「spacetime patrol カーロスなんか怖くない!」 PEVO
「spacetime patrol カーロスなんか怖くない!」 (2015 Pullmozile)
PEVO

<members>
PEVO1号(スポットマイスタッフェン):sold system:hazard guitar
PEVO2号(コンペリタンプログレッフェン):grop system:inconstan synthesizer
PEVO4号(マガゾフエデュランセッフェン):meal system:transformation voice
1.「TP」 詞・曲・編:PEVO
2.「集積培養リアクター!」 詞・曲・編:PEVO
3.「妄想クラウド」 詞・曲・編:PEVO
4.「decision node」 詞・曲・編:PEVO
5.「critical point」 詞・曲・編:PEVO
6.「moon」 詞・曲・編:PEVO
7.「IM-6」 曲・編:PEVO
8.「rain bird」 詞・曲・編:PEVO
9.「メカニカノ (NHBros MIX)」 詞・曲・編:PEVO
10.「コンペリタンチップル」 曲・編:PEVO
produced by PEVO
engineered by 礒村淳
●重厚さはやや後退したものの圧倒的なSF世界観とプログレ要素を押し出しながら新境地も垣間見せる5thアルバム
P-MODELの平沢進関連の作品をリリースする自主製作レーベルDIW/SYUNからコンセプトアルバム「PEVO」(後年「CONCAVE and CONVEX」に改名)でデビューした緻密な設定による宇宙人バンドPEVOは、その余りにもSFライクなコンセプトから企画モノと思われていましたが、P-MODELの活動休止後はインディーズ活動に勤しみ、メンバーを追加しながら「HARD CORE PEVO」「NON-STOP PEVO!」とアルバムをリリースするも、その試行錯誤感は否めませんでした。しかしそんな彼らの転機が訪れたのは2013年。平沢進の核P-MODELプロジェクトのストーリーにPEVOの物語もスピンオフ的に組み込まれると、再びメンバーチェンジして再スタートを図り、マキシシングル「Prototyper」、アルバム「The Spot Directive スポット破壊指令」をリリース、ボーカリスト変更と分厚くブラッシュアップされたサウンドを引っ提げた強力な名盤を披露し、PEVO星人を待ちわびていた好事家達を喜ばせることになったわけです。
さて、前作から2年後に早くも再始動後2枚目のアルバムとなる本作がリリースされます。PEVOにまつわる(設定された)物語は他に詳しいサイトがありますので割愛させていただきますが、サウンド面に関しては前作同様非常にテンションが高くクリアでギラギラした印象を受けます。まず前作からPEVO3号から交代したPEVO4号の滑舌の良く潔いボーカルはここでも全開で、中の人のモ○グ○ムを彷彿とさせる高音が実に魅力的です。また、2012年から平沢進の片腕ギタリストとして参加していたPEVO1号は、本作ともなると縦横無尽なギターワークでそのプログレ精神を存分に発揮し、その確かな実力を惜しげもなく披露しているわけですが、本作では前作において顕著であったスネアドラムの重厚さはやや抑え気味となっており、シンセサイザーサウンドの輪郭をさらに研磨してエッジを利かせたようなひりついた音色の多用が顕著となっています。これはやはり前作からエンジニアリングを担当している礒村淳の見事な仕事ぶりで、PEVOが再始動後数倍もクオリティが急上昇した要因は、外部のエンジニアにミックスを任せたからにほかならないと思われます。平沢進の作品に鎮西正憲技師の力が不可欠なように、PEVOにも礒村技師の力が欠かせなくなっていることを再認識させられる作品と言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「decision node」
刺激的な電子音で耳を突き刺すミディアムチューン。定期的に刻むシーケンスと合わせるような淡々としたボーカルにあえてかぶせてくる圧の強いエレクトロリズムがいかにもスペイシーで美味しいサウンドデザインです。
・「moon」
サビの高音ボーカルの開放感が素晴らしい折り返し地点の名曲。メインフレーズにかかるリバーブ&ディレイなど音像の広がり方が半端ではありません。サビのギラギラしたアルペジオも高揚感に一役買っていますが、圧巻なのは平沢譲りのトリッキーな加工が施されたギターソロ。これはめちゃくちゃカッコ良いとしか言いようがありません。
・「rain bird」
これまでのPEVO楽曲の印象からは異色とも思えるメロトロン風のイントロに度肝を抜かれる楽曲。しかし本編が始まるといつもの弾けるようなサイン波が飛び交う楽天的かつリズミカルなPEVOニューウェーブが始まります。非常に単音使いに特徴のあるPEVOですが、この楽曲では珍しく白玉を効果的に使用するなど新境地を見せています。
<評点>
・サウンド ★★★★ (再始動後はギラギラした処理の多彩な電子音が楽しめる)
・メロディ ★★ (ストイックなサウンド主義だが歌モノの矜恃も忘れず)
・リズム ★★ (シンセの鋭さを前面に出す代わりにリズムはやや軽めに)
・曲構成 ★★ (随所で攻めのサウンドも盛り込むなど飽きさせない)
・個性 ★★★ (前作からのサウンド面での質向上が凄まじい)
総合評点: 7点
PEVO

<members>
PEVO1号(スポットマイスタッフェン):sold system:hazard guitar
PEVO2号(コンペリタンプログレッフェン):grop system:inconstan synthesizer
PEVO4号(マガゾフエデュランセッフェン):meal system:transformation voice
1.「TP」 詞・曲・編:PEVO
2.「集積培養リアクター!」 詞・曲・編:PEVO
3.「妄想クラウド」 詞・曲・編:PEVO
4.「decision node」 詞・曲・編:PEVO
5.「critical point」 詞・曲・編:PEVO
6.「moon」 詞・曲・編:PEVO
7.「IM-6」 曲・編:PEVO
8.「rain bird」 詞・曲・編:PEVO
9.「メカニカノ (NHBros MIX)」 詞・曲・編:PEVO
10.「コンペリタンチップル」 曲・編:PEVO
produced by PEVO
engineered by 礒村淳
●重厚さはやや後退したものの圧倒的なSF世界観とプログレ要素を押し出しながら新境地も垣間見せる5thアルバム
P-MODELの平沢進関連の作品をリリースする自主製作レーベルDIW/SYUNからコンセプトアルバム「PEVO」(後年「CONCAVE and CONVEX」に改名)でデビューした緻密な設定による宇宙人バンドPEVOは、その余りにもSFライクなコンセプトから企画モノと思われていましたが、P-MODELの活動休止後はインディーズ活動に勤しみ、メンバーを追加しながら「HARD CORE PEVO」「NON-STOP PEVO!」とアルバムをリリースするも、その試行錯誤感は否めませんでした。しかしそんな彼らの転機が訪れたのは2013年。平沢進の核P-MODELプロジェクトのストーリーにPEVOの物語もスピンオフ的に組み込まれると、再びメンバーチェンジして再スタートを図り、マキシシングル「Prototyper」、アルバム「The Spot Directive スポット破壊指令」をリリース、ボーカリスト変更と分厚くブラッシュアップされたサウンドを引っ提げた強力な名盤を披露し、PEVO星人を待ちわびていた好事家達を喜ばせることになったわけです。
さて、前作から2年後に早くも再始動後2枚目のアルバムとなる本作がリリースされます。PEVOにまつわる(設定された)物語は他に詳しいサイトがありますので割愛させていただきますが、サウンド面に関しては前作同様非常にテンションが高くクリアでギラギラした印象を受けます。まず前作からPEVO3号から交代したPEVO4号の滑舌の良く潔いボーカルはここでも全開で、中の人のモ○グ○ムを彷彿とさせる高音が実に魅力的です。また、2012年から平沢進の片腕ギタリストとして参加していたPEVO1号は、本作ともなると縦横無尽なギターワークでそのプログレ精神を存分に発揮し、その確かな実力を惜しげもなく披露しているわけですが、本作では前作において顕著であったスネアドラムの重厚さはやや抑え気味となっており、シンセサイザーサウンドの輪郭をさらに研磨してエッジを利かせたようなひりついた音色の多用が顕著となっています。これはやはり前作からエンジニアリングを担当している礒村淳の見事な仕事ぶりで、PEVOが再始動後数倍もクオリティが急上昇した要因は、外部のエンジニアにミックスを任せたからにほかならないと思われます。平沢進の作品に鎮西正憲技師の力が不可欠なように、PEVOにも礒村技師の力が欠かせなくなっていることを再認識させられる作品と言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「decision node」
刺激的な電子音で耳を突き刺すミディアムチューン。定期的に刻むシーケンスと合わせるような淡々としたボーカルにあえてかぶせてくる圧の強いエレクトロリズムがいかにもスペイシーで美味しいサウンドデザインです。
・「moon」
