「ALLO!」 ワールドスタンダード
「ALLO!」 (1986 テイチク)
ワールドスタンダード

<members>
大内美貴子:vocal
信太美奈:vocal
鈴木惣一郎:vocal・guitar・12strings guitar・mandolin・drums・percussion
三上昌晴:keyboards・guitar・mandolin・ukulele・chorus
1.「愛のミラクル」 詞:大内美貴子 曲:鈴木惣一郎 編:鈴木惣一郎 弦編曲:菅波ゆり子
2.「太陽は教えてくれない」 詞:小西康陽 曲・編:三上昌晴
3.「オアシスのなかで-Sha La La」 詞:大内美貴子 曲・編:鈴木惣一郎
4.「ニューヨーカーの子守歌」 詞:大内美貴子 曲・編:藤原真人・鈴木惣一郎
5.「ミラージュ」 詞:鈴木惣一郎 曲・編:三上昌晴
6.「デスァ・フィナードNo.6」 詞:大内美貴子 曲・編:鈴木惣一郎 管編曲:篠田昌已
7.「サーカスの魚達」 詞:大内美貴子 曲・編:三上昌晴
8.「青いレファ」
詞:鈴木惣一郎・大内美貴子 曲:鈴木惣一郎 編:鈴木惣一郎 弦編曲:藤原真人
9.「ピアニストの憂鬱」 詞:大内美貴子 曲・編:三上昌晴
<support musician>
成田忍:electric guitar
藤原真人:keyboards・piano・electric bass・chorus・strings arrangement
松岡晃代:piano
吉田哲治:trumpet
松本治:trombone
篠田昌已:alto sax・tenor sax・flute・horn arrangement
菅波ゆり子:violin・piano・strings arrangement
津布久敏子:violin
吉野美緒:violin
伊藤耕司:cello
堺靖師:cello
Virginia:”Allo” French Chorus
Kamo-Chan&Shibata:chorus・noise
荒川勝:”O-Le” voice
produced by 牧村憲一・鈴木惣一郎
mixing engineered by 西須廣志
recording engineered by 阿部保弘
● 前作から一転して日本語歌モノPOPSに果敢に挑戦しつつもノンジャンルな音楽性は全くぶれなかった3rdアルバム
1980年代初頭に佐藤幸雄率いるすきすきスウィッチにドラマーとして参加していた鈴木惣一郎は、1982年より自身のパーマネントユニットとして、ワールドスタンダードとしての活動を開始、その完成度の高いデモテープは坂本龍一がDJを務めるFMラジオ番組「サウンドストリート」やショコラータ等を輩出した当時最先端の音楽シーンを紹介していたカセットマガジン「TRA」に紹介されると、その後坂本龍一主宰のMIDIレコードからのデビューが決まっていたものの、紆余曲折を経てテイチクレコードに新設された細野晴臣主宰のノンスタンダードレーベルから、鈴木惣一郎、三上昌晴、山本和夫(後のムーグ山本)、大内美貴子、松岡晃代、小塚類子の6人組グループとして1985年に1stアルバム「ワールドスタンダード珠玉の第一集」がリリース、晴れてデビューを飾ることになるわけです。テクノベースのエレクトリックなサウンドながら、後年のラウンジミュージックを先取りするかのようなオーガニックな質感でオリジナリティを存分に発揮していたこのインストゥルメンタルアルバムの後、翌86年にはエスペラント語のボーカルをフィーチャーした実験的楽曲集であるミニアルバム「DOUBLE HAPPINESS」をリリースするものの、ここでグループは鈴木、三上、大内のトリオユニットとなってしまいます。そこに新ボーカリスト信太美奈を迎えて4人組として再スタートを切って同年リリースされた3rdアルバムが本作というわけです。
さて、本作で再始動となったワールドスタンダードは方向性に関して大きく舵を切ることになります。それは日本語POPSへのチャレンジです。これまで無国籍感覚を前面に押し出したマニアックな音楽性に傾倒していた彼らでしたが、本作では非常にポップなメロディと歌を重視した作風に転換し、日本語による真っ当なPOPSのフィールドで勝負する確固たる意志を感じる作品となっています。1stアルバムから本作までの彼らは鈴木惣一郎と三上昌晴のダブルコンポーザースタイルで楽曲制作されていましたが、単純な比較ではありますが、無国籍風味を醸し出すアコースティックなアプローチと洋楽POPS的なメロディを鈴木が担当し、エレクトリックかつテクノなサウンドメイクとニューウェーブなポップフレーズを三上が担当していたような印象で、特に三上楽曲の充実ぶりはここに極まれりといった感覚を得ることができます。鈴木の見事なコンセプトワークによる作品構築術はその後の彼のさまざまな活動を追いかけていくにつれて認識することができますが、本作では特にサウンド面、テクノロジー面においての三上の貢献度が高く、鈴木も大変心強かったのではないかと推測されます。リードチューンと言ってもよいPizzicato Five小西康陽作詞の「太陽は教えてくれない」、YMO(坂本龍一)風のテクノポッパー「ミラージュ」、そしてラストナンバー「ピアニストの憂鬱」と名曲を連発する三上に対して、鈴木は豊富過ぎる音楽的知識をしっかり歌モノPOPSに昇華すべくその手腕を発揮しており、日本語POPSへチャレンジした本作としてはある種の目的は達したのではないかと思われます。
しかし、本作の手応えをもとに歌モノ路線を継続しようとしたワールドスタンダードですが、優れた楽曲を提供し続けた三上昌晴がグループを離れることになると、思い切ってグループ名を変更、エブリシングプレイとして生まれ変わった彼らは、本作でもストリングス編曲を手がけるなど積極的に参加していた藤原真人を加えて88年にアルバム「ルール・モナムール」をリリースし再び活動していくことになるのです(なお、ワールドスタンダードは90年代後半に細野晴臣主宰のデイジーワールドに移籍して復活して現在に至ります)。
<Favorite Songs>
・「ミラージュ」
本作の中でも最もエレクトリックな匂いのするエレガントな中期YMO風テクノポップチューン。最もノンスタリスナーにはストライクだったかもしれません。ノイジーにエフェクトされたリズムに洗練されたパッド、その清涼感とポップセンスに三上昌晴の才能を感じざるを得ません。
・「デスァ・フィナードNo.6」
ブラスセクションも華やかなダンサブルチューン。ミニマルなキーボードのフレーズとハンドクラップの定期的な入り方がニューウェーブな匂いを残していますが、ブラスアレンジのおかげで楽曲のパワーが生まれています。テクノな効果と生演奏のアプローチが最も絶妙に絡み合った良曲です。
・「ピアニストの憂鬱」
リズムマシンのジャストなプログラミングが血湧き肉躍る無国籍デジタル歌謡。多層的なミニマルシーケンスの絡み合いが絶妙です。音響的なピアノが入ってくる間奏も面白いのですが、牧歌的なボーカルにより癒しと不穏の狭間を味わえるのも興味深い名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (生楽器とエレクトロニクスの融合の優れた回答の1つ)
・メロディ ★★ (限りなくポップに寄りながらもスノッブには寄らない)
・リズム ★★★ (アナログな楽曲であってもデジタルさを感じさせる)
・曲構成 ★★★ (マニアックにもポップにも寄り過ぎない絶妙なバランス)
・個性 ★★ (歌モノでもクオリティの高さを主張できる実力を披露)
総合評点: 8点
ワールドスタンダード

<members>
大内美貴子:vocal
信太美奈:vocal
鈴木惣一郎:vocal・guitar・12strings guitar・mandolin・drums・percussion
三上昌晴:keyboards・guitar・mandolin・ukulele・chorus
1.「愛のミラクル」 詞:大内美貴子 曲:鈴木惣一郎 編:鈴木惣一郎 弦編曲:菅波ゆり子
2.「太陽は教えてくれない」 詞:小西康陽 曲・編:三上昌晴
3.「オアシスのなかで-Sha La La」 詞:大内美貴子 曲・編:鈴木惣一郎
4.「ニューヨーカーの子守歌」 詞:大内美貴子 曲・編:藤原真人・鈴木惣一郎
5.「ミラージュ」 詞:鈴木惣一郎 曲・編:三上昌晴
6.「デスァ・フィナードNo.6」 詞:大内美貴子 曲・編:鈴木惣一郎 管編曲:篠田昌已
7.「サーカスの魚達」 詞:大内美貴子 曲・編:三上昌晴
8.「青いレファ」
詞:鈴木惣一郎・大内美貴子 曲:鈴木惣一郎 編:鈴木惣一郎 弦編曲:藤原真人
9.「ピアニストの憂鬱」 詞:大内美貴子 曲・編:三上昌晴
