「東雲」 Phnonpenh MODEL
「東雲」 (2000 クラブルナティカ)
Phnonpenh MODEL

<members>
ことぶき光:computer programming・keyboards
谷口マルタ正明:vocals
1.「橋立」 曲・編:ことぶき光
2.「水門」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
3.「スピード」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
4.「帰還」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
5.「東雲」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
6.「山の幽霊」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
7.「紅茶」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
8.「地下鉄」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
9.「仕事」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
10.「鳥」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
11.「合図」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
12.「カオサンの娘」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
13.「辰巳運河」 曲・編:ことぶき光
14.「祈り」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
<support musician>
熊切寛:System Blue・System Bluewink
斉藤哲也:computer programming・keyboards・piano
松本正:game playing
produced by Phnonpenh MODEL
engineered by ことぶき光
● 2人組となり歌詞はより訴えかけるようにサウンドはより奔放に電子音が散りばめられた音遊びが過ぎる3rdアルバム
最も純粋にテクノポップに近づいたと言われる解凍P-MODELの象徴と言えるメンバーであったことぶき光は、1993年のP-MODELコピーバンド大会「Errors of P-MANIA!」に、少年マルタ(谷口正明)とライオンメリイと共にバンド「ことぶき光withプノンペンモデル」を結成し、自ら禁断の参加に及びます。しかし企画ユニットとして記念の1stアルバムリリースで終わると思われたこのバンドは、ここから本人達でさえ思いも寄らない形で継続、Phnonpenh MODELとして地道にライブ活動を続けながら1998年に2ndアルバム「PATCHWORKS」をリリース、狂気の切り貼りエレクトロニクスをバックにしたポエトリーリーディングスタイルに進化を遂げ、欧州ツアーを敢行するなど世界でもマニアックながらその名を知られることとなります。この頃になるとライオンメリイは脱退して2人組となりますが、既に自主レーベルを運営し自由な活動の場を獲得していたこともあり、欧州ツアーの変則ライブ盤「melting high」に続くオリジナル3rdアルバムとしてマイペースな彼らからすれば短い間隔による本作が、2000年にリリースされることになります。
これまではアジアンコンセプトを意識してきた彼らでしたが、本作では一転所属レーベル「Club Lunatica」の所在地であった東京都江東区東雲を舞台として一気に日常を引き戻された印象があります。もっとも音楽性は前作において確立したエレクトロニックポエトリーリーディングスタイルを継続しており、緩急自在のシーケンスにマッドな電子音を添加していくサウンドメイク、そして独特のマルタボイスは朴訥に詩を詠み、時には叫び、時には声を変調され、切り刻まれて、左右から輪唱のように処理されるこの自由奔放なカットアップ・切り貼りのエレクトロニクスデザインは類稀なことぶき光独特のセンスでしょう。加えて本作では音響派エレクトロニクスアーティスト熊切寛のSystem Blue・System Bluewinkから生み出される凶悪な電子ノイズや、たまのサポートや福間未沙等のプロデュース仕事にも定評があり、undercurrentや高野寛らとのユニットNathalie Wise等でも活躍していた斉藤哲也の「紅茶」や「祈り」等での叙情的なピアノプレイが存在感を放っており、アヴァンギャルド性ばかりが目立つこのユニットに音楽性の幅を持たせることに成功しています。本作の後はしばらく活動休止し、2007年にミニアルバム「General Midge」をリリースした後は、ほぼ思いついた時に突発的にライブを行う超マイペースな活動にシフトしていくことになります。
<Favorite Songs>
・「スピード」
タイトル負けしない高速エレクトロニクスナンバー。無意識にドラムンベースっぽくなってしまったリズムに乗ってプログラミングもボイスも変調しながらギュルギュルな電子音&ノイズで攻め立てていきます。
・「帰還」
無機質な電子音がポエトリーリーディングを思いっきり邪魔しまくるアヴァンギャルドエレクトロニクスチューン。とは言いながらも中盤からは哀愁のシンセパッドを導入して変化を持たせるなど、そのちょっとした味付け加減にセンスを感じます。
・「地下鉄」
疾走する高速シーケンスに松本正のゲームプレイによるサンプリングも加わったミニマルテクノチューン。トゲのある電子音が延々と繰り返されながら、ポリリズム的にマルタボイスがリピートされていきます。ラストのお漏らしギミックも正解です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (電子音とボイスパフォーマンスのアグレッシブな饗宴)
・メロディ ★ (メロディというよりは強烈なボイスパフォーマンス)
・リズム ★★ (スピード感と切り貼り技でリズム感を巧みに演出)
・曲構成 ★ (短い楽曲を立て続けに組み合わせるなどコンセプトは優秀)
・個性 ★★★★ (他には負けない強烈なパーソナリティを本作でも発揮)
総合評点: 7点
Phnonpenh MODEL

<members>
ことぶき光:computer programming・keyboards
谷口マルタ正明:vocals
1.「橋立」 曲・編:ことぶき光
2.「水門」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
3.「スピード」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
4.「帰還」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
