「Saturday boogie holiday」 UKO
「Saturday boogie holiday」(2016 para de casa)
UKO:vocal

1.「Signal」 詞・曲:UKO
2.「Wonder Time」 詞・曲:UKO
3.「W.O.W」 詞:UKO 曲:PellyColo
4.「Sha La Lay」 詞:UKO 曲:カキヒラアイ
5.「SPLENDOR GIRL」 詞・曲:UKO
6.「タイムトラベラー」 詞・曲:クニモンド瀧口
7.「マドンナ」 詞・曲:UKO
8.「東京サタデーライツ」 詞・曲:UKO
9.「 マドンナ (Schtein & Longer Remix)」
詞・曲:UKO Remix:Schtein & Longer
10.「東京サタデーライツ (Sosuke Oikawa Remix)」
詞・曲:UKO Remix:Sosuke Oikawa
<support musician>
伊原真一:guitar
渡辺淳:guitar
玉木正太郎:bass
加瀬友美:drums
山下賢:drums
杉浦秀明:piano
中川悦宏:sax
produced by UKO
engineered by 佐久間功
● 随所をシンセで彩った多幸感溢れるブラコンシティポップと確かな歌唱力で確かな実力を見せつけたデビューアルバム
長野県から上京してきたシンガーソングライター笠原由布子が2010年頃からUKOと改名、本格的にシンガーとしての道を歩み始めると、2013年には初のミニアルバム「ALIVE」をリリース。しかしこの頃はまだ何者でもなく、いわゆる「歌」を聴かせるタイプの新進シンガーといった立ち位置でした。しかしそれから2010年代は空前のシティポップムーブメントに巻き込まれます。もともとがR&Bやゴスペルといったブラックミュージックを出自とする歌い手であったUKOですが、その歌唱力と作詞能力が徐々に見込まれたのか大阪北堀江のガールズグループEspeciaの楽曲にコーラスとして参加するとともに、「嘘つきのアネラ」「シークレット・ジャイヴ」「Boogie Aroma」等の作詞を手掛けるなど、Especiaの優れたクオリティのグッドミュージックの一端を担っていくことになります。その足がかりとなったのが2014年のシングルであり彼女の代表曲でもある「Signal」です。余りにキャッチーで、かつアーバンソウルな雰囲気を醸し出す良質なメロディのこの楽曲は、折からのシティポップムーブメントの波にも上手く乗りながら高い評価を得ると、Espesiaとしての仕事もハマる中、いよいよUKO自身にフルアルバム制作の機運が高まると、その存在に目をつけたシティポップリバイバルの仕掛人・クニモンド瀧口のトータルディレクションにより質の高さが確保された1stフルアルバムが2016年にリリースされることになるわけです。
親しみやすくポップネスに溢れたメロディに安定感のある歌唱が魅力で、ほぼ新人ながらコーラスの客演で鍛え上げられているため全く物怖じしないパフォーマンスです。注目すべきは楽曲の充実度とサウンド面の豊かさで、UKO本人作曲の「Signal」や「マドンナ」「東京サタデーライツ」などは気心の知れたバンドメンバーと作り上げられた質の高さが感じられますが、PellyColoのマジカルサウンド「W.O.W」、旧知のカキヒラアイによる不思議AOR「Sha La Lay」、これぞクニモンド流シティポップな「タイムトラベラー」といった外部作家提供楽曲もそれぞれの持ち味を生かしたサウンドメイクが光っています。そして何よりも本作はピアノ中心の演奏重視型な楽曲が多い中で、随所で活躍するシンセサイザーの音色が非常にクオリティが高く感じられます。ソロのリード音色にしてもパッドサウンドにしてもシーケンスの単音にしてもしっかり練り上げられているし、楽曲の演奏にマッチしているし、それでいて情景描写豊かな音色が実に味わい深いスパイスとなっています。このあたりはクニモンド瀧口のディレクションによるものかもしれませんが、このシンセによる装飾が玉木正太郎の華麗なベースプレイを始めとした演奏陣の邪魔を決してせずに一体感のあるサウンドに築き上げている部分に、本作の完成度の高さがあるのではないかと思われます。
さて、その後のUKOですが、同年にシングル「Day dream」、2018年にミニアルバム「ONE LOVE」をリリースと順調に活動し続けますが、徐々にシティポップ的な性格よりもよりブラック寄りのアプローチに寄っていきます。2021年にはShin Sakiuraとのコラボによる新ユニットNEMNEを始動、R&Bやゴスペル風の楽曲で地道に活動しているのですが、本作におけるテンションの高さにはまだ及ばないというのが個人的な印象です。
<Favorite Songs>
・「Signal」
スタートのピアノのコード感からして名曲感溢れる誰もが納得のオープニングナンバー。1周目のサビ後のコード感覚とシンセパッドの美しさが絶品です。全体的にはブラスセクションも入ってゴージャス感満載。粋なピアノソロも含めた演奏陣の充実ぶりも半端ではなくラストもカッコ良くキマっています。
・「W.O.W」
Especiaでの活躍が記憶に残るPellyColo提供のディスコチューン。気の利いたフレーズを随所で披露するシンセの存在感が強く、特にAメロ前のアルペジオの入れ方がカッコ良いの一言。間奏の情感あふれるシンセソロからアウトロにかかるスペイシーサウンドへの移行も熱が入っていて面白いです。
・「タイムトラベラー」
ゴージャスなアルペジオから始まるクニモンド瀧口提供の現代型シティポップ。スタートに度肝を抜かれますが、本編が始まるといつものクニモンド的煮え切らなさ満点の微妙な線を突いたこれぞシティポップなコードワークで進んでいきます。それにしても時空を飛んでいくようなこのギラギラしたアルペジオの存在感たるや、その主張の激しさに笑ってしまいました。アウトロのゴージャスなパッドサウンドも大好きな部類です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (主役でないシンセの効果的な使用法を心得ている)
・メロディ ★★★★ (豊かなサウンドに率られ楽曲のコンディションも良好)
・リズム ★★★★ (バンドの核となる良質なベースプレイに支えられる)
・曲構成 ★★★★ (シングルのクオリティにその他も追随する安定感)
・個性 ★★ (他の同様のタイプと異なるのは秀でたシンセ音色)
総合評点: 9点
UKO:vocal

1.「Signal」 詞・曲:UKO
2.「Wonder Time」 詞・曲:UKO
3.「W.O.W」 詞:UKO 曲:PellyColo
4.「Sha La Lay」 詞:UKO 曲:カキヒラアイ
5.「SPLENDOR GIRL」 詞・曲:UKO
6.「タイムトラベラー」 詞・曲:クニモンド瀧口
7.「マドンナ」 詞・曲:UKO
8.「東京サタデーライツ」 詞・曲:UKO
9.「 マドンナ (Schtein & Longer Remix)」
詞・曲:UKO Remix:Schtein & Longer
10.「東京サタデーライツ (Sosuke Oikawa Remix)」
詞・曲:UKO Remix:Sosuke Oikawa
<support musician>
伊原真一:guitar
渡辺淳:guitar
玉木正太郎:bass
加瀬友美:drums
山下賢:drums
杉浦秀明:piano
中川悦宏:sax
produced by UKO
engineered by 佐久間功
● 随所をシンセで彩った多幸感溢れるブラコンシティポップと確かな歌唱力で確かな実力を見せつけたデビューアルバム
長野県から上京してきたシンガーソングライター笠原由布子が2010年頃からUKOと改名、本格的にシンガーとしての道を歩み始めると、2013年には初のミニアルバム「ALIVE」をリリース。しかしこの頃はまだ何者でもなく、いわゆる「歌」を聴かせるタイプの新進シンガーといった立ち位置でした。しかしそれから2010年代は空前のシティポップムーブメントに巻き込まれます。もともとがR&Bやゴスペルといったブラックミュージックを出自とする歌い手であったUKOですが、その歌唱力と作詞能力が徐々に見込まれたのか大阪北堀江のガールズグループEspeciaの楽曲にコーラスとして参加するとともに、「嘘つきのアネラ」「シークレット・ジャイヴ」「Boogie Aroma」等の作詞を手掛けるなど、Especiaの優れたクオリティのグッドミュージックの一端を担っていくことになります。その足がかりとなったのが2014年のシングルであり彼女の代表曲でもある「Signal」です。余りにキャッチーで、かつアーバンソウルな雰囲気を醸し出す良質なメロディのこの楽曲は、折からのシティポップムーブメントの波にも上手く乗りながら高い評価を得ると、Espesiaとしての仕事もハマる中、いよいよUKO自身にフルアルバム制作の機運が高まると、その存在に目をつけたシティポップリバイバルの仕掛人・クニモンド瀧口のトータルディレクションにより質の高さが確保された1stフルアルバムが2016年にリリースされることになるわけです。
