「Patch Work」 LOGIC SYSTEM
「Patch Work」(2003 ブリッジ)
LOGIC SYSTEM

<members>
松武秀樹:synthesizer programming・sequencer programming
<Used Equipments & Sequencers>
MOOG III C・Emu Modular Synthesizer・Sequencial Circuits Prophet5・Oberheim 8Voices・ARP Odyssey・EMS VSC3・EMS Vocoder・Roland Jupiter8・Roland S-330・Roland S-550・Roland D-550・Roland MC-4・Yamaha DX7・Yamaha TX816・Yamaha RX11・Yamaha SY77・Yamaha SY99・Yamaha QX1・Yamaha QX3・Yamaha C1・KORG Poly-Six・KORG M1/R・MOTU Performer
1.「The Air」 曲・編:松武秀樹 (1989)
2.「Northern Lights」 曲:松武秀樹 編:入江純 (1990)
3.「Additional Text」 曲・編:松武秀樹 (1986)
4.「Kaleidoscope」 曲・編:松武秀樹 (1985)
5.「Progress」 曲・編:松武秀樹 (1986)
6.「Take Pine」 曲・編:松武秀樹 (1983)
7.「Traffic Circuit」 曲・編:松武秀樹 (1984)
8.「Urban Night」 曲・編:松武秀樹 (1988)
9.「Metamorphosis」 曲:松武秀樹 編:松武秀樹・入江純 (1990)
produced by 松武秀樹
mixing engineered by 松武秀樹
recording engineered by 松武秀樹
●第1期から第2期までの活動休止期間中に制作された80年代中後期におけるデジアナ移行期の貴重な実験的記録集
1982年に3rdアルバム「東方快車」をリリースした松武秀樹のリーダーユニットLOGIC SYSTEMは、ここから1991年まで9年間の活動休止となりますが、これはネガティブな理由ではなくて急激に日本の音楽界にシンセサイザーやシーケンサーを中心としたテクノロジーなサウンドが普及していった時代ということもあり、特に歌謡界において松武のような先駆的なシンセサイザープログラマーは編曲家に引っ張りだことなっていたことが要因の1つです。YMOとは既に「テクノデリック」以降のアルバムには参加していなかった松武ですが、その斬新なテクノなサウンドメイクは先鋭的な編曲家であった大村雅朗や後藤次利らが手掛けた楽曲を中心に重宝されることとなり、松武の80年代は日本のメインストリームであった歌謡曲に捧げられたと言ってもよいと思われます。そしてこの松武の活躍はシンセサイザープログラマーという職業を一般的に知らしめることとなり、浦田恵司や藤井丈司、迫田到、遠山淳、土岐幸男、森達彦、その他大勢のプログラマーの礎となっていたわけです。しかしその多忙な時期に合間にもLOGIC SYSTEM的な楽曲は孤独に制作を続けていたようで、1991年に作編曲家の入江純と再起動した第2期LOGIC SYSTEMまでの未発表曲が、結成25周年を控えた2003年にリリースされることになります。それが9曲入りのアルバムである本作です。
さて、上記のリストには制作された年を追記しておりますが、一概に83年〜90年までの未発表曲と言っても日進月歩で成長していった80年代の電子楽器業界ですから、使用楽器も上記に記載しているとおり、定番のMOOGやEmuのモジュラーシンセやProphet5・ARP Odyssey・Oberheim 8Voices等といったお馴染みのアナログシンセに加え、Roland D-550(LA音源)やYamaha SY77(AWM音源)、KORG M1/R(PCM音源)といった当時次世代の、よりリアルを追求したデジタルシンセサイザーも多用し、年代によってサウンドの印象の違いを堪能できるのも興味深いところです。しかしながら、1983年の「Progress」ではテクノポップ調ながらもYamaha DX7のFM音源のメタリックな音色が使用されていたり、1985年の「Kaleidoscope」ではオーケンストラルヒットが使用されていたりと、各時代の旬の音を取り入れながらも、基本となっているのは味わいの濃いアナログシンセによるベースラインであったり、滲むようなシンセパッドであったりと、結局はどこを切り取ってもテクノポップに仕上がっている部分は、やはり松武謹製のLOGIC SYSTEMの心意気と言えるでしょう。しかし、ラストに収録されている14分以上にも及ぶ未来テクノ4部作、1990年の「Metamorphosis」は少々趣が異なっており、攻撃的なサウンドの中にもサンプリングボイスの変調やオリエンタルな笛の音色を取り入れたアジアンテイストの序盤から、超ノリノリボコーダー+四つ打ちシーケンス&リズムの中盤、ギターサンプルも加わりテンポがますます上がっていくテンションの高い狂乱のクライマックスが血沸き踊る緊張感抜群の楽曲で、ある意味翌年の4thアルバム「To・Gen・Kyo」の前哨戦ともいえる仕上がりとなっています(結果的にこの楽曲のテンションには及ばなくなりましたが)。第1期と第2期のミッシングリンクを埋める本作も、LOGIC SYSTEMの歴史を紐解く上では重要な作品と言えるのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「The Air」
1989年の未発表曲。リアルなブラスセクションがシンセサイザーの進化を感じさせます。ほぼワンコードの繰り返しですが、ピコピコシーケンスとパワフルなブラスのアタック感が当時のテクノシーンの未来を想起させます。
・「Kaleidoscope」
1985年の未発表曲。エフェクトがゴージャズになりつつあった時代ということもあって、オーケストラルヒットの多用な部分にZTT的なサウンドへの影響が見え隠れしています。微妙に跳ねるドラミングが効いていますが、これも緻密なリズムプログラミングによるもの。マシナリーなドラムロールでそのあたりがバレてしまうのが85年らしさです。
・「Traffic Circuit」
レゾナンスベースが効いた1984年の未発表曲。印象的なシンセパッドやアタック感の強いメインフレーズに84年の匂いが感じられますが、アナログシンセにこだわる音色に急速にデジタル化していった当時の空気への抵抗感も感じられる純度の高いテクノポップチューンです。
<評点>
・サウンド ★★★ (相変わらずの求道的なシンセサイザーの音作り)
・メロディ ★ (実験的作品集ということでほぼメロディは気にしない感が)
・リズム ★ (過激な80年代を通してもリズムはチープに推移)
・曲構成 ★ (記録集なのでアルバムとしてはベスト的扱い)
・個性 ★★★ (ラストの「Metamorphosis」に松武の本気を垣間見る)
総合評点: 6点
LOGIC SYSTEM

<members>
松武秀樹:synthesizer programming・sequencer programming
<Used Equipments & Sequencers>
MOOG III C・Emu Modular Synthesizer・Sequencial Circuits Prophet5・Oberheim 8Voices・ARP Odyssey・EMS VSC3・EMS Vocoder・Roland Jupiter8・Roland S-330・Roland S-550・Roland D-550・Roland MC-4・Yamaha DX7・Yamaha TX816・Yamaha RX11・Yamaha SY77・Yamaha SY99・Yamaha QX1・Yamaha QX3・Yamaha C1・KORG Poly-Six・KORG M1/R・MOTU Performer
