「SUPERSONIC GENERATION」 布袋寅泰
「SUPERSONIC GENERATION」(1998 東芝EMI)
布袋寅泰:vocals・all instruments
<synthesizer instruments>
Korg Trinity・StudioElectrinics Midi-Mini・Doepfer A100BS・Clavia Nordlead・Akai S3200XL・Roland SVC350・Roland JD990・E-mu Orbit・E-mu Vintage Keys・E-mu Proteus・Sherman Filterbank・Alesis DM5

1.「SUPERSONIC GENERATION」 詞・曲・編:布袋寅泰
2.「FUCK THE FAKE STAR」
詞:布袋寅泰 曲:布袋寅泰・Noko・Trevor Gray・Howard Gray
編:布袋寅泰・Apollo440
3.「THEY SPY YOU」 詞・曲・編:布袋寅泰
4.「BELIEVE ME, I’M A LIAR」 詞:布袋寅泰 曲・編:布袋寅泰・Darren Price
5.「MYTERY OF LOVE」 詞・曲・編:布袋寅泰
6.「WE ALL ALONE」 詞:森雪之丞 曲:布袋寅泰 編:布袋寅泰・SLINKY
7.「IMMIGRANT SONG」 詞・曲:Jimmy Page・Robert Plant 編:布袋寅泰
8.「LOVE OR DIE」 詞:森雪之丞 曲・編:布袋寅泰
9.「SPIDER IN THE SKY」 詞:森雪之丞 曲・編:布袋寅泰
10.「DESTINY」 詞 詞:森雪之丞 曲:布袋寅泰 編:布袋寅泰・Darren Price
<support musician>
Jeff Patterson:vocals・backing vocals
Ofra Haza:vocal
HIROSHI:bass
Zachary Alford:drums
Katie Kissoon:backing vocals
Tessa Niles:backing vocals
Tony Jackson:backing vocals
Wera Wonder:backing vocals
Apollo440:computer programming
SLINKY:computer programming
Darren Price:computer programming
渡部伸隆:computer programming・audio edit
produced by 布袋寅泰・Apollo440・Darren Price・SLINKY
engineered by 今井邦彦
● 攻撃的なエレクトリックロックを携えて本領発揮!サイバー的な世界観で統一されたコンセプチュアルな問題作
日本ロック界史上に残る名ギタリストとしての名を欲しいままにする布袋寅泰が、自身の音楽性をとことん突き詰めたソロワークシリーズ「GUTARHYTHM」4部作を完成し次のステージへ進んでいったわけですが、その先はヒットチューンが期待されたポップ路線でした。「POISON」「スリル」といった耳に残るリフをかましつつ印象に残るサビを乗せた楽曲は一般リスナーにも人気を博し文字通りスマッシュヒット。名実共にスターダムに昇り詰めていった彼は、しかしながらその状況に満足せず、再び自身が志向する音楽性に向き合うことを決意します。彼の音楽性の根幹といえばニューウェーブ。デジタルサウンドとロックの融合というテーマは「GUTARHYTHM」シリーズでも幾度となくチャレンジしていたわけですが、90年代後半となると、世界的にデジロックが席巻し始めており、奇しくも布袋はその時流に乗った形で、98年に本作のようなサイバーロック的アプローチが施されたマニアックでコンセプチュアルなアルバムのリリースに至りました。前作のポップ路線をかなぐり捨てたこの硬派なデジロック路線は、流行に媚びたと揶揄されたり、前作路線を期待したファンを篩にかける形になったりと、賛否両論が渦巻く形となりましたが、作品としてはチャレンジ精神に溢れた硬派な作品として、異色ながら傑作の呼び声の高い作品として評価されています。
元来典型的なロックギタリストでありながらエレクトロサウンドの導入に抵抗感のなく、ニューウェーブ感覚豊かなセンスを持ち合わせている布袋寅泰ですが、本作ではそのサウンドセンスが遺憾なく発揮されています。彼の代名詞であるキレのあるカッティングを中心としたギターワークはそのままに、過激で粘り気のある、尖りまくった音色のエレクトリックサウンドが添え物ではなく中心的な役割として導入され、まるでSF戦争映画を見せられているかのような攻撃性に満ちた過激音色で派手に立ち回っています。Apollo440やUnderworldに関わっていたDarren Price、SLINKYといった海外ミュージシャンの参加も本作の話題性の1つですが、海外デジロック勢を向こうに張っても全く臆することがないどころか、このような過激なエレクトリックサウンドだからこそ自身の個性的なギターワークが生きるのだ、と言わんばかりの布袋の生き生きとしたプレーぶりが堪能できます。それにしても本作のデジタルサウンド、シンセサウンドへの傾倒ぶりは激しく、CD-Extraに掲載されている機材一覧(上記「synthesizer instruments」参照)を見てもわかるように、KORG Trinityを中心に90年代の名機達(しかも比較的廉価な)を使用しながらのこの一貫としたサイバー感覚の演出は、生半可な覚悟でニューウェーブ→デジロックの道を辿っていないことを感じさせるものです。本人の強力な知名度とギタリストとしての存在感が目立ってしまうため誤解されがちですが、彼の本質はサイバーで近未来、元来がテクノ&ニューウェーブの人間であることを再認識させられます。できることならば、本作のような路線を続けていってほしかったところですが、彼のような大スターともなると周囲の様々なしがらみからこのようなノンシングルカットの嗜好が偏りがちな作品をリリースし続けることは難しかったのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「SUPERSONIC GENERATION」
ガバ調の高速BPMの4つ打ちバスドラが響き渡る渾身のタイトルチューン。サンプリング全開のシャウトに痛いほどアシッドなベースライン、間奏の圧巻のギターソロでは必要以上にフラットかつ金属的なフレーズが暴れ回ります。本作のコンセプトを高らかと宣言するサイバーで攻撃的な世界観の名曲です。
・「SPIDER IN THE SKY」
イントロのロックなギターリフを音色でサイバーテクノに変身させた本作の作風を象徴するかのような楽曲。これも間奏の暴れるギターソロは圧巻ですが、その裏でしつこく粘り続けるアシッドなシンセフレーズが強烈なアクセントとしてギターと掛け合っているのが面白いです。最後のスペイシーラジオな効果から宇宙船が飛び去って、本作ラストソングの「DESTINY」に繋がる演出もニクいです。
・「DESTINY」
ドラマ仕立ての台詞回しが面白いラストチューン。サントラのようなドラマティックな展開も楽しいのですが、ハウス調のガンガンくるリズムにアシッドテクノのグチョグチョしたフレーズが絡んできて、その上に乗ってくるポエトリーリーディングとの違和感がこの楽曲の最大の魅力です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (攻撃的ではあるがアシッドでテクノな音色が満載)
・メロディ ★ (徹底的なサウンド志向でポップ性は後退)
・リズム ★★★ (レイト90's特有の直線的かつ神経質な構築ぶり)
・曲構成 ★★ (コンセプト作品として全体を通した激しさは一貫する)
・個性 ★★ (自身の志向と世間のイメージとの折り合いに苦しむ)
総合評点: 7点
布袋寅泰:vocals・all instruments
<synthesizer instruments>
Korg Trinity・StudioElectrinics Midi-Mini・Doepfer A100BS・Clavia Nordlead・Akai S3200XL・Roland SVC350・Roland JD990・E-mu Orbit・E-mu Vintage Keys・E-mu Proteus・Sherman Filterbank・Alesis DM5

1.「SUPERSONIC GENERATION」 詞・曲・編:布袋寅泰
2.「FUCK THE FAKE STAR」