<support musician>
成田忍:electric guitar
藤原真人:keyboards・piano・electric bass・chorus・strings arrangement
松岡晃代:piano
吉田哲治:trumpet
松本治:trombone
篠田昌已:alto sax・tenor sax・flute・horn arrangement
菅波ゆり子:violin・piano・strings arrangement
津布久敏子:violin
吉野美緒:violin
伊藤耕司:cello
堺靖師:cello
Virginia:”Allo” French Chorus
Kamo-Chan&Shibata:chorus・noise
荒川勝:”O-Le” voice
produced by 牧村憲一・鈴木惣一郎
mixing engineered by 西須廣志
recording engineered by 阿部保弘
● 前作から一転して日本語歌モノPOPSに果敢に挑戦しつつもノンジャンルな音楽性は全くぶれなかった3rdアルバム
1980年代初頭に佐藤幸雄率いるすきすきスウィッチにドラマーとして参加していた鈴木惣一郎は、1982年より自身のパーマネントユニットとして、ワールドスタンダードとしての活動を開始、その完成度の高いデモテープは坂本龍一がDJを務めるFMラジオ番組「サウンドストリート」やショコラータ等を輩出した当時最先端の音楽シーンを紹介していたカセットマガジン「TRA」に紹介されると、その後坂本龍一主宰のMIDIレコードからのデビューが決まっていたものの、紆余曲折を経てテイチクレコードに新設された細野晴臣主宰のノンスタンダードレーベルから、鈴木惣一郎、三上昌晴、山本和夫(後のムーグ山本)、大内美貴子、松岡晃代、小塚類子の6人組グループとして1985年に1stアルバム「ワールドスタンダード珠玉の第一集」がリリース、晴れてデビューを飾ることになるわけです。テクノベースのエレクトリックなサウンドながら、後年のラウンジミュージックを先取りするかのようなオーガニックな質感でオリジナリティを存分に発揮していたこのインストゥルメンタルアルバムの後、翌86年にはエスペラント語のボーカルをフィーチャーした実験的楽曲集であるミニアルバム「DOUBLE HAPPINESS」をリリースするものの、ここでグループは鈴木、三上、大内のトリオユニットとなってしまいます。そこに新ボーカリスト信太美奈を迎えて4人組として再スタートを切って同年リリースされた3rdアルバムが本作というわけです。
さて、本作で再始動となったワールドスタンダードは方向性に関して大きく舵を切ることになります。それは日本語POPSへのチャレンジです。これまで無国籍感覚を前面に押し出したマニアックな音楽性に傾倒していた彼らでしたが、本作では非常にポップなメロディと歌を重視した作風に転換し、日本語による真っ当なPOPSのフィールドで勝負する確固たる意志を感じる作品となっています。1stアルバムから本作までの彼らは鈴木惣一郎と三上昌晴のダブルコンポーザースタイルで楽曲制作されていましたが、単純な比較ではありますが、無国籍風味を醸し出すアコースティックなアプローチと洋楽POPS的なメロディを鈴木が担当し、エレクトリックかつテクノなサウンドメイクとニューウェーブなポップフレーズを三上が担当していたような印象で、特に三上楽曲の充実ぶりはここに極まれりといった感覚を得ることができます。鈴木の見事なコンセプトワークによる作品構築術はその後の彼のさまざまな活動を追いかけていくにつれて認識することができますが、本作では特にサウンド面、テクノロジー面においての三上の貢献度が高く、鈴木も大変心強かったのではないかと推測されます。リードチューンと言ってもよいPizzicato Five小西康陽作詞の「太陽は教えてくれない」、YMO(坂本龍一)風のテクノポッパー「ミラージュ」、そしてラストナンバー「ピアニストの憂鬱」と名曲を連発する三上に対して、鈴木は豊富過ぎる音楽的知識をしっかり歌モノPOPSに昇華すべくその手腕を発揮しており、日本語POPSへチャレンジした本作としてはある種の目的は達したのではないかと思われます。
しかし、本作の手応えをもとに歌モノ路線を継続しようとしたワールドスタンダードですが、優れた楽曲を提供し続けた三上昌晴がグループを離れることになると、思い切ってグループ名を変更、エブリシングプレイとして生まれ変わった彼らは、本作でもストリングス編曲を手がけるなど積極的に参加していた藤原真人を加えて88年にアルバム「ルール・モナムール」をリリースし再び活動していくことになるのです(なお、ワールドスタンダードは90年代後半に細野晴臣主宰のデイジーワールドに移籍して復活して現在に至ります)。
<Favorite Songs>
・「ミラージュ」
本作の中でも最もエレクトリックな匂いのするエレガントな中期YMO風テクノポップチューン。最もノンスタリスナーにはストライクだったかもしれません。ノイジーにエフェクトされたリズムに洗練されたパッド、その清涼感とポップセンスに三上昌晴の才能を感じざるを得ません。
・「デスァ・フィナードNo.6」
ブラスセクションも華やかなダンサブルチューン。ミニマルなキーボードのフレーズとハンドクラップの定期的な入り方がニューウェーブな匂いを残していますが、ブラスアレンジのおかげで楽曲のパワーが生まれています。テクノな効果と生演奏のアプローチが最も絶妙に絡み合った良曲です。
・「ピアニストの憂鬱」
リズムマシンのジャストなプログラミングが血湧き肉躍る無国籍デジタル歌謡。多層的なミニマルシーケンスの絡み合いが絶妙です。音響的なピアノが入ってくる間奏も面白いのですが、牧歌的なボーカルにより癒しと不穏の狭間を味わえるのも興味深い名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (生楽器とエレクトロニクスの融合の優れた回答の1つ)
・メロディ ★★ (限りなくポップに寄りながらもスノッブには寄らない)
・リズム ★★★ (アナログな楽曲であってもデジタルさを感じさせる)
・曲構成 ★★★ (マニアックにもポップにも寄り過ぎない絶妙なバランス)
・個性 ★★ (歌モノでもクオリティの高さを主張できる実力を披露)
総合評点: 8点
「fascination」 岡本舞子
「fascination」(1986 ビクター)
岡本舞子:vocal

1.「L.A. LOVER」 詞:松井五郎 曲:久保田利伸・羽田一郎 編:山川恵津子
2.「ファッシネイション」 詞:松井五郎 曲・編:山川恵津子
3.「蒼いサマータイム」 詞:松井五郎 曲・編:山川恵津子
4.「ストレンジャーの夜」 詞:松井五郎 曲・編:山川恵津子
5.「バラと拳銃」 詞:松井五郎 曲・編:山川恵津子
6.「憶病なヴィーナス」 詞・曲:尾崎亜美 編:今剛
7.「ナツオの恋人ナツコ」 詞:FUMIKO 曲:和泉常寛 編:山川恵津子
8.「無防備なあいつ」 詞・曲:尾崎亜美 編:今剛
9.「100What?! Girl」 詞:夏目純 曲:尾崎亜美 編:今剛
10.「11月のソフィア」 詞:秋元康 曲:鈴木キサブロー 編:山川恵津子
11.「夜のアリア -Starlight Dreaming-」 詞:夏目純 曲:尾崎亜美 編:今剛
● 2枚目にしてプログラミング度が高くなり類い稀なヴォーカル力と共にアーバンPOPSとしての質の高さを見せつける好盤
1984年にシングル「見知らぬ国のトリッパー」で歌手デビューを果たした岡本舞子は、その類稀な歌唱力を生かした実力派アイドルシンガーとして、1985年には「愛って林檎ですか」「ファンレター」とキャッチーな楽曲を次々とリリース、アレンジャーに山川恵津子を迎えた1stアルバム「ハートの扉」は、収録曲全てがエレガントな美メロ歌謡としてのクオリティの高さを見せつけ、同年の新人賞戦線でも数々の賞を受賞し、その活躍ぶりは今後の成長を期待させるものでした。しかしそのクオリティに反して熾烈を極めるアイドル歌謡戦線の中でオリコンランキングは低迷を続ける運のなさが気になるところ。そこで、翌86年の第1弾リリース「憶病なヴィーナス」では心機一転、尾崎亜美楽曲に80年代POPSにおいてどのような場面でも必ず耳にすることのできるスタジオミュージシャンの至宝、ギタリストの今剛をまさかのアレンジャーに迎えるなど、目先を変えて勝負に出ますが効果は出ず、先行シングル「ナツオの恋人ナツコ」(タイトルが80年代らしく狙い過ぎ)リリース後に、本当の勝負作として2ndアルバムの本作がリリースされることになります。
