「PSYCHOTIC CUBE」 VIZION
「PSYCHOTIC CUBE」(1983 リバスター)
VIZION

<members>
崎谷健次郎:vocal・keyboards
石山仁:electric guitar
生乃久法:drums
有賀啓雄:electric bass
大竹徹夫:keyboards・synthesizers
松本晃彦:keyboards・synthesizers
1.「OBSCURE DANCE PARTY」 詞・曲:崎谷健次郎 編:VIZION
2.「SOMEBODY’S GETTING TO YOU」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
3.「DANCING GENERATION」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
4.「午后の告白」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
5.「君だけを」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
6.「未来の扉」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
7.「さよなら MY LOVE」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
8.「ストレス」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
9.「FOR YOUR MASTER KEY」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
10.「パンドラの箱」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
produced by 崎谷健次郎
mixing engineered by 瀬山淳一・増田浩一・宮沢正裕
recording engineered by 中村朋博
● 先進的な演奏スタイルを志向する若き日の崎谷健次郎がイニシアチブをとった伝説のバンド唯一の作品
1981年、日本大学芸術学部に在籍していた崎谷健次郎を中心にPOPSバンド・VIZIONが結成されます。彼のもとには才能豊かなミュージシャンが入れ替わり立ち替わり集まり、翌82年にはデビュー前に安全地帯や爆風スランプ等の後年の音楽界を席巻する新時代の若手バンド達と活発なライブ活動を展開していくわけですが、その頃には有賀啓雄や大竹徹夫、かの香織や渋谷ヒデヒロとのショコラータと掛け持ちしていた松本晃彦らの辣腕プレイヤーを従えたツインキーボード体制(崎谷もキーボードを演奏するためトリプルキーボード?)による洗練されたニューウェーブPOPSといったサウンドで、当時では斬新な手法であったMTRと生演奏を組み合わせた画期的なライブに挑戦、既にデビュー間近の雰囲気を醸し出していました。そして1983年にVIZIONは待ちに待ったデビューアルバムの制作、新興レコード会社のリバスターより本作がリリースされることになるわけです。
さて、後年の斉藤由貴仕事をはじめとして優れた才能とセンスを迸らせるメロディメイカーとして認知される崎谷健次郎が全ての楽曲を手掛けた本作は、崎谷が全面的にフィーチャーされたため、ほぼ彼のソロプロジェクトのような扱いをされかねない作品に仕上がっているわけですが、崎谷の妥協を許さない楽曲とサウンドに対する姿勢が各楽曲の演奏にも伝わっているためプレイのテンションも高く、さらに大竹や松本らのシンセサイザーサウンドを効果的に使用することによるトレンディなサウンドへの挑戦意欲も感じられます。特にベースフレーズは非常によく研究されていて、踊らせる楽曲に必要な要素をしっかりと分析した上でキャッチーなポップソングに仕立て上げる、後年の崎谷健次郎楽曲の礎となる要素は既にこのVIZIONにおいても芽吹いていると言えるでしょう。楽曲によっては80年代初頭のチープな雰囲気から逃れられないものも存在していますが、そのあたりは学生気分の抜け切ればい若気の至りな部分として理解すべきであり、そのあたりもVIZIONの味の1つとして楽しめます。また隠し味というには活躍が目立つのが石山仁のギターワークです。カッティングからソロプレイ、そして「ストレス」で見せるようなディレイを駆使した不思議音響的フレージング等からは、VIZIONの革新的なサウンドへのチャレンジングな姿勢が見え隠れしています。有賀啓雄とアナログシンセサイザーによるベースフレーズの粒立ちの良過ぎるサウンド処理も含めて、弦楽器勢の躍動が目立つ作品であると言っても過言ではありません。
しかしVIZIONのようなセンスに秀でた個性的なメンバーが集まるバンドにありがちな音楽的な衝突は遅かれ早かれ起きてしまうわけでして、本作リリース後まもなくしてVIZIONは解散の憂き目に遭ってしまいました。しかしメンバーはそれぞれ音楽界でその才能を開花させていきます。シンガーソングライターとして80's後半に大活躍する崎谷のほかにも、原田真二に見出されクライシスのメンバーとして本格的キャリアをスタートさせた有賀啓雄は現在まで一流ベーシスト&作編曲家として第一線に君臨(ソロとしてもデビュー)、大竹徹夫は武部聡志に師事してシンセプログラマーとして数々の名曲に貢献、松本晃彦は言わずもがなドラマ「踊る大捜査線」のテーマソングで一世を風靡します。ドラムの生乃久法もマーチングパーカッションの第一人者として指導者として大成、石山仁は惑星探査機の軌道設計等に従事するかたわら音声の科学的分析研究に取り組み、近年では楠瀬誠志郎とボイストレーニング活動を行うなど、各々の道でしっかり名を残していることから考えますと、現在から振り返ってみればスーパーバンドのVIZIONが唯一生み出した本作が、どのような媒体でも良いのでいつの日か再発されることを願っています。
<Favorite Songs>
・「OBSCURE DANCE PARTY」
メロディアスなベースラインが個性的でダンサブルなオープニングナンバー。キャッチーなメロディラインは流石は稀代のメロディメイカー崎谷健次郎の仕事ぶり。しかしながらやはりこの楽曲をグイグイ引っ張っているのは細かなフレージングでノリを見事に生み出している(シンセ)ベースでしょう。サビまでにピタッとまとめ上げた音符の置き方に非凡さを感じます。
・「未来の扉」
タイトル通りフューチャリスティックな雰囲気漂うエレクトロポップチューン。イントロのシンセブラスのフレーズに期待感が煽られると、16音符を刻む直線的なベースラインにサビからはピコピコシーケンスまで加わり、フィルインにはゲートリバーブなエフェクトも効かせるなど、明らかにテクノを意識したPOPSを志向している様子が窺えます。
・「パンドラの箱」
本作ラストを飾る崎谷メロディが光る魅惑のミディアムバラード。本作を通して大活躍の太いシンセベースを中心に、音数の少なさを逆手にとったようなシンプルな構成だからこそ際立つメロディセンスの良さと興味深いBメロのコードワークが秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (当時としてはサウンドへの積極的な挑戦心が強い)
・メロディ ★★ (センスは感じさせるが本領発揮は崎谷のソロデビュー後か)
・リズム ★ (83年のスネア革命の過渡期だがチャレンジはしている)
・曲構成 ★ (あと1年寝かせればサウンド面で生まれ変わったかも)
・個性 ★★ (才気が空回りした感もあるが各所に並々ならぬセンスが散見)
総合評点: 7点
VIZION

<members>
崎谷健次郎:vocal・keyboards
石山仁:electric guitar
生乃久法:drums
有賀啓雄:electric bass
大竹徹夫:keyboards・synthesizers
松本晃彦:keyboards・synthesizers