5.「東雲」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
6.「山の幽霊」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
7.「紅茶」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
8.「地下鉄」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
9.「仕事」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
10.「鳥」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
11.「合図」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
12.「カオサンの娘」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
13.「辰巳運河」 曲・編:ことぶき光
14.「祈り」 詞:谷口マルタ正明 曲・編:ことぶき光
<support musician>
熊切寛:System Blue・System Bluewink
斉藤哲也:computer programming・keyboards・piano
松本正:game playing
produced by Phnonpenh MODEL
engineered by ことぶき光
● 2人組となり歌詞はより訴えかけるようにサウンドはより奔放に電子音が散りばめられた音遊びが過ぎる3rdアルバム
最も純粋にテクノポップに近づいたと言われる解凍P-MODELの象徴と言えるメンバーであったことぶき光は、1993年のP-MODELコピーバンド大会「Errors of P-MANIA!」に、少年マルタ(谷口正明)とライオンメリイと共にバンド「ことぶき光withプノンペンモデル」を結成し、自ら禁断の参加に及びます。しかし企画ユニットとして記念の1stアルバムリリースで終わると思われたこのバンドは、ここから本人達でさえ思いも寄らない形で継続、Phnonpenh MODELとして地道にライブ活動を続けながら1998年に2ndアルバム「PATCHWORKS」をリリース、狂気の切り貼りエレクトロニクスをバックにしたポエトリーリーディングスタイルに進化を遂げ、欧州ツアーを敢行するなど世界でもマニアックながらその名を知られることとなります。この頃になるとライオンメリイは脱退して2人組となりますが、既に自主レーベルを運営し自由な活動の場を獲得していたこともあり、欧州ツアーの変則ライブ盤「melting high」に続くオリジナル3rdアルバムとしてマイペースな彼らからすれば短い間隔による本作が、2000年にリリースされることになります。
これまではアジアンコンセプトを意識してきた彼らでしたが、本作では一転所属レーベル「Club Lunatica」の所在地であった東京都江東区東雲を舞台として一気に日常を引き戻された印象があります。もっとも音楽性は前作において確立したエレクトロニックポエトリーリーディングスタイルを継続しており、緩急自在のシーケンスにマッドな電子音を添加していくサウンドメイク、そして独特のマルタボイスは朴訥に詩を詠み、時には叫び、時には声を変調され、切り刻まれて、左右から輪唱のように処理されるこの自由奔放なカットアップ・切り貼りのエレクトロニクスデザインは類稀なことぶき光独特のセンスでしょう。加えて本作では音響派エレクトロニクスアーティスト熊切寛のSystem Blue・System Bluewinkから生み出される凶悪な電子ノイズや、たまのサポートや福間未沙等のプロデュース仕事にも定評があり、undercurrentや高野寛らとのユニットNathalie Wise等でも活躍していた斉藤哲也の「紅茶」や「祈り」等での叙情的なピアノプレイが存在感を放っており、アヴァンギャルド性ばかりが目立つこのユニットに音楽性の幅を持たせることに成功しています。本作の後はしばらく活動休止し、2007年にミニアルバム「General Midge」をリリースした後は、ほぼ思いついた時に突発的にライブを行う超マイペースな活動にシフトしていくことになります。
<Favorite Songs>
・「スピード」
タイトル負けしない高速エレクトロニクスナンバー。無意識にドラムンベースっぽくなってしまったリズムに乗ってプログラミングもボイスも変調しながらギュルギュルな電子音&ノイズで攻め立てていきます。
・「帰還」
無機質な電子音がポエトリーリーディングを思いっきり邪魔しまくるアヴァンギャルドエレクトロニクスチューン。とは言いながらも中盤からは哀愁のシンセパッドを導入して変化を持たせるなど、そのちょっとした味付け加減にセンスを感じます。
・「地下鉄」
疾走する高速シーケンスに松本正のゲームプレイによるサンプリングも加わったミニマルテクノチューン。トゲのある電子音が延々と繰り返されながら、ポリリズム的にマルタボイスがリピートされていきます。ラストのお漏らしギミックも正解です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (電子音とボイスパフォーマンスのアグレッシブな饗宴)
・メロディ ★ (メロディというよりは強烈なボイスパフォーマンス)
・リズム ★★ (スピード感と切り貼り技でリズム感を巧みに演出)
・曲構成 ★ (短い楽曲を立て続けに組み合わせるなどコンセプトは優秀)
・個性 ★★★★ (他には負けない強烈なパーソナリティを本作でも発揮)
総合評点: 7点
「賢者のプロペラ」 平沢進
「賢者のプロペラ」 (2000 ケイオスユニオン)
平沢進:vocals・all instruments

1.「賢者のプロペラ-1」 詞・曲・編:平沢進
2.「ルベド(赤化)」 詞・曲・編:平沢進
3.「ニグレド(黒化)」 詞・曲・編:平沢進
4.「アルベド(白化)」 曲・編:平沢進
5.「円積法」 詞・曲・編:平沢進
6.「課題が見出される庭園」 曲・編:平沢進
7.「達人の山」 詞・曲・編:平沢進
8.「作業(愚者の薔薇園)」 詞・曲・編:平沢進
9.「ロタティオン(LOTUS-2)」 詞・曲・編:平沢進
10.「賢者のプロペラ-2」 詞・曲・編:平沢進
produced by 平沢進
engineered by 鎮西正憲
● 東南アジアの匂いを残すものの大陸系エレクトロPOPSをさらに深化させた貫禄の作品
5thアルバム「Sim City」から「Siren」、「救済の技法」と続いていく平沢進のASEANテクノ3部作が一応の終焉を迎えましたが、このシリーズは平沢ソロ活動のサウンド面からインタラクティブライブ等のコンセプト面に至るまで基本的指針となりました。折しもネット配信の勃興期からその可能性にいち早く着目しその活用法を図っていた平沢は、「救済の技法」リリースの翌1999年に配信に伴う権利関係のもつれからメジャーレーベルより撤退し、P-MODELの現時点での最後のアルバム「音楽産業廃棄物」からは自主レーベルからの作品リリースに移行するわけですが、2000年にはP-MODELは培養という名の活動停止となり、平沢の音楽活動はソロ作品のリリースが中心となっていきます。その第一弾としてのアルバムが本作となります。