親しみやすくポップネスに溢れたメロディに安定感のある歌唱が魅力で、ほぼ新人ながらコーラスの客演で鍛え上げられているため全く物怖じしないパフォーマンスです。注目すべきは楽曲の充実度とサウンド面の豊かさで、UKO本人作曲の「Signal」や「マドンナ」「東京サタデーライツ」などは気心の知れたバンドメンバーと作り上げられた質の高さが感じられますが、PellyColoのマジカルサウンド「W.O.W」、旧知のカキヒラアイによる不思議AOR「Sha La Lay」、これぞクニモンド流シティポップな「タイムトラベラー」といった外部作家提供楽曲もそれぞれの持ち味を生かしたサウンドメイクが光っています。そして何よりも本作はピアノ中心の演奏重視型な楽曲が多い中で、随所で活躍するシンセサイザーの音色が非常にクオリティが高く感じられます。ソロのリード音色にしてもパッドサウンドにしてもシーケンスの単音にしてもしっかり練り上げられているし、楽曲の演奏にマッチしているし、それでいて情景描写豊かな音色が実に味わい深いスパイスとなっています。このあたりはクニモンド瀧口のディレクションによるものかもしれませんが、このシンセによる装飾が玉木正太郎の華麗なベースプレイを始めとした演奏陣の邪魔を決してせずに一体感のあるサウンドに築き上げている部分に、本作の完成度の高さがあるのではないかと思われます。
さて、その後のUKOですが、同年にシングル「Day dream」、2018年にミニアルバム「ONE LOVE」をリリースと順調に活動し続けますが、徐々にシティポップ的な性格よりもよりブラック寄りのアプローチに寄っていきます。2021年にはShin Sakiuraとのコラボによる新ユニットNEMNEを始動、R&Bやゴスペル風の楽曲で地道に活動しているのですが、本作におけるテンションの高さにはまだ及ばないというのが個人的な印象です。
<Favorite Songs>
・「Signal」
スタートのピアノのコード感からして名曲感溢れる誰もが納得のオープニングナンバー。1周目のサビ後のコード感覚とシンセパッドの美しさが絶品です。全体的にはブラスセクションも入ってゴージャス感満載。粋なピアノソロも含めた演奏陣の充実ぶりも半端ではなくラストもカッコ良くキマっています。
・「W.O.W」
Especiaでの活躍が記憶に残るPellyColo提供のディスコチューン。気の利いたフレーズを随所で披露するシンセの存在感が強く、特にAメロ前のアルペジオの入れ方がカッコ良いの一言。間奏の情感あふれるシンセソロからアウトロにかかるスペイシーサウンドへの移行も熱が入っていて面白いです。
・「タイムトラベラー」
ゴージャスなアルペジオから始まるクニモンド瀧口提供の現代型シティポップ。スタートに度肝を抜かれますが、本編が始まるといつものクニモンド的煮え切らなさ満点の微妙な線を突いたこれぞシティポップなコードワークで進んでいきます。それにしても時空を飛んでいくようなこのギラギラしたアルペジオの存在感たるや、その主張の激しさに笑ってしまいました。アウトロのゴージャスなパッドサウンドも大好きな部類です。
<評点>
・サウンド ★★★★ (主役でないシンセの効果的な使用法を心得ている)
・メロディ ★★★★ (豊かなサウンドに率られ楽曲のコンディションも良好)
・リズム ★★★★ (バンドの核となる良質なベースプレイに支えられる)
・曲構成 ★★★★ (シングルのクオリティにその他も追随する安定感)
・個性 ★★ (他の同様のタイプと異なるのは秀でたシンセ音色)
総合評点: 9点
「Riff-rain」 school food punishment
「Riff-rain」(2008 FAEC)
school food punishment

<members>
内村友美:vocal・guitar
蓮尾理之:keyboards
山崎英明:bass・backing vocal
比田井修:drums
1.「flow」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
2.「feedback」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
3.「egoist」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
4.「killer」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
5.「二人海の底」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
6.「over」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
sound produced by school food punishment・江口亮
engineered by 奥田裕亮
● メジャーデビューを控えてニューウェーブ感覚をそのままに格段にポップフレイバーを増量した3rdミニアルバム
2004年に弾き語り中心に活動していた内村友美バンドのキーボードとして蓮尾理之が参加したことから始まった個性派バンド・school food punishmentは、2007年の1stアルバム「school food is good food」ではスクーデリアエレクトロの石田ショーキチ、2ndアルバム「air feel, color swim」では4-D・URBAN DANCEの成田忍をプロデューサーに迎えるなど、ニューウェーブ色の強さを感じさせながらも00年代特有の空気を纏ったロックバンドとして着実にファンを増やしつつありましたが、1stアルバムリリース後にドラマーが片野勝哉から比田井修に交代、さらに2ndアルバムリリース後にベーシストも上田睦から山崎英明に交代というように、メンバーの入れ替えも頻繁に行われていました。しかしそれも安定した2008年には新たなプロデューサーとしてStereo Fabrication of Youthの江口亮を迎え、3rdアルバムとなる本作がリリースされるという流れになります。
少々ギターロックに寄ってしまった感のある前作からポップ性も増して、演奏におけるテンションも高い水準を保っている本作はミニアルバムという体を成していますが、リプライズ的な「over」も含め6つの楽曲そのものにパワーが感じられます。school food punishmentといえば蓮尾理之のシンセサウンドと言っても過言ではないほどの個性的な音色を軸としていますが、本作ではそのマッドでノイジーなシンセサイザーが大活躍で、しかもプログラミングされたものでなくマニュアルのプレイそのものに唯一無二の個性が放たれています。その雑巾から絞り出すようなザラっとした質感のリードサウンド、全体に染み渡るような滲みを感じるパッドサウンド、これらにトリッキーなピアノプレイが噛み合うことで楽曲の世界観をフリーペインティングしていくセンスはただものではありません。また、本作から参加している山崎英明のメロディアスなベースラインも楽曲全体にウネりを生み出しており、結果としてバンドサウンドの確立という意味では成功した作品ではないかと思います。これまでの手練れのプロデューサーではいまいち上手くいかなかったこのバンドのポテンシャルを十分引き出すことに尽力した江口亮の貢献度も高く、本作の手応えをもとにschool food punishmentは2009年からメジャーシーンへ進出、数々のタイアップと共にその存在を一般的に知られていくことになります。
<Favorite Songs>
・「feedback」
軽やかなディレイ&シーケンスから始まるポップチューン。ピアノ基調のAメロBメロ、2周目のベースが浮かび上がるAメロからCメロに至る展開、サビに至るとここからは彼らお得意の展開からのノイジーシンセを含めて圧巻の音像が迫ってきます。
・「egoist」
このミディアムチューンは何といってもシンセパッドが圧巻です。ジワ〜っとくる絶妙の音作りで1周目と2周目で音色が異なるもののどちらも見事な表現力です。恐らく00年代のPOPSの中でも1、2を争う素晴らしいシンセパッドであると思います。蓮尾理之もノイジーシンセソロでガンガン弾きまくり。
<評点>
・サウンド ★★★★ (確かな演奏力と超個性的なシンセサイザーの魅力)
・メロディ ★★ (キャッチーというにはあと一歩というところか)
・リズム ★★ (複雑なパターンもすっかりこなしていく安定の仕事)
