「OCTOPUSSY」 なかやまて由希
「OCTOPUSSY」(1983 ポリスター)
なかやまて由希:vocal・chorus
1.「アンジェ・ブラン」 詞:ちあき哲也 曲:筒美京平 編:佐久間正英
2.「トロワ」 詞:ちあき哲也 曲:筒美京平 編:佐久間正英
3.「おんな教師」 詞:ちあき哲也 曲:筒美京平 編:佐久間正英
4.「重役室 P.M 4」 詞:竹花いち子 曲:筒美京平 編:佐久間正英
5.「噂のフィンガー」 詞:竹花いち子 曲:筒美京平 編:茂木由多加
6.「シルエット・コール」 詞:ちあき哲也 曲:筒美京平 編:茂木由多加
7.「トップ・モデル」 詞:よこすか未美 曲:筒美京平 編:茂木由多加
8.「チキータ」 詞:よこすか未美 曲:筒美京平 編:茂木由多加
<support musician>
北島健二:electric guitar
直居隆雄:acoustic guitar
竹内郁子:mandolin
田中早苗:mandolin
佐久間正英:bass・electric guitar・Sequencial PRO-ONE・Roland JUNO-6・bell
岡沢章:bass
美久月千晴:bass
岡井大二:drums
由木秀夫:drums
中西康晴:acoustic piano
難波弘之:acoustic piano・Roland JUNO-6・YAMAHA GS-1・clarinet
茂木由多加:electric piano・acoustic piano・Sequencial PRO-ONE・Sequencial Prophet-5・Moog・YAMAHA GS-1
風間文彦:accordion
木村誠:latin percussion
斉藤ノブ:latin percussion
中沢健二:trumpet
新井英治:trombone
中村哲:sax・Oberheim OB-Xa
沖田晏宏:horn
中谷望:flute
Jake H.Concepcion:clarinet
石橋雅一:oboe
多ストリングス:strings
武田実:viola
堀内茂雄:viola
EVE:chorus
ペッカー:chorus
MADAME X:chorus
鈴木宏子:chorus
和田夏代子:chorus
produced by 今野雄二
mixing engineered by 内沼映二
recording engineered by 内沼映二・清水邦彦
●2人の先鋭的なアレンジャーが辣腕を振るう場末ニューウェーブ歌謡ともいうべき異色のヴォーカルアルバム
学生時代よりフォークシンガーとして活動し、1980年にシングル「テレフォン・ボックス」で歌手デビューを果たしたなかやまて由希は、その時代性も相まっていわゆるニューミュージック系に表現力豊かな歌唱力を備えた楽曲の作詞作曲をこなすクリエイター気質のシンガーでしたが、あの松原みきと同じディレクターであった佐藤文彦仕事である1981年リリースのシティポップな1stアルバム「Hold Me Tender」はマニアックな評価にとどまり、逆に林哲司を作編曲に迎えたシングル「やさしく傷つけて」、1982年に人気刑事ドラマ「Gメン'82」エンディング主題歌に起用された筒美京平作曲「抱擁」がヒット、同年にはステファニー名義で24時間テレビない放映のアニメ「アンドロメダ・ストーリー」のエンディング主題歌「永遠の一秒」を歌うなど、歌手として徐々に実績を残していきました。かたや1980年からは佐野元春のバックバンド、ザ・ハートランドの女性コーラス隊であったプリティ・フラミンゴスにおいても、白井貴子や杉本和代らとバックコーラスメンバーとして活動するなど、歯車が噛み合ったような活躍を見せていく中で翌1983年にリリースされた2ndアルバムが本作ということになります。
前作ではなかやまて本人が全作曲を手掛けたソングライター作品でしたが、本作ではシングル「抱擁」の成功もあってか、全作曲が大御所・筒美京平に任されます。プロデューサーには映画評論家であり音楽評論家でもある今野雄二が務めたこともあり、まるで洋画の吹き替えのようなコンセプチュアルな世界観が展開されています。レコードA面が<THE "S"SIDE>、B面が<THE "M"SIDE>といういかがわしいカテゴライズがなされていますが、その非常に官能的な世界観をサウンドで表現するため、2名の先進的なアレンジャーを迎えています。<THE "S"SIDE>には四人囃子→プラスチックスとプログレとニューウェーブを股にかけテクノロジーを積極的に使用し続ける当時気鋭のサウンドメイカー佐久間正英、そして<THE "M"SIDE>には同じく元四人囃子でありソロアルバムも2枚発表、佐久間の相棒としてシンセサイザー奏者として活躍、近田春夫&BEEF(ジューシィ・フルーツの前身)のサポートとして個性的なシンセプレイを見せてくれた茂木由多加です。歌手というより女優を演じ続けるようなシアトリカルなパフォーマンスを見せるなかやまての歌唱が個性的な本作の中で、佐久間はRoland JUNO-6、茂木はProphet-5を中心に印象的なシンセサウンドを構築、サポートに入った難波弘之に至ってはFM音源方式シンセの元祖・YAMAHA GS-1を持ち出して、楽曲ごとに表情を変える8曲の音像に彩りを加えることに成功しています。アンビエント風味な「おんな教師」、バカラック引用なソフトロック「重役室 P.M 4」、そして狂乱のシンセ博覧会な「噂のフィンガー」が本作のハイライトといえますが、実にバラエティに富みながら歌謡曲の嗜みを忘れない、なのにサウンドは当時最先端という80年代前半ならではの倒錯した音世界が楽しめる貴重な作品と言えるでしょう。その後なかやまてが病気を理由に突然音楽活動から引退してしまうだけに(21世紀以降復活しましたが残念ながら2022年に逝去:なお、今野・筒美・佐久間・茂木も既に故人)、本作の異様な存在感がいやがおうにも主張するわけで、現在でも再評価に足る作品として語り継がれる資格十分と思われます。
<Favorite Songs>
・「アンジェ・ブラン」
ヴィオラとサックスの響きも艶かしいヨーロピアンなオープニングナンバー。イントロのチープなアルペジオはRoland JUNO-6の得意技で、アルバム冒頭のインパクトとしては大成功です。ディレイを効かせたパッドや細かいオートリズム、サイレンの音などシンセを使用したフレーズによる表現にこだわっています。
・「噂のフィンガー」
強烈なギュインギュインクロスモジュレーションシンセからスタートする高速テクノポップチューン。16ビートで迫るレゾナンス感たっぷりのシンセベースや、ギターライクな強烈なモジュレーションのシンセサイザーソロが絶品です。
・「チキータ」
パーカッション奏者ペッカーとのエレクトリカルレゲエデュエット歌謡。ポルタメントを効かせた浮遊感たっぷりのサビ裏のシンセパッドが素晴らしく、ガヤのフィールドレコーディングも効果として面白いです。全体的にコミカルなイメージですが、ティンパレス等のラテンパーカッションの中に明らかなシモンズショットも散見されるのも楽しいです。
<評点>
・サウンド ★★★★ (シンセサイザー大活躍の先鋭的なサウンドメイク)
・メロディ ★★ (ヒットソングとは異なった筒美京平の世界がある)
・リズム ★★ (楽曲を邪魔しない安定感は本作の傾向なら正解)
・曲構成 ★★★ (前半と後半でアレンジャーを分けた試みは良い)
・個性 ★★★ (前作やシングル曲とは真逆の挑戦的な傑作)
総合評点: 7点
CD購入はこちら→ 「OCTOPUSSY」 なかやまて由希
なかやまて由希:vocal・chorus
1.「アンジェ・ブラン」 詞:ちあき哲也 曲:筒美京平 編:佐久間正英
2.「トロワ」 詞:ちあき哲也 曲:筒美京平 編:佐久間正英
3.「おんな教師」 詞:ちあき哲也 曲:筒美京平 編:佐久間正英
4.「重役室 P.M 4」 詞:竹花いち子 曲:筒美京平 編:佐久間正英
5.「噂のフィンガー」 詞:竹花いち子 曲:筒美京平 編:茂木由多加
6.「シルエット・コール」 詞:ちあき哲也 曲:筒美京平 編:茂木由多加
7.「トップ・モデル」 詞:よこすか未美 曲:筒美京平 編:茂木由多加
8.「チキータ」 詞:よこすか未美 曲:筒美京平 編:茂木由多加
<support musician>
北島健二:electric guitar
直居隆雄:acoustic guitar
竹内郁子:mandolin
田中早苗:mandolin
佐久間正英:bass・electric guitar・Sequencial PRO-ONE・Roland JUNO-6・bell
岡沢章:bass
美久月千晴:bass
岡井大二:drums
由木秀夫:drums
中西康晴:acoustic piano
難波弘之:acoustic piano・Roland JUNO-6・YAMAHA GS-1・clarinet
茂木由多加:electric piano・acoustic piano・Sequencial PRO-ONE・Sequencial Prophet-5・Moog・YAMAHA GS-1
風間文彦:accordion
木村誠:latin percussion