詞:布袋寅泰 曲:布袋寅泰・Noko・Trevor Gray・Howard Gray
編:布袋寅泰・Apollo440
3.「THEY SPY YOU」 詞・曲・編:布袋寅泰
4.「BELIEVE ME, I’M A LIAR」 詞:布袋寅泰 曲・編:布袋寅泰・Darren Price
5.「MYTERY OF LOVE」 詞・曲・編:布袋寅泰
6.「WE ALL ALONE」 詞:森雪之丞 曲:布袋寅泰 編:布袋寅泰・SLINKY
7.「IMMIGRANT SONG」 詞・曲:Jimmy Page・Robert Plant 編:布袋寅泰
8.「LOVE OR DIE」 詞:森雪之丞 曲・編:布袋寅泰
9.「SPIDER IN THE SKY」 詞:森雪之丞 曲・編:布袋寅泰
10.「DESTINY」 詞 詞:森雪之丞 曲:布袋寅泰 編:布袋寅泰・Darren Price
<support musician>
Jeff Patterson:vocals・backing vocals
Ofra Haza:vocal
HIROSHI:bass
Zachary Alford:drums
Katie Kissoon:backing vocals
Tessa Niles:backing vocals
Tony Jackson:backing vocals
Wera Wonder:backing vocals
Apollo440:computer programming
SLINKY:computer programming
Darren Price:computer programming
渡部伸隆:computer programming・audio edit
produced by 布袋寅泰・Apollo440・Darren Price・SLINKY
engineered by 今井邦彦
● 攻撃的なエレクトリックロックを携えて本領発揮!サイバー的な世界観で統一されたコンセプチュアルな問題作
日本ロック界史上に残る名ギタリストとしての名を欲しいままにする布袋寅泰が、自身の音楽性をとことん突き詰めたソロワークシリーズ「GUTARHYTHM」4部作を完成し次のステージへ進んでいったわけですが、その先はヒットチューンが期待されたポップ路線でした。「POISON」「スリル」といった耳に残るリフをかましつつ印象に残るサビを乗せた楽曲は一般リスナーにも人気を博し文字通りスマッシュヒット。名実共にスターダムに昇り詰めていった彼は、しかしながらその状況に満足せず、再び自身が志向する音楽性に向き合うことを決意します。彼の音楽性の根幹といえばニューウェーブ。デジタルサウンドとロックの融合というテーマは「GUTARHYTHM」シリーズでも幾度となくチャレンジしていたわけですが、90年代後半となると、世界的にデジロックが席巻し始めており、奇しくも布袋はその時流に乗った形で、98年に本作のようなサイバーロック的アプローチが施されたマニアックでコンセプチュアルなアルバムのリリースに至りました。前作のポップ路線をかなぐり捨てたこの硬派なデジロック路線は、流行に媚びたと揶揄されたり、前作路線を期待したファンを篩にかける形になったりと、賛否両論が渦巻く形となりましたが、作品としてはチャレンジ精神に溢れた硬派な作品として、異色ながら傑作の呼び声の高い作品として評価されています。
元来典型的なロックギタリストでありながらエレクトロサウンドの導入に抵抗感のなく、ニューウェーブ感覚豊かなセンスを持ち合わせている布袋寅泰ですが、本作ではそのサウンドセンスが遺憾なく発揮されています。彼の代名詞であるキレのあるカッティングを中心としたギターワークはそのままに、過激で粘り気のある、尖りまくった音色のエレクトリックサウンドが添え物ではなく中心的な役割として導入され、まるでSF戦争映画を見せられているかのような攻撃性に満ちた過激音色で派手に立ち回っています。Apollo440やUnderworldに関わっていたDarren Price、SLINKYといった海外ミュージシャンの参加も本作の話題性の1つですが、海外デジロック勢を向こうに張っても全く臆することがないどころか、このような過激なエレクトリックサウンドだからこそ自身の個性的なギターワークが生きるのだ、と言わんばかりの布袋の生き生きとしたプレーぶりが堪能できます。それにしても本作のデジタルサウンド、シンセサウンドへの傾倒ぶりは激しく、CD-Extraに掲載されている機材一覧(上記「synthesizer instruments」参照)を見てもわかるように、KORG Trinityを中心に90年代の名機達(しかも比較的廉価な)を使用しながらのこの一貫としたサイバー感覚の演出は、生半可な覚悟でニューウェーブ→デジロックの道を辿っていないことを感じさせるものです。本人の強力な知名度とギタリストとしての存在感が目立ってしまうため誤解されがちですが、彼の本質はサイバーで近未来、元来がテクノ&ニューウェーブの人間であることを再認識させられます。できることならば、本作のような路線を続けていってほしかったところですが、彼のような大スターともなると周囲の様々なしがらみからこのようなノンシングルカットの嗜好が偏りがちな作品をリリースし続けることは難しかったのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「SUPERSONIC GENERATION」
ガバ調の高速BPMの4つ打ちバスドラが響き渡る渾身のタイトルチューン。サンプリング全開のシャウトに痛いほどアシッドなベースライン、間奏の圧巻のギターソロでは必要以上にフラットかつ金属的なフレーズが暴れ回ります。本作のコンセプトを高らかと宣言するサイバーで攻撃的な世界観の名曲です。
・「SPIDER IN THE SKY」
イントロのロックなギターリフを音色でサイバーテクノに変身させた本作の作風を象徴するかのような楽曲。これも間奏の暴れるギターソロは圧巻ですが、その裏でしつこく粘り続けるアシッドなシンセフレーズが強烈なアクセントとしてギターと掛け合っているのが面白いです。最後のスペイシーラジオな効果から宇宙船が飛び去って、本作ラストソングの「DESTINY」に繋がる演出もニクいです。
・「DESTINY」
ドラマ仕立ての台詞回しが面白いラストチューン。サントラのようなドラマティックな展開も楽しいのですが、ハウス調のガンガンくるリズムにアシッドテクノのグチョグチョしたフレーズが絡んできて、その上に乗ってくるポエトリーリーディングとの違和感がこの楽曲の最大の魅力です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (攻撃的ではあるがアシッドでテクノな音色が満載)
・メロディ ★ (徹底的なサウンド志向でポップ性は後退)
・リズム ★★★ (レイト90's特有の直線的かつ神経質な構築ぶり)
・曲構成 ★★ (コンセプト作品として全体を通した激しさは一貫する)
・個性 ★★ (自身の志向と世間のイメージとの折り合いに苦しむ)
総合評点: 7点
「鴉III -Flow-」 上領亘
「鴉III -Flow-」(1998 コロムビア)
上領亘:vocal・drums・guitar・bass・keyboards・piano・synthesizer programming

1.「Whisper」 詞・曲・編:上領亘
2.「Artemis [karasu version]」 詞:上領亘 曲・編:上領亘・成田忍
3.「願い」 詞・曲・編:上領亘
4.「Walkin’ in the rain」 詞・曲・編:上領亘
5.「wtpf [version2]」 詞:上領亘 曲・編:上領亘・MOMO
6.「SCENE」 詞・曲・編:上領亘
7.「B.V.M」 詞・曲・編:上領亘
8.「flow」 曲・編:上領亘・成田忍
9.「時間 [とき]」 詞・曲・編:上領亘
10.「裸足 [karasu version]」 詞:上領亘 曲・編:上領亘・成田忍
11.「DEVA」 曲・編:上領亘・MOMO
<support musician>
出口雅之:vocal
成田忍:guitars・keyboards・synthesizer programming
BARA:bass
Chan Kao:chorus
川喜多美子:chorus
MOMO:synthesizer programming
produced by 上領亘
engineered by 石塚”BERA”伯広・池亀淳一
● 成田忍とMOMOのサポートによりすべてを浄化した白く幻想的なサウンドへ昇華した上領サウンドの完成形となった3rdアルバム