さて、真夏のリリース時期ということもあり、弱冠16歳にしては少々背伸びしたリゾートミュージックにチャレンジしている本作には、オープニングからデビュー直前の久保田利伸と彼のバックバンドMOTHER EARTHの羽田一郎の共作曲のムーディーなアーバンポップ「L.A. LOVER」を起用、続くタイトルチューン「ファッシネイション」やRAH BAND風な「ストレンジャーの夜」ではプログラミングを多用したダンサブルなエレクトロポップにチャレンジ、引き続きサウンド面で中心的な役割を担う山川恵津子の辣腕ぶりが際立っています。しかし後半(B面)に移ると尾崎亜美&今剛楽曲が多くを占めるようになり、カラーが少し違ってまいります。先行シングル「ナツオの恋人ナツコ」は山川アレンジのシンセベースが効いた硬派なアレンジが効いていますが、和泉常寛のベタベタな歌謡メロディとの相性が悪く、少々浮いたポジションになっているのが気になります。シーケンスの導入によってサウンド面での向上は著しいものの、アレンジャーを山川で統一できなかったことと、試行錯誤が楽曲構成に現れてしまっているため、楽曲としてのクオリティに差が出てしまった部分が残念ではあります。それでも安心して楽曲を楽しむことができるのは、実力派シンガー顔負けの岡本の歌唱力のおかげでしょう。それでもCDのみ収録の「夜のアリア -Starlight Dreaming-」は今剛アレンジらしからぬコズミックバラードに仕上がっていますので、一定のクオリティは保つことができています。だからこそ、もう少し伸びる余地のある作品であったことが残念でなりません。結局岡本は、翌年シングル「さよならペガサス」のリリースを最後に芸能界を突然引退してしまいます。
なお、岡本舞子関連の作品で申し上げたいことがあります。レコーディングに携わったスタッフクレジットを一切排除しているのは、当時のビクターの方針ということですが、これは失敗と言えるでしょう。参加ミュージシャンを省略するのはこの時代の作品にはよくあることですが、プロデューサーからエンジニアまでクレジットされないのはよほど作品として軽視されているとしか思えません。「裏方の名前を出すな」というこうしたレコード会社の姿勢が岡本舞子の素晴らしい作品が世間一般に受け入れられなかった要因の一つと言えるのではないかと思います。その意味では岡本舞子というアイドルシンガーは不運であったと思うしかありません。
<Favorite Songs>
・「ファッシネイション」
エフェクティブなベースラインとゲートリバーブなスネアでパワーアップしたサウンドを見せつけるタイトルチューン。キレのあるシンセブラスとエレガントなエレピが絡み合う上品なフレーズが多用されており、可愛らしさを超越し大人の階段を登るイメージが顕著になった佳曲です。
・「ストレンジャーの夜」
RAH BAND歌謡と後年呼ばれることになる「ファッシネイション」をさらに押し進めた感のあるオシャレなコード進行によるエレポップチューン。定期的に刻むクールなシーケンスとコーラスワークで温かみを加える手法はまさにRAH BANDそのものですが、主役は16歳の少女であることを忘れてはいけません。
・「バラと拳銃」
全体的に包み込むようなリバーブのバランスが心地良いポップナンバー。カッティングギターにかけられるロングリバーブ、これだけでもずっと聴いていられるほどのフィット感で、アイドル歌謡にしては珍しいカッティングだけの間奏の長さも肯けます。仕掛けも非常に多いトリッキーなアレンジですが、安心して聴くことができるのは岡本の歌唱力がなせる業でしょうか。
<評点>
・サウンド ★★ (流石の山川チームだが尾崎チームとの味が違い過ぎる)
・メロディ ★ (作曲陣の顔触れからすればもう少しやれた感も)
・リズム ★★ (プログラミング多用で新境地を開拓)
・曲構成 ★ (全体を山川アレンジで統一すべきであった)
・個性 ★ (スタッフの試行錯誤を岡本の歌唱力でまとめている)
総合評点: 6点
岡本舞子:vocal

1.「L.A. LOVER」 詞:松井五郎 曲:久保田利伸・羽田一郎 編:山川恵津子
2.「ファッシネイション」 詞:松井五郎 曲・編:山川恵津子
3.「蒼いサマータイム」 詞:松井五郎 曲・編:山川恵津子
4.「ストレンジャーの夜」 詞:松井五郎 曲・編:山川恵津子
5.「バラと拳銃」 詞:松井五郎 曲・編:山川恵津子
6.「憶病なヴィーナス」 詞・曲:尾崎亜美 編:今剛
7.「ナツオの恋人ナツコ」 詞:FUMIKO 曲:和泉常寛 編:山川恵津子
8.「無防備なあいつ」 詞・曲:尾崎亜美 編:今剛
9.「100What?! Girl」 詞:夏目純 曲:尾崎亜美 編:今剛
10.「11月のソフィア」 詞:秋元康 曲:鈴木キサブロー 編:山川恵津子
11.「夜のアリア -Starlight Dreaming-」 詞:夏目純 曲:尾崎亜美 編:今剛
● 2枚目にしてプログラミング度が高くなり類い稀なヴォーカル力と共にアーバンPOPSとしての質の高さを見せつける好盤
1984年にシングル「見知らぬ国のトリッパー」で歌手デビューを果たした岡本舞子は、その類稀な歌唱力を生かした実力派アイドルシンガーとして、1985年には「愛って林檎ですか」「ファンレター」とキャッチーな楽曲を次々とリリース、アレンジャーに山川恵津子を迎えた1stアルバム「ハートの扉」は、収録曲全てがエレガントな美メロ歌謡としてのクオリティの高さを見せつけ、同年の新人賞戦線でも数々の賞を受賞し、その活躍ぶりは今後の成長を期待させるものでした。しかしそのクオリティに反して熾烈を極めるアイドル歌謡戦線の中でオリコンランキングは低迷を続ける運のなさが気になるところ。そこで、翌86年の第1弾リリース「憶病なヴィーナス」では心機一転、尾崎亜美楽曲に80年代POPSにおいてどのような場面でも必ず耳にすることのできるスタジオミュージシャンの至宝、ギタリストの今剛をまさかのアレンジャーに迎えるなど、目先を変えて勝負に出ますが効果は出ず、先行シングル「ナツオの恋人ナツコ」(タイトルが80年代らしく狙い過ぎ)リリース後に、本当の勝負作として2ndアルバムの本作がリリースされることになります。
さて、真夏のリリース時期ということもあり、弱冠16歳にしては少々背伸びしたリゾートミュージックにチャレンジしている本作には、オープニングからデビュー直前の久保田利伸と彼のバックバンドMOTHER EARTHの羽田一郎の共作曲のムーディーなアーバンポップ「L.A. LOVER」を起用、続くタイトルチューン「ファッシネイション」やRAH BAND風な「ストレンジャーの夜」ではプログラミングを多用したダンサブルなエレクトロポップにチャレンジ、引き続きサウンド面で中心的な役割を担う山川恵津子の辣腕ぶりが際立っています。しかし後半(B面)に移ると尾崎亜美&今剛楽曲が多くを占めるようになり、カラーが少し違ってまいります。先行シングル「ナツオの恋人ナツコ」は山川アレンジのシンセベースが効いた硬派なアレンジが効いていますが、和泉常寛のベタベタな歌謡メロディとの相性が悪く、少々浮いたポジションになっているのが気になります。シーケンスの導入によってサウンド面での向上は著しいものの、アレンジャーを山川で統一できなかったことと、試行錯誤が楽曲構成に現れてしまっているため、楽曲としてのクオリティに差が出てしまった部分が残念ではあります。それでも安心して楽曲を楽しむことができるのは、実力派シンガー顔負けの岡本の歌唱力のおかげでしょう。それでもCDのみ収録の「夜のアリア -Starlight Dreaming-」は今剛アレンジらしからぬコズミックバラードに仕上がっていますので、一定のクオリティは保つことができています。だからこそ、もう少し伸びる余地のある作品であったことが残念でなりません。結局岡本は、翌年シングル「さよならペガサス」のリリースを最後に芸能界を突然引退してしまいます。
なお、岡本舞子関連の作品で申し上げたいことがあります。レコーディングに携わったスタッフクレジットを一切排除しているのは、当時のビクターの方針ということですが、これは失敗と言えるでしょう。参加ミュージシャンを省略するのはこの時代の作品にはよくあることですが、プロデューサーからエンジニアまでクレジットされないのはよほど作品として軽視されているとしか思えません。「裏方の名前を出すな」というこうしたレコード会社の姿勢が岡本舞子の素晴らしい作品が世間一般に受け入れられなかった要因の一つと言えるのではないかと思います。その意味では岡本舞子というアイドルシンガーは不運であったと思うしかありません。
<Favorite Songs>
・「ファッシネイション」
エフェクティブなベースラインとゲートリバーブなスネアでパワーアップしたサウンドを見せつけるタイトルチューン。キレのあるシンセブラスとエレガントなエレピが絡み合う上品なフレーズが多用されており、可愛らしさを超越し大人の階段を登るイメージが顕著になった佳曲です。
