「砂金」 関口和之
「砂金」 (1986 ビクター)
関口和之:vocal・bass

1.「絵の中のクレーア」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・米光亮 コーラス編曲:EPO
2.「LE MARCHÉ(マルシェ)」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮 コーラス編曲:EPO
3.「砂金」 詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・サントリー坂本・米光亮
4.「フトンへようこそ」
詞:柄沢卓也・関口和之 曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮
管編曲:矢口博康
5.「エスケイプ」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・サントリー坂本・米光亮
6.「アンクル・ピーターの羽」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮 管編曲:新田一郎
7.「付録:人気なんかラララ (We’re the 二次会)」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・米光亮
<support musician>
EPO:vocal・chorus
江口寿史:vocal
桂文珍:vocal
小林じんこ:vocal
さくまあきら:vocal
高見恭子:vocal
時任三郎:vocal
富田靖子:vocal
中島文明:vocal
新田一郎:vocal
原秀則:vocal
三宅裕司:vocal
吉田聡:vocal
吉田まゆみ:vocal
吉田美智子:vocal
若林マリ子:vocal
今道友隆(いまみちともたか):guitar
イリア:guitar
大森隆志:guitar
北島健二:guitar
米光亮:guitar・machine operate
松田弘:drums・voice
サントリー坂本(坂本洋):keyboards・chorus
ホッピー神山:keyboards・vocal
野沢秀行:percussion
金山徹:sax
黒石正博:sax
矢口博康:sax
中西俊博グループ:strings:sax
プリンス玉堤:dog sample
明石家さんま:voice
嘉門達夫:voice
サンプラザ中野:voice・chorus
所ジョージ:voice
松宮一彦:voice
伊藤理恵子:chorus
入船陽介:chorus
大池茂之:chorus
太田靖彦:chorus
岡本尚子:chorus
久保美夏:chorus
久保田康:chorus
久保田洋司:chorus
小島淳:chorus
小林良子:chorus
笹沢一宏:chorus
佐藤おりえ:chorus
三本木恵子:chorus
清水伸吾:chorus
関口なおこ:chorus
高垣健:chorus
友広信夫:chorus
永野治:chorus
福本二郎:chorus
藤田義和:chorus
松浦正雄:chorus
松野玲:chorus
丸山がんこ:chorus
山科功:chorus
吉原雅彦:chorus
produced by 関口和之
co-produced by 新田一郎・高垣健
engineered by 吉田俊之・池村雅彦・宮本茂男
● 人脈の広さを生かした多彩なゲスト陣に恵まれた大御所バンドのベーシストがチャレンジしたニューウェーブ風味満点のソロアルバム
日本を代表する大御所長寿バンド、サザンオールスターズのベーシストである関口和之は、ベースプレイヤーのみならず、ウクレレ奏者としても活躍、さらにはエッセイシストや漫画家などの顔を持つ多彩なマルチクリエイターです。しかしながら当然彼の本業は音楽ということで、既にスターダムを駆け上っていたサザンの80年代中盤、名盤「KAMAKURA」リリース後の原由子産休による活動休止期間中の1986年を利用して、他のメンバーが各々ソロ活動を開始すると(桑田佳祐と松田弘はKUWATA BAND、大森隆志はTABO'S PROJECT、野沢秀行はJapanese Electric Foundation)、関口も同様にソロ作品を制作することになります。このように説明すると他のメンバーもソロプロジェクトに勤しんでいるからオレもやる、みたいな消極的な動機にも受け取られかねませんが、このソロアルバムは、彼の人柄が偲ばれるほどの音楽関係のみならず多彩な業種からの幅広い人脈による総勢74名のゲスト陣が参加する、大所帯なパーティーアルバムといった印象の作品となりました。
しかしそのパーティー気分は実はラストの「付録:人気なんかラララ (We’re the 二次会)」の入れ替わり立ち替わり歌やセリフで登場する豪華ゲストの印象は強いからこそのものであり、本作の楽曲面の本質は当時の空気も反映して相当エレクトリック寄りのサウンドが施されています。作詞と作曲は関口本人が手がけていますが、編曲をサポートするのは当時は超絶技巧バンドPINKのメンバーであり大沢誉志幸のプロデュースでも切れ味鋭いセンスを発揮していたホッピー神山と、80年代後半から徐々に頭角を表してくる若きシンセポップ系アレンジャー米光亮、そしてラッツ&スターにもサポートとしての在籍経験があるスタジオミュージシャン、サントリー坂本こと坂本洋です。この3人がサウンド面での軸となるわけですので、生まれてくる音は当然一筋縄ではいかないテクノ風味です。特に86年というスネアドラムの加工にこぞって凝りまくられた時期ですので、ビシバシ決まるスネアのローファイ感が楽しめます。関口楽曲の楽天的かつ無国籍な感覚を崩さず、それでいて攻撃的なリズムでマシナリー感を打ち出したサウンドを下支えしているのはマニピュレートも手がけた米光亮の貢献度は非常に高いと思われます。全体的にアヴァンギャルド歌謡な楽曲が続く中でも「エスケイプ」のような清涼感漂うミディアムポップチューンも収録されていますし、少ない曲数の中でもバラエティに富んだ楽曲を取り揃えた好作品と言えると思いますが、何と言っても有名人無駄遣いなラストソングのバブリー感がものすごい勢いで襲ってくるので、どうしても「パーティーアルバム」という言葉に立ち返ってしまうのが誤解を招いてしまうところです。
このようにサザンオールスターズの面々がこぞってソロ活動を繰り広げた1986年は、それぞれが異なるアプローチで自身の音楽性を競った興味深い年と言えるわけですが、関口和之の本作はその中でも「日本ポップス史上に燦然と輝く金字塔(CDの帯参照)」とは言わないまでも、微かな爪痕は残した作品として記憶しておきたいと思います。
<Favorite Songs>
・「絵の中のクレーア」
86年特有のローファイPCMドラムマシンサウンドが麗しいオープニングナンバー。自由奔放なシンセフレーズはホッピー神山色が強いです。特に上昇していくようなヒキツリ系のシンセフレーズのインパクトは強烈。4拍目のハンドクラップも良い味を出しています。コーラスはEPO。
・「砂金」
PINK「光の子」のサンプルボイスをピッチを落として流用したかのような幻想的なイントロにニヤリとさせられるタイトルチューン。関口と若林マリ子(ex.マリコ with Cute)のデュエット曲ですが、中近東の匂いすら感じさせる無国籍感が印象的なミディアムチューンに仕上がっています。
・「アンクル・ピーターの羽」
どこかしらMOON RIDERSを彷彿とさせるニューウェーブ感が興味深いロックナンバー。ストリングスとコーラスの絡み方やヴォーカルスタイルを聴くにつけ、同時代のRIDERSサウンドのパロディではないかと思うほどの相似感覚を思い起こさせずにはいられません。
<評点>
・サウンド ★★ (随所でニューウェーブなシンセの使い方を堪能)
・メロディ ★ (印象には残りにくいものの「エスケイプ」は美メロ)
・リズム ★★★ (さすがは86年のバッキバキのローファイPCM音色)
・曲構成 ★ (ラストはもっと大げさでも良いが彼の人柄が滲み出る)
・個性 ★ (音楽面ではつかみどころはないが人脈の広さに圧倒)
総合評点: 6点
関口和之:vocal・bass

1.「絵の中のクレーア」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・米光亮 コーラス編曲:EPO