GRASS VALLEY、P-MODELと個性派エレクトリック系バンドでテクニカル&スタイリッシュなドラマーとして活躍してきた上領亘が、ソロアーティストとしてデビューした1996年以降リリースされた「鴉」シリーズと銘打たれたソロ作品は、彼が歩んできた音楽遍歴を生かしたテクノロジーサウンドな部分と、その風貌から想起させられる独特の美意識から醸し出される世界観により生み出された、聴き手の欲求に十分に応えられた作品群であったと思われます。P-MODEL脱退後にリリースされた2ndアルバム「鴉II」は、楽曲のバラエティを広げつつ持ち前のタイトでノングルーヴなドラミングを生かしたサウンドメイクで、「鴉」な黒い世界観をほぼ確立したかに見えましたが、このシリーズ3部作の最終章となる本作では、黒さを抜け出して完全に浄化された神々しさすら感じさせる多幸感のある楽曲で、新境地に達した作風に挑戦しています。それでいて上領個人の美意識は損なわない、まさにソロプロジェクトの集大成と言ってよい作品となっています。
夜が似合う前作の路線を敢えて踏襲せず転換した本作のサウンドは、リバーブたっぷりのドリーミーなシンセワークを多用した優しく白いアンビエントな音世界です(特に「flow」や「DEVA」といったインスト曲は真っ正面から完全にアンビエントウォーターテクノといった趣です)。自身のプロデュースながら本作前に先行リリースされたシングル「Artemis」を共同プロデュースした成田忍や、前作に引き続きシンセプログラミングで重要なサウンドの核として機能しているシンセプログラマーMOMOの2人が強力にバックアップしていますが、成田(や上領)のギターは意外と言えば失礼ながらネイキッドな質感で、MOMOが作り出すシンセサウンドは水中を泳いでいるかのような浮遊感溢れるファンタジックな音色を多用しているため、完成された楽曲はどこかノスタルジック、暗いトンネルを抜け出した先に見える眩い光のような多幸感が本作の最大のポイントと言えるでしょう(シングル曲の「Artemis」や「裸足」もミックスを幻想的に変更してアルバムの統一感を演出)。前作では硬派な側面も披露された上領自身のドラミングも本作では残響音の壁の後ろに隠されるように控えめな音処理に終始しており、その柔らかさへの徹底ぶりはさすがに「鴉シリーズ」のコンセプターと言ったところでしょうか。バラエティに富んだ前作と比較すると、多幸感が溢れ過ぎているのかいささか地味な印象も与えますが、それはもともと上領が持ち合わせている決して器用ではないメロディの美意識による部分が大きく、そのあたりは本職ではないヴォーカルのか細さもあって好き嫌いの分かれるところであるとは思いますが、これも「鴉シリーズ」の醍醐味ということなのでしょう。また、本作の大切なトピックスとしては「wtpf [version2]」での出口雅之のゲストヴォーカルの起用です。GRASS VALLEYの盟友を起用する大胆さと、ドラムンベースに乗りつつ一気に自身の世界観に引き込んでいく出口雅之との相性の良さが感じられるこの楽曲には、この不世出のバンドの再結集を期待されましたがそのように上手くいくはずもなく現在に至ります。しかし、近年ではDK Projectとして出口&上領のGV楽曲を披露するライブも催されており、音楽的にも近しい彼らの相性は相変わらず高いようです。
結果的に「鴉シリーズ」は本作をもって終焉を迎えることになりますが、このシリーズは彼のアーティスト性とコンセプターとしての力量を高めることに成功したことは確かで、その後のCROWやν[Neu]等のプロデュースワークや近年のテクノ民謡ユニットNeoBalladとしての活動にその稀なセンスを垣間見せています。
<Favorite Songs>
・「Whisper」
全体を包み込む幻想的な音響にイメージを覆させられるオープニングナンバー。靄がかかったようなディレイの効いたシンセリフ、ふんわりとした浮遊感抜群の白玉コードワーク、四つ打ちなのに攻撃性が感じられない優しく繊細なリズムトラック、この幸福感で本作の世界観へ一気に引き込んでいきます。
・「wtpf [version2]」
ドラムンベースとグルーヴィーなベースラインが支配する味わい深いエレクトロニクスアンビエントソング。ゲストヴォーカルの出口雅之お得意の低音ヴォーカルとこのくぐもった深遠のエレクトロサウンドの相性は抜群で、GRASS VALLEY時代からのファンにとっては最高のプレゼントとなったと思われる楽曲です。
・「裸足 [karasu version]」
先行シングル「Artemis」のc/wのアルバムバージョン。成田忍プロデュースによるネイキッド感とノスタルジーメロディが売りの楽曲ですが、淡々としたリズムからのサビの物悲しさと、それに付随する多彩なエフェクティブサウンドを散りばめたギターサウンドが本作の魅力を最大限に引き出しています。
<評点>
・サウンド ★★★ (音響面や多彩な電子音の散りばめ方が向上の一途)
・メロディ ★ (前作のような説得力のあるフレーズは後退)
・リズム ★ (パワフルさはリバーブの後ろに引っ込み大人しさも)
・曲構成 ★ (コンセプチュアル性は相変わらずだが緩急には乏しい)
・個性 ★★ (最後のシリーズ作ということで音実験を最も試みる)
総合評点: 6点
上領亘:vocal・drums・guitar・bass・keyboards・piano・synthesizer programming

1.「Whisper」 詞・曲・編:上領亘
2.「Artemis [karasu version]」 詞:上領亘 曲・編:上領亘・成田忍
3.「願い」 詞・曲・編:上領亘
4.「Walkin’ in the rain」 詞・曲・編:上領亘
5.「wtpf [version2]」 詞:上領亘 曲・編:上領亘・MOMO
6.「SCENE」 詞・曲・編:上領亘
7.「B.V.M」 詞・曲・編:上領亘
8.「flow」 曲・編:上領亘・成田忍
9.「時間 [とき]」 詞・曲・編:上領亘
10.「裸足 [karasu version]」 詞:上領亘 曲・編:上領亘・成田忍
11.「DEVA」 曲・編:上領亘・MOMO
<support musician>
出口雅之:vocal
成田忍:guitars・keyboards・synthesizer programming
BARA:bass
Chan Kao:chorus
川喜多美子:chorus
MOMO:synthesizer programming
produced by 上領亘
engineered by 石塚”BERA”伯広・池亀淳一
● 成田忍とMOMOのサポートによりすべてを浄化した白く幻想的なサウンドへ昇華した上領サウンドの完成形となった3rdアルバム
GRASS VALLEY、P-MODELと個性派エレクトリック系バンドでテクニカル&スタイリッシュなドラマーとして活躍してきた上領亘が、ソロアーティストとしてデビューした1996年以降リリースされた「鴉」シリーズと銘打たれたソロ作品は、彼が歩んできた音楽遍歴を生かしたテクノロジーサウンドな部分と、その風貌から想起させられる独特の美意識から醸し出される世界観により生み出された、聴き手の欲求に十分に応えられた作品群であったと思われます。P-MODEL脱退後にリリースされた2ndアルバム「鴉II」は、楽曲のバラエティを広げつつ持ち前のタイトでノングルーヴなドラミングを生かしたサウンドメイクで、「鴉」な黒い世界観をほぼ確立したかに見えましたが、このシリーズ3部作の最終章となる本作では、黒さを抜け出して完全に浄化された神々しさすら感じさせる多幸感のある楽曲で、新境地に達した作風に挑戦しています。それでいて上領個人の美意識は損なわない、まさにソロプロジェクトの集大成と言ってよい作品となっています。