サビの高音ボーカルの開放感が素晴らしい折り返し地点の名曲。メインフレーズにかかるリバーブ&ディレイなど音像の広がり方が半端ではありません。サビのギラギラしたアルペジオも高揚感に一役買っていますが、圧巻なのは平沢譲りのトリッキーな加工が施されたギターソロ。これはめちゃくちゃカッコ良いとしか言いようがありません。
・「rain bird」
これまでのPEVO楽曲の印象からは異色とも思えるメロトロン風のイントロに度肝を抜かれる楽曲。しかし本編が始まるといつもの弾けるようなサイン波が飛び交う楽天的かつリズミカルなPEVOニューウェーブが始まります。非常に単音使いに特徴のあるPEVOですが、この楽曲では珍しく白玉を効果的に使用するなど新境地を見せています。
<評点>
・サウンド ★★★★ (再始動後はギラギラした処理の多彩な電子音が楽しめる)
・メロディ ★★ (ストイックなサウンド主義だが歌モノの矜恃も忘れず)
・リズム ★★ (シンセの鋭さを前面に出す代わりにリズムはやや軽めに)
・曲構成 ★★ (随所で攻めのサウンドも盛り込むなど飽きさせない)
・個性 ★★★ (前作からのサウンド面での質向上が凄まじい)
総合評点: 7点
「ALLO!」 ワールドスタンダード
「ALLO!」 (1986 テイチク)
ワールドスタンダード

<members>
大内美貴子:vocal
信太美奈:vocal
鈴木惣一郎:vocal・guitar・12strings guitar・mandolin・drums・percussion
三上昌晴:keyboards・guitar・mandolin・ukulele・chorus
1.「愛のミラクル」 詞:大内美貴子 曲:鈴木惣一郎 編:鈴木惣一郎 弦編曲:菅波ゆり子
2.「太陽は教えてくれない」 詞:小西康陽 曲・編:三上昌晴
3.「オアシスのなかで-Sha La La」 詞:大内美貴子 曲・編:鈴木惣一郎
4.「ニューヨーカーの子守歌」 詞:大内美貴子 曲・編:藤原真人・鈴木惣一郎
5.「ミラージュ」 詞:鈴木惣一郎 曲・編:三上昌晴
6.「デスァ・フィナードNo.6」 詞:大内美貴子 曲・編:鈴木惣一郎 管編曲:篠田昌已
7.「サーカスの魚達」 詞:大内美貴子 曲・編:三上昌晴
8.「青いレファ」
詞:鈴木惣一郎・大内美貴子 曲:鈴木惣一郎 編:鈴木惣一郎 弦編曲:藤原真人
9.「ピアニストの憂鬱」 詞:大内美貴子 曲・編:三上昌晴
<support musician>
成田忍:electric guitar
藤原真人:keyboards・piano・electric bass・chorus・strings arrangement
松岡晃代:piano
吉田哲治:trumpet
松本治:trombone
篠田昌已:alto sax・tenor sax・flute・horn arrangement
菅波ゆり子:violin・piano・strings arrangement
津布久敏子:violin
吉野美緒:violin
伊藤耕司:cello
堺靖師:cello
Virginia:”Allo” French Chorus
Kamo-Chan&Shibata:chorus・noise
荒川勝:”O-Le” voice
produced by 牧村憲一・鈴木惣一郎
mixing engineered by 西須廣志
recording engineered by 阿部保弘
● 前作から一転して日本語歌モノPOPSに果敢に挑戦しつつもノンジャンルな音楽性は全くぶれなかった3rdアルバム
1980年代初頭に佐藤幸雄率いるすきすきスウィッチにドラマーとして参加していた鈴木惣一郎は、1982年より自身のパーマネントユニットとして、ワールドスタンダードとしての活動を開始、その完成度の高いデモテープは坂本龍一がDJを務めるFMラジオ番組「サウンドストリート」やショコラータ等を輩出した当時最先端の音楽シーンを紹介していたカセットマガジン「TRA」に紹介されると、その後坂本龍一主宰のMIDIレコードからのデビューが決まっていたものの、紆余曲折を経てテイチクレコードに新設された細野晴臣主宰のノンスタンダードレーベルから、鈴木惣一郎、三上昌晴、山本和夫(後のムーグ山本)、大内美貴子、松岡晃代、小塚類子の6人組グループとして1985年に1stアルバム「ワールドスタンダード珠玉の第一集」がリリース、晴れてデビューを飾ることになるわけです。テクノベースのエレクトリックなサウンドながら、後年のラウンジミュージックを先取りするかのようなオーガニックな質感でオリジナリティを存分に発揮していたこのインストゥルメンタルアルバムの後、翌86年にはエスペラント語のボーカルをフィーチャーした実験的楽曲集であるミニアルバム「DOUBLE HAPPINESS」をリリースするものの、ここでグループは鈴木、三上、大内のトリオユニットとなってしまいます。そこに新ボーカリスト信太美奈を迎えて4人組として再スタートを切って同年リリースされた3rdアルバムが本作というわけです。
さて、本作で再始動となったワールドスタンダードは方向性に関して大きく舵を切ることになります。それは日本語POPSへのチャレンジです。これまで無国籍感覚を前面に押し出したマニアックな音楽性に傾倒していた彼らでしたが、本作では非常にポップなメロディと歌を重視した作風に転換し、日本語による真っ当なPOPSのフィールドで勝負する確固たる意志を感じる作品となっています。1stアルバムから本作までの彼らは鈴木惣一郎と三上昌晴のダブルコンポーザースタイルで楽曲制作されていましたが、単純な比較ではありますが、無国籍風味を醸し出すアコースティックなアプローチと洋楽POPS的なメロディを鈴木が担当し、エレクトリックかつテクノなサウンドメイクとニューウェーブなポップフレーズを三上が担当していたような印象で、特に三上楽曲の充実ぶりはここに極まれりといった感覚を得ることができます。鈴木の見事なコンセプトワークによる作品構築術はその後の彼のさまざまな活動を追いかけていくにつれて認識することができますが、本作では特にサウンド面、テクノロジー面においての三上の貢献度が高く、鈴木も大変心強かったのではないかと推測されます。リードチューンと言ってもよいPizzicato Five小西康陽作詞の「太陽は教えてくれない」、YMO(坂本龍一)風のテクノポッパー「ミラージュ」、そしてラストナンバー「ピアニストの憂鬱」と名曲を連発する三上に対して、鈴木は豊富過ぎる音楽的知識をしっかり歌モノPOPSに昇華すべくその手腕を発揮しており、日本語POPSへチャレンジした本作としてはある種の目的は達したのではないかと思われます。
しかし、本作の手応えをもとに歌モノ路線を継続しようとしたワールドスタンダードですが、優れた楽曲を提供し続けた三上昌晴がグループを離れることになると、思い切ってグループ名を変更、エブリシングプレイとして生まれ変わった彼らは、本作でもストリングス編曲を手がけるなど積極的に参加していた藤原真人を加えて88年にアルバム「ルール・モナムール」をリリースし再び活動していくことになるのです(なお、ワールドスタンダードは90年代後半に細野晴臣主宰のデイジーワールドに移籍して復活して現在に至ります)。
<Favorite Songs>
・「ミラージュ」
本作の中でも最もエレクトリックな匂いのするエレガントな中期YMO風テクノポップチューン。最もノンスタリスナーにはストライクだったかもしれません。ノイジーにエフェクトされたリズムに洗練されたパッド、その清涼感とポップセンスに三上昌晴の才能を感じざるを得ません。
・「デスァ・フィナードNo.6」
ブラスセクションも華やかなダンサブルチューン。ミニマルなキーボードのフレーズとハンドクラップの定期的な入り方がニューウェーブな匂いを残していますが、ブラスアレンジのおかげで楽曲のパワーが生まれています。テクノな効果と生演奏のアプローチが最も絶妙に絡み合った良曲です。
・「ピアニストの憂鬱」
リズムマシンのジャストなプログラミングが血湧き肉躍る無国籍デジタル歌謡。多層的なミニマルシーケンスの絡み合いが絶妙です。音響的なピアノが入ってくる間奏も面白いのですが、牧歌的なボーカルにより癒しと不穏の狭間を味わえるのも興味深い名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (生楽器とエレクトロニクスの融合の優れた回答の1つ)
・メロディ ★★ (限りなくポップに寄りながらもスノッブには寄らない)
・リズム ★★★ (アナログな楽曲であってもデジタルさを感じさせる)
・曲構成 ★★★ (マニアックにもポップにも寄り過ぎない絶妙なバランス)
・個性 ★★ (歌モノでもクオリティの高さを主張できる実力を披露)
総合評点: 8点
ワールドスタンダード

<members>
大内美貴子:vocal
信太美奈:vocal
鈴木惣一郎:vocal・guitar・12strings guitar・mandolin・drums・percussion
三上昌晴:keyboards・guitar・mandolin・ukulele・chorus
1.「愛のミラクル」 詞:大内美貴子 曲:鈴木惣一郎 編:鈴木惣一郎 弦編曲:菅波ゆり子
2.「太陽は教えてくれない」 詞:小西康陽 曲・編:三上昌晴
3.「オアシスのなかで-Sha La La」 詞:大内美貴子 曲・編:鈴木惣一郎
4.「ニューヨーカーの子守歌」 詞:大内美貴子 曲・編:藤原真人・鈴木惣一郎