1.「OBSCURE DANCE PARTY」 詞・曲:崎谷健次郎 編:VIZION
2.「SOMEBODY’S GETTING TO YOU」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
3.「DANCING GENERATION」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
4.「午后の告白」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
5.「君だけを」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
6.「未来の扉」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
7.「さよなら MY LOVE」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
8.「ストレス」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
9.「FOR YOUR MASTER KEY」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
10.「パンドラの箱」 詞:有己林子 曲:崎谷健次郎 編:VIZION
produced by 崎谷健次郎
mixing engineered by 瀬山淳一・増田浩一・宮沢正裕
recording engineered by 中村朋博
● 先進的な演奏スタイルを志向する若き日の崎谷健次郎がイニシアチブをとった伝説のバンド唯一の作品
1981年、日本大学芸術学部に在籍していた崎谷健次郎を中心にPOPSバンド・VIZIONが結成されます。彼のもとには才能豊かなミュージシャンが入れ替わり立ち替わり集まり、翌82年にはデビュー前に安全地帯や爆風スランプ等の後年の音楽界を席巻する新時代の若手バンド達と活発なライブ活動を展開していくわけですが、その頃には有賀啓雄や大竹徹夫、かの香織や渋谷ヒデヒロとのショコラータと掛け持ちしていた松本晃彦らの辣腕プレイヤーを従えたツインキーボード体制(崎谷もキーボードを演奏するためトリプルキーボード?)による洗練されたニューウェーブPOPSといったサウンドで、当時では斬新な手法であったMTRと生演奏を組み合わせた画期的なライブに挑戦、既にデビュー間近の雰囲気を醸し出していました。そして1983年にVIZIONは待ちに待ったデビューアルバムの制作、新興レコード会社のリバスターより本作がリリースされることになるわけです。
さて、後年の斉藤由貴仕事をはじめとして優れた才能とセンスを迸らせるメロディメイカーとして認知される崎谷健次郎が全ての楽曲を手掛けた本作は、崎谷が全面的にフィーチャーされたため、ほぼ彼のソロプロジェクトのような扱いをされかねない作品に仕上がっているわけですが、崎谷の妥協を許さない楽曲とサウンドに対する姿勢が各楽曲の演奏にも伝わっているためプレイのテンションも高く、さらに大竹や松本らのシンセサイザーサウンドを効果的に使用することによるトレンディなサウンドへの挑戦意欲も感じられます。特にベースフレーズは非常によく研究されていて、踊らせる楽曲に必要な要素をしっかりと分析した上でキャッチーなポップソングに仕立て上げる、後年の崎谷健次郎楽曲の礎となる要素は既にこのVIZIONにおいても芽吹いていると言えるでしょう。楽曲によっては80年代初頭のチープな雰囲気から逃れられないものも存在していますが、そのあたりは学生気分の抜け切ればい若気の至りな部分として理解すべきであり、そのあたりもVIZIONの味の1つとして楽しめます。また隠し味というには活躍が目立つのが石山仁のギターワークです。カッティングからソロプレイ、そして「ストレス」で見せるようなディレイを駆使した不思議音響的フレージング等からは、VIZIONの革新的なサウンドへのチャレンジングな姿勢が見え隠れしています。有賀啓雄とアナログシンセサイザーによるベースフレーズの粒立ちの良過ぎるサウンド処理も含めて、弦楽器勢の躍動が目立つ作品であると言っても過言ではありません。
しかしVIZIONのようなセンスに秀でた個性的なメンバーが集まるバンドにありがちな音楽的な衝突は遅かれ早かれ起きてしまうわけでして、本作リリース後まもなくしてVIZIONは解散の憂き目に遭ってしまいました。しかしメンバーはそれぞれ音楽界でその才能を開花させていきます。シンガーソングライターとして80's後半に大活躍する崎谷のほかにも、原田真二に見出されクライシスのメンバーとして本格的キャリアをスタートさせた有賀啓雄は現在まで一流ベーシスト&作編曲家として第一線に君臨(ソロとしてもデビュー)、大竹徹夫は武部聡志に師事してシンセプログラマーとして数々の名曲に貢献、松本晃彦は言わずもがなドラマ「踊る大捜査線」のテーマソングで一世を風靡します。ドラムの生乃久法もマーチングパーカッションの第一人者として指導者として大成、石山仁は惑星探査機の軌道設計等に従事するかたわら音声の科学的分析研究に取り組み、近年では楠瀬誠志郎とボイストレーニング活動を行うなど、各々の道でしっかり名を残していることから考えますと、現在から振り返ってみればスーパーバンドのVIZIONが唯一生み出した本作が、どのような媒体でも良いのでいつの日か再発されることを願っています。
<Favorite Songs>
・「OBSCURE DANCE PARTY」
メロディアスなベースラインが個性的でダンサブルなオープニングナンバー。キャッチーなメロディラインは流石は稀代のメロディメイカー崎谷健次郎の仕事ぶり。しかしながらやはりこの楽曲をグイグイ引っ張っているのは細かなフレージングでノリを見事に生み出している(シンセ)ベースでしょう。サビまでにピタッとまとめ上げた音符の置き方に非凡さを感じます。
・「未来の扉」
タイトル通りフューチャリスティックな雰囲気漂うエレクトロポップチューン。イントロのシンセブラスのフレーズに期待感が煽られると、16音符を刻む直線的なベースラインにサビからはピコピコシーケンスまで加わり、フィルインにはゲートリバーブなエフェクトも効かせるなど、明らかにテクノを意識したPOPSを志向している様子が窺えます。
・「パンドラの箱」
本作ラストを飾る崎谷メロディが光る魅惑のミディアムバラード。本作を通して大活躍の太いシンセベースを中心に、音数の少なさを逆手にとったようなシンプルな構成だからこそ際立つメロディセンスの良さと興味深いBメロのコードワークが秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (当時としてはサウンドへの積極的な挑戦心が強い)
・メロディ ★★ (センスは感じさせるが本領発揮は崎谷のソロデビュー後か)
・リズム ★ (83年のスネア革命の過渡期だがチャレンジはしている)
・曲構成 ★ (あと1年寝かせればサウンド面で生まれ変わったかも)
・個性 ★★ (才気が空回りした感もあるが各所に並々ならぬセンスが散見)
総合評点: 7点
「不眠症候群」 河合夕子
「不眠症候群」(1983 エピックソニー)
河合夕子:vocals

1.「摩天楼サーカス」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
2.「舞踏会の絵(デカダンスは私と・・・)」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
3.「千年カスバ」 詞 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
4.「ペルシャン・ルージュ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
5.「不眠症候群」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