夜が似合う前作の路線を敢えて踏襲せず転換した本作のサウンドは、リバーブたっぷりのドリーミーなシンセワークを多用した優しく白いアンビエントな音世界です(特に「flow」や「DEVA」といったインスト曲は真っ正面から完全にアンビエントウォーターテクノといった趣です)。自身のプロデュースながら本作前に先行リリースされたシングル「Artemis」を共同プロデュースした成田忍や、前作に引き続きシンセプログラミングで重要なサウンドの核として機能しているシンセプログラマーMOMOの2人が強力にバックアップしていますが、成田(や上領)のギターは意外と言えば失礼ながらネイキッドな質感で、MOMOが作り出すシンセサウンドは水中を泳いでいるかのような浮遊感溢れるファンタジックな音色を多用しているため、完成された楽曲はどこかノスタルジック、暗いトンネルを抜け出した先に見える眩い光のような多幸感が本作の最大のポイントと言えるでしょう(シングル曲の「Artemis」や「裸足」もミックスを幻想的に変更してアルバムの統一感を演出)。前作では硬派な側面も披露された上領自身のドラミングも本作では残響音の壁の後ろに隠されるように控えめな音処理に終始しており、その柔らかさへの徹底ぶりはさすがに「鴉シリーズ」のコンセプターと言ったところでしょうか。バラエティに富んだ前作と比較すると、多幸感が溢れ過ぎているのかいささか地味な印象も与えますが、それはもともと上領が持ち合わせている決して器用ではないメロディの美意識による部分が大きく、そのあたりは本職ではないヴォーカルのか細さもあって好き嫌いの分かれるところであるとは思いますが、これも「鴉シリーズ」の醍醐味ということなのでしょう。また、本作の大切なトピックスとしては「wtpf [version2]」での出口雅之のゲストヴォーカルの起用です。GRASS VALLEYの盟友を起用する大胆さと、ドラムンベースに乗りつつ一気に自身の世界観に引き込んでいく出口雅之との相性の良さが感じられるこの楽曲には、この不世出のバンドの再結集を期待されましたがそのように上手くいくはずもなく現在に至ります。しかし、近年ではDK Projectとして出口&上領のGV楽曲を披露するライブも催されており、音楽的にも近しい彼らの相性は相変わらず高いようです。
結果的に「鴉シリーズ」は本作をもって終焉を迎えることになりますが、このシリーズは彼のアーティスト性とコンセプターとしての力量を高めることに成功したことは確かで、その後のCROWやν[Neu]等のプロデュースワークや近年のテクノ民謡ユニットNeoBalladとしての活動にその稀なセンスを垣間見せています。
<Favorite Songs>
・「Whisper」
全体を包み込む幻想的な音響にイメージを覆させられるオープニングナンバー。靄がかかったようなディレイの効いたシンセリフ、ふんわりとした浮遊感抜群の白玉コードワーク、四つ打ちなのに攻撃性が感じられない優しく繊細なリズムトラック、この幸福感で本作の世界観へ一気に引き込んでいきます。
・「wtpf [version2]」
ドラムンベースとグルーヴィーなベースラインが支配する味わい深いエレクトロニクスアンビエントソング。ゲストヴォーカルの出口雅之お得意の低音ヴォーカルとこのくぐもった深遠のエレクトロサウンドの相性は抜群で、GRASS VALLEY時代からのファンにとっては最高のプレゼントとなったと思われる楽曲です。
・「裸足 [karasu version]」
先行シングル「Artemis」のc/wのアルバムバージョン。成田忍プロデュースによるネイキッド感とノスタルジーメロディが売りの楽曲ですが、淡々としたリズムからのサビの物悲しさと、それに付随する多彩なエフェクティブサウンドを散りばめたギターサウンドが本作の魅力を最大限に引き出しています。
<評点>
・サウンド ★★★ (音響面や多彩な電子音の散りばめ方が向上の一途)
・メロディ ★ (前作のような説得力のあるフレーズは後退)
・リズム ★ (パワフルさはリバーブの後ろに引っ込み大人しさも)
・曲構成 ★ (コンセプチュアル性は相変わらずだが緩急には乏しい)
・個性 ★★ (最後のシリーズ作ということで音実験を最も試みる)
総合評点: 6点
「merveilles」 MALICE MIZER
「merveilles」 (1998 コロムビア)
MALICE MIZER

<members>
Gackt.C:vocal・piano・computer programming
Mana:guitar・synthesizer・computer programming
Közi:guitar・synthesizer・computer programming
Yu~ki:bass・computer programming
Kami:drums・computer programming
1.「~de merveilles」 曲:mana 編:MALICE MIZER
2.「Syunikiss~二度目の哀悼~」
詞:Gackt.C 曲:Yu~ki 編:MALICE MIZER・島田陽平
3.「ヴェル・エール~空白の瞬間の中で~」
詞:Gackt.C 曲:mana 編:MALICE MIZER・島田陽平
4.「ILLUMINATI」 詞:Gackt.C 曲:Közi 編:MALICE MIZER
5.「Brise」 詞:Gackt.C 曲:Közi 編:MALICE MIZER・島田陽平
6.「エーゲ~過ぎ去りし風と共に~」 詞:Gackt.C 曲:mana 編:MALICE MIZER
7.「au revoir」 詞:Gackt.C 曲:mana 編:MALICE MIZER・島田陽平
8.「Ju te veux」 詞:Gackt.C 曲:Közi 編:MALICE MIZER
9.「S-CONSCIOUS」 詞:Gackt.C 曲:mana 編:MALICE MIZER
10.「Le ciel」 詞・曲:Gackt.C 編:MALICE MIZER・島田陽平
11.「月下の夜想曲」 詞:Gackt.C 曲:Közi 編:MALICE MIZER・島田陽平
12.「Bois de merveilles」
詞:Gackt.C 曲:MALICE MIZER 編:MALICE MIZER・島田陽平
<support musician>
島田陽平:keyboards
中西俊博:violin
金原千恵子:violin
阿部雅士:cello
中山信彦:synthesizer programming・sound design
produced by MALICE MIZER
sound advise by 島田陽平
engineered by 赤波江敦夫
● 派手なヴィジュアルと演劇がかった世界観とは裏腹に作り込まれた作品に対する執念を感じるメジャーデビュー盤
90年代に隆盛を極める過剰な装飾を極めファンタジックなステージングと憂いを含んだメロディラインのが特徴のヴィジュアル系バンドの中でも、より幻想的で多彩孔音楽性を放っていた象徴的なグループであったMALICE MIZER。90年代前半よりインディーズで活動を続けてきた彼らは、2代目ヴォーカリストのGackt.Cを迎えてから本格化し、メジャーデビューを機に一部の好事家達のみの知る人ぞ知る存在から、メディアへの進出もあって一般視聴者にも浸透していきました。そしてメジャー初のアルバムである本作のリリースによってイメージ戦略的にも、そして音楽的にも高みに上り詰めていくことになるわけです。もともとがクラシックな要素をうまく取り入れた耽美的ロックという方向性をとことん突き詰めて、さらに楽曲によっては多面的な顔を見せるなど、1枚目にして勝負で出つつも実験的な試みも忘れない野心的な作品に仕上げています。
中世ヨーロッパを意識したイメージとビブラートを過剰に効かせた美声のヴォーカルがシアトリカルな本作ではバイオリンが要所で活躍し変拍子も織り交ぜたプログレ感覚をも垣間見せるものの、TECHNOLOGYなサウンドも違和感なく取り入れているところにも注目です。ギターの2人がシンセも操るなど他の同系バンドとは異なる性質を備えていることもあってか、「Ju te veux」「ILLUMINATI」「S-CONSCIOUS」では攻撃的な打ち込みリズムと尖ったシーケンスを効かせたサイバーテクノに挑戦しています。しかし基本は物語性を意識したドラマティックな展開を見せるコンセプチュアルロックであり、「エーゲ」「au revoir」「Le ciel」のようなシングル曲に代表されるような美メロ歌謡POPSと前述のサイバー&プログレ路線をサントラのごとく織り交ぜながら、多彩な顔を見せた作品となっています。とにかく鋼の世界観を持ち過ぎな面と過剰なビジュアル面もあって音楽面でなかなか正当な評価は得られなかった彼らですが、本作を聴けばその丁寧な作りに再評価に値する作品と言えるでしょう。このメンバーで残したアルバムはGacktの失踪後の脱退のため本作のみとなりましたが、解散後メロディアスな面とタレント性はGacktに、ヴィジュアル面も含めた世界観はManaに、そしてサイバーな音楽性はXA-VATでの活躍も記憶に新しいKöziに引き継がれていくことになります。
<Favorite Songs>
・「au revoir」
アナログっぽいサウンドにバイオリンのフレーズが美メロに映える名曲。ヴィジュアル系が持つロマンティックな側面を凝縮したかのようなメランコリックな展開は、彼らの耽美的な世界観を最もわかりやすく表現していると言えるでしょう。