1.「The Air」 曲・編:松武秀樹 (1989)
2.「Northern Lights」 曲:松武秀樹 編:入江純 (1990)
3.「Additional Text」 曲・編:松武秀樹 (1986)
4.「Kaleidoscope」 曲・編:松武秀樹 (1985)
5.「Progress」 曲・編:松武秀樹 (1986)
6.「Take Pine」 曲・編:松武秀樹 (1983)
7.「Traffic Circuit」 曲・編:松武秀樹 (1984)
8.「Urban Night」 曲・編:松武秀樹 (1988)
9.「Metamorphosis」 曲:松武秀樹 編:松武秀樹・入江純 (1990)
produced by 松武秀樹
mixing engineered by 松武秀樹
recording engineered by 松武秀樹
●第1期から第2期までの活動休止期間中に制作された80年代中後期におけるデジアナ移行期の貴重な実験的記録集
1982年に3rdアルバム「東方快車」をリリースした松武秀樹のリーダーユニットLOGIC SYSTEMは、ここから1991年まで9年間の活動休止となりますが、これはネガティブな理由ではなくて急激に日本の音楽界にシンセサイザーやシーケンサーを中心としたテクノロジーなサウンドが普及していった時代ということもあり、特に歌謡界において松武のような先駆的なシンセサイザープログラマーは編曲家に引っ張りだことなっていたことが要因の1つです。YMOとは既に「テクノデリック」以降のアルバムには参加していなかった松武ですが、その斬新なテクノなサウンドメイクは先鋭的な編曲家であった大村雅朗や後藤次利らが手掛けた楽曲を中心に重宝されることとなり、松武の80年代は日本のメインストリームであった歌謡曲に捧げられたと言ってもよいと思われます。そしてこの松武の活躍はシンセサイザープログラマーという職業を一般的に知らしめることとなり、浦田恵司や藤井丈司、迫田到、遠山淳、土岐幸男、森達彦、その他大勢のプログラマーの礎となっていたわけです。しかしその多忙な時期に合間にもLOGIC SYSTEM的な楽曲は孤独に制作を続けていたようで、1991年に作編曲家の入江純と再起動した第2期LOGIC SYSTEMまでの未発表曲が、結成25周年を控えた2003年にリリースされることになります。それが9曲入りのアルバムである本作です。
さて、上記のリストには制作された年を追記しておりますが、一概に83年〜90年までの未発表曲と言っても日進月歩で成長していった80年代の電子楽器業界ですから、使用楽器も上記に記載しているとおり、定番のMOOGやEmuのモジュラーシンセやProphet5・ARP Odyssey・Oberheim 8Voices等といったお馴染みのアナログシンセに加え、Roland D-550(LA音源)やYamaha SY77(AWM音源)、KORG M1/R(PCM音源)といった当時次世代の、よりリアルを追求したデジタルシンセサイザーも多用し、年代によってサウンドの印象の違いを堪能できるのも興味深いところです。しかしながら、1983年の「Progress」ではテクノポップ調ながらもYamaha DX7のFM音源のメタリックな音色が使用されていたり、1985年の「Kaleidoscope」ではオーケンストラルヒットが使用されていたりと、各時代の旬の音を取り入れながらも、基本となっているのは味わいの濃いアナログシンセによるベースラインであったり、滲むようなシンセパッドであったりと、結局はどこを切り取ってもテクノポップに仕上がっている部分は、やはり松武謹製のLOGIC SYSTEMの心意気と言えるでしょう。しかし、ラストに収録されている14分以上にも及ぶ未来テクノ4部作、1990年の「Metamorphosis」は少々趣が異なっており、攻撃的なサウンドの中にもサンプリングボイスの変調やオリエンタルな笛の音色を取り入れたアジアンテイストの序盤から、超ノリノリボコーダー+四つ打ちシーケンス&リズムの中盤、ギターサンプルも加わりテンポがますます上がっていくテンションの高い狂乱のクライマックスが血沸き踊る緊張感抜群の楽曲で、ある意味翌年の4thアルバム「To・Gen・Kyo」の前哨戦ともいえる仕上がりとなっています(結果的にこの楽曲のテンションには及ばなくなりましたが)。第1期と第2期のミッシングリンクを埋める本作も、LOGIC SYSTEMの歴史を紐解く上では重要な作品と言えるのではないでしょうか。
<Favorite Songs>
・「The Air」
1989年の未発表曲。リアルなブラスセクションがシンセサイザーの進化を感じさせます。ほぼワンコードの繰り返しですが、ピコピコシーケンスとパワフルなブラスのアタック感が当時のテクノシーンの未来を想起させます。
・「Kaleidoscope」
1985年の未発表曲。エフェクトがゴージャズになりつつあった時代ということもあって、オーケストラルヒットの多用な部分にZTT的なサウンドへの影響が見え隠れしています。微妙に跳ねるドラミングが効いていますが、これも緻密なリズムプログラミングによるもの。マシナリーなドラムロールでそのあたりがバレてしまうのが85年らしさです。
・「Traffic Circuit」
レゾナンスベースが効いた1984年の未発表曲。印象的なシンセパッドやアタック感の強いメインフレーズに84年の匂いが感じられますが、アナログシンセにこだわる音色に急速にデジタル化していった当時の空気への抵抗感も感じられる純度の高いテクノポップチューンです。
<評点>
・サウンド ★★★ (相変わらずの求道的なシンセサイザーの音作り)
・メロディ ★ (実験的作品集ということでほぼメロディは気にしない感が)
・リズム ★ (過激な80年代を通してもリズムはチープに推移)
・曲構成 ★ (記録集なのでアルバムとしてはベスト的扱い)
・個性 ★★★ (ラストの「Metamorphosis」に松武の本気を垣間見る)
総合評点: 6点
「BLUE LIMBO」 平沢進
「BLUE LIMBO」 (2003 ケイオスユニオン)
平沢進:vocals・all instruments

1.「祖父なる風」 詞・曲・編:平沢進
2.「RIDE THE BLUE LIMBO」 詞・曲・編:平沢進
3.「ツオルコフスキー・クレーターの無口な門」 詞・曲・編:平沢進
4.「CAMBODIAN LIMBO」 詞・曲・編:平沢進
5.「帆船108」 詞・曲・編:平沢進
6.「狙撃手」 詞・曲・編:平沢進
7.「LIMBO-54」 曲・編:平沢進
8.「HALO」 詞・曲・編:平沢進
9.「高貴な城」 詞・曲・編:平沢進
10.「サトワン暦8869年」 詞・曲・編:平沢進
produced by 平沢進
engineered by 鎮西正憲
● アジアから脱却し得意のSF的世界観をエレクトリックかつシンフォニックに彩るディストピア3部作の先陣を切るコンセプトアルバム