・曲構成 ★ (メジャー進出前哨戦とはいえあと数曲欲しかった)
・個性 ★★★ (00年代では珍しくシンセ音色1つで存在感を放つ)
総合評点: 7点
school food punishment

<members>
内村友美:vocal・guitar
蓮尾理之:keyboards
山崎英明:bass・backing vocal
比田井修:drums
1.「flow」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
2.「feedback」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
3.「egoist」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
4.「killer」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
5.「二人海の底」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
6.「over」
詞:内村友美 曲:school food punishment 編:school food punishment・江口亮
sound produced by school food punishment・江口亮
engineered by 奥田裕亮
● メジャーデビューを控えてニューウェーブ感覚をそのままに格段にポップフレイバーを増量した3rdミニアルバム
2004年に弾き語り中心に活動していた内村友美バンドのキーボードとして蓮尾理之が参加したことから始まった個性派バンド・school food punishmentは、2007年の1stアルバム「school food is good food」ではスクーデリアエレクトロの石田ショーキチ、2ndアルバム「air feel, color swim」では4-D・URBAN DANCEの成田忍をプロデューサーに迎えるなど、ニューウェーブ色の強さを感じさせながらも00年代特有の空気を纏ったロックバンドとして着実にファンを増やしつつありましたが、1stアルバムリリース後にドラマーが片野勝哉から比田井修に交代、さらに2ndアルバムリリース後にベーシストも上田睦から山崎英明に交代というように、メンバーの入れ替えも頻繁に行われていました。しかしそれも安定した2008年には新たなプロデューサーとしてStereo Fabrication of Youthの江口亮を迎え、3rdアルバムとなる本作がリリースされるという流れになります。
少々ギターロックに寄ってしまった感のある前作からポップ性も増して、演奏におけるテンションも高い水準を保っている本作はミニアルバムという体を成していますが、リプライズ的な「over」も含め6つの楽曲そのものにパワーが感じられます。school food punishmentといえば蓮尾理之のシンセサウンドと言っても過言ではないほどの個性的な音色を軸としていますが、本作ではそのマッドでノイジーなシンセサイザーが大活躍で、しかもプログラミングされたものでなくマニュアルのプレイそのものに唯一無二の個性が放たれています。その雑巾から絞り出すようなザラっとした質感のリードサウンド、全体に染み渡るような滲みを感じるパッドサウンド、これらにトリッキーなピアノプレイが噛み合うことで楽曲の世界観をフリーペインティングしていくセンスはただものではありません。また、本作から参加している山崎英明のメロディアスなベースラインも楽曲全体にウネりを生み出しており、結果としてバンドサウンドの確立という意味では成功した作品ではないかと思います。これまでの手練れのプロデューサーではいまいち上手くいかなかったこのバンドのポテンシャルを十分引き出すことに尽力した江口亮の貢献度も高く、本作の手応えをもとにschool food punishmentは2009年からメジャーシーンへ進出、数々のタイアップと共にその存在を一般的に知られていくことになります。
<Favorite Songs>
・「feedback」
軽やかなディレイ&シーケンスから始まるポップチューン。ピアノ基調のAメロBメロ、2周目のベースが浮かび上がるAメロからCメロに至る展開、サビに至るとここからは彼らお得意の展開からのノイジーシンセを含めて圧巻の音像が迫ってきます。
・「egoist」
このミディアムチューンは何といってもシンセパッドが圧巻です。ジワ〜っとくる絶妙の音作りで1周目と2周目で音色が異なるもののどちらも見事な表現力です。恐らく00年代のPOPSの中でも1、2を争う素晴らしいシンセパッドであると思います。蓮尾理之もノイジーシンセソロでガンガン弾きまくり。
<評点>
・サウンド ★★★★ (確かな演奏力と超個性的なシンセサイザーの魅力)
・メロディ ★★ (キャッチーというにはあと一歩というところか)
・リズム ★★ (複雑なパターンもすっかりこなしていく安定の仕事)
・曲構成 ★ (メジャー進出前哨戦とはいえあと数曲欲しかった)
・個性 ★★★ (00年代では珍しくシンセ音色1つで存在感を放つ)
総合評点: 7点
「More Relax」 亜蘭知子
「More Relax」(1984 ワーナーパイオニア)
亜蘭知子:vocal・chorus

1.「DRIVE TO LOVE(愛の海へ)」 詞:亜蘭知子 曲:神保彰 編:向谷実
2.「SLOW NIGHTS」 詞:亜蘭知子 曲:野呂一生 編:向谷実
3.「RELAX」 詞:亜蘭知子 曲:桜井哲夫 編:向谷実
4.「I CAN’T SAY GOOD-BYE」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
5.「E・SPY」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
6.「WATERLESS POOL(水のないプール)」 詞:亜蘭知子 曲:神保彰 編:向谷実
7.「もう一度SOUTH WIND」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
8.「裸足のサロメ」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
9.「13月の奇跡」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
10.「PRIVACY」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
<support musician>
松下誠:guitar
桜井哲夫:bass
高水健司:bass
岡本郭男:drums
神保彰:drums
倉田信雄:keyboards・acoustic piano
向谷実:keyboards・Linn percussion・synthesizer percussion
produced by 宮住俊介
sound produced by 向谷実
engineered by 野村昌之・吉沢典夫
● 実験的エレクトロポップから一転して全面的にカシオペア・フュージョンサウンドでオシャレに攻めまくる4thアルバム
長戸大幸率いる大御所音楽事務所ビーイングの創設メンバーであり歌姫でもあった亜蘭知子は、初期ビーイングの実験的な楽曲制作環境の中で、清水靖晃や笹路正徳のマライアや、後にFENCE OF DEFENSEを結成する西村麻聡らをプロデューサーに迎えたクセの強いニューウェーブ風味のシティポップ作品をリリースしていました。特に1983年リリースの3rdアルバム「浮遊空間」は「BODY TO BODY」や「ジ・レ・ン・マ」「般若」のような苛烈なエレクトロサウンドとは裏腹に、「Midnight Pretenders」のようなシティポップ風味の楽曲が近年再評価され注目を浴びていますが、ビーイングの過激な実験場の中で鍛えられた音楽性こそが初期亜蘭知子の本来の魅力と言えるでしょう。しかし、そのような過激さはひとまず1983年で一区切りして、翌年には生まれ変わった姿を披露することになります。それがオシャレかつアーバンに生まれ変わった4thアルバムの本作です。
