くらいの楽曲は彼に担当してもらいたかったくらいです。そんな2人が丹精を込めて作り上げたサウンドによって楽曲のクオリティは前作とはまた違った形で高いレベルを保ち、彼女のヴォーカルを引き立てているのです。まさにPOPSとしてもTECHNOLOGY POPSとしても隠れた名盤と言ってよいでしょう。最近はナチュラルでジャジーな作風にシフトしていますが、またこのようなシンセサウンドの響きを生かした作品を聴いてみたいものです。
<Favorite Songs>
・「REPLICA」
四つ打ちリズムで攻めるダンサブルチューン。要所を占めるシンセパッドの音色が素晴らしく爽快に感じられます。しかしこの楽曲はやはりその隙のないメロディの構成で、Aメロからサビまで展開が完璧。そしてクラブ系要素を取り入れながらも決して下世話にならずオシャレさを外さないところもさすがです。
・「熱帯の夜に雪が降る」
かの香織自身がアレンジを施した本作の代表的楽曲。相変わらずの泣きのメロディセンスは衰えていませんが、長谷部徹のエフェクティブかつキラキラしたシンセワークの助けもあるもののかの自身のプログラミングも侮れないセンスを感じます。2番Bメロのコーラスワークが特に素晴らしいです。
・「LOVELY」
イントロから美しい音色で驚かされる世紀の名バラード。長谷部徹のサウンドセンスが爆発したこの楽曲は、もちろんかのメロディの隙もないのですが、やはりこの柔らかくもドリーミーなシンセ音色が素晴らしい。バラードというメロディとヴォーカルを聴かせる方向にいきがちな曲調にここまでシンセによる広がりを持たせるとは恐れ入りました。
<評点>
・サウンド ★★★★★(楽曲に対する音色の選択が見事にハマっている。素晴らしい)
・メロディ ★★★★★(ドラマティックで切ないお得意のかのメロディは健在)
・リズム ★★★★ (軽快でダンサブルなリズムでオシャレ感を際立たせている)
・曲構成 ★★★★★(12曲とも映画のワンシーンのような質の高さが光る)
・個性 ★★★★ (音にこだわる希有な歌手&クリエイターとして尊敬に値する)
総合評点: 10点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
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