2000年のアルバム「賢者のプロペラ」以降エネルギー問題に目覚めた平沢進は、音楽制作に必要な電気エネルギーを全て太陽発電で補うプロジェクト「Hirasawa Energy Works」に取り組み、アルバム制作や野外ライブ等相変わらずの独創性溢れる活動でその健在振りをアピール、アニメーション「千年女優」のサウンドトラックも手掛けるなどソロ活動以外のプロジェクトも多忙となり、以後ソロアルバムのリリースは3年ごとのペースを保っていくことになります。2003年リリースの本作はこのサイクルとなって初めての作品となりますが、平沢ソロアルバムのもう1つの興味深いサイクル、初期3部作(「時空の水」〜「Virtual Rabbit」)→インターバル作(「Aurora」)→ASEAN3部作(「Sim City」〜「救済の技法」)→インターバル作(「賢者のプロペラ」)・・に続く3度目の3部作であるディストピア3部作と呼ばれる1枚目に位置する本作は、イラク戦争の影響等いろいろと側面的に語られる部分は多いのですが、ただ単純にお得意のSF観全開の壮大な惑星絵巻のスタートを飾るに相応しい、細部にコンセプトとサウンドが作り込まれた作品として語る方が楽しい作品と言えるのではないでしょうか。
静謐な印象とヒーリング効果豊かなサウンドが目立った前作と比較すると、本作は粒立ちの良い電子音をベースとした壮大な電脳世界観が戻ってきた感があります。特に本作の際立つ特徴としてトリッキーなギターの復権があります。タイトルチューン「RIDE THE BLUE LIMBO」や「サトワン暦8869年」では切り貼りギターを継ぎはぎしたサイボーグ感覚を楽しめますし、「CAMBODIAN LIMBO」や「LIMBO-54」のエフェクトを駆使した美しいギターサウンド処理は本作のハイライトの1つと言えます。エレクトロに回帰したとは言ってもゆったりテンポのヒーリング空間はしっかり前作を引き継いでいるわけですが、そこはコンセプチュアルな世界観に基づく緻密なサウンドメイクが際立っており、オーケストレーションやハープ、コーラスボイスを平沢サウンドを熟知している鎮西正憲ミックスで料理したサウンドデザインは芸術の域と言えるでしょう。サウンド手法としてはもはや円熟の域に達した平沢ですが、実はアルバムごとに新しいアプローチに挑戦しているため、その微妙な音づくりを改めて再確認することも彼の音楽の楽しみ方の1つでもあるわけですが、本作もその期待に応えられる平均値の高い作品というわけです。そして還暦を超える現在にあっても変わらず一定のレベルの作品を産み出し続けることにこそ、彼の偉大さを感じさせるのです。
<Favorite Songs>
・「RIDE THE BLUE LIMBO」
本作の特徴ともいえる奇天烈フレーズ切り貼りギターが炸裂するタイトルチューン。しかし楽曲全体の印象はどこかしら牧歌的でメジャー調のストリングスと開放的なメロディラインのヒーリングソングの傾向が強いです。
・「帆船108」
突き刺すようなシンセリフとコクのある電子音を中心とした平沢お得意のわらべ歌調ミディアムチューン。ディレイで増幅されたこのシンセリフの存在感が素晴らしく、ソロでも鮮烈な印象を残してくれます。
・「サトワン暦8869年」
本作のラストを飾る含蓄溢れるヒーリングバラード。ギターフレーズを解体してアルペジオ化したような不思議リフに音圧のしつこい低音平沢ボイスの濃い味が魅力です。
<評点>
・サウンド ★★★ (音の傾向が前作より光の差す方向に転換したかのよう)
・メロディ ★★ (ユルいメロディも多いがどれも親しみやすいもの)
・リズム ★ (既にトリッキーなリズムに頼らない音楽性に移行)
・曲構成 ★★ (コンセプト作品ということもあり緩急自在)
・個性 ★★ (ここから10年近い3部作のスタートを切る安定性)
総合評点: 7点
平沢進:vocals・all instruments

1.「祖父なる風」 詞・曲・編:平沢進
2.「RIDE THE BLUE LIMBO」 詞・曲・編:平沢進
3.「ツオルコフスキー・クレーターの無口な門」 詞・曲・編:平沢進
4.「CAMBODIAN LIMBO」 詞・曲・編:平沢進
5.「帆船108」 詞・曲・編:平沢進
6.「狙撃手」 詞・曲・編:平沢進
7.「LIMBO-54」 曲・編:平沢進
8.「HALO」 詞・曲・編:平沢進
9.「高貴な城」 詞・曲・編:平沢進
10.「サトワン暦8869年」 詞・曲・編:平沢進
produced by 平沢進
engineered by 鎮西正憲
● アジアから脱却し得意のSF的世界観をエレクトリックかつシンフォニックに彩るディストピア3部作の先陣を切るコンセプトアルバム
2000年のアルバム「賢者のプロペラ」以降エネルギー問題に目覚めた平沢進は、音楽制作に必要な電気エネルギーを全て太陽発電で補うプロジェクト「Hirasawa Energy Works」に取り組み、アルバム制作や野外ライブ等相変わらずの独創性溢れる活動でその健在振りをアピール、アニメーション「千年女優」のサウンドトラックも手掛けるなどソロ活動以外のプロジェクトも多忙となり、以後ソロアルバムのリリースは3年ごとのペースを保っていくことになります。2003年リリースの本作はこのサイクルとなって初めての作品となりますが、平沢ソロアルバムのもう1つの興味深いサイクル、初期3部作(「時空の水」〜「Virtual Rabbit」)→インターバル作(「Aurora」)→ASEAN3部作(「Sim City」〜「救済の技法」)→インターバル作(「賢者のプロペラ」)・・に続く3度目の3部作であるディストピア3部作と呼ばれる1枚目に位置する本作は、イラク戦争の影響等いろいろと側面的に語られる部分は多いのですが、ただ単純にお得意のSF観全開の壮大な惑星絵巻のスタートを飾るに相応しい、細部にコンセプトとサウンドが作り込まれた作品として語る方が楽しい作品と言えるのではないでしょうか。
静謐な印象とヒーリング効果豊かなサウンドが目立った前作と比較すると、本作は粒立ちの良い電子音をベースとした壮大な電脳世界観が戻ってきた感があります。特に本作の際立つ特徴としてトリッキーなギターの復権があります。タイトルチューン「RIDE THE BLUE LIMBO」や「サトワン暦8869年」では切り貼りギターを継ぎはぎしたサイボーグ感覚を楽しめますし、「CAMBODIAN LIMBO」や「LIMBO-54」のエフェクトを駆使した美しいギターサウンド処理は本作のハイライトの1つと言えます。エレクトロに回帰したとは言ってもゆったりテンポのヒーリング空間はしっかり前作を引き継いでいるわけですが、そこはコンセプチュアルな世界観に基づく緻密なサウンドメイクが際立っており、オーケストレーションやハープ、コーラスボイスを平沢サウンドを熟知している鎮西正憲ミックスで料理したサウンドデザインは芸術の域と言えるでしょう。サウンド手法としてはもはや円熟の域に達した平沢ですが、実はアルバムごとに新しいアプローチに挑戦しているため、その微妙な音づくりを改めて再確認することも彼の音楽の楽しみ方の1つでもあるわけですが、本作もその期待に応えられる平均値の高い作品というわけです。そして還暦を超える現在にあっても変わらず一定のレベルの作品を産み出し続けることにこそ、彼の偉大さを感じさせるのです。
<Favorite Songs>
・「RIDE THE BLUE LIMBO」
本作の特徴ともいえる奇天烈フレーズ切り貼りギターが炸裂するタイトルチューン。しかし楽曲全体の印象はどこかしら牧歌的でメジャー調のストリングスと開放的なメロディラインのヒーリングソングの傾向が強いです。
・「帆船108」
突き刺すようなシンセリフとコクのある電子音を中心とした平沢お得意のわらべ歌調ミディアムチューン。ディレイで増幅されたこのシンセリフの存在感が素晴らしく、ソロでも鮮烈な印象を残してくれます。
・「サトワン暦8869年」
本作のラストを飾る含蓄溢れるヒーリングバラード。ギターフレーズを解体してアルペジオ化したような不思議リフに音圧のしつこい低音平沢ボイスの濃い味が魅力です。
<評点>
・サウンド ★★★ (音の傾向が前作より光の差す方向に転換したかのよう)
・メロディ ★★ (ユルいメロディも多いがどれも親しみやすいもの)