6.「ペパーミント・デイズ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
7.「スノー・ビーチ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
8.「赤色エアロビクス」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
9.「避暑地の雨」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
10.「去年の夏、エーゲで」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
<support musician>
町支寛二:chorus arrangement
produced by 鈴木幹治・目黒育郎
engineered by 助川健
● ニューミュージックを地で行く個性派シンガーソングライターの異国情緒溢れるニューウェーブ歌謡に転じた意欲的な3rdアルバム
ホリプロスカウトキャラバン出身のシンガーソングライターとして1981年にシングル「東京チークガール」でデビューした河合夕子は、独特のカーリーヘア&丸メガネという出で立ち(実は美人)によるインパクトもあってバラエティ番組にも出演するなど80年代初頭の華やかなニューミュージック系ガールポップの波に乗って、以後数年間音源をリリースし続けることになります。翌年には1st「リトル・トウキョウ」、2nd「フジヤマパラダイス」と2枚のアルバムを立て続けにリリース、共同作詞家には本プロジェクトがデビューとなる売野雅勇、編曲家には水谷公生を迎えた万全な体制による、カラッとした明るさをオリエンタル風味で味付けした楽曲を中心に着実にその名を知らしめていきます。しかし結局スマッシュヒットを飛ばすまでにはいかず迎えた83年、彼女は勝負の3rdアルバムのリリースに至ります。それがシングル「摩天楼サーカス」「赤色エアロビクス」を収録した本作です。
河合夕子本人がジャケに登場しないこの3rdアルバムは、代わりに架空の近未来キーボードが描かれているように基調となっているサウンドは完全にエレクトロポップです。メロディやボーカル&コーラスワークが完全に70年代を引きずった歌謡曲仕様なためバタ臭さも残りますが、2nd以前の彼女の楽曲群と比較してもその変化が明らかで、それはカラフルで中心になって楽曲を彩っていくシンセサウンドのみならず、ギラギラしたギターのカッティングや、いち早くゲートリバーブやSIMMONSエレクトリックドラムが活躍するリズムのサウンド処理にも現れています。特に1曲目「摩天楼サーカスからタイトルチューン「不眠症候群」(長いアウトロでボコーダーも登場!)までのA面5曲は、まさに隠れたテクノ歌謡の満漢全席と言っても過言ではありません。かたやレコードでいうところのB面に裏返した6曲目「ペパーミント・デイズ」からは、一転して美メロをフィーチャーしたリゾート感覚なシティポップへとシフトして本来のシンガーソングライターとしての実力を見せつけていますが、全体的なサウンド面のパワーアップが楽曲を支えているため本来の楽曲の魅力をこれまで以上に伝え切っていると思われます。
前半の大胆なエレクトリックへのチャレンジを最後まで貫くことができずに後半でこれまでの作風に揺り戻してバランスをとった格好となってしまったことから、あと一歩の惜しい作品になったことは否めませんが、1983年はそのような過渡期的な作品が多く生まれた年でもあり、河合夕子の本作もそのような時代的な空気を感じさせる好作品と考えるべきでしょう。その後河合はソロシンガーからは撤退し、コーラスシンガーを中心としたセッションミュージシャンへと転向していきますが、現在でも音楽界でしっかりと地につけた活動を行っていることからも、彼女の音楽的才能は確かなものであったと言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「摩天楼サーカス」
シタールのフレーズが異国情緒を漂わせるオリエンタルエレポップ。典型的な歌謡メロディながらもパワフルなドラムが主張する83年式エレクトロサウンドでチャレンジ精神を窺わせます。メランコリックな冒頭とラストのフレーズが工夫された構成として秀逸です。
・「舞踏会の絵(デカダンスは私と・・・)」
リズムボックスからのギターフレーズのキレの良さが光るスカ調リズムのポップチューン。シンセ音の輪郭やボーカルの力強さもさることながら、ドンダンリズムのサウンド処理が素晴らしいです。麗しいシンセソロを含む間奏へと雪崩れ込んでいくテクニカルな導入もテンションの高さが光ります。
・「千年カスバ」
シンセを中心とした一筋縄ではいかないイントロが素晴らしいラテンポップ歌謡ナンバー。ブラスセクションも入ったゴージャスな演奏にコクのある目立ちたがり屋なベースプレイが秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (全体的な音処理にパワフルかつキレが感じられる)
・メロディ ★★ (味付けの濃さが残る歌謡メロディは聴き手を選ぶ)
・リズム ★★★ (加工されたスネアドラムのパワーだけでも○)
・曲構成 ★ (前半のチャレンジを後半も続けて欲しかった)
・個性 ★ (メロディ派の自分を捨て切れない難しさを感じる)
総合評点: 7点
河合夕子:vocals

1.「摩天楼サーカス」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
2.「舞踏会の絵(デカダンスは私と・・・)」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
3.「千年カスバ」 詞 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
4.「ペルシャン・ルージュ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
5.「不眠症候群」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
6.「ペパーミント・デイズ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
7.「スノー・ビーチ」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
8.「赤色エアロビクス」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
9.「避暑地の雨」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
10.「去年の夏、エーゲで」 詞:河合夕子・売野雅勇 曲:河合夕子 編:水谷公生
<support musician>
町支寛二:chorus arrangement
produced by 鈴木幹治・目黒育郎
engineered by 助川健
● ニューミュージックを地で行く個性派シンガーソングライターの異国情緒溢れるニューウェーブ歌謡に転じた意欲的な3rdアルバム
ホリプロスカウトキャラバン出身のシンガーソングライターとして1981年にシングル「東京チークガール」でデビューした河合夕子は、独特のカーリーヘア&丸メガネという出で立ち(実は美人)によるインパクトもあってバラエティ番組にも出演するなど80年代初頭の華やかなニューミュージック系ガールポップの波に乗って、以後数年間音源をリリースし続けることになります。翌年には1st「リトル・トウキョウ」、2nd「フジヤマパラダイス」と2枚のアルバムを立て続けにリリース、共同作詞家には本プロジェクトがデビューとなる売野雅勇、編曲家には水谷公生を迎えた万全な体制による、カラッとした明るさをオリエンタル風味で味付けした楽曲を中心に着実にその名を知らしめていきます。しかし結局スマッシュヒットを飛ばすまでにはいかず迎えた83年、彼女は勝負の3rdアルバムのリリースに至ります。それがシングル「摩天楼サーカス」「赤色エアロビクス」を収録した本作です。