・「S-CONSCIOUS」
ミニマルなシーケンスにカットアップコラージュも取り入れた往年のSOFT BALLET(の藤井曲)を彷佛とさせるサイバーテクノチューン。メロディ性を希薄にしてノイズでかき消したような攻撃性を持つ楽曲で、シーケンスは少し青い部分もあるもののこうした近未来的なサウンドも抵抗なく採用できる度量の広さも感じられます。
・「Le ciel」
美しいパッド系サウンドで広がりを持たせたバラードの名曲。エフェクトを駆使したギターフレーズも浮遊感たっぷりで、その心地良さで聴き手を魅了します。ポイントはBメロの変拍子であの部分で少し曲の表情が変化するところにセンスを感じます。
<評点>
・サウンド ★★★ (打ち込み部分よりクラシカルな面に丁寧な音使いを感じる)
・メロディ ★★ (美メロも多いだけに少々技に走り過ぎるのがもったいない)
・リズム ★★ (変拍子を駆使し生と攻撃的な打ち込みリズムを使い分け)
・曲構成 ★★ (ストーリー性はあるがもう少し楽曲を練り上げてもよい)
・個性 ★★★ (意外とありそうでない圧倒的世界観と訴求力がある全盛期)
総合評点: 7点
MALICE MIZER

<members>
Gackt.C:vocal・piano・computer programming
Mana:guitar・synthesizer・computer programming
Közi:guitar・synthesizer・computer programming
Yu~ki:bass・computer programming
Kami:drums・computer programming
1.「~de merveilles」 曲:mana 編:MALICE MIZER
2.「Syunikiss~二度目の哀悼~」
詞:Gackt.C 曲:Yu~ki 編:MALICE MIZER・島田陽平
3.「ヴェル・エール~空白の瞬間の中で~」
詞:Gackt.C 曲:mana 編:MALICE MIZER・島田陽平
4.「ILLUMINATI」 詞:Gackt.C 曲:Közi 編:MALICE MIZER
5.「Brise」 詞:Gackt.C 曲:Közi 編:MALICE MIZER・島田陽平
6.「エーゲ~過ぎ去りし風と共に~」 詞:Gackt.C 曲:mana 編:MALICE MIZER
7.「au revoir」 詞:Gackt.C 曲:mana 編:MALICE MIZER・島田陽平
8.「Ju te veux」 詞:Gackt.C 曲:Közi 編:MALICE MIZER
9.「S-CONSCIOUS」 詞:Gackt.C 曲:mana 編:MALICE MIZER
10.「Le ciel」 詞・曲:Gackt.C 編:MALICE MIZER・島田陽平
11.「月下の夜想曲」 詞:Gackt.C 曲:Közi 編:MALICE MIZER・島田陽平
12.「Bois de merveilles」
詞:Gackt.C 曲:MALICE MIZER 編:MALICE MIZER・島田陽平
<support musician>
島田陽平:keyboards
中西俊博:violin
金原千恵子:violin
阿部雅士:cello
中山信彦:synthesizer programming・sound design
produced by MALICE MIZER
sound advise by 島田陽平
engineered by 赤波江敦夫
● 派手なヴィジュアルと演劇がかった世界観とは裏腹に作り込まれた作品に対する執念を感じるメジャーデビュー盤
90年代に隆盛を極める過剰な装飾を極めファンタジックなステージングと憂いを含んだメロディラインのが特徴のヴィジュアル系バンドの中でも、より幻想的で多彩孔音楽性を放っていた象徴的なグループであったMALICE MIZER。90年代前半よりインディーズで活動を続けてきた彼らは、2代目ヴォーカリストのGackt.Cを迎えてから本格化し、メジャーデビューを機に一部の好事家達のみの知る人ぞ知る存在から、メディアへの進出もあって一般視聴者にも浸透していきました。そしてメジャー初のアルバムである本作のリリースによってイメージ戦略的にも、そして音楽的にも高みに上り詰めていくことになるわけです。もともとがクラシックな要素をうまく取り入れた耽美的ロックという方向性をとことん突き詰めて、さらに楽曲によっては多面的な顔を見せるなど、1枚目にして勝負で出つつも実験的な試みも忘れない野心的な作品に仕上げています。
中世ヨーロッパを意識したイメージとビブラートを過剰に効かせた美声のヴォーカルがシアトリカルな本作ではバイオリンが要所で活躍し変拍子も織り交ぜたプログレ感覚をも垣間見せるものの、TECHNOLOGYなサウンドも違和感なく取り入れているところにも注目です。ギターの2人がシンセも操るなど他の同系バンドとは異なる性質を備えていることもあってか、「Ju te veux」「ILLUMINATI」「S-CONSCIOUS」では攻撃的な打ち込みリズムと尖ったシーケンスを効かせたサイバーテクノに挑戦しています。しかし基本は物語性を意識したドラマティックな展開を見せるコンセプチュアルロックであり、「エーゲ」「au revoir」「Le ciel」のようなシングル曲に代表されるような美メロ歌謡POPSと前述のサイバー&プログレ路線をサントラのごとく織り交ぜながら、多彩な顔を見せた作品となっています。とにかく鋼の世界観を持ち過ぎな面と過剰なビジュアル面もあって音楽面でなかなか正当な評価は得られなかった彼らですが、本作を聴けばその丁寧な作りに再評価に値する作品と言えるでしょう。このメンバーで残したアルバムはGacktの失踪後の脱退のため本作のみとなりましたが、解散後メロディアスな面とタレント性はGacktに、ヴィジュアル面も含めた世界観はManaに、そしてサイバーな音楽性はXA-VATでの活躍も記憶に新しいKöziに引き継がれていくことになります。
<Favorite Songs>
・「au revoir」
アナログっぽいサウンドにバイオリンのフレーズが美メロに映える名曲。ヴィジュアル系が持つロマンティックな側面を凝縮したかのようなメランコリックな展開は、彼らの耽美的な世界観を最もわかりやすく表現していると言えるでしょう。
・「S-CONSCIOUS」
ミニマルなシーケンスにカットアップコラージュも取り入れた往年のSOFT BALLET(の藤井曲)を彷佛とさせるサイバーテクノチューン。メロディ性を希薄にしてノイズでかき消したような攻撃性を持つ楽曲で、シーケンスは少し青い部分もあるもののこうした近未来的なサウンドも抵抗なく採用できる度量の広さも感じられます。
・「Le ciel」
美しいパッド系サウンドで広がりを持たせたバラードの名曲。エフェクトを駆使したギターフレーズも浮遊感たっぷりで、その心地良さで聴き手を魅了します。ポイントはBメロの変拍子であの部分で少し曲の表情が変化するところにセンスを感じます。
<評点>
・サウンド ★★★ (打ち込み部分よりクラシカルな面に丁寧な音使いを感じる)
・メロディ ★★ (美メロも多いだけに少々技に走り過ぎるのがもったいない)
・リズム ★★ (変拍子を駆使し生と攻撃的な打ち込みリズムを使い分け)
・曲構成 ★★ (ストーリー性はあるがもう少し楽曲を練り上げてもよい)
・個性 ★★★ (意外とありそうでない圧倒的世界観と訴求力がある全盛期)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「Paper Driver's Music」 キリンジ
「Paper Driver's Music」 (1998 ワーナー)
キリンジ

<members>
堀込泰行:vocals・electric guitar・acoustic guitar・melodion・handclap
堀込高樹:vocals・electric guitar・acoustic guitar・tambourine・handclap・background vocals
1.「双子座グラフィティ」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
2.「風を撃て」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
3.「野良の虹」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