・リズム ★ (既にトリッキーなリズムに頼らない音楽性に移行)
・曲構成 ★★ (コンセプト作品ということもあり緩急自在)
・個性 ★★ (ここから10年近い3部作のスタートを切る安定性)
総合評点: 7点
「APRIL」 ROUND TABLE featuring Nino
「APRIL」(2003 ビクター)
ROUND TABLE featuring Nino

<members>
北川勝利:vocal・electric guitar・acoustic guitar・electric bass・tambourine・chorus
伊藤利恵子:keyboards・acoustic piano・electric piano・organ・Rhodes・synthesizer・vibraphone・chorus
Nino:vocal・chorus・scat
1.「Let Me Be With You」 詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・宮川弾
2.「Dancin’ All Night」 詞:伊藤利恵子 曲:北川勝利 編:宮川弾
3.「Beautiful」 詞・曲:伊藤利恵子 編:ROUND TABLE
4.「New World」 詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE
5.「Day by Day」 詞・曲:伊藤利恵子 編:ROUND TABLE
6.「Birthday」 詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・桜井康史
7.「Book End Bossa」 曲:北川勝利 編:ROUND TABLE
8.「Where Is Love」 詞:伊藤利恵子 曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・桜井康史
9.「Today」 詞:Nino 曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・宮川弾
10.「In April」 詞・曲:伊藤利恵子 編:ROUND TABLE・宮川弾
11.「Love Me Baby」 詞・曲:伊藤利恵子 編:ROUND TABLE
12.「Let Me Be With You (new step mix)」
詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・宮川弾
<support musician>
桜井康史:all instruments
宮川弾:all instruments・strings arrangement
芹野貴之:electric guitar
山之内俊夫:electric guitar・acoustic guitar
千ヶ崎学:electric bass
小島徹也:drums
佐野康夫:drums
宮田繁男:drums
矢部浩志:drums
大石真理恵:percussion
西村浩二:trumpet・flugel horn
村田陽一:trombone
本田雅人:flute
山本拓夫:flute・tenor sax
朝川朋之:harp
金原千恵子ストリングス:strings
弦一徹グループ:strings
AFRO’72:chorus・handclapping
Nick Green:chorus
緑川直人:chorus
坂元俊介:synthesizer programming
produced by ROUND TABLE
engineered by 薮原正史・粕谷尚平
● 良質なポスト渋谷系ポップユニットがアニメソング界に殴り込み!流麗なメロディを見せつけた1stアルバム
遅れてきた渋谷系と呼ばれながらもその豊富な音楽知識と類稀なメロディセンスでPOPSとしての気持ちよさを追求してきた男女デュオROUND TABLEは、90年代後半から00年代前半まで数多くの作品をコンスタントにリリース、企画盤からコンセプトアルバムまで多数の楽曲をこなしその実力を培ってきました。しかしまさに渋谷系ブームからは「遅れてきた」時期に出てきたためその実力やセンスが評価されたのは一部の好事家のみにとどまっていた感は否めませんでした。そこで彼らの転換期となったのが2002年のアニメソング進出で、アニメ「ちょびっツ」のオープニング主題歌として起用された「Let Me Be With You」ではヴォーカリストNinoを迎えて、ROUND TABLE featuring Ninoというトリオ編成として、これまでのアニメソングには少なかった渋谷系から連なる美しいメロディを根幹とした優れたポップミュージックを輸入し、アニメソング界に新風を吹き込みました。本作はそんな彼らの珠玉のポップソングが詰まったデビューアルバムとなります。
軽やかなギターストロークにエレクトリックピアノ、ストリングスなどゴージャスなサウンドと、時折聴かせるシンセプログラミングの絶妙なマッチングがサウンド面を支えながら、Ninoのキュートでガーリーな声質を生かすべく非常にわかりやすいメロディラインが楽曲の軸になっていて、結果としてクオリティがこれまでの彼らの作品と比べても格段に上がった印象さえ窺えます。これにはアニメソングへの進出によってある種の制約が課せられた結果、1つのテーマに向かって試行錯誤、創意工夫した結果生まれた熟成のメロディであり芳醇なサウンドであると思われます。熟達したサポートミュージシャンの演奏や、宮川弾や桜井康史といったアレンジャーの仕事ぶりも彼らの音楽的志向を良く理解した上での質の高さを保っていて、1stアルバムということでいろいろなタイプに挑戦することによる楽曲的なばらつきにもそれほど気にならない心地良さを感じるという点でも、本作はROUND TABLEにとっても一皮むけた、一段高みに上るきっかけになった作品と言えるでしょう。本作の成功はその後アニメソング界への影響力を強め、06年の傑作アルバム「Nino」である種の頂点を極めることになります。
<Favorite Songs>
・「Birthday」
本作の中でも最もエレクトリック度が高い楽曲。心地良いシンセパッドや四つ打ちリズム、細かいシーケンスパターン、ボコーダーコーラスなどサウンドはエレポップ仕様ながら、あくまで聴きやすさを外さない天性のメロディの美しさが感じられます。
・「In April」
ピアノの響きも美しい爽やかさ満点のポップチューン。グルーヴィーなベースラインもポイントですが、やはり極めつけは上下に自由奔放に動き回る派手なストリングスです。これだけゴージャスでも懐かしさを忘れないところにこのユニットの巧みさがあります。
・「Love Me Baby」
午後3時の陽だまりが似合うようなノスタルジックポップ。エレピとオルガン&ギターを基本とする癒し系暖かさを感じるポップチューンの典型とも言える名曲で、サビのNinoの高音も可愛くもありセクシーでもある絶妙な声質です。
<評点>
・サウンド ★★★ (生でも機械でも一貫として爽やかさを追求)
・メロディ ★★★ (型にはまった時の美メロの破壊力を垣間見せる)
・リズム ★★ (複数の熟練ドラマーが安定した仕事ぶりを見せる)
・曲構成 ★ (異なったタイプの楽曲をいま一つまとめきれない印象)
・個性 ★★ (ヴォーカリストの参加でPOPSとしての芯が入る)
総合評点: 7点
ROUND TABLE featuring Nino

<members>
北川勝利:vocal・electric guitar・acoustic guitar・electric bass・tambourine・chorus