河合夕子本人がジャケに登場しないこの3rdアルバムは、代わりに架空の近未来キーボードが描かれているように基調となっているサウンドは完全にエレクトロポップです。メロディやボーカル&コーラスワークが完全に70年代を引きずった歌謡曲仕様なためバタ臭さも残りますが、2nd以前の彼女の楽曲群と比較してもその変化が明らかで、それはカラフルで中心になって楽曲を彩っていくシンセサウンドのみならず、ギラギラしたギターのカッティングや、いち早くゲートリバーブやSIMMONSエレクトリックドラムが活躍するリズムのサウンド処理にも現れています。特に1曲目「摩天楼サーカスからタイトルチューン「不眠症候群」(長いアウトロでボコーダーも登場!)までのA面5曲は、まさに隠れたテクノ歌謡の満漢全席と言っても過言ではありません。かたやレコードでいうところのB面に裏返した6曲目「ペパーミント・デイズ」からは、一転して美メロをフィーチャーしたリゾート感覚なシティポップへとシフトして本来のシンガーソングライターとしての実力を見せつけていますが、全体的なサウンド面のパワーアップが楽曲を支えているため本来の楽曲の魅力をこれまで以上に伝え切っていると思われます。
前半の大胆なエレクトリックへのチャレンジを最後まで貫くことができずに後半でこれまでの作風に揺り戻してバランスをとった格好となってしまったことから、あと一歩の惜しい作品になったことは否めませんが、1983年はそのような過渡期的な作品が多く生まれた年でもあり、河合夕子の本作もそのような時代的な空気を感じさせる好作品と考えるべきでしょう。その後河合はソロシンガーからは撤退し、コーラスシンガーを中心としたセッションミュージシャンへと転向していきますが、現在でも音楽界でしっかりと地につけた活動を行っていることからも、彼女の音楽的才能は確かなものであったと言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「摩天楼サーカス」
シタールのフレーズが異国情緒を漂わせるオリエンタルエレポップ。典型的な歌謡メロディながらもパワフルなドラムが主張する83年式エレクトロサウンドでチャレンジ精神を窺わせます。メランコリックな冒頭とラストのフレーズが工夫された構成として秀逸です。
・「舞踏会の絵(デカダンスは私と・・・)」
リズムボックスからのギターフレーズのキレの良さが光るスカ調リズムのポップチューン。シンセ音の輪郭やボーカルの力強さもさることながら、ドンダンリズムのサウンド処理が素晴らしいです。麗しいシンセソロを含む間奏へと雪崩れ込んでいくテクニカルな導入もテンションの高さが光ります。
・「千年カスバ」
シンセを中心とした一筋縄ではいかないイントロが素晴らしいラテンポップ歌謡ナンバー。ブラスセクションも入ったゴージャスな演奏にコクのある目立ちたがり屋なベースプレイが秀逸です。
<評点>
・サウンド ★★★ (全体的な音処理にパワフルかつキレが感じられる)
・メロディ ★★ (味付けの濃さが残る歌謡メロディは聴き手を選ぶ)
・リズム ★★★ (加工されたスネアドラムのパワーだけでも○)
・曲構成 ★ (前半のチャレンジを後半も続けて欲しかった)
・個性 ★ (メロディ派の自分を捨て切れない難しさを感じる)
総合評点: 7点
「CONTINENTAL」 清野由美
「CONTINENTAL」(1983 日本コロムビア)
清野由美:vocal・backing vocals

1.「ママ」 詞:杉山政美 曲:山崎修 編:笹路正徳
2.「シェルの涙−CHEZ LAURETTE−」
詞:Michel Delpech・杉山政美 曲:Roland Vincent 編:笹路正徳
3.「傾く」 詞:杉山政美 曲:清野由美 編:笹路正徳
4.「もしかして明日は冬」 詞:杉山政美 曲:和泉常寛 編:笹路正徳
5.「夜よさようなら−UNE SIMPLE MELODIE−」
詞:Michel Polnareff・杉山政美 曲:Michel Polnareff 編:笹路正徳
6.「いってモナムール−LA MAISON EST EN PUINE−」
詞:Michel Delpech・Jean Michel Rivat・杉山政美 曲:Claude Morgan
編:笹路正徳
7.「ホントに愛してる−LES DIVORCES−」
詞:Michel Delpech・Jean Michel Rivat・杉山政美 曲:Roland Vincent
編:笹路正徳
8.「真夜中の電話」 詞:杉山政美 曲・編:笹路正徳
9.「砂の舟」 詞:杉山政美 曲:滝沢洋一 編:笹路正徳
<support musician>
土方隆行:guitar
渡辺モリオ:bass
山木秀夫:drums・syndrums
笹路正徳:keyboards・marimba・vibraphone・recorder
宮城純子:acoustic piano
小野誠彦:charango・pan pipe
清水靖晃:tenor sax・clarinet・bass clarinet
中川昌三:flute
多グループ:strings section
加藤グループ:strings section
produced by 岡田健
engineered by 小野誠彦
● マライアのバックアップと小野誠彦の変幻自在のミックスで電子的な実験も兼ね備えたオシャレかつストレンジな作品
1981年アルバム「U・TA・GE」でデビューした清野由美は、井上鑑をアレンジャーに迎えパラシュートの面々をバックに従えた「寺尾聰」プロダクションでいかにも80年代初頭らしいニューミュージックスタイルの良曲を歌い、同年リリースの2ndアルバム「Natural Woman」ではさらに難波弘之や山本達彦、松岡直也も参加して、まさに全盛期とも言えるシティポップブームに乗ったシンガーとして微かな足跡を残しましたが、マイナーな知名度に留まってしまいます。このような境遇のシンガーの3枚目は文字通り勝負作となるわけでして、大胆な方向転換を余儀なくされた清野制作チームはサウンドプロデュースに亜蘭知子や村田有美といった初期ビーイングアーティストを実験的かつ野心的な作風に落とし込んだ制作集団・清水靖晃や笹路正徳らを擁するマライアに白羽の矢を立て、ガラリと様相を変えたチャレンジングな作品を仕上げてまいりました。それが83年リリースの本作です。
この83年当時はジャズ&フュージョンもしくはプログレッシブロックのイメージであったマライアが、テクノ・ニューウェーブに接近したラストアルバム「うたかたの日々」を制作していた時期に重なっており、本作も彼らの当時の作風が還元されたかのようなエレクトロニクスと変化球気味のストレンジなサウンドを志向しています。実に4曲ものフレンチPOPSの名曲をリメイクしていることから、全体的な印象としては実験的なエレクトロ風味のプログレフレンチポップとなりますが、それだけでは語ることができないような音作りへのこだわりが随所に感じられます。全ての楽曲のアレンジを笹路正徳が務めていますが、80年代前半の笹路サウンドは特にシンセサウンドにおいても挑戦的な作風のものが多く、本作でも「シェルの涙−CHEZ LAURETTE−」「もしかして明日は冬」「ホントに愛してる−LES DIVORCES−」あたりはフレージング、リズム構築、音色選択など非常に攻めたサウンドメイクに徹しています(もちろん「傾く」や「真夜中の電話」といった正統派のシティポップも継承していますが)。もちろん清水靖晃や土方隆行、渡辺モリオに山木秀夫といったマライアメンバー達の進取に富んだ演奏力の賜物でもありますが、それらをまとめ上げ音響面でも斬新な音像を作り上げた若き日の小野誠彦の見事なミキシングの貢献も非常に大きい作品です。清野自身は本作の強い個性を発するキャッチーとは言えない楽曲とよく闘ってはいますが、流石にシンガーとしての個性を発揮することはかなわず、本作をもって彼女名義の作品は終焉を迎えることとなりますが、本作が放つ一種異様なクオリティは80年代前半のチャレンジングな作品群の1つとして語り継がれていくべきと言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「シェルの涙−CHEZ LAURETTE−」