・「ストレンジャーの夜」
RAH BAND歌謡と後年呼ばれることになる「ファッシネイション」をさらに押し進めた感のあるオシャレなコード進行によるエレポップチューン。定期的に刻むクールなシーケンスとコーラスワークで温かみを加える手法はまさにRAH BANDそのものですが、主役は16歳の少女であることを忘れてはいけません。
・「バラと拳銃」
全体的に包み込むようなリバーブのバランスが心地良いポップナンバー。カッティングギターにかけられるロングリバーブ、これだけでもずっと聴いていられるほどのフィット感で、アイドル歌謡にしては珍しいカッティングだけの間奏の長さも肯けます。仕掛けも非常に多いトリッキーなアレンジですが、安心して聴くことができるのは岡本の歌唱力がなせる業でしょうか。
<評点>
・サウンド ★★ (流石の山川チームだが尾崎チームとの味が違い過ぎる)
・メロディ ★ (作曲陣の顔触れからすればもう少しやれた感も)
・リズム ★★ (プログラミング多用で新境地を開拓)
・曲構成 ★ (全体を山川アレンジで統一すべきであった)
・個性 ★ (スタッフの試行錯誤を岡本の歌唱力でまとめている)
総合評点: 6点
「砂金」 関口和之
「砂金」 (1986 ビクター)
関口和之:vocal・bass

1.「絵の中のクレーア」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・米光亮 コーラス編曲:EPO
2.「LE MARCHÉ(マルシェ)」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮 コーラス編曲:EPO
3.「砂金」 詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・サントリー坂本・米光亮
4.「フトンへようこそ」
詞:柄沢卓也・関口和之 曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮
管編曲:矢口博康
5.「エスケイプ」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・サントリー坂本・米光亮
6.「アンクル・ピーターの羽」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮 管編曲:新田一郎
7.「付録:人気なんかラララ (We’re the 二次会)」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・米光亮
<support musician>
EPO:vocal・chorus
江口寿史:vocal
桂文珍:vocal
小林じんこ:vocal
さくまあきら:vocal
高見恭子:vocal
時任三郎:vocal
富田靖子:vocal
中島文明:vocal
新田一郎:vocal
原秀則:vocal
三宅裕司:vocal
吉田聡:vocal
吉田まゆみ:vocal
吉田美智子:vocal
若林マリ子:vocal
今道友隆(いまみちともたか):guitar
イリア:guitar
大森隆志:guitar
北島健二:guitar
米光亮:guitar・machine operate
松田弘:drums・voice
サントリー坂本(坂本洋):keyboards・chorus
ホッピー神山:keyboards・vocal
野沢秀行:percussion
金山徹:sax
黒石正博:sax
矢口博康:sax
中西俊博グループ:strings:sax
プリンス玉堤:dog sample
明石家さんま:voice
嘉門達夫:voice
サンプラザ中野:voice・chorus
所ジョージ:voice
松宮一彦:voice
伊藤理恵子:chorus
入船陽介:chorus
大池茂之:chorus
太田靖彦:chorus
岡本尚子:chorus
久保美夏:chorus
久保田康:chorus
久保田洋司:chorus
小島淳:chorus
小林良子:chorus
笹沢一宏:chorus
佐藤おりえ:chorus
三本木恵子:chorus
清水伸吾:chorus
関口なおこ:chorus
高垣健:chorus
友広信夫:chorus
永野治:chorus
福本二郎:chorus
藤田義和:chorus
松浦正雄:chorus
松野玲:chorus
丸山がんこ:chorus
山科功:chorus
吉原雅彦:chorus
produced by 関口和之
co-produced by 新田一郎・高垣健
engineered by 吉田俊之・池村雅彦・宮本茂男
● 人脈の広さを生かした多彩なゲスト陣に恵まれた大御所バンドのベーシストがチャレンジしたニューウェーブ風味満点のソロアルバム
日本を代表する大御所長寿バンド、サザンオールスターズのベーシストである関口和之は、ベースプレイヤーのみならず、ウクレレ奏者としても活躍、さらにはエッセイシストや漫画家などの顔を持つ多彩なマルチクリエイターです。しかしながら当然彼の本業は音楽ということで、既にスターダムを駆け上っていたサザンの80年代中盤、名盤「KAMAKURA」リリース後の原由子産休による活動休止期間中の1986年を利用して、他のメンバーが各々ソロ活動を開始すると(桑田佳祐と松田弘はKUWATA BAND、大森隆志はTABO'S PROJECT、野沢秀行はJapanese Electric Foundation)、関口も同様にソロ作品を制作することになります。このように説明すると他のメンバーもソロプロジェクトに勤しんでいるからオレもやる、みたいな消極的な動機にも受け取られかねませんが、このソロアルバムは、彼の人柄が偲ばれるほどの音楽関係のみならず多彩な業種からの幅広い人脈による総勢74名のゲスト陣が参加する、大所帯なパーティーアルバムといった印象の作品となりました。
しかしそのパーティー気分は実はラストの「付録:人気なんかラララ (We’re the 二次会)」の入れ替わり立ち替わり歌やセリフで登場する豪華ゲストの印象は強いからこそのものであり、本作の楽曲面の本質は当時の空気も反映して相当エレクトリック寄りのサウンドが施されています。作詞と作曲は関口本人が手がけていますが、編曲をサポートするのは当時は超絶技巧バンドPINKのメンバーであり大沢誉志幸のプロデュースでも切れ味鋭いセンスを発揮していたホッピー神山と、80年代後半から徐々に頭角を表してくる若きシンセポップ系アレンジャー米光亮、そしてラッツ&スターにもサポートとしての在籍経験があるスタジオミュージシャン、サントリー坂本こと坂本洋です。この3人がサウンド面での軸となるわけですので、生まれてくる音は当然一筋縄ではいかないテクノ風味です。特に86年というスネアドラムの加工にこぞって凝りまくられた時期ですので、ビシバシ決まるスネアのローファイ感が楽しめます。関口楽曲の楽天的かつ無国籍な感覚を崩さず、それでいて攻撃的なリズムでマシナリー感を打ち出したサウンドを下支えしているのはマニピュレートも手がけた米光亮の貢献度は非常に高いと思われます。全体的にアヴァンギャルド歌謡な楽曲が続く中でも「エスケイプ」のような清涼感漂うミディアムポップチューンも収録されていますし、少ない曲数の中でもバラエティに富んだ楽曲を取り揃えた好作品と言えると思いますが、何と言っても有名人無駄遣いなラストソングのバブリー感がものすごい勢いで襲ってくるので、どうしても「パーティーアルバム」という言葉に立ち返ってしまうのが誤解を招いてしまうところです。
このようにサザンオールスターズの面々がこぞってソロ活動を繰り広げた1986年は、それぞれが異なるアプローチで自身の音楽性を競った興味深い年と言えるわけですが、関口和之の本作はその中でも「日本ポップス史上に燦然と輝く金字塔(CDの帯参照)」とは言わないまでも、微かな爪痕は残した作品として記憶しておきたいと思います。
<Favorite Songs>
・「絵の中のクレーア」
86年特有のローファイPCMドラムマシンサウンドが麗しいオープニングナンバー。自由奔放なシンセフレーズはホッピー神山色が強いです。特に上昇していくようなヒキツリ系のシンセフレーズのインパクトは強烈。4拍目のハンドクラップも良い味を出しています。コーラスはEPO。
・「砂金」
PINK「光の子」のサンプルボイスをピッチを落として流用したかのような幻想的なイントロにニヤリとさせられるタイトルチューン。関口と若林マリ子(ex.マリコ with Cute)のデュエット曲ですが、中近東の匂いすら感じさせる無国籍感が印象的なミディアムチューンに仕上がっています。