さて、本作ではプロデューサーを初期ビーイングのクセが強過ぎる面々から脱却し、当時のフュージョン界のトップランナーであったカシオペアのキーボーディスト、向谷実を迎えています。ということは前作までとは全く作風が異なることが期待されるというわけで、当然のことながら楽曲提供は向谷を中心にカシオペアの3人、野呂一生・神保彰・桜井哲夫が提供しているため、楽曲の性格としては非常にカシオペア色が強く、彼らのサウンドに亜蘭の歌が乗った形になることは自明の理であります。しかしながら演奏者は必ずしもカシオペアがバックアップしているというわけではありません。まず本作ではカシオペアの象徴である野呂一生はギタリストとしては参加していません。代わりにAB'Sの松下誠が「PRIVACY」以外の全曲でギターを担当しています。加えてカシオペアのリズム隊である神保と桜井が共にプレイすることもなく、桜井がベースを弾く楽曲はAB'Sの岡本郭男がドラムを叩き、神保がドラムの時は高水健司がベースを担当する徹底ぶりで、意図的かどうかは定かではないのですが、当然向谷は全曲キーボードを弾いてはいるものの実質はカシオペア&AB'Sというプレイヤー構成となっています。しかしその仕上がりは全く違和感なく期待通りのカシオペアサウンドに仕上がっていることからも、カシオペアのサウンドの核は向谷実であることを証明した格好であり、本作はその重要な事象に気づかされたという意味では、図らずも意味のある作品であると言えるのではないでしょうか。もちろんボッサやラテン風味まで取り入れた向谷の八面六臂の活躍により芳醇なシンセサイザーサウンドが堪能できますし、桜井だけでなく高水健司のチョッパープレイも聴きどころの1つではありますが、あくまで本作は亜蘭知子の新機軸のアルバムであり、その実験性により取っ付きにくかったヴォーカリストとしての難しさから脱却してシティポッパーとしての道を再出発した分岐点としての意味も持っていることに間違いありません。
<Favorite Songs>
・「RELAX」
桜井哲夫のチョッパーベースから始まるイントロが本作の中でもカシオペア色の強さを感じさせる絵に描いたようなフュージョン歌謡。気持ち良いくらいに鮮やかで流れるようなコードワークによるシンセサイザープレイを見せる向谷のテクニックが光ります。
・「E・SPY」
こちらも緩急自在の向谷プレイが鮮やかなファンキーフュージョンナンバー。神保彰の軽快なドラミングに合わせて軽快なチョッパーを聴かせるのは実は桜井ではなく"大仏"高水健司。またさらなるキーボードのパワーを持たせるため倉田信雄もツインキーボードで参戦しています。
・「PRIVACY」
FMシンセ特有のメタリックなイントロで始まる不思議な感覚のラストナンバー。このストレンジ性に前作からの残り香を感じさせます。サビの人力高速アルペジオはフュージョン系キーボーディストとの見せ場と言えるでしょう。シモンズのタムもう躍動感があります。
<評点>
・サウンド ★★★★ (キーボードプレイの鮮やかさで他の追随を許さない)
・メロディ ★★ (親しみやすいフレーズを連発するがオシャレ過ぎ?)
・リズム ★★★ (ベースとドラムの組み合わせが変わっても違和感なし)
・曲構成 ★★ (フュージョン一辺倒だけでなく変化球も用意)
・個性 ★★ (これまでと全く異なる手法で大胆にチャレンジ)
総合評点: 7点
亜蘭知子:vocal・chorus

1.「DRIVE TO LOVE(愛の海へ)」 詞:亜蘭知子 曲:神保彰 編:向谷実
2.「SLOW NIGHTS」 詞:亜蘭知子 曲:野呂一生 編:向谷実
3.「RELAX」 詞:亜蘭知子 曲:桜井哲夫 編:向谷実
4.「I CAN’T SAY GOOD-BYE」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
5.「E・SPY」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
6.「WATERLESS POOL(水のないプール)」 詞:亜蘭知子 曲:神保彰 編:向谷実
7.「もう一度SOUTH WIND」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
8.「裸足のサロメ」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
9.「13月の奇跡」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
10.「PRIVACY」 詞:亜蘭知子 曲・編:向谷実
<support musician>
松下誠:guitar
桜井哲夫:bass
高水健司:bass
岡本郭男:drums
神保彰:drums
倉田信雄:keyboards・acoustic piano
向谷実:keyboards・Linn percussion・synthesizer percussion
produced by 宮住俊介
sound produced by 向谷実
engineered by 野村昌之・吉沢典夫
● 実験的エレクトロポップから一転して全面的にカシオペア・フュージョンサウンドでオシャレに攻めまくる4thアルバム
長戸大幸率いる大御所音楽事務所ビーイングの創設メンバーであり歌姫でもあった亜蘭知子は、初期ビーイングの実験的な楽曲制作環境の中で、清水靖晃や笹路正徳のマライアや、後にFENCE OF DEFENSEを結成する西村麻聡らをプロデューサーに迎えたクセの強いニューウェーブ風味のシティポップ作品をリリースしていました。特に1983年リリースの3rdアルバム「浮遊空間」は「BODY TO BODY」や「ジ・レ・ン・マ」「般若」のような苛烈なエレクトロサウンドとは裏腹に、「Midnight Pretenders」のようなシティポップ風味の楽曲が近年再評価され注目を浴びていますが、ビーイングの過激な実験場の中で鍛えられた音楽性こそが初期亜蘭知子の本来の魅力と言えるでしょう。しかし、そのような過激さはひとまず1983年で一区切りして、翌年には生まれ変わった姿を披露することになります。それがオシャレかつアーバンに生まれ変わった4thアルバムの本作です。
さて、本作ではプロデューサーを初期ビーイングのクセが強過ぎる面々から脱却し、当時のフュージョン界のトップランナーであったカシオペアのキーボーディスト、向谷実を迎えています。ということは前作までとは全く作風が異なることが期待されるというわけで、当然のことながら楽曲提供は向谷を中心にカシオペアの3人、野呂一生・神保彰・桜井哲夫が提供しているため、楽曲の性格としては非常にカシオペア色が強く、彼らのサウンドに亜蘭の歌が乗った形になることは自明の理であります。しかしながら演奏者は必ずしもカシオペアがバックアップしているというわけではありません。まず本作ではカシオペアの象徴である野呂一生はギタリストとしては参加していません。代わりにAB'Sの松下誠が「PRIVACY」以外の全曲でギターを担当しています。加えてカシオペアのリズム隊である神保と桜井が共にプレイすることもなく、桜井がベースを弾く楽曲はAB'Sの岡本郭男がドラムを叩き、神保がドラムの時は高水健司がベースを担当する徹底ぶりで、意図的かどうかは定かではないのですが、当然向谷は全曲キーボードを弾いてはいるものの実質はカシオペア&AB'Sというプレイヤー構成となっています。しかしその仕上がりは全く違和感なく期待通りのカシオペアサウンドに仕上がっていることからも、カシオペアのサウンドの核は向谷実であることを証明した格好であり、本作はその重要な事象に気づかされたという意味では、図らずも意味のある作品であると言えるのではないでしょうか。もちろんボッサやラテン風味まで取り入れた向谷の八面六臂の活躍により芳醇なシンセサイザーサウンドが堪能できますし、桜井だけでなく高水健司のチョッパープレイも聴きどころの1つではありますが、あくまで本作は亜蘭知子の新機軸のアルバムであり、その実験性により取っ付きにくかったヴォーカリストとしての難しさから脱却してシティポッパーとしての道を再出発した分岐点としての意味も持っていることに間違いありません。
<Favorite Songs>
・「RELAX」
桜井哲夫のチョッパーベースから始まるイントロが本作の中でもカシオペア色の強さを感じさせる絵に描いたようなフュージョン歌謡。気持ち良いくらいに鮮やかで流れるようなコードワークによるシンセサイザープレイを見せる向谷のテクニックが光ります。
・「E・SPY」
こちらも緩急自在の向谷プレイが鮮やかなファンキーフュージョンナンバー。神保彰の軽快なドラミングに合わせて軽快なチョッパーを聴かせるのは実は桜井ではなく"大仏"高水健司。またさらなるキーボードのパワーを持たせるため倉田信雄もツインキーボードで参戦しています。
・「PRIVACY」
FMシンセ特有のメタリックなイントロで始まる不思議な感覚のラストナンバー。このストレンジ性に前作からの残り香を感じさせます。サビの人力高速アルペジオはフュージョン系キーボーディストとの見せ場と言えるでしょう。シモンズのタムもう躍動感があります。
<評点>
・サウンド ★★★★ (キーボードプレイの鮮やかさで他の追随を許さない)
・メロディ ★★ (親しみやすいフレーズを連発するがオシャレ過ぎ?)