Michel DelpechのフレンチPOPSスタンダード「Chez Laurette」の斬新なリメイク。山木秀夫がシンセドラムを叩きまくりながら小野誠彦がリバーブとディレイを駆使したダブミックスで幻惑サウンドを演出、アヴァンギャルド性が強く出た実験作です。
・「傾く」
前曲とは打って変わって人懐っこいシティポップナンバー。多彩な音色とフレーズで惑わす笹路正徳のシンセプレイと清水靖晃の情熱的なサックスソロで盛り上げます。淡々と正確にリズムを刻むドラミングもこの楽曲のポイントの1つです。
・「もしかして明日は冬」
比較的地味な作風の哀愁歌謡ですが、この楽曲でも山木のシンセドラムが柔らかで軽やかなタムプレイで楽曲の基軸となり、特にサビ以外ではリバースサウンドでプログレッシブな不思議空間を作り出します。そんな野心的な作風でもサビではしっかり歌謡曲している部分に、そのギリギリを突く攻め具合が偲ばれます。ラストの「う〜〜〜」の切り取り方のセンスが興味深いです。
<評点>
・サウンド ★★★ (多彩な音色によるサウンドを斬新なミックスで演出)
・メロディ ★ (明らかにフレンチカバーよりオリジナル楽曲が良い)
・リズム ★★★ (スネアにかけられるディレイのタイミングが秀逸)
・曲構成 ★ (欲を言えば全てオリジナル楽曲で挑戦して欲しかった)
・個性 ★★ (大幅なサウンド転換で従来のファンも戸惑いを隠せず)
総合評点: 7点
清野由美:vocal・backing vocals

1.「ママ」 詞:杉山政美 曲:山崎修 編:笹路正徳
2.「シェルの涙−CHEZ LAURETTE−」
詞:Michel Delpech・杉山政美 曲:Roland Vincent 編:笹路正徳
3.「傾く」 詞:杉山政美 曲:清野由美 編:笹路正徳
4.「もしかして明日は冬」 詞:杉山政美 曲:和泉常寛 編:笹路正徳
5.「夜よさようなら−UNE SIMPLE MELODIE−」
詞:Michel Polnareff・杉山政美 曲:Michel Polnareff 編:笹路正徳
6.「いってモナムール−LA MAISON EST EN PUINE−」
詞:Michel Delpech・Jean Michel Rivat・杉山政美 曲:Claude Morgan
編:笹路正徳
7.「ホントに愛してる−LES DIVORCES−」
詞:Michel Delpech・Jean Michel Rivat・杉山政美 曲:Roland Vincent
編:笹路正徳
8.「真夜中の電話」 詞:杉山政美 曲・編:笹路正徳
9.「砂の舟」 詞:杉山政美 曲:滝沢洋一 編:笹路正徳
<support musician>
土方隆行:guitar
渡辺モリオ:bass
山木秀夫:drums・syndrums
笹路正徳:keyboards・marimba・vibraphone・recorder
宮城純子:acoustic piano
小野誠彦:charango・pan pipe
清水靖晃:tenor sax・clarinet・bass clarinet
中川昌三:flute
多グループ:strings section
加藤グループ:strings section
produced by 岡田健
engineered by 小野誠彦
● マライアのバックアップと小野誠彦の変幻自在のミックスで電子的な実験も兼ね備えたオシャレかつストレンジな作品
1981年アルバム「U・TA・GE」でデビューした清野由美は、井上鑑をアレンジャーに迎えパラシュートの面々をバックに従えた「寺尾聰」プロダクションでいかにも80年代初頭らしいニューミュージックスタイルの良曲を歌い、同年リリースの2ndアルバム「Natural Woman」ではさらに難波弘之や山本達彦、松岡直也も参加して、まさに全盛期とも言えるシティポップブームに乗ったシンガーとして微かな足跡を残しましたが、マイナーな知名度に留まってしまいます。このような境遇のシンガーの3枚目は文字通り勝負作となるわけでして、大胆な方向転換を余儀なくされた清野制作チームはサウンドプロデュースに亜蘭知子や村田有美といった初期ビーイングアーティストを実験的かつ野心的な作風に落とし込んだ制作集団・清水靖晃や笹路正徳らを擁するマライアに白羽の矢を立て、ガラリと様相を変えたチャレンジングな作品を仕上げてまいりました。それが83年リリースの本作です。
この83年当時はジャズ&フュージョンもしくはプログレッシブロックのイメージであったマライアが、テクノ・ニューウェーブに接近したラストアルバム「うたかたの日々」を制作していた時期に重なっており、本作も彼らの当時の作風が還元されたかのようなエレクトロニクスと変化球気味のストレンジなサウンドを志向しています。実に4曲ものフレンチPOPSの名曲をリメイクしていることから、全体的な印象としては実験的なエレクトロ風味のプログレフレンチポップとなりますが、それだけでは語ることができないような音作りへのこだわりが随所に感じられます。全ての楽曲のアレンジを笹路正徳が務めていますが、80年代前半の笹路サウンドは特にシンセサウンドにおいても挑戦的な作風のものが多く、本作でも「シェルの涙−CHEZ LAURETTE−」「もしかして明日は冬」「ホントに愛してる−LES DIVORCES−」あたりはフレージング、リズム構築、音色選択など非常に攻めたサウンドメイクに徹しています(もちろん「傾く」や「真夜中の電話」といった正統派のシティポップも継承していますが)。もちろん清水靖晃や土方隆行、渡辺モリオに山木秀夫といったマライアメンバー達の進取に富んだ演奏力の賜物でもありますが、それらをまとめ上げ音響面でも斬新な音像を作り上げた若き日の小野誠彦の見事なミキシングの貢献も非常に大きい作品です。清野自身は本作の強い個性を発するキャッチーとは言えない楽曲とよく闘ってはいますが、流石にシンガーとしての個性を発揮することはかなわず、本作をもって彼女名義の作品は終焉を迎えることとなりますが、本作が放つ一種異様なクオリティは80年代前半のチャレンジングな作品群の1つとして語り継がれていくべきと言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「シェルの涙−CHEZ LAURETTE−」
Michel DelpechのフレンチPOPSスタンダード「Chez Laurette」の斬新なリメイク。山木秀夫がシンセドラムを叩きまくりながら小野誠彦がリバーブとディレイを駆使したダブミックスで幻惑サウンドを演出、アヴァンギャルド性が強く出た実験作です。
・「傾く」
前曲とは打って変わって人懐っこいシティポップナンバー。多彩な音色とフレーズで惑わす笹路正徳のシンセプレイと清水靖晃の情熱的なサックスソロで盛り上げます。淡々と正確にリズムを刻むドラミングもこの楽曲のポイントの1つです。
・「もしかして明日は冬」
比較的地味な作風の哀愁歌謡ですが、この楽曲でも山木のシンセドラムが柔らかで軽やかなタムプレイで楽曲の基軸となり、特にサビ以外ではリバースサウンドでプログレッシブな不思議空間を作り出します。そんな野心的な作風でもサビではしっかり歌謡曲している部分に、そのギリギリを突く攻め具合が偲ばれます。ラストの「う〜〜〜」の切り取り方のセンスが興味深いです。
<評点>
・サウンド ★★★ (多彩な音色によるサウンドを斬新なミックスで演出)
・メロディ ★ (明らかにフレンチカバーよりオリジナル楽曲が良い)
・リズム ★★★ (スネアにかけられるディレイのタイミングが秀逸)
・曲構成 ★ (欲を言えば全てオリジナル楽曲で挑戦して欲しかった)
・個性 ★★ (大幅なサウンド転換で従来のファンも戸惑いを隠せず)
総合評点: 7点
「Strangers In The Night」 Peter Baumann