斉藤ノブ:latin percussion
中沢健二:trumpet
新井英治:trombone
中村哲:sax・Oberheim OB-Xa
沖田晏宏:horn
中谷望:flute
Jake H.Concepcion:clarinet
石橋雅一:oboe
多ストリングス:strings
武田実:viola
堀内茂雄:viola
EVE:chorus
ペッカー:chorus
MADAME X:chorus
鈴木宏子:chorus
和田夏代子:chorus
produced by 今野雄二
mixing engineered by 内沼映二
recording engineered by 内沼映二・清水邦彦
●2人の先鋭的なアレンジャーが辣腕を振るう場末ニューウェーブ歌謡ともいうべき異色のヴォーカルアルバム
学生時代よりフォークシンガーとして活動し、1980年にシングル「テレフォン・ボックス」で歌手デビューを果たしたなかやまて由希は、その時代性も相まっていわゆるニューミュージック系に表現力豊かな歌唱力を備えた楽曲の作詞作曲をこなすクリエイター気質のシンガーでしたが、あの松原みきと同じディレクターであった佐藤文彦仕事である1981年リリースのシティポップな1stアルバム「Hold Me Tender」はマニアックな評価にとどまり、逆に林哲司を作編曲に迎えたシングル「やさしく傷つけて」、1982年に人気刑事ドラマ「Gメン'82」エンディング主題歌に起用された筒美京平作曲「抱擁」がヒット、同年にはステファニー名義で24時間テレビない放映のアニメ「アンドロメダ・ストーリー」のエンディング主題歌「永遠の一秒」を歌うなど、歌手として徐々に実績を残していきました。かたや1980年からは佐野元春のバックバンド、ザ・ハートランドの女性コーラス隊であったプリティ・フラミンゴスにおいても、白井貴子や杉本和代らとバックコーラスメンバーとして活動するなど、歯車が噛み合ったような活躍を見せていく中で翌1983年にリリースされた2ndアルバムが本作ということになります。
前作ではなかやまて本人が全作曲を手掛けたソングライター作品でしたが、本作ではシングル「抱擁」の成功もあってか、全作曲が大御所・筒美京平に任されます。プロデューサーには映画評論家であり音楽評論家でもある今野雄二が務めたこともあり、まるで洋画の吹き替えのようなコンセプチュアルな世界観が展開されています。レコードA面が<THE "S"SIDE>、B面が<THE "M"SIDE>といういかがわしいカテゴライズがなされていますが、その非常に官能的な世界観をサウンドで表現するため、2名の先進的なアレンジャーを迎えています。<THE "S"SIDE>には四人囃子→プラスチックスとプログレとニューウェーブを股にかけテクノロジーを積極的に使用し続ける当時気鋭のサウンドメイカー佐久間正英、そして<THE "M"SIDE>には同じく元四人囃子でありソロアルバムも2枚発表、佐久間の相棒としてシンセサイザー奏者として活躍、近田春夫&BEEF(ジューシィ・フルーツの前身)のサポートとして個性的なシンセプレイを見せてくれた茂木由多加です。歌手というより女優を演じ続けるようなシアトリカルなパフォーマンスを見せるなかやまての歌唱が個性的な本作の中で、佐久間はRoland JUNO-6、茂木はProphet-5を中心に印象的なシンセサウンドを構築、サポートに入った難波弘之に至ってはFM音源方式シンセの元祖・YAMAHA GS-1を持ち出して、楽曲ごとに表情を変える8曲の音像に彩りを加えることに成功しています。アンビエント風味な「おんな教師」、バカラック引用なソフトロック「重役室 P.M 4」、そして狂乱のシンセ博覧会な「噂のフィンガー」が本作のハイライトといえますが、実にバラエティに富みながら歌謡曲の嗜みを忘れない、なのにサウンドは当時最先端という80年代前半ならではの倒錯した音世界が楽しめる貴重な作品と言えるでしょう。その後なかやまてが病気を理由に突然音楽活動から引退してしまうだけに(21世紀以降復活しましたが残念ながら2022年に逝去:なお、今野・筒美・佐久間・茂木も既に故人)、本作の異様な存在感がいやがおうにも主張するわけで、現在でも再評価に足る作品として語り継がれる資格十分と思われます。
<Favorite Songs>
・「アンジェ・ブラン」
ヴィオラとサックスの響きも艶かしいヨーロピアンなオープニングナンバー。イントロのチープなアルペジオはRoland JUNO-6の得意技で、アルバム冒頭のインパクトとしては大成功です。ディレイを効かせたパッドや細かいオートリズム、サイレンの音などシンセを使用したフレーズによる表現にこだわっています。
・「噂のフィンガー」
強烈なギュインギュインクロスモジュレーションシンセからスタートする高速テクノポップチューン。16ビートで迫るレゾナンス感たっぷりのシンセベースや、ギターライクな強烈なモジュレーションのシンセサイザーソロが絶品です。
・「チキータ」
パーカッション奏者ペッカーとのエレクトリカルレゲエデュエット歌謡。ポルタメントを効かせた浮遊感たっぷりのサビ裏のシンセパッドが素晴らしく、ガヤのフィールドレコーディングも効果として面白いです。全体的にコミカルなイメージですが、ティンパレス等のラテンパーカッションの中に明らかなシモンズショットも散見されるのも楽しいです。
<評点>
・サウンド ★★★★ (シンセサイザー大活躍の先鋭的なサウンドメイク)
・メロディ ★★ (ヒットソングとは異なった筒美京平の世界がある)
・リズム ★★ (楽曲を邪魔しない安定感は本作の傾向なら正解)
・曲構成 ★★★ (前半と後半でアレンジャーを分けた試みは良い)
・個性 ★★★ (前作やシングル曲とは真逆の挑戦的な傑作)
総合評点: 7点
CD購入はこちら→ 「OCTOPUSSY」 なかやまて由希
「FOUR SEASONS」 秋本奈緒美
「FOUR SEASONS」(1983 ビクター)
秋本奈緒美:vocal
1.「CAPRICORN WOMAN」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
2.「DANCE, SHALL WE DANCE」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
3.「HE’S SO TRENDY」 詞:Andrew Everson・亜蘭知子 曲:Andrew Everson 編:岩本正樹
4.「DREAM ON FIRE」 詞:亜蘭知子 曲:西村昌敏 編:岩本正樹
5.「FOR YOU」 詞:Gwen Guthrie・亜蘭知子 曲:Gwen Guthrie 編:岩本正樹
6.「BAD IMAGINATION」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
7.「HONEY BEE」 詞:亜蘭知子 曲:西村昌敏 編:岩本正樹
8.「JINX」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
9.「SORRY」 詞:亜蘭知子 曲・編:岩本正樹
10.「STAY WITH ME」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
<support musician>
北島健二:guitar
松本孝弘:guitar
山田淳:guitar
西村昌敏:bass・chorus
岩本正樹:keyboards (Emulator・Roland Jupiter-8・SCI Prophet-5・Fender Rhodes・Yamaha CP-70B・Yamaha GS-1・acoustic piano etc)
伊東たけし:alto sax
古村敏比古:tenor sax
小室和之:chorus
水原明子:chorus
向井寛:chorus
梅野貴典:synthesizer programming・Roland MC-4 computer programming
produced by 星加哲
sound produced by 長戸大幸・岩本正樹
engineered by 西秀男
● ジャズ歌手としてデビューしながらエレクトリックに覚醒!若き日の岩本正樹が野心的な実験サウンドでやりたい放題した問題作
作曲家であった長戸大幸が織田哲郎や亜蘭知子らと設立した音楽事務所ビーイングは、清水靖晃や笹路正徳らマライアプロジェクトをはじめとした若く才能あるミュージシャンを集めて、既存の音楽制作手法から外れた実験精神溢れる楽曲制作を得意とする先進的な音楽制作集団でした。1980年に入って亜蘭知子、村田有美、清野由美らがマライアをバックにクセのあり過ぎる作品をリリースしていく中、弱冠19歳であった秋本奈緒美は1982年に1stアルバム「ROLLING 80'S」でデビュー、ジャズシンガーとしてのスタートと称しながらもプロデュースは清水靖晃でしたのでただのジャズになるはずはなく、随所でテクノロジー要素を秘めたサウンドメイクで怪しさを醸し出していました。その怪しさが決定的になったのが、わずか半年後にリリースされた笹路正徳プロデュースの2ndアルバム「ONE NIGHT STAND」収録のスタンダードナンバー「Tennessee Waltz」です。過激なリズムマシンに1音1音を切り取ったようなボーカルはまさにアヴァンギャルドそのものでしたが、同年冬にリリースされた入江純プロデュースの3rdアルバム「THE 20th ANNIVERSARY」はややシティポップ寄りのサウンドに変化し、やや落ち着いたように見えました(それでも十分チャレンジングですが)。ところが翌83年の4thアルバムはどこか突き抜けたような前衛精神に溢れたサウンドに変身してしまいました。