伊藤利恵子:keyboards・acoustic piano・electric piano・organ・Rhodes・synthesizer・vibraphone・chorus
Nino:vocal・chorus・scat
1.「Let Me Be With You」 詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・宮川弾
2.「Dancin’ All Night」 詞:伊藤利恵子 曲:北川勝利 編:宮川弾
3.「Beautiful」 詞・曲:伊藤利恵子 編:ROUND TABLE
4.「New World」 詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE
5.「Day by Day」 詞・曲:伊藤利恵子 編:ROUND TABLE
6.「Birthday」 詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・桜井康史
7.「Book End Bossa」 曲:北川勝利 編:ROUND TABLE
8.「Where Is Love」 詞:伊藤利恵子 曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・桜井康史
9.「Today」 詞:Nino 曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・宮川弾
10.「In April」 詞・曲:伊藤利恵子 編:ROUND TABLE・宮川弾
11.「Love Me Baby」 詞・曲:伊藤利恵子 編:ROUND TABLE
12.「Let Me Be With You (new step mix)」
詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・宮川弾
<support musician>
桜井康史:all instruments
宮川弾:all instruments・strings arrangement
芹野貴之:electric guitar
山之内俊夫:electric guitar・acoustic guitar
千ヶ崎学:electric bass
小島徹也:drums
佐野康夫:drums
宮田繁男:drums
矢部浩志:drums
大石真理恵:percussion
西村浩二:trumpet・flugel horn
村田陽一:trombone
本田雅人:flute
山本拓夫:flute・tenor sax
朝川朋之:harp
金原千恵子ストリングス:strings
弦一徹グループ:strings
AFRO’72:chorus・handclapping
Nick Green:chorus
緑川直人:chorus
坂元俊介:synthesizer programming
produced by ROUND TABLE
engineered by 薮原正史・粕谷尚平
● 良質なポスト渋谷系ポップユニットがアニメソング界に殴り込み!流麗なメロディを見せつけた1stアルバム
遅れてきた渋谷系と呼ばれながらもその豊富な音楽知識と類稀なメロディセンスでPOPSとしての気持ちよさを追求してきた男女デュオROUND TABLEは、90年代後半から00年代前半まで数多くの作品をコンスタントにリリース、企画盤からコンセプトアルバムまで多数の楽曲をこなしその実力を培ってきました。しかしまさに渋谷系ブームからは「遅れてきた」時期に出てきたためその実力やセンスが評価されたのは一部の好事家のみにとどまっていた感は否めませんでした。そこで彼らの転換期となったのが2002年のアニメソング進出で、アニメ「ちょびっツ」のオープニング主題歌として起用された「Let Me Be With You」ではヴォーカリストNinoを迎えて、ROUND TABLE featuring Ninoというトリオ編成として、これまでのアニメソングには少なかった渋谷系から連なる美しいメロディを根幹とした優れたポップミュージックを輸入し、アニメソング界に新風を吹き込みました。本作はそんな彼らの珠玉のポップソングが詰まったデビューアルバムとなります。
軽やかなギターストロークにエレクトリックピアノ、ストリングスなどゴージャスなサウンドと、時折聴かせるシンセプログラミングの絶妙なマッチングがサウンド面を支えながら、Ninoのキュートでガーリーな声質を生かすべく非常にわかりやすいメロディラインが楽曲の軸になっていて、結果としてクオリティがこれまでの彼らの作品と比べても格段に上がった印象さえ窺えます。これにはアニメソングへの進出によってある種の制約が課せられた結果、1つのテーマに向かって試行錯誤、創意工夫した結果生まれた熟成のメロディであり芳醇なサウンドであると思われます。熟達したサポートミュージシャンの演奏や、宮川弾や桜井康史といったアレンジャーの仕事ぶりも彼らの音楽的志向を良く理解した上での質の高さを保っていて、1stアルバムということでいろいろなタイプに挑戦することによる楽曲的なばらつきにもそれほど気にならない心地良さを感じるという点でも、本作はROUND TABLEにとっても一皮むけた、一段高みに上るきっかけになった作品と言えるでしょう。本作の成功はその後アニメソング界への影響力を強め、06年の傑作アルバム「Nino」である種の頂点を極めることになります。
<Favorite Songs>
・「Birthday」
本作の中でも最もエレクトリック度が高い楽曲。心地良いシンセパッドや四つ打ちリズム、細かいシーケンスパターン、ボコーダーコーラスなどサウンドはエレポップ仕様ながら、あくまで聴きやすさを外さない天性のメロディの美しさが感じられます。
・「In April」
ピアノの響きも美しい爽やかさ満点のポップチューン。グルーヴィーなベースラインもポイントですが、やはり極めつけは上下に自由奔放に動き回る派手なストリングスです。これだけゴージャスでも懐かしさを忘れないところにこのユニットの巧みさがあります。
・「Love Me Baby」
午後3時の陽だまりが似合うようなノスタルジックポップ。エレピとオルガン&ギターを基本とする癒し系暖かさを感じるポップチューンの典型とも言える名曲で、サビのNinoの高音も可愛くもありセクシーでもある絶妙な声質です。
<評点>
・サウンド ★★★ (生でも機械でも一貫として爽やかさを追求)
・メロディ ★★★ (型にはまった時の美メロの破壊力を垣間見せる)
・リズム ★★ (複数の熟練ドラマーが安定した仕事ぶりを見せる)
・曲構成 ★ (異なったタイプの楽曲をいま一つまとめきれない印象)
・個性 ★★ (ヴォーカリストの参加でPOPSとしての芯が入る)
総合評点: 7点
「Vendome, la sick Kaiseki」 SPANK HAPPY
「Vendome, la sick Kaiseki」(2003 キング)
SPANK HAPPY

<members>
岩澤瞳:vocal
菊地成孔:vocal・alto sax・tenor sax
1.「FAME」 詞・曲:Carlos Alomar・David Bowie・John Lennon 編:菊地成孔
2.「chic/シック」 詞・曲:菊地成孔 編:矢野博康
3.「Vendome, la sick Kaiseki/ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ」
詞・曲:菊地成孔 編:パードン木村
4.「Les enfants jouent a la russle/子供達はロシアで遊ぶ」 詞・曲・編:菊地成孔
5.「Le capitalisme est encore valable/資本主義は未だ有効である」