「Strangers In The Night」(1983 Arista)
Peter Baumann:vocals・keyboards・synthesizer

1.「Strangers In The Night」 Bert Kaempfert/Charles Singleton/Eddie Snyder
2.「Metro Man」 Peter Baumann/Eli Holland
3.「King Of The Jungle」 Peter Baumann/Marc Blatte/Larry Gottlieb/Eli Holland
4.「Be Mine」 Peter Baumann/Eli Holland
5.「Time Machine」 Peter Baumann/Chris Tanuzzi/Eli Holland
6.「Taxi」 Peter Baumann/Marc Blatte/Larry Gottlieb
7.「Cash」 Peter Baumann
8.「Glass House」 Peter Baumann/Eli Holland
9.「Ground Zero」 Peter Baumann/Marc Blatte/Larry Gottlieb/Eli Holland
10.「Welcome」 Peter Baumann
<support musician>
Eli Holland:vocals
Rob Zantay:vocals
Ritchie Fliegler:guitar
Ritchie Teeter:drums・keyboards
Bruce Brody:synthesizer
produced by Peter Baumann・Robert Clifford
engineered by Robert Clifford
● 前作に引き続きシンセポップ路線で古くからのファンを惑わせ果敢に売れ筋を狙いながら見事に外された路線打ち止め作
ジャーマンエレクトロミュージックの始祖の1つとも言うべきTangerine DreamのメンバーであったPeter Baumann早くからシンセサイザーを導入した電子音楽家として将来を嘱望されていましたが、80年代のニューウェーブムーブメントに当てられて、Gary Numanスタイル(声のトーンは全く異なるが)のエレクトロポップ路線に転換し、1981年にアルバム「Repeat Repeat」をリリース、タイトル通りの無機質反復ビートを基調にした電子音満載の楽曲は、そのポップ性であるがゆえに、Tangerine Dream的音世界を期待している旧来のファンを惑わす作品となりました。しかし彼はそのような賛否両論の評価にめげず、さらに同路線を継続して次作を制作の入り、2年のインターバルを置いた83年に本作がリリースされました。
60年代オールディーズの名曲、Johnny Mathis「Strangers In The Night」の画期的なエレポップリメイクでスタートする本作は、ポップ志向ながらやや神経質であった前作と比較しても、さらに洗練されたポップ寄りのシンセポップサウンドが全面的に支配しており、開放的、さらに言うなれば牧歌的とも言うべき楽曲も多く収録されています。持ち前のサイエンスフィクションなコンセプトながら極力トレンドに無理やり合わせてきたようなソングライティングながらも、彼の本領は「Strangers In The Night」や「Welcome」で見せる自由奔放なシンセソロに集約されていると思われます。シンセサウンドには一日の長がある彼ならではのこだわりと熟成の魅惑の音色とフレージングは、凡庸なエレポップに成り下がったと評価されがちな本作にあっても強烈な存在感を放っています。そして全編に渡るしっかりプログラムされたシーケンスと作品中で大活躍のSIMMONSエレクトリックドラム、そしてボコーダーの使い方などはTangerine Dream時代に培った電子楽器への造詣の深さを十分に感じさせる深みと愛のこもったサウンドデザインと言えるでしょう。結局本作も世間一般の理解を得たとは言えず、本路線は本作で終了、その後は自身のインディーズレーベルを設立しインストゥルメンタルな電子音楽に邁進していきますが、本作も時代の徒花としてではなく、当時のエレポップの好作品として再評価してもらいたいところです。
<Favorite Songs>
・「Strangers In The Night」
Johnny Mathisのあの美しいメロディの原曲を、ここまでキレの良いエレクトロポップに進化させるという思い切ったリアレンジナンバー。チープなシーケンスに乗った軽快なシンセサウンドにパワフルなシモンズフィルイン、間奏の強烈なシンセソロ等見せ場も満載で、原曲の面影を完全に消し去ったBaumannカラー全開の素晴らしいリメイクです。
・「Cash」
80年代前半御用達のチープなシーケンスと軽快なエレクトリックドラムが基調の明るいポップチューン。単純なサウンド構成など手抜き感も散見される中でも、ギターも加えながらもロックにも色気を出すなどその迷走ぶりがまた楽しい楽曲です。シンセソロもノリが良く、当時は既に使い古された感のあったボコーダーも迷いなく使用する部分はこだわりなのでしょう。
・「Welcome」
ラストナンバーでもバラードに落ち着くことなくアッパーチューンで攻めていく姿勢を評価したいです。ギミックも満載にエレクトリックSEで攻めまくり、粘り気のあるシンセソロやサンプリングもSEもギターソロまで飛び交う長尺の感想にプログレ魂を感じます。ラストにして本領を発揮した本作随一の名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (凡庸に収めると思いきやソロパートの冒険心が潔い)
・メロディ ★ (ポップに寄せてはいるが既聴感甚だしく飽きも早い)
・リズム ★★★ (前面に出て主張するエレクトリックドラムが大活躍)
・曲構成 ★ (コンセプトが功を奏しているのかいないのか微妙な)
・個性 ★★ (ポップ路線の継続は結果時代に乗り遅れた印象に)
総合評点: 7点
Peter Baumann:vocals・keyboards・synthesizer

1.「Strangers In The Night」 Bert Kaempfert/Charles Singleton/Eddie Snyder
2.「Metro Man」 Peter Baumann/Eli Holland
3.「King Of The Jungle」 Peter Baumann/Marc Blatte/Larry Gottlieb/Eli Holland
4.「Be Mine」 Peter Baumann/Eli Holland
5.「Time Machine」 Peter Baumann/Chris Tanuzzi/Eli Holland
6.「Taxi」 Peter Baumann/Marc Blatte/Larry Gottlieb
7.「Cash」 Peter Baumann
8.「Glass House」 Peter Baumann/Eli Holland
9.「Ground Zero」 Peter Baumann/Marc Blatte/Larry Gottlieb/Eli Holland
10.「Welcome」 Peter Baumann
<support musician>
Eli Holland:vocals
Rob Zantay:vocals
Ritchie Fliegler:guitar
Ritchie Teeter:drums・keyboards
Bruce Brody:synthesizer
produced by Peter Baumann・Robert Clifford
engineered by Robert Clifford
● 前作に引き続きシンセポップ路線で古くからのファンを惑わせ果敢に売れ筋を狙いながら見事に外された路線打ち止め作