2.「LE MARCHÉ(マルシェ)」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮 コーラス編曲:EPO
3.「砂金」 詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・サントリー坂本・米光亮
4.「フトンへようこそ」
詞:柄沢卓也・関口和之 曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮
管編曲:矢口博康
5.「エスケイプ」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・ホッピー神山・サントリー坂本・米光亮
6.「アンクル・ピーターの羽」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・サントリー坂本・米光亮 管編曲:新田一郎
7.「付録:人気なんかラララ (We’re the 二次会)」
詞・曲:関口和之 編:関口和之・米光亮
<support musician>
EPO:vocal・chorus
江口寿史:vocal
桂文珍:vocal
小林じんこ:vocal
さくまあきら:vocal
高見恭子:vocal
時任三郎:vocal
富田靖子:vocal
中島文明:vocal
新田一郎:vocal
原秀則:vocal
三宅裕司:vocal
吉田聡:vocal
吉田まゆみ:vocal
吉田美智子:vocal
若林マリ子:vocal
今道友隆(いまみちともたか):guitar
イリア:guitar
大森隆志:guitar
北島健二:guitar
米光亮:guitar・machine operate
松田弘:drums・voice
サントリー坂本(坂本洋):keyboards・chorus
ホッピー神山:keyboards・vocal
野沢秀行:percussion
金山徹:sax
黒石正博:sax
矢口博康:sax
中西俊博グループ:strings:sax
プリンス玉堤:dog sample
明石家さんま:voice
嘉門達夫:voice
サンプラザ中野:voice・chorus
所ジョージ:voice
松宮一彦:voice
伊藤理恵子:chorus
入船陽介:chorus
大池茂之:chorus
太田靖彦:chorus
岡本尚子:chorus
久保美夏:chorus
久保田康:chorus
久保田洋司:chorus
小島淳:chorus
小林良子:chorus
笹沢一宏:chorus
佐藤おりえ:chorus
三本木恵子:chorus
清水伸吾:chorus
関口なおこ:chorus
高垣健:chorus
友広信夫:chorus
永野治:chorus
福本二郎:chorus
藤田義和:chorus
松浦正雄:chorus
松野玲:chorus
丸山がんこ:chorus
山科功:chorus
吉原雅彦:chorus
produced by 関口和之
co-produced by 新田一郎・高垣健
engineered by 吉田俊之・池村雅彦・宮本茂男
● 人脈の広さを生かした多彩なゲスト陣に恵まれた大御所バンドのベーシストがチャレンジしたニューウェーブ風味満点のソロアルバム
日本を代表する大御所長寿バンド、サザンオールスターズのベーシストである関口和之は、ベースプレイヤーのみならず、ウクレレ奏者としても活躍、さらにはエッセイシストや漫画家などの顔を持つ多彩なマルチクリエイターです。しかしながら当然彼の本業は音楽ということで、既にスターダムを駆け上っていたサザンの80年代中盤、名盤「KAMAKURA」リリース後の原由子産休による活動休止期間中の1986年を利用して、他のメンバーが各々ソロ活動を開始すると(桑田佳祐と松田弘はKUWATA BAND、大森隆志はTABO'S PROJECT、野沢秀行はJapanese Electric Foundation)、関口も同様にソロ作品を制作することになります。このように説明すると他のメンバーもソロプロジェクトに勤しんでいるからオレもやる、みたいな消極的な動機にも受け取られかねませんが、このソロアルバムは、彼の人柄が偲ばれるほどの音楽関係のみならず多彩な業種からの幅広い人脈による総勢74名のゲスト陣が参加する、大所帯なパーティーアルバムといった印象の作品となりました。
しかしそのパーティー気分は実はラストの「付録:人気なんかラララ (We’re the 二次会)」の入れ替わり立ち替わり歌やセリフで登場する豪華ゲストの印象は強いからこそのものであり、本作の楽曲面の本質は当時の空気も反映して相当エレクトリック寄りのサウンドが施されています。作詞と作曲は関口本人が手がけていますが、編曲をサポートするのは当時は超絶技巧バンドPINKのメンバーであり大沢誉志幸のプロデュースでも切れ味鋭いセンスを発揮していたホッピー神山と、80年代後半から徐々に頭角を表してくる若きシンセポップ系アレンジャー米光亮、そしてラッツ&スターにもサポートとしての在籍経験があるスタジオミュージシャン、サントリー坂本こと坂本洋です。この3人がサウンド面での軸となるわけですので、生まれてくる音は当然一筋縄ではいかないテクノ風味です。特に86年というスネアドラムの加工にこぞって凝りまくられた時期ですので、ビシバシ決まるスネアのローファイ感が楽しめます。関口楽曲の楽天的かつ無国籍な感覚を崩さず、それでいて攻撃的なリズムでマシナリー感を打ち出したサウンドを下支えしているのはマニピュレートも手がけた米光亮の貢献度は非常に高いと思われます。全体的にアヴァンギャルド歌謡な楽曲が続く中でも「エスケイプ」のような清涼感漂うミディアムポップチューンも収録されていますし、少ない曲数の中でもバラエティに富んだ楽曲を取り揃えた好作品と言えると思いますが、何と言っても有名人無駄遣いなラストソングのバブリー感がものすごい勢いで襲ってくるので、どうしても「パーティーアルバム」という言葉に立ち返ってしまうのが誤解を招いてしまうところです。
このようにサザンオールスターズの面々がこぞってソロ活動を繰り広げた1986年は、それぞれが異なるアプローチで自身の音楽性を競った興味深い年と言えるわけですが、関口和之の本作はその中でも「日本ポップス史上に燦然と輝く金字塔(CDの帯参照)」とは言わないまでも、微かな爪痕は残した作品として記憶しておきたいと思います。
<Favorite Songs>
・「絵の中のクレーア」
86年特有のローファイPCMドラムマシンサウンドが麗しいオープニングナンバー。自由奔放なシンセフレーズはホッピー神山色が強いです。特に上昇していくようなヒキツリ系のシンセフレーズのインパクトは強烈。4拍目のハンドクラップも良い味を出しています。コーラスはEPO。
・「砂金」
PINK「光の子」のサンプルボイスをピッチを落として流用したかのような幻想的なイントロにニヤリとさせられるタイトルチューン。関口と若林マリ子(ex.マリコ with Cute)のデュエット曲ですが、中近東の匂いすら感じさせる無国籍感が印象的なミディアムチューンに仕上がっています。
・「アンクル・ピーターの羽」
どこかしらMOON RIDERSを彷彿とさせるニューウェーブ感が興味深いロックナンバー。ストリングスとコーラスの絡み方やヴォーカルスタイルを聴くにつけ、同時代のRIDERSサウンドのパロディではないかと思うほどの相似感覚を思い起こさせずにはいられません。
<評点>
・サウンド ★★ (随所でニューウェーブなシンセの使い方を堪能)
・メロディ ★ (印象には残りにくいものの「エスケイプ」は美メロ)
・リズム ★★★ (さすがは86年のバッキバキのローファイPCM音色)
・曲構成 ★ (ラストはもっと大げさでも良いが彼の人柄が滲み出る)
・個性 ★ (音楽面ではつかみどころはないが人脈の広さに圧倒)
総合評点: 6点
「SUMMER BREEZE」 中山美穂
「SUMMER BREEZE」(1986 キング)
中山美穂:vocal

1.「Tropic Mystery」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:入江純
2.「クローズ・アップ」 詞:松本隆 曲:財津和夫 編:大村雅朗
3.「Leave Me Alone」 詞・曲・編:角松敏生
4.「ひと夏のアクトレス」 詞:芹沢類 曲:来生たかお 編:入江純