詞・曲:菊地成孔 編:菊地成孔・上林俊雅
6.「Un monstre elegant/エレガントの怪物」 詞・曲:菊地成孔 編:矢野博康
7.「vacances noires/バカンス・ノワール48℃」
詞:広部直子・菊地成孔 曲:菊地成孔 編:菊地成孔・オオエタツヤ
8.「L.bylon's dead bass lines/午前4時のティー・パーティー」
詞:広部直子・菊地成孔 曲:菊地成孔 編:パードン木村
9.「PHYSICAL」 詞・曲:Steve Kipner・Terry Shaddick 編:矢野博康
10.「De Venus a Antoinette/ヴィーナスからアントワネットまで」
詞・曲:菊地成孔 編:菊地成孔・オオエタツヤ
<support musician>
今堀恒雄:electric guitar・acoustic guitar
奥田健介:electric guitar
千ヶ崎学:electric bass
Gaelle Cloarec:narration
Richard Counord:narration
カヒミカリィ:narration
オオエタツヤ:computer programming・electric guitar
上林俊雅:computer programming
パードン木村:computer programming
矢野博康:computer programming
produced by 菊地成孔
engineered by 杉本健
● 病的にスタイリッシュ!前作よりCOOL且つマニアックに仕上がったカルトデュオポップユニットの第2弾フルアルバム
裏ドリカムと呼ばれたミュージシャンズトリオバンド時代から、素人ヴォーカルとのアンニュイで斜に構えたエレポップデュオへと変貌したSPANK HAPPYは、2枚のシングルを発表した後1stフルアルバム「COMPUTER HOUSE OF MODE」をリリース、ハウスを基調としながらも独自のエレクトリックミュージックのセンスを遺憾なく発揮しましたが、続けて翌年リリースされた2ndアルバム、すなわち本作は前作の冒険的であるがポップ寄りであったサウンド志向からさらに妖しさが増したかのようなオシャレエレポップサウンドに進化しており、どこか切迫感にも似たような整理されたプログラミングによる楽曲が集められています。
主宰者の菊地成孔をはじめ前作に引き続きパードン木村とCAPTAIN FUNKオオエタツヤがアレンジャーとして参加しているほか、元Cymbalsのドラマー矢野博康が新たにアレンジャー陣に加わり新たな風邪を吹き込んでいる本作ですが、前作が明るく躍動感が感じられる作りであったのに対して、本作はよりディープに内面に潜り込んだような粘っこく這いずり回るようなエレクトリックサウンドといった傾向が強く感じられます。その中でも矢野博康アレンジの「chic」「PHYSICAL」は軽めの明るい曲調で一服の清涼剤となっていますが、基本はマイナー調でドロッとしたイメージの、それでいてほどよく実験的でスタイリッシュな、いかにも先取り感覚あふれるマニア受けする楽曲が目白押しです。「子供達はロシアで遊ぶ」「資本主義は未だ有効である」などといったミニマル調のマニアックエレポップは菊地のサウンドセンスが先鋭化した好例であり、多少聴衆に配慮した部分もあった前作よりはSPANK HAPPYというポップユニットの中で可能な限りの実験を試みた結果、このようなどこかドス黒い印象のエレクトリックPOPSが生み出されたのではないかと思います。結局音源としては本作が最後となったSPANK HAPPYですが、このユニットに次があったとしても恐らく同じサウンドにはならずに新しいアプローチで攻めてくることになるに違いありません。そういったジャンルにとらわれない菊地成孔のPOPS実験場が、このユニットの本質ということなのでしょう。
<Favorite Songs>
・「chic/シック」
本作中ではアッサリした部類の打ち込みを担当する矢野博康アレンジのエレガントエレポップ。あからさまの琴音色の似非オリエンタルムードが80年代を想起させます。淡々とした中にもベルベットのような肌触りの良さが感じられる楽曲です。
・「L.bylon's dead bass lines/午前4時のティー・パーティー」
パードン木村らしい粗さと思い切りの良さが同居したプログラミングによるアップテンポチューン。アシッドなシーケンスとモヤモヤッとしたナレーションとコーラスが混合しますが、ラジオノイズ等を利用するなど変化をもたせながらミニマルな曲調に変化を加えています。
・「PHYSICAL」
Olivia Newton-Johnの名曲を矢野博康がど直球なエレポップにリアレンジし本作の中でも突き抜けた楽曲に仕立て上げています。原曲と比較してもスピード感とエレガント性、そしてエレクトリック度が格段に上がり、本職である間奏のサックスソロにも生気が感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★ (マニアックな楽曲におけるこだわりのシンセに注目)
・メロディ ★ (カバー曲以外はミニマルな曲調でメロディは後回しに)
・リズム ★ (基本ハウス調で垂れ流し的な00年代らしいリズム隊)
・曲構成 ★ (ある意味エレガントに統一された虚飾感満載の構成)
・個性 ★ (2枚目にして自分の殻に閉じこもった深く渋い完成度)
総合評点: 6点
SPANK HAPPY

<members>
岩澤瞳:vocal
菊地成孔:vocal・alto sax・tenor sax
1.「FAME」 詞・曲:Carlos Alomar・David Bowie・John Lennon 編:菊地成孔
2.「chic/シック」 詞・曲:菊地成孔 編:矢野博康
3.「Vendome, la sick Kaiseki/ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ」
詞・曲:菊地成孔 編:パードン木村
4.「Les enfants jouent a la russle/子供達はロシアで遊ぶ」 詞・曲・編:菊地成孔
5.「Le capitalisme est encore valable/資本主義は未だ有効である」
詞・曲:菊地成孔 編:菊地成孔・上林俊雅
6.「Un monstre elegant/エレガントの怪物」 詞・曲:菊地成孔 編:矢野博康
7.「vacances noires/バカンス・ノワール48℃」
詞:広部直子・菊地成孔 曲:菊地成孔 編:菊地成孔・オオエタツヤ
8.「L.bylon's dead bass lines/午前4時のティー・パーティー」
詞:広部直子・菊地成孔 曲:菊地成孔 編:パードン木村
9.「PHYSICAL」 詞・曲:Steve Kipner・Terry Shaddick 編:矢野博康
10.「De Venus a Antoinette/ヴィーナスからアントワネットまで」
詞・曲:菊地成孔 編:菊地成孔・オオエタツヤ
<support musician>
今堀恒雄:electric guitar・acoustic guitar
奥田健介:electric guitar
千ヶ崎学:electric bass
Gaelle Cloarec:narration
Richard Counord:narration
カヒミカリィ:narration
オオエタツヤ:computer programming・electric guitar
上林俊雅:computer programming
パードン木村:computer programming
矢野博康:computer programming
produced by 菊地成孔
engineered by 杉本健