まず、アレンジャーが次世代に替わりました。これまでのマライア人脈ではなく当時は新進劇伴作家としてキャリアをスタートさせ、ビーイングが結成したプロデューサーチームBeing Blues Projectに参加していた岩本正樹に白羽の矢が立ちました。さらに作曲家としては長戸大幸社長のほかに、こちらも別のプロデューサーチームImage Forum Conceptに参加していた西村昌敏が2曲に参加、大胆な若手起用で新機軸を図っています。のっけからの「CAPRICORN WOMAN」から苛烈なドラムサウンドが炸裂、間奏で摩訶不思議なフレーズを挿入するなどただごとではない雰囲気でスタートすると、その後の楽曲はどれもが当時の常識からはかけ離れたようなギミックを連発、なぜこのような音やフレーズをぶっ込んでくるのか理解不能な楽曲が数多く収録されています。特にEmulatorの存在感は絶大で、この稀代の初期サンプラーの導入で楽曲としてはノーマルなメロディながらサウンドの尖り方が尋常でなく、POPsの範疇を超えた恐ろしいミキシングで聴き手を惑わせることこの上ありません。エンジニアはビーイング所有のスタジオBIRDMAN所属の西秀男で、このスタジオの1号エンジニアが小野誠彦であったことを考えても、その奔放な実験精神が想像できるというものでしょう。
かくして岩本正樹ら若手制作陣がやりたい放題を繰り返した挙句、世にも奇妙なキメラ的サウンドに仕上がった本作は、秋本奈緒美の後の女優としての成功も相まって記憶の片隅から消えかかってしまう問題作となってしまいましたが、初期ビーイングの先鋭化したサウンドメイキングの代表作として大いに取り上げられるべき傑作であると思います。なお、岩本正樹は数年後公私ともにパートナーとなる国分友理恵のChaka Khanライクな名盤「STEP」をプロデュースし、本作のエレクトロな経験を還元することになります。
<Favorite Songs>
「DANCE, SHALL WE DANCE」
16音符を正確に刻む心地よい電子ドラムに、ボコーダーのコーラス。テクノポップな構造のサウンドながら歪んだギターも随所に挿入する力強さも兼ね備えた名曲。過激なリバーブなどエフェクトも凝りまくっています。
・「DREAM ON FIRE」
変拍子リズムに過剰なディレイのギターが印象的なポップロックナンバー。水中に潜ったようなギミックを挿入してみたり、語尾を歪めて上昇させたり、その上でサックスが暴れ回ったりするので、実に気の抜けないチャレンジングな楽曲に仕上がっています。
・「SORRY」
小気味良い西村昌敏のベースプレイが堪能できるシティポップ寄りのエレクトロポップチューン。オシャレなコード展開にアーバンな雰囲気を漂わせますが、サビに至ればシンセリズムによるブレイクが主張を繰り返し、間奏では意図的に極端にパンを繰り返す聴き手の根性が試されるミックスが恐ろしいです。
<評点>
・サウンド ★★★★★(実験的とはいえここまでの過激さはなかなか存在しない)
・メロディ ★★★ (これだけの攻めたアレンジもポップなメロあってこそ)
・リズム ★★★★★(全て電子リズムだが過激なエフェクトで強い印象に)
・曲構成 ★★★★ (バラードにも容赦なく過激さを注入して飽きさせず)
・個性 ★★★★★(新しい音を生み出すそうとする気概を感じる)
総合評点: 9点
秋本奈緒美:vocal
1.「CAPRICORN WOMAN」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
2.「DANCE, SHALL WE DANCE」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
3.「HE’S SO TRENDY」 詞:Andrew Everson・亜蘭知子 曲:Andrew Everson 編:岩本正樹
4.「DREAM ON FIRE」 詞:亜蘭知子 曲:西村昌敏 編:岩本正樹
5.「FOR YOU」 詞:Gwen Guthrie・亜蘭知子 曲:Gwen Guthrie 編:岩本正樹
6.「BAD IMAGINATION」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
7.「HONEY BEE」 詞:亜蘭知子 曲:西村昌敏 編:岩本正樹
8.「JINX」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
9.「SORRY」 詞:亜蘭知子 曲・編:岩本正樹
10.「STAY WITH ME」 詞:亜蘭知子 曲:長戸大幸 編:岩本正樹
<support musician>
北島健二:guitar
松本孝弘:guitar
山田淳:guitar
西村昌敏:bass・chorus
岩本正樹:keyboards (Emulator・Roland Jupiter-8・SCI Prophet-5・Fender Rhodes・Yamaha CP-70B・Yamaha GS-1・acoustic piano etc)
伊東たけし:alto sax
古村敏比古:tenor sax
小室和之:chorus
水原明子:chorus
向井寛:chorus
梅野貴典:synthesizer programming・Roland MC-4 computer programming
produced by 星加哲
sound produced by 長戸大幸・岩本正樹
engineered by 西秀男
● ジャズ歌手としてデビューしながらエレクトリックに覚醒!若き日の岩本正樹が野心的な実験サウンドでやりたい放題した問題作
作曲家であった長戸大幸が織田哲郎や亜蘭知子らと設立した音楽事務所ビーイングは、清水靖晃や笹路正徳らマライアプロジェクトをはじめとした若く才能あるミュージシャンを集めて、既存の音楽制作手法から外れた実験精神溢れる楽曲制作を得意とする先進的な音楽制作集団でした。1980年に入って亜蘭知子、村田有美、清野由美らがマライアをバックにクセのあり過ぎる作品をリリースしていく中、弱冠19歳であった秋本奈緒美は1982年に1stアルバム「ROLLING 80'S」でデビュー、ジャズシンガーとしてのスタートと称しながらもプロデュースは清水靖晃でしたのでただのジャズになるはずはなく、随所でテクノロジー要素を秘めたサウンドメイクで怪しさを醸し出していました。その怪しさが決定的になったのが、わずか半年後にリリースされた笹路正徳プロデュースの2ndアルバム「ONE NIGHT STAND」収録のスタンダードナンバー「Tennessee Waltz」です。過激なリズムマシンに1音1音を切り取ったようなボーカルはまさにアヴァンギャルドそのものでしたが、同年冬にリリースされた入江純プロデュースの3rdアルバム「THE 20th ANNIVERSARY」はややシティポップ寄りのサウンドに変化し、やや落ち着いたように見えました(それでも十分チャレンジングですが)。ところが翌83年の4thアルバムはどこか突き抜けたような前衛精神に溢れたサウンドに変身してしまいました。
まず、アレンジャーが次世代に替わりました。これまでのマライア人脈ではなく当時は新進劇伴作家としてキャリアをスタートさせ、ビーイングが結成したプロデューサーチームBeing Blues Projectに参加していた岩本正樹に白羽の矢が立ちました。さらに作曲家としては長戸大幸社長のほかに、こちらも別のプロデューサーチームImage Forum Conceptに参加していた西村昌敏が2曲に参加、大胆な若手起用で新機軸を図っています。のっけからの「CAPRICORN WOMAN」から苛烈なドラムサウンドが炸裂、間奏で摩訶不思議なフレーズを挿入するなどただごとではない雰囲気でスタートすると、その後の楽曲はどれもが当時の常識からはかけ離れたようなギミックを連発、なぜこのような音やフレーズをぶっ込んでくるのか理解不能な楽曲が数多く収録されています。特にEmulatorの存在感は絶大で、この稀代の初期サンプラーの導入で楽曲としてはノーマルなメロディながらサウンドの尖り方が尋常でなく、POPsの範疇を超えた恐ろしいミキシングで聴き手を惑わせることこの上ありません。エンジニアはビーイング所有のスタジオBIRDMAN所属の西秀男で、このスタジオの1号エンジニアが小野誠彦であったことを考えても、その奔放な実験精神が想像できるというものでしょう。