5.「Ocean In The Rain」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:大村雅朗
6.「サインはハング・ルーズ」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:入江純
7.「Rising Love」 詞・曲・編:角松敏生
8.「わがまま」 詞:細田博子 曲:来生たかお 編:入江純
9.「瞳のかげり」 詞:松本隆 曲:財津和夫 編:矢野立美
10.「You’re My Only Shinin’ Star」 詞・曲・編:角松敏生 弦編:大谷和夫 管編:数原晋
produced by 樋口紀男
engineered by 吉江一郎
associate engineered by 内沼映二
● 角松敏生が初めて関わり芯の入ったデジタルリゾートPOPSで楽曲派アイドルとしての道を歩み始めた転換作
85年の思春期バイブル的ドラマ「毎度おさわがせします」のヒロインに抜擢される形で芸能活動を開始した中山美穂は、同年1stシングル「C」で歌手デビュー、順調に期待されながらスター街道を歩み始めます。同年12月には映画「ビーバップ・ハイスクール」のヒロイン役でさらにブレイクするとともに、自身が歌う同名タイトルの主題歌もスマッシュヒット、その勢いは86年になっても続いていくことが約束された状態となりました。そんな多忙ながらも成長著しい85年にあってシングル3枚、アルバム2枚のハイペースで歌手活動をこなしてきた彼女ですが、与えられた楽曲はいかにもアイドル王道の歌謡曲の枠を出ないものでした。しかし86年からは様相が変化してまいります。竹内まりや楽曲に清水信之アレンジの4thシングル「色・ホワイトブレンド」のリリースを皮切りに、同年夏には財津和夫楽曲の「クローズ・アップ」を先行シングルに勢いのままに3rdアルバムがリリースされます。今回はこの3rdアルバムのレビューとなりますが、本作は彼女にとってその後の芸能活動に成功へと導くきっかけとなった転換期として非常に重要な位置付けとなる作品と言えるでしょう。
タイトルからしてリゾートPOPSへの期待感を煽られる本作ですが、そのあたりのイメージは1stアルバムから参加している杏里等で活躍していたアレンジャー、入江純の色が濃く出ている部分まではこれまでの路線を踏襲しているところです(入江アレンジも相当攻めていることは忘れてはなりませんが)。しかし何と言っても本作の特徴は角松敏生の参加でしょう。「Gold Degger」〜「Touch And Go」期の当時最高潮の勢いの中にあった角松のゴリゴリのエレクトリックサウンドと、とにかく出たがりであわよくば主役を乗っ取ろうとする角松のキャラクターが相まって、彼が参加した楽曲は3曲とも存在感が半端なく、異色かつ珠玉の出来と言っても過言ではありません。アイドル楽曲だからと言って全く手を抜く気配のない角松はエンジニアも自身の信頼するCAMU SPIRITSの相棒・内沼映二を連れてきてミックスを担当させることにより角松ソロのような極太リズムで楽曲を強化、サウンドには全く妥協を許さない偏執的な音キチぶりを発揮しています。特に「Rising Love」の狂気ぶりには思わず呆れるどころか笑ってしまいますが、その反面「You're My Only Shinin' Star」という名バラードを生み出すなどキッチリ仕事をこなしている部分も当然見逃せません。結果としてアルバム全体としてはバランスを欠くデメリットはあったものの、中山美穂という音楽的パッケージを進化させるための媒介としては十二分に機能していると言えるでしょう。角松サウンドのその異物感は実は結構大村雅朗が攻めたアレンジを施している「クローズ・アップ」が浮くどころかサウンド面では大人しく聴こえるほどですが、当時はまだ女優業の方に存在感を発揮していた彼女の音楽的方向性を決定づける鍵となった功績は想像以上に大きいと思われます。
その後の彼女の歌手活動としての活躍ぶりは皆さんご存知の通りで、シングル曲ではヒットを連発、アルバムではコンセプトワークに優れた「エキゾティック」、鷺巣詩郎の狂気なアレンジを楽しめる傑作「ONE AND ONLY」を経て、88年には遂に角松敏生を全面プロデュースに迎えた「CATCH THE NITE」で音楽的本懐を遂げることになります。
<Favorite Songs>
・「Leave Me Alone」
イントロのゲートリバーブタムとゴリゴリベースから一気に引き込まれる角松印のサマーチューン。極太なボトムのリズム隊がとにかく全く異空間に意識を飛ばしてしまいますが、非常にコーラスワークが秀逸です。サビ前からはとにかく出たがりで目立ちまくる角松本人のコーラスも堪能できます。とはいうもののBメロからサビへと展開するコードワークの美しさはやはり特筆すべきものがある名曲です。ラストは完全に角松が乗っ取ってしまいますが・・・。
・「サインはハング・ルーズ」
角松に負けずとサウンド面で冒険的なアプローチを見せる入江純アレンジのラテンフレーバーな楽曲。次作「エキゾティック」の予告編のような曲調ですが、イントロ&アウトロやAメロに入る前の不穏なリズム&シーケンスのきめ細かいプログラミングは恐らく松武秀樹仕事であると思われますが、さすがの職人芸です。
・「Rising Love」
コシのあるシンセベースが魅力などこを切り取っても角松印の稀代のオーバープロデュース楽曲。「Girl in the Box」を彷彿とさせるコードワークに添いながらシンセベースとエレドラが暴れ回ります。しかし最も暴れまわっているのは角松自身。楽曲前半では合いの手で抑え気味にしていますが、「Take off Melody」気味なシンセソロからの怒涛の後半では、やっぱり完全に主役を乗っ取って前後左右角松コーラスだらけにしてしまう狂気の楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (角松サウンドにつられて他の編曲陣も攻めまくる)
・メロディ ★★ (楽曲によって質の差が現れるが角松の異物感のせい)
・リズム ★★★ (やはり角松楽曲のボトムの太さは尋常ではない)
・曲構成 ★ (角松の気合いの入れ過ぎによりバランスを欠く)
・個性 ★★ (中山美穂の音楽的方針を一変させた転換期の重要作品)
総合評点: 7点
中山美穂:vocal

1.「Tropic Mystery」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:入江純
2.「クローズ・アップ」 詞:松本隆 曲:財津和夫 編:大村雅朗
3.「Leave Me Alone」 詞・曲・編:角松敏生
4.「ひと夏のアクトレス」 詞:芹沢類 曲:来生たかお 編:入江純
5.「Ocean In The Rain」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:大村雅朗
6.「サインはハング・ルーズ」 詞:湯川れい子 曲:井上大輔 編:入江純
7.「Rising Love」 詞・曲・編:角松敏生
8.「わがまま」 詞:細田博子 曲:来生たかお 編:入江純
9.「瞳のかげり」 詞:松本隆 曲:財津和夫 編:矢野立美
10.「You’re My Only Shinin’ Star」 詞・曲・編:角松敏生 弦編:大谷和夫 管編:数原晋
produced by 樋口紀男
engineered by 吉江一郎
associate engineered by 内沼映二
● 角松敏生が初めて関わり芯の入ったデジタルリゾートPOPSで楽曲派アイドルとしての道を歩み始めた転換作
85年の思春期バイブル的ドラマ「毎度おさわがせします」のヒロインに抜擢される形で芸能活動を開始した中山美穂は、同年1stシングル「C」で歌手デビュー、順調に期待されながらスター街道を歩み始めます。同年12月には映画「ビーバップ・ハイスクール」のヒロイン役でさらにブレイクするとともに、自身が歌う同名タイトルの主題歌もスマッシュヒット、その勢いは86年になっても続いていくことが約束された状態となりました。そんな多忙ながらも成長著しい85年にあってシングル3枚、アルバム2枚のハイペースで歌手活動をこなしてきた彼女ですが、与えられた楽曲はいかにもアイドル王道の歌謡曲の枠を出ないものでした。しかし86年からは様相が変化してまいります。竹内まりや楽曲に清水信之アレンジの4thシングル「色・ホワイトブレンド」のリリースを皮切りに、同年夏には財津和夫楽曲の「クローズ・アップ」を先行シングルに勢いのままに3rdアルバムがリリースされます。今回はこの3rdアルバムのレビューとなりますが、本作は彼女にとってその後の芸能活動に成功へと導くきっかけとなった転換期として非常に重要な位置付けとなる作品と言えるでしょう。