● 病的にスタイリッシュ!前作よりCOOL且つマニアックに仕上がったカルトデュオポップユニットの第2弾フルアルバム
裏ドリカムと呼ばれたミュージシャンズトリオバンド時代から、素人ヴォーカルとのアンニュイで斜に構えたエレポップデュオへと変貌したSPANK HAPPYは、2枚のシングルを発表した後1stフルアルバム「COMPUTER HOUSE OF MODE」をリリース、ハウスを基調としながらも独自のエレクトリックミュージックのセンスを遺憾なく発揮しましたが、続けて翌年リリースされた2ndアルバム、すなわち本作は前作の冒険的であるがポップ寄りであったサウンド志向からさらに妖しさが増したかのようなオシャレエレポップサウンドに進化しており、どこか切迫感にも似たような整理されたプログラミングによる楽曲が集められています。
主宰者の菊地成孔をはじめ前作に引き続きパードン木村とCAPTAIN FUNKオオエタツヤがアレンジャーとして参加しているほか、元Cymbalsのドラマー矢野博康が新たにアレンジャー陣に加わり新たな風邪を吹き込んでいる本作ですが、前作が明るく躍動感が感じられる作りであったのに対して、本作はよりディープに内面に潜り込んだような粘っこく這いずり回るようなエレクトリックサウンドといった傾向が強く感じられます。その中でも矢野博康アレンジの「chic」「PHYSICAL」は軽めの明るい曲調で一服の清涼剤となっていますが、基本はマイナー調でドロッとしたイメージの、それでいてほどよく実験的でスタイリッシュな、いかにも先取り感覚あふれるマニア受けする楽曲が目白押しです。「子供達はロシアで遊ぶ」「資本主義は未だ有効である」などといったミニマル調のマニアックエレポップは菊地のサウンドセンスが先鋭化した好例であり、多少聴衆に配慮した部分もあった前作よりはSPANK HAPPYというポップユニットの中で可能な限りの実験を試みた結果、このようなどこかドス黒い印象のエレクトリックPOPSが生み出されたのではないかと思います。結局音源としては本作が最後となったSPANK HAPPYですが、このユニットに次があったとしても恐らく同じサウンドにはならずに新しいアプローチで攻めてくることになるに違いありません。そういったジャンルにとらわれない菊地成孔のPOPS実験場が、このユニットの本質ということなのでしょう。
<Favorite Songs>
・「chic/シック」
本作中ではアッサリした部類の打ち込みを担当する矢野博康アレンジのエレガントエレポップ。あからさまの琴音色の似非オリエンタルムードが80年代を想起させます。淡々とした中にもベルベットのような肌触りの良さが感じられる楽曲です。
・「L.bylon's dead bass lines/午前4時のティー・パーティー」
パードン木村らしい粗さと思い切りの良さが同居したプログラミングによるアップテンポチューン。アシッドなシーケンスとモヤモヤッとしたナレーションとコーラスが混合しますが、ラジオノイズ等を利用するなど変化をもたせながらミニマルな曲調に変化を加えています。
・「PHYSICAL」
Olivia Newton-Johnの名曲を矢野博康がど直球なエレポップにリアレンジし本作の中でも突き抜けた楽曲に仕立て上げています。原曲と比較してもスピード感とエレガント性、そしてエレクトリック度が格段に上がり、本職である間奏のサックスソロにも生気が感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★ (マニアックな楽曲におけるこだわりのシンセに注目)
・メロディ ★ (カバー曲以外はミニマルな曲調でメロディは後回しに)
・リズム ★ (基本ハウス調で垂れ流し的な00年代らしいリズム隊)
・曲構成 ★ (ある意味エレガントに統一された虚飾感満載の構成)
・個性 ★ (2枚目にして自分の殻に閉じこもった深く渋い完成度)
総合評点: 6点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽
「a new day」 face to ace
「a new day」(2003 クラウン)
face to ace

<members>
ACE:vocal・chorus・guitar
本田海月:synthesizer・computer programming
1.「a new day」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
2.「ノンフィクション」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
3.「CLOUDY DAY」 詞・曲:ACE 編:face to ace
4.「栞」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
5.「残像」 詞:ACE・本田海月 曲:本田海月 編:face to ace
6.「ピュア」 詞・曲:ACE 編:face to ace
7.「パンドラの空 (album version)」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
8.「UNDERCOVER」 詞・曲:ACE 編:face to ace
9.「HOW SILLY?」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
10.「SPEED OF LIFE」 詞・曲:ACE 編:face to ace
11.「RAIN」 詞・曲:ACE 編:face to ace
<support musician>
瀧川"GASBON"浩水:alto sax
広谷順子:chorus
produced by face to ace
engineered by 玉乃井光紀・上條直之
● 匠のシンセサウンドに到達!みずからの方向性を確立した旅情派エレポップデュオの名盤2ndアルバム
元聖飢魔IIのギタリスト、エース清水のソロアルバム「TIME AXIS」は、プロデュースを手掛けた元GRASS VALLEYの本田恭之とエース清水との相性の良さから、再びこの2人がタッグを組むことを期待されていましたが、1993年リリースのこの作品から9年以上経過した2002年、遂にface to aceという名でユニットを結成、アルバム「FACE TO FACE」でデビューします。「TIME AXIS」からのシンセ主体のAORミュージックといった風情の落ち着いた作風は健在で、相変わらずの相性の良さを1stアルバムにして見せつけた格好になりましたが、彼らの実力とセンスが本当に発揮されたのは先行シングル2枚を携えて翌年リリースされた本作からです。エース清水改めACEの作曲が多かった前作に比べて、本作では本田海月(本田恭之から改名)作曲が約半数を占めるなど、持ち前の本田メロディが彼らの大人のロマンティック度をいやがおうでも高める結果となり、必然的にそのクオリティに疑いの余地がないほどの作品となっています。
いわゆる「聴かせる」メロディを意識した前作を踏襲しつつも、この作品においては「旅情エレクトロ」というジャンルを提唱したように、多彩なシンセフレーズによって絵画的に情景描写を試みる本田海月のサウンドメイキングがフィーチャーされた形となり、ACEも絶対的な信頼を置く本田サウンドを表に出していくことで作品全体のクオリティがグッと上がっています。もともと本田海月は微妙にフィルターを調整したような丸みを帯びた独特のシンセ音色が特徴で、丹念に作り込んだそれらの音色によるフレーズを、楽曲内に絶妙に配置するセンスに長けています。本作では基本が落ち着いた大人のエレクトロAORということもあって、派手なシンセソロなどは少ないもののその分凝った音づくりを想起させるようなサウンドで勝負した感があります。そしてそれらをさらに生かしているのが本田得意のロマンティックメロディであり、ACEの作曲能力も疑いはないものの本作ではさすがに本田印の一聴してそれとわかるメロディラインに一歩譲る形となっています。久方ぶりに本田海月が本領を発揮したこの作品は、ACEとの素晴らしい相性も手伝ってこのユニットの可能性を十二分に感じさせた名盤であることに間違いはないと思います(ジャケも素晴らしい)。