4.「太陽の午後」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
5.「雨を見くびるな」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
6.「甘やかな身体」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
7.「P.D.M.」 曲:堀込高樹 編:冨田恵一
8.「ニュータウン」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
9.「汗染みは淡いブルース」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
10.「冬のオルカ」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
11.「五月病」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
12.「かどわかされて」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
<support musician>
冨田恵一:all instruments
立川智也:electric bass
渡辺等:electric bass・acoustic bass
島村一徳:drums
鈴木達也:drums
松本俊行:acoustic piano・B-3 organ
光宗信吉:acoustic piano
山口とも:shaker・congas・timbales・cowbell・guiro・triangle・pandelo
小林太:trumpet・flugel horn
佐々木史郎:trumpet・flugel horn
河合わかば:trombone
山本一:tenor sax
大沢明子:flute・alto flute
高桑英世:flute・alto flute
produced by 冨田恵一
mixing engineered by 松田龍太
recording engineered by 松田龍太・高田充晃
● 綿密に計算された歌詞・メロディ・サウンド!珠玉のPOPSを創り出す新世代ユニットの名盤1stアルバム
1997年かせきさいだぁのバックアップによりキリンの柄ジャケでインディーズレーベルNatural Foundationからシングル「キリンジ」でデビューした兄弟ユニット、キリンジ。「風を撃て」「野良の虹」といった素朴ながらもメロディに芯のある新人らしからぬポップセンスは既にぬきんでたものがありました。そして2ndシングル「冬のオルカ」もその非凡な作詞作曲能力が発揮された秀作で(特に「休日ダイヤ」は屈指の名曲)、インディーズで一部の知る人ぞ知るグループにおいておくにはもったいないユニットでした。もちろんそんな注目ユニットを音楽界が放っておくわけはなく、翌98年シングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビュー、そしてこうしたポップセンスに重きを置くグループの真価を発揮の場であるフルアルバムである本作を同年リリースするわけです。インディーズでのシングル曲を新録した上に、さらにクオリティを上回る新曲を多数用意した本作は、彼らの才能を広く世に知らしめた作品として、現在でも日本のPOPS名盤の1枚に数えられることの多い名盤となっています。
兄弟それぞれが個性的な歌詞を書き、さらにひねくれたメロディまで生み出せるキリンジですが、彼らの楽曲を支えプロフェッショナルなサウンドに仕上げてその実力と評価を不動のものとしたのが冨田恵一です。生演奏と聴きまがうような緻密なプログラミングと持ち前の洋楽エッセンスが研ぎ澄まされたそのアレンジ技術は、まさに本作によって開花し、後の彼の輝かしい音楽経歴につながったと言えるでしょう。それだけの説得力が感じられる既に熟練したアレンジ&サウンドです。もちろん堀込兄弟の日本語POPSにおける歌詞の重要性を知らしめた作詞センスも抜群ですが、真骨頂はやはり堀込兄弟の書く幾重にも「仕掛けられた」メロディと冨田恵一の玄人はだしな安定感のあるアレンジとの抜群の相性に尽きると思います。デビュー作にしてこれだけの作品を作り上げたキリンジのその後の活躍は皆さんもご存じの通りであると思いますが、すべては本作から始まりました、と言えるほどの素晴らしい作品であることに異論は挟めないでしょう。
<Favorite Songs>
・「野良の虹」
インディーズ時代から人気のある初期の名曲をリアレンジ。とはいえ原曲の素朴さを残しつつ輪郭を広げた印象で、Aメロからサビに至るまで全く隙はなく、しかも前半と後半をつなぐCメロの盛り上がりが素晴らしい。この楽曲だけでも彼らの才気が感じられます。
・「雨を見くびるな」
美しいメロディにピアノ&ストリングス、そしてペダルスティールっぽいフレーズも加わった珠玉のミディアムバラード。こうした叙情的な楽曲をサラッと書けるのも彼らの魅力の1つでしょう。相変わらず冨田アレンジの間奏へ入る前のタイミングが絶妙です。
・「かどわかされて」
アルバムの最後を飾るオーケストレーションバラード。最後にこの名曲を持ってくるところが末恐ろしい。ストリングスとフルートフレーズの絶妙な混じり具合、ジャジーなギター&エレピの安定感も良いのですが、この楽曲はやはり完璧なメロディに尽きます。Bメロからサビへの繋げ方、特に後半の畳み掛けるフレーズの数々の凝りようが尋常ではありません。これぞキリンジ楽曲の中で個人的No.1の名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (管弦交えながらのデジアナサウンドに隙は全くなし)
・メロディ ★★★★★(難解なメロディを聴きやすく整えるセンスは抜群)
・リズム ★★ (生演奏と打ち込みの区別がつかないほど緻密な構成)
・曲構成 ★★★★ (既発曲がかすむほどの才気ほとばしる楽曲群)
・個性 ★★★ (捨て曲なしの安定感がこれがデビューと思えない)
総合評点: 8点
キリンジ

<members>
堀込泰行:vocals・electric guitar・acoustic guitar・melodion・handclap
堀込高樹:vocals・electric guitar・acoustic guitar・tambourine・handclap・background vocals
1.「双子座グラフィティ」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
2.「風を撃て」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
3.「野良の虹」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
4.「太陽の午後」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
5.「雨を見くびるな」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
6.「甘やかな身体」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
7.「P.D.M.」 曲:堀込高樹 編:冨田恵一
8.「ニュータウン」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
9.「汗染みは淡いブルース」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
10.「冬のオルカ」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
11.「五月病」 詞・曲:堀込泰行 編:冨田恵一
12.「かどわかされて」 詞・曲:堀込高樹 編:冨田恵一
<support musician>
冨田恵一:all instruments
立川智也:electric bass
渡辺等:electric bass・acoustic bass
島村一徳:drums
鈴木達也:drums
松本俊行:acoustic piano・B-3 organ
光宗信吉:acoustic piano
山口とも:shaker・congas・timbales・cowbell・guiro・triangle・pandelo
小林太:trumpet・flugel horn
佐々木史郎:trumpet・flugel horn