かくして岩本正樹ら若手制作陣がやりたい放題を繰り返した挙句、世にも奇妙なキメラ的サウンドに仕上がった本作は、秋本奈緒美の後の女優としての成功も相まって記憶の片隅から消えかかってしまう問題作となってしまいましたが、初期ビーイングの先鋭化したサウンドメイキングの代表作として大いに取り上げられるべき傑作であると思います。なお、岩本正樹は数年後公私ともにパートナーとなる国分友理恵のChaka Khanライクな名盤「STEP」をプロデュースし、本作のエレクトロな経験を還元することになります。
<Favorite Songs>
「DANCE, SHALL WE DANCE」
16音符を正確に刻む心地よい電子ドラムに、ボコーダーのコーラス。テクノポップな構造のサウンドながら歪んだギターも随所に挿入する力強さも兼ね備えた名曲。過激なリバーブなどエフェクトも凝りまくっています。
・「DREAM ON FIRE」
変拍子リズムに過剰なディレイのギターが印象的なポップロックナンバー。水中に潜ったようなギミックを挿入してみたり、語尾を歪めて上昇させたり、その上でサックスが暴れ回ったりするので、実に気の抜けないチャレンジングな楽曲に仕上がっています。
・「SORRY」
小気味良い西村昌敏のベースプレイが堪能できるシティポップ寄りのエレクトロポップチューン。オシャレなコード展開にアーバンな雰囲気を漂わせますが、サビに至ればシンセリズムによるブレイクが主張を繰り返し、間奏では意図的に極端にパンを繰り返す聴き手の根性が試されるミックスが恐ろしいです。
<評点>
・サウンド ★★★★★(実験的とはいえここまでの過激さはなかなか存在しない)
・メロディ ★★★ (これだけの攻めたアレンジもポップなメロあってこそ)
・リズム ★★★★★(全て電子リズムだが過激なエフェクトで強い印象に)
・曲構成 ★★★★ (バラードにも容赦なく過激さを注入して飽きさせず)
・個性 ★★★★★(新しい音を生み出すそうとする気概を感じる)
総合評点: 9点
「うたかたの日々」 MARIAH
「うたかたの日々」 (1983 日本コロムビア)
MARIAH
<members>
清水靖晃:vocal・sax・keyboards
山木秀夫:drums・backing vocals
笹路正徳:keyboards
渡辺モリオ:bass・backing vocals
Jullie Fowell:vocal
1.「そこから・・・・・・」 詞:Jullie Fowell l・Seta Evenian 曲:清水靖晃 編:MARIAH
2.「視線」 詞:Seta Evenian 曲:清水靖晃 編:MARIAH
3.「花が咲いたら」 詞:生田朗 曲:清水靖晃 編:MARIAH
4.「不自由な鼠」 詞:Jullie Fowell・Seta Evenian 曲:清水靖晃 編:MARIAH
5.「空に舞うまぼろし」 詞:生田朗・村川ジミー聡 曲:清水靖晃 編:MARIAH
6.「心臓の扉」 詞:Jullie Fowell・Seta Evenian 曲:清水靖晃 編:MARIAH
7.「少年」 詞:Jullie Fowell 曲:清水靖晃 編:MARIAH
produced by MARIAH
mixing engineered by 小野誠彦
recording engineered by 高橋俊彦・小野誠彦
● プログレやフュージョンの域を越える凝りに凝った音響で緻密に組み立て上げられたアヴァンギャルドPOPSに仕上がったラストアルバム
サックスのみならず多彩な楽器を操るマルチプレイヤーとして現在もなお国内外で高い評価を得ている先鋭的なジャパニーズアーティスト・清水靖晃が自身のソロ活動を1978年に開始しますが、翌79年の2ndアルバム「マライア」をきっかけにスタートして実験的ロックプロジェクトがMARIAH(マライア)です。清水は自身のアルバムに清水靖晃グループという演奏集団を結成、キーボーディストの笹路正徳やドラマーの山木秀夫、ボーカリストの村川ジミー聡、小林泉美&フライング・ミミ・バンドで活動していたギタリスト土方隆行とベーシスト渡辺モリオを加えたこの集団は前述の2ndアルバムタイトルを拝借してMARIAHに移行、ジャズやフュージョンをベースとした卓越した演奏テクニックとプログレッシブロックに影響を受けた前衛的なアイデアを備えると、当時先鋭的なポップスシーンの構築を目指していた長戸大幸率いる音楽事務所ビーイングに在籍します。そこでMARIAHは自身のソロアルバムを積極的に制作できる環境を獲得する幸運に恵まれると、ビーイング在籍のシンガーであった亜蘭知子や秋本奈緒美、MARIAHと行動を共にしていた村田有美らのアルバムで当時急速に成長しつつあった電子楽器による音楽的実験の限りを尽くして、先鋭的なアルバムを若さに任せて次々に完成させていきました。かたやMARIAHとしては80年に「YENトリックス」、81年に「アウシュビッツ・ドリーム」と連続してアルバムをリリース、このあたりまではまだプログレフュージョンの演奏力重視の作風でしたが、レコード会社を移籍後の同年リリースの3rdアルバム「マージナル・ラヴ」からはニューウェーブな空気まで身に纏い始め、特に清水はその方面に傾倒していくことになります。そして82年のライブ盤「レッド・パーティ(悪魔の宴)」を経て、翌83年に制作された本作では、もうすっかり清水の無国籍ニューウェーブ路線にどっぷり浸かってしまっていたというわけです。
しかし本作のクオリティが1983年当時としては他の追随を許さない領域に達していることを思い知らされます。まず前作「マージナル・ラヴ」からの2年間で一体何があったのかと思わせるほどの大陸的無国籍感を演出するシンセサイザーを駆使した電子音空間と機械的リズムによる世界観は全く別バンドのようです。これはMARIAH名義とはいってもほぼ清水のソロワークといってよいほどの彼の音楽的指針により制作されているためですが(ある意味スタートに戻った感もあります)、それ以上にエンジニアに起用された小野誠彦(SEIGEN ONO)の音響テクニックが卓越しており、この一聴して理解できる音楽的質の高さは彼の貢献による部分が大きいと思われます。なお本作では辛うじてMARIAHのロック的側面を支えていたボーカルの村川ジミー聡は既に離脱していて、ボーカリストにはアルメニア人のヴィジュアルアーティストJullie Fowellが参加していますが、彼女の参加も無国籍感に拍車を欠けていることは否めません。「視線」や「不自由な鼠」のようなシンプルなミニマリズムすら感じさせる楽曲は彼女のボイスなしでは完成しなかったでしょう。なお、本作ではMARIAHというバンドのプログレハードな演奏を期待しては肩透かしを食らってしまうことになります。全体的に清水と小野の音遊びの極致といった内容でサウンドは非常にエレクトリカルでテクノロジカルな仕上がりになっています。それでいて見えてくるのは牧歌的かつ大陸的な自然風景というところが、彼らが1983年当時に提示した音楽的イメージということなのでしょう。
余りに清水が先鋭化し過ぎたため、MARIAHは本作を最後に消滅してしまいますが、清水靖晃や笹路正徳、土方隆行、山木秀夫らのその後の大活躍は語るに足りないほどです。本作である種の絶対領域に達した彼らのセンスとアイデア(+テクニック)はその後の日本の音楽シーンを陰日向に支えていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「花が咲いたら」
本作中でもMARIAHの音響的センスが堪能できる長尺無国籍ロックチューン。山木秀夫の正確に刻むドラミングや途中でスネアにかけられるロングリバーブが素晴らしいです。フリーキーなサックスプレイ、アジテーション的なナレーションの音処理など小野誠彦ミックスの技が光ります。
・「空に舞うまぼろし」
かたやこちらは本作では数少ないMARIAHの演奏的センスを垣間見せる比較的キャッチーなナンバー。本作では活躍の場面が少なかった土方隆行のキリキリしたギタープレイが絶妙な味わいを醸し出しています。
・「心臓の扉」
海外でも人気があるらしい大陸的広がりを感じさせる本作のリードチューン。グルーヴ感のない淡々としたリズムがベースになっています。Prophet-5を使用したシンセによる笛のようなリフが大陸イメージの正体ですが、YMOが辿り着くはずのアナザーワールド的な側面も感じさせます。
<評点>
・サウンド ★★★★★(細部に行き渡る前衛的かつ緻密な音響技術)
・メロディ ★ (歌はあくまで装飾的なものと捉えられるか)
・リズム ★★★ (生にしろ打ち込みにしろパターン構築が秀逸)
・曲構成 ★★ (あと少し楽曲を増やした大作を聴きたかった)
・個性 ★ (マライアとしてのグループ感覚は消失したか)
総合評点: 7点
MARIAH
<members>
清水靖晃:vocal・sax・keyboards
山木秀夫:drums・backing vocals
笹路正徳:keyboards
渡辺モリオ:bass・backing vocals
Jullie Fowell:vocal
1.「そこから・・・・・・」 詞:Jullie Fowell l・Seta Evenian 曲:清水靖晃 編:MARIAH
2.「視線」 詞:Seta Evenian 曲:清水靖晃 編:MARIAH