とにかく濃厚なアジアンテイストと力の入ったサウンドメイクを基調として平沢自身の充実ぶりが印象的であった「救済の技法」と比較すると、本作のイメージは良く言えば繊細かつヒーリング効果さえ感じられる癒し空間が広がる作品、悪くいえば静謐で地味な捉えどころのない作品と言えるかもしれません。作風自体は実はそれほど変化はないのかもしれませんが、決定的な違いはその音の薄さ、言い換えるのであれば情報量の少なさです。それは悪い意味ではなくシンセストリングスは控えめながら全体を邪魔しない慎ましさを纏っていますし、電子音やリズムにしても輪郭は柔らかく必要以上の仕掛けもなく、平沢の歌唱を支えることに徹しているように見受けられ、作品自体の完成度や統一性の高さに貢献していると思われます。しかしこの音の薄さは翌年から開始される太陽発電による省エネ音楽制作プロジェクト「Hirasawa Energy Works」の予告編の様相を呈しているかのようで、21世紀からの音楽制作スタイルの劇的な変化によって生まれたこのサウンド志向が、より大陸的かつ壮大さを増した本作の楽曲群ということなのでしょう。また奇をてらったギミックよりも全体のコンセプトワークをさらに重視して、インタラクティブライブのストーリー性をより意識し始めたのも本作からで、(既に改訂P-MODELからその萌芽は現れていましたが)その緻密な設定能力は凄まじく数々の公的な賞を獲得することも実に頷けます。本作後はきっちりと3年間隔でソロ作品をリリースすることになりますが、このソロ活動の中で最も凝るべき部分はサウンドではなく、限りなくこだわり抜いて設定されるコンセプトワーク、ということになります。
<Favorite Songs>
・「円積法」
雄々しいコーラス隊が包み込む壮大な平沢テイスト全開のストレンジな楽曲。電子音シーケンスとチープなリズム、バカコーラスに柔らかいストリングスというお得意のフォーマットに則っており期待を裏切りません。場面変換に用いられるボイスギミックなどはいかにも平沢らしいです。
・「達人の山」
キラキラした電子シーケンスによりテクノ感が増しているこれも壮大な世界観を纏う楽曲。単純コードワークでたゆたうストリングスにふんだんに取り入れられたエレクトリックテイストには美しさを感じます。そして何といってもここぞとばかりに炸裂する平沢ギターソロのセンスは流石に唯一無二の匠の技でしょう。
・「ロタティオン(LOTUS-2)」
ストリングス中心の豪快で勇壮な本作中のキラーチューンに値する楽曲。針が突き刺さるようなシーケンスで他楽曲との差別化を図ってはいますが、基本のサウンド構成はバランスの差こそあれ他楽曲と大きな違いはありません。
<評点>
・サウンド ★★ (サウンド手法としてはほぼ確立された感が強い)
・メロディ ★ (癒しメロディは多いもののキャッチーというわけでもない)
・リズム ★ (白玉が多用される楽曲の中でシーケンスが拍子を担う)
・曲構成 ★ (全体としてのバランスはとれているが地味な楽曲が揃う)
・個性 ★★★ (トータルコンセプトを意識した結果今後の活動指針を獲得)
総合評点: 6点
平沢進:vocals・all instruments

1.「賢者のプロペラ-1」 詞・曲・編:平沢進
2.「ルベド(赤化)」 詞・曲・編:平沢進
3.「ニグレド(黒化)」 詞・曲・編:平沢進
4.「アルベド(白化)」 曲・編:平沢進
5.「円積法」 詞・曲・編:平沢進
6.「課題が見出される庭園」 曲・編:平沢進
7.「達人の山」 詞・曲・編:平沢進
8.「作業(愚者の薔薇園)」 詞・曲・編:平沢進
9.「ロタティオン(LOTUS-2)」 詞・曲・編:平沢進
10.「賢者のプロペラ-2」 詞・曲・編:平沢進
produced by 平沢進
engineered by 鎮西正憲
● 東南アジアの匂いを残すものの大陸系エレクトロPOPSをさらに深化させた貫禄の作品
5thアルバム「Sim City」から「Siren」、「救済の技法」と続いていく平沢進のASEANテクノ3部作が一応の終焉を迎えましたが、このシリーズは平沢ソロ活動のサウンド面からインタラクティブライブ等のコンセプト面に至るまで基本的指針となりました。折しもネット配信の勃興期からその可能性にいち早く着目しその活用法を図っていた平沢は、「救済の技法」リリースの翌1999年に配信に伴う権利関係のもつれからメジャーレーベルより撤退し、P-MODELの現時点での最後のアルバム「音楽産業廃棄物」からは自主レーベルからの作品リリースに移行するわけですが、2000年にはP-MODELは培養という名の活動停止となり、平沢の音楽活動はソロ作品のリリースが中心となっていきます。その第一弾としてのアルバムが本作となります。
とにかく濃厚なアジアンテイストと力の入ったサウンドメイクを基調として平沢自身の充実ぶりが印象的であった「救済の技法」と比較すると、本作のイメージは良く言えば繊細かつヒーリング効果さえ感じられる癒し空間が広がる作品、悪くいえば静謐で地味な捉えどころのない作品と言えるかもしれません。作風自体は実はそれほど変化はないのかもしれませんが、決定的な違いはその音の薄さ、言い換えるのであれば情報量の少なさです。それは悪い意味ではなくシンセストリングスは控えめながら全体を邪魔しない慎ましさを纏っていますし、電子音やリズムにしても輪郭は柔らかく必要以上の仕掛けもなく、平沢の歌唱を支えることに徹しているように見受けられ、作品自体の完成度や統一性の高さに貢献していると思われます。しかしこの音の薄さは翌年から開始される太陽発電による省エネ音楽制作プロジェクト「Hirasawa Energy Works」の予告編の様相を呈しているかのようで、21世紀からの音楽制作スタイルの劇的な変化によって生まれたこのサウンド志向が、より大陸的かつ壮大さを増した本作の楽曲群ということなのでしょう。また奇をてらったギミックよりも全体のコンセプトワークをさらに重視して、インタラクティブライブのストーリー性をより意識し始めたのも本作からで、(既に改訂P-MODELからその萌芽は現れていましたが)その緻密な設定能力は凄まじく数々の公的な賞を獲得することも実に頷けます。本作後はきっちりと3年間隔でソロ作品をリリースすることになりますが、このソロ活動の中で最も凝るべき部分はサウンドではなく、限りなくこだわり抜いて設定されるコンセプトワーク、ということになります。
<Favorite Songs>
・「円積法」
雄々しいコーラス隊が包み込む壮大な平沢テイスト全開のストレンジな楽曲。電子音シーケンスとチープなリズム、バカコーラスに柔らかいストリングスというお得意のフォーマットに則っており期待を裏切りません。場面変換に用いられるボイスギミックなどはいかにも平沢らしいです。
・「達人の山」
キラキラした電子シーケンスによりテクノ感が増しているこれも壮大な世界観を纏う楽曲。単純コードワークでたゆたうストリングスにふんだんに取り入れられたエレクトリックテイストには美しさを感じます。そして何といってもここぞとばかりに炸裂する平沢ギターソロのセンスは流石に唯一無二の匠の技でしょう。