・「アンクル・ピーターの羽」
どこかしらMOON RIDERSを彷彿とさせるニューウェーブ感が興味深いロックナンバー。ストリングスとコーラスの絡み方やヴォーカルスタイルを聴くにつけ、同時代のRIDERSサウンドのパロディではないかと思うほどの相似感覚を思い起こさせずにはいられません。
<評点>
・サウンド ★★ (随所でニューウェーブなシンセの使い方を堪能)
・メロディ ★ (印象には残りにくいものの「エスケイプ」は美メロ)
・リズム ★★★ (さすがは86年のバッキバキのローファイPCM音色)
・曲構成 ★ (ラストはもっと大げさでも良いが彼の人柄が滲み出る)
・個性 ★ (音楽面ではつかみどころはないが人脈の広さに圧倒)
総合評点: 6点
関口和之:vocal・bass

1.「絵の中のクレーア」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・米光亮 コーラス編曲:EPO
2.「LE MARCHÉ(マルシェ)」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮 コーラス編曲:EPO
3.「砂金」 詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・サントリー坂本・米光亮
4.「フトンへようこそ」
詞:柄沢卓也・関口和之 曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮
管編曲:矢口博康
5.「エスケイプ」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・サントリー坂本・米光亮
6.「アンクル・ピーターの羽」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮 管編曲:新田一郎
7.「付録:人気なんかラララ (We’re the 二次会)」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・米光亮
<support musician>
EPO:vocal・chorus
江口寿史:vocal
桂文珍:vocal
小林じんこ:vocal
さくまあきら:vocal
高見恭子:vocal
時任三郎:vocal
富田靖子:vocal
中島文明:vocal
新田一郎:vocal
原秀則:vocal
三宅裕司:vocal
吉田聡:vocal
吉田まゆみ:vocal
吉田美智子:vocal
若林マリ子:vocal
今道友隆(いまみちともたか):guitar
イリア:guitar
大森隆志:guitar
北島健二:guitar
米光亮:guitar・machine operate
松田弘:drums・voice
サントリー坂本(坂本洋):keyboards・chorus
ホッピー神山:keyboards・vocal
野沢秀行:percussion
金山徹:sax
黒石正博:sax
矢口博康:sax
中西俊博グループ:strings:sax
プリンス玉堤:dog sample
明石家さんま:voice
嘉門達夫:voice
サンプラザ中野:voice・chorus
所ジョージ:voice
松宮一彦:voice
伊藤理恵子:chorus
入船陽介:chorus
大池茂之:chorus
太田靖彦:chorus
岡本尚子:chorus
久保美夏:chorus
久保田康:chorus
久保田洋司:chorus
小島淳:chorus
小林良子:chorus
笹沢一宏:chorus
佐藤おりえ:chorus
三本木恵子:chorus
清水伸吾:chorus
関口なおこ:chorus
高垣健:chorus
友広信夫:chorus
永野治:chorus
福本二郎:chorus
藤田義和:chorus
松浦正雄:chorus
松野玲:chorus
丸山がんこ:chorus
山科功:chorus
吉原雅彦:chorus
produced by 関口和之
co-produced by 新田一郎・高垣健
engineered by 吉田俊之・池村雅彦・宮本茂男
● 人脈の広さを生かした多彩なゲスト陣に恵まれた大御所バンドのベーシストがチャレンジしたニューウェーブ風味満点のソロアルバム
日本を代表する大御所長寿バンド、サザンオールスターズのベーシストである関口和之は、ベースプレイヤーのみならず、ウクレレ奏者としても活躍、さらにはエッセイシストや漫画家などの顔を持つ多彩なマルチクリエイターです。しかしながら当然彼の本業は音楽ということで、既にスターダムを駆け上っていたサザンの80年代中盤、名盤「KAMAKURA」リリース後の原由子産休による活動休止期間中の1986年を利用して、他のメンバーが各々ソロ活動を開始すると(桑田佳祐と松田弘はKUWATA BAND、大森隆志はTABO'S PROJECT、野沢秀行はJapanese Electric Foundation)、関口も同様にソロ作品を制作することになります。このように説明すると他のメンバーもソロプロジェクトに勤しんでいるからオレもやる、みたいな消極的な動機にも受け取られかねませんが、このソロアルバムは、彼の人柄が偲ばれるほどの音楽関係のみならず多彩な業種からの幅広い人脈による総勢74名のゲスト陣が参加する、大所帯なパーティーアルバムといった印象の作品となりました。
しかしそのパーティー気分は実はラストの「付録:人気なんかラララ (We’re the 二次会)」の入れ替わり立ち替わり歌やセリフで登場する豪華ゲストの印象は強いからこそのものであり、本作の楽曲面の本質は当時の空気も反映して相当エレクトリック寄りのサウンドが施されています。作詞と作曲は関口本人が手がけていますが、編曲をサポートするのは当時は超絶技巧バンドPINKのメンバーであり大沢誉志幸のプロデュースでも切れ味鋭いセンスを発揮していたホッピー神山と、80年代後半から徐々に頭角を表してくる若きシンセポップ系アレンジャー米光亮、そしてラッツ&スターにもサポートとしての在籍経験があるスタジオミュージシャン、サントリー坂本こと坂本洋です。この3人がサウンド面での軸となるわけですので、生まれてくる音は当然一筋縄ではいかないテクノ風味です。特に86年というスネアドラムの加工にこぞって凝りまくられた時期ですので、ビシバシ決まるスネアのローファイ感が楽しめます。関口楽曲の楽天的かつ無国籍な感覚を崩さず、それでいて攻撃的なリズムでマシナリー感を打ち出したサウンドを下支えしているのはマニピュレートも手がけた米光亮の貢献度は非常に高いと思われます。全体的にアヴァンギャルド歌謡な楽曲が続く中でも「エスケイプ」のような清涼感漂うミディアムポップチューンも収録されていますし、少ない曲数の中でもバラエティに富んだ楽曲を取り揃えた好作品と言えると思いますが、何と言っても有名人無駄遣いなラストソングのバブリー感がものすごい勢いで襲ってくるので、どうしても「パーティーアルバム」という言葉に立ち返ってしまうのが誤解を招いてしまうところです。
このようにサザンオールスターズの面々がこぞってソロ活動を繰り広げた1986年は、それぞれが異なるアプローチで自身の音楽性を競った興味深い年と言えるわけですが、関口和之の本作はその中でも「日本ポップス史上に燦然と輝く金字塔(CDの帯参照)」とは言わないまでも、微かな爪痕は残した作品として記憶しておきたいと思います。
<Favorite Songs>
・「絵の中のクレーア」
86年特有のローファイPCMドラムマシンサウンドが麗しいオープニングナンバー。自由奔放なシンセフレーズはホッピー神山色が強いです。特に上昇していくようなヒキツリ系のシンセフレーズのインパクトは強烈。4拍目のハンドクラップも良い味を出しています。コーラスはEPO。
・「砂金」
PINK「光の子」のサンプルボイスをピッチを落として流用したかのような幻想的なイントロにニヤリとさせられるタイトルチューン。関口と若林マリ子(ex.マリコ with Cute)のデュエット曲ですが、中近東の匂いすら感じさせる無国籍感が印象的なミディアムチューンに仕上がっています。
・「アンクル・ピーターの羽」
どこかしらMOON RIDERSを彷彿とさせるニューウェーブ感が興味深いロックナンバー。ストリングスとコーラスの絡み方やヴォーカルスタイルを聴くにつけ、同時代のRIDERSサウンドのパロディではないかと思うほどの相似感覚を思い起こさせずにはいられません。
<評点>
・サウンド ★★ (随所でニューウェーブなシンセの使い方を堪能)
・メロディ ★ (印象には残りにくいものの「エスケイプ」は美メロ)