3.「花が咲いたら」 詞:生田朗 曲:清水靖晃 編:MARIAH
4.「不自由な鼠」 詞:Jullie Fowell・Seta Evenian 曲:清水靖晃 編:MARIAH
5.「空に舞うまぼろし」 詞:生田朗・村川ジミー聡 曲:清水靖晃 編:MARIAH
6.「心臓の扉」 詞:Jullie Fowell・Seta Evenian 曲:清水靖晃 編:MARIAH
7.「少年」 詞:Jullie Fowell 曲:清水靖晃 編:MARIAH
produced by MARIAH
mixing engineered by 小野誠彦
recording engineered by 高橋俊彦・小野誠彦
● プログレやフュージョンの域を越える凝りに凝った音響で緻密に組み立て上げられたアヴァンギャルドPOPSに仕上がったラストアルバム
サックスのみならず多彩な楽器を操るマルチプレイヤーとして現在もなお国内外で高い評価を得ている先鋭的なジャパニーズアーティスト・清水靖晃が自身のソロ活動を1978年に開始しますが、翌79年の2ndアルバム「マライア」をきっかけにスタートして実験的ロックプロジェクトがMARIAH(マライア)です。清水は自身のアルバムに清水靖晃グループという演奏集団を結成、キーボーディストの笹路正徳やドラマーの山木秀夫、ボーカリストの村川ジミー聡、小林泉美&フライング・ミミ・バンドで活動していたギタリスト土方隆行とベーシスト渡辺モリオを加えたこの集団は前述の2ndアルバムタイトルを拝借してMARIAHに移行、ジャズやフュージョンをベースとした卓越した演奏テクニックとプログレッシブロックに影響を受けた前衛的なアイデアを備えると、当時先鋭的なポップスシーンの構築を目指していた長戸大幸率いる音楽事務所ビーイングに在籍します。そこでMARIAHは自身のソロアルバムを積極的に制作できる環境を獲得する幸運に恵まれると、ビーイング在籍のシンガーであった亜蘭知子や秋本奈緒美、MARIAHと行動を共にしていた村田有美らのアルバムで当時急速に成長しつつあった電子楽器による音楽的実験の限りを尽くして、先鋭的なアルバムを若さに任せて次々に完成させていきました。かたやMARIAHとしては80年に「YENトリックス」、81年に「アウシュビッツ・ドリーム」と連続してアルバムをリリース、このあたりまではまだプログレフュージョンの演奏力重視の作風でしたが、レコード会社を移籍後の同年リリースの3rdアルバム「マージナル・ラヴ」からはニューウェーブな空気まで身に纏い始め、特に清水はその方面に傾倒していくことになります。そして82年のライブ盤「レッド・パーティ(悪魔の宴)」を経て、翌83年に制作された本作では、もうすっかり清水の無国籍ニューウェーブ路線にどっぷり浸かってしまっていたというわけです。
しかし本作のクオリティが1983年当時としては他の追随を許さない領域に達していることを思い知らされます。まず前作「マージナル・ラヴ」からの2年間で一体何があったのかと思わせるほどの大陸的無国籍感を演出するシンセサイザーを駆使した電子音空間と機械的リズムによる世界観は全く別バンドのようです。これはMARIAH名義とはいってもほぼ清水のソロワークといってよいほどの彼の音楽的指針により制作されているためですが(ある意味スタートに戻った感もあります)、それ以上にエンジニアに起用された小野誠彦(SEIGEN ONO)の音響テクニックが卓越しており、この一聴して理解できる音楽的質の高さは彼の貢献による部分が大きいと思われます。なお本作では辛うじてMARIAHのロック的側面を支えていたボーカルの村川ジミー聡は既に離脱していて、ボーカリストにはアルメニア人のヴィジュアルアーティストJullie Fowellが参加していますが、彼女の参加も無国籍感に拍車を欠けていることは否めません。「視線」や「不自由な鼠」のようなシンプルなミニマリズムすら感じさせる楽曲は彼女のボイスなしでは完成しなかったでしょう。なお、本作ではMARIAHというバンドのプログレハードな演奏を期待しては肩透かしを食らってしまうことになります。全体的に清水と小野の音遊びの極致といった内容でサウンドは非常にエレクトリカルでテクノロジカルな仕上がりになっています。それでいて見えてくるのは牧歌的かつ大陸的な自然風景というところが、彼らが1983年当時に提示した音楽的イメージということなのでしょう。
余りに清水が先鋭化し過ぎたため、MARIAHは本作を最後に消滅してしまいますが、清水靖晃や笹路正徳、土方隆行、山木秀夫らのその後の大活躍は語るに足りないほどです。本作である種の絶対領域に達した彼らのセンスとアイデア(+テクニック)はその後の日本の音楽シーンを陰日向に支えていくことになるのです。
<Favorite Songs>
・「花が咲いたら」
本作中でもMARIAHの音響的センスが堪能できる長尺無国籍ロックチューン。山木秀夫の正確に刻むドラミングや途中でスネアにかけられるロングリバーブが素晴らしいです。フリーキーなサックスプレイ、アジテーション的なナレーションの音処理など小野誠彦ミックスの技が光ります。
・「空に舞うまぼろし」
かたやこちらは本作では数少ないMARIAHの演奏的センスを垣間見せる比較的キャッチーなナンバー。本作では活躍の場面が少なかった土方隆行のキリキリしたギタープレイが絶妙な味わいを醸し出しています。
・「心臓の扉」
海外でも人気があるらしい大陸的広がりを感じさせる本作のリードチューン。グルーヴ感のない淡々としたリズムがベースになっています。Prophet-5を使用したシンセによる笛のようなリフが大陸イメージの正体ですが、YMOが辿り着くはずのアナザーワールド的な側面も感じさせます。
<評点>
・サウンド ★★★★★(細部に行き渡る前衛的かつ緻密な音響技術)
・メロディ ★ (歌はあくまで装飾的なものと捉えられるか)
・リズム ★★★ (生にしろ打ち込みにしろパターン構築が秀逸)
・曲構成 ★★ (あと少し楽曲を増やした大作を聴きたかった)
・個性 ★ (マライアとしてのグループ感覚は消失したか)
総合評点: 7点
「Cioccolata Special」 ショコラータ
「Cioccolata Special」(1983 TRA)
ショコラータ
<members>
カノカオリ:vocals
渋谷英広:guitar・alto sax
岡野ハジメ:bass・percussion
塚原卓:soprano sax・alto sax
渡辺蕗子:piano・Merotron・Tescord-B・percussion
市川マサズミ:drums
1.「O'DEL MIO DOLCE ADOOR」
詞・曲:Christoph Willibald Gluck 編:ショコラータ
2.「SANDWICHMAN」
詞:カノカオリ 伊訳詞:ピヌッチア 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
3.「DOLORE」 詞:ショコラータ 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
4.「AMARILLI」 詞:Giovanni Battista Guarini 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
5.「DANZA」 詞:Christina B.G. 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
6.「NINA」 詞:不明 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
7.「MALINCONIA」 詞・曲:Vincenzo Bellini 編:ショコラータ
8.「N/いつか見た青空」 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
9.「PACHIRA」
詞:カノカオリ 伊訳詞:ピヌッチア 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
松本晃彦:CP-80
阿部洋一:conga
梅野貴典:recording assistant
produced by 式田純
sound produced by 渋谷英広・岡野ハジメ
Co-recording engineered by 岡野ハジメ
●伝説のカセットブックTRAに収録されたカンツォーネニューウェーブバンドの文字通りトガッていた初期時代の貴重音源集