河合わかば:trombone
山本一:tenor sax
大沢明子:flute・alto flute
高桑英世:flute・alto flute
produced by 冨田恵一
mixing engineered by 松田龍太
recording engineered by 松田龍太・高田充晃
● 綿密に計算された歌詞・メロディ・サウンド!珠玉のPOPSを創り出す新世代ユニットの名盤1stアルバム
1997年かせきさいだぁのバックアップによりキリンの柄ジャケでインディーズレーベルNatural Foundationからシングル「キリンジ」でデビューした兄弟ユニット、キリンジ。「風を撃て」「野良の虹」といった素朴ながらもメロディに芯のある新人らしからぬポップセンスは既にぬきんでたものがありました。そして2ndシングル「冬のオルカ」もその非凡な作詞作曲能力が発揮された秀作で(特に「休日ダイヤ」は屈指の名曲)、インディーズで一部の知る人ぞ知るグループにおいておくにはもったいないユニットでした。もちろんそんな注目ユニットを音楽界が放っておくわけはなく、翌98年シングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビュー、そしてこうしたポップセンスに重きを置くグループの真価を発揮の場であるフルアルバムである本作を同年リリースするわけです。インディーズでのシングル曲を新録した上に、さらにクオリティを上回る新曲を多数用意した本作は、彼らの才能を広く世に知らしめた作品として、現在でも日本のPOPS名盤の1枚に数えられることの多い名盤となっています。
兄弟それぞれが個性的な歌詞を書き、さらにひねくれたメロディまで生み出せるキリンジですが、彼らの楽曲を支えプロフェッショナルなサウンドに仕上げてその実力と評価を不動のものとしたのが冨田恵一です。生演奏と聴きまがうような緻密なプログラミングと持ち前の洋楽エッセンスが研ぎ澄まされたそのアレンジ技術は、まさに本作によって開花し、後の彼の輝かしい音楽経歴につながったと言えるでしょう。それだけの説得力が感じられる既に熟練したアレンジ&サウンドです。もちろん堀込兄弟の日本語POPSにおける歌詞の重要性を知らしめた作詞センスも抜群ですが、真骨頂はやはり堀込兄弟の書く幾重にも「仕掛けられた」メロディと冨田恵一の玄人はだしな安定感のあるアレンジとの抜群の相性に尽きると思います。デビュー作にしてこれだけの作品を作り上げたキリンジのその後の活躍は皆さんもご存じの通りであると思いますが、すべては本作から始まりました、と言えるほどの素晴らしい作品であることに異論は挟めないでしょう。
<Favorite Songs>
・「野良の虹」
インディーズ時代から人気のある初期の名曲をリアレンジ。とはいえ原曲の素朴さを残しつつ輪郭を広げた印象で、Aメロからサビに至るまで全く隙はなく、しかも前半と後半をつなぐCメロの盛り上がりが素晴らしい。この楽曲だけでも彼らの才気が感じられます。
・「雨を見くびるな」
美しいメロディにピアノ&ストリングス、そしてペダルスティールっぽいフレーズも加わった珠玉のミディアムバラード。こうした叙情的な楽曲をサラッと書けるのも彼らの魅力の1つでしょう。相変わらず冨田アレンジの間奏へ入る前のタイミングが絶妙です。
・「かどわかされて」
アルバムの最後を飾るオーケストレーションバラード。最後にこの名曲を持ってくるところが末恐ろしい。ストリングスとフルートフレーズの絶妙な混じり具合、ジャジーなギター&エレピの安定感も良いのですが、この楽曲はやはり完璧なメロディに尽きます。Bメロからサビへの繋げ方、特に後半の畳み掛けるフレーズの数々の凝りようが尋常ではありません。これぞキリンジ楽曲の中で個人的No.1の名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (管弦交えながらのデジアナサウンドに隙は全くなし)
・メロディ ★★★★★(難解なメロディを聴きやすく整えるセンスは抜群)
・リズム ★★ (生演奏と打ち込みの区別がつかないほど緻密な構成)
・曲構成 ★★★★ (既発曲がかすむほどの才気ほとばしる楽曲群)
・個性 ★★★ (捨て曲なしの安定感がこれがデビューと思えない)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「LIFE」 bambi synapse
「LIFE」(1998 グリーン)
bambi synapse

<members>
渡辺美智代:vocal
渡辺良:drums・computer programming
佐脇興英:synthesizer・computer programming
1.「find a cascade」 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
2.「kazeteki」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
3.「flock」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
4.「quiet words」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
5.「Y605」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
6.「baby mosquito」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
7.「extra pool」 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
8.「green ray」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
9.「blanket」 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
10.「yellow parallelogram」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
produced by bambi synapse
engineered by 渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
● 癒しの電子音響に自己主張の激しいリズムが交錯!京都発個性派テクノユニットの名盤2ndアルバム
アナログ剥き出しの電子音と苛烈なエフェクト仕様でジャパニーズテクノの中でも強烈な個性を放っていた関西出身のテクノユニットTANZMUZIK。2人組の彼らの中でも拡散的な音の使い方に定評があったOKIHIDEこと佐脇興英は、TANZMUZIKとしての活動のほかに「A boy in picca season」リリースをはじめとしたソロ活動や、京都出身のニューウェーブロックバンドにして関西インディーズシーンの重要バンドであるCONVEX LEVELのギタリスト、渡辺良と渡辺美智代の夫婦と共に結成したbambi synapseとしての活動を行うなど、90年代後半はその溢れ出す才能とセンスに任せて精力的に活動していきました。その中でもbambi synapseは、彼らのようなクラブ系テクノの中でも緻密で繊細なプログラミングサウンドに透明感のある歌声が乗る珍しいタイプのグループで、独特のドリーミーでファンタジックな音使いによる楽曲は、同時期の同種のグループの中でも一線を画するものがありました。1stアルバム「Weather Forecast」に続く作品である本作は、そんな彼らの音楽的センスが見事に開花した傑作です。
稀代のシンセ使いであるOKIHIDEとこのグループではドラマーとして参加するなど多彩な才能を垣間見せる渡辺良のセンスのせめぎ合いも楽しめるグループである彼らのサウンドメイクは、インディーズならではの実験精神に優れたサンプリングとアナログシンセによる緻密に計算されたノイジーなプログラミングと、時には力強く、時には繊細かつ金属的な音色で多彩な色彩を見せる個性的なリズムトラックが特徴であり、そのようなアクの強いエレクトリックサウンドに淡々としたストイックとも言える清々しい歌声が融合していく様子は、他のグループにはなかなか真似できることのない性格の音楽性であると思います。90年代のエレクトロミュージックらしく1曲ごとの時間が長く、そのサウンドをじっくりと楽しむことができる反面、だからこそ飽きさせないような緻密で前衛的な音づくりが求められてくるものですが、本作は佐脇興英の「音の拡散波動砲」と呼ぶことができるような電子音をリズミカルに踊らせる独特のフレーズメイキングが、骨太で冒険心あふれるリズムと透明で深遠な声質のヴォーカルをさらに引き立てており、90年代後半に生まれた突然変異のニューウェーブと言ってもよい隠れた名盤として語ることのできる作品であると言えるでしょう(現在廃盤なのが残念です)。