・リズム ★★★ (さすがは86年のバッキバキのローファイPCM音色)
・曲構成 ★ (ラストはもっと大げさでも良いが彼の人柄が滲み出る)
・個性 ★ (音楽面ではつかみどころはないが人脈の広さに圧倒)
総合評点: 6点
「SUMMER BREEZE」 中山美穂
「SUMMER BREEZE」(1986 キング)
中山美穂:vocal

1.「Tropic Mystery」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:入江純
2.「クローズ・アップ」 詞:松本隆 曲:財津和夫 編:大村雅朗
3.「Leave Me Alone」 詞・曲・編:角松敏生
4.「ひと夏のアクトレス」 詞:芹沢類 曲:来生たかお 編:入江純
5.「Ocean In The Rain」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:大村雅朗
6.「サインはハング・ルーズ」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:入江純
7.「Rising Love」 詞・曲・編:角松敏生
8.「わがまま」 詞:細田博子 曲:来生たかお 編:入江純
9.「瞳のかげり」 詞:松本隆 曲:財津和夫 編:矢野立美
10.「You’re My Only Shinin’ Star」 詞・曲・編:角松敏生 弦編:大谷和夫 管編:数原晋
produced by 樋口紀男
engineered by 吉江一郎
associate engineered by 内沼映二
● 角松敏生が初めて関わり芯の入ったデジタルリゾートPOPSで楽曲派アイドルとしての道を歩み始めた転換作
85年の思春期バイブル的ドラマ「毎度おさわがせします」のヒロインに抜擢される形で芸能活動を開始した中山美穂は、同年1stシングル「C」で歌手デビュー、順調に期待されながらスター街道を歩み始めます。同年12月には映画「ビーバップ・ハイスクール」のヒロイン役でさらにブレイクするとともに、自身が歌う同名タイトルの主題歌もスマッシュヒット、その勢いは86年になっても続いていくことが約束された状態となりました。そんな多忙ながらも成長著しい85年にあってシングル3枚、アルバム2枚のハイペースで歌手活動をこなしてきた彼女ですが、与えられた楽曲はいかにもアイドル王道の歌謡曲の枠を出ないものでした。しかし86年からは様相が変化してまいります。竹内まりや楽曲に清水信之アレンジの4thシングル「色・ホワイトブレンド」のリリースを皮切りに、同年夏には財津和夫楽曲の「クローズ・アップ」を先行シングルに勢いのままに3rdアルバムがリリースされます。今回はこの3rdアルバムのレビューとなりますが、本作は彼女にとってその後の芸能活動に成功へと導くきっかけとなった転換期として非常に重要な位置付けとなる作品と言えるでしょう。
タイトルからしてリゾートPOPSへの期待感を煽られる本作ですが、そのあたりのイメージは1stアルバムから参加している杏里等で活躍していたアレンジャー、入江純の色が濃く出ている部分まではこれまでの路線を踏襲しているところです(入江アレンジも相当攻めていることは忘れてはなりませんが)。しかし何と言っても本作の特徴は角松敏生の参加でしょう。「Gold Degger」〜「Touch And Go」期の当時最高潮の勢いの中にあった角松のゴリゴリのエレクトリックサウンドと、とにかく出たがりであわよくば主役を乗っ取ろうとする角松のキャラクターが相まって、彼が参加した楽曲は3曲とも存在感が半端なく、異色かつ珠玉の出来と言っても過言ではありません。アイドル楽曲だからと言って全く手を抜く気配のない角松はエンジニアも自身の信頼するCAMU SPIRITSの相棒・内沼映二を連れてきてミックスを担当させることにより角松ソロのような極太リズムで楽曲を強化、サウンドには全く妥協を許さない偏執的な音キチぶりを発揮しています。特に「Rising Love」の狂気ぶりには思わず呆れるどころか笑ってしまいますが、その反面「You're My Only Shinin' Star」という名バラードを生み出すなどキッチリ仕事をこなしている部分も当然見逃せません。結果としてアルバム全体としてはバランスを欠くデメリットはあったものの、中山美穂という音楽的パッケージを進化させるための媒介としては十二分に機能していると言えるでしょう。角松サウンドのその異物感は実は結構大村雅朗が攻めたアレンジを施している「クローズ・アップ」が浮くどころかサウンド面では大人しく聴こえるほどですが、当時はまだ女優業の方に存在感を発揮していた彼女の音楽的方向性を決定づける鍵となった功績は想像以上に大きいと思われます。
その後の彼女の歌手活動としての活躍ぶりは皆さんご存知の通りで、シングル曲ではヒットを連発、アルバムではコンセプトワークに優れた「エキゾティック」、鷺巣詩郎の狂気なアレンジを楽しめる傑作「ONE AND ONLY」を経て、88年には遂に角松敏生を全面プロデュースに迎えた「CATCH THE NITE」で音楽的本懐を遂げることになります。
<Favorite Songs>
・「Leave Me Alone」
イントロのゲートリバーブタムとゴリゴリベースから一気に引き込まれる角松印のサマーチューン。極太なボトムのリズム隊がとにかく全く異空間に意識を飛ばしてしまいますが、非常にコーラスワークが秀逸です。サビ前からはとにかく出たがりで目立ちまくる角松本人のコーラスも堪能できます。とはいうもののBメロからサビへと展開するコードワークの美しさはやはり特筆すべきものがある名曲です。ラストは完全に角松が乗っ取ってしまいますが・・・。
・「サインはハング・ルーズ」
角松に負けずとサウンド面で冒険的なアプローチを見せる入江純アレンジのラテンフレーバーな楽曲。次作「エキゾティック」の予告編のような曲調ですが、イントロ&アウトロやAメロに入る前の不穏なリズム&シーケンスのきめ細かいプログラミングは恐らく松武秀樹仕事であると思われますが、さすがの職人芸です。
・「Rising Love」
コシのあるシンセベースが魅力などこを切り取っても角松印の稀代のオーバープロデュース楽曲。「Girl in the Box」を彷彿とさせるコードワークに添いながらシンセベースとエレドラが暴れ回ります。しかし最も暴れまわっているのは角松自身。楽曲前半では合いの手で抑え気味にしていますが、「Take off Melody」気味なシンセソロからの怒涛の後半では、やっぱり完全に主役を乗っ取って前後左右角松コーラスだらけにしてしまう狂気の楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (角松サウンドにつられて他の編曲陣も攻めまくる)
・メロディ ★★ (楽曲によって質の差が現れるが角松の異物感のせい)
・リズム ★★★ (やはり角松楽曲のボトムの太さは尋常ではない)
・曲構成 ★ (角松の気合いの入れ過ぎによりバランスを欠く)
・個性 ★★ (中山美穂の音楽的方針を一変させた転換期の重要作品)
総合評点: 7点
中山美穂:vocal

1.「Tropic Mystery」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:入江純
2.「クローズ・アップ」 詞:松本隆 曲:財津和夫 編:大村雅朗
3.「Leave Me Alone」 詞・曲・編:角松敏生
4.「ひと夏のアクトレス」 詞:芹沢類 曲:来生たかお 編:入江純
5.「Ocean In The Rain」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:大村雅朗
6.「サインはハング・ルーズ」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:入江純
7.「Rising Love」 詞・曲・編:角松敏生
8.「わがまま」 詞:細田博子 曲:来生たかお 編:入江純
9.「瞳のかげり」 詞:松本隆 曲:財津和夫 編:矢野立美
10.「You’re My Only Shinin’ Star」 詞・曲・編:角松敏生 弦編:大谷和夫 管編:数原晋
produced by 樋口紀男
engineered by 吉江一郎
associate engineered by 内沼映二
● 角松敏生が初めて関わり芯の入ったデジタルリゾートPOPSで楽曲派アイドルとしての道を歩み始めた転換作