80年代を代表するスーパーバンド・PINKの個性的なメンバーの中で、ギタリストなのに影のような存在であった渋谷ヒデヒロがなぜPINKのようなヤンチャなプレイヤーだらけの個性派バンドに属していたのか、それはこのショコラータのという唯一無二の稀有なバンドに答えが隠されていると思われます。ショコラータは1982年に国立音楽大学声楽科に通っていた狩野香織(カノカオリ→後のかの香織)と早稲田大学の音楽スクールModern Music Troop在籍の渋谷英広(以降渋谷ヒデヒロと表記)を中心に結成され、桑原茂一が主宰する原宿のライブハウス、ピテカントロプス・エレクトスを根城にライブ活動を開始、カンツォーネをニューウェーブ式に解釈したようなアヴァンギャルドな音楽性と、スタイリッシュな出立ちが話題を呼び、瞬く間に東京の最先端サウンドとしてその存在を知られるようになります。メンバーには東京ブラボーに参加していた岡野ハジメがベーシストとして参加、キーボードには松本晃彦(後に崎谷健次郎率いるVIZIONでメジャーデビューするため脱退)と日本大学芸術学部作曲科在籍の渡辺蕗子が参加し、彼らの技巧と高いサウンドセンスを生かしたパフォーマンスと、写真家の伊島薫とデザイナーのミック板谷がアートワークを担当し、その戦略的なプロモーションも相まって、メジャーデビューは時間の問題と思われました。しかし、この時期は様々なポストニューウェーブバンドが近い界隈で入り乱れていた群雄割拠の時代で、ショコラータもその渦に巻き込まれる形となり、中心メンバーの渋谷ヒデヒロと岡野ハジメがPINKでメジャーデビューを果たすため脱退し。ここに第1期ショコラータは終焉を迎えることになります。
今回取り上げる「Cioccolata Special」はこの第1期ショコラータの活動記録が音源に残された貴重なアルバムで、最初のリリースは1983年、ニューウェーブ系カセットブックTRAからのカセットテープリリースでした(後に1997年に「Cioccolata Special」としてCD化されますが、ここでは1983年リリース作品として扱います)。TRAの看板バンドという扱いであったショコラータは異例の単独リリースということで、かなり特別扱いされていたことがわかります。まるで中世ヨーロッパに迷い込んだような世界観に、ファンクやジャズを取り入れたダンサブルなビートを聴かせたと思えば、歌われるのはイタリア歌曲集の詩。原曲がイタリア歌曲であることを全く匂わせない見事な翻案力がこの第1期ショコラータの魅力と言えるでしょう。それらの楽曲のイニシアチブを執り続けていたのがカバー曲以外のすべての作曲を手掛けていたのが渋谷ヒデヒロです(1997年CDのクレジットでは作詞作曲ショコラータと掲載されていますが、雑誌インタビューにおいて渋谷自身が作曲を担当していたことが記録されていますので、本レビューでは渋谷作曲として表記します)。ニューウェーブの匂いを感じさせながら、かの香織のカンツォーネパフォーマーとしての魅力も損なわずに複雑な構成の楽曲を提供していた渋谷の貢献度は非常に大きいと思われますが、彼は決してショコラータを自分の所有物とせず、作曲もショコラータというバンド全体という表記にするなど決して前へ出ようとしていません。その慎ましやかでありながらバンドを陰日向に支えまくる確かな演奏力を岡野が評価し、福岡ユタカやホッピー神山、スティーブエトウといった猛獣達が集まるPINKに誘い込んだものと推測します。ニューウェーブバンドには渋谷のような表には出なくとも陰で奇妙なフレーズを繰り出しているギタリストが不可欠で、PINKにとっても、そしてショコラータにとっても不可欠だったと思われますが、究極の選択だったと言えるでしょう。しかし、彼が選んだのはPINKでした。それは、2ndキーボーディストとして加入しながら、既にショコラータサウンドの軸として八面六臂の活躍を始めていた渡辺蕗子の成長があったからではないかと思われます。かくして渋谷は渡辺にショコラータの美しき魂を託して、PINKのギタリストとしてメジャーシーンに躍り出ることになるわけです(なお、渋谷と岡野(とドラムの市川)が抜けた第2期ショコラータは、かのと渡辺を中心としてエレクトロを大胆に導入した全くコンセプトの異なるバンドへと変化し、メジャー進出を果たすことになります)。
<Favorite Songs>
・「SANDWICHMAN」
メジャーリリースの1stアルバムにも収録された楽曲ですが、アレンジは全く異なります。特徴的なサックスのアヴァンギャルドなフレーズは当時からの味であることがわかりますが、特徴的なのはメロディアスなフレーズを繰り出す岡野ハジメのベースプレイです。PINKにおけるスラップや粒立ちの良いうねるベースよりも柔らかくスタイリッシュでオシャレな印象です。
・「AMARILLI」
イタリア歌曲の「AMARILLI」を大胆なニューウェーブジャズファンクに翻案した第1期ショコラータの代表曲。渡辺蕗子と塚原卓の狂乱のソロプレイ競演も鮮烈ですが、岡野ハジメと共に楽曲の底辺をしっかりと支える軽妙なカッティングプレイを奏でる渋谷の慎ましやかなギタープレイに彼の人柄が現れています。
・「NINA」
思わず踊り出したくなるようなダンスナンバーにして、この楽曲も第1期の代表的ナンバー。この楽曲では渋谷の不思議ギタープレイが炸裂しています。バネが飛んだようなカッティングや高音アーミング、間奏における岡野との面白音色の掛け合いなど、面白プレイが満載です。
<評点>
・サウンド ★★★ (若手とは思えない優れた発想力とテンションの高い演奏力)
・メロディ ★★ (音楽性が尖っているためわかりやすさは第2期へ)
・リズム ★★★ (流れるようにダンスビートを繰り出す安定の音符の刻み方)
・曲構成 ★★ (企画リリースという点で作品としては寄せ集め感も)
・個性 ★★★ (様々な音楽性をごった煮した自由奔放さは実に魅力的)
総合評点: 7点
ショコラータ
<members>
カノカオリ:vocals
渋谷英広:guitar・alto sax
岡野ハジメ:bass・percussion
塚原卓:soprano sax・alto sax
渡辺蕗子:piano・Merotron・Tescord-B・percussion
市川マサズミ:drums
1.「O'DEL MIO DOLCE ADOOR」
詞・曲:Christoph Willibald Gluck 編:ショコラータ
2.「SANDWICHMAN」
詞:カノカオリ 伊訳詞:ピヌッチア 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
3.「DOLORE」 詞:ショコラータ 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
4.「AMARILLI」 詞:Giovanni Battista Guarini 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
5.「DANZA」 詞:Christina B.G. 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
6.「NINA」 詞:不明 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
7.「MALINCONIA」 詞・曲:Vincenzo Bellini 編:ショコラータ
8.「N/いつか見た青空」 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
9.「PACHIRA」
詞:カノカオリ 伊訳詞:ピヌッチア 曲:渋谷英広 編:ショコラータ
松本晃彦:CP-80
阿部洋一:conga
梅野貴典:recording assistant
produced by 式田純
sound produced by 渋谷英広・岡野ハジメ
Co-recording engineered by 岡野ハジメ
●伝説のカセットブックTRAに収録されたカンツォーネニューウェーブバンドの文字通りトガッていた初期時代の貴重音源集
80年代を代表するスーパーバンド・PINKの個性的なメンバーの中で、ギタリストなのに影のような存在であった渋谷ヒデヒロがなぜPINKのようなヤンチャなプレイヤーだらけの個性派バンドに属していたのか、それはこのショコラータのという唯一無二の稀有なバンドに答えが隠されていると思われます。ショコラータは1982年に国立音楽大学声楽科に通っていた狩野香織(カノカオリ→後のかの香織)と早稲田大学の音楽スクールModern Music Troop在籍の渋谷英広(以降渋谷ヒデヒロと表記)を中心に結成され、桑原茂一が主宰する原宿のライブハウス、ピテカントロプス・エレクトスを根城にライブ活動を開始、カンツォーネをニューウェーブ式に解釈したようなアヴァンギャルドな音楽性と、スタイリッシュな出立ちが話題を呼び、瞬く間に東京の最先端サウンドとしてその存在を知られるようになります。メンバーには東京ブラボーに参加していた岡野ハジメがベーシストとして参加、キーボードには松本晃彦(後に崎谷健次郎率いるVIZIONでメジャーデビューするため脱退)と日本大学芸術学部作曲科在籍の渡辺蕗子が参加し、彼らの技巧と高いサウンドセンスを生かしたパフォーマンスと、写真家の伊島薫とデザイナーのミック板谷がアートワークを担当し、その戦略的なプロモーションも相まって、メジャーデビューは時間の問題と思われました。しかし、この時期は様々なポストニューウェーブバンドが近い界隈で入り乱れていた群雄割拠の時代で、ショコラータもその渦に巻き込まれる形となり、中心メンバーの渋谷ヒデヒロと岡野ハジメがPINKでメジャーデビューを果たすため脱退し。ここに第1期ショコラータは終焉を迎えることになります。