タイトルからしてリゾートPOPSへの期待感を煽られる本作ですが、そのあたりのイメージは1stアルバムから参加している杏里等で活躍していたアレンジャー、入江純の色が濃く出ている部分まではこれまでの路線を踏襲しているところです(入江アレンジも相当攻めていることは忘れてはなりませんが)。しかし何と言っても本作の特徴は角松敏生の参加でしょう。「Gold Degger」〜「Touch And Go」期の当時最高潮の勢いの中にあった角松のゴリゴリのエレクトリックサウンドと、とにかく出たがりであわよくば主役を乗っ取ろうとする角松のキャラクターが相まって、彼が参加した楽曲は3曲とも存在感が半端なく、異色かつ珠玉の出来と言っても過言ではありません。アイドル楽曲だからと言って全く手を抜く気配のない角松はエンジニアも自身の信頼するCAMU SPIRITSの相棒・内沼映二を連れてきてミックスを担当させることにより角松ソロのような極太リズムで楽曲を強化、サウンドには全く妥協を許さない偏執的な音キチぶりを発揮しています。特に「Rising Love」の狂気ぶりには思わず呆れるどころか笑ってしまいますが、その反面「You're My Only Shinin' Star」という名バラードを生み出すなどキッチリ仕事をこなしている部分も当然見逃せません。結果としてアルバム全体としてはバランスを欠くデメリットはあったものの、中山美穂という音楽的パッケージを進化させるための媒介としては十二分に機能していると言えるでしょう。角松サウンドのその異物感は実は結構大村雅朗が攻めたアレンジを施している「クローズ・アップ」が浮くどころかサウンド面では大人しく聴こえるほどですが、当時はまだ女優業の方に存在感を発揮していた彼女の音楽的方向性を決定づける鍵となった功績は想像以上に大きいと思われます。
その後の彼女の歌手活動としての活躍ぶりは皆さんご存知の通りで、シングル曲ではヒットを連発、アルバムではコンセプトワークに優れた「エキゾティック」、鷺巣詩郎の狂気なアレンジを楽しめる傑作「ONE AND ONLY」を経て、88年には遂に角松敏生を全面プロデュースに迎えた「CATCH THE NITE」で音楽的本懐を遂げることになります。
<Favorite Songs>
・「Leave Me Alone」
イントロのゲートリバーブタムとゴリゴリベースから一気に引き込まれる角松印のサマーチューン。極太なボトムのリズム隊がとにかく全く異空間に意識を飛ばしてしまいますが、非常にコーラスワークが秀逸です。サビ前からはとにかく出たがりで目立ちまくる角松本人のコーラスも堪能できます。とはいうもののBメロからサビへと展開するコードワークの美しさはやはり特筆すべきものがある名曲です。ラストは完全に角松が乗っ取ってしまいますが・・・。
・「サインはハング・ルーズ」
角松に負けずとサウンド面で冒険的なアプローチを見せる入江純アレンジのラテンフレーバーな楽曲。次作「エキゾティック」の予告編のような曲調ですが、イントロ&アウトロやAメロに入る前の不穏なリズム&シーケンスのきめ細かいプログラミングは恐らく松武秀樹仕事であると思われますが、さすがの職人芸です。
・「Rising Love」
コシのあるシンセベースが魅力などこを切り取っても角松印の稀代のオーバープロデュース楽曲。「Girl in the Box」を彷彿とさせるコードワークに添いながらシンセベースとエレドラが暴れ回ります。しかし最も暴れまわっているのは角松自身。楽曲前半では合いの手で抑え気味にしていますが、「Take off Melody」気味なシンセソロからの怒涛の後半では、やっぱり完全に主役を乗っ取って前後左右角松コーラスだらけにしてしまう狂気の楽曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (角松サウンドにつられて他の編曲陣も攻めまくる)
・メロディ ★★ (楽曲によって質の差が現れるが角松の異物感のせい)
・リズム ★★★ (やはり角松楽曲のボトムの太さは尋常ではない)
・曲構成 ★ (角松の気合いの入れ過ぎによりバランスを欠く)
・個性 ★★ (中山美穂の音楽的方針を一変させた転換期の重要作品)
総合評点: 7点
「WING」 芳本美代子
「WING」 (1986 テイチク)
芳本美代子:vocal

1.「KISS MOON」 詞:麻生圭子 曲:平井夏美 編:船山基紀
2.「True Love」 詞・曲:伊藤薫 編:船山基紀
3.「Secret」 詞・曲:伊藤薫 編:船山基紀
4.「夜明けのAway」 詞:麻生圭子 曲:平井夏美 編:船山基紀
5.「Auroraの少女」 詞:松本隆 曲:筒美京平 編:船山基紀
6.「ストライプのソックス」 詞:松本隆 曲:南佳孝 編:大村雅朗
7.「星のような雪の夜」 詞:麻生圭子 曲・編:大村雅朗
8.「青い靴」 詞:松本隆 曲:筒美京平 編:船山基紀
9.「ワイパーにはさんだI Love You」 詞:麻生圭子 曲:宮城伸一郎 編:大村雅朗
10.「Magic Garden」 詞:松本隆 曲:南佳孝 編:大村雅朗
<support musician>
土方隆行:electric guitar
松原正樹:electric guitar
芳野藤丸:electric guitar
吉川忠英:acoustic guitar
高水健司:electric bass
長岡道夫:electric bass
美久月千晴:electric bass
渡辺直樹:electric bass
岡本郭男:drums
菊地丈夫:drums
島村英二:drums
大谷和夫:keyboards
倉田信雄:keyboards
西本明:keyboards
山田秀俊:keyboards
斉藤ノブ:percussions
Jake H.Concepcion:sax
加藤JOEグループ:strings
木戸泰弘:backing vocals
鳴海寛:backing vocals
比山貴咏史:backing vocals
広谷順子:backing vocals
浦田恵司:synthesizer programming
助川宏:synthesizer programming
松武秀樹:synthesizer programming
produced by 山田茂
engineered by 内沼映二・佐藤忠治
● 豪華制作陣に支えられたシングル曲に頼らない高品位な楽曲が魅力的なレイト80’sアイドル最盛期の3rdアルバム
太眉と八重歯がチャームポイントの80年代アイドル歌手であった芳本美代子は、1985年3月にシングル「白いバスケットシューズ」でデビューしましたが、同期デビューが中山美穂、斉藤由貴、南野陽子、本田美奈子等々錚々たるメンバーであったため、売上的にも知名度的にも前述のアイドル達の後塵を拝していました。しかしながらアイドル歌手としては1987年までの3年間は年間シングル4枚、アルバム(ライブ盤・ミニアルバム含む)2枚というハイペースを保ち、精力的に作品をリリースし続けました。今回取り上げる本作は86年リリースの3rdフルアルバムで、初期のふわっとしたソフト路線から徐々に大人の階段を昇りつつある転換期の作品であり、また彼女のアルバムとしては最高の売上を記録した作品でもあります。
まず本作のリリース前、86年の彼女のシングル「青い靴」と「Auroraの少女」には大御所・筒美京平が作曲に起用され、松本隆の作詞と船山基紀の編曲という黄金トリオの楽曲で、シリアスなサウンドにチャレンジしつつ勝負をかけていくわけですが、本作はその流れを汲んでいくかと思いきや、ハード路線というよりはバラエティ豊かな楽曲が集められたアルバムに仕上げられています。しかし散漫な印象を受けずに済んでいるのは船山基紀と大村雅朗の安定感抜群のアレンジメントによる部分が大きく、86年という時代ならではのスネアが強調されたドラムサウンドとデジタルシンセのギラギラした音色を基調に楽曲イメージを具現化することに成功しています。特に大村雅朗が担当する楽曲は、クッキリしたシャープでキレのある船山アレンジ楽曲とは対照的に、深いリバーブでサウンドを包み込みながら、特にラスト2曲「ワイパーにはさんだI Love You」「Magic Garden」はアイドルソングらしからぬ音処理で一風変わった息吹をアルバムに与えており、それらのコントラストを楽しむのも一興です。しかしながらシングルのようなハードな路線へ進むのか、本作で垣間見せるメルヘン少女な側面や「KISS MOON」のようなジャジーな大人路線へ傾くのかどっちつかずな部分が彼女の立ち位置らしくもあり、結果的に(売上にも表れているように)本作は最も芳本美代子というアイドルの本質を表した作品なのではないでしょうか。