・「ロタティオン(LOTUS-2)」
ストリングス中心の豪快で勇壮な本作中のキラーチューンに値する楽曲。針が突き刺さるようなシーケンスで他楽曲との差別化を図ってはいますが、基本のサウンド構成はバランスの差こそあれ他楽曲と大きな違いはありません。
<評点>
・サウンド ★★ (サウンド手法としてはほぼ確立された感が強い)
・メロディ ★ (癒しメロディは多いもののキャッチーというわけでもない)
・リズム ★ (白玉が多用される楽曲の中でシーケンスが拍子を担う)
・曲構成 ★ (全体としてのバランスはとれているが地味な楽曲が揃う)
・個性 ★★★ (トータルコンセプトを意識した結果今後の活動指針を獲得)
総合評点: 6点
「性善説」 hi-posi
「性善説」(2000 コロムビア)
hi-posi

<members>
もりばやしみほ:vocal・keyboard・organ・whistle・chorus
1.「性善説」 詞:もりばやしみほ 曲:もりばやしみほ・松江潤 編:松江潤
2.「ジェニーはご機嫌ななめ」
詞:沖山優司 曲:近田春夫 編:もりばやしみほ・熊原正幸
3.「そなえよつねに」 詞・曲:もりばやしみほ 編:もりばやしみほ・熊原正幸
4.「CORE」 詞・曲:もりばやしみほ 編:松江潤・もりばやしみほ
5.「光のコートをきて」 詞・曲:もりばやしみほ 編:成田真樹・もりばやしみほ
6.「いらないものリスト」 詞・曲:もりばやしみほ 編:もりばやしみほ・成田真樹
7.「最大限の愛の証」 詞・曲:もりばやしみほ 編:成田真樹・もりばやしみほ
8.「きみのすきなかたち」 詞・曲:もりばやしみほ 編:もりばやしみほ・松江潤
9.「でんき」 詞・曲・編:もりばやしみほ
10.「ごめんだわ」 詞・曲:もりばやしみほ 編:成田真樹・もりばやしみほ
11.「たこあげ」 詞・曲:もりばやしみほ 編:松江潤・もりばやしみほ
12.「あたしのselect」 詞・曲:もりばやしみほ 編:もりばやしみほ・成田真樹
13.「性善説 again」 詞・曲:もりばやしみほ 編:松江潤
<support musician>
近藤研二:guitar・vocoder
松江潤:guitar・synthesizer・computer programming
栗原正己:bass
夏秋文尚:V-drums
ナオミ:keyboard・organ
The Clovers:”Nippon”chorus
熊原正幸:computer programming
成田真樹:computer programming
大光ワタル:beats programming・rhythm programming
sound produced by もりばやしみほ
mixing engineered by 日下貴世志・高山徹
recording engineered by 日下貴世志・宮原弘貴・池内亮・高山徹・高桑ケイスケ・近藤研二
● 実質的なソロユニットとなりSPOOZYSのサポートを得てネオニューウェーブ路線を突き詰めた話題作
1999年のアルバム「4 N 5」がニューウェーブリバイバルを意識したエレクトリックポップな好作品に仕上がったものの、長年パートナーとして活動してきた近藤研二が脱退してしまったhi-posi。遂にソロユニット(+犬1匹)となったhi-posiですが、翌年2000年には開き直ったかのように往年のテクノ名曲「ジェニーはご機嫌ななめ」をリメイク、折しも世紀末に市民権を得つつあったPOLYSICSらのTOKYO NEW WAVE OF NEW WAVEムーブメントが多大な影響を与えたかのような疾走感溢れる尖ったこのリメイクは、もりばやしみほ1人となったhi-posiサウンドの方向性を激しくアピールするものでした。本作はこの名リメイクを収録したサウンド面での新展開を試みたわけですが、ガレージ風ニューウェーブバンドとして異色の活動を繰り広げていた松江潤率いるSPOOZYSをサポートに迎えた意欲的な作品となっています。
そんなニューウェーブ魂全開の本作ですが、とにかく「粗い(荒い)」の一言です。松江潤らの荒々しいギタープレイとそれを前面に押し出した音処理が光ります。ガリガリしたノイジーギターにもりばやしの特徴的なファニーボイスとのコントラストは本作の決定的な個性となっていますが、まるでソロになったことでデュオ時代に抑制されていた激しい音楽性が開放されたかのようにその攻撃的サウンドはある種の驚きがありました。ソロアーティストとしての実績もある松江潤や新鋭プログラマー成田真樹らによるアレンジ面での貢献も見事なもので、とにかく耳障りなほどに強引なギター&シンセサウンドで押しに押しまくる本作の勢いに圧倒されます。とはいうものの、もともともりばやしみほの強烈な個性が牽引してきたグループということもあって、凡百の音であれば沈んでしまうようなこの激しいサウンドに楽曲が埋もれないところはさすがです。なお、余りに開き直り過ぎたのか突き抜け過ぎたのかわかりませんが本作をもってhi-posiとしての新作はリリースされていません。しかしいまだ活動は継続中のようですので、いつか忘れた頃に作品がリリースされたりすると(今の時代だからこそ)興味深いかもしれません。
<Favorite Songs>
・「そなえよつねに」
「ジェニーはご機嫌ななめ」に続いてシングルカットされた攻撃的ニューウェーブソング。轟音ギターのイントロに高速シーケンスで疾走感は抜群です。煩わしいくらいの音の密度が尋常ではなく、開き直りともいえるやり過ぎ感が印象に残るハイパーチューンです。
・「光のコートをきて」
ハウスなリズムに乗ったミニマル要素たっぷりのダンスチューン。ふんだんに音遊びを取り入れながらも流し聴きできるダラッとした構成が意外とクセになります。
・「ごめんだわ」
電子音とノイズでリズム&シーケンスを作り出した本作の中でも実験的という言葉がふさわしいエレクトロニカチューン。通常POPSでは絶対使用しないような電子音フレーズと効果音的アルペジオをバックに淡々と歌い上げていますが、全体的にメタリックなサウンドによって世界観は混沌としています。
<評点>
・サウンド ★★ (荒々しいギター&シンセでグイグイ引っ張っていく)
・メロディ ★ (リピートが多いミニマル系メロディだが聴きやすさも)
・リズム ★★ (大光ワタルの参加でリズム全体に芯ができたような印象)
・曲構成 ★ (勢いと良い意味での粗さが残る楽曲揃いだが勢いが目立つ)
・個性 ★★ (1人になっても改めてもりばやしの存在感を再確認)
総合評点: 6点
hi-posi

<members>
もりばやしみほ:vocal・keyboard・organ・whistle・chorus
1.「性善説」 詞:もりばやしみほ 曲:もりばやしみほ・松江潤 編:松江潤
2.「ジェニーはご機嫌ななめ」
詞:沖山優司 曲:近田春夫 編:もりばやしみほ・熊原正幸
3.「そなえよつねに」 詞・曲:もりばやしみほ 編:もりばやしみほ・熊原正幸
4.「CORE」 詞・曲:もりばやしみほ 編:松江潤・もりばやしみほ
5.「光のコートをきて」 詞・曲:もりばやしみほ 編:成田真樹・もりばやしみほ
6.「いらないものリスト」 詞・曲:もりばやしみほ 編:もりばやしみほ・成田真樹