・リズム ★★★ (ベースとドラムの組み合わせが変わっても違和感なし)
・曲構成 ★★ (フュージョン一辺倒だけでなく変化球も用意)
・個性 ★★ (これまでと全く異なる手法で大胆にチャレンジ)
総合評点: 7点
「GARDEN」 ACID ANDROID
「GARDEN」 (2018 track on drugs)
ACID ANDROID

<members>
yukihiro:vocal・guitar・synthesizer programming
[2018 MIX]
1.「echo -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
2.「roses -ver3」 詞・曲・編:yukihiro
3.「dress -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
4.「the end of sequence code -ver3」 詞・曲・編:yukihiro
5.「gardens of babylon -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
6.「division of time -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
7.「precipitation -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
8.「gravity wall -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
9.「ashes -ver3」 詞 詞・曲・編:yukihiro
[2017 MIX]
1.「echo」 詞・曲・編:yukihiro
2.「roses -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
3.「dress」 詞・曲・編:yukihiro
4.「the end of sequence code -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
5.「gardens of babylon」 詞・曲・編:yukihiro
6.「division of time」 詞・曲・編:yukihiro
7.「precipitation」 詞・曲・編:yukihiro
8.「gravity wall」 詞・曲・編:yukihiro
9.「ashes -ver2」 詞 詞・曲・編:yukihiro
<support musician>
小林祐介:guitar
produced by yukihiro
mixing engineered by yukihiro
recording engineered by 井上タカシ・yukihiro
● インダストリアル色は影を潜め全編をシンセサウンドにこだわり陰鬱な80’sニューウェーブを貫いたダークエレクトロな4thアルバム
ZI:KILL、OPTIC NERVE、DIE IN CRIESと渡り歩いてL'Arc〜en〜Cielに辿り着き安住の地を得たドラマーyukihiroは、エレクトリックなシーケンスサウンドとの同期プレイを厭わないタイプのドラマーであり、いわゆるクリエイター気質のアーティストとして、L'Arc〜en〜Cielでの成功を足がかりに自身のソロ活動を開始、2001年にyukihiro名義のソロシングル「ring the noise」をリリースすると、ソロユニット名をacid androidに決定、2002年に1stアルバム「acid android」を発表、インダストリアルテクノな作風でOPTIC NERVE時代のプログラミングとロックの融合実験を行っていた頃の溜飲を下げていくことになります。L'Arc〜en〜Cielの活動と並行してマイペースに活動するacid androidは当然作品リリース間隔も3年・4年となるわけですが、2006年の2ndアルバム「purification」、2010年の3rdアルバム「13:day:dream」・ミニアルバム「code」にしても、インダストリアルとはいうものの軸となるサウンドメイクはシンセサイザーによるシーケンスフレーズであり、両者ともエレクトロ度が非常に高い作品でもあります。その後再結成SCHAFTへの参加もあって鳴りを潜めていたacid androidでしたが、2014年に配信シングルとして「the end of sequence code」をリリースすると、2017年には心機一転大文字のACID ANDROIDとユニット名を改名、音楽性を含めた新展開が感じられる配信シングル「roses/ashes」をリリースする流れで、同年配信アルバムとして彼にとっては初の全編日本語詞による本作が発表されるわけですが、CD盤としてのリリースが2018年に持ち越す中で、さらにミックスをやり直した音源を含めた2枚盤としてリリースされたアルバムが本作ということになります。
本作ではこれまでのacid androidで見せていたような圧の強いディストーションギターが影を潜め、リズムトラックはTR-808やTR-909といったリズムマシンによる打ち込みに、シンセはminimoog VoygerやNord Rack3といったハードウェアを中心に組み立てているためか、どこかフィジカルな感覚は残したままな印象です。もちろん随所でTHE NOVEMBERS小林祐介の歪みギターがアクセントを加えていますが、そのギターワークはフラグメントにとどまっていて楽曲を支配するまでのものではなく、あくまで本作ではシンセとリズムマシンです。さて、当初の配信版(2017MIX)がスネアがやや大きいということで、yukihiro自身による再MIXが施されましたが、突き刺さるようなリズムがやや柔らかくなった印象もあるものの、世界観をガラリと変えるものではなく細部の音のバランスを調整する類のもので、そのあたりは非常にサウンドに対してストイックかつ繊細、緻密な仕事ぶりを感じさせます。自身のルーツである80's由来のニューウェーブ、テクノ、シンセポップあたりのサウンドデザインを意識した作品ですが、その部分は前作までの作品からも感じられる部分でしたので本作でガラリと変質したという印象はそれほどありません。しかしながらギターの使い方の変容によって生まれたある種の妖しさは格段に増しており、この部分がまさに80'sニューウェーブマニアとして本筋に近づけたのではないかと思われます。それにしてもこのシンセによるビチョビチョとしたレゾナンスの滲み具合には艶やかさと共にエロティックな匂いすら感じるわけで、ACID ANDROIDの新機軸としてはそのあたりのサウンドメイクの成長のよる部分が大きいと感じます。この方向性でさらにシンセサイザーを突き詰めていっていただきたいと願っています。
<Favorite Songs>
・「the end of sequence code -ver3」
本作の中でもスピードアップしたリズムで疾走感を生み出すナンバー。グニョグニョ蠢くベースラインとストイックなシーケンスが基調となっていますが、サビでサラッと導入されるストリングスがこの手のサウンドの中では妙に爽やかに聴こえてしまいます。
・「gardens of babylon -ver2」
前曲に引き続き躍動感を感じさせるニューウェーブダンスチューン。ここでも小説の頭をギターのガーッ!でアクセントを加えるタイプの装飾ですが、この楽曲では比較的ギターとせわしないリズムトラックの比重が多い印象です。
・「ashes -ver3」
イントロの上昇して下降するリードシンセの音作りが秀逸なラストナンバー。正確にプログラムされたリズムトラックがミディアムテンポの中で一際光っていますが、さらにギターフレーズとストリングスが電子音と混在するサビの部分にはまさに本作の集大成的な美意識が感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (電子音の緻密な音色の作り方に几帳面な印象)