なお、この後彼女が進んでいくのは山川恵津子をパートナーに選んだエレガントポップ路線になります。
<Favorite Songs>
・「Secret」
「青い靴」や「Auroraの少女」のシングル路線を踏襲したシリアス歌謡。どこまでもタイトなドラムが先導しつつ、メタリックなデジタルシンセが派手に立ち回ります。ベースもスラップを織り交ぜる粒の立った音色で攻撃的なリズム隊を構築しています。
・「Auroraの少女」
幻想的なイントロが魅力的な先行2ndシングル。筒美特有の歌謡メロディに似つかわしくない16ビートのドラミングの圧が強くて非常に好みのエフェクト処理です。ブラスセクションとカッティングギターが絡まるとダンサブルなデジタルファンク歌謡の出来上がりです。
・「ワイパーにはさんだI Love You」
チューリップのベーシスト、宮城伸一郎が提供した本作の中でも随一の完成度を誇る楽曲。何と言ってもイントロの柔らかなシンセパッドと左右をパンしまくる機械的な電子パーカッションの緻密さ、そしてなぜか歌に入る直前に現れる低く深い爆発音には謎が深まるばかりです。サビからはタイトなドラムに間奏のサックスも絶妙な良曲なのですが、爆発音が・・・素晴らしいです。
<評点>
・サウンド ★★★ (攻撃的かつ幻想的なサウンドデザインが楽しめる)
・メロディ ★★ (多数の作曲家器用で統一感は薄いが安定感はある)
・リズム ★★★ (これぞ86年といった電子的処理のタイトスネア)
・曲構成 ★ (保守と挑戦が入り混じる曖昧な立ち位置がむず痒い)
・個性 ★★ (まさに転換期ともいうべきチャレンジを垣間見る)
総合評点: 7点
芳本美代子:vocal

1.「KISS MOON」 詞:麻生圭子 曲:平井夏美 編:船山基紀
2.「True Love」 詞・曲:伊藤薫 編:船山基紀
3.「Secret」 詞・曲:伊藤薫 編:船山基紀
4.「夜明けのAway」 詞:麻生圭子 曲:平井夏美 編:船山基紀
5.「Auroraの少女」 詞:松本隆 曲:筒美京平 編:船山基紀
6.「ストライプのソックス」 詞:松本隆 曲:南佳孝 編:大村雅朗
7.「星のような雪の夜」 詞:麻生圭子 曲・編:大村雅朗
8.「青い靴」 詞:松本隆 曲:筒美京平 編:船山基紀
9.「ワイパーにはさんだI Love You」 詞:麻生圭子 曲:宮城伸一郎 編:大村雅朗
10.「Magic Garden」 詞:松本隆 曲:南佳孝 編:大村雅朗
<support musician>
土方隆行:electric guitar
松原正樹:electric guitar
芳野藤丸:electric guitar
吉川忠英:acoustic guitar
高水健司:electric bass
長岡道夫:electric bass
美久月千晴:electric bass
渡辺直樹:electric bass
岡本郭男:drums
菊地丈夫:drums
島村英二:drums
大谷和夫:keyboards
倉田信雄:keyboards
西本明:keyboards
山田秀俊:keyboards
斉藤ノブ:percussions
Jake H.Concepcion:sax
加藤JOEグループ:strings
木戸泰弘:backing vocals
鳴海寛:backing vocals
比山貴咏史:backing vocals
広谷順子:backing vocals
浦田恵司:synthesizer programming
助川宏:synthesizer programming
松武秀樹:synthesizer programming
produced by 山田茂
engineered by 内沼映二・佐藤忠治
● 豪華制作陣に支えられたシングル曲に頼らない高品位な楽曲が魅力的なレイト80’sアイドル最盛期の3rdアルバム
太眉と八重歯がチャームポイントの80年代アイドル歌手であった芳本美代子は、1985年3月にシングル「白いバスケットシューズ」でデビューしましたが、同期デビューが中山美穂、斉藤由貴、南野陽子、本田美奈子等々錚々たるメンバーであったため、売上的にも知名度的にも前述のアイドル達の後塵を拝していました。しかしながらアイドル歌手としては1987年までの3年間は年間シングル4枚、アルバム(ライブ盤・ミニアルバム含む)2枚というハイペースを保ち、精力的に作品をリリースし続けました。今回取り上げる本作は86年リリースの3rdフルアルバムで、初期のふわっとしたソフト路線から徐々に大人の階段を昇りつつある転換期の作品であり、また彼女のアルバムとしては最高の売上を記録した作品でもあります。
まず本作のリリース前、86年の彼女のシングル「青い靴」と「Auroraの少女」には大御所・筒美京平が作曲に起用され、松本隆の作詞と船山基紀の編曲という黄金トリオの楽曲で、シリアスなサウンドにチャレンジしつつ勝負をかけていくわけですが、本作はその流れを汲んでいくかと思いきや、ハード路線というよりはバラエティ豊かな楽曲が集められたアルバムに仕上げられています。しかし散漫な印象を受けずに済んでいるのは船山基紀と大村雅朗の安定感抜群のアレンジメントによる部分が大きく、86年という時代ならではのスネアが強調されたドラムサウンドとデジタルシンセのギラギラした音色を基調に楽曲イメージを具現化することに成功しています。特に大村雅朗が担当する楽曲は、クッキリしたシャープでキレのある船山アレンジ楽曲とは対照的に、深いリバーブでサウンドを包み込みながら、特にラスト2曲「ワイパーにはさんだI Love You」「Magic Garden」はアイドルソングらしからぬ音処理で一風変わった息吹をアルバムに与えており、それらのコントラストを楽しむのも一興です。しかしながらシングルのようなハードな路線へ進むのか、本作で垣間見せるメルヘン少女な側面や「KISS MOON」のようなジャジーな大人路線へ傾くのかどっちつかずな部分が彼女の立ち位置らしくもあり、結果的に(売上にも表れているように)本作は最も芳本美代子というアイドルの本質を表した作品なのではないでしょうか。
なお、この後彼女が進んでいくのは山川恵津子をパートナーに選んだエレガントポップ路線になります。
<Favorite Songs>
・「Secret」
「青い靴」や「Auroraの少女」のシングル路線を踏襲したシリアス歌謡。どこまでもタイトなドラムが先導しつつ、メタリックなデジタルシンセが派手に立ち回ります。ベースもスラップを織り交ぜる粒の立った音色で攻撃的なリズム隊を構築しています。
・「Auroraの少女」
幻想的なイントロが魅力的な先行2ndシングル。筒美特有の歌謡メロディに似つかわしくない16ビートのドラミングの圧が強くて非常に好みのエフェクト処理です。ブラスセクションとカッティングギターが絡まるとダンサブルなデジタルファンク歌謡の出来上がりです。
・「ワイパーにはさんだI Love You」
チューリップのベーシスト、宮城伸一郎が提供した本作の中でも随一の完成度を誇る楽曲。何と言ってもイントロの柔らかなシンセパッドと左右をパンしまくる機械的な電子パーカッションの緻密さ、そしてなぜか歌に入る直前に現れる低く深い爆発音には謎が深まるばかりです。サビからはタイトなドラムに間奏のサックスも絶妙な良曲なのですが、爆発音が・・・素晴らしいです。
<評点>
・サウンド ★★★ (攻撃的かつ幻想的なサウンドデザインが楽しめる)
・メロディ ★★ (多数の作曲家器用で統一感は薄いが安定感はある)
・リズム ★★★ (これぞ86年といった電子的処理のタイトスネア)
・曲構成 ★ (保守と挑戦が入り混じる曖昧な立ち位置がむず痒い)
・個性 ★★ (まさに転換期ともいうべきチャレンジを垣間見る)