ジャーマンエレクトロミュージックの始祖の1つとも言うべきTangerine DreamのメンバーであったPeter Baumann早くからシンセサイザーを導入した電子音楽家として将来を嘱望されていましたが、80年代のニューウェーブムーブメントに当てられて、Gary Numanスタイル(声のトーンは全く異なるが)のエレクトロポップ路線に転換し、1981年にアルバム「Repeat Repeat」をリリース、タイトル通りの無機質反復ビートを基調にした電子音満載の楽曲は、そのポップ性であるがゆえに、Tangerine Dream的音世界を期待している旧来のファンを惑わす作品となりました。しかし彼はそのような賛否両論の評価にめげず、さらに同路線を継続して次作を制作の入り、2年のインターバルを置いた83年に本作がリリースされました。
60年代オールディーズの名曲、Johnny Mathis「Strangers In The Night」の画期的なエレポップリメイクでスタートする本作は、ポップ志向ながらやや神経質であった前作と比較しても、さらに洗練されたポップ寄りのシンセポップサウンドが全面的に支配しており、開放的、さらに言うなれば牧歌的とも言うべき楽曲も多く収録されています。持ち前のサイエンスフィクションなコンセプトながら極力トレンドに無理やり合わせてきたようなソングライティングながらも、彼の本領は「Strangers In The Night」や「Welcome」で見せる自由奔放なシンセソロに集約されていると思われます。シンセサウンドには一日の長がある彼ならではのこだわりと熟成の魅惑の音色とフレージングは、凡庸なエレポップに成り下がったと評価されがちな本作にあっても強烈な存在感を放っています。そして全編に渡るしっかりプログラムされたシーケンスと作品中で大活躍のSIMMONSエレクトリックドラム、そしてボコーダーの使い方などはTangerine Dream時代に培った電子楽器への造詣の深さを十分に感じさせる深みと愛のこもったサウンドデザインと言えるでしょう。結局本作も世間一般の理解を得たとは言えず、本路線は本作で終了、その後は自身のインディーズレーベルを設立しインストゥルメンタルな電子音楽に邁進していきますが、本作も時代の徒花としてではなく、当時のエレポップの好作品として再評価してもらいたいところです。
<Favorite Songs>
・「Strangers In The Night」
Johnny Mathisのあの美しいメロディの原曲を、ここまでキレの良いエレクトロポップに進化させるという思い切ったリアレンジナンバー。チープなシーケンスに乗った軽快なシンセサウンドにパワフルなシモンズフィルイン、間奏の強烈なシンセソロ等見せ場も満載で、原曲の面影を完全に消し去ったBaumannカラー全開の素晴らしいリメイクです。
・「Cash」
80年代前半御用達のチープなシーケンスと軽快なエレクトリックドラムが基調の明るいポップチューン。単純なサウンド構成など手抜き感も散見される中でも、ギターも加えながらもロックにも色気を出すなどその迷走ぶりがまた楽しい楽曲です。シンセソロもノリが良く、当時は既に使い古された感のあったボコーダーも迷いなく使用する部分はこだわりなのでしょう。
・「Welcome」
ラストナンバーでもバラードに落ち着くことなくアッパーチューンで攻めていく姿勢を評価したいです。ギミックも満載にエレクトリックSEで攻めまくり、粘り気のあるシンセソロやサンプリングもSEもギターソロまで飛び交う長尺の感想にプログレ魂を感じます。ラストにして本領を発揮した本作随一の名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (凡庸に収めると思いきやソロパートの冒険心が潔い)
・メロディ ★ (ポップに寄せてはいるが既聴感甚だしく飽きも早い)
・リズム ★★★ (前面に出て主張するエレクトリックドラムが大活躍)
・曲構成 ★ (コンセプトが功を奏しているのかいないのか微妙な)
・個性 ★★ (ポップ路線の継続は結果時代に乗り遅れた印象に)
総合評点: 7点
「Far East」 TAO
「Far East」(1983 ワーナーパイオニア)
TAO

<members>
David Mann:vocals・guitars
関根安里:violins・keyboards・vocals
岡野治雄:bass・Moog bass・vocals
野澤竜郎:drums・percussions・vocals
1.「TELL ME」 詞:ジャネット辻野 曲:David Mann 編:TAO
2.「NOBODY KNOWS」 詞:ジャネット辻野 曲:David Mann 編:TAO
3.「MUSIC ON MY MIND」 詞:Leon Lee 曲:David Mann 編:TAO
4.「MAKIN’ LOVE」 曲:David Mann 編:TAO
5.「GROWING PAINS」 詞:R.Brown 曲:David Mann 編:TAO
6.「AZUR」 詞:ジャネット辻野 曲:井上大輔 編:井上大輔・TAO
7.「LOVE, PEACE & MUSIC」 詞:ジャネット辻野 曲:David Mann 編:TAO
8.「MINOR MIRACLE」 詞:R.Brown 曲:David Mann 編:TAO
9.「HELLO, VIFAM」 詞:ジャネット辻野 曲:David Mann 編:TAO
10.「DO YOU REMEMBER」 詞:R.Brown 曲:David Mann 編:TAO
produced by TAO
engineered by 島雄一
● 硬質なドラムとバイオリンをフィーチャーしプログレ風味のロックサウンドによる完成度の高さが話題となった実力派バンド唯一のアルバム
渡辺プロ〜ジャニーズという大御所芸能事務所に所属しながらアイドルバンドのメンバーとして活動していた日米ハーフのヴォーカル&コンポーザー、David Mann。既に1970年代からデビューを果たしていた彼は、程なくアイドルミュージシャンとしての立ち位置に見切りをつけ、関根安里(keyboard,violin)、岡野治雄(bass)、野澤竜郎(drums)と共に新バンドを結成、しばらくのバンド活動の後に意を決して渡米、武者修行の後に帰国するとグループ名を「TAO」とした彼らにデビューのオファーが舞い込むことになります。1983年井上大輔との共作曲によるシングル「AZUR」でデビューすると、2ndシングル「NOBODY KNOWS」リリース後にビッグタイアップとなる銀河漂流バイファムの主題歌を担当、全編英語詞となるロボットアニメーションソングとしては異例の洋楽テイストな「HELLO, VIFAM」は当然話題となると共に一躍バンドの存在を知られることになり、その勢いを駆り、彼らの洋楽テイストにプラスしてプログレッシブな匂いを感じさせる独特のサウンドで彩られた楽曲が多数収録された1stアルバムである本作がリリースされることになります。
アメリカ西海岸テイストが顕著なDavidのメロディに、プログレからニューウェーブに移行する時代に特有の冒険的な音処理によるサウンドデザインが、共に主張を繰り返す緊張感が魅力のTAOの楽曲は、一聴すると日本のバンドとは思えない洋楽至上主義な印象を受けますが、それはそれなりのクオリティと当時の日本のバンドにはなかったセンスを兼ね備えているからと言っても過言ではないでしょう。サウンド面を中心的にカバーする関根安里が随所に聴かせるヴァイオリンプレイは先達のプログレロックバンドを80年代において受け継いだ貴重な「味」であり、「GROWING PAINS」のような当然プログレ色の強い楽曲構成と共に彼らのアイデンティティをアピールする部分と言えます。しかし本作の最も注意すべき点はパワフルで派手なドラムの音処理です。どちらかと言えば粗さの残るドラミングでありながら、バスドラやスネア、シンバル系に至るまでゲートリバーブで覆ったようなビシバシリズムは、どの楽曲にあってもテクニカルな演奏をかき消すくらいに強烈に主張していて、我が物顔で主役を張っています。このように本作においてはドラムが勝ち過ぎな部分はあるものの、各パートが戦っているかのようなテンションの高さが本作のクオリティをより高めているという点では、バンドとして非常に恵まれた作品のように感じられます。比較的ロック志向の強かったDavidとプログレ色豊かな他の3人とは結局本作を最後に袂を分かってしまいますが、TAOはDavidに受け継がれ、関根ほか3名はEUROXとしてアニメソングのタイアップや中森明菜のプロデュース等で80年代に確かな足跡を残すことになります。