<Favorite Songs>
・「flock」
静かに推移するイントロから爆発的で凶暴なリズムトラックになだれ込む瞬間が秀逸なテクノミュージック。サンプリング音を細かく分断してリズミカルに再構築するOKIHIDE得意のエレクトリックサウンドによる「攻め」の姿勢が感じられるテンションの高さが魅力です。
・「quiet words」
生ドラムをブレイクビーツとして切り刻んだ斬新なリズムトラックが強烈な印象を与える名曲。その攻撃的なリズムもさることながら、エフェクティブにくぐもったオルガン系音色によるシンセサウンドと、Michiyoの透き通った声の融合は彼らの売りでもありますが、この楽曲ではそれが顕著に表現できた例であると思われます。
・「extra pool」~「green ray」
贅沢な電子音による長めのイントロ「extra pool」から17分近くにも及ぶ本編「green ray」というエレクトリック大作。電力を大量に使ったような強力なシンセパッドがなんといっても印象的ですが、延々と繰り返すノイズ混じりのリズムトラックはエレクトロニカの初期症状といったところでしょうか。そしてヴォーカルを電子的な加工を施してリアルに歪みをもたらす手法も、そのクールなサウンドと共に効果的です。
<評点>
・サウンド ★★★★★(電子音を細かくまき散らした芸術的音像は職人芸)
・メロディ ★ (凝りまくったサウンドに比べても仕方ないことか)
・リズム ★★★★ (多彩なリズムトラックにも強烈なこだわりを感じる)
・曲構成 ★ (時代の流れもあるが1曲の長さによる間延びが気になる)
・個性 ★★★ (サウンドに対する真摯な姿勢と探究心は相当なもの)
総合評点: 8点
bambi synapse

<members>
渡辺美智代:vocal
渡辺良:drums・computer programming
佐脇興英:synthesizer・computer programming
1.「find a cascade」 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
2.「kazeteki」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
3.「flock」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
4.「quiet words」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
5.「Y605」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
6.「baby mosquito」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
7.「extra pool」 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
8.「green ray」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
9.「blanket」 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
10.「yellow parallelogram」
詞:渡辺美智代 曲:渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良 編:bambi synapse
produced by bambi synapse
engineered by 渡辺美智代・佐脇興英・渡辺良
● 癒しの電子音響に自己主張の激しいリズムが交錯!京都発個性派テクノユニットの名盤2ndアルバム
アナログ剥き出しの電子音と苛烈なエフェクト仕様でジャパニーズテクノの中でも強烈な個性を放っていた関西出身のテクノユニットTANZMUZIK。2人組の彼らの中でも拡散的な音の使い方に定評があったOKIHIDEこと佐脇興英は、TANZMUZIKとしての活動のほかに「A boy in picca season」リリースをはじめとしたソロ活動や、京都出身のニューウェーブロックバンドにして関西インディーズシーンの重要バンドであるCONVEX LEVELのギタリスト、渡辺良と渡辺美智代の夫婦と共に結成したbambi synapseとしての活動を行うなど、90年代後半はその溢れ出す才能とセンスに任せて精力的に活動していきました。その中でもbambi synapseは、彼らのようなクラブ系テクノの中でも緻密で繊細なプログラミングサウンドに透明感のある歌声が乗る珍しいタイプのグループで、独特のドリーミーでファンタジックな音使いによる楽曲は、同時期の同種のグループの中でも一線を画するものがありました。1stアルバム「Weather Forecast」に続く作品である本作は、そんな彼らの音楽的センスが見事に開花した傑作です。
稀代のシンセ使いであるOKIHIDEとこのグループではドラマーとして参加するなど多彩な才能を垣間見せる渡辺良のセンスのせめぎ合いも楽しめるグループである彼らのサウンドメイクは、インディーズならではの実験精神に優れたサンプリングとアナログシンセによる緻密に計算されたノイジーなプログラミングと、時には力強く、時には繊細かつ金属的な音色で多彩な色彩を見せる個性的なリズムトラックが特徴であり、そのようなアクの強いエレクトリックサウンドに淡々としたストイックとも言える清々しい歌声が融合していく様子は、他のグループにはなかなか真似できることのない性格の音楽性であると思います。90年代のエレクトロミュージックらしく1曲ごとの時間が長く、そのサウンドをじっくりと楽しむことができる反面、だからこそ飽きさせないような緻密で前衛的な音づくりが求められてくるものですが、本作は佐脇興英の「音の拡散波動砲」と呼ぶことができるような電子音をリズミカルに踊らせる独特のフレーズメイキングが、骨太で冒険心あふれるリズムと透明で深遠な声質のヴォーカルをさらに引き立てており、90年代後半に生まれた突然変異のニューウェーブと言ってもよい隠れた名盤として語ることのできる作品であると言えるでしょう(現在廃盤なのが残念です)。
<Favorite Songs>
・「flock」
静かに推移するイントロから爆発的で凶暴なリズムトラックになだれ込む瞬間が秀逸なテクノミュージック。サンプリング音を細かく分断してリズミカルに再構築するOKIHIDE得意のエレクトリックサウンドによる「攻め」の姿勢が感じられるテンションの高さが魅力です。
・「quiet words」
生ドラムをブレイクビーツとして切り刻んだ斬新なリズムトラックが強烈な印象を与える名曲。その攻撃的なリズムもさることながら、エフェクティブにくぐもったオルガン系音色によるシンセサウンドと、Michiyoの透き通った声の融合は彼らの売りでもありますが、この楽曲ではそれが顕著に表現できた例であると思われます。
・「extra pool」~「green ray」
贅沢な電子音による長めのイントロ「extra pool」から17分近くにも及ぶ本編「green ray」というエレクトリック大作。電力を大量に使ったような強力なシンセパッドがなんといっても印象的ですが、延々と繰り返すノイズ混じりのリズムトラックはエレクトロニカの初期症状といったところでしょうか。そしてヴォーカルを電子的な加工を施してリアルに歪みをもたらす手法も、そのクールなサウンドと共に効果的です。
<評点>
・サウンド ★★★★★(電子音を細かくまき散らした芸術的音像は職人芸)
・メロディ ★ (凝りまくったサウンドに比べても仕方ないことか)
・リズム ★★★★ (多彩なリズムトラックにも強烈なこだわりを感じる)
・曲構成 ★ (時代の流れもあるが1曲の長さによる間延びが気になる)
・個性 ★★★ (サウンドに対する真摯な姿勢と探究心は相当なもの)
総合評点: 8点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