今回取り上げる「Cioccolata Special」はこの第1期ショコラータの活動記録が音源に残された貴重なアルバムで、最初のリリースは1983年、ニューウェーブ系カセットブックTRAからのカセットテープリリースでした(後に1997年に「Cioccolata Special」としてCD化されますが、ここでは1983年リリース作品として扱います)。TRAの看板バンドという扱いであったショコラータは異例の単独リリースということで、かなり特別扱いされていたことがわかります。まるで中世ヨーロッパに迷い込んだような世界観に、ファンクやジャズを取り入れたダンサブルなビートを聴かせたと思えば、歌われるのはイタリア歌曲集の詩。原曲がイタリア歌曲であることを全く匂わせない見事な翻案力がこの第1期ショコラータの魅力と言えるでしょう。それらの楽曲のイニシアチブを執り続けていたのがカバー曲以外のすべての作曲を手掛けていたのが渋谷ヒデヒロです(1997年CDのクレジットでは作詞作曲ショコラータと掲載されていますが、雑誌インタビューにおいて渋谷自身が作曲を担当していたことが記録されていますので、本レビューでは渋谷作曲として表記します)。ニューウェーブの匂いを感じさせながら、かの香織のカンツォーネパフォーマーとしての魅力も損なわずに複雑な構成の楽曲を提供していた渋谷の貢献度は非常に大きいと思われますが、彼は決してショコラータを自分の所有物とせず、作曲もショコラータというバンド全体という表記にするなど決して前へ出ようとしていません。その慎ましやかでありながらバンドを陰日向に支えまくる確かな演奏力を岡野が評価し、福岡ユタカやホッピー神山、スティーブエトウといった猛獣達が集まるPINKに誘い込んだものと推測します。ニューウェーブバンドには渋谷のような表には出なくとも陰で奇妙なフレーズを繰り出しているギタリストが不可欠で、PINKにとっても、そしてショコラータにとっても不可欠だったと思われますが、究極の選択だったと言えるでしょう。しかし、彼が選んだのはPINKでした。それは、2ndキーボーディストとして加入しながら、既にショコラータサウンドの軸として八面六臂の活躍を始めていた渡辺蕗子の成長があったからではないかと思われます。かくして渋谷は渡辺にショコラータの美しき魂を託して、PINKのギタリストとしてメジャーシーンに躍り出ることになるわけです(なお、渋谷と岡野(とドラムの市川)が抜けた第2期ショコラータは、かのと渡辺を中心としてエレクトロを大胆に導入した全くコンセプトの異なるバンドへと変化し、メジャー進出を果たすことになります)。
<Favorite Songs>
・「SANDWICHMAN」
メジャーリリースの1stアルバムにも収録された楽曲ですが、アレンジは全く異なります。特徴的なサックスのアヴァンギャルドなフレーズは当時からの味であることがわかりますが、特徴的なのはメロディアスなフレーズを繰り出す岡野ハジメのベースプレイです。PINKにおけるスラップや粒立ちの良いうねるベースよりも柔らかくスタイリッシュでオシャレな印象です。
・「AMARILLI」
イタリア歌曲の「AMARILLI」を大胆なニューウェーブジャズファンクに翻案した第1期ショコラータの代表曲。渡辺蕗子と塚原卓の狂乱のソロプレイ競演も鮮烈ですが、岡野ハジメと共に楽曲の底辺をしっかりと支える軽妙なカッティングプレイを奏でる渋谷の慎ましやかなギタープレイに彼の人柄が現れています。
・「NINA」
思わず踊り出したくなるようなダンスナンバーにして、この楽曲も第1期の代表的ナンバー。この楽曲では渋谷の不思議ギタープレイが炸裂しています。バネが飛んだようなカッティングや高音アーミング、間奏における岡野との面白音色の掛け合いなど、面白プレイが満載です。
<評点>
・サウンド ★★★ (若手とは思えない優れた発想力とテンションの高い演奏力)
・メロディ ★★ (音楽性が尖っているためわかりやすさは第2期へ)
・リズム ★★★ (流れるようにダンスビートを繰り出す安定の音符の刻み方)
・曲構成 ★★ (企画リリースという点で作品としては寄せ集め感も)
・個性 ★★★ (様々な音楽性をごった煮した自由奔放さは実に魅力的)
総合評点: 7点
「WHITE FEATHERS」 KAJAGOOGOO
「WHITE FEATHERS」(1983 EMI)
KAJAGOOGOO
<members>
Limahl:vocals
Nick Beggs:bass・chapman stick・vocals
Steve Askew:guitar
Stuart Croxford Neale:synthesizer・vocals
Jez Strode:drums
1.「WHITE FEATHERS」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs
2.「TOO SHY」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs/Limahl
3.「LIES AND PROMISES」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs/Limahl
4.「MAGICIAN MAN」 KAJAGOOGOO/Limahl
5.「KAJAGOOGOO」 KAJAGOOGOO
6.「OOH TO BE AH」 KAJAGOOGOO/Limahl
7.「ERGONOMICS」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs/Limahl
8.「HANG ON NOW」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs/Limahl
9.「THIS CAR IS FAST」 KAJAGOOGOO/Limahl
10.「FRAYO」 KAJAGOOGOO/Limahl
produced by Colin Thurston・Nick Rhodes・Tim Palmer・KAJAGOOGOO
engineered by Colin Thurston・Tim Palmer
● DURAN DURANの弟分としての扱いが過小評価であることを証明する技巧派ニューウェーブバンドのデビュー作
Nick Beggsを中心に1979年にロンドンで結成されたArt Nouveau(アール・ヌーヴォー)は、バンドとしての芽が出ないまま新たなボーカリストを探していました。そこで白羽の矢が立てられたのが同じくソロ歌手としては手応えを得ていなかったChristopher Hamillで、Hamillは文字列を変える形でLimahl(リマール)と改名し、それに伴いArt NouveauもKAJAGOOGOO(カジャグーグー)とバンド名を変更して心機一転再スタートを切ることになります。折しも時代はニューロマンティクス〜ニューウェーブ全盛期。特にDURAN DURANはブレイクを果たしており、当時若手UKバンドの急先鋒として大活躍していましたが、Limahlのツテでプロデュース業に色気を出していたDURAN DURANのキーボーディスト・Nick Rhodesに目をつけられると、彼の売り込みでメジャーデビューへの道が開かれます。こうしてリリースされた1982年末の1stシングル「TOO SHY」でしたが、Nick RhodesプロデュースというDURAN DURANの弟分的な立ち位置とヴィジュアル、洗練されたサウンドとメロディ、思いのほか技巧的に優れた演奏も相まって、欧州を中心にNo.1ヒットを獲得することになります。そして翌83年には同曲を収録した1stアルバムである本作が、その勢いのままリリースされることになるわけです。
ヒットチューン「TOO SHY」が比較的ミディアムテンポの楽曲であったため、バンドの全貌が本作で披露されたわけですが、想像以上にシンセサイザー度が高く、まさにニューウェーブの申し子というべきサウンドデザインがハマっています。チープともいえる軽快かつシャープなシンセワークは腰が据わっていないという見方もできるものの、デビューバンドとしての快活さが表現できているとすれば、このサウンドメイクは正解であったと言えるでしょう。しかしこのバンドの魅力は何といってもNick Beggsのベースプレイです。時にはスティック・ベースも使用する彼の豪快なスラップは、当時のニューウェーブ系バンドのベースプレイの特徴がフレットレスによるあやふやな音程による妖しいフレージングであったことを考えると、このファンキーなノリは新鮮に聴こえたのではないでしょうか。もちろんSIMMONSドラムが大胆にフィーチャーされ、細かいアルペジオやシーケンスが飛び交うエレクトロニクス全開の楽曲構成ですが、だからこそNickのスラップは貴重なアクセントとなって襲いかかってきます。もちろんフロントマンとして機能していたLimahlの華と類稀なポップセンスはバンドに好影響を与えていましたが、あくまでこのバンドの核はNickであり、彼の唯一無二のベーステクニックがKAJAGOOGOOの楽曲クオリティを数段向上させることに成功していたと思われます。