5.「ミラージュ」 詞:鈴木惣一郎 曲・編:三上昌晴
6.「デスァ・フィナードNo.6」 詞:大内美貴子 曲・編:鈴木惣一郎 管編曲:篠田昌已
7.「サーカスの魚達」 詞:大内美貴子 曲・編:三上昌晴
8.「青いレファ」
詞:鈴木惣一郎・大内美貴子 曲:鈴木惣一郎 編:鈴木惣一郎 弦編曲:藤原真人
9.「ピアニストの憂鬱」 詞:大内美貴子 曲・編:三上昌晴
<support musician>
成田忍:electric guitar
藤原真人:keyboards・piano・electric bass・chorus・strings arrangement
松岡晃代:piano
吉田哲治:trumpet
松本治:trombone
篠田昌已:alto sax・tenor sax・flute・horn arrangement
菅波ゆり子:violin・piano・strings arrangement
津布久敏子:violin
吉野美緒:violin
伊藤耕司:cello
堺靖師:cello
Virginia:”Allo” French Chorus
Kamo-Chan&Shibata:chorus・noise
荒川勝:”O-Le” voice
produced by 牧村憲一・鈴木惣一郎
mixing engineered by 西須廣志
recording engineered by 阿部保弘
● 前作から一転して日本語歌モノPOPSに果敢に挑戦しつつもノンジャンルな音楽性は全くぶれなかった3rdアルバム
1980年代初頭に佐藤幸雄率いるすきすきスウィッチにドラマーとして参加していた鈴木惣一郎は、1982年より自身のパーマネントユニットとして、ワールドスタンダードとしての活動を開始、その完成度の高いデモテープは坂本龍一がDJを務めるFMラジオ番組「サウンドストリート」やショコラータ等を輩出した当時最先端の音楽シーンを紹介していたカセットマガジン「TRA」に紹介されると、その後坂本龍一主宰のMIDIレコードからのデビューが決まっていたものの、紆余曲折を経てテイチクレコードに新設された細野晴臣主宰のノンスタンダードレーベルから、鈴木惣一郎、三上昌晴、山本和夫(後のムーグ山本)、大内美貴子、松岡晃代、小塚類子の6人組グループとして1985年に1stアルバム「ワールドスタンダード珠玉の第一集」がリリース、晴れてデビューを飾ることになるわけです。テクノベースのエレクトリックなサウンドながら、後年のラウンジミュージックを先取りするかのようなオーガニックな質感でオリジナリティを存分に発揮していたこのインストゥルメンタルアルバムの後、翌86年にはエスペラント語のボーカルをフィーチャーした実験的楽曲集であるミニアルバム「DOUBLE HAPPINESS」をリリースするものの、ここでグループは鈴木、三上、大内のトリオユニットとなってしまいます。そこに新ボーカリスト信太美奈を迎えて4人組として再スタートを切って同年リリースされた3rdアルバムが本作というわけです。
さて、本作で再始動となったワールドスタンダードは方向性に関して大きく舵を切ることになります。それは日本語POPSへのチャレンジです。これまで無国籍感覚を前面に押し出したマニアックな音楽性に傾倒していた彼らでしたが、本作では非常にポップなメロディと歌を重視した作風に転換し、日本語による真っ当なPOPSのフィールドで勝負する確固たる意志を感じる作品となっています。1stアルバムから本作までの彼らは鈴木惣一郎と三上昌晴のダブルコンポーザースタイルで楽曲制作されていましたが、単純な比較ではありますが、無国籍風味を醸し出すアコースティックなアプローチと洋楽POPS的なメロディを鈴木が担当し、エレクトリックかつテクノなサウンドメイクとニューウェーブなポップフレーズを三上が担当していたような印象で、特に三上楽曲の充実ぶりはここに極まれりといった感覚を得ることができます。鈴木の見事なコンセプトワークによる作品構築術はその後の彼のさまざまな活動を追いかけていくにつれて認識することができますが、本作では特にサウンド面、テクノロジー面においての三上の貢献度が高く、鈴木も大変心強かったのではないかと推測されます。リードチューンと言ってもよいPizzicato Five小西康陽作詞の「太陽は教えてくれない」、YMO(坂本龍一)風のテクノポッパー「ミラージュ」、そしてラストナンバー「ピアニストの憂鬱」と名曲を連発する三上に対して、鈴木は豊富過ぎる音楽的知識をしっかり歌モノPOPSに昇華すべくその手腕を発揮しており、日本語POPSへチャレンジした本作としてはある種の目的は達したのではないかと思われます。
しかし、本作の手応えをもとに歌モノ路線を継続しようとしたワールドスタンダードですが、優れた楽曲を提供し続けた三上昌晴がグループを離れることになると、思い切ってグループ名を変更、エブリシングプレイとして生まれ変わった彼らは、本作でもストリングス編曲を手がけるなど積極的に参加していた藤原真人を加えて88年にアルバム「ルール・モナムール」をリリースし再び活動していくことになるのです(なお、ワールドスタンダードは90年代後半に細野晴臣主宰のデイジーワールドに移籍して復活して現在に至ります)。
<Favorite Songs>
・「ミラージュ」
本作の中でも最もエレクトリックな匂いのするエレガントな中期YMO風テクノポップチューン。最もノンスタリスナーにはストライクだったかもしれません。ノイジーにエフェクトされたリズムに洗練されたパッド、その清涼感とポップセンスに三上昌晴の才能を感じざるを得ません。
・「デスァ・フィナードNo.6」
ブラスセクションも華やかなダンサブルチューン。ミニマルなキーボードのフレーズとハンドクラップの定期的な入り方がニューウェーブな匂いを残していますが、ブラスアレンジのおかげで楽曲のパワーが生まれています。テクノな効果と生演奏のアプローチが最も絶妙に絡み合った良曲です。
・「ピアニストの憂鬱」
リズムマシンのジャストなプログラミングが血湧き肉躍る無国籍デジタル歌謡。多層的なミニマルシーケンスの絡み合いが絶妙です。音響的なピアノが入ってくる間奏も面白いのですが、牧歌的なボーカルにより癒しと不穏の狭間を味わえるのも興味深い名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★ (生楽器とエレクトロニクスの融合の優れた回答の1つ)
・メロディ ★★ (限りなくポップに寄りながらもスノッブには寄らない)
・リズム ★★★ (アナログな楽曲であってもデジタルさを感じさせる)
・曲構成 ★★★ (マニアックにもポップにも寄り過ぎない絶妙なバランス)
・個性 ★★ (歌モノでもクオリティの高さを主張できる実力を披露)
総合評点: 8点
「TECHNASMA」 LOGIC SYSTEM
「TECHNASMA」(2020 pinewaves)
LOGIC SYSTEM

<members>
松武秀樹:synthesizer programming
<electric equipment>
Moog IIIc・Moog MiniMoog Voyager・Moog Mother-32・Moog GrandMother・Moog DFAM (Drummer From Another Mother)・EMS VSC3・EMS Vocoder2000・E-mu Vintage Keys・E-mu Orbit・E-mu Planet Phatt・E-mu Carnaval・E-mu Morpheus・Sequencial Circuits Prophet5・Sequencial Pro3・Arp Odyssey・Clavia Nord Lead・Arturia V Collection7・Spectrasonics Omnisphere2・Yamaha Montage・Yamaha FS1R・Yamaha MU2000・Roland Fantom・Roland Jupiter-Xm・Roland TR-808・Roland TR-8・Roland VP-770・Roland SC-88 Pro・Simmons SDS-V・Stylophone・CANADEON PW40
1.「Overture」 曲:山口美央子・松武秀樹 編:Logic System Project
2.「Crisis」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
3.「Time Seeds」 曲:松武秀樹 編:Logic System Project
4.「Mondrian’s Square」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
5.「Closing//Glassworks」 曲:Philip Glass 編:土橋安騎夫・松武秀樹
6.「Golden Ratio」 曲:松武秀樹 編:Logic System Project
7.「Aqua Aura」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
8.「妖踊」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
9.「Contact」 曲:松武秀樹 編:Logic System Project
10.「Revive」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