<Favorite Songs>
・「a new day」
情景豊かな本田メロディが炸裂した「旅情エレクトロ」を高らかに宣言するタイトルチューン。途中にシーケンスには違和感が感じられるものの「旅情」というだけあって次から次へと移り変わる風景を見事にギター主体の曲調によって表現する、構成の妙を印象づけています。
・「ノンフィクション」
シングルカットされた軽やかなテンポによるエレクトロポップ楽曲。ここでは本田シンセワークが大活躍で、彼ならではのきらびやかで、かつくぐもったような柔らかい緩急のつけた多彩な音色が楽しめます。間奏後のブリッジで左から右へ流れていってはじけるようなパンニング&シンセの使い方が抜群です。
・「パンドラの空 (album version)」
先行シングルのカップリングであり本作のためにアレンジが差し替えられたプログラミング度の高い楽曲。は寝るようにリズミカルなシーケンスから憂いを含んだサビへと続く構成も良いのですが、この楽曲ではやはりエレクトリック度の高さを垣間見せる細かい音の選び方が絶妙です。
<評点>
・サウンド ★★★★★(真似できそうでできないこの独特のセンスが本田の真骨頂)
・メロディ ★★★★ (サウンドとの相乗効果で哀愁メロディがより引き立つ)
・リズム ★★★★ (派手ではないものの全体的な細かいリズム構築に注目)
・曲構成 ★★★★★(サウンドに冒険心がある上に名曲も多く捨て曲全くなし)
・個性 ★★★★ (旅情エレクトロスタイルを本作において見事に確立)
総合評点: 9点
face to ace

<members>
ACE:vocal・chorus・guitar
本田海月:synthesizer・computer programming
1.「a new day」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
2.「ノンフィクション」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
3.「CLOUDY DAY」 詞・曲:ACE 編:face to ace
4.「栞」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
5.「残像」 詞:ACE・本田海月 曲:本田海月 編:face to ace
6.「ピュア」 詞・曲:ACE 編:face to ace
7.「パンドラの空 (album version)」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
8.「UNDERCOVER」 詞・曲:ACE 編:face to ace
9.「HOW SILLY?」 詞:ACE 曲:本田海月 編:face to ace
10.「SPEED OF LIFE」 詞・曲:ACE 編:face to ace
11.「RAIN」 詞・曲:ACE 編:face to ace
<support musician>
瀧川"GASBON"浩水:alto sax
広谷順子:chorus
produced by face to ace
engineered by 玉乃井光紀・上條直之
● 匠のシンセサウンドに到達!みずからの方向性を確立した旅情派エレポップデュオの名盤2ndアルバム
元聖飢魔IIのギタリスト、エース清水のソロアルバム「TIME AXIS」は、プロデュースを手掛けた元GRASS VALLEYの本田恭之とエース清水との相性の良さから、再びこの2人がタッグを組むことを期待されていましたが、1993年リリースのこの作品から9年以上経過した2002年、遂にface to aceという名でユニットを結成、アルバム「FACE TO FACE」でデビューします。「TIME AXIS」からのシンセ主体のAORミュージックといった風情の落ち着いた作風は健在で、相変わらずの相性の良さを1stアルバムにして見せつけた格好になりましたが、彼らの実力とセンスが本当に発揮されたのは先行シングル2枚を携えて翌年リリースされた本作からです。エース清水改めACEの作曲が多かった前作に比べて、本作では本田海月(本田恭之から改名)作曲が約半数を占めるなど、持ち前の本田メロディが彼らの大人のロマンティック度をいやがおうでも高める結果となり、必然的にそのクオリティに疑いの余地がないほどの作品となっています。
いわゆる「聴かせる」メロディを意識した前作を踏襲しつつも、この作品においては「旅情エレクトロ」というジャンルを提唱したように、多彩なシンセフレーズによって絵画的に情景描写を試みる本田海月のサウンドメイキングがフィーチャーされた形となり、ACEも絶対的な信頼を置く本田サウンドを表に出していくことで作品全体のクオリティがグッと上がっています。もともと本田海月は微妙にフィルターを調整したような丸みを帯びた独特のシンセ音色が特徴で、丹念に作り込んだそれらの音色によるフレーズを、楽曲内に絶妙に配置するセンスに長けています。本作では基本が落ち着いた大人のエレクトロAORということもあって、派手なシンセソロなどは少ないもののその分凝った音づくりを想起させるようなサウンドで勝負した感があります。そしてそれらをさらに生かしているのが本田得意のロマンティックメロディであり、ACEの作曲能力も疑いはないものの本作ではさすがに本田印の一聴してそれとわかるメロディラインに一歩譲る形となっています。久方ぶりに本田海月が本領を発揮したこの作品は、ACEとの素晴らしい相性も手伝ってこのユニットの可能性を十二分に感じさせた名盤であることに間違いはないと思います(ジャケも素晴らしい)。
<Favorite Songs>
・「a new day」
情景豊かな本田メロディが炸裂した「旅情エレクトロ」を高らかに宣言するタイトルチューン。途中にシーケンスには違和感が感じられるものの「旅情」というだけあって次から次へと移り変わる風景を見事にギター主体の曲調によって表現する、構成の妙を印象づけています。
・「ノンフィクション」
シングルカットされた軽やかなテンポによるエレクトロポップ楽曲。ここでは本田シンセワークが大活躍で、彼ならではのきらびやかで、かつくぐもったような柔らかい緩急のつけた多彩な音色が楽しめます。間奏後のブリッジで左から右へ流れていってはじけるようなパンニング&シンセの使い方が抜群です。
・「パンドラの空 (album version)」
先行シングルのカップリングであり本作のためにアレンジが差し替えられたプログラミング度の高い楽曲。は寝るようにリズミカルなシーケンスから憂いを含んだサビへと続く構成も良いのですが、この楽曲ではやはりエレクトリック度の高さを垣間見せる細かい音の選び方が絶妙です。
<評点>
・サウンド ★★★★★(真似できそうでできないこの独特のセンスが本田の真骨頂)
・メロディ ★★★★ (サウンドとの相乗効果で哀愁メロディがより引き立つ)
・リズム ★★★★ (派手ではないものの全体的な細かいリズム構築に注目)
・曲構成 ★★★★★(サウンドに冒険心がある上に名曲も多く捨て曲全くなし)
・個性 ★★★★ (旅情エレクトロスタイルを本作において見事に確立)
総合評点: 9点
テーマ : 本日のCD・レコード - ジャンル : 音楽