総合評点: 7点
「mother of pearl」 鈴木雅之
「mother of pearl」(1986 エピックソニー)
鈴木雅之:vocal

1.「ふたりの焦燥」 詞:竹花いち子 曲・編:ホッピー神山
2.「別の夜へ〜Let’s go」 詞:柳川英巳 曲:岡村靖幸 編:ホッピー神山
3.「ガラス越しに消えた夏」 詞:松本一起 曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
4.「輝きと呼べなくて」 詞:柳川英巳 曲:鈴木雅之・大沢誉志幸 編:ホッピー神山
5.「メランコリーな欲望」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
6.「今夜だけひとりになれない」 詞:柳川英巳 曲:久保田利伸 編:有賀啓雄
7.「ときめくままに」 詞:松本一起 曲:久保田利伸 編:有賀啓雄
8.「One more love tonight」 詞・曲:中島文明 編:有賀啓雄・藤井丈司
9.「Just Feelin’ Groove」 詞:柳川英巳 曲:大沢誉志幸 編:大沢誉志幸・藤井丈司
10.「追想」 詞:柳川英巳 曲:鈴木雅之 編:有賀啓雄
<support musician>
窪田晴男:guitars
柴山和彦:guitars
高山一也:guitars
布袋寅泰:guitars
有賀啓雄:bass
荻原基文:bass
古田たかし:drums
矢壁アツノブ:drums
小林武史:keyboards
竹田元:keyboards
ホッピー神山:keyboards
矢代恒彦:keyboards
矢口博康:sax
広瀬由美子ストリングス:strings
藤井丈司:computer programming
noise media:computer programming
produced by 大沢誉志幸
engineered by 坂元達也
● ブラックコンテンポラリーなイメージを一新してアヴァンギャルドなデジタルファンクにも挑戦した野心溢れる1stソロアルバム
言わずと知れた”マーチン”こと元シャネルズ、ラッツ&スターのメインヴォーカリスト鈴木雅之。黒塗り&タキシードというインパクトの強いヴィジュアルで、ドゥーワップを中心としたブラックミュージックを世間に浸透させた画期的グループとして、80年代前半は「ランナウェイ」「街角トワイライト」「め組の人」とヒット曲を連発しました。その後80年代も中盤に差し掛かると、メンバーの個人活動が活発となり同グループは活動休止し、メインヴォーカルの鈴木雅之は当然のことながらその歌唱力を買われる形で、ソロデビューを果たすことになります。しかし当時はやはり黒塗りのイメージが強かったこともあり、直球のブラックミュージックに対する志向から変化を見せつけたいとの方針から、まずは「そして僕は途方にくれる」で大ヒットを飛ばした大沢誉志幸をプロデューサーに迎え、1986年「そして〜」と同じカップラーメンのCMソング「ガラス越しに消えた夏」でデビュー、「そして〜」の続編的な幻想的なバラードソングは当然のことながらスマッシュヒットとなり、順風満帆の船出で同年大沢プロデュースのもと、1stソロアルバムがリリースされることになります。
86年あたりの大沢誉志幸といえば当時の彼の作品群からもわかりますように、PINKのホッピー神山を迎えたデジタルファンク全盛期。というわけで当然本作でも鈴木本人の志向とは裏腹に1曲目「ふたりの焦燥」からPINK色全開の疾走デジファンクが炸裂します。デビュー前の岡村靖幸を作曲に迎えた「別の夜へ」、布袋寅泰参加の大ヒットシングル「ガラス越しに消えた夏」、いわゆるA面(前半)の5曲目である変態キテレツファンクの「メランコリーの欲望」までホッピー神山のアレンジが続きますが、ここまでは完全に冒険的なサウンドメイクで圧倒されるアヴァンギャルドサイドです。かたやB面(後半)に入ると、こちらは原田真二&クライシスで名を馳せた有賀啓雄アレンジが続きます。こちらでは比較的ポップな肌触りで、こちらもデビュー直前の久保田利伸を作曲家として2曲に起用するなど、後年のビッグアーティストの博覧会の様相を呈しています。久保田作曲の「ときめくままに」ではこれもイメージを覆す爽やかな空気が漂うまっさらなポップチューンを歌い上げていますが、ポップな有賀アレンジにしてもプログラマー藤井丈司と組んだ「One more love tonight」では、ホッピーサウンドに負けずとも劣らないデジファンクで前衛性を露わにしています。本作でやっと鈴木の志向が反映されるのが9曲目のアカペラ「Just Feelin’ Groove」で、ここでやっと自分の得意なフィールドの中で伸び伸びと歌い上げることに専念できています。既に実績を積み重ねたヴォーカリストである鈴木にとっては、なんとも野心的で気の抜けないチャレンジングな作品ではありますが、このバラエティ豊富な楽曲の数々は、彼のパブリックイメージを見事に覆すと共にヴォーカリストとしての可能性を広げることに成功したと言えるのではないでしょうか。次作以降は自身のルーツに忠実な楽曲に落ち着いていきますが、若かりし頃、そして80年代だからこそできるチャレンジをここで積み上げたことは、現在も第一線で活躍する鈴木雅之にとって貴重な経験であったのではないかと思います。
<Favorite Songs>
・「ふたりの焦燥」
疾走感のあるビートが攻撃的なデジタルファンクチューン。ベースは岡野ハジメではなく荻原基文ことMECKENですが、矢壁アツノブの繰り出すビートにキレのあるスラップで応戦しています。そして当然そこには直線的でシャープなホッピー神山のシンセが絡んでいきます。もはや歌だけがマーチンで他はPINKそのものです。
・「ガラス越しに消えた夏」
CMタイアップソングとして大ヒットした珠玉のバラードソング。深いリバーブがかかった幻想的なサウンドデザイン、その白玉シンセの美しさはPINKの名バラード「人体星月夜II」を彷彿とさせます。そこに矢口博康サックスと布袋寅泰のギターが絡む、ブラックテイストを微塵も感じさせないファンタジックワールドです。
・「メランコリーな欲望」
アヴァンギャルドなサックスフレーズが炸裂する変態ファンクチューン。ギミック満載のフレーズ構成、ゲートリバーブが施されたタムドラムはガンガン乱れ打ち、ヴォーカルは完全に大沢そのもの。鈴木雅之のイメージを完全に覆す
<評点>
・サウンド ★★★★ (完全にデジファンクに持ち込んだ過激サウンドの応酬)
・メロディ ★★★ (大沢・岡村・久保田と稀代の作曲家の稀な共演)
・リズム ★★★★ (矢壁&古田の80's特有のビシバシドラムが炸裂)
・曲構成 ★★ (息抜きの楽曲も入れてしまい軸がぶれた感も)
・個性 ★★ (鈴木雅之の実績を考えるとオーバープロデュース気味か)
総合評点: 8点
鈴木雅之:vocal

1.「ふたりの焦燥」 詞:竹花いち子 曲・編:ホッピー神山
2.「別の夜へ〜Let’s go」 詞:柳川英巳 曲:岡村靖幸 編:ホッピー神山
3.「ガラス越しに消えた夏」 詞:松本一起 曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
4.「輝きと呼べなくて」 詞:柳川英巳 曲:鈴木雅之・大沢誉志幸 編:ホッピー神山
5.「メランコリーな欲望」 詞・曲:大沢誉志幸 編:ホッピー神山
6.「今夜だけひとりになれない」 詞:柳川英巳 曲:久保田利伸 編:有賀啓雄
7.「ときめくままに」 詞:松本一起 曲:久保田利伸 編:有賀啓雄
8.「One more love tonight」 詞・曲:中島文明 編:有賀啓雄・藤井丈司
9.「Just Feelin’ Groove」 詞:柳川英巳 曲:大沢誉志幸 編:大沢誉志幸・藤井丈司
10.「追想」 詞:柳川英巳 曲:鈴木雅之 編:有賀啓雄
<support musician>
窪田晴男:guitars
柴山和彦:guitars
高山一也:guitars
布袋寅泰:guitars
有賀啓雄:bass
荻原基文:bass
古田たかし:drums
矢壁アツノブ:drums
小林武史:keyboards
竹田元:keyboards
ホッピー神山:keyboards
矢代恒彦:keyboards
矢口博康:sax
広瀬由美子ストリングス:strings
藤井丈司:computer programming
noise media:computer programming