11.「Silence Is Betrayal」 曲・編:坂本龍一・松武秀樹
<support musician>
山口美央子:piano・keyboards・voice
produced by 松武秀樹
engineered by 松武秀樹
●山口美央子を相棒に迎え12年ぶりに再始動!テクノとしての純度の高さは今もって孤高の域に達するレジェンド達の共演アルバム
2000年代に2枚のアルバムをリリースし再び沈黙状態に入った松武秀樹率いるLOGIC SYSTEMが、その眠りを覚ますことになったきっかけは、2017年の松武秀樹の活動をコンプリートした集大成5枚組BOX「ロジック・クロニクル」のリリース、そして一部の好事家達から待ちに待たれていた80年代前半を席巻したシンセの歌姫・山口美央子の3枚のソロアルバム「夢飛行」「NIRVANA」「月姫」のCD再発リリースでした。特に山口美央子の再発には、アルバム制作当時から松武が大きく関わっていたこともあり、松武が権利関係をクリアするために自ら交渉するなどその貢献度は高かったわけですが、この再発と松武の勧めもあり2018年には山口がまさかのソロ活動を再開、実に26年ぶりのアルバム「トキサカシマ」をリリースし数回のライブも行いましたが、これらの活動をバックアップにサポートに八面六臂の活躍を見せていたのが松武でした。ここまで業務上の相棒として二人三脚で近年は活動してきた彼らですから、必然的に松武が久方ぶりのLOGIC SYSTEMを始動させたからには、片腕となるのは作曲能力に秀でた山口が参加することはもはや必然的であったと言わざるを得なかったわけです。
そのようなわけで松武秀樹&山口美央子というタッグでスタートした第4期LOGIC SYSTEMのアルバムが2020年にリリースされます。使用されるシンセサイザーは松武の代名詞であるMoog IIIcや古き良き時代のアナログシンセに加え、Yamaha MontageやRoland Jupiter-Xmといった最新型のシンセ、LOGIC的には初登場のソフトシンセの王様・Spectrasonics Omnisphere2が見事な音処理と共に大活躍しています。さらに、山口美央子のライブや作品においてもお披露目されてきたMIDIオルゴールCANADEON PW40もしっかり使用されており、万全な制作体制の中進められたことが窺えますが、本作で驚くべきはこれまでの作品群と比較しても格段にサウンド処理が鮮烈であることです。持ち前のメロディセンスが光る山口楽曲の仕上がりの良さもさることながら、Philip Glassのリメイク「Closing//Glassworks」を共同制作した土橋安騎夫も、自身のテクノポップアルバム「SENRITSU」シリーズのノウハウを落とし込んだような丹念かつ重厚なシンセサイザーサウンドで本作に多大な貢献を果たしています。思えばこれまでの共同制作者であった川上了や入江純、石田勝範や山本健司らは(3rdアルバム「東方快車」の後藤次利を例外とすれば)職業作曲家の側面が強く、本作のような山口美央子や土橋安騎夫といったミュージシャンズコンポーザーとの共同作業は、LOGIC SYSTEMとしてはほぼ初めてでしょう。しかし山口美央子のようなメロディ力を持つ作曲家の楽曲だからこそ、松武も安心して集中できるということもあるでしょうから、その余裕がサウンド面でも表れているというのが本作のストロングポイントになっていると思われます。そしてその集大成となる楽曲がラストの「Revive」(坂本龍一とのインプロ「Silence Is Betrayal」はボーナストラック扱い)で、山口のボコーダーから始まる図太いシーケンスは松武謹製のMoog IIIcでないと出せない音でしょう。このシーケンスだけでも本作を聴く価値があると言ってよいと思います。松武と山口の相性の良さが溢れ出た本作は、今後の活動への期待にも繋がる良質なアルバムとして、令和の現在でも他の若いDTMクリエイターの作品群にも堂々と渡り合っていると言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「Crisis」
Stylophone系のシーケンスを多数に組み合わせたイントロフレーズに、ノイジーなリズムが絡み出し、鮮やかなシンセブラスが飛び出してくるファンタジックなサウンドメイク、そして起承転結の「転」となる魅惑のコードワークと躍動感のあるフレージングは、山口美央子の参加ならではの効果と言えるでしょう。。
・「Mondrian’s Square」
エレクトロ度の高いシーケンスを軸に、鮮烈な切り込みのリードシンセが襲ってくる非常に豊かなサウンドを堪能できる楽曲。ポルタメントの効いた笛系のフレーズへのエフェクトのかかり具合が秀逸です。微かに山口自身のボイスもコーラス的に処理されていますが、サウンドに溶け込んでいるのに主張する声質は山口ならではの個性と言えるでしょう。
・「Revive」
山口の声質はボコーダーでも一聴してすぐに確認できるのが素晴らしいです。そこから荘厳なパッドが入ってきてあのMOOG IIIcのドクドクシーケンスが降りかかってきます。そしてドラムはSimmons SDS-V。しかしスノッブにはならずにしっかりサスペンスタッチな楽曲構成に仕上がっている部分が完成度の高さを物語っています。本作随一の名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★(シーケンスの組み立てもさることながら実に音質が抜群)
・メロディ ★★ (インスト中心とはいえ親しみやすさは山口参加の賜物)
・リズム ★★ (本作はドラムパートよりもシンセへの意識がより強い)
・曲構成 ★★ (コロナ禍を意識した楽曲を配し時代性も意識する余裕)
・個性 ★★ (相棒に迎えた山口美央子との相性の良さがすべて)
総合評点: 7点
LOGIC SYSTEM

<members>
松武秀樹:synthesizer programming
<electric equipment>
Moog IIIc・Moog MiniMoog Voyager・Moog Mother-32・Moog GrandMother・Moog DFAM (Drummer From Another Mother)・EMS VSC3・EMS Vocoder2000・E-mu Vintage Keys・E-mu Orbit・E-mu Planet Phatt・E-mu Carnaval・E-mu Morpheus・Sequencial Circuits Prophet5・Sequencial Pro3・Arp Odyssey・Clavia Nord Lead・Arturia V Collection7・Spectrasonics Omnisphere2・Yamaha Montage・Yamaha FS1R・Yamaha MU2000・Roland Fantom・Roland Jupiter-Xm・Roland TR-808・Roland TR-8・Roland VP-770・Roland SC-88 Pro・Simmons SDS-V・Stylophone・CANADEON PW40
1.「Overture」 曲:山口美央子・松武秀樹 編:Logic System Project
2.「Crisis」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
3.「Time Seeds」 曲:松武秀樹 編:Logic System Project
4.「Mondrian’s Square」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
5.「Closing//Glassworks」 曲:Philip Glass 編:土橋安騎夫・松武秀樹
6.「Golden Ratio」 曲:松武秀樹 編:Logic System Project
7.「Aqua Aura」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
8.「妖踊」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
9.「Contact」 曲:松武秀樹 編:Logic System Project
10.「Revive」 曲:山口美央子 編:Logic System Project
11.「Silence Is Betrayal」 曲・編:坂本龍一・松武秀樹
<support musician>
山口美央子:piano・keyboards・voice
produced by 松武秀樹
engineered by 松武秀樹
●山口美央子を相棒に迎え12年ぶりに再始動!テクノとしての純度の高さは今もって孤高の域に達するレジェンド達の共演アルバム