7.「最大限の愛の証」 詞・曲:もりばやしみほ 編:成田真樹・もりばやしみほ
8.「きみのすきなかたち」 詞・曲:もりばやしみほ 編:もりばやしみほ・松江潤
9.「でんき」 詞・曲・編:もりばやしみほ
10.「ごめんだわ」 詞・曲:もりばやしみほ 編:成田真樹・もりばやしみほ
11.「たこあげ」 詞・曲:もりばやしみほ 編:松江潤・もりばやしみほ
12.「あたしのselect」 詞・曲:もりばやしみほ 編:もりばやしみほ・成田真樹
13.「性善説 again」 詞・曲:もりばやしみほ 編:松江潤
<support musician>
近藤研二:guitar・vocoder
松江潤:guitar・synthesizer・computer programming
栗原正己:bass
夏秋文尚:V-drums
ナオミ:keyboard・organ
The Clovers:”Nippon”chorus
熊原正幸:computer programming
成田真樹:computer programming
大光ワタル:beats programming・rhythm programming
sound produced by もりばやしみほ
mixing engineered by 日下貴世志・高山徹
recording engineered by 日下貴世志・宮原弘貴・池内亮・高山徹・高桑ケイスケ・近藤研二
● 実質的なソロユニットとなりSPOOZYSのサポートを得てネオニューウェーブ路線を突き詰めた話題作
1999年のアルバム「4 N 5」がニューウェーブリバイバルを意識したエレクトリックポップな好作品に仕上がったものの、長年パートナーとして活動してきた近藤研二が脱退してしまったhi-posi。遂にソロユニット(+犬1匹)となったhi-posiですが、翌年2000年には開き直ったかのように往年のテクノ名曲「ジェニーはご機嫌ななめ」をリメイク、折しも世紀末に市民権を得つつあったPOLYSICSらのTOKYO NEW WAVE OF NEW WAVEムーブメントが多大な影響を与えたかのような疾走感溢れる尖ったこのリメイクは、もりばやしみほ1人となったhi-posiサウンドの方向性を激しくアピールするものでした。本作はこの名リメイクを収録したサウンド面での新展開を試みたわけですが、ガレージ風ニューウェーブバンドとして異色の活動を繰り広げていた松江潤率いるSPOOZYSをサポートに迎えた意欲的な作品となっています。
そんなニューウェーブ魂全開の本作ですが、とにかく「粗い(荒い)」の一言です。松江潤らの荒々しいギタープレイとそれを前面に押し出した音処理が光ります。ガリガリしたノイジーギターにもりばやしの特徴的なファニーボイスとのコントラストは本作の決定的な個性となっていますが、まるでソロになったことでデュオ時代に抑制されていた激しい音楽性が開放されたかのようにその攻撃的サウンドはある種の驚きがありました。ソロアーティストとしての実績もある松江潤や新鋭プログラマー成田真樹らによるアレンジ面での貢献も見事なもので、とにかく耳障りなほどに強引なギター&シンセサウンドで押しに押しまくる本作の勢いに圧倒されます。とはいうものの、もともともりばやしみほの強烈な個性が牽引してきたグループということもあって、凡百の音であれば沈んでしまうようなこの激しいサウンドに楽曲が埋もれないところはさすがです。なお、余りに開き直り過ぎたのか突き抜け過ぎたのかわかりませんが本作をもってhi-posiとしての新作はリリースされていません。しかしいまだ活動は継続中のようですので、いつか忘れた頃に作品がリリースされたりすると(今の時代だからこそ)興味深いかもしれません。
<Favorite Songs>
・「そなえよつねに」
「ジェニーはご機嫌ななめ」に続いてシングルカットされた攻撃的ニューウェーブソング。轟音ギターのイントロに高速シーケンスで疾走感は抜群です。煩わしいくらいの音の密度が尋常ではなく、開き直りともいえるやり過ぎ感が印象に残るハイパーチューンです。
・「光のコートをきて」
ハウスなリズムに乗ったミニマル要素たっぷりのダンスチューン。ふんだんに音遊びを取り入れながらも流し聴きできるダラッとした構成が意外とクセになります。
・「ごめんだわ」
電子音とノイズでリズム&シーケンスを作り出した本作の中でも実験的という言葉がふさわしいエレクトロニカチューン。通常POPSでは絶対使用しないような電子音フレーズと効果音的アルペジオをバックに淡々と歌い上げていますが、全体的にメタリックなサウンドによって世界観は混沌としています。
<評点>
・サウンド ★★ (荒々しいギター&シンセでグイグイ引っ張っていく)
・メロディ ★ (リピートが多いミニマル系メロディだが聴きやすさも)
・リズム ★★ (大光ワタルの参加でリズム全体に芯ができたような印象)
・曲構成 ★ (勢いと良い意味での粗さが残る楽曲揃いだが勢いが目立つ)
・個性 ★★ (1人になっても改めてもりばやしの存在感を再確認)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「キンポウゲの日々」 maybelle
「キンポウゲの日々」(2000 コア)
maybelle

<members>
坂本和賀子:vocal・acoustic piano・pianica・chorus
橋本ユカリ:all instruments・electric guitar・acoustic guitar・organ・glockenspiel・computer programming
1.「キンポウゲの日々」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
2.「かげぼうしの頃」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
3.「Seashell」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
4.「Last Snow」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
5.「Have a kitten♥」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
6.「Planet of green」 詞:赤芝亜矢子 曲・編:橋本ユカリ
<support musician>
松岡モトキ:electric guitar・acoustic guitar
石坂義晴:electric guitar
岩田晃次:electric guitar
阿部光一郎:bass
上田ケンジ:bass
諏訪好洋:bass
小西昭次郎:drums
夏秋文尚:drums
池水真由美:accordion
エリック宮城:trumpet
小泉貴久:trumpet
藤枝憲:tambourine
produced by 橋本ユカリ
mixing engineered by 橋本ユカリ・杉山勇司・宮本リカ
recording engineered by 宮本リカ・中内タカヒサ