produced by 大沢誉志幸
engineered by 坂元達也
● ブラックコンテンポラリーなイメージを一新してアヴァンギャルドなデジタルファンクにも挑戦した野心溢れる1stソロアルバム
言わずと知れた”マーチン”こと元シャネルズ、ラッツ&スターのメインヴォーカリスト鈴木雅之。黒塗り&タキシードというインパクトの強いヴィジュアルで、ドゥーワップを中心としたブラックミュージックを世間に浸透させた画期的グループとして、80年代前半は「ランナウェイ」「街角トワイライト」「め組の人」とヒット曲を連発しました。その後80年代も中盤に差し掛かると、メンバーの個人活動が活発となり同グループは活動休止し、メインヴォーカルの鈴木雅之は当然のことながらその歌唱力を買われる形で、ソロデビューを果たすことになります。しかし当時はやはり黒塗りのイメージが強かったこともあり、直球のブラックミュージックに対する志向から変化を見せつけたいとの方針から、まずは「そして僕は途方にくれる」で大ヒットを飛ばした大沢誉志幸をプロデューサーに迎え、1986年「そして〜」と同じカップラーメンのCMソング「ガラス越しに消えた夏」でデビュー、「そして〜」の続編的な幻想的なバラードソングは当然のことながらスマッシュヒットとなり、順風満帆の船出で同年大沢プロデュースのもと、1stソロアルバムがリリースされることになります。
86年あたりの大沢誉志幸といえば当時の彼の作品群からもわかりますように、PINKのホッピー神山を迎えたデジタルファンク全盛期。というわけで当然本作でも鈴木本人の志向とは裏腹に1曲目「ふたりの焦燥」からPINK色全開の疾走デジファンクが炸裂します。デビュー前の岡村靖幸を作曲に迎えた「別の夜へ」、布袋寅泰参加の大ヒットシングル「ガラス越しに消えた夏」、いわゆるA面(前半)の5曲目である変態キテレツファンクの「メランコリーの欲望」までホッピー神山のアレンジが続きますが、ここまでは完全に冒険的なサウンドメイクで圧倒されるアヴァンギャルドサイドです。かたやB面(後半)に入ると、こちらは原田真二&クライシスで名を馳せた有賀啓雄アレンジが続きます。こちらでは比較的ポップな肌触りで、こちらもデビュー直前の久保田利伸を作曲家として2曲に起用するなど、後年のビッグアーティストの博覧会の様相を呈しています。久保田作曲の「ときめくままに」ではこれもイメージを覆す爽やかな空気が漂うまっさらなポップチューンを歌い上げていますが、ポップな有賀アレンジにしてもプログラマー藤井丈司と組んだ「One more love tonight」では、ホッピーサウンドに負けずとも劣らないデジファンクで前衛性を露わにしています。本作でやっと鈴木の志向が反映されるのが9曲目のアカペラ「Just Feelin’ Groove」で、ここでやっと自分の得意なフィールドの中で伸び伸びと歌い上げることに専念できています。既に実績を積み重ねたヴォーカリストである鈴木にとっては、なんとも野心的で気の抜けないチャレンジングな作品ではありますが、このバラエティ豊富な楽曲の数々は、彼のパブリックイメージを見事に覆すと共にヴォーカリストとしての可能性を広げることに成功したと言えるのではないでしょうか。次作以降は自身のルーツに忠実な楽曲に落ち着いていきますが、若かりし頃、そして80年代だからこそできるチャレンジをここで積み上げたことは、現在も第一線で活躍する鈴木雅之にとって貴重な経験であったのではないかと思います。
<Favorite Songs>
・「ふたりの焦燥」
疾走感のあるビートが攻撃的なデジタルファンクチューン。ベースは岡野ハジメではなく荻原基文ことMECKENですが、矢壁アツノブの繰り出すビートにキレのあるスラップで応戦しています。そして当然そこには直線的でシャープなホッピー神山のシンセが絡んでいきます。もはや歌だけがマーチンで他はPINKそのものです。
・「ガラス越しに消えた夏」
CMタイアップソングとして大ヒットした珠玉のバラードソング。深いリバーブがかかった幻想的なサウンドデザイン、その白玉シンセの美しさはPINKの名バラード「人体星月夜II」を彷彿とさせます。そこに矢口博康サックスと布袋寅泰のギターが絡む、ブラックテイストを微塵も感じさせないファンタジックワールドです。
・「メランコリーな欲望」
アヴァンギャルドなサックスフレーズが炸裂する変態ファンクチューン。ギミック満載のフレーズ構成、ゲートリバーブが施されたタムドラムはガンガン乱れ打ち、ヴォーカルは完全に大沢そのもの。鈴木雅之のイメージを完全に覆す
<評点>
・サウンド ★★★★ (完全にデジファンクに持ち込んだ過激サウンドの応酬)
・メロディ ★★★ (大沢・岡村・久保田と稀代の作曲家の稀な共演)
・リズム ★★★★ (矢壁&古田の80's特有のビシバシドラムが炸裂)
・曲構成 ★★ (息抜きの楽曲も入れてしまい軸がぶれた感も)
・個性 ★★ (鈴木雅之の実績を考えるとオーバープロデュース気味か)
総合評点: 8点
「FACE」 FLAT FACE
「FACE」 (1986 ミディ)
FLAT FACE

<members>
武末淑子:vocal
武末充敏:all instruments
1.「HONEYMOON IN PARIS」 詞・曲・編:FLAT FACE
2.「DADA」 詞:FLAT FACE 曲:河崎正芳・FLAT FACE 編:FLAT FACE
3.「LOOK」 詞・曲・編:FLAT FACE
4.「シェリーに口づけ」 詞・曲:Michael Polnareff 編:FLAT FACE
5.「池を越えて」 詞・曲・編:FLAT FACE
6.「ガス燈の下で」 詞・曲・編:FLAT FACE
7.「私もヒゲが欲しい」 詞・曲・編:FLAT FACE
8.「新しいシャンソン」 詞・曲・編:FLAT FACE
9.「MBA」 詞・曲・編:FLAT FACE
10.「日々の泡」 詞・曲・編:FLAT FACE
<support musician>
松本キヨノブ:guitar
河崎正芳:keyboard
produced by FLAT FACE
co-produced by 藤井丈司
engineered by 重藤功・重藤進
● 家内制手工業的ヨーロッパ旅行のお土産といった風情に両面性が垣間見える多重録音夫婦デュオ唯一の作品
1970年代の日本ロック黎明期に2枚のアルバムを残した伝説のロックバンド葡萄畑のオリジナルドラマーであった武末充敏は、80年代に入ると東京に別れを告げ故郷である福岡に拠点を移します。80年代は多重録音急成長期ということもあり、武末は妻である武末淑子と夫婦多重録音ユニットFLAT FACEを結成、彼らのデモソングが当時設立したばかりのMIDIレコードの目に止まり、1986年1stアルバムである本作のリリースに至ります。坂本龍一や大貫妙子、EPO、立花ハジメ、鈴木さえ子・矢野顕子ら錚々たるメンバーであった初期MIDIにあっては、沢村満率いるMICH LIVEや野見祐二のデビューユニット・おしゃれテレビといった無名の実力派ユニットも名を連ねていましたが、その中でもFLAT FACEは比較的匿名性が高いユニットという認識が強く、先行シングル「HONEYMOON IN PARIS」においてその牧歌的エレポップといった風情は確認できてはいたものの、本作においてその全貌が明らかになったのでした。
さて本作の蓋を開けてみれば、まず前述の「HONEYMOON IN PARIS」の牧歌的世界観にグッと引き寄せられるわけですが、まずは武末淑子の大貫妙子ばりの清涼感を漂わせた上品な声質によるヴォーカルに否が応でも耳を捉えます。リバーブ感たっぷりのヴォーカルパートと、ギター、ドラムマシン&シンセが中心の音数の少ないオーガニックなサウンドは、過激なサウンドを求め過ぎていた80年代後半に差し掛かる時代にあって、ネオアコースティックと呼ばれるムーブメントを先取りするかのような先見性に優れたセンスを備えているといった印象を受けます。マシナリーになりがちなドラムマシンによるリズムパートでありながら、人間味を感じさせる温かなサウンドを維持し続けているのはやはり朴訥なフレーズを奏で続けるギターフレーズによるもので、特に「池を越えて」や「私もヒゲが欲しい」等ではフレットの音も生々しい手弾き音色の存在感がそのまま彼らのサウンド的個性として生きています。かたや「DADA」や「シェリーに口づけ」「ガス燈の下で」等ではリズムが強調されたり、ボイスサンプリングやエフェクトなどでエレクトリックな処理が活躍するなど(これにはDATE OF BIRTHの重藤兄弟によるミキシングの功績も大きいと思いますが)、打ち込み多重録音ユニットとしての周囲の期待を裏切らず、牧歌的なヨーロピアンテイストを振りまきながらも内に秘めた激しさも垣間見せる表裏一体の「阿修羅FACE」を見せる形となっているところが、本作の実に興味深い部分と言えるのではないでしょうか。