2000年代に2枚のアルバムをリリースし再び沈黙状態に入った松武秀樹率いるLOGIC SYSTEMが、その眠りを覚ますことになったきっかけは、2017年の松武秀樹の活動をコンプリートした集大成5枚組BOX「ロジック・クロニクル」のリリース、そして一部の好事家達から待ちに待たれていた80年代前半を席巻したシンセの歌姫・山口美央子の3枚のソロアルバム「夢飛行」「NIRVANA」「月姫」のCD再発リリースでした。特に山口美央子の再発には、アルバム制作当時から松武が大きく関わっていたこともあり、松武が権利関係をクリアするために自ら交渉するなどその貢献度は高かったわけですが、この再発と松武の勧めもあり2018年には山口がまさかのソロ活動を再開、実に26年ぶりのアルバム「トキサカシマ」をリリースし数回のライブも行いましたが、これらの活動をバックアップにサポートに八面六臂の活躍を見せていたのが松武でした。ここまで業務上の相棒として二人三脚で近年は活動してきた彼らですから、必然的に松武が久方ぶりのLOGIC SYSTEMを始動させたからには、片腕となるのは作曲能力に秀でた山口が参加することはもはや必然的であったと言わざるを得なかったわけです。
そのようなわけで松武秀樹&山口美央子というタッグでスタートした第4期LOGIC SYSTEMのアルバムが2020年にリリースされます。使用されるシンセサイザーは松武の代名詞であるMoog IIIcや古き良き時代のアナログシンセに加え、Yamaha MontageやRoland Jupiter-Xmといった最新型のシンセ、LOGIC的には初登場のソフトシンセの王様・Spectrasonics Omnisphere2が見事な音処理と共に大活躍しています。さらに、山口美央子のライブや作品においてもお披露目されてきたMIDIオルゴールCANADEON PW40もしっかり使用されており、万全な制作体制の中進められたことが窺えますが、本作で驚くべきはこれまでの作品群と比較しても格段にサウンド処理が鮮烈であることです。持ち前のメロディセンスが光る山口楽曲の仕上がりの良さもさることながら、Philip Glassのリメイク「Closing//Glassworks」を共同制作した土橋安騎夫も、自身のテクノポップアルバム「SENRITSU」シリーズのノウハウを落とし込んだような丹念かつ重厚なシンセサイザーサウンドで本作に多大な貢献を果たしています。思えばこれまでの共同制作者であった川上了や入江純、石田勝範や山本健司らは(3rdアルバム「東方快車」の後藤次利を例外とすれば)職業作曲家の側面が強く、本作のような山口美央子や土橋安騎夫といったミュージシャンズコンポーザーとの共同作業は、LOGIC SYSTEMとしてはほぼ初めてでしょう。しかし山口美央子のようなメロディ力を持つ作曲家の楽曲だからこそ、松武も安心して集中できるということもあるでしょうから、その余裕がサウンド面でも表れているというのが本作のストロングポイントになっていると思われます。そしてその集大成となる楽曲がラストの「Revive」(坂本龍一とのインプロ「Silence Is Betrayal」はボーナストラック扱い)で、山口のボコーダーから始まる図太いシーケンスは松武謹製のMoog IIIcでないと出せない音でしょう。このシーケンスだけでも本作を聴く価値があると言ってよいと思います。松武と山口の相性の良さが溢れ出た本作は、今後の活動への期待にも繋がる良質なアルバムとして、令和の現在でも他の若いDTMクリエイターの作品群にも堂々と渡り合っていると言えるでしょう。
<Favorite Songs>
・「Crisis」
Stylophone系のシーケンスを多数に組み合わせたイントロフレーズに、ノイジーなリズムが絡み出し、鮮やかなシンセブラスが飛び出してくるファンタジックなサウンドメイク、そして起承転結の「転」となる魅惑のコードワークと躍動感のあるフレージングは、山口美央子の参加ならではの効果と言えるでしょう。。
・「Mondrian’s Square」
エレクトロ度の高いシーケンスを軸に、鮮烈な切り込みのリードシンセが襲ってくる非常に豊かなサウンドを堪能できる楽曲。ポルタメントの効いた笛系のフレーズへのエフェクトのかかり具合が秀逸です。微かに山口自身のボイスもコーラス的に処理されていますが、サウンドに溶け込んでいるのに主張する声質は山口ならではの個性と言えるでしょう。
・「Revive」
山口の声質はボコーダーでも一聴してすぐに確認できるのが素晴らしいです。そこから荘厳なパッドが入ってきてあのMOOG IIIcのドクドクシーケンスが降りかかってきます。そしてドラムはSimmons SDS-V。しかしスノッブにはならずにしっかりサスペンスタッチな楽曲構成に仕上がっている部分が完成度の高さを物語っています。本作随一の名曲です。
<評点>
・サウンド ★★★★(シーケンスの組み立てもさることながら実に音質が抜群)
・メロディ ★★ (インスト中心とはいえ親しみやすさは山口参加の賜物)
・リズム ★★ (本作はドラムパートよりもシンセへの意識がより強い)
・曲構成 ★★ (コロナ禍を意識した楽曲を配し時代性も意識する余裕)
・個性 ★★ (相棒に迎えた山口美央子との相性の良さがすべて)
総合評点: 7点
「GORGEOUS」 星野伸之
「GORGEOUS」 (1989 NECアベニュー)
星野伸之:vocal

1.「GORGEOUS」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
2.「飛んで火にいる夏の・・・恋」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
3.「はじめてのMESSAGE」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
4.「MYSTERIOUS ROSE」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
5.「TONIGHT」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
6.「RAINY DAYの悲劇」 詞・曲:星野伸之 編:若子内悦郎
7.「MAIN DISHは食事の後で」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
8.「RORETTA」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
9.「WAI! YEA! YEA!」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
10.「TOKYO STATION」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
<support musician>
小原信哉: guitar
小堀浩: guitar
土方隆行: guitar
三畑貞二: guitar
吉川忠英: guitar
岡沢茂:bass
高水健司:bass
長岡道夫:bass
真鍋信一:bass
宗台春男:drums
宮原透:keyboards
岡野等:trumpet
松本浩明:trumpet
Clay Lawrey:trombone
松原純夫:trombone
Jake H.Concepcion:sax
荒川達彦:sax
横山貴生:sax
吉永寿:sax
藤島新:chorus
槇みちる:chorus
若子内悦郎:chorus
Utaenai Ahiru-tachi:chorus
美島豊明:synthesizer manipulate
produced by 若子内悦郎・島袋アキラ
engineered by 西込加久見・永見竜生
● 少し遅れてきたバブリーテイスト満載のアーバンポップで勝負!アレンジ面での派手さも顕著になった2ndアルバム
サザンオールスターズに影響を受けた男女混合のリゾートポップバンド・THE BEARSは、1985年にシングル「夏色にMisty」でデビューを果たすと、1枚のアルバムと2枚のシングルを残し解散となりますが、フロントマンでありボーカルと共に作詞作曲を手掛けていた星野伸之はほどなくソロに転向、1988年にアルバム「DEAR FRIEND」で再デビューに至ります(なお、お約束なので注釈いたしますが、まさに同時期に阪急→オリックスでエース格として活躍していた長身痩躯のスローカーブサウスポーピッチャー・星野伸之とは全く関係がございません)。少ししつこめの濃いルックスにサザン愛溢れる楽曲はTHE BEARSから連綿と引き継がれる彼のアイデンティティとも言える音楽性ですが、モノクロサングラスなジャケットのアーバンな雰囲気を漂わせながら、1曲目が「濡れた視線でOK!」というはっちゃけたタイトルであるところに、桑田佳祐の影響を隠せない部分が表出してしまい、まずはその呪縛からの脱却が課題となっていた印象がありました。そのような中、2ndアルバムとしてリリースされたのが本作ということになります。
さて、1stアルバムの手応えのなさから一転して本作では劇的にアーバンポップとしてのサウンドメイクに磨きがかかっています。プロデュースは前作から引き続きデビュー以来から面倒を見ていた若子内悦郎で、1960年代末に活躍していたGSバンド、ザ・バロンのベーシストであった彼は解散後、同じくザ・バロンのメンバーであった芹澤廣明とデュオグループ・ワカとヒロを結成しつつ、「帰ってきたウルトラマン」や「サンダーマスク」といった特撮主題歌も担当するなど歌手として活動していましたが、80年代からはスタジオミュージシャンとして裏方に回っていた人物です(前作や本作のドラムには一貫してザ・バロンの盟友・宗台春男が参加しています)。そのような彼が前作ではほとんどの楽曲のアレンジを手掛けていましたが、本作では彼の弟子筋にあたるキーボーディスト・宮原透にほぼ全面的にアレンジを任せた結果、アルバムタイトルである「GORGEOUS」に見合うような派手なブラスアレンジによるアーバンファンクな音楽性を獲得しています。このアーバン化による貢献度としては、見事なカッティングを聴かせる土方隆行の参加も当然のことながら大きいわけですが、同時期にアイリーン・フォーリーンの名盤「BODY & VOICE」を手掛けていたエンジニア・西込加久見のサウンドトリートメントや、エレクトリックな音色を作り込んだ美島豊明のマニピュレーターとしてのセンスが底辺を支えているからこそのクオリティと言っても過言ではないでしょう。