● 瑞々しいメロディラインにうっすらスペイシーなサウンドが新鮮な女性2人組のポスト渋谷系ポップアルバム
90年代からシンセサイザープログラマーとして活動を始め、赤芝亜矢子とのPOPSユニットMarigold Leafでも活動していた橋本由香利は、アルバムをリリースしないままMarigold leafを解散した後は作編曲家としての活動のかたわら、坂本和賀子と新ユニットmaybelleを結成、渋谷系を通過したおしゃれな女性ユニットという雰囲気を醸し出しながら彼女自身初めてのアルバムとなる本作をリリースします(本作では橋本ユカリ名義)。Marigold leaf自体がInstant Cytron等と対バンしていたネオアコ系ユニットでありましたが、このmaybelleも当然のことながら橋本の作風が生かされているためその流れを引き継いでおり、本作もギターを中心としたローファイ感で温かみを加えたメロディアスなフレーズが心地良い作品となっています。
さて、名曲「キンポウゲの日々」に代表されるようにアコースティックで温かな味わいが楽しめる本作ではありますが、才気あふれるメロディラインに紛れて非常に気になるのが生演奏中心のトラックからかすかに聴こえるシンセワークです。もともとプログラマーであった橋本はネオアコ的な音楽性のユニットを率いているとしても打ち込みやシンセサウンドにはこだわりがあるはずで、本作でもその音楽的なクセのようなものが滲み出ています。決して前には出てきませんがこのファンタジックなシンセの使い方はmaybelleの大切な個性となっていて、懐かしいのに少し未来的な、という不思議な感覚に襲われるのが本作の興味深いところであり、センスが光る部分でもあると思います。そのサウンドへのこだわりや類稀なメロディセンスは、maybelle活動休止以後アニメソングなどで最大限に発揮されていくことは既にご存じの通りであると思いますが、このmaybelleやROUND TABLEなどポスト渋谷系とくくられて活躍していた才能あるアーティストたちがそのクオリティを発揮できる場を得られているのは、音楽界にとっても良いことなのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「キンポウゲの日々」
ノスタルジック感全開のオープニングにして珠玉の名曲。乾いたトランペットやトレモロの効いたギター、そしてアコーディオンと柔らかいサウンドで包み込みながらも、実はストリングスやきらびやかな音色のシンセが隠し味となっています。
・「Planet of green」
スペイシーなシンセから始まる音響的アプローチも見せるラストナンバー。楽曲自体は欧州トラッド的なアコースティックなメロディラインながら残響音の効いたリズムトラックと必要以上にエレクトロニカなシンセワークが楽しい不思議な楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (随所で実験的なシンセが光るが意図的に音を汚した感が)
・メロディ ★★ (泣きのメロディも作れるが作品全体で持続できればなお良い)
・リズム ★ (基本的には原点回帰の生演奏中心で安定感はあるが・・)
・曲構成 ★ (このコンパクトな感覚が持ち味でもあるが楽曲は少ない)
・個性 ★ (細かい実験性も見せるがインパクトを与えるにはもう一歩)
総合評点: 6点
maybelle

<members>
坂本和賀子:vocal・acoustic piano・pianica・chorus
橋本ユカリ:all instruments・electric guitar・acoustic guitar・organ・glockenspiel・computer programming
1.「キンポウゲの日々」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
2.「かげぼうしの頃」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
3.「Seashell」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
4.「Last Snow」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
5.「Have a kitten♥」 詞:坂本和賀子 曲・編:橋本ユカリ
6.「Planet of green」 詞:赤芝亜矢子 曲・編:橋本ユカリ
<support musician>
松岡モトキ:electric guitar・acoustic guitar
石坂義晴:electric guitar
岩田晃次:electric guitar
阿部光一郎:bass
上田ケンジ:bass
諏訪好洋:bass
小西昭次郎:drums
夏秋文尚:drums
池水真由美:accordion
エリック宮城:trumpet
小泉貴久:trumpet
藤枝憲:tambourine
produced by 橋本ユカリ
mixing engineered by 橋本ユカリ・杉山勇司・宮本リカ
recording engineered by 宮本リカ・中内タカヒサ
● 瑞々しいメロディラインにうっすらスペイシーなサウンドが新鮮な女性2人組のポスト渋谷系ポップアルバム
90年代からシンセサイザープログラマーとして活動を始め、赤芝亜矢子とのPOPSユニットMarigold Leafでも活動していた橋本由香利は、アルバムをリリースしないままMarigold leafを解散した後は作編曲家としての活動のかたわら、坂本和賀子と新ユニットmaybelleを結成、渋谷系を通過したおしゃれな女性ユニットという雰囲気を醸し出しながら彼女自身初めてのアルバムとなる本作をリリースします(本作では橋本ユカリ名義)。Marigold leaf自体がInstant Cytron等と対バンしていたネオアコ系ユニットでありましたが、このmaybelleも当然のことながら橋本の作風が生かされているためその流れを引き継いでおり、本作もギターを中心としたローファイ感で温かみを加えたメロディアスなフレーズが心地良い作品となっています。
さて、名曲「キンポウゲの日々」に代表されるようにアコースティックで温かな味わいが楽しめる本作ではありますが、才気あふれるメロディラインに紛れて非常に気になるのが生演奏中心のトラックからかすかに聴こえるシンセワークです。もともとプログラマーであった橋本はネオアコ的な音楽性のユニットを率いているとしても打ち込みやシンセサウンドにはこだわりがあるはずで、本作でもその音楽的なクセのようなものが滲み出ています。決して前には出てきませんがこのファンタジックなシンセの使い方はmaybelleの大切な個性となっていて、懐かしいのに少し未来的な、という不思議な感覚に襲われるのが本作の興味深いところであり、センスが光る部分でもあると思います。そのサウンドへのこだわりや類稀なメロディセンスは、maybelle活動休止以後アニメソングなどで最大限に発揮されていくことは既にご存じの通りであると思いますが、このmaybelleやROUND TABLEなどポスト渋谷系とくくられて活躍していた才能あるアーティストたちがそのクオリティを発揮できる場を得られているのは、音楽界にとっても良いことなのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「キンポウゲの日々」