・メロディ ★ (ここまで音を堪能することに特化すると・・)
・リズム ★★★ (リズムボックス特有の軽さはあるが組み立ては秀逸)
・曲構成 ★★ (各曲ごとにサウンドにバリエーションがあると面白い)
・個性 ★★ (目指す方向性は間違っていないがもう一歩何かが)
総合評点: 7点
ACID ANDROID

<members>
yukihiro:vocal・guitar・synthesizer programming
[2018 MIX]
1.「echo -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
2.「roses -ver3」 詞・曲・編:yukihiro
3.「dress -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
4.「the end of sequence code -ver3」 詞・曲・編:yukihiro
5.「gardens of babylon -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
6.「division of time -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
7.「precipitation -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
8.「gravity wall -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
9.「ashes -ver3」 詞 詞・曲・編:yukihiro
[2017 MIX]
1.「echo」 詞・曲・編:yukihiro
2.「roses -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
3.「dress」 詞・曲・編:yukihiro
4.「the end of sequence code -ver2」 詞・曲・編:yukihiro
5.「gardens of babylon」 詞・曲・編:yukihiro
6.「division of time」 詞・曲・編:yukihiro
7.「precipitation」 詞・曲・編:yukihiro
8.「gravity wall」 詞・曲・編:yukihiro
9.「ashes -ver2」 詞 詞・曲・編:yukihiro
<support musician>
小林祐介:guitar
produced by yukihiro
mixing engineered by yukihiro
recording engineered by 井上タカシ・yukihiro
● インダストリアル色は影を潜め全編をシンセサウンドにこだわり陰鬱な80’sニューウェーブを貫いたダークエレクトロな4thアルバム
ZI:KILL、OPTIC NERVE、DIE IN CRIESと渡り歩いてL'Arc〜en〜Cielに辿り着き安住の地を得たドラマーyukihiroは、エレクトリックなシーケンスサウンドとの同期プレイを厭わないタイプのドラマーであり、いわゆるクリエイター気質のアーティストとして、L'Arc〜en〜Cielでの成功を足がかりに自身のソロ活動を開始、2001年にyukihiro名義のソロシングル「ring the noise」をリリースすると、ソロユニット名をacid androidに決定、2002年に1stアルバム「acid android」を発表、インダストリアルテクノな作風でOPTIC NERVE時代のプログラミングとロックの融合実験を行っていた頃の溜飲を下げていくことになります。L'Arc〜en〜Cielの活動と並行してマイペースに活動するacid androidは当然作品リリース間隔も3年・4年となるわけですが、2006年の2ndアルバム「purification」、2010年の3rdアルバム「13:day:dream」・ミニアルバム「code」にしても、インダストリアルとはいうものの軸となるサウンドメイクはシンセサイザーによるシーケンスフレーズであり、両者ともエレクトロ度が非常に高い作品でもあります。その後再結成SCHAFTへの参加もあって鳴りを潜めていたacid androidでしたが、2014年に配信シングルとして「the end of sequence code」をリリースすると、2017年には心機一転大文字のACID ANDROIDとユニット名を改名、音楽性を含めた新展開が感じられる配信シングル「roses/ashes」をリリースする流れで、同年配信アルバムとして彼にとっては初の全編日本語詞による本作が発表されるわけですが、CD盤としてのリリースが2018年に持ち越す中で、さらにミックスをやり直した音源を含めた2枚盤としてリリースされたアルバムが本作ということになります。
本作ではこれまでのacid androidで見せていたような圧の強いディストーションギターが影を潜め、リズムトラックはTR-808やTR-909といったリズムマシンによる打ち込みに、シンセはminimoog VoygerやNord Rack3といったハードウェアを中心に組み立てているためか、どこかフィジカルな感覚は残したままな印象です。もちろん随所でTHE NOVEMBERS小林祐介の歪みギターがアクセントを加えていますが、そのギターワークはフラグメントにとどまっていて楽曲を支配するまでのものではなく、あくまで本作ではシンセとリズムマシンです。さて、当初の配信版(2017MIX)がスネアがやや大きいということで、yukihiro自身による再MIXが施されましたが、突き刺さるようなリズムがやや柔らかくなった印象もあるものの、世界観をガラリと変えるものではなく細部の音のバランスを調整する類のもので、そのあたりは非常にサウンドに対してストイックかつ繊細、緻密な仕事ぶりを感じさせます。自身のルーツである80's由来のニューウェーブ、テクノ、シンセポップあたりのサウンドデザインを意識した作品ですが、その部分は前作までの作品からも感じられる部分でしたので本作でガラリと変質したという印象はそれほどありません。しかしながらギターの使い方の変容によって生まれたある種の妖しさは格段に増しており、この部分がまさに80'sニューウェーブマニアとして本筋に近づけたのではないかと思われます。それにしてもこのシンセによるビチョビチョとしたレゾナンスの滲み具合には艶やかさと共にエロティックな匂いすら感じるわけで、ACID ANDROIDの新機軸としてはそのあたりのサウンドメイクの成長のよる部分が大きいと感じます。この方向性でさらにシンセサイザーを突き詰めていっていただきたいと願っています。
<Favorite Songs>
・「the end of sequence code -ver3」
本作の中でもスピードアップしたリズムで疾走感を生み出すナンバー。グニョグニョ蠢くベースラインとストイックなシーケンスが基調となっていますが、サビでサラッと導入されるストリングスがこの手のサウンドの中では妙に爽やかに聴こえてしまいます。
・「gardens of babylon -ver2」
前曲に引き続き躍動感を感じさせるニューウェーブダンスチューン。ここでも小説の頭をギターのガーッ!でアクセントを加えるタイプの装飾ですが、この楽曲では比較的ギターとせわしないリズムトラックの比重が多い印象です。
・「ashes -ver3」
イントロの上昇して下降するリードシンセの音作りが秀逸なラストナンバー。正確にプログラムされたリズムトラックがミディアムテンポの中で一際光っていますが、さらにギターフレーズとストリングスが電子音と混在するサビの部分にはまさに本作の集大成的な美意識が感じられます。