結局本ユニットの作品は本作で打ち止め、ユニットも夫婦も解散しそれぞれ別の道に歩む2人ですが、ヴォーカルの武末淑子は「高取淑子」として90年代末にアジアンテイストを獲得したシンガーソングライターとしてデビューし、現在もマイペースに息長く活動を続けています。しかし武末充敏は福岡でも有名なインテリアショップを運営するなど音楽から離れていますので、これまでの経緯から考えても再始動は叶わないとは思いますが、本作は2013年にリマスターもされるなど、(活動当時からは想像できないほど)長く語り継がれています。
<Favorite Songs>
・「DADA」
彼らの楽曲にしてはメカニカル感が強調されたエレポップチューン。このメカニカル感は間違いなく強烈に主張するリズムトラックによるものでしょう。ゲートリバーブを惜しげも無く施されたタムの乱れ打ちが、相変わらずの長閑なメロディに唐辛子をぶち込むがごとくグイグイとパワーを注入していきます。間奏のドラムマシンソロは圧巻です。
・「LOOK」
前曲からクロスフェードしてくるメランコリック&ヨーロピアン情緒たっぷりのジャジーなおしゃれポップ。生き生きとした河崎正芳のオルガンプレイが美しく、打ち込み中心の本作にあってフィジカルな要素に温かみを感じるエレガントチューンです。
・「ガス燈の下で」
本作でもエレクトロな風味を味わせてくれるハードボイルドなデジタルポップ。ボイス変調によるフレーズを多用したり、キレ重視の尖った音色を中心にしたり、彼らにしては攻撃的なサウンドですが、救いは良い意味でのヴォーカルの線の細さ。奇妙なエンディングも面白いです。
<評点>
・サウンド ★★ (手作り感満載の音作りの温かさを感じる音処理)
・メロディ ★★ (輪郭のはっきりしないフレーズが幸福感を誘う)
・リズム ★★★ (長閑な楽曲にしてはなかなかの派手好みなプログラム)
・曲構成 ★★ (地味な楽曲も多いが効果的なエレクトロがスパイスに)
・個性 ★★ (時代背景もあってネオアコ的だがエレクトロ色が強い)
総合評点: 7点
FLAT FACE

<members>
武末淑子:vocal
武末充敏:all instruments
1.「HONEYMOON IN PARIS」 詞・曲・編:FLAT FACE
2.「DADA」 詞:FLAT FACE 曲:河崎正芳・FLAT FACE 編:FLAT FACE
3.「LOOK」 詞・曲・編:FLAT FACE
4.「シェリーに口づけ」 詞・曲:Michael Polnareff 編:FLAT FACE
5.「池を越えて」 詞・曲・編:FLAT FACE
6.「ガス燈の下で」 詞・曲・編:FLAT FACE
7.「私もヒゲが欲しい」 詞・曲・編:FLAT FACE
8.「新しいシャンソン」 詞・曲・編:FLAT FACE
9.「MBA」 詞・曲・編:FLAT FACE
10.「日々の泡」 詞・曲・編:FLAT FACE
<support musician>
松本キヨノブ:guitar
河崎正芳:keyboard
produced by FLAT FACE
co-produced by 藤井丈司
engineered by 重藤功・重藤進
● 家内制手工業的ヨーロッパ旅行のお土産といった風情に両面性が垣間見える多重録音夫婦デュオ唯一の作品
1970年代の日本ロック黎明期に2枚のアルバムを残した伝説のロックバンド葡萄畑のオリジナルドラマーであった武末充敏は、80年代に入ると東京に別れを告げ故郷である福岡に拠点を移します。80年代は多重録音急成長期ということもあり、武末は妻である武末淑子と夫婦多重録音ユニットFLAT FACEを結成、彼らのデモソングが当時設立したばかりのMIDIレコードの目に止まり、1986年1stアルバムである本作のリリースに至ります。坂本龍一や大貫妙子、EPO、立花ハジメ、鈴木さえ子・矢野顕子ら錚々たるメンバーであった初期MIDIにあっては、沢村満率いるMICH LIVEや野見祐二のデビューユニット・おしゃれテレビといった無名の実力派ユニットも名を連ねていましたが、その中でもFLAT FACEは比較的匿名性が高いユニットという認識が強く、先行シングル「HONEYMOON IN PARIS」においてその牧歌的エレポップといった風情は確認できてはいたものの、本作においてその全貌が明らかになったのでした。
さて本作の蓋を開けてみれば、まず前述の「HONEYMOON IN PARIS」の牧歌的世界観にグッと引き寄せられるわけですが、まずは武末淑子の大貫妙子ばりの清涼感を漂わせた上品な声質によるヴォーカルに否が応でも耳を捉えます。リバーブ感たっぷりのヴォーカルパートと、ギター、ドラムマシン&シンセが中心の音数の少ないオーガニックなサウンドは、過激なサウンドを求め過ぎていた80年代後半に差し掛かる時代にあって、ネオアコースティックと呼ばれるムーブメントを先取りするかのような先見性に優れたセンスを備えているといった印象を受けます。マシナリーになりがちなドラムマシンによるリズムパートでありながら、人間味を感じさせる温かなサウンドを維持し続けているのはやはり朴訥なフレーズを奏で続けるギターフレーズによるもので、特に「池を越えて」や「私もヒゲが欲しい」等ではフレットの音も生々しい手弾き音色の存在感がそのまま彼らのサウンド的個性として生きています。かたや「DADA」や「シェリーに口づけ」「ガス燈の下で」等ではリズムが強調されたり、ボイスサンプリングやエフェクトなどでエレクトリックな処理が活躍するなど(これにはDATE OF BIRTHの重藤兄弟によるミキシングの功績も大きいと思いますが)、打ち込み多重録音ユニットとしての周囲の期待を裏切らず、牧歌的なヨーロピアンテイストを振りまきながらも内に秘めた激しさも垣間見せる表裏一体の「阿修羅FACE」を見せる形となっているところが、本作の実に興味深い部分と言えるのではないでしょうか。
結局本ユニットの作品は本作で打ち止め、ユニットも夫婦も解散しそれぞれ別の道に歩む2人ですが、ヴォーカルの武末淑子は「高取淑子」として90年代末にアジアンテイストを獲得したシンガーソングライターとしてデビューし、現在もマイペースに息長く活動を続けています。しかし武末充敏は福岡でも有名なインテリアショップを運営するなど音楽から離れていますので、これまでの経緯から考えても再始動は叶わないとは思いますが、本作は2013年にリマスターもされるなど、(活動当時からは想像できないほど)長く語り継がれています。
<Favorite Songs>
・「DADA」
彼らの楽曲にしてはメカニカル感が強調されたエレポップチューン。このメカニカル感は間違いなく強烈に主張するリズムトラックによるものでしょう。ゲートリバーブを惜しげも無く施されたタムの乱れ打ちが、相変わらずの長閑なメロディに唐辛子をぶち込むがごとくグイグイとパワーを注入していきます。間奏のドラムマシンソロは圧巻です。
・「LOOK」
前曲からクロスフェードしてくるメランコリック&ヨーロピアン情緒たっぷりのジャジーなおしゃれポップ。生き生きとした河崎正芳のオルガンプレイが美しく、打ち込み中心の本作にあってフィジカルな要素に温かみを感じるエレガントチューンです。
・「ガス燈の下で」
本作でもエレクトロな風味を味わせてくれるハードボイルドなデジタルポップ。ボイス変調によるフレーズを多用したり、キレ重視の尖った音色を中心にしたり、彼らにしては攻撃的なサウンドですが、救いは良い意味でのヴォーカルの線の細さ。奇妙なエンディングも面白いです。
<評点>
・サウンド ★★ (手作り感満載の音作りの温かさを感じる音処理)
・メロディ ★★ (輪郭のはっきりしないフレーズが幸福感を誘う)
・リズム ★★★ (長閑な楽曲にしてはなかなかの派手好みなプログラム)
・曲構成 ★★ (地味な楽曲も多いが効果的なエレクトロがスパイスに)
・個性 ★★ (時代背景もあってネオアコ的だがエレクトロ色が強い)
総合評点: 7点