ノスタルジック感全開のオープニングにして珠玉の名曲。乾いたトランペットやトレモロの効いたギター、そしてアコーディオンと柔らかいサウンドで包み込みながらも、実はストリングスやきらびやかな音色のシンセが隠し味となっています。
・「Planet of green」
スペイシーなシンセから始まる音響的アプローチも見せるラストナンバー。楽曲自体は欧州トラッド的なアコースティックなメロディラインながら残響音の効いたリズムトラックと必要以上にエレクトロニカなシンセワークが楽しい不思議な楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★ (随所で実験的なシンセが光るが意図的に音を汚した感が)
・メロディ ★★ (泣きのメロディも作れるが作品全体で持続できればなお良い)
・リズム ★ (基本的には原点回帰の生演奏中心で安定感はあるが・・)
・曲構成 ★ (このコンパクトな感覚が持ち味でもあるが楽曲は少ない)
・個性 ★ (細かい実験性も見せるがインパクトを与えるにはもう一歩)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「“ASTRODYNAMICS”」 ![EXCLAMATION]
「“ASTRODYNAMICS”」(2000 BMGファンハウス)
![EXCLAMATION]:vocals・whistles

1.「PHANTOM」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
2.「?」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
3.「ASTRODYNAMICS」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
4.「AGE OF ZERO!」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
5.「DESTINYLAND」 詞:! 曲:デルピエロ橋本 編:吉澤瑛師
6.「NEW DAYS COMES」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
7.「PARADISE!」 詞:! 曲:佐藤清喜 編:吉澤瑛師
8.「いざ戦場へ!」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
9.「POISON!」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
10.「AGE OF ZERO![Tiny Bostang mix]」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師 remix:寺田康彦
11.「ANAPA」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
<support musician>
湊雅史:drums
スティーブエトウ:percussions
五十嵐一生:trumpet
飯泉裕子:chorus
吉澤瑛師:computer programming・keyboards・acoustic piano
sound produced by 吉澤瑛師・寺田康彦
co-produced by ![デーモン小暮]
mixing engineered by 寺田康彦・杉本健
recording engineered by 杉本健
● THINK SYNC INTEGRALのバックアップを得て近未来的サイバーロックを目指したデーモン小暮のソロプロジェクト作品
徹底したコンセプチュアルなヘヴィメタルロックバンド聖飢魔IIのカリスマヴォーカリストでああるデーモン小暮閣下は、コンセプト通り世紀末を迎えた1999年バンドを解散(その後定期的に復活)し、その特異なキャラクターを生かしてタレント活動をするかたわら、音楽面でもソロ活動を開始します。しかしあまりにもキャラが強烈なためその先入観から肝心の音楽性に誤解が生じるのを懸念した彼は、デーモン小暮閣下の名前を伏せて「!」という覆面ユニットを装って(しかしヴィジュアルイメージは公開されたため全く隠し切れていない)、純粋に音楽だけで評価してもらおうという意外に(といっては失礼ですが)ストイックな姿一面を見せています。この「!」の活動はまずマキシシングル「AGE OF ZERO」のリリース、そしてフルアルバムの本作のリリースと進められていきますが、これまでの音楽性からは対照的なそのデジタルで電子的な響きのサウンドは、ある種の驚きをもって迎えられました。
この「!」の活動でサウンドプロデュースに迎えられたのは先進的なエレクトリック系サウンドチームTHINK SYNC INTEGRALの主宰でありScudelia Electroのサウンドメイカーであったエンジニア寺田康彦と、同じくScudelia Electroのエレクトロ面を支えた元3デシリットルの吉澤瑛師です(作家やサポートにはmicrostarの2人も参加)。エレクトリックでテクノなサウンドの経験豊富な2人が作り上げた重厚な電脳空間サウンドは、もはや職人芸といってよいクオリティですが肝心のヴォーカルとの相性はというと実はそれほど違和感もなく、朗々と歌い上げる圧倒的な存在感のヴォーカルがエレクトリッサウンドにもマッチすることが証明されています。もともとGRASS VALLEYやREBECCAといったキーボード系バンドとも接近し、聖飢魔IIにも積極的にシンセサウンドを導入するなど、デジタル面に対して寛容であったデーモン小暮閣下にしてみれば、この路線は別段驚くべきことではないのかもしれません。全面的なサウンドの実権を担った吉澤瑛師はここぞとばかりにエレクトロ魂を炸裂させ、ほぼ全編を英語でまくしたてる強力なヴォーカルに負けないくらいの壮大で重厚なシーケンス(と当時としては時代錯誤的な攻撃的暴れん坊リズム)で楽曲を盛り上げています。結局「!」としての活動は期間限定のものだったようですが、本作はコンセプトアルバムとしてもエレクトリックアルバムとしても非常に興味深い作品であるので、再びこのプロジェクトの作品が世に出ることを願っています。
<Favorite Songs>
・「DESTINYLAND」
テクノなシーケンスにスペイシーなシンセパッド、サックス音色のメインフレーズのイントロから入るものの、目まぐるしく曲調が変化する壮大なプログレ的展開の楽曲。4分強の中に詰め込まれたサウンドの冒険の数々にワクワクします。
・「NEW DAYS COMES」
本作中でもサビの訴求力が強い新世紀の幕開けを飾るかのような名曲。ディレイを巧みに利用した遅れ気味に重ねられたリズムトラックが絶妙なノリを醸し出しています。ヴォーカルの壮大さと対照的なスペイシーなピコピコシーケンスも嬉しいです。
・「PARADISE!」