<評点>
・サウンド ★★★★ (電子音の緻密な音色の作り方に几帳面な印象)
・メロディ ★ (ここまで音を堪能することに特化すると・・)
・リズム ★★★ (リズムボックス特有の軽さはあるが組み立ては秀逸)
・曲構成 ★★ (各曲ごとにサウンドにバリエーションがあると面白い)
・個性 ★★ (目指す方向性は間違っていないがもう一歩何かが)
総合評点: 7点
「SERVICE ACE」 彼女のサーブ+彼女のレシーブ
「SERVICE ACE」(2018 PARKS)
彼女のサーブ+彼女のレシーブ

<members>
あおぎ A.K.A.”サーブ”:vocal
えり A.K.A.”レシーブ”:vocal
1.「Racket Love」 詞:田辺優 曲・編:ikkubaru
2.「スキッ!〜Love Magic〜」 詞:スセンジーナ 曲・編:松尾宗能
3.「セ・ン・パ・イ Holic!!!」 詞:スセンジーナ 曲・編:松尾宗能
4.「Wondering Girl」 詞:長瀬五郎・スセンジーナ 曲・編:長瀬五郎
5.「A Hungry Girl」 詞・曲・編:長瀬五郎
6.「恋はなに色」 詞・曲:スセンジーナ 編:松尾宗能
7.「スキ?〜Cross Road〜」 詞:スセンジーナ 曲・編:松尾宗能
8.「Cheerio!」 詞:片岡知子 曲・編:松尾宗能
9.「Racket Love(長谷川白紙remix)」 詞:田辺優 曲:ikkubaru 編:長谷川白紙
<support musician>
長瀬五郎:guitar・computer programming
轟恭平:guitar
松尾宗能:bass・guitar・synthesizer・鍵盤ハーモニカ・computer programming・chorus
スセンジーナ:chorus
produced by NEW TOWN REVUE
engineered by 佐藤清喜
●福岡にてオリジナルINSTANT CYTRONの遺伝子が萌芽!ノスタルジーなメロディが光るキャッチーポップ一直線の異色アイドルユニット1stアルバム
90年代初頭に福岡にていわゆる渋谷系的なネオアコ風味のグッドミュージックがひっそりと芽吹いていました。福岡の地名になぞらえて天神系と呼ばれたそのムーブメントの中に、INSTANT CYTRON(インスタントシトロン)という3人組のバンドがその存在感をアピールしていたわけですが、メジャーシーンから声がかかり上京を決断したヴォーカルの片岡知子とギターの長瀬五郎と、地元福岡に残るベース&エレクトロな要素を担当していた松尾宗能は、それぞれの事情を踏まえた上で袂を分ち、各々のフィールドで活躍していくことになります。INSTANT CYTRONの活動はご存知の通りと思われますが、地元に残った松尾はその後福岡にレコード店「PARKS」を開き店長のかたわら、地元の音楽評論家やラジオDJとして活動します。そして2006年以降福岡へ帰郷した長瀬と再び交流を再開した松尾は、2012年から開始したRKB毎日放送の音楽トーク番組「ドリンクバー凡人会議」を発端としたクリエイターチームNEW TOWN REVUEを開始、同番組の構成員でありマスコットガール的存在であった浦郷えりかに楽曲提供を行います。テニスルックにラケットというフューチャーテニスアイコンというコンセプトのもと、2016年に両A面シングル「Racket Love / Cheerio!!!」を自主制作リリース、INSTANT CYTRON直系のポップフレイバーが地元で密かに話題を呼びますが、2017年には「A Hungry Girl / 色づく季節」をリリースしアルバム制作の話もあったものの、浦郷の女優業専念による上京のためこのプロジェクトは凍結することになります。しかしこのコンセプトは死んではおらず、アイドルグループ・ラフ☆ちっくの元メンバーであった安達葵袖(あおぎ)と福岡の読モとして活動していたくわはらゆみ(ゆみ)が、それぞれ「彼女のサーブ」「彼女のレシーブ」として東京と福岡で活動を行う遠距離ユニットとして活動を開始、浦郷えりかのコンセプトを受け継いでいくことになります。その後「彼女のレシーブ」はゆみの脱退後、ラフ☆ちっくのリーダー畠山英莉(えり)に引き継がれ、活動を安定させると、2017年末に遂に1stアルバムである本作がリリースされることになります(一般流通は2018年8月)。
本作を手掛けるのは当然NEW TOWN REVUEのメンバー、松尾宗能と長瀬五郎、そして作詞家のスセンジーナの3人で、浦郷えりかプロジェクトでやり残した楽曲の数々が陽の目を見ることになります。インドネシアのシティポップバンドikkubaruが提供した浦郷の1stシングル「Racket Love」をはじめ、トータルプロデュースは松尾がイニシアチブをとり、長瀬は「Wondering Girl」「A Hungry Girl」の2曲を提供、そのポップセンスに陰りがないことを証明しています。白眉なのは片岡知子が作詞として参加した初期INSTANT CYTRON楽曲「Cheerio!」で、その青春の夕さりを表現したかのようなノスタルジー感覚溢れるポップチューンには、片岡の早逝という事実も相まって、その気はなくてもやはり感傷に浸らざるを得ません。そのほかボーナストラック的に「Racket Love」のリミキサーとして、今をときめく長谷川白紙を起用するなど(お得意の調性迷走コードワーク)、流石の先見性を感じさせる人材起用には松尾宗能のキャリアと審美眼の確かさが窺えます。松尾の小気味良いプログラミング(本作はそれゆえにテクノ度が高い)に長瀬の懐かしのギタープレイに、レコードコレクターだからこその豊富な知識を還元する確かなメロディセンスが楽曲をクオリティの高いものに仕上げていく中、あおぎ&えりの2人は歌唱技術はまだまだですが、その素人っぽさが逆にこのようなアイドルポップにおいてはピュアに感じさせることもあり、本作においては効果的に作用していると思われます。
そのようなわけで、本作はその楽曲の良さが話題を呼び全国流通となり、2019年にはジャケットを一新して「One」を追加収録した改訂版がリリースされるなど、長く愛される好盤となりました。なお、その奇抜(?)なコンセプトと良質な楽曲とのアンバランスが気になりかけた時期を見計らって、2020年にはフューチャーテニスアイコンを解消、グループ名も2ndアルバム「kanosare」リリースを最後に愛称の「カノサレ」と改称することになります。カノサレに成長し、ライブだけでなく今後の作品展開も期待したいです。
<Favorite Songs>
・「Wondering Girl」
長瀬五郎が書き下ろした爽快感のあるポップチューン。瑞々しいコードワークとメロディラインはまさしく往年の長瀬式ポップチューン。INSTANT CYTRON時代とは異なる打ち込み主体のサウンドですが、全体として輝きを感じさせる音処理は、エンジニアを務める佐藤清喜のセンスによるものとも言えます。
・「A Hungry Girl」
浦郷えりかの2ndシングルでもあったこちらも長瀬書き下ろし楽曲。硬質なスネアによるリズムトラックが素晴らしいです。リズム隊に重厚感が増しているのでボトムが強化、うっすら入るストリングスフレーズも鮮やかです。アウトロの2人のほのぼのとしたセリフの掛け合いからのシンセベースのプログラミングにテクノ心がくすぐられて心地よいことこの上ありません。
・「Cheerio!」
片岡作詞+松尾楽曲制作+長瀬ギターという初期INSTANT CYTRONが温めてきた名曲。浦郷えりかにも提供されたこの楽曲も彼女たちが受け継いでいる制作チームのDNAともいえる珠玉のポップチューンです。ナイアガラ系のエコー感たっぷりのミックスが夕暮れを思わせる究極のノスタルジーを演出しています。
<評点>
・サウンド ★★★ (眩いばかりのキラキラシンセとギターワークの融合)