このように楽曲のパワーや質が劇的に向上したわけですが、それに伴い星野自身のキャラクターはやや薄まってしまった感もあり、結局彼のソロ作品は2枚で終了となってしまいます。しかしそれも平成に突入した時代の趨勢と言ってもよく、アーバンシティポップのソロシンガーとして群雄割拠の時代に飲み込まれてしまった感があり、タイミングとしては不運であったように思われます。
<Favorite Songs>
・「GORGEOUS」
華やかなブラスセクションと小気味良いギターのカッティングがキマるファンキーチューン。バッキバキに跳ねながらビシバシ叩き込まれるドラミングをはじめとした充実した演奏陣はまさにタイトル通りの豪奢な印象です。オープニングとして1stアルバムとの違いを見せつけるだけのクオリティを披露しています。
・「RAINY DAYの悲劇」
ファンタジックなイントロからのブリブリスピーディーなリズムが楽しいアッパーチューン。この楽曲のみ若子内悦郎がアレンジを担当していますが、奇しくも本作中でも最もプログラミング度が高い楽曲に仕上がっています。駆け上がったり駆け下りたりと非常に忙しないサウンドメイクですが、ここでは美島豊明のシンセプログラミングが大活躍していると言えるでしょう。
・「RORETTA」
アルバム後半中盤のミディアムチューンで、どこかスパニッシュな香り漂うサウンドですが、この楽曲のポイントは何といっても強烈なスネア音色です。なぜこの曲調にこのスネアなのかはさておき、独特の加工された響きであるこのスネアは思わずサンプリングしたくなるほどのインパクトを与えてくれます。
<評点>
・サウンド ★★ (アーバンポップに振り切ったことによりキレを獲得)
・メロディ ★ (既聴感のあるフレーズが多くそれ以上でも以下でもない)
・リズム ★★★ (多彩なスネア音色が強調されることによりボトムが固まる)
・曲構成 ★★ (バラエティに富んだ楽曲を押さえつつ適切に配置)
・個性 ★ (楽曲の質の高さが良くも悪くも主役のキャラクターを奪う)
総合評点: 7点
星野伸之:vocal

1.「GORGEOUS」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
2.「飛んで火にいる夏の・・・恋」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
3.「はじめてのMESSAGE」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
4.「MYSTERIOUS ROSE」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
5.「TONIGHT」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
6.「RAINY DAYの悲劇」 詞・曲:星野伸之 編:若子内悦郎
7.「MAIN DISHは食事の後で」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
8.「RORETTA」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
9.「WAI! YEA! YEA!」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
10.「TOKYO STATION」 詞・曲:星野伸之 編:宮原透
<support musician>
小原信哉: guitar
小堀浩: guitar
土方隆行: guitar
三畑貞二: guitar
吉川忠英: guitar
岡沢茂:bass
高水健司:bass
長岡道夫:bass
真鍋信一:bass
宗台春男:drums
宮原透:keyboards
岡野等:trumpet
松本浩明:trumpet
Clay Lawrey:trombone
松原純夫:trombone
Jake H.Concepcion:sax
荒川達彦:sax
横山貴生:sax
吉永寿:sax
藤島新:chorus
槇みちる:chorus
若子内悦郎:chorus
Utaenai Ahiru-tachi:chorus
美島豊明:synthesizer manipulate
produced by 若子内悦郎・島袋アキラ
engineered by 西込加久見・永見竜生
● 少し遅れてきたバブリーテイスト満載のアーバンポップで勝負!アレンジ面での派手さも顕著になった2ndアルバム
サザンオールスターズに影響を受けた男女混合のリゾートポップバンド・THE BEARSは、1985年にシングル「夏色にMisty」でデビューを果たすと、1枚のアルバムと2枚のシングルを残し解散となりますが、フロントマンでありボーカルと共に作詞作曲を手掛けていた星野伸之はほどなくソロに転向、1988年にアルバム「DEAR FRIEND」で再デビューに至ります(なお、お約束なので注釈いたしますが、まさに同時期に阪急→オリックスでエース格として活躍していた長身痩躯のスローカーブサウスポーピッチャー・星野伸之とは全く関係がございません)。少ししつこめの濃いルックスにサザン愛溢れる楽曲はTHE BEARSから連綿と引き継がれる彼のアイデンティティとも言える音楽性ですが、モノクロサングラスなジャケットのアーバンな雰囲気を漂わせながら、1曲目が「濡れた視線でOK!」というはっちゃけたタイトルであるところに、桑田佳祐の影響を隠せない部分が表出してしまい、まずはその呪縛からの脱却が課題となっていた印象がありました。そのような中、2ndアルバムとしてリリースされたのが本作ということになります。
さて、1stアルバムの手応えのなさから一転して本作では劇的にアーバンポップとしてのサウンドメイクに磨きがかかっています。プロデュースは前作から引き続きデビュー以来から面倒を見ていた若子内悦郎で、1960年代末に活躍していたGSバンド、ザ・バロンのベーシストであった彼は解散後、同じくザ・バロンのメンバーであった芹澤廣明とデュオグループ・ワカとヒロを結成しつつ、「帰ってきたウルトラマン」や「サンダーマスク」といった特撮主題歌も担当するなど歌手として活動していましたが、80年代からはスタジオミュージシャンとして裏方に回っていた人物です(前作や本作のドラムには一貫してザ・バロンの盟友・宗台春男が参加しています)。そのような彼が前作ではほとんどの楽曲のアレンジを手掛けていましたが、本作では彼の弟子筋にあたるキーボーディスト・宮原透にほぼ全面的にアレンジを任せた結果、アルバムタイトルである「GORGEOUS」に見合うような派手なブラスアレンジによるアーバンファンクな音楽性を獲得しています。このアーバン化による貢献度としては、見事なカッティングを聴かせる土方隆行の参加も当然のことながら大きいわけですが、同時期にアイリーン・フォーリーンの名盤「BODY & VOICE」を手掛けていたエンジニア・西込加久見のサウンドトリートメントや、エレクトリックな音色を作り込んだ美島豊明のマニピュレーターとしてのセンスが底辺を支えているからこそのクオリティと言っても過言ではないでしょう。
このように楽曲のパワーや質が劇的に向上したわけですが、それに伴い星野自身のキャラクターはやや薄まってしまった感もあり、結局彼のソロ作品は2枚で終了となってしまいます。しかしそれも平成に突入した時代の趨勢と言ってもよく、アーバンシティポップのソロシンガーとして群雄割拠の時代に飲み込まれてしまった感があり、タイミングとしては不運であったように思われます。
<Favorite Songs>
・「GORGEOUS」
華やかなブラスセクションと小気味良いギターのカッティングがキマるファンキーチューン。バッキバキに跳ねながらビシバシ叩き込まれるドラミングをはじめとした充実した演奏陣はまさにタイトル通りの豪奢な印象です。オープニングとして1stアルバムとの違いを見せつけるだけのクオリティを披露しています。
・「RAINY DAYの悲劇」
ファンタジックなイントロからのブリブリスピーディーなリズムが楽しいアッパーチューン。この楽曲のみ若子内悦郎がアレンジを担当していますが、奇しくも本作中でも最もプログラミング度が高い楽曲に仕上がっています。駆け上がったり駆け下りたりと非常に忙しないサウンドメイクですが、ここでは美島豊明のシンセプログラミングが大活躍していると言えるでしょう。
・「RORETTA」
アルバム後半中盤のミディアムチューンで、どこかスパニッシュな香り漂うサウンドですが、この楽曲のポイントは何といっても強烈なスネア音色です。なぜこの曲調にこのスネアなのかはさておき、独特の加工された響きであるこのスネアは思わずサンプリングしたくなるほどのインパクトを与えてくれます。
<評点>