しかしバンド内の主導権を争ういざこざが表面化し、Limahlは脱退、KAJAGOOGOOは途中KAJAと改名しながら懸命に作品をリリースし続けましたが85年に力尽きることになります。一方、LimahlはGiorgio Moroderと組んだ「The NeverEnding Story」が世界的大ヒットとなり一躍スターダムにのし上がりますが、その後は尻すぼみ状態となります。なお、解散後Nick Beggsはセッションベーシストとして一定の評価を得られ、日本でもCoziやPOLYSICSの楽曲に参加するなど現在も渋く活動しています。
<Favorite Songs>
・「WHITE FEATHERS」
軽めのリズムにシンセベースとスラップベースが絶妙に絡み合うタイトルチューン。特にベースとギターの切れ味は鋭いものがあります。要所で入ってくるSIMMONSのエレクトリックドラムがアクセントとなり、薄っぺらく刻んでいくシンセベースと共にシンセポップとしての主張を激しくしています。
・「MAGICIAN MAN」
シタール風音色のシンセがまさにマジカルな雰囲気を醸し出す良曲。ここでもリズミカルなノリを演出しているのがNick Beggsの軽快なベースプレイで、オリエンタルなフレーズの中で暴れまわるスラップは孫悟空そのものです。
・「FRAYO」
エフェクティブなギターとベースが飛び交う妖しいスタートから、高揚感のあるサビのテンションが魅力的なラストナンバー。こんなにS.E.的演奏がフィーチャーされながら、マシナリーなリズムとシンセベースがチープなままなのが面白いのですが、圧巻なのはスティックとスラップを自由自在に操るNickの鬼気迫るプレイでしょう。後半のベースソロが素晴らしい。スラップで楽曲を締めるのも斬新。
<評点>
・サウンド ★★★ (チープだが大活躍のエレクトロニクス。東洋風味も)
・メロディ ★★ (ヒットチューンは流石だが比較的な地味なセンス)
・リズム ★★★★ (軽めのリズムと暴れるスラップの好対照が魅力的)
・曲構成 ★★ (途中インストを入れて勝負する男気も持ち合わせる)
・個性 ★★★ (まるでPINK並みに派手なベースが表へ出てくる)
総合評点: 8点
KAJAGOOGOO
<members>
Limahl:vocals
Nick Beggs:bass・chapman stick・vocals
Steve Askew:guitar
Stuart Croxford Neale:synthesizer・vocals
Jez Strode:drums
1.「WHITE FEATHERS」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs
2.「TOO SHY」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs/Limahl
3.「LIES AND PROMISES」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs/Limahl
4.「MAGICIAN MAN」 KAJAGOOGOO/Limahl
5.「KAJAGOOGOO」 KAJAGOOGOO
6.「OOH TO BE AH」 KAJAGOOGOO/Limahl
7.「ERGONOMICS」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs/Limahl
8.「HANG ON NOW」 KAJAGOOGOO/Nick Beggs/Limahl
9.「THIS CAR IS FAST」 KAJAGOOGOO/Limahl
10.「FRAYO」 KAJAGOOGOO/Limahl
produced by Colin Thurston・Nick Rhodes・Tim Palmer・KAJAGOOGOO
engineered by Colin Thurston・Tim Palmer
● DURAN DURANの弟分としての扱いが過小評価であることを証明する技巧派ニューウェーブバンドのデビュー作
Nick Beggsを中心に1979年にロンドンで結成されたArt Nouveau(アール・ヌーヴォー)は、バンドとしての芽が出ないまま新たなボーカリストを探していました。そこで白羽の矢が立てられたのが同じくソロ歌手としては手応えを得ていなかったChristopher Hamillで、Hamillは文字列を変える形でLimahl(リマール)と改名し、それに伴いArt NouveauもKAJAGOOGOO(カジャグーグー)とバンド名を変更して心機一転再スタートを切ることになります。折しも時代はニューロマンティクス〜ニューウェーブ全盛期。特にDURAN DURANはブレイクを果たしており、当時若手UKバンドの急先鋒として大活躍していましたが、Limahlのツテでプロデュース業に色気を出していたDURAN DURANのキーボーディスト・Nick Rhodesに目をつけられると、彼の売り込みでメジャーデビューへの道が開かれます。こうしてリリースされた1982年末の1stシングル「TOO SHY」でしたが、Nick RhodesプロデュースというDURAN DURANの弟分的な立ち位置とヴィジュアル、洗練されたサウンドとメロディ、思いのほか技巧的に優れた演奏も相まって、欧州を中心にNo.1ヒットを獲得することになります。そして翌83年には同曲を収録した1stアルバムである本作が、その勢いのままリリースされることになるわけです。
ヒットチューン「TOO SHY」が比較的ミディアムテンポの楽曲であったため、バンドの全貌が本作で披露されたわけですが、想像以上にシンセサイザー度が高く、まさにニューウェーブの申し子というべきサウンドデザインがハマっています。チープともいえる軽快かつシャープなシンセワークは腰が据わっていないという見方もできるものの、デビューバンドとしての快活さが表現できているとすれば、このサウンドメイクは正解であったと言えるでしょう。しかしこのバンドの魅力は何といってもNick Beggsのベースプレイです。時にはスティック・ベースも使用する彼の豪快なスラップは、当時のニューウェーブ系バンドのベースプレイの特徴がフレットレスによるあやふやな音程による妖しいフレージングであったことを考えると、このファンキーなノリは新鮮に聴こえたのではないでしょうか。もちろんSIMMONSドラムが大胆にフィーチャーされ、細かいアルペジオやシーケンスが飛び交うエレクトロニクス全開の楽曲構成ですが、だからこそNickのスラップは貴重なアクセントとなって襲いかかってきます。もちろんフロントマンとして機能していたLimahlの華と類稀なポップセンスはバンドに好影響を与えていましたが、あくまでこのバンドの核はNickであり、彼の唯一無二のベーステクニックがKAJAGOOGOOの楽曲クオリティを数段向上させることに成功していたと思われます。
しかしバンド内の主導権を争ういざこざが表面化し、Limahlは脱退、KAJAGOOGOOは途中KAJAと改名しながら懸命に作品をリリースし続けましたが85年に力尽きることになります。一方、LimahlはGiorgio Moroderと組んだ「The NeverEnding Story」が世界的大ヒットとなり一躍スターダムにのし上がりますが、その後は尻すぼみ状態となります。なお、解散後Nick Beggsはセッションベーシストとして一定の評価を得られ、日本でもCoziやPOLYSICSの楽曲に参加するなど現在も渋く活動しています。
<Favorite Songs>
・「WHITE FEATHERS」
軽めのリズムにシンセベースとスラップベースが絶妙に絡み合うタイトルチューン。特にベースとギターの切れ味は鋭いものがあります。要所で入ってくるSIMMONSのエレクトリックドラムがアクセントとなり、薄っぺらく刻んでいくシンセベースと共にシンセポップとしての主張を激しくしています。
・「MAGICIAN MAN」
シタール風音色のシンセがまさにマジカルな雰囲気を醸し出す良曲。ここでもリズミカルなノリを演出しているのがNick Beggsの軽快なベースプレイで、オリエンタルなフレーズの中で暴れまわるスラップは孫悟空そのものです。
・「FRAYO」
エフェクティブなギターとベースが飛び交う妖しいスタートから、高揚感のあるサビのテンションが魅力的なラストナンバー。こんなにS.E.的演奏がフィーチャーされながら、マシナリーなリズムとシンセベースがチープなままなのが面白いのですが、圧巻なのはスティックとスラップを自由自在に操るNickの鬼気迫るプレイでしょう。後半のベースソロが素晴らしい。スラップで楽曲を締めるのも斬新。
<評点>
・サウンド ★★★ (チープだが大活躍のエレクトロニクス。東洋風味も)
・メロディ ★★ (ヒットチューンは流石だが比較的な地味なセンス)
・リズム ★★★★ (軽めのリズムと暴れるスラップの好対照が魅力的)
・曲構成 ★★ (途中インストを入れて勝負する男気も持ち合わせる)
・個性 ★★★ (まるでPINK並みに派手なベースが表へ出てくる)
総合評点: 8点