85年の思春期バイブル的ドラマ「毎度おさわがせします」のヒロインに抜擢される形で芸能活動を開始した中山美穂は、同年1stシングル「C」で歌手デビュー、順調に期待されながらスター街道を歩み始めます。同年12月には映画「ビーバップ・ハイスクール」のヒロイン役でさらにブレイクするとともに、自身が歌う同名タイトルの主題歌もスマッシュヒット、その勢いは86年になっても続いていくことが約束された状態となりました。そんな多忙ながらも成長著しい85年にあってシングル3枚、アルバム2枚のハイペースで歌手活動をこなしてきた彼女ですが、与えられた楽曲はいかにもアイドル王道の歌謡曲の枠を出ないものでした。しかし86年からは様相が変化してまいります。竹内まりや楽曲に清水信之アレンジの4thシングル「色・ホワイトブレンド」のリリースを皮切りに、同年夏には財津和夫楽曲の「クローズ・アップ」を先行シングルに勢いのままに3rdアルバムがリリースされます。今回はこの3rdアルバムのレビューとなりますが、本作は彼女にとってその後の芸能活動に成功へと導くきっかけとなった転換期として非常に重要な位置付けとなる作品と言えるでしょう。
タイトルからしてリゾートPOPSへの期待感を煽られる本作ですが、そのあたりのイメージは1stアルバムから参加している杏里等で活躍していたアレンジャー、入江純の色が濃く出ている部分まではこれまでの路線を踏襲しているところです(入江アレンジも相当攻めていることは忘れてはなりませんが)。しかし何と言っても本作の特徴は角松敏生の参加でしょう。「Gold Degger」〜「Touch And Go」期の当時最高潮の勢いの中にあった角松のゴリゴリのエレクトリックサウンドと、とにかく出たがりであわよくば主役を乗っ取ろうとする角松のキャラクターが相まって、彼が参加した楽曲は3曲とも存在感が半端なく、異色かつ珠玉の出来と言っても過言ではありません。アイドル楽曲だからと言って全く手を抜く気配のない角松はエンジニアも自身の信頼するCAMU SPIRITSの相棒・内沼映二を連れてきてミックスを担当させることにより角松ソロのような極太リズムで楽曲を強化、サウンドには全く妥協を許さない偏執的な音キチぶりを発揮しています。特に「Rising Love」の狂気ぶりには思わず呆れるどころか笑ってしまいますが、その反面「You're My Only Shinin' Star」という名バラードを生み出すなどキッチリ仕事をこなしている部分も当然見逃せません。結果としてアルバム全体としてはバランスを欠くデメリットはあったものの、中山美穂という音楽的パッケージを進化させるための媒介としては十二分に機能していると言えるでしょう。角松サウンドのその異物感は実は結構大村雅朗が攻めたアレンジを施している「クローズ・アップ」が浮くどころかサウンド面では大人しく聴こえるほどですが、当時はまだ女優業の方に存在感を発揮していた彼女の音楽的方向性を決定づける鍵となった功績は想像以上に大きいと思われます。
その後の彼女の歌手活動としての活躍ぶりは皆さんご存知の通りで、シングル曲ではヒットを連発、アルバムではコンセプトワークに優れた「エキゾティック」、鷺巣詩郎の狂気なアレンジを楽しめる傑作「ONE AND ONLY」を経て、88年には遂に角松敏生を全面プロデュースに迎えた「CATCH THE NITE」で音楽的本懐を遂げることになります。
<Favorite Songs>
・「Leave Me Alone」
イントロのゲートリバーブタムとゴリゴリベースから一気に引き込まれる角松印のサマーチューン。極太なボトムのリズム隊がとにかく全く異空間に意識を飛ばしてしまいますが、非常にコーラスワークが秀逸です。サビ前からはとにかく出たがりで目立ちまくる角松本人のコーラスも堪能できます。とはいうもののBメロからサビへと展開するコードワークの美しさはやはり特筆すべきものがある名曲です。ラストは完全に角松が乗っ取ってしまいますが・・・。
・「サインはハング・ルーズ」
角松に負けずとサウンド面で冒険的なアプローチを見せる入江純アレンジのラテンフレーバーな楽曲。次作「エキゾティック」の予告編のような曲調ですが、イントロ&アウトロやAメロに入る前の不穏なリズム&シーケンスのきめ細かいプログラミングは恐らく松武秀樹仕事であると思われますが、さすがの職人芸です。
・「Rising Love」
コシのあるシンセベースが魅力などこを切り取っても角松印の稀代のオーバープロデュース楽曲。「Girl in the Box」を彷彿とさせるコードワークに添いながらシンセベースとエレドラが暴れ回ります。しかし最も暴れまわっているのは角松自身。楽曲前半では合いの手で抑え気味にしていますが、「Take off Melody」気味なシンセソロからの怒涛の後半では、やっぱり完全に主役を乗っ取って前後左右角松コーラスだらけにしてしまう狂気の楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (角松サウンドにつられて他の編曲陣も攻めまくる)
・メロディ ★★ (楽曲によって質の差が現れるが角松の異物感のせい)
・リズム ★★★ (やはり角松楽曲のボトムの太さは尋常ではない)
・曲構成 ★ (角松の気合いの入れ過ぎによりバランスを欠く)
・個性 ★★ (中山美穂の音楽的方針を一変させた転換期の重要作品)
総合評点: 7点
「WING」 芳本美代子
「WING」 (1986 テイチク)
芳本美代子:vocal

1.「KISS MOON」 詞:麻生圭子 曲:平井夏美 編:船山基紀
2.「True Love」 詞・曲:伊藤薫 編:船山基紀
3.「Secret」 詞・曲:伊藤薫 編:船山基紀
4.「夜明けのAway」 詞:麻生圭子 曲:平井夏美 編:船山基紀
5.「Auroraの少女」 詞:松本隆 曲:筒美京平 編:船山基紀
6.「ストライプのソックス」 詞:松本隆 曲:南佳孝 編:大村雅朗
7.「星のような雪の夜」 詞:麻生圭子 曲・編:大村雅朗
8.「青い靴」 詞:松本隆 曲:筒美京平 編:船山基紀
9.「ワイパーにはさんだI Love You」 詞:麻生圭子 曲:宮城伸一郎 編:大村雅朗
10.「Magic Garden」 詞:松本隆 曲:南佳孝 編:大村雅朗
<support musician>
土方隆行:electric guitar
松原正樹:electric guitar
芳野藤丸:electric guitar
吉川忠英:acoustic guitar
高水健司:electric bass
長岡道夫:electric bass
美久月千晴:electric bass
渡辺直樹:electric bass
岡本郭男:drums
菊地丈夫:drums
島村英二:drums
大谷和夫:keyboards
倉田信雄:keyboards
西本明:keyboards
山田秀俊:keyboards
斉藤ノブ:percussions
Jake H.Concepcion:sax
加藤JOEグループ:strings
木戸泰弘:backing vocals
鳴海寛:backing vocals
比山貴咏史:backing vocals
広谷順子:backing vocals
浦田恵司:synthesizer programming
助川宏:synthesizer programming
松武秀樹:synthesizer programming
produced by 山田茂
engineered by 内沼映二・佐藤忠治
● 豪華制作陣に支えられたシングル曲に頼らない高品位な楽曲が魅力的なレイト80’sアイドル最盛期の3rdアルバム
太眉と八重歯がチャームポイントの80年代アイドル歌手であった芳本美代子は、1985年3月にシングル「白いバスケットシューズ」でデビューしましたが、同期デビューが中山美穂、斉藤由貴、南野陽子、本田美奈子等々錚々たるメンバーであったため、売上的にも知名度的にも前述のアイドル達の後塵を拝していました。しかしながらアイドル歌手としては1987年までの3年間は年間シングル4枚、アルバム(ライブ盤・ミニアルバム含む)2枚というハイペースを保ち、精力的に作品をリリースし続けました。今回取り上げる本作は86年リリースの3rdフルアルバムで、初期のふわっとしたソフト路線から徐々に大人の階段を昇りつつある転換期の作品であり、また彼女のアルバムとしては最高の売上を記録した作品でもあります。