・サウンド ★★ (アーバンポップに振り切ったことによりキレを獲得)
・メロディ ★ (既聴感のあるフレーズが多くそれ以上でも以下でもない)
・リズム ★★★ (多彩なスネア音色が強調されることによりボトムが固まる)
・曲構成 ★★ (バラエティに富んだ楽曲を押さえつつ適切に配置)
・個性 ★ (楽曲の質の高さが良くも悪くも主役のキャラクターを奪う)
総合評点: 7点
「TANSU MATRIX」 LOGIC SYSTEM
「TANSU MATRIX」(2008 ブリッジ)
LOGIC SYSTEM

<members>
松武秀樹:synthesizer programming・vocoder
<Hard Synthesizers>
Moog IIIc・E-muSystem・EMS-VSC3・Prophet10・Oberheim Matrix12・Oberheim OB-MX・Arp Odyssey・Korg M1・Roland TR-808・Roland SH-1・Roland SH-201・Roland V-Synth GT・Yamaha Motif XS・Yamaha DX-7 II・Moog Voyager・Arturia Origin・Waldorf blofeld・Korg Kaossilater・Roland VP-550・EMS Vocoder・Gakken SX-150・Texas Instruments Speak & Spell
<Soft Synthesizers>
Yamaha Vocaloid・Steinberg Cubase VST・Arturia all products・Propellahead Reason4・AQI DS-10
1.「Turning Point - Epilogue」 曲:松武秀樹 編:入江純・松武秀樹
2.「Hypnotize」 詞:武藤有砂 曲:入江純 編:入江純・松武秀樹
3.「Wandering On The Road」 曲:小坂明子 編:入江純・松武秀樹
4.「digiphone」 曲・編:山本健司
5.「桜繚乱」 詞:及川眠子 曲:入江純 編:入江純・松武秀樹
6.「THOUSAND KNIVES」 曲:坂本龍一 編:入江純・松武秀樹
7.「Sweet Memories」 詞:松本隆 曲:大村雅朗 編:入江純・松武秀樹
8.「Nenkororo」 曲:比呂公一 編:入江純・松武秀樹
9.「LEFT-HANDED WOMAN」 曲:大村憲司 編:入江純・松武秀樹
10.「LOVE」 詞:武藤有砂 曲:入江純 編:入江純・松武秀樹
11.「Y.M.C.A」 詞:Belolo Henri 曲:Morali Jacques 編:入江純・松武秀樹
12.「a long cool rain」 曲:小坂明子 編:入江純・松武秀樹
13.「Go!! Rise!! Cow!?」 曲・編:山本健司
14.「Land of 1000 Dances」 詞・曲:Chris Kenner 編:入江純・松武秀樹
15.「Some Enchanted Evening」
詞:Hammerstein Oscar II 曲:Richard Rodgers 編:入江純・松武秀樹
16.「Turning Point - Prologue」 曲:松武秀樹 編:入江純・松武秀樹
<support musician>
赤池晴子:vocal・chorus
武藤有砂:vocal・chorus
大村真司:guitar
椎名和夫:guitar
氏家克典:keyboards
齋藤久師:vocaloid programming
produced by 松武秀樹
mixing engineered by 入江純・松武秀樹・齋藤久師
recording engineered by 松武秀樹
●シンセプログラマーの大御所がテクノロジーまみれのサウンドで過去の名曲からオリジナルまでカバーした30年の歴史を刻む渾身の作品
結成25周年を機に第3期LOGIC SYSTEMを始動させた松武秀樹は、ソフトウェアシンセサイザー花盛りの2000年代にあって「タンス」と呼ばれるモジュラーシンセサイザーMOOG IIIcをソフトウェアでシミュレートしサンプリング音源として使用したアルバム「Everything is in a nature」をリリースしますが、折からのヴィンテージアナログシンセサイザー復権の流れに呼応し、LOGIC SYSTEMは原点に立ち返り「テクノ」のオーソリティーとして出来る精一杯の技術と魂を落とし込んだ、第1期から第3期までの長きにわたるテクノポップと向き合った活動の集大成ともいえる本作をリリースすることになります。中心メンバーは前作から引き続き入江純を相棒に、山本健司が2曲を提供、斎藤久師が助手として松武を支える役割を果たしていますが、本作では当時新しいテクノポップとして全盛期を迎えつつあったPerfumeに影響を受けたポップネスを前面に押し出しながら、過去の名曲のリメイクもふんだんに収録、小坂明子がオリジナル楽曲を2曲提供したり、椎名和夫や大村真司、前作から引き続き参加したボーカリスト武藤有砂と「当世ロマン歌集」で松武との接点があった元サウンド&レコーディングマガジン編集部員・赤池晴子といった新旧豪華ゲスト陣も迎える盤石の布陣でアルバム制作に臨んでいます。
さて、本作では入江純と山本健司はプレイヤーとしては参加せず、ほぼすべてのシンセプログラミングは松武本人が手掛けていますが、松武が長らく会長を務めていた日本シンセサイザープログラマー協会(JSPA)の片腕でもあった氏家克典(現会長)がキーボードプレイヤーとして参加しているため、テクノな音色はそのままに魅惑のソロプレイも堪能することができます。使用しているシンセサイザーはMoog IIIcとE-muの2大モジュラーが復活、EMS、OberheimやARP OdysseyといったLOGIC定番のアナログシンセから、Roland V-Synth GTやYamaha Motif XS、Arturia OriginやWaldorf blofeld、Roland SH-201等の00年代に生まれたハードシンセサイザー、また学研の書籍「大人の科学」に付録されたDIYガジェットシンセSX-150やNintendo DS用のKORG MS-10をシミュレートしたアプリケーションDS-10といった松武も企画に携わった企画モノシンセサイザーもラインナップしていますが、これらの時代横断した新旧・アナログデジタル・ハードソフト・・の多彩なシンセサイザーを見事に融合できる手腕は、まさに豊富なキャリアの成せる業と言えるでしょう。また、本作ではYamaha VOCALOIDも大活躍、斎藤久師が丹念にプログラミングしたボーカロイドによる「Sweet Memories」、「Y.M.C.A」、「ダンス天国(Land of 1000 Dances)」といった名曲のリメイクは、本作のハイライトとなっています。そして何よりも本作はシンセサウンドを料理する楽曲そのものの厚みがこれまでの作品とは全く異なります。ほぼ全てのリズム音色をシンセサイザーで創り上げたという手間のかけかたもさることながら(この「手間」が非常に大切なのですが)、その他のパッド系、リード系、アルペジオ系、ベース系、その他ギミックに至るまで、音色1つ1つに魂が宿るといいますか、どこか深みに違いが感じられます。坂本龍一のテクノスタンダード「THOUSAND KNIVES」や、故・大村憲司の名曲を息子である大村真司が見事に演奏する「LEFT-HANDED WOMAN」といった、いわゆる"失敗できない"リメイクも本家としっかり対峙したサウンドに生まれ変わらせており、このあたりに本作におけるテクノレジェンドとしてのプライドを当世代に示す気概を感じざるを得ないのです。
このように30年近くにわたるキャリアの集大成として強力なサウンドメイクで新世代テクノポップへの回答を示したともいえる本作がリリースされ、再び活動の恒常化が望まれたLOGIC SYSTEMでしたが、周囲の期待とは裏腹にここで長きにわたる沈黙期間に入ります。そして再び目を覚ますまでに12年の歳月を要することになります。
<Favorite Songs>
・「Hypnotize」
LOGIC SYSTEM流Perfumeへのアンサーソング。とはいうものの中田ヤスタカらしさは皆無で、シーケンスにはモジュレーションをジワジワと効かせ、楽曲構成はロック風味を漂わせます。これは全編を通していなたさの残るギターを聴かせる大村真司のプレイによる部分が大きいと思われます。
・「digiphone」
本作で最もテクノポップ色が強く、第1期の匂いをふんだんに振りまくKraftwerkライクなキラーチューン。レゾナンスの効いたベースラインにボコーダーボイス、等間隔なシーケンスに電子ノイズギミックの絡ませかたは円熟の域です。松武秀樹の楽曲と思いきや、実は過去楽曲のシミュレートやオマージュを得意とする山本健司の作編曲です。
・「Nenkororo」
圧巻のスウィープパッドによる厚みが半端ない和風テクノアンビエント。子守唄風のシンプルなメロディを電子音の壁でここまで覆ってしまう大胆なサウンドデザインは、どこかYMOの名曲「CASTALIA」を思い起こさせる仕上がりです。レジェンダリーなシンセゴッドの圧倒的な貫禄を見せつけられます。
<評点>
・サウンド ★★★★(音圧・音質もよく丹精に練り上げられたマニピュレート)
・メロディ ★★★ (オリジナル楽曲もポップ志向を意識しとっつきやすい)