・メロディ ★★★★ (郷愁感覚なメロディは懐古趣味ではなく現在でも通用)
・リズム ★★★ (スネアの音色にも工夫が感じられる緻密な構築力)
・曲構成 ★★★ (自主制作らしからぬ楽曲レベルの高さによる安定感)
・個性 ★★ (奇をてらうコンセプトに惑わされてはいけない)
総合評点: 8点
彼女のサーブ+彼女のレシーブ

<members>
あおぎ A.K.A.”サーブ”:vocal
えり A.K.A.”レシーブ”:vocal
1.「Racket Love」 詞:田辺優 曲・編:ikkubaru
2.「スキッ!〜Love Magic〜」 詞:スセンジーナ 曲・編:松尾宗能
3.「セ・ン・パ・イ Holic!!!」 詞:スセンジーナ 曲・編:松尾宗能
4.「Wondering Girl」 詞:長瀬五郎・スセンジーナ 曲・編:長瀬五郎
5.「A Hungry Girl」 詞・曲・編:長瀬五郎
6.「恋はなに色」 詞・曲:スセンジーナ 編:松尾宗能
7.「スキ?〜Cross Road〜」 詞:スセンジーナ 曲・編:松尾宗能
8.「Cheerio!」 詞:片岡知子 曲・編:松尾宗能
9.「Racket Love(長谷川白紙remix)」 詞:田辺優 曲:ikkubaru 編:長谷川白紙
<support musician>
長瀬五郎:guitar・computer programming
轟恭平:guitar
松尾宗能:bass・guitar・synthesizer・鍵盤ハーモニカ・computer programming・chorus
スセンジーナ:chorus
produced by NEW TOWN REVUE
engineered by 佐藤清喜
●福岡にてオリジナルINSTANT CYTRONの遺伝子が萌芽!ノスタルジーなメロディが光るキャッチーポップ一直線の異色アイドルユニット1stアルバム
90年代初頭に福岡にていわゆる渋谷系的なネオアコ風味のグッドミュージックがひっそりと芽吹いていました。福岡の地名になぞらえて天神系と呼ばれたそのムーブメントの中に、INSTANT CYTRON(インスタントシトロン)という3人組のバンドがその存在感をアピールしていたわけですが、メジャーシーンから声がかかり上京を決断したヴォーカルの片岡知子とギターの長瀬五郎と、地元福岡に残るベース&エレクトロな要素を担当していた松尾宗能は、それぞれの事情を踏まえた上で袂を分ち、各々のフィールドで活躍していくことになります。INSTANT CYTRONの活動はご存知の通りと思われますが、地元に残った松尾はその後福岡にレコード店「PARKS」を開き店長のかたわら、地元の音楽評論家やラジオDJとして活動します。そして2006年以降福岡へ帰郷した長瀬と再び交流を再開した松尾は、2012年から開始したRKB毎日放送の音楽トーク番組「ドリンクバー凡人会議」を発端としたクリエイターチームNEW TOWN REVUEを開始、同番組の構成員でありマスコットガール的存在であった浦郷えりかに楽曲提供を行います。テニスルックにラケットというフューチャーテニスアイコンというコンセプトのもと、2016年に両A面シングル「Racket Love / Cheerio!!!」を自主制作リリース、INSTANT CYTRON直系のポップフレイバーが地元で密かに話題を呼びますが、2017年には「A Hungry Girl / 色づく季節」をリリースしアルバム制作の話もあったものの、浦郷の女優業専念による上京のためこのプロジェクトは凍結することになります。しかしこのコンセプトは死んではおらず、アイドルグループ・ラフ☆ちっくの元メンバーであった安達葵袖(あおぎ)と福岡の読モとして活動していたくわはらゆみ(ゆみ)が、それぞれ「彼女のサーブ」「彼女のレシーブ」として東京と福岡で活動を行う遠距離ユニットとして活動を開始、浦郷えりかのコンセプトを受け継いでいくことになります。その後「彼女のレシーブ」はゆみの脱退後、ラフ☆ちっくのリーダー畠山英莉(えり)に引き継がれ、活動を安定させると、2017年末に遂に1stアルバムである本作がリリースされることになります(一般流通は2018年8月)。
本作を手掛けるのは当然NEW TOWN REVUEのメンバー、松尾宗能と長瀬五郎、そして作詞家のスセンジーナの3人で、浦郷えりかプロジェクトでやり残した楽曲の数々が陽の目を見ることになります。インドネシアのシティポップバンドikkubaruが提供した浦郷の1stシングル「Racket Love」をはじめ、トータルプロデュースは松尾がイニシアチブをとり、長瀬は「Wondering Girl」「A Hungry Girl」の2曲を提供、そのポップセンスに陰りがないことを証明しています。白眉なのは片岡知子が作詞として参加した初期INSTANT CYTRON楽曲「Cheerio!」で、その青春の夕さりを表現したかのようなノスタルジー感覚溢れるポップチューンには、片岡の早逝という事実も相まって、その気はなくてもやはり感傷に浸らざるを得ません。そのほかボーナストラック的に「Racket Love」のリミキサーとして、今をときめく長谷川白紙を起用するなど(お得意の調性迷走コードワーク)、流石の先見性を感じさせる人材起用には松尾宗能のキャリアと審美眼の確かさが窺えます。松尾の小気味良いプログラミング(本作はそれゆえにテクノ度が高い)に長瀬の懐かしのギタープレイに、レコードコレクターだからこその豊富な知識を還元する確かなメロディセンスが楽曲をクオリティの高いものに仕上げていく中、あおぎ&えりの2人は歌唱技術はまだまだですが、その素人っぽさが逆にこのようなアイドルポップにおいてはピュアに感じさせることもあり、本作においては効果的に作用していると思われます。
そのようなわけで、本作はその楽曲の良さが話題を呼び全国流通となり、2019年にはジャケットを一新して「One」を追加収録した改訂版がリリースされるなど、長く愛される好盤となりました。なお、その奇抜(?)なコンセプトと良質な楽曲とのアンバランスが気になりかけた時期を見計らって、2020年にはフューチャーテニスアイコンを解消、グループ名も2ndアルバム「kanosare」リリースを最後に愛称の「カノサレ」と改称することになります。カノサレに成長し、ライブだけでなく今後の作品展開も期待したいです。
<Favorite Songs>
・「Wondering Girl」
長瀬五郎が書き下ろした爽快感のあるポップチューン。瑞々しいコードワークとメロディラインはまさしく往年の長瀬式ポップチューン。INSTANT CYTRON時代とは異なる打ち込み主体のサウンドですが、全体として輝きを感じさせる音処理は、エンジニアを務める佐藤清喜のセンスによるものとも言えます。
・「A Hungry Girl」
浦郷えりかの2ndシングルでもあったこちらも長瀬書き下ろし楽曲。硬質なスネアによるリズムトラックが素晴らしいです。リズム隊に重厚感が増しているのでボトムが強化、うっすら入るストリングスフレーズも鮮やかです。アウトロの2人のほのぼのとしたセリフの掛け合いからのシンセベースのプログラミングにテクノ心がくすぐられて心地よいことこの上ありません。
・「Cheerio!」
片岡作詞+松尾楽曲制作+長瀬ギターという初期INSTANT CYTRONが温めてきた名曲。浦郷えりかにも提供されたこの楽曲も彼女たちが受け継いでいる制作チームのDNAともいえる珠玉のポップチューンです。ナイアガラ系のエコー感たっぷりのミックスが夕暮れを思わせる究極のノスタルジーを演出しています。
<評点>
・サウンド ★★★ (眩いばかりのキラキラシンセとギターワークの融合)
・メロディ ★★★★ (郷愁感覚なメロディは懐古趣味ではなく現在でも通用)
・リズム ★★★ (スネアの音色にも工夫が感じられる緻密な構築力)
・曲構成 ★★★ (自主制作らしからぬ楽曲レベルの高さによる安定感)
・個性 ★★ (奇をてらうコンセプトに惑わされてはいけない)
総合評点: 8点