元nicemusic、現microstarの稀代のメロディメイカー佐藤清喜が書いたエレポップチューン。彼には珍しくマイナーテクノで多少デーモン閣下のキャラを意識した分もあったと思われます。サウンド面ではボコーダーを使用したりサビ裏の粘っこいシンセフレーズを展開したりとこの楽曲も吉澤ワールドが広がっています。
<評点>
・サウンド ★★★ (この手にありがちなチープさはなくどこまでも大仰で壮大)
・メロディ ★ (ヴォーカルは負けていないがサウンド志向に振れ過ぎか)
・リズム ★★★ (打ち込みなのにしつこいほど前に出てくる攻撃的なリズム)
・曲構成 ★ (特に中盤畳み掛けるテクノなパワーを感じる構成が良い)
・個性 ★★ (歌手としての実力と音楽性の幅広さを兼ね備えた良作)
総合評点: 7点
![EXCLAMATION]:vocals・whistles

1.「PHANTOM」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
2.「?」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
3.「ASTRODYNAMICS」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
4.「AGE OF ZERO!」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
5.「DESTINYLAND」 詞:! 曲:デルピエロ橋本 編:吉澤瑛師
6.「NEW DAYS COMES」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
7.「PARADISE!」 詞:! 曲:佐藤清喜 編:吉澤瑛師
8.「いざ戦場へ!」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
9.「POISON!」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
10.「AGE OF ZERO![Tiny Bostang mix]」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師 remix:寺田康彦
11.「ANAPA」 詞:! 曲・編:吉澤瑛師
<support musician>
湊雅史:drums
スティーブエトウ:percussions
五十嵐一生:trumpet
飯泉裕子:chorus
吉澤瑛師:computer programming・keyboards・acoustic piano
sound produced by 吉澤瑛師・寺田康彦
co-produced by ![デーモン小暮]
mixing engineered by 寺田康彦・杉本健
recording engineered by 杉本健
● THINK SYNC INTEGRALのバックアップを得て近未来的サイバーロックを目指したデーモン小暮のソロプロジェクト作品
徹底したコンセプチュアルなヘヴィメタルロックバンド聖飢魔IIのカリスマヴォーカリストでああるデーモン小暮閣下は、コンセプト通り世紀末を迎えた1999年バンドを解散(その後定期的に復活)し、その特異なキャラクターを生かしてタレント活動をするかたわら、音楽面でもソロ活動を開始します。しかしあまりにもキャラが強烈なためその先入観から肝心の音楽性に誤解が生じるのを懸念した彼は、デーモン小暮閣下の名前を伏せて「!」という覆面ユニットを装って(しかしヴィジュアルイメージは公開されたため全く隠し切れていない)、純粋に音楽だけで評価してもらおうという意外に(といっては失礼ですが)ストイックな姿一面を見せています。この「!」の活動はまずマキシシングル「AGE OF ZERO」のリリース、そしてフルアルバムの本作のリリースと進められていきますが、これまでの音楽性からは対照的なそのデジタルで電子的な響きのサウンドは、ある種の驚きをもって迎えられました。
この「!」の活動でサウンドプロデュースに迎えられたのは先進的なエレクトリック系サウンドチームTHINK SYNC INTEGRALの主宰でありScudelia Electroのサウンドメイカーであったエンジニア寺田康彦と、同じくScudelia Electroのエレクトロ面を支えた元3デシリットルの吉澤瑛師です(作家やサポートにはmicrostarの2人も参加)。エレクトリックでテクノなサウンドの経験豊富な2人が作り上げた重厚な電脳空間サウンドは、もはや職人芸といってよいクオリティですが肝心のヴォーカルとの相性はというと実はそれほど違和感もなく、朗々と歌い上げる圧倒的な存在感のヴォーカルがエレクトリッサウンドにもマッチすることが証明されています。もともとGRASS VALLEYやREBECCAといったキーボード系バンドとも接近し、聖飢魔IIにも積極的にシンセサウンドを導入するなど、デジタル面に対して寛容であったデーモン小暮閣下にしてみれば、この路線は別段驚くべきことではないのかもしれません。全面的なサウンドの実権を担った吉澤瑛師はここぞとばかりにエレクトロ魂を炸裂させ、ほぼ全編を英語でまくしたてる強力なヴォーカルに負けないくらいの壮大で重厚なシーケンス(と当時としては時代錯誤的な攻撃的暴れん坊リズム)で楽曲を盛り上げています。結局「!」としての活動は期間限定のものだったようですが、本作はコンセプトアルバムとしてもエレクトリックアルバムとしても非常に興味深い作品であるので、再びこのプロジェクトの作品が世に出ることを願っています。
<Favorite Songs>
・「DESTINYLAND」
テクノなシーケンスにスペイシーなシンセパッド、サックス音色のメインフレーズのイントロから入るものの、目まぐるしく曲調が変化する壮大なプログレ的展開の楽曲。4分強の中に詰め込まれたサウンドの冒険の数々にワクワクします。
・「NEW DAYS COMES」
本作中でもサビの訴求力が強い新世紀の幕開けを飾るかのような名曲。ディレイを巧みに利用した遅れ気味に重ねられたリズムトラックが絶妙なノリを醸し出しています。ヴォーカルの壮大さと対照的なスペイシーなピコピコシーケンスも嬉しいです。
・「PARADISE!」
元nicemusic、現microstarの稀代のメロディメイカー佐藤清喜が書いたエレポップチューン。彼には珍しくマイナーテクノで多少デーモン閣下のキャラを意識した分もあったと思われます。サウンド面ではボコーダーを使用したりサビ裏の粘っこいシンセフレーズを展開したりとこの楽曲も吉澤ワールドが広がっています。
<評点>
・サウンド ★★★ (この手にありがちなチープさはなくどこまでも大仰で壮大)
・メロディ ★ (ヴォーカルは負けていないがサウンド志向に振れ過ぎか)
・リズム ★★★ (打ち込みなのにしつこいほど前に出てくる攻撃的なリズム)
・曲構成 ★ (特に中盤畳み掛けるテクノなパワーを感じる構成が良い)
・個性 ★★ (歌手としての実力と音楽性の幅広さを兼ね備えた良作)
総合評点: 7点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