・リズム ★★★ (一からシンセで創り上げた音色に込められた意地を感じる)
・曲構成 ★★ (リメイクの多さが気にならないほどの充実した音像)
・個性 ★★★ (タイトル通り「タンス」の復権によりテクノなパワーが復活)
総合評点: 8点
LOGIC SYSTEM

<members>
松武秀樹:synthesizer programming・vocoder
<Hard Synthesizers>
Moog IIIc・E-muSystem・EMS-VSC3・Prophet10・Oberheim Matrix12・Oberheim OB-MX・Arp Odyssey・Korg M1・Roland TR-808・Roland SH-1・Roland SH-201・Roland V-Synth GT・Yamaha Motif XS・Yamaha DX-7 II・Moog Voyager・Arturia Origin・Waldorf blofeld・Korg Kaossilater・Roland VP-550・EMS Vocoder・Gakken SX-150・Texas Instruments Speak & Spell
<Soft Synthesizers>
Yamaha Vocaloid・Steinberg Cubase VST・Arturia all products・Propellahead Reason4・AQI DS-10
1.「Turning Point - Epilogue」 曲:松武秀樹 編:入江純・松武秀樹
2.「Hypnotize」 詞:武藤有砂 曲:入江純 編:入江純・松武秀樹
3.「Wandering On The Road」 曲:小坂明子 編:入江純・松武秀樹
4.「digiphone」 曲・編:山本健司
5.「桜繚乱」 詞:及川眠子 曲:入江純 編:入江純・松武秀樹
6.「THOUSAND KNIVES」 曲:坂本龍一 編:入江純・松武秀樹
7.「Sweet Memories」 詞:松本隆 曲:大村雅朗 編:入江純・松武秀樹
8.「Nenkororo」 曲:比呂公一 編:入江純・松武秀樹
9.「LEFT-HANDED WOMAN」 曲:大村憲司 編:入江純・松武秀樹
10.「LOVE」 詞:武藤有砂 曲:入江純 編:入江純・松武秀樹
11.「Y.M.C.A」 詞:Belolo Henri 曲:Morali Jacques 編:入江純・松武秀樹
12.「a long cool rain」 曲:小坂明子 編:入江純・松武秀樹
13.「Go!! Rise!! Cow!?」 曲・編:山本健司
14.「Land of 1000 Dances」 詞・曲:Chris Kenner 編:入江純・松武秀樹
15.「Some Enchanted Evening」
詞:Hammerstein Oscar II 曲:Richard Rodgers 編:入江純・松武秀樹
16.「Turning Point - Prologue」 曲:松武秀樹 編:入江純・松武秀樹
<support musician>
赤池晴子:vocal・chorus
武藤有砂:vocal・chorus
大村真司:guitar
椎名和夫:guitar
氏家克典:keyboards
齋藤久師:vocaloid programming
produced by 松武秀樹
mixing engineered by 入江純・松武秀樹・齋藤久師
recording engineered by 松武秀樹
●シンセプログラマーの大御所がテクノロジーまみれのサウンドで過去の名曲からオリジナルまでカバーした30年の歴史を刻む渾身の作品
結成25周年を機に第3期LOGIC SYSTEMを始動させた松武秀樹は、ソフトウェアシンセサイザー花盛りの2000年代にあって「タンス」と呼ばれるモジュラーシンセサイザーMOOG IIIcをソフトウェアでシミュレートしサンプリング音源として使用したアルバム「Everything is in a nature」をリリースしますが、折からのヴィンテージアナログシンセサイザー復権の流れに呼応し、LOGIC SYSTEMは原点に立ち返り「テクノ」のオーソリティーとして出来る精一杯の技術と魂を落とし込んだ、第1期から第3期までの長きにわたるテクノポップと向き合った活動の集大成ともいえる本作をリリースすることになります。中心メンバーは前作から引き続き入江純を相棒に、山本健司が2曲を提供、斎藤久師が助手として松武を支える役割を果たしていますが、本作では当時新しいテクノポップとして全盛期を迎えつつあったPerfumeに影響を受けたポップネスを前面に押し出しながら、過去の名曲のリメイクもふんだんに収録、小坂明子がオリジナル楽曲を2曲提供したり、椎名和夫や大村真司、前作から引き続き参加したボーカリスト武藤有砂と「当世ロマン歌集」で松武との接点があった元サウンド&レコーディングマガジン編集部員・赤池晴子といった新旧豪華ゲスト陣も迎える盤石の布陣でアルバム制作に臨んでいます。
さて、本作では入江純と山本健司はプレイヤーとしては参加せず、ほぼすべてのシンセプログラミングは松武本人が手掛けていますが、松武が長らく会長を務めていた日本シンセサイザープログラマー協会(JSPA)の片腕でもあった氏家克典(現会長)がキーボードプレイヤーとして参加しているため、テクノな音色はそのままに魅惑のソロプレイも堪能することができます。使用しているシンセサイザーはMoog IIIcとE-muの2大モジュラーが復活、EMS、OberheimやARP OdysseyといったLOGIC定番のアナログシンセから、Roland V-Synth GTやYamaha Motif XS、Arturia OriginやWaldorf blofeld、Roland SH-201等の00年代に生まれたハードシンセサイザー、また学研の書籍「大人の科学」に付録されたDIYガジェットシンセSX-150やNintendo DS用のKORG MS-10をシミュレートしたアプリケーションDS-10といった松武も企画に携わった企画モノシンセサイザーもラインナップしていますが、これらの時代横断した新旧・アナログデジタル・ハードソフト・・の多彩なシンセサイザーを見事に融合できる手腕は、まさに豊富なキャリアの成せる業と言えるでしょう。また、本作ではYamaha VOCALOIDも大活躍、斎藤久師が丹念にプログラミングしたボーカロイドによる「Sweet Memories」、「Y.M.C.A」、「ダンス天国(Land of 1000 Dances)」といった名曲のリメイクは、本作のハイライトとなっています。そして何よりも本作はシンセサウンドを料理する楽曲そのものの厚みがこれまでの作品とは全く異なります。ほぼ全てのリズム音色をシンセサイザーで創り上げたという手間のかけかたもさることながら(この「手間」が非常に大切なのですが)、その他のパッド系、リード系、アルペジオ系、ベース系、その他ギミックに至るまで、音色1つ1つに魂が宿るといいますか、どこか深みに違いが感じられます。坂本龍一のテクノスタンダード「THOUSAND KNIVES」や、故・大村憲司の名曲を息子である大村真司が見事に演奏する「LEFT-HANDED WOMAN」といった、いわゆる"失敗できない"リメイクも本家としっかり対峙したサウンドに生まれ変わらせており、このあたりに本作におけるテクノレジェンドとしてのプライドを当世代に示す気概を感じざるを得ないのです。
このように30年近くにわたるキャリアの集大成として強力なサウンドメイクで新世代テクノポップへの回答を示したともいえる本作がリリースされ、再び活動の恒常化が望まれたLOGIC SYSTEMでしたが、周囲の期待とは裏腹にここで長きにわたる沈黙期間に入ります。そして再び目を覚ますまでに12年の歳月を要することになります。
<Favorite Songs>
・「Hypnotize」
LOGIC SYSTEM流Perfumeへのアンサーソング。とはいうものの中田ヤスタカらしさは皆無で、シーケンスにはモジュレーションをジワジワと効かせ、楽曲構成はロック風味を漂わせます。これは全編を通していなたさの残るギターを聴かせる大村真司のプレイによる部分が大きいと思われます。
・「digiphone」
本作で最もテクノポップ色が強く、第1期の匂いをふんだんに振りまくKraftwerkライクなキラーチューン。レゾナンスの効いたベースラインにボコーダーボイス、等間隔なシーケンスに電子ノイズギミックの絡ませかたは円熟の域です。松武秀樹の楽曲と思いきや、実は過去楽曲のシミュレートやオマージュを得意とする山本健司の作編曲です。
・「Nenkororo」
圧巻のスウィープパッドによる厚みが半端ない和風テクノアンビエント。子守唄風のシンプルなメロディを電子音の壁でここまで覆ってしまう大胆なサウンドデザインは、どこかYMOの名曲「CASTALIA」を思い起こさせる仕上がりです。レジェンダリーなシンセゴッドの圧倒的な貫禄を見せつけられます。
<評点>
・サウンド ★★★★(音圧・音質もよく丹精に練り上げられたマニピュレート)
・メロディ ★★★ (オリジナル楽曲もポップ志向を意識しとっつきやすい)
・リズム ★★★ (一からシンセで創り上げた音色に込められた意地を感じる)
・曲構成 ★★ (リメイクの多さが気にならないほどの充実した音像)
・個性 ★★★ (タイトル通り「タンス」の復権によりテクノなパワーが復活)
総合評点: 8点