<Favorite Songs>
・「NOBODY KNOWS」
なんともキャッチーなメジャー調の旋律が開放的な2ndシングル。CMソングにも抜擢された爽やかさ溢れるこの楽曲では、関根のシンセ、ピアノ&ヴァイオリンもキラキラ輝いている印象です。そしてシンバルの音処理が独特なビシバシドラムもガンガン目立ちます。
・「MUSIC ON MY MIND」
流麗なフレーズとタイトなドラムとの掛け合いが魅力のポップロック。プロ野球界の名外人プレイヤー、リー兄弟の弟レオン・リー(ロッテ→横浜大洋→ヤクルト)が作詞した話題の楽曲ですが、2周目のキラキラフレーズと間奏のヴァイオリンがこの楽曲のロマンティックなイメージを助長させます。そして少々走り気味のドラムの存在感はここでも際立っています。
・「AZUR」
井上大輔との共作曲のラテン調なデビューシングル。さすがにヒットメイカーとして活躍する井上が加わると何ともジャパニーズPOPSの美メロセンスが加わります。特にロマンチシズム溢れるBメロあたりはTAOではなかなか出せない雰囲気です。それでもTAOたる所以はやはりヴァイオリンによるメインフレーズが埋もれないからでしょう。
<評点>
・サウンド ★★ (各パートそれぞれが強烈に主張する緊張感が魅力)
・メロディ ★★ (アメリカンテイストの魅惑の開放的なフレーズが頻出)
・リズム ★★★★ (リバーブ成分たっぷりのパワフルな音は当時でも貴重)
・曲構成 ★★ (シングル曲を効果的に散りばめてバンドの個性を主張)
・個性 ★★ (日本発のバンドとは思えない雰囲気は独自のもの)
総合評点: 7点
TAO

<members>
David Mann:vocals・guitars
関根安里:violins・keyboards・vocals
岡野治雄:bass・Moog bass・vocals
野澤竜郎:drums・percussions・vocals
1.「TELL ME」 詞:ジャネット辻野 曲:David Mann 編:TAO
2.「NOBODY KNOWS」 詞:ジャネット辻野 曲:David Mann 編:TAO
3.「MUSIC ON MY MIND」 詞:Leon Lee 曲:David Mann 編:TAO
4.「MAKIN’ LOVE」 曲:David Mann 編:TAO
5.「GROWING PAINS」 詞:R.Brown 曲:David Mann 編:TAO
6.「AZUR」 詞:ジャネット辻野 曲:井上大輔 編:井上大輔・TAO
7.「LOVE, PEACE & MUSIC」 詞:ジャネット辻野 曲:David Mann 編:TAO
8.「MINOR MIRACLE」 詞:R.Brown 曲:David Mann 編:TAO
9.「HELLO, VIFAM」 詞:ジャネット辻野 曲:David Mann 編:TAO
10.「DO YOU REMEMBER」 詞:R.Brown 曲:David Mann 編:TAO
produced by TAO
engineered by 島雄一
● 硬質なドラムとバイオリンをフィーチャーしプログレ風味のロックサウンドによる完成度の高さが話題となった実力派バンド唯一のアルバム
渡辺プロ〜ジャニーズという大御所芸能事務所に所属しながらアイドルバンドのメンバーとして活動していた日米ハーフのヴォーカル&コンポーザー、David Mann。既に1970年代からデビューを果たしていた彼は、程なくアイドルミュージシャンとしての立ち位置に見切りをつけ、関根安里(keyboard,violin)、岡野治雄(bass)、野澤竜郎(drums)と共に新バンドを結成、しばらくのバンド活動の後に意を決して渡米、武者修行の後に帰国するとグループ名を「TAO」とした彼らにデビューのオファーが舞い込むことになります。1983年井上大輔との共作曲によるシングル「AZUR」でデビューすると、2ndシングル「NOBODY KNOWS」リリース後にビッグタイアップとなる銀河漂流バイファムの主題歌を担当、全編英語詞となるロボットアニメーションソングとしては異例の洋楽テイストな「HELLO, VIFAM」は当然話題となると共に一躍バンドの存在を知られることになり、その勢いを駆り、彼らの洋楽テイストにプラスしてプログレッシブな匂いを感じさせる独特のサウンドで彩られた楽曲が多数収録された1stアルバムである本作がリリースされることになります。
アメリカ西海岸テイストが顕著なDavidのメロディに、プログレからニューウェーブに移行する時代に特有の冒険的な音処理によるサウンドデザインが、共に主張を繰り返す緊張感が魅力のTAOの楽曲は、一聴すると日本のバンドとは思えない洋楽至上主義な印象を受けますが、それはそれなりのクオリティと当時の日本のバンドにはなかったセンスを兼ね備えているからと言っても過言ではないでしょう。サウンド面を中心的にカバーする関根安里が随所に聴かせるヴァイオリンプレイは先達のプログレロックバンドを80年代において受け継いだ貴重な「味」であり、「GROWING PAINS」のような当然プログレ色の強い楽曲構成と共に彼らのアイデンティティをアピールする部分と言えます。しかし本作の最も注意すべき点はパワフルで派手なドラムの音処理です。どちらかと言えば粗さの残るドラミングでありながら、バスドラやスネア、シンバル系に至るまでゲートリバーブで覆ったようなビシバシリズムは、どの楽曲にあってもテクニカルな演奏をかき消すくらいに強烈に主張していて、我が物顔で主役を張っています。このように本作においてはドラムが勝ち過ぎな部分はあるものの、各パートが戦っているかのようなテンションの高さが本作のクオリティをより高めているという点では、バンドとして非常に恵まれた作品のように感じられます。比較的ロック志向の強かったDavidとプログレ色豊かな他の3人とは結局本作を最後に袂を分かってしまいますが、TAOはDavidに受け継がれ、関根ほか3名はEUROXとしてアニメソングのタイアップや中森明菜のプロデュース等で80年代に確かな足跡を残すことになります。
<Favorite Songs>
・「NOBODY KNOWS」
なんともキャッチーなメジャー調の旋律が開放的な2ndシングル。CMソングにも抜擢された爽やかさ溢れるこの楽曲では、関根のシンセ、ピアノ&ヴァイオリンもキラキラ輝いている印象です。そしてシンバルの音処理が独特なビシバシドラムもガンガン目立ちます。
・「MUSIC ON MY MIND」
流麗なフレーズとタイトなドラムとの掛け合いが魅力のポップロック。プロ野球界の名外人プレイヤー、リー兄弟の弟レオン・リー(ロッテ→横浜大洋→ヤクルト)が作詞した話題の楽曲ですが、2周目のキラキラフレーズと間奏のヴァイオリンがこの楽曲のロマンティックなイメージを助長させます。そして少々走り気味のドラムの存在感はここでも際立っています。
・「AZUR」
井上大輔との共作曲のラテン調なデビューシングル。さすがにヒットメイカーとして活躍する井上が加わると何ともジャパニーズPOPSの美メロセンスが加わります。特にロマンチシズム溢れるBメロあたりはTAOではなかなか出せない雰囲気です。それでもTAOたる所以はやはりヴァイオリンによるメインフレーズが埋もれないからでしょう。
<評点>
・サウンド ★★ (各パートそれぞれが強烈に主張する緊張感が魅力)
・メロディ ★★ (アメリカンテイストの魅惑の開放的なフレーズが頻出)
・リズム ★★★★ (リバーブ成分たっぷりのパワフルな音は当時でも貴重)
・曲構成 ★★ (シングル曲を効果的に散りばめてバンドの個性を主張)
・個性 ★★ (日本発のバンドとは思えない雰囲気は独自のもの)
総合評点: 7点