まず本作のリリース前、86年の彼女のシングル「青い靴」と「Auroraの少女」には大御所・筒美京平が作曲に起用され、松本隆の作詞と船山基紀の編曲という黄金トリオの楽曲で、シリアスなサウンドにチャレンジしつつ勝負をかけていくわけですが、本作はその流れを汲んでいくかと思いきや、ハード路線というよりはバラエティ豊かな楽曲が集められたアルバムに仕上げられています。しかし散漫な印象を受けずに済んでいるのは船山基紀と大村雅朗の安定感抜群のアレンジメントによる部分が大きく、86年という時代ならではのスネアが強調されたドラムサウンドとデジタルシンセのギラギラした音色を基調に楽曲イメージを具現化することに成功しています。特に大村雅朗が担当する楽曲は、クッキリしたシャープでキレのある船山アレンジ楽曲とは対照的に、深いリバーブでサウンドを包み込みながら、特にラスト2曲「ワイパーにはさんだI Love You」「Magic Garden」はアイドルソングらしからぬ音処理で一風変わった息吹をアルバムに与えており、それらのコントラストを楽しむのも一興です。しかしながらシングルのようなハードな路線へ進むのか、本作で垣間見せるメルヘン少女な側面や「KISS MOON」のようなジャジーな大人路線へ傾くのかどっちつかずな部分が彼女の立ち位置らしくもあり、結果的に(売上にも表れているように)本作は最も芳本美代子というアイドルの本質を表した作品なのではないでしょうか。
なお、この後彼女が進んでいくのは山川恵津子をパートナーに選んだエレガントポップ路線になります。
<Favorite Songs>
・「Secret」
「青い靴」や「Auroraの少女」のシングル路線を踏襲したシリアス歌謡。どこまでもタイトなドラムが先導しつつ、メタリックなデジタルシンセが派手に立ち回ります。ベースもスラップを織り交ぜる粒の立った音色で攻撃的なリズム隊を構築しています。
・「Auroraの少女」
幻想的なイントロが魅力的な先行2ndシングル。筒美特有の歌謡メロディに似つかわしくない16ビートのドラミングの圧が強くて非常に好みのエフェクト処理です。ブラスセクションとカッティングギターが絡まるとダンサブルなデジタルファンク歌謡の出来上がりです。
・「ワイパーにはさんだI Love You」
チューリップのベーシスト、宮城伸一郎が提供した本作の中でも随一の完成度を誇る楽曲。何と言ってもイントロの柔らかなシンセパッドと左右をパンしまくる機械的な電子パーカッションの緻密さ、そしてなぜか歌に入る直前に現れる低く深い爆発音には謎が深まるばかりです。サビからはタイトなドラムに間奏のサックスも絶妙な良曲なのですが、爆発音が・・・素晴らしいです。
<評点>
・サウンド ★★★ (攻撃的かつ幻想的なサウンドデザインが楽しめる)
・メロディ ★★ (多数の作曲家器用で統一感は薄いが安定感はある)
・リズム ★★★ (これぞ86年といった電子的処理のタイトスネア)
・曲構成 ★ (保守と挑戦が入り混じる曖昧な立ち位置がむず痒い)
・個性 ★★ (まさに転換期ともいうべきチャレンジを垣間見る)
総合評点: 7点
芳本美代子:vocal

1.「KISS MOON」 詞:麻生圭子 曲:平井夏美 編:船山基紀
2.「True Love」 詞・曲:伊藤薫 編:船山基紀
3.「Secret」 詞・曲:伊藤薫 編:船山基紀
4.「夜明けのAway」 詞:麻生圭子 曲:平井夏美 編:船山基紀
5.「Auroraの少女」 詞:松本隆 曲:筒美京平 編:船山基紀
6.「ストライプのソックス」 詞:松本隆 曲:南佳孝 編:大村雅朗
7.「星のような雪の夜」 詞:麻生圭子 曲・編:大村雅朗
8.「青い靴」 詞:松本隆 曲:筒美京平 編:船山基紀
9.「ワイパーにはさんだI Love You」 詞:麻生圭子 曲:宮城伸一郎 編:大村雅朗
10.「Magic Garden」 詞:松本隆 曲:南佳孝 編:大村雅朗
<support musician>
土方隆行:electric guitar
松原正樹:electric guitar
芳野藤丸:electric guitar
吉川忠英:acoustic guitar
高水健司:electric bass
長岡道夫:electric bass
美久月千晴:electric bass
渡辺直樹:electric bass
岡本郭男:drums
菊地丈夫:drums
島村英二:drums
大谷和夫:keyboards
倉田信雄:keyboards
西本明:keyboards
山田秀俊:keyboards
斉藤ノブ:percussions
Jake H.Concepcion:sax
加藤JOEグループ:strings
木戸泰弘:backing vocals
鳴海寛:backing vocals
比山貴咏史:backing vocals
広谷順子:backing vocals
浦田恵司:synthesizer programming
助川宏:synthesizer programming
松武秀樹:synthesizer programming
produced by 山田茂
engineered by 内沼映二・佐藤忠治
● 豪華制作陣に支えられたシングル曲に頼らない高品位な楽曲が魅力的なレイト80’sアイドル最盛期の3rdアルバム
太眉と八重歯がチャームポイントの80年代アイドル歌手であった芳本美代子は、1985年3月にシングル「白いバスケットシューズ」でデビューしましたが、同期デビューが中山美穂、斉藤由貴、南野陽子、本田美奈子等々錚々たるメンバーであったため、売上的にも知名度的にも前述のアイドル達の後塵を拝していました。しかしながらアイドル歌手としては1987年までの3年間は年間シングル4枚、アルバム(ライブ盤・ミニアルバム含む)2枚というハイペースを保ち、精力的に作品をリリースし続けました。今回取り上げる本作は86年リリースの3rdフルアルバムで、初期のふわっとしたソフト路線から徐々に大人の階段を昇りつつある転換期の作品であり、また彼女のアルバムとしては最高の売上を記録した作品でもあります。
まず本作のリリース前、86年の彼女のシングル「青い靴」と「Auroraの少女」には大御所・筒美京平が作曲に起用され、松本隆の作詞と船山基紀の編曲という黄金トリオの楽曲で、シリアスなサウンドにチャレンジしつつ勝負をかけていくわけですが、本作はその流れを汲んでいくかと思いきや、ハード路線というよりはバラエティ豊かな楽曲が集められたアルバムに仕上げられています。しかし散漫な印象を受けずに済んでいるのは船山基紀と大村雅朗の安定感抜群のアレンジメントによる部分が大きく、86年という時代ならではのスネアが強調されたドラムサウンドとデジタルシンセのギラギラした音色を基調に楽曲イメージを具現化することに成功しています。特に大村雅朗が担当する楽曲は、クッキリしたシャープでキレのある船山アレンジ楽曲とは対照的に、深いリバーブでサウンドを包み込みながら、特にラスト2曲「ワイパーにはさんだI Love You」「Magic Garden」はアイドルソングらしからぬ音処理で一風変わった息吹をアルバムに与えており、それらのコントラストを楽しむのも一興です。しかしながらシングルのようなハードな路線へ進むのか、本作で垣間見せるメルヘン少女な側面や「KISS MOON」のようなジャジーな大人路線へ傾くのかどっちつかずな部分が彼女の立ち位置らしくもあり、結果的に(売上にも表れているように)本作は最も芳本美代子というアイドルの本質を表した作品なのではないでしょうか。
なお、この後彼女が進んでいくのは山川恵津子をパートナーに選んだエレガントポップ路線になります。
<Favorite Songs>
・「Secret」
「青い靴」や「Auroraの少女」のシングル路線を踏襲したシリアス歌謡。どこまでもタイトなドラムが先導しつつ、メタリックなデジタルシンセが派手に立ち回ります。ベースもスラップを織り交ぜる粒の立った音色で攻撃的なリズム隊を構築しています。
・「Auroraの少女」
幻想的なイントロが魅力的な先行2ndシングル。筒美特有の歌謡メロディに似つかわしくない16ビートのドラミングの圧が強くて非常に好みのエフェクト処理です。ブラスセクションとカッティングギターが絡まるとダンサブルなデジタルファンク歌謡の出来上がりです。
・「ワイパーにはさんだI Love You」
チューリップのベーシスト、宮城伸一郎が提供した本作の中でも随一の完成度を誇る楽曲。何と言ってもイントロの柔らかなシンセパッドと左右をパンしまくる機械的な電子パーカッションの緻密さ、そしてなぜか歌に入る直前に現れる低く深い爆発音には謎が深まるばかりです。サビからはタイトなドラムに間奏のサックスも絶妙な良曲なのですが、爆発音が・・・素晴らしいです。
<評点>
・サウンド ★★★ (攻撃的かつ幻想的なサウンドデザインが楽しめる)
・メロディ ★★ (多数の作曲家器用で統一感は薄いが安定感はある)
・リズム ★★★ (これぞ86年といった電子的処理のタイトスネア)
・曲構成 ★ (保守と挑戦が入り混じる曖昧な立ち位置がむず痒い)
・個性 ★★ (まさに転換期ともいうべきチャレンジを垣間見る)
総